(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025003624
(43)【公開日】2025-01-09
(54)【発明の名称】エクソソーム分泌促進剤、エクソソーム取り込み促進剤、エクソソーム分泌促進用美容組成物、及びエクソソーム分泌促進方法
(51)【国際特許分類】
A61K 8/64 20060101AFI20241226BHJP
A61K 8/73 20060101ALI20241226BHJP
A61K 8/9789 20170101ALI20241226BHJP
A61Q 19/00 20060101ALI20241226BHJP
A61Q 19/08 20060101ALI20241226BHJP
C07K 5/10 20060101ALI20241226BHJP
C12N 15/11 20060101ALI20241226BHJP
C12N 5/0775 20100101ALI20241226BHJP
【FI】
A61K8/64
A61K8/73
A61K8/9789
A61Q19/00
A61Q19/08
C07K5/10 ZNA
C12N15/11 Z
C12N5/0775
C07K5/10
A61K8/64 ZNA
【審査請求】有
【請求項の数】1
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024187208
(22)【出願日】2024-10-24
(62)【分割の表示】P 2020095096の分割
【原出願日】2020-05-29
(71)【出願人】
【識別番号】000115991
【氏名又は名称】ロート製薬株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001508
【氏名又は名称】弁理士法人 津国
(72)【発明者】
【氏名】井坂 瑞穗
(57)【要約】
【課題】本発明は、抗老化効果等の美容効果に優れる、新しいタイプの美容組成物を提供することを課題とする。具体的には、間葉系幹細胞等の細胞からのエクソソーム分泌を促進することができる組成物を提供することを課題とする。
【解決手段】本発明は、グリコーゲン、ツボクサ葉抽出物、ビルベリー葉抽出物、カンゾウ葉抽出物及び大豆タンパク抽出物からなる群より選択される1種以上を含有する、エクソソーム分泌促進剤である。本発明のエクソソーム分泌促進剤は、更に配列番号1のアミノ酸配列(Leu-Glu-His-Ala)で表されるペプチド又はその塩を含有することが好ましい。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
本願明細書に記載された発明。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エクソソーム分泌促進剤、エクソソーム取り込み促進剤、エクソソーム分泌促進用美容組成物、及びエクソソーム分泌促進方法に関する。
【背景技術】
【0002】
エクソソームは、ほとんどの細胞種が分泌する脂質二重膜で覆われた細胞外小胞であり、一般に50~150nmの粒子径といくつかの膜発現マーカータンパク質(CD9、CD63、CD81など)で定義される。これらの小胞は、細胞膜タンパク質や細胞内タンパク質、さらにDNA、mRNA、miRNAといった核酸等を含み、細胞間相互作用に関与するといわれている。このような細胞間相互作用においては、生理学的及び病理学的な機能が注目されており、エクソソームを指標とした疾患の新規の診断法や、エクソソーム自体を疾患の治療に用いる試みも検討されている。
【0003】
骨髄幹細胞、臍帯血幹細胞、脂肪由来幹細胞等の幹細胞由来のエクソソームは、細胞増殖、分化、再生に関連する遺伝子、タンパク質、成長因子などを含有していることがしられており、これを有効成分として含有する皮膚美白、しわ改善、又は皮膚再生用化粧料組成物が開発されている(特許文献1参照)。
【0004】
近年、肌の美容や健康に対する人々の要求は日々高まっており、新しいタイプの組成物、より美容効果のある組成物が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、かかる状況に鑑みてなされたものであり、抗老化効果等の美容効果に優れる、新しいタイプの美容組成物を提供することを課題とする。具体的には、間葉系幹細胞等の細胞からのエクソソーム分泌を促進することができる組成物を提供することを課題とする。間葉系幹細胞等の細胞から分泌されるエクソソームは、抗老化効果、皮膚再生効果等を有することが知られていることから、このようなエクソソームの分泌を促進することができる組成物は、結果として優れた美容効果を奏すると考えられる。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記の課題を解決するために鋭意研究した結果、グリコーゲン、ツボクサ葉抽出物、ビルベリー葉抽出物、カンゾウ葉抽出物及び大豆タンパク抽出物からなる群より選択される1種以上を含有する組成物が、細胞、特に脂肪組織由来幹細胞からのエクソソーム分泌促進作用を有することを見出した。また、これらの成分に加えて、特定のテトラペプチドを含有させることで、上記組成物のエクソソーム分泌促進作用をより向上させることができることも明らかにした。さらに、上記のエクソソーム分泌促進作用に優れる組成物の作用により、分泌促進されたエクソソームが皮膚組織等に取り込まれることで、結果として皮膚の細胞老化抑制、細胞増殖促進、コラーゲン産生促進、エラスチン産生促進等の美容に繋がる優れた効果を奏することも判明した。さらに、細胞のM1/M2極性転換作用、即ち、炎症性M1マクロファージを抗炎症性M2マクロファージに形質変化させる効果を奏することもわかった。すなわち、本発明の要旨は以下のとおりである。
【0008】
[1]グリコーゲン、ツボクサ葉抽出物、ビルベリー葉抽出物、カンゾウ葉抽出物及び大豆タンパク抽出物からなる群より選択される1種以上を含有する、エクソソーム分泌促進剤。
[2]更にテトラペプチドを含有する、[1]に記載のエクソソーム分泌促進剤。
[3]上記テトラペプチドが、配列番号1のアミノ酸配列(Leu-Glu-His-Ala)で表されるペプチド又はその塩である、[2]に記載のエクソソーム分泌促進剤。
[4]脂肪由来幹細胞におけるエクソソーム分泌を促進する、[1]から[3]のいずれかに記載のエクソソーム分泌促進剤。
[5]グリコーゲン、ツボクサ葉抽出物、ビルベリー葉抽出物、カンゾウ葉抽出物及び大豆タンパク抽出物からなる群より選択される1種以上を含有する、細胞内へのエクソソーム取り込み促進剤。
[6]更にテトラペプチドを含有する、[5]に記載の細胞内へのエクソソーム取り込み促進剤。
[7]上記テトラペプチドが、配列番号1のアミノ酸配列(Leu-Glu-His-Ala)で表されるペプチド又はその塩である、[6]に記載の細胞内へのエクソソーム取り込み促進剤。
[8]上記細胞が、皮膚線維芽細胞である、[5]から[7]のいずれかに記載の細胞内へのエクソソーム取り込み促進剤。
[9]細胞増殖促進のために用いられる、[1]から[4]のいずれかに記載のエクソソーム分泌促進剤。
[10]細胞のM1/M2極性転換のために用いられる、[1]から[4]のいずれかに記載のエクソソーム分泌促進剤。
[11]細胞老化抑制のために用いられる、[1]から[4]のいずれかに記載のエクソソーム分泌促進剤。
[12]コラーゲン及び/又はエラスチン産生促進のために用いられる、[1]から[4]のいずれかに記載のエクソソーム分泌促進剤。
[13]肌のハリ向上のために用いられる、[1]から[4]のいずれかに記載のエクソソーム分泌促進剤。
[14]細胞増殖促進のために用いられる、[5]から[8]のいずれかに記載の、細胞内へのエクソソーム取り込み促進剤。
[15]細胞のM1/M2極性転換のために用いられる、[5]から[8]のいずれかに記載の、細胞内へのエクソソーム取り込み促進剤。
[16]細胞老化抑制のために用いられる、[5]から[8]のいずれかに記載の、細胞内へのエクソソーム取り込み促進剤。
[17]コラーゲン及び/又はエラスチン産生促進のために用いられる、[5]から[8]のいずれかに記載の、細胞内へのエクソソーム取り込み促進剤。
[18]肌のハリ向上のために用いられる、[5]から[8]のいずれかに記載の、細胞内へのエクソソーム取り込み促進剤。
[19]グリコーゲン、ツボクサ葉抽出物、ビルベリー葉抽出物、カンゾウ葉抽出物及び大豆タンパク抽出物からなる群より選択される1種以上を配合する、エクソソーム分泌促進剤の製造方法。
[20]更にテトラペプチドを配合する、[19]に記載のエクソソーム分泌促進剤の製造方法。
[21]上記テトラペプチドが、配列番号1のアミノ酸配列(Leu-Glu-His-Ala)で表されるペプチド又はその塩である、[20]に記載のエクソソーム分泌促進剤の製造方法。
[22]グリコーゲン、ツボクサ葉抽出物、ビルベリー葉抽出物、カンゾウ葉抽出物及び大豆タンパク抽出物からなる群より選択される1種以上を配合する、細胞内へのエクソソーム取り込み促進剤の製造方法。
[23]更にテトラペプチドを配合する、[22]に記載の、細胞内へのエクソソーム取り込み促進剤の製造方法。
[24]上記テトラペプチドが、配列番号1のアミノ酸配列(Leu-Glu-His-Ala)で表されるペプチド又はその塩である、[23]に記載の、細胞内へのエクソソーム取り込み促進剤の製造方法。
[25][1]から[4]、又は[9]から[13]のいずれかのエクソソーム分泌促進剤を含有する、エクソソーム分泌促進用美容組成物。
[26][1]から[4]、又は[9]から[13]のいずれかのエクソソーム分泌促進剤を配合する、エクソソーム分泌促進用美容組成物の製造方法。
[27][5]から[8]、又は[14]から[18]のいずれかの細胞内へのエクソソーム取り込み促進剤を含有する、細胞内へのエクソソーム取り込み促進用美容組成物。
[28][5]から[8]、又は[14]から[18]のいずれかの細胞内へのエクソソーム取り込み促進剤を配合する、細胞内へのエクソソーム取り込み促進用美容組成物の製造方法。
[29]グリコーゲン、ツボクサ葉抽出物、ビルベリー葉抽出物、カンゾウ葉抽出物及び大豆タンパク抽出物からなる群より選択される1種以上を使用する、エクソソーム分泌促進方法。
[30]更にテトラペプチドを併用する、[29]に記載のエクソソーム分泌促進方法。
[31]上記テトラペプチドが、配列番号1のアミノ酸配列(Leu-Glu-His-Ala)で表されるペプチド又はその塩である、[30]に記載のエクソソーム分泌促進方法。
[32]グリコーゲン、ツボクサ葉抽出物、ビルベリー葉抽出物、カンゾウ葉抽出物及び大豆タンパク抽出物からなる群より選択される1種以上を使用する、細胞内へのエクソソーム取り込み促進方法。
[33]更にテトラペプチドを併用する、[32]に記載の、細胞内へのエクソソーム取り込み促進方法。
[34]上記テトラペプチドが、配列番号1のアミノ酸配列(Leu-Glu-His-Ala)で表されるペプチド又はその塩である、[33]に記載の、細胞内へのエクソソーム取り込み促進方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明によると、抗老化効果等の美容効果に優れる、新しいタイプの美容組成物を提供することができる。具体的には、本発明のエクソソーム分泌促進剤によると、細胞、特に脂肪組織由来幹細胞からのエクソソーム分泌を促進し、分泌促進されたエクソソームが皮膚組織等に取り込まれることで、結果として皮膚の細胞老化抑制、細胞増殖促進、コラーゲン産生促進、エラスチン産生促進等の美容に繋がる効果を奏することができる。さらに、細胞のM1/M2極性転換作用、即ち、炎症性M1マクロファージを抗炎症性M2マクロファージに形質変化させる効果を奏することもできる。したがって、本発明のエクソソーム分泌促進剤は、肌のアンチ-エージング、肌の再生、保湿性向上等を目的とした製品に好適に使用される。さらに具体的には、肌のくすみの改善、肌のハリの回復、肌のハリの向上、毛穴目立ちの改善が期待でき、乾燥などのエージング症状の改善、スキントーンの改善や向上、肌の美白にも効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】実施例2の組成物中で培養した脂肪組織由来間葉系幹細胞から分泌されたエクソソームが、ヒト線維芽細胞に取り込まれた様子を示す図である。
【
図2】実施例2の組成物中で培養した脂肪組織由来間葉系幹細胞から分泌されたエクソソームの、皮膚線維芽細胞に対する細胞老化抑制効果を、比較例の組成物を用いた場合との比較により示す図である(β-Galactosidase染色)。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明について詳細に説明する。なお、本明細書中で使用される用語は、特に言及しない限り、当該技術分野で通常用いられる意味で解釈される。
【0012】
<エクソソーム分泌促進剤>
本発明のエクソソーム分泌促進剤は、グリコーゲン、ツボクサ葉抽出物、ビルベリー葉抽出物、カンゾウ葉抽出物及び大豆タンパク抽出物からなる群より選択される1種以上を有効成分として含有することを特徴とする。本発明のエクソソーム分泌促進剤は、更に特定のテトラペプチドを含有することで、エクソソーム分泌促進作用を向上させることができる。本発明のエクソソーム分泌促進剤は、上記特定の成分を有効成分として含むことにより、細胞、特に脂肪組織由来幹細胞からのエクソソーム分泌を促進し、分泌促進されたエクソソームが皮膚組織等に取り込まれることで、結果として皮膚の細胞老化抑制、細胞増殖促進、コラーゲン産生促進、エラスチン産生促進等の美容に繋がる効果を奏することができる。さらに、細胞のM1/M2極性転換作用、即ち、炎症性M1マクロファージを抗炎症性M2マクロファージに形質変化させる効果を奏することもできる。以下に、本発明のエクソソーム分泌促進剤が含有する各必須成分、任意成分等について具体的に説明する。
【0013】
本発明におけるグリコーゲンとは、α-D-グルコース(ブドウ糖)を構成単位とし、α-1,4-グルコシド結合及びα-1,6-グルコシド結合のみによって連結された高分子をいう。このようなグリコーゲンとしては、トウモロコシの種子、オオムギ、米、じゃがいも等に由来する植物性グリコーゲン;ウシ、豚等の動物の肝臓や筋肉等、ホタテ、アワビ、牡蛎、イガイ、アコヤ貝、シジミ等の貝類に由来する動物性グリコーゲンが挙げられる。本発明おけるグリコーゲンとしては、常法により調製した天然物に含まれるグリコーゲンをそのまま使用してもよいし、酵素を用いて合成したものを使用してもよい。上記酵素を用いた合成方法としては、例えば、スクロースとプライマー分子(マルトオリゴ等やデキストリン)にスクロースホスホリラーゼ(EC2.4.1.7)、α-グルカンホスホリラーゼ(EC2.4.1.1)及びブランチングエンザイム(EC2.4.1.18)を作用させる方法、短鎖のアミロースにブランチングエンザイム(EC2.4.1.18)を作用させる方法等が挙げられる。これらの方法で合成したグリコーゲンも、天然グリコーゲンと同様の化学的及び物理的構造を持つことが知られており、これらの酵素合成グリコーゲンも使用することができる。また、本発明のグリコーゲンとしては、上述の天然又は合成のグリコーゲンだけでなく、それらの誘導体、同等物であってもよい。
【0014】
本発明におけるグリコーゲンとしては、当業者に周知の方法により適当な分子量を持つ画分に分離したものを使用してもよい。上記分離の方法としては、例えば、ゲル濾過クロマトグラフィー、HPLC等のクロマト分離法や膜分離法等が挙げられる。また、メタノール、エタノール等の溶媒を用いる沈澱法を、単独で、又は組み合わせた方法も挙げられる。さらに、天然又は合成のグリコーゲンの誘導体化(エーテル化、エステル化、架橋化、及びグラフト化)の方法としては、当業者に周知のでんぷんの修飾に通常用いられる方法等が挙げられる。グリコーゲンのリン酸化については、グリコーゲンをジメチルホルムアミド中でオキシ塩化リンと反応させる方法を用いることができる。本発明におけるグリコーゲンの平均分子量は、エクソソーム分泌促進の観点から、30万~150万であり、40万~120万であることが好ましく、60万~90万であることがより好ましい。
【0015】
本発明におけるグリコーゲンとしては、市販品を用いることもできる。このような市販品としては、ムラサキイガイ由来のBIOSACCHARIDES LS/HG(LABORATORIES SEROBIOLOGIQUES社製)、バイオグリコーゲン(グリコ栄養食品株式会社)等が挙げられる。
【0016】
本発明のエクソソーム分泌促進剤におけるグリコーゲンの含有量は0.001~10質量%であってよく、0.005~5質量%であることが好ましく、0.01~3質量%であることがより好ましく、0.05~2.0質量%であることが更に好ましい。本発明のエクソソーム分泌促進剤におけるグリコーゲンの含有量を上記数値範囲とすることで、優れたエクソソーム分泌促進効果を得ることができる。
【0017】
本発明におけるツボクサ葉抽出物、ビルベリー葉抽出物、カンゾウ葉抽出物としては、当業者に従来公知の技術を用いてそれぞれの植物から抽出した抽出物を使用することができる。それぞれの植物抽出物の抽出方法、抽出溶媒は特に限定されない。また、それぞれの植物抽出物は分解処理されていてもよく、分解処理方法は特に限定されず、公知の技術を用いることができる。本発明におけるツボクサ葉抽出物、ビルベリー葉抽出物、カンゾウ葉抽出物は、市販されるものを使用することもできる。本発明のエクソソーム分泌促進剤におけるツボクサ葉抽出物、ビルベリー葉抽出物、カンゾウ葉抽出物の含有量は、細胞に対するエクソソーム分泌促進作用を有する範囲であれば特に限定されず、他の配合成分の種類及び含有量、エクソソーム分泌促進剤の製剤形態等に応じて適宜設定される。本発明によるエクソソーム分泌促進効果をより顕著に奏させる観点から、例えば、0.00001~5質量%であることが好ましく、0.0001~4質量%であることがより好ましく、0.0005~3質量%であることが更に好ましく、0.001~2質量%であることがより更に好ましく、0.002~1質量%であることが特に好ましい。ヒトへの投与量は、1日あたり、0.001~200mgであることが好ましく、0.01~150mgであることがより好ましく、0.1~100mgであることが更に好ましく、1~80mgであることが特に好ましい。
【0018】
本発明における大豆タンパク抽出物は、マメ科のダイズ由来であれば特に限定されず、ダイズ植物から1種以上を選択して用いてもよい。大豆タンパク抽出物に使用する植物部位は、いかなる部位を用いてもよく、1種以上の部位を選択して用いてもよい。また、大豆タンパク抽出物の抽出方法や抽出溶媒は特に限定されず、公知の技術を用いることができる。本発明のエクソソーム分泌促進剤における大豆タンパク抽出物は、市販されるものを使用することもできる。本発明のエクソソーム分泌促進剤における大豆タンパク抽出物の含有量は、エクソソーム分泌促進作用を有する範囲であれば特に限定されず、他の配合成分の種類及び含有量、エクソソーム分泌促進剤の製剤形態等に応じて適宜設定される。本発明によるエクソソーム分泌促進効果をより顕著に奏させる観点から、例えば、0.00001~5質量%であることが好ましく、0.0001~3質量%であることがより好ましく、0.0005~2質量%であることが更に好ましく、0.001~1質量%であることが特に好ましい。ヒトへの投与量は、1日あたり、0.001~100mgであることが好ましく、0.01~80mgであることがより好ましく、0.1~60mgであることが更に好ましく、1~50mgであることが特に好ましい。
【0019】
本発明のエクソソーム分泌促進剤は、グリコーゲン、ツボクサ葉抽出物、ビルベリー葉抽出物、カンゾウ葉抽出物及び大豆タンパク抽出物からなる群より選択される1種以上を含有すると共に、さらに特定のテトラペプチドを含有することが好ましい。
【0020】
本発明におけるテトラペプチドとしては、配列番号1のアミノ酸配列(Leu-Glu-His-Ala)で表されるペプチド又はその塩であることが好ましい。なお、配列番号1で表されるアミノ酸配列において、1個以上のアミノ酸の置換及び/又は付加を有し、かつ本発明のエクソソーム分泌促進剤が優れたエクソソーム分泌促進能を有することを特徴とするペプチド又はその塩も含まれる。なお、アミノ酸の付加により、ペプチドを構成するアミノ酸の総数が4を超えた場合、テトラペプチドという名称は一般的には適さないこととなるが、本発明においては、便宜上本発明におけるテトラペプチドと呼ぶこととする。上記アミノ酸の置換は、特に限定されないが、好ましくは保存的アミノ酸置換、即ち、アミノ酸の保存的置換である。アミノ酸の保存的置換を以下の表1に示す。
【0021】
【0022】
本発明において、「エクソソーム分泌促進剤が優れたエクソソーム分泌促進能を有すること」とは、上記テトラペプチド又はその塩を含有するエクソソーム分泌促進剤を細胞に作用させた場合に、作用させない場合と比較して、細胞からのエクソソーム分泌量が増加することを意味する。
【0023】
本発明において、ペプチドの塩とは、ペプチドの薬理学的に許容される任意の塩(無機塩及び有機塩を含む)をいい、例えば、ペプチドのナトリウム塩、カリウム塩、カルシウム塩、マグネシウム塩、アンモニウム塩、塩酸塩、硫酸塩、硝酸塩、有機酸塩(酢酸塩、クエン酸塩、マレイン酸塩、リンゴ酸塩、シュウ酸塩、乳酸塩、コハク酸塩、フマル酸塩、プロピオン酸塩、蟻酸塩、安息香酸塩、ピクリン酸塩、ベンゼンスルホン酸塩等)等が挙げられ、好ましくは、アンモニウム塩、塩酸塩、硫酸塩及び酢酸塩であり、より好ましくはアンモニウム塩及び酢酸塩である。
【0024】
本発明においてペプチドは、当該分野で公知の方法により作製され得る。例えば、本発明におけるペプチドは、化学合成方法(例えば、固相法(例えば、Fmoc法)、液相法等)により合成されてもよく、また遺伝子組換え発現等の方法により作製されてもよい。なお本発明のペプチドを構成するアミノ酸は、L-体であってもD-体であってもよいが、好ましくはL-体である。
【0025】
本発明におけるペプチドは、目的のアミノ酸配列を含むタンパク質のアミノ酸配列中から、目的のアミノ酸配列からなるペプチドをプロテアーゼ処理等の公知の手段によって切り出すことによっても調製され得る。
【0026】
本発明におけるペプチドの塩は、当該分野で公知の任意の方法により作製され得る。
【0027】
本発明のエクソソーム分泌促進剤におけるテトラペプチド又はその塩の含有量は、エクソソーム分泌促進作用を有する範囲であれば特に限定されず、他の配合成分の種類及び含有量、エクソソーム分泌促進剤の製剤形態等に応じて適宜設定される。本発明によるエクソソーム分泌促進効果をより顕著に奏させる観点から、例えば、本発明のエクソソーム分泌促進剤中のテトラペプチド又はその塩の含有量は、0.000001質量%~7質量%であり、0.00001質量%~5質量%であることが好ましく、0.0001質量%~2質量%であることがより好ましく、0.001質量%~1質量%であることがさらに好ましい。
【0028】
本発明のエクソソーム分泌促進剤は、上述の必須成分に加えて、本発明の効果を妨げない範囲で、その他の任意成分を含有してもよい。このような任意成分としては、賦形剤、増粘剤、結合剤、崩壊剤、分散剤、界面活性剤、懸濁剤、乳化剤、安定化剤、ゲル化剤、甘味剤、酸味剤、旨み剤、塩味剤、苦味剤、着色剤、紫外線防止剤、抗酸化剤、保存剤、抗菌剤、pH調整剤、緩衝剤、キレート剤、ビタミン類、香料、ミネラル等の添加剤、アミノ酸又はその塩、糖類、保湿剤、有機酸又はその塩類、食物繊維、生物由来抽出物(但しツボクサ葉抽出物、ビルベリー葉抽出物、カンゾウ葉抽出物、大豆タンパク抽出物を除く)等を含有してもよい。これらは公知のものを適宜選択して使用でき、常法を用いて製造することができる。
【0029】
本発明のエクソソーム分泌促進剤の剤型は、具体的な製品や性状などに限定されずに用いることができ、液状、ゲル状、クリーム状、ペースト状、固形状、エアゾール又は貼付剤など、いずれの剤型にも公知の方法により適宜調製することができる。液状では化粧水、乳液、美容液、内服液剤、シロップ剤などが挙げられる。固形ではスティック剤、錠剤、チュアブル剤、顆粒剤、散剤、カプセル剤、軟膏などが挙げられる。また投与形態においては、外用剤、内用剤を問わないものの、本発明の効果を奏する観点から、外用剤であることが好ましい。外用剤としては医薬品、化粧品を問わず、限定されない。これらは、常法を用いて製造することができる。
【0030】
本発明のエクソソーム分泌促進剤によって優れたエクソソームの分泌促進効果が得られる細胞は、上記効果が得られる細胞であれば特に限定されないが、例えば、脂肪由来幹細胞、骨髄由来幹細胞、臍帯由来幹細胞等が挙げられ、脂肪由来間葉系幹細胞、骨髄由来間葉系幹細胞、臍帯由来間葉系幹細胞であることが好ましく、脂肪由来間葉系幹細胞、臍帯由来間葉系幹細胞であることがより好ましく、脂肪由来間葉系幹細胞であることが更に好ましい。
【0031】
本発明のエクソソーム分泌促進剤は、上述のグリコーゲン、ツボクサ葉抽出物、ビルベリー葉抽出物、カンゾウ葉抽出物及び大豆タンパク抽出物からなる群より選択される1種以上、並びに併用するテトラペプチド又はその塩の作用で、細胞、特に脂肪組織由来幹細胞からのエクソソーム分泌を促進し、分泌促進されたエクソソームが皮膚組織等に取り込まれることで、結果として皮膚の細胞老化抑制、細胞増殖促進、コラーゲン産生促進、エラスチン産生促進等の美容に繋がる効果を奏することができる。さらに、細胞のM1/M2極性転換作用、即ち、炎症性M1マクロファージを抗炎症性M2マクロファージに形質変化させる効果を奏することもできる。したがって、本発明のエクソソーム分泌促進剤は、細胞増殖促進のために、細胞のM1/M2極性転換のために、細胞老化抑制のために、コラーゲン及び/又はエラスチン産生促進のために用いられる。
【0032】
よって、本発明のエクソソーム分泌促進剤は、上記効果を期待した、医薬品、医薬部外品、化粧品、食品に用いられてもよいし、後述する肌のアンチ-エージング、肌の再生、保湿性向上等を目的とした美容組成物に好適に用いることができる。
【0033】
[エクソソーム分泌促進剤の製造方法]
本発明は、上述のエクソソーム分泌促進剤の製造方法も含む。本発明のエクソソーム分泌促進剤の製造方法は、グリコーゲン、ツボクサ葉抽出物、ビルベリー葉抽出物、カンゾウ葉抽出物及び大豆タンパク抽出物からなる群より選択される1種以上を配合することを特徴とする。また、上述のテトラペプチド又はその塩を更に配合することを特徴とすることが好ましい。上述のエクソソーム分泌促進剤は、グリコーゲン、ツボクサ葉抽出物、ビルベリー葉抽出物、カンゾウ葉抽出物及び大豆タンパク抽出物からなる群より選択される1種以上、好ましくは上述のテトラペプチド又はその塩を更に配合し、必要に応じてその他の任意成分(基剤又は担体、添加剤等)を適宜選択、配合して混合し、常法により製造することができる。
【0034】
<エクソソーム分泌促進用美容組成物>
本発明は、上述の本発明のエクソソーム分泌促進剤を含有する、エクソソーム分泌促進用美容組成物も含む。本発明のエクソソーム分泌促進用美容組成物は、グリコーゲン、ツボクサ葉抽出物、ビルベリー葉抽出物、カンゾウ葉抽出物及び大豆タンパク抽出物からなる群より選択される1種以上を含有すること、好ましくは更に上述の特定のテトラペプチド又はその塩を含有することを特徴とすると言いかえることもできる。なお、上記エクソソーム分泌促進剤や、グリコーゲン、ツボクサ葉抽出物、ビルベリー葉抽出物、カンゾウ葉抽出物、大豆タンパク抽出物、テトラペプチドについての説明は、エクソソーム分泌促進剤の項の説明をそのまま適用できる。
【0035】
本発明のエクソソーム分泌促進用美容組成物は、上記エクソソーム分泌促進剤の項に記載した必須成分、任意成分に加えて、本発明の効果を損なわない範囲で、美容組成物に好適に用いられるその他の任意成分を含んでいてもよい。以下に、その他の任意成分について説明する。
【0036】
本発明のエクソソーム分泌促進用美容組成物が含む任意成分としては、例えば、上記エクソソーム分泌促進剤の項に記載した必須成分、任意成分以外の、美白成分、ターンオーバー促進剤、抗糖化成分、抗酸化成分、老化防止成分、抗炎症剤、清涼化剤、殺菌剤、ビタミン類、有機酸、保湿成分、多価アルコール、乳化剤、スクラブ剤、紫外線吸収成分、紫外線散乱成分、収斂成分、ペプチド又はその誘導体(本発明のテトラペプチドを除く)、アミノ酸又はその誘導体、洗浄成分、角質柔軟成分、細胞賦活化成分、血行促進作用成分、浸透剤等が挙げられる。なお、本発明のエクソソーム分泌促進用美容組成物において、これらの成分は、それぞれ1種単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0037】
[エクソソーム分泌促進用美容組成物の製造方法]
本発明のエクソソーム分泌促進用美容組成物の製造方法は特に制限されず、必須成分である本発明のエクソソーム分泌促進剤(グリコーゲン、ツボクサ葉抽出物、ビルベリー葉抽出物、カンゾウ葉抽出物及び大豆タンパク抽出物からなる群より選択される1種以上を配合することを特徴とし、また、上述のテトラペプチド又はその塩を更に配合することを特徴とする製剤)を配合することを特徴とする。上述のエクソソーム分泌促進剤(グリコーゲン、ツボクサ葉抽出物、ビルベリー葉抽出物、カンゾウ葉抽出物及び大豆タンパク抽出物からなる群より選択される1種以上、好ましくはさらに上述のテトラペプチド又はその塩)、必要に応じてその他の任意成分(基剤又は担体、添加剤等)を適宜選択、配合して混合し、常法により製造することができる。
【0038】
本発明のエクソソーム分泌促進用美容組成物は、抗老化効果等の美容効果に優れる、新しいタイプの美容組成物である。具体的には、本発明のエクソソーム分泌促進用美容組成物は、本発明のエクソソーム分泌促進剤により、細胞、特に脂肪組織由来幹細胞からのエクソソーム分泌を促進し、分泌促進されたエクソソームが皮膚組織等に取り込まれることで、結果として皮膚の細胞老化抑制、細胞増殖促進、コラーゲン産生促進、エラスチン産生促進等の美容に繋がる効果を奏することができる。さらに、細胞のM1/M2極性転換作用、即ち、炎症性M1マクロファージを抗炎症性M2マクロファージに形質変化させる効果を奏することもできる。したがって、本発明のエクソソーム分泌促進用美容組成物は、肌のアンチ-エージング、肌の再生、保湿性向上等を目的とした製品に好適に使用される。さらに具体的には、肌のくすみの改善、肌のハリの回復、肌のハリの向上、毛穴目立ちの改善が期待でき、乾燥などのエージング症状の改善、スキントーンの改善や向上、肌の美白にも効果を奏する。このように、本発明のエクソソーム分泌促進用美容組成物は、例えば、美容液、化粧水、乳液、クリーム、ジェルクリーム、美容マスク(フェイスマスク)、化粧下地、ファンデーション、日焼け止め、クレンジング、洗浄剤等の外用組成物として好適に使用することができ、より好ましくは、美容液、化粧水、乳液、クリーム、ジェルクリーム等のスキンケア製品として使用することができる。
【0039】
また、本発明のエクソソーム分泌促進用美容組成物は、食品組成物とすることができる。この食品組成物は、健康食品、栄養補助食品(バランス栄養食、サプリメントなどを含む)として好適に用いることができる。また、保健機能食品(特定保健用食品(疾病リスク低減表示、規格基準型を含む))に好適である。
【0040】
[製剤(外用組成物)]
本発明のエクソソーム分泌促進用美容組成物が外用組成物である場合は、その必須成分及び上記で説明したその他の任意成分等を、化粧品、医薬品、医薬部外品に通常使用される基剤又は担体、及び必要に応じて、化粧品、医薬品、医薬部外品に添加される公知の添加剤、例えば、界面活性剤、酸化防止剤、着色剤、パール光沢付与剤、キレート剤、pH調整剤、保存剤、増粘剤等と共に、常法に従い混合して、必要に応じて乳化又は可溶化を行い、各種の製剤形態の美容組成物とすることができる。
【0041】
本発明のエクソソーム分泌促進用美容組成物が外用組成物である場合の製剤形態は特に限定されず、例えば、液剤(化粧水、ローション、美容液等)、クリーム製剤(乳液、クリーム、ジェルクリーム、バーム等)、ジェル製剤、ゼリー製剤、シャーベット製剤、エアゾール剤、フォーム製剤、スプレー製剤、貼付剤、スティック製剤、その他軟膏剤、固形剤等が挙げられる。これらの製剤は、常法、例えば第17改正日本薬局方製剤総則に記載の方法等に従い製造することができる。また目的とする安定性、使用感等を考慮し、適宜、エマルションや可溶化等の剤型が選択できる。なお、貼付剤は、例えば、不織布シート、ゲルシート等に、美容液組成物、化粧水組成物、乳液組成物等を含浸させたものであってもよい。
【0042】
[製剤(食品組成物)]
本発明のエクソソーム分泌促進用美容組成物が食品組成物である場合、その必須成分及び上記で説明したその他の任意成分等を、食品に通常使用される基剤又は担体、及び必要に応じて、油脂、乳化剤、分散剤、懸濁化剤、安定剤、増粘剤、甘味料、着色剤、香料、保存料、酸化防止剤、有機酸などの食品添加剤と共に混合して、製剤化すればよい。
【0043】
[pH]
本発明の美容組成物のpHは、通常pH3.0~8.0であり、pH3.5~7.5であることが好ましい。なお、このpHは、例えばpH調整剤の使用により調整することができる。ただし、pH測定が不能又は困難な製剤形態については、この限りではない。
【0044】
本発明のエクソソーム分泌促進剤或いはエクソソーム分泌促進用美容組成物の、投与方法或いは適用方法としては、経皮投与、経口投与等が挙げられるが、疾患や症状の種類、使用目的に応じて好適な方法を適宜選択すればよい。
【0045】
<エクソソーム分泌促進方法>
本発明は、グリコーゲン、ツボクサ葉抽出物、ビルベリー葉抽出物、カンゾウ葉抽出物及び大豆タンパク抽出物からなる群より選択される1種以上を使用することを特徴とする、エクソソーム分泌促進方法も含む。本発明のエクソソーム分泌促進方法においては、更に上記特定のテトラペプチドを併用することが好ましい。ここで、上記使用においては、外用、内服等、いずれの方法による使用であってもよい。本発明によると、抗老化効果等の優れた美容効果を得ることができる。具体的には、本発明の方法によると、細胞、特に脂肪組織由来幹細胞からのエクソソーム分泌を促進し、分泌促進されたエクソソームが皮膚組織等に取り込まれることで、結果として皮膚の細胞老化抑制、細胞増殖促進、コラーゲン産生促進、エラスチン産生促進等の美容に繋がる効果を奏することができる。さらに、細胞のM1/M2極性転換作用、即ち、炎症性M1マクロファージを抗炎症性M2マクロファージに形質変化させる効果を奏することもできる。したがって、本発明の方法は、肌のアンチ-エージング、肌の再生、保湿性向上等を目的として使用することができる。
なお、エクソソーム分泌促進方法に用いられる各種成分についての具体的な説明は、エクソソーム分泌促進剤の項における説明をそのまま適用できる。
【0046】
<エクソソーム取り込み促進剤>
本発明のエクソソーム取り込み促進剤は、細胞内へのエクソソームの取り込みを促進する組成物である。本発明のエクソソーム取り込み促進剤は、グリコーゲン、ツボクサ葉抽出物、ビルベリー葉抽出物、カンゾウ葉抽出物及び大豆タンパク抽出物からなる群より選択される1種以上を有効成分として含有することを特徴とする。また、本発明のエクソソーム取り込み促進剤は、更に特定のテトラペプチドを含有することで、細胞内へのエクソソームの取り込みを促進することができる。本発明のエクソソーム取り込み促進剤は、上記特定の成分を有効成分として含むことにより、細胞、特に脂肪組織由来幹細胞からのエクソソーム分泌を促進し、その分泌促進されたエクソソームが皮膚組織等の細胞により多く取り込まれることで、結果として皮膚の細胞老化抑制、細胞増殖促進、コラーゲン産生促進、エラスチン産生促進等の美容に繋がる効果を奏することができる。さらに、細胞のM1/M2極性転換作用、即ち、炎症性M1マクロファージを抗炎症性M2マクロファージに形質変化させる効果を奏することもできる。なお、本発明のエクソソーム取り込み促進剤が含有する各必須成分、任意成分、剤型、用途等についての説明は、「エクソソーム分泌促進剤」の項の説明において、「エクソソーム分泌促進剤」を「エクソソーム取り込み促進剤」に読み替えて、そのまま適用できる。また、発明のエクソソーム取り込み促進剤の製造方法についても、「エクソソーム分泌促進剤の製造方法」の項の説明において、「エクソソーム分泌促進剤」を「エクソソーム取り込み促進剤」に読み替えて、そのまま適用できる。
【0047】
本発明のエクソソーム取り込み促進剤が、エクソソームの取り込みを促進する、即ち、本発明のエクソソーム取り込み促進剤により、多くのエクソソームを取り込むようになる側の細胞としては、本発明の効果が得られ易いという点から、皮膚組織を構成する細胞であることが好ましく、皮膚の表皮又は真皮を構成する細胞であることがより好ましく、中でも表皮角化細胞を構成する細胞、皮膚線維芽細胞であることが更に好ましい。
【0048】
<エクソソーム取り込み促進用美容組成物>
本発明は、上述の本発明のエクソソーム取り込み促進剤を含有する、エクソソーム取り込み促進用美容組成物も含む。本発明のエクソソーム取り込み促進用美容組成物は、グリコーゲン、ツボクサ葉抽出物、ビルベリー葉抽出物、カンゾウ葉抽出物及び大豆タンパク抽出物からなる群より選択される1種以上を含有すること、好ましくは更に上述の特定のテトラペプチド又はその塩を含有することを特徴とすると言いかえることもできる。なお、上記エクソソーム取り込み促進剤や、グリコーゲン、ツボクサ葉抽出物、ビルベリー葉抽出物、カンゾウ葉抽出物、大豆タンパク抽出物、テトラペプチドについての説明は、エクソソーム取り込み促進剤の項の説明をそのまま適用できる。
【0049】
本発明のエクソソーム取り込み促進用美容組成物は、上記エクソソーム分泌促進剤の項に記載した必須成分、任意成分に加えて、本発明の効果を損なわない範囲で、美容組成物に好適に用いられるその他の任意成分を含んでいてもよい。各成分の具体的な説明、製造方法については、エクソソーム分泌促進用美容組成物の項の説明を、「エクソソーム分泌促進用美容組成物」を「エクソソーム取り込み促進用美容組成物」と読み替えて、そのまま適用できる。
【0050】
<エクソソーム取り込み促進方法>
本発明は、グリコーゲン、ツボクサ葉抽出物、ビルベリー葉抽出物、カンゾウ葉抽出物及び大豆タンパク抽出物からなる群より選択される1種以上を使用することを特徴とする、エクソソーム取り込み促進方法も含む。本発明のエクソソーム取り込み促進方法においては、更に上記特定のテトラペプチドを併用することが好ましい。ここで、上記使用においては、外用、内服等、いずれの方法による使用であってもよい。本発明によると、抗老化効果等の優れた美容効果を得ることができる。具体的には、本発明の方法によると、細胞、特に脂肪組織由来間葉系幹細胞からのエクソソーム分泌を促進し、分泌促進されたエクソソームが皮膚組織等に取り込まれることで、結果として皮膚の細胞老化抑制、細胞増殖促進、コラーゲン産生促進、エラスチン産生促進等の美容に繋がる効果を奏することができる。さらに、細胞のM1/M2極性転換作用、即ち、炎症性M1マクロファージを抗炎症性M2マクロファージに形質変化させる効果を奏することもできる。したがって、本発明の方法は、肌のアンチ-エージング、肌の再生、保湿性向上等を目的として使用することができる。なお、エクソソーム取り込み促進方法に用いられる各種成分についての具体的な説明は、エクソソーム分泌促進剤の項における説明をそのまま適用できる。
【実施例0051】
以下、実施例により本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらにより何ら限定されるものではない。
【0052】
[試験1:エクソソームの抽出]
T75細胞培養フラスコ(Corning社製Cell Bind)にヒト脂肪組織由来間葉系幹細胞(クラボウ社製Human Adipose Derived Stem Cells、継代数P5)を5,000cells/cm2となるように播種し、2日に1回の培地交換を行いながら計5日間、37℃、5%炭酸ガス環境下で培養した。リン酸緩衝液(コージンバイオ社製)で洗浄した後、下記表2に示す成分を含有する培地に置換した(比較例1、実施例1~9)。各成分は終濃度(質量%)が下記表2に示す通りになるように添加した。48時間後、培養上清をチューブ(Merck社製Amicon(登録商標)Ultra)に回収し、遠心ろ過を行った(5,000×g、20分の後、4,000×g、10分)。リン酸緩衝液を添加して全量1.5mLに調整し、エクソソーム精製カラム(ジーエルサイエンス社製EVSecond L70)を用いてエクソソームを抽出した。得られたエクソソームについて、後述する評価を行った。
【0053】
[評価1:エクソソームの分泌]
上記試験1で抽出した各エクソソームの粒子濃度と粒度分布をナノ粒子解析システム(日本カンタム・デザイン社製NanoSight)を用いて測定、解析し、粒子径が50-150nmの粒子濃度をエクソソーム分泌量とした。成分を添加していない比較例1のエクソソーム分泌量に対する各実施例のエクソソーム分泌量の割合を算出し、その値を各実施例のエクソソーム分泌促進能とし、下記表2に示した。
【0054】
【0055】
グリコーゲン、ツボクサ葉抽出物、ビルベリー葉抽出物、カンゾウ葉抽出物、大豆タンパク抽出物は脂肪組織由来間葉系幹細胞からのエクソソームの分泌を促進した(実施例1、3、5、7、8)。更にテトラペプチドを含有させるとエクソソームの分泌促進能は顕著に向上した(実施例2、4、6)。カンゾウ葉抽出物及び大豆タンパク抽出物を含有させるとエクソソームの分泌促進能は顕著に向上した(実施例9)。
【0056】
[評価2:エクソソームの細胞内取り込み]
上記試験1で抽出した各エクソソームをExoSparkler Exosome Membrane Labeling Kit (DOJINDO社製)を用いて膜染色した。染色したエクソソームを96well plate(Corning社製Cell Bind)に5,000cells/wellで播種し、37℃、5%炭酸ガス環境下で24時間培養した正常ヒト皮膚線維芽細胞(クラボウ社製Normal Human Dermal Fibroblasts、継代数P33)に100μL/wellで投与した。6時間培養した後、ImageXpress(Molecular Devices)で画像撮影し(16視野/well)、エクソソームカウントプログラムを用いて細胞内エクソソームを計測した。成分を添加していない比較例1のエクソソーム数に対する各実施例のエクソソーム数の割合を算出し、その値を各実施例のエクソソーム細胞内取り込み能とし、下記表3に示した。また実施例2の画像を
図1に示した。
【0057】
[評価3:エクソソームによる細胞増殖]
上記試験1で抽出したエクソソームを96well plate(Corning社製Cell Bind)に3,500cells/wellで播種し、37℃、5%炭酸ガス環境下で24時間培養した正常ヒト皮膚線維芽細胞(クラボウ社製Normal Human Dermal Fibroblasts、継代数P33)に100μL/wellで投与した。72時間培養した後、Hoechst33342(DOJINDO社製)で染色した細胞をImageXpress(Molecular Devices)で画像撮影し(16視野/well)、核カウントプログラムを用いて細胞数を計測した。成分を添加していない比較例1の細胞数に対する各実施例の細胞数の割合を算出し、その値を各実施例のエクソソームによる細胞増殖能とし、下記表3に示した。
【0058】
[評価4:エクソソームによるM1/M2極性転換]
100nM Phorbol 12-Myristate 13-Acetate(富士フィルム和光純薬社製)含有培地に懸濁したヒト単球由来細胞株THP-1(ATCC社製、継代数P12)を12well plate(Corning社製Cell Bind)に300,000cells/wellで播種し、37℃、5%炭酸ガス環境下で24時間培養した。24時間後、接着性のM0マクロファージへと形質変化したことを確認した後、(i)20ng/mL IFNγ、及び10pg/mL LPS、或いは(ii)20ng/mL IL-4、及び20ng/mL IL-13を添加し、72時間培養させることで(i)M1マクロファージ、(ii)M2マクロファージへとそれぞれ誘導させた。72時間後、M1マクロファージへ誘導した細胞に対し、上記試験1で抽出したエクソソームに各実施例を混合させたサンプルを1mL/wellで投与した。比較例1には培地を1mL/wellで投与した。72時間後、Quantikine ELISA(R&D社製)を用いて培養上清中のTNFα、IL-6、IL-1ra、及びIL-10の発現量を測定した。成分を添加していない比較例1の発現量に対する各実施例の発現量の割合を算出し、その値を各実施例のエクソソームによる発現量の変化とし、下記表3に示した。
【0059】
【0060】
グリコーゲン存在下で培養した脂肪組織由来間葉系幹細胞から分泌されたエクソソームは、皮膚線維芽細胞へ多く取り込まれていた。グリコーゲンとテトラペプチドの存在下で培養した脂肪組織由来間葉系幹細胞から分泌されたエクソソームは、皮膚線維芽細胞へより一層多く取り込まれていた。実施例2の皮膚線維芽細胞を観察すると白色で示す染色したエクソソームが観察されたが(
図1)、比較例1の皮膚線維芽細胞は白色で示す染色したエクソソームは観察されなかった。
グリコーゲン存在下で培養した脂肪組織由来間葉系幹細胞から分泌されたエクソソームは、皮膚線維芽細胞の増殖能を向上した。グリコーゲンとテトラペプチドの存在下で培養した脂肪組織由来間葉系幹細胞から分泌されたエクソソームは、皮膚線維芽細胞の増殖能をより一層向上した。
グリコーゲン存在下で培養した脂肪組織由来間葉系幹細胞から分泌されたエクソソーム、及びグリコーゲンとテトラペプチドの存在下で培養した脂肪組織由来間葉系幹細胞から分泌されたエクソソームは、炎症性M1マクロファージのTNFα及びIL-6の発現を抑制し、抗炎症性M2マクロファージのIL-1ra及びIL-10の発現を促進した。すなわち炎症性M1マクロファージを抗炎症性M2マクロファージに形質変化させた。
【0061】
[評価5:エクソソームによる細胞老化抑制]
上記試験1で抽出したエクソソームを96well plate(Corning社製Cell Bind)に3,500cells/wellで播種し、37℃、5%炭酸ガス環境下で24時間培養した正常ヒト皮膚線維芽細胞(クラボウ社製Normal Human Dermal Fibroblasts、継代数P33)に100μL/wellで投与した。72時間培養した後、Cellular Senescence Plate Assay Kit(DOJINDO社製)を用いてβ-Galactosidaseを指標として細胞の老化度を測定した。成分を添加していない比較例1のβ-Galactosidase活性に対する実施例2のβ-Galactosidase活性の割合を算出し、その値を実施例2の細胞老化抑制効果を示す値とし、下記表4に示した。なお、この値が小さい程、細胞老化抑制効果が高いことを示す。また顕微鏡でβ-Galactosidaseの染色性を観察した。(
図2)
【0062】
[評価6:エクソソームによるコラーゲン産生促進]
上記試験1で抽出したエクソソームを12well plate(Corning社製Cell Bind)に50,000cells/wellで播種し、37℃、5%炭酸ガス環境下で24時間培養した正常ヒト皮膚線維芽細胞(クラボウ社製Normal Human Dermal Fibroblasts、継代数P33)に1mL/wellで投与した。72時間培養した後、Human Procollagen I alpha 1 DuoSet ELISA(R&D社製)を用いて培養上清中の1型コラーゲン発現量を測定した。成分を添加していない比較例1のコラーゲン発現量に対する実施例2のコラーゲン発現量の割合を算出し、その値を実施例2のコラーゲン産生促進能とし、下記表4に示した。
【0063】
[評価7:エクソソームによるエラスチン産生促進]
上記試験1で抽出したエクソソームをT25細胞培養フラスコ(Corning社製Cell Bind)に2,000,000cells/wellで播種し、37℃、5%炭酸ガス環境下で24時間培養した正常ヒト皮膚線維芽細胞(クラボウ社製Normal Human Dermal Fibroblasts、継代数P33)に5mL/wellで投与した。72時間培養した後、Fastin Elastin Assay(Biocolor社製)を用いて細胞中のエラスチンを抽出し、比色法により細胞内α-エラスチン量を測定した。成分を添加していない比較例1のエラスチン量に対する実施例2のエラスチン量の割合を算出し、その値を実施例2のエラスチン産生促進能とし、下記表4に示した。
【0064】
【0065】
グリコーゲンとテトラペプチドの存在下で培養した脂肪組織由来間葉系幹細胞から分泌されたエクソソームは、皮膚線維芽細胞において、細胞老化の指標であるβ-Galactosidase活性を抑制し、コラーゲン産生を促進し、エラスチン産生を促進した。比較例1の皮膚線維芽細胞はβ-Galactosidaseの染色性が高く、実施例2の膚線維芽細胞はβ-Galactosidaseの染色性が低いことが観察された(
図2)。
本発明によると、抗老化効果等の美容効果に優れる、新しいタイプの美容組成物を提供することができる。具体的には、本発明のエクソソーム分泌促進剤によると、細胞、特に脂肪組織由来間葉系幹細胞からのエクソソーム分泌を促進し、分泌促進されたエクソソームが皮膚組織等に取り込まれることで、結果として皮膚の細胞老化抑制、細胞増殖促進、コラーゲン産生促進、エラスチン産生促進等の美容に繋がる効果を奏することができる。さらに、細胞のM1/M2極性転換作用、即ち、炎症性M1マクロファージを抗炎症性M2マクロファージに形質変化させる効果を奏することもできる。したがって、本発明のエクソソーム分泌促進剤は、肌のアンチ-エージング、肌の再生、保湿性向上等を目的とした製品に好適に使用される。さらに具体的には、肌のくすみの改善、肌のハリの回復、肌のハリの向上、毛穴目立ちの改善が期待でき、乾燥などのエージング症状の改善、スキントーンの改善や向上、肌の美白にも効果を奏する。