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特開2025-36933触媒、膜電極接合体、電解セル、電解装置及び触媒の製造方法
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  • 特開-触媒、膜電極接合体、電解セル、電解装置及び触媒の製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025036933
(43)【公開日】2025-03-17
(54)【発明の名称】触媒、膜電極接合体、電解セル、電解装置及び触媒の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C25B 11/095 20210101AFI20250310BHJP
   C25B 11/054 20210101ALI20250310BHJP
   C25B 11/085 20210101ALI20250310BHJP
   C25B 3/03 20210101ALI20250310BHJP
   C25B 3/26 20210101ALI20250310BHJP
   C25B 9/23 20210101ALI20250310BHJP
   C25B 9/00 20210101ALI20250310BHJP
   B01J 37/08 20060101ALI20250310BHJP
   B01J 37/02 20060101ALI20250310BHJP
   B01J 31/28 20060101ALI20250310BHJP
【FI】
C25B11/095
C25B11/054
C25B11/085
C25B3/03
C25B3/26
C25B9/23
C25B9/00 G
B01J37/08
B01J37/02 101Z
B01J31/28 M
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023143599
(22)【出願日】2023-09-05
(71)【出願人】
【識別番号】000000099
【氏名又は名称】株式会社IHI
(71)【出願人】
【識別番号】304021417
【氏名又は名称】国立大学法人東京科学大学
(74)【代理人】
【識別番号】100083806
【弁理士】
【氏名又は名称】三好 秀和
(74)【代理人】
【識別番号】100111235
【弁理士】
【氏名又は名称】原 裕子
(74)【代理人】
【識別番号】100170575
【弁理士】
【氏名又は名称】森 太士
(72)【発明者】
【氏名】川瀬 亮太郎
(72)【発明者】
【氏名】鎌田 博之
(72)【発明者】
【氏名】山中 一郎
【テーマコード(参考)】
4G169
4K011
4K021
【Fターム(参考)】
4G169AA03
4G169AA08
4G169BA08B
4G169BA22A
4G169BA22B
4G169BA27A
4G169BA27B
4G169BC66A
4G169BC66B
4G169BC67A
4G169BC67B
4G169BE01A
4G169BE01B
4G169BE16A
4G169BE16B
4G169BE38A
4G169BE38B
4G169BE39A
4G169CB02
4G169CB46
4G169CB62
4G169CC21
4G169CC22
4G169DA06
4G169EA02Y
4G169EA03Y
4G169EA11
4G169EA12
4G169EC28
4G169FA01
4G169FA02
4G169FA06
4G169FB14
4G169FB19
4G169FB30
4G169FB34
4K011AA69
4K011BA12
4K011DA10
4K021AC03
4K021AC05
4K021DB18
4K021DB31
4K021DB43
4K021DB53
(57)【要約】
【課題】二酸化炭素の電気分解によって炭化水素を合成するための、触媒、膜電極接合体、電解セル、電解装置及び触媒の製造方法を提供する。
【解決手段】触媒は、二酸化炭素の電気分解に使用される触媒であって、担体と、担体に担持されている、ポリ(4-ビニルピリジン)又は特定の化合物を含む、窒素含有複素芳香環化合物と、窒素含有複素芳香環化合物の複素芳香環上の窒素原子と配位しているコバルトイオンと、担体に担持されている、鉄フタロシアニン、鉄テトラフェニルポルフィリンクロリド及びコバルトフタロシアニンからなる群より選ばれる少なくとも1種の化合物と、を含む。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
二酸化炭素の電気分解に使用される触媒であって、
担体と、
前記担体に担持されている、ポリ(4-ビニルピリジン)又は一般式(1)
【化1】
(一般式(1)中、RがH又はアルキル基である。)
で表される化合物を含む、窒素含有複素芳香環化合物と、
前記窒素含有複素芳香環化合物の複素芳香環上の窒素原子と配位しているコバルトイオンと、
前記担体に担持されている、鉄フタロシアニン、鉄テトラフェニルポルフィリンクロリド及びコバルトフタロシアニンからなる群より選ばれる少なくとも1種の化合物と、
を含む、触媒。
【請求項2】
水を酸化して酸素を生成するアノードと、
二酸化炭素を還元して炭化水素を含む生成物を生成する、請求項1に記載の触媒を備えたカソードと、
前記アノード及び前記カソードの間に挟まれる電解質膜と、
を有する、膜電極接合体。
【請求項3】
前記電解質膜はプロトン交換膜である、請求項2に記載の膜電極接合体。
【請求項4】
前記炭化水素はメタン、エタン、プロパン、エチレン及びプロピレンからなる群より選ばれる少なくとも1種を含む、請求項2又は3に記載の膜電極接合体。
【請求項5】
請求項2又は3に記載の膜電極接合体を備える、電解セル。
【請求項6】
請求項5に記載の電解セルを備える、電解装置。
【請求項7】
二酸化炭素の電気分解に使用される触媒の製造方法であって、
ポリ(4-ビニルピリジン)-コバルト錯体を、担体上で焼成して前記担体に担持させた後に、鉄フタロシアニン、鉄テトラフェニルポルフィリンクロリド及びコバルトフタロシアニンからなる群より選ばれる少なくとも1種の化合物を前記担体に担持する工程を含む、触媒の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、触媒、膜電極接合体、電解セル、電解装置及び触媒の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
二酸化炭素は、地球温暖化の原因として問題視されており、世界的に二酸化炭素の排出を抑制する動きが活発化している。大気中への二酸化炭素の排出量を削減し、二酸化炭素を有効に利用する方法として、再生可能エネルギー由来の電力を用いて二酸化炭素及び水を、一酸化炭素などの還元生成物及び酸素へ電気分解し、循環利用する方法が知られている。
【0003】
二酸化炭素の電気化学的還元は、従来アルカリ環境下で酸化銅又は銀などのカソード触媒を用いて実施されていた。アルカリ環境下では触媒材料の選択肢が多いものの、二酸化炭素がアルカリに溶解して不純物となる炭酸塩を生成してしまうという問題がある。一方、特許文献1では、酸性環境下でコバルト錯体系触媒及びプロトン交換膜を用いて、二酸化炭素の電気化学的還元を実施する方法が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2021-138994号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1では、酸性環境下で使用できる触媒が限られており、還元生成物の選択性が一酸化炭素及び水素に限られている。そのため、二酸化炭素の電気分解によって、燃料又は化学原料として応用可能である炭化水素を合成することが課題となっていた。
【0006】
本開示は、二酸化炭素の電気分解によって炭化水素を合成するための、触媒、膜電極接合体、電解セル、電解装置及び触媒の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示に係る触媒は、二酸化炭素の電気分解に使用される触媒であって、担体と、担体に担持されている、ポリ(4-ビニルピリジン)又は一般式(1)
【化1】
(一般式(1)中、RがH又はアルキル基である。)
で表される化合物を含む、窒素含有複素芳香環化合物と、窒素含有複素芳香環化合物の複素芳香環上の窒素原子と配位しているコバルトイオンと、担体に担持されている、鉄フタロシアニン、鉄テトラフェニルポルフィリンクロリド及びコバルトフタロシアニンからなる群より選ばれる少なくとも1種の化合物と、を含む。
【0008】
本開示に係る膜電極接合体は、水を酸化して酸素を生成するアノードと、二酸化炭素を還元して炭化水素を含む生成物を生成する、触媒を備えたカソードと、アノード及び前記カソードの間に挟まれる電解質膜と、を有していてもよい。
【0009】
電解質膜はプロトン交換膜であってもよい。
【0010】
炭化水素はメタン、エタン、プロパン、エチレン及びプロピレンからなる群より選ばれる少なくとも1種を含んでいてもよい。
【0011】
本開示に係る電解セルは、膜電極接合体を備えていてもよい。
【0012】
本開示に係る電解装置は、電解セルを備えていてもよい。
【0013】
本開示に係る触媒の製造方法は、二酸化炭素の電気分解に使用される触媒の製造方法であって、ポリ(4-ビニルピリジン)-コバルト錯体を、担体上で焼成して担体に担持させた後に、鉄フタロシアニン、鉄テトラフェニルポルフィリンクロリド及びコバルトフタロシアニンからなる群より選ばれる少なくとも1種の化合物を担体に担持する工程を含む。
【発明の効果】
【0014】
本開示によれば、二酸化炭素の電気分解によって炭化水素を合成するための、触媒、膜電極接合体、電解セル、電解装置及び触媒の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】二酸化炭素の電気化学的還元の原理を示す模式図である。
図2】電解セルの一例を示し、電解特性の評価を行う実験装置の概略図である。
図3】電極の作製手順を示す概略図である。
図4】膜電極接合体を示す概略図である。
図5】電解セルの構成を示す概略図である。
図6】電解セルの部品を示す概略図である。
図7】膜電極接合体の電解セルへの固定方法を示す概略図である。
図8】鉄フタロシアニン又は鉄テトラフェニルポルフィリンクロリドを使用した複合触媒による、二酸化炭素の電解特性を示すグラフである。
図9】鉄フタロシアニン又はコバルトフタロシアニンを使用した複合触媒による、二酸化炭素の電解特性を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、いくつかの例示的な実施形態について、図面を参照して説明する。なお、図面の寸法比率は説明の都合上誇張されており、実際の比率とは異なる場合がある。
【0017】
(触媒)
本実施形態に係る触媒は、二酸化炭素の電気分解に使用される触媒である。また、触媒は、担体と、担体に担持されている、ポリ(4-ビニルピリジン)又は上記一般式(1)で表される化合物を含む、窒素含有複素芳香環化合物と、窒素含有複素芳香環化合物の複素芳香環上の窒素原子と配位しているコバルトイオンと、を含む。さらに、触媒は、担体に担持されている、鉄フタロシアニン、鉄テトラフェニルポルフィリンクロリド及びコバルトフタロシアニンからなる群より選ばれる少なくとも1種の化合物を含む。触媒は、二酸化炭素の電気分解におけるカソード触媒として使用され、後述のアノード触媒とは異なる。
【0018】
触媒は担体を含む。触媒に含まれる担体は、導電性を示し、かつ、窒素含有複素芳香環化合物を担持できる多孔質のものであれば特に限定されないが、例えばカーボン又は導電性セラミックスが挙げられる。カーボンとしては、ケッチェンブラック、アセチレンブラック、カーボンブラック、カーボンナノチューブ、グラフェン、フラーレンなどを挙げることができる。導電性セラミックスとしては、酸化チタン、酸化スズなどを挙げることができる。
【0019】
触媒は、担体に担持されている、ポリ(4-ビニルピリジン)(以下、P4VPy)又は上記一般式(1)で表される化合物を含む、窒素含有複素芳香環化合物と、窒素含有複素芳香環化合物の複素芳香環上の窒素原子と配位しているコバルトイオンと、を含む。P4VPyは、上記一般式(1)のRが-CH-CH-の場合で、繰り返し単位を有するポリマーである。一方、上記一般式(1)で表される化合物は、P4VPyの一部が熱分解して生成されたものである。
【0020】
P4VPyはコバルトイオンと錯体形成し、ポリ(4-ビニルピリジン)-コバルト錯体(以下、Co-P4VPy)を形成する。その後、担体上で焼成して担体に担持させる。担体上で焼成する際に、P4VPyの一部が熱分解することにより、上記一般式(1)で表される化合物が生成される。したがって、担体に担持させた後のCo-P4VPyにおける窒素原子は、P4VPy由来の窒素原子又は上記一般式(1)で表される化合物由来の窒素原子が存在し、それぞれコバルトイオンに配位していると考えられる。
【0021】
触媒はさらに、担体に担持されている、鉄フタロシアニン(以下、FePc)、鉄テトラフェニルポルフィリンクロリド(以下、FeTPPCl)及びコバルトフタロシアニン(以下、CoPc)からなる群より選ばれる少なくとも1種の化合物を含む。Co-P4VPyを担体に担持させた後に、FePc、FeTPPCl及びCoPcからなる群より選ばれる少なくとも1種の化合物を担体に担持させることにより、複合触媒として調製される。この複合触媒を二酸化炭素の電気分解におけるカソード触媒に使用することで、Co-P4VPyと、共触媒として作用するFePc、FeTPPCl又はCoPcと、が協奏的に働き、二酸化炭素の還元によって炭化水素を含む生成物が合成される。
【0022】
反応スキームとしては次のことが考えられる。Co-P4VPyは、P4VPyがコバルトイオンと錯体形成することで形成しており、錯体部はCo-NC結合をもつ。錯体部は還元反応の活性点として作用し、二酸化炭素を還元して反応中間体が生成する。そして、その反応中間体が、共触媒として作用するFePc、FeTPPCl又はCoPc上に移動して多電子還元反応が進行して、炭化水素の生成が促進すると考えられる。二酸化炭素を還元して生成する炭化水素とは、後述の通り反応式(4)~(8)に示すように、メタン、エタン、プロパン、エチレン及びプロピレンからなる群より選ばれる少なくとも1種を含んでいてもよい。また、CoPcを使用した場合は、炭化水素の生成が促進されるだけではなく、電解性能が向上する。
【0023】
触媒においては、配位している窒素原子とコバルトイオンとの間の距離が2.0Å以上3.0Å以下であることが好ましく、2.0Å以上2.5Å以下であることがより好ましく、2.0Å以上2.2Å以下であることがさらにより好ましい。このような距離でコバルトイオンに配位した窒素含有複素芳香環化合物が担体上に固定されることによって、コバルトの還元活性をより高めることができる。
【0024】
(触媒の製造方法)
本実施形態に係る触媒の製造方法は、二酸化炭素の電気分解に使用される触媒の製造方法である。触媒の製造方法は、Co-P4VPyを担体上で焼成して担体に担持させた後に、FePc、FeTPPCl及びCoPcからなる群より選ばれる少なくとも1種の化合物を担体に担持する工程を含む。ここで、窒素含有複素芳香環化合物及び担体は、上述した触媒の実施形態におけるものと同じである。
【0025】
Co-P4VPyを調製する方法は特に限定されないが、例えば、P4VPy及びコバルト塩を溶媒に分散させることによって行うことができる。また、P4VPy及びコバルト塩のそれぞれを溶媒に分散させ、2つの分散液を混合することによって、Co-P4VPy溶液を調製してもよい。
【0026】
Co-P4VPyの担体への担持方法は特に限定されないが、例えば、上記の通り得られたCo-P4VPy溶液に担体を添加して混合し、含浸担持することができる。その後、例えば蒸発乾固によって溶媒を除去して乾燥させて、Co-P4VPyが担持された担体を得ることができる。
【0027】
本実施形態に係る触媒の製造方法においては、Co-P4VPyを担体上で焼成して担体に担持させる。焼成温度は、600K~873Kであることが好ましく、600K~800Kであることがより好ましい。焼成温度を上記範囲内にすることによって、コバルトの還元活性をさらに高めることができる。焼成は1回でもよいが、コバルト錯体を担体により適切に固定するという観点から、温度を変更して2回以上行ってもよい。焼成時間は特に限定されず、例えば1時間~10時間の間で適宜設定することができる。
【0028】
焼成によって形成された触媒は、触媒の形成の際に副生成物として酸化コバルト又は金属コバルトが担体上に生成される可能性があるため、酸性水溶液を用いて、洗浄することが好ましい。酸性水溶液は、触媒の活性に影響を与えることなく、酸化コバルト又は金属コバルトを除去できるものであれば特に限定されないが、例えば、硝酸、硫酸、塩酸などが挙げられ、硝酸を用いて洗浄することが好ましい。
【0029】
本実施形態に係る触媒の製造方法は、Co-P4VPyを担体上で焼成して担体に担持させた後に、FePc、FeTPPCl及びCoPcからなる群より選ばれる少なくとも1種の化合物を担体に担持する工程を含む。共触媒として作用するFePc、FeTPPCl又はCoPcを担体に担持する方法は特に限定されないが、例えば、FePc、FeTPPCl又はCoPcの溶液に、担体に担持させたCo-P4VPyを加えて含浸担持することができる。そして、得られた粉末を乾燥させることにより、複合触媒を調製することができる。この複合触媒は、二酸化炭素の電気分解におけるカソード触媒として使用することができる。
【0030】
なお、異なる共触媒を使用した複合触媒を混合して使ってもよい。例えば、FePcを使用した複合触媒及びFeTPPClを使用した複合触媒を、それぞれ調製後に混合してカソード触媒として使用してもよい。また、触媒調製時に複数の共触媒を添加してもよい。例えば、上記方法で共触媒を担体に担持するとき、FePc及びFeTPPClを含む溶液に、担体に担持させたCo-P4VPyを加えて複合触媒を作製して、カソード触媒として使用してもよい。
【0031】
(二酸化炭素還元システム)
図1は、二酸化炭素の電気化学的還元の原理を示す模式図である。二酸化炭素還元システムは、水を酸化して酸素を生成するアノード室10と、二酸化炭素を還元して炭化水素を含む生成物を生成するカソード室20と、アノード室10及びカソード室20の間に挟まれる電解質膜30と、を有する。
【0032】
図2は、本実施形態に係る電解セル1の一例であり、後述のように電解特性の評価を行うための実験装置を示す。電解セル1は本実施形態に係る膜電極接合体を備えていてもよい。電解セル1は、アノード11を備え、水の酸化反応を行うアノード室10と、カソード21を備え、二酸化炭素の還元反応を行うカソード室20と、アノード室10及びカソード室20の間に挟まれる電解質膜30(31)と、を有する。そして、電解セル1は、図4のように、電解質膜31をアノード11及びカソード21が接するように挟み込んだ膜電極接合体2を備える。すなわち、膜電極接合体2は、水を酸化して酸素を生成するアノード11と、二酸化炭素を還元して炭化水素を含む生成物を生成する、上記カソード触媒を備えたカソード21と、アノード11及びカソード21の間に挟まれる電解質膜31と、を有していてもよい。
【0033】
そして、アノード11及びカソード21の間にはポテンシオスタット(Potentiostat)が接続されている。カソード21は、二酸化炭素を還元して炭化水素を生成する電極である。アノード11は、水を酸化して、酸素及び水素イオンを生成する電極である。カソード21で還元反応を生じさせるために、カソード21はポテンシオスタットの負極端子に接続されている。アノード11で酸化反応を生じさせるために、アノード11はポテンシオスタットの正極端子に接続されている。
【0034】
ポテンシオスタットからアノード11に電位を印加すると、アノード11では水(HO)の酸化反応が進行し、以下の反応式(2)で表されるように、酸素(O)が発生し、水素イオン(H)及び電子(e)が生成される。
2HO→4H+O+4e (2)
【0035】
アノード11側で生成された水素イオンは、プロトンを伝導する電解質膜31を介してカソード21に到達する。ポテンシオスタットからカソード21に供給される電子とカソード21に移動した水素イオンとによって、カソード21では二酸化炭素(CO)の還元反応が生じる。具体的には、以下の反応式(3)~(9)に示すように、各種還元生成物と水が生成する。二酸化炭素の還元によって、反応式(3)は一酸化炭素、反応式(4)はメタン、反応式(5)はエタン、反応式(6)はプロパン、反応式(7)はエチレン、反応式(8)はプロピレン、反応式(9)はアセトアルデヒドがそれぞれ生成することを示している。また、副反応として以下の反応式(10)に示すように、水素イオンが直接還元される水素生成反応が進行する。
CO+2H+2e→CO+HO (3)
CO+8H+8e→CH+2HO (4)
2CO+14H+14e→C+4HO (5)
3CO+20H+20e→C+6HO (6)
2CO+12H+12e→C+4HO (7)
3CO+18H+18e→C+6HO (8)
2CO+10H+10e→CHCHO+3HO (9)
2H+2e→H (10)
【0036】
(カソード)
カソード21は、上記の触媒を備えていることから、二酸化炭素の還元によって炭化水素を含む生成物が合成される。
【0037】
カソード21の形状は特に限定されず、例えば、板状、メッシュ状、ワイヤ状、粒子状、多孔質状、薄膜状、島状などの様々な形状を挙げることができる。例えば、カソード21は、触媒を基材表面に配置することによって形成することができる。触媒を配置する基材の例としては、カーボンペーパーなどを挙げることができる。また、例えばカソードは、触媒そのものを成形することによって形成することができる。
【0038】
カソード室20には、カソード21によって還元する二酸化炭素が供給される。還元する二酸化炭素はCOガスのような気体であっても、二酸化炭素を含む溶液の形態であってもよい。溶液の形態である場合、二酸化炭素の吸収率が高い溶液を用いるのが好ましい。そのような溶液の例としては、LiHCO、NaHCO、KHCO、CsHCO、LiCO、NaCO、KCO、CsCOなどの水溶液を挙げることができる。また、メタノール、エタノール、アセトンなどのアルコール類の溶媒を用いて二酸化炭素を含む溶液としてもよい。二酸化炭素を含む溶液は、二酸化炭素の還元電位を上昇させ、イオン伝導性が高く、二酸化炭素を吸収する二酸化炭素吸収剤を含む溶液であることが望ましい。そのような溶液の例として、イミダゾリウムイオン又はピリジニウムイオンなどの陽イオンと、BF 又はPF などの陰イオンとの塩から構成され、幅広い温度範囲で液体状態であるイオン液体又はその水溶液を挙げることができる。その他の溶液としては、エタノールアミン、イミダゾール、ピリジンなどのアミン溶液またはその水溶液を挙げることができる。なお、アミンは、一級アミン、二級アミン、三級アミンのいずれであってもよい。
【0039】
(アノード)
アノード室10には、アノード11によって酸化する水が供給される。酸化する水として、イオン交換水又は純水を用いることができる。イオン交換水又は純水の代わりに、任意の電解質を含む水溶液を用いてもよく、水の酸化反応を促進する水溶液を用いることが好ましい。そのような水溶液の例としては、硫酸、硝酸、過塩素酸、塩酸が挙げられる。
【0040】
アノード11は、水を酸化して酸素及び水素イオンを生成することが可能な材料であれば特に限定されず、公知の材料から構成することができる。そのような材料の例としては、イリジウム、白金、パラジウム、ニッケルなどの金属、それらの金属を含む合金又は金属間化合物、酸化イリジウム、酸化マンガン、酸化ニッケル、酸化コバルト、酸化鉄、酸化スズ、酸化インジウム、酸化ルテニウムなどの二元系金属酸化物、Ni-Co-O、Ni-Fe-O、La-Co-O、Ni-La-O、Sr-Fe-Oなどの三元系金属酸化物、Pb-Ru-Ir-O、La-Sr-Co-Oなどの四元系金属酸化物、Ru錯体又はFe錯体などの金属錯体を挙げることができる。アノード11には、板状、メッシュ状、ワイヤ状、粒子状、多孔質状、薄膜状、島状等の各種形状を適用することができる。アノード11は、これらの材料を基材上に積層した複合電極であってもよい。
【0041】
(電解質膜)
電解質膜31は、カソード21とアノード11との間でイオンを移動させることができる材料から構成されていればよく、材料の種類は特に限定されない。電解質膜31はプロトン交換膜であってもよい。電解質膜31の例としては、Nafion(登録商標、Du pont社製)、Flemion(登録商標、AGC(株)製)、Aciplex(登録商標、旭化成(株)製)などを挙げることができる。
【0042】
なお、図2に示す電解セルの構成は一例に過ぎず、上記実施形態に係る触媒を備えたカソードを用いて二酸化炭素の還元反応を行うことが可能なシステムであれば様々な変形が可能である。例えば、図2に示す電解セルは、アノード11とカソード21との間に、電解質膜31がアノード11及びカソード21に接するように配置されているが、アノード11及びカソード21が電解質膜31から離れていてもよい。また、例えば、アノード11及びカソード21が電解液と接するように、電解液を流通させる電解液流路を備えていてもよい。これら以外にも種々の変形が可能である。
【0043】
(電解装置)
本実施形態に係る電解装置は、電解セル1を備えていてもよい。電解装置は、電解セル1を備えることで、二酸化炭素の排出量削減及び有効利用のために、二酸化炭素を炭化水素へと電気分解する二酸化炭素還元システムに適用できる。そして、電解装置には、複数の電解セルを積層させたスタックなど、電解セル1をスケールアップした装置が含まれる。
【0044】
以下、本実施形態に係る触媒、膜電極接合体、電解セル、電解装置及び触媒の製造方法について実施例により更に詳細に説明するが、これら実施例に限定されるものではない。
【実施例0045】
(Co-P4VPyの調製)
カソード触媒を作製するために、まずCo-P4VPyの調製を行った。P4VPy(重量平均分子量60000、シグマアルドリッチ社製)80mgをエタノール(試薬特級、富士フイルム和光純薬(株)製)に加え、十分に溶解させた。一方で、硝酸コバルト6水和物(試薬特級、富士フイルム和光純薬(株)製)をエタノール(試薬特級、富士フイルム和光純薬(株)製)に溶解させ、濃度が40mMとなるようにコバルト溶液を調製した。上記の通り作製した、エタノールにP4VPyを溶解させた溶液に、コバルト溶液1.70mLを加えて、さらにエタノールを加えて全量を50mLとし、15分間撹拌して錯体形成を行った。
【0046】
(Co-P4VPyの担体への担持)
ケッチェンブラック担体107.6mg(カーボンECP、ライオン・スペシャリティ・ケミカルズ(株)製)を、上記Co-P4VPyの調製後の溶液に混合して含浸担持を行った。その後、ホットプレートで攪拌しながら343Kで加熱、蒸発乾固した。得られた粉末をホットプレート上に置き、空気中、343Kで16時間乾燥した。そして、この粉末を平底型の石英製反応器に入れ、電気炉にてアルゴンを20mL/min流しながら、昇温速度25K/min、423Kで1時間、その後673K又は773Kで3時間熱分解処理を行い、触媒を調製した。以下、この触媒をCo-P4VPy/KB(TK)と表記する。ここで、Tは熱分解時の温度を表し、673又は773である。
【0047】
(カソード触媒の精製)
0.1M硝酸中にCo-P4VPy/KB(TK)を加え、時計皿で蓋をして1時間撹拌した。この懸濁液を孔径0.1μmのメンブレンフィルターを用いて減圧濾過した。濾液が中性となるまでイオン交換水で洗浄し、2-プロパノール20mLで3回洗浄した。濾別した粉体を353Kで1時間減圧乾燥し、触媒粉末を得た。
【0048】
(カソード触媒の調製)
Co-P4VPyを担体に担持させた後に、FePc、FeTPPCl及びCoPcからなる群より選ばれる少なくとも1種の化合物を担体に担持させ、複合触媒を調製した。そして、調製した複合触媒はカソード触媒として電解特性の評価に使用した。
【0049】
FePcを共触媒として添加した複合触媒の調製方法について説明する。まず、FePcをFe基準で2重量%相当となるよう秤量し、これにジクロロメタン60mLを加え、ホットスターラー上で30分間撹拌し十分に溶解させた。得られた溶液に、Co-P4VPy/KB(TK)を加え含浸担持を行った。そして、得られた粉末をホットプレート上に置き、343Kで16時間乾燥した。さらに、乾燥させた粉末を、メノウ乳鉢で均一に混合して複合電極触媒を調製した。調製した複合電極触媒は、FePc/(Co-P4VPy/KB(TK))と表記する。
【0050】
なお、FeTPPClを共触媒として添加した複合触媒についても、上記調製方法において、FePcの代わりにFeTPPClを用いた以外は同様にして調製した。調製した複合電極触媒は、FeTPPCl/(Co-P4VPy/KB(TK))と表記する。
【0051】
さらに、CoPcを共触媒として添加した複合触媒についても、上記調製方法において、FePcの代わりにCoPcを用いて、Co基準で2重量%相当となるよう秤量した以外は同様にして調製した。調製した複合触媒は、CoPc/(Co-P4VPy/KB(TK))と表記する。
【0052】
(アノード触媒の調製)
まず、イリジウム60mg相当の塩化イリジウム水溶液を全量が60mLとなるようにイオン交換水で希釈した。そして、塩化イリジウム水溶液にケッチェンブラック担体240mgを加え含浸担持を行った。得られた粉末をホットプレート上に置き、空気中、343Kで16時間乾燥した。そして、この粉末を平底型の石英製反応器に入れ、電気炉にて水素を20mL/min流しながら、昇温速度25K/min、423Kで1時間、その後573Kで2時間水素還元処理を行い、触媒を調製した。
【0053】
(電極の作製)
上記の通り調製したカソード触媒及びアノード触媒を用いて電極を作製した。具体的には、ガス拡散電極に触媒インクをコーティングすることにより、カソード21及びアノード11を作製した。表1に示す組成比で、図3のように、カソード触媒又はアノード触媒、10重量%Nafion溶液(シグマアルドリッチ社製)及びアセトンをサンプル瓶に秤量した。これを超音波照射によって撹拌し、触媒インクを調製した。さらに、この触媒インクを直径16mmのカーボンペーパー100(SGLカーボン社製)の撥水層側の面に均一に塗布した。塗布した電極について10分間減圧乾燥を行い、溶媒のアセトンを十分に除去して、カソード21及びアノード11を作製した。
【0054】
【表1】
【0055】
(電解質膜の前処理)
電解質膜31にはNafion117(Du pont社製)を使用した。適切な形に切り出した電解質膜27枚を3%過酸化水素で1時間煮沸し、膜中の油分および有機物を除去した。次に、イオン交換水で1時間、2N硫酸で1時間煮沸し、膜中の金属イオンを水素イオンに置換した。さらに、イオン交換水で1時間煮沸し、処理した電解質膜31をイオン交換水中で保存した。
【0056】
(膜電極接合体の作製)
図4のように、電解質膜31をカソード21及びアノード11が接するように挟み込み、413K、30MPaで10分間ホットプレスし、膜電極接合体を作製した。その後、電解ユニットをイオン交換水に5分間浸し、十分な水分を電解質膜31に吸収させた。
【0057】
(評価セルの作製)
電解特性の評価セルは、図5に示したセルパーツを組み立てて使用した。電解ユニットの電極と集電体を物理的に接触させて電気的導通を確保した。集電体41は、図6(c)~(e)に示すように、直径3mmの穴をあけた円形のテフロン(登録商標)板50(直径16mm、厚さ1mm)を、金メッシュ42((株)くればぁ製、200mesh)で包んで作製した。一方、集電体41を固定して外部回路と接続するために、図6(b)に示すテフロン板52を用いた。直径56mmのテフロン板52は、中央に幅2mmの十字型を残して穴を開けたもので、十字の部分に金リード線を巻くことで集電体の固定と回路の接続をしている。さらに気密性を保つため、図6(a)に示すテフロン板51及び厚さ5mmのシリコンシート(不図示)を図5の順に取り付け、フランジを用いてボルト及びナットで締め付けて固定した。
【0058】
電位の測定及び制御を行うために参照極を接続した。参照極を接続するため、アノード11側のテフロン板51及び電解質膜31を図7のように切り出した。電解質膜31を下に伸ばした脚の部分は幅5mm、長さ57mmであった。電解質膜31を下に伸ばした脚の部分と液絡を通した参照極を0.5M硫酸に浸すことで、電極及び参照極を接続した。参照極にはAg/AgCl電極(東亜ディーケーケー(株)製、+0.199V vs. SHE)を使用し、液絡には飽和KCl溶液を用いた。また、電解質膜31を下に伸ばした脚の部分は、図7のようにテフロン板53で固定した。
【0059】
(二酸化炭素電解反応)
上記の通り得られた評価セルを用いて、以下の手順で二酸化炭素電解反応を行い、電解特性を評価した。具体的には、ポテンシオスタット(北斗電工(株)製、HZ5000)を用いてカソード電位を制御して定電位電解実験を実施した。図2に示すように、アノード室10にはイオン交換水を注入し、イオン交換水の中にアルゴンガスを流通させ、ガスの排出(Vent)を行った。一方、カソード室20にはCOガスを流通させ、COガスを還元して生成したガスをガスクロマトグラフ(以下、GC)に導入し、定量分析を行った。電解反応を開始する前にアノード室10にはアルゴンガスを20mL/min、カソード室20にはCOガスを10mL/minで15分以上流通させた。実験条件は、表2に示した通りである。
【0060】
【表2】
【0061】
(生成物質の分析方法)
各電位で30分間ずつ反応を行い、各電位での反応開始30分後の出口ガスをGC(GC-8A、(株)島津製作所製)に導入し、定量分析を行った。
【0062】
COの定量分析は、反応中にカソード室20からの出口ガスをガスタイトシリンジにより1.0mL分取し、GCに注入して分析した。GCの分析条件は、表3に示した通りである。
【0063】
【表3】
【0064】
得られた濃度をCOガス供給速度及び電極面積を加味することにより、CO生成速度r(CO)[μmol/h/cm]を算出した。反応式(3)より、COからCOへの還元が2電子反応であることを考慮し、CO生成速度r(CO)を以下の計算式(11)に従ってCO生成電流密度ICOに換算した。
CO[mA/cm]=r(CO)[μmol/h/cm]×96485[C/mol]×2×1/3600[s/h] (11)
【0065】
CO生成のファラデー効率FE(CO)は、CO生成電流密度ICO及び全電流密度I[mA/cm]を用いて以下の計算式(12)により算出した。ファラデー効率とは、全電流に対する各物質の生成に寄与した部分電流の割合を示す。
FE(CO)[%]=ICO/I×100 (12)
【0066】
炭化水素の定量分析は、反応中にカソード室20からの出口ガスをガスタイトシリンジにより2.0mL分取し、GCに注入して分析した。GCの分析条件は、表3に示した通りである。
【0067】
各炭化水素について生成速度及びファラデー効率の計算を、COの場合の計算式(11)及び(12)と同様に行った。ただし、反応電子数はそれぞれ反応式(4)~(9)に示す値を用いることとし、計算式(11)における2の値をそれぞれの反応電子数に変更した。
【0068】
図8は、FePc又はFeTPPClを共触媒として添加した複合触媒による、二酸化炭素の電解特性を示すグラフである。実施例として、FePc/(Co-P4VPy/KB(673K))、FePc/(Co-P4VPy/KB(773K))、FeTPPCl/(Co-P4VPy/KB(673K))及びFeTPPCl/(Co-P4VPy/KB(773K))を使用した。一方、比較例として、共触媒を使用しないCo-P4VPy/KB(673K)及びCo-P4VPy/KB(773K)を使用した。図8において、一番左のグラフは各触媒における全電流密度I[mA/cm]に相当する値を示し、その他のグラフは各生成物質における、生成速度及びファラデー効率を示した。FePc/(Co-P4VPy/KB(673K))については、メタン、エタン及びプロパンの生成速度及びファラデー効率が大きくなる傾向が見られた。FePc/(Co-P4VPy/KB(773K))については、メタンの生成速度及びファラデー効率が大きくなる傾向が見られた。また、FeTPPClを使用した複合触媒については、エタン及びプロパンの生成速度又はファラデー効率が大きくなる傾向が見られた。一方、FePc及びFeTPPClを使用していないCo-P4VPyについては、一酸化炭素の生成速度及びファラデー効率は大きいが、炭化水素の生成にはあまり寄与しないことが分かった。よって、複合触媒を使用した場合は、一酸化炭素の生成が抑制され、炭化水素の生成が促進されていることが分かった。
【0069】
図9は、FePc又はCoPcを共触媒として添加した複合触媒による、二酸化炭素の電解特性を示すグラフである。実施例として、FePc及びCoPcと表示したグラフは、それぞれFePc/(Co-P4VPy/KB(673K))及びCoPc/(Co-P4VPy/KB(673K))を示す。一方、比較例として、共触媒を使用しないnone(Co-P4VPy/KB)を使用した。さらに比較例として、上記調製方法でFePcの代わりに、MnPc(マンガンフタロシアニン)、NiPc(ニッケルフタロシアニン)、CuPc(銅フタロシアニン)又はZnPc(亜鉛フタロシアニン)を用いた以外は同様にして調製した複合触媒を使用した。図9において、左上のグラフは各触媒における全電流密度I[mA/cm]に相当する値を示し、その他のグラフは各生成物質における、生成速度及びファラデー効率を示した。FePcを使用した複合触媒については、メタン、エタン、プロパン、エチレン及びプロピレンの、生成速度又はファラデー効率が大きくなる傾向が見られた。また、CoPcを使用した複合触媒については、メタン、エタン、プロパン、アセトアルデヒド、エチレン及びプロピレンの、生成速度又はファラデー効率が大きくなる傾向が見られた。一方、比較例のうち、共触媒を使用しないCo-P4VPy/KBについては、一酸化炭素の生成速度及びファラデー効率は大きいが、炭化水素の生成にはあまり寄与しないことが分かった。また、その他の比較例で、FePc及びCoPc以外を共触媒として添加した複合触媒については、生成速度及びファラデー効率が特に大きい炭化水素は検出されず、炭化水素の生成にはあまり寄与しないことが分かった。
【0070】
図9において、CoPcを使用した複合触媒については全電流密度が最も大きかった。CoPc以外を共触媒として添加した複合触媒の全電流密度が100mA/cm以下であり、共触媒を使用しないCo-P4VPy/KBの全電流密度が約130mA/cmであった。それに対し、CoPc/(Co-P4VPy/KB(673K))の全電流密度は約200mA/cmであった。このことから、CoPcを使用した複合触媒については、炭化水素の生成が促進されるだけではなく、電解性能が向上することが分かった。
【0071】
このように、Co-P4VPyに対して、共触媒としてFePc、FeTPPCl又はCoPcを添加した複合触媒をカソード触媒として使用することにより、二酸化炭素の電気分解によって炭化水素を合成することができた。また、CoPcを使用した複合触媒においては電解性能が向上した。
【0072】
いくつかの実施形態を説明したが、上記開示内容に基づいて実施形態の修正または変形をすることが可能である。上記実施形態のすべての構成要素、及び請求の範囲に記載されたすべての特徴は、それらが互いに矛盾しない限り、個々に抜き出して組み合わせてもよい。
【0073】
本開示は、例えば、国際連合が主導する持続可能な開発目標(SDGs)の目標7『すべての人々の、安価かつ信頼できる持続可能な近代的エネルギーへのアクセスを確保する』及び目標13『気候変動及びその影響を軽減するための緊急対策を講じる』に貢献することができる。
【符号の説明】
【0074】
1 電解セル
2 膜電極接合体
11 アノード
21 カソード
31 電解質膜
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9