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2025-36005ポリアリーレンスルフィド樹脂組成物およびそれからなる成形品
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025036005
(43)【公開日】2025-03-14
(54)【発明の名称】ポリアリーレンスルフィド樹脂組成物およびそれからなる成形品
(51)【国際特許分類】
   C08L 81/02 20060101AFI20250306BHJP
   C08L 77/00 20060101ALI20250306BHJP
   C08L 67/00 20060101ALI20250306BHJP
   C08K 9/02 20060101ALI20250306BHJP
   C08L 67/02 20060101ALI20250306BHJP
【FI】
C08L81/02
C08L77/00
C08L67/00
C08K9/02
C08L67/02
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024005960
(22)【出願日】2024-01-18
(31)【優先権主張番号】P 2023138622
(32)【優先日】2023-08-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.BLUETOOTH
(71)【出願人】
【識別番号】000003001
【氏名又は名称】帝人株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100169085
【弁理士】
【氏名又は名称】為山 太郎
(72)【発明者】
【氏名】森 勇気
【テーマコード(参考)】
4J002
【Fターム(参考)】
4J002CF032
4J002CF042
4J002CF052
4J002CF082
4J002CF162
4J002CL012
4J002CL032
4J002CL062
4J002CN011
4J002DA016
4J002FA046
4J002FB076
4J002FD016
4J002GG01
4J002GQ00
(57)【要約】
【課題】押出性、薄肉成形性および電磁波シールド特性に優れる樹脂組成物を提供する。
【解決手段】(A)ポリアリーレンスルフィド樹脂(A成分)60~99.9重量部および(B)ポリアミド樹脂およびポリエステル樹脂よりなる群より選ばれる少なくとも1種の樹脂(B成分)0.1~40重量部からなる成分100重量部に対し、(C)金属被覆炭素繊維(C成分)5~50重量部を含む樹脂組成物であって、走査電子顕微鏡で観察したときにA成分の樹脂Aがマトリックスを形成し、C成分の金属被覆炭素繊維Cの周囲をB成分の樹脂Bが覆う構造となることを特徴とする樹脂組成物。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)ポリアリーレンスルフィド樹脂(A成分)60~99.9重量部および(B)ポリアミド樹脂およびポリエステル樹脂よりなる群より選ばれる少なくとも1種の樹脂(B成分)0.1~40重量部からなる成分100重量部に対し、(C)金属被覆炭素繊維(C成分)5~50重量部を含む樹脂組成物であって、走査電子顕微鏡で観察したときにA成分の樹脂Aがマトリックスを形成し、C成分の金属被覆炭素繊維Cの周囲をB成分の樹脂Bが覆う構造となることを特徴とする樹脂組成物。
【請求項2】
A成分が末端に非極性官能基を含有するポリアリーレンスルフィド樹脂である請求項1に記載の樹脂組成物。
【請求項3】
A成分が末端にフェニル基を含有するポリアリーレンスルフィド樹脂である請求項2に記載の樹脂組成物。
【請求項4】
B成分が脂肪族ポリアミドである請求項1に記載の樹脂組成物。
【請求項5】
B成分がポリアミド6である請求項4に記載の樹脂組成物。
【請求項6】
B成分がポリエチレンテレフタレート樹脂、ポリエチレンナフタレート樹脂、ポリブチレンテレフタレート樹脂、ポリブチレンナフタレート樹脂および液晶ポリエステル樹脂からなる群より選ばれる少なくとも1種の樹脂である請求項1に記載の樹脂組成物。
【請求項7】
C成分がニッケル被覆炭素繊維である請求項1に記載の樹脂組成物。
【請求項8】
請求項1~7のいずれかに記載の樹脂組成物を成形してなる成形品。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリアリーレンスルフィド樹脂、ポリアミド樹脂およびポリエステル樹脂よりなる群より選ばれる少なくとも1種の樹脂および金属被覆炭素繊維よりなる樹脂組成物であって、押出性、薄肉成形性および電磁波シールド性に優れる樹脂組成物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
Wi-FiおよびBlueToothなど多くの機器が無線で通信するようになり、電子機器や電化製品で満ち溢れているオフィスおよび家庭には、電磁波が飛び交っている。今後は遠隔操作が必要なロボットおよびドローンの普及により、必要な電磁波は受け入れて不要な電磁波はシールドするという電磁両立性(EMC対策)がますます重要になってくると考えられる。電磁シールドを必要とする電子装置はデジタル技術を応用した製品であり、例えばコンピュータ、電子ゲーム、TVゲーム、電子キャッシュレジスタ、スイッチング電源、デジタル時計、デジタル腕時計、電卓、ワードプロセッサなど広範囲のものを含んでおり、これらの製品から発生する電磁波は200MHz~1GHzの周波数帯のものである。
【0003】
近年、電子機器の小型軽量化に伴う回路の高集積化および高密度化に伴い、電子機器が電磁波によって誤作動を引き起こすことが問題となっている。その為、電子機器の筐体には、外部からの電磁波をシールドするためおよび外部への電磁波の漏洩を防止するために電磁波シールド効果を付与することが求められている。電磁波シールド効果を得る為には、電子機器筐体に導電性が必要であり、一般的に導電性が高いほど良好な電磁波シールド性を有する。従来、このような筐体には金属が使用されていたが、加工性、軽量化の観点からポリアリーレンスルフィド樹脂などのプラスチックを使用する試みがなされている。しかし、一般的にプラスチックは金属のような導電性を有していないので、電磁妨害波および電磁波ノイズ対策のために導電性の付与が必要となる。プラスチックに電磁波シールド性を付与する方法として、メッキなどの導電性表面処理並びに金属粉、金属繊維、炭素繊維および金属被覆炭素繊維等を含有させる方法が代表的な方法として開示されている。
【0004】
特許文献1には炭素繊維表面におけるESCA法で測定されるO1S/C1Sを特定範囲に調整して得られた炭素繊維を使用したニッケル金属被覆炭素繊維を含有する熱可塑性樹脂組成物が開示されている。しかしながら、ポリアリーレンスルフィド樹脂に対して有用な方法ではなく、電磁波シールド性も十分とは言えない。また、特許文献2にはポリアリーレンスルフィド樹脂、変性ポリオレフィン組成物および繊維状充填剤からなる樹脂組成物が開示されているが、薄肉成形性について何ら記載されておらず、電磁波シールド性も十分とは言えない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第4674066号公報
【特許文献2】特開2022-114252号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、押出性、薄肉成形性および電磁波シールド特性に優れる樹脂組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記目的を達成として鋭意研究を重ねた結果、ポリアリーレンスルフィド樹脂並びにポリアミド樹脂およびポリエステル樹脂よりなる群より選ばれる少なくとも1種の樹脂に金属被覆炭素繊維を配合し、特定の構造となることで、押出性、薄肉成形性および電磁波シールド特性に優れる樹脂組成物が得られることを見出し、上記課題を解決するに至った。
【0008】
すなわち、本発明は以下のとおりである。
1.(A)ポリアリーレンスルフィド樹脂(A成分)60~99.9重量部および(B)ポリアミド樹脂およびポリエステル樹脂よりなる群より選ばれる少なくとも1種の樹脂(B成分)0.1~40重量部からなる成分100重量部に対し、(C)金属被覆炭素繊維(C成分)5~50重量部を含む樹脂組成物であって、走査電子顕微鏡で観察したときにA成分の樹脂Aがマトリックスを形成し、C成分の金属被覆炭素繊維Cの周囲をB成分の樹脂Bが覆う構造となることを特徴とする樹脂組成物。
2.A成分が末端に非極性官能基を含有するポリアリーレンスルフィド樹脂である前項1に記載の樹脂組成物。
3.A成分が末端にフェニル基を含有するポリアリーレンスルフィド樹脂である前項2に記載の樹脂組成物。
4.B成分が脂肪族ポリアミドである前項1~3のいずれかに記載の樹脂組成物。
5.B成分がポリアミド6である前項4に記載の樹脂組成物。
6.B成分がポリエチレンテレフタレート樹脂、ポリエチレンナフタレート樹脂、ポリブチレンテレフタレート樹脂、ポリブチレンナフタレート樹脂および液晶ポリエステル樹脂からなる群より選ばれる少なくとも1種の樹脂である前項1~3のいずれかに記載の樹脂組成物。
7.C成分がニッケル被覆炭素繊維である前項1~6のいずれかに記載の樹脂組成物。
8.前項1~7のいずれかに記載の樹脂組成物を成形してなる成形品。
【発明の効果】
【0009】
本発明の樹脂組成物は押出性、薄肉成形性および電磁波シールド特性に優れるため、本発明の樹脂組成物より得られる成形品は電気・電子機器部品および自動車部品等の電磁波シールド性が必要とされるパーツに有用であり、その奏する工業的効果は極めて大である。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】実施例1の樹脂組成物におけるモルフォロジーの観察図である。
図2】実施例11の樹脂組成物におけるモルフォロジーの観察図である。
図3】比較例1の樹脂組成物におけるモルフォロジーの観察図である。
図4】比較例5の樹脂組成物におけるモルフォロジーの観察図である。
図5】比較例8の樹脂組成物におけるモルフォロジーの観察図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の詳細について説明する。
【0012】
<A成分について>
本発明のA成分としてポリアリーレンスルフィド樹脂が使用される。
ポリアリーレンスルフィド樹脂としては、その構成単位として、例えばp-フェニレンスルフィド単位、m-フェニレンスルフィド単位、o-フェニレンスルフィド単位、フェニレンスルフィドスルホン単位、フェニレンスルフィドケトン単位、フェニレンスルフィドエーテル単位、ジフェニレンスルフィド単位、置換基含有フェニレンスルフィド単位、分岐構造含有フェニレンスルフィド単位、等よりなるものを挙げることができ、その中でも、p-フェニレンスルフィド単位を70モル%以上、特に90モル%以上含有しているものが好ましく、さらに、ポリ(p-フェニレンスルフィド)がより好ましい。
【0013】
ポリアリーレンスルフィド樹脂の重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)で表される分散度(Mw/Mn)は好ましくは2.7以上、より好ましくは2.8以上、さらに好ましくは2.9以上である。分散度が2.7未満の場合は、成形時のバリ発生が多くなる場合がある。なお、分散度(Mw/Mn)の上限は特に規定されないが、10以下であることが好ましい。ここで、重量平均分子量(Mw)および数平均分子量(Mn)はゲルパーミネーションクロマトグラフィー(GPC)により、ポリスチレン換算で算出された値である。なお、溶媒には1-クロロナフタレンを使用し、カラム温度は210℃とした。
【0014】
ポリアリーレンスルフィド樹脂の製造方法は、米国登録特許第4,746,758号、第4,786,713号、特表2013-522385、特開2012-233210および特許5167276等に記載された製造方法が好ましい。
【0015】
前記製造方法はヨウ化工程および重合工程を含む。該ヨウ化工程ではアリール化合物をヨードと反応させて、ジヨードアリール化合物を得る。続く重合工程で、重合停止剤を用いてジヨードアリール化合物を固体硫黄と重合反応させてポリアリーレンスルフィド樹脂を製造する。ヨードはこの工程にて気体状で発生し、これを回収して再びヨウ化工程に用いられる。実質的にヨードは触媒である。
【0016】
前記製造方法で用いられる代表的な固体硫黄としては、室温で8個の原子が連結されたシクロオクタ硫黄形態(S)が挙げられる。しかしながら重合反応に用いられる硫黄化合物は限定されるものではなく、常温で固体または液体であればいずれの形態でも使用し得る。
【0017】
前記製造方法で用いられる代表的なジヨードアリール化合物としては、ジヨードベンゼン、ジヨードナフタレン、ジヨードビフェニル、ジヨードビスフェノールおよびジヨードベンゾフェノンからなる群より選ばれる少なくとも1種が挙げられ、またアルキル基やスルホン基が結合していたり、酸素や窒素が導入されたりしているヨードアリール化合物の誘導体も使用される。ヨードアリール化合物はそのヨード原子の結合位置によって異なる異性体に分類され、これらの異性体のうち好ましい例は、p-ジヨードベンゼン、2,6-ジヨードナフタレン、及びp,p’-ジヨードビフェニルのようにヨードがアリール化合物の分子両端に対称的に位置する化合物である。該ヨードアリール化合物の含有量は前記固体硫黄100重量部に対し500~10,000重量部であることが好ましい。この量はジスルフィド結合の生成を考慮して決定される。
【0018】
本発明において、A成分の樹脂Aがマトリックスを形成し、C成分の金属被覆炭素繊維Cの周囲をB成分の樹脂Bが覆う構造となることが重要であり、その手段としては特に限定されないが、末端に非極性官能基を含有するポリアリーレンスルフィド樹脂を用いることが好ましい。非極性官能基としては、フェニル基、ビニル基、脂肪族炭化水素基(アルキル基、シクロアルキル基等)および芳香族炭化水素基(アリール基、アリーレン基等)等が挙げられ、その中でもフェニル基が好ましい。末端に非極性官能基を含有するポリアリーレンスルフィド樹脂を使用することにより、ポリアミド樹脂およびポリエステル樹脂よりなる群より選ばれる少なくとも1種の樹脂および金属被覆炭素繊維を配合することで、薄肉成形性および電磁波シールド特性が向上する。
【0019】
前記製造方法で用いられる代表的な重合停止剤としては、ジフェニルスルフィド、ジフェニルジスルフィド、ジ-2-ナフチルジスルフィド、ビス(2,5-ジメチルフェニル)ジスルフィドなどが挙げられ、ジフェニルスルフィド、ジフェニルジスルフィドが好ましい。重合停止剤としてこれらの化合物を使用することにより、末端に非極性官能基を含有するポリアリーレンスルフィド樹脂を製造することができる。重合停止剤の含有量は前記固体硫黄100重量部に対し1~30重量部であることが好ましい。この量はジスルフィド結合の生成を考慮して決定される。
【0020】
前記製造方法では重合反応触媒を使用しても良く、代表的な重合反応触媒としては、ニトロベンゼン系触媒が挙げられる。ニトロベンゼン系触媒のうち好ましい例としては、1,3 -ジヨード-4-ニトロベンゼン、1-ヨード-4-ニトロベンゼン、2,6-ジヨード- 4-ニトロフェノール、ヨードニトロベンゼン、2,6-ジヨード-4-ニトロアミンからなる群より選ばれる少なくとも1種が挙げられる。重合反応触媒の含有量は前記固体硫黄100重量部に対し0.01~20重量部であることが好ましい。この量はジスルフィド結合の生成を考慮して決定される。
【0021】
<B成分について>
本発明の樹脂組成物は、B成分としてポリアミド樹脂およびポリエステル樹脂よりなる群より選ばれる少なくとも1種の樹脂を含有する。
【0022】
<ポリアミド樹脂>
本発明のB成分として使用されるポリアミド樹脂としては、半芳香族ポリアミド樹脂および脂肪族ポリアミド樹脂が挙げられ、これらの1種もしくは2種以上を用いてもよく、目的によって任意に選ぶことができる。
【0023】
半芳香族ポリアミド樹脂は、芳香族ジカルボン酸成分と脂肪族ジアミン成分とから構成される。
【0024】
芳香族ジカルボン酸成分としては、例えば、テレフタル酸、イソフタル酸、ナフタレンジカルボン酸等の芳香族ジカルボン酸が挙げられ、ジカルボン酸成分は、上記のうち1種を単独で用いてもよいし、複数種を併用してもよい。ジカルボン酸成分として、本発明の効果を損なわない限りで、芳香族ジカルボン酸以外の他のジカルボン酸を用いてもよい。他のジカルボン酸としては、例えば、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ウンデカン二酸、ドデカン二酸等の脂肪族ジカルボン酸およびシクロヘキサンジカルボン酸等の脂環式ジカルボン酸が挙げられる。
【0025】
脂肪族ジアミン成分としては、例えば、1,2-エタンジアミン、1,3-プロパンジアミン、1,4-ブタンジアミン、1,5-ペンタンジアミン、1,6-ヘキサンジアミン、1,7-ヘプタンジアミン、1,8-オクタンジアミン、1,9-ノナンジアミン、1,10-デカンジアミン、1,11-ウンデカンジアミン、1,12-ドデカンジアミン、2-メチル-1,5-ペンタンジアミン、2-メチル-1,8-オクタンジアミンが挙げられる。これらは、それぞれ1種を単独で用いてもよいし、複数種を併用してもよい。ジアミン成分としては、本発明の効果を損なわない限り、脂肪族ジアミン以外の他のジアミンを用いてもよい。他のジアミンとしては、例えば、シクロヘキサンジアミン等の脂環式ジアミンおよびキシリレンジアミン、ベンゼンジアミン等の芳香族ジアミンが挙げられる。
【0026】
脂肪族ポリアミド樹脂として、ポリε-カプラミド(ポリアミド6)、ポリテトラメチレンアジパミド(ポリアミド46)、ポリヘキサメチレンアジパミド(ポリアミド66)、ポリヘキサメチレンセバカミド(ポリアミド610)、ポリヘキサメチレンドデカミド(ポリアミド612)、ポリウンデカメチレンアジパミド(ポリアミド116)、ポリウンデカナミド(ポリアミド11)、ポリドデカナミド(ポリアミド12)およびこれらのうち少なくとも2種類の異なったポリアミド成分を含むポリアミド共重合体あるいはこれらの混合物などが挙げられる。
【0027】
<ポリエステル樹脂>
ポリエステル樹脂は、脂肪族ポリエステル樹脂、芳香族ポリエステル樹脂および液晶ポリエステル樹脂が挙げられ、これらの1種もしくは2種以上を用いてもよく、目的によって任意に選ぶことができる。
【0028】
脂肪族ポリエステル樹脂は、ジカルボン酸およびジオールから製造される。
【0029】
ジカルボン酸成分としては、例えば1,3-シクロヘキサンジカルボン酸、1, 4-シクロヘキサンジカルボン酸等が挙げられ、これらの1種もしくは2種以上を用いてもよく、目的によって任意に選ぶことができる。
【0030】
ジオール成分としては、例えばエチレングリコール、1,2-プロパンジオール、1,3-プロパンジオール、1,4-ブタンジオール、1,5-ペンタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、1,8-オクタンジオール、1,10-デカンジオール、ネオペンチルグリコール、2,2,4,4-テトラメチル-1,3-シクロブタンジオール、2,2,4-トリメチル-1,3-ペンタンジオール、1,4-シクロヘキサンジメタノール等が挙げられ、これらの1種もしくは2種以上を用いてもよく、目的によって任意に選ぶことができる。
【0031】
脂肪族ポリエステル樹脂としては、ポリ(1,3-シクロヘキシレンジメチレン-1,3-シクロヘキサンジカルボキシレート)、ポリ(1,4-シクロヘキシレンジメチレン-1,4-シクロヘキサンジカルボキシレート)、ポリ(2,2,4,4-テトラメチル-1,3-シクロブチレン-1,4-シクロヘキサンジカルボキシレート)およびそれらの共重合体が挙げられる。
【0032】
芳香族ポリエステル樹脂は、ジカルボン酸および/またはジカルボン酸のエステル形成性誘導体を主とするジカルボン酸成分およびジオールを主成分とするグリコール成分を用いて製造することができる。
【0033】
ジカルボン酸成分としては、例えば2,6-ナフタレンジカルボン酸、2,7-ナフタレンジカルボン酸、テレフタル酸、イソフタル酸、4,4′-ジフェニルジカルボン酸、ジフェノキシエタン-4,4′-ジカルボン酸、ジフェニルスルホン-4,4′-ジカルボン酸、ジフェニルエーテル-4,4′-ジカルボン酸等の芳香族ジカルボン酸、アジピン酸、セバシン酸、コハク酸、シュウ酸等の脂肪族ジカルボン酸、シクロヘキサンジカルボン酸等の脂環式ジカルボン酸等が挙げられ、これらの1種もしくは2種以上を用いてもよく、目的によって任意に選ぶことができる。2種以上のジカルボン酸を使用する場合、主成分となるジカルボン酸の使用量は全酸成分に対して好ましくは70モル%以上、より好ましくは80モル%以上である。ジカルボン酸のエステル形成性誘導体としては、例えば、2,6-ナフタレンジカルボン酸、2,7-ナフタレンジカルボン酸、テレフタル酸、イソフタル酸、4,4′-ジフェニルジカルボン酸、ジフェノキシエタン-4,4′-ジカルボン酸、ジフェニルスルホン-4,4′-ジカルボン酸、ジフェニルエーテル-4,4′-ジカルボン酸等の芳香族ジカルボン酸の低級ジアルキルエステル、シクロヘキサンジカルボン酸等の脂環式ジカルボン酸の低級ジアルキルエステル、アジピン酸、セバシン酸、コハク酸、シュウ酸等の脂肪族ジカルボン酸の低級ジアルキルエステル等が挙げられ、これらの1種もしくは2種以上を用いてもよく、目的によって任意に選ぶことができる。2種以上のジカルボン酸エステル形成性誘導体を使用する場合、主成分となるジカルボン酸エステル形成性誘導体の使用量は全ジカルボン酸のエステル形成性誘導体成分に対して好ましくは70モル%以上、より好ましくは80モル%以上である。また、少量のトリメリット酸のような三官能性以上のジカルボン酸成分を用いてもよく、無水トリメリット酸のような酸無水物を少量用いてもよい。また、乳酸、グリコール酸のようなヒドロキシカルボン酸またはそのアルキルエステル等を少量用いてもよく、目的によって任意に選ぶことができる。
【0034】
グリコール成分としては、例えば、エチレングリコール、1,4-ブタンジオール、1,3-プロピレングリコール、1,2-プロピレングリコール、ネオペンチレングリコール、ヘキサメチレングリコール、デカメチレングリコール、シクロヘキサンジメタノール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ポリ(オキシ)エチレングリコール、ポリ(オキシ)テトラメチレングリコール、ポリ(オキシ)メチレングリコール等のアルキレングリコールの1種もしくは2種以上を用いてもよく、目的によって任意に選ぶことができる。さらに少量のグリセリンのような多価アルコール成分を用いてもよい。主成分となるグリコール成分の使用量は、全グリコール成分に対して好ましくは70モル%以上、より好ましくは80モル%以上である。かかるグリコール成分の使用量は、前記ジカルボン酸もしくはジカルボン酸のエステル形成性誘導体に対して1.1モル倍以上1.4モル倍以下であることが好ましい。グリコール成分の使用量が1.1モル倍に満たない場合にはエステル化あるいはエステル交換反応が十分に進行しない場合があり好ましくない。また、1.4モル倍を超える場合にも、理由は定かではないが反応速度が遅くなり、過剰のグリコール成分からテトラヒドロフラン等の副生物の発生量が多くなる場合があり好ましくない。
【0035】
芳香族ポリエステル樹脂の製造においては、公知の重合触媒を用いることができ、例えばチタン化合物、アンチモン化合物、ゲルマニウム化合物、マンガン化合物、アルミニウム化合物などが挙げられるが、その中でもチタン化合物が好ましい。重合触媒として用いられるチタン化合物としては、テトラアルキルチタネートが好ましく、具体的にはテトラ-n-プロピルチタネート、テトライソプロピルチタネート、テトラ-n-ブチルチタネート、テトラ-sec-ブチルチタネート、テトラ-t-ブチルチタネート、テトラ-n-ヘキシルチタネート、テトラシクロヘキシルチタネート、テトラフェニルチタネート、テトラベンジルチタネートなどが挙げられ、これらの混合チタネートとして用いても良い。これらのチタン化合物のうち、特にテトラ-n-プロピルチタネート、テトライソプロピルチタネート、テトラ-n-ブチルチタネートが好ましく、最も好ましいのはテトラ-n-ブチルチタネートである。チタン化合物の添加量は生成ポリエステル樹脂中のチタン原子含有量として、10ppm以上60ppm以下であることが好ましく、より好ましくは15ppm以上30ppm以下である。生成ポリエステル樹脂中のチタン原子含有量が60ppmを超える場合は、本発明の樹脂組成物の色調および熱安定性が低下する場合があるために好ましくない。一方チタン原子含有量が10ppm未満の場合には、良好な重合活性を得ることができず、充分な高い固有粘度のポリエステル樹脂を得ることができない場合があり好ましくない。本発明のポリエステル樹脂は、ジカルボン酸および/またはそのエステル形成性誘導体を主とするジカルボン酸成分とグリコール成分とを重合触媒の存在下にてエステル化あるいはエステル交換反応工程と、それに続く重縮合反応工程とを経由して製造されることが好ましいが、エステル化あるいはエステル交換反応終了の際の温度が180℃以上230℃以下の範囲にある事が好ましく、180℃以上220℃以下であることがより好ましい。当該エステル化反応又はエステル交換反応終了の際の温度が230℃を超える場合には反応速度は大きくなるが、テトラヒドロフラン等の副生物が多くなる場合があり好ましくない。また、180℃未満では反応が進行しなくなる場合がある。エステル化あるいはエステル交換反応により得られた反応生成物(ビスグリコールエーテルおよび/またはその低重合体)は当該反応生成物をポリエステル樹脂の融点以上290℃以下の温度において0.4kPa(3Torr)以下の減圧下で重縮合させることが好ましい。重縮合反応温度が290℃を超える場合にはむしろ反応速度が低下して、着色も大きくなる場合があるので好ましくない 。ポリエステル樹脂は1種もしくは2種以上を用いてもよく、目的によって任意に選ぶことができる。
【0036】
代表的な芳香族ポリエステル樹脂としては、例えばポリブチレンナフタレート樹脂、ポリエチレンナフタレート樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂、ポリブチレンテレフタレート樹脂およびそれらの共重合体が挙げられる。
【0037】
液晶ポリエステル樹脂は、サーモトロピック液晶ポリエステル樹脂であり、溶融状態でポリマー分子鎖が一定方向に配列する性質を有している。かかる配列状態の形態はネマチック型、スメチック型、コレステリック型およびディスコチック型のいずれの形態であってもよく、また2種以上の形態を呈するものであってもよい。更に液晶ポリエステル樹脂の構造としては主鎖型、側鎖型および剛直主鎖屈曲側鎖型などのいずれの構造であってもよい。上記配列状態の形態、すなわち異方性溶融相の性質は、直交偏光子を利用した慣用の偏光検査法により確認することができる。より具体的には、異方性溶融相の確認は、Leitz偏光顕微鏡を使用し、Leitzホットステージにのせた溶融試料を窒素雰囲気下で40倍の倍率で観察することにより実施できる。
【0038】
液晶ポリエステル樹脂は、ポリエステル単位およびポリエステルアミド単位を含むものが好ましく、芳香族ポリエステル単位及び芳香族ポリエステルアミド単位を同一分子鎖中に部分的に含む液晶ポリエステル樹脂も好ましい例である。特に好ましくは、芳香族ヒドロキシカルボン酸、芳香族ヒドロキシアミン、芳香族ジアミンの群から選ばれた1種または2種以上の化合物由来の単位構成成分として有する液晶ポリエステル樹脂である。より具体的には、1)主として芳香族ヒドロキシカルボン酸及びその誘導体からなる群より選ばれる1種又は2種以上の化合物から合成される液晶ポリエステル樹脂、2)主としてa)芳香族ヒドロキシカルボン酸及びその誘導体からなる群より選ばれる1種又は2種以上の化合物、b)芳香族ジカルボン酸、脂環族ジカルボン酸及びその誘導体からなる群より選ばれる1種又は2種以上の化合物、並びにc)芳香族ジオール、脂環族ジオール、脂肪族ジオール及びその誘導体からなる群より選ばれる1種又は2種以上の化合物、から合成される液晶ポリエステル樹脂、3)主としてa)芳香族ヒドロキシカルボン酸及びその誘導体からなる群より選ばれる1種又は2種以上の化合物、b)芳香族ヒドロキシアミン、芳香族ジアミン及びその誘導体からなる群より選ばれる1種又は2種以上の化合物、並びにc)芳香族ジカルボン酸、脂環族ジカルボン酸及びその誘導体からなる群より選ばれる1種又は2種以上の化合物から合成される液晶ポリエステルアミド樹脂、4)主としてa)芳香族ヒドロキシカルボン酸及びその誘導体からなる群より選ばれる1種又は2種以上の化合物、b)芳香族ヒドロキシアミン、芳香族ジアミン及びその誘導体からなる群より選ばれる1種又は2種以上の化合物、c)芳香族ジカルボン酸、脂環族ジカルボン酸及びその誘導体からなる群より選ばれる1種又は2種以上の化合物、並びにd)芳香族ジオール、脂環族ジオール、脂肪族ジオール及びその誘導体からなる群より選ばれる1種又は2種以上の化合物から合成される液晶ポリエステルアミド樹脂が挙げられるが、1)主として芳香族ヒドロキシカルボン酸及びその誘導体からなる群より選ばれる1種又は2種以上の化合物から合成される液晶ポリエステル樹脂が好ましい。更に上記の構成成分に必要に応じ分子量調整剤を併用しても良い。液晶ポリエステル樹脂の合成に用いられる具体的化合物の好ましい例は、2,6-ナフタレンジカルボン酸、2,6-ジヒドロキシナフタレン、1,4-ジヒドロキシナフタレン及び6-ヒドロキシ-2-ナフトエ酸等のナフタレン化合物、4,4’-ジフェニルジカルボン酸、4,4’-ジヒドロキシビフェニル等のビフェニル化合物、p-ヒドロキシ安息香酸、テレフタル酸、ハイドロキノン、p-アミノフェノール及びp-フェニレンジアミン等のパラ位置換のベンゼン化合物及びそれらの核置換ベンゼン化合物(置換基は塩素、臭素、メチル、フェニル、1-フェニルエチルより選ばれる)、イソフタル酸、レゾルシン等のメタ位置換のベンゼン化合物である。中でも、p-ヒドロキシ安息香酸と6-ヒドロキシ-2-ナフトエ酸が特に好ましく、両者を混合してなる液晶ポリエステル樹脂が好適である。両者の割合は前者が90~50モル%の範囲が好ましく、80~65モル%の範囲がより好ましく、後者が10~50モル%の範囲が好ましく、20~35モル%の範囲がより好ましい。
【0039】
B成分の含有量は、A成分およびB成分の合計100重量部中、0.1~40重量部であり、好ましくは0.5~35重量部、より好ましくは1~30重量部である。含有量が0.1重量部未満の場合、十分な電磁波シールド特性が得られない。また40重量部を超えると、薄肉成形性が悪化する。
【0040】
<C成分について>
本発明の樹脂組成物は、C成分として金属被覆炭素繊維を含有する。
金属被覆炭素繊維に使用される炭素繊維は、一般的に炭素繊維と称されるものであればいかなる炭素繊維を用いてもよい。例えば、ポリアクリロニトリルを原料とするPAN系炭素繊維、石油タールや石油ピッチを原料とするピッチ系炭素繊維、炭化水素などを原料とする気相成長系炭素繊維、ビスコースレーヨンなどを原料とするセルロース系炭素繊維などが挙げられる。
【0041】
炭素繊維表面に形成する金属は、銀、銅、鉄、ニッケルおよびアルミニウムなどが挙げられ、ニッケルが金属層の耐腐食性の点から好ましい。金属コートの方法としては、メッキ法および蒸着法等の公知の方法が挙げられ、中でもメッキ法が好適に利用される。金属被覆層の厚みは好ましくは0.1~1μm、より好ましくは0.15~0.5μm、さらに好ましくは0.2~0.35μmである。
【0042】
C成分の含有量は、A成分およびB成分の合計100重量部に対し、5~50重量部であり、8~47重量部であることが好ましく、10~45重量部であることがより好ましい。含有量が5重量部未満の場合、十分な電磁波シールド特性が得られない。一方、含有量が50重量部を超えると、押出性が悪化し、ペレット化が困難である。
【0043】
<その他の成分>
本発明における樹脂組成物は本発明の効果を損なわない範囲で金属被覆炭素繊維以外の無機充填剤を併用することができる。無機充填剤としては、金属被覆炭素繊維以外の繊維状充填剤、粉末状充填剤、板状充填剤などが挙げられる。繊維状充填剤としてはガラス繊維、アラミド繊維、チタン酸カリウムウィスカー、酸化亜鉛ウィスカー、アルミナ繊維、炭化珪素繊維、セラミック繊維、アスベスト繊維、石コウ繊維、金属繊維、金属以外の導電性物質で被覆された無機繊維などが挙げられる。金属以外の導電性物質で被覆された無機繊維における導電性物質の具体例としてはSnO(アンチモンドープ)、In(アンチモンドープ)などが例示できる。また被覆される無機繊維としては、ガラス繊維、チタン酸カリウムウィスカー、酸化亜鉛ウィスカー、チタン酸系ウィスカー、炭化珪素ウィスカーなどが例示できる。被覆方法としては真空蒸着法、スパッタリング法、無電解メッキ法、焼き付け法などが挙げられる。またこれらはチタネート系、アルミ系、シラン系カップリング剤などの表面処理剤で表面処理を施されていてもよい。また、これら繊維状充填剤をイソシアネート系化合物、有機シラン系化合物、有機チタネート系化合物、有機ボラン系化合物およびエポキシ化合物などのカップリング剤で予備処理して使用することは、より優れた機械的強度を得る意味において好ましい。粉末状充填剤としてはカーボンブラック、炭酸カルシウム、シリカ、酸化チタン、黒鉛、カーボンナノチューブ、金属粉などが挙げられ、板状充填剤としてはタルクやマイカなどが挙げられる。
【0044】
本発明における樹脂組成物は本発明の効果を損なわない範囲で、他の熱可塑性樹脂を含むことができる。他の熱可塑性樹脂としては、例えば、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリアルキルメタクリレート樹脂などに代表される汎用プラスチックス、ポリフェニレンエーテル樹脂、ポリアセタール樹脂、環状ポリオレフィン樹脂、ポリアリレート樹脂(非晶性ポリアリレート、液晶性ポリアリレート)等に代表されるエンジニアリングプラスチックス、ポリテトラフルオロエチレン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエーテルイミド、ポリサルフォン、ポリエーテルサルフォン、などのいわゆるスーパーエンジニアリングプラスチックスと呼ばれるものを挙げることができる。
【0045】
本発明における樹脂組成物は本発明の効果を損なわない範囲で、酸化防止剤や耐熱安定剤(ヒンダードフェノール系、ヒドロキノン系、ホスファイト系およびこれらの置換体等)、耐候剤(レゾルシノール系、サリシレート系、ベンゾトリアゾール系、ベンゾフェノン系、ヒンダードアミン系等)、離型剤、滑剤(モンタン酸およびその金属塩、そのエステル、そのハーフエステル、ステアリルアルコール、ステアラミド、各種ビスアミド、ビス尿素およびポリエチレンワックス等)、顔料(硫化カドミウム、フタロシアニン、カーボンブラック等)、染料(ニグロシン等)、結晶核剤(タルク、シリカ、カオリン、クレー等)、可塑剤(p-オキシ安息香酸オクチル、N-ブチルベンゼンスルホンアミド等)、帯電防止剤(アルキルサルフェート型アニオン系帯電防止剤、4級アンモニウム塩型カチオン系帯電防止剤、ポリオキシエチレンソルビタンモノステアレートのような非イオン系帯電防止剤、ベタイン系両性帯電防止剤等)、難燃剤(赤燐、リン酸エステル、メラミンシアヌレート、水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウム等の水酸化物、ポリリン酸アンモニウム、臭素化ポリスチレン、臭素化ポリフェニレンエーテル、臭素化ポリカーボネート、臭素化エポキシ樹脂あるいはこれらの臭素系難燃剤と三酸化アンチモンとの組み合わせ等)および他の重合体を添加することができる。
【0046】
<樹脂組成物の製造方法>
本発明の樹脂組成物は上記各成分を同時に、または任意の順序でタンブラー、V型ブレンダー、ナウターミキサー、バンバリーミキサー、混練ロール、押出機等の混合機により混合して製造することができる。好ましくは2軸押出機による溶融混練が好ましく、必要に応じて、任意の成分をサイドフィーダー等を用いて第2供給口より、溶融混合された他の成分中に供給することが好ましい。
【0047】
上記の如く押出された樹脂は、直接切断してペレット化するか、またはストランドを形成した後かかるストランドをペレタイザーで切断してペレット化される。ペレット化に際して外部の埃などの影響を低減する必要がある場合には、押出機周囲の雰囲気を清浄化することが好ましい。得られたペレットの形状は、円柱、角柱、および球状など一般的な形状を取り得るが、より好適には円柱である。かかる円柱の直径は好ましくは1~5mm、より好ましくは1.5~4mm、さらに好ましくは2~3.5mmである。一方、円柱の長さは好ましくは1~30mm、より好ましくは2~5mm、さらに好ましくは2.5~4mmである。
【0048】
<成形品>
本発明の樹脂組成物を用いてなる成形品は、上記の如く製造されたペレットを成形して得ることができる。好適には、射出成形、押出成形により得られる。射出成形においては、通常の成形方法だけでなく、射出圧縮成形、射出プレス成形、ガスアシスト射出成形、発泡成形(超臨界流体を注入する方法を含む)、インサート成形、インモールドコーティング成形、断熱金型成形、急速加熱冷却金型成形、二色成形、多色成形、サンドイッチ成形および超高速射出成形等を挙げることができる。また成形はコールドランナー方式およびホットランナー方式のいずれも選択することができる。また押出成形では、各種異形押出成形品、シート、フィルム等が得られる。シート、フィルムの成形にはインフレーション法、カレンダー法、キャスティング法等も使用可能である。更に特定の延伸操作をかけることにより熱収縮チューブとして成形することも可能である。また本発明の樹脂組成物を回転成形やブロー成形等により成形品とすることも可能である。更に上記各種の方法で製造された成形品には、各種の表面処理を行うことが可能である。ここでいう表面処理とは、蒸着(物理蒸着、化学蒸着など)、メッキ(電気メッキ、無電解メッキ、溶融メッキなど)、塗装、コーティング、印刷などの樹脂成形品の表層上に新たな層を形成させるものであり、樹脂成形品に用いられる各種方法が適用できる。更にシート成形品(リボン状成形品を含む)を更に各種真空成形、熱プレス成形、および曲げ加工などすることにより、各種の搬送容器や電磁波遮蔽カバーなどを製造することもできる。
【実施例0049】
以下に、本発明を実施例に基づいて説明する。なお、本発明は、以下の実施例に限定されるものではなく、以下の実施例を本発明の趣旨に基づいて変形、変更することが可能であり、それらを本発明の範囲から除外するものではない。
【0050】
(1)押出性
ペレット作成時の押出性について以下の通り評価した。
〇:ペレット化が可能である。
×:ペレット化が困難である。
【0051】
(2)薄肉成形性
下記の方法で得られた角板(サイズ:150mm×150mm×1mmt)を用い、外観観察を行い、以下の通り評価した。
A:問題なく成形できる。
B:流動性が低く、十分に充填できない。
C:成形品に剥離が生じる。
【0052】
(3)モルフォロジー
下記の方法で得られた角板(サイズ:150mm×150mm×2mmt)を用い、走査電子顕微鏡を用いて成形品断面の観察を行い、以下の通り評価した。
A:金属被覆炭素繊維の周囲の全体または一部を樹脂Bが覆っている。
B:金属被覆炭素繊維の周囲を樹脂Bが接触はあるものの覆っていないまたは接触も無く覆っていない。
【0053】
(4)電磁波シールド特性
下記の方法で得られた角板(サイズ:150mm×150mm×2mmt)を用いてネットワークアナライザー(キーサイトテクノロジー社製)およびKEC法測定装置(JSE社製)により、100kHz~1GHzの領域における電界および磁界のシールド効果(dB)を測定し、200MHz~1GHzにおける最も低い電界シールド効果(dB)および磁界シールド効果(dB)を算出した。
なお、本発明の実施例、比較例においては以下の材料を使用した。
【0054】
<A成分>
A-1:以下の製造方法1で得られたポリフェニレンスルフィド樹脂
[製造方法1]
パラジヨードベンゼン300.00g及び硫黄27.00gに、重合停止剤としてジフェニルジスルフィド0.60g(最終的に重合されたPPSの重量に基づいて0.65重量%の含量)を投入して180℃に加熱して完全にそれらを溶融及び混合した後、温度を220℃に昇温し、かつ圧力を200Torrに降圧した。得られた混合物を、最終温度及び圧力が夫々320℃及び1Torrとなるように温度及び圧力を段階的に変化させつつ、8時間重合反応させて末端にフェニル基を含有するポリフェニレンスルフィド樹脂を得た。
【0055】
A-2:以下の製造方法2で得られたポリフェニレンスルフィド樹脂
[製造方法2]
攪拌機を装備する15リットルオートクレーブに、フレーク状硫化ソーダ(NaS・2.9HO)1814g、粒状の苛性ソーダ(100%NaOH:和光純薬特級)8.7g及びN-メチル-2-ピロリドン3232gを仕込み、窒素気流下攪拌しながら徐々に200℃まで昇温して、339gの水を留去した。190℃まで冷却した後、p-ジクロロベンゼン2129g、N-メチル-2-ピロリドン1783gを添加し、窒素気流下に系を封入した。この系を2時間かけて225℃に昇温し、225℃にて1時間重合させた後、25分かけて250℃に昇温し、250℃にて2時間重合を行った。次いで、この系に250℃で蒸留水509gを圧入し、255℃まで昇温してさらに2時間重合反応を行った。重合終了後、室温まで冷却し、重合スラリーを遠心濾過器で固液分離した。ケーキを窒素気流下でN-メチル-2-ピロリドン、アセトンで順次3回繰り返し洗浄し、さらに、窒素気流下で0.2%塩酸、及び温水で順次洗浄した。得られたポリ(p-フェニレンスルフィド)を105℃で一昼夜乾燥することによって、末端にフェニル基を含有せず、チオール基を含有するポリアリーレンスルフィド樹脂を得た。
【0056】
<B成分>
B-1:UBE NYLON 1011FB(宇部興産(株)製 ポリアミド6)
B-2:TRN-8550FF(帝人(株)製 ポリエチレンテレフタレート樹脂)
B-3:TN-8065S(帝人(株)製 ポリエチレンナフタレート樹脂)
B-4:1200-211D(長春人造樹脂公司製 ポリブチレンテレフタレート樹脂)
B-5:TQB-OT(帝人(株)製 ポリブチレンナフタレート樹脂)
B-6:UENO LCP A-5000(上野製薬(株)製 液晶ポリエステル樹脂)
B-7:UENO LCP A-8100(上野製薬(株)製 液晶ポリエステル樹脂)
B-8:ultem 1010(SABICジャパン合同会社製 ポリエーテルイミド樹脂)
B-9(比較例):パンライト L-1225WS(帝人(株)製 ポリカーボネート樹脂)
B-10(比較例):リュブマー LY1040(三井化学(株)製 無水マレイン酸変性超高分子量ポリエチレン)
【0057】
<C成分>
C-1:Tenax-J HT C923(帝人(株)製 繊維径:7.5μm、カット長:6mm、ニッケル金属被覆炭素繊維)
【0058】
(試験片の作成)
[実施例1~15、比較例1~8]
A成分およびB成分はそれぞれ第1供給口より供給し、C成分は第2供給口からサイドフィーダーを用いて供給し、溶融押出してペレット化した。ここで第1供給口とは根元の供給口のことであり、第2供給口とは押出機のダイスと第1供給口の間に位置する供給口である。溶融押出は、サイドスクリューを備えた径30mmφのベント式二軸押出機[(株)日本製鋼所製TEX30α-38.5BW-3V]を用い実施した。また、押出温度は、C1/C2/C3~C11/D=50℃/280℃/300℃/300℃とし、メインスクリュー回転数は200rpm、サイドスクリュー回転数は80rpm、吐出量は20kg/h、ベント減圧度は3kPaとした。該ペレットを熱風循環式乾燥機を用いて130℃にて、6時間乾燥し、射出成形機(東芝機械エンジニアリング(株)製 EC130SXII-4Y)を使用して、シリンダー温度300℃、金型温度140℃にて150mm×150mm×2mmtの角板および150mm×150mm×1mmtの角板を作成した。
【0059】
各実施例、比較例について前述の押出性、薄肉成形性および電磁波シールド特性の評価を行った。結果を表1および表2に示す。
【0060】
【表1】
【0061】
【表2】
【0062】
<実施例1~15>
本発明の請求範囲内にあるポリアリーレンスルフィド樹脂、ポリアミド樹脂およびポリエステル樹脂よりなる群より選ばれる少なくとも1種の樹脂および金属被覆炭素繊維を配合することで、優れた押出性、薄肉成形性、金属被覆炭素繊維の周囲を樹脂Bが覆う構造並びに電界シールド効果および磁界シールド効果がともに40dBを超える優れた電磁波シールド特性を示した。モルフォロジーの例として図1、2に示す。
【0063】
<比較例1>
B成分を含有していないため、金属被覆炭素繊維の周囲を樹脂Bが覆っておらず、電磁波シールド特性が悪化した。モルフォロジーの例として図3に示す。
<比較例2>
B成分の含有量が上限を超えるため、薄肉成形性が悪化し、成形品に剥離が生じた結果、電磁波シールド特性測定に十分な成形品を得られなかった。
<比較例3>
C成分を含有していないため、電磁波シールド特性が悪化した。
<比較例4>
C成分の含有量が上限を超えるため、押出性が悪化し、ペレットが得られなかった。
<比較例5~7>
B成分が請求範囲とは異なる成分のため、金属被覆炭素繊維の周囲を樹脂Bが覆っておらず、電磁波シールド特性が悪化した。モルフォロジーの例として図4に示す。
<比較例8>
A成分が請求範囲とは異なる成分のため、金属被覆炭素繊維の周囲を樹脂Bが覆っておらず、電磁波シールド特性が悪化した。モルフォロジーの例として図5に示す。
【産業上の利用可能性】
【0064】
本発明の樹脂組成物および成形品は航空用途および鉄道用途、その他の各種用途において幅広く利用できる。
本発明の樹脂組成物は押出性、薄肉成形性および電磁波シールド特性に優れるため、本発明の樹脂組成物より得られる成形品は電気・電子機器部品および自動車部品等の電磁波シールド性が必要とされるパーツに有用であり、その奏する工業的効果は極めて大である。
【符号の説明】
【0065】
A A成分の樹脂A
B B成分の樹脂B
C C成分の金属被覆炭素繊維C
図1
図2
図3
図4
図5