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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025035257
(43)【公開日】2025-03-13
(54)【発明の名称】流体作動機械
(51)【国際特許分類】
   F03C 1/247 20060101AFI20250306BHJP
   F04B 1/0408 20200101ALI20250306BHJP
【FI】
F03C1/247
F04B1/0408
【審査請求】有
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023142180
(22)【出願日】2023-09-01
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2025-01-17
(71)【出願人】
【識別番号】000000170
【氏名又は名称】いすゞ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110004222
【氏名又は名称】弁理士法人創光国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】竹本 翔一
(72)【発明者】
【氏名】寺島 幸士
(72)【発明者】
【氏名】山本 康
(72)【発明者】
【氏名】北本 雄祐
【テーマコード(参考)】
3H070
3H084
【Fターム(参考)】
3H070BB02
3H070CC07
3H070CC27
3H070DD26
3H070DD28
3H084AA03
3H084AA15
3H084BB06
3H084BB09
3H084CC17
3H084CC33
3H084CC60
(57)【要約】
【課題】回転軸の回転の際にピストンが傾くことを抑制する。
【解決手段】流体作動機械は、流体を収容する収容部11aを有するシリンダ11と、流体の圧力によりシリンダ11内で往復運動を行うピストン21と、ピストン21の往復運動と連動して回転運動を行うクランクシャフト26を備える。ピストン21は、収容部11aと連通している連通路54と、クランクシャフト26の摺動面29に対向する対向部52に設けられ、連通路54を介して収容部11aから流体が供給される対向凹部56を有する。対向凹部56は、対向凹部56内の流体からピストン21に作用する力の重心位置が、ピストン21の中心軸から見てクランクシャフト26の回転方向の上流側に位置するように、対向部52に設けられている。
【選択図】図2


【特許請求の範囲】
【請求項1】
流体を収容する収容部を有するシリンダと、
前記流体の圧力により前記シリンダ内で往復運動を行うピストンと、
前記ピストンの往復運動と連動して回転運動を行う回転軸と、
を備え、前記シリンダ及び前記ピストンが、前記回転軸の周方向に複数配置されている流体作動機械であって、
前記ピストンは、
前記収容部と連通している連通路と、
前記回転軸の摺動面に対向する対向部分に設けられ、前記連通路を介して前記収容部から前記流体が供給される対向凹部を有し、
前記対向凹部は、当該対向凹部内の前記流体から前記ピストンに作用する力の重心位置が、前記ピストンの中心軸から見て前記回転軸の回転方向の上流側に位置するように、前記対向部分に設けられている、流体作動機械。
【請求項2】
前記対向凹部は、
前記中心軸が通る矩形状の第1凹部と、
前記第1凹部よりも小さく、前記回転方向の上流側にて前記第1凹部と繋がっている第2凹部と、を有する、
請求項1に記載の流体作動機械。
【請求項3】
前記第1凹部の前記回転方向に沿った長手方向の幅は、前記第2凹部の前記長手方向の幅より大きい、
請求項2に記載の流体作動機械。
【請求項4】
前記第1凹部及び前記第2凹部の平面形状は、それぞれ矩形であり、
前記第2凹部は、前記第1凹部の短手方向の中央にて前記第1凹部と繋がっている、
請求項2に記載の流体作動機械。
【請求項5】
前記第2凹部の前記短手方向の幅は、前記第1凹部の前記短手方向の幅よりも小さい、
請求項4に記載の流体作動機械。
【請求項6】
前記連通路は、前記中心軸に沿って前記ピストンを貫通するように設けられており、
前記第2凹部は、前記連通路よりも前記回転方向の上流側に位置している、
請求項2に記載の流体作動機械。
【請求項7】
前記第1凹部の前記回転方向に沿った長手方向の幅は、前記連通路の前記長手方向の幅よりも大きい、
請求項6に記載の流体作動機械。
【請求項8】
前記対向凹部は、平面形状が矩形である一つの凹部であり、
前記凹部の中心位置が、前記ピストンの中心軸から見て前記回転軸の回転方向の上流側に位置している、
請求項1に記載の流体作動機械。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、流体と機械の間でエネルギー変換を行う流体作動機械に関する。
【背景技術】
【0002】
下記の特許文献1には、回転軸の周囲に配置されたシリンダ内を往復移動するピストンを貫通する貫通路を介して、摺動面に流体(油)を供給するラジアルポンプモータが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2011-99350号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、回転軸の摺動面によって連れ回わされた油は、通常、ピストンと回転軸の間に入り込む(動圧効果と呼ばれる)。しかし、回転軸が高回転で回転する際には、摺動面によって連れ回わされた油の一部が、ピストンと回転軸の間に入り込まず、ピストンを横から押すケースがある。この場合には、ピストンがシリンダに対して傾いてしまい、ピストンが回転軸に接触してしまうおそれがある。
【0005】
そこで、本発明はこれらの点に鑑みてなされたものであり、回転軸の回転の際にピストンが傾くことを抑制することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一の態様においては、流体を収容する収容部を有するシリンダと、前記流体の圧力により前記シリンダ内で往復運動を行うピストンと、前記ピストンの往復運動と連動して回転運動を行う回転軸と、を備え、前記シリンダ及び前記ピストンが、前記回転軸の周方向に複数配置されている流体作動機械であって、前記ピストンは、前記収容部と連通している連通路と、前記回転軸の摺動面に対向する対向部分に設けられ、前記連通路を介して前記収容部から前記流体が供給される対向凹部を有し、前記対向凹部は、当該対向凹部内の前記流体から前記ピストンに作用する力の重心位置が、前記ピストンの中心軸から見て前記回転軸の回転方向の上流側に位置するように、前記対向部分に設けられている、流体作動機械を提供する。
【0007】
また、前記対向凹部は、前記中心軸が通る矩形状の第1凹部と、前記第1凹部よりも小さく、前記回転方向の上流側にて前記第1凹部と繋がっている第2凹部と、を有することとしてもよい。
【0008】
また、前記第1凹部の前記回転方向に沿った長手方向の幅は、前記第2凹部の前記長手方向の幅より大きいこととしてもよい。
【0009】
また、前記第1凹部及び前記第2凹部の平面形状は、それぞれ矩形であり、前記第2凹部は、前記第1凹部の短手方向の中央にて前記第1凹部と繋がっていることとしてもよい。
【0010】
また、前記第2凹部の前記短手方向の幅は、前記第1凹部の前記短手方向の幅よりも小さいこととしてもよい。
【0011】
また、前記連通路は、前記中心軸に沿って前記ピストンを貫通するように設けられており、前記第2凹部は、前記連通路よりも前記回転方向の上流側に位置していることとしてもよい。
【0012】
また、前記第1凹部の前記回転方向に沿った長手方向の幅は、前記連通路の前記長手方向の幅よりも大きいこととしてもよい。
【0013】
また、前記対向凹部は、平面形状が矩形である一つの凹部であり、前記凹部の中心位置が、前記ピストンの中心軸から見て前記回転軸の回転方向の上流側に位置していることとしてもよい。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、回転軸の回転の際にピストンが傾くことを抑制できるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】一の実施形態に係る流体作動機械1の構成を示す模式図である。
図2】シリンダ11及びピストン21の内部構成を示す模式図である。
図3】ピストン21の対向凹部56を示す模式図である。
図4】比較例に係るピストン121の構成を示す模式図である。
図5】変形例に係るピストン21の内部構成を示す模式図である。
図6】変形例に係る対向凹部66を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
<流体作動機械の構成>
一の実施形態に係る流体作動機械の構成について説明する。以下の説明では、流体作動機械の一例として、油圧ポンプモータを例に挙げて説明するが、流体作動機械は油圧ポンプモータに限定されない。流体作動機械は、流体機械とも呼ばれ、一般に流体と機械の間でエネルギー変換をする装置である。流体としては、水や油などの液体や空気やガスなどの気体が用いられ、流体の密度・粘度などの性質により低速回転用、高速回転用などの用途が異なる。
【0017】
図1は、一の実施形態に係る流体作動機械1の構成を示す模式図である。流体作動機械1は、ここではトラック等の車両に搭載されている。流体作動機械1は、例えば、発生した動力を車両の駆動輪に伝達する。
【0018】
流体作動機械1は、シリンダ11、12、13、14と、第1供給路16と、第2供給路18と、ピストン21、22、23、24と、クランクシャフト26と、バルブユニット31、32、33、34を有する。なお、4つのシリンダ11~14及び4つのピストン21~24が設けられていることとしたが、これに限定されず、シリンダ及びピストンの数は、3つ又は5つ以上であってもよい。
【0019】
シリンダ11~14は、クランクシャフト26の周方向に配置されている。4つのシリンダ11~14は、周方向に沿って等間隔(具体的には、90度間隔)で配置されている。
【0020】
第1供給路16は、高圧の流体を収容する第1チャンバー17とシリンダ11~14を繋ぐ流路である。第1供給路16は、4つのシリンダ11~14に流体を供給できるように、分岐している。第2供給路18は、低圧の流体を収容する第2チャンバー19とシリンダ11~14を繋ぐ流路である。第2供給路18も、4つのシリンダ11~14に流体を供給できるように、分岐している
【0021】
ピストン21~24は、クランクシャフト26の周方向に配置されており、シリンダ11~14の内部で往復運動する。ピストン21~24は、シリンダ11~14に供給された流体の圧力により往復運動を行う。ピストン21~24が往復運動することで、ピストン21~24が接するクランクシャフト26が回転する。
【0022】
クランクシャフト26は、ピストン21~24の往復運動と連動して回転運動を行う回転軸である。クランクシャフト26は、シャフト部27と、カム部28を有する。シャフト部27は、クランクシャフト26の軸部である。シャフト部27の回転中心C1は、4つのピストン21~24の中心軸C2が交わる位置となっている。カム部28は、シャフト部27の外周に偏心するように設けられている。カム部28の外周面には、ピストン21~24が接する。この構成により、ピストン21~24の往復運動が、カム部28を介してシャフト部27の回転運動に変換される。
【0023】
バルブユニット31~34は、第1チャンバー17の高圧の流体と第2チャンバー19の低圧の流体とのシリンダ11~14への流れを調整する。バルブユニット31~34の各々は、対応するシリンダ11~14の各々への流体の流れを調整する。例えば、バルブユニット31は、シリンダ11への流体の流れを調整する。
【0024】
なお、上記では、ピストン21~24がシリンダ11~14に供給された流体の圧力により往復運動することで、クランクシャフト26が回転することとした。しかし、上記に限定されず、例えば、車両の変速機に連結されたクランクシャフト26が回転することで、ピストン21~24が往復運動を行い、シリンダ11~14内の流体を第1チャンバー17又は第2チャンバー19に供給することとしてもよい。
【0025】
<シリンダ及びピストンの詳細構成>
シリンダ11~14の各構成が同様であり、ピストン21~24の各構成も同様である。以下では、シリンダ11及びピストン21を例に挙げて、シリンダ11及びピストン21の詳細構成について説明する。
【0026】
図2は、シリンダ11及びピストン21の内部構成を示す模式図である。
シリンダ11は、流体を収容する収容部11aを有する。収容部11aには、前述したようにバルブユニット31を経由して流体が供給されている。収容部11a内の流体は、ピストン21の上面(具体的には、ピストン21の本体部50の上面51a)に圧力を作用する。なお、収容部11aに収容されている流体は、ここでは油である。
【0027】
ピストン21は、収容部11aの流体の圧力によりシリンダ11内で往復運動を行う。ここでは、ピストン21は、流体から圧力を受けて、図2に示す矢印方向に往復運動を行う。ピストン21は、本体部50と、対向部52と、連通路54と、対向凹部56とを有する。
【0028】
本体部50は、円柱状に形成されている。本体部50の上面51aは、シリンダ11の収容部11aに接している。上面51aは、収容部11aの流体から圧力を受ける。上面51aが圧力を受けることで、ピストン21が図2の下方向に移動する。本体部50の外周面51bとシリンダ11の内壁面11bの間には、隙間が形成されている。
【0029】
対向部52は、クランクシャフト26のカム部28の摺動面29に対向する対向部分である。対向部52は、ピストン21の下部であり、本体部50と一体になっている。対向部52は、円柱状の本体部50とは異なり、ここでは直方体となっている。対向部52の下面である対向面53は、カム部28の摺動面29と平行になるように、曲面となっている
【0030】
連通路54は、ピストン21内に設けられた流路であり、シリンダ11の収容部11aと連通している。連通路54は、中心軸C2に沿ってピストン21を貫通するように設けられている。具体的には、連通路54は、本体部50及び対向部52の中央を貫通するように設けられている。
【0031】
対向凹部56は、対向部52の対向面53の中央側に設けられた凹部である。対向凹部56は、連通路54と連通している。対向凹部56には、連通路54を介して収容部11aから流体が供給される。収容部11a内の流体の圧力が、対向凹部56内の流体の圧力より高いため、収容部11aの流体が対向凹部56に供給される。具体的には、収容部11aに第1チャンバー17(図1)から高圧の流体が供給されている際に、収容部11aの流体が対向凹部56に供給される。対向凹部56に供給された流体である油は、摺動面29に油膜を形成し、ピストン21とカム部28の間の摩擦を低減する。すなわち、対向凹部56に供給された油は、ピストン21とカム部28の間において潤滑油として機能する。
【0032】
対向凹部56の底面56a全体には、対向凹部56と摺動面29の間に存在する油から力(以下、反力と呼ぶ)が均一に作用する。ピストン21は、当該反力を受けて、図2の上方向に移動する。このため、ピストン21は、当該反力と、収容部11aの流体からの圧力とによって、シリンダ11に対して往復運動することになる。
【0033】
ところで、対向凹部56は、ピストン21の中心軸C2に対して対称に配置されていない。具体的には、対向凹部56は、底面56a全体に作用する上記反力の重心位置(重心位置は、底面56aに作用する反力全体の中心位置ともいえる)が、ピストン21の中心軸C2から見てクランクシャフト26の回転方向の上流側に位置するように、対向面53に形成されている。図2において、重心位置に作用する反力を、反力Fとしている。図2では、説明の便宜上、底面56aの重心位置以外に作用する反力は示されていない。
【0034】
以下では、図3を参照しながら、対向凹部56の具体的構成について説明する。
図3は、ピストン21の対向凹部56を示す模式図であり、摺動面29から対向面53を見た図である。対向凹部56は、図3に示すように、第1凹部57と、第2凹部58を有する。
【0035】
第1凹部57は、対向面53から所定の深さだけ凹むように形成されている。第1凹部57は、底面56aにて連通路54と連通している。第1凹部57は、ピストン21の中心軸Cが通る位置に形成されている。このため、第1凹部57の底面の中央部が、連通路54と連通している。
【0036】
第1凹部57の平面形状は、図3に示すように矩形である。第1凹部57は、連通路54よりも大きく形成されている。第1凹部57の回転方向に沿った長手方向の幅L1及び短手方向の幅L3は、連通路54の長手方向の幅(別言すれば、直径)よりも大きい。
【0037】
第2凹部58は、連通路54よりも回転方向の上流側(図3に示す長手方向の一端側)に位置している。第2凹部58は、長手方向の一端側にて第1凹部57と繋がっている。第2凹部58の底面と第1凹部57の底面とが、前述した底面56aを成す。第2凹部58が第1凹部57と繋がっているため、対向凹部56がピストン21の中心軸C2に対して対称な形状となっておらず、対向凹部56に作用する反力の重心位置も、ピストン21の中心軸C2からずれる(図2参照)。
【0038】
第2凹部58の平面形状は、第1凹部57と同様に矩形である。第2凹部58は、図3に示すように、第1凹部57の短手方向の中央にて第1凹部57と繋がっている。具体的には、第2凹部58は、短手方向において連通路54と同じ位置に位置している。これにより、対向凹部56に作用する反力は、短手方向においては中央に位置することになり、ピストン21が移動する際の挙動が安定する。
【0039】
第2凹部58の大きさは、第1凹部57よりも小さい。具体的には、第2凹部58の長手方向(回転方向に沿った方向)の幅L2は、第1凹部57の長手方向の幅L1より小さい。より具体的には、第2凹部58の長手方向の幅L2は、第1凹部57の長手方向の幅L1の半分より小さい。また、第2凹部58の短手方向の幅L4は、第1凹部57の短手方向の幅L3よりも小さい。より具体的には、第2凹部58の短手方向の幅L4は、第1凹部57の短手方向の幅L3の半分よりも小さい。上記の形状の第2凹部58において長手方向の幅L2を調整することで、第1凹部57の形状を変化させなくても、対向凹部56に作用する反力の重心位置を調整しやすくなる。
【0040】
対向凹部56に作用する反力の重心位置が、ピストン21の中心軸から回転方向の上流側にずれていることで、クランクシャフト26が回転する際に、ピストン21がクランクシャフト26の摺動面29に接触することを抑制できる。以下では、図4に示す比較例と対比しながら、詳細に説明する。
【0041】
図4は、比較例に係るピストン121の構成を示す模式図である。比較例のピストン121の対向凹部156は、図4(a)に示すようにピストン121の中心軸に対して対称に設けられている。このため、対向凹部156に作用する反力の重心位置は、ピストン121の中心軸と一致する。比較例のピストン121において対向凹部156以外の構成は、前述したピストン21と同様であるので、詳細な説明は省略する。
通常、クランクシャフト26の摺動面29によって連れ回わされた油は、対向部52と摺動面29の間に入り込む(動圧効果)。しかし、比較例において、クランクシャフト26が高回転で回転する際に、摺動面29によって連れ回わされた油の一部が、ピストン121の対向部52と摺動面29の間に入り込まず、対向部52の側壁を横から押してしまう。この場合には、対向部52の側壁を横から押す力(図4(b)に示す力P)によって、図4(b)に示すように、ピストン121がシリンダ11に対して傾いてしまう。そして、傾いたピストン121がクランクシャフト26の摺動面29に接触することで、ピストン121と摺動面29が摩耗してしまう。
【0042】
これに対して、本実施形態では、対向凹部56内の油からピストン21に作用する反力の重心位置が、ピストン21の中心軸から見てクランクシャフト26の回転方向の上流側に位置するように、対向凹部56が形成されている。この場合には、ピストン21の中心軸C2よりも回転方向の上流側に反力が作用しやすくなるので、ピストン21の回転方向の上流側が反力によって浮きやすくなる(すなわち、ピストン21がシリンダ11に対して少し斜めになる)。これにより、クランクシャフト26が高回転で回転する際でも、摺動面29によって連れ回わされた油が、ピストン21の対向部52と摺動面29の間に入り込みやすくなるため、対向部52が横から押されることを抑制できる。この結果、ピストン21が傾くことが抑制されるため、ピストン21が摺動面29に接触することも抑制できる。
【0043】
(変形例)
図5は、変形例に係るピストン21の内部構成を示す模式図である。図6は、変形例に係る対向凹部66を示す模式図である。
【0044】
上述したピストン21の対向凹部56は、第1凹部57と第2凹部58を有する(図3参照)。これに対して、変形例に係るピストン21の対向凹部66は、図6に示すように、平面形状が矩形である一つの凹部67である。凹部67は、ここでは、前述した対向凹部56の第1凹部57と同じ構成である。具体的には、凹部67の平面形状は、矩形である。
【0045】
一方で、凹部67の中心位置は、第1凹部57の中心位置とは異なる。凹部67の中心位置が、ピストン21の中心軸C2から見てクランクシャフトの回転方向の上流側に位置している。すなわち、凹部67の中心位置が、連通路54の中心からずれて位置している。このため、対向凹部66の中心位置が、連通路54の中心からずれて位置する。
【0046】
変形例においても、対向凹部66内の流体からピストン21に作用する力の重心位置(図5で反力Fが作用する位置)が、ピストン21の中心軸C2から見てクランクシャフト26の回転方向の上流側に位置することになる。このため、ピストン21の中心軸C2よりも回転方向の上流側に反力が作用しやすくなるので、ピストン21の回転方向の上流側が反力によって浮きやすくなる。これにより、摺動面29によって連れ回わされた油が、ピストン21の対向部52と摺動面29の間に入り込みやすくなるため、対向部52が横から押されてピストン21が傾くことを抑制できる。
【0047】
なお、上記では、凹部67が第1凹部57と同じ形状であることとしたが、これに限定されない。例えば、凹部67の長手方向の幅が、第1凹部57の長手方向の幅よりも大きくてもよい。この場合、凹部67の短手方向の幅は、第1凹部57の短手方向の幅より小さくてもよい。
【0048】
<本実施形態における効果>
上述した実施形態の流体作動機械1のピストン21は、収容部11aと連通している連通路54と、クランクシャフト26の摺動面29に対向する対向部52に設けられ、連通路54を介して収容部11aから流体(油)が供給される対向凹部56を有する。そして、対向凹部56は、対向凹部56内の油から対向凹部56の底面56aに作用する反力の重心位置が、ピストン21の中心軸から見て回転軸の回転方向の上流側に位置するように、対向部52に設けられている。
上記の構成の場合には、ピストン21の中心軸C2よりも回転方向の上流側に反力が作用しやすくなるので、ピストン21の回転方向の上流側が反力によって浮きやすくなる。これにより、クランクシャフト26が高回転で回転する際でも、摺動面29によって連れ回わされた油が、ピストン21の対向部52と摺動面29の間に入り込みやすくなるため、対向部52が横から押されることを抑制できる。この結果、ピストン21が傾くことが抑制されるため、ピストン21が摺動面29に接触することも抑制できる。
【0049】
以上、本発明を実施の形態を用いて説明したが、本発明の技術的範囲は上記実施の形態に記載の範囲には限定されず、その要旨の範囲内で種々の変形及び変更が可能である。例えば、装置の全部又は一部は、任意の単位で機能的又は物理的に分散・統合して構成することができる。また、複数の実施の形態の任意の組み合わせによって生じる新たな実施の形態も、本発明の実施の形態に含まれる。組み合わせによって生じる新たな実施の形態の効果は、もとの実施の形態の効果を併せ持つ。
【符号の説明】
【0050】
1 流体作動機械
11~14 シリンダ
11a 収容部
21~24 ピストン
26 クランクシャフト
29 摺動面
52 対向部
54 連通路
56 対向凹部
57 第1凹部
58 第2凹部
66 対向凹部
67 凹部
C2 中心軸
図1
図2
図3
図4
図5
図6
【手続補正書】
【提出日】2024-09-05
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
流体を収容する収容部を有するシリンダと、
前記流体の圧力により前記シリンダ内で往復運動を行うピストンと、
前記ピストンの往復運動と連動して回転運動を行う回転軸と、
を備え、前記シリンダ及び前記ピストンが、前記回転軸の周方向に複数配置されている流体作動機械であって、
前記ピストンは、
前記収容部と連通している連通路と、
前記回転軸の摺動面に対向する対向部分に設けられ、前記連通路を介して前記収容部から前記流体が供給される対向凹部を有し、
前記対向凹部は、当該対向凹部内の前記流体から前記ピストンに作用する力の重心位置が、前記ピストンの中心軸から見て前記回転軸の回転方向の上流側に位置するように、前記対向部分に設けられており、
前記対向凹部は、
前記中心軸が通る矩形状の第1凹部と、
前記第1凹部よりも小さく、前記回転方向の上流側にて前記第1凹部と繋がっている第2凹部と、を有する、流体作動機械。
【請求項2】
前記第1凹部の前記回転方向に沿った長手方向の幅は、前記第2凹部の前記長手方向の幅より大きい、
請求項に記載の流体作動機械。
【請求項3】
前記第1凹部及び前記第2凹部の平面形状は、それぞれ矩形であり、
前記第2凹部は、前記第1凹部の短手方向の中央にて前記第1凹部と繋がっている、
請求項に記載の流体作動機械。
【請求項4】
前記第2凹部の前記短手方向の幅は、前記第1凹部の前記短手方向の幅よりも小さい、
請求項に記載の流体作動機械。
【請求項5】
前記連通路は、前記中心軸に沿って前記ピストンを貫通するように設けられており、
前記第2凹部は、前記連通路よりも前記回転方向の上流側に位置している、
請求項に記載の流体作動機械。
【請求項6】
前記第1凹部の前記回転方向に沿った長手方向の幅は、前記連通路の前記長手方向の幅よりも大きい、
請求項に記載の流体作動機械。
【請求項7】
前記対向凹部は、平面形状が矩形である一つの凹部であり、
前記凹部の中心位置が、前記ピストンの中心軸から見て前記回転軸の回転方向の上流側に位置している、
請求項1に記載の流体作動機械。