(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025036749
(43)【公開日】2025-03-14
(54)【発明の名称】塗工剤および積層体
(51)【国際特許分類】
C09D 123/00 20060101AFI20250306BHJP
C09D 175/04 20060101ALI20250306BHJP
C09D 133/00 20060101ALI20250306BHJP
C09D 101/00 20060101ALI20250306BHJP
C09D 105/00 20060101ALI20250306BHJP
C09D 129/04 20060101ALI20250306BHJP
B32B 27/10 20060101ALI20250306BHJP
B32B 27/30 20060101ALI20250306BHJP
B32B 27/40 20060101ALI20250306BHJP
B32B 27/32 20060101ALI20250306BHJP
【FI】
C09D123/00
C09D175/04
C09D133/00
C09D101/00
C09D105/00
C09D129/04
B32B27/10
B32B27/30 A
B32B27/40
B32B27/32 Z
【審査請求】有
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2025002579
(22)【出願日】2025-01-08
(62)【分割の表示】P 2020209760の分割
【原出願日】2020-12-18
(31)【優先権主張番号】P 2019230998
(32)【優先日】2019-12-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000004503
【氏名又は名称】ユニチカ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001298
【氏名又は名称】弁理士法人森本国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】大藤 晴樹
(72)【発明者】
【氏名】山本 和史
(72)【発明者】
【氏名】橋爪 大輔
(72)【発明者】
【氏名】杉原 崇嗣
(72)【発明者】
【氏名】山田 宗紀
(57)【要約】
【課題】紙または不織布のような塗工剤が浸み込み易い基材に対して、塗工性、造膜性に優れるとともに、形成された樹脂層が、ヒートシール性、防水性、耐油性に優れる塗工剤を提供する。
【解決手段】酸変性ポリオレフィン樹脂と、ウレタン樹脂、アクリル樹脂および水酸基含有化合物から選択される1種以上と、水性媒体と、を含有することを特徴とする塗工剤。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸変性ポリオレフィン樹脂と、
ウレタン樹脂、アクリル樹脂および水酸基含有化合物から選択される1種以上と、
水性媒体と、を含有することを特徴とする塗工剤。
【請求項2】
ウレタン樹脂および/またはアクリル樹脂の含有量が、酸変性ポリオレフィン樹脂100質量部に対して、10質量部を超え、100質量部以下であることを特徴とする請求項1に記載の塗工剤。
【請求項3】
紙基材と樹脂層とが積層されてなる積層体であって、
樹脂層が、酸変性ポリオレフィン樹脂と、
ウレタン樹脂、アクリル樹脂および水酸基含有化合物から選択される1種以上と、を含有することを特徴とする積層体。
【請求項4】
請求項3に記載の積層体を含むことを特徴とする包装材料。
【請求項5】
請求項3に記載の積層体を含むことを特徴とする紙容器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、塗工性、造膜性に優れる塗工剤であって、ヒートシール性、防水性、耐油性に優れる樹脂層を形成する塗工剤に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ポリオレフィン樹脂を含有する紙用水性接着剤が知られている。例えば、特許文献1に開示された紙用水性接着剤は、紙と様々な熱可塑性樹脂フィルムとの接着剤として好適である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
近年の海洋プラスチック問題に鑑みて、包装材料や使い捨て食品容器等を構成する材料として、熱可塑性樹脂フィルムに代えて、紙を使用することが進められている。紙をこのような材料として使用する際に、紙に塗工される水性塗工剤には、優れた塗工性、造膜性が要求される。
しかしながら、特許文献1に開示された紙用水性接着剤においては、塗工性、造膜性が十分でないことがあり、また、この接着剤から形成された樹脂層は、ヒートシール性、防水性、耐油性が十分でないことがあった。
本発明は、上記のような従来技術の問題に鑑みて、紙または不織布のような塗工剤が浸み込み易い基材に対して、塗工性、造膜性に優れるとともに、形成された樹脂層が、ヒートシール性、防水性、耐油性に優れる塗工剤を提供することを技術的課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者は、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、酸変性ポリオレフィン樹脂を含有する水性塗工剤に、ウレタン樹脂、アクリル樹脂および水酸基含有化合物から選択される1種以上を含有させた塗工剤が、上記課題を解決することを見出し、本発明に到達した。
すなわち、本発明の要旨は、下記の通りである。
【0006】
(1)酸変性ポリオレフィン樹脂と、ウレタン樹脂、アクリル樹脂および水酸基含有化合物から選択される1種以上と、水性媒体と、を含有することを特徴とする塗工剤。
(2)ウレタン樹脂および/またはアクリル樹脂の含有量が、酸変性ポリオレフィン樹脂100質量部に対して、10質量部を超え、100質量部以下であることを特徴とする(1)に記載の塗工剤。
(3)紙基材と樹脂層とが積層されてなる積層体であって、
樹脂層が、酸変性ポリオレフィン樹脂と、ウレタン樹脂、アクリル樹脂および水酸基含有化合物から選択された1種以上と、を含有することを特徴とする積層体。
(4)上記(3)に記載の積層体を含むことを特徴とする包装材料。
(5)上記(3)に記載の積層体を含むことを特徴とする紙容器。
【発明の効果】
【0007】
本発明の塗工剤は、酸変性ポリオレフィン樹脂に、ウレタン樹脂、アクリル樹脂および水酸基含有化合物から選択される1種以上を配合した構成であることにより、紙または不織布のような塗工剤が浸み込み易い基材に対して、塗工性、造膜性に優れ、また形成された樹脂層はヒートシール性、防水性、耐油性にも優れものとなる。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明の塗工剤は、酸変性ポリオレフィン樹脂と、ウレタン樹脂、アクリル樹脂および水酸基含有化合物から選択される1種以上と、水性媒体と、を含有する。
【0009】
<酸変性ポリオレフィン樹脂>
本発明の塗工剤を構成する酸変性ポリオレフィン樹脂は、酸変性成分とオレフィン成分とを共重合成分として含有する共重合体であることが好ましい。ポリオレフィン樹脂が酸変性されていることにより、本発明の塗工剤は、造膜性、基材への塗工性が向上する。
【0010】
酸変性成分は、不飽和カルボン酸成分であることが好ましく、不飽和カルボン酸や、その無水物により導入される。不飽和カルボン酸成分としては、具体的には、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、無水マレイン酸、イタコン酸、無水イタコン酸、フマル酸、クロトン酸等のほか、不飽和ジカルボン酸のハーフエステル、ハーフアミド等が挙げられる。中でもアクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、無水マレイン酸が好ましく、特にアクリル酸、無水マレイン酸が好ましい。
【0011】
酸変性ポリオレフィン樹脂における酸変性成分の含有量は、特に限定されるものではないが、1~40質量%であることが好ましく、1~30質量%であることがより好ましく、2~20質量%であることがさらに好ましい。酸変性成分の含有量が1質量%未満であると、酸変性ポリオレフィン樹脂は、水性媒体中に安定して分散できない場合があり、40質量%を超えると、形成される樹脂層は、防水性に劣る場合がある。
【0012】
酸変性ポリオレフィン樹脂を構成するオレフィン成分としては、例えば、エチレン、プロピレン、イソブチレン、1-ブテン、1-ペンテン、1-ヘキセン等の炭素数2~6のアルケンが挙げられ、これらの混合物を用いることもできる。中でも、エチレン、プロピレン、イソブチレン、1-ブテン等の炭素数2~4のアルケンが好ましく、エチレンがより好ましい。
【0013】
酸変性ポリオレフィン樹脂におけるオレフィン成分の含有量は、防水性、耐油性を向上させる観点から、50質量%以上であることが好ましく、70質量%以上であることがより好ましい。
【0014】
酸変性ポリオレフィン樹脂は、基材との密着性を向上させる理由から、(メタ)アクリル酸エステル成分を含有することが好ましい。酸変性ポリオレフィン樹脂における(メタ)アクリル酸エステル成分の含有量は、0.5~40質量%であることが好ましく、1~35質量%であることがより好ましく、3~30質量%であることがさらに好ましく、5~25質量%であることが特に好ましく、10~25質量%であることが最も好ましい。
【0015】
(メタ)アクリル酸エステル成分としては、(メタ)アクリル酸と炭素数1~30のアルコールとのエステル化物が挙げられ、中でも入手のし易さの点から、(メタ)アクリル酸と炭素数1~20のアルコールとのエステル化物が好ましい。そのような化合物の具体例としては、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸プロピル、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸ヘキシル、(メタ)アクリル酸オクチル、(メタ)アクリル酸デシル、(メタ)アクリル酸ラウリル、(メタ)アクリル酸ドデシル、(メタ)アクリル酸ステアリル等が挙げられる。これらの混合物を用いてもよい。この中で、基材との密着性を向上させる観点から、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸ブチル、アクリル酸ヘキシル、アクリル酸オクチルがより好ましく、アクリル酸エチル、アクリル酸ブチルがより好ましく、アクリル酸エチルが特に好ましい。なお、「(メタ)アクリル酸~」とは、「アクリル酸~またはメタクリル酸~」を意味する。
【0016】
また、酸変性ポリオレフィン樹脂は、上記成分以外に他の成分を酸変性ポリオレフィン樹脂の10質量%以下程度、含有してもよい。他の成分としては、1-オクテン、ノルボルネン類等の炭素数6を超えるアルケン類やジエン類、マレイン酸ジメチル、マレイン酸ジエチル、マレイン酸ジブチル等のマレイン酸エステル類、(メタ)アクリル酸アミド類、メチルビニルエーテル、エチルビニルエーテルなどのアルキルビニルエーテル類、ぎ酸ビニル、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、ピバリン酸ビニル、バーサチック酸ビニル等のビニルエステル類ならびにビニルエステル類を塩基性化合物等でケン化して得られるビニルアルコール、2-ヒドロキシエチルアクリレート、グリシジル(メタ)アクリレート、(メタ)アクリロニトリル、スチレン、置換スチレン、一酸化炭素、二酸化硫黄などが挙げられ、これらの混合物を用いることもできる。
【0017】
また、酸変性ポリオレフィン樹脂を構成する酸変性成分は、カルボキシル基の水酸基が、N,N-ジメチルアミノ基、N,N-ジエチルアミノ基等で置換されたN-置換アミド構造を含有していてもよい。
【0018】
酸変性ポリオレフィン樹脂としては、たとえば、エチレン-(メタ)アクリル酸共重合体、エチレン-(メタ)アクリル酸-無水マレイン酸共重合体、酸変性ポリエチレン、酸変性ポリプロピレン、酸変性エチレン-プロピレン樹脂、酸変性エチレン-ブテン樹脂、酸変性プロピレン-ブテン樹脂、酸変性エチレン-プロピレン-ブテン樹脂、あるいはこれらの酸変性樹脂にさらに(メタ)アクリル酸エステル等でアクリル変性したエチレン-(メタ)アクリル酸エステル-不飽和カルボン酸共重合体等が挙げられる。中でも、エチレン-(メタ)アクリル酸-無水マレイン酸共重合体が好ましい。さらに、酸変性ポリオレフィン樹脂は5~40質量%の範囲で塩素化されていてもよい。
【0019】
酸変性ポリオレフィン樹脂として、アルケマ社製のボンダインシリーズ、エボニックジャパン社製のベストプラストシリーズ、ダウ・ケミカル社製のプリマコールシリーズ、三洋化成社製のユーメックスシリーズ、三井化学社製のアドマーシリーズ、東洋紡社製のトーヨータックシリーズなどの市販品を使用することができる。また、市販の水系のものも使用することができ、日本製紙ケミカル社製のスーパークロンシリーズ、住友精化社製のザイクセンシリーズ、三井化学社製のケミパールシリーズ、東洋紡社製のハードレンシリーズ等を使用することができる。
【0020】
<ウレタン樹脂、アクリル樹脂、水酸基含有化合物>
本発明の塗工剤は、ウレタン樹脂、アクリル樹脂および水酸基含有化合物から選択される1種以上を含有することが必要である。
本発明の塗工剤は、ウレタン樹脂、アクリル樹脂および水酸基含有化合物から選択される1種以上を含有することで、紙または不織布などの塗工剤が浸み込みやすい基材に対する、表面への塗工性、造膜性が向上する。また、塗膜から形成される樹脂層は、厚みを十分に確保することができ、さらにヒートシール性、防水性、耐油性にも優れるものとなる。
また、本発明の塗工剤は、水酸基含有化合物を含有することで、粘度を調整することができる。これにより、塗工剤が基材に浸み込み難くなり、塗膜の厚みを十分に確保することができる。
【0021】
本発明の塗工剤は、酸変性ポリオレフィン樹脂以外の樹脂成分として、ウレタン樹脂および/またはアクリル樹脂を含有することで、ポリエステル樹脂等の他の樹脂を含有する場合と比較すると、防水性、耐油性に優れる樹脂層を形成することができる。ウレタン樹脂、アクリル樹脂のガラス転移温度は、0℃以上であることが好ましく、10℃以上であることがより好ましく、30℃以上であることがさらに好ましい。
【0022】
塗工剤が、ウレタン樹脂および/またはアクリル樹脂を含有する場合、その含有量は、酸変性ポリオレフィン樹脂100質量部に対して、10質量部を超えることが好ましく。10質量部を超え、100質量部以下であることがより好ましく、12~70質量部であることがさらに好ましく、13~60質量部であることがさらに好ましい。ウレタン樹脂および/またはアクリル樹脂の含有量が10質量部以下であると、塗工剤は、造膜不良となったり、また形成される樹脂層は、ヒートシール性に劣る場合があり、含有量が100質量部を超えると、塗工剤は、塗工性が低下する場合がある。
【0023】
水酸基含有化合物としては、例えば、カラギナン、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース等のセルロース類、キサンタンガム、グアガム、ペクチン、変性デンプン等の多糖類、ポリビニルアルコールなどが挙げられる。これらの中でも、塗工剤の粘度を制御しやすいことから、カルボキシメチルセルロース、多糖類が好ましく、耐油性に優れる樹脂層が形成されることから、多糖類がより好ましい。
【0024】
塗工剤が水酸基含有化合物を含有する場合、その含有量は、酸変性ポリオレフィン樹脂100質量部に対して、0.1~10質量部であることが好ましく、0.2~5質量部であることがより好ましい。水酸基含有化合物の含有量が0.2質量部未満であると、塗工剤の粘度を十分に制御することができず、また、形成される樹脂層はヒートシール性に劣る場合があり、含有量が5質量部を超えると、塗工剤は、安定性が低下する場合がある。
【0025】
本発明の塗工剤は、形成される樹脂層の防水性および耐油性を一層向上させるために、ウレタン樹脂および/またはアクリル樹脂と、水酸基含有化合物とを併せて含有することが好ましい。
【0026】
<水性媒体>
本発明の紙用塗工剤を構成する水性媒体は、水または、水を主成分とする液体であり、塩基性化合物や親水性有機溶媒を含有してもよい。水性媒体が親水性有機溶媒を含有することで、塗工剤は、基材への濡れ性が向上し、塗工性および造膜性が向上するという効果が奏される。
【0027】
親水性有機溶媒の含有量は、基材への適度な濡れ性付与のために、水性媒体全量に対して1~50質量%であることが好ましく、3~30質量%であることがより好ましく、5~25質量%であることがさらに好ましい。
【0028】
親水性有機溶剤としては、例えば、メタノール、エタノール、n-プロパノール、イソプロパノール、n-ブタノール、イソブタノール、sec-ブタノール、tert-ブタノール、n-アミルアルコール、イソアミルアルコール、sec-アミルアルコール、tert-アミルアルコール、1-エチル-1-プロパノール、2-メチル-1-ブタノール、n-ヘキサノール、シクロヘキサノール等のアルコール類、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、エチルブチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン類、テトラヒドロフラン、ジオキサン等のエーテル類、酢酸エチル、酢酸-n-プロピル、酢酸イソプロピル、酢酸-n-ブチル、酢酸イソブチル、酢酸-sec-ブチル、酢酸-3-メトキシブチル、プロピオン酸メチル、プロピオン酸エチル、炭酸ジエチル、炭酸ジメチル等のエステル類、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノプロピルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールエチルエーテルアセテート等のグリコール誘導体、さらには、1-メトキシ-2-プロパノール、1-エトキシ-2-プロパノール、3-メトキシ-3-メチル-1-ブタノール、メトキシブタノール、アセトニトリル、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、ジアセトンアルコール、アセト酢酸エチル、1,2-ジメチルグリセリン、1,3-ジメチルグリセリン、またはトリメチルグリセリン等が挙げられる。
【0029】
塩基性化合物としては、例えば、アンモニア、トリエチルアミン、N,N-ジメチルエタノールアミン、イソプロピルアミン、アミノエタノール、ジメチルアミノエタノール、ジエチルアミノエタノール、エチルアミン、ジエチルアミン、イソブチルアミン、ジプロピルアミン、3-エトキシプロピルアミン、3-ジエチルアミノプロピルアミン、sec-ブチルアミン、プロピルアミン、n-ブチルアミン、2-メトキシエチルアミン、3-メトキシプロピルアミン、2,2-ジメトキシエチルアミン、モノエタノールアミン、モルホリン、N-メチルモルホリン、N-エチルモルホリン、ピロール、またはピリジン等が挙げられる。
【0030】
<添加剤>
本発明の塗工剤は、目的に応じて性能をさらに向上させるために、他の重合体、架橋剤等の添加剤を含有してもよい。
他の重合体としては、特に限定されず、例えば、ポリ酢酸ビニル、エチレン-酢酸ビニル共重合体、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビリニデン、スチレン-マレイン酸樹脂、スチレン-ブタジエン樹脂、ブタジエン樹脂、アクリロニトリル-ブタジエン樹、ポリ(メタ)アクリロニトリル樹脂、(メタ)アクリルアミド樹脂、塩素化ポリエチレン樹脂、塩素化ポリプロピレン樹脂、変性ナイロン樹脂やロジンなどの粘着付与樹脂、フェノール樹脂、シリコーン樹脂、エポキシ樹脂等が挙げられ、必要に応じて複数のものを混合使用してもよい。
【0031】
架橋剤としては、特に限定されず、例えば、自己架橋性を有する架橋剤、カルボキシル基と反応する官能基を分子内に複数個有する化合物、多価の配位座を有する金属等が挙げられる。具体的には、イソシアネート化合物、メラミン化合物、尿素化合物、エポキシ化合物、カルボジイミド化合物、オキサゾリン基含有化合物、ジルコニウム塩化合物、シランカップリング剤等が好ましい。また、これらの架橋剤も複数同時に使用してもよい。
【0032】
架橋剤の含有量は、酸変性ポリオレフィン樹脂100質量部に対し、0.01~80質量部であることが好ましく、0.1~50質量部であることがより好ましく、0.5~30質量部であることがさらに好ましい。架橋剤の含有量が0.01質量部未満の場合には、形成される樹脂層の性能の向上が見込めなくなる傾向にあり、80質量部を超える場合には、加工性等の性能が低下することがある。
【0033】
本発明の塗工剤は、さらに必要に応じて、レベリング剤、消泡剤、ワキ防止剤、顔料分散剤、紫外線吸収剤、耐候剤、難燃剤等の各種薬剤を含有することも可能である。
【0034】
<塗工剤>
本発明の塗工剤は、上記酸変性ポリオレフィン樹脂と、ウレタン樹脂、アクリル樹脂および水酸基含有化合物から選択される1種以上と、水性媒体と、を含有するものであり、酸変性ポリオレフィン樹脂は、水性媒体に分散していることが好ましい。
本発明の塗工剤における、樹脂成分の含有率は、塗工条件、目的とする塗膜の厚みや性能等により適宜選択でき、特に限定されないが、粘度を適度に保ち、かつ良好な造膜性を発現させる点で、1~60質量%であることが好ましく、3~55質量%であることがより好ましく、5~50質量%であることがさらに好ましく、10~45質量%であることが特に好ましい。
本発明の塗工剤の粘度は、基材への浸み込みを抑えるために、5~3000mPa・sであることが好ましく、10~2000mPa・sであることがより好ましく、50~1500Pa・sであることがさらに好ましい。塗工剤は、粘度が5mPa・s未満であると塗工困難となる場合があり、粘度が3000mPa・sを超えても、塗工困難となる場合がある。
【0035】
本発明の塗工剤は、紙または不織布のような浸み込み易い基材に対する塗工性および造膜性に優れており、基材に対して、公知の塗工方法、例えば、グラビアロールコーティング、リバースロールコーティング、ワイヤーバーコーティング、リップコーティング、エアナイフコーティング、カーテンフローコーティング、スプレーコーティング、浸漬コーティング、はけ塗り法等により、基材表面に均一に塗工し、乾燥のための加熱処理に供することにより、均一な樹脂層を基材表面に密着させて形成することができる。加熱装置としては、通常の熱風循環型のオーブンや赤外線ヒーター等を使用すればよい。また、加熱温度や加熱時間としては、経済性等を考慮して、適宜に選択される。
【0036】
本発明の塗工剤は、塗工性に優れているために、1回の塗工で、十分に厚みを維持した樹脂層を形成することができる。
また、本発明の塗工剤は、造膜性に優れているために、ひび割れ、塗工抜け(基材への塗工時の未被覆部分が生じること)等の問題発生を抑制することができ、防水性、耐油性に優れた樹脂層を得ることができる。さらに、形成された樹脂層は、湾曲させても、ひび割れ、塗工抜け等の問題の発生が抑制されている。
また、本発明の塗工剤から形成される樹脂層は、ヒートシール性、耐ブロッキング性の何れにも優れているために、後述の積層体は、成形加工する際の加工性が向上する。
【0037】
<積層体>
本発明の積層体は、紙基材と樹脂層とが積層されてなり、樹脂層が、酸変性ポリオレフィン樹脂と、ウレタン樹脂、アクリル樹脂および水酸基含有化合物から選択される1種以上と、を含有するものである。樹脂層は、本発明の塗工剤を紙基材に塗工し、乾燥させて得ることができる。
【0038】
本発明の積層体を構成する樹脂層は、厚みが、0.1~100μmであることが好ましく、0.5~50μmであることがより好ましく、1~20μmであることがさらに好ましい。厚みが上記範囲となるように形成された樹脂層は、厚みの均一性に優れる。
【0039】
樹脂層の厚みを調節するためには、塗工に用いる装置やその使用条件を適宜選択することに加えて、目的とする厚みに適した濃度の塗工剤を使用することが好ましい。塗工剤の濃度は、調製時の仕込み組成により調節することができ、また、一旦調製した塗工剤を適宜希釈あるいは濃縮して調節してもよい。
【0040】
本発明の積層体を構成する紙基材は、植物等の天然繊維を絡み合わせて製造したものであり、例えば、上質紙、中質紙、再生紙、アート紙、クラフト紙、ロール紙、加工原紙、クロス紙、ボール紙、段ボール等が挙げられる。紙基材は、表面加工されたものでもよく、例えば、バリア性や意匠性などが表面に付与されていてもよい。
【0041】
本発明の積層体は、必要な性能を付与するために、積層体の紙基材面や樹脂層面に、例えば、不織布などの基材や、シーラント層、印刷層、トップコート層などの層が設けられてもよい。
これらの基材や層などを設ける方法としては、例えば、接着剤からなる層を介してドライラミネートする方法、熱ラミネートする方法、ヒートシールする方法、または押出しラミネートする法などの公知の方法が挙げられる。
上記接着剤としては、1液タイプのウレタン系接着剤、2液タイプのウレタン系接着剤、エポキシ系接着剤、酸変性ポリオレフィン樹脂の水性分散体などが挙げられ、本発明の塗工剤を接着剤として用いてもよい。
【0042】
<包装材料、紙容器>
本発明の積層体は、包装材料、紙容器の成形材料として用いることができる。
本発明の積層体は、樹脂層がヒートシール性に優れるために、折り曲げたり円筒状に丸めて、端部を重ね合わせて、ヒートシールして成形することができる。また樹脂層は、造膜性に優れる塗工剤で形成されているために、折り曲げたり円筒状に丸めても、ひび割れ等の発生が抑制されており、また加工時に積層体の樹脂層同士が重なり接触しても、ブロッキングの発生が抑制されており、つまり成形加工性に優れる。
本発明の積層体の樹脂層は、成形加工性に優れるために、本発明の積層体を用いて成形した、食品用の包装材料や、食品を入れるための紙容器は、防水性、耐油性に優れたものとなる。
紙容器の形態としては、特に限定されず、紙包材、紙皿、紙コップ等が挙げられる。紙コップは、底部が、折り曲げられて接合部が固定され、ヒダが形成され、また、上部端部が、丸められて接着されて製造されるが、本発明の塗工剤により形成された樹脂層は、こうした形状に追随することができ、良好にヒートシールすることができる。
【実施例0043】
以下、実施例によって本発明を具体的に説明する。ただし、本発明はこれらによって限定されるものではない。
各種の特性について、以下の方法で測定または評価した。
【0044】
1.融点とガラス転移温度
樹脂10mgをサンプルとし、DSC(示差走査熱量測定)装置(パーキンエルマー社製、DSC7)を用いて、昇温速度10℃/分の条件で測定した。
【0045】
2.塗工剤の粘度
デジタル粘度計(ブルックフィールド社製、DV2T)を用い、温度25℃における回転粘度を測定した。
【0046】
3.紙基材への塗工性
積層体の樹脂層の厚みを、ゲージセンサ(小野測器社製、GS-3813B)を用いて計測し、塗工性を次の基準で評価した。
○:樹脂層の厚みが5μm以上
△:樹脂層の厚みが3μm以上、5μm未満
×:樹脂層の厚みが3μm未満
【0047】
4.造膜性
積層体の樹脂層表面を、電子顕微鏡(サーモフィッシャーサイエンティフィック社製、卓上走査型電子顕微鏡)を用いて、倍率200倍で観察し、造膜性を次の基準で評価した。
○:ひび割れ、紙基材への未被覆部分がない
△:ひび割れ、紙基材への未被覆部分が部分的にある(全面にわたってはない)
×:ひび割れ、紙基材への未被覆部分が全面にわたってある
【0048】
5.ヒートシール性(貼り合わせ強度)
紙基材上に、塗工剤を、バーコーター(No.20)を用いて塗工した後、乾燥した。その後、塗工面同士を貼り合わせ、温度150℃、圧力0.2MPaで5秒間のヒートシール加工を行った。その後、貼り合わせた紙基材の接合面を180度の方向で剥離させ、ヒートシール性を次の基準で評価した。
○:十分に接着しており、剥離時に紙が破損
△:接着しているが、軽く剥離が可能
×:接着していない
【0049】
6.防水性
青色顔料(大日精化社製、EP―700ブルーGA)0.3質量%を含む水を、積層体の樹脂層表面に滴下し、5分後に表面をふき取った。その際の紙の着色度合いを目視で確認し、防水性を次の基準で評価した。
◎:水滴跡が全く無い
○:水滴跡がごく僅かにあり
×:水滴跡あり(水の浸透あり)
【0050】
7.耐油性
JAPAN TAPPI T599cm-02紙パルプ試験方法に準じた下記の方法でキット試験をおこなった。
ひまし油、トルエンおよびn-ヘプタンを異なる体積比で混合した試験溶液(キット番号1~12)を、積層体の樹脂層表面に滴下した。滴下して15秒後に、油滴の浸透によって斑点が生じた場合を不合格と判定し、斑点が生じない最高キット番号を、そのサンプルの耐油度とみなして、耐油性を次の基準で評価した。
◎:耐油度10以上
○:耐油度8~9
△:耐油度5~7
×:耐油度4以下
【0051】
8.耐ブロッキング性
積層体の樹脂層面同士を接触させ、25℃雰囲気下、1MPa荷重で1日間静置した。その後サンプルを剥離し、耐ブロッキング性を次の基準で評価した。
◎:ブロッキングなし(剥離抵抗や剥離音なし)
○:剥離に力がいらないが、剥離音がする
△:剥離に力が必要(接着はしていない)
×:接着している
【0052】
塗工剤の原料および紙基材として、下記のものを使用した。
1.酸変性ポリオレフィン樹脂
酸変性ポリオレフィン樹脂の水性分散体(E-1)の製造
ヒーター付きの密閉できる耐圧ガラス容器を備えた撹拌機を用いて、100gの酸変性ポリオレフィン樹脂(エチレン-アクリル酸エチル-無水マレイン酸共重合体、無水マレイン酸2質量%、融点105℃、ガラス転移温度0℃未満)、100gのイソプロパノール、4.0gのトリエチルアミン、および296gの蒸留水をガラス容器内に仕込み、撹拌しながら120℃まで加熱することによって、乳白色のポリオレフィン樹脂水性分散体E-1(固形分濃度約20質量%、粘度60mPa・s、水性媒体におけるイソプロパノール比率25質量%)を得た。
【0053】
酸変性ポリオレフィン樹脂の水性分散体(E-2)の製造
酸変性ポリオレフィン樹脂水性分散体(E-1)200gに、水100gおよびジメチルエタノールアミン2.0gを加えた後、エバポレータを用いて溶媒102gの減圧留去処理をおこなうことにより、水性媒体におけるイソプロパノール比率が1質量%未満である酸変性ポリオレフィン樹脂水性分散体(E-2、固形分濃度約20質量%、粘度15mPa・s)を得た。
【0054】
2.ウレタン樹脂
・ウレタン樹脂エマルション:三井化学社製、タケラック W-6010、固形分濃度30質量%、ガラス転移温度90℃
【0055】
3.アクリル樹脂
・アクリル樹脂Aエマルション:DSM社製、NeoCryl A-6092、固形分濃度43質量%、ガラス転移温度56℃
・アクリル樹脂Bエマルション:DSM社製、NeoCryl A-1092、固形分濃度49質量%、ガラス転移温度9℃
【0056】
4.水酸基含有化合物
・CMC:カルボキシメチルセルロース、日本製紙社製、サンローズF350HC
・多糖類:キサンタンガム、ダニスコジャパン社製、GRINDSTED Xanthan J
・PVA:ポリビニルアルコール溶液、日本酢ビポバール社製JMR-10Lの10質量%溶液(溶媒:水/イソプロパノール(質量比40/60))
【0057】
5.紙基材
日本製紙社製、目付230g/m2
【0058】
実施例1
酸変性ポリオレフィン樹脂水性分散体(E-2)100gに対して、ウレタン樹脂エマルションを20g(固形分質量比100/30)と、イソプロパノール7gを添加し(水性媒体におけるイソプロパノール比率7質量%)、塗工剤を作製した。
作製した塗工液を、紙基材上に、バーコーター(No.20)を用いて塗工し、110℃に設定した熱風乾燥機内で30秒間乾燥させることにより、樹脂層を形成し、積層体を作製した。
【0059】
実施例2~15、比較例1~3
表1に記載のように、酸変性ポリオレフィン樹脂水性分散体、ウレタン樹脂、アクリル樹脂、水酸基含有化合物の種類を変更し、また、各固形分質量比を変更した。また、水性媒体におけるイソプロパノールの量が表1に記載の比率になるように添加して、塗工剤を作製し、実施例1と同様にして積層体を作製した。
【0060】
実施例、比較例で作製した塗工剤の構成、各種特性の評価結果を表1に示す。
【0061】
【0062】
実施例1~15で得られた塗工剤は、紙への塗工性、造膜性に優れ、形成された樹脂層は、ヒートシール性、防水性、耐油性に優れていた。
特に、実施例3、8においては、ウレタン樹脂、アクリル樹脂および水酸基含有化合物の種類、並びにそれらの含有量が好ましいものであったため、形成された樹脂層は、防水性、耐油性などの特性にいっそう優れる結果となった。
【0063】
比較例1~3において、ウレタン樹脂、アクリル樹脂、水酸基含有化合物の何れも含有しない酸変性ポリオレフィン樹脂水性分散体は、紙への塗工性、造膜性に劣り、形成された樹脂層は、ヒートシール性、防水性、耐油性の全てにおいて、実施例よりも劣るものであった。