(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025003548
(43)【公開日】2025-01-09
(54)【発明の名称】光電変換薄膜素子およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
H10K 30/50 20230101AFI20241226BHJP
H10K 30/40 20230101ALI20241226BHJP
【FI】
H10K30/50
H10K30/40
【審査請求】有
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024185036
(22)【出願日】2024-10-21
(62)【分割の表示】P 2020099799の分割
【原出願日】2020-06-09
(71)【出願人】
【識別番号】591147694
【氏名又は名称】大阪ガスケミカル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100142594
【弁理士】
【氏名又は名称】阪中 浩
(74)【代理人】
【識別番号】100090686
【弁理士】
【氏名又は名称】鍬田 充生
(72)【発明者】
【氏名】奥 健夫
(72)【発明者】
【氏名】田口 雅也
(72)【発明者】
【氏名】神鳥 沙都季
(72)【発明者】
【氏名】西 康佑
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 厚志
(72)【発明者】
【氏名】大北 正信
(72)【発明者】
【氏名】南 聡史
(72)【発明者】
【氏名】福西 佐季子
(72)【発明者】
【氏名】立川 友晴
(57)【要約】
【課題】大気中で高温熱処理によりペロブスカイト層を形成しても、高い耐久性を示すペロブスカイト型の光電変換素子およびその製造方法を提供する。
【解決手段】電子輸送層の一方の面に、ペロブスカイト型構造を有する化合物を含むペロブスカイト層、p型半導体を含む電子ブロック層、ポリシランを含むポリシラン層、正孔輸送層が順次積層された光電変換素子を製造する。前記ポリシランは、下記式(2a)および(2b)
(式中、R
1~R
3は、それぞれ独立して水素原子、ヒドロキシル基、有機基またはシリル基を示す。)
で表される構造単位から選択される少なくとも1種の構造単位を含み、前記ポリシランの割合は、前記ポリシラン層全体に対して70~100質量%である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
電子輸送層と、ペロブスカイト型構造を有する化合物を含むペロブスカイト層と、p型半導体を含む電子ブロック層と、ポリシランを含むポリシラン層と、正孔輸送層とを含む光電変換素子であって、
前記電子輸送層の一方の面に、前記ペロブスカイト層、前記電子ブロック層、前記ポリシラン層、前記正孔輸送層が順次積層されており、
前記ポリシランが、下記式(2a)および(2b)
【化1】
(式中、R
1~R
3は、それぞれ独立して水素原子、ヒドロキシル基、有機基またはシリル基を示す。)
で表される構造単位から選択される少なくとも1種の構造単位を含み、
前記ポリシランの割合が、前記ポリシラン層全体に対して70~100質量%である光電変換素子。
【請求項2】
前記式(2a)において、R1およびR2のうち、少なくとも一方がアリール基含有基であり、前記式(2b)において、R3がアリール基含有基である請求項1記載の光電変換素子。
【請求項3】
前記式(2a)で表される構造単位の割合が、前記ポリシラン全体に対して、50モル%以上である請求項1または2記載の光電変換素子。
【請求項4】
前記ポリシランが環状ポリシランである請求項1~3のいずれか一項に記載の光電変換素子。
【請求項5】
前記ペロブスカイト型構造を有する化合物が、下記式(1)
AMX3 (1)
(式中、Aは有機アンモニウム、アミジニウムおよびアルカリ金属イオンから選択される少なくとも一種を含む1価の陽イオンを示し、Mは周期表第14族元素および周期表第2族元素から選択される少なくとも一種の金属元素の2価の陽イオンを示し、Xはハロゲン化物イオンを示す。)
で表される化合物である請求項1~4のいずれか一項に記載の光電変換素子。
【請求項6】
前記式(1)におけるAとして、メチルアンモニウムと、C2-4アルキルアンモニウム、C1-4アミジニウム、ナトリウムイオン、カリウムイオン、ルビジウムイオンおよびセシウムイオンから選択される少なくとも一種の第2の1価の陽イオンとを含む請求項5記載の光電変換素子。
【請求項7】
前記メチルアンモニウムと、前記第2の1価の陽イオンの総量との割合が、前者/後者(モル比)=40/60~98/2である請求項6記載の光電変換素子。
【請求項8】
前記ペロブスカイト型構造を有する化合物が、前記式(1)におけるXとして、ヨウ化物イオンと、臭化物イオンおよび塩化物イオンから選択される少なくとも一種の第2のハロゲン化物イオンとを含む請求項5~7のいずれか一項に記載の光電変換素子。
【請求項9】
前記ヨウ化物イオンと、前記第2のハロゲン化物イオンの総量との割合が、前者/後者(モル比)=80/20~98/2である請求項8記載の光電変換素子。
【請求項10】
前記p型半導体が、下記式(1b)
MX2 (1b)
(式中、Mは周期表第14族元素および周期表第2族元素から選択される少なくとも一種の金属元素の2価の陽イオンを示し、Xは、ハロゲン化物イオンを示す。)
で表される化合物である請求項1~9のいずれか一項に記載の光電変換素子。
【請求項11】
電子輸送層の一方の面に、ペロブスカイト型構造を有する化合物を形成するためのペロブスカイト前駆体を含む膜を形成するペロブスカイト前駆体膜形成工程、前記ペロブスカイト前駆体を含む膜の上に、ポリシランを含むポリシラン層を積層して予備積層体を形成するポリシラン層形成工程と、ポリシラン層形成工程で得られた予備積層体を160~250℃で熱処理してペロブスカイト層、電子ブロック層およびポリシラン層を含む積層体を形成する熱処理工程と、前記熱処理工程で形成した積層体のポリシラン層の面に正孔輸送層を積層する正孔輸送層形成工程とを含む請求項1~10のいずれか一項に記載の光電変換素子の製造方法。
【請求項12】
前記ポリシラン層形成工程および前記熱処理工程を大気中で行う請求項11記載の製造方法。
【請求項13】
ペロブスカイト前駆体膜形成工程の前工程として、前記電子輸送層の一方の面に多孔質部を形成する多孔質部形成工程を含む請求項11または12記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ペロブスカイト型構造を有する化合物を含むペロブスカイト層を有する光電
変換薄膜素子(または光電変換素子)およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
化石燃料、原子力に代わる再生可能エネルギーとして、無尽蔵でクリーンな太陽光を電
気に変えることができる太陽光発電が大きく注目されている。しかし、価格が高い点が太
陽電池普及に対する一番の障害となっており、さらなる普及のためには、低コスト化・高
効率化が必要不可欠となっている。
【0003】
ペロブスカイト型構造を有する化合物を光吸収層として用いたペロブスカイト太陽電池
は、真空プロセスを必要とすることなく塗布などの容易な方法で成形可能であり、原料も
比較的安価であることから、従来の太陽電池に比べて製造コストを大幅に低減できるため
、精力的に開発が進められている。特に、高い発電効率を有しながら低コスト化・軽量化
が可能で、室内光の波長にも対応しているため、数年前から世界的に注目されており、例
えば、特許文献1~3では様々なペロブスカイト太陽電池が調製されている。
【0004】
一方、特許文献4~5には、ペロブスカイト層や正孔輸送層にポリシランを含む光電変
換素子について記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2020-13982号公報
【特許文献2】特開2019-38714号公報
【特許文献3】特開2019-12819号公報
【特許文献4】特開2018-98276号公報
【特許文献5】特開2019-68018号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ペロブスカイト太陽電池では、ペロブスカイト結晶(ペロブスカイト型構造)中のメチ
ルアンモニウム(CH3NH3
+)イオンの脱離などによるデバイス特性の不安定性が懸
念されている。このような結晶不安定性に起因して、製造過程(ペロブスカイト結晶を成
長させる工程)において熱処理温度が高すぎると変換効率の急速な低下を招くことから、
ペロブスカイト結晶(ペロブスカイト層)は、従来から、不活性ガス雰囲気中で100℃
程度の低い熱処理温度で作製されている。
【0007】
特許文献1~3のいずれの文献の実施例においても、光吸収層(ペロブスカイト層)や
正孔輸送層は、窒素ガスを充填したグローブボックス内で65~100℃程度の熱処理に
より調製されており、生産性を十分に向上できないのみならず、耐久性については具体的
に何ら記載されていない。
【0008】
また、特許文献4の実施例においても、ペロブスカイト層や正孔輸送層を100℃の熱
処理で形成しており、ガス雰囲気については何ら記載されていない。さらに、特許文献4
には高い光電変換効率(変換効率または発電効率)を示すことが記載されているが、耐久
性については具体的に何ら記載されていない。
【0009】
特許文献5の実施例には、ペロブスカイト層を大気雰囲気下、100℃の熱処理により
調製したことが記載され、ペロブスカイト層に対するポリシランの添加によりPbI2の
生成が抑制されたことが記載されている。しかし、耐久性の向上について具体的に記載さ
れていない。
【0010】
従って、本発明の目的は、大気中で高温熱処理によりペロブスカイト層を形成しても、
長期間に亘り変換効率を維持または向上できる(高い耐久性を示す)ペロブスカイト型の
光電変換素子およびその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、前記課題を達成するため鋭意検討した結果、ペロブスカイト層と、ポリ
シラン層と、前記ペロブスカイト層および前記ポリシラン層の間に介在する電子ブロック
層とを含む光電変換素子では、大気中で高温の熱処理を施して作製しても、長期間に亘り
変換効率を維持または向上できることを見いだし、本発明を完成した。
【0012】
すなわち、本発明の光電変換素子は、ペロブスカイト型構造を有する化合物を含むペロ
ブスカイト層と、ポリシランを含むポリシラン層と、前記ペロブスカイト層および前記ポ
リシラン層の間に介在し、かつp型半導体を含む電子ブロック層とを含んでいる。
【0013】
前記ポリシランは、下記式(2a)および(2b)で表される構造単位から選択される
少なくとも1種の構造単位を含んでいてもよい。
【0014】
【0015】
(式中、R1~R3は、それぞれ独立して水素原子、ヒドロキシル基、有機基またはシリ
ル基を示す)。
【0016】
前記式(2a)において、R1およびR2のうち、少なくとも一方がアリール基含有基
であり、前記式(2b)において、R3がアリール基含有基であってもよい。前記式(2
a)で表される構造単位の割合は、前記ポリシラン全体に対して、50モル%程度以上で
あってもよい。前記ポリシランは環状ポリシランであってもよい。前記ポリシランの割合
は、前記ポリシラン層全体に対して50~100質量%程度であってもよい。
【0017】
前記ペロブスカイト型構造を有する化合物は、下記式(1)で表される化合物であって
もよい。
【0018】
AMX3 (1)
(式中、Aは有機アンモニウム、アミジニウムおよびアルカリ金属イオンから選択される
少なくとも一種を含む1価の陽イオンを示し、Mは周期表第14族元素および周期表第2
族元素から選択される少なくとも一種の金属元素の2価の陽イオンを示し、Xはハロゲン
化物イオンを示す)。
【0019】
前記ペロブスカイト型構造を有する化合物は、前記式(1)におけるAとして、メチル
アンモニウムと、C2-4アルキルアンモニウム、C1-4アミジニウム、ナトリウムイ
オン、カリウムイオン、ルビジウムイオンおよびセシウムイオンから選択される少なくと
も一種の第2の1価の陽イオンとを含んでいてもよい。前記メチルアンモニウムと、前記
第2の1価の陽イオンの総量との割合は、前者/後者(モル比)=40/60~98/2
程度であってもよい。
【0020】
前記ペロブスカイト型構造を有する化合物が、前記式(1)におけるXとして、ヨウ化
物イオンと、臭化物イオンおよび塩化物イオンから選択される少なくとも一種の第2のハ
ロゲン化物イオンとを含んでいてもよい。前記ヨウ化物イオンと、前記第2のハロゲン化
物イオンの総量との割合は、前者/後者(モル比)=80/20~98/2程度であって
もよい。
【0021】
前記電子ブロック層に含まれる前記p型半導体は、下記式(1b)で表される化合物で
あってもよい。
【0022】
MX2 (1b)
(式中、MおよびXは、前記式(1)に同じ)。
【0023】
前記光電変換素子は、さらに、正孔輸送層を含んでいていてもよい。
【0024】
本発明は、前記ペロブスカイト型構造を有する化合物を形成するためのペロブスカイト
前駆体を含む膜の一方の面に、ポリシランを含むポリシラン層を積層して予備積層体を形
成するポリシラン層形成工程と、ポリシラン層形成工程で得られた予備積層体を熱処理し
てペロブスカイト層、電子ブロック層およびポリシラン層を含む積層体を形成する熱処理
工程とを含む前記光電変換素子の製造方法を包含する。また、前記製造方法は、前記熱処
理工程で得られた積層体のポリシラン層に正孔輸送層を積層する正孔輸送層形成工程をさ
らに含んでいてもよい。前記熱処理工程における熱処理温度は150~250℃程度であ
ってもよい。前記ポリシラン層形成工程および前記熱処理工程は大気中で行ってもよく、
さらに、前記正孔輸送層形成工程も大気中で行ってもよい。
【0025】
なお、本発明では、従たる目的として、以下の課題を解決してもよい。すなわち、本発
明の他の目的は、高い変換効率を示すペロブスカイト型の光電変換素子およびその製造方
法を提供することにある。
【0026】
本発明のさらに他の目的は、高い耐久性を示すペロブスカイト型の光電変換素子を簡便
にまたは効率よく(高い生産性で)製造する方法を提供することにある。
【0027】
なお、本明細書および特許請求の範囲において、置換基の炭素原子の数をC1、C6、
C10などで示すことがある。例えば、「C1アルキル基」は炭素数が1のアルキル基を
意味し、「C6-10アリール基」は炭素数が6~10のアリール基を意味する。
【発明の効果】
【0028】
本発明の光電変換素子(または太陽電池)は、ペロブスカイト型構造を有する化合物を
含むペロブスカイト層と、ポリシランを含むポリシラン層と、これらの層の間に介在し、
p型半導体を含む電子ブロック層とを有するため、大気中で高温熱処理によりペロブスカ
イト層を形成しても、長期間に亘って、変換効率を大きく低下することなく維持または向
上できる(高い耐久性を示す)。また、前記光電変換素子は高い変換効率を示すこともで
きる。さらに、本発明の方法では、高い耐久性を示すペロブスカイト型の光電変換素子を
簡便にまたは効率よく(高い生産性で)製造できる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【
図1】
図1は、実施例で作製した光電変換素子の概略図である。
【
図2】
図2は、実施例7および比較例4で作製した光電変換素子の作製後初期におけるX線回折パターンである。
【
図3】
図3は、実施例および比較例で作製した光電変換素子の光電変換効率の時間変化を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0030】
[光電変換素子の構成]
本発明の光電変換素子(ペロブスカイト型の光電変換素子)は、ペロブスカイト型構造
を有する化合物(単にペロブスカイト化合物ともいう)を含むペロブスカイト層と、ポリ
シランを含むポリシラン層とを少なくとも含んでおり、前記ペロブスカイト層および前記
ポリシラン層の間に介在し、かつp型半導体を含む電子ブロック層をさらに含むのが好ま
しい。
【0031】
前記光電変換素子は、例えば、第1の電極(透明電極)、電子輸送層(ETL)、正孔
(またはホール)輸送層(HTL)、第2の電極(金属または炭素電極)などをさらに含
んでいてもよい。代表的な構造としては、例えば、第1の電極/電子輸送層(ETL)/
ペロブスカイト層/電子ブロック層/ポリシラン層/正孔輸送層/第2の電極がこの順に
積層された平面ヘテロ接合型[またはPlanar型(順構造)];前記平面ヘテロ接合
型に対して、第1の電極と第2の電極との順序を入れ替えた逆構造型[またはPlana
r(OPV)型(逆構造)];前記平面ヘテロ接合型におけるペロブスカイト層の電子輸
送層との界面近傍において、電子輸送層に隣接して多孔質酸化物を含む多孔質部が形成さ
れ、この多孔質部にペロブスカイト型構造を有する化合物が浸入(または含浸)した層(
後述する第1のペロブスカイト層)を含むナノ構造型[またはMeso-porous型
(順構造)]などが挙げられる。光電変換素子の構造は、いずれの構造であってもよいが
、表面積が大きく、変換効率などの特性を向上しやすい観点から、通常、ナノ構造型、す
なわち、
図1に示すように、第1の電極1/電子輸送層2/多孔質部およびペロブスカイ
ト化合物を含む第1のペロブスカイト層3a/ペロブスカイト化合物を含む第2のペロブ
スカイト層3b/電子ブロック層4/ポリシラン層5/正孔輸送層6/第2の電極7がこ
の順に積層された構造であるのが好ましい。
【0032】
(ペロブスカイト層)
ペロブスカイト層(第1のペロブスカイト層3aおよび/または第2のペロブスカイト
層3b)は、少なくともペロブスカイト化合物を含んでいればよく、ペロブスカイト化合
物としては、下記式(1)で表されるペロブスカイト型構造を有する化合物が好ましい。
【0033】
AMX3 (1)
[式中、A(またはAサイト)は有機アンモニウム、アミジニウムおよびアルカリ金属イ
オンから選択される少なくとも一種を含む1価の陽イオン(1価のカチオン)を示し、M
(MサイトまたはBサイト)は周期表第14族元素および周期表第2族元素から選択され
る少なくとも一種の金属元素の2価の陽イオン(2価の金属イオン)を示し、X(または
Xサイト)はハロゲン化物イオン(ハロゲンアニオン)を示す]。
【0034】
前記式(1)において、Aで表される有機アンモニウムとしては、例えば、メチルアン
モニウム(CH3NH3またはMAともいう)、エチルアンモニウム(CH3CH2NH
3またはEAともいう)、n-プロピルアンモニウム、イソプロピルアンモニウム、n-
ブチルアンモニウム、イソブチルアンモニウム、s-ブチルアンモニウム、t-ブチルア
ンモニウムなどのアルキルアンモニウム、好ましくはC1-6アルキルアンモニウム;ア
ニリニウムなどのC6-10アリールアンモニウム;ベンジルアンモニウム、フェネチル
アンモニウムなどのC6-10アリールC1-6アルキルアンモニウムなどが挙げられる
。これらの有機アンモニウムは、単独でまたは2種以上組み合わせて含まれていてもよい
。
【0035】
Aで表されるアミジニウムとしては、例えば、ホルムアミジニウム[HC(NH2)2
またはFAともいう]、アセトアミジニウム、プロピオンアミジニウムなどのC1-6ア
ミジニウムなどが挙げられる。これらのアミジニウムは、単独でまたは2種以上組み合わ
せて含まれていてもよい。
【0036】
Aで表されるアルカリ金属イオンとしては、例えば、リチウムイオン、ナトリウムイオ
ン、カリウムイオン、ルビジウムイオン、セシウムイオンなどが挙げられ、これらのアル
カリ金属イオンは、単独でまたは2種以上組み合わせて含まれていてもよい。
【0037】
ペロブスカイト化合物は、これらのAで表される1価のカチオンを単独でまたは2種以
上組み合わせて含んでいてもよく、有機アンモニウムおよびアミジニウムから選択される
少なくとも1種を含む有機無機ペロブスカイト化合物であるのが好ましく、有機アンモニ
ウム、なかでもアルキルアンモニウムを少なくとも含むのがさらに好ましく、初期(素子
作製後の初期)または長期間経過後の変換効率(短絡電流密度および/または開放電圧)
を向上し易い観点からメチルアンモニウムを少なくとも含むのが特に好ましい。なお、メ
チルアンモニウムは脱離し易い不安定なイオンであるものの、イオン半径を考慮した場合
、アルカリ金属と比較して許容因子(ペロブスカイト構造の安定性を見積もる経験的指標
)を1に近づけ易く、立方晶構造として安定化し易いため、脱離を有効に抑制できれば、
メチルアンモニウムを含む方が安定な結晶構造を形成できる点で好ましい。
【0038】
A(Aサイト)におけるメチルアンモニウムの割合は、A全体に対して、例えば10モ
ル%程度以上、好ましい範囲としては、以下段階的に、30~100モル%、40~98
モル%、45~90モル%、50~80モル%である。Aがホルムアミジニウムなどのア
ミジニウムおよび/またはカリウムイオンなどのアルカリ金属イオンを含む場合、メチル
アンモニウムの割合は、A全体に対して、例えば55~75モル%であり、好ましくは6
0~70モル%である。Aがエチルアンモニウムなどの後述する炭素数2以上のアルキル
アンモニウムを含む場合、メチルアンモニウムの割合は、A全体に対して、例えば70~
98モル%、好ましくは80~96モル%、さらに好ましくは85~95モル%である。
メチルアンモニウムの割合が少なすぎると、初期または長期間経過後の変換効率(短絡電
流密度および/または開放電圧)が低下したり、結晶構造を安定化し難くなるおそれがあ
り、逆に多すぎると、耐久性を十分に向上できなかったり、初期の変換効率(短絡電流密
度および/または開放電圧)を向上し難くなるおそれがある。
【0039】
Aとしてメチルアンモニウムを含むペロブスカイト化合物は、メチルアンモニウムが脱
離し易いため結晶構造が不安定で耐久性が低いことが知られているが、本発明の光電変換
素子では、ペロブスカイト層に電子ブロック層を介してポリシラン層が積層されているた
め、Aサイトがメチルアンモニウムを含んでいても脱離を有効に抑制でき、耐久性を大き
く向上できるようである。
【0040】
また、Aがメチルアンモニウム(第1の1価の陽イオンともいう)を含む場合、Aはメ
チルアンモニウム単独であってもよいが、メチルアンモニウムとは異なる他の1価の陽イ
オンと組み合わせて含んでいてもよい。Aは、ペロブスカイト結晶構造を安定化して耐久
性を向上できる観点から、炭素数2以上のアルキルアンモニウム、アミジニウムなどの許
容因子(またはトレランスファクター)を向上できる巨大な陽イオン;および、室温で脱
離しないアルカリ金属イオンから選択される少なくとも一種の1価の陽イオン(第2の1
価の陽イオンともいう)を含むのが好ましい。
【0041】
炭素数2以上のアルキルアンモニウムとしては、例えば、有機アンモニウムとして例示
したアルキルアンモニウム(ただし、メチルアンモニウムを除く)などのC2-6アルキ
ルアンモニウムなどが挙げられ、好ましくはC2-4アルキルアンモニウム、さらに好ま
しくはC2-3アルキルアンモニウムであり、特にエチルアンモニウムが好ましい。
【0042】
アミジニウムとしては、前記例示と同様のものが挙げられ、好ましくはC1-4アミジ
ニウム、より好ましくはC1-3アミジニウム、さらに好ましくはC1-2アミジニウム
であり、特にホルムアミジニウムが好ましい。
【0043】
室温、例えば25℃程度で脱離しないアルカリ金属イオンとしては、例えば、ナトリウ
ムイオン、カリウムイオン、ルビジウムイオン、セシウムイオンなどが挙げられ、好まし
くはカリウムイオンである。
【0044】
Aは、これらの第2の1価の陽イオンを単独でまたは2種以上組み合わせて含んでいて
もよい。これらの第2の1価の陽イオンのうち、C2-4アルキルアンモニウム、C1-
4アミジニウム、ナトリウムイオン、カリウムイオン、ルビジウムイオンおよびセシウム
イオンから選択される少なくとも一種を含むのが好ましく;C2-3アルキルアンモニウ
ム、C1-3アミジニウム、ナトリウムイオンおよびカリウムイオンから選択される少な
くとも一種を含むのがより好ましく;エチルアンモニウム、ホルムアミジニウムおよびカ
リウムイオンから選択される少なくとも一種を含むのがさらに好ましく;なかでも、エチ
ルアンモニウムを含むか、またはホルムアミジニウムおよびカリウムイオンを含むのが好
ましく;ホルムアミジニウムおよびカリウムイオンを含むのが特に好ましい。
【0045】
メチルアンモニウム(第1の1価の陽イオン)と、第2の1価の陽イオンの総量との割
合は、例えば、前者/後者(モル比)=10/90~100/0程度の範囲から選択して
もよく、好ましい範囲としては、以下段階的に、30/70~100/0、40/60~
98/2、45/55~90/10、50/50~80/20である。Aがホルムアミジ
ニウムなどのアミジニウムおよび/またはカリウムイオンなどのアルカリ金属イオンを含
む場合、前記割合は、例えば、前者/後者(モル比)=55/45~75/25、さらに
好ましくは60/40~70/30である。Aがエチルアンモニウムなどの炭素数2以上
のアルキルアンモニウムを含む場合、前記割合は、例えば、前者/後者(モル比)=70
/30~98/2、好ましくは80/20~96/4、さらに好ましくは85/15~9
5/5である。メチルアンモニウムの割合が少なすぎると、初期または長期間経過後の変
換効率(短絡電流密度および/または開放電圧)が低下したり、結晶構造を安定化し難く
なるおそれがあり、第2の1価の陽イオンの割合が少なすぎると、耐久性を十分に向上で
きないおそれがある。また、第2の1価の陽イオンとして、エチルアンモニウムなどの炭
素数2以上のアルキルアンモニウムの割合が多すぎると、許容因子が1を超えて結晶構造
が不安定になるおそれがある。
【0046】
また、第2の1価の陽イオンとして、ホルムアミジニウムなどのアミジニウムと、カリ
ウムイオンなどのアルカリ金属イオンとを組み合わせる場合、両者の割合は、例えば、前
者/後者(モル比)=1/99~99.9/0.1程度の範囲から選択してもよく、好ま
しい範囲としては、以下段階的に、50/50~99.5/0.5、60/40~99/
1、70/30~98/2、75/25~95/5であり、さらに好ましくは80/20
~90/10である。前記割合は、ホルムアミジニウムとカリウムイオンとの割合である
のが好ましい。ホルムアミジニウムなどのアミジニウムの割合が少なすぎると、許容因子
が小さくなって結晶構造が不安定になるおそれがあり、カリウムイオンなどのアルカリ金
属イオンの割合が少なすぎると、MAなどの不安定なイオンが脱離し易くなるおそれがあ
る。
【0047】
前記式(1)において、Mで表される2価の金属イオンに対応する元素としては、例え
ば、鉛(Pb)、スズ(Sn)、ゲルマニウム(Ge)などの周期表第14族元素;ラジ
ウム(Ra)、バリウム(Ba)、ストロンチウム(Sr)、カルシウム(Ca)、マグ
ネシウム(Mg)などの周期表第2族元素(またはアルカリ土類金属)などが挙げられる
。Mは、これらの2価の金属イオンを単独でまたは2種以上組み合わせて含んでいてもよ
い。これらのMに対応する元素のうち、周期表第14族元素としてはPb、Sn、Geが
好ましく、周期表第2族元素としてはBa、Sr、Ca、Mgが好ましく、なかでも、P
b、Snなどの周期表第14族元素が好ましく、Pbが特に好ましい。
【0048】
M(Mサイト)におけるPbイオンの割合は、M全体に対して、例えば10モル%程度
以上、好ましい範囲としては、以下段階的に、30モル%以上、50モル%以上、70モ
ル%以上、90モル%以上であり、実質的に100モル%であるのがさらに好ましい。
【0049】
前記式(1)において、Xで表されるハロゲン化物イオン(ハロゲンアニオン)に対応
するハロゲン元素としては、例えば、ヨウ素(I)、臭素(Br)、塩素(Cl)などが
挙げられる。Xは、これらのハロゲン化物イオンを単独でまたは2種以上組み合わせて含
んでいてもよい。これらのハロゲン化物イオンのうち、ヨウ化物イオン(I-)が好まし
い。
【0050】
X(Xサイト)におけるヨウ化物イオンの割合は、X全体に対して、例えば10モル%
程度以上、好ましい範囲としては、以下段階的に、30モル%以上、50モル%以上、7
0モル%以上、90モル%以上であり、さらに好ましくは95モル%以上、実質的に10
0モル%であるのが好ましい。ヨウ化物イオンの割合が少なすぎると、ペロブスカイト結
晶が形成できないおそれがある。
【0051】
また、Xがヨウ化物イオン(第1のハロゲン化物イオンともいう)を含む場合、ヨウ化
物イオンとは異なる他のハロゲン化物イオン(第2のハロゲン化物イオンともいう)を組
み合わせて含んでいると、初期の変換効率(短絡電流密度および/または開放電圧)や耐
久性を向上できる場合がある。このような第2のハロゲン化物イオンとしては、臭化物イ
オン(Br-)、塩化物イオン(Cl-)などが挙げられる。Xは、第2のハロゲン化物
イオンを単独でまたは2種以上組み合わせて含んでいてもよい。好ましい第2のハロゲン
化物イオンは臭化物イオンである。
【0052】
ヨウ化物イオン(第1のハロゲン化物イオン)と、第2のハロゲン化物イオンの総量と
の割合は、例えば、前者/後者(モル比)=10/90~100/0程度の範囲から選択
してもよく、好ましい範囲としては、以下段階的に、30/70~100/0、50/5
0~100/0、70/30~99/1、80/20~98/2、90/10~97/3
であり、さらに好ましくは95/5~97/3である。ヨウ化物イオンの割合が少なすぎ
ると、ペロブスカイト結晶が形成しないおそれがあり、第2のハロゲン化物イオンの割合
が少なすぎると、初期の変換効率(短絡電流密度および/または開放電圧)や耐久性を十
分に向上できないおそれがある。
【0053】
前記式(1)で表される代表的なペロブスカイト化合物としては、Aがメチルアンモニ
ウム(MA)、エチルアンモニウム(EA)、ホルムアミジニウム(FA)およびカリウ
ム(K)イオンから選択される少なくとも一種を含み、Mが鉛(Pb)イオンを含み、X
がヨウ素(I)、臭素(Br)、および塩素(Cl)から選択される少なくとも一種のハ
ロゲン元素のアニオンを含む化合物などが挙げられ、例えば、MAPbI3、MAPbB
r3、MAPbCl3、MAPbI3-x1Brx1、MAPbI3-x2Clx2、M
APbBr3-x2Clx2などのAがメチルアンモニウム(MA)で形成される化合物
;MA1-a1EAa1PbI3、MA1-a1EAa1PbI3-x1Brx1などの
Aがメチルアンモニウム(MA)およびエチルアンモニウム(EA)で形成される化合物
;MA1-a2FAa2PbI3、MA1-a2FAa2PbI3-x1Brx1などの
Aがメチルアンモニウム(MA)およびホルムアミジニウム(FA)で形成される化合物
;MA1-a2-a3FAa2Ka3PbI3、MA1-a2-a3FAa2Ka3Pb
I3-x1Brx1などのAがメチルアンモニウム(MA)、ホルムアミジニウム(FA
)およびカリウム(K)イオンで形成される化合物などが挙げられる。なお、前記係数a
1、a2、a3、x1およびx2は、それぞれ独立して0を超え1未満である。
【0054】
これらのペロブスカイト化合物は、単独でまたは2種以上組み合わせてもよい。これら
のペロブスカイト化合物のうち、Aが少なくともメチルアンモニウム(MA)を含み、M
が少なくとも鉛(Pb)イオンを含み、Xが少なくともヨウ素(I)アニオンを含む化合
物が好ましく;なかでも、耐久性に特に優れる観点から、Aがメチルアンモニウム(MA
)と、エチルアンモニウム(EA)、ホルムアミジニウム(FA)およびカリウム(K)
から選択される少なくとも一種とを含む化合物が好ましく;Aがメチルアンモニウム(M
A)およびエチルアンモニウム(EA)で形成される化合物か、または、Aがメチルアン
モニウム(MA)、ホルムアミジニウム(FA)およびカリウム(K)で形成される化合
物であるのがより好ましく;Aがメチルアンモニウム(MA)、ホルムアミジニウム(F
A)およびカリウム(K)で形成される化合物がさらに好ましく、MA1-a2-a3F
Aa2Ka3PbI3が特に好ましい。
【0055】
なお、Aがメチルアンモニウム(MA)と、エチルアンモニウム(EA)などの炭素数
2以上のアルキルアンモニウムとで形成されるペロブスカイト化合物を用いると、素子の
短絡電流密度を向上し易く;Aがメチルアンモニウム(MA)と、ホルムアミジニウム(
FA)などのアミジニウムと、カリウム(K)などのアルカリ金属イオンとで形成される
ペロブスカイト化合物を用いると、素子の開放電圧を向上し易いようである。
【0056】
なお、前記式(1)で表されるペロブスカイト化合物の割合は、ペロブスカイト層中の
ペロブスカイト化合物全体に対して、例えば10質量%程度以上の範囲から選択してもよ
く、好ましい範囲としては、以下段階的に、30~100質量%、50~100質量%、
70~100質量%、90~100質量%、95~100質量%であり、実質的に100
質量%であるのがさらに好ましい。
【0057】
本発明の光電変換素子では、MAなどの不安定なイオンの脱離が有効に抑制されるため
か、従来のペロブスカイト結晶と同じ組成であっても、格子定数aが若干拡大されるよう
である。例えば、ペロブスカイト化合物がMAPbI3である場合、従来のMAPbI3
の格子定数aが6.276~6.282Å程度であるのに対して、本発明の光電変換素子
のペロブスカイト化合物の格子定数aは、例えば6.286~6.292Å、好ましくは
6.288~6.290Åである。そのため、本発明の光電変換素子のペロブスカイト化
合物の格子定数aは、従来のペロブスカイト化合物(100℃程度の熱処理により調製し
た同一組成のペロブスカイト化合物)の格子定数aに対して、例えば0.003~0.0
15Å、好ましくは0.005~0.01Å大きい。
【0058】
なお、本明細書および特許請求の範囲において、格子定数aは、後述する実施例に記載
の方法により測定できる。
【0059】
光電変換素子が前記ナノ構造型である場合、ペロブスカイト層は、電子輸送層に隣接し
て多孔質酸化物を含む多孔質部、およびこの多孔質部に浸入(または含浸)したペロブス
カイト化合物で形成された第1のペロブスカイト層と、この第1のペロブスカイト層に積
層され(連なって)、ペロブスカイト化合物で形成された第2のペロブスカイト層とを含
んでいてもよい。
【0060】
第1のペロブスカイト層において、多孔質部を構成する多孔質酸化物として代表的には
、例えば、酸化チタン(IV)、酸化亜鉛(II)、酸化スズ(IV)、酸化アルミニウ
ム、酸化ジルコニウム(IV)などの金属酸化物が挙げられる。これらの金属酸化物は、
単独でまたは2種以上組み合わせて含まれていてもよい。これらの金属酸化物のうち、酸
化チタン(IV)、酸化亜鉛(II)、酸化スズ(IV)などの光活性能を有する(電荷
輸送に関与する)金属酸化物が好ましく、酸化チタン(IV)が特に好ましい。多孔質酸
化物は、後述する電子輸送層を形成する電子輸送材料と異なっていてもよいが、通常、同
一であることが多い。
【0061】
第1のペロブスカイト層の平均厚みは、例えば100~1000nm程度の範囲から選
択でき、好ましい範囲としては、以下段階的に、150~980nm、200~950n
m、300~900nmである。第1のペロブスカイト層(または多孔質部)の平均厚み
が大きすぎると、製造効率が低下するおそれがあり、小さすぎると変換効率が低下するお
それがある。
【0062】
なお、本願明細書および特許請求の範囲において、ペロブスカイト層、ポリシラン層、
正孔輸送層などの各層の平均厚みは、透過型電子顕微鏡(TEM)や原子間力顕微鏡(A
FM)などにより測定してもよい。
【0063】
第2のペロブスカイト層は、多孔質部を含むことなく、ペロブスカイト化合物を含んで
いる。また、第2のペロブスカイト層に用いるペロブスカイト化合物の種類は、第1のペ
ロブスカイト層に用いるペロブスカイト化合物の種類と互いに同一または異なっていても
よく、通常、同一である。
【0064】
第2のペロブスカイト層の平均厚み(光電変換素子が平面ヘテロ接合型または逆構造型
の場合は、ペロブスカイト層の平均厚み)は、例えば5~1000nm程度の範囲から選
択でき、例えば10~500nm、好ましくは30~300nm、さらに好ましくは50
~200nmである。第2のペロブスカイト層の平均厚みが大きすぎると、製造効率およ
び変換効率が低下するおそれがある。
【0065】
(ポリシラン層)
ポリシラン層は、ホール輸送能力および耐熱性に優れるポリシランを少なくとも含む層
である。本発明の光電変換素子では、ポリシラン層が前記ペロブスカイト層上に電子ブロ
ック層を介して積層されているため、ペロブスカイト層がメチルアンモニウムなどの不安
定な(または脱離し易い)イオンを含んでいても耐久性を大きく向上でき、初期の変換効
率を長期間に亘って、大きく低下させることなく維持または向上できる。
【0066】
この理由は定かではないが、ポリシランがペロブスカイト層上に電子ブロック層を介し
て緻密な界面構造(ポリシラン層)を形成できることに起因すると考えられる。すなわち
、緻密なポリシラン層がメチルアンモニウムなどの不安定なイオンの脱離を有効に抑制可
能な保護膜(保護層)として機能(作用)する一方で、ホールに対しては、ポリシランの
比較的高いホール輸送能力で効率よく輸送可能なことが影響するものと推測される。特に
、後述する熱処理工程(結晶成長工程)において、高温環境下、例えばポリシランの融点
付近の温度で熱処理すると、ポリシランが融解または反応性の高い状態となり、より緻密
なポリシラン層が形成されると考えられる。
【0067】
一方、特許文献4~5に記載の光電変換素子では、ポリシランを含んでいても不安定な
イオンの脱離を有効に抑制できず、長期間に亘って変換効率を十分に維持または向上し難
いようである。特に、特許文献5では、ペロブスカイト層にポリシランを添加することで
素子の劣化原因となるPbI2などの生成を防止して素子の劣化を抑制できることが記載
されているものの、ペロブスカイト層表面からメチルアンモニウムなどの脱離を有効に抑
制できない。
【0068】
ポリシランは、Si-Si結合を有する直鎖状、環状、分岐鎖状、および/または網目
状(またはネットワーク状)の化合物であり、下記式(2a)および(2b)で表される
構造単位のうち少なくとも1種の構造単位を有するのが好ましい。
【0069】
【0070】
(式中、R1~R3は、それぞれ独立して水素原子、ヒドロキシル基、有機基またはシリ
ル基を示す)。
【0071】
前記式(2a)および(2b)において、基(または側鎖)R1~R3で表される有機
基としては、例えば、アルキル基、アルケニル基、シクロアルキル基、シクロアルケニル
基、アリール基、アラルキル基などの炭化水素基;これらの炭化水素基に対応するエーテ
ル基、例えば、アルコキシ基、シクロアルキルオキシ基、アリールオキシ基、アラルキル
オキシ基などが挙げられる。通常、前記有機基は、アルキル基、アルケニル基、シクロア
ルキル基、アリール基、アラルキル基などの炭化水素基である場合が多い。また、水素原
子やヒドロキシル基、アルコキシ基、シリル基などは末端に置換している場合が多い。
【0072】
前記式(2a)および(2b)のR1~R3において、アルキル基としては、メチル基
、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、i-ブチル基、s-ブチル基
、t-ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基などのC1-14アルキル基などが挙げられ、
好ましくはC1-10アルキル基、さらに好ましくはC1-6アルキル基である。
【0073】
アルコキシ基としては、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、イソプロポキシ基、
n-ブトキシ基、i-ブトキシ基、s-ブトキシ基、t-ブトキシ基、ペンチルオキシ基
などのC1-14アルコキシ基などが挙げられる。
【0074】
アルケニル基としては、ビニル基、アリル基、ブテニル基、ペンテニル基などのC2-
14アルケニル基などが挙げられる。
【0075】
シクロアルキル基としては、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、メチルシクロヘキ
シル基などのC5-14シクロアルキル基などが挙げられる。
【0076】
シクロアルキルオキシ基としては、シクロペンチルオキシ基、シクロヘキシルオキシ基
などのC5-14シクロアルキルオキシ基などが挙げられる。
【0077】
シクロアルケニル基としては、シクロペンテニル基、シクロヘキセニル基などのC5-
14シクロアルケニル基などが挙げられる。
【0078】
アリール基としては、フェニル基、メチルフェニル基(トリル基)、ジメチルフェニル
基(キシリル基)、ナフチル基などのC6-20アリール基などが挙げられ、好ましくは
C6-15アリール基、より好ましくはC6-12アリール基、さらに好ましくはフェニ
ル基などのC6-10アリール基である。
【0079】
アリールオキシ基としては、フェノキシ基、ナフチルオキシ基などのC6-20アリー
ルオキシ基などが挙げられる。
【0080】
アラルキル基としては、ベンジル基、フェネチル基、フェニルプロピル基などのC6-
20アリール-C1-6アルキル基などが挙げられる。
【0081】
アラルキルオキシ基としては、ベンジルオキシ基、フェネチルオキシ基、フェニルプロ
ピルオキシ基などのC6-20アリール-C1-6アルキルオキシ基などが挙げられる。
【0082】
シリル基としては、シリル基、ジシラニル基、トリシラニル基などのSi1-10シラ
ニル基などが挙げられ、好ましくはSi1-6シラニル基である。
【0083】
また、R1~R3が、アルキル基、アリール基などの有機基またはシリル基である場合
には、その水素原子の少なくとも1つが、置換基(または官能基)により置換されていて
もよい。このような置換基(または官能基)は、例えば、ヒドロキシル基、アルキル基、
アリール基、アルコキシ基などの前記例示の基と同様であってもよい。
【0084】
また、式(2a)において、R1およびR2の種類は、互いに異なっていてもよく、同
一であるのが好ましい。
【0085】
これらのR1~R3のうち、アルキル基、例えば、メチル基などのC1-4アルキル基
や;アリール基などのアリール基含有基、例えば、フェニル基などのC6-20アリール
基などであるのが好ましく、電荷分離後の正孔(ホール)輸送効率を向上し易い観点から
、少なくともアリール基含有基を含むのがさらに好ましい。すなわち、前記式(2a)で
は、R1およびR2のうち、少なくとも一方がアリール基含有基であるのが好ましく、R
1およびR2の双方がアリール基含有基であるのがさらに好ましい。また、前記式(2b
)では、R3がアリール基含有基であるのが好ましい。
【0086】
アリール基含有基としては、例えば、前記有機基として例示したアリール基、アラルキ
ル基、アリールオキシ基、アラルキルオキシ基と同様の基が挙げられる。好ましいアリー
ル基含有基としては、フェニル基、ナフチル基、ビフェニリル基などのC6-12アリー
ル基、C6-12アリール-C1-6アルキル基、C6-12アリールオキシ基、C6-
12アリール-C1-6アルコキシ基が挙げられ、さらに好ましくはC6-10アリール
基、C6-10アリール-C1-4アルキル基、C6-10アリールオキシ基、C6-1
0アリール-C1-4アルコキシ基である。これらのアリール含有基のなかでもC6-1
0アリール基などのアリール基が好ましく、フェニル基が特に好ましい。
【0087】
好ましい構造単位としては、前記式(2a)において、R1およびR2のうち、一方が
アリール基含有基、他方がアルキル基である構造単位;R1およびR2の双方がアリール
基含有基である構造単位;前記式(2b)において、R3がアリール基含有基である構造
単位が挙げられる。
【0088】
前記式(2a)において、R1およびR2のうち、一方がアリール基含有基、他方がア
ルキル基である構造単位としては、例えば、アルキル-アリール-シラン単位などが挙げ
られ、具体的には、メチル-フェニル-シラン単位などのC1-6アルキル-C6-10
アリール-シラン単位などが挙げられる。
【0089】
前記式(2a)において、R1およびR2の双方がアリール基含有基である構造単位と
しては、例えば、ジアリール-シラン単位などが挙げられ、具体的には、ジフェニル-シ
ラン単位などのジC6-10アリール-シラン単位などが挙げられる。
【0090】
前記式(2b)において、R3がアリール基含有基である構造単位としては、例えば、
アリール-シラン単位などが挙げられ、具体的には、フェニル-シラン単位などのC6-
10アリール-シラン単位などが挙げられる。
【0091】
これらの構造単位は、単独でまたは2種以上組み合わせてもよい。これらの構造単位の
なかでも、式(2a)において、R1およびR2の双方がアリール基含有基である構造単
位が好ましく、ジフェニル-シラン単位が特に好ましい。
【0092】
ポリシランの側鎖におけるアリール基含有基の割合は、ポリシランの側鎖全体(例えば
、R1~R3の総量)に対して、例えば10モル%程度以上の範囲から選択してもよく、
好ましい範囲としては、以下段階的に、30モル%以上、50モル%以上、60モル%以
上、70モル%以上、80モル%以上、90モル%以上、95モル%以上であり、実質的
に100モル%が好ましい。なお、前記割合は、例えば30~100モル%程度の範囲か
ら選択してもよく、例えば60~99.9モル%、好ましくは80~99モル%、さらに
好ましくは90~95モル%であってもよい。アリール基含有基の割合が少なすぎると、
光電変換効率が低下するおそれがある。
【0093】
なお、ポリシランが直鎖状、分岐鎖状、網目状などの非環状構造である場合、末端は、
封止されていてもよく、封止されていなくてもよい。末端が封止されていないポリシラン
において、末端のケイ素原子は、通常、メチル基、フェニル基などの前記有機基に加えて
、水素原子、ヒドロキシル基、塩素原子などのハロゲン原子などを有する場合が多く、特
にヒドロキシル基を有する場合が多い。また、ポリシランは、例えば、ラジカル重合性基
などの反応性基を含んでいてもよく、実質的に含んでいなくてもよい。
【0094】
代表的なポリシランとしては、例えば、前記式(2a)で表される構造単位を有する直
鎖状または環状ポリシラン、前記式(2b)で表される構造単位を有するポリシラン(網
目状ポリシラン)、前記式(2a)および(2b)で表される構造単位を組み合わせて有
するポリシラン(分岐鎖状または網目状ポリシラン)などが挙げられる。これらのポリシ
ランにおいて、前記式(2a)および(2b)で表される構造単位は、それぞれ、単独で
または2種以上組み合わせてもよい。なお、分岐鎖状または網目状ポリシランは、下記式
(2c)で表される構造単位をさらに含んでいてもよい。
【0095】
【0096】
ポリシランの形状は直鎖状、環状、分岐鎖状、網目状のいずれであってもよいが、直鎖
状、環状または網目状であるのが好ましく、直鎖状または環状、特に環状であると変換効
率を向上し易いようである。そのため、ポリシランは、式(2a)および(2b)で表さ
れる構造単位のうち、少なくとも式(2a)で表される構造単位を含むのが好ましい。
【0097】
ポリシランが式(2a)で表される構造単位を含む場合、式(2a)で表される構造単
位の割合は、ポリシランの構造単位全体に対して、例えば10モル%程度以上の範囲から
選択してもよく、好ましい範囲としては、以下段階的に、30モル%以上、50モル%以
上、60モル%以上、70モル%以上、80モル%以上、90モル%以上であり、実質的
に100モル%であるのがさらに好ましい。なお、前記割合は、例えば30~100モル
%程度の範囲から選択してもよく、例えば60~99モル%、好ましくは80~97モル
%であってもよい。前記式(2a)で表される構造単位の割合が少なすぎると、光電変換
効率が向上できないおそれがある。
【0098】
前記式(2a)で表される構造単位を有する具体的な鎖状または環状ポリシランとして
は、例えば、ポリ(ジメチルシラン)、ポリ(メチル-プロピル-シラン)、ポリ(メチ
ル-ブチル-シラン)、ポリ(メチル-ペンチル-シラン)、ポリ(ジブチルシラン)、
ポリ(ジヘキシルシラン)、(ジメチルシラン)-(メチル-へキシル-シラン)共重合
体などのポリ(ジアルキルシラン);ポリ(メチル-フェニル-シラン)、(メチル-フ
ェニル-シラン)-(フェニル-ヘキシル-シラン)共重合体などのポリ(アルキル-ア
リール-シラン);ポリ(ジフェニルシラン)などのポリ(ジアリールシラン);(ジメ
チルシラン)-(メチル-フェニル-シラン)共重合体、(ジメチルシラン)-(フェニ
ル-ヘキシル-シラン)共重合体、(ジメチルシラン)-(メチル-ナフチル-シラン)
共重合体などの(ジアルキルシラン)-(アルキル-アリール-シラン)共重合体;(メ
チル-フェニル-シラン)-(ジフェニルシラン)共重合体などの(アルキル-アリール
-シラン)-(ジアリールシラン)共重合体などが挙げられる。
【0099】
前記式(2b)で表される構造単位を有する網目状ポリシランとしては、例えば、ポリ
(メチルシラン)、ポリ(プロピルシラン)、ポリ(ブチルシラン)、ポリ(ヘキシルシ
ラン)などのポリ(アルキルシラン);ポリ(フェニルシラン)などのポリ(アリールシ
ラン)などが挙げられる。
【0100】
これらのポリシランは、単独でまたは2種以上組み合わせて使用できる。これらのポリ
シランのうち、直鎖状または環状ポリ(アルキル-アリール-シラン)、具体的にはポリ
(メチル-フェニル-シラン)などの直鎖状または環状ポリ(C1-6アルキル-C6-
12アリール-シラン);直鎖状または環状ポリ(ジアリールシラン)、具体的にはポリ
(ジフェニルシラン)などの直鎖状または環状ポリ(ジC6-12アリールシラン);直
鎖状または環状(アルキル-アリール-シラン)-(ジアリールシラン)共重合体、具体
的には直鎖状または環状(メチル-フェニル-シラン)-(ジフェニルシラン)共重合体
などの直鎖状または環状(C1-6アルキル-C6-12アリール-シラン)-(ジC6
-12アリールシラン)共重合体;網目状ポリ(アリールシラン)、具体的には網目状ポ
リ(フェニルシラン)などの網目状ポリ(C6-12アリールシラン)が好ましい。なか
でも、直鎖状または環状ポリ(ジアリールシラン)が好ましく、ポリ(ジフェニルシラン
)などの直鎖状または環状ポリ(ジC6-10アリールシラン)がさらに好ましく、デカ
フェニルシクロペンタシランなどの環状ポリ(ジC6-10アリールシラン)が特に好ま
しい。
【0101】
ポリシランの重量平均分子量Mwは、GPC(ポリスチレン換算)による測定方法にお
いて、例えば300程度以上の範囲から選択してもよく、好ましい範囲としては、以下段
階的に、300~50000、300~25000、350~20000、400~14
000、450~10000、500~3000、500~1000であり、700~1
000が更に好ましい。重量平均分子量が小さすぎると、光電変換素子の劣化を有効に抑
制できないおそれがあり、大きすぎると、溶媒に対する溶解性(または分散性)が低下し
て、光電変換素子の作製が困難になるおそれがある。
【0102】
ポリシランの平均重合度は、ケイ素原子換算(すなわち、一分子当たりのケイ素原子の
平均数)で、例えば3~500程度の広い範囲から選択してもよく、好ましい範囲として
は、以下段階的に、3~100、3~50、4~10、5~7、5~6であり、5である
のがさらに好ましい。
【0103】
ポリシランは、室温、例えば20℃程度で液体状であってもよく、固体状であってもよ
い。
【0104】
ポリシランは、慣用の方法、例えば、マグネシウムを還元剤としてハロシラン類を脱ハ
ロゲン縮重合させる方法(「マグネシウム還元法」、WO98/29476号パンフレッ
トなど)、アルカリ金属の存在下でハロシラン類を脱ハロゲン縮重合させる方法(「キッ
ピング法」、J.Am.Chem.Soc.,110,124(1988)、Macromolecules,23,3423(1990)など)、電
極還元によりハロシラン類を脱ハロゲン縮重合させる方法(J.Chem.Soc.,Chem.Commun.,1
161(1990)、J.Chem.Soc.,Chem.Commun.897(1992)など)、金属触媒の存在下にヒドロシラ
ン類を脱水素縮重合させる方法(特開平4-334551号公報など)、ビフェニルなど
で架橋されたジシレンのアニオン重合による方法(Macromolecules,23,4494(1990)など)
、環状シラン類の開環重合による方法などにより得ることができる。
【0105】
ポリシランの割合は、ポリシラン層全体に対して、例えば20質量%程度以上の範囲か
ら選択してもよく、好ましい範囲としては、以下段階的に、30~100質量%、50~
100質量%、70~100質量%、90~100質量%、95~100質量%であり、
実質的に100質量%であるのがさらに好ましい。ポリシランの割合が少なすぎると、メ
チルアンモニウムなどの不安定なイオンの脱離を抑制できず、耐久性を有効に向上できな
いおそれがある。
【0106】
ポリシラン層の平均厚みは、例えば1~100nm程度の範囲から選択でき、例えば2
~70nm、好ましくは3~40nm、さらに好ましくは5~20nm、特に5~15n
mである。ポリシラン層の平均厚みが薄すぎると、メチルアンモニウムなどの不安定なイ
オンの脱離を抑制できず、耐久性を有効に向上できないおそれがあり、厚すぎると、製造
効率が低下したり、電気抵抗が上昇して変換効率が低下するおそれがある。
【0107】
(電子ブロック層)
電子ブロック層は、前記ペロブスカイト層および前記ポリシラン層の間に形成(直接的
または間接的に積層)されたp型半導体を含む層であり、前記ペロブスカイト層の一方の
面(ポリシラン層側の表面)の少なくとも一部の領域に形成されるのが好ましく、一方の
面全体に(特に、ごく薄く均一に)形成されるのがさらに好ましいようである。電子ブロ
ック層は、p型半導体のエネルギーギャップおよび価電子帯の最高エネルギー位置によっ
て、ペロブスカイト層で生成した電子のポリシラン層側への移動を規制し、ホールとの再
結合を抑制できる。そのため、電子ブロック層が介在することで長期間に亘って変換効率
を有効に向上できる場合がある。
【0108】
電子ブロック層はp型半導体を含んでいればよく、慣用のp型半導体、例えば、後述す
る正孔輸送材料などを含んでいてもよいが、下記式(1b)で表される化合物を少なくと
も含むのが好ましい。
【0109】
MX2 (1b)
(式中、MおよびXは、好ましい態様を含めて前記式(1)に同じ)。
【0110】
前記式(1b)で表される代表的な化合物としては、例えば、PbI2、PbBr2、
PbCl2などの式(1b)において、MがPbである化合物などが挙げられる。これら
の前記式(1b)で表される化合物は、単独でまたは2種以上組み合わせて含まれていて
もよい。これらの化合物のうち、エネルギーギャップが2.5eV程度であるPbI2が
好ましい。
【0111】
前記式(1b)で表される化合物の割合は、電子ブロック層中のp型半導体全体に対し
て、例えば50質量%以上、好ましくは90質量%以上、実質的に100質量%、すなわ
ち、前記式(1b)で表される化合物のみで形成されるのがさらに好ましい。
【0112】
電子ブロック層は薄層状に形成されるのが好ましく、その平均厚みは、例えば1~10
nm程度であってもよい。平均厚みが厚すぎると、電気抵抗が上昇して変換効率が低下す
るおそれがあり、薄すぎると、変換効率または耐久性を有効に向上できないおそれがある
。
【0113】
(正孔(ホール)輸送層)
本発明の光電変換素子は、前述のペロブスカイト層、電子ブロック層およびポリシラン
層に加えて、さらに、正孔輸送層を含むのが好ましい。正孔(ホール)輸送層は、正孔(
ホール)輸送材料(ただし、ポリシランを除く)を含む層であり、正孔輸送層が前記ポリ
シラン層に積層されることにより、長期間に亘って変換効率を有効に向上できるようであ
る。
【0114】
正孔輸送材料としては、慣用の正孔輸送材料が利用でき、無機化合物と有機化合物とに
大別できる。
【0115】
無機化合物としては、例えば、チオシアン酸銅(I)などの金属塩;酸化ニッケル(I
I)、酸化バナジウム(V)、酸化銅アルミニウム(CuAlO2)などの金属酸化物;
ヨウ化銅(I)、ヨウ化セシウムスズ(CsSnI3)などの金属ヨウ化物;酸化グラフ
ェンなどの炭素材などが挙げられる。
【0116】
有機化合物は、さらに低分子化合物と高分子化合物とに分類できる。低分子化合物とし
ては、例えば、フタロシアニン、ナフタロシアニン、サブフタロシアニンなどのフタロシ
アニン類;1,3,5-トリス[2,7-(N,N-(p-メトキシフェニル)アミノ)
-9H-カルバゾール-9-イル]ベンゼン(SGT405)などのカルバゾール類;2
,5-ビス[4-(N,N-ビス(p-メトキシフェニル)アミノ)フェニル]-3,4
-エチレンジオキシチオフェン(H101)、2,3,4,5-テトラキス[4-(N,
N-ビス(p-メトキシフェニル)アミノ)フェニル]チオフェン(H111)などのチ
オフェン類;2,6,14-トリス[5’-(4-(N,N-ビス(p-メトキシフェニ
ル)アミノ)フェニル)-チオフェン-2’-イル]トリプチセン(T103)などのト
リプチセン類;後述する式(3)で表される化合物などのスピロビフルオレン類などが挙
げられる。
【0117】
高分子化合物としては、例えば、ポリ(3-ヘキシルチオフェン-2,5-ジイル)(
P3HT)、ポリ[N-9’-ヘプタデカニル-2,7-カルバゾール-alt-5,5
-(4’,7’-ジ-2-チエニル-2’,1’,3’-ベンゾチアジアゾール)](P
CDTBT)、ポリ[N-9’-ヘプタデカニル-2,7-カルバゾール-alt-3,
6-ビス(チオフェン-5-イル)-2,5-ジオクチル-2,5-ジヒドロピロロ[3
,4]ピロール-1,4-ジオン](PCBTDPP)、ポリ[2,6-(4,4-ビス
-(2-エチルヘキシル)-4H-シクロペンタ[2,1-b;3,4-b’]ジチオフ
ェン)-alt-4,7-(2,1,3-ベンゾチアジアゾール)](PCPDTBT)
などのポリチオフェン類;ポリ[ビス(フェニル-4-イル)-(2,4,6-トリメチ
ルフェニル)-アミン](PTAA)、ポリ[ビス(フェニル-4-イル)-(4-ブチ
ルフェニル)-アミン](PolyTPD)などのポリトリアリールアミン類;ポリ[9
,9-ジオクチルフルオレン-co-ビス-N,N’-(4-ブチルフェニル)-ビス-
N,N’-フェニル-1,4-フェニレンジアミン](PFB)などのポリフルオレン類
などが挙げられる。
【0118】
これらの正孔輸送材料は、単独でまたは2種以上組み合わせて使用することもできる。
これらの正孔輸送材料のうち、スピロビフルオレン類、例えば、下記式(3)で表される
化合物が好ましい。
【0119】
【0120】
(式中、Z1~Z8はそれぞれ独立してアレーン環を示し、R4a~R4hはそれぞれ独
立してアルコキシ基を示し、k1~k8はそれぞれ独立して0以上の整数を示す)。
【0121】
前記式(3)において、Z1~Z8で表される芳香族炭化水素環(アレーン環)として
は、例えば、ベンゼン環などの単環式芳香族炭化水素環(単環式アレーン環)、多環式芳
香族炭化水素環(多環式アレーン環)などが挙げられ、多環式芳香族炭化水素環には、例
えば、縮合多環式芳香族炭化水素環(縮合多環式アレーン環)、環集合芳香族炭化水素環
(環集合アレーン環)などが含まれる。
【0122】
縮合多環式アレーン環としては、例えば、縮合二環式アレーン環、縮合三環式アレーン
環などの縮合二乃至四環式アレーン環などが挙げられる。縮合二環式アレーン環としては
、例えば、ナフタレン環などの縮合二環式C10-16アレーン環などが挙げられ、縮合
三環式アレーン環としては、例えば、アントラセン環、フェナントレン環などが挙げられ
る。好ましい縮合多環式アレーン環としては、ナフタレン環、アントラセン環などの縮合
多環式C10-16アレーン環であり、さらに好ましくは縮合多環式C10-14アレー
ン環が挙げられ、特にナフタレン環が好ましい。
【0123】
環集合アレーン環としては、ビアレーン環、テルアレーン環などが挙げられる。ビアレ
ーン環としては、例えば、ビフェニル環、ビナフチル環、フェニルナフタレン環などのビ
C6-12アレーン環などが挙げられ、フェニルナフタレン環としては、1-フェニルナ
フタレン環、2-フェニルナフタレン環などが挙げられる。テルアレーン環としては、例
えば、テルフェニレン環などのテルC6-12アレーン環などが挙げられる。好ましい環
集合アレーン環は、ビC6-10アレーン環が挙げられ、特にビフェニル環が好ましい。
【0124】
これらの環Z1~Z8のうち、ベンゼン環、ナフタレン環、ビフェニル環などのC6-
12アレーン環が好ましく、ベンゼン環などのC6-10アレーン環がさらに好ましく、
特にベンゼン環が好ましい。また、環Z1~Z8の種類は、互いに異なっていてもよく、
通常、同一である。なお、環Z1~Z8における窒素原子との結合位置は、任意の位置で
あってもよい。
【0125】
前記式(3)において、R4a~R4hで表されるアルコキシ基としては、メトキシ基
、エトキシ基、プロポキシ基、n-ブトキシ基、i-ブトキシ基、s-ブトキシ基、t-
ブトキシ基などの直鎖状または分岐鎖状C1-6アルコキシ基などが挙げられ、好ましく
は直鎖状または分岐鎖状C1-4アルコキシ基、さらに好ましくはメトキシ基などのC1
-2アルコキシ基である。
【0126】
基R4a~R4hの置換数k1~k8は、環Z1~Z8の種類に応じて選択でき、例え
ば0~7程度の整数であってもよく、好ましい範囲としては、以下段階的に、0~6の整
数、0~4の整数、0~2の整数であり、さらに好ましくは0または1であり、特に1が
好ましい。k1~k8は、互いに異なっていてもよく、通常、同一であってもよい。また
、k1~k8が2以上である場合、対応する2以上の基R4a~R4hの種類は互いに同
一または異なっていてもよい。
【0127】
基R4a~R4hの置換位置は、環Z1~Z8と窒素原子との結合する位置以外の位置
である限り、特に制限されない。例えば、環Z1~Z8がベンゼン環、k1~k8が1で
ある場合、基R4a~R4hの置換位置は、環Z1~Z8の窒素原子との結合位置に対し
て、o-位、m-位、p-位のいずれの位置であってもよく、好ましくはm-位またはp
-位、さらに好ましくはp-位であってもよい。
【0128】
前記式(3)において、4つの窒素原子が、スピロビフルオレン骨格を形成する4つの
ベンゼン環にそれぞれ結合する位置は特に制限されず、例えば、4つの窒素原子が、スピ
ロビフルオレン環の2~4位のうちいずれか1つの位置、5~7位のうちいずれか1つの
位置、2’~4’位のうちいずれか1つの位置および5’~7’位のうちいずれか1つの
位置にそれぞれ結合していてもよく、4つの窒素原子がスピロビフルオレン環の2,2’
,7,7’位に結合するのが好ましい。
【0129】
前記式(3)で表される化合物として、代表的には、例えば、前記式(3)において、
環Z1~Z8がベンゼン環、k1~k8が1であるテトラキス[ビス(アルコキシフェニ
ル)アミノ]-9,9’-スピロビフルオレン類、例えば、2,2’,7,7’-テトラ
キス-[N,N-ビス(4-メトキシフェニル)アミノ]-9,9’-スピロビフルオレ
ン(Spiro-OMeTAD)、2,2’,7,7’-テトラキス-[N-(4-メトキシフェニル
)-N-(3-メトキシフェニル)-アミノ]-9,9’-スピロビフルオレン、2,2
’,7,7’-テトラキス-[N-(4-メトキシフェニル)-N-(2-メトキシフェ
ニル)-アミノ]-9,9’-スピロビフルオレン、2,2’,7,7’-テトラキス-
[N,N-ビス(4-エトキシフェニル)アミノ]-9,9’-スピロビフルオレンなど
のテトラキス[ビス(C1-4アルコキシフェニル)アミノ]-9,9’-スピロビフル
オレンなどが挙げられる。
【0130】
これらの前記式(3)で表される化合物は単独でまたは2種以上組み合わせて使用する
こともできる。これらの前記式(3)で表される化合物のうち、Spiro-OMeTADなどのテト
ラキス[ビス(C1-2アルコキシフェニル)アミノ]-9,9’-スピロビフルオレン
が好ましい。なお、これらの前記式(3)で表される化合物は、市販品などを利用しても
よい。
【0131】
前記式(3)で表される化合物の割合は、正孔輸送層中の正孔輸送材料全体に対して、
例えば10質量%程度以上の範囲から選択してもよく、好ましい範囲としては、以下段階
的に、30質量%以上、50質量%以上、70質量%以上、90質量%以上、95質量%
以上であり、実質的に100質量%がさらに好ましい。なお、前記割合は、例えば30~
100質量%、好ましくは60~99質量%、さらに好ましくは80~95質量%であっ
てもよい。
【0132】
正孔輸送層は、前記正孔輸送材料に加えて、添加剤を必ずしも含んでいなくてもよいが
、必要に応じて、ドーパントなどの慣用の添加剤をさらに含んでいてもよい。ドーパント
(またはp型ドーパント)としては、例えば、金属化合物;2,3,5,6-テトラフル
オロ-7,7,8,8-テトラシアノ-キノジメタンなどの非金属化合物などが挙げられ
る。金属化合物としては、例えば、リチウムビス(トリフルオロメチルスルホニル)イミ
ド(Li-TFSI)などの金属塩;トリス(p-ブロモフェニル)アンモニウムヘキサ
クロロアンチモネート、トリス(2-(1H-ピラゾール-1-イル)ピリジン)コバル
ト(III)トリス[ビス(トリフルオロメチルスルホニル)イミド]、モリブデントリス
[1,2-ビス(トリフルオロメチル)エタン-1,2-ジチオレン]などの金属錯体;
塩化スズ(IV)、塩化アンチモン(V)、塩化鉄(III)などの金属塩化物;酸化タン
グステン(VI)などの金属酸化物などが挙げられる。
【0133】
正孔輸送材料を添加剤と組み合わせる場合、ドーパントなどの添加剤の割合は、正孔輸
送材料の総量100質量部に対して、例えば0.1~30質量部、好ましくは1~20質
量部、さらに好ましくは5~15質量部である。
【0134】
正孔輸送層の厚み(平均厚み)は、例えば5~300nm程度の範囲から選択してもよ
く、好ましい範囲としては、以下段階的に、10~200nm、20~100nm、30
~50nmである。正孔輸送層の平均厚みが薄すぎると、正孔を効率よく移動できず、変
換効率が低下するおそれがあり、厚すぎると、電気抵抗が増加して変換効率が低下するお
それがある。
【0135】
(第1の電極)
第1の電極は、透明基板、例えば、ガラスなどの無機材料、メタクリル樹脂やポリカー
ボネート樹脂などの透明樹脂などの一方の面の少なくとも一部に、例えば、FTO(Fluo
rine-doped Tin Oxide)、ITO(Indium Tin Oxide)、ZnO(Zinc Oxide)などの透
明導電性金属酸化物をコーティングすることにより形成された透明電極である。コーティ
ング方法は特に制限されず、真空蒸着などの蒸着や塗布などが挙げられる。前記金属酸化
物のうち、耐熱性の観点から、FTOが好ましい。
【0136】
また、前記金属酸化物は、エッチングなどにより、所望のパターンを形成してもよい。
さらに、透明基板の他方の面には、反射防止層、ハードコート層などの機能層を形成して
もよい。第1の電極は、陽極であってもよいが、通常、陰極である場合が多い。
【0137】
第1の電極における透明導電性金属酸化物のコーティング膜の平均厚みは、例えば5~
2000nm程度の範囲から選択でき、好ましい範囲としては、以下段階的に、100~
1500nm、500~1200nm、800~1000nmである。平均厚みが厚すぎ
ると、光電変換素子の重量が増加するおそれがあり、薄すぎると耐久性が低下するおそれ
がある。また、第1の電極における透明基板の平均厚みは、材質に応じて選択でき、例え
ば0.1~3mm、好ましくは1~2mmである。
【0138】
(電子輸送層(ETL))
電子輸送層は、電子を効率的に移動させて、変換効率などの特性を向上し、ペロブスカ
イト層、ポリシラン層、正孔輸送層などが陰極に接触して短絡するのを抑制できる。電子
輸送層は、通常、第1の電極の金属酸化物がコーティングされた面(逆構造型の場合は第
2の電極の一方の面)に、電子輸送材料が緻密に(多孔質ではなく)堆積され形成されて
いる。
【0139】
前記電子輸送材料としては、例えば、酸化チタン(IV)、酸化亜鉛(II)、酸化ス
ズ(IV)などの金属酸化物、フェニル-C61-ブチリックアシッドメチルエステル(
[60]PCBM)などのフラーレン類などが挙げられる。これらの電子輸送材料は、単
独でまたは2種以上組み合わせて使用することもできる。これらの電子輸送材料のうち、
金属酸化物が好ましく、なかでも、酸化チタン(IV)、酸化亜鉛(II)が好ましく、
特に酸化チタン(IV)が好ましい。
【0140】
電子輸送層には、他の原子をドーピングしてもよい。電子輸送材料が金属酸化物である
場合、金属酸化物中の金属原子より価数が大きい原子をドーピングしてもよく、例えば、
酸化チタン(IV)では、バナジウム(V)、ニオブ(Nb)、タンタル(Ta)などの
5価の原子をドーピングしてもよく、酸化亜鉛(II)では、アルミニウム(Al)、ガ
リウム(Ga)、インジウム(In)などの3価の原子をドーピングしてもよい。
【0141】
電子輸送層の平均厚みは、例えば5~100nm程度の範囲から選択してもよく、好ま
しい範囲としては、以下段階的に、10~80nm、20~60nm、30~50nmで
ある。平均厚みが厚すぎると、電気抵抗が増加するおそれがあり、薄すぎると電子を効率
よく移動できないおそれがある。
【0142】
(第2の電極)
第2の電極は、通常、正孔輸送層(逆型構造の場合は電子輸送層)に隣接して、金(A
u)、銀(Ag)、銅(Cu)、アルミニウム(Al)などの金属;炭素(C)などの仕
事関数が5.2eV以下の導電体で形成された金属または炭素電極である。これらの導電
体(または電極形成材料)のうち、Auが好ましい。また、第2の電極は、第1の電極に
対応して、陰極であってもよいが、通常、陽極である場合が多い。
【0143】
第2の電極の平均厚みは、例えば100~500nm程度の範囲から選択してもよく、
好ましい範囲としては、以下段階的に、120~300nm、150~250nm、18
0~220nmである。平均厚みが厚すぎると、製造効率が低下するおそれがあり、薄す
ぎると効率よく集電できないおそれがある。
【0144】
[光電変換素子の製造方法および特性]
光電変換素子は、ペロブスカイト型構造を有する化合物を形成するためのペロブスカイ
ト前駆体を含む膜(またはペロブスカイト前駆体層)の一方の面に、ポリシラン層を積層
して予備積層体(一次積層体)を形成するポリシラン層形成工程と、ポリシラン層形成工
程で得られた予備積層体(一次積層体)を熱処理して、ペロブスカイト層、電子ブロック
層およびポリシラン層を含む積層体(二次積層体または積層構造)を形成する熱処理工程
(またはペロブスカイト結晶成長工程)とを含む方法により調製できる。また、ポリシラ
ン層形成工程に先立って、ペロブスカイト前駆体を含む膜(ペロブスカイト前駆体層)を
形成するペロブスカイト前駆体膜形成工程を含むのが好ましい。
【0145】
(ペロブスカイト前駆体膜形成工程)
ペロブスカイト前駆体膜形成工程では、ペロブスカイト型構造を有する化合物を形成す
るためのペロブスカイト前駆体を含む膜(またはペロブスカイト前駆体層)を形成する限
り、方法は特に制限されず、浸漬や蒸着などの慣用の方法により形成してもよく、好まし
くはペロブスカイト前駆体(ペロブスカイト前駆体化合物)と溶媒(または分散媒)とを
含むペロブスカイト層前駆体溶液(または分散液)をコーティングすることで形成され、
通常、後述する電子輸送層形成工程で形成された電子輸送層、または多孔質部形成工程で
形成された多孔質部に積層される。
【0146】
なお、ペロブスカイト前駆体を含む膜(またはペロブスカイト前駆体層)には、後述す
るペロブスカイト前駆体に加えて、前記前駆体に対応するペロブスカイト化合物(AMX
3)が部分的に含まれていてもよく、例えば、後述するエアーブロー法により部分的に生
成したペロブスカイト化合物が含まれていてもよい。
【0147】
ペロブスカイト層前駆体溶液に含まれるペロブスカイト前駆体としては、例えば、前記
式(1)で表されるペロブスカイト化合物に対応する前駆体、すなわち、下記式(1a)
および(1b)で表される化合物であってもよい。
【0148】
AX (1a)
MX2 (1b)
(式中、A、MおよびXはそれぞれ前記式(1)に好ましい態様を含めて同じ)。
【0149】
前記式(1a)で表される代表的な化合物としては、例えば、CH3NH3I(または
MAI)、CH3NH3Br(またはMABr)、CH3NH3Cl(またはMACl)
、CH3CH2NH3I(またはEAI)、CH3CH2NH3Br(またはEABr)
などの式(1a)においてAがC1-6アルキルアンモニウムである化合物;HC(NH
2)2I(またはFAI)、HC(NH2)2Br(またはFABr)などの式(1a)
においてAがC1-6アミジニウムである化合物;KI、KBrなどのAがアルカリ金属
イオンである化合物などが挙げられる。これらの化合物のうち、MAI、MABr、EA
Br、FAI、FABr、KIが好ましく、MAI、FAI、KIがさらに好ましい。
【0150】
前記式(1b)で表される代表的な化合物としては、例えば、PbI2、PbBr2、
PbCl2などの式(1b)において、MがPbである化合物などが挙げられる。これら
の化合物のうち、PbI2、PbCl2が好ましく、PbCl2がさらに好ましい。
【0151】
前記式(1a)および(1b)で表される化合物は、目的とする前記式(1)で表され
るペロブスカイト化合物の種類に応じて、それぞれ単独でまたは2種以上組み合わせて使
用することもできる。そのため、前記式(1a)および(1b)で表される化合物を、そ
れぞれ所望の割合で組み合わせて用いることにより、化学量論に従って(仕込み比のとお
りに)前述の(ペロブスカイト層)の項に記載のペロブスカイト化合物を調製してもよい
。
【0152】
前記式(1a)で表される化合物と前記式(1b)で表される化合物との割合は、例え
ば、前者/後者(モル比)=1/0.9~1/1.1、実質的に当モル(1/1)程度で
あってもよいが、後述する熱処理工程において、高温で熱処理してペロブスカイト結晶を
成長させる場合、実質的に前者/後者(モル比)=3/1程度、例えば3/0.9~3/
1.1程度、好ましくは3/0.95~3/1.05であり、3/1~3/1.03であ
るのがさらに好ましい。前記式(1a)で表される化合物3モルに対して、式(1b)で
表される化合物の割合を1モルよりわずかに多く調整すると、特に前記式(1a)で表さ
れる化合物がKIなどのハロゲン化アルカリ金属を含む場合などにおいて、後述する熱処
理工程で電子ブロック層を形成し易い場合がある。なお、高温で熱処理する場合、前記式
(1b)で表される化合物として、PbCl2などのXが塩素(Cl)である化合物(M
Cl2)を用いるのが好ましい。すなわち、高温で熱処理する場合、下記反応式(4)に
従って前記式(1)で表されるペロブスカイト化合物(AMX3)が調製される。
【0153】
3AX + MCl2 → AMX3 + 2ACl↑ (4)
(式中、A、XおよびMは、前記式(1)と好ましい態様を含めて同様である)。
【0154】
前記式(4)から明らかなように、目的とする前記式(1)で表されるペロブスカイト
化合物(AMX3)に対応させて、左辺の化合物AXおよびMCl2(またはA、Xおよ
びMで表される各イオン)の種類および割合を適宜選択することで、化学量論に従って前
述の(ペロブスカイト層)の項に記載のペロブスカイト化合物を調製できる。
【0155】
なお、前記式(4)の右辺において、気体として生じる化合物(2ACl)を構成する
1価の陽イオンAは、メチルアンモニウムであるのが好ましい。すなわち、前記式(1a
)で表される化合物(AX)の総量3モルに対して、Aがメチルアンモニウムである化合
物を少なくとも2モルの割合で用いるのが好ましい。
【0156】
溶媒(または分散媒)は、ラクトン類、アミド類などが挙げられる。ラクトン類として
は、例えば、γ-ブチロラクトン、δ-バレロラクトン、ε-カプロラクトンなどのC3
-7ラクトン類などが挙げられ、アミド類としては、例えば、N,N-ジメチルホルムア
ミド(DMF)、N,N-ジメチルアセトアミド(DMAc)、N-メチル-2-ピロリ
ドン(NMP)などが挙げられる。
【0157】
これらの溶媒は、単独でまたは2種以上組み合わせて使用することもできる。これらの
溶媒のうち、γ-ブチロラクトン、DMFが好ましく、DMFなどのアミド類がさらに好
ましい。
【0158】
また、溶媒の割合は、前記式(1a)および(1b)で表される化合物の合計量100
質量部に対して、例えば10~1000質量部、好ましくは50~500質量部、さらに
好ましくは100~200質量部である。
【0159】
前記式(1a)で表される化合物、前記式(1b)で表される化合物および溶媒は、溶
媒の沸点以下の温度に加熱しつつ混合してもよく、加熱温度は、例えば40~80℃、好
ましくは50~70℃である。混合時間は、例えば1~48時間、好ましくは12~36
時間である。このように調製したペロブスカイト層前駆体溶液は、前記多孔質部(または
電子輸送層)に溶媒の沸点以下の温度に加熱しながら塗布してもよく、加熱温度は、例え
ば50~90℃、好ましくは60~80℃である。
【0160】
ペロブスカイト層前駆体溶液は調製分を一度にコーティングしてもよいが、多孔質部に
効率よく含浸または浸漬させる観点から、複数回に分けてコーティングするのが好ましい
。コーティング回数は、例えば1~5回、好ましくは2~4回、さらに好ましくは3回で
ある。
【0161】
ペロブスカイト層前駆体溶液のコーティングは、慣用のコーティング方法、例えば、ス
ピンコート法、ドクターブレード法、スクリーン印刷法などの塗布または印刷法、真空蒸
着法などの蒸着法などを利用でき、好ましくはスピンコート法である。
【0162】
なお、スピンコート法でペロブスカイト前駆体を含む膜を形成する場合、生産性を向上
する観点から、スピンコート中に高温気流を吹き付けて結晶核を生成するエアーブロー(
Air-blowing)法を行うのが好ましい。前述のように、ペロブスカイト層前駆体溶液を複
数回コーティングする場合、エアーブロー法は全てのコーティングにおいて行ってもよい
が、後半のみ、例えば、3回のスピンコートによりコーティングする場合、2~3回目を
エアーブロー法で行うことが好ましい。
【0163】
エアーブロー法において吹き付ける気流の温度は、例えば50~140℃程度の範囲か
ら選択してもよく、好ましい範囲としては、以下段階的に、70~120℃、80~10
0℃、さらに好ましくは85~95℃である。
【0164】
なお、ペロブスカイト前駆体膜の形成は、従来と同様に窒素ガスなどの不活性ガス雰囲
気中で行ってもよいが、本発明ではペロブスカイト前駆体膜形成工程を大気雰囲気下で行
っても長期間に亘って変換効率を高く維持または向上できるため、生産性を有効に向上で
きる。
【0165】
(ポリシラン層形成工程)
ポリシラン層形成工程では、ペロブスカイト前駆体を含む膜の一方の面に対して、ポリ
シランを含むポリシラン層を積層して予備積層体(一次積層体)を形成する。ポリシラン
層の積層方法としては、浸漬や蒸着などの慣用の方法により形成してもよいが、ポリシラ
ンと溶媒(または分散媒)とを含むポリシラン層形成溶液(または分散液)をコーティン
グする方法が好ましい。
【0166】
溶媒(または分散媒)としては、例えば、炭化水素類、ハロゲン化炭化水素類、アルコ
ール類、エーテル類、グリコールエーテル類、グリコールエーテルアセテート類、ケトン
類、エステル類、カーボネート類、カルボン酸類、ニトリル類、アミド類、スルホキシド
類、水、およびこれらの混合溶媒などが挙げられる。
【0167】
炭化水素類としては、例えば、ヘキサンなどの脂肪族炭化水素類、シクロヘキサンなど
の脂環族炭化水素類、トルエン、キシレンなどの芳香族炭化水素類などが挙げられる。
【0168】
ハロゲン化炭化水素類としては、例えば、塩素化炭化水素類などが挙げられる。塩素化
炭化水素類としては、例えば、ジクロロメタン、クロロホルム、1,2-ジクロロエタン
などの塩素化脂肪族炭化水素類、クロロベンゼン、ジクロロベンゼンなどの塩素化芳香族
炭化水素類などが挙げられる。
【0169】
アルコール類としては、例えば、メタノール、エタノール、2-プロパノール、n-ブ
タノール、t-ブタノールなどのC1-6アルカンモノオール、エチレングリコールなど
のC2-4アルカンジオールなどが挙げられる。
【0170】
エーテル類としては、例えば、ジイソプロピルエーテルなどの鎖状エーテル類、テトラ
ヒドロフランなどの環状エーテル類などが挙げられる。
【0171】
グリコールエーテル類としては、例えば、メチルセロソルブなどのセロソルブ類、メチ
ルカルビトールなどのカルビトール類、トリエチレングリコールモノメチルエーテル、プ
ロピレングリコールモノメチルエーテルなどの(ポリ)C2-4アルキレングリコールモ
ノC1-4アルキルエーテル;エチレングリコールジメチルエーテル、ジプロピレングリ
コールジメチルエーテルなどの(ポリ)C2-4アルキレングリコールジC1-4アルキ
ルエーテルなどが挙げられる。
【0172】
グリコールエーテルアセテート類としては、例えば、セロソルブアセテート類、カルビ
トールアセテート類、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、ジプロピレ
ングリコールモノブチルエーテルアセテートなどの(ポリ)C2-4アルキレングリコー
ルモノC1-4アルキルエーテルアセテートなどが挙げられる。セロソルブアセテート類
としては、例えば、メチルセロソルブアセテートなどのC1-4アルキルセロソルブアセ
テートなどが挙げられ、カルビトールアセテート類としては、例えば、メチルカルビトー
ルアセテートなどのC1-4アルキルカルビトールアセテートなどが挙げられる。
【0173】
ケトン類としては、例えば、アセトン、メチルエチルケトンなどの鎖状ケトン、シクロ
ヘキサノンなどの環状ケトンなどが挙げられる。
【0174】
エステル類としては、例えば、酢酸エチルなどの酢酸エステル、乳酸メチルなどの乳酸
エステルなどが挙げられる。
【0175】
カーボネート類としては、例えば、ジメチルカーボネートなどの鎖状カーボネート、エ
チレンカーボネート、プロピレンカーボネートなどの環状カーボネートなどが挙げられる
。
【0176】
カルボン酸類としては、例えば、酢酸、プロピオン酸などが挙げられる。
【0177】
ニトリル類としては、例えば、アセトニトリル、プロピオニトリルなどが挙げられる。
【0178】
アミド類としては、例えば、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセト
アミド、N-メチル-2-ピロリドンなどが挙げられる。
【0179】
スルホキシド類としては、例えば、ジメチルスルホキシドなどが挙げられる。
【0180】
これらの溶媒は、単独でまたは2種以上組み合わせて使用することもできる。これらの
溶媒のうち、クロロベンゼンなどのハロゲン化炭化水素類が好ましい。ポリシラン層形成
溶液(または分散液)中のポリシランの濃度は、例えば5~50mg/mL、好ましくは
10~30mg/mL、さらに好ましくは15~25mg/mLである。
【0181】
ポリシラン層形成溶液のコーティング方法としては、例えば、前記ペロブスカイト層前
駆体溶液のコーティング方法として例示した慣用のコーティング方法などが利用でき、ス
ピンコート法が好ましい。なお、ポリシラン層形成溶液のスピンコートは、ペロブスカイ
ト前駆体を含む膜をスピンコートで形成する際に(複数回スピンコートする場合は、最後
のスピンコートの際に)、ペロブスカイト層前駆体溶液を滴下して所定時間経過後、例え
ば30~60秒経過後に、ポリシラン形成溶液を滴下して行ってもよい。そのため、ポリ
シラン形成溶液のスピンコートも前述のエアーブロー法で行うのが好ましい。
【0182】
なお、ポリシラン層形成工程は、窒素ガスなどの不活性ガス雰囲気中で行ってもよいが
、本発明では大気雰囲気下で行っても長期間に亘って変換効率を高く維持または向上でき
るため、生産性を有効に向上できる。
【0183】
(熱処理工程(または結晶成長工程))
熱処理工程では、ポリシラン層形成工程で得られた予備積層体(一次積層体)を熱処理
して、ペロブスカイト層、電子ブロック層およびポリシラン層を含む積層体(二次積層体
または積層構造)を形成する。詳しくは、熱処理、特に高温での熱処理によりペロブスカ
イト前駆体を含む膜においてペロブスカイト結晶を成長させてペロブスカイト層を形成す
るが、前記熱処理の際に、ペロブスカイト前駆体層の表面(ポリシラン層との界面)の非
常に薄い領域において、ペロブスカイト層前駆体からp型半導体である化合物MX2が微
量かつ層状に生成して、電子ブロック層を形成できるようである。すなわち、前記熱処理
の際に、メチルアンモニウムなどの前記式(1a)で表される化合物中のAがわずかに脱
離し、前記式(1a)で表される化合物中のXと、前記式(1b)で表される化合物中の
Mとが反応して新たに化合物MX2が生成する(ペロブスカイト前駆体層の形成に用いた
前駆体とは別に、ポリシラン層との界面で新たに生成する)ものと推測される。
【0184】
ペロブスカイト結晶を成長させるための熱処理温度は、従来と同様に80~100℃程
度であってもよいが、本発明ではペロブスカイト前駆体を含む膜に積層されたポリシラン
層の耐熱性が高いためか、高温で熱処理しても耐久性を有効に向上できる。そのため、熱
処理温度は、例えば140~250℃程度の範囲から選択してもよく、好ましい範囲とし
ては、以下段階的に、150~240℃、160~230℃、170~220℃、175
~210℃、180~200℃である。熱処理温度が低すぎると、電子ブロック層を効率
よく形成できなかったり、耐久性を十分に向上できないおそれがあり、高すぎるとペロブ
スカイト結晶が分解したり、生産性が低下するおそれがある。また、熱処理の時間は、例
えば1~60分程度であってもよく、好ましくは2~30分、さらに好ましくは3~10
分である。
【0185】
なお、ペロブスカイト結晶を成長させるための熱処理は、従来と同様に窒素ガスなどの
不活性ガス雰囲気中で行ってもよいが、本発明では熱処理工程を大気雰囲気下で行っても
長期間に亘って変換効率を高く維持または向上できるため、生産性を有効に向上できる。
【0186】
(正孔輸送層形成工程)
本発明の方法は、ポリシラン層に正孔輸送層を積層する正孔輸送層形成工程をさらに含
むのが好ましい。
【0187】
正孔輸送層形成工程では、前記熱処理工程で形成した積層体(二次積層体)のポリシラ
ン層の面に、前記式(3)で表される化合物などの前記正孔輸送材料と溶媒(または分散
媒)とを含む正孔輸送層形成溶液(または分散液)をコーティングすることにより正孔輸
送層を形成する。
【0188】
溶媒(または分散媒)としては、例えば、前記ポリシラン層形成工程において例示した
溶媒などが挙げられる。これらの溶媒は、単独でまたは2種以上組み合わせて使用するこ
ともできる。これらの溶媒のうち、クロロベンゼンなどのハロゲン化炭化水素類が好まし
い。溶媒の割合は、正孔輸送材料の総量100質量部に対して、例えば500~2000
質量部、好ましくは1000~1500質量部である。
【0189】
また、正孔輸送層形成溶液は、必要に応じて、正孔輸送層の項に例示した添加剤、例え
ば、Li-TFSIなどのドーパントなどを含んでいてもよく、これらの添加剤の割合は
、前記正孔輸送層の項に記載の割合と好ましい態様を含めて同様であってもよい。ドーパ
ントなどの添加剤は、前記正孔輸送材料と同様の溶媒、例えば、アセトニトリルなどのニ
トリル類などに溶解または分散してから添加してもよい。
【0190】
また、正孔輸送層形成溶液は、擬フェルミ準位の変化により開放電圧を向上できる観点
から、必要に応じて、複素環アミン、第3級アミンなどのアミン類を含んでいてもよい。
複素環アミンとしては、例えば、4-t-ブチルピリジンなどのC1-6アルキルピリジ
ンなどが挙げられ、第3級アミンとしては、例えば、トリエチルアミンなどのトリC1-
6アルキルアミン、トリエタノールアミンなどのトリC1-6アルカノールアミンなどが
挙げられる。これらのアミン類は、単独でまたは2種以上組み合わせて使用することもで
きる。これらのアミン類のうち、4-t-ブチルピリジンなどの複素環アミンなどが好ま
しい。アミン類の割合は、溶媒100体積部に対して、例えば、0.1~10体積部、好
ましくは1~5体積部である。なお、前記割合における体積は、1気圧、25℃程度の室
温下における体積であってもよい。
【0191】
正孔輸送層形成溶液は加熱しながら調製してもよく、加熱温度は、例えば50~100
℃、好ましくは60~80℃である。なお、正孔輸送層形成溶液は、前記式(3)で表さ
れる化合物などの正孔輸送材料の分解を抑制する観点から、コーティング後に熱処理しな
くてもよい。
【0192】
正孔輸送層形成溶液のコーティング方法としては、例えば、前記ペロブスカイト層前駆
体溶液のコーティング方法として例示した慣用のコーティング方法などが利用でき、スピ
ンコート法が好ましい。
【0193】
なお、正孔輸送層形成工程は、従来と同様に窒素ガスなどの不活性ガス雰囲気中で行っ
てもよいが、本発明では大気雰囲気下で行っても長期間に亘って変換効率を高く維持また
は向上できるため、生産性を有効に向上できる。
【0194】
(他の工程)
本発明の光電変換素子の製造方法は、さらに、電子輸送層形成工程、多孔質部形成工程
、第2の電極形成工程などの工程を含んでいてもよい。
【0195】
(電子輸送層形成工程)
電子輸送層形成工程では、前記電子輸送材料またはその前駆体と溶媒(または分散媒)
とを含む電子輸送層前駆体溶液(または分散液)をコーティングして、電子輸送層を形成
する。なお、コーティングは、光電変換素子がナノ構造型または平面ヘテロ接合型の場合
は、第1の電極の導電性金属酸化物がコーティングされた面に、逆構造型の場合は、第2
の電極に施してもよい。
【0196】
コーティングを施す電極、好ましくは第1の電極には、前記電子輸送層前駆体溶液のコ
ーティング前に洗浄処理を施してもよい。洗浄処理の方法は、特に制限されず、例えば、
アセトンなどのケトン類やメタノールなどのアルコール類に浸漬して超音波洗浄し、窒素
ガス、希ガスなどの不活性ガス下で乾燥する方法;UV-オゾン処理する方法;これらを
組み合わせた方法などが挙げられる。
【0197】
電子輸送材料の前駆体としては、前記電子輸送層の項に例示した電子輸送材料に対応す
る化合物、例えば、酸化チタン(IV)前駆体、酸化亜鉛(II)前駆体などが挙げられ
る。酸化チタン(IV)前駆体としては、例えば、チタンジイソプロポキシドビス(アセ
チルアセトナート)などのチタン錯体、テトライソプロポキシチタン(IV)などのチタ
ン酸アルキルなどが挙げられ、酸化亜鉛(II)前駆体としては、例えば、炭酸亜鉛など
が挙げられる。
【0198】
溶媒(または分散媒)としては、例えば、前記ポリシラン層形成工程において例示した
溶媒などが挙げられる。これらの溶媒は、単独でまたは2種以上組み合わせて使用するこ
ともできる。これらの溶媒のうち、n-ブタノールなどのC1-5アルカンモノオールな
どが好ましい。
【0199】
電子輸送層前駆体溶液における前記電子輸送材料またはその前駆体の濃度は、例えば0
.01~1M、好ましくは0.1~0.4Mである。なお、電子輸送層を第1の電極など
の電極に密着して、かつ緻密に形成するために、濃度の異なる2種類以上の溶液を調製し
、溶液の濃度が濃くなる順にコーティングしてもよい。
【0200】
電子輸送層前駆体溶液のコーティング方法としては、例えば、前記ペロブスカイト層前
駆体溶液のコーティング方法として例示した慣用のコーティング方法などが利用でき、ス
ピンコート法が好ましい。
【0201】
コーティング後、溶媒を除去するために熱処理を行ってもよく、その加熱温度は、例え
ば80~200℃、好ましくは100~150℃である。また、前記前駆体から金属酸化
物を形成するために、さらに高温で熱処理を行ってもよく、その加熱温度は前記前駆体の
種類に応じて選択でき、例えば300~800℃、好ましくは400~600℃である。
【0202】
(多孔質部形成工程)
光電変換素子がナノ構造型である場合、ペロブスカイト層前駆体溶液のコーティング前
に、ペロブスカイト化合物を広い表面積で接触させるための前記多孔質部(第1のペロブ
スカイト層の多孔質部)を電子輸送層に形成してもよい。多孔質部は、金属酸化物と、高
分子化合物と、水と、有機化合物と、界面活性剤とを含む多孔質部形成溶液をコーティン
グし、さらに熱処理することにより形成される。
【0203】
金属酸化物としては、前記第1のペロブスカイト層の項において多孔質酸化物として例
示した金属酸化物と好ましい態様も含めて同様のものが挙げられる。金属酸化物は粉末状
などであってもよい。
【0204】
高分子化合物としては、例えば、水溶性高分子化合物などが挙げられ、具体的には、ポ
リエチレングリコール、ポリビニルアルコール、ポリ(メタ)アクリル酸誘導体、セルロ
ース誘導体などが挙げられる。ポリ(メタ)アクリル酸誘導体としては、例えば、ポリ(
メタ)アクリル酸またはその塩、ポリ(メタ)アクリルアミドなどが挙げられ、セルロー
ス誘導体としては、例えば、カルボキシメチルセルロースまたはその塩、ヒドロキシプロ
ピルセルロースなどのセルロースエーテルなどが挙げられる。高分子化合物の数平均分子
量または重量平均分子量は、例えば、10000~30000、好ましくは15000~
25000である。高分子化合物の割合は、金属酸化物100質量部に対して、例えば1
~30質量部、好ましくは5~15質量部である。
【0205】
水は、超純水であるのが好ましい。水の割合は、金属酸化物100質量部に対して、例
えば100~1000質量部、好ましくは300~700質量部である。
【0206】
有機化合物としては、例えば、アセチルアセトンなどの錯体形成性有機化合物などが挙
げられる。有機化合物の割合は、水100体積部に対して、例えば0.1~10体積部、
好ましくは1~5体積部である。なお、前記割合における体積は、1気圧、25℃程度の
室温下における体積であってもよい。
【0207】
界面活性剤としては、例えば、ノニオン系界面活性剤、アニオン系界面活性剤、カチオ
ン系界面活性剤、両性界面活性剤などが挙げられ、ノニオン系界面活性剤が好ましい。ノ
ニオン系界面活性剤としては、例えば、ポリエチレングリコール-(t-オクチルフェニ
ル)エーテルなどのポリオキシエチレン(C6-20アルキル-フェニル)エーテルなど
が挙げられる。界面活性剤の割合は、水100体積部に対して、例えば0.05~5体積
部、好ましくは0.1~3体積部である。なお、前記割合における体積は、1気圧、25
℃程度の室温下における体積であってもよい。
【0208】
多孔質部形成溶液の調製は、金属酸化物と高分子化合物と水と混合して撹拌後、この液
に対して、有機化合物と界面活性剤とをさらに加えて撹拌して調製してもよい。また、前
記溶液から気泡を除去するために、調製後1時間~2日、好ましくは12時間~1日静置
してもよい。
【0209】
多孔質部形成溶液のコーティング方法としては、例えば、前記ペロブスカイト層前駆体
溶液のコーティング方法として例示した慣用のコーティング方法などが利用でき、スピン
コート法が好ましい。
【0210】
前記多孔質部形成溶液のコーティング後の熱処理温度は、例えば300~800℃、好
ましくは400~600℃である。このようにして得られた多孔質部に対して、前記ペロ
ブスカイト前駆体膜形成工程におけるペロブスカイト層前駆体溶液をコーティング(また
は含浸)してペロブスカイト前駆体を含む膜を形成できる。
【0211】
(第2の電極形成工程)
第2の電極形成工程では、前記第2の電極の項に例示した金属または炭素などの導電体
を蒸着、例えば真空蒸着することにより第2の電極を形成する。蒸着は、光電変換素子が
ナノ構造型または平面ヘテロ接合型の場合は、前記正孔輸送層形成工程で形成した正孔輸
送層に、逆構造型の場合は前記電子輸送層形成工程で形成した電子輸送層に施してもよい
。
【0212】
なお、各層を積層後、必要に応じて、配線を接続したり、カバーを装着したりして光電
変換素子を作製してもよい。
【0213】
(光電変換素子の特性)
本発明で得られる光電変換素子は高い耐久性を示すため、大気中で使用または保管して
も長期間に亘って変換効率を高く維持または向上できる。そのため、大気中で長期間経過
後の変換効率ηxは高いほど好ましく、例えば8%程度以上であってもよい。通常、変換
効率ηxは、例えば8~18%程度であってもよく、好ましくは10~15%、さらに好
ましくは12~14%程度であってもよい。また、大気中で長期間経過後(または前記変
換効率ηx測定時)の短絡電流密度Jsc-xは高いほど好ましく、例えば5mA・cm
-2程度以上であってもよい。通常、前記短絡電流密度Jsc-xは、例えば15~30
mA・cm-2、好ましくは18~25mA・cm-2、さらに好ましくは20~23m
A・cm-2程度であってもよい。大気中で長期間経過後(または前記変換効率ηx測定
時)の開放電圧Voc-xは高いほど好ましく、例えば0.5V程度以上であってもよい
。通常、前記開放電圧Voc-xは、例えば0.8~1.2V、好ましくは0.9~1V
程度であってもよい。なお、前記変換効率ηx、短絡電流密度Jsc-xおよび開放電圧
Voc-xは、光電変換素子の作製から、例えば4週間以上経過後などの長期間経過後の
値であるほど好ましく、通常、例えば5~50週間経過後、好ましくは8~30週間経過
後、さらに好ましくは20~25週間程度経過後の値であってもよい。
【0214】
なお、光電変換素子の初期における変換効率η0は高いほど好ましく、例えば1%程度
以上であってもよい。通常、初期における変換効率η0は、例えば1~20%程度であっ
てもよく、好ましくは5~18%、さらに好ましくは8~15%程度であってもよい。ま
た、初期における短絡電流密度Jsc-0は高いほど好ましく、例えば5mA・cm-2
程度以上であってもよい。通常、初期における短絡電流密度Jsc-0は、例えば5~3
0mA・cm-2、好ましくは10~25mA・cm-2、さらに好ましくは15~22
mA・cm-2程度であってもよい。初期における開放電圧Voc-0は高いほど好まし
く、例えば0.3V程度以上であってもよい。通常、初期における開放電圧Voc-0は
、例えば0.3~1.2V、好ましくは0.8~1V程度であってもよい。なお、本発明
では、初期における変換効率η0、短絡電流密度Jsc-0、開放電圧Voc-0が低く
ても、長期間に亘り安定なため、徐々に各特性が向上する場合がある。
【0215】
本明細書および特許請求の範囲において、変換効率、短絡電流密度、開放電圧は、照度
100mWcm-2、AM(エアマス)1.5、照射面積0.08cm2、室温(25℃
程度)の条件下で測定でき、詳細には実施例に記載の方法で測定できる。
【実施例0216】
以下に、実施例に基づいて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に
よって限定されるものではない。なお、使用した原料の調製方法について下記に示す。
【0217】
[原料の調製]
(FTO基板(第1の電極))
フッ素ドープ酸化スズ(Fluorine-doped tin oxide)にコーティングされたガラス基板
(ガラス基板の厚み:1.8mm、FTO塗布膜の厚み:約900nm)をアセトン中で
超音波洗浄後、メタノール中で超音波洗浄した。さらに、この基板を窒素ガス下で乾燥後
、UV-オゾン処理を20分施したものを用いた。
【0218】
(電子輸送層前駆体溶液(0.15M))
チタンジイソプロポキシドビス(アセチルアセトナート)[Titanium diisopropoxide
bis(acetyl acetonate)、Sigma-Aldrich社製]0.055mLと1-ブタノール(ナカラ
イテスク(株)製、純度99%)1mLとを混合し、撹拌して調製した。
【0219】
(電子輸送層前駆体溶液(0.30M))
チタンジイソプロポキシドビス(アセチルアセトナート)を0.11mLと1-ブタノ
ール1mLとを混合し、撹拌して調製した。
【0220】
(多孔質部形成溶液)
TiO2粉末(日本アエロジル(株)製「AEROXIDE TiO2 P25」)100mgとポリエ
チレングリコール(ナカライテスク(株)製「PEG(♯20000)」)10mgとに
超純水0.5mLを加えて撹拌した。さらに、アセチルアセトン(富士フイルム和光純薬
(株)製、純度99%)10.0μL、4-(1,1,3,3-テトラメチルブチル)フ
ェニル-ポリエチレングリコール(Sigma-Aldrich社製「Triton-X-100」)を5.0μL
加えて30分撹拌後、一日静置して調製した。
【0221】
(ペロブスカイト層前駆体溶液1)
CH3NH3I(モノメチルアミンヨウ化水素酸塩またはMAI、東京化成工業(株)
製、純度99.0%)190.7mg、PbCl2(塩化鉛(II)、Sigma-Aldrich社製
、純度99.999%)111.2mg、およびN,N-ジメチルホルムアミド(DMF
、Sigma-Aldrich社製)0.5mLを混合し、60℃に加熱して一日撹拌した。
【0222】
(ペロブスカイト層前駆体溶液2)
CH3NH3I 181.1mg、CH3NH3Br(モノメチルアミン臭化水素酸塩
またはMABr、昭和化学(株)製、純度98.5%)6.7mg、PbCl2 111
.2mg、およびDMF0.5mLを混合し、60℃に加熱して一日撹拌した。
【0223】
(ペロブスカイト層前駆体溶液3)
CH3NH3I 181.1mg、HC(NH2)2Br(ホルムアミジン臭化水素酸
塩またはFABr、東京化成工業(株)製、純度98%)7.5mg、PbCl2 11
1.2mg、およびDMF 0.5mLを混合し、60℃に加熱して一日撹拌した。
【0224】
(ペロブスカイト層前駆体溶液4)
CH3NH3I 184.3mg、CH3CH2NH3Br(モノエチルアミン臭化水
素酸塩またはEABr、東京化成工業(株)製、純度98.0%)5.0mg、PbCl
2 111.2mg、およびDMF 0.5mLを混合し、60℃に加熱して一日撹拌し
た。
【0225】
(ペロブスカイト層前駆体溶液5)
CH3NH3I 178.0mg、CH3CH2NH3Br 10.1mg、PbCl
2 111.2mg、およびDMF 0.5mLを混合し、60℃に加熱して一日撹拌し
た。
【0226】
(ペロブスカイト層前駆体溶液6)
CH3NH3I 166.7mg、HC(NH2)2I(ホルムアミジンヨウ化水素酸
塩またはFAI、東京化成工業(株)製、純度98.0%)20.6mg、KI(ヨウ化
カリウム、富士フイルム和光純薬(株)製、純度99.5%)3.3mg、PbCl2
111.2mg、およびDMF 0.5mLを混合し、60℃に加熱して一日撹拌した。
【0227】
(ペロブスカイト層前駆体溶液7)
CH3NH3I 156.4mg、HC(NH2)2I 31.0mg、KI3.3m
g、PbCl2 111.2mg、およびDMF 0.5mLを混合し、60℃に加熱し
て一日撹拌した。
【0228】
(ペロブスカイト層前駆体溶液8)
CH3NH3I 98.8mg、PbI2(ヨウ化鉛(II)、Sigma-Aldrich社製、純
度99.999%)289.3mg、γ-ブチロラクトン(ナカライテスク(株)製、純
度98%)0.275mL、およびDMF 0.225mLを混合し、60℃に加熱して
一日撹拌した。
【0229】
(ポリシラン層形成溶液)
ポリシランとしてのデカフェニルシクロペンタシラン(大阪ガスケミカル(株)製「OG
SOL SI-30-10」、以下、単にDPPSという)10mgに、クロロベンゼン(富士フイル
ム和光純薬(株)製)0.5mLを混合し、室温(25℃程度)で一日撹拌してポリシラ
ン層形成溶液を調製した。
【0230】
(正孔(ホール)輸送層形成溶液)
2,2’,7,7’-テトラキス-[N,N-ジ(4-メトキシフェニル)アミノ]-
9,9’-スピロビフルオレン(2,2',7,7'-tetrakis-[N,N-di(4-methoxyphenyl)amino]-
9,9'-spirobifluorene、Sigma-Aldrich社製、単にSpiro-OMeTADという)36.1mgを
クロロベンゼン(富士フイルム和光純薬(株)製)0.5mLに加え、12時間撹拌して
溶液Aを調製した。また、リチウムビス(トリフルオロメチルスルホニル)イミド(Li
-TFSI、東京化成工業(株)製)260mgを、アセトニトリル(富士フイルム和光
純薬(株)製)0.5mLに加え、12時間撹拌して溶液Bを調製した。前記溶液A全量
と前記溶液B 8.8μLと4-t-ブチルピリジン(Sigma-Aldrich社製)14.4μL
とを混合し、70℃で30分撹拌して正孔輸送層形成溶液を調製した。
【0231】
[光電変換素子の作製]
(実施例1)
上記原料を用いて、
図1に示す光電変換素子を作製した。すなわち、FTO基板上に電
子輸送層前駆体溶液(0.15M)を滴下し、スピンコータ―(ミカサ(株)製「MS-
A100」)を使用して、スピンコート(3000rpm、30秒)した後に、ホットプ
レート(アズワン(株)製「ND-1」)で熱処理(125℃、5分)した。次いで、電
子輸送層前駆体溶液(0.30M)を滴下し、スピンコート(3000rpm、30秒)
した。この電子輸送層前駆体溶液(0.30M)のスピンコートを2回した後に、ホット
プレートで熱処理(125℃、5分)した。さらに、電気炉(アズワン(株)製「SMF
-2」)で熱処理(550℃、30分)して、厚み約40nmの電子輸送層(緻密なTi
O
2層)を形成した。
【0232】
前記電子輸送層の上に、多孔質部形成溶液を滴下し、スピンコート(5000rpm、
30秒)した後に、電気炉で熱処理(550℃、30分)して、厚み約300~900n
m程度の多孔質部(多孔質TiO2部)を形成した。
【0233】
前記多孔質部の内部(または空隙)に、70℃に加熱したペロブスカイト層前駆体溶液
1を滴下して浸入させ、スピンコート(1000rpmで5秒後に2000rpmで60
秒)してペロブスカイト前駆体を含む膜を形成した。なお、ペロブスカイト層前駆体溶液
を滴下してスピンコートする操作は計3回行ったが、2回目および3回目のスピンコート
の際には、エアーブロー(Air-blowing)法により結晶核を生成させた。すなわち、ヒー
トガン(白光(株)製「HEATING GUN 882」)を用いて90℃の気流を基板
に向けて吹き付けながらスピンコートを行った。さらに、3回目のスピンコートでは開始
から45秒経過後にポリシラン層形成溶液を滴下することで、前記ペロブスカイト前駆体
を含む膜上に、薄膜状のポリシラン層を積層した。その後、ホットプレートを用いて19
0℃で10分間熱処理してペロブスカイト結晶を成長させて、厚み約300~900nm
程度の第1のペロブスカイト層(多孔質部の空隙にペロブスカイト化合物が含浸または浸
入した層)、厚み約100nm程度の第2のペロブスカイト層(ペロブスカイト化合物を
含む層)および厚み約10nmのポリシラン層を形成した。後述するように、この熱処理
によって、第2のペロブスカイト層およびポリシラン層の間に電子ブロック層(PbI2
層)の形成も確認された。
【0234】
前記ポリシラン層の上に、正孔輸送層形成溶液を滴下してスピンコート(4000rp
m、30秒)し、厚み約40nmの正孔輸送層を形成した。
【0235】
なお、上述した電子輸送層~正孔輸送層までの製膜は、全て大気中で行った。
【0236】
その後、前記正孔輸送層の上に、真空蒸着装置(サンユー電子(株)製「SVC-70
0TMSG/7PS800E)により金(Au)を蒸着(または製膜)して、厚み約20
0nmの第2の電極(金属電極)とした。このようにして、
図1記載の光電変換素子を作
製した。
【0237】
(実施例2)
ペロブスカイト結晶を成長させる熱処理の条件を、210℃、10分間に変更する以外
は、実施例1と同様の方法により光電変換素子を作製した。
【0238】
(実施例3)
ペロブスカイト層前駆体溶液1に代えて、ペロブスカイト層前駆体溶液2を使用し、ペ
ロブスカイト結晶を成長させる熱処理の条件を、190℃、10分間に変更する以外は、
実施例1と同様の方法により光電変換素子を作製した。
【0239】
(実施例4)
ペロブスカイト層前駆体溶液1に代えて、ペロブスカイト層前駆体溶液3を使用し、ペ
ロブスカイト結晶を成長させる熱処理の条件を、190℃、3分間に変更する以外は、実
施例1と同様の方法により光電変換素子を作製した。
【0240】
(実施例5)
ペロブスカイト層前駆体溶液1に代えて、ペロブスカイト層前駆体溶液4を使用し、ペ
ロブスカイト結晶を成長させる熱処理の条件を、200℃、10分間に変更する以外は、
実施例1と同様の方法により光電変換素子を作製した。
【0241】
(実施例6)
ペロブスカイト層前駆体溶液1に代えて、ペロブスカイト層前駆体溶液5を使用し、ペ
ロブスカイト結晶を成長させる熱処理の条件を、200℃、10分間に変更する以外は、
実施例1と同様の方法により光電変換素子を作製した。
【0242】
(実施例7)
ペロブスカイト層前駆体溶液1に代えて、ペロブスカイト層前駆体溶液6を使用し、ペ
ロブスカイト結晶を成長させる熱処理の条件を、180℃、10分間に変更する以外は、
実施例1と同様の方法により光電変換素子を作製した。
【0243】
(実施例8)
ペロブスカイト結晶を成長させる熱処理の条件を、200℃、10分間に変更する以外
は、実施例7と同様の方法により光電変換素子を作製した。
【0244】
(実施例9)
ペロブスカイト層前駆体溶液1に代えて、ペロブスカイト層前駆体溶液7を使用し、ペ
ロブスカイト結晶を成長させる熱処理の条件を、180℃、10分間に変更する以外は、
実施例1と同様の方法により光電変換素子を作製した。
【0245】
(比較例1)
ポリシラン層を形成することなく、ペロブスカイト結晶を成長させる熱処理の条件を、
140℃、10分間に変更する以外は、実施例1と同様の方法により光電変換素子を作製
した。
【0246】
(比較例2)
ペロブスカイト層前駆体溶液1に代えて、ペロブスカイト層前駆体溶液8を使用し、ポ
リシラン層を形成することなく、ペロブスカイト結晶を成長させる熱処理の条件を、10
0℃、10分間に変更する以外は、実施例1と同様の方法により光電変換素子を作製した
。
【0247】
(比較例3)
特開2018-98276号公報(特許文献4)の実施例2と同様の方法で光電変換素
子を作製した。
【0248】
(比較例4)
特開2019-68018号公報(特許文献5)の実施例3と同様の方法で光電変換素
子を作製した。
【0249】
(比較例5)
特開2018-98276号公報(特許文献4)の比較例4と同様の方法で光電変換素
子を作製した。
【0250】
なお、特許文献4の比較例4のペロブスカイト層前駆体溶液では、ペロブスカイト結晶
を成長させるための熱処理の条件を180~200℃程度の高温に変更すると、ペロブス
カイト結晶が分解することが予想されるため、高温熱処理による光電変換素子の作製は断
念した。
【0251】
[XRD(X-ray diffraction)測定]
X線回折装置(Bruker AXS社製「D2 PHASER」)を用いて、実施例および比較例で作製
した光電変換素子に対して、XRD(X-ray diffraction)を測定した。
図2に、実施例
7および比較例4のデバイス作製後初期のX線回折パターンを代表例として示す。
【0252】
図2から明らかなように、実施例7の回折パターンではPbI
2のピークが確認される
ことから、ペロブスカイト層およびポリシラン層の間にPbI
2層(電子ブロック層)が
形成されたと考えられる。なお、実施例7のみならず、いずれの実施例の回折パターンに
おいてもPbI
2のピークは確認された。
【0253】
また、エアーブロー法および高温熱処理により作製した実施例7の回折パターンでは、
比較例4に比べて、ペロブスカイト結晶の(100)面の配向が非常に高いことが確認さ
れた。
【0254】
さらに、実施例1および比較例3~4のXRDの測定結果に基づいて、ペロブスカイト
結晶の格子定数aを最小二乗法で算出した。結果を表1に示す。
【0255】
【0256】
表1から明らかなように、実施例1では同一組成のペロブスカイト結晶の比較例3~4
に対して、MAの脱離が有効に抑制されるため、格子定数aが若干拡大していた。
【0257】
[光電変換素子の特性評価]
プレシジョンソース/メジャーユニット(KEYSIGHT製「B2901A」)、ソ
ーラーシミュレータ((株)三永電機製作所製「XES-301S」、光源:キセノンラ
ンプ、照度:100mWcm
-2)を用い、AM(エアマス)1.5、照射面積0.08
cm
2、室温(25℃程度)の条件下で、実施例および比較例で得られた光電変換素子の
電流密度-電圧曲線を測定した。なお、光電変換素子のFTO基板側を通して光を照射し
た。測定結果を表2および
図3に示す。
【0258】
なお、表2において、ペロブスカイト層の欄において、MAはメチルアンモニウム(C
H3NH3)、EAはエチルアンモニウム(CH3CH2NH3)、FAはホルムアミジ
ニウム(HC(NH2)2)をそれぞれ示し、Jsc-0、Voc-0およびη0はデバ
イス作製後の初期の短絡電流密度、開放電圧および光電変換効率をそれぞれ示し、Jsc
-x、Voc-xおよびηxはデバイス作製から大気中でx週間後(xW後)の短絡電流
密度、開放電圧および光電変換効率をそれぞれ示す。また、η0およびηxは、Reverse
(リバーススキャン、電圧が下がる方向に走査)の最高値を示す。
【0259】
【0260】
表2および
図3から明らかなように、いずれの実施例においても、大気中で比較例より
高温で熱処理したにもかかわらず、高い変換効率および耐久性を示した。なかでも、EA
を含む実施例5~6、ならびに、FAおよびKを含む実施例7~9、特に実施例7では、
より長期間経過後においても高い変換効率を示した。また、EAを含む実施例5~6では
短絡電流密度が高く、FAおよびKを含む実施例7~9では開放電圧が高い傾向がそれぞ
れ確認された。
【0261】
なお、η0が低い実施例7などでは、完全に結晶になっていない領域があり、ペロブス
カイト結晶の室温時効によって変換効率が向上したものと考えられる。実際に、実施例7
のデバイス作製後の初期における(100)面の結晶子サイズDは約130nmであった
のに対して、26週間経過後(26W後)には約270nmとなり、結晶が成長していた
。また、実施例7の5週間経過後(5W後)の変換効率η5は約6%を越え、比較例1~
2を上回った。なお、結晶子サイズDは、XRDの測定結果に基づいて、シェラーの式(
Scherrer’s equation)[D=0.9×λ/(β×cosθ)、式中、Dは結晶子サイズ
、λはX線の波長(0.15405nm)、βは装置定数補正を行った半値全幅(FWH
M)、θはブラッグ角を示す。]により算出した。
【0262】
一方、実施例7に対して、熱処理温度を200℃に変更した実施例8では、η0が比較
的高く、初期の段階から長期間安定して高い変換効率を示した。
【0263】
また、比較例3~5でも同様の特性評価を試みたが、いずれも1週間程度で変換効率が
η0の90~60%程度まで大きく低下したため、耐久性評価試験を中止した。