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特開2025-37002異形断面ガラス繊維用ノズル、ガラス繊維製造装置および製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025037002
(43)【公開日】2025-03-17
(54)【発明の名称】異形断面ガラス繊維用ノズル、ガラス繊維製造装置および製造方法
(51)【国際特許分類】
   C03B 37/08 20060101AFI20250310BHJP
   C03B 37/083 20060101ALI20250310BHJP
【FI】
C03B37/08
C03B37/083
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023143704
(22)【出願日】2023-09-05
(71)【出願人】
【識別番号】000232243
【氏名又は名称】日本電気硝子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107423
【弁理士】
【氏名又は名称】城村 邦彦
(74)【代理人】
【識別番号】100120949
【弁理士】
【氏名又は名称】熊野 剛
(74)【代理人】
【識別番号】100168550
【弁理士】
【氏名又は名称】友廣 真一
(72)【発明者】
【氏名】松浦 禅
【テーマコード(参考)】
4G021
【Fターム(参考)】
4G021FA00
4G021LA01
4G021MA02
(57)【要約】
【課題】
異形断面ガラス繊維を製造するにあたり、繊維におけるくびれの形成、及び、異形断面ガラス繊維用ノズルから流出する溶融ガラスのメニスカスのふらつきを防止すること。
【解決手段】
扁平な孔断面形状を有するノズル孔6が、孔中心線18が延びる方向の一方側に溶融ガラス2の流入口19を有すると共に、他方側に溶融ガラス2の流出口20を有し、ノズル孔6の内周面が、その長径方向で対向する一対の短壁面14a,14aと、短径方向で対向する一対の長壁面13a,13aと、を備え、ノズル孔6より流出させた溶融ガラス2から異形断面ガラス繊維7を製造するための異形断面ガラス繊維用ノズル5について、ノズル孔6が、長径方向に配列された複数の流路6a~6cに区画され、隣り合う流路6a,6b同士および6b,6c同士の境界が、ノズル孔6の短径方向に延びる仕切り板21(板状部材)で構成されるようにした。
【選択図】図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
扁平な孔断面形状を有するノズル孔が設けられ、
前記ノズル孔が、孔中心線が延びる方向の一方側に溶融ガラスの流入口を有すると共に、他方側に溶融ガラスの流出口を有し、
前記ノズル孔の内周面が、前記ノズル孔の長径方向で対向する一対の短壁面と、短径方向で対向する一対の長壁面と、を備え、
前記ノズル孔より流出させた溶融ガラスから異形断面ガラス繊維を製造するための異形断面ガラス繊維用ノズルであって、
前記ノズル孔が、長径方向に配列された複数の流路に区画され、
隣り合う前記流路同士の境界が、前記ノズル孔の短径方向に延びる板状部材で構成されることを特徴とする異形断面ガラス繊維用ノズル。
【請求項2】
前記板状部材が、前記ノズル孔の流出口から孔外に食み出したエッジを有することを特徴とする請求項1に記載の異形断面ガラス繊維用ノズル。
【請求項3】
前記短壁面が、前記ノズル孔の流入口側から流出口側に移行するに連れて前記孔中心線から漸次に離反するように、前記孔中心線に対して傾斜していることを特徴とする請求項1又は2に記載の異形断面ガラス繊維用ノズル。
【請求項4】
前記短壁面が、前記ノズル孔の流出口から孔外に食み出した領域を有することを特徴とする請求項3に記載の異形断面ガラス繊維用ノズル。
【請求項5】
前記ノズル孔が、少なくとも三つの前記流路に区画され、
複数の前記流路のうち、長径方向の両端にそれぞれ位置する前記流路では流路入口よりも流路出口の開口面積が大きいことを特徴とする請求項1又は2に記載の異形断面ガラス繊維用ノズル。
【請求項6】
複数の前記流路のうち、長径方向の両端以外に位置する前記流路では流路入口よりも流路出口の開口面積が小さいことを特徴とする請求項5に記載の異形断面ガラス繊維用ノズル。
【請求項7】
請求項1又は2に記載の異形断面ガラス繊維用ノズルが、底部に複数設けられたブッシングを備えることを特徴とするガラス繊維製造装置。
【請求項8】
請求項1又は2に記載の異形断面ガラス繊維用ノズルを用いて、異形断面ガラス繊維を製造することを特徴とするガラス繊維製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、溶融ガラスから扁平な断面形状を有する異形断面ガラス繊維を製造するための異形断面ガラス繊維用ノズル、ガラス繊維製造装置および製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ガラス繊維の一種として、扁平な断面形状を有する異形断面ガラス繊維が製造されている。異形断面ガラス繊維は、樹脂と混練して複合化した場合に高い補強効果を実現できることから、繊維強化プラスチック(FRP)用の繊維として採用される等、様々な分野で利用されるに至っている。
【0003】
異形断面ガラス繊維の製造にあたっては、例えば、溶融ガラスを流通させるフィーダーからブッシングに溶融ガラスを供給し、ブッシングに設けられた多数の異形断面ガラス繊維用ノズルの各々から溶融ガラスを引き出しながら冷却する。各ノズルに形成されるノズル孔は、製造される繊維の断面形状の基礎を形作ることから、長径方向と短径方向とを有する扁平な孔断面形状とされるのが通例である。
【0004】
特許文献1には、異形断面ガラス繊維用ノズルの一例が開示されている。同文献に開示された一部のノズルでは、ノズル孔が、当該ノズル孔の長径方向に配列された複数の流路に区画されている。例えば、同文献の図6に示されたノズルでは、ノズル孔が三つの流路に区画されると共に、各流路が円形の流路断面形状を有する。つまり、同ノズルにおいては、長径方向に並べられた三つの円孔(流路)によりノズル孔が構成される。このような構成を採用することにより、異形断面ガラス繊維を安定して得るために有利であることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第3369674号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1の図6に示されたノズルでは、本出願の図7(a)に示すように、同ノズルから紡糸される異形断面ガラス繊維100が、くびれ100aを有する断面形状に形成されやすいという問題がある。同ノズルでは、既述のとおり、図7(b)に示すように、長径方向(X方向)に並べられた三つの円孔200a(流路)によりノズル孔200が構成されるため、長径方向における位置ごとにノズル孔200の短径方向(Y方向)に沿った開口幅Wが変化する。詳述すると、隣り合う円孔200a,200a同士(隣り合う流路同士)の境界200bの付近では開口幅Wが小さくなり、境界200bから離れると開口幅Wが大きくなる。このことに起因して、くびれ100aは、ノズルから紡糸される異形断面ガラス繊維100のうち、隣り合う円孔200a,200a同士の境界200bに対応する箇所に形成される。そして、異形断面ガラス繊維100がくびれ100aを有する場合、例えば、繊維強化プラスチックを製造するにあたり、樹脂と混練した異形断面ガラス繊維100が折れやすくなる不具合がある。
【0007】
また、特許文献1の図6に示されたノズルでは、本出願の図8(a),(b)に矢印で示すように、同ノズル300から流出する溶融ガラス400のメニスカス(ノズル300の直下に形成される溶融ガラス400の錘状部分)が長径方向にふらつきやすいという問題もある。詳述すると、溶融ガラス400の温度が低い場合や流量が小さい場合等に、ノズル300から流出する溶融ガラス400が長径方向の一方側に偏った状態と、他方側に偏った状態とが交互に発生し、溶融ガラス400のメニスカスがふらつく。これは、図7(b)に示した境界200bの形状に起因して、境界200bが溶融ガラス400を引っ張る力が安定しにくいためである。そして、メニスカスがふらつくと、ノズル300から紡糸される異形断面ガラス繊維が切断されやすい上、図9に示すように、異形断面ガラス繊維100の断面形状が雫状に形成され、所望の形状とはならない不具合がある。
【0008】
上述の事情に鑑みて解決すべき技術的課題は、異形断面ガラス繊維を製造するにあたり、繊維におけるくびれの形成、及び、異形断面ガラス繊維用ノズルから流出する溶融ガラスのメニスカスのふらつきを防止することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の課題を解決するための第1の異形断面ガラス繊維用ノズルは、扁平な孔断面形状を有するノズル孔が設けられ、ノズル孔が、孔中心線が延びる方向の一方側に溶融ガラスの流入口を有すると共に、他方側に溶融ガラスの流出口を有し、ノズル孔の内周面が、ノズル孔の長径方向で対向する一対の短壁面と、短径方向で対向する一対の長壁面と、を備え、ノズル孔より流出させた溶融ガラスから異形断面ガラス繊維を製造するための異形断面ガラス繊維用ノズルであって、ノズル孔が、長径方向に配列された複数の流路に区画され、隣り合う流路同士の境界が、ノズル孔の短径方向に延びる板状部材で構成されることを特徴とする。
【0010】
ノズル孔が、当該ノズル孔の長径方向に配列された複数の流路に区画される形式の異形断面ガラス繊維用ノズルを用いた場合に、上述したくびれの形成や、メニスカスのふらつきに大きな影響を与えているのは、隣り合う流路同士の境界の構成であることが発明者により見出された。そして、発明者は、隣り合う流路同士の境界が、ノズル孔の短径方向に延びる板状部材で構成されていれば、くびれの形成や、メニスカスのふらつきの防止が可能となることを知見した。まず、くびれの形成を防止できるのは、境界が板状部材で構成されることで、長径方向における位置ごとにノズル孔の短径方向に沿った開口幅が変化することを可及的に回避できるからである。また、メニスカスのふらつきを防止できるのは、境界が板状部材で構成されることで、境界(板状部材)が溶融ガラスを引っ張る力が安定しやすいからである。
【0011】
以上のことから、第1の異形断面ガラス繊維用ノズルによれば、異形断面ガラス繊維を製造するにあたり、繊維におけるくびれの形成、及び、ノズルから流出する溶融ガラスのメニスカスのふらつきを防止することが可能となる。
【0012】
第2の異形断面ガラス繊維用ノズルは、上記の第1の異形断面ガラス繊維用ノズルにおいて、板状部材が、ノズル孔の流出口から孔外に食み出したエッジを有するノズルである。
【0013】
第2の異形断面ガラス繊維用ノズルでは、板状部材がノズル孔の流出口から孔外に食み出したエッジを有するため、ノズルから流出する溶融ガラスが当該ノズルから離反する直前まで、エッジにより溶融ガラスを引っ張ることができる。これにより、メニスカスのふらつきを更に防止しやすくなる。
【0014】
第3の異形断面ガラス繊維用ノズルは、上記の第1又は第2の異形断面ガラス繊維用ノズルにおいて、短壁面が、ノズル孔の流入口側から流出口側に移行するに連れて孔中心線から漸次に離反するように、孔中心線に対して傾斜しているノズルである。
【0015】
第3の異形断面ガラス繊維用ノズルでは、短壁面の傾斜によりノズルから流出する溶融ガラスを長径方向に引っ張りやすくなる。その結果、高扁平率の異形断面ガラス繊維を製造する上で有利となる。また、第3の異形断面ガラス繊維用ノズルでは、以下の効果も得られる。すなわち、短壁面が傾斜した本ノズルによれば、短壁面が傾斜していないノズルとの比較において、溶融ガラスの温度が高い場合であっても、短壁面が溶融ガラスを引っ張る作用により高扁平率の異形断面ガラス繊維を製造できる。このように溶融ガラスの温度を高くできることで、溶融ガラスの温度が低い場合に生じやすい問題であるメニスカスのふらつきを一層防止しやすくなる。
【0016】
第4の異形断面ガラス繊維用ノズルは、上記の第1~第3のいずれかの異形断面ガラス繊維用ノズルにおいて、短壁面が、ノズル孔の流出口から孔外に食み出した領域を有するノズルである。
【0017】
第4の異形断面ガラス繊維用ノズルでは、短壁面がノズル孔の流出口から孔外に食み出した領域を有するため、当該食み出した領域上を流れる溶融ガラスが冷えやすくなる。これにより、ノズルから流出する溶融ガラスについて、表面張力による変形を防止しやすくなる。従って、高扁平率の異形断面ガラス繊維を製造する上で更に有利となる。
【0018】
第5の異形断面ガラス繊維用ノズルは、上記の第1~第4のいずれかの異形断面ガラス繊維用ノズルにおいて、ノズル孔が、少なくとも三つの流路に区画され、複数の流路のうち、長径方向の両端にそれぞれ位置する流路では流路入口よりも流路出口の開口面積が大きいノズルである。
【0019】
第5の異形断面ガラス繊維用ノズルでは、長径方向の両端にそれぞれ位置する流路において、流路入口よりも流路出口の開口面積が大きいことから、これら両端の流路に流入する溶融ガラスの流量を増加させやすくなる。これにより、高扁平率の異形断面ガラス繊維を製造する上で一層有利となる。
【0020】
第6の異形断面ガラス繊維用ノズルは、上記の第5の異形断面ガラス繊維用ノズルにおいて、複数の流路のうち、長径方向の両端以外に位置する流路では流路入口よりも流路出口の開口面積が小さいノズルである。
【0021】
第6の異形断面ガラス繊維用ノズルでは、長径方向の両端以外に位置する流路において、流路入口よりも流路出口の開口面積が小さいことから、同流路に流入する溶融ガラスの流量を抑制しやすくなる。このように両端以外の流路における流量が抑制される結果として、両端の流路における流量が増加しやすくなる。このため、高扁平率の異形断面ガラス繊維を製造する上でより一層有利となる。
【0022】
ここで、上記の第1~第6の異形断面ガラス繊維用ノズルは、下記のガラス繊維製造装置の構成要素とすることが可能である。同ガラス繊維製造装置は、上記の第1~第6のいずれかの異形断面ガラス繊維用ノズルが、底部に複数設けられたブッシングを備えることを特徴とする。
【0023】
同ガラス繊維製造装置によれば、上記の第1~第6の異形断面ガラス繊維用ノズルについて既述の作用・効果を同様に得ることが可能である。
【0024】
ここで、上記の第1~第6のいずれかの異形断面ガラス繊維用ノズルを用いたガラス繊維製造方法により、異形断面ガラス繊維を製造することが可能である。
【0025】
同ガラス繊維製造方法によれば、上記の第1~第6の異形断面ガラス繊維用ノズルについて既述の作用・効果を同様に得ることが可能である。
【発明の効果】
【0026】
本開示に係る異形断面ガラス繊維用ノズル、ガラス繊維製造装置および製造方法によれば、異形断面ガラス繊維を製造するにあたり、繊維におけるくびれの形成、及び、ノズルから流出する溶融ガラスのメニスカスのふらつきを防止することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0027】
図1】ガラス繊維製造装置および製造方法を示す断面図である。
図2】ガラス繊維製造装置におけるブッシングの周辺を拡大して示す断面図である。
図3】ガラス繊維製造装置におけるブッシングの周辺を示す底面図である。
図4】異形断面ガラス繊維用ノズルを示す図であり、(a)はノズルの上面図、(b)は(a)のB-B断面図、(c)は(a)のC-C断面図、(d)はノズルの側面図、(e)はノズルの底面図である。
図5】異形断面ガラス繊維用ノズルの変形例を示す断面図である。
図6】異形断面ガラス繊維用ノズルの変形例を示す底面図である。
図7】従来における問題を説明するための図であり、(a)は異形断面ガラス繊維の断面図であり、(b)は異形断面ガラス繊維用ノズルの底面図である。
図8】従来における問題を説明するための図であり、(a),(b)は異形断面ガラス繊維用ノズルの側面図である。
図9】従来における問題を説明するための図であり、異形断面ガラス繊維の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、実施形態に係る異形断面ガラス繊維用ノズル、ガラス繊維製造装置および製造方法について、添付の図面を参照しながら説明する。
【0029】
図1にガラス繊維製造装置1(以下、単に製造装置1と表記)を示す。本製造装置1を用いてガラス繊維製造方法が実施される。本製造装置1は、溶融ガラス2を流通させるフィーダー3と、フィーダー3の底部に配置されたブッシング4と、を備えている。
【0030】
本製造装置1では、フィーダー3からブッシング4に溶融ガラス2を流入させる。そして、ブッシング4の底部に複数配置された異形断面ガラス繊維用ノズル5(以下、異形用ノズル5と表記)のノズル孔6から溶融ガラス2を引き出しながら冷却する。これにより、本製造装置1では、異形断面ガラス繊維7(以下、異形繊維7と表記)が製造される。異形繊維7は扁平な断面形状を有する。
【0031】
本実施形態では、溶融ガラス2がEガラスからなる。勿論この限りではなく、溶融ガラス2がDガラス、Sガラス、ARガラス、Cガラス等の他のガラスからなってもよい。
【0032】
フィーダー3は、図示省略のガラス溶解炉と接続されている。フィーダー3は、ガラス溶解炉で連続的に生成された溶融ガラス2を流通させることが可能である。フィーダー3の内部には溶融ガラス2の液面2aが形成されている。
【0033】
ブッシング4は、図示省略のブッシングブロック等を介してフィーダー3の底部に取り付けられている。ブッシング4は、その一部又は全体が白金又は白金合金(例えば、白金ロジウム合金等)により構成される。
【0034】
ブッシング4はベースプレート8を備えている。ベースプレート8には、複数の異形用ノズル5と、これら異形用ノズル5の近傍に配置された冷却管9と、が備わっている。複数の異形用ノズル5は相互に同一の構成を有する。
【0035】
異形繊維7を成形する際の溶融ガラス2の温度・粘度は、一例として1100℃~1250℃、102.0dPa・s~103・5dPa・sに調節される。ここで言う「溶融ガラス2の温度・粘度」とは、異形用ノズル5のノズル孔6に流入する位置における温度・粘度である。溶融ガラス2の温度・粘度の調節にあたっては、例えば、ガラス溶解炉、フィーダー3、及び、ブッシング4の中から選択される一又は複数の要素が、図示省略の加熱装置(例えば、通電加熱装置等)により加熱される。
【0036】
異形繊維7の表面には、図示省略のアプリケーターにより集束剤が塗布される。これにより、数百本~数千本程度の異形繊維7が一本のストランド10として紡糸される。紡糸されたストランド10は、巻き取り装置であるボビン11の周りに繊維束12として巻き取られる。ストランド10は、例えば、1mm~20mm程度の長さに切断されてチョップドストランドとして利用される。
【0037】
図2及び図3に示すように、異形用ノズル5は、一対の長壁部13,13と、一対の短壁部14,14と、を有する。これらの壁部13,14に囲われて扁平なノズル孔6が形作られている。異形用ノズル5の詳細な構成については後述する。
【0038】
冷却管9は、その内部を冷却水15が循環することで、ノズル孔6から流出する溶融ガラス2を冷却する。冷却管9は板状の外形に形成され、板面が長壁部13と平行になっている。ここで、冷却管9はベースプレート8と一体に設けられているが、ベースプレート8から離れた位置に設けられていてもよい。また、冷却管9は円管状に形成されていてもよい。
【0039】
冷却管9の高さ位置は、溶融ガラス2の冷却条件に応じて調整が可能である。一例として、冷却管9は、異形用ノズル5から引き出された溶融ガラス2と板面とが対面しないように、異形用ノズル5の下端部よりも上方に配置されていてもよい。一方、異形用ノズル5、及び、異形用ノズル5から引き出された溶融ガラス2の両方と板面とが対面するように、異形用ノズル5の下端部を基準として上方と下方とに跨って冷却管9が配置されていてもよい。なお、溶融ガラス2の冷却には、冷却管9の他、空気流で冷却する冷却フィン等を用いてもよい。また、冷却管9は必須の構成ではなく省略してもよい。
【0040】
ベースプレート8には、複数のノズル列16が間隔を空けて並列に配置されている。各ノズル列16には複数の異形用ノズル5が属する。同じノズル列16に属する複数の異形用ノズル5は、これらに形成されたノズル孔6が同一直線上に位置するように配置されている。
【0041】
冷却管9は、隣り合う両ノズル列16,16の相互間において、ノズル列16と平行に延びるように配置されている。ノズル孔6から流出する溶融ガラス2は、冷却管9により1000℃以上の温度から急激に冷却される。ここで、冷却管9は、異形用ノズル5やベースプレート8を冷却することで、これらの部材5,8の熱による劣化を抑制して耐久性を高める機能もある。
【0042】
以下、異形用ノズル5の詳細な構成について、図4(a)~(e)を参照して説明する。なお、異形用ノズル5は、その全体が白金又は白金合金で構成される。
【0043】
本実施形態の異形用ノズル5は、側面視で略台形状の外形を有する。一対の長壁部13,13の各々には、当該長壁部13の一部(下部)が切欠かれてなる、切欠き部17が形成されている。切欠き部17は、側面視で台形状をなしている。なお、切欠き部17は、異形用ノズル5の必須の構成ではなく省略してもよい。
【0044】
異形用ノズル5のノズル孔6は、その孔断面形状が扁平な長方形に形成されている。勿論この限りではなく、ノズル孔6の孔断面形状は、扁平な形状であれば長方形以外の形状であってもよい。例えば、ノズル孔6の孔断面形状は、長円形、楕円形、長方形の四隅にR(円弧)を設けた形状等とすることができる。
【0045】
ノズル孔6は、孔中心線18が延びる方向の一方側(上方側)に溶融ガラス2の流入口19を有すると共に、他方側(下方側)に溶融ガラス2の流出口20を有する。流入口19は、一対の長壁部13,13の上端部および一対の短壁部14,14の上端部により囲われて形成される。一方、流出口20は、一対の長壁部13,13の下端部および一対の短壁部14,14の下端部により囲われて形成される。
【0046】
ノズル孔6の内周面は、ノズル孔6の短径方向で対向する一対の長壁面13a,13aと、長径方向で対向する一対の短壁面14a,14aと、を備えている。一対の長壁面13a,13aはそれぞれ一対の長壁部13,13の内壁面である。一方、一対の短壁面14a,14aはそれぞれ一対の短壁部14,14の内壁面である。
【0047】
一対の長壁部13,13の各々における長壁面13aは、孔中心線18と平行になっている。これに対し、一対の短壁部14,14の各々における短壁面14aは、ノズル孔6の流入口19側から流出口20側に移行するに連れて孔中心線18から漸次に離反するように、孔中心線18に対して傾斜している。短壁面14aの傾斜により、異形用ノズル5から流出する溶融ガラス2を長径方向に引っ張りやすくなる作用が得られる。ここで、本作用を好適に得る観点から、短壁面14aが孔中心線18に対して傾斜した角度(図4(b)に示した角度θ1に等しい)は5°~15°とすることが好ましい。
【0048】
上述した短壁面14aの傾斜により、ノズル孔6の開口面積(孔断面積)は、流入口19側から流出口20側に移行するに連れて漸次に大きくなっている。ここで、ノズル孔6の短径方向に沿った開口幅W1は、例えば0.5mm~1.5mmである。また、ノズル孔6の流入口19における長径方向に沿った開口幅W2aは、例えば2.5mm~8mmである。さらに、ノズル孔6の流出口20における長径方向に沿った開口幅W2bは、例えば4.5mm~10mmである。なお、ノズル孔6の扁平比(長径/短径、具体的にはW2a/W1またはW2b/W1)は、例えば2~10が好ましく、2.5~5がより好ましい。
【0049】
一対の短壁部14,14の各々における短壁面14aは、ノズル孔6の流出口20から孔外に食み出した領域14axを有する。これにより、当該領域14ax上を流れる溶融ガラス2が冷えやすくなり、異形用ノズル5から流出する溶融ガラス2の表面張力による変形(丸まり)を防止しやすくなる作用が得られる。ここで、本作用を好適に得る観点から、領域14axの上下方向に沿った寸法L1は、0.1mm~0.5mmとすることが好ましい。
【0050】
ノズル孔6は、当該ノズル孔6の長径方向に配列された複数の流路に区画され、本実施形態では三つの流路6a~6cに区画されている。ノズル孔6を区画する流路の数は適宜変更が可能であり、二つ又は四つ以上であってもよい。隣り合う流路同士の境界(流路6aと流路6bの境界、及び、流路6bと流路6cの境界)は、ノズル孔6の短径方向に延びる板状部材としての仕切り板21で構成される。
【0051】
ここで、上述した流路の数を増加させる場合、隣り合う流路同士の境界を構成する仕切り板21の枚数が増加する。仕切り板21の枚数を増加させると、異形用ノズル5から流出する溶融ガラス2のメニスカスが長径方向にふらつかずに安定しやすくなる。しかしながらその一方、ノズル孔6から溶融ガラス2が流出し難くなる恐れがある。このため、仕切り板21の枚数を増加させる場合には、増加に合わせてノズル孔6の開口面積(孔断面積)を大きくすることが好ましい。
【0052】
本実施形態では、孔中心線18を基準として対称に二枚の仕切り板21が配置されている。本実施形態の仕切り板21は、一様な厚みを有する板として形成されている。仕切り板21の厚みは、例えば0.1mm~1mmである。各仕切り板21の上縁は、ノズル孔6の短径方向に延びている。各仕切り板21は、鉛直方向(上下方向)に対して傾斜した姿勢を取っている。詳述すると、各仕切り板21は、ノズル孔6の流入口19側から流出口20側に移行するに連れて孔中心線18へと漸次に接近するように、孔中心線18に対して傾斜している。ここで、仕切り板21が孔中心線18に対して傾斜した角度(図4(b)に示した角度θ2に等しい)は5°~15°とすることが好ましい。
【0053】
各仕切り板21は、ノズル孔6の流出口20から孔外に食み出したエッジ21aを有する。エッジ21aは、仕切り板21の下縁に相当すると共に、ノズル孔6の短径方向に延びている。本実施形態のエッジ21aは、異形用ノズル5を側面視した場合に、切欠き部17がなす台形状の上底の端部に位置している。ここで、エッジ21が流出口20から食み出した寸法(上下方向に沿った寸法)L2は、異形用ノズル5から流出する溶融ガラス2を当該ノズル5から離反する直前までエッジ21で引っ張れるようにする観点から、0.1mm~0.5mmとすることが好ましい。
【0054】
上述した短壁面14aおよび仕切り板21の傾斜により、流路6a~6cの各々における開口面積(流路断面積)は、流入口19側から流出口20側に移行するに連れて漸次に変化する。詳述すると、流路6a~6cのうち、長径方向の両端にそれぞれ位置する流路6a,6cでは、流路入口よりも流路出口の開口面積が大きくなっている。一方、長径方向の両端に位置していない流路6bでは、流路入口よりも流路出口の開口面積が小さくなっている。さらに、流路6a~6cの三者について、流路6a,6cでは流路6bよりも平均の開口面積(平均の流路断面積)が大きくなっている。ここで言う「平均の開口面積」とは、流入口19から流出口20に至るまでの平均の開口面積を意味する。
【0055】
以上に説明した流路6a~6cの開口面積の関係から、長径方向の両端にそれぞれ位置する流路6a,6cにおいては、両端に位置していない流路6bと比較して、流路に流入する溶融ガラス2の流量が大きくなりやすくなる。
【0056】
以下、既述の製造装置1、同製造装置1を用いたガラス繊維製造方法、及び、異形用ノズル5による主たる作用・効果について説明する。
【0057】
製造装置1、ガラス繊維製造方法、及び、異形用ノズル5では、隣り合う流路同士の境界(流路6aと流路6bの境界、及び、流路6bと流路6cの境界)が、ノズル孔6の短径方向に延びる仕切り板21で構成される。これにより、長径方向における位置ごとにノズル孔6の短径方向に沿った開口幅が変化することを可及的に回避でき、異形繊維7におけるくびれの形成を防止できる。また、境界(仕切り板21)が溶融ガラス2を引っ張る力が安定しやすいため、異形用ノズル5から流出する溶融ガラス2のメニスカスのふらつきを防止できる。
【0058】
ここで、上記の実施形態に対しては下記の変形例を適用することも可能である。
【0059】
一つの変形例では、上記の実施形態における仕切り板21の代わりに、図5に示す仕切り板21が異形用ノズル5に備わる。同仕切り板21は、鉛直方向(上下方向)に対して平行な姿勢を取っている。本変形例においても、上述した流路6a~6cの間における平均の開口面積の関係が維持される。
【0060】
別の変形例では、上記の実施形態における仕切り板21の代わりに、図6に示す仕切り板21が異形用ノズル5に備わる。同仕切り板21は、鉛直方向(上下方向)に対して平行な姿勢を取ると共に、平面視でV字状に屈曲している。具体的には、2枚の仕切り板21におけるV字の頂部が、平面視で互いに対向している。本変形例においても、上述した流路6a~6cの間における平均の開口面積の関係が維持される。
【0061】
更に別の変形例では、ノズル孔6の短径方向に延びる板状部材として、上記の実施形態における仕切り板21に代えて、短径方向の途中にスリットを有する板を採用してもよい。この場合、同板はスリットを境界として短径方向の一方側と他方側とに分割されることになる。
【符号の説明】
【0062】
1 ガラス繊維製造装置
2 溶融ガラス
4 ブッシング
5 異形断面ガラス繊維用ノズル
6 ノズル孔
6a 流路
6b 流路
6c 流路
7 異形断面ガラス繊維
13a 長壁面
14a 短壁面
14ax 食み出した領域
18 孔中心線
19 流入口
20 流出口
21 仕切り板(板状部材)
21a エッジ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9