(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025036528
(43)【公開日】2025-03-14
(54)【発明の名称】電気分解装置、電気分解方法
(51)【国際特許分類】
C25B 9/00 20210101AFI20250306BHJP
B01D 19/00 20060101ALI20250306BHJP
B01D 61/00 20060101ALI20250306BHJP
C25B 1/04 20210101ALI20250306BHJP
C25B 15/021 20210101ALI20250306BHJP
C25B 15/08 20060101ALI20250306BHJP
【FI】
C25B9/00 A
B01D19/00 H
B01D61/00
C25B1/04
C25B15/021
C25B15/08 302
【審査請求】有
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024228071
(22)【出願日】2024-12-24
(62)【分割の表示】P 2021033479の分割
【原出願日】2021-03-03
(71)【出願人】
【識別番号】503361400
【氏名又は名称】国立研究開発法人宇宙航空研究開発機構
(71)【出願人】
【識別番号】597103023
【氏名又は名称】株式会社 ケミックス
(74)【代理人】
【識別番号】100107928
【弁理士】
【氏名又は名称】井上 正則
(72)【発明者】
【氏名】桜井 誠人
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 元彦
(72)【発明者】
【氏名】清水 建博
(57)【要約】
【課題】装置の小型化を実現できる技術を提供する。
【解決手段】アノード側電極部とカソード側電極部との間の電解質膜に供給された液体を電気分解することにより気体を生成する水電解装置1Aであって、カソード側電極部が配置され、且つ液体が供給される液体供給室と、液体供給室の一部の隔壁を形成し、電気分解により電解質膜のカソード側に生じる気体のみを透過させる疎水性膜と、疎水性膜を透過した気体を外部に排出する排出路と備えた。
【選択図】
図6
【特許請求の範囲】
【請求項1】
アノード側電極部とカソード側電極部との間の電解質膜に供給された液体を電気分解することにより気体を生成する電気分解装置であって、
前記カソード側電極部が配置され、且つ前記液体が供給される液体供給室と、
前記液体供給室の一部の隔壁を形成し、前記電気分解により前記電解質膜のカソード側に生じる気体のみを透過させる疎水性膜と、
前記疎水性膜を透過した気体を外部に排出する排出路と
を備えることを特徴とする電気分解装置。
【請求項2】
前記疎水性膜と前記電解質膜とは互いに対向して離間するように設けられ、前記離間距離は前記気体の気泡サイズに基づく
ことを特徴とする請求項1記載の電気分解装置。
【請求項3】
前記疎水性膜と前記電解質膜とが前記離間距離を設けて近接することにより、前記気体の気泡が前記カソード側電極部上から離脱する前に前記疎水性膜と接触し、直ちに該疎水性膜を透過して前記排出路から外部に排出される
ことを特徴とする請求項2記載の電気分解装置。
【請求項4】
前記アノード側電極部が配置され、且つ前記液体が供給される第2液体供給室と、
前記第2液体供給室の一部の隔壁を形成し、前記電気分解により前記電解質膜のアノード側に生じる気体のみを透過させる疎水性膜と、
前記疎水性膜を透過した気体を外部に排出する第2排出路と
を備えることを特徴とする請求項1~請求項3のいずれか一項記載の電気分解装置。
【請求項5】
前記液体供給室に供給される液体は、全て前記電気分解により気体となる
ことを特徴とする請求項1~請求項4のいずれか一項記載の電気分解装置。
【請求項6】
前記電気分解により生じる熱を外部に放出する放熱部
を更に備えることを特徴とする請求項1~請求項5のいずれか一項記載の電気分解装置。
【請求項7】
アノード側電極部とカソード側電極部との間の電解質膜に供給された液体を電気分解することにより気体を生成する電気分解方法であって、
前記カソード側電極部から前記電解質膜に液体が供給され、前記電気分解により前記電解質膜のカソード側に気体を生成させて前記液体に混相させ、
前記液体に混相された前記気体を、気体のみが透過する疎水性膜により透過させて前記液体から分離して得る
ことを特徴とする電気分解方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、混相流体から液体と気体とを分離する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、気体と液体との混相流体から気体と液体とを分離する気液分離装置として、下記特許文献1に示される気液分離装置が知られている。これに示される気液分離装置は、本体と排気管とで形成する環状空間に旋回羽根が配置され、環状空間の上方が入口に連結され、排気管の内側の孔を通してその上方が出口に連結されている。また、環状空間の下方に旋回室、該旋回室の下方に液溜室が形成されており、隔壁部材の外周縁とケーシングの内周壁との間に液体通過用の隙間が形成されている。このような気液分離装置によれば、入口から入った混相流体は旋回羽根で旋回せしめられ、液体が遠心力の作用で外側に振り出されて分離されて本体の内周壁に沿って流下し、隙間を通って液溜室に流入する。一方、排気管の下端を通過した気体は出口から流出する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上述した気液分離装置は、旋回羽根が設けられた環状空間や旋回室、液溜室等が必要であるため、装置規模が大きいという問題があった。
【0005】
本発明が解決しようとする課題は、装置の小型化を実現できる技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上述した課題を解決するため、本発明の一態様は、アノード側電極部とカソード側電極部との間の電解質膜に供給された液体を電気分解することにより気体を生成する電気分解装置であって、前記カソード側電極部が配置され、且つ前記液体が供給される液体供給室と、前記液体供給室の一部の隔壁を形成し、前記電気分解により前記電解質膜のカソード側に生じる気体のみを透過させる疎水性膜と、前記疎水性膜を透過した気体を外部に排出する排出路とを備えることを特徴とする。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】第1の実施形態に係る気液分離装置を示す斜視図である。
【
図2】第1の実施形態に係る気液分離装置を示す正面図である。
【
図5】第1の実施形態に係る気液分離装置の内部構成と流体の流れとを説明するための模式図である。
【
図6】第2の実施形態に係る水電解装置を示す斜視図である。
【
図7】第2の実施形態に係る単位電解セルを示す斜視図である。
【
図8】第2の実施形態に係る単位電解セルを示す正面図である。
【
図9】第2の実施形態に係る単位電解セルを示す右側面図である。
【
図10】第2の実施形態に係る単位電解セルを示す左側面図である。
【
図11】第2の実施形態に係る単位電解セルの構成を示す分解側面図である。
【
図12】第2の実施形態に係る電解セルの内部構成と流体の流れとを説明するための模式図である。
【
図13】第1の変形例に係る水電解セルの内部構成と流体の流れとを説明するための模式図である。
【
図14】第2の変形例に係る水電解セルの内部構成と流体の流れとを説明するための模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本発明の実施形態について図面を参照しつつ説明する。なお、本明細書及び図面において、実質的に同一の機能を有する構成要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略する。
【0009】
(第1の実施形態)
本実施形態に係る気液分離装置の構成について説明する。本実施形態に係る気液分離器は、気液分離対象となる混相流体が、水等の液体と空気や水蒸気等の気体(気泡)が混相する気液二相流体であるものとして以後説明を行う。
図1及び
図2は、本実施形態に係る気液分離装置を示す斜視図及び正面図ある。
図3及び
図4は、
図2のA-A線断面図及びB-B線断面図である。
【0010】
図1に示されるように、本実施形態に係る気液分離装置1は、それぞれ略円盤状に形成された、装置正面側に位置する液体側プレート20と、背面側に位置する気体側プレート30と、これらプレートの間に位置して各プレートと連結された気液混合プレート40とを備える。各プレートは、互いに積層されてボルト及びナット等の締結具により締結されることにより一体的に連結される。これらの各プレートが一体に連結されることにより、プレート間に混相流体、混相流体から分離された液体、及び混相流体から分離された気体がそれぞれ個別に流入する流路が形成される。流路についての詳細は後述する。
【0011】
液体側プレート20は、
図1及び
図2に示されるように、その平坦状の表面縁部に2つの給排管41a,41b、1つの液体排出管21、及び1つの気体排出管31が設けられている。以後、これらを区別しない場合は管部と称して説明する。各管部は、それぞれ液体側プレート20の表面から面外方向に突出する略円筒状に形成されており、本実施形態においては正面視時計回りに給排管41a、気体排出管31、給排管41b、液体排出管21の順に且つ周方向に等間隔に離間して配設される。
【0012】
気体側プレート30は、
図3~
図4に示されるように、その平坦状の背面縁部に2つの給排管41a,41b、1つの液体排出管21、及び1つの気体排出管31がそれぞれ設けられている。これらの各管部は、液体側プレート20における各管部と同種のものであり、液体側プレート20における各管部の背面側に設けられている。気液分離装置1の正面側と背面側、即ち液体側プレート20と気体側プレート30とで対応する位置にある同種の管部は、対をなして用いてもよく、いずれか一方のみを用いてもよい。
【0013】
一対の給排管41aと一対の給排管41bは、後述する流体流路400(
図5参照)にそれぞれ連通して装置内部に混相流体を供給及び排出する。これらは、例えば混相流体を供給する不図示のポンプに接続される等して用いられる。本実施形態においては、給排管41a,41bの双方から混相流体を供給し、装置内部において気液分離を行う。なお、給排管41aのみから混相流体を装置内に供給する場合は、給排管41bから混相流体を排出させて循環供給するようにしてもよく、その逆としてもよい。また、給排管41a,41bの何れか一方から混相流体を供給し、他方を閉塞してもよい。
【0014】
一対の液体排出管21は、気液分離装置1内の後述する液体流路200(
図5参照)にそれぞれ連通し、混相流体から分離された液体を装置外部に排出する。一対の気体排出管31は、気液分離装置1内の後述する気体流路300(
図5参照)にそれぞれ連通し、混相流体から分離された気体を装置外部に排出する。なお、排出された液体や気体は、それぞれ気液分離装置1の外部に設けられた容器等に回収される。
【0015】
(気液分離装置1の内部構成)
以下、気液分離装置1内に形成される流路等の内部構成について、
図5を用いて詳細に説明する。
図5は、本実施形態に係る気液分離装置の内部構成と流体の流れとを説明するための模式図である。なお、気液分離装置1の正面側の方向を前方、背面側の方向を後方と称して以後説明を行う。
【0016】
図5に示されるように、気液混合プレート40内には、円盤状に形成された互いに平行に離間する一対の隔壁401a,401bが設けられている。この一対の隔壁401a,401bの間に流体流路400が画成される。一対の隔壁401a,401bには、混相流体が通過する不図示の貫通孔が複数設けられている。隔壁401aと液体側プレート20との間、及び隔壁401bと気体側プレート30との間には、それぞれ貫通孔から混相流体が流入可能な流入室402,403が画成される。
【0017】
流入室402は、その前方側において、液体側プレート20と気液混合プレート40との間に設けられた不図示のセパレータ等により固定された円盤状の親水性膜52の一方の面と接している。したがって、流入室402は、流体流路400と共に親水性膜52に混相流体を供給する供給路として機能する。
【0018】
親水性膜52は、流入室402の一壁面を形成することで、混相流体に対する親水性隔壁部を形成する、親水性の高い素材で製造された多孔質の薄膜である。このことから本実施形態において親水性膜52は、湿潤した状態で混相流体における液体のみを透過(浸透)する。このような液体のみを透過させる親水性膜52としては、公知のものを用いることができる。
【0019】
親水性膜52の前方側における液体側プレート20内には、親水性膜52を透過した液体、即ち混相流体から気体が分離された液体が流入し、該液体を外部に排出するための液体流路200が形成されている。したがって換言すれば、親水性膜52は液体流路200の一壁面を形成している。
【0020】
流入室403は、その後方側において、気体側プレート30と気液混合プレート40との間に設けられた不図示のセパレータ等により固定された円盤シート状の疎水性膜53の一方の面と接している。したがって、流入室403は、流体流路400と共に疎水性膜53に混相流体を供給する供給路として機能する。
【0021】
疎水性膜53は、流入室403の一壁面を形成することで、混相流体に対する疎水性隔壁部を形成する、気体透過性を有する多孔質の薄膜である。このことから本実施形態において疎水性膜53は、混相流体における液体を透過せずに気体のみを透過する。このような疎水性膜53としては、公知のものを用いることができる。例えばePTFE(延伸ポリテトラフルオロエチレン)からなるWLゴア&アソシエイツ社製のゴアテックス(登録商標)が挙げられる。なお、疎水性膜53は、使用環境に応じてその種類を適宜選択して用いることができ、有機系膜、無機系膜のいずれでもよい。無機系膜としては、例えばゼオライト膜、シリカ膜、アルミナ膜、ジルコニア膜、及びチタニア膜等のセラミックス膜や、炭素膜等が挙げられる。有機系膜としては、例えばPTFE(ポリテトラフルオロエチレン)膜やPVDF(ポリフッ化ビニリデン)膜等のフッ素樹脂膜、ポリアミド膜、酢酸セルロース膜、ポリイミド膜、及びポリエチレン膜等の高分子膜等が挙げられる。多孔質素材に撥水性を持たせて疎水性膜として用いてもよい。
【0022】
疎水性膜53の後方側における気体側プレート30内には、疎水性膜53を透過した気体、即ち混相流体から液体が分離された気体が流入し、該気体を外部に排出するための気体流路300が形成されている。
【0023】
親水性膜52と疎水性膜53とは、シート状に形成され、互いに面対向して離間するように設けられている。これらの距離は、所定の離間距離以下とすることが好ましい。離間距離は、混相流体に含まれる気泡のサイズに基づく距離である。離間距離を気泡のサイズ以下に設定することにより、混相流体に含まれる気体の気泡が親水性膜52及び疎水性膜53の両方に接することができ、速やかに気体を気体流路300へ透過させることができる。このような距離としては、混相流体と気泡とが疎水性膜53にそれぞれ接触可能な1mm程度であることが好ましい。そのため、上述した隔壁401a,401bを排して流体流路400が親水性膜52と疎水性膜53とにより形成されていてもよい。即ち、流体流路400を形成する前方側壁面が親水性膜52、後方側壁面が疎水性膜53となる。なお、混相流体が主として気体から構成され水滴等の液滴が混相する場合では、離間距離を、混相流体に含まれる液滴のサイズに基づく距離とすることが好ましい。離間距離を液滴サイズ以下に設定することにより、混相流体に含まれる液滴が親水性膜52及び疎水性膜53の両方に接することができ、速やかに液体を液体流路200へ透過させることができる。
【0024】
また、親水性膜52及び疎水性膜53は、分離対象となる気液の種類や混相流体の供給圧力等に応じてその孔径や単位面積当たりの孔数が適宜設定されることが好ましい。
【0025】
(装置動作)
以下、本実施形態に係る気液分離装置1の装置動作について説明する。ここでは一対の給排管41a,41bにそれぞれ混相流体が供給される場合を例示する。先ず一対の給排管41a,41bに混相流体が供給されると、給排管41aと連通する流体流路400内に混相流体が流入する。
図5における符号F1で示されるハッチングの矢印は混相流体の流動方向を示している。流体流路400に流入した混相流体は、隔壁401a,401bの貫通孔を通じて流入室402,403に流入する。流入室402,403に流入した混相流体は、親水性膜52と接触すると共に、疎水性膜53と接触する。この時、各膜面に、流体流路400から略面垂直に混相流体が流入し、一様に混相流体が接触することとなる。特に親水性膜52では乾燥状態の箇所と湿潤状態の箇所とが生じると乾燥状態の箇所において気体が抜ける可能性があるため、表面に一様に混相流体が接触することが好ましい。
【0026】
混相流体が親水性膜52に接することにより、混相流体中の液体が親水性膜52を透過して液体流路200に流入する。
図5における符号Lで示されるハッチングの矢印は親水性膜52を透過する液体の流動方向を示している。液体流路200に流入した液体は、液体流路200に連通する一対の液体排出管21から装置外部へ排出される。
【0027】
また、混相流体が疎水性膜53に接することにより、混相流体中の気体が疎水性膜53を透過して気体流路300に流入する。
図5における符号Gで示されるハッチングの矢印は疎水性膜53を透過する気体の流動方向を示している。気体流路300に流入した気体は、気体流路300に連通する一対の気体排出管31から装置外部へ排出される。
【0028】
以上に説明した本実施形態によれば、気液分離に親水性膜52及び疎水性膜53のみを用いて混相流体における液体と気体とを良好に分離する気液分離機能を奏することができる。そのため装置構成は極めてシンプルであり、従来と比較して装置サイズの小型化を実現できる。特に、流体流路400を挟むようにシート状の親水性膜52及び疎水性膜53が配設され親水性膜52に隣接して液体流路200が形成され、疎水性膜53に隣接して気体流路300が形成されている。よって、気液分離装置1は
図1に示されるように平板状に形成することができ、装置や構造物の隙間等の小さなスペースにも設置することができて、搬送も容易である。このような小型の気液分離装置1は、微小重力場においても機能するため、気液分離装置が必須であるが設置スペースが限られる宇宙ステーションのような環境化では極めて有用である。また、シンプルな構成であるため、メンテナンス性もよく、低コスト化をも実現できる。さらに使用する際には各管部にポンプ等を接続するのみでよいため、作業性も良い。
【0029】
なお、本実施形態においては気液分離の対象である混相流体を気液二相流体として説明したが、これに限定するものではない。液体中に気体が含まれるものであればより多相の混相流体であっても気液分離を行うことができる。
【0030】
(第2の実施形態)
第1の実施形態に係る気液分離装置を、水を電気分解することにより水素ガスと酸素ガスとを生成する水電解装置に組み込むようにしてもよい。本実施形態においては、気液分離装置一体型の水電解装置について説明する。
【0031】
本実施形態に係る水電解装置の構成について説明する。
図6は、本実施形態に係る水電解装置を示す斜視図である。
図6に示されるように、本実施形態に係る水電解装置1Aは、ボルト及びナットにより互いに締結された複数の電解セル10Aと、電解セル10A間にそれぞれ挿通された複数の放熱管(放熱部)12Aとを備えるセル積層型の装置である。放熱管12Aは、内部に熱交換媒体が流動して外部と熱交換を行う所謂ヒートパイプであり、電解セル10A間に挿通されることで、当接する電解セルの放熱を促進させることができる。放熱管12Aの挿通する本数は装置規模により適宜設定すればよい。なお、本実施形態においては3つの電解セル10Aが連結されているが、これに限定するものではなく2つまたは4つ以上連結するようにしてもよい。
【0032】
本実施形態に係る水電解装置1Aは、複数の電解セル10Aにより水を酸素ガスと水素ガスとに電気分解するものであり、各電解セル10Aの装置構成及び動作は同様である。そのため、以後1つの電解セル10Aにおける装置構成及び動作について説明する。
【0033】
先ず、以下、電解セル10Aの構成について詳細に説明する。なお、説明上、ここでは正面側及び背面側にエンドプレート60,70が設けられた単位電解セルを例示して説明する。
図7~
図10は、それぞれ本実施形態に係る電解セルを示す斜視図、正面図、右側面図、左側面図である。
図7に示されるように電解セル10Aは、エンドプレート60、中間プレート61、エンドプレート70、及び中間プレート71と、集電板81a,81bとを備える。
【0034】
エンドプレート60,70は、正方平板状に形成されており、電解セル10Aの正面壁部と背面壁部とを構成する。エンドプレート60,70間に中間プレート61、集電板81a,81b、及び中間プレート71を配し、エンドプレート60,70をボルト及びナットにより締結させることにより電解セル10Aが略直方体状一体的に形成される。なお、
図7に示されるように複数の電解セル10Aを積層する場合は、一対のエンドプレート60,70間に中間プレート61,71からなる電解セルを複数介在させればよい。
【0035】
中間プレート61,71は、エンドプレート60,70の同形状に且つ厚みを有して形成されている。中間プレート61側面には、給水管611、排水管612、及び2つの水素排出管613が設けられている。中間プレート61の内部には、詳細は後述する給水路614、排水路615、及び水素排出路616(共に
図12参照)が設けられている。給水管611は、
図8中左側面下方に位置して給水路614に連通しており、電解セル10A内部に水を供給する。排水管612は、
図8中右側面上方に位置して排水路615に連通しており、電解セル10A内の水を循環供給するために排出する。また、2つの水素排出管613は、それぞれ
図8中右側面下方と左側面上方とに位置し、水素排出路616に連通している。2つの水素排出管613は、電解セル10A内において電気分解により生成された水素ガスを電解セル10A外部に排出する。
【0036】
一方、中間プレート71には、
図9及び
図10に示されるように、右側面下方と左側面上方とに、酸素排出管711が設けられている。酸素排出管711は、詳細は後述する酸素排出路712(
図12参照)に連通しており、電解セル10A内において電気分解により生成された酸素ガスを電解セル10A外部に排出する。
【0037】
以下、
図11を用いて電解セル10Aの内部構成を詳細に説明する。
図11は、本実施形態に係る電解セルの構成を示す分解側面図である。
図11においては電解セル10Aを前後方向に分解して示しており、説明上Oリング62,72とガスケット65,82とが一部断面で示されている。
【0038】
図11に示されるように電解セル10Aは、
図11中左側、即ちセル正面側から順にエンドプレート60、中間プレート61、Oリング62、分離セパレータ63、カーボンペーパ64、ガスケット65、疎水性膜53、ガスケット65、カーボンペーパ64、集電板81a、ガスケット82、MEA(Membrane and Electrode Assembly)80、集電板81b、Oリング72、中間プレート71、及びエンドプレート70を備える。
図11中MEA80から左側が、水が供給されると共に水素ガスが生成される水素側、
図11中MEA80から右側が酸素ガスが生成される酸素側となっている。
【0039】
MEA80は固体高分子電解質膜(以後、電解質膜と称する)の一方を水素側、他方を酸素側として前後方向からガス拡散電極層で挟み、これらを接合することにより形成され略四角形の板状部材である。電解質膜としてはプロトン(H+)伝導性の多孔質電解膜を使用することが好ましく、例えば水酸化チタンナノ粒子を含む無機セラミックスや、プロトン伝導性のナフィオン(登録商標)等が挙げられる。
【0040】
ガス拡散電極層は、多孔性を有し、内部に水素ガス及び酸素ガスが透過可能となっている。このような拡散層の素材としては、例えばテフロン(登録商標)修飾多孔質カーボン等を用いることができる。ガス拡散電極層と電解質膜との間には白金や金等の触媒層が設けられている。本実施形態においては、触媒層は電解質膜に形成されているものとする。また、本実施形態に係る電解セル10Aは、カソード側のみに水を供給して電気分解を行うカソードフィード型であり、カソード側に供給された水が電解質膜を透過してアノード側にも浸透する。なお、カソード側のガス拡散電極層と集電板81aとがカソード側電極部を構成し、アノード側のガス拡散電極層と集電板81bとがアノード側電極部を構成する。
【0041】
MEA80は、その両面側に位置してその縁部と接続する枠状のガスケット82を介して集電板81a、81b間に挟持または固定される。集電板81a,81bは、外部電源と電気的に接続されることでMEA80に電圧を印加する板状部材であり、
図8においては上方に外部電源と接続するための接続片が突出している。本実施形態において集電板81a,81bは、セパレータと一体となって構成されている。集電板81aのセパレータには複数の溝が貫通するように形成されており、電解セル10Aが組み立てられた状態において、水が流入する水流路811(
図12参照)がこの複数の溝により形成される。水流路811は、カソード側電極部が位置して液体が供給される液体供給室として機能し、水はMEA80へ供給される。水流路811は、MEA80に供給される水が電解質膜の膜面全体に供給されるように形成されることが好ましい。水流路811は、中間プレート61に形成された給水路614を介して給水管611と連通し、排水路615を介して排水管612と連通する。
【0042】
一方、集電板81bのセパレータにも複数の溝が形成されており、電解セル10Aが組み立てられた状態において、電気分解により生じた酸素ガスが流入する酸素流路713(
図12参照)がこの複数の溝により形成され。酸素流路713は、隣接する中間プレート71に形成された酸素排出路712と接続し、これを介して酸素排出管711と連通する。なお、Oリング72は弾性部材であり、これを介して集電板81bのセパレータと中間プレート71とが気密に連結される。
【0043】
集電板81aの前方側には、四角形状の疎水性膜53が配設されている。疎水性膜53は、MEA80と互いに対向して離間するように配設され、水流路811により形成される液体供給室の一部の隔壁を形成する。この疎水性膜53は、第1の実施形態において説明したものと同等のものであるため、ここでの機能の説明は省略する。疎水性膜53は、その両面側に位置してその縁部と接続する枠状のガスケット65を介して集電板81a、分離セパレータに固定される。疎水性膜53と集電板81aとの間にはガス及び水の拡散のための気体透過性を有するカーボンペーパ64が配されており、カーボンペーパ64を介して疎水性膜53は水と水中で気泡状態となる水素ガスとに接触することができる。
【0044】
疎水性膜53とMEA80の電解質膜との距離、より具体的にはカソード側の触媒層との距離が第1の実施形態にて記載した離間距離となるようにすることが好ましい。これにより触媒層表面に生成付着された水素ガスの気泡が疎水性膜53に接触するため、直ちに疎水性膜53を透過することができる。このような離間距離は第1の実施形態と同様、生成されるガスの気泡サイズに基づくものであり、好ましくは触媒層から気泡が離脱する前に疎水性膜53に接触することが好ましい。これは例えば水と気泡とが疎水性膜53にそれぞれ接触可能な1mm程度であることが好ましい。
【0045】
疎水性膜53の前方側に位置する分離セパレータ63には、疎水性膜53を透過した水素ガスが流入する水素流路631(
図12参照)を形成する複数の溝が設けられている。分離セパレータ63の水素流路631は、Oリング62を介して隣接する中間プレート61に形成された水素排出路616と接続し、これを介して水素排出管613と連通する。また、分離セパレータ63には、水素流路631を形成する溝とは分離された溝が形成されており、当該溝が水流路となって集電板81aのセパレータにおける水流路811と中間プレート61に形成された給水路614とを連結している。なお、Oリング62は弾性部材であり、これを介して分離セパレータ63と中間プレート61とが気密に連結される。
【0046】
(装置動作)
以下、本実施形態に係る電解セル10Aの装置動作について説明する。
図12は、本実施形態に係る電解セルの内部構成と流体の流れとを説明するための模式図である。図に示される二点鎖線は各流路の継ぎ目を例示している。符号P1はポンプ、符号H1は水素ガスの流動方向、符号H2は水素ガスの気泡、符号O1は酸素ガスの流動方向をそれぞれ示している。ポンプP1は、給水管611と排水管612にと接続され、給水管611に水を供給すると共に排水管612から水を取得し、電解セル10Aに対して水の循環供給を行う。なお、電解セル10Aは電気分解に使用される分の水を外部の水供給装置から常時供給されるものとする。
【0047】
図12に示されるように、給水管611を介して供給された水は、給水路614を介して水流路811に流入し、水流路811に流入した水は、MEA80における電解質膜800の膜面全体に供給される。ここで外部電源に接続された集電板81a,81bに電圧を印加することにより水の電気分解がなされる。当該電気分解によりMEA80のカソード側ガス拡散電極層801と電解質膜800との界面、即ち触媒層で生成された水素ガスは、水流路811内において疎水性膜53に接触すると共に透過し、水素流路631に流入することとなる。具体的には、生成された水素ガスはガス拡散電極層の内部を拡散されながら透過し、集電板81aのセパレータ及びカーボンペーパ64を通過して疎水性膜53に接触することとなる。疎水性膜53を透過した水素流路631内の水素ガスは、水素排出路616を介して水素排出管613から電解セル10Aの外部へ排出され回収用容器等に回収される。
【0048】
一方、電気分解に使用されなかった水流路811内の水は、排水路615を介して排水管612からポンプP1に排出され、再度電解セル10A内に供給される。電気分解によりMEA80のアノード側ガス拡散電極層802と電解質膜800との界面で生成された水素ガスは、酸素流路713に流入し、酸素排出路712を介して酸素排出管711から電解セル10Aの外部へ排出され、回収用容器等に回収される。
【0049】
以上に説明した本実施形態に係る水電解装置1Aによれば、カソード側の陰極室となる水流路811内に疎水性膜53が配置されているため、水は疎水性膜53とMEA80との間の水流路811を循環し、電気分解と共に確実な気液分離も同時に行うことができる。特に水素ガスは乾燥された良好な状態のものを回収できる。したがって電解セルに気液分離装置の機能を持たせることができ、別途気液分離装置を用意する必要が無いため、個別に気液分離装置と連結された水電解装置と比較して装置を格段に小型化することができる。また、装置や構造物の隙間等、小さなスペースにも設置することができ、搬送も容易である。このような小型の水電解装置1Aは、微小重力場においても機能するため、水電解装置が必須であるが設置スペースが限られる宇宙ステーションのような環境下では極めて有用である。
【0050】
また、カソード側に水を供給する場合、地上では水タンクに気相部分が存在し圧力を吸収するが、微小重力場で水電解を行う場合、水のような非圧縮性流体を気相の無い密閉容器内で循環させる必要がある。水電解を密閉空間で行う場合、電解セルで発生したガスは電解セル内部の圧力を高めるため酸素側と水素側の圧力のバランスが崩れる。これを放置しておくと電解質膜に片圧がかかり、膜が損傷する可能性がある。したがって、従来ではアキュミュレーターのような体積緩衝装置が必要となる。しかしながら、本実施形態によれば、MEA80で生成された水素ガスは直ちに疎水性膜53を透過して排出されるため体積緩衝がなされており、ガスの発生に応じて片側のみが加圧されるという事態は起こり得ない。したがって、体積緩衝装置を用いる必要が無く、低コストおよび小型化を図れる。また、カソード側にのみ水を供給するため、ポンプP1を1台とする点からも低コスト化および小型化を図れている。
【0051】
また、従来はMEAの電解質膜の周辺部から中心部へと水を浸透させる方式があるが、このような方式では、水のパスと反応パスが独立するため、電極の有効膜面積が小さくなる。さらに、表面張力によって界面を保つため液体側の圧力と気体側の圧力のバランスが崩れると液体の気体側への漏出や、気体の液体への侵入が生じる可能性がある。しかしながら、本実施形態においては、MEA80に供給される水はその電解質膜800の膜面全体に供給されるため、水が浸透する距離は膜厚のみとすることができる。このことから、水の供給がスムーズで自由度の高い水の供給経路を確保することができるため、容易に水を循環させることができる。
【0052】
なお、電解セル10Aは、二酸化炭素(CO2)と酸素(O2)からメタン(CH4)と水(H2O)を生成するサバチエ反応装置と連結することで空気再生機能を有することができる。空気再生とは、宇宙飛行士が排出したCO2から再びO2を抽出するプロセスである。具体的には、生物により密閉空間に排出されたCO2が、分離濃縮されサバチエ反応装置へと導かれる。サバチエ反応装置ではサバチエ反応(CO2+4H2→CH4+2H2O)がなされ、CH4とH2Oとが生成される。
【0053】
電解セル10Aは、サバチエ反応装置からサバチエ反応により生成された水が供給されることにより、水素ガスと酸素ガスとを生成する。酸素ガスは生物が呼吸し、水素ガスはサバチエ反応装置に再び送られる。このサイクルを回すことにより、酸素を消費し生物が呼吸により排出した二酸化炭素から再び酸素を生成することができ、空気再生を実現できる。
【0054】
また、水電解装置1Aによれば、複数の電解セル10Aを積層させることにより、1つの電解セル10Aのみと比較して水素ガス及び酸素ガスの生成量を増加させることができる。この場合、例えば、ポンプP1との水の循環供給経路(給水管611や排水管612)を複数の電解セル10A間で共有するようにマニフォールドに連結することが好ましく、これは水素ガス、酸素ガスの排出経路(水素排出管613、酸素排出管711)においても同様である。
【0055】
(第1の変形例)
図13は、第1の変形例に係る電解セルの内部構成と流体の流れとを説明するための模式図である。
図13において符号P2はポンプを示し、ポンプP1と同様のものである。符号O2は酸素ガスの気泡を示す。
【0056】
図13に示される電解セル10Bは、第2の実施形態に係る電解セル10Aと比較すると、アノード側にも疎水性膜53’が配置され、疎水性膜53’とMEA80との間を、アノード側電極部が配置されて水が供給される第2液体供給室として水流路812が形成されており、ポンプP2により水流路812に対する水の循環供給を行うようにした点が異なる。疎水性膜53’は、疎水性膜53と同一のものであるが、水流路812の一部の隔壁を形成し、電気分解により電解質膜800のアノード側に生じる酸素ガスのみを透過させる点で異なる。
【0057】
電解セル10Bは、具体的には、
図11に示される集電板81b、Oリング72、及び中間プレート71に代わり、中間プレート61、Oリング62、分離セパレータ63、カーボンペーパ64、ガスケット65、疎水性膜53、ガスケット65、カーボンペーパ64、及び集電板81aをMEA80に対して鏡像配置することで構築することができる。これにより、鏡像配置された各構成要素の水素ガスに関する流路に、水素ガスではなく酸素ガスが流入することとなる。即ち、鏡像配置された各構成要素において、アノード側への水の循環供給と疎水性膜53を透過した酸素ガスの排出とがなされる。
【0058】
このようにアノード側において疎水性膜53’を設けることにより、アノード側においてもカソード側と同様の効果を奏することができ、乾燥された良好な酸素ガスを回収することができる。またMEA80の両面から水を供給させることができるため、電気分解により生じるセル内部の熱の放熱機能をより一層高めることができる。
【0059】
(第2の変形例)
図14は、第2の変形例に係る電解セルの内部構成と流体の流れとを説明するための模式図である。
図14に示される電解セル10Cは、第2の実施形態に係る電解セル1Aと比較すると、排水路615が設けられていない点で異なる。したがって電解セル10Cは、水の循環の機能が排されており、水流路811に流入する水が全て水電解に利用されるデットエンドタイプとなっている。
【0060】
水電解により得る人間一人分の酸素生成のために必要な水の量は、凡そ1分間に0.5g程度と少量である。一方、従来の水電解では電極上の気泡を除去するため、および発熱を除去するために数リットルの水を循環させ循環供給用のポンプ、気液分離装置、それらの電力等が必要である。しかしながら、本変形例に係る電解セル10Cによれば、水電解に必要な分だけの少量の水(例えば1分間に0.5g)を供給することにより、供給した水すべてを電気分解することができる。そのため、従来と比較して気液分離装置と共に水の循環供給のためのポンプP1をも削減することが可能であり、酸素ガス製造のシステムを格段にシンプルなものとすることができ、延いてはシステムの小型化、軽量化、省電力化、さらにはシステムの信頼性向上も実現できる。
【0061】
なお、電解セル10Cは、第1の実施形態において説明したサバチエ反応装置と一体型とすることができる。従来の電解セルは水を循環させることによりセル温度を下げてしまいサバチエ反応装置の温度も下がってしまう。一方、電解セル10Cは、水循環が不要なため、一体型となったサバチエ反応装置の温度を低下させることなく反応を継続させることができる。また、電解セル10Cとサバチエ反応装置とを積層することにより非常にコンパクトな装置とすることができる。また、サバチエ反応装置で発生した熱を水電解セルの加熱にも流用し、電解電圧を下げることも可能となる。
【0062】
また、本変形例のように水循環を行わない場合、セル内部に熱が貯まる可能性がある。その場合、
図7に示されるような放熱管12Aを電解セル10Cの中間プレート61,71の一方、または電解セル10Cが積層状態である場合は、そのセル間に設けるとよい。
【0063】
発明の実施形態を説明したが、この実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。この新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。この実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0064】
1 気液分離装置
1A 水電解装置
10A,10B,10C 電解セル
12A 放熱管(放熱部)
400 流体流路(供給路)
52 親水性膜(親水性隔壁部)
53,53’ 疎水性膜(疎水性隔壁部)
616 水素排出路(排出路)
712 酸素排出路(第2排出路)
81a,81b 集電板(カソード側電極部、アノード側電極部)
800 固体高分子電解質膜
801 カソード側ガス拡散電極層(カソード側電極部)
802 アノード側ガス拡散電極層(アノード側電極部)
811,812 水流路(液体供給室、第2液体供給室)