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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025003492
(43)【公開日】2025-01-09
(54)【発明の名称】運転支援装置
(51)【国際特許分類】
   B60W 50/08 20200101AFI20241226BHJP
   B60W 30/12 20200101ALI20241226BHJP
   B60W 40/08 20120101ALI20241226BHJP
   B60W 50/14 20200101ALI20241226BHJP
   B60W 40/04 20060101ALI20241226BHJP
   G08G 1/16 20060101ALI20241226BHJP
【FI】
B60W50/08
B60W30/12
B60W40/08
B60W50/14
B60W40/04
G08G1/16 F
【審査請求】有
【請求項の数】1
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024181561
(22)【出願日】2024-10-17
(62)【分割の表示】P 2020168085の分割
【原出願日】2020-10-02
(71)【出願人】
【識別番号】000005348
【氏名又は名称】株式会社SUBARU
(74)【代理人】
【識別番号】110004185
【氏名又は名称】インフォート弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】小城 広志
(72)【発明者】
【氏名】青山 裕紀
(72)【発明者】
【氏名】齋藤 信司
(72)【発明者】
【氏名】大見川 享士
(57)【要約】
【課題】より確実でスムースかつ安全性の高い操舵支援制御を含む走行支援制御を行うことのできる運転支援装置を提供する。
【解決手段】周辺状況認識装置20,21と、保舵状態認識部34,35と、車両の走行支援制御を行う走行制御装置22を備え、保舵状態認識部は操舵トルクセンサ35とハンドルタッチセンサ34とを含み、走行制御装置は、運転者が正常な走行を維持し得ない状態にあると判定した場合、第1の保舵状態判定処理を行って、ハンドルタッチセンサ又は操舵トルクセンサの出力が検知された場合に走行支援制御を復帰させ、ハンドルタッチセンサ又は操舵トルクセンサの出力が検知されない場合には第2の保舵状態判定処理を行って、操舵トルクセンサの出力が検知されかつ操舵トルクセンサの出力値が所定の閾値を超えている場合に走行支援制御を復帰させる。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
自車両の周辺状況を認識する周辺状況認識装置と、
前記自車両の保舵状態を認識する保舵状態認識部と、
前記周辺状況認識装置および前記保舵状態認識部による認識結果に基づいて前記自車両の走行支援制御を行う走行制御装置と、
を備える運転支援装置であって、
前記保舵状態認識部は、
ステアリングシャフトに設けられる操舵トルクセンサと、ステアリングホイールに設けられるハンドルタッチセンサと、を含み、
前記走行制御装置は、
前記自車両の運転者によるステアリング装置への干渉が所定の時間の経過する間若しくは前記自車両が所定の距離を走行する間に行われずに、前記保舵状態認識部による検知がされないときには、前記自車両の運転者が正常な走行を維持し得ない状態にあると判定し、
前記自車両の運転者が正常な走行を維持し得ない状態にあると判定した場合には、前記自車両が実行中の走行支援制御を停止させ、前記走行支援制御を停止させた後、前記保舵状態認識部のうち前記ハンドルタッチセンサ又は前記操舵トルクセンサのいずれかの出力を検知する第1の保舵状態判定処理を行って、前記ハンドルタッチセンサ又は前記操舵トルクセンサのいずれかの出力が検知された場合には、前記走行支援制御を復帰させ、
前記第1の保舵状態判定処理において、前記ハンドルタッチセンサ又は前記操舵トルクセンサのいずれの出力も検知されない場合には所定の時間が経過後若しくは前記自車両が所定の距離だけ走行した後に、前記保舵状態認識部のうち前記操舵トルクセンサの出力のみを検知する第2の保舵状態判定処理を行って、前記操舵トルクセンサの出力が検知され、かつ当該操舵トルクセンサの出力値が所定の閾値を超えている場合には、前記走行支援制御を復帰させる
ことを特徴とする運転支援装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、自動車等の車両が走行中に遭遇する危険を回避するためのステアリング操作を支援する緊急逸脱抑制制御を含む各種の操舵支援制御と、車両の走行中に実行される運転者異常時対応制御を行う運転支援装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、自動車等の車両においては、運転者の運転操作を必要とせずに車両を自動的に走行させる自動運転制御技術の開発が進められている。また、この種の自動運転制御技術を利用して運転者の運転操作を支援するための各種の制御を行う運転支援装置についての提案が、近年、種々なされており、また一般に実用化されつつある。
【0003】
従来の運転支援装置は、例えば、走行中の自車両が対向車や後続車等の他車両と衝突しそうになる等、自車両が危険を受けることが予想された場合に、その危険を回避するステアリング操作を支援するための各種の操舵支援制御を実行する。
【0004】
従来の運転支援装置によって実行される操舵支援制御の一例としては、例えば、運転支援装置を搭載した車両が道路上を走行しているときに、自車両が走行する走行車線の所定位置(例えば車線中央位置)を目標走行位置として設定し、設定された当該目標走行位置に沿って車両を走行制御する際に、例えば電動モータ等を用いて発生させたアシスト操舵トルクによって操舵支援を行う車線維持支援制御が、例えば特開2020-32802号公報等によって提案されている。
【0005】
また、従来の運転支援装置による操舵支援制御の別の一例としては、例えば、運転支援装置を搭載した車両が走行中の車線から隣接車線へと逸脱しそうにったときに、当該車両の車線逸脱を回避する方向に操舵支援を行って、当該車両が走行車線から逸脱するのを抑制する車線逸脱抑制(LDP;Lane Departure Prevention)制御が、例えば特開2019-156327号公報等によって提案されている。
【0006】
さらに、近年においては、運転支援装置を搭載した車両が走行中の車線から隣接車線へと逸脱しそうな状況になった場合において、当該隣接車線を走行する対向車や後続車等の他車両が検知された場合には、その旨の警報表示(視覚的警報や聴覚的警報等)を発生させると同時に、上述の車線逸脱抑制制御と略同様の操舵支援を伴う走行制御を実行して、当該他車両(対向車や後続車等)との衝突を回避する緊急逸脱抑制(ELK;Emergency Lane Keeping)制御について、種々の提案がなされている。
【0007】
そして、従来の運転支援装置においては、上述したような各種の操舵支援制御(車線維持支援制御、車線逸脱抑制制御、緊急逸脱抑制制御等)のそれぞれについて、運転者が個別にオンオフの選択を行って、機能させるか否かを選択することができるように構成されている。
【0008】
一般に、従来の運転支援装置においては、例えば、車両の走行中に運転者がステアリングホイール(以下、単にステアリングと略記する)を握っていることを検知する機能(いわゆる保舵状態判定機能)を備えている。
【0009】
従来の運転支援装置は、この保舵状態判定機能によって、車両が走行中に運転者によるステアリングの把持状態(以下、保舵状態という)を監視し、保舵状態が検知されない状況が所定の時間(例えば15秒)(若しくは所定の距離だけ走行する間)、継続した場合には、所定の警報表示(視覚的警報表示や聴覚的警報表示等)を発生させ、その後、さらに、ステアリングから手を離した状態が所定の時間(例えば50秒)(若しくは所定の距離だけ走行する間)継続した場合には、実行中の操舵支援制御を解除する仕様となっている。このことは、例えば、自動運転に係る国際基準や、国の所轄官庁によって制定されているガイドライン等に準拠する仕様等によるものである。
【0010】
そして、従来の運転支援装置においては、上述のような状況において実行中の操舵支援制御が解除されたときには、例えば、運転者による運転操作を困難な状況とさせる何らかの異常(具体的には、例えば、自車両の故障、或いは運転者の急病若しくは居眠り等に起因する意識低下等)が発生しているものと判断されて、いわゆる運転者異常時対応制御を実行させるといった運転支援制御についての提案が、例えば特開2019-26210号公報等によって種々提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2020-32802号公報
【特許文献2】特開2019-156327号公報
【特許文献3】特開2019-26210号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
従来の運転支援装置においては、上述したように、複数種類の各種操舵支援制御(車線維持支援制御、車線逸脱抑制制御、緊急逸脱抑制制御等)による各機能を、運転者が選択的にオンオフすることができる。したがって、選択された機能の組み合わせによっては、例えば、警報表示等が不必要に表示され続けてしまう等、運転者に煩わしさを感じさせてしまうことがあるという問題点があった。
【0013】
具体的には、例えば、従来の運転支援装置において、車線逸脱抑制制御をオフ状態(作動禁止状態)にすると同時に、緊急逸脱抑制制御をオン状態(作動待機状態)にした状態で、車両を走行させている場合を考えてみる。この場合、自車両が走行中の車線から隣接車線へ向けて逸脱しそうになり、かつ、これと同時に、当該隣接車線を走行する対向車や後続車等の他車両が検知されるような状況が考えられる。
【0014】
このような状況になったとき、当該自車両の運転支援装置は、他車両(対向車や後続車等)の検知をトリガーとして、作動待機状態(オン状態)にある緊急逸脱抑制制御が実行される。このときには、まず、警報表示(視覚的警報や聴覚的警報等)を発生させた後に、車線逸脱抑制制御と略同様の操舵支援制御が実行される。通常、緊急逸脱抑制制御の実行中には、当該制御が完了するまでの間、警告表示を継続させなければならないという規定がある。
【0015】
したがって、上述したような状況下で緊急逸脱抑制制御が開始された場合、制御開始のトリガーとなった他車両が、すれ違い若しくは追い越し等によって、自車両周辺から遠ざかってしまって、かつそれ以外の他車両が自車両周辺に存在していない状況になることがある。このような場合であっても、開始された緊急逸脱抑制制御が完了するまでの間は警告表示が継続される。
【0016】
つまり、緊急逸脱抑制制御が開始された後、自車両の周辺に対向車や後続車等の他車両の存在が無くなって、自車両に危険を及ぼしそうな他車両が存在していないような状況になったとしても、警告表示が出続けていることになる。このような状況は、運転者にとっては、当該警告表示を煩わしく感じるだけでなく、運転者は警告の意味が理解できずに、運転者に違和感を与えてしまうことにもなりかねない。
【0017】
一方、従来の運転支援装置においては、例えばステアリング装置に加わる操舵トルクを検知することによって保舵状態の判定を行う構成のものがある。このような構成の場合、例えば、操舵支援制御を実行中の車両が長い平坦な直線道路等、ステアリング操作が最小限で済むような状況下で走行しているときには、発生する操舵トルク値が保舵状態判定の閾値以下となってしまうことがある。このような場合、運転者がステアリングを把持して保舵状態であるのにも関わらず、運転支援装置は保舵状態にないとの誤判定をしてしまう可能性がある。その結果、実行中の操舵支援制御が解除されてしまうことになるという問題点があった。
【0018】
このように、従来の運転支援装置において、保舵状態判定の誤判定に起因する操舵支援制御の解除動作が発生すると、このことは、運転者の意図に反することであるので、運転者に再度の操舵支援制御の開始操作を強いる等、運転者に煩わしさを感じさせてしまうことになる。
【0019】
そこで、例えば、保舵状態を判定する手段として、従来の操舵トルクセンサに加えて、別の異なるセンサ、例えばステアリングに触れることで把持状態を検知するハンドルタッチセンサ等を付加する構成が、従来考えられている。このような構成を採用することで、運転者による保舵状態を確実に判定することができ、より一層の利便性の向上が期待できる。
【0020】
しかしながら、保舵状態の判定のための手段として、操舵トルクセンサに加えてハンドルタッチセンサを備えて構成した場合、例えば、運転者異常時対応制御が実行された際に行われる生存判定において、当該ハンドルタッチセンサが誤判定の原因になり易いという問題点が新たに生じる。
【0021】
本発明は、上述した点に鑑みてなされたものであって、その目的とするところは、自動車等の車両に搭載される運転支援装置において、複数種類の操舵支援制御の組み合わせによっても、常に、運転者に煩わしさや違和感を与えること無く、より自然でスムースな操舵支援制御を実行することができる運転支援装置を提供することである。
【0022】
また、これと同時に、車両の走行中における操舵支援制御の実行中の保舵状態判定や運転者異常時対応制御の実行中の生存判定における誤判定を抑えて、より高精度で確実な判定を行い、より確実でスムースかつ安全性の高い操舵支援制御及び運転者異常時対応制御を含む走行支援制御を行うことのできる運転支援装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0023】
上記目的を達成するために、本発明の一態様の運転支援装置は、自車両の周辺状況を認識する周辺状況認識装置と、前記自車両の保舵状態を認識する保舵状態認識部と、前記周辺状況認識装置および前記保舵状態認識部による認識結果に基づいて前記自車両の走行支援制御を行う走行制御装置と、を備える運転支援装置であって、前記保舵状態認識部は、ステアリングシャフトに設けられる操舵トルクセンサと、ステアリングホイールに設けられるハンドルタッチセンサと、を含み、前記走行制御装置は、前記自車両の運転者によるステアリング装置への干渉が所定の時間の経過する間若しくは前記自車両が所定の距離を走行する間に行われずに、前記保舵状態認識部による検知がされないときには、前記自車両の運転者が正常な走行を維持し得ない状態にあると判定し、前記自車両の運転者が正常な走行を維持し得ない状態にあると判定した場合には、前記自車両が実行中の走行支援制御を停止させ、前記走行支援制御を停止させた後、前記保舵状態認識部のうち前記ハンドルタッチセンサ又は前記操舵トルクセンサのいずれかの出力を検知する第1の保舵状態判定処理を行って、前記ハンドルタッチセンサ又は前記操舵トルクセンサのいずれかの出力が検知された場合には、前記走行支援制御を復帰させ、前記第1の保舵状態判定処理において、前記ハンドルタッチセンサ又は前記操舵トルクセンサのいずれの出力も検知されない場合には所定の時間が経過後若しくは前記自車両が所定の距離だけ走行した後に、前記保舵状態認識部のうち前記操舵トルクセンサの出力のみを検知する第2の保舵状態判定処理を行って、前記操舵トルクセンサの出力が検知され、かつ当該操舵トルクセンサの出力値が所定の閾値を超えている場合には、前記走行支援制御を復帰させる。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、自動車等の車両に搭載される運転支援装置において、複数種類の操舵支援制御の組み合わせによっても、常に、運転者に煩わしさや違和感を与えること無く、より自然でスムースな操舵支援制御を実行することができる運転支援装置を提供することができる。
【0025】
また、これと同時に、車両の走行中における操舵支援制御の実行中の保舵状態判定や運転者異常時対応制御の実行中の生存判定における誤判定を抑えて、より高精度で確実な判定を行い、より確実でスムースかつ安全性の高い操舵支援制御及び運転者異常時対応制御を含む走行支援制御を行うことのできる運転支援装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
図1】本発明の一実施形態の運転支援装置の概略構成を示すブロック構成図、
図2】本実施形態の運転支援装置において行われる通常の車線逸脱抑制制御の作用を概略的に説明する図、
図3】本実施形態の運転支援装置において行われる緊急逸脱抑制制御の作用の一例(第1緊急逸脱抑制制御の対向車対応)を説明する図、
図4】本実施形態の運転支援装置において行われる緊急逸脱抑制制御の作用の別の一例(第1緊急逸脱抑制制御の後続車対応)を説明する図、
図5】本実施形態の運転支援装置において行われる緊急逸脱抑制制御の作用の他の一例(第2緊急逸脱抑制制御の対向車対応)を説明する図、
図6】本実施形態の運転支援装置において行われる車線逸脱制御及び緊急逸脱抑制制御を示すフローチャート、
図7図6の第1緊急逸脱抑制制御(ステップS13の処理)のサブルーチンのフローチャート、
図8図6の第2緊急逸脱抑制制御(ステップS16の処理)のサブルーチンのフローチャート、
図9】本実施形態の運転支援装置において行われる運転者異常時対応制御の作用を概略的に説明する図、
図10】本実施形態の運転支援装置において運転者異常時対応制御の開始タイミングを説明するフローチャート、
図11図10のうち運転者異常時対応制御(ステップS49の処理)の詳細を示すフローチャート。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、図示の実施の形態によって本発明を説明する。以下の説明に用いる各図面は模式的に示すものであり、各構成要素を図面上で認識できる程度の大きさで示すために、各部材の寸法関係や縮尺等を構成要素毎に異ならせて示している場合がある。したがって、本発明は、各図面に記載された各構成要素の数量や各構成要素の形状や各構成要素の大きさの比率や各構成要素の相対的な位置関係等に関して、図示の形態のみに限定されるものではない。
【0028】
本発明の一実施形態の運転支援装置は、自動車等の車両に搭載され、当該車両の運転者による運転操作を支援するための走行制御を行なう装置である。
【0029】
本実施形態の運転支援装置は、例えば、車載カメラユニットやレーダー装置等のセンサ装置(センシングデバイス)を用いて車両の前方状況及び周囲状況に関する情報(例えば、前方及び周囲を走行する他車両(先行車両,後続車両,対向車両,併走車両等)や自転車、歩行者、障害物等を含む車両の周囲状況に関する情報等;以下、単に周囲状況情報等という)を取得する。また、取得された周囲状況情報データのほか、通信を行って外部機器である高精度道路地図データベース等から取得される道路地図情報等に基づいて、先行車両や後続車両及び各種障害物等に関する道路状況等を認識する。そして、本実施形態の運転支援装置は、これら各種の情報(周囲状況情報等,地図情報等,認識情報等)を、運転者の運転操作を支援するための走行制御を実行する際の情報として適宜利用する。
【0030】
まず、本発明の一実施形態の運転支援装置の概略構成について、図1のブロック構成図を用いて、以下に説明する。
【0031】
なお、本実施形態の運転支援装置1の構成は、従来の形態の運転支援装置の構成と基本的には略同様である。したがって、本実施形態の運転支援装置1の構成を説明するのに際しては、当該装置の主要構成のみについて簡単に説明するものとする。そして、本実施形態の運転支援装置1の細部の構成については、従来の運転支援装置と略同様であるものとして、本発明に直接関連する構成以外の構成の詳細な説明は省略する。また、図1においては、本実施形態の運転支援装置1の主要構成のみを図示するに留め、本発明に直接関連しない構成については図示を省略している。
【0032】
本実施形態の運転支援装置1は、図1に示すように、ロケータユニット11と、周辺監視ユニット20と、カメラユニット21と、走行制御装置である走行制御ユニット22と、エンジン制御ユニット23と、パワーステアリング制御ユニット24と、ブレーキ制御ユニット25等を、主な構成ユニットとして具備している。
【0033】
ここで、ロケータユニット11と、周辺監視ユニット20と、カメラユニット21とは、車両の内外の走行環境を認識するためのセンサユニット(環境認識装置)として機能する構成ユニットである。これらの各ユニット(11,20,21)は、互いに依存することなく、完全に独立した構成ユニットとして存在している。
【0034】
走行制御ユニット22と、エンジン制御ユニット23と、パワーステアリング制御ユニット24と、ブレーキ制御ユニット25の各制御ユニットは、ロケータユニット11、周辺監視ユニット20、カメラユニット21と共に、CAN(Controller Area Network)などの車内通信回線10を通じて互いに接続され、適宜必要に応じてデータ共有を行っている。
【0035】
ロケータユニット11は、道路地図上の自車両の位置(自車位置)を推定すると共に、推定された自車位置の主に前方の道路地図情報等を取得する情報取得装置である。
【0036】
ロケータユニット11は、地図ロケータ演算部12と、加速度センサ13と、車輪速センサ14と、ジャイロセンサ15と、GNSS受信機16と、道路情報受信機17と、地図情報記憶部としての高精度道路地図データベース(DB;Data Base:なお、図1においては道路地図DBと略記している)18と、ルート情報入力部19等を具備している。
【0037】
このうち、加速度センサ13、車輪速センサ14、ジャイロセンサ15は、自車両の位置(自車位置)を推定するのに際して必要とする各種センサ類である。例えば、加速度センサ13は自車両の前後加速度を検出するセンサである。車輪速センサ14は前後左右の各車輪の回転速度を検出するセンサである。ジャイロセンサ15は、自車両の角速度または角加速度を検出するセンサである。これらの各センサ(13,14,15)は、運転状態取得部として機能する自律走行センサ群であり、地図ロケータ演算部12の入力側に接続されている。
【0038】
なお、上記自律走行センサ群(各センサ13,14,15)は、例えば、トンネル内走行等においてGNSS衛星(不図示)からの受信感度が低下して測位信号を有効に受信することのできない状況下となったときに、自律走行を可能にするために設けられるセンサ群である。自律走行センサ群としては、上述の各センサ(13,14,15)のほかに、例えば、車速センサ、ヨーレートセンサ等を有していてもよい。
【0039】
GNSS受信機16は、自車位置取得部として機能し、例えばGNSS(Global Navigation Satellite System;全球測位衛星システム)からの各種情報を受信する受信装置である。つまり、このGNSS受信機16は、複数の測位衛星から発信される測位信号を受信する。GNSS受信機16は、取得した測位信号を、ロケータユニット11の地図ロケータ演算部12へと出力する。地図ロケータ演算部12は、GNSS受信機16が受信した複数の測位衛星からの測位信号に基づいて自車位置(緯度、経度)を推定する。そのため、このGNSS受信機16は、地図ロケータ演算部12の入力側に接続されている。
【0040】
さらに、地図ロケータ演算部12には、道路情報受信機17と、記憶手段としての高精度道路地図データベース18と、ルート情報入力部19等が接続されている。
【0041】
道路情報受信機17は、所定の基地局(不図示)若しくはインターネットを介して接続されるクラウドサーバ(不図示)に蓄積された各種情報、例えば自動運転に必要な情報や地図情報等を受信して取得する受信装置である。この道路情報受信機17は、取得した各種情報を、ロケータユニット11の地図ロケータ演算部12へと出力する。なお、道路情報受信機17は、さらに、自車両の各種情報を上記基地局やクラウドサーバ(不図示)等へと送信する機能を備え、道路情報送受信装置の形態であってもよい。
【0042】
地図ロケータ演算部12は、道路情報受信機17が受信した地図情報等に基づいて自車位置を地図上にマップマッチングしたり、入力された目的地と自車位置とを結ぶ目標とする走行ルートを構築する。さらに、地図ロケータ演算部12は、構築された目標走行ルート上に、自動運転を実行させるための目標走行ルートを自車両の前方数キロメートル先まで設定する。ここで、目標走行ルートとして設定する項目は、自車両を走行させる車線(例えば、車線が3車線の場合に何れの車線を走行させるか)、先行車を追い越すため車線変更及び車線変更を開始するタイミング等である。
【0043】
高精度道路地図データベース18は、HDD(Hard Disk Drive),SSD(Solid State Drive)等の大容量記憶媒体等によって主に構成されている。この高精度道路地図データベース18には、周知の高精度な道路地図情報(ローカルダイナミックマップ)が記憶されている。ここで高精度道路地図情報は、例えばクラウドサーバ等(不図示)に備えられているグローバルダイナミックマップと同じ層構造を有しており、基盤とする最下層の静的情報階層において、自動走行をサポートするために必要な付加的地図情報等が重畳された階層構造をなしている。
【0044】
ここで、付加的地図情報としては、道路の種別(一般道路、高速道路等)、道路形状、左右区画線(車線境界線)、高速道路やバイパス道路等の出口、ジャンクションやサービスエリア,パーキングエリア等に繋がる分岐車線や合流車線の出入口長さ(開始位置と終了位置)等の静的な位置情報のほか、渋滞情報や事故或いは工事による通行規制等の動的な位置情報が含まれている。
【0045】
そして、この付加的地図情報は、後述するように、地図ロケータ演算部12によって目標走行ルートが設定された際には、設定された目標走行ルートに沿って自車両を自律走行させるために必要とする周辺情報として、グローバルダイナミックマップから継続的に取得されかつ順次更新される。
【0046】
また、高精度道路地図情報は、自動運転を行う際に必要とする車線データとして、車線幅データ、車線中央位置座標データ、車線の進行方位角データ、制限速度情報などをも保有している。これらの車線データ等の情報は、道路地図上の各車線に数メートル間隔で格納されている。
【0047】
ルート情報入力部19は、例えば運転者又は搭乗者等、車両に搭乗している人員が操作する端末装置である。このルート情報入力部19は、目的地や経由地(高速道路のサービスエリア等)の設定等、地図ロケータ演算部12において目標走行ルートを設定する際に必要とする一連の情報を集約して入力することができる。
【0048】
ルート情報入力部19は、具体的には、カーナビゲーションシステムの入力部(例えば、モニタのタッチパネル等)、スマートフォン等の携帯端末、パーソナルコンピュータ等である。そして、ルート情報入力部19は、地図ロケータ演算部12に対して有線接続或いは無線接続されている。これにより、運転者又は搭乗者がルート情報入力部19を操作して、目的地や経由地の情報(施設名、住所、電話番号等)の入力を行うと、その入力情報が地図ロケータ演算部12に読み込まれる。地図ロケータ演算部12は、ルート情報入力部19から入力された目的地や経由地について、その位置座標(緯度、経度)を設定する。
【0049】
地図ロケータ演算部12は、自車位置推定部12aと、地図情報取得部12b等を備えている。
【0050】
自車位置推定部12aは、自車位置を推定する自車位置推定部である。自車位置推定部12aは、GNSS受信機16で受信した測位信号に基づき自車両の位置座標(緯度、経度)を取得する。そして、自車位置推定部12aは、取得した位置座標をルート地図情報上にマップマッチングして、道路地図上の自車位置(現在位置)を推定する。
【0051】
また、自車位置推定部12aは、トンネル内走行などのようにGNSS受信機16の感度低下により測位衛星からの有効な測位信号を受信することができない環境においては、車輪速センサ14で検出した車輪速に基づき求めた車速データ、ジャイロセンサ15で検出した角速度データ、加速度センサ13で検出した前後加速度データ等に基づいて自車位置を推定する自律航法に切り換えて、道路地図上の自車位置(緯度、経度)を推定する。
【0052】
地図情報取得部12bは、自車位置推定部12aで推定した自車位置の位置情報(緯度、経度)と、運転者等によりルート情報入力部19から入力された目的地や経由地の位置情報(緯度、経度)とに基づき、現在地から目的地までの目標とする走行ルート情報(高精度道路地図情報上での自車位置と目的地(経由地が設定されている場合は経由地を経由した目的地)とを結ぶ目標走行ルート情報)を、予め設定されているルート条件(推奨ルート、最速ルート等)に従って構築する。このとき、自車位置推定部12aは、自車両の走行する走行車線を特定し、道路地図データに記憶されている走行車線や合流車線等の道路形状を取得して、これらの情報を逐次記憶する。また、地図情報取得部12bは、目標走行ルート情報を自車位置推定部12aへ送信する。
【0053】
このようにして、地図ロケータ演算部12は、自車位置推定部12aにより推定された自車位置を道路地図上にマップマッチングして自車両の現在地を特定し、その周辺の状況に関する情報を含む道路地図情報を取得する。また、地図情報取得部12bにより自車両の目標とする目標走行ルートを設定する。
【0054】
カメラユニット21は、自車両の主に進行方向(前方)の状況を認識し、情報として取得する周辺状況情報取得装置であり周辺状況認識装置の一部を成す。
【0055】
カメラユニット21は、具体的には、例えば、自車両の前方又は側方を走行する他車両(先行車両や併走車両等)のほか、併走する自転車、自動二輪車等の移動体(以下、単に動体等という)を含む立体物、信号現示(点灯色,点滅状態,矢印方向等)、道路標識、停止線、車線境界線等の道路標示等のほか、各種の道路周辺状況等を認識する。
【0056】
カメラユニット21は、自車両の車室内前部の上部中央等に固定されており、車幅方向中央を挟んで左右対称な位置に配設されているメインカメラ21a及びサブカメラ21bからなる車載カメラ(ステレオカメラ)と、画像処理ユニット(IPU;Image Processing Unit)21cと、走行環境認識部21d等を有して構成されている。そして、カメラユニット21は、メインカメラ21aで基準画像データを撮像し、サブカメラ21bで比較画像データを撮像する。これら二つのカメラ21a,21bによって取得された2つの画像データは、IPU21cにて所定の画像処理が施される。
【0057】
走行環境認識部21dは、IPU21cで画像処理された基準画像データと比較画像データとを読込んで、両画像間の視差に基づいて両画像中の同一対象物を認識すると共に、その距離データ(自車両から対象物までの距離情報)を、三角測量の原理を利用して算出して、前方状況情報として認識する。
【0058】
また、カメラユニット21は、例えば、自車両の走行車線の左右を区画する区画線(車線境界線)を、前方状況情報として認識する。
【0059】
ここで、前方状況情報には、自車両が走行する進行路(合流車線や走行車線等)の道路形状(左右を区画する区画線であり車線を示す車線境界線、区画線間中央の道路曲率[1/m]及び左右区画線間の幅(車線幅))、高速道路やバイパス道路等の出入口、ジャンクションに繋がる合流車線や分岐車線側の区画線間の車線幅、交差点、横断歩道、信号機、道路標識、及び路側障害物(電柱、電信柱、駐車車両等)等のほか、自車両の前方や周囲を走行する他車両の挙動を表す画像情報等の各種情報等が含まれる。この前方状況情報は、走行制御ユニット22へと出力される。
【0060】
また、走行環境認識部21dは、距離画像情報に対して所定のパターンマッチングなどを行い、道路に沿って存在するガードレール、縁石及び立体物の認識を行う。ここで、走行環境認識部21dにおける立体物の認識では、例えば、立体物の種別、立体物までの距離、立体物の速度、立体物と自車両との相対速度などの認識が行われる。
【0061】
なお、各カメラ21a,21bは、画像情報と同時に音情報を取得する機能を備えていてもよい。この場合、画像情報と同時に取得された音情報は、自車両の前方状況に関連する音情報として、前方状況情報に含まれる。
【0062】
周辺監視ユニット20は、自車両の周辺の状況を認識し情報として取得する周辺状況情報取得装置であり周辺状況認識装置の一部を成す。この周辺監視ユニット20は、周辺状況認識センサ20aと、周辺環境認識部20b等を有して構成されている。
【0063】
周辺状況認識センサ20aは、例えば、超音波センサ,ミリ波レーダ,ライダー(LIDER;Light Detection and Ranging),カメラ等のセンシングデバイスと、これらを組み合せてなる周辺状況検出手段としての自律センサ群である。
【0064】
具体的には、例えば、周辺状況認識センサ20aとしての複数のミリ波レーダが、車両の四隅部分(例えば、左前側方、右前側方、左後側方、右後側方等)にそれぞれ配設される。このうち、左右前側方のミリ波レーダは、例えばフロントバンパの左右側部に設けられ、カメラユニット21の2つのカメラ21a,21bにより取得される画像によって認識することの困難な車両周辺の一部領域(車両の左右斜め前方及び側方の領域)を監視するのに用いられる。
【0065】
また、左右後側方のミリ波レーダは、例えばリヤバンパの左右側部に設けられ、上記左右前側方のミリ波レーダでは監視し得ない車両周辺の一部領域(車両の側方から後方にかけての領域)を監視するのに用いられる。
【0066】
周辺環境認識部20bは、周辺状況認識センサ20aからの出力信号に基づいて自車両の周辺の移動体(例えば、併走車両,自車線若しくは隣接車線を走行する後続車両,対向車両等)に関する情報である周辺状況情報を取得する。
【0067】
周辺監視ユニット20とカメラユニット21とによって、本実施形態の運転支援装置1における周辺状況情報取得装置であり周辺状況認識装置が構成されている。ここで、カメラユニット21の走行環境認識部21dと、周辺監視ユニット20の周辺環境認識部20bとは、車内通信回線10を通じて走行制御ユニット22の入力側に接続されている。また、走行制御ユニット22と地図ロケータ演算部12との間は、車内通信回線10を通じて双方向通信自在に接続されている。そして、走行制御ユニット22の入力側には、車両内部状況情報を検知する複数の各種スイッチ類若しくは複数のセンサ群として、モード切換スイッチ33と、ハンドルタッチセンサ34と、操舵トルクセンサ35と、ブレーキセンサ36と、アクセルセンサ37等が接続されている。
【0068】
モード切換スイッチ33は、運転者が各種の運転モードの選択や、運転支援制御に関わる複数の制御機能を選択するためのオンオフ切換等を行うスイッチ群を指す。運転者は、モード切換スイッチ33を操作することによって、例えば、手動運転モード、第1の運転支援モード、第2の運転支援モード、退避モード等の各種の運転モードのオンオフの切り換えを選択的に行うことができる。
【0069】
ここで、手動運転モードとは、運転者による保舵を必要とする運転モードである。例えば、運転者による運転操作(ステアリング操作、アクセル操作、ブレーキ操作など)に従って自車両を走行させる運転モードである。
【0070】
第1の運転支援モードは、運転者による保舵を必要とする運転モードであって、運転者による運転操作を反映しつつ、各種センサ類等により認識された自車両の周辺環境等の状況に応じて、運転者の操作を支援する半自動運転モードである。即ち、当該第1の運転支援モードは、例えば、エンジン制御ユニット23、パワーステアリング制御ユニット24、ブレーキ制御ユニット25等を制御して、主として先行車追従制御、車線維持支援制御、車線逸脱抑制制御、緊急逸脱抑制制御等の各種制御を組み合わせて行い、設定された目標走行ルートに沿って自車両を走行させる半自動運転モードである。
【0071】
第2の運転支援モードは、運転者による保舵やアクセル操作及びブレーキ操作等を必要とすることなく、例えば、エンジン制御ユニット23、パワーステアリング制御ユニット24、ブレーキ制御ユニット25等による制御を通じて、主として先行車追従制御、車線維持支援制御、車線逸脱抑制制御等を組み合わせて行って、目標走行ルートに沿って自車両を自動走行させる自動運転モードである。
【0072】
退避モードは、例えば、第1,第2の運転支援モードによる走行中に、自車両の走行が継続不能となり、かつ、運転者への運転操作を引き継ぐことができなかった場合(即ち、手動運転モード又は第1の運転支援モードへの遷移ができなかった場合)等に、自車両を自動的に安全に停止させるための緊急的な運転モードである。この退避モードで実行される制御が、後述する「運転者異常時対応制御」などと呼ばれる制御になる。
【0073】
さらに、モード切換スイッチ33は、複数種類の各種操舵支援制御のうち、車線維持支援制御、車線逸脱抑制制御、緊急逸脱抑制制御等の各機能のオンオフの切り換えを、運転者が選択的に行うことができる操作部材でもある。
【0074】
ハンドルタッチセンサ34は、運転者がステアリング装置におけるステアリングホイール(不図示)を把持している状態、即ち保舵状態を検知するためのセンサである。ハンドルタッチセンサ34は、車両のステアリングホイール(以下、単にステアリングと略記する)に設けられている。ハンドルタッチセンサ34は、ステアリングを把持しているとき(保舵状態にあるとき)オン信号を出力する。
【0075】
操舵トルクセンサ35は、運転者による運転操作量としての操舵トルクを検出するセンサである。操舵トルクセンサ35は、車両のステアリング装置におけるステアリングシャフト(不図示)に設けられている。
【0076】
なお、ハンドルタッチセンサ34と操舵トルクセンサ35とは、自車両の運転者によるステアリングの保舵状態を認識するためのセンサであり、保舵状態認識部である。これら両センサ(34,35)の出力信号は走行制御ユニット22(の保舵状態判定部22b;後述)へと出力される。
【0077】
ブレーキセンサ36は、運転者による運転操作量としてのブレーキペダルの踏込量を検出するセンサである。アクセルセンサ37は、運転者による運転操作量としてのアクセルペダルの踏込量を検出するセンサである。
【0078】
一方、走行制御ユニット22の出力側には、モニタパネルやスピーカ等の報知装置38等が接続されている。この報知装置38は、走行制御ユニット22が走行環境認識部21dや周辺環境認識部20b等によって取得された前方状況情報,周辺状況情報等に基づいて認識された状況に応じた警報(例えばモニタパネル等の表示装置への視覚的な警報表示や、スピーカ等の発音装置への音声や警笛等による聴覚的な警報表示等)を、運転者に対して報知する装置である。
【0079】
また、報知装置38は、場合によっては運転者に対して、運転者が行うべき操作を示唆する表示(具体的には、例えば「ブレーキペダルを踏み込んでください」、「アクセルを離してください」、「ステアリングの修正操作を行ってください」等の示唆報知等)を、聴覚的に若しくは視覚的に運転者に知覚させる各種の表示を行う。
【0080】
走行制御ユニット22は、周辺状況判定部22aと、保舵状態判定部22bと、走行車線設定部22cと、操舵支援制御部22d等を具備して構成されている。
【0081】
周辺状況判定部22aは、周辺状況認識装置(周辺監視ユニット20、カメラユニット21)による認識結果に基づいて自車両の周辺状況を判定する。
【0082】
保舵状態判定部22bは、保舵状態認識部(ハンドルタッチセンサ34,操舵トルクセンサ35)による認識結果に基づいて自車両の運転者による保舵状態を判定する。
【0083】
走行車線設定部22cは、周辺状況認識装置、即ちカメラユニット21の走行環境認識部21dで認識した前方状況情報や、周辺監視ユニット20の周辺環境認識部20bによって認識された自車両の周辺状況情報に基づいて自車両の走行する走行車線を設定する。
【0084】
ここで、走行車線設定部22cは、例えば、カメラユニット21からの前方状況情報に含まれる車線認識情報を受けて、自車両の走行車線の左右区画線(車線境界線)の中央の道路曲率を求めると共に、この左右区画線の中央を基準とする自車両の車幅方向の横位置偏差を検出する。
【0085】
なお、区画線間中央の道路曲率及び車線幅の求め方は種々知られているが、例えば、走行環境認識部21dは、道路曲率を前方走行環境画像情報に基づき輝度差による二値化処理にて、左右の区画線を認識し、最小二乗法による曲線近似式などにて左右区画線の曲率を所定区間毎に求め、さらに、両区画線間の曲率の差分から車幅を算出する。そして、走行環境認識部21dは、この左右区間線の曲率と車線幅とに基づき車線中央の道路曲率を求め、さらに、車線中央を基準とする自車両の横位置偏差、正確には、車線中央から自車両の車幅方向中央までの距離である自車横位置偏差を算出する。
【0086】
操舵支援制御部22dは、車両を走行車線内で安定させて走行させるためのステアリング操作に加え、車両が走行中に遭遇する危険等を回避する際に運転者により行われるステアリング操作を支援する各種の操舵支援制御を実行する。
【0087】
操舵支援制御部22dは、目標走行位置設定部22eと、回避判定部22fと、車線逸脱判定部22g等を具備している。
【0088】
目標走行位置設定部22eは、走行車線設定部22cによって設定された走行車線内における自車両の目標走行位置(例えば車線中央位置)を設定する。
【0089】
回避判定部22fは、目標走行位置設定部によって設定された目標走行位置の延長上前方に所定の物標が存在していることが周辺状況認識装置によって認識された場合において前記自車両が当該物標を回避するための回避行動を必要とするか否かを判定する。
【0090】
車線逸脱判定部22gは、走行車線設定部22cによって設定された走行車線を走行中に、当該走行車線から隣接車線等へ逸脱しそうな状況にあるか等の車線逸脱状況を判定する。また、車線逸脱判定部22gは、回避判定部22fによって認識された前方の物標に対する回避行動が必要であると判定されたときに、自車両と当該物標との横位置関係に基づいて自車両が回避行動を実行すると自車両が走行車線から逸脱するか否か等の車線逸脱状況を判定をする。
【0091】
そして、走行制御ユニット22は、カメラユニット21の走行環境認識部21dや周辺監視ユニット20の周辺環境認識部20b、即ち周辺状況認識装置からの出力情報のほか、地図ロケータ演算部12を通じて得られる各種情報に加えて、モード切換スイッチ33や各種センサ(34、35、36、37)等により取得される車両内部状況情報等に基づいて、周辺状況判定部22aと保舵状態判定部22b等による各種所定の状況判定を行い、それらの判定結果に基づいて、エンジン制御ユニット23、パワーステアリング制御ユニット24、ブレーキ制御ユニット25等を通じて自車両の走行制御を行う。
【0092】
なお、走行制御ユニット22は、地図ロケータ演算部12によって設定された目標走行ルート中に、自動運転制御が許可された自動運転区間が設定されている場合には、当該自動運転区間において自動運転制御を行うための走行ルートを設定する。そして、自動運転区間においては、エンジン制御ユニット23,パワーステアリング制御ユニット24,ブレーキ制御ユニット25等を適宜制御して、各種情報に基づき推定された自車位置から設定された目標走行ルートに沿って自車両を第2の運転支援モードによって自動走行させる機能をも有する。
【0093】
その際、走行制御ユニット22は、走行環境認識部21dで認識した前方状況情報に基づいて例えば先行車追従制御、車線維持支援制御等により、先行車が検出された場合は先行車に追従させ、先行車が検出されない場合は制限速度内のセット車速で自車両を走行させる。また、車線維持支援制御、車線逸脱抑制制御、緊急逸脱抑制制御等、適宜選択された操舵支援制御を実行し、さらに、場合によっては運転者異常時対応制御を実行する等の走行制御を行う。
【0094】
なお、運転者異常時対応制御は、例えば、本実施形態の運転支援装置1においては、自動運転制御等が行われているときに、当該装置から運転者に運転操作を引き継ぐことができない状況となった場合に、安全にかつ自動的に車両を停止させるための技術である。
【0095】
また、走行制御ユニット22は、上述したように、エンジン制御ユニット23と、パワーステアリング制御ユニット24と、ブレーキ制御ユニット25等の各制御ユニットとの間で、車内通信回線10を通じて互いに接続されている。これにより、走行制御ユニット22は、各制御ユニット(23,24,25)等を制御する。
【0096】
エンジン制御ユニット23の出力側には、スロットルアクチュエータ27が接続されている。このスロットルアクチュエータ27は、エンジンのスロットルボディに設けられている電子制御スロットルのスロットル弁を開閉動作させるものであり、エンジン制御ユニット23からの駆動信号によりスロットル弁を開閉動作させて吸入空気流量を調整することで、所望のエンジン出力を発生させる。
【0097】
パワーステアリング制御ユニット24の出力側には、電動パワステモータ28が接続されている。この電動パワステモータ28は、ステアリング機構に電動モータの回転力で操舵トルクを付与するものである。手動モード以外の運転モード(第1、第2の運転支援モード、退避モード等)においては、パワーステアリング制御ユニット24からの駆動信号により電動パワステモータ28を制御動作させることで、ステアリングの操作(即ち、操舵)を支援する各種の操舵支援制御が実行される。また、操舵トルクセンサ35は、電動パワステモータ28の駆動量の変化、若しくはステアリング機構の駆動量等を検知することによって操舵トルク値を提示する。
【0098】
ブレーキ制御ユニット25の出力側には、ブレーキアクチュエータ29が接続されている。このブレーキアクチュエータ29は、各車輪に設けられているブレーキホイールシリンダに対して供給するブレーキ油圧を調整するもので、ブレーキ制御ユニット25からの駆動信号によりブレーキアクチュエータ29が駆動されると、ブレーキホイールシリンダにより各車輪に対してブレーキ力が発生し、車両を強制的に減速させる。
【0099】
なお、地図ロケータ演算部12、周辺環境認識部20b、走行環境認識部21d、走行制御ユニット22、エンジン制御ユニット23、パワーステアリング制御ユニット24、ブレーキ制御ユニット25等については、例えば、CPU(Central Processing Unit),RAM(Random Access Memory),ROM(Read Only Memory)や不揮発性記憶部等を備える周知のマイクロコンピュータ及びその周辺機器等によって構成されているものである。そして、ROMにはCPUが実行するプログラムやデータテーブル等の固定データ等が予め記憶されている。本実施形態の運転支援装置1の概略構成は、以上である。
【0100】
このように構成された本発明の一実施形態の運転支援装置の作用を、以下に説明する。なお、本実施形態を説明するのに際しては、自車両の通行区分が左側である左側通行を基本とする道路システムの場合を例示している。したがって、右側通行を基本とする道路システムに適用するには、左右を入れ替えて考慮すれば容易に応用することができる。
【0101】
まず、本実施形態の運転支援装置1において実行される操舵支援制御のうち車線逸脱抑制制御及び緊急逸脱抑制制御の基本的な作用を、以下に説明する。
【0102】
図2は、本実施形態の運転支援装置において行われる通常の車線逸脱抑制制御を概略的に説明する図である。なお、本実施形態の運転支援装置1において行われる車線逸脱抑制制御は、従来周知の車線逸脱抑制制御と基本的に略同様である。以下の説明は、車線逸脱抑制制御が単独で実行される場合の基本的な作用を簡略化して示すものである。したがって、図2の説明は、車線逸脱抑制制御の作用のみを説明するものであり、他の制御のオンオフ状態や、それらの他の制御の介入及び影響等を考えないものとしている。
【0103】
図2に示す例は、片側一車線の交互通行の道路Rにおいて自車両100が左側の車線RL内の領域を走行している場合を想定している。ここで、道路Rは、自車両100の運転者から見て左側の車線RLと、この左側車線RLの右側に隣接する車線RRとからなる。左側車線RLは、左路肩側の区画線L1と中央区画線L2とに挟まれる領域である。右側車線RRは、中央区画線L2と右路肩側の区画線L3とに挟まれる領域である。
【0104】
この場合において、自車両100は、左側車線RLを自車両の走行車線(自車線)として走行している。そして、自車両100に搭載されている運転支援装置1は、操舵支援制御のうち車線逸脱抑制制御が作動するオン状態に設定されているものとする。なお、図2において、他の制御については考慮しない。
【0105】
この状況において、自車両100の運転支援装置1は、自車線の両側の区画線(L1,L2)を認識し(周辺状況認識装置(20,21)による)、認識された区画線(L1,L2)に挟まれる領域の車線RLを自車両100が走行すべき走行車線として設定し(走行車線設定部22cによる)、設定された走行車線RL内における自車両100の目標走行位置として、例えば車線中央位置を設定する(目標走行位置設定部22eによる)。
【0106】
ここで、自車両100が走行車線RLから隣接車線RR(図2の例示では対向車線)へと逸脱しそうになった場合を考える。その場合の状況は、図2の符号Aに示す位置に自車両100が位置しており、図2に示す姿勢にあるものとする。
【0107】
なお、ここで、自車両が走行車線から隣接車線へと逸脱しそうになる具体的な状況としては、例えば、走行中の道路に設けられる横勾配等の影響によって車両が直進せずに左右いずれかの横方向に向けて進んでしまう場合等がある。また、自車両の故障、或いは運転者が脇見運転等をした場合、運転者が疲労等に起因する居眠り状態になったり、若しくは運転者の急病等に起因して意識低下状態になった場合等がある。このほか、例えば、自車両が設定された目標走行ルート上を走行している場合に、当該目標走行ルート上に所定の物標が存在していることが認識され、自車両が当該物標を回避するための回避行動として、運転者による急激なステアリング操作が行われた場合等に、走行車線を逸脱する可能性が発生する。
【0108】
このような状況下において、図2のA位置にある自車両100は、自車両100の前後方向に沿う線であって自車両100のこの時点(A位置)における進行方向のベクトル(矢印符号S1)に沿う線が、当該自車両100の走行車線RLの両側の区画線L1,L2に対して所定角度の傾きを有している状況にある。したがって、自車両100が進行方向のベクトルであり矢印符号S1に沿ってそのまま進んだ場合、当該自車両100は区画線L2を踏み越えて横切った後、隣接する車線RR(対向車線)へと逸脱してしまうことが予想される(車線逸脱判定部22gによる判定)。
【0109】
そこで、自車両100の運転支援装置1においては、車線逸脱判定部22gによって自車両100が走行車線を逸脱しそうであると判定されると、車線逸脱抑制のための操舵支援制御が実行される。ここで行われる操舵支援制御は、ステアリングを右左の回転方向へと回転操舵させる制御である。図2においては、ステアリングを左回転方向(矢印L方向)へと回転させている様子を符号101Lで示し、右回転方向(矢印R方向)へと回転させている様子を符号101Rで示している。また、図2においてステアリングが中立位置にある様子を符号101Cで示している。
【0110】
車線逸脱抑制制御は、まず、自車両100の前後方向に沿う線(例えば矢印符号S1に沿う線)と区画線L2とのなす角(対車線ヨー角という)がゼロとなるまで(即ち、自車両100の前後方向に沿う線(矢印符号S1に沿う線)と区画線L2とが平行となるまで)、車両100が旋回軌跡を描くようにステアリング操作の支援制御(操舵支援制御)を行う。このときの操舵支援制御は、図2の符号A-Bで示す領域にて行われる。
【0111】
そして、自車両100が図2の符号Bで示す位置に至ると、自車両100の前後方向に沿う線(この時点(B位置)においては矢印符号S2に沿う線)と区画線L2とが平行になる。このときの自車両100の進行方向のベクトルを図2の矢印符号S2で示している。ここで、A位置からB位置までの間に行われる操舵制御を「第1段階の制御処理」というものとする。
【0112】
自車両100が符号Bで示す位置にあるとき、自車両100は、区画線L2を踏み越えない状態で、当該区画線L2に沿って走行している。この状態では、自車両100の一部(右側面寄りの一部)が隣接車線(対向車線)RR内の領域にはみ出て走行している場合がある。
【0113】
そこで、運転支援装置1は、自車両100を走行車線RLの領域内へと導いて、自車両100の右側面が区画線L2の内縁(車線端)に沿って走行するように、操舵支援制御及び走行支援制御を実行する。このときの操舵支援制御は、図2の符号B-Dで示す領域にて行われる。この領域を走行中の自車両100の進行方向のベクトルを図2の矢印符号S3で示している。
【0114】
自車両100が図2の符号Dで示す位置に至ると、自車両100の前後方向に沿う線(この時点(D位置)においては矢印符号S4に沿う線)と区画線L2とは再び平行になる。このときの自車両100の進行方向のベクトルを図2の矢印符号S4で示している。こうして、図2のD位置にて自車両100の前後方向に沿う線(S4)と区画線L2とが平行になると、その後は、この状態を維持したまま区画線L2に沿わせる走行を、所定の時間が経過する間続ける。ここで、B位置からD位置までの間に行われる操舵制御を「第2段階の制御処理」というものとする。
【0115】
自車両100が符号Dで示す位置を経て所定時間が経過する間の走行状態は、区画線L2に対し走行車線RL内の領域において、当該区画線L2の内縁(車線端)に沿って走行している状態である。つまり、自車両100は、走行車線の車線端に移動して、その車線端位置を維持して走行している。この時点で、自車両100は、対向車との衝突等の危険が回避された状態となっている。
【0116】
しかし、自車両100が、図2の符号D位置を経て区画線L2に沿って走行を続けている状態にあるときの自車両100は、再度、車線を逸脱する可能性が高い。そこで、運転支援装置1においては、さらに、次のような走行制御を行う。
【0117】
即ち、運転支援装置1は、自車両100を走行車線RLの車線中央位置へと導いて、当該車線中央位置を維持して走行するように、操舵支援制御及び走行支援制御を実行する。このときの操舵支援制御は、図2の符号Dを経て所定時間が経過した後の所定の位置から符号Fで示す領域にて行われる。この領域を走行中の自車両100の進行方向のベクトルを図2の矢印符号S5で示している。
【0118】
自車両100が図2の符号Fで示す位置に至ると、自車両100の前後方向に沿う線(この時点(F位置)においては矢印符号S6に沿う線)と区画線L2とは再び平行になる。このときの自車両100の進行方向のベクトルを図2の矢印符号S6で示している。ここで、D位置からF位置までの間に行われる操舵制御を「第3段階の制御処理」というものとする。
【0119】
このようにして、自車両100が走行車線RLの車線中央位置を維持して走行する状態になると、運転支援装置1による車線逸脱抑制制御は完了する。
【0120】
なお、図2を用いた上述の説明では、片側一車線の交互通行の道路において自車両が左側車線側の領域を走行しているときに、自車両が対向車線側へ逸脱する場合を想定して説明しているが、車線逸脱抑制制御が行われる状況としては、このような状況に限られない。
【0121】
例えば、片側二車線(往復四車線)の道路において、自車両が片側二車線のうちの左側車線を走行車線として走行しているときに、右側の隣接車線(追い越し車線)側に逸脱しそうになった場合であっても、全く同様に適用し得る。さらに、同様の例は多々考えられ、例えば片側二車線の右側車線を走行中において左側車線への逸脱を抑制する場合であってもよいし、片側三車線の中央車線を走行中の右側車線あるいは左側車線への逸脱抑制制御の場合であってもよい。これらのことは、後述の緊急逸脱抑制制御や運転者異常時対応制御の場合も同様であり、記載した例示のみに限られることはない。
【0122】
次に、図3は、本実施形態の運転支援装置において行われる緊急逸脱抑制制御の作用の一例(第1緊急逸脱抑制制御の対向車対応)を説明する図である。なお、本実施形態の運転支援装置1において行われる緊急逸脱抑制制御自体は、従来周知の車線逸脱抑制制御と基本的に略同様である。ただし、緊急逸脱抑制制御では、車線を逸脱しそうになったときに、対向車や後続車等の他車両を検知することを、実行開始のトリガーとしている点が異なる。なお、車線逸脱制御と緊急逸脱制御とでは、制御パラメータがそれぞれ別個に設定されているので、各制御によって制御量は異なるものとなっている。
【0123】
図3に示す例は、図2の例示と同様に、片側一車線の交互通行の道路Rにおいて自車両100が左側の車線RL内の領域を走行している場合を想定している。したがって、各符号(自車両100,道路R,各車線RL,RR,各区画線L1,L2,L3等)については、図2と同じ符号を付している。
【0124】
この場合において、自車両100は、左側車線RLを自車両の走行車線(自車線)として走行している。また、右側車線RRには、自車両100対して対向して走行してくる対向車110が存在するものとして示している。なお、自車両100に搭載されている運転支援装置1は、操舵支援制御のうち車線逸脱抑制制御及び緊急逸脱抑制制御が共に作動するオン状態に設定されているものとする。
【0125】
また、ここで、車線逸脱抑制制御オン、緊急逸脱抑制制御オン時の制御を、第1緊急逸脱抑制制御というものとする。そして、図3の例示は、第1緊急逸脱抑制制御における対向車検知の場合の例である。また、図3の説明は、第1緊急逸脱抑制制御(車線逸脱抑制制御オン、緊急逸脱抑制制御オン時の制御)の作用を説明するために、他の制御のオンオフ状態や、それらの他の制御の介入及び影響等を考えないものとしている。
【0126】
この状況において、自車両100の運転支援装置1は、自車線の両側の区画線(L1,L2)を認識し、認識された区画線(L1,L2)に挟まれる領域の車線RLを自車両100が走行すべき走行車線として設定し、設定された走行車線RL内における自車両100の目標走行位置として、例えば車線中央位置を設定する(図2の状況と同様)。
【0127】
ここで、図2の状況と同様に、自車両100が走行車線RLから隣接車線RR(図3の例示では対向車線)へと逸脱しそうになった場合を考える。このときの自車両100の状況は、図3の符号Aに示す位置に自車両100が位置しており、図3に示す姿勢にあるものとする。
【0128】
このような状況下において、図3のA位置にある自車両100は、自車両100の前後方向に沿う線であって自車両100のこの時点(A位置)における進行方向のベクトル(矢印符号S1)に沿う線が、当該自車両100の走行車線RLの両側の区画線L1,L2に対して所定角度の傾きを有している状況にある。したがって、自車両100が進行方向のベクトルの矢印符号S1に沿ってそのまま進んだ場合、当該自車両100は区画線L2を踏み越えて横切った後、隣接する車線RR(対向車線)へと逸脱してしまうことが予想される(車線逸脱判定部22gによる判定)。
【0129】
さらに、このとき、自車両100の前後方向に沿う線(矢印符号S1に沿う線)の前方延長上の対向車線RR内には、対向車110が存在し、図3の矢印符号S10に沿う方向に走行しており、自車両100の運転支援装置1は、例えばカメラユニット21等を用いて当該対向車110を検知しているものとする。
【0130】
上述したように、図3に示す状況においては、自車両100の運転支援装置1は、車線逸脱抑制制御及び緊急逸脱抑制制御が共にオン状態とされているので、自車両100が走行車線RLから逸脱しそうになったことを検知して車線逸脱抑制制御が開始される。これと同時に、対向車110が検知されることにより、緊急逸脱抑制制御も開始される。
【0131】
このような場合には、まず、対向車110が検知されて緊急逸脱抑制制御が開始され対向車等の他車両への警戒を促すための警報表示200(図3参照)が行われる。この警報表示200は、例えば表示パネル等への視覚的表示やスピーカ等による聴覚的表示等である。
【0132】
その後、自車両100と対向車110とがすれ違って、対向車110が自車両100の周囲から離れて存在しない状態になり、かつ当該対向車110に後続する対向車両が存在しない場合(後続対向車両が検知されない場合)、実行中の緊急逸脱抑制制御は車線逸脱抑制制御に切り換わる。
【0133】
これと同時に、上記緊急逸脱抑制制御に基づく警報表示200は、車線逸脱抑制制御が実行されている旨を表す所定の状態表示201に切り換わり、当該状態表示201が継続表示される。これ以降の作用は、上述の図2を用いて説明した制御と全く同様である。
【0134】
このように、警報表示200を伴う緊急逸脱抑制制御から状態表示201を伴うLPD制御への切り換えタイミングは、例えば、緊急逸脱抑制制御が開始された後、当該緊急逸脱制御の開始トリガーとして検知された対向車110及びこれに続く後続の対向車両等が存在しなくなった時点としている。
【0135】
なお、自車両100が緊急逸脱抑制制御のトリガーとして検知された対向車110とすれ違った後に、さらに別の対向車(例えば、上記検知対象の対向車に後続する後続対向車等)が存在している場合が考えられる。この場合には、運転支援装置1は、さらに対向車検知判定を行うことになり警報継続若しくは再開することになるが、自車両100が位置Bを走行している状態になれば、自車両100は区画線L2を踏み越えていない状態で、当該区画線L2に沿って走行している状態にある。この状態では、上述したように、自車両100の一部が隣接する対向車線RR内の領域にはみ出している状態になっている場合があるが、この時点では自車両100は、緊急逸脱抑制制御から切り換えられた通常の車線逸脱抑制制御を継続して行っているので、自車両100は対向車線から離れる方向へ走行制御されている。したがって、この時点では、対向車との衝突の危険がほぼ回避されているといえる。そして、自車両100は、検知された最初の対向車110が存在しなくなった時点で警報表示200を解除しても、運転者に違和感を与えるようなことは無い。
【0136】
上述の図3の例示では、片側一車線の交互通行の道路において自車両が左側車線側の領域を走行しているときに、対向車線側に対向車が検知された場合を想定して説明しているが、このような状況に限られない。
【0137】
例えば、図4は、本実施形態の運転支援装置において行われる緊急逸脱抑制制御の作用の別の一例(第1緊急逸脱抑制制御の後続車対応)を説明する図である。
【0138】
図4は、片側二車線(往復四車線)の道路において、自車両が片側二車線のうちの左側車線を走行車線として走行しているときに、右側の隣接車線(追い越し車線)側に逸脱しそうになった場合を想定している。なお、図4においては、往復四車線道路のうちの片側二車線のみを図示している。
【0139】
図4に示す別の一例においても、車線逸脱抑制制御及び緊急逸脱抑制制御が共にオン状態の場合を想定している(第1緊急逸脱抑制制御)。
【0140】
図4に示すように、片側二車線(往復四車線)の道路において、自車両が片側二車線のうちの左側車線RL1を走行車線として走行しているときに、右側の隣接車線(追い越し車線)RL2側に逸脱しそうになり、かつ当該右側隣接車線RL2を走行車線として後ろ側方を進行方向のベクトルの矢印符号S11に沿って自車両100側に向けて接近してくる後続車111が存在しており、自車両100がその後続車111を検知した場合であっても、全く同様に適用し得る。
【0141】
次に、図5は、本実施形態の運転支援装置において行われる緊急逸脱抑制制御の作用の他の一例(第2緊急逸脱抑制制御の対向車対応)を説明する図である。
【0142】
図5に示す例は、図3の例示と同様に、片側一車線の交互通行の道路Rにおいて自車両100が左側の車線RL内の領域を走行している場合を想定している。したがって、各符号については、図2図3と同じ符号を付している。
【0143】
この場合において、自車両100は、左側車線RLを自車両の走行車線(自車線)として走行し、右側車線RRに対向車110が存在している点は、図3の状況と同じである。 なお、本例においては、自車両100に搭載されている運転支援装置1は、操舵支援制御のうち車線逸脱抑制制御をオフ状態とし、緊急逸脱抑制制御のみが作動するオン状態に設定されているものとする。
【0144】
ここで、車線逸脱抑制制御オフ、緊急逸脱抑制制御オン時の制御を、第2緊急逸脱抑制制御というものとする。そして、図5の例示は、第2緊急逸脱抑制制御における対向車検知の場合の例である。また、図5の説明は、第2緊急逸脱抑制制御(車線逸脱抑制制御オフ、緊急逸脱抑制制御オン時の制御)の作用を説明するために、他の制御のオンオフ状態や、それらの他の制御の介入及び影響等を考えないものとしている。
【0145】
この状況において、自車両100の運転支援装置1は、自車線の両側の区画線(L1,L2)を認識し、認識された区画線(L1,L2)に挟まれる領域の車線RLを自車両100が走行すべき走行車線として設定し、設定された走行車線RL内における自車両100の目標走行位置として、例えば車線中央位置を設定する(図2図3の説明と同様)。 ここで、図2図3の場合と同様に、自車両100が走行車線RLから隣接車線RR(図5の例示では対向車線)へと逸脱しそうになった場合を考える。このときの自車両100の状況は、図5の符号Aに示す位置に自車両100が位置しており、図5に示す姿勢にあるものとする。
【0146】
このような状況下において、図5のA位置にある自車両100は、自車両100の前後方向に沿う線であって自車両100のこの時点(A位置)における進行方向のベクトル(矢印符号S1)に沿う線が、当該自車両100の走行車線RLの両側の区画線L1,L2に対して所定角度の傾きを有している状況にある。したがって、自車両100が進行方向のベクトルの矢印符号S1に沿ってそのまま進んだ場合、当該自車両100は区画線L2を踏み越えて横切った後、隣接する車線RR(対向車線)へと逸脱してしまうことが予想される(車線逸脱判定部22gによる判定)。
【0147】
しかしながら、このときの運転支援装置1においては、車線逸脱抑制制御をオフ状態としているので、上述のように車線逸脱判定がなされたとしても車線逸脱抑制制御は開始されない状態となっている。この場合には、運転者は自らの意志によりステアリング操作を行って、車線からの逸脱を抑制することになる。
【0148】
一方、このとき、自車両100の前後方向に沿う線(矢印符号S1に沿う線)の前方延長上の対向車線RR内には、対向車110が存在し図5の矢印符号S10に沿う方向に走行しているものとする。そして、自車両100の運転支援装置1は、例えばカメラユニット21等を用いて当該対向車110を検知する。すると、運転支援装置1は、対向車110の検知をトリガーとして緊急逸脱抑制制御を開始する。
【0149】
こうして、対向車110が検知されて緊急逸脱抑制制御が開始されると、対向車等の他車両への警戒を促すための警報表示200(図5参照)が、まず行われる。この警報表示200は、例えば表示パネル等への視覚的表示やスピーカ等による聴覚的表示等である。この警報表示200は、緊急逸脱抑制制御が完了するまで継続表示される。
【0150】
ここで、緊急逸脱抑制制御は、対向車110が検知されたことをトリガーとして開始されて、警報表示200と共に、所定の操舵支援制御が行われる。これにより、自車両100は、図5の位置Aから位置B,Cを経て位置Dに至る。そして、図5の位置Dにおいて、自車両100は、前後方向に沿う線(矢印符号S4に沿う線)と区画線L2とが平行になる状態で、かつ走行車線内にて車線端位置を維持して走行する状態になる。その後、この状態を維持したまま区画線L2に沿わせる走行を、所定の時間が経過する間続ける。
この間に、当該緊急逸脱抑制制御の開始トリガーとなった対向車110が、すれ違って自車両100の周囲から離れて存在しない状態になり、かつ当該対向車110に後続する対向車両が存在しない場合(後続対向車両が検知されない場合)は、実行中の緊急逸脱抑制制御は、自車両100を区画線L2と平行状態とし、かつ走行車線内にて車線端位置を維持して走行させる状態とした時点で終了する。このとき、緊急逸脱抑制制御に基づく警報表示200も終了する。
【0151】
次に、本実施形態の運転支援装置において行われる緊急逸脱抑制制御の作用を、図6図8を用いて以下に説明する。
【0152】
図6は、本実施形態の運転支援装置において行われる車線逸脱抑制制御及び緊急逸脱抑制制御の詳細を示すフローチャートである。図7は、図6の第1緊急逸脱抑制制御(ステップS13の処理)のサブルーチンのフローチャートである。図8は、図6の第2緊急逸脱抑制制御(ステップS16の処理)のサブルーチンのフローチャートである。
【0153】
まず、図6のステップS11において、走行制御ユニット22は、車線逸脱抑制制御の設定がオン状態であるか否かの確認を行う。ここで、車線逸脱抑制制御の設定のオン状態が確認された場合には、次のステップS12の処理に進む。また、車線逸脱抑制制御の設定のオフ状態が確認された場合には、ステップS15の処理に進む。
【0154】
ステップS12において、走行制御ユニット22は、緊急逸脱抑制制御の設定がオン状態であるか否かの確認を行う。ここで、緊急逸脱抑制制御の設定のオン状態が確認された場合には、次のステップS13の処理に進む。また、緊急逸脱抑制制御の設定のオフ状態が確認された場合には、ステップS14の処理に進む。
【0155】
ステップS13においては、走行制御ユニット22は、車線逸脱抑制制御及び緊急逸脱抑制制御が共にオン状態であることが確認されているので、第1緊急逸脱抑制制御を実行する。当該制御処理を終了したら、その後、元のメインシーケンス(不図示)に戻る(リターン)。
【0156】
ステップS14においては、走行制御ユニット22は、車線逸脱抑制制御のオン状態かつ緊急逸脱抑制制御のオフ状態が確認されているので、通常の車線逸脱抑制制御(図2参照)を実行する。当該制御処理を終了したら、その後、元のメインシーケンス(不図示)に戻る(リターン)。
【0157】
ステップS15において、走行制御ユニット22は、緊急逸脱抑制制御の設定がオン状態であるか否かの確認を行う。ここで、緊急逸脱抑制制御の設定のオン状態が確認された場合には、次のステップS16の処理に進む。また、緊急逸脱抑制制御の設定のオフ状態が確認された場合は、車線逸脱抑制制御及び緊急逸脱抑制制御が共にオフ状態である。したがって、この場合は、元のメインシーケンス(不図示)に戻る(リターン)。
【0158】
ステップS16においては、走行制御ユニット22は、車線逸脱抑制制御のオフ状態かつ緊急逸脱抑制制御のオン状態が確認されているので、第2緊急逸脱抑制制御を実行する。当該制御処理を終了したら、その後、元のメインシーケンス(不図示)に戻る(リターン)。
【0159】
次に、上述の図6のステップS13の処理、即ち、第1緊急逸脱抑制制御について、図7のサブルーチンを用いて、以下に説明する。
【0160】
まず、図7のステップS21において、走行制御ユニット22(車線逸脱判定部22g)は、自車両100が走行中の走行車線を逸脱しそうであるか否かの判定を行う。ここで、車線を逸脱しそうであると判定されると、次のステップS22の処理に進む。なお、車線を逸脱しそうであるとの判定が出されるまでは、当該判定処理を繰り返す。
【0161】
ステップS22において、走行制御ユニット22(周辺状況判定部22a)は、自車両100の周辺を走行する対向車又は後続車等の他車両の存在を確認する。ここで、対向車や後続車等の他車両が検知された場合は、次のステップS23の処理に進む。また、対向車や後続車等の他車両が検知されない場合は、ステップS24の処理に進む。
【0162】
そして、ステップS24において、走行制御ユニット22は、通常の車線逸脱抑制制御を実行する(図2参照)。当該制御処理を終了したら、その後、元のメインシーケンス(不図示)に戻る(リターン)。
【0163】
ステップS23において、走行制御ユニット22は、緊急逸脱抑制制御を開始する。
【0164】
続いて、ステップS25において、走行制御ユニット22は、所定の警報表示200を表示させると同時に、緊急逸脱抑制制御に応じた所定の操舵制御を実行する。この処理ステップでは、自車両100を図3のA位置からB位置へと移動させて、自車両100が自車両前後方向に沿う線と区画線L2とが平行となるようにし、さらに、その状態を維持して所定時間走行させる制御処理を行う。
【0165】
次に、ステップS26において、走行制御ユニット22は、自車両100の周辺を走行する対向車又は後続車等の他車両の存在を再度確認する。ここで、対向車や後続車等の他車両が検知された場合は、上述のステップS25の処理に戻る。また、対向車や後続車等の他車両が検知されない場合は、次のステップS27の処理に進む。
【0166】
ステップS27において、走行制御ユニット22は、緊急逸脱抑制制御を終了する。
【0167】
続いて、ステップS28において、走行制御ユニット22は、緊急逸脱抑制制御から車線逸脱抑制制御への制御切り換えを行うと同時に、警報表示200から状態表示201への表示切り換えを行う。
【0168】
続いて、ステップS29において、走行制御ユニット22は、上述の緊急逸脱抑制制御終了時点からの車線逸脱抑制制御に応じた操舵制御を実行する。ここで行われる操舵制御は、上述のステップS25の処理で開始された緊急逸脱抑制制御に応じた所定の操舵制御を引き継ぐ制御であり、同様の操舵制御を継続的に行う。
【0169】
そして、ステップS30において、走行制御ユニット22は、自車両100が走行車線の車線中央位置を維持して走行している状態になったか否かの確認を行う。ここで、自車両100が走行車線の車線中央位置を維持して走行している状態が確認されない場合は、ステップS29の処理に戻る。また、ここで、自車両100が走行車線の車線中央位置を維持して走行している状態を確認したら、一連の制御を終了し、元のメインシーケンス(不図示)に戻る(リターン)。
【0170】
次に、上述の図6のステップS16の処理、即ち、第2緊急逸脱抑制制御について、図8のサブルーチンを用いて、以下に説明する。
【0171】
まず、図8のステップS31において、走行制御ユニット22(車線逸脱判定部22g)は、自車両100が走行中の走行車線を逸脱しそうであるか否かの判定を行う。この処理ステップは、図7のステップS21と同様である。ここで、車線を逸脱しそうであると判定されると、次のステップS32の処理に進む。なお、車線を逸脱しそうであるとの判定が出されるまでは、当該判定処理を繰り返す。
【0172】
ステップS32において、走行制御ユニット22(周辺状況判定部22a)は、自車両100の周辺を走行する対向車又は後続車等の他車両の存在を確認する。この処理ステップは、図7のステップS22と同様である。ここで、対向車や後続車等の他車両が検知された場合は、次のステップS33の処理に進む。また、対向車や後続車等の他車両が検知されない場合は、元のメインシーケンス(不図示)に戻る(リターン)。
【0173】
ステップS33において、走行制御ユニット22は、緊急逸脱抑制制御を開始する。
【0174】
続いて、ステップS34において、走行制御ユニット22は、所定の警報表示200を表示させると同時に、緊急逸脱抑制制御に応じた操舵制御を実行する。この処理ステップでは、自車両100を図5のA位置からD位置へと移動させて、自車両100が自車両前後方向に沿う線と区画線L2とが平行となるようにし、さらに、その状態を維持して所定時間走行させる制御処理を行う。
【0175】
ステップS35において、走行制御ユニット22は、自車両100の周辺を走行する対向車又は後続車等の他車両の存在を再度確認する。ここで、対向車や後続車等の他車両が検知された場合は、ステップS38の処理に進む。また、対向車や後続車等の他車両が検知されない場合は、次のステップS36の処理に進む。
【0176】
ステップS36において、走行制御ユニット22は、自車両100が走行車線の車線端に沿う走行状態に移行したか否かの確認を行う。ここで、車線端走行状態が確認された場合は、次のステップS37の処理に進む。また、車線端走行が確認されない場合は、上述のステップS34の処理に戻る。
【0177】
続いて、ステップS37において、走行制御ユニット22は、緊急逸脱抑制制御を終了する。ここで、緊急逸脱抑制制御に基づく警報表示200も終了する。その後、元の処理シーケンスに戻る(リターン)。
【0178】
一方、ステップS35の処理において、自車両100の周辺を走行する対向車又は後続車等の他車両の存在が再度確認されてステップS38の処理に進むと、このステップS38において、走行制御ユニット22は、自車両100が走行車線の車線端に沿う走行状態に移行したか否かの確認を行う。ここで、車線端走行状態が確認された場合は、次のステップS39の処理に進む。また、車線端走行が確認されない場合は、上述のステップS34の処理に戻る。
【0179】
続いて、ステップS39において、走行制御ユニット22は、自車両100を走行車線の車線中央位置を維持して走行を継続させるための走行制御を行う。
【0180】
そして、ステップS40において、走行制御ユニット22は、自車両100が走行車線の車線中央位置を維持して走行している状態になったか否かの確認を行う。ここで、自車両100が走行車線の車線中央位置を維持して走行している状態が確認されない場合は、ステップS39の処理に戻る。また、ここで、自車両100が走行車線の車線中央位置を維持して走行している状態を確認したら、一連の制御を終了し、元のメインシーケンス(不図示)に戻る(リターン)。
【0181】
以上説明したように上記一実施形態の運転支援装置1によれば、走行制御ユニット22は、周辺状況判定部22aと保舵状態判定部22bとによる判定結果が、自車両100の正常な走行を維持し得ない状態にあるとの判定の場合(例えば自車両100が走行中の車線を逸脱しそうになった場合)に、所定の設定がなされていれば(機能オン状態になっていれば)、緊急対応時の走行制御である車線逸脱抑制制御を実行する。この場合においては、さらに、自車両100の隣接車線に対向車や後続車等の他車両が存在する場合には、緊急逸脱抑制制御を実行する。
【0182】
そして、操舵支援制御部22dは、車線逸脱抑制制御と緊急逸脱抑制制御とを共に作動状態に選択しているときには、自車両100を設定走行車線の区画線を踏み越えない状態で当該区画線に沿わせる走行状態とさせた時点で、緊急逸脱抑制制御から車線逸脱抑制制御へと切り換えて、設定走行車線の区画線を踏み越えない位置から目標走行位置へと自車両の走行位置を復帰させる走行制御を行う第1緊急逸脱抑制制御を実行する。
【0183】
また、操舵支援制御部22dは、車線逸脱抑制制御を非作動状態に、緊急逸脱抑制制御を作動状態にそれぞれ選択しているときには、自車両100を設定走行車線の区画線を踏み越えない状態で当該区画線に沿わせる走行状態とさせた後、設定走行車線内の車線端に沿わせる走行状態とさせた時点で、緊急逸脱抑制制御から車線逸脱抑制制御へと切り換えて、設定走行車線内の車線端に沿う位置から目標走行位置へと自車両の走行位置を復帰させる走行制御を行う第2緊急逸脱抑制制御を実行する。
【0184】
なお、操舵支援制御部22dによって、緊急逸脱抑制制御(緊急逸脱抑制制御)から車線逸脱抑制制御(LPD制御)へと切り換えるタイミングは、自車両100の進行方向のベクトルと走行車線の区画線とが略平行になるタイミングとしている。
【0185】
このような構成とすることにより、本実施形態の運転支援装置1においては、自車両の隣接車線に対向車や後続車等の他車両を認識した場合の緊急逸脱抑制制御について、車線逸脱抑制制御と緊急逸脱抑制制御が共にオン状態としたときの第1緊急逸脱抑制制御と、LDK制御がオフ状態でかつ緊急逸脱抑制制御をオン状態としたときの第2緊急逸脱抑制制御とを設け、それぞれの制御では通常の車線逸脱抑制制御と略同様の制御としながら、通常の緊急逸脱抑制制御時に継続して行われる警報表示については、所定のタイミングで解除されるように構成している。
【0186】
したがって、車線逸脱抑制制御と緊急逸脱抑制制御とを組み合わせて操舵支援制御を行う場合において、各制御のオンオフの設定に応じて実行する制御処理の切り換えタイミングを適宜変更することによって、運転者に煩わしさや違和感を与えること無く、より自然でスムースな操舵支援制御を常に実行することができる。
【0187】
ところで、本実施形態の運転支援装置1は、車両の走行中に運転者がステアリングを握っている状態(以下、保舵状態という)を検知して、運転者の保舵状態を判定する保舵状態判定機能を備えている。この保舵状態判定機能は、保舵状態認識部(ハンドルタッチセンサ34,操舵トルクセンサ35)と、走行制御ユニット22の保舵状態判定部22b等によって実現している。
【0188】
保舵状態認識部(ハンドルタッチセンサ34,操舵トルクセンサ35)は、車両が走行しているときに、運転者によるステアリングの把持状態(保舵状態)を常に監視しており、保舵状態判定部22bは、保舵状態認識部(34,35)からの出力信号に基づいて保舵状態を判定している。
【0189】
そして、例えば、保舵状態が検知されない状況が所定の時間(例えば15秒)(若しくは所定の距離だけ走行する間)継続した場合には、所定の警報表示(視覚的警報表示や聴覚的警報表示等)を発生させ、その後、さらに、ステアリングから手を離した状態が所定の時間(例えば50秒)(若しくは所定の距離だけ走行する間)継続した場合には、実行中の操舵支援制御を解除する制御が行われる。
【0190】
そして、このとき運転支援装置1は、例えば、運転者による運転操作を困難な状況とさせる何らかの異常(具体的には、例えば自車両の故障、或いは運転者の急病若しくは居眠り等に起因する意識低下等)が発生しているものと判断して、いわゆる運転者異常時対応制御を実行する。
【0191】
ここで、運転者異常時対応制御の基本的な作用を、図9を用いて以下に簡単に説明する。図9は、本実施形態の運転支援装置において行われる運転者異常時対応制御の作用を概略的に説明する図である。なお、本実施形態の運転支援装置1において行われる運転者異常時対応制御自体の基本的な作用は従来周知のものと略同様である。本実施形態の運転支援装置1において行われる運転者異常時対応制御においては、従来の制御に対して保舵状態を判定する際の制御に工夫がある(詳細後述)。
【0192】
図9に示す例は、片側二車線を有し中央分離帯を備えた高速道路等の幹線道路Rにおいて、自車両100が片側二車線のうちの右側の車線RL2(追い越し車線)内の領域を走行車線として走行している場合を想定している。
【0193】
ここで、道路Rは、自車両100の運転者から見て左側の車線RL1と右側の車線RL1と、左側の路側帯Nを有する。左側車線RL1は、左路肩側の区画線L1と中央区画線L2とに挟まれる領域である。右側車線RL2は、中央区画線L2と右路肩側の区画線L3とに挟まれる領域である。また、左側路側帯Nは、左路肩側の区画線L1とガードレール若しくは側壁等W(以下、単に側壁等Wという)とに挟まれる領域である。なお、右路肩側の区画線L3の外側(自車両100の運転者から見て右側)には、例えばガードレール等(不図示)を隔てて中央分離帯C1が設けられているものとする。
【0194】
この場合において、自車両100は、上述したように、右側車線RL2を自車線として走行している。そして、自車両100に搭載されている運転支援装置1は、各種の操舵支援制御(車線維持支援制御、車線逸脱抑制制御、緊急逸脱抑制制御等)を実行しつつ走行しているものとする。
【0195】
この状況において、自車両100の運転支援装置1は、保舵状態判定機能により保舵状態が検知されない状況が所定の時間だけ継続しており、かつ所定の警報表示(視覚的警報表示や聴覚的警報表示等)を発生させても、なお保舵状態が検知されないまま、所定の時間が経過したものとする。このような場合、運転支援装置1は、運転者に異常等が生じているものと判断する(異常検知)。
【0196】
この場合、まず、運転支援装置1は、運転者異常時対応制御を開始するのに先立つ所定の報知を、運転者に対して発生させる。
【0197】
ここで、運転者への報知は、視覚的警報表示や聴覚的警報表示等によるものがある。例えば、視覚的警報表示としては、運転席から視認できる計器パネル内の所定の作動スイッチのランプを点灯させる等のほか、保舵するように促す報知表示、運転者異常時対応制御を開始する旨の報知表示を、表示パネル等を用いて表示する等がある。また、聴覚的警報表示としては、例えば、保舵するように促す報知や、運転者異常時対応制御を開始する旨の報知等を、音声アナウンス等によって報知する。
【0198】
当該報知が発せられた後、当該報知に対して運転者の何らかの反応(例えば、保舵操作を行う、運転者異常時対応制御の開始を解除する操作等)がなければ、運転支援装置1は、実行中の操舵支援制御を解除すると同時に、運転者異常時対応制御の実行を開始する。
【0199】
なお、上述の説明では、「運転者への報知」としているが、当該報知の報知対象は運転者のみに限らず、例えば、当該自車両100の同乗者を対象に含めてもよいし、当該自車両100の「車外の他車両等の運転者等に対する報知」を含めてもよい。
【0200】
「同乗者への報知」は、上述した「運転者への報知」と同様に、視覚的警報表示や聴覚的警報表示等によるものがある。
【0201】
また、「車外の他車両等の運転者等に対する報知」は、例えば、ハザードランプの点滅を行ったり、車線変更時にウインカーを点滅させる等がある。また、制動制御を行っているときにはブレーキランプを点灯をさせる等、運転者の操作によらずに、自車両100の挙動を外部に報知する各種の挙動を実現させる。
【0202】
このように、運転支援装置1における運転者異常時対応制御は、運転者の異常等を検知することにより発動される機能である。この場合において、運転者の異常等の判断は、未保舵状態の所定の時間以上の継続しているか、若しくは所定の距離以上の走行しているか等によって判断している。
【0203】
図9において、自車両100が符号Aで示す位置にあるときに、運転者の異常等が検知されたものとする。ここで、運転者異常時対応制御が実行されると、まず、運転支援装置1は、自車両100を、図9の符号Aで示す位置から、最終的に左路肩の領域内等へと退避させ、所定の位置、例えば図9の符号Fで示す位置にて停車させる制御を行う。詳述すると、
(1)自車両100が図9の符号A位置にあるとき、運転者の異常等が検知される。
(2)自車両100を、その状態のまま、自車線内を走行させる、詳しくは、
(a)ハザードランプを点滅させて外部への報知を行う。
(b)所定の速度(例えば50km/h)を上限として、速度調整(エンジン制御及び制動制御による減速制御)を行うと共に、適宜道路形状に応じて必要となる操舵制御を行って、同一車線内の走行を維持させる。このときの減速制御は、加速度を抑制しない減速制御、即ちアクセルによる入力を許容した状態での制動制御とする。その後、
(3)自車両を路肩側へ寄せるために必要とする車線変更をさせる。例えば、図9に示すように、片側二車線の中央寄り車線を走行している場合は、左側車線RL1へと所定の操舵制御によって車線変更させる。これにより、自車両100を図9の符号B位置からC位置を経てD位置へと移動させる。なお、この車線変更時には、ハザードランプの点滅を解除して、左側ウインカーを点滅させる。
(4)自車両100が図9の符号D位置へと移動して、左側車線RL1の領域内の走行が確保されると、左側ウインカーの点滅を解除して、再度ハザードランプを点滅させて左側車線RL1の領域内の走行を維持する。
(5)自車両を路肩側へ寄せるために必要とする制動制御を行って、所定の速度(例えば10km/h)へと減速させる。このときの減速制御は、加速度を抑制する減速制御、即ちアクセルによる入力を許容しない状態での制動制御とする。
(6)自車両を路肩側へ寄せるための操舵制御を行う。この操舵制御は、車線変更と同様の制御である。即ち、ハザードランプの点滅を解除し、左側ウインカーを点滅させて左側車線RL1から路側帯Nの領域内へ向けて所定の操舵制御を行う。これにより、自車両100を図9の符号D位置からE位置を経て路側帯Nの領域内へと移動させる。
(7)自車両100が路側帯Nの領域内での走行が確保されると、左側ウインカーの点滅を解除して、再度ハザードランプを点滅させる。そして、自車両100を路側帯Nの領域内で走行させながら制動制御を行って、さらに減速させて、自車両100と側壁等Wとの間に所定の間隔が確保される位置(図9の符号F位置)にて停車させる。このときの減速制御も、加速度を抑制する減速制御とする。
(8)自車両100が符号F位置で停車後は、所定の手順によって、当該運転者異常時対応制御が解除されるまでの間は、ハザードランプを点滅させる等のほか、ホーンを吹鳴させる等の外部への報知を継続して行う。
【0204】
次に、本実施形態の運転支援装置において行われる運転者異常時対応制御の作用を、図10図11を用いて以下に説明する。
図10は、本実施形態の運転支援装置において、運転者異常時対応制御の開始タイミングを説明するフローチャートである。図11は、図10の運転者異常時対応制御(ステップS47の処理)を示すフローチャートである。
【0205】
自車両100に搭載された本実施形態の運転支援装置1において、走行制御ユニット22が起動されて、設定された操舵支援制御を含む通常の走行制御が開始されると、まず、図10のステップS40において、当該走行制御ユニット22は、不図示の内部カウンタのうち「非保舵時間カウンタ」によるカウントを開始する。
【0206】
ここで、非保舵時間とは、運転者がステアリングから手を離している状態が継続している時間(保舵状態にない時間)をいう。非保舵時間カウンタ(不図示)は、保舵状態認識部(34,35)からの出力信号に基づいて保舵状態判定部22bによる保舵判定結果が非保舵状態であると判定されている間の継続時間をカウントアップする。
【0207】
換言すると、非保舵時間カウンタは、保舵状態認識部(34,35)の出力信号の発生していない状態が継続している時間を計時する。本実施形態の運転支援装置1は、走行制御ユニット22が起動されて、自車両100が走行している間は継続して非保舵時間のカウントを行っている。
【0208】
ここで、非保舵状態とは、自車両100の運転者によるステアリング装置への干渉(例えば、ハンドルに触れる、把持する等も含まれる)が、所定の時間が経過する間(若しくは自車両が所定の距離を走行する間)行われずに、保舵状態認識部(ハンドルタッチセンサ34又は操舵トルクセンサ35)による検知がなされない状態をいうものとする。そして、後述するように、このような非保舵状態が所定の時間継続しているとき、保舵状態判定部22bは、非保舵状態であると判定し、自車両100の運転者が正常な走行を維持し得ない状態にあるとの判定結果を出力する。
【0209】
このような状態で、自車両100が走行しているとき、図10のステップS41において、走行制御ユニット22は、保舵状態認識部のうちのハンドルタッチセンサ34からの出力信号(オン信号)を検知したか否かの確認を行う。ここで、ハンドルタッチセンサ34からのオン信号が確認された場合は、保舵状態にあるものと判断されて、ステップS50の処理に進む。また、ハンドルタッチセンサ34からのオン信号が確認されない場合には、非保舵状態にあるものと判断されて、次のステップS42の処理に進む。
【0210】
ステップS42において、走行制御ユニット22は、保舵状態認識部のうちの操舵トルクセンサ35によって検知される操舵トルク値が所定の閾値以上であるか否かの確認を行う。ここで、操舵トルクセンサ35の操舵トルク値が所定の閾値以上であることが確認された場合は、保舵状態にあるものと判断されて、ステップS50の処理に進む。また、操舵トルクセンサ35操舵トルク値が所定の閾値未満であることが確認された場合は、非保舵状態にあるものと判断されて、次のステップS43の処理に進む。
【0211】
上述のステップS41,S42の各処理にて保舵状態にあるものと確認されて、ステップS50の処理に進むと、このステップS50において、走行制御ユニット22は、非保舵時間カウンタの非保舵時間をリセットして、上述のステップS41の処理に戻る。
【0212】
次に、ステップS43において、走行制御ユニット22は、非保舵時間カウンタの非保舵時間をカウントアップする。
【0213】
続いて、ステップS44において、走行制御ユニット22は、非保舵時間カウンタにカウントされている非保舵時間が所定の閾値(例えば15秒)を超えたか否かの確認を行う。ここで、非保舵時間が所定の閾値を超えていることが確認されると、次のステップS45の処理に進む。また、非保舵時間が所定の閾値を超えていない場合には、ステップS41の処理に戻る。
【0214】
ステップS45において、走行制御ユニット22は、報知装置38を駆動させて所定の警報表示を行う。ここで行われる警報表示は、例えば、運転者に非保舵状態が継続していることを告知する視覚的表示警報若しくは聴覚的表示警報等である。
【0215】
続いて、ステップS46において、走行制御ユニット22は、上述のステップS41の処理と同様に、再度ハンドルタッチセンサ34からの出力信号(オン信号)の確認を行う。ここで、ハンドルタッチセンサ34のオン信号の確認された場合は、保舵状態が復帰されたものと判断されて、ステップS51の処理に進む。また、ハンドルタッチセンサ34からのオン信号が確認されない場合には、非保舵状態が継続しているものと判断されて、次のステップS47の処理に進む。
【0216】
ステップS47において、走行制御ユニット22は、上述のステップS42の処理と同様に、再度操舵トルクセンサ35による操舵トルク値が所定の閾値以上であるか否かの確認を行う。ここで、操舵トルクセンサ35の操舵トルク値が所定の閾値以上であることが確認された場合は、保舵状態が復帰されたものと判断されて、ステップS51の処理に進む。また、操舵トルクセンサ35操舵トルク値が所定の閾値未満であることが確認された場合は、非保舵状態が継続しているものと判断されて、次のステップS48の処理に進む。
【0217】
上述のステップS46,S47の各処理にて保舵状態が復帰されたものと判断されて、ステップS51の処理に進むと、このステップS51において、走行制御ユニット22は、継続中の警報表示を解除する。
【0218】
続いて、ステップS52において、走行制御ユニット22は、非保舵時間カウンタの非保舵時間をリセットして、上述のステップS41の処理に戻る。
【0219】
次に、ステップS48において、走行制御ユニット22は、非保舵状態が維持されており、警報表示が継続したままの状態で、上述のステップS45の処理で開始した警報表示の開始時から所定の時間(例えば50秒)が経過したか否かの確認を行う。ここで、所定の時間が経過したことが確認された場合には、実行中の操舵支援制御を解除した後、次のステップS49の処理に進む。また、所定の時間が経過していない場合には、ステップS45の処理に戻る。
【0220】
ステップS49において、走行制御ユニット22は、運転者異常時対応制御(詳細は図11参照)を実行する。
【0221】
なお、図10のステップS44~S48の処理については簡略化して記載している。この間の処理については、例えば、次のような処理としてもよい。即ち、
(1)非保舵時間が所定の閾値(例えば15秒)を超えると視覚的警報表示を開始する、
(2)この状態(非保舵状態かつ視覚的警報表示が継続している状態)のまま、運転者による解除操作(例えば保舵操作、アクセルを踏む操作等)等が確認されず、さらに所定の時間(例えば15秒)が経過すると、継続中の視覚的警報表示に加えて、聴覚的警報表示(警報音)を開始する、
(3)この状態(非保舵状態かつ視覚的警報表示及び聴覚的警報表示状態が継続している状態)のまま、運転者による解除操作等が確認されず、さらに所定の時間(例えば30秒)が経過すると、さらに強い緊急信号による警報を所定の時間(例えば5秒)以上発生させる、
(4)この状態でも、運転者による解除操作等が発生しなければ、実行中の操舵支援制御を解除する。
【0222】
なお、上述のような処理シーケンスは、運転者異常時対応制御を開始する際に行われる確認処理の単なる一例である。
【0223】
上述のようにして開始される図10のステップS48の処理、即ち運転支援装置1によって実行される運転者異常時対応制御の詳細シーケンスについて、図11のサブルーチンによって、以下に説明する。
【0224】
まず、図11のステップS61において、走行制御ユニット22は、自車両100が走行中の自車線内での走行を維持する制御を行うと共に、外部への報知を行う。具体的には例えば、まず、ハザードランプを点滅させる。同時に、所定の上限速度(例えば50km/h)となるように速度調整(エンジン制御及び制動制御による減速制御)を行う。このときの減速制御は、加速度を抑制しない減速制御、即ちアクセルによる入力を許容した状態での制動制御である。このようにして、自車両100の同一車線内の走行を維持させる。
【0225】
次に、ステップS62において、走行制御ユニット22は、第1の保舵状態判定処理を行う。この第1の保舵状態判定処理は、ハンドルタッチセンサ34若しくは操舵トルクセンサ35のいずれかの出力を検知することによって行う。ここで、ハンドルタッチセンサ34からの出力信号(オン信号)が検知されるか、若しくは操舵トルクセンサ35による操舵トルク値が所定の閾値以上であることのいずれかが確認されて、第1の保舵状態判定がオンであると判断された場合には、当該運転者異常時対応制御の実行を解除して、元の処理に戻る(リターン)。また、ハンドルタッチセンサ34からの出力信号(オン信号)が検知されず、かつ操舵トルクセンサ35による操舵トルク値が所定の閾値未満であることが確認された場合には、次のステップS63の処理に進む。
【0226】
ステップS63において、走行制御ユニット22は、現在走行中の自車両を路肩側へ寄せるために、車線変更が必要か否かの確認を行う。例えば、現在自車両が片側二車線道路のうちの右側車線(追い越し車線)側を走行中の場合に、自車両を安全に路肩側へ寄せるためには、一旦、片側二車線道路のうちの左側車線への車線変更を行う必要がある。この場合において、車線変更が必要か否かの判断は、自車両の走行している道路の状況(例えば道路の走行車線数等)や、自車両が走行している走行車線の位置(例えば片側複数車線のうちのどの車線であるか等)の走行環境を認識することにより行われる。
【0227】
ここで、車線変更が必要であると判断された場合には、ステップS81の処理に進む。また、車線変更が必要ではないと判断された場合には、次のステップS64の処理に進む。
【0228】
上述のステップS63の処理にて、車線変更が必要であると判断されて、ステップS81の処理に進むと、このステップS81において、走行制御ユニット22は、所定の車線変更制御を実行する。この車線変更制御は、例えば、実行中のハザードランプの点滅を解除して、左側ウインカーを点滅させ、左側車線への操舵制御等を行なう通常の自動運転制御に含まれる車線変更制御である。この車線変更制御は、従来周知の制御を行うものとして、その詳細説明は省略する。
【0229】
続いて、ステップS82において、走行制御ユニット22は、車線変更が完了して、変更された車線領域内を走行しているか否かの確認を行う。ここで、車線変更が完了したことが確認された場合には、次のステップS83の処理に進む。また、車線変更が完了していない場合は、ステップS81の処理に戻る。
【0230】
そして、車線変更の完了が確認されると、ステップS83において、走行制御ユニット22は、左側ウインカーの点滅を解除して、再度ハザードランプを点滅させて、移動先の車線内を維持する走行制御を続行させる。その後、ステップS62の処理に戻る。
【0231】
一方、上述のステップS63の処理にて、車線変更の必要がないと判断されて、ステップS64の処理に進むと、このステップS64において、走行制御ユニット22は、自車両を路肩側へ安全に寄せるために必要とする低速度となるように制動制御を行って、所定の速度(例えば10km/h)へと減速させる。このときの減速制御は、加速度を抑制する減速制御、即ちアクセルによる入力を許容しない状態での制動制御である。
【0232】
続いて、ステップS65において、走行制御ユニット22は、生存判定処理を行って生存判定結果がオンであるか否かの確認を行う。ここで行われる生存判定処理とは、運転者が生存していると判定し得る何らかの操作が運転者により(若しくは同乗者によるものであってもよい)何らかの操作がなされたか否かを確認する処理である。ここで、運転者の生存を判定し得る操作としては、例えば、エアコンスイッチ,窓の開閉スイッチ,ミラー駆動スイッチ,ハンドル上の各種スイッチ類等の車両に備わる機器類に関連するスイッチ,ダイヤル等の操作部材の操作や、ブレーキペダル若しくはアクセルペダルに対する小刻みな複数回の踏み込み操作等が考えられる。ただし、本実施形態における生存判定処理においては、ハンドルタッチセンサ34の出力検知のみは考慮されないようにしている。
【0233】
ここで、生存判定処理の結果がオンであることが確認された場合には、上述のステップS61の処理(走行車線を維持する制御で、加速度を抑制しない速度制御)に戻る。また、生存判定処理の結果がオンではないことが確認された場合(つまり、何らの操作も確認されなかった場合)には、次のステップS66の処理に進む。
【0234】
ステップS66において、走行制御ユニット22は、第2の保舵状態判定処理を行う。この第2の保舵状態判定処理は、ハンドルタッチセンサ34の出力検知は考慮せずに、操舵トルクセンサ35の出力の検知(操舵トルク値が閾値以上であるか否かの判定)のみによって行う。ここで、操舵トルクセンサ35による操舵トルク値が所定の閾値以上であることが確認されて、第2の保舵状態判定がオンであると判断された場合には、当該運転者異常時対応制御の実行を解除して、元の処理に戻る(リターン)。また、操舵トルクセンサ35による操舵トルク値が所定の閾値未満であることが確認された場合には、次のステップS67の処理に進む。
【0235】
ステップS67において、走行制御ユニット22は、上述のステップS64の処理にて実行された減速制御によって、所定の速度(例えば10km/h)まで減速されたか否かの確認を行う。ここで、所定の速度まで減速されていることが確認された場合には、次のステップS68の処理に進む。また、所定の速度まで減速されていない場合には、上述のステップS64の処理に戻る。
【0236】
ステップS68において、走行制御ユニット22は、自車両を路肩側へ寄せて路側帯領域内に退避させる走行制御を行う。この場合の走行制御は、上述の車線変更制御と略同様である。例えば、実行中のハザードランプの点滅を解除して、左側ウインカーを点滅させ、路側帯領域への操舵制御等を行なう。
【0237】
続いて、ステップS69において、走行制御ユニット22は、自車両が路側帯領域内に退避されたか否かの確認を行う。ここで、自車両が路側帯領域内に退避されていることが確認された場合には、次のステップS70の処理に進む。また、自車両が路側帯領域内に退避されていることが確認されない場合は、ステップS68の処理に戻る。
【0238】
ステップS70において、走行制御ユニット22は、左側ウインカーの点滅を解除して、再度ハザードランプを点滅させる。
【0239】
続いて、ステップS71において、走行制御ユニット22は、自車両の路側帯領域での走行を維持しながら、車両を停止させるための制動制御を行う。この制動制御も加速度を抑制する減速制御である。
【0240】
次に、ステップS72において、走行制御ユニット22は、車両が停車したか否かを確認する。ここで、車両の停止状態が確認されると、次のステップS73の処理に進む。また、車両の停止状態が確認されない場合は、ステップS71の処理に戻る。
【0241】
そして、ステップS73において、走行制御ユニット22は、当該運転者異常時対応制御を解除するための操作がなされたか否かの確認を行う。ここで、制御解除操作の確認を繰り返し、当該制御解除操作が確認された場合には、一連の処理を終了して、元の処理に戻る(リターン)。
【0242】
上述のステップS73の処理にて行われる制御解除操作は、例えば運転者或いは同乗者が行う所定の操作を想定している。ここで、運転者が制御解除操作を行う場合とは、例えば、当該運転者異常時対応制御が、運転者の意識低下に起因する場合であっても、車両の停車後に運転者の意識が回復するような場合が考えられる。また、
なお、上述したように、本実施形態の運転支援装置1においては、自車両100を路側帯Nの領域内で安全に停車させたとしても、運転支援装置1は、停車後、直ちに運転者異常時対応制御を解除する処理は行わずに、ステップS73において、所定の解除操作の入力を待って、当該解除操作が行われたときに、運転者異常時対応制御の解除が行われる。この場合において、解除操作を行う主体者は、運転者若しくは同乗者も想定され得る。しかしながら、車両の停車後であっても、運転者は未だ操作困難な状態にある可能性がある。また、同乗者は、車両の運転についての操作に慣れていない場合もあり得る。その場合、上述のようにして自車両が道路上の安全な領域止状態を確保した後であっても、運転者異常時対応制御が継続している。
【0243】
例えば、外部からの救助者等が停車した自車両100のドアを開放するといった場合が想定される。この場合、自車両100が停車状態にあっても、車内の運転者は依然運転困難な状態であることが想定できる。そのような運転者が、例えば意識不明状態のまま無意識的にステアリングに触れたり、アクセルペダルを踏み込む等の運転操作に準じる挙動が行われてしまう可能性がある。このようなことがあると、意図しない車両の挙動が発生してしまうことになる。したがって、このような不意の挙動を抑制するために、運転者異常時対応制御を解除するためには、例えば、救助者などが明示的に行う解除操作を行うような構成としたり、停車後に自車両の走行制御に関する機能を停止するといった機能を付加するようにしてもよい。
【0244】
また、上述の一実施形態においては、保舵状態を判定するのに際し、未保舵状態が所定の時間継続しているか否かを判断基準としているが、この例に限ることはなく、例えば、未保舵状態で所定の距離だけ走行したか否かを認識して、その走行距離を判断基準とするような構成としてもよい。
【0245】
以上説明したように、上記一実施形態によれば、走行制御ユニット22は、周辺状況判定部22a若しくは保舵状態判定部22bによる判定結果が、自車両100の運転者が正常な走行を維持し得ない状態にあるとの判定の場合に、緊急対応時の走行制御、即ち運転者異常時対応制御を実行する。
【0246】
この運転者異常時対応制御が実行された場合において、保舵状態判定部22bによる判定結果が、自車両100の運転者が正常な走行を維持し得ない状態にあるとの判定の場合には、自車両100が実行中の走行支援制御を停止させ、当該走行支援制御を停止させた後、保舵状態認識部のうちハンドルタッチセンサ34又は操舵トルクセンサ35のいずれかの出力を検知する第1の保舵状態判定処理を行って、ハンドルタッチセンサ34又は操舵トルクセンサ35のいずれかの出力が検知された場合に走行支援制御を復帰させる一方、ハンドルタッチセンサ34又は操舵トルクセンサ35のいずれの出力も検知されない場合には、保舵状態認識部のうち操舵トルクセンサの出力値のみを検知する第2の保舵状態判定処理を行って、前記操舵トルクセンサの出力値を検知し、かつ当該操舵トルクセンサの出力値が所定の閾値を超えている場合にのみ前記走行支援制御を復帰させるようにしている。
【0247】
このような構成の本実施形態の運転支援装置1においては、運転者異常時対応制御の実行中は、まず、第1の保舵状態判定処理により保舵状態の判定を行い、その判定結果が所定の時間若しくは所定の距離だけ走行する間に非保舵状態が継続していれば、次に、保舵状態認識部のうちハンドルタッチセンサ34の出力の検知を考慮しない第2の保舵状態判定処理による保舵状態の判定を行う。
【0248】
したがって、これにより、本実施形態の運転支援装置1は、運転者に対する異常判定についての誤検知を抑制することができ、より確実で高精度な運転者異常時対応制御を行うことができる。したがって、本実施形態の運転支援装置1は、車両走行の安全性の向上に寄与することができる。
【0249】
なお、本実施形態において運転者異常時対応制御の一例として、自車両を最終的に路側帯領域へと導いて停車させる場合を示しているが、この例示に限らず、例えば、車線変更などの操舵制御を行わず、ハザードランプ点滅等の外部への報知をしながら、徐々に減速させ、走行中の車線と同一の車線内で停車させた後、ハザードランプ点滅に加えて、例えばホーン吹鳴等の外部報知を行うような例も考えられる。
【0250】
本発明は上述した実施形態に限定されるものではなく、発明の主旨を逸脱しない範囲内において種々の変形や応用を実施することができることは勿論である。さらに、上記実施形態には、種々の段階の発明が含まれており、開示される複数の構成要件における適宜な組み合わせによって、種々の発明が抽出され得る。例えば、上記各実施形態に示される全構成要件から幾つかの構成要件が削除されても、発明が解決しようとする課題が解決でき、発明の効果が得られる場合には、この構成要件が削除された構成が発明として抽出され得る。さらに、異なる実施形態にわたる構成要素を適宜組み合わせてもよい。この発明は、添付のクレームによって限定される以外にはそれの特定の実施態様によって制約されない。
【符号の説明】
【0251】
1…運転支援装置
10…車内通信回線
11…ロケータユニット
12…地図ロケータ演算部
12a…自車位置推定部
12b…地図情報取得部
13…加速度センサ
14…車輪速センサ
15…ジャイロセンサ
16…GNSS受信機
17…道路情報受信機
18…高精度道路地図データベース
19…ルート情報入力部
20…周辺監視ユニット(周辺状況認識装置)
20a…周辺状況認識センサ
20b…周辺環境認識部
21…カメラユニット(周辺状況認識装置)
21a…メインカメラ
21b…サブカメラ
21c…画像処理ユニット(IPU)
21d…走行環境認識部
22…走行制御ユニット(走行制御装置)
22a…周辺状況判定部
22b…保舵状態判定部
22c…走行車線設定部
22d…操舵支援制御部
22e…目標走行位置設定部
22f…回避判定部
22g…車線逸脱判定部
23…エンジン制御ユニット
24…パワーステアリング制御ユニット
25…ブレーキ制御ユニット
27…スロットルアクチュエータ
28…電動パワステモータ
29…ブレーキアクチュエータ
33…モード切換スイッチ
34…ハンドルタッチセンサ(保舵状態認識部)
35…操舵トルクセンサ(保舵状態認識部)
36…ブレーキセンサ
37…アクセルセンサ
38…報知装置
100…自車両
110…対向車
111…後続車
200…緊急逸脱抑制制御警報表示
201…車線逸脱抑制制御状態表示
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11