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特開2025-35298SARS-CoV-2検出用プローブセット及びその用途
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025035298
(43)【公開日】2025-03-13
(54)【発明の名称】SARS-CoV-2検出用プローブセット及びその用途
(51)【国際特許分類】
   C12Q 1/70 20060101AFI20250306BHJP
   C12Q 1/6888 20180101ALI20250306BHJP
   C12Q 1/686 20180101ALI20250306BHJP
   C12Q 1/04 20060101ALI20250306BHJP
【FI】
C12Q1/70
C12Q1/6888 Z ZNA
C12Q1/686 Z
C12Q1/04
【審査請求】未請求
【請求項の数】15
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023142251
(22)【出願日】2023-09-01
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.TRITON
2.TWEEN
(71)【出願人】
【識別番号】000003160
【氏名又は名称】東洋紡株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】504171134
【氏名又は名称】国立大学法人 筑波大学
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】弁理士法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】道渕 真史
(72)【発明者】
【氏名】吉兼 峻史
(72)【発明者】
【氏名】川嶋 洋介
(72)【発明者】
【氏名】上倉 佳子
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 広道
【テーマコード(参考)】
4B063
【Fターム(参考)】
4B063QA01
4B063QA18
4B063QA19
4B063QQ03
4B063QQ10
4B063QR08
4B063QR55
4B063QR62
4B063QS25
4B063QS36
4B063QX02
(57)【要約】
【課題】SARS-CoV-2検出用プローブセットを提供すること。
【解決手段】以下の(A)の蛍光標識プローブ及び(B)の蛍光標識プローブを含む、検体試料中に含まれ得るSARS-CoV-2を検出するために用いられるプローブセットが開示される:
(A)配列番号3、13、14、16~22、及び29のいずれかで示される塩基配列A1、塩基配列A1に相補的な塩基配列A2、又は塩基配列A1若しくはA2において1~3個の塩基が置換、欠失、挿入若しくは付加した塩基配列A3を含み、蛍光色素で標識された蛍光標識プローブ;及び
(B)配列番号2、4~6、及び8~11のいずれかで示される塩基配列B1、塩基配列B1に相補的な塩基配列B2、又は塩基配列B1若しくはB2において1~3個の塩基が置換、欠失、挿入若しくは付加した塩基配列B3を含み、蛍光色素で標識された蛍光標識プローブ。
【選択図】 なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
検体試料中に含まれ得るSARS-CoV-2を検出するために用いられる、以下の(A)の蛍光標識プローブ及び(B)の蛍光標識プローブを含むプローブセット:
(A)配列番号3、13、14、16~22、及び29のいずれかで示される塩基配列A1、塩基配列A1に相補的な塩基配列A2、又は塩基配列A1若しくはA2において1~3個の塩基が置換、欠失、挿入若しくは付加した塩基配列A3を含み、蛍光色素で標識された蛍光標識プローブ;及び
(B)配列番号2、4~6、及び8~11のいずれかで示される塩基配列B1、塩基配列B1に相補的な塩基配列B2、又は塩基配列B1若しくはB2において1~3個の塩基が置換、欠失、挿入若しくは付加した塩基配列B3を含み、蛍光色素で標識された蛍光標識プローブ。
【請求項2】
前記(A)の蛍光標識プローブ及び前記(B)の蛍光標識プローブは、それぞれ、5’末端及び3’末端のいずれか一方のみが標識されている、請求項1に記載のプローブセット。
【請求項3】
前記(A)の蛍光色素が、前記(A)の蛍光標識プローブとその塩基配列に対して相補的な塩基配列と90%以上の同一性を示す塩基配列を含む核酸とが結合した場合に消光する蛍光消光色素であり、前記(B)の蛍光色素が、前記(B)の蛍光標識プローブとその塩基配列に対して相補的な塩基配列と90%以上の同一性を示す塩基配列を含む核酸とが結合した場合に消光する蛍光消光色素である、請求項1に記載のプローブセット。
【請求項4】
前記(A)の蛍光色素及び前記(B)の蛍光色素が、グアニンとの相互作用により消光する蛍光消光色素である、請求項1に記載のプローブセット。
【請求項5】
前記(A)の蛍光色素及び前記(B)の蛍光色素が、フルオレセイン及びその誘導体、ローダミン及びその誘導体、並びにBODIPY及びその誘導体からなる群より選択される少なくとも1つの蛍光消光色素である、請求項1に記載のプローブセット。
【請求項6】
前記(A)の蛍光色素及び前記(B)の蛍光色素が、4,4-ジフルオロ-5,7-ジメチル-4-ボラ-3a,4a-ジアザ-s-インダセン-3-プロピオン酸(BODIPY-FL)、カルボキシローダミン6G,TAMRA,ローダミン6G,テトラブロモスルホンフルオレセイン(TBSF)、及び2-オキソ-6,8-ジフルオロ-7-ジヒドロキシ-2H-1-ベンゾピラン-3-カルボン酸(Pacific Blue)からなる群より選択される少なくとも1つの蛍光消光色素である、請求項1に記載のプローブセット。
【請求項7】
前記(A)の蛍光標識プローブ及び前記(B)の蛍光標識プローブは共に、標識されている末端塩基がシトシンである、請求項1に記載のプローブセット。
【請求項8】
核酸を精製する工程を経ていない生体由来の検体試料中に含まれ得るSARS-CoV-2を検出するために用いられる、請求項1に記載のプローブセット。
【請求項9】
請求項1~8のいずれかに記載のプローブセットを用いて、検体試料中に含まれ得るSARS-CoV-2を検出する方法。
【請求項10】
RT-PCR-融解曲線解析法で検出を行う工程を含む、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
PCR反応に用いる核酸増幅酵素が、ファミリーBに属するDNAポリメラーゼである請求項10に記載の方法。
【請求項12】
ファミリーBに属するDNAポリメラーゼが、KOD由来のDNAポリメラーゼ又はその変異体である、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
RT反応に用いる逆転写活性を有する酵素が、M-MLV(Moloney Murine Leukemia Virus)由来のリバーストランスクリプターゼ又はその変異体である、請求項10に記載の方法。
【請求項14】
検体試料が、核酸を精製する工程を経ていない生体由来の検体試料である、請求項9に記載の方法。
【請求項15】
請求項1~8のいずれかに記載のプローブセットを含む、検体試料中に含まれ得るSARS-CoV-2を検出するための試薬キット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、検体試料中に含まれ得るSARS-CoV-2を検出するためのオリゴヌクレオチドの組合せ等に関する。更に、本発明は、該オリゴヌクレオチドの組合せを用いて、検体試料中に含まれ得るSARS-CoV-2を検出する方法及びその方法に用いるための試薬・キット等に関する。
【背景技術】
【0002】
SARS-CoV-2は、2019年12月に中国湖北省武漢市に初めて確認された新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の原因ウイルスである。そして、SARS-CoV-2によって引き起こされるCOVID-19は、2019年12月以降、パンデミック(世界的大流行)をもたらしてきた。また、世界的大流行が継続していく中で、重症化リスクの高いデルタ株や感染力の強いオミクロン株、ステルスオミクロン株といった変異株が報告されている。
【0003】
SARS-CoV-2の検査方法としては、これまでに遺伝子検査、抗原検査、抗体検査が開発されている。これらの内、抗原検査は、簡便に検査できるメリットがある一方、感度の点では難があるのが現状である。また抗体検査は、過去に罹患したかの確認ができるものの、現時点で感染しているかの検査には不向きである。これらに対し、遺伝子検査は、SARS-CoV-2を特異的に優れた感度で検出できる特徴がある。
【0004】
SARS-CoV-2などのRNAウイルスを対象とする遺伝子検査法では、まず逆転写酵素(reverse transcriptase)によりSARS-CoV-2のゲノムRNAをcDNAに逆転写(RT:reverse transcription)した後、PCR法等により核酸増幅して検出を行う方法がとられている。RT-PCR法による検出では現在、ダブル標識核酸プローブ(Taqmanプローブ、加水分解プローブ等とも呼ばれる)を用いたリアルタイムPCRを行うことにより定量検出する方法等が主に実施されている(非特許文献1)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】病原体検出マニュアル 2019-nCoV Ver.2.9.1(令和2年3月19日)国立感染症研究所
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
非特許文献1の方法では、コントロールRNAを基準にウイルス量を定量することが可能であるが、PCRのサイクル毎に測光する必要があるため、最も短い場合でも検出に約1時間を要する。
【0007】
核酸増幅産物を検出する方法として、融解曲線解析法が知られている。融解曲線解析法は、核酸増幅と検出を別工程で実施することができ、最短30分間程度で比較的簡便に測定が可能である。さらに蛍光標識核酸プローブを用いた融解曲線解析は、自動分析装置を利用した遺伝子検査にも適合させ易いという利点がある。しかしながら、融解曲線解析法では通常、予め決められた検出温度領域における蛍光強度を測定するため、プローブが結合する標的核酸領域に多数の変異が入ると、プローブの融解温度が著しく低下し、正しく検出されない場合が起こり得る。
【0008】
SARS-CoV-2などのRNAウイルスは、頻繁に変異が入りやすい。現在も、SARS-CoV-2は新たな変異株が発生し続けている。このように頻繁に変異が入り易い病原性微生物についてRT-PCR法にて増幅検出を行う場合、上記のようにプローブ等が結合(アニール)する配列内に多数の変異が生じ、検出が困難となり得る。そこで、頻繁に変異が入り易いRNAウイルスの検出においては、複数の領域を増幅して同時検出することで、たとえ一方の領域で増幅又は検出ができない場合でも、他方の領域が増幅及び検出できるようにし、いずれかに変異が入っても検出できるようにして、陽性判定を行う方法などが考えられる。一方で、複数のプライマー及びプローブセットを同一の反応系に入れることは、オリゴヌクレオチド間でダイマーを形成するなどの相互作用する可能性が高くなり、最適なプライマー及びプローブ配列を見出すためには多くの試行錯誤が必要である。そのため、例えば標的配列に多少の変異が入ったとしても影響を受けにくい、高感度な検出が可能なプローブセット(複数のプローブの組合せ)などの設計は容易ではない。
【0009】
加えて、SARS-CoV-2の検査においては、通常は、鼻咽頭拭い液、喀痰、唾液といった生体由来の検体からRNA抽出精製キットを用いてRNAを抽出精製し、そのRNA抽出精製液を次工程のRT-PCR法などに供するのが一般的である。しかしながら、RNA抽出精製には多大な労力とコストがかかるため、簡便な前処理のみで調製した生体由来試料を検査に用いて、高感度にSARS-CoV-2を検出できる手法が求められている。
【0010】
本発明の目的は、SARS-CoV-2を検出可能な有用なプローブセット等を提供し、更には、前記プローブセットを用いるSARS-CoV-2の有用な検出方法等を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、上記の目的を達成するため鋭意研究した結果、特定の塩基配列を有する標識プローブを組み合わせたプローブセットを用いることで、SARS-CoV-2を簡便、迅速、且つ高感度に検出できることを見出した。また、本発明者らは、当該プローブセットを用いることで、SARS-CoV-2のオミクロン株のような多数の変異箇所を有する変異株を検出する場合でも高感度に検出できることを見出した。本発明者らは、当該知見を基に更に鋭意研究を重ねて本発明を完成させるに至った。
【0012】
本発明は、以下の態様を包含する。
[項1] 検体試料中に含まれ得るSARS-CoV-2を検出するために用いられる、以下の(A)の蛍光標識プローブ及び(B)の蛍光標識プローブを含むプローブセット:
(A)配列番号3、13、14、16~22、及び29のいずれかで示される塩基配列A1、塩基配列A1に相補的な塩基配列A2、又は塩基配列A1若しくはA2において1~3個の塩基が置換、欠失、挿入若しくは付加した塩基配列A3を含み、蛍光色素で標識された蛍光標識プローブ;及び
(B)配列番号2、4~6、及び8~11のいずれかで示される塩基配列B1、塩基配列B1に相補的な塩基配列、又は塩基配列B1若しくはB2において1~3個の塩基が置換、欠失、挿入若しくは付加した塩基配列B3を含み、蛍光色素で標識された蛍光標識プローブ。
[項2] 前記(A)の蛍光標識プローブ及び前記(B)の蛍光標識プローブは、それぞれ、5’末端及び3’末端のいずれか一方のみが標識されている、項1に記載のプローブセット。
[項3] 前記(A)の蛍光色素が、前記(A)の蛍光標識プローブとその塩基配列に対して相補的な塩基配列と90%以上の同一性を示す塩基配列を含む核酸とが結合した場合に消光する蛍光消光色素であり、前記(B)の蛍光色素が、前記(B)の蛍光標識プローブとその塩基配列に対して相補的な塩基配列と90%以上の同一性を示す塩基配列を含む核酸とが結合した場合に消光する蛍光消光色素である、項1又は2に記載のプローブセット。
[項4] 前記(A)の蛍光色素及び前記(B)の蛍光色素が、グアニンとの相互作用により消光する蛍光消光色素である、項1~3のいずれかに記載のプローブセット。
[項5] 前記(A)の蛍光色素及び前記(B)の蛍光色素が、フルオレセイン及びその誘導体、ローダミン及びその誘導体、並びにBODIPY及びその誘導体からなる群より選択される少なくとも1つの蛍光消光色素である、項1~4のいずれかに記載のプローブセット。
[項6] 前記(A)の蛍光色素及び前記(B)の蛍光色素が、4,4-ジフルオロ-5,7-ジメチル-4-ボラ-3a,4a-ジアザ-s-インダセン-3-プロピオン酸(BODIPY-FL)、カルボキシローダミン6G,TAMRA,ローダミン6G,テトラブロモスルホンフルオレセイン(TBSF)、及び2-オキソ-6,8-ジフルオロ-7-ジヒドロキシ-2H-1-ベンゾピラン-3-カルボン酸(Pacific Blue)からなる群より選択される少なくとも1つの蛍光消光色素である、項1~5のいずれかに記載のプローブセット。
[項7] 前記(A)の蛍光標識プローブ及び前記(B)の蛍光標識プローブは共に、標識されている末端塩基がシトシンである、項1~6のいずれかに記載のプローブセット。
[項8] 核酸を精製する工程を経ていない生体由来の検体試料中に含まれ得るSARS-CoV-2を検出するために用いられる、項1~7のいずれかに記載のプローブセット。
[項9] 項1~8のいずれかに記載のプローブセットを用いて、検体試料中に含まれ得るSARS-CoV-2を検出する方法。
[項10] RT-PCR-融解曲線解析法で検出を行う工程を含む、項9に記載の方法。
[項11] PCR反応に用いる核酸増幅酵素が、ファミリーBに属するDNAポリメラーゼである項10に記載の方法。
[項12] ファミリーBに属するDNAポリメラーゼが、KOD由来のDNAポリメラーゼ又はその変異体である、項11に記載の方法。
[項13] RT反応に用いる逆転写活性を有する酵素が、M-MLV(Moloney Murine Leukemia Virus)由来のリバーストランスクリプターゼ又はその変異体である、項10~12のいずれかに記載の方法。
[項14] 検体試料が、核酸を精製する工程を経ていない生体由来の検体試料である、項9~13のいずれかに記載の方法。
[項15] 項1~8のいずれかに記載のプローブセットを含む、検体試料中に含まれ得るSARS-CoV-2を検出するための試薬キット。
【発明の効果】
【0013】
本発明により、検体試料に含まれ得るSARS-CoV-2を検出可能な有用なプローブセットを提供することできる。前記プローブセットは、例えば、SARS-CoV-2を簡便、迅速、且つ高感度に検出することができる。また、前記プローブセットは、例えば、高度に核酸を単離又は精製されていない試料、すなわち、簡易的にRNA抽出した試料を用いる場合であっても高感度でSARS-CoV-2を検出することが可能である。さらに、前記プローブセットは、例えば、オミクロン株のような多数の変異を有するSARS-CoV-2でも高感度に検出できる。前記プローブセットを用いた検出方法、試薬又はキットにより、SARS-CoV-2の簡便、迅速、正確、且つ高感度な検出が可能になり、臨床診断の分野に大きく貢献できる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】試験例1の結果の代表例を示す図である。(配列番号1と配列番号2の核酸プローブの組合せで融解曲線解析を行った場合の検出結果を示すグラフ。)
図2】試験例1の結果の代表例を示す図である。(配列番号3と配列番号2の核酸プローブの組合せで融解曲線解析を行った場合の検出結果を示すグラフ。)
図3】試験例1の結果の代表例を示す図である。(配列番号3と配列番号4の核酸プローブの組合せで融解曲線解析を行った場合の検出結果を示すグラフ。)
図4】試験例1の結果の代表例を示す図である。(配列番号29と配列番号2の核酸プローブの組合せで融解曲線解析を行った場合の検出結果を示すグラフ。)
図5】試験例2の結果の代表例を示す図である。(配列番号4と配列番号3の核酸プローブの組合せで融解曲線解析を行った場合の検出結果を示すグラフ。)
図6】試験例2の結果を示す図である。(配列番号6と配列番号3の核酸プローブの組合せで融解曲線解析を行った場合の検出結果を示すグラフ。)
図7】試験例3の結果の代表例を示す図である。(配列番号3と配列番号2の核酸プローブの組合せで融解曲線解析を行った場合の検出結果を示すグラフ。)
図8】試験例3の結果を示す図である。(配列番号12と配列番号2の核酸プローブの組合せで融解曲線解析を行った場合の検出結果を示すグラフ。)
図9】試験例4の結果を示す図である。(配列番号29と配列番号2の核酸プローブの組合せで融解曲線解析を行った場合の検出結果を示すグラフ。)
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施形態を示しつつ、本発明についてさらに詳説するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
なお、本明細書中に記載された非特許文献及び特許文献の全てが、本明細書中において参考として援用され、その全体が明細書に組み込まれる。また、本明細書中の「~」は「以上、以下」を意味し、例えば明細書中で「X~Y」と記載されていれば「X以上、Y以下」を示す。本明細書中の「及び/又は」は、リストされる要素のうちのいずれか1つ又は2つ以上の可能な組合せを意味する。本明細書中の「含む」は、「実質的にからなる」及び「のみからなる」という概念を包含する。
【0016】
また、本明細書では、核酸プライマーを単にプライマーという場合があり、核酸プローブ、標識プローブ、及び蛍光標識プローブを単にプローブという場合があり、これらを総称してオリゴヌクレオチドともいう。
【0017】
一つの実施形態において、本発明は、特定の塩基配列を有する標識プローブを組み合わせて使用することで、SARS-CoV-2を検出する方法を提供する。この方法により、例えば、オミクロン株等の変異が多数入っているSARS-CoV-2変異株を検出する場合であっても、簡便、迅速、高感度、且つ正確にSARS-CoV-2を検出することができる。また、本発明によれば、オミクロン株等の変異株を含む種々のSARS-CoV-2を融解曲線解析等により確実に検出でき、高感度に検出できる。本発明は、SARS-CoV-2のゲノムRNA配列における特定の2箇所の領域をそれぞれターゲットとし、特定の塩基配列を有する蛍光標識プローブ(本明細書では、これを「核酸プローブ」等ともいう)を組み合わせたプローブセットを用いることを一つの特徴とする実施形態を包含する。
【0018】
[SARS-CoV-2を検出する方法]
一つの実施形態において、検体試料中に含まれ得るSARS-CoV-2を検出する方法は、後述の核酸プローブを組み合わせて用いる方法である。当該方法は、検体試料中にSARS-CoV-2が存在するか又は存在しないかを判定する方法であってもよい。また、当該方法は、検体試料中に含まれるSARS-CoV-2を定量する方法であってもよい。特定の実施形態では、本発明のプローブセットを用いることで、例えばRT-PCR-融解曲線解析法等において、検体試料中に含まれ得るSARS-CoV-2を、株間差なく高感度に検出することができる。
【0019】
特定の実施形態では、検体試料中に含まれ得るSARS-CoV-2を検出する方法は、少なくとも以下の工程(1)、(2)、及び(3):
(1)検体試料中のターゲットのRNAをcDNAに逆転写(RT:reverse transcription)する工程;
(2)工程(1)のcDNAを鋳型として1又は複数の核酸増幅産物を生成する工程;及び
(3)工程(2)の1又は複数の核酸増幅産物を、後述の複数の核酸プローブを用いて検出する工程
を含むことが好ましい。当該方法は、工程(2)をPCR反応により実施し、且つ、工程(3)を融解曲線解析法により実施すること(RT-PCR-融解曲線解析法)が好ましい。工程(1)、(2)、及び(3)は同一の反応液中で行ってもよい。また、工程(1)、(2)、及び(3)のうち2つ以上の工程、例えば、工程(1)と工程(2)を連続して又は同時並行的に行ってもよい。
【0020】
[工程(1)]
一つの実施形態において、工程(1)は、核酸プライマー及び逆転写酵素(reverse transcriptase)を用いて逆転写反応を行い、ターゲットのRNAからcDNAを生成させる工程であることが好ましい。逆転写酵素としては、逆転写活性を有する酵素であれば特に限定されず、例えば、M-MLV(Moloney Murine Leukemia Virus:モロニーマウス白血病ウイルス)、AMV(トリ骨髄芽球症ウイルス)由来のリバーストランスクリプターゼ(RNA依存性DNAポリメラーゼ)、これらの変異体が挙げられる。当該変異体としては、例えば、野生型のアミノ酸配列において1~3個のアミノ酸が欠失、置換、挿入及び/又は付加した変異体或いは野生型のアミノ酸配列と80%以上、好ましくは90%以上、より好ましくは95%以上、更に好ましくは98%以上のアミノ酸配列同一性を示す変異体等が挙げられる。具体的には、cDNAの合成効率を上げるために、RNase H活性を欠失させた変異体等が挙げられる。また、特定の条件下ではTth DNAポリメラーゼとその変異体も逆転写活性を有することが知られており、本発明において逆転写酵素として使用することができる。
【0021】
逆転写反応で使用される核酸プライマーは、工程(2)の核酸増幅反応で使用されるプライマーの一方を兼ねていてもよい。また、逆転写反応の条件は、反応が進行する限り特に限定されない。逆転写反応の温度及び時間(又は逆転写反応装置における設定温度及び設定時間)は、例えば、37~55℃で0秒~60分が好ましく、40~52℃で1~30分がより好ましく、42~50℃で2~15分が特に好ましい。
【0022】
[工程(2)]
一つの実施形態において、工程(2)は、核酸増幅法(1又は複数の核酸プライマーセットを用いて核酸増幅反応を行うこと)により、核酸増幅産物を生成させる工程であることが好ましい。核酸増幅法は数コピーの標的核酸を可視化可能なレベル、すなわち数億コピー以上に増幅する技術であり、生命科学研究分野のみならず、臨床診断、食品衛生検査、環境検査等の分野においても広く用いられている。そのような核酸増幅法としては、PCR法、LAMP法、LCR法、TMA法、SDA法、RT-PCR法、RT-LAMP法、NASBA法、TRC法、TMA法等が挙げられる。これらの技術は既に当該技術分野において確立されており、目的に合わせて方法を選択することができる。核酸増幅法はPCR法(RT-PCR法を含む)が好ましいが、これに限定されない。
【0023】
(PCR反応)
PCR反応は、主にDNAポリメラーゼによって触媒される反応である。PCR反応は、通常、(i)熱処理によるDNA変性(2本鎖DNAから1本鎖DNAへの乖離)、(ii)鋳型1本鎖DNAへのプライマーのアニーリング、(iii)DNAポリメラーゼを用いた前記プライマーの伸長、という3ステップを1サイクルとし、このサイクルを繰り返すことを含む。DNAポリメラーゼとしては、例えば、Taq、Tth、Bst、KOD、Pfu、Pwo、Tbr、Tfi、Tfl、Tma、Tne、Vent、DEEPVENT、これらの変異体が挙げられる。本発明では、簡便、迅速、高感度、且つ検体による増幅阻害耐性を有するという観点から、ファミリーBに属するDNAポリメラーゼを用いることが好ましい。また、工程(3)を融解曲線解析法により実施する場合には、蛍光消光プローブを用いる観点からも、5’→3’エキソヌクレアーゼ活性を有しないファミリーBに属するDNAポリメラーゼを用いることが好ましい。
【0024】
PCR反応の条件は、反応が進行する限り特に限定されない。例えば、最初の工程(i)を80~100℃で0秒~300秒程度(例えば0.5~300秒程度)行ってもよく、2回目以降(繰り返し)の工程(i)を80~100℃で0.5~300秒程度行ってもよく、工程(ii)を35~80℃で1~300秒程度行ってもよく、工程(iii)を35~85℃で1~300秒程度行ってもよい。工程(i)から(iii)までのサイクルは30~70回繰り返すことが好ましい。ここで繰り返し行うサイクルの温度及び時間は、1~3サイクル毎に変化させてもよい。
【0025】
(DNAポリメラーゼ)
工程(2)で使用し得るDNAポリメラーゼは、ファミリーBに属するDNAポリメラーゼが好ましいが、これに限定されない。前記ファミリーBに属するDNAポリメラーゼは、特に制限されないが、好ましくは古細菌(Archea)由来のDNAポリメラーゼであり、より好ましくは、パイロコッカス(pyrococcus)属及びサーモコッカス(Thermococcus)属の細菌に由来するDNAポリメラーゼが挙げられる。また、好適なDNAポリメラーゼには、ファミリーBに属する古細菌由来のDNAポリメラーゼ活性を失っていないその変異体も含まれる。変異体としては、例えば、野生型のアミノ酸配列において1~3個のアミノ酸が欠失、置換、挿入及び/又は付加した変異体或いは野生型のアミノ酸配列と80%以上、好ましくは90%以上、より好ましくは95%以上、更に好ましくは98%以上のアミノ酸配列同一性を示す変異体等が挙げられる。具体的には、DNAポリメラーゼの変異体には、ポリメラーゼ活性の増強、エキソヌクレアーゼ活性の欠損、基質特異性の調整等を目的とした変異体が挙げられるが、これらに限定されない。
【0026】
パイロコッカス属由来のDNAポリメラーゼとしては、Pyrococcus furiosus、Pyrococcus sp.GB-D、Pyrococcus woesei、Pyrococcus abyssi、Pyrococcus horikoshiiから単離されたDNAポリメラーゼ、及びこれらに由来するDNAポリメラーゼ活性を失っていないその変異体を含むが、これらに限定されない。
【0027】
サーモコッカス属に由来するDNAポリメラーゼとしては、Thermococcus kodakaraensis、Thermococcus gorgonarius、Thermococcus litoralis、Thermococcus sp.JDF-3、Thermococcus sp.9degrees North-7(Thermococcus sp.9doN-7)、Thermococcus siculiから単離されたDNAポリメラーゼ、及びこれらに由来するDNAポリメラーゼ活性を失っていないその変異体を含むが、これらに限定されない。好ましくは、Thermococcus kodakaraensis由来のDNAポリメラーゼ及びその変異体(例えば、3’→5’エキソヌクレアーゼ活性を欠失させたKOD由来DNAポリメラーゼ等)が、伸長性や熱安定性に優れているという観点から、本発明においてとりわけ好適に用いることができる。
【0028】
これらのDNAポリメラーゼを用いたPCR酵素は市販されており、Pfu(Staragene社)、KOD(Toyobo社)、Pfx(Life Technologies社)、Vent(New England Biolabs社)、Deep Vent(New England Biolabs社)、Tgo(Roche社)、Pwo(Roche社)等が挙げられ、そのいずれもが本発明に用いられ得る。
【0029】
(KOD由来のDNAポリメラーゼ)
本明細書において、KOD由来のDNAポリメラーゼ(KOD DNAポリメラーゼともいう)とは、Thermococcus kodakaraensis由来のDNAポリメラーゼ及びその変異体(例えば、天然由来のアミノ酸配列において1~3個のアミノ酸を置換、欠失、挿入及び/又は付加することにより3’→5’エキソヌクレアーゼ活性を欠失させたKOD由来DNAポリメラーゼ等)をいう。一つの好ましい実施形態において、工程(2)は、このようなKOD由来のDNAポリメラーゼを使用して核酸増幅反応を行う。KOD DNAポリメラーゼは、ファミリーAに属するDNAポリメラーゼであるTaq DNAポリメラーゼに比べて、正確性、増幅効率、伸長性、且つ検体由来の阻害物質による増幅阻害耐性に優れている。本発明では、このようなKOD DNAポリメラーゼを使用することが、後述の実施例に示すように、簡便でありながら、迅速且つ高感度でSARS-CoV-2を検出する点でより好ましい。
【0030】
(核酸プライマーセット)
工程(2)で使用し得る核酸プライマーセットは、後述のプローブセットが複合体を形成できるSARS-CoV-2由来の核酸断片を増幅し得るものであれば、特に限定されない。より高感度な判定結果が得られ易いという観点から、核酸プライマーセットは、SARS-CoV-2のゲノムRNAにおいて、それぞれN1領域及びN2領域とも呼ばれる配列番号27及び28で示されるSARS-CoV-2のゲノムRNAの塩基配列の一部又は全部を含む塩基配列を増幅し得る核酸プライマーセットであることが好ましい。
【0031】
例えば、核酸プライマーセットは、後述の蛍光標識プローブ(A)及び(B)がそれぞれ結合し得る配列番号27及び28で示されるSARS-CoV-2のゲノムRNAの塩基配列の一部又は全部を増幅し得る核酸プライマーセットである。プライマーセットは、一方のプライマーが他方のプライマーのDNA伸長生成物に相補的であるように設計される。例えば、核酸プライマーセットは、配列番号23で示される塩基配列を有する核酸プライマー及び配列番号24で示される塩基配列を有する核酸プライマーを含む核酸プライマーセット、又は、配列番号25で示される塩基配列を有する核酸プライマー及び配列番号26で示される塩基配列を有する核酸プライマーを含む核酸プライマーセットであり得るが、これらに限定されない。例えば、核酸プライマーセットは、配列番号23及び24の塩基配列に対してそれぞれ相補的な塩基配列を有する核酸プライマーの組合せ、又は、配列番号25及び26の塩基配列に対してそれぞれ相補的な塩基配列を有する核酸プライマーの組合せでもよい。
【0032】
また、前記プライマーセットは、前記各プライマーの塩基配列において1~3個の塩基が置換、欠失、挿入若しくは付加した塩基配列からなるプライマーを含むものであってもよい。
【0033】
[工程(3)]
工程(3)の実施態様は特に限定されず、当該分野で公知の任意の方法で実施することができる。検出対象のSARS-CoV-2は変異し易く、様々な変異型のゲノム配列が存在する。ここで、プライマー又はプローブの塩基配列とターゲットのSARS-CoV-2変異株(デルタ株、オミクロン株等)の塩基配列とにミスマッチが生じると、ウイルスRNA又はそれに由来する核酸増幅産物(標的核酸)に対するプライマー又はプローブの結合力は低下することになり得る。とりわけ、リアルタイムRT-PCR法において標的核酸とプローブとの間のミスマッチが多い場合は、標的核酸に十分にプローブが結合できなくなるため、見かけ上増幅曲線の立ち上がりが遅れる、或いは全く立ち上がりがなくなる場合があり、このような状況は偽陰性を誘発し得る。融解曲線解析法の場合はRT-PCRを終えてから工程(3)を行うため、仮にプライマー又はプローブにミスマッチがあったとしても、最終的に核酸増幅産物が得られていれば検出は可能であるため、リアルタイムRT-PCR法よりもミスマッチの影響を抑えることできる。従って、工程(3)では、核酸増幅産物を融解曲線解析法で検出することが特に好ましい。また、核酸増幅産物を融解曲線解析法で検出することで、より短時間(例えば、逆転写反応開始から融解曲線解析完了まで45分以下、好ましくは40分以下、より好ましくは35分以下)で検出することも可能となり得る。
【0034】
一つの実施形態において、工程(3)は、以下の工程(3-1)及び(3-2):
(3-1)工程(2)の核酸増幅産物と核酸プローブとをハイブリダイズさせ複合体を形成する工程;及び
(3-2)工程(3-1)の複合体を検出する工程
を含むことが好ましい。SARS-CoV-2の検出において、高感度な判定結果を得るために、工程(2)のSARS-CoV-2由来の核酸増幅産物と特異的に反応して複合体を形成しうる後述の核酸プローブを用いることが好ましい。
工程(3-1)のハイブリダイズは、核酸増幅産物と核酸プローブが十分にハイブリダイズする温度条件下で実施されることが好ましい。このような温度条件としては、例えば、核酸プローブのTm値より少なくとも5℃低い温度、より好ましくは少なくとも10℃低い温度を挙げることができるが、これらに限定はされない。
【0035】
(核酸プローブ)
本発明では核酸プローブとして、少なくとも以下の(A)の蛍光標識プローブ及び(B)の蛍光標識プローブを含むプローブセットを使用することが好ましい:
(A)配列番号3、13、14、16~22、及び29のいずれかで示される塩基配列A1、塩基配列A1に相補的な塩基配列A2、又は塩基配列A1若しくはA2において1~3個の塩基が置換、欠失、挿入若しくは付加した塩基配列A3を含み、蛍光色素で標識された蛍光標識プローブ;及び
(B)配列番号2、4~6、及び8~11のいずれかで示される塩基配列B1、塩基配列B1に相補的な塩基配列B2、又は塩基配列B1若しくはB2において1~3個の塩基が置換、欠失、挿入若しくは付加した塩基配列B3を含み、蛍光色素で標識された蛍光標識プローブ。
ここで、前記(A)の蛍光標識プローブは、SARS-CoV-2のゲノムRNAにおいてN1領域と呼ばれる塩基配列(配列番号27)に結合し得るように設計されたプローブである。そして前記(B)の蛍光標識プローブは、SARS-CoV-2のゲノムRNAにおいてN2領域と呼ばれる塩基配列(配列番号28)に結合し得るように設計されたプローブである。前記(A)及び(B)の蛍光標識プローブを異なる蛍光色素で標識してもよいが、同じ蛍光色素で標識することが好ましい。このようなプローブをセットで用いることで、例えば、融解曲線解析においても高感度にSARS-CoV-2を検出することができ、またオミクロン株等の変異が多数入ったSARS-CoV-2変異体の検出も高感度に行うことができる。
【0036】
特定の実施形態では、前記(A)の蛍光標識プローブ及び前記(B)の蛍光標識プローブは、それぞれ、塩基配列A3及びB3を含むプローブであり得る。塩基配列A3及びB3において、変異(置換、欠失、挿入若しくは付加)し得る塩基の数は、好ましくは1又は2個であり得る。このように塩基の変異を有する場合、該プローブはミスマッチ塩基を含むといい、本発明においてはこのようなミスマッチ塩基を含むプローブも好適に使用できる。
【0037】
本明細書において、ミスマッチ塩基(又は単に「ミスマッチ」ともいう)を含むとは、標的核酸の塩基配列(標的核酸が核酸増幅反応後に二本鎖となる場合は、二本鎖が解離したいずれか一本鎖の核酸の塩基配列)と相補的ではない塩基を含むことをいう。例えば、標的核酸の塩基配列にシトシン塩基が存在する場合において、プローブにおける当該シトシン塩基に対応する位置の塩基がグアニン以外の塩基(例えば、アデニン塩基、シトシン塩基、チミン塩基、及びユニバーサル塩基)となっていることをいう。例えば、変異し易い標的核酸の領域を検出する場合には、変異し易い塩基に対応するプローブの位置にミスマッチ塩基(例えば、ユニバーサル塩基)を選択することができる。
【0038】
本発明の核酸プローブがミスマッチ塩基を含む場合、ミスマッチ塩基の位置は、本発明の効果を阻害しない限り特に限定されない。より確実に核酸増幅産物を検出し易くなるという観点からは、ミスマッチ塩基は各プローブの末端塩基ではないことが好ましい。例えば、ミスマッチ塩基の位置は、プローブを構成する塩基配列全長nの中央(nが奇数の場合、(n+1)/2、nが偶数の場合、n/2)から前後に8mer以内が好ましく、前後に7mer以内がより好ましく、前後に6mer以内が更に好ましく、前後に5mer以内が更により好ましい。
【0039】
前記(A)の蛍光標識プローブは、より高感度な検出が可能であるという観点から、配列番号3、13、14、16~22、及び29のいずれかで示される塩基配列A1又は塩基配列A1に相補的な塩基配列A2を含み、蛍光色素で標識された蛍光標識プローブであることが好ましい。更には、前記(B)の蛍光標識プローブと一緒になって相乗効果的により高い検出が可能となるという観点から、前記(A)の蛍光標識プローブは、配列番号3、13、14、16~18、及び29のいずれかで示される塩基配列A11又は塩基配列A11に相補的な塩基配列A21を含み、蛍光色素で標識された蛍光標識プローブであることが好ましく、配列番号3、16~18、及び29のいずれかで示される塩基配列A12又は塩基配列A12に相補的な塩基配列A22を含み、蛍光色素で標識された蛍光標識プローブであることがより好ましく、なかでも配列番号3若しくは29で示される塩基配列A13又は塩基配列A13に相補的な塩基配列A23を含み、蛍光色素で標識された蛍光標識プローブであることが好ましい。
【0040】
前記(B)の蛍光標識プローブは、より高感度な検出が可能であるという観点から、配列番号2、4~6、及び8~11のいずれかで示される塩基配列B1又は塩基配列B1に相補的な塩基配列B2を含み、蛍光色素で標識された蛍光標識プローブであることが好ましい。更に特定の実施形態では、前記(A)の蛍光標識プローブと一緒になって相乗効果的により高い検出が可能となるという観点から、前記(B)の蛍光標識プローブは、配列番号6若しくは8で示される塩基配列B11又は塩基配列B11に相補的な塩基配列B21を含み、蛍光色素で標識された蛍光標識プローブであることが好ましい。更に別の観点から、オミクロン株等の変異が多数入ったSARS-CoV-2変異株を検出する場合に検出ピーク波形が乱れにくく、より高感度に検出し易いという観点からは、前記(B)の蛍光標識プローブは、配列番号2若しくは4で示される塩基配列B12又は塩基配列B12に相補的な塩基配列B22を含み、蛍光色素で標識された蛍光標識プローブであることが好ましく、なかでも配列番号2で示される塩基配列B13又は塩基配列B13に相補的な塩基配列B23を含み、蛍光色素で標識された蛍光標識プローブであることが好ましい。
【0041】
本発明のプローブセットは、前記(A)の蛍光標識プローブと前記(B)の蛍光標識プローブの任意の組合せであり得る。また、前記(A)の蛍光標識プローブの中から1又は複数と、前記(B)の蛍光標識プローブの中から1又複数とを組み合わせてもよい。特定の好ましい実施形態では、(A)配列番号3若しくは配列番号29で示される塩基配列A13又は塩基配列A13に相補的な塩基配列A23を含み、蛍光色素で標識された蛍光標識プローブと、(B)配列番号2若しくは4で示される塩基配列B12又は塩基配列B12に相補的な塩基配列B22を含み、蛍光色素で標識された蛍光標識プローブの組合せであり得る。
【0042】
本発明のプローブセットに含まれる上記の(A)及び(B)の各プローブは、同一の蛍光色素で標識されていることが好ましく、任意の様式で蛍光色素を標識したものであり得る。例えば、前記(A)及び(B)の各プローブは、5’末端又は3’末端のいずれか一方又は両方が蛍光色素で標識されたものであってもよいが、より確実に本発明の効果を得られ易いという観点から、前記(A)及び(B)のプローブはいずれも5’末端又は3’末端のいずれか一方のみが標識されていることが好ましい。ここで、前記(A)及び(B)のプローブは必ずしも同じ末端を標識したものでなくてもよく、一方のプローブは5’末端を標識し、他方のプローブは3’末端を標識したものであってもよい。
【0043】
一つの実施形態において、本発明のプローブセットに含まれる上記の(A)及び(B)の各プローブは、自身の塩基配列に対して相補的な塩基配列と85%以上、好ましくは90%以上、より好ましくは93%以上、更に好ましくは95%以上、更により好ましくは98%以上の同一性を示す塩基配列を含む核酸と結合した場合に消光又は蛍光を生じるように蛍光色素で標識されていることが好ましく、消光を生じるように蛍光色素で標識されていることがより好ましい。
【0044】
蛍光色素としては特に標的の核酸増幅産物とハイブリダイズして複合体を形成することにより蛍光を生じる蛍光物質又は消光を生じる蛍光物質のいずれであってもよいが、好ましくは標的の核酸増幅産物とハイブリダイズした際に消光を生じる蛍光物質であり、特に好ましくは、標的の核酸増幅産物とハイブリダイズにおいてグアニンとの相互作用により消光する蛍光消光色素である。具体的には、フルオロセイン及びその誘導体(例えば、フルオロセインイソチオシアネート(FITC))、ローダミン及びその誘導体(例えば、5-カルボキシローダミン6G(GR6G)、テトラメチルローダミン(TAMRA)、カルボキシローダミン、x-ローダミン、スルホローダミン101酸クロリド)、並びにBODIPY及びその誘導体(例えば、BODIPY-FL、BODIPY-FL/C3、BODIPY-FL/C6、BODIPY-5-FAM、BODIPY-TMR、BODIPY-TR、BODIPY-R6G、BODIPY-564、BODIPY-581、BODIPY-591、BODIPY-630、BODIPY-650、BODIPY-665)からなる群より選択される少なくとも1つの蛍光消光色素が挙げられるが、これらに限定されない。
【0045】
より具体的には、グアニンとの相互作用により消光する蛍光消光色素として、例えば、4,4-ジフルオロ-5,7-ジメチル-4-ボラ-3a,4a-ジアザ-s-インダセン-3-プロピオン酸(BODIPY-FL)、カルボキシローダミン6G(CR6G),TAMRA,ローダミン6G,テトラブロモスルホンフルオレセイン(TBSF)、及び2-オキソ-6,8-ジフルオロ-7-ジヒドロキシ-2H-1-ベンゾピラン-3-カルボン酸(Pacific Blue)からなる群より選択される少なくとも1つの蛍光消光色素を挙げることができ、本発明にはこれらの蛍光消光色素が好適に使用され得る。
【0046】
特定の好ましい実施形態では、蛍光消光色素で標識されている末端塩基がシトシンであるプローブがより好ましい。このようなプローブは、核酸増幅産物にハイブリダイズした際に、核酸増幅産物中のグアニン塩基と塩基対を形成して相互作用することで消光できるため、非常に簡便に反応液の蛍光強度の変化を測定することができる。
【0047】
なお、該プローブがハイブリダイズした際に、該プローブのシトシン塩基と核酸増幅産物中のグアニン塩基が塩基対を形成しなくとも、それらの塩基同士の距離が近ければ蛍光は消光できる。例えば、詳細は特許第5354216号公報に記載があり、本発明も該技術を参照できる。即ち、該プローブがハイブリダイズした際に、該プローブのシトシン塩基に対して、核酸増幅産物中のグアニン塩基が例えば1~3塩基の範囲内に存在すれば消光できる(シトシン塩基と塩基対を形成する塩基を1とする)。
【0048】
従って、蛍光消光色素で標識されている少なくとも一つの末端塩基がシトシンでない核酸プローブであっても、反応液の蛍光強度の変化を測定できる。例えば、詳細は特許第5354216号公報に記載があり、本発明も該技術を参照できる。例えば、該プローブがハイブリダイズした際に、蛍光消光色素が標識されている末端塩基に対して、核酸増幅産物中のグアニン塩基が例えば1~3塩基の範囲内に存在すれば消光できる(末端塩基と塩基対を形成する塩基を1とする)。
【0049】
特定の好ましい実施形態において、本発明のプローブセットを工程(3)で用いる。このように本発明のプローブセットを用いることで、例えばオミクロン株等の変異を多数含むSARS-CoV-2変異体であっても正しく検出できる。
【0050】
一つの実施形態において、工程(3)は、以下の工程(3-a)、(3-b)、及び(3-c)の少なくとも一つを含む態様であり得る:
(3-a)工程(2)と同時に、反応液中の核酸増幅産物に本発明のプローブセットをハイブリダイズさせ、該反応液の蛍光強度を測定することで、工程(2)の反応(核酸増幅反応)の進行をリアルタイムでモニターする工程。
(3-b)工程(2)の終了後に、反応液中の核酸増幅産物に本発明のプローブセットをハイブリダイズさせ、該反応液の蛍光強度を測定することで、工程(2)の反応(核酸増幅反応)の進行をエンドポイントでモニターする工程。
(3-c)工程(2)の終了後に、反応液中の核酸増幅産物に本発明のプローブセットをハイブリダイズさせ、該反応液の蛍光強度の温度依存性を測定する工程。
工程(3-a)、(3-b)、又は(3-c)により、簡便、迅速、且つ高感度に、核酸増幅産物とプローブセットとで形成される複合体の生成を検出することができる。工程(3-a)、(3-b)、及び(3-c)は組み合わせて実施してもよく、例えば、工程(3-a)及び(3-b)の両方、又は工程(3-a)及び(3-c)の両方を行うこともできる。一つの実施形態では、より迅速に核酸増幅産物の検出を行う観点から、工程(3-b)又は(3-c)が好ましい。特に工程(3-c)、すなわち融解曲線解析法が好ましい。
【0051】
(工程(3-a))
工程(3-a)は、核酸増幅反応の進行をリアルタイムでモニターする方法(所謂、リアルタイムPCR法)であり、既知濃度のコントロール物質と比較することにより、定量解析が可能である。
【0052】
(工程(3-b))
工程(3-b)は、核酸増幅反応の進行をエンドポイントでモニターすることで、検体試料中に含まれ得る標的核酸を迅速に検出することができる。さらに、エンドポイントでの蛍光強度等を比較することでおおよその標的核酸量も推定可能である。
例えば、蛍光消光色素で標識された核酸プローブのセットを含む反応液の蛍光強度を測定することで、核酸増幅反応の進行をエンドポイントでモニターする。核酸増幅反応終了後に、反応液の蛍光強度を測定し、反応後の反応液の蛍光強度を反応前の反応液の蛍光強度と比較することで、標的核酸の増幅の有無を確認することができる。或いは、反応後の反応液の蛍光強度をコントロール反応液の蛍光強度と比較することでも検体試料中に含まれ得る標的核酸の有無を確認することができる。コントロール反応液とは、測定したい検体試料の代わりに陰性と判明している試料或いは陽性と判明している試料を加えた反応液である。
核酸増幅反応の進行は、一般的にリアルタイムでモニターする必要があるが、より迅速、簡便に検出する目的では、エンドポイントで測定することが好ましい。
【0053】
(工程(3-c))
工程(3-c)において、蛍光強度の温度依存性を測定するとは、具体的には、反応液の温度を低温から高温に変化させながら、各温度における蛍光強度を測定することであり得る。得られた蛍光強度について温度で一次微分することにより、使用する核酸プローブに固有の融解温度(Tm値)を求めることができる。また、蛍光強度は目的に合わせて蛍光消光率等に変換してもよい。
Tm値を用いた標的核酸の検出、分析等を融解曲線分析という。一般的に、Tm値は、オリゴヌクレオチドがその相補鎖と二本鎖を形成している割合と二本鎖を形成せず一本鎖である割合が等しいときの温度をいう。Tm値は、塩基配列に固有の値であるため、融解曲線分析は標的核酸の塩基配列多型を分析する手法として使用できる。ここでいう塩基配列多型とは、一塩基多型、塩基置換、塩基欠損、塩基挿入等を含む。
【0054】
一例として、融解曲線分析はSNP解析等にも応用されている。プローブに対して標的核酸の塩基配列に変異がある場合、プローブがハイブリダイズした際に塩基がミスマッチしているため、一般的にTm値は低くなる。したがって、Tm値の大きさを比較することで一塩基多型の解析(SNP解析)も行うことができる。
【0055】
[検体試料]
本発明において使用できる検体試料はSARS-CoV-2を含む可能性のあるものであれば特に限定されない。例えば、SARS-CoV-2への感染が疑われる被験体から採取した、口腔内擦過物、咽頭拭い液、鼻咽頭拭い液、鼻腔拭い液、鼻腔吸引液、喀痰、気管支洗浄液、肺胞洗浄液、唾液等が挙げられるが、これらに限定されない。生体試料を測定対象の検体試料とする場合、各生体試料に応じて、特に制限はされないが、希釈又は懸濁、遠心、酵素処理等の前処理若しくは核酸抽出を行ってもよい。
【0056】
検体試料の採取方法、調製方法等は、特に制限されず、検体試料の種類、目的等に応じて公知の方法を用いることができる。特定の好ましい実施形態では、検体試料は、RNAを単離又は精製した試料でなくてもよく、例えば、生体から採取した検体をタンパク質分解酵素(例えば、プロテイナーゼK)処理及び/又は熱処理(例えば、60~100℃で1秒~10分間)によるタンパク分解変性処理をし、検体中に存在しているRNase(リボヌクレアーゼ)及びDNase(DNA分解酵素)を予め分解除去した試料をそのまま用いてもよい。
【0057】
核酸抽出の方法は、特に制限されないが、検体試料の種類、目的等に応じて公知の方法を用いることができる。核酸抽出としては、主にRNAを抽出するものであっても、RNA及びDNAを区別せずに核酸を抽出するものでもよい。核酸抽出には、例えば、各メーカーから販売されているキット等を使用してもよい。例えば、QIAamp Viral RNA Mini Kit(QIAGEN社)が挙げられる。また、自動抽出精製装置を用いてもよい。
【0058】
特定の好ましい実施形態において、検体試料は、従来の核酸増幅反応において通常は必須と考えられていた核酸精製工程を省略したものであってもよい。核酸精製を行う場合、専用試薬が必要であることに加えて、作業が煩雑で手間と時間がかかるという問題がある。核酸精製工程を省略した検体試料を用いる場合、検体試料の採取から遺伝子検査結果を得るまでの時間を短縮することができ、例えば、検体試料の採取から遺伝子検査結果が得られるまでの時間を1日以内、好ましくは半日以内、より好ましくは6時間以内、更に好ましくは3時間以内、なかでも好ましくは2時間以内(例えば、1時間以内)とすることが可能となる。このように、核酸精製工程を経ていない検体試料を用いて本発明の方法を行う場合、核酸精製の手間を省くことができ、簡便且つ短時間でありながら、高感度にSARS-CoV-2を検出することができる。
【0059】
[SARS-CoV-2を検出するための試薬]
別の実施形態として、本発明は、SARS-CoV-2を検出するための試薬を提供する。試薬には、前述で説明した本発明のプローブセットに加えて、逆転写反応、核酸増幅反応、及び検出に必要な成分を少なくとも含むことが好ましい。当該必要な成分は、それぞれ公知のものを用いることができる。例えば、本発明の試薬は、逆転写用核酸プライマー、PCR用核酸プライマーセット、逆転写酵素、DNAポリメラーゼ、デオキシリボヌクレオシド三リン酸(dNTPs)、及びマグネシウム塩等の無機塩類を少なくとも含むことが好ましい。逆転写用核酸プライマーを兼ねたPCR用核酸プライマーセット及び検出用核酸プローブセットは、SARS-CoV-2の複数領域を増幅させるために複数セットを含むことができる。各成分の濃度は適宜調整できるが、例えば、本発明の核酸プローブセットに含まれる各核酸プローブはそれぞれ0.01~1μMで使用されることが好ましく、それぞれ0.02~0.5μMで使用されることがより好ましい。該プローブセットに含まれる各核酸プローブの量は同じである必要はなく、前記(A)の蛍光標識プローブの濃度と前記(B)の蛍光標識プローブの濃度が異なっていてもよい。核酸プライマーセットに含まれる各核酸プライマーは0.01~10μMが好ましい。逆転写酵素は0.01~10U/μLが好ましく、0.02~2U/μLがより好ましい。DNAポリメラーゼは0.01~1U/μLが好ましく、0.02~0.5U/μLがより好ましい。デオキシリボヌクレオシド三リン酸(dNTPs)は0.02~1mMが好ましく、0.1~0.5mMがより好ましい。マグネシウム塩等の無機塩類は0.1~10mMが好ましく、1~5mMがより好ましい。
【0060】
さらに、非特異増幅の抑制や反応促進を目的として、本発明の試薬は、当該技術分野で知られる添加物等を含んでいてもよい。非特異増幅の抑制を目的とする添加物として、公知の抗DNAポリメラーゼ抗体、リン酸等が挙げられる。反応促進を目的とする添加物として、ウシ血清アルブミン(BSA)、プロテアーゼインヒビター、シングルストランド結合タンパク質(SSB)、T4遺伝子32タンパク質、tRNA、硫黄又は酢酸含有化合物類、ジメチルスルホキシド(DMSO)、グリセロール、エチレングリコール、プロピレングリコール、トリメチレングリコール、ホルムアミド、アセトアミド、ベタイン、エクトイン、トレハロース、デキストラン、ポリビニルピロリドン(PVP)、ゼラチン、塩化テトラメチルアンモニウム(TMAC)、水酸化テトラメチルアンモニウム(TMAH)、酢酸テトラメチルアンモニウム(TMAA)、ポリエチレングリコール、カルニチン、トリトン(Triton)、ツイーン(Tween20)、ノニデット(登録商標)P40等が挙げられる。また、ターゲットであるSARS-CoV-2のゲノムRNAの分解を低減させるため、本発明の試薬は、RNA分解酵素の阻害剤又は抑制剤(例えば、RNaseインヒビター)を含んでいてもよい。また、偽陰性の判定を容易にするために、本発明の試薬は、当該分野で公知のインターナルコントロールを含むことも好ましい。本発明では、これらの添加物を1種類単独で又は2種類以上組み合わせて使用してもよい。
【0061】
[SARS-CoV-2を検出するための試薬キット]
別の実施形態として、本発明は、SARS-CoV-2を検出するための試薬キットが提供される。本発明のキットは、前述で説明した本発明のプローブセット又は本発明の試薬を含み、SARS-CoV-2を検出(鑑別を含む)できるように構成されていれば特に限定されない。例えば、本発明のキットは、被検出対象の存在を検出(定量を含む)することができる試薬、及び/又は、使用方法等を説明する使用説明書等を任意に含むことができる。例えば、本発明のキットは、前記プローブセット、逆転写反応に必要な成分、核酸増幅反応に必要な成分、及び増幅産物の検出に必要な成分を同じ容器に封入したもの又は別々の容器に封入したものを、例えば一つの包装体に梱包し、当該キットの使用方法に関する情報を含む態様で提供することができる。また、本発明のキットは、陽性コントロール液及び/又は陰性コントロール液を含めることもできる。
【実施例0062】
以下に実施例を示して本発明を具体的に説明するが、本発明は実施例に限定されるものではない。
【0063】
〔試験例1:核酸プローブの組合せによるSARS-CoV-2変異株測定〕
(1)試料の調製
ゲノム解析によってSARS-CoV-2のデルタ株又はオミクロン株感染と診断された被験者の鼻咽頭拭い液(陽性試料)を試料として用いた。まず、1.5mLチューブにプロテイナーゼK溶液(関東化学)10μLを分注し、各被験者の鼻咽頭拭い液を加えて混和した。次いで、これらの混和液を65℃で5分間加熱した後、更に95℃で5分間加熱し、その後十分に冷ました反応液を、ジーンキューブ専用溶解液(東洋紡製)と等量混合して検体調製液とした。なおこの試料は、核酸精製処理を行っていないことから、試料由来の夾雑物質を含む試料に相当する。
(2)逆転写、核酸増幅、融解曲線解析、及び判定
上記試料をそれぞれ下記試薬に添加して、下記条件によりSARS-CoV-2の検出を行った。逆転写、核酸増幅及び融解曲線解析には東洋紡製GENECUBE(登録商標)を使用した。
【0064】
(試薬)
プローブセットとして、配列番号1と配列番号2の組合せ、配列番号3と配列番号2の組合せ、配列番号3と配列番号4の組合せ、配列番号29と配列番号2の組合せをそれぞれ用意し、ジーンキューブ(登録商標)テストベーシック(東洋紡社製)及びReverTra Ace(登録商標)を使用して以下の溶液を調製した。配列番号29のプローブは、配列番号3のプローブの16番目の塩基に相当するアデニン(A)をユニバーサル塩基のイノシン酸(I)に変更したもので、配列番号3を1塩基変異させた核酸配列を有する。ジーンキューブ(登録商標)テストベーシック(東洋紡社製)及びReverTra Ace(登録商標)は、それぞれの取扱説明書に記載の通りに使用量を調整して使用した(ReverTra Ace(登録商標)は0.1U/μLで使用)。試薬には、核酸増幅が正常に行われたかを確認するための既知配列のインターナルコントロール(IC)も添加した。
0.5μM 配列番号23で示されるプライマー
3.0μM 配列番号24で示されるプライマー
0.25μM 配列番号1、3、又は29で示されるプローブ
(5’又は3’末端をBODIPY-FLで標識)
0.5μM 配列番号25で示されるプライマー
3.0μM 配列番号26で示されるプライマー
0.25μM 配列番号2又は4で示されるプローブ
(5’又は3’末端をBODIPY-FLで標識)
【0065】
(逆転写、核酸増幅及び融解曲線解析)
42℃・2分
97℃・15秒
(以上1サイクル)
97℃・1秒
58℃・3秒
63℃・5秒
(以上50サイクル)
94℃・30秒
39℃・30秒
40℃~75℃(0.09℃/秒で温度上昇)
上記の逆転写反応開始から融解曲線解析終了までに要した時間は、35分間であった。
【0066】
(3)結果
図1図4に、配列番号1と配列番号2のプローブを組み合わせた試薬、配列番号3と配列番号2のプローブを組み合わせた試薬、配列番号3と配列番号4のプローブを組み合わせた試薬、及び配列番号29と配列番号2のプローブを組み合わせた試薬のそれぞれを用いて、核酸増幅及び融解曲線解析によってSARS-CoV-2各変異株のRNA抽出試料の検出を行った際に得られた検出グラフを示す。また、この結果を下記の表1にまとめた。
【0067】
【表1】
【0068】
図1図4に示される通り、デルタ株では良好な検出ピークが確認できるプローブの組合せであっても、変異が多いことで知られるオミクロン株では検出ピーク波形が乱れ、最大蛍光変化率が大きく低下してしまう場合があることが分かった。一方、同じ配列番号2のプローブを用いる場合であっても、配列番号3又は29を組み合わせる場合にはオミクロン株であっても検出ピーク波形の乱れは生じず、高い最大蛍光変化率を示すことが確認できた。また、配列番号3を用いる場合には、配列番号2とは異なる配列番号4のプローブと組み合わせた場合であっても、同様に良好な結果が得られることが確認された。
【0069】
〔試験例2:核酸プローブの組合せによるSARS-CoV-2検出評価〕
試験例1で使用した配列番号3のプローブを組み合わせることにより得られる効果が、配列番号2又は4のプローブを他のプローブに変えた場合でも得られるかを確認するため、以下の試験を行った。具体的に、本試験では、配列番号2及び4~11のプローブをそれぞれ単独で用いた場合と、当該プローブを配列番号3のプローブと組み合わせた場合で検出を行い、それらを比較することで組合せによる相乗効果の有無を調べた。
(1)試料の調製
SARS-CoV-2の陽性コントロールRNA(EDX SARS-CoV-2 Standard(バイオ・ラッド ラボラトリーズ株式会社))を滅菌水で希釈し、10コピー/テストとなるように調製し、試料とした。
(2)逆転写、核酸増幅、融解曲線解析、及び判定
上記試料をそれぞれ下記試薬に添加して、下記条件によりSARS-CoV-2の検出を行った。逆転写、核酸増幅及び融解曲線解析には東洋紡製GENECUBE(登録商標)を使用した。
【0070】
(試薬)
配列番号2及び4~11のプローブ並びに配列番号3のプローブをそれぞれ用意し、ジーンキューブ(登録商標)テストベーシック(東洋紡社製)及びReverTra Ace(登録商標)を使用して以下の溶液を調製した。各プローブは、配列番号2及び4~11のプローブをそれぞれ単独で又は配列番号3のプローブと組み合わせて使用した。配列番号3のプローブを組み合わせて使用する場合には、配列番号25及び26のプライマーセットも使用した。ジーンキューブ(登録商標)テストベーシック(東洋紡社製)及びReverTra Ace(登録商標)は、それぞれの取扱説明書に記載の通りに使用量を調整して使用した(ReverTra Ace(登録商標)は0.1U/μLで使用)。試薬には、核酸増幅が正常に行われたかを確認するための既知配列のインターナルコントロール(IC)も添加した。
(配列番号2及び4~11のプローブを単独で使用する場合)
0.5μM 配列番号25で示されるプライマー
3.0μM 配列番号26で示されるプライマー
0.25μM 配列番号2及び4~11のいずれかで示されるプローブ
(5’又は3’末端をBODIPY-FLで標識)
(配列番号2、配列番号4~11のプローブを配列番号3と組み合わせて使用する場合)
0.5μM 配列番号23で示されるプライマー
3.0μM 配列番号24で示されるプライマー
0.25μM 配列番号3で示されるプローブ(5’末端をBODIPY-FLで標識)
0.5μM 配列番号25で示されるプライマー
3.0μM 配列番号26で示されるプライマー
0.25μM 配列番号2及び4~11のいずれかで示されるプローブ
(5’又は3’末端をBODIPY-FLで標識)
【0071】
(逆転写、核酸増幅及び融解曲線解析)
42℃・2分
97℃・15秒
(以上1サイクル)
97℃・1秒
58℃・3秒
63℃・5秒
(以上50サイクル)
94℃・30秒
39℃・30秒
40℃~75℃(0.09℃/秒で温度上昇)
上記の逆転写反応開始から融解曲線解析終了までに要した時間は、35分間であった。
【0072】
(3)結果
配列番号2及び4~11のプローブをそれぞれ単独で使用する場合の検出結果を以下の表2に示し、配列番号2及び4~11のプローブをそれぞれ配列番号3のプローブと組み合わせて使用する場合の検出結果を以下の表3に示す。
【0073】
【表2】
【0074】
【表3】
【0075】
表2及び3の結果に示されるように、配列番号2及び4~11のいずれのプローブも単独で用いる場合の最大蛍光変化率に大きな差はないことが分かる。しかし、配列番号3のプローブと組み合わせた場合には、配列番号7のプローブの場合には殆ど最大蛍光変化率が変わらないのに対して、配列番号2、4~6、及び8~11のプローブの場合には最大蛍光変化率が大きく上昇していた。この結果から、高い最大蛍光変化率で高感度にSARS-CoV-2検出するためには、どのようなプローブの組合せでもよい訳ではなく、特定のプローブの組合せを選択して用いることが重要であることが明らかとなった。
【0076】
図5は、配列番号4と配列番号3のプローブを組み合わせた試薬で核酸増幅及び融解曲線解析によってSARS-CoV-2RNAの検出を行った際に得られた検出グラフである。図5に示される通り、これらのプローブを組み合わせた試薬を用いることで60℃付近に一本の検出ピークが確認された。また、図6は配列番号6と配列番号3のプローブを組み合わせた試薬で核酸増幅及び融解曲線解析によってSARS-CoV-2RNAの検出を行った際に得られた検出グラフである。図5の検出ピークに比べると蛍光値がやや低いものの、配列番号6と配列番号3のプローブを組み合わせた場合でも、検出ピークを確認できることが確認された。
【0077】
〔試験例3:核酸プローブの組合せによるSARS-CoV-2検出評価〕
試験例1及び2で確認されたプローブの組合せによる効果が、配列番号3のプローブを他のプローブに変えた場合でも得られるのかを確認するため、以下の試験を行った。具体的に、本試験では、配列番号3、12~22、及び29のプローブをそれぞれ単独で用いた場合と、当該プローブを配列番号2のプローブと組み合わせた場合で検出を行い、それらを比較することで組合せによる相乗効果の有無を調べた。
(1)試料の調製
SARS-CoV-2の陽性コントロールRNA(EDX SARS-CoV-2 Standard(バイオ・ラッド ラボラトリーズ株式会社))を滅菌水で希釈し、10コピー/テストとなるように調製し、試料とした。
(2)逆転写、核酸増幅、融解曲線解析、及び判定
上記試料をそれぞれ下記試薬に添加して、下記条件によりSARS-CoV-2の検出を行った。逆転写、核酸増幅及び融解曲線解析には東洋紡製GENECUBE(登録商標)を使用した。
【0078】
(試薬)
配列番号3及び12~22のプローブ並びに配列番号2のプローブをそれぞれ用意し、ジーンキューブ(登録商標)テストベーシック(東洋紡社製)及びReverTra Ace(登録商標)を使用して以下の溶液を調製した。各プローブは、配列番号3、12~22、及び29のプローブをそれぞれ単独で又は配列番号2のプローブと組み合わせて使用した。配列番号2のプローブを組み合わせて使用する場合には、配列番号25及び配列番号26のプライマーセットも使用した。ジーンキューブ(登録商標)テストベーシック(東洋紡社製)及びReverTra Ace(登録商標)は、それぞれの取扱説明書に記載の通りに使用量を調整して使用した(ReverTra Ace(登録商標)は0.1U/μLで使用)。試薬には、核酸増幅が正常に行われたかを確認するための既知配列のインターナルコントロール(IC)も添加した。
(配列番号3、配列番号12~22又は配列番号29のプローブを単独で使用する場合)
0.5μM 配列番号23で示されるプライマー
3.0μM 配列番号24で示されるプライマー
0.25μM 配列番号3及び12~22のいずれかで示されるプローブ
(5’又は3’末端をBODIPY-FLで標識)
(配列番号3、配列番号12~22又は配列番号29のプローブを配列番号2と組み合わせて使用する場合)
0.5μM 配列番号23で示されるプライマー
3.0μM 配列番号24で示されるプライマー
0.25μM 配列番号3、12~22、及び29のいずれかで示されるプローブ
(5’又は3’末端をBODIPY-FLで標識)
0.5μM 配列番号25で示されるプライマー
3.0μM 配列番号26で示されるプライマー
0.25μM 配列番号2で示されるプローブ
(3’末端をBODIPY-FLで標識)
【0079】
(逆転写、核酸増幅及び融解曲線解析)
42℃・2分
97℃・15秒
(以上1サイクル)
97℃・1秒
58℃・3秒
63℃・5秒
(以上50サイクル)
94℃・30秒
39℃・30秒
40℃~75℃(0.09℃/秒で温度上昇)
上記の逆転写反応開始から融解曲線解析終了までに要した時間は、35分間であった。
【0080】
(3)結果
配列番号3、12~22、及び29のプローブをそれぞれ単独で使用する場合の検出結果を以下の表4に示し、配列番号3、12~22、及び29のプローブをそれぞれ配列番号2のプローブと組み合わせて使用する場合の検出結果を以下の表5に示す。
【0081】
【表4】
【0082】
【表5】
【0083】
表4及び5の結果に示されるように、試験例1及び2と同様に、2つのプローブを組合せの中には、最大蛍光変化率が大幅に向上する組合せがあることが示された。これらの結果から、配列番号2のプローブ又はそれと同様の効果を奏することが確認されている、配列番号4~6及び8~11のプローブのそれぞれと組み合わせるプローブとしては、配列番号3、13、14、16~22、及び29のいずれかのプローブが好ましく、なかでも配列番号3、14、16~18、及び29のいずれかのプローブを組み合わせて使用することで特に高い最大蛍光変化率を達成でき、より高感度な検出が可能になることが明らかとなった。
【0084】
図7は、配列番号3と配列番号2のプローブを組み合わせた試薬で核酸増幅及び融解曲線解析によってSARS-CoV-2RNAの検出を行った際に得られた検出グラフである。図7に示される通り、これらのプローブを組み合わせた試薬を用いることで60℃付近に一本の検出ピークが確認された。また、図8は配列番号12と配列番号2のプローブを組み合わせた試薬で核酸増幅及び融解曲線解析によってSARS-CoV-2RNAの検出を行った際に得られた検出グラフである。図8に示される通り、これらのプローブを組み合わせた試薬を用いると検出ピーク波形の乱れが生じ、最大蛍光変化率の値が低下することが認められた。
【0085】
〔試験例4:核酸プローブの組合せによるSARS-CoV-2陽性臨床検体の検出〕
(1)試料の調製
日常診療において、SARS-CoV-2と診断された被験者の鼻咽頭拭い液(濃度未知の陽性試料)10検体を試料として用いた。まず、1.5mLチューブにプロテイナーゼK溶液(関東化学)10μLを分注し、各被験者の鼻咽頭拭い液を加えて混和した。次いで、これらの混和液を65℃で5分間加熱した後、更に95℃で5分間加熱し、その後十分に冷ました反応液を、ジーンキューブ専用溶解液(東洋紡製)と等量混合して検体調製液とした。なおこの試料は、核酸精製処理を行っていないことから、試料由来の夾雑物質を含む試料に相当する。
(2)逆転写、核酸増幅、融解曲線解析、及び判定
上記試料をそれぞれ下記試薬に添加して、下記条件によりSARS-CoV-2の検出を行った。逆転写、核酸増幅及び融解曲線解析には東洋紡製GENECUBE(登録商標)を使用した。
【0086】
(試薬)
プローブセットとして、配列番号1と配列番号2の組合せ、及び、配列番号29と配列番号2の組合せをそれぞれ用意し、ジーンキューブ(登録商標)テストベーシック(東洋紡社製)及びReverTra Ace(登録商標)を使用して以下の溶液を調製した。ジーンキューブ(登録商標)テストベーシック(東洋紡社製)及びReverTra Ace(登録商標)は、それぞれの取扱説明書に記載の通りに使用量を調整して使用した(ReverTra Ace(登録商標)は0.1U/μLで使用)。試薬には、核酸増幅が正常に行われたかを確認するための既知配列のインターナルコントロール(IC)も添加した。
0.5μM 配列番号23で示されるプライマー
3.0μM 配列番号24で示されるプライマー
0.25μM 配列番号1又は29で示されるプローブ
(5’又は3’末端をBODIPY-FLで標識)
0.5μM 配列番号25で示されるプライマー
3.0μM 配列番号26で示されるプライマー
0.25μM 配列番号2で示されるプローブ(3’末端をBODIPY-FLで標識)
【0087】
(逆転写、核酸増幅及び融解曲線解析)
42℃・2分
97℃・15秒
(以上1サイクル)
97℃・1秒
58℃・3秒
63℃・5秒
(以上50サイクル)
94℃・30秒
39℃・30秒
40℃~75℃(0.09℃/秒で温度上昇)
上記の逆転写反応開始から融解曲線解析終了までに要した時間は、35分間であった。
【0088】
(3)結果
代表として、配列番号29と配列番号2のプローブを組み合わせた試薬で検体No.2を測定した結果のグラフを図9に示す。配列番号1と配列番号2のプローブを組み合わせた試薬、及び、配列番号29と配列番号2のプローブを組み合わせた試薬のそれぞれで核酸増幅及び融解曲線解析によって10件のSARS-CoV-2陽性検体の検出を行った際の結果を表6に示す。
【0089】
【表6】
【0090】
表6に示される通り、濃度未知の陽性検体10件を配列番号1と配列番号2の組合せ、及び、配列番号29と配列番号2の組合せでそれぞれ測定したところ、配列番号29と配列番号2の組合せではすべて陽性と判定されたが、配列番号1と配列番号2の組合せでは1検体陰性と判定された。また、現在ではオミクロン株の感染が主流となっていることから配列番号1と配列番号2の組合せでは1検体を除いて検出ピークの波形が乱れることがわかった。さらに、配列番号29と配列番号2の組合せの方が検出ピークの波形の乱れもなく、最大蛍光強度も高いことが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0091】
本発明の核酸プローブを組み合わせて使用することで、例えば融解曲線解析法において、簡便、迅速、且つ高感度に試料中に含まれ得るSARS-CoV-2を株間差なく正しく検出できる。本発明により、高い信頼性でSARS-CoV-2を検出することを可能とし、臨床診断等において大きく貢献することができる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
【配列表】
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