(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025036878
(43)【公開日】2025-03-17
(54)【発明の名称】超音波トランスデューサ
(51)【国際特許分類】
H04R 17/00 20060101AFI20250310BHJP
【FI】
H04R17/00 330J
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023143498
(22)【出願日】2023-09-05
(71)【出願人】
【識別番号】000006666
【氏名又は名称】アズビル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100098394
【弁理士】
【氏名又は名称】山川 茂樹
(72)【発明者】
【氏名】矢吹 紘久
【テーマコード(参考)】
5D019
【Fターム(参考)】
5D019GG01
5D019GG03
(57)【要約】
【課題】超音波トランスデューサの超音波振動子と音響レンズとの間に液体の層を配置する場合に、液体の層に適切な音響インピーダンスの材料を選択する。
【解決手段】音響レンズ102の厚さを、音響レンズ102の中における音波の波長の(2n-1)/4倍(nは整数)とし、液体層103の音響インピーダンスは、音響レンズ102の音響インピーダンスの2乗を、超音波が伝搬する媒質の音響インピーダンスで除した値と同等とする。また、音響レンズ102の厚さを、音響レンズ102の中における音波の波長のn/2倍(nは整数)とし、液体層103の音響インピーダンスは、超音波が伝搬する媒質の音響インピーダンスと同等とすることができる。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
超音波振動子と、
前記超音波振動子の超音波放射面に設けられた音響レンズと、
前記超音波振動子と前記音響レンズとの間に配置されて前記超音波振動子に接する液体層と
を備え、
前記音響レンズの厚さは、前記音響レンズの中における音波の波長の(2n-1)/4倍(nは整数)とされ、
前記液体層の音響インピーダンスは、前記音響レンズの音響インピーダンスの2乗を、超音波が伝搬する媒質の音響インピーダンスで除した値と同等とされている
超音波トランスデューサ。
【請求項2】
超音波振動子と、
前記超音波振動子の超音波放射面に設けられた音響レンズと、
前記超音波振動子と前記音響レンズとの間に配置されて前記超音波振動子に接する液体層と
を備え、
前記音響レンズの厚さは、前記音響レンズの中における音波の波長のn/2倍(nは整数)とされ、
前記液体層の音響インピーダンスは、超音波が伝搬する媒質の音響インピーダンスと同等とされている
超音波トランスデューサ。
【請求項3】
請求項1または2記載の超音波トランスデューサにおいて、
前記超音波振動子は、
基板の上に配置されて変位可能とされた薄膜から構成され、
前記薄膜に接して前記液体層が設けられ、
前記液体層を覆って前記音響レンズが形成されている
超音波トランスデューサ。
【請求項4】
請求項3記載の超音波トランスデューサにおいて、
前記薄膜は、圧電体から構成されている超音波トランスデューサ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、超音波トランスデューサに関する。
【背景技術】
【0002】
現在、振動する薄膜から構成された超音波トランスデューサに音響レンズを組み合わせる技術が開発されている(特許文献1)。この技術では、音波伝搬効率を向上させるために音響レンズを組み合わせている。また、超音波振動子と音響レンズとの間の音響波伝搬効率を改善するために、これらの間に液体の層を配置する技術も提案されている(特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特表2019-504547号公報
【特許文献2】特表2016-529835号公報
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】Ke Zhu et al., "Non-Contact Ultrasonic Flow Measurement for Small Pipes Based on AlN Piezoelectric Micromachined Ultrasonic Transducer Arrays", Journal of Microelectromechanical Systems , vol. 30, Issue:3, pp. 480-487, 2021.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、上述した液体の層には、音響レンズを構成する材料との組み合わせによって、適切な音響インピーダンスを持つ材料が選択される必要がある。
【0006】
本発明は、以上のような問題点を解消するためになされたものであり、超音波トランスデューサの超音波振動子と音響レンズとの間に液体の層を配置する場合に、液体の層に適切な音響インピーダンスの材料を選択することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る超音波トランスデューサは、超音波振動子と、超音波振動子の超音波放射面に設けられた音響レンズと、超音波振動子と音響レンズとの間に配置されて超音波振動子に接する液体層とを備え、音響レンズの厚さは、音響レンズの中における音波の波長の(2n-1)/4倍(nは整数)とされ、液体層の音響インピーダンスは、音響レンズの音響インピーダンスの2乗を、超音波が伝搬する媒質の音響インピーダンスで除した値と同等とされている。
【0008】
本発明に係る超音波トランスデューサは、超音波振動子と、超音波振動子の超音波放射面に設けられた音響レンズと、超音波振動子と音響レンズとの間に配置されて超音波振動子に接する液体層とを備え、音響レンズの厚さは、音響レンズの中における音波の波長のn/2倍(nは整数)とされ、液体層の音響インピーダンスは、超音波が伝搬する媒質の音響インピーダンスと同等とされている。
【0009】
上記超音波トランスデューサの一構成例において、超音波振動子は、基板の上に配置されて変位可能とされた薄膜から構成され、薄膜に接して液体層が設けられ、液体層を覆って音響レンズが形成されている。
【0010】
上記超音波トランスデューサの一構成例において、薄膜は、圧電体から構成されている。
【発明の効果】
【0011】
以上説明したように、本発明によれば、音響レンズおよび音波の伝搬対象である媒質の層材料に合わせて液体の層の音響インピーダンスを求めるので、超音波トランスデューサの超音波振動子と音響レンズとの間に配置する液体の層に適切な音響インピーダンスの材料を選択できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】
図1は、本発明の実施の形態に係る超音波トランスデューサの構成を示す断面図である。
【
図2】
図2は、本発明の実施の形態に係る他の超音波トランスデューサの構成を示す断面図である。
【
図3】
図3は、薄膜105の中心変位量の変化を示す特性図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施の形態に係る超音波トランスデューサについて
図1を参照して説明する。この超音波トランスデューサは、超音波振動子101、音響レンズ102、および液体層103を備える。
【0014】
超音波振動子101は、基板104の上に配置されて変位可能とされた薄膜105から構成することができる。薄膜105は、圧電体から構成することができる。基板104は、例えば、基体部106、埋め込み絶縁層107、表面シリコン層108を備えるSOI(Silicon on Insulator)基板とすることができる。基体部106には、開口106aが形成され、この領域において、薄膜105が変位可能とされている。超音波振動子101の外形は、例えば円柱形状することができる。また、開口106aの平面視の形状は、円形とすることができる。
【0015】
音響レンズ102は、超音波振動子101の超音波放射面に設けられている。例えば、薄膜105の表面側(表面シリコン層108に接していない面の側)に音響レンズ102が設けられている。音響レンズ102の外形は、超音波振動子101と同様に、例えば円柱形状することができる。
【0016】
液体層103は、超音波振動子101と音響レンズ102との間に配置されて超音波振動子101に接している。例えば、液体層103は、薄膜105と音響レンズ102との間に配置される。例えば、液体層103は、薄膜105に接して設けることができる。また、この例では、液体層103を覆って音響レンズ102が形成することで、液体層103を保持している。液体層103の外形は、音響レンズ102と同様に、例えば円柱形状することができる。
【0017】
また、
図2に示すように、基体部106の開口106aに液体層103を設け、基体部106の側に音響レンズ102を設けることができる。この場合、基体部106の開口106aを塞ぐように音響レンズ102を設け、液体層103を保持する構成とすることができる。
【0018】
液体層103を設けることで、
図3の(a)に示すように、液体層103を設けない場合(b)に比較して、薄膜105の中心変位量(Center Displacement)を拡大させることができる。
【0019】
さらに、実施の形態では、音響レンズ102の厚さを、音響レンズ102の中における音波の波長の(2n-1)/4倍(nは整数)とし、液体層103の音響インピーダンスは、音響レンズ102の音響インピーダンスの2乗を、超音波が伝搬する媒質の音響インピーダンスで除した値と同等としている。また、音響レンズ102の厚さを、音響レンズ102の中における音波の波長のn/2倍(nは整数)とした場合、液体層103の音響インピーダンスは、超音波が伝搬する媒質の音響インピーダンスと同等とすることができる。
【0020】
超音波の伝搬効率の計算においては、液体層103と音響レンズ102と音波(超音波)の伝搬対象である媒質の層(媒質層)との3層構造を設定する。液体層103の音響インピーダンスをR1、音響レンズ102の音響インピーダンスをR2、および媒質層の音響インピーダンスをR3とすると、この系における音波伝搬効率tIは、以下の式(1)により表すことができる(非特許文献1)。なお、式(1)において、k2=2π/λである。また、λは、音響レンズ102内の音波の波長である。また、Dは音響レンズ102の厚さである。
【0021】
【0022】
式(1)から、音波伝搬効率tIは、音響レンズ102の厚さDに依存するパラメータであることがわかる。
【0023】
次に、厚さDを代表的な値で場合分けし、液体層103の音響インピーダンスを試算する。
【0024】
[D=(2n-1)λ/4]
式(1)に厚さD=(2n-1)λ/4を代入すると、液体層103から媒質層への伝搬効率tIを最大にする条件は、以下の式(2)で示されるものとなることがわかる。
【0025】
【0026】
したがって、音響レンズ102の材料の音響インピーダンスR2、および媒質層の音響インピーダンスR3から、液体層103の音響インピーダンスR1が求められる。求められた音響インピーダンスと同等の音響インピーダンスの材料から液体層103を構成することで、伝搬効率を可能な限り高めることができる。
【0027】
[D=nλ/2]
上述した厚さD=(2n-1)λ/4は、音響インピーダンスR2が音響インピーダンスR3より大きい場合に式(2)に適合する材料が現実に得られやすくなるという意味で好適であるが、例えばクランプオン型の流量計のように音響インピーダンスR3が配管の音響インピーダンスに相当する場合は音響インピーダンスR3が大きくなるので、別の条件を採用することも可能である。このような場合、音響レンズ102の厚さをD=nλ/2とすることで解決できる。厚さD=nλ/2の条件では、伝搬効率tIは、式(1)から、以下の式(3)により表される。
【0028】
【0029】
伝搬効率が最大となる条件は、tI=1となる場合であることから、式(3)より、R1=R3となる。したがって、厚さD=nλ/2の条件では、媒質層の音響インピーダンスR3と同等の音響インピーダンスの材料から液体層103を構成することで、伝搬効率を可能な限り高めることができる。
【0030】
以上に説明したように、本発明によれば、音響レンズおよび音波の伝搬対象である媒質の層材料に合わせて液体の層の音響インピーダンスを求めるので、超音波トランスデューサの超音波振動子と音響レンズとの間に配置する液体の層に適切な音響インピーダンスの材料を選択できるようになる。
【0031】
なお、本発明は以上に説明した実施の形態に限定されるものではなく、本発明の技術的思想内で、当分野において通常の知識を有する者により、多くの変形および組み合わせが実施可能であることは明白である。
【符号の説明】
【0032】
101…超音波振動子、102…音響レンズ、103…液体層、104…基板、105…薄膜、106…基体部、106a…開口、107…絶縁層、108…表面シリコン層。