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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025036847
(43)【公開日】2025-03-17
(54)【発明の名称】制御装置、電源システム及び制御方法
(51)【国際特許分類】
   H02J 9/06 20060101AFI20250310BHJP
【FI】
H02J9/06 120
【審査請求】有
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023143443
(22)【出願日】2023-09-05
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2025-01-27
(71)【出願人】
【識別番号】000003942
【氏名又は名称】日新電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100121441
【弁理士】
【氏名又は名称】西村 竜平
(74)【代理人】
【識別番号】100154704
【弁理士】
【氏名又は名称】齊藤 真大
(74)【代理人】
【識別番号】100206151
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 惇志
(74)【代理人】
【識別番号】100218187
【弁理士】
【氏名又は名称】前田 治子
(74)【代理人】
【識別番号】100227673
【弁理士】
【氏名又は名称】福田 光起
(74)【代理人】
【識別番号】100231038
【弁理士】
【氏名又は名称】正村 智彦
(72)【発明者】
【氏名】柏原 弘典
【テーマコード(参考)】
5G015
【Fターム(参考)】
5G015FA02
5G015GA06
5G015JA01
5G015JA22
(57)【要約】      (修正有)
【課題】電力変換器から流れる電流が過電流になることを抑制する電源システム、制御装置及び制御方法を提供する。
【解決手段】電源システム100において、電力系統10から負荷に給電するための電力線Lを開閉する開閉スイッチ3が開放される場合に、電力線に給電する電力変換器6を制御する制御装置7は、電力変換器電圧、電力変換器電流又は電力変換器が設けられる回路の回路インピーダンスを取得するパラメータ取得部、電力変換器が出力する電圧の指令値を算出する第1電圧指令値算出部、第1電圧指令値と電力変換器電圧との電位差を電力変換器の閾値電流で除した閾値インピーダンスから回路インピーダンスを差し引く仮想インピーダンス算出部、仮想インピーダンス及び電力変換器電流によって算出する仮想電圧降下算出部及び第1電圧指令値から前記仮想電圧降下を差し引いた第2電圧指令値を出力して、電力変換器を制御する第2電圧指令値出力部を備える。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
電力系統から負荷に給電するための電力線を開閉する開閉スイッチが開放される場合に、前記電力線に給電する電力変換器を制御する制御装置であって、
前記電力変換器から出力された電力変換器電圧、前記電力変換器から流れる電力変換器電流、又は、前記電力変換器が設けられる回路の回路インピーダンスを取得するパラメータ取得部と、
前記電力変換器が出力する電圧の指令値である第1電圧指令値を算出する第1電圧指令値算出部と、
前記第1電圧指令値と前記電力変換器電圧との電位差を前記電力変換器の閾値電流で除した閾値インピーダンスを算出して、前記閾値インピーダンスから前記回路インピーダンスを差し引いた仮想インピーダンスを算出する仮想インピーダンス算出部と、
前記仮想インピーダンス及び前記電力変換器電流によって算出される仮想電圧降下を算出する仮想電圧降下算出部と、
前記第1電圧指令値から前記仮想電圧降下を差し引いた第2電圧指令値を出力して、前記電力変換器を制御する第2電圧指令値出力部とを備える制御装置。
【請求項2】
前記仮想電圧降下算出部は、前記電力変換器電流が前記閾値電流以下の場合に、前記仮想電圧降下を算出せず、前記電力変換器電流が前記閾値電流を超えた場合に、前記仮想電圧降下を算出する、請求項1に記載の制御装置。
【請求項3】
電力系統及び負荷の間に設けられ、前記負荷に電力を供給する電源システムであって、
電力系統から負荷に給電するための電力線を開閉する開閉スイッチと、
前記開閉スイッチが開放される場合に、前記電力線に給電する電力変換器と、
請求項1又は2に記載の制御装置とを備える、電源システム。
【請求項4】
電力系統から負荷に給電するための電力線を開閉する開閉スイッチが開放される場合に、前記電力線に給電する電力変換器を制御する制御方法であって、
前記電力変換器から出力された電圧である電力変換器電圧、前記電力変換器から流れる電流である電力変換器電流、又は、前記電力変換器が設けられる回路のインピーダンスである回路インピーダンスを取得し、
前記開閉スイッチが開放される場合に前記電力変換器が出力する第1電圧指令値を算出し、
前記第1電圧指令値と前記電力変換器電圧との電位差を前記電力変換器電流の閾値である閾値電流で除したインピーダンスである閾値インピーダンスを算出し、
前記閾値インピーダンスから前記回路インピーダンスを差し引いたインピーダンスである仮想インピーダンスを算出し、
前記仮想インピーダンス及び前記電力変換器電流によって算出される仮想の電圧降下である仮想電圧降下を算出し、
前記第1電圧指令値から前記仮想電圧降下を差し引いた電圧指令値である第2電圧指令値を出力して、前記電力変換器を制御する、制御方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、制御装置、電源システム及び制御方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、停電や瞬時電圧低下(以下、瞬低とも言う。)に対して、電力変換器を制御することにより、電力系統から解列して負荷を補償する制御装置が提案されている。例えば特許文献1に示すように、瞬低が発生した場合、この種の制御装置は、電力系統と負荷との間に設けられたサイリスタスイッチ回路を強制的に消弧させるために、サイリスタスイッチ回路に並列に設けられた電力変換器を駆動させている。そして、サイリスタスイッチ回路を強制的に消弧させた後、制御装置は、電力変換器を駆動させて、電力系統の電圧低下量に相当する補償交流を負荷に供給することにより、負荷電圧の低下を補償している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】実用新案登録第2578802号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、上記の電力変換器は、容量性負荷や力率調整用の進相コンデンサを介してサイリスタスイッチ回路と並列に設けられる場合がある。この場合、電力系統又は負荷から一時的に過渡電流が発生すると、電力変換器から流れる電流が過電流になる恐れがある。
【0005】
また、サイリスタスイッチ回路を強制的に消弧させて、負荷電圧の低下を補償する場合にも、例えば容量性負荷が投入されることにより、電力変換器から流れる電流が過電流になる恐れがある。
【0006】
そこで本発明は、上記問題に鑑みてなされたものであり、電力変換器から流れる電流が過電流になることを抑制することを主たる課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
すなわち本発明に係る制御装置は、電力系統から負荷に給電するための電力線を開閉する開閉スイッチが開放される場合に、前記電力線に給電する電力変換器を制御する制御装置であって、前記電力変換器から出力された電力変換器電圧、前記電力変換器から流れる電力変換器電流、又は、前記電力変換器が設けられる回路の回路インピーダンスを取得するパラメータ取得部と、前記電力変換器が出力する電圧の指令値である第1電圧指令値を算出する第1電圧指令値算出部と、前記第1電圧指令値と前記電力変換器電圧との電位差を前記電力変換器の閾値電流で除した閾値インピーダンスを算出して、前記閾値インピーダンスから前記回路インピーダンスを差し引いた仮想インピーダンスを算出する仮想インピーダンス算出部と、前記仮想インピーダンス及び前記電力変換器電流によって算出される仮想電圧降下を算出する仮想電圧降下算出部と、前記第1電圧指令値から前記仮想電圧降下を差し引いた第2電圧指令値を出力して、前記電力変換器を制御する第2電圧指令値出力部とを備えることを特徴とする。
【0008】
また、本発明に係る制御方法は、電力系統から負荷に給電するための電力線を開閉する開閉スイッチが開放される場合に、前記電力線に給電する電力変換器を制御する制御方法であって、前記電力変換器から出力された電圧である電力変換器電圧、前記電力変換器から流れる電流である電力変換器電流、又は、前記電力変換器が設けられる回路のインピーダンスである回路インピーダンスを取得し、前記開閉スイッチが開放される場合に前記電力変換器が出力する第1電圧指令値を算出し、前記第1電圧指令値と前記電力変換器電圧との電位差を前記電力変換器電流の閾値である閾値電流で除したインピーダンスである閾値インピーダンスを算出し、前記閾値インピーダンスから前記回路インピーダンスを差し引いたインピーダンスである仮想インピーダンスを算出し、前記仮想インピーダンス及び前記電力変換器電流によって算出される仮想の電圧降下である仮想電圧降下を算出し、前記第1電圧指令値から前記仮想電圧降下を差し引いた電圧指令値である第2電圧指令値を出力して、前記電力変換器を制御することを特徴とする。
【0009】
このような構成であれば、仮想インピーダンスによる仮想電圧降下を算出し、第1電圧指令値から仮想電圧降下の分だけ差し引かれた第2電圧指令値が出力されるので、第1電圧指令値のみに基づいて電力変換器を制御する場合と比較して、電力変換器から出力される電圧が小さくなる。その結果、電力変換器から流れる電流が小さくなるので、電力変換器から過電流が流れることを防ぐことができる。
【0010】
前記仮想電圧降下算出部は、前記電力変換器電流が前記閾値電流以下の場合に、前記仮想電圧降下を算出せず、前記電力変換器電流が前記閾値電流を超えた場合に、前記仮想電圧降下を算出することが好ましい。
このような構成であれば、電力変換器電流が閾値電流以下の場合には仮想電圧降下が算出されず、電力変換器電流が閾値電流を超えた場合に仮想電圧降下が算出されるので、第1電圧指令値を不要に差し引くことにより電力変換器が出力する電圧を不要に小さくすることを防止することができ、負荷の電圧を精度よく補償することができる。
【0011】
電力系統及び負荷の間に設けられ、前記負荷に電力を供給する電源システムは、電力系統から負荷に給電するための電力線を開閉する開閉スイッチと、前記開閉スイッチが開放される場合に、前記電力線に給電する電力変換器と、前記制御装置とを備えるものが挙げられる。
このような構成であれば、上記の制御装置と同様の作用効果を得ることができる。
【発明の効果】
【0012】
このように構成した本発明によれば、電力変換器から流れる電流が過電流になることを抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明の一実施形態における電源システムの模式図である。
図2】同実施形態における制御装置の機能ブロックを示す模式図である。
図3】同実施形態における制御装置の制御ブロックを示す図である。
図4】同実施形態における制御装置の制御ブロックを示す図である。
図5】同実施形態における制御装置の制御ブロックを示す図である。
図6】同実施形態における制御装置の制御ブロックを示す図である。
図7】同実施形態における制御装置の制御ブロックを示す図である。
図8】従来例の制御装置を用いたシミュレーション結果である。
図9】同実施形態における制御装置を用いたシミュレーション結果である。
図10】他の実施形態における電源システムの模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下に、本発明に係る制御装置を備えた電源システムの一実施形態について、図面を参照して説明する。なお、以下に示すいずれの図についても、わかりやすくするために、適宜省略し、又は、誇張して模式的に描かれている場合がある。同一の構成要素については、同一の符号を付して説明を適宜省略する。
【0015】
<電源システムの全体構成>
本実施形態における電源システム100は、図1に示すように、電力系統10及び負荷20の間に設けられ、負荷20に電力を供給するものである。本実施形態において、電力系統10の正常時に、電源システム100が電力系統10と負荷20とを電気的に接続することにより、電力系統10から負荷20へと給電している。一方、電力系統10で停電や瞬時電圧低下(以下、瞬低とも言う。)等といった異常が発生すると、電源システム100は、電力系統10から負荷20への給電を遮断して、負荷20の電圧を補償する。なお、本実施形態における電源システム100は、三相電力を供給するものであるが、相の数は特に限定されない。
【0016】
具体的に電源システム100は、電力系統10から負荷20に給電するための電力線Lを開閉する開閉スイッチ3と、電力系統10の電圧である系統電圧を測定する系統電圧測定部4と、開閉スイッチ3に流れる電流であるスイッチ電流を測定するスイッチ電流測定部5と、開閉スイッチ3と並列に電力線Lに接続される電力変換器6と、開閉スイッチ3又は電力変換器6を制御する制御装置7とを備える。以下、各部について説明する。
【0017】
開閉スイッチ3は、電力線Lに設けられており、開閉スイッチ3が投入されると、電力系統10と負荷20とが電気的に接続され、開閉スイッチ3が開放されると、電力系統10と負荷20とが電気的に切り離されるものである。本実施形態において、開閉スイッチ3はサイリスタスイッチであり、後述する制御装置7が電力変換器6を制御することにより、サイリスタスイッチが点弧又は消弧される。
【0018】
系統電圧測定部4は、計器用変圧器を介して電力線Lに接続されており、開閉スイッチ3よりも電力系統10側の電圧を測定するものである。具体的に系統電圧測定部4は、開閉スイッチ3及び電力変換器6からなる並列回路よりも電力系統10側に計器用変圧器を介して接続されている。系統電圧測定部4により得られた系統電圧は、後述する制御装置7に入力されて、開閉スイッチ3又は電力変換器6の制御に用いられる。
【0019】
スイッチ電流測定部5は、開閉スイッチ3及び電力変換器6からなる並列回路に設けられて、スイッチ電流を測定するものである。具体的にスイッチ電流測定部5は、開閉スイッチ3及び電力変換器6からなる並列回路において、開閉スイッチ3が設けられる電力線Lに流れる電流を測定している。
【0020】
電力変換器6は、注入トランスTを介して開閉スイッチ3に並列に設けられており、例えば二次電池(蓄電池)などの電力貯蔵装置(不図示)からの直流電力を交流電力に変換するものである。なお、電力変換器6は、例えば半導体スイッチング素子を用いて構成されており、制御装置7により制御される。
【0021】
また、注入トランスTと電力変換器6とからなる閉回路には、電力変換器6から流れる電流である電力変換器電流Iinvを測定する電力変換器電流測定部81と、電力変換器6から出力される電圧である電力変換器電圧Vinvを測定する電力変換器電圧測定部82と、電力変換器6と注入トランスTとの間に設けられ、電力変換器6に直列に接続されるリアクトル素子83と、電力変換器6と並列に接続されるコンデンサ素子84とが設けられる。
【0022】
より詳細には、電力変換器電流測定部81は、電力変換器6の出力側とリアクトル素子83との間に設けられて、電力変換器6と位相が同じ電流を測定している。また電力変換器電圧測定部82は、電力変換器電圧Vinvのうち、コンデンサ素子84に印加される電圧を測定している。具体的に電力変換器電圧測定部82は、注入トランスTと電力変換器6とからなる閉回路において、コンデンサ素子84と並列に設けられており、リアクトル素子83のインピーダンスによって低下した後の電圧を測定している。なお、電力変換器電流Iinv及び電力変換器電圧Vinvは、後述する制御装置7に入力されて、開閉スイッチ3又は電力変換器6の制御に用いられる。
【0023】
そして制御装置7は、電力系統10の異常が発生した場合に、開閉スイッチ3又は電力変換器6を制御するものである。ここで制御装置7は、CPU、メモリ、入出力インターフェイス等を備えた、汎用乃至専用のコンピュータであり、そのメモリに記憶させた所定のプログラムに従ってCPUや周辺機器を協働させることにより、以下の機能を発揮する。
【0024】
具体的に制御装置7は、各種パラメータを取得するパラメータ取得部71と、開閉スイッチ3の開閉を制御する開閉制御部72と、電力変換器6が出力する電圧の指令値である第1電圧指令値Vref1を算出する第1電圧指令値算出部73と、電力変換器6が設けられる回路の仮想のインピーダンスである仮想インピーダンスZを算出する仮想インピーダンス算出部74と、電力変換器6が設けられる回路の仮想の電圧降下である仮想電圧降下ΔVを算出する仮想電圧降下算出部75と、電力変換器6が出力する電圧の指令値である第2電圧指令値Vref2を算出する第2電圧指令値出力部76とを備える。以下、各機能部について説明する。
【0025】
パラメータ取得部71は、開閉スイッチ3又は電力変換器6を制御するための各種パラメータを取得するものである。ここで言う各種パラメータとは、系統電圧、スイッチ電流、電力変換器電圧Vinv、電力変換器電流Iinv、及び、注入トランスT及び電力変換器6からなる閉回路の既知のインピーダンスである回路インピーダンスZである。なお、パラメータ取得部71は、取得した各種パラメータを、dq座標系、αβ座標系又はuvw座標系のそれぞれで変換できるように構成されていてもよい。
【0026】
開閉制御部72は、電力系統10の異常が発生した場合に、開閉スイッチ3を開放するように、開閉スイッチ3及び電力変換器6を制御するとともに、系統電圧が復電した場合に、開閉スイッチ3を投入するように、開閉スイッチ3及び電力変換器6を制御するものである。
【0027】
具体的に開閉制御部72は、所定の範囲を超えた系統電圧をパラメータ取得部71が取得した場合に、開閉スイッチ3を消弧させる消弧指令信号を出力して、電力変換器6が出力する電流を制御する。具体的には、開閉制御部72は、スイッチ電流測定部5が計測したスイッチ電流を取得して、スイッチ電流を0Aにするように、電力変換器6を制御する。なお、ここで言う所定の範囲を超えた系統電圧とは、系統電圧が例えば定格電圧の20%以下又は107%以上の場合を言う。
【0028】
そして、開閉制御部72は、復電した系統電圧をパラメータ取得部71が取得した場合に、開閉スイッチ3を点弧させる点弧指令信号を出力して、電力変換器6が出力する電流を制御する。なお、ここで言う復電した系統電圧とは、系統電圧が定格電圧と同等である状態が一定時間継続することを言う。
【0029】
第1電圧指令値算出部73は、負荷電圧の目標値と系統電圧との差に基づいて第1電圧指令値Vref1を算出するものである。なお、ここで言う負荷電圧の目標値とは、例えば定格電圧が挙げられる。
【0030】
仮想インピーダンス算出部74は、仮想インピーダンスZを算出するために、まず、第1電圧指令値Vref1と電力変換器電圧Vinvとの電位差ΔVを電力変換器電流Iinvの閾値電流Ilimitで除した閾値インピーダンスZを算出する。そして、閾値インピーダンスZから回路インピーダンスZを差し引くことにより、仮想インピーダンスZを算出する。すなわち、ここで言う仮想インピーダンスZとは、閾値インピーダンスZから回路インピーダンスZを差し引いたインピーダンスである。
【0031】
まず、閾値インピーダンスZの算出について説明する。
【0032】
閾値インピーダンスZにおいて、電力変換器電流Iinv及び閾値電流Ilimitは等しい。換言すれば、仮想インピーダンスZが回路インピーダンスZに加算されて電力変換器電流Iinvが減少することにより、電力変換器電流Iinvが閾値電流Ilimitに等しくなる。従って、閾値インピーダンスZでは、以下の数1で表される関係式が成立する。
【0033】
【数1】
【0034】
本実施形態において、仮想インピーダンス算出部74は、図3図6に示すように、第1電圧指令値Vref1を極座標変換して、電力変換器電圧Vinv及び電力変換器電流Iinvのdq変換を行うことにより、dq座標系における仮想インピーダンスZを算出している。dq座標系における閾値インピーダンスZは、以下の数2で表される。
【0035】
【数2】
【0036】
なお、Zは閾値インピーダンスのd軸成分、Zは閾値インピーダンスのq軸成分、Ilimit_dは閾値電流のd軸成分、Ilimit_qは閾値電流のq軸成分、ΔVは電位差のd軸成分、ΔVは電位差のq軸成分である。
【0037】
次に、仮想インピーダンスZの算出について説明する。
【0038】
仮想インピーダンス算出部74は、第1電圧指令値Vref1が出力されると、第1電圧指令値Vref1を極座標変換して、第1電圧指令値Vref1の絶対値|Vref1|及び位相θref1を算出する。
【0039】
仮想インピーダンス算出部74は、図4に示すように、位相θref1に基づいて、電力変換器電圧Vinv及び電力変換器電流Iinvをdq変換する。そして、仮想インピーダンス算出部74は、第1電圧指令値Vref1の絶対値|Vref1|から電力変換器電圧Vinvのd軸成分Vinv_dを差し引いて、電位差のd軸成分ΔVを算出し、電力変換器電圧Vinvのq軸成分Vinv_qの正負を反転させて、電位差のq軸成分ΔVを算出する。
【0040】
さらに、仮想インピーダンス算出部74は閾値電流Ilimitを算出する。ここで、閾値電流Ilimitは、電力変換器電流Iinvの位相θinvと同期した電流であり、より詳細には、閾値電流Ilimitのベクトルは、電力変換器電流Iinvのベクトルの延長線上にある。
【0041】
そして、仮想インピーダンス算出部74は、電力変換器電流Iinvの位相θinvを算出する。電力変換器電流Iinvの位相θinvは、以下の数3で表される。
【0042】
【数3】
【0043】
なお、Iinv_dは電力変換器電流のd軸成分、Iinv_qは電力変換器電流のq軸成分である。
【0044】
ここで、閾値インピーダンスZは、抵抗素子、リアクトル素子、又は抵抗素子及び
リアクトル素子が直列に接続されたRL直列回路の合成インピーダンスで表される。したがって、閾値インピーダンスZが容量性とならないように、仮想インピーダンス算出部74は、図5に示すように、電力変換器電流Iinvの位相θinvと電位差ΔVの位相θΔVとが以下の数4で表される関係式を満足するリミッタを設けている。
【0045】
【数4】
【0046】
そして、仮想インピーダンス算出部74は、図6示すように、以下の数5により、閾値インピーダンスZのd軸成分Z、閾値インピーダンスZのq軸成分Zを算出する。さらに、仮想インピーダンス算出部74は、閾値インピーダンスZのd軸成分Z、閾値インピーダンスZのq軸成分Zから、それぞれ回路インピーダンスZのd軸成分Z1d、回路インピーダンスZのq軸成分Z1qを差し引くことにより、それぞれ仮想インピーダンスZのd軸成分Z0d、仮想インピーダンスZのq軸成分Z0qを算出する。
【0047】
【数5】
【0048】
ここで、仮想インピーダンス算出部74は、図6に示すように、仮想インピーダンスZのd軸成分Z0d、仮想インピーダンスZのq軸成分Z0qを出力する場合に、リミッタを設けている。具体的には、電力変換器電流Iinvが閾値電流Ilimitより大きい場合には、仮想インピーダンス算出部74は、仮想インピーダンスZのd軸成分Z0d、仮想インピーダンスZのq軸成分Z0qを出力する。一方、電力変換器電流Iinvが閾値電流Ilimit以下の場合には、仮想インピーダンス算出部74は、仮想インピーダンスZのd軸成分Z0d、仮想インピーダンスZのq軸成分Z0qを出力しない。
【0049】
仮想電圧降下算出部75は、仮想インピーダンスZ及び電力変換器電流Iinvに基づいて仮想電圧降下ΔVを算出するものである。具体的に仮想電圧降下算出部75は、図7に示すように、仮想インピーダンスZのd軸成分及びq軸成分を仮想インピーダンス算出部74から取得し、電力変換器電流Iinvのd軸成分及びq軸成分をパラメータ取得部71から取得して、それぞれ仮想電圧降下ΔVのd軸成分ΔV0d、仮想電圧降下ΔVのq軸成分ΔV0qを算出する。そして、仮想電圧降下算出部75は、第1電圧指令値Vref1の位相θref1を用いて、仮想電圧降下ΔVのd軸成分ΔV0d、仮想電圧降下ΔVに対してuvw変換を行い、uvw座標系における仮想電圧降下ΔV0_uvwを算出する。
【0050】
第2電圧指令値出力部76は、第1電圧指令値Vref1及び仮想電圧降下ΔVに基づいて、第2電圧指令値Vref2を算出するものである。ここで言う第2電圧指令値Vref2は、第1電圧指令値Vref1から仮想電圧降下ΔVを差し引いたものである。第2電圧指令値出力部76は、第2電圧指令値Vref2に基づいて、電力変換器6が第2電圧指令値Vref2を出力するように、電力変換器6を制御する。
【0051】
<電源システムの動作>
次に、上記のように構成された制御装置7を備える電源システム100の動作について説明する。
【0052】
電力系統10が正常である場合、開閉スイッチ3が投入されており、電力系統10から負荷20への給電がなされている。また、系統電圧測定部4は、系統電圧を計測しており、パラメータ取得部71は、計測された系統電圧を取得している。
【0053】
系統電圧測定部4により計測された系統電圧が所定の範囲を超えたと判定された場合、制御装置7は、電力系統10に異常が発生したと判定する。具体的には、パラメータ取得部71が取得した系統電圧が所定の範囲を超えた場合に、開閉制御部72は、開閉スイッチ3を開放するように、開閉スイッチ3及び電力変換器6を制御する。
【0054】
開閉制御部72は、開閉スイッチ3に流れる電流が0Aになると、開閉スイッチ3の開放が完了したと判断する。そして、開閉制御部72は、開閉スイッチ3の開放が完了したことを示す開放完了信号を第1電圧指令値算出部73に出力する。第1電圧指令値算出部73は、開放完了信号を取得するとともに、負荷電圧の目標値と系統電圧との差に基づいて第1電圧指令値Vref1を算出する。
【0055】
第1電圧指令値Vref1が算出されると、仮想インピーダンス算出部74は、上記の仮想インピーダンスZの算出と同様の方法で、仮想インピーダンスZを算出する。具体的には、仮想インピーダンス算出部74は、まず、第1電圧指令値Vref1と電力変換器電圧Vinvとの電位差ΔVを電力変換器電流Iinvの閾値電流Ilimitで除した閾値インピーダンスZを算出する。そして、仮想インピーダンス算出部74は、閾値インピーダンスZから回路インピーダンスZを差し引くことにより、仮想インピーダンスZを算出する。
【0056】
仮想インピーダンスZが算出されると、仮想電圧降下算出部75は、仮想電圧降下ΔVを算出する。具体的には、仮想電圧降下算出部75は、上記の仮想電圧降下ΔVの算出と同様の方法で、仮想インピーダンスZ及び電力変換器電流Iinvに基づいて仮想電圧降下ΔVを算出する。
【0057】
仮想電圧降下ΔVが算出されると、第2電圧指令値出力部76は、第1電圧指令値Vref1及び仮想電圧降下ΔVに基づいて、第2電圧指令値Vref2を算出する。具体的には、第2電圧指令値出力部76は、上記の第2電圧指令値Vref2の算出と同様の方法で、第1電圧指令値Vref1から仮想電圧降下ΔVを差し引いた電圧指令値を、第2電圧指令値Vref2として出力し、電力変換器6が第2電圧指令値Vref2を出力するように、電力変換器6を制御する。
【0058】
系統電圧が復電すると、開閉制御部72は、開閉スイッチ3を投入するように、開閉スイッチ3及び電力変換器6を制御する。具体的には、開閉制御部72は、電力変換器6が出力する電流を0にするとともに、開閉スイッチ3を投入して、電力系統10及び負荷20を電気的に接続する。
【0059】
<実施例>
以下に、従来例における制御装置を用いたシミュレーション結果及び本実施形態における制御装置7を用いたシミュレーション結果を示す。なお、以下に示す何れの場合においても、インバータ電圧は電力変換器6が出力する電圧を示し、インバータ電流は電力変換器6が出力する電流を示す。
【0060】
従来例では、電力系統10に事故が発生する等といった異常が発生して、開閉スイッチ3が開放されると、制御装置が、負荷電圧の目標値と系統電圧の計測値との差に基づいて、電力変換器6が出力する電圧を制御する。この場合、電力系統10又は負荷20から一時的な過渡電流が発生すると、負荷電圧の目標値と系統電圧の計測値との差が大きくなる。その結果、図8に示すように、インバータ電流が定格電流(1pu)以上となる過電流が発生している。
【0061】
一方、本実施形態における制御装置7は、電力系統10に事故が発生する等といった異常が発生して、開閉スイッチ3が開放されると、第1電圧指令値算出部73は、第1電圧指令値Vref1を算出するとともに、仮想電圧降下算出部75が仮想インピーダンスZに基づく仮想電圧降下ΔVを算出する。そして、第2電圧指令値出力部76は、第1電圧指令値Vref1及び仮想電圧降下ΔVに基づいて、第2電圧指令値Vref2を算出する。その結果、図9に示すように、インバータ電流は定格電流(1pu)以下に制御され、過電流が発生しない。
【0062】
<本実施形態の効果>
本実施形態によれば、仮想インピーダンスZによる仮想電圧降下ΔVを算出し、第1電圧指令値Vref1から仮想電圧降下ΔVの分だけ差し引かれた第2電圧指令値Vref2が出力されるので、第1電圧指令値Vref1のみに基づいて電力変換器6を制御する場合と比較して、電力変換器6から出力される電圧が小さくなる。その結果、電力変換器6から流れる電流が小さくなるので、電力変換器6から過電流が流れることを防ぐことができる。
【0063】
また、電力変換器電流Iinvが閾値電流Ilimit以下の場合には仮想電圧降下ΔVが算出されず、電力変換器電流Iinvが閾値電流Ilimitを超えた場合に仮想電圧降下ΔVが算出されるので、第1電圧指令値Vref1を不要に差し引くことにより電力変換器6が出力する電圧を不要に小さくすることを防止することができ、負荷20の電圧を精度よく補償することができる。
【0064】
<その他の実施形態>
なお、本発明は前記実施形態に限られるものではない。
【0065】
前記実施形態において、電力変換器電圧測定部82は、注入トランスTと電力変換器6とからなる閉回路において、コンデンサ素子84と並列に設けられていたが、電力変換器電圧測定部82が設けられる位置はこれに限られない。例えば、図10に示すように、電力変換器電圧測定部82は、開閉スイッチ3が設けられる電力線Lに設けられ、開閉スイッチ3と並列に接続されるものであってもよい。この場合、回路インピーダンスZは、開閉スイッチ3、電力変換器6及び注入トランスTからなる回路のインピーダンスとなる。なお、第1電圧指令値Vref1、仮想インピーダンスZ、仮想電圧降下ΔV及び第2電圧指令値Vref2の算出方法は、前記実施形態と同様である。
【0066】
本実施形態において、開閉スイッチ3は、サイリスタスイッチであったが、その他のスイッチであってもよい。例えば、開閉スイッチ3は、半導体スイッチ、機械式スイッチ、又は、これらのハイブリッドスイッチであってもよい。
【0067】
本実施形態において、電源システム100は、スイッチ電流測定部5を備える構成であったが、スイッチ電流測定部5を備えない構成であってもよい。例えば、電源システム100は、スイッチ電流を0Aに収束させる、又は、スイッチ電流が0Aと交わるようにすればよい。
【0068】
その他、本発明は前記実施形態に限られず、その趣旨を逸脱しない範囲で種々の変形が可能であるのは言うまでもない。
【符号の説明】
【0069】
100 ・・・電源システム
10 ・・・電力系統
20 ・・・負荷
3 ・・・開閉スイッチ
4 ・・・系統電圧測定部
5 ・・・スイッチ電流測定部
6 ・・・電力変換器
7 ・・・制御装置
71 ・・・パラメータ取得部
72 ・・・開閉制御部
73 ・・・第1電圧指令値算出部
74 ・・・仮想インピーダンス算出部
75 ・・・仮想電圧降下算出部
76 ・・・第2電圧指令値出力部
L ・・・電力線
T ・・・注入トランス

図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
【手続補正書】
【提出日】2024-10-23
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
電力系統から負荷に給電するための電力線を開閉する開閉スイッチが開放される場合に、前記電力線に給電する電力変換器を制御する制御装置であって、
前記電力変換器から出力された電力変換器電圧、前記電力変換器から流れる電力変換器電流、及び、前記電力変換器が設けられる回路の回路インピーダンスを取得するパラメータ取得部と、
前記電力変換器が出力する電圧の指令値である第1電圧指令値を算出する第1電圧指令値算出部と、
前記第1電圧指令値と前記電力変換器電圧との電位差を前記電力変換器電流の位相と同期した電流である閾値電流で除した閾値インピーダンスを算出して、前記閾値インピーダンスから前記回路インピーダンスを差し引いた仮想インピーダンスを算出する仮想インピーダンス算出部と、
前記仮想インピーダンス及び前記電力変換器電流によって算出される仮想電圧降下を算出する仮想電圧降下算出部と、
前記第1電圧指令値から前記仮想電圧降下を差し引いた第2電圧指令値を出力して、前記電力変換器を制御する第2電圧指令値出力部とを備える制御装置。
【請求項2】
前記仮想電圧降下算出部は、前記電力変換器電流が前記閾値電流以下の場合に、前記仮想電圧降下を算出せず、前記電力変換器電流が前記閾値電流を超えた場合に、前記仮想電圧降下を算出する、請求項1に記載の制御装置。
【請求項3】
電力系統及び負荷の間に設けられ、前記負荷に電力を供給する電源システムであって、
電力系統から負荷に給電するための電力線を開閉する開閉スイッチと、
前記開閉スイッチが開放される場合に、前記電力線に給電する電力変換器と、
請求項1又は2に記載の制御装置とを備える、電源システム。
【請求項4】
電力系統から負荷に給電するための電力線を開閉する開閉スイッチが開放される場合に、前記電力線に給電する電力変換器を制御する制御方法であって、
前記電力変換器から出力された電圧である電力変換器電圧、前記電力変換器から流れる電流である電力変換器電流、及び、前記電力変換器が設けられる回路のインピーダンスである回路インピーダンスを取得し、
前記開閉スイッチが開放される場合に前記電力変換器が出力する第1電圧指令値を算出し、
前記第1電圧指令値と前記電力変換器電圧との電位差を前記電力変換器電流の位相と同期した電流である閾値電流で除したインピーダンスである閾値インピーダンスを算出し、
前記閾値インピーダンスから前記回路インピーダンスを差し引いたインピーダンスである仮想インピーダンスを算出し、
前記仮想インピーダンス及び前記電力変換器電流によって算出される仮想の電圧降下である仮想電圧降下を算出し、
前記第1電圧指令値から前記仮想電圧降下を差し引いた電圧指令値である第2電圧指令値を出力して、前記電力変換器を制御する、制御方法。