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特開2025-36271酵素活性の評価方法、及び酵素活性評価用キット
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025036271
(43)【公開日】2025-03-14
(54)【発明の名称】酵素活性の評価方法、及び酵素活性評価用キット
(51)【国際特許分類】
   C12Q 1/48 20060101AFI20250306BHJP
   C12Q 1/25 20060101ALI20250306BHJP
   C12Q 1/02 20060101ALI20250306BHJP
   C07K 19/00 20060101ALI20250306BHJP
   C12N 1/00 20060101ALI20250306BHJP
   C07K 14/435 20060101ALI20250306BHJP
   C12N 9/10 20060101ALI20250306BHJP
   C12N 9/00 20060101ALI20250306BHJP
   C12N 1/15 20060101ALN20250306BHJP
   C12N 1/19 20060101ALN20250306BHJP
   C12N 1/21 20060101ALN20250306BHJP
   C12N 5/10 20060101ALN20250306BHJP
   C12N 15/54 20060101ALN20250306BHJP
【FI】
C12Q1/48
C12Q1/25 ZNA
C12Q1/02
C07K19/00
C12N1/00 B
C07K14/435
C12N9/10
C12N9/00
C12Q1/25
C12Q1/48 ZNA
C12N1/15
C12N1/19
C12N1/21
C12N5/10
C12N15/54
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024145892
(22)【出願日】2024-08-27
(31)【優先権主張番号】P 2023139902
(32)【優先日】2023-08-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000253503
【氏名又は名称】キリンホールディングス株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】899000068
【氏名又は名称】学校法人早稲田大学
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100128381
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 義憲
(74)【代理人】
【識別番号】100140888
【弁理士】
【氏名又は名称】渡辺 欣乃
(74)【代理人】
【識別番号】100126653
【弁理士】
【氏名又は名称】木元 克輔
(72)【発明者】
【氏名】渡邊 太郎
(72)【発明者】
【氏名】梅野 太輔
【テーマコード(参考)】
4B063
4B065
4H045
【Fターム(参考)】
4B063QQ26
4B063QQ40
4B063QR06
4B063QR20
4B063QR75
4B063QS31
4B063QX02
4B065AA01X
4B065AA01Y
4B065AA57X
4B065AA57Y
4B065AA72X
4B065AA72Y
4B065AA83X
4B065AA83Y
4B065AA90X
4B065AA90Y
4B065AB01
4B065AC14
4B065BA02
4B065CA46
4H045AA10
4H045AA30
4H045BA09
4H045BA41
4H045CA40
4H045DA89
4H045EA50
4H045FA74
(57)【要約】
【課題】本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、S-アデノシルメチオニンを基質とする酵素の活性を簡便に評価する方法、又は酵素のS-アデノシルメチオニンを消費する反応に対する活性を簡便に評価するためのキットを提供することを目的とする。
【解決手段】第一の酵素が触媒する反応によるS-アデノシルメチオニンの消費及び第二の酵素が触媒する反応によるS-アデノシルメチオニンの消費を競合させる工程、該第二の酵素が触媒する該反応により生じる蛍光及び/又は呈色を評価する工程、を含む該第一の酵素の活性を評価する方法。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第一の酵素が触媒する反応によるS-アデノシルメチオニンの消費及び第二の酵素が触媒する反応によるS-アデノシルメチオニンの消費を競合させる工程、
該第二の酵素が触媒する該反応により生じる蛍光及び/又は呈色を評価する工程、
を含む該第一の酵素の活性を評価する方法。
【請求項2】
前記第一の酵素をコードする遺伝子を含む第一の発現ベクターを細胞に導入する工程、
前記第二の酵素をコードする遺伝子を含む第二の発現ベクターを該細胞に導入する工程、を更に含み、
S-アデノシルメチオニンの消費の競合が該細胞内で行われるものである、
請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記細胞が、エシェリヒア属に属する細菌である、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記第二の酵素が、配列番号27のアミノ酸配列と90%以上の同一性を有するアミノ酸配列を含み、S-アデノシルメチオニン依存的ウロポルフィリノーゲンIIIメチルトランスフェラーゼ活性を有する、請求項1~3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記蛍光及び/又は呈色が、トリメチルピロコルフィンの蛍光である、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記第二の酵素が、蛍光タンパク質を含む融合タンパク質である、請求項1~3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記第一の酵素が、メチルトランスフェラーゼ、ラジカルS-アデノシルメチオニン酵素、S-アデノシルメチオニンデカルボキシラーゼ、N-アシルホモセリンラクトン合成酵素、オパインメタロフォア合成酵素、5’-デオキシ-5’-フルオロアデノシン合成酵素、5’-デオキシ-5’-クロロアデノシン合成酵素、及びアゼチジン-2-カルボン酸合成酵素からなる群より選択される酵素である、請求項1~3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
S-アデノシルメチオニン依存的ウロポルフィリノーゲンIIIメチルトランスフェラーゼ活性を有する酵素、
S-アデノシルメチオニン、及び
ウロポルフィリノーゲンIII
を含む、該酵素とは異なる酵素のS-アデノシルメチオニンを消費する反応に対する活性を評価するためのキット。
【請求項9】
S-アデノシルメチオニン依存的ウロポルフィリノーゲンIIIメチルトランスフェラーゼ活性を有する酵素、
S-アデノシルメチオニン、並びに
5-アミノレブリン酸、ポルフォビリノーゲンシンターゼ、ポルフォビリノーゲンデアミナーゼ、及びウロポルフィリノーゲンIIIシンターゼ
を含む、該酵素とは異なる酵素のS-アデノシルメチオニンを消費する反応に対する活性を評価するためのキット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酵素活性の評価方法、及び酵素活性評価用キットに関する。
【背景技術】
【0002】
S-アデノシルメチオニンは、生体内において様々な酵素反応の基質として利用されている。例えば、S-アデノシルメチオニン依存性メチルトランスフェラーゼは、S-アデノシルメチオニンをメチルドナーとして利用したメチル化反応を担う酵素であり、その基質は、低分子化合物、DNA、RNA、タンパク質等多岐にわたる。S-アデノシルメチオニン依存性メチルトランスフェラーゼによるメチル化反応を経て生合成される天然物には生理活性、健康機能性等を示す産業上重要な物質が多く含まれる。そのような天然物の例として、香料として広く用いられているバニリン、鎮痛剤として広く用いられているモルヒネ等が挙げられる。また、S-アデノシルメチオニンデカルボキシラーゼは、S-アデノシルメチオニンを脱炭酸しS-アデノシル3-(メチルスルファニル)プロピルアミンを産生するが、この反応は長鎖ポリアミン生合成系の初発反応として重要である。他にも、S-アデノシルメチオニン-8-アミノ-7-オキソノナノエートアミノトランスフェラーゼは、ビオチン生合成経路中に存在し、S-アデノシルメチオニンから8-アミノ-7-オキソノナノエートへアミノ基を転移する。また、ニコチアナミンシンターゼは、三分子のS-アデノシルメチオニンからニコチアナミンを合成する。ニコチアナミンは植物が分泌する鉄キレート物質ムギネ酸の合成中間体であると共に、アンジオテンシン変換酵素の阻害活性を持つ化合物である。したがって、S-アデノシルメチオニンを基質とする酵素の探索又は改変は、細胞生理における重要性及び産業上の高い有用性から重要な技術課題である。
【0003】
S-アデノシルメチオニンを基質とする酵素の探索又は改変のための酵素活性の評価方法として、例えば、バニリン酸の高生産に適したS-アデノシルメチオニン依存性メチルトランスフェラーゼの探索に、バニリン酸に応答する転写因子型のバイオセンサが開発された例(非特許文献1)、評価系中のS-アデノシルメチオニン量の定量により、無細胞転写翻訳系で合成されたS-アデノシルメチオニン依存性メチルトランスフェラーゼの基質特異性プロファイルを行った例(非特許文献2)等が報告されている。その他には、L-システインへの要求性を付与した微生物においてメチル基転移反応により生じる副産物であるS-アデノシル-L-ホモシステインを介しメチル化活性依存的にL-システイン要求性が相補されることを利用したメチルトランスフェラーゼ活性検出系(特許文献1)等も報告されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】米国特許第11479758号明細書
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Kunjapur et al., “Development of a Vanillate Biosensor for the Vanillin Biosynthesis Pathway in E. coli”, ACS Synthetic Biology, vol.8. 1958-1967 (2019)
【非特許文献2】Haslinger et al., “Rapid in vitro prototyping of O-methyltransferases for pathway applications in Escherichia coli”, Cell Chemical Biology, vol.28. 876-886.e4 (2021)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながらこれらの方法は、対象のS-アデノシルメチオニンを基質とする酵素及び当該酵素の基質の組み合わせが限定される事、酵素調製法及びS-アデノシルメチオニン測定に用いるキットが高価である事、並びに栄養要求性を相補するアッセイであるため定量的な解析が難しい事から、汎用性及び簡便性に課題があった。
【0007】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、S-アデノシルメチオニンを基質とする酵素の活性を簡便に評価する方法、又は酵素のS-アデノシルメチオニンを消費する反応に対する活性を簡便に評価するためのキットを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、鋭意研究を重ねた結果、S-アデノシルメチオニンを消費し蛍光及び/又は呈色を示す化合物を生成する酵素によるS-アデノシルメチオニンの消費、並びに目的酵素が触媒する反応によるS-アデノシルメチオニンの消費を競合させると、当該蛍光及び/又は呈色が当該目的酵素の触媒する反応によるS-アデノシルメチオニンの消費に応じて減弱することを見出し、本発明を完成させた。
【0009】
本発明は、例えば、以下の各発明を提供する。
[1]
第一の酵素が触媒する反応によるS-アデノシルメチオニンの消費及び第二の酵素が触媒する反応によるS-アデノシルメチオニンの消費を競合させる工程、
当該第二の酵素が触媒する当該反応により生じる蛍光及び/又は呈色を評価する工程、
を含む当該第一の酵素の活性を評価する方法。
[2]
上記第一の酵素をコードする遺伝子を含む第一の発現ベクターを細胞に導入する工程、
上記第二の酵素をコードする遺伝子を含む第二の発現ベクターを当該細胞に導入する工程、を更に含み、
S-アデノシルメチオニンの消費の競合が当該細胞内で行われるものである、
[1]に記載の方法。
[3]
上記細胞が、エシェリヒア属に属する細菌である、[2]に記載の方法。
[4]
上記第二の酵素が、配列番号27のアミノ酸配列と90%以上の同一性を有するアミノ酸配列を含み、S-アデノシルメチオニン依存的ウロポルフィリノーゲンIIIメチルトランスフェラーゼ活性を有する、[1]~[3]のいずれかに記載の方法。
[5]
上記蛍光及び/又は呈色が、トリメチルピロコルフィンの蛍光である、[1]~[4]のいずれかに記載の方法。
[6]
上記第二の酵素が、蛍光タンパク質を含む融合タンパク質である、[1]~[5]のいずれかに記載の方法。
[7]
上記第一の酵素が、メチルトランスフェラーゼ、ラジカルS-アデノシルメチオニン酵素、S-アデノシルメチオニンデカルボキシラーゼ、N-アシルホモセリンラクトン合成酵素、オパインメタロフォア合成酵素、5’-デオキシ-5’-フルオロアデノシン合成酵素、5’-デオキシ-5’-クロロアデノシン合成酵素、及びアゼチジン-2-カルボン酸合成酵素からなる群より選択される酵素である、[1]~[6]のいずれかに記載の方法。
[8]
S-アデノシルメチオニン依存的ウロポルフィリノーゲンIIIメチルトランスフェラーゼ活性を有する酵素、
S-アデノシルメチオニン、及び
ウロポルフィリノーゲンIII
を含む、当該酵素とは異なる酵素のS-アデノシルメチオニンを消費する反応に対する活性を評価するためのキット。
[9]
S-アデノシルメチオニン依存的ウロポルフィリノーゲンIIIメチルトランスフェラーゼ活性を有する酵素、
S-アデノシルメチオニン、並びに
5-アミノレブリン酸、ポルフォビリノーゲンシンターゼ、ポルフォビリノーゲンデアミナーゼ、及びウロポルフィリノーゲンIIIシンターゼ
を含む、当該酵素とは異なる酵素のS-アデノシルメチオニンを消費する反応に対する活性を評価するためのキット。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、S-アデノシルメチオニンを基質とする酵素の活性を簡便に評価する方法、又は酵素のS-アデノシルメチオニンを消費する反応に対する活性を簡便に評価するキットを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】プラスミドp15A-Ptrc-cysG(A)のプラスミドマップである。
図2】実施例1で撮影した、365nmの紫外線ランプ下での、IPTG存在下又は非存在下における、MG1655/p15A-Ptrc-cysG(A)のコロニーの写真である。
図3】プラスミドpQE80L-CCS1のプラスミドマップである。
図4】実施例2で撮影した、365nmの紫外線ランプ下での、各濃度のテオブロミン存在下又は非存在下における、MG1655/pTrc99a+p15A-Ptrc-cysG(A)及びMG1655/pQE80L-CCS1+p15A-Ptrc-cysG(A)のコロニーの写真である。
図5】プラスミドpQE80L-EgtDのプラスミドマップである。
図6】実施例3で撮影した、365nmの紫外線ランプ下での、各濃度のL-ヒスチジン存在下又は非存在下における、MG1655/pTrc99a+p15A-Ptrc-cysG(A)及びMG1655/pQE80L-EgtD+p15A-Ptrc-cysG(A)のコロニーの写真である。
図7】プラスミドpQE80L-EgtD(AA)のプラスミドマップである。
図8】実施例4で撮影した、365nmの紫外線ランプ下での、各濃度のL-ヒスチジン、若しくはL-トリプトファン存在下、又は基質非存在下における、MG1655/pQE80L-EgtD+p15A-Ptrc-cysG(A)及びMG1655/pQE80L-EgtD(AA)+p15A-Ptrc-cysG(A)のコロニーの写真である。
図9】プラスミドp15A-Ptrc-sfGFP-cysG(A)のプラスミドマップである。
図10】実施例5で撮影した、365nmの紫外線ランプ下での、各濃度のテオブロミン存在下、又は非存在下における、MG1655/pTrc99a+p15A-Ptrc-sfGFP-cysG(A)及びMG1655/pQE80L-CCS1+p15A-Ptrc-sfGFP-cysG(A)のコロニーの写真である。
図11】実施例6で撮影した、365nmの紫外線ランプ下での、各濃度のL-ヒスチジン存在下、又は非存在下における、MG1655/pTrc99a+p15A-Ptrc-sfGFP-cysG(A)及びMG1655/pQE80L-EgtD+p15A-Ptrc-sfGFP-cysG(A)のコロニーの写真である。
図12】実施例7で撮影した、365nmの紫外線ランプ下での、各濃度のL-ヒスチジン、若しくはL-トリプトファン存在下、又は基質非存在下における、MG1655/pQE80L-EgtD+p15A-Ptrc-sfGFP-cysG(A)及びMG1655/pQE80L-EgtD(AA)+p15A-Ptrc-sfGFP-cysG(A)のコロニーの写真である。
図13】プラスミドpQE80L-NpN4OMT1のプラスミドマップである。
図14】実施例8で撮影した、365nmの紫外線ランプ下での、ドパミン塩酸塩存在下又は非存在下における、MG1655/pTrc99a+p15A-Ptrc-cysG(A)及びMG1655/pQE80L-NpN4OMT1+p15A-Ptrc-cysG(A)のコロニーの写真である。
図15】実施例9で撮影した、365nmの紫外線ランプ下での、ドパミン塩酸塩存在下又は非存在下における、MG1655/pTrc99a+p15A-Ptrc-sfGFP-cysG(A)及びMG1655/pQE80L-NpN4OMT1+p15A-Ptrc-sfGFP-cysG(A)のコロニーの写真である。
図16】プラスミドpQE80L-SpeDのプラスミドマップである。
図17】実施例10で撮影した、365nmの紫外線ランプ下での、IPTG存在下又は非存在下における、MG1655/pTrc99a+p15A-Ptrc-cysG(A)及びMG1655/pQE80L-speD+p15A-Ptrc-cysG(A)のコロニーの写真である。
図18】実施例11で撮影した、365nmの紫外線ランプ下での、IPTG存在下又は非存在下における、MG1655/pTrc99a+p15A-Ptrc-sfGFP-cysG(A)及びMG1655/pQE80L-speD+p15A-Ptrc-sfGFP-cysG(A)のコロニーの写真である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本実施形態に係る第一の酵素の活性を評価する方法は、第一の酵素が触媒する反応によるS-アデノシルメチオニンの消費及び第二の酵素が触媒する反応によるS-アデノシルメチオニンの消費を競合させる工程(競合工程)、当該第二の酵素が触媒する当該反応により生じる蛍光及び/又は呈色を評価する工程(評価工程)を含む。
【0013】
また、本実施形態に係る第一の酵素の活性を評価する方法は、競合工程の前に、上記第一の酵素をコードする遺伝子を含む第一の発現ベクターを細胞に導入する工程(第一導入工程)、上記第二の酵素をコードする遺伝子を含む第二の発現ベクターを当該細胞に導入する工程(第二導入工程)、を更に含んでもよい(以下「第一導入工程」及び「第二導入工程」を総括して「導入工程」ともいう)。
【0014】
本明細書において、S-アデノシルメチオニンについて使用される「消費」とは、酵素がS-アデノシルメチオニンに作用して化学反応を起こすことにより、反応系内のS-アデノシルメチオニンの量を減少させることを意味する。なお、第一の酵素がS-アデノシルメチオニンに作用して化学反応を起こすために必要な活性を有しないこと、第一の酵素がS-アデノシルメチオニンに作用して化学反応を起こすために必要な基質が反応系内に存在しないこと、及び第一の酵素が第一の酵素の阻害物質により阻害されていること、からなる群より選択される少なくとも1つの理由によって、第一の酵素がS-アデノシルメチオニンの量を減少させない場合も、「消費」の概念に含まれる。
【0015】
本明細書において、S-アデノシルメチオニンの消費について使用される「競合」とは、2つの酵素がS-アデノシルメチオニンを互いに消費しあうことを意味し、それによって、それぞれの酵素が消費するS-アデノシルメチオニンの量が、他方の酵素が存在していなかった場合に比べて減少する。なお、第一の酵素がS-アデノシルメチオニンに作用して化学反応を起こすために必要な活性を有しないこと、第一の酵素がS-アデノシルメチオニンに作用して化学反応を起こすために必要な基質が反応系内に存在しないこと、及び第一の酵素が第一の酵素の阻害物質により阻害されていること、からなる群より選択される少なくとも1つの理由によって、第一の酵素が反応系内のS-アデノシルメチオニンの量を減少させないために、第二の酵素が消費するS-アデノシルメチオニンの量が、第一の酵素が存在していなかった場合に比べて減少しない場合も、「競合」の概念に含まれる。
【0016】
本明細書において、第二の酵素が触媒する反応により生じる「蛍光及び/又は呈色」とは、第二の酵素が触媒する反応の生成物に含まれる、蛍光を発する化合物及び/又は呈色反応を引き起こす化合物が示す、蛍光及び/又は呈色を意味する。
【0017】
本発明の第一の酵素の活性を測定する方法は、第二の酵素が触媒するS-アデノシルメチオニンを消費する反応により蛍光及び/又は呈色が生じること、並びにこれら蛍光及び/又は呈色が、第一の酵素が触媒する反応によるS-アデノシルメチオニンの消費及び第二の酵素が触媒する反応によるS-アデノシルメチオニンの消費の競合の際の、第一の酵素が触媒する反応によるS-アデノシルメチオニンの消費に応じて減弱すること、を利用するものである。
【0018】
本実施形態に係る第一の酵素の活性を評価する方法の用途は、特に制限されず、例えば、目的の反応に対しての酵素の活性の有無の評価に用いてもよく、高い活性を示す酵素のスクリーニングに用いてもよく、酵素が高い活性を示す基質のスクリーニングに用いてもよく、酵素が高い活性を示す酵素及び基質の組み合わせのスクリーニングに用いてもよく、酵素に対する阻害物質の探索に用いてもよく、基質選択性の高い酵素のスクリーニングに用いてもよい。
【0019】
(第一の酵素)
本実施形態に係る第一の酵素は、特に制限されず、目的に応じて適宜選択することができ、S-アデノシルメチオニンを消費する反応を触媒する酵素であってもよく、S-アデノシルメチオニンを消費する反応を触媒するか触媒しないか不明な酵素であってもよい。本実施形態に係る第一の酵素としては、例えば、CCS1(即ち、配列番号28で表されるアミノ酸配列からなるタンパク質)、EgtD(即ち、配列番号29で表されるアミノ酸配列からなるタンパク質)、ドパミン-O-メチルトランスフェラーゼ等のメチルトランスフェラーゼ、ラジカルS-アデノシルメチオニン酵素、S-アデノシルメチオニンデカルボキシラーゼ、N-アシルホモセリンラクトン(AHL)合成酵素、ニコチアナミン合成酵素等のオパインメタロフォア(Opine Metallophore)合成酵素、5’-デオキシ-5’-フルオロアデノシン合成酵素、5’-デオキシ-5’-クロロアデノシン合成酵素、アゼチジン-2-カルボン酸合成酵素等が挙げられる。上記ドパミン-O-メチルトランスフェラーゼとしては、例えば、スイセン(Narcissus)属植物由来のドパミン-O-メチルトランスフェラーゼNpN4OMT1(配列番号37で表されるアミノ酸配列からなるタンパク質。Kilgore, Matthew B., et al. "Cloning and characterization of anorbelladine 4'-O-methyltransferase involved in the biosynthesis of theAlzheimer’s drug galanthamine in Narcissus sp. aff.pseudonarcissus." PloS one 9.7 (2014): e103223.)等が挙げられる。上記S-アデノシルメチオニンデカルボキシラーゼとしては、大腸菌(Escherichia coli)由来のS-アデノシルメチオニンデカルボキシラーゼSpeD(配列番号39で表されるアミノ酸配列からなるタンパク質)これらの酵素は公知の酵素であってもよく、アミノ酸の置換等により改変をされた酵素であってもよい。
【0020】
(第二の酵素)
本実施形態に係る第二の酵素は、特に制限されず、S-アデノシルメチオニンを消費する反応であって、蛍光及び/又は呈色を生じる反応を触媒する酵素であればよく、例えば、S-アデノシルメチオニン依存的ウロポルフィリノーゲンIIIメチルトランスフェラーゼ(SUMT)活性を有する酵素(SUMTを含む)、エスクレチンメチル化活性を有する酵素等が挙げられる。SUMT活性を有する酵素としては、配列番号27で表されるアミノ酸配列と高い同一性を有するアミノ酸配列を含むタンパク質であってもよく、例えば、大腸菌CysG、CysG(A)(即ち、配列番号27で表されるアミノ酸配列からなるタンパク質)等が挙げられる。本明細書において、高い同一性とは、アミノ酸配列全体あるいは塩基配列全体で、90%以上(例えば、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%以上)の配列の同一性を指す。アミノ酸配列又は塩基配列の同一性は、Karlin and AltschulによるアルゴリズムBLAST(S. Karlin et al., “Applications and statistics for multiple high-scoring segments in molecular sequences.” Proceedings of the National Academy of Sciences, 90(12), 5873-5877 (1993))によって決定することができる。このアルゴリズムに基づいて、BLASTN及びBLASTXと呼ばれるプログラムが開発されている(S. F. Altschul et al., “Basic local alignment search tool.” Journal of molecular biology, 215(3), 403-410 (1990))。BLASTに基づいてBLASTNによって塩基配列を解析する場合には、パラメーターは例えばscore=100、wordlength=12とする。また、BLASTに基づいてBLASTXによってアミノ酸配列を解析する場合には、パラメーターは例えばscore=50、wordlength=3とする。BLASTとGapped BLASTプログラムを用いる場合には、各プログラムのデフォルトパラメーターを用いる。これらの解析方法の具体的な手法は公知である(NCBI(National Center for Biotechnology Information)のBLAST(Basic Local Alignment Search Tool)のウェブサイトの情報を参照することができる。
【0021】
なお、SUMT活性を有する酵素は、S-アデノシルメチオニンをメチルドナーとして利用し、ウロポルフィリノーゲンIIIのメチル化反応を1回以上触媒する酵素である。ウロポルフィリノーゲンIIIがSUMT活性を有する酵素により三度のメチル化を受けると、蛍光を発するトリメチルピロコルフィンが生成される。(J. Feliciano et al., “Novel reporter gene in a fluorescent-based whole cell sensing system”, Biotechnology and Bioengineering, vol.93. 989-997 (2006))。
【0022】
また、大腸菌CysGはSUMT活性、プレコリン-2デヒドロゲナーゼ活性、及びシロヒドロクロリンフェロキラターゼ活性を有する多機能酵素であり、CysG(A)は、大腸菌CysGうちSUMT活性を持つC末端側ドメインのみを切り出したタンパク質であって、SUMT活性を有することが知られている(M J Warren et al, ”Gene dissection demonstrates that the Escherichia coli cysG gene encodes a multifunctional protein”, Biochemical Journal, vol.302. 837-844 (1994))。
【0023】
また、本実施形態に係る第二の酵素は、S-アデノシルメチオニンを消費する反応であって、蛍光及び/又は呈色を生じる反応を触媒する酵素と、蛍光タンパク質とを含む融合タンパク質であってもよい。蛍光タンパク質は、励起光によって蛍光を発するタンパク質であればよく、例えば、avGFP、EGFP、GFPuv、superfolder GFP(sfGFP)、CFP、BFP、DsRED、mCherry、EYFP等が挙げられる。第二の酵素が蛍光タンパク質を含む融合タンパク質である場合は、第二の酵素が触媒するS-アデノシルメチオニンを消費する反応により生じる蛍光及び/又は呈色の評価を、色相の変化を評価することで行うことができる。この場合、本実施形態に係る第一の酵素の活性の評価がより容易となる。第二の酵素が蛍光タンパク質を含む融合タンパク質である場合は、第二の酵素としては、例えば、CysG(A)及びsuperfolder GFPの融合タンパク質等が挙げられる。
【0024】
<導入工程>
導入工程では、第一の酵素をコードする遺伝子を含む第一の発現ベクターを細胞に導入させ、また、第二の酵素をコードする遺伝子を含む第二の発現ベクターを当該細胞に導入させる。第一の酵素をコードする遺伝子を含む第一の発現ベクターの細胞への導入、及び第二の酵素をコードする遺伝子を含む第二の発現ベクターの当該細胞への導入は、同時に行ってもよく、第一の酵素をコードする遺伝子を含む第一の発現ベクターの細胞への導入を先に行ってもよく、第二の酵素をコードする遺伝子を含む第二の発現ベクターの細胞への導入を先に行ってもよい。
【0025】
また、本実施形態に係る第一の酵素の活性を評価する方法が、導入工程を含む場合、第一の酵素が触媒する反応によるS-アデノシルメチオニンの消費及び第二の酵素が触媒する反応によるS-アデノシルメチオニンの消費の競合は、第一の発現ベクター及び第二の発現ベクターが導入された細胞内で行われる。
【0026】
(第一の発現ベクター及び第二の発現ベクター)
本実施形態に係る第一の発現ベクターは、第一の酵素をコードする遺伝子を含んでおり、原核細胞及び/又は真核細胞のいずれかの細胞中で第一の酵素を生産する機能を有するものであれば特に制限されない。また、本実施形態に係る第二の発現ベクターは、第二の酵素をコードする遺伝子を含んでおり、原核細胞及び/又は真核細胞のいずれかの細胞中で第二の酵素を生産する機能を有するものであれば特に制限されない。また、本実施形態に係る第一の発現ベクター及び本実施形態に係る第二の発現ベクターは、それぞれ独立して任意に選択することができる(以下、本実施形態に係る第一の発現ベクター及び本実施形態に係る第二の発現ベクターを「本実施形態に係る発現ベクター」と総称する)。また、本実施形態に係る発現ベクターは、宿主細胞として、エシェリヒア属に属する細菌等を用いる場合、プロモーター-オペレーター領域、開始コドン、終止コドン、及びターミネーター領域を含んでいてもよい。これらは、当業者において通常使用されるものを用いることができ、プロモーターとしては、T5プロモーター、trcプロモーター等が挙げられ、オペレーターとしては、Lacオペレーター等が挙げられる。
【0027】
これらの他にも、形質転換された宿主細胞を選抜することを可能とするマーカー遺伝子(抗生物質耐性遺伝子等)、第一の酵素をコードする遺伝子の転写を促進又は抑制する転写調節因子をコードする遺伝子等を含んでもよい。抗生物質耐性遺伝子としては、アンピシリン耐性遺伝子、クロラムフェニコール耐性遺伝子等が挙げられる。転写調節因子をコードする遺伝子としては、例えば、第一の発現ベクターがオペレーターとしてLacオペレーターを含む場合は、Lacリプレッサーを過剰発現するlacIq遺伝子等が挙げられる。
【0028】
本実施形態に係る発現ベクターは、プラスミドのみならず、例えば、人工染色体、トランスポゾンを用いたベクター、コスミドを用いてもよい。
本実施形態に係る発現ベクターを導入する宿主細胞としてエシェリヒア属に属する細菌を用いる場合、ベクターとしては、例えば、pTrc-luxR(Y. Kimura et al., “Directed evolution of Vibrio fik-aphscheri LuxR signal sensitivity”, Journal of Bioscience and Bioengineering, Vol.122. 533-538 (2016))、Plux-sfgfp-HSVtk-aph(Y. Kimura et al., “Directed Evolution of the Stringency of the LuxR Vibrio fischeri Quorum Sensor without OFF-State Selection”, ACS Synthetic Biology, Vol.9. 567-575 (2020))、pColdI、pSTV28、pSTV29、pUC118(いずれもタカラバイオ社製)、pMW118、pMW119、pMW218(いずれもニッポンジーン社製)、pET21a、pET28a、pCDF-1b、pRSF-1b(いずれもメルクミリポア社製)、pMAL-c5x(ニューイングランドバイオラブス社製)、pGEX-4T-1、pTrc99A(いずれもGEヘルスケアバイオサイエンス社製)、pTrcHis、pSE280(いずれもサーモフィッシャー・サイエンティフィック社製)、pGEMEX-1(プロメガ社製)、pQE-30、pQE-60、pQE80L(いずれもキアゲン社製)、pET-3、pBluescriptII SK(+)、pBluescriptII KS(-)(いずれもアジレント・テクノロジー社製)、pKYP10(特開昭58-110600号公報)、pKYP200[Agric.Biol. Chem., 48, 669 (1984)]、pLSA1[Agric. Biol. Chem., 53, 277 (1989)]、pGEL1[Proc.Natl. Acad. Sci., USA, 82, 4306 (1985)]、pTrS30 [Escherichia coli JM109/pTrS30(FERM BP-5407)より調製]、pTrS32 [Escherichia coli JM109/pTrS32(FERM BP-5408)より調製]、pTK31[APPLIED AND ENVIRONMENTAL MICROBIOLOGY,2007, Vol.73, No.20, p6378-6385]、pPE167(Appl. Environ. Microbiol. 2007, 73:6378-6385)、pPAC31(WO98/12343)、pUC19[Gene,33, 103(1985)]、pPA1(特開昭63-233798号公報)等を挙げることができる。
上記のベクターを用いる場合のプロモーターとしては、エシェリヒア属に属する細菌の細胞中で機能するものであればいかなるものでもよいが、例えば、trpプロモーター、gapAプロモーター、lacプロモーター、PLプロモーター、PRプロモーター、PSEプロモーター、T5プロモーター等の、Escherichia coli、ファージ等に由来するプロモーターを用いることができる。また、trpプロモーターを2つ直列させたプロモーター、tacプロモーター、trcプロモーター、lacT5プロモーター、lacT7プロモーター、let Iプロモーター等のように人為的に設計改変されたプロモーターを用いることもできる。
【0029】
(細胞)
本実施形態に係る細胞は、第一の発現ベクター及び第二の発現ベクターに適合し、形質転換されうるものであれば特に限定されず、当業者において通常使用される細菌等の原核細胞、動物細胞、真菌等の真核細胞等であってもよい。これらの細胞は、天然細胞であってもよく、組換え細胞であってもよい。本実施形態に係る細胞としては、例えば、原核生物又は酵母菌が好ましく、エシェリヒア属、セラチア属、バチルス属、ブレビバクテリウム属、コリネバクテリウム属、ミクロバクテリウム属、若しくはシュードモナス属に属する細菌、又はサッカロマイセス属、シゾサッカロマイセス属、クルイベロミセス属、トリコスポロン属、シワニオミセス属、ピチア属、若しくはキャンディダ属に属する酵母菌がより好ましく、Escherichia coli BL21 codon plus、Escherichia coli XL1-Blue、Escherichia coli XL2-Blue(いずれもアジレント・テクノロジー社製)、Escherichia coli BL21(DE3)(ノバジェン社製)、 Escherichia coli BL21(DE3)pLysS(メルクミリポア社製)、Escherichia coli DH5α、Escherichia coli HST08Premium、Escherichia coli HST02、Escherichia coli HST04 dam-/dcm―、Escherichia coli JM109、Escherichia coli HB101、Escherichia coliCJ236、Escherichia coli BMH71-18 mutS、Escherichia coli MV1184、Escherichia coli TH2(いずれもタカラバイオ社製)、Escherichia coli W、Escherichia coli JM101、Escherichia coli W3110、Escherichia coli MG1655、Escherichia coli DH1、Escherichia coli MC1000、Escherichia coli W1485、Escherichia coli MP347、Escherichia coli NM522、若しくはEscherichia coli ATCC9637であるエシェリヒア属に属する細菌、Serratia ficaria、Serratia fonticola、Serratia liquefaciens、若しくはSerratia marcescensであるセラチア属に属する細菌、Bacillus subtilis、若しくはBacillus amyloliquefaciensであるバチルス属に属する細菌、Brevibacterium immariophilum ATCC14068、若しくはBrevibacterium saccharolyticum ATCC14066であるブレビバクテリウム属に属する細菌、Corynebacterium ammoniagenes、Corynebacterium glutamicum ATCC13032、Corynebacterium glutamicum ATCC14067、Corynebacterium glutamicum ATCC13869、若しくはCorynebacterium acetoacidophilum ATCC13870であるコリネバクテリウム属に属する細菌、Microbacterium ammoniaphilum ATCC15354であるミクロバクテリウム属に属する細菌、又はPseudomonas sp.D-0110であるシュードモナス属に属する細菌、又はSaccharomyces cerevisiaeであるサッカロマイセス属に属する酵母菌、Schizosaccharomyces pombeであるシゾサッカロマイセス属に属する酵母菌、Kluyveromyces lactisであるクルイベロミセス属に属する酵母菌、Trichosporon pullulansであるトリコスポロン属に属する酵母菌、Schwanniomyces alluviusであるシワニオミセス属に属する酵母菌、Pichia pastorisであるピチア属に属する酵母菌、若しくはCandida utilisであるキャンディダ属に属する酵母菌が更に好ましい。
【0030】
本実施形態に係る第一の発現ベクターの細胞への導入(形質転換)及び第二の発現ベクターの細胞への導入(形質転換)は、特に制限されず、公知の方法で行うことができ、例えば、カルシウムイオンを用いる方法[Proc. Natl. Acad. Sci., USA, 69, 2110 (1972)]、プロトプラスト法(日本国特開昭63-248394号公報)、エレクトロポレーション法[Nucleic Acids Res., 16, 6127 (1988)]、パーティクルガン法[T.M. Klein et al.: Nature, 327, 70 (1987).] 、TSS法[Chung et al., PNAS, Vol. 86, 2172-2175 (1989)]、接合伝達法[Thomas CM,et al., Nat Rev Microbiol. 2005 Sep;3(9):711-21.]、スフェロプラスト法[Proc.Natl.Acad.Sci.,USA,81,4889(1984)]、酢酸リチウム法[J.Bacteriol.,153,163(1983)]等が挙げられる。
【0031】
第一の発現ベクター及び/又は第二の発現ベクターを細胞に導入した後、発現ベクター、細胞の種類等に応じて、当業者において通常行われる方法で、細胞培養、導入(形質転換)された細胞の選抜、第一の酵素の発現誘導、第二の酵素の発現誘導等を適宜行ってもよい。第一の酵素の発現誘導及び/又は第二の酵素の発現誘導の方法としては、例えば、Lacリプレッサーによって第一の酵素及び/又は第二の酵素の発現が抑制されている場合は、イソプロピル-β-チオガラクトピラノシド(IPTG)によってLacリプレッサーを阻害すること等が挙げられる。
【0032】
<競合工程>
競合工程では、第一の酵素が触媒する反応によるS-アデノシルメチオニンの消費及び第二の酵素が触媒する反応によるS-アデノシルメチオニンの消費を競合させる。競合工程における競合は、第一の酵素、第二の酵素、S-アデノシルメチオニン、及び第二の酵素の基質(S-アデノシルメチオニンを除く)の存在下で行われ、必要であれば第一の酵素の基質(S-アデノシルメチオニンを除く)の存在下で行われてもよい。
【0033】
競合工程において、第一の酵素、第二の酵素、及びS-アデノシルメチオニンは、上記競合が適切に行われればよく、あらかじめ十分な量が存在していてもよく、適宜供給されてもよい。
【0034】
第一の酵素の基質(S-アデノシルメチオニンを除く)は、特に制限されず、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、第一の酵素が触媒するS-アデノシルメチオニンを消費する反応における基質(S-アデノシルメチオニンを除く)であってもよく、当該反応における基質であるか基質でないか不明な物質(S-アデノシルメチオニンを除く)であってもよい。競合工程において、第一の酵素の基質(S-アデノシルメチオニンを除く)は、上記反応における、第一の酵素又はS-アデノシルメチオニンに対して十分な量が存在するように、あらかじめ十分な量が存在していてもよく、適宜供給されてもよい。
【0035】
第二の酵素の基質(S-アデノシルメチオニンを除く)とは、第二の酵素が触媒する、S-アデノシルメチオニンを消費する反応であって、蛍光及び/又は呈色を生じる反応における基質(S-アデノシルメチオニンを除く)のことをいう。第二の酵素の基質(S-アデノシルメチオニンを除く)としては、第二の酵素の種類に応じて適宜決定すればよく、例えば、第二の酵素がSUMT活性を有する酵素であった場合、ウロポルフィリノーゲンIIIであってもよい。競合工程において、第二の酵素の基質(S-アデノシルメチオニンを除く)は、上記反応における、第二の酵素又はS-アデノシルメチオニンに対して十分な量が存在するように、あらかじめ十分な量が存在していてもよく、適宜供給されてもよい。
【0036】
競合工程は、必要に応じて第一の酵素の阻害物質の存在下で行われてもよい。第一の酵素の阻害物質は、第二の酵素が触媒する、S-アデノシルメチオニンを消費する反応であって、蛍光及び/又は呈色を生じる反応を阻害しなければ特に制限されず、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、第一の酵素が触媒するS-アデノシルメチオニンを消費する反応を阻害する物質であってもよく、当該反応を阻害するか阻害しないか不明な物質であってもよい。競合工程において、第一の酵素の阻害物質は、あらかじめ十分な量が存在していてもよく、適宜供給されてもよい。
【0037】
競合工程は特に制限されず、例えば、細胞内、無細胞系で行われてもよく、S-アデノシルメチオニン及び/又は第二の酵素の基質の生合成能を有する細胞内で行われてもよい。競合工程がS-アデノシルメチオニン及び/又は第二の酵素の基質の生合成能を有する細胞内で行われる場合、S-アデノシルメチオニン及び/又は第二の酵素の基質を、競合工程の前及び競合工程において、外部から供給しなくてもよい。例えば、第二の酵素がSUMT活性を有する酵素であり、第二の酵素の基質がウロポルフィリノーゲンIIIであり、エシェリヒア属に属する細菌等のS-アデノシルメチオニン及びウロポルフィリノーゲンIIIの生合成能を有する細胞内で競合工程が行われる場合、S-アデノシルメチオニン及びウロポルフィリノーゲンIIIを、競合工程の前及び競合工程において、外部から供給しなくてもよい。
【0038】
また、競合工程の反応時間、反応温度等の条件は、第一の酵素が触媒する反応によるS-アデノシルメチオニンの消費及び第二の酵素が触媒する反応によるS-アデノシルメチオニンの消費の競合が適切に起きるように適宜設定されてよい。
【0039】
<評価工程>
評価工程では、競合工程における第二の酵素が触媒するS-アデノシルメチオニンを消費する反応により生じる蛍光及び/又は呈色を評価する。蛍光及び/又は呈色の評価は、特に制限されず、蛍光及び/又は呈色の測定によるものであってもよく、蛍光及び/又は呈色の検出によるものであってもよい。
【0040】
第二の酵素が触媒する反応の生成物に含まれる、蛍光を発する化合物及び/又は呈色反応を引き起こす化合物としては、特に制限されず、例えば、第二の酵素がSUMT活性を有する酵素である場合、トリメチルピロコルフィンであってもよい。
【0041】
評価工程における蛍光の測定は、特に制限されず、蛍光を発する化合物に応じて、励起波長、蛍光波長、測定装置等を適宜設定し、蛍光強度等を測定してもよい。また、評価工程における蛍光の検出は、特に制限されず、蛍光を発する化合物に応じて、励起波長等を適宜設定し、蛍光を目視によって観察してもよい。例えば、第二の酵素が触媒するS-アデノシルメチオニンを消費する反応の生成物にトリメチルピロコルフィンが含まれる場合、波長340nm~380nm(極大は357nm)の励起光を照射して、波長600nm~640nm(極大は620nm)における蛍光強度を、プレートリーダー、分光蛍光光度計で測定してもよく、波長340nm~380nm(極大は357nm)の励起光を照射して、桃色の蛍光を目視で観察してもよい。
【0042】
評価工程における呈色の測定は、特に制限されず、呈色反応を引き起こす化合物に応じて、呈色反応の条件、測定法、測定装置等を適宜設定してもよい。また、評価工程における呈色の検出は、特に制限されず、呈色反応を引き起こす化合物に応じて、呈色反応の条件等を適宜設定し、呈色を目視によって観察してもよい。
【0043】
評価工程において、第二の酵素が触媒するS-アデノシルメチオニンを消費する反応により生じる蛍光及び/又は呈色が、第一の酵素が非存在であること以外は同一の条件における第二の酵素が触媒する反応により生じる蛍光及び/又は呈色と比較して、一定以上減弱している場合に、第一の酵素が活性を有すると判断してもよい。また、第二の酵素が触媒するS-アデノシルメチオニンを消費する反応により生じる蛍光及び/又は呈色が、第一の酵素の基質が非存在であること以外は同一の条件における第二の酵素が触媒する反応により生じる蛍光及び/又は呈色と比較して、一定以上減弱している場合に、当該第一の酵素の基質に対して第一の酵素が活性を有すると判断してもよい。また、2種類以上の第一の酵素について、第一の酵素が異なること以外は同一の条件で第二の酵素が触媒するS-アデノシルメチオニンを消費する反応により生じる蛍光及び/又は呈色を評価した場合、強い蛍光及び/又は呈色を示す第一の酵素の活性は相対的に低く、弱い蛍光及び/又は呈色を示す第一の酵素の活性は相対的に高いと評価してもよい。また、2種類以上の第一の酵素の基質について、第一の酵素の基質が異なること以外は同一の条件で第二の酵素が触媒するS-アデノシルメチオニンを消費する反応により生じる蛍光及び/又は呈色を評価した場合、強い蛍光及び/又は呈色を示す第一の酵素の基質に対する第一の酵素の活性は相対的に低く、低い蛍光強度及び/又は呈色強度を示す第一の酵素の基質に対する第一の酵素の活性は相対的に高いと評価してもよい。また、2種類以上の第一の酵素、及び2種以上の第一の酵素の基質について、第一の酵素及び第一の酵素の基質が異なること以外は同一の条件で第二の酵素が触媒するS-アデノシルメチオニンを消費する反応により生じる蛍光及び/又は呈色を評価した場合、強い蛍光及び/又は呈色を示す第一の酵素及び第一の酵素の基質の組み合わせにおける第一の酵素の活性は相対的に低く、低い蛍光強度及び/又は呈色強度を示す第一の酵素及び第一の酵素の基質の組み合わせにおける第一の酵素の活性は相対的に高いと評価してもよい。また、第一の酵素の阻害物質の存在下における第二の酵素が触媒するS-アデノシルメチオニンを消費する反応により生じる蛍光及び/又は呈色が、第一の酵素の阻害物質が非存在であること以外は同一の条件における第二の酵素が触媒する反応により生じる蛍光及び/又は呈色と比較して、一定以上増強している場合に、当該第一の酵素の阻害物質は阻害作用を有していると判断してもよい。また、2種類以上の第一の酵素の阻害物質について、第一の酵素の阻害物質が異なること以外は同一の条件で第二の酵素が触媒するS-アデノシルメチオニンを消費する反応により生じる蛍光及び/又は呈色を評価した場合、強い蛍光及び/又は呈色を示す第一の酵素の阻害物質の阻害作用は相対的に高く、低い蛍光強度及び/又は呈色強度を示す第一の酵素の阻害物質の阻害作用は相対的に低いと評価してもよい。
【0044】
また、第二の酵素が蛍光タンパク質を含む融合タンパク質である場合、評価工程において蛍光タンパク質が発する蛍光を更に測定してもよい。この蛍光の測定は、特に制限されず、蛍光タンパク質に応じて、励起波長、蛍光波長、測定装置等を適宜設定し、蛍光強度を測定してもよい。また、この場合、評価工程において蛍光タンパク質に由来する蛍光強度に対する、第二の酵素が触媒する反応により生じる蛍光強度及び/又は呈色強度の比を算出してもよい。
【0045】
評価工程において、第二の酵素が蛍光タンパク質を含む融合タンパク質である場合、上記比が、第一の酵素が非存在であること以外は同一の条件における当該比と比較して、一定以上小さい場合に、第一の酵素が活性を有すると判断してもよい。また、上記比が、第一の酵素の基質が非存在であること以外は同一の条件における当該比と比較して、一定以上小さい場合に、当該第一の酵素の基質に対して第一の酵素が活性を有すると判断してもよい。また、2種類以上の第一の酵素について、第一の酵素が異なること以外は同一の条件で上記比を算出した場合、大きい当該比を示す第一の酵素の活性は相対的に低く、小さい当該比を示す第一の酵素の活性は相対的に高いと評価してもよい。また、2種類以上の第一の酵素の基質について、第一の酵素の基質が異なること以外は同一の条件で上記比を算出した場合、大きい当該比を示す第一の酵素の基質に対する第一の酵素の活性は相対的に低く、小さい当該比を示す第一の酵素の基質に対する第一の酵素の活性は相対的に高いと評価してもよい。また、2種類以上の第一の酵素、及び2種以上の第一の酵素の基質について、第一の酵素及び第一の酵素の基質が異なること以外は同一の条件で上記比を算出した場合、大きい当該比を示す第一の酵素及び第一の酵素の基質の組み合わせにおける第一の酵素の活性は相対的に低く、小さい当該比を示す第一の酵素及び第一の酵素の基質の組み合わせにおける第一の酵素の活性は相対的に高いと評価してもよい。また、第一の酵素の阻害物質の存在下における上記比が、第一の酵素の阻害物質が非存在であること以外は同一の条件における上記比と比較して、一定以上大きい場合に、当該第一の酵素の阻害物質は阻害作用を有していると判断してもよい。また、2種類以上の第一の酵素の阻害物質について、第一の酵素の阻害物質が異なること以外は同一の条件で上記比を算出した場合、大きい当該比を示す第一の酵素の阻害物質の阻害作用は相対的に高く、小さい当該比を示す第一の酵素の阻害物質の阻害作用は相対的に低いと評価してもよい。
【0046】
また、第二の酵素が蛍光タンパク質を含む融合タンパク質である場合、評価工程において蛍光タンパク質が発する蛍光を更に検出してもよい。この蛍光の検出は、特に制限されず、蛍光タンパク質に応じて、励起波長等を適宜設定し、蛍光を目視によって観察してもよい。また、この場合、評価工程において蛍光タンパク質に由来する蛍光並びに第二の酵素が触媒する反応により生じる蛍光及び/又は呈色が合わさった色相を検出してもよい。
【0047】
評価工程において、第二の酵素が蛍光タンパク質を含む融合タンパク質である場合、上記色相が、第一の酵素が非存在であること以外は同一の条件における当該色相(初期色相)と比較して、蛍光タンパク質に由来する蛍光の色相に近い場合に、第一の酵素が活性を有すると判断してもよい。また、上記色相が、第一の酵素の基質が非存在であること以外は同一の条件における当該色相(初期色相)と比較して、蛍光タンパク質に由来する蛍光の色相に近い場合に、当該第一の酵素の基質に対して第一の酵素が活性を有すると判断してもよい。また、2種類以上の第一の酵素について、第一の酵素が異なること以外は同一の条件で上記色相を検出した場合、初期色相に近い色相を示す第一の酵素の活性は相対的に低く、蛍光タンパク質に由来する蛍光の色相に近い色相を示す第一の酵素の活性は相対的に高いと評価してもよい。また、2種類以上の第一の酵素の基質について、第一の酵素の基質が異なること以外は同一の条件で上記色相を検出した場合、初期色相に近い色相を示す第一の酵素の基質に対する第一の酵素の活性は相対的に低く、蛍光タンパク質に由来する蛍光の色相に近い色相を示す第一の酵素の基質に対する第一の酵素の活性は相対的に高いと評価してもよい。また、2種類以上の第一の酵素、及び2種以上の第一の酵素の基質について、第一の酵素及び第一の酵素の基質が異なること以外は同一の条件で上記色相を検出した場合、初期色相に近い色相を示す第一の酵素及び第一の酵素の基質の組み合わせにおける第一の酵素の活性は相対的に低く、蛍光タンパク質に由来する蛍光の色相に近い色相を示す第一の酵素及び第一の酵素の基質の組み合わせにおける第一の酵素の活性は相対的に高いと評価してもよい。また、第一の酵素の阻害物質の存在下における上記色相が、第一の酵素の阻害物質が非存在であること以外は同一の条件における上記色相と比較して、初期色相に近い場合に、当該第一の酵素の阻害物質は阻害作用を有していると判断してもよい。また、2種類以上の第一の酵素の阻害物質について、第一の酵素の阻害物質が異なること以外は同一の条件で上記色相を検出した場合、初期色相に近い色相を示す第一の酵素の阻害物質の阻害作用は相対的に高く、蛍光タンパク質に由来する蛍光の色相に近い色相を示す第一の酵素の阻害物質の阻害作用は相対的に低いと評価してもよい。
【0048】
<キット>
一実施形態に係る、酵素のS-アデノシルメチオニンを消費する反応に対する活性を評価するためのキットは、SUMT活性を有する酵素、S-アデノシルメチオニン、及びウロポルフィリノーゲンIIIを含む。上記キットは、更に、緩衝剤、チオール試薬(ジチオトレイトール等)、酵素安定剤、金属イオン、金属イオンキレート剤、プロテアーゼ阻害剤、及び塩(塩化ナトリウム等)を含んでもよい。上記キットの用途は、上述の本実施形態に係る第一の酵素の活性を評価する方法の用途と同様であってもよい。また、上記キットを用いた、酵素のS-アデノシルメチオニンを消費する反応に対する活性の評価は、当該酵素を第一の酵素、SUMT活性を有する酵素を第二の酵素として、上記競合工程及び上記評価工程を含んでもよい。また、上記キットにおいて、SUMT活性を有する酵素、S-アデノシルメチオニン、及びウロポルフィリノーゲンIIIはいずれも、当該酵素をコードする遺伝子を含む発現ベクターが導入された細胞であって、S-アデノシルメチオニン、及びウロポルフィリノーゲンIIIの生合成能を有する細胞内に存在していてもよい。この場合、上記キットは上記細胞を含んでもよい。上記キットが上記細胞を含む場合は、上記キットを用いた、酵素のS-アデノシルメチオニンを消費する反応に対する活性の評価は、当該酵素を第一の酵素、SUMT活性を有する酵素を第二の酵素、当該酵素をコードする遺伝子を含む発現ベクターを第二の発現ベクターとして、更に上記第一導入工程を含んでもよい。
【0049】
別の実施形態に係る、酵素のS-アデノシルメチオニンを消費する反応に対する活性を評価するためのキットは、SUMT活性を有する酵素、S-アデノシルメチオニン、並びに5-アミノレブリン酸、ポルフォビリノーゲンシンターゼ(大腸菌HemB等)、ポルフォビリノーゲンデアミナーゼ(大腸菌HemC等)、及びウロポルフィリノーゲンIIIシンターゼ(大腸菌HemD等)を含む。上記キットにおいては、順にポルフォビリノーゲンシンターゼ(大腸菌HemB等)、ポルフォビリノーゲンデアミナーゼ(大腸菌HemC等)、及びウロポルフィリノーゲンIIIシンターゼによる反応を経て、5-アミノレブリン酸からウロポルフィリノーゲンIIIが合成される。上記キットは、更に、緩衝剤、チオール試薬(ジチオトレイトール等)、酵素安定剤、金属イオン、金属イオンキレート剤、プロテアーゼ阻害剤、及び塩(塩化ナトリウム等)を含んでもよい。上記キットの用途は、上述の本実施形態に係る第一の酵素の活性を評価する方法の用途と同様であってもよい。また、上記キットを用いた、酵素のS-アデノシルメチオニンを消費する反応に対する活性の評価は、当該酵素を第一の酵素、SUMT活性を有する酵素を第二の酵素として、上記競合工程及び上記評価工程を含んでもよい。
【実施例0050】
以下、試験例に基づいて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0051】
<実施例1.CysG(A)により生じる蛍光>
(プラスミドの作成)
Escherichia coli MG1655(大腸菌MG1655株)由来のCysG(A)配列(配列番号23)を含むプラスミドを鋳型に、配列番号1及び2で表される塩基配列からなるオリゴヌクレオチドをプライマーセットとしてPCRを行い、CysG(A)をコードする遺伝子を含むDNA断片を増幅した。続いて、pTrc-luxR(Y. Kimura et al., “Directed evolution of Vibrio fischeri LuxR signal sensitivity”, Journal of Bioscience and Bioengineering, Vol.122. 533-538 (2016))を鋳型に、配列番号3及び4で表される塩基配列からなるオリゴヌクレオチドをプライマーセットとしてPCRを行い、発現ベクター部分に当たるDNA断片を増幅した。上記で得られた二つのDNA断片を、In-Fusion Snap Assembly Master Mix(タカラバイオ社製)を用いて連結し、プラスミドpTrc-cysG(A)を取得した。
pTrc-cysG(A)を鋳型に、配列番号5及び6で表される塩基配列からなるオリゴヌクレオチドをプライマーセットとしてPCRを行い、lacIq遺伝子、trcプロモーター、及びcysG(A)をコードする遺伝子を含むDNA断片を増幅した。続いて、Plux-sfgfp-HSVtk-aph(Y. Kimura et al., “Directed Evolution of the Stringency of the LuxR Vibrio fischeri Quorum Sensor without OFF-State Selection”, ACS Synthetic Biology, Vol.9. 567-575 (2020))を鋳型に、配列番号7及び8で表される塩基配列からなるオリゴヌクレオチドをプライマーセットとしてPCRを行い、発現ベクター部分に当たるDNA断片を増幅した。上記で得られた二つのDNA断片を、In-Fusion Snap Assembly Master Mixを用いて連結し、プラスミドp15A-Ptrc-cysG(A)を取得した。図1はp15A-Ptrc-cysG(A)のプラスミドマップである。
【0052】
(プラスミドの大腸菌への導入等)
p15A-Ptrc-cysG(A)で、大腸菌MG1655株をエレクトロポレーション法により形質転換し、MG1655/p15A-Ptrc-cysG(A)を得た。得られたMG1655/p15A-Ptrc-cysG(A)を30mg/Lのクロラムフェニコール(Cm)を含んだLB液体培地にて37℃で6時間振とう培養した。得られた培養液を希釈し、30mg/LのCmを含んだLB固体培地、並びに30mg/LのCm及び0.1mMのIPTGを含んだLB固体培地へそれぞれ播種し、30℃で16時間培養した。
【0053】
(CysG(A)により生じる蛍光の検出)
培養終了後、生育したコロニーを365nmの紫外線ランプ下に置き、写真を撮影した(図2)。
【0054】
図2に示されるように、IPTGによりCysG(A)の発現を誘導した場合は、CysG(A)の発現を誘導してない場合と比べて、コロニーがより強い桃色の蛍光を呈した。よって、p15A-Ptrc-cysG(A)を大腸菌MG1655株に導入することにより、大腸菌MG1655株におけるCysG(A)のSUMT活性が強化され、トリメチルピロコルフィンの蛍光も増強されることが示された。
【0055】
(CysG(A)により生じる蛍光の測定)
また、LB固体培地からコロニーを生理食塩水へかきとり、Cytation5(BioTek社製)にてOD595及び359nmで励起した際の波長620nmの蛍光強度を測定した。その蛍光強度をOD595で割った値(蛍光強度/OD)を表1に示す(小数点以下四捨五入)。
【0056】
【表1】
【0057】
表1に示されるように、上記検出と同様に、IPTGによりCysG(A)の発現を誘導した場合は、CysG(A)の発現を誘導してない場合と比べて、(蛍光強度/OD)が高かった。よって、(蛍光強度/OD)によって、生成された蛍光を発する化合物を測定可能であることが示された。また、(蛍光強度/OD)によって、生成された蛍光を発する化合物の定量解析が可能であることが示唆された。
【0058】
<実施例2.カフェインシンターゼの活性の評価>
(プラスミドの作成)
アラビカコーヒーノキ(Coffee arabica)由来カフェインシンターゼ(CCS1)をコードする人工合成された配列(配列番号24)を含むプラスミドを鋳型に、配列番号9及び10で表される塩基配列からなるオリゴヌクレオチドをプライマーセットとしてPCRを行い、CCS1をコードする遺伝子を含むDNA断片を増幅した。続いて、pQE80L(Qiagen社製)を鋳型に、配列番号11及び12で表される塩基配列からなるオリゴヌクレオチドをプライマーセットとしてPCRを行い、発現ベクター配列を増幅し線状化したDNA断片を取得した。上記で得られた二つのDNA断片を、In-Fusion Snap Assembly Master Mixを用いて連結し、プラスミドpQE80L(pre)-CCS1を取得した。
pQE80L(pre)-CCS1を鋳型に、配列番号13及び14で表される塩基配列からなるオリゴヌクレオチド、及び配列番号15及び16で表される塩基配列からなるオリゴヌクレオチドをプライマーセットとしてPCRを行い、それぞれに対応した2つのDNA断片を増幅した。上記で得られた二つのDNA断片を、In-Fusion Snap Assembly Master Mixを用いて連結し、プラスミドpQE80L-CCS1を取得した。図3はpQE80L-CCS1のプラスミドマップである。
また、対照実験用(Void)に、CCS1をコードする遺伝子を含まないpTrc99aを準備した。pTrc99aは、pQE80Lと同じ複製起点、及び抗生物質耐性遺伝子を有し、pQE80Lと同様にlacIq遺伝子を有する。
【0059】
(プラスミドの大腸菌への導入等)
pTrc99a、及びp15A-Ptrc-cysG(A)、並びにpQE80L-CCS1、及びp15A-Ptrc-cysG(A)で、大腸菌MG1655株をエレクトロポレーション法によりそれぞれ形質転換し、MG1655/pTrc99a+p15A-Ptrc-cysG(A)及びMG1655/pQE80L-CCS1+p15A-Ptrc-cysG(A)を得た。得られたMG1655/pTrc99a+p15A-Ptrc-cysG(A)及びMG1655/pQE80L-CCS1+p15A-Ptrc-cysG(A)をそれぞれ100mg/Lのアンピシリンナトリウム(Amp)及び30mg/LのCmを含んだLB液体培地にて37℃で6時間振とう培養した。得られた培養液を希釈し、CCS1の基質であるテオブロミンを0.25mM、0.5mM又は不含有のLB固体培地であって、100mg/LのAmp、30mg/LのCm、及び0.1mMのIPTGを含んだLB固体培地へそれぞれ播種し、30℃で21時間培養した。
【0060】
(CysG(A)により生じる蛍光の検出)
培養終了後、生育したコロニーを365nmの紫外線ランプ下に置き、写真を撮影した(図4)。
【0061】
図4に示されるように、IPTGによりCysG(A)及びCCS1の発現を誘導したMG1655/pQE80L-CCS1+p15A-Ptrc-cysG(A)においては、テオブロミン濃度依存的にコロニーの蛍光が減弱した。コロニーの蛍光が減弱したのは、CCS1の触媒するメチル化反応によるS-アデノシルメチオニンの消費、及びCysG(A)のSUMT活性によるS-アデノシルメチオニンの消費が競合したことにより、SUMT活性による蛍光産物であるトリメチルピロコルフィンの生成量が減少したためであると考えられる。よって、CCS1の活性が可視化されており、CCS1の活性の検出が可能であるといえる。
【0062】
(CysG(A)により生じる蛍光の測定)
またLB固体培地からコロニーを生理食塩水へかきとり、Cytation5(BioTek社製)にてOD595及び359nmで励起した際の波長620nmの蛍光強度を測定した。その蛍光強度をOD595で割った値(蛍光強度/OD)を表2に示す(小数点以下四捨五入)。
【0063】
【表2】
【0064】
表2に示されるように、上記検出と同様に、IPTGによりCysG(A)及びCCS1の発現を誘導したMG1655/pQE80L-CCS1+p15A-Ptrc-cysG(A)においては、テオブロミン濃度依存的にコロニーの(蛍光強度/OD)が小さくなった。よって、(蛍光強度/OD)によって、CCS1の活性を測定可能であると示された。また、(蛍光強度/OD)によって、CCS1の活性の定量解析が可能であることが示唆された。
【0065】
<実施例3.L-ヒスチジンN-α-メチルトランスフェラーゼの活性の評価>
(プラスミドの作成)
マイコバクテリウム・スメグマティス(Mycobacterium smegmatis)由来L-ヒスチジンN-α-メチルトランスフェラーゼ(EgtD)をコードする配列(配列番号25)を含むプラスミドを鋳型に、配列番号17及び18で表される塩基配列からなるオリゴヌクレオチドをプライマーセットとしてPCRを行い、EgtDをコードする遺伝子を含むDNA断片を増幅した。続いて、pQE80L(Qiagen社製)を鋳型に、配列番号11及び12で表される塩基配列からなるオリゴヌクレオチドをプライマーセットとしてPCRを行い、発現ベクター配列を増幅し線状化したDNA断片を取得した。上記で得られた二つのDNA断片を、In-Fusion Snap Assembly Master Mixを用いて連結し、プラスミドpQE80L(pre)-EgtDを取得した。
pQE80L(pre)-EgtDを鋳型に、配列番号13及び14で表される塩基配列からなるオリゴヌクレオチド、及び配列番号15及び16で表される塩基配列からなるオリゴヌクレオチドをプライマーセットとしてPCRを行い、それぞれに対応した2つのDNA断片を増幅した。上記で得られた二つのDNA断片を、In-Fusion Snap Assembly Master Mixを用いて連結し、プラスミドpQE80L-EgtDを取得した。図5はpQE80L-EgtDのプラスミドマップである。
また、対照実験用(Void)に、EgtDをコードする遺伝子を含まないpTrc99aを準備した。
【0066】
(プラスミドの大腸菌への導入等)
pTrc99a、及びp15A-Ptrc-cysG(A)、並びにpQE80L-EgtD、及びp15A-Ptrc-cysG(A)で、大腸菌MG1655株をエレクトロポレーション法によりそれぞれ形質転換し、MG1655/pTrc99a+p15A-Ptrc-cysG(A)及びMG1655/pQE80L-EgtD+p15A-Ptrc-cysG(A)を得た。得られたMG1655/pTrc99a+p15A-Ptrc-cysG(A)及びMG1655/pQE80L-EgtD+p15A-Ptrc-cysG(A)をそれぞれ100mg/LのAmp及び30mg/LのCmを含んだLB液体培地にて37℃で6時間振とう培養した。得られた培養液を希釈し、EgtDの基質であるL-ヒスチジンを2g/L、4g/L、又は不含有のLB固体培地であって、100mg/LのAmp、30mg/LのCm、及び0.1mMのIPTGを含んだLB固体培地へそれぞれ播種し、30℃で21時間培養した。
【0067】
(CysG(A)により生じる蛍光の検出)
培養終了後、生育したコロニーを365nmの紫外線ランプ下に置き、写真を撮影した(図6)。
【0068】
図6に示されるように、IPTGによりCysG(A)及びEgtDの発現を誘導したMG1655/pQE80L-EgtD+p15A-Ptrc-cysG(A)においては、L-ヒスチジン濃度依存的にコロニーの蛍光が減弱した。コロニーの蛍光が減弱したのは、EgtDの触媒するメチル化反応によるS-アデノシルメチオニンの消費、及びCysG(A)のSUMT活性によるS-アデノシルメチオニンの消費が競合したために、CysG(A)のSUMT活性による蛍光産物であるトリメチルピロコルフィンの生成量が減少したためであると考えられる。よって、EgtDの活性が可視化されており、EgtDの活性の検出が可能であるといえる。
【0069】
(CysG(A)により生じる蛍光の測定)
またLB固体培地からコロニーを生理食塩水へかきとり、Cytation5(BioTek社製)にてOD595及び359nmで励起した際の波長620nmの蛍光強度を測定した。その蛍光強度をOD595で割った値(蛍光強度/OD)を表3に示す(小数点以下四捨五入)。
【0070】
【表3】
【0071】
表3に示されるように、上記検出と同様に、IPTGによりCysG(A)及びEgtDの発現を誘導したMG1655/pQE80L-EgtD+p15A-Ptrc-cysG(A)においては、L-ヒスチジン濃度依存的にコロニーの(蛍光強度/OD)が小さくなった。よって、(蛍光強度/OD)によって、EgtDの活性を測定可能であると示された。また、(蛍光強度/OD)によって、EgtDの活性の定量解析が可能であることが示唆された。
【0072】
<実施例4.L-ヒスチジンN-α-メチルトランスフェラーゼの変異体の活性の評価>
(プラスミドの作成)
実施例3で作成したpQE80L-EgtDを鋳型に、配列番号19及び20で表される塩基配列からなるオリゴヌクレオチド、及び配列番号21及び22で表される塩基配列からなるオリゴヌクレオチドをプライマーセットとしてPCRを行い、それぞれに対応した2つのDNA断片を増幅した。上記で得られた二つのDNA断片を、Golden Gate Assembly法(C. Engler et al., “A one pot, one step, precision cloning method with high throughput capability”, PLoS ONE, Vol.3 e3647 (2008))により連結し、EgtDのアミノ酸配列(配列番号29)における252番目のメチオニン及び282番目のグルタミン酸がアラニンへ置換されたEgtD(AA)(即ち、配列番号30で表されるアミノ酸配列からなるタンパク質)をコードする配列(配列番号26)を含むプラスミドpQE80L-EgtD(AA)を取得した。この変異を持つEgtD(AA)は本来の基質であるL-ヒスチジンに対する親和性が低下し、一方でL-トリプトファン及びL-フェニルアラニンを基質として好むことが知られている(A. Vit et al., “Ergothioneine biosynthetic methyltransferase EgtD reveals the structural basis of aromatic amino acid betaine biosynthesis”, ChemBioChem Vol.16 119-125 (2015))。図7はpQE80L-EgtD(AA)のプラスミドマップである。
【0073】
(プラスミドの大腸菌への導入等)
pQE80L-EgtD、及びp15A-Ptrc-cysG(A)、並びにpQE80L-EgtD(AA)、及びp15A-Ptrc-cysG(A)で、大腸菌MG1655株をエレクトロポレーション法によりそれぞれ形質転換し、MG1655/pQE80L-EgtD+p15A-Ptrc-cysG(A)及びMG1655/pQE80L-EgtD(AA)+p15A-Ptrc-cysG(A)を得た。得られたMG1655/pQE80L-EgtD+p15A-Ptrc-cysG(A)及びMG1655/pQE80L-EgtD(AA)+p15A-Ptrc-cysG(A)をそれぞれ100mg/LのAmp及び30mg/LのCmを含んだLB液体培地にて37℃で3時間振とう培養した。得られた培養液を希釈し、EgtDの基質であるL-ヒスチジンを4g/L、EgtD(AA)の基質であるL-トリプトファン5g/L、又はいずれも不含有のLB固体培地であって、100mg/LのAmp、30mg/LのCm、及び0.1mMのIPTGを含んだLB固体培地へそれぞれ播種し、30℃で21時間培養した。
【0074】
(CysG(A)により生じる蛍光の検出)
培養終了後、生育したコロニーを365nmの紫外線ランプ下に置き、写真を撮影した(図8)。
【0075】
図8に示されるように、MG1655/pQE80L-EgtD+p15A-Ptrc-cysG(A)においてはL-ヒスチジン存在下においてコロニーの蛍光が顕著に減弱し、MG1655/pQE80L-EgtD(AA)+p15A-Ptrc-cysG(A)においてはL-トリプトファン存在下において顕著にコロニーの蛍光が減弱した。いずれの場合においても、コロニーの蛍光が減弱したのは、EgtD(AA)の触媒するメチル化反応によるS-アデノシルメチオニンの消費、及びCysG(A)のSUMT活性によるS-アデノシルメチオニンの消費が競合したために、CysG(A)のSUMT活性による蛍光産物であるトリメチルピロコルフィンの生成量が減少したためであると考えられる。よって、EgtD及びEgtD(AA)の基質特異性の差異がトリメチルピロコルフィンの蛍光により可視化されており、EgtD及びEgtD(AA)の基質特異性の差異が検出可能であるといえる。
【0076】
(CysG(A)により生じる蛍光の測定)
またLB固体培地からコロニーを生理食塩水へかきとり、Cytation5(BioTek社製)にてOD595及び359nmで励起した際の波長620nmの蛍光強度を測定した。その蛍光強度をOD595で割った値(蛍光強度/OD)を表4に示す(小数点以下四捨五入)。
【0077】
【表4】
【0078】
表4に示されるように、上記検出と同様に、MG1655/pQE80L-EgtD+p15A-Ptrc-cysG(A)においてはL-ヒスチジン存在下においてコロニーの(蛍光強度/OD)が小さくなり、MG1655/pQE80L-EgtD(AA)+p15A-Ptrc-cysG(A)においてはL-トリプトファン存在下においてコロニーの(蛍光強度/OD)が小さくなった。よって、(蛍光強度/OD)によって、EgtD及びEgtD(AA)の基質特異性の差異を測定可能であると示された。また、(蛍光強度/OD)によって、EgtD及びEgtD(AA)の基質特異性の差異の定量解析が可能であることが示唆された。
【0079】
<実施例5.カフェインシンターゼの活性の評価2>
(プラスミドの作成)
superfolder GFPをコードする配列(配列番号35)を含むプラスミドを鋳型に、配列番号31及び32で表される塩基配列からなるオリゴヌクレオチドをプライマーセットとしてPCRを行い、superfolder GFPをコードする遺伝子を含むDNA断片を増幅した。続いて、p15A-Ptrc-cysG(A)を鋳型に、配列番号33及び34で表される塩基配列からなるオリゴヌクレオチドをプライマーセットとしてPCRを行い、発現ベクター配列を増幅し線状化したDNA断片を取得した。上記で得られた二つのDNA断片を、In-Fusion Snap Assembly Master Mixを用いて連結し、プラスミドp15A-Ptrc-sfGFP-cysG(A)を取得した。本プラスミドにおいてsuperfolder GFP(配列番号36)及びCysG(A)は融合タンパク質sfGFP-CysG(A)として発現される。図9はp15A-Ptrc-sfGFP-cysG(A)のプラスミドマップである。
【0080】
(プラスミドの大腸菌への導入等)
pTrc99a、及びp15A-Ptrc-sfGFP-cysG(A)、並びにpQE80L-CCS1、及びp15A-Ptrc-sfGFP-cysG(A)で、大腸菌MG1655株をエレクトロポレーション法によりそれぞれ形質転換し、MG1655/pTrc99a+p15A-Ptrc-sfGFP-cysG(A)及びMG1655/pQE80L-CCS1+p15A-Ptrc-sfGFP-cysG(A)を得た。なおCCS1をコードする遺伝子を含まないpTrc99aは対照実験用(Void)として準備された。得られたMG1655/pTrc99a+p15A-Ptrc-sfGFP-cysG(A)及びMG1655/pQE80L-CCS1+p15A-Ptrc-sfGFP-cysG(A)をそれぞれ100mg/LのAmp及び30mg/LのCmを含んだLB液体培地にて37℃で6時間振とう培養した。得られた培養液を希釈し、CCS1の基質であるテオブロミンを0.25mM、0.5mM又は不含有のLB固体培地であって、100mg/LのAmp、30mg/LのCm、及び0.1mMのIPTGを含んだLB固体培地へそれぞれ播種し、30℃で21時間培養した。
【0081】
(superfolder GFP及びCysG(A)により生じる蛍光の検出)
培養終了後、生育したコロニーを365nmの紫外線ランプ下に置き、写真を撮影した(図10)。
【0082】
図10に示されるように、IPTGによりsfGFP-CysG(A)のみの発現を誘導したMG1655/pTrc99a+p15A-Ptrc-sfGFP-cysG(A)においてコロニーは黄色の蛍光を示したが、sfGFP-CysG(A)及びCCS1の発現を誘導したMG1655/pQE80L-CCS1+p15A-Ptrc-sfGFP-cysG(A)においては、テオブロミンの濃度依存的に蛍光の色相が黄色から緑色へと変化し、0.5mMのテオブロミン存在下においてコロニーは緑色の蛍光を示した。CCS1の触媒するメチル化反応によるS-アデノシルメチオニンの消費、及びCysG(A)のSUMT活性によるS-アデノシルメチオニンの消費が競合したために、CysG(A)のSUMT活性による蛍光産物であるトリメチルピロコルフィンの生成量が減少し、superfolder GFPとCysG(A)のSUMT活性による蛍光産物であるトリメチルピロコルフィンが示す蛍光が重なった黄色から、superfolder GFPの示す蛍光色が主となった緑色へと蛍光の色相が変化したと考えられる。よって、CCS1の活性が蛍光の色相の変化として可視化されており、CCS1の活性の検出が可能であるといえる。
【0083】
(superfolder GFP及びCysG(A)により生じる蛍光の測定)
またLB固体培地からコロニーを生理食塩水へかきとり、Cytation5(BioTek社製)にて485nmで励起した際の波長535nmの蛍光強度(superfolder GFP由来の蛍光)及び359nmで励起した際の波長620nmの蛍光強度(CysG(A)由来の蛍光)を測定した。359nmで励起した際の波長620nmの蛍光強度を485nmで励起した際の波長535nmの蛍光強度で割った値(CysG(A)蛍光強度/GFP蛍光強度)を表5に示す(小数点第5位を四捨五入)。
【0084】
【表5】
【0085】
表5に示されるように、IPTGによりsfGFP-CysG(A)及びCCS1の発現を誘導したMG1655/pQE80L-CCS1+p15A-Ptrc-sfGFP-cysG(A)においては、テオブロミン濃度依存的にコロニーの(CysG(A)蛍光強度/GFP蛍光強度)が小さくなった。よって、(CysG(A)蛍光強度/GFP蛍光強度)によって、CCS1の活性を測定可能であると示された。また、(CysG(A)蛍光強度/GFP蛍光強度)によって、CCS1の活性の定量解析が可能であることが示唆された。
【0086】
<実施例6.L-ヒスチジンN-α-メチルトランスフェラーゼの活性の評価2>
(プラスミドの大腸菌への導入等)
pTrc99a、及びp15A-Ptrc-sfGFP-cysG(A)、並びにpQE80L-EgtD、及びp15A-Ptrc-sfGFP-cysG(A)で、大腸菌MG1655株をエレクトロポレーション法によりそれぞれ形質転換し、MG1655/pTrc99a+p15A-Ptrc-sfGFP-cysG(A)及びMG1655/pQE80L-EgtD+p15A-Ptrc-sfGFP-cysG(A)を得た。なおEgtDをコードする遺伝子を含まないpTrc99aは対照実験用(Void)として準備された。得られたMG1655/pTrc99a+p15A-Ptrc-sfGFP-cysG(A)及びMG1655/pQE80L-EgtD+p15A-Ptrc-sfGFP-cysG(A)をそれぞれ100mg/LのAmp及び30mg/LのCmを含んだLB液体培地にて37℃で6時間振とう培養した。得られた培養液を希釈し、EgtDの基質であるL-ヒスチジンを2g/L、4g/L、又は不含有のLB固体培地であって、100mg/LのAmp、30mg/LのCm、及び0.1mMのIPTGを含んだLB固体培地へそれぞれ播種し、30℃で21時間培養した。
【0087】
(superfolder GFP及びCysG(A)により生じる蛍光の検出)
培養終了後、生育したコロニーを365nmの紫外線ランプ下に置き、写真を撮影した(図11)。
【0088】
図11に示されるように、IPTGによりsfGFP-CysG(A)のみの発現を誘導したMG1655/pTrc99a+p15A-Ptrc-sfGFP-cysG(A)においてコロニーは黄色の蛍光を示したが、sfGFP-CysG(A)及びEgtDの発現を誘導したMG1655/pQE80L-EgtD+p15A-Ptrc-sfGFP-cysG(A)においては、L-ヒスチジン濃度依存的に蛍光の色相が黄色から緑色へと変化し、4g/LのL-ヒスチジン存在下においてコロニーは緑色の蛍光を示した。EgtDの触媒するメチル化反応によるS-アデノシルメチオニンの消費、及びCysG(A)のSUMT活性によるS-アデノシルメチオニンの消費が競合したために、CysG(A)のSUMT活性による蛍光産物であるトリメチルピロコルフィンの生成量が減少し、superfolder GFPとCysG(A)のSUMT活性による蛍光産物であるトリメチルピロコルフィンが示す蛍光が重なった黄色から、superfolder GFPの示す蛍光色が主となった緑色へと蛍光の色相が変化したと考えられる。よって、EgtDの活性が蛍光の色相の変化として可視化されており、EgtDの活性の検出が可能であるといえる。
【0089】
(superfolder GFP及びCysG(A)により生じる蛍光の測定)
またLB固体培地からコロニーを生理食塩水へかきとり、Cytation5(BioTek社製)にて485nmで励起した際の波長535nmの蛍光強度(superfolder GFP由来の蛍光)及び359nmで励起した際の波長620nmの蛍光強度(CysG(A)由来の蛍光)を測定した。359nmで励起した際の波長620nmの蛍光強度を485nmで励起した際の波長535nmの蛍光強度で割った値(CysG(A)蛍光強度/GFP蛍光強度)を表6に示す(小数点第5位を四捨五入)。
【0090】
【表6】
【0091】
表6に示されるように、IPTGによりsfGFP-CysG(A)及びEgtDの発現を誘導したMG1655/pQE80L-EgtD+p15A-Ptrc-sfGFP-cysG(A)においては、L-ヒスチジン濃度依存的にコロニーの(CysG(A)蛍光強度/GFP蛍光強度)が小さくなった。よって、(CysG(A)蛍光強度/GFP蛍光強度)によって、EgtDの活性を測定可能であると示された。また、(CysG(A)蛍光強度/GFP蛍光強度)によって、EgtDの活性の定量解析が可能であることが示唆された。
【0092】
<実施例7.L-ヒスチジンN-α-メチルトランスフェラーゼの変異体の活性の評価2>
(プラスミドの大腸菌への導入等)
pQE80L-EgtD、及びp15A-Ptrc-sfGFP-cysG(A)、並びにpQE80L-EgtD(AA)、及びp15A-Ptrc-sfGFP-cysG(A)で、大腸菌MG1655株をエレクトロポレーション法によりそれぞれ形質転換し、MG1655/pQE80L-EgtD+p15A-Ptrc-sfGFP-cysG(A)及びMG1655/pQE80L-EgtD(AA)+p15A-Ptrc-sfGFP-cysG(A)を得た。得られたMG1655/pQE80L-EgtD+p15A-Ptrc-sfGFP-cysG(A)及びMG1655/pQE80L-EgtD(AA)+p15A-Ptrc-sfGFP-cysG(A)をそれぞれ100mg/LのAmp及び30mg/LのCmを含んだLB液体培地にて37℃で3時間振とう培養した。得られた培養液を希釈し、EgtDの基質であるL-ヒスチジンを4g/L、EgtD(AA)の基質であるL-トリプトファン5g/L、又はいずれも不含有のLB固体培地であって、100mg/LのAmp、30mg/LのCm、及び0.1mMのIPTGを含んだLB固体培地へそれぞれ播種し、30℃で21時間培養した。
【0093】
(superfolder GFP及びCysG(A)により生じる蛍光の検出)
培養終了後、生育したコロニーを365nmの紫外線ランプ下に置き、写真を撮影した(図12)。
【0094】
図12に示されるように、MG1655/pQE80L-EgtD+p15A-Ptrc-sfGFP-cysG(A)においてはL-ヒスチジン存在下においてコロニーの示す蛍光が非存在下の黄色から緑色へと変化し、MG1655/pQE80L-EgtD(AA)+p15A-Ptrc-sfGFP-cysG(A)においてはL-トリプトファン存在下においてコロニーの示す蛍光が非存在下の橙色から緑色へと変化した。よって、EgtD及びEgtD(AA)の基質特異性の差異が蛍光の色相の変化として可視化されており、EgtD及びEgtD(AA)の基質特異性の差異が検出可能であるといえる。
【0095】
(superfolder GFP及びCysG(A)により生じる蛍光の測定)
またLB固体培地からコロニーを生理食塩水へかきとり、Cytation5(BioTek社製)にて485nmで励起した際の波長535nmの蛍光強度(superfolder GFP由来の蛍光)及び359nmで励起した際の波長620nmの蛍光強度(CysG(A)由来の蛍光)を測定した。359nmで励起した際の波長620nmの蛍光強度を485nmで励起した際の波長535nmの蛍光強度で割った値(CysG(A)蛍光強度/GFP蛍光強度)を表7に示す(小数点第5位を四捨五入)。
【0096】
【表7】
【0097】
表7に示されるように、上記検出と同様に、MG1655/pQE80L-EgtD+p15A-Ptrc-sfGFP-cysG(A)においてはL-ヒスチジン存在下においてコロニーの(CysG(A)蛍光強度/GFP蛍光強度)が小さくなり、MG1655/pQE80L-EgtD(AA)+p15A-Ptrc-sfGFP-cysG(A)においてはL-トリプトファン存在下においてコロニーの(CysG(A)蛍光強度/GFP蛍光強度)が小さくなった。よって、(CysG(A)蛍光強度/GFP蛍光強度)によって、EgtD及びEgtD(AA)の基質特異性の差異を測定可能であると示された。また、(CysG(A)蛍光強度/GFP蛍光強度)によって、EgtD及びEgtD(AA)の基質特異性の差異の定量解析が可能であることが示唆された。
【0098】
<実施例8.ドパミン-O-メチルトランスフェラーゼの活性の評価>
(プラスミドの作成)
スイセン(Narcissus)属植物由来のドパミン-O-メチルトランスフェラーゼNpN4OMT1(アミノ酸配列番号37)をコードする人工合成された配列(配列番号38)を含むプラスミドを鋳型に、配列番号41及び42で表される塩基配列からなるオリゴヌクレオチドをプライマーセットとしてPCRを行い、NpN4OMT1をコードする遺伝子を含むDNA断片を増幅した。続いて、pQE80L-EgtDを鋳型に、配列番号11及び12で表される塩基配列からなるオリゴヌクレオチドをプライマーセットとしてPCRを行い、発現ベクター配列を増幅し線状化したDNA断片を取得した。上記で得られた二つのDNA断片を、In-Fusion Snap Assembly Master Mix(タカラバイオ社製)を用いて連結し、プラスミドpQE80L-NpN4OMT1を取得した。図13はpQE80L-NpN4OMT1のプラスミドマップである。
【0099】
(プラスミドの大腸菌への導入等)
pTrc99a、及びp15A-Ptrc-cysG(A)、並びにpQE80L-NpN4OMT1、及びp15A-Ptrc-cysG(A)で、大腸菌MG1655株をエレクトロポレーション法によりそれぞれ形質転換し、MG1655/pTrc99a+p15A-Ptrc-cysG(A)及びMG1655/pQE80L-NpN4OMT1+p15A-Ptrc-cysG(A)を得た。なおNpN4OMT1をコードする遺伝子を含まないpTrc99aは対照実験用(Void)として準備された。得られたMG1655/pTrc99a+p15A-Ptrc-cysG(A)及びMG1655/pQE80L-NpN4OMT1+p15A-Ptrc-cysG(A)をそれぞれ100mg/LのAmp及び30mg/LのCmを含んだLB液体培地にて37℃で3.5時間振とう培養した。得られた培養液を希釈し、NpN4OMT1の基質であるドパミンの塩酸塩を1mM又は不含有のLB固体培地であって、100mg/LのAmp、30mg/LのCm、及び0.1mMのIPTGを含んだLB固体培地へそれぞれ播種し、30℃で24時間培養した。
【0100】
(CysG(A)により生じる蛍光の検出)
培養終了後、生育したコロニーを365nmの紫外線ランプ下に置き、写真を撮影した(図14)。
【0101】
図14に示されるように、IPTGによりCysG(A)及びNpN4OMT1の発現を誘導したMG1655/pQE80L-NpN4OMT1+p15A-Ptrc-cysG(A)においては、ドパミン塩酸塩の添加依存的にコロニーの蛍光が減弱した。コロニーの蛍光が減弱したのは、NpN4OMT1の触媒するメチル化反応によるS-アデノシルメチオニンの消費、及びCysG(A)のSUMT活性によるS-アデノシルメチオニンの消費が競合したために、CysG(A)のSUMT活性による蛍光産物であるトリメチルピロコルフィンの生成量が減少したためであると考えられる。よって、NpN4OMT1の活性が可視化されており、NpN4OMT1の活性の検出が可能であるといえる。
【0102】
(CysG(A)により生じる蛍光の測定)
またLB固体培地からコロニーを生理食塩水へかきとり、SH-9000Lab(コロナ社製)にてOD595及び359nmで励起した際の波長620nmの蛍光強度(CysG(A)由来の蛍光)を測定した。その蛍光強度をOD595で割った値(蛍光強度/OD)を表8に示す(小数点以下四捨五入)。
【0103】
【表8】
【0104】
表8に示されるように、上記検出と同様に、IPTGによりCysG(A)及びNpN4OMT1の発現を誘導したMG1655/pQE80L-NpN4OMT1+p15A-Ptrc-cysG(A)においては、Voidと比較してドパミン塩酸塩の添加による顕著なコロニーの(蛍光強度/OD)の低下が確認された。よって、(蛍光強度/OD)によって、NpN4OMT1の活性を測定可能であると示された。また、(蛍光強度/OD)によって、NpN4OMT1の活性の定量解析が可能であることが示唆された。
【0105】
<実施例9.ドパミン-O-メチルトランスフェラーゼの活性の評価2>
(プラスミドの大腸菌への導入等)
pTrc99a、及びp15A-Ptrc-sfGFP-cysG(A)、並びにpQE80L-NpN4OMT1、及びp15A-Ptrc-sfGFP-cysG(A)で、大腸菌MG1655株をエレクトロポレーション法によりそれぞれ形質転換し、MG1655/pTrc99a+p15A-Ptrc-sfGFP-cysG(A)及びMG1655/pQE80L-NpN4OMT1+p15A-Ptrc-sfGFP-cysG(A)を得た。なおNpN4OMT1をコードする遺伝子を含まないpTrc99aは対照実験用(Void)として準備された。得られたMG1655/pTrc99a+p15A-Ptrc-sfGFP-cysG(A)及びMG1655/pQE80L-NpN4OMT1+p15A-Ptrc-sfGFP-cysG(A)をそれぞれ100mg/LのAmp及び30mg/LのCmを含んだLB液体培地にて37℃で3.5時間振とう培養した。得られた培養液を希釈し、NpN4OMT1の基質であるドパミンの塩酸塩を1mM、又は不含有のLB固体培地であって、100mg/LのAmp、30mg/LのCm、及び0.1mMのIPTGを含んだLB固体培地へそれぞれ播種し、30℃で24時間培養した。
【0106】
(superfolder GFP及びCysG(A)により生じる蛍光の検出)
培養終了後、生育したコロニーを365nmの紫外線ランプ下に置き、写真を撮影した(図15)。
【0107】
図15に示されるように、IPTGによりsfGFP-CysG(A)のみの発現を誘導したMG1655/pTrc99a+p15A-Ptrc-sfGFP-cysG(A)においてコロニーは橙色から桃色に近い蛍光色を示したが、sfGFP-CysG(A)及びNpN4OMT1の発現を誘導したMG1655/pQE80L-EgtD+p15A-Ptrc-sfGFP-cysG(A)においては、ドパミン塩酸塩の添加依存的に緑色側への蛍光の色相変化が観察された。NpN4OMT1の触媒するメチル化反応によるS-アデノシルメチオニンの消費、及びCysG(A)のSUMT活性によるS-アデノシルメチオニンの消費が競合したために、CysG(A)のSUMT活性による蛍光産物であるトリメチルピロコルフィンの生成量が減少し、superfolder GFPとCysG(A)のSUMT活性による蛍光産物であるトリメチルピロコルフィンが示す蛍光が重なった橙色から桃色に近い蛍光色から、superfolder GFPの示す蛍光色が主となった緑色側へと蛍光の色相が変化したと考えられる。よって、NpN4OMT1の活性が蛍光の色相の変化として可視化されており、NpN4OMT1の活性の検出が可能であるといえる。
【0108】
(superfolder GFP及びCysG(A)により生じる蛍光の測定)
またLB固体培地からコロニーを生理食塩水へかきとり、SH-9000Lab(コロナ社製)にて485nmで励起した際の波長535nmの蛍光強度(superfolder GFP由来の蛍光)及び359nmで励起した際の波長620nmの蛍光強度(CysG(A)由来の蛍光)を測定した。359nmで励起した際の波長620nmの蛍光強度を485nmで励起した際の波長535nmの蛍光強度で割った値(CysG(A)蛍光強度/GFP蛍光強度)を表9に示す(小数点第5位を四捨五入)。
【0109】
【表9】
【0110】
表9に示されるように、IPTGによりsfGFP-CysG(A)及びNpN4OMT1の発現を誘導したMG1655/pQE80L-NpN4OMT1+p15A-Ptrc-sfgfp-cysG(A)においては、ドパミン塩酸塩の添加依存的にコロニーの(CysG(A)蛍光強度/GFP蛍光強度)が小さくなった。よって、(CysG(A)蛍光強度/GFP蛍光強度)によって、NpN4OMT1の活性を測定可能であると示された。また、(CysG(A)蛍光強度/GFP蛍光強度)によって、NpN4OMT1の活性の定量解析が可能であることが示唆された。
【0111】
<実施例10.S-アデノシルメチオニンデカルボキシラーゼの活性の評価>
(プラスミドの作成)
Escherichia coli由来のS-アデノシルメチオニンデカルボキシラーゼSpeD(アミノ酸配列番号39。以下、単に「SpeD」ともいう。)をコードする配列(配列番号40)をEscherichia coli MG1655のゲノムDNAを鋳型に、配列番号43及び44で表される塩基配列からなるオリゴヌクレオチドをプライマーセットとしてPCRを行い、SpeDをコードする遺伝子を含むDNA断片を増幅した。続いて、pQE80L-EgtDを鋳型に、配列番号11及び12で表される塩基配列からなるオリゴヌクレオチドをプライマーセットとしてPCRを行い、発現ベクター配列を増幅し線状化したDNA断片を取得した。上記で得られた二つのDNA断片を、In-Fusion Snap Assembly Master Mix(タカラバイオ社製)を用いて連結し、プラスミドpQE80L-SpeDを取得した。図16はpQE80L-SpeDのプラスミドマップである。
【0112】
(プラスミドの大腸菌への導入等)
pTrc99a、及びp15A-Ptrc-cysG(A)、並びにpQE80L-speD、及びp15A-Ptrc-cysG(A)で、大腸菌MG1655株をエレクトロポレーション法によりそれぞれ形質転換し、MG1655/pTrc99a+p15A-Ptrc-cysG(A)及びMG1655/pQE80L-speD+p15A-Ptrc-cysG(A)を得た。なおspeDをコードする遺伝子を含まないpTrc99aは対照実験用(Void)として準備された。得られたMG1655/pTrc99a+p15A-Ptrc-cysG(A)及びMG1655/pQE80L-speD+p15A-Ptrc-cysG(A)をそれぞれ100mg/LのAmp及び30mg/LのCmを含んだLB液体培地にて37℃で3.5時間振とう培養した。得られた培養液を希釈し、100mg/LのAmp、30mg/LのCm、及び0.1mMのIPTGを含んだLB固体培地へそれぞれ播種し、30℃で24時間培養した。
【0113】
(CysG(A)により生じる蛍光の検出)
培養終了後、生育したコロニーを365nmの紫外線ランプ下に置き、写真を撮影した(図17)。
【0114】
図17に示されるように、IPTGによりCysG(A)及びSpeDの発現を誘導したMG1655/pQE80L-speD+p15A-Ptrc-cysG(A)においては、CysG(A)のみの発現を誘導したMG1655/pTrc99a+p15A-Ptrc-cysG(A)と比べてコロニーの蛍光が減弱した。コロニーの蛍光が減弱したのは、SpeDの触媒する細胞内在のS-アデノシルメチオニンのみを基質としたS-アデノシルメチオニン脱炭酸反応によるS-アデノシルメチオニンの消費、及びCysG(A)のSUMT活性によるS-アデノシルメチオニンの消費が競合したために、CysG(A)のSUMT活性による蛍光産物であるトリメチルピロコルフィンの生成量が減少したためであると考えられる。よって、SpeDの活性が可視化されており、SpeDの活性の検出が可能であるといえる。
【0115】
(CysG(A)により生じる蛍光の測定)
またLB固体培地からコロニーを生理食塩水へかきとり、SH-9000Lab(コロナ社製)にてOD595及び359nmで励起した際の波長620nmの蛍光強度(CysG(A)由来の蛍光)を測定した。その蛍光強度をOD595で割った値(蛍光強度/OD)を表10に示す(小数点以下四捨五入)。
【0116】
【表10】
【0117】
表10に示されるように、上記検出と同様に、IPTGによりCysG(A)及びSpeDの発現を誘導したMG1655/pQE80L-speD+p15A-Ptrc-cysG(A)においては、Voidと比較して顕著なコロニーの(蛍光強度/OD)の低下が確認された。よって、(蛍光強度/OD)によって、SpeDの活性を測定可能であると示された。また、(蛍光強度/OD)によって、SpeD活性の定量解析が可能であることが示唆された。
【0118】
<実施例11.S-アデノシルメチオニンデカルボキシラーゼの活性の評価2>
(プラスミドの大腸菌への導入等)
pTrc99a、及びp15A-Ptrc-sfGFP-cysG(A)、並びにpQE80L-speD、及びp15A-Ptrc-sfGFP-cysG(A)で、大腸菌MG1655株をエレクトロポレーション法によりそれぞれ形質転換し、MG1655/pTrc99a+p15A-Ptrc-sfGFP-cysG(A)及びMG1655/pQE80L-speD+p15A-Ptrc-sfGFP-cysG(A)を得た。なおSpeDをコードする遺伝子を含まないpTrc99aは対照実験用(Void)として準備された。得られたMG1655/pTrc99a+p15A-Ptrc-sfGFP-cysG(A)及びMG1655/pQE80L-speD+p15A-Ptrc-sfGFP-cysG(A)をそれぞれ100mg/LのAmp及び30mg/LのCmを含んだLB液体培地にて37℃で3.5時間振とう培養した。得られた培養液を希釈し、100mg/LのAmp、30mg/LのCm、及び0.1mMのIPTGを含んだLB固体培地へそれぞれ播種し、30℃で24時間培養した。
【0119】
(superfolder GFP及びCysG(A)により生じる蛍光の検出)
培養終了後、生育したコロニーを365nmの紫外線ランプ下に置き、写真を撮影した(図18)。
【0120】
図18に示されるように、IPTGによりsfGFP-CysG(A)のみの発現を誘導したMG1655/pTrc99a+p15A-Ptrc-sfGFP-cysG(A)においてコロニーは橙色から桃色に近い蛍光色を示したが、sfGFP-CysG(A)及びSpeDの発現を誘導したMG1655/pQE80L-speD+p15A-Ptrc-sfGFP-cysG(A)においては、緑色の蛍光への色相変化が観察された。SpeDの触媒する細胞内在のS-アデノシルメチオニンのみを基質としたS-アデノシルメチオニン脱炭酸反応によるS-アデノシルメチオニンの消費、及びCysG(A)のSUMT活性によるS-アデノシルメチオニンの消費が競合したために、CysG(A)のSUMT活性による蛍光産物であるトリメチルピロコルフィンの生成量が減少し、superfolder GFPとCysG(A)のSUMT活性による蛍光産物であるトリメチルピロコルフィンが示す蛍光が重なった橙色から桃色に近い蛍光色から、superfolder GFPの示す蛍光色が主となった緑色側への蛍光の色相が変化したと考えられる。よって、SpeDの活性が蛍光の色相の変化として可視化されており、SpeDの活性の検出が可能であるといえる。
【0121】
(superfolder GFP及びCysG(A)により生じる蛍光の測定)
またLB固体培地からコロニーを生理食塩水へかきとり、SH-9000Lab(コロナ社製)にて485nmで励起した際の波長535nmの蛍光強度(superfolder GFP由来の蛍光)及び359nmで励起した際の波長620nmの蛍光強度(CysG(A)由来の蛍光)を測定した。359nmで励起した際の波長620nmの蛍光強度を485nmで励起した際の波長535nmの蛍光強度で割った値(CysG(A)蛍光強度/GFP蛍光強度)を表11に示す(小数点第5位を四捨五入)。
【0122】
【表11】
【0123】
表11に示されるように、上記検出と同様に、IPTGによりsfGFP-CysG(A)及びSpeDの発現を誘導したMG1655/pQE80L-speD+p15A-Ptrc-cysG(A)においては、Voidと比較して顕著なコロニーの(CysG(A)蛍光強度/GFP蛍光強度)の低下が確認された。よって、(CysG(A)蛍光強度/GFP蛍光強度)によって、SpeDの活性を測定可能であると示された。また、(CysG(A)蛍光強度/GFP蛍光強度)によって、SpeDの活性の定量解析が可能であることが示唆された。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
【配列表】
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