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特開2025-37169レーザ加工システム、これを用いて加工される被加工物、及びレーザ加工方法
<図1>
  • 特開-レーザ加工システム、これを用いて加工される被加工物、及びレーザ加工方法 図1
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  • 特開-レーザ加工システム、これを用いて加工される被加工物、及びレーザ加工方法 図3
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025037169
(43)【公開日】2025-03-17
(54)【発明の名称】レーザ加工システム、これを用いて加工される被加工物、及びレーザ加工方法
(51)【国際特許分類】
   B23K 26/122 20140101AFI20250310BHJP
【FI】
B23K26/122
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023143979
(22)【出願日】2023-09-05
(71)【出願人】
【識別番号】516127581
【氏名又は名称】旭光通商株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100133411
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 龍郎
(74)【代理人】
【識別番号】100067677
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 彰司
(72)【発明者】
【氏名】大津 信之
【テーマコード(参考)】
4E168
【Fターム(参考)】
4E168CB04
4E168DA02
4E168DA03
4E168DA32
4E168DA47
4E168EA15
4E168FB07
4E168JA14
4E168JA17
4E168JB05
4E168KA08
(57)【要約】
【課題】 レーザ加工時における加工精度を維持しつつ、加工品質を確保することが可能なレーザ加工システム、これを用いて加工される被加工物、及びレーザ加工方法の提供。
【解決手段】本発明に係るレーザ加工システム1は、容器10と、光透過部材20と、レーザ照射装置30とを備えている。容器10は、レーザ光LBを透過可能な液状媒体FDを貯留するとともに、被加工物Wを液状媒体FD中に配置した状態で収容する。光透過部材20は、液状媒体FDに接触する接触面20Aaと、液状媒体FDに非接触な非接触面20Abとを有している。レーザ照射装置30は、レーザ光LBを光透過部材20及び液状媒体FDの順で通過させて被加工物Wの内部に照射する。液状媒体FD及び光透過部材20は、被加工物Wと同等の屈折率を有している。レーザ照射装置30から照射されるレーザ光LBは、パルス幅が200fs以下であり、レーザスポット径が3μm以下である。
【選択図】 図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
レーザ光を用いて被加工物の内部を加工するレーザ加工システムであって、
液状媒体を貯留するとともに、前記被加工物を前記液状媒体中に配置した状態で収容する容器と、
前記液状媒体に接触する接触面と、該接触面とは反対側で前記液状媒体に非接触な非接触面とを有し、前記レーザ光を透過可能な光透過部材と、
前記レーザ光を前記光透過部材及び前記液状媒体の順で通過させて前記被加工物の内部に照射するレーザ照射装置と、
を備え、
前記液状媒体及び前記光透過部材は、前記被加工物と同等の屈折率を有し、
前記レーザ照射装置は、パルス幅が200fs以下であり、レーザスポット径が3μm以下である前記レーザ光を照射する、レーザ加工システム。
【請求項2】
前記レーザスポット径が、1μm以下である、請求項1に記載のレーザ加工システム。
【請求項3】
前記レーザ照射装置は、周波数が100kHz以上300kHz以下であり、ピーク出力が1W以下である前記レーザ光を照射する、請求項1に記載のレーザ加工システム。
【請求項4】
前記レーザ照射装置は、波長が1100nm以下である前記レーザ光を照射する、請求項1に記載のレーザ加工システム。
【請求項5】
前記光透過部材は、前記容器の底部又は側壁部を構成する部材である、請求項1~4の何れか1項に記載のレーザ加工システム。
【請求項6】
前記被加工物は、光透過性を有する樹脂部材からなる、請求項1~4の何れか1項に記載のレーザ加工システム。
【請求項7】
レーザ加工システムを用いて加工される内部領域を有する被加工物であって、
前記レーザ加工システムは、
液状媒体を貯留するとともに、前記被加工物を前記液状媒体中に配置させた状態で収容する容器と、
前記液状媒体に接触する接触面と、該接触面とは反対側で前記液状媒体に非接触な非接触面とを有し、レーザ光を透過可能な光透過部材と、
前記レーザ光を前記光透過部材及び前記液状媒体の順で通過させて前記内部領域に照射するレーザ照射装置と、
を備え、
前記液状媒体及び前記光透過部材は、前記被加工物と同等の屈折率を有し、
前記レーザ照射装置は、パルス幅が200fs以下であり、レーザスポット径が3μm以下である前記レーザ光を照射する、被加工物。
【請求項8】
レーザ加工システムを用いて被加工物の内部を加工するレーザ加工方法であって、
前記レーザ加工システムは、
液状媒体を貯留するとともに、前記被加工物を前記液状媒体中に配置させた状態で収容する容器と、
前記液状媒体に接触する接触面と、該接触面とは反対側で前記液状媒体に非接触な非接触面とを有し、レーザ光を透過可能な光透過部材と、
前記レーザ光を照射するレーザ照射装置と、
を備え、
前記液状媒体及び前記光透過部材は、前記被加工物と同等の屈折率を有し、
前記レーザ加工方法は、
前記被加工物を前記容器内の前記液状媒体中に配置する被加工物配置工程と、
前記被加工物配置工程を行った後、前記レーザ光を前記光透過部材及び前記液状媒体の順で通過させて前記被加工物の内部に照射するレーザ照射工程と、
を含み、
前記レーザ照射工程は、パルス幅が200fs以下であり、レーザスポット径が3μm以下である前記レーザ光を照射する工程を含む、レーザ加工方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レーザ加工システム、これを用いて加工される被加工物、及びレーザ加工方法に関し、特に、レーザ光を用いて被加工物の内部を加工するレーザ加工システム、これを用いて加工される被加工物、及びレーザ加工方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、被加工物の内部を加工する技術として、大気中で被加工物にレーザ光を照射する手法が広く知られている(例えば、特許文献1)。
しかしながら、このような手法では、被加工物におけるレーザ光の入射面が、非平面な形状(例えば、湾曲面形状)であると、レーザ光が被加工物に入射した際に屈折するため、集光位置のズレなどが原因で加工精度が低下するという問題があった。
【0003】
そこで、このような問題を解消するべく、例えば、特許文献2に記載のレーザ加工システムが提案されている。
特許文献2に記載のレーザ加工システムは、被加工物(立体物、例えば、ガラス)に接触する液体又は弾性体からなる屈折率調整層(例えば、水)と、屈折率調整層に接触する光導波部材(例えば、ガラス)と、レーザ照射装置(レーザ加工機)とを備え、屈折率調整層及び光導波部材を介して被加工物にレーザ光を照射するように構成されたものである。
【0004】
このようなレーザ加工システムによれば、被加工物の入射面形状に左右されることなく、目標位置(設計位置)にレーザ光を集光することができるので、加工精度を向上させることが可能である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2019-090849号公報
【特許文献2】特開2017-144461号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、上述したような被加工物としては、例えば、撮像レンズに代表される樹脂製の光学素子がある。
このような光学素子では、レーザ光を照射することによって、これが集光された部位を、発熱後に炭化させることで黒色に変色させることができるので、その内部に、所望の形状の遮光領域(表層部や内部で反射する不要光を遮光する領域)等を形成することが可能である(例えば、特許文献1)。
【0007】
しかしながら、光学素子をレーザ加工する場合、例えば、レーザ光の集光強度が弱すぎると、炭化不良等が原因で鮮明な黒色に変色させることができず、これとは逆に、その集光強度が強すぎると、レーザ光の集光位置付近にクラックが生じたり、表層にコーティングが施されている場合にあってはこれが損傷するなどの不具合が生じやすい。
【0008】
したがって、このような不具合を是正するため、レーザ光の集光強度等を調整(例えば、レーザ光のパルス幅等の調整)する必要があるが、当該調整は、レーザ照射装置の操作に熟練した者であっても困難な場合が少なくなく、斯かる場合、加工品質が低下するという問題があった。なお、このことは、光学素子以外の被加工物をレーザ加工する場合においても同様である。
【0009】
このような事情を踏まえると、特許文献1に記載のレーザ加工システムは、加工精度の向上に寄与しているものの、レーザ光の集光強度等の調整について何ら考慮されていないため、加工品質の向上を図る観点から、十分とはいい難く、未だ改善の余地があるものといえる。
【0010】
本発明は、このような問題を解消するためになされたものであり、レーザ加工時における加工精度を維持しつつ、加工品質を確保することが可能なレーザ加工システム、これを用いて加工される被加工物、及びレーザ加工方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者は、上述したような問題を解消するべく鋭意検討した結果、特に、レーザ光のパルス幅及びレーザスポット径のバランスが、加工品質に大きく影響していることを見出し、本発明を完成させるに至った。
以下、本発明に係るレーザ加工システム、これを用いて加工される被加工物、及びレーザ加工方法について説明する。
【0012】
本発明に係るレーザ加工システムは、レーザ光を用いて被加工物の内部を加工するレーザ加工システムであって、液状媒体を貯留するとともに前記被加工物を前記液状媒体中に配置した状態で収容する容器と、前記液状媒体に接触する接触面と、該接触面とは反対側で前記液状媒体に非接触な非接触面とを有し、前記レーザ光を透過可能な光透過部材と、前記レーザ光を前記光透過部材及び前記液状媒体の順で通過させて前記被加工物の内部に照射するレーザ照射装置と、を備え、前記液状媒体及び前記光透過部材は、前記被加工物と同等の屈折率を有し、前記レーザ照射装置は、パルス幅が200fs以下であり、レーザスポット径が3μm以下である前記レーザ光を照射する、ものである。
【0013】
なお、前記レーザ加工システムに係る発明においては、前記レーザスポット径が、1μm以下である、と好適である。
【0014】
また、前記レーザ加工システムに係る発明においては、前記レーザ照射装置は、周波数が100kHz以上300kHz以下であり、ピーク出力が1W以下である前記レーザ光を照射する、と好適である。
【0015】
さらに、前記レーザ加工システムに係る発明においては、前記レーザ照射装置は、波長が1100nm以下である前記レーザ光を照射する、と好適である。
【0016】
また、前記レーザ加工システムに係る発明においては、前記光透過部材は、前記容器の底部又は側壁部を構成する部材である、と好適である。
【0017】
さらに、前記レーザ加工システムに係る発明においては、前記被加工物は、光透過性を有する樹脂部材からなる、と好適である。
【0018】
本発明に係る被加工物は、レーザ加工システムを用いて加工される内部領域を有する被加工物であって、前記レーザ加工システムは、液状媒体を貯留するとともに、前記被加工物を前記液状媒体中に配置させた状態で収容する容器と、前記液状媒体に接触する接触面と、該接触面とは反対側で前記液状媒体に非接触な非接触面とを有し、レーザ光を透過可能な光透過部材と、前記レーザ光を前記光透過部材及び前記液状媒体の順で通過させて前記内部領域に照射するレーザ照射装置と、を備え、前記液状媒体及び前記光透過部材は、前記被加工物と同等の屈折率を有し、前記レーザ照射装置は、パルス幅が200fs以下であり、レーザスポット径が3μm以下である前記レーザ光を照射する、ものである。
【0019】
本発明に係るレーザ加工方法は、レーザ加工システムを用いて被加工物の内部を加工するレーザ加工方法であって、前記レーザ加工システムは、液状媒体を貯留するとともに、前記被加工物を前記液状媒体中に配置させた状態で収容する容器と、前記液状媒体に接触する接触面と、該接触面とは反対側で前記液状媒体に非接触な非接触面とを有し、レーザ光を透過可能な光透過部材と、前記レーザ光を照射するレーザ照射装置と、を備え、前記液状媒体及び前記光透過部材は、前記被加工物と同等の屈折率を有し、前記レーザ加工方法は、前記被加工物を前記容器内の前記液状媒体中に配置する被加工物配置工程と、前記被加工物配置工程を行った後、前記レーザ光を前記光透過部材及び前記液状媒体の順で通過させて前記被加工物の内部に照射するレーザ照射工程と、を含み、前記レーザ照射工程は、パルス幅が200fs以下であり、レーザスポット径が3μm以下である前記レーザ光を照射する工程を含む、ものである。
【発明の効果】
【0020】
以上のように、本発明に係るレーザ加工システム、これを用いて加工される被加工物、及びレーザ加工方法によれば、比較的簡易な構成でありながらも、レーザ加工時の加工精度を維持しつつ、加工品質の向上を確実に図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1図1は、本発明に係るレーザ加工システムの一実施形態を示す概略図である。
図2図2は、被加工物に照射されるレーザ光の挙動を説明するための説明図である。
図3図3は、本発明に係るレーザ加工方法を説明するためのフローチャートである。
図4図4は、実施例1、実施例2及び比較例1~比較例6に係る試験を行った結果を示す表である。
図5図5は、図4の試験におけるパルス幅とレーザスポット径との関係を示すグラフである
図6図6は、図4の試験におけるパルス幅と周波数との関係を示すグラフである。
図7図7は、図4の試験におけるパルス幅と波長との関係を示すグラフである。
図8図8は、実施例2に係る試験で使用した披加工物の画像図であり、(a)は試験前の状態を示す平面図、(b)は試験後の状態を示す平面図である。
図9図9は、実施例2に係る試験で使用した他の被加工物の画像図であり、(a)は試験後の状態を示す平面図、(b)は(a)のX部分を示す拡大平面図である。
図10図10は、比較例1に係る試験で使用した披加工物の画像図であり、(a)は試験後の状態を示す平面図、(b)は(a)の部分拡大平面図、(c)は(b)の部分拡大平面図である。
図11図11は、比較例1に係る試験で使用した他の被加工物の画像図であり、(a)は試験後の状態を示す平面図、(b)は(a)のY部分を示す拡大平面図である。
図12図12は、比較例1に係る試験で使用した他の被加工物の画像図であり、(a)は試験後の状態を示す平面図、(b)は(a)の部分拡大平面図である。
図13図13は、比較例1に係る試験で使用した他の被加工物の画像図であり、(a)は試験後の状態を示す平面図、(b)は(a)のZ部分を示す拡大平面図である。
図14図14は、図1のレーザ加工システムの変形例を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明のレーザ加工システム、これを用いて加工される被加工物、及びレーザ加工方法を、その好ましい一実施形態に基づき図面を参照しながら説明する。
図1は本発明に係るレーザ加工システムの一実施形態を示す概略図、図2は、被加工物に照射されるレーザ光の挙動を説明するための説明図、図3は、本発明に係るレーザ加工方法を説明するためのフローチャートである。
【0023】
<レーザ加工システム1>
図1に示すように、本実施形態に係るレーザ加工システム1は、レーザ光LBを用いて被加工物Wの内部を加工するためのシステムであり、容器10と、光透過部材20と、レーザ照射装置30とを含んで構成されている。
なお、上記レーザ加工システム1と、レーザ光LBと、被加工物Wと、容器10と、光透過部材20と、レーザ照射装置30とが、それぞれ、特許請求の範囲に記載の「レーザ加工システム」と、「レーザ光」と、「被加工物」と、「容器」と、「光透過部材」と、「レーザ照射装置」とに該当する。
【0024】
ここで、本実施形態において用いられる被加工物Wについて説明する。
本実施形態に係る被加工物Wは、撮像レンズ等の光学素子であり、透明又は半透明な樹脂部材(例えば、プラスチック)を用いて形成されている。
具体的に、被加工物Wは、平面形状が略円状で(図8等参照)、かつ断面形状が一方の面(図1の紙面上側の面)に向けて凸となる湾曲状に形成にされた板状部材であり、有効光線が通過可能な中央領域と、当該領域の周囲に配置される外周領域(以下、「コバ部Wa」という)とを有している。なお、被加工物Wに係る光学素子は、樹脂部材に限られず、他の部材、例えば、光学ガラスであってもよい。
【0025】
コバ部Waの内部には、レーザ加工を施すことによって、被加工物Wの表面(表層)や内部で反射した不要光を遮光するための遮光領域LSが形成されている。遮光領域LSを形成する方法(レーザ加工方法)についての詳しい説明は後述する。
これにより、例えば、被加工物Wの内部で反射する光(不要光)がコバ部Waに向かった場合、この光を遮光領域LSで遮光することが可能になる。その結果、本実施形態に係る被加工物Wでは、被加工物Wの表面や内部における迷光の反射を抑制することが可能なため、いわゆるゴーストやフレアを低減することができる。
なお、上記遮光領域LSが特許請求の範囲に記載の「内部領域」に該当する。
【0026】
(容器10)
容器10は、液状部材FDを貯留するとともに、被加工物Wを液状媒体FD中に配置した状態で収容するための装置である。
具体的に、容器10は、上方が開口する中空箱状又は筒状に形成され、側壁部10Aと、底部10Bとを有している。このような容器10は、各種材料、例えば、樹脂部材や金属部材を用いて形成することが可能である。
なお、上記側壁部10Aと、底部10Bとが、特許請求の範囲に記載の「側壁部」と、「底部」とに該当する。
【0027】
ここで、容器10に貯留される液状媒体FDについて説明する。
液状媒体FDは、流動性を有し、レーザ光LBが透過可能な媒体、すなわち、透明又は半透明な液体である。なお、ここでいう液体は、ゾル(コロイド溶液)を含む意味である。
液状媒体FDとしては、例えば、水、シリコーン油やパラフィン油等の各種油、アルコール系溶剤(例えば、メチルアルコール)やエーテル系溶剤(例えば、ジエチルエーテル)等の有機溶剤、いわゆる屈折液を用いることができる。
【0028】
被加工物Wは、本実施形態において、一対の支持部材11,11により支持された状態で、容器10内に収納されるように構成されている。
一対の支持部材11,11は、それぞれ、断面L字状に形成された下側支持部11A及び上側支持部11Bを有し、下側支持部11A及び上側支持部11Bの各上側の片の間に、被加工物Wの外縁部を挟み込んだ状態で、容器10の底部10Bに載置(配置)することが可能である。
【0029】
詳しくは後述するが、本実施形態では、液状媒体FD中に浸漬された被加工物Wにレーザ光LBを照射することによって、当該被加工物Wの内部に遮光領域LSが形成されるように構成されている。
液状媒体FDは、上述したように、流動性を有する媒体であるため、被加工物Wが浸漬された際、当該被加工物Wの表面に凹凸や窪みなどがあったとしても、その表面に隙間なく接触することが可能である。
【0030】
すなわち、本実施形態では、被加工物Wを液状媒体FD中に浸漬した状態で、これらの間に空気層が存在しないため、双方の屈曲率が同等(好ましくは同一)の場合、被加工物W及び液状媒体FDを均質な媒体とみなすことができる。その結果、本実施形態では、照射されたレーザ光LBが、被加工物Wと液状媒体FDとの間の界面で、屈折したり、反射したりすることを抑制(防止)することが可能なため、レーザ光LBを被加工物Wの内部の狙った位置に照射することができる。
したがって、本実施形態では、レーザ光LBの内部に遮光領域LSを精度よく形成することが可能である。被加工物Wに照射されるレーザ光LBの挙動(屈折)についての説明は後述する(図2参照)。
【0031】
被加工物Wの屈折率が「1.5」(プラスチック)である場合、液状媒体FDとして、例えば、屈折率が「1.3~1.5」の媒体を用いることが可能である。
このような液状媒体FDとしては、例えば、水(「屈折率:1.333」)、シリコーン油(「屈折率:1.4」)、メチルアルコール(「屈折率:1.329」)、エチルアルコール(「屈折率:1.3618」)が挙げられる。なお、被加工物W及び液状媒体FDの屈折率の差は、「0」であることが特に好ましいが、それ以外であれば、「0.3以下」、より好ましくは「0.2以下」であることが望ましい。
【0032】
(光透過部材20)
光透過部材20は、レーザ光LBを容器10に貯留された液状媒体FDに導くための部材であり、本体部20Aと、脚部20Bとを備えている。
【0033】
本体部20Aは、被加工物Wと同等な屈折率を有する透明又は半透明な板状部材からなり、容器10に貯留された液状媒体FDに接触する接触面20Aaと、接触面20Aaとは反対側で液状媒体FDに非接触な非接触面20Abとを有している。
なお、上記接触面20Aaと、非接触面20Abとが、それぞれ、特許請求の範囲に記載の「接触面」と、「非接触面」とに該当する。
【0034】
本体部20Aは、上述したような、レーザ光LBを被加工物W内の狙った位置(設計位置)に照射する観点から、液状媒体FDとの屈折率の差が、「0.3以下」、より好ましくは「0.2以下」の部材を用いて形成されていることが好適であり、被加工物Wと同一な部材を用いて形成されていることが特に好ましい。被加工物Wに照射されるレーザ光LBの挙動(屈折)についての説明は後述する(図2参照)。
このような本体部20Aは、被加工物Wが「屈折率:1.5」のプラスチックであれば、同一の部材により形成することができ、それ以外であれば、例えば、「屈折率:1.4~1.6」の光学ガラスを用いることができる。
【0035】
脚部20Bは、本体部20Aの接触面20Aaから突設され、容器10内に配置された一対の上側支持部11B,11B上に載置することが可能となっている。
なお、脚部20Bは、本体部20Aと同一の部材(透明又は半透明な部材)により形成してもよく、また、不透明な部材により形成しても構わない。また、本体部20Aと脚部20Bとを同一の部材で形成する場合、これらを一体成形(例えば、射出成形)することも可能である。
また、光透過部材20は、図1に示すように、非接触面20Abと接触面20Aaとが、両者共、平坦面で、かつ、互いに平行に形成されていることが好ましいが、他の形状(例えば、上記出射面が湾曲形状)に形成してもよい。
【0036】
(レーザ照射装置30)
レーザ照射装置30は、レーザ光LBを発生して外部に照射するための装置であり、大気圧下に配置されている。
このようなレーザ照射装置30としては、公知のレーザ照射装置、例えば、ヘッド部(図示省略)をX-Y方向に移動してレーザ光LBを被加工物Wに照射するフラットベッド式の装置や、ミラー(図示省略)をX-Y方向に移動してレーザ光LBを被加工物Wに照射するガルバノ式の装置を用いることが可能である。
【0037】
また、本実施形態に係るレーザ照射装置30においても、公知のレーザ照射装置と同様に、予め設定された各種パラメータ(例えば、パルス幅、レーザスポット径、周波数、波長、照射距離)に対応するレーザ光LBが、制御装置(例えば、CPU:Central Processing Unit)による制御により照射されるようになっている。
【0038】
レーザ照射装置30は、レーザ光LBの光軸が、光透過部材20の非接触面20Abに対して略垂直となる向きで、当該レーザ光LBを液状媒体FDに浸漬された被加工物Wに照射するように構成されている。
【0039】
ここで、被加工物Wに照射されるレーザ光LBの挙動について図2を参照しつつ説明する。
以下においては、
(1)被加工物W及び光透過部材20の各屈折率が「1.5」、液状媒体FDの屈折率が「1.3」であること、
(2)被加工物Wにおけるレーザ光LBの入射面が湾曲形状であること、
を前提として説明する。
【0040】
図2に示すように、レーザ照射装置30から光透過部材20に向けてレーザ光LBが出射されると、当該レーザ光LBは、入射点Ip1において、大気の屈折率(「1.0」)と光透過部材20の屈折率(「1.5」)との差に応じた角度で屈折させられて、光透過部材20内を進むようなっている。
【0041】
次に、レーザ光LBは、光透過部材20の入射点Ip2において、光透過部材20の屈折率(例えば、「1.5」)と液状媒体FDの屈折率(例えば、「1.3」)との差に応じた角度で屈折させられるが、その屈折量が小さいため、直進状態を概ね維持したまま、液状媒体FD中を進み、被加工物Wの入射点Ip3(湾曲面)に達するようになる。
【0042】
図2に示す例では、被加工物Wの入射点Ip3が湾曲面上に位置しているため、被加工物Wと液状媒体FDとの界面で、レーザ光LBが屈折や反射等するか否かが問題となる。
しかしながら、液状媒体FDの屈折率(例えば、「1.3」)と被加工物Wの屈折率(例えば、「1.5」)は同等であるため、上述したように、これら全体を均質なものとみなすことが可能である。
このため、レーザ光LBは、液状媒体FDの屈折率と被加工物Wの屈折率との差に応じた角度で屈折させられるが、その屈折量が小さいため、直進状態を概ね維持したまま、被加工物W(コバ部Wa)の内部で集光するようになる(「集光点LBp」参照)。
【0043】
このように、本実施形態では、被加工物Wにおけるレーザ光LBの入射面が、湾曲形状や凸凹形状等であったとしても、これに左右されることなく、レーザ光LBを目標の位置(設計位置)に集光することができるので、遮光領域LSを精度よく形成することが可能である。
【0044】
<レーザ加工方法>
次に、本実施形態に係るレーザ加工システム1を用いたレーザ加工方法について図1図3を参照しつつ説明する。
以下においては、上述した(1)の屈折率及び(2)の形状であることを前提として説明する。
【0045】
図3に示すように、本実施形態に係るレーザ加工方法は、被加工物配置工程S100と、レーザ照射工程S200とを含んで構成されている。
なお、上記被加工物配置工程S100と、レーザ照射工程S200とが、それぞれ、特許請求の範囲に記載の「被加工物配置工程」と、「レーザ照射工程」とに該当する。
【0046】
(被加工物配置工程S100)
本実施形態に係るレーザ加工方法は、図3に示すように、被加工物配置工程S100を行うことから始まる。
【0047】
被加工物配置工程S100では、液状媒体FDに被加工物Wを浸す作業を行う。
例えば、被加工物配置工程S100では、図1に示すように、
(1)被加工物Wを一対の支持部材11,11で狭持する、
(2)被加工物Wが狭持された一対の支持部材11,11を、液状媒体FDが貯留された容器10内に配置する、
といった作業を順に行う。
また、図1に示す例では、上述した(1)及び(2)の作業を行った後、光透過部材20を一対の支持部材11,11上に載置する作業も行う。
なお、上記例では、液状媒体FDが貯留された容器10に被加工物Wを配置するように構成したが、空の容器10に被加工物Wを配置した後、当該容器10に液状媒体FDを貯留させても構わない。
【0048】
本実施形態に係るレーザ加工方法では、図3に示すように、被加工物配置工程S100を行った後、レーザ照射工程S200を行うように構成されている。
【0049】
(レーザ照射工程S200)
レーザ照射工程S200では、光透過部材20及び液状部材FDを介して被加工物Wの内部にレーザ光LBを照射する作業を行う(図1参照)。
具体的に、レーザ照射工程S200では、レーザ照射装置30からレーザ光LBを、板状の光透過部材20の入射面に対して略垂直となるように出射して、当該レーザ光LBを被加工物Wのコバ部Waの内部に照射する作業を行う。これにより、被加工物W(コバ部Wa)の内部に遮光領域LSを形成することが可能になる。
【0050】
上述したように、本実施形態では、液状媒体FDを介してレーザ光LBが被加工物Wの内部に照射されるように構成されているため、レーザ光LBの意図しない方向への反射や屈折を抑制すること可能である。
その結果、本実施形態では、図2に示すように、レーザ光LBを狙った位置(設計位置)に集光することが可能なため、コバ部Waの内部に遮光領域LSを精度よく形成することができる。
【0051】
本実施形態に係るレーザ加工方法では、図3に示すように、レーザ照射工程S200を行った後、終了するように構成されている
【0052】
<試験>
ところで、本発明者は、上記した被加工物配置工程S100及びレーザ照射工程S200を行った結果、加工精度が格段に向上したが、レーザ光LBの集光強度の設定等を綿密に行わなければ、遮光領域LSの加工品質を確保することができないといった結論に至った。
そこで、本発明者は、遮光領域LSの加工品質を確保するべく、レーザ光LBの強度等に関する試験を複数行った。
以下、このような試験を行った結果について説明する。
【0053】
以下に示す実施例1、実施例2、及び比較例としての比較例1~比較例6では、図4に示す加工条件に従い、上記したレーザ加工方法(被加工物配置工程S100及びレーザ照射工程S200)を用いて、被加工物Wの内部に遮光領域LSを形成する試験を行った。
本試験では、加工条件の項目を以下の5つとした。
・レーザ光LBのパルス幅
・レーザ光LBのスポット径(レーザスポット径)
・レーザ光LBの周波数
・レーザ光LBの波長
・レーザ光LBのピーク出力
なお、上記パルス幅と、レーザスポット径と、波長と、周波数と、ピーク出力とが、それぞれ、特許請求の範囲に記載の「パルス幅」と、「レーザスポット径」と、「波長」と、「周波数」と、「ピーク出力」とに該当する。
【0054】
実施例1、実施例2及び比較例1~実施例6に係る試験では、被加工物W(コバ部Wa)の内部に形成された遮光領域LSを目視で評価(目視検査)することにより行った。
このような評価は、過剰な炭化等が原因で、
(1)遮光領域LSにクラックが形成されているか否か(図10の「クラックC」等参照)
(2)遮光領域LSの周囲に炭化されている部分が形成されているか否か(図12の「炭化過剰部分LSa」等参照)
などを基準として行った。
なお、図4中の「判定」の項目に記載の、「◎(二重丸)」は遮光領域LSが非常に良い状態で形成されていることを、「〇(丸)」は遮光領域LSが概ね良い状態で形成されていることを、「×(バツ)」は一定品質の遮光領域LSが形成されていないことを、それぞれ示している。
【0055】
(実施例1)
実施例1では、以下の加工条件のもと、被加工物Wに遮光領域LSを形成した。
・パルス幅:185fs(1.85E-13s)
・レーザスポット径:1μm
・波長:515nm
・周波数:200kHz
・ピーク出力:1W
【0056】
(実施例2)
実施例2では、以下の加工条件のもと、被加工物Wに遮光領域LSを形成した。
・パルス幅:200fs(2.00E-13s)
・レーザスポット径:1μm
・波長:1030nm
・周波数:200kHz
・ピーク出力:1W
【0057】
(比較例1)
比較例1では、以下の加工条件のもと、被加工物Wに遮光領域LSを形成した。
・パルス幅:225fs(2.25E-13s)
・レーザスポット径:4μm
・波長:513nm
・周波数:200kHz
・ピーク出力:1W
【0058】
(比較例2)
比較例2では、以下の加工条件のもと、被加工物Wに遮光領域LSを形成した。
・パルス幅:6000fs(6.00E-12s)
・レーザスポット径:4μm
・波長:513nm
・周波数:150kHz
・ピーク出力:0.5W
【0059】
(比較例3)
比較例3では、以下の加工条件のもと、被加工物Wに遮光領域LSを形成した。
・パルス幅:8000fs(8.00E-12s)
・レーザスポット径:1μm
・波長:515nm
・周波数:200kHz
・ピーク出力:1.5W
【0060】
(比較例4)
比較例4では、以下の加工条件のもと、被加工物Wに遮光領域LSを形成した。
・パルス幅:10000fs(1.00E-11s)
・レーザスポット径:7.8μm
・波長:515nm
・周波数:10kHz
・ピーク出力:0.1W
【0061】
(比較例5)
比較例5では、以下の加工条件のもと、被加工物Wに遮光領域LSを形成した。
・パルス幅:15000fs(1.50E-11s)
・レーザスポット径:11μm
・波長:532nm
・周波数:200kHz
・ピーク出力:0.3W
【0062】
(比較例6)
比較例6では、以下の加工条件のもと、被加工物Wに遮光領域LSを形成した。
・パルス幅:200000fs(2.00E-10s)
・レーザスポット径:2μm
・波長:1064nm
・周波数:20kHz
・ピーク出力:1W
【0063】
(試験評価)
実施例1、実施例2及び比較例1~比較例6に係る試験を行った結果、遮光領域LSが、良好な状態で形成された試験は、実施例1及び実施例2であり、その他の試験(比較例1~比較例6)では、不十分な状態で形成されることが判明した(図4の「判定」の項目参照)。
特に、実施例2に係る試験では、非常に良い状態の遮光領域LSを形成できることを確認できた。
【0064】
図8は、実施例2に係る試験で使用した被加工物Wの画像図であり、(a)は試験前の状態を示す図、(b)は試験後の状態を示す図、図9は、実施例2に係る試験で使用した他の被加工物Wの画像図であり、(a)は試験後の状態を示す図、(b)(a)のX部分を示す拡大図である。
図8及び図9に示すように、実施例2に係る試験では、被加工物W(コバ部Wa)の内部に、鮮明な黒色の遮光領域LSを形成することができた。
【0065】
ここで、今回の試験で着目すべき点の一つは、「パルス幅」を、「200fs(2.00E-13s)」(図4の「実施例2」参照)にすると、非常に良い状態の遮光領域LSを形成することができるが、これから僅か「25fs(0.25E-13s)」増加させた「225fs(2.25E-13s)」(図4の「比較例1」参照)にすると、加工不良の遮光領域LSが形成されることである。
【0066】
図10図13は、比較例1に係る試験で使用した披加工物Wの画像図であり、図毎に、異なる試験で得られた被加工物Wを示している。図10(a)は、は試験後の状態を示す図、図10(b)は図10(a)の部分拡大図、図10(c)は(b)の部分拡大図である。図11(a)は試験後の状態を示す図、図11(b)は図11(a)のY部分を示す拡大図である。図12(a)は試験後の状態を示す図、図12(b)は図12(a)の部分拡大図である。図13(a)は試験後の状態を示す図、図13(b)は図13(a)のZ部分を示す拡大図である。
図10図13に示すように、実施例2では、試験を行う度に、
・遮光領域LS内にクラックC(図10図13参照)が形成されること、
・遮光領域LSの周囲に炭化過剰部分LSa(図11図13参照)が形成されること、
が分かった。
【0067】
実施例2及び比較例1の各加工条件を比較すると、「スポット径」が、前者は「1μm」であるのに対し、後者は「4μm」となっていることが分かる(図4参照)。
この点について検証した結果、「パルス幅」が「200fs(2.00E-13s)」(図4の「実施例2」参照)であっても、「スポット径」を「3μm」を超えた値にすると、比較例1の加工条件の場合と同様に、加工不良の遮光領域LSが形成されやすいことが分かった。
【0068】
さらに、「パルス幅」が「200fs(2.00E-13s)」(図4の「実施例2」参照)の場合、「レーザスポット径」が「1μm未満」であっても、実施例2の加工条件の場合と同様に、非常に良い状態の遮光領域LSが形成される傾向があることも分かった。
【0069】
また、実施例1、実施例2及び比較例3に係る試験を行った結果、「レーザスポット径」が「1μm」であっても、「パルス幅」が「200fs(2.00E-13s)」を超えた値にすると、加工不良の遮光領域LSが形成されることを確認できた(図4の「判定」参照)。
【0070】
これらの評価結果から、被加工物Wに被加工領域LSを形成する場合、
・「パルス幅」を「200fs(2.00E-13s)以下」、
・「レーザスポット径」を「3μm以下」、より好ましくは「1μm以下」
にすることが必要であることが判明した。
このような好ましい加工条件を、図5のパルス幅とレーザスポット径との関係を示すグラフに表すと、図中の斜線で囲われた領域R1となる。
【0071】
また、実施例1、実施例2及び比較例3に係る試験を行った結果、「パルス幅:200fs」以下、「レーザスポット径:3μm」以下とした場合、被加工物Wに遮光領域LSを安定的に形成等する観点から、「周波数」、「ピーク出力」及び「波長」を、実施例1及び実施例2の加工条件と同様な、以下の値にすることが好ましいという結論に至った。
・周波数:100kHz以上300kHz以下(図6に示す「パルス幅とレーザスポット径との関係を示すグラフ」中の「領域R2」参照)
・ピーク出力:1W以下
・波長:1100nm以下(図7に示す「パルス幅と波長との関係を示すグラフ」中の「領域R3」参照)
【0072】
以上のように、本実施形態では、レーザ光LBが液状媒体FDを介して被加工物Wの内部に照射されるように構成されているため、コバ部Waの内部に遮光領域LSを精度よく形成することが可能である。
しかも、本実施形態では、レーザ照射装置30から出射されるレーザ光LBを、「パルス幅:200fs(2.00E-13s)以下」、「レーザスポット径:3μm以下(より好ましくは「1μm以下」))とすることで、良好な状態の遮光領域LSを形成すること可能である。
したがって、本実施形態によれば、レーザ加工時の加工精度を維持しつつ、加工品質の向上を確実に図ることができる。
【0073】
なお、本実施形態では、光透過部材20を、容器10と別体で設けたが、図14に示すレーザ加工システム101のように、容器110と一体的に設けることも可能である。
図14に示すレーザ加工システム101では、容器110の底部110Bを、レーザ光LBが透過可能な光透過部材120で形成したものである。
なお、図14に示す例では、特許請求の範囲に記載の「接触面」と「非接触面」とが、それぞれ、光透過部材120の容器110の内側の面(接触面120a)と外側の面(非接触面120b)とに該当する。
【0074】
このように構成すれば、部品点数を削減することができるので、シンプルな構成のレーザ加工システム101を提供することが可能である。
また、図14に示す例では、液状媒体FDに被加工物Wを浸漬した後、レーザ加工システム1(図1参照)のように、光透過部材20を別途準備等することなく、レーザ光LBを、容器110の底部110Bに目掛けて照射すればよいので、作業の簡略化を確実に図ることができる。
【0075】
なお、図14に示す例では、容器110の底部110Bを、光透過部材120を用いて形成したが、側壁部110Aも、光透過部材120を用いて形成することも可能である。
【0076】
また、上記実施形態では、レーザ加工する被加工物Wとして光学素子を例示したが、レーザ光LBが透過可能であれば、他の部材(例えば、光学ガラス)でも、本発明を適用することができる。
【0077】
また、図8図13に示すレーザ加工の態様では、被加工物Wの内部に、レーザ光LBを連続的に照射して加工(実線で囲む環状の遮光領域LSを形成)したが、これを断続的に照射して加工(例えば、破線で囲む環状の遮光領域LSを形成)することも可能である。
【0078】
以上、本発明者によってなされた発明を適用した実施形態について説明したが、この実施形態による本発明の開示の一部をなす論述及び図面により、本発明は限定されるものではない。すなわち、この実施形態に基づいて当業者等によりなされる他の実施形態、実例及び運用技術等はすべて本発明の範疇に含まれることはもちろんであることを付け加えておく。
【符号の説明】
【0079】
1,101 レーザ加工システム
10,110 容器
10A,110A 側壁部
10B,110B 底部
11 支持部材
11A 下側支持部
11B 上側支持部
20,120 光透過部材
20A 本体部
20Aa 接触面
20Ab 非接触面
120a 接触面
120b 非接触面
30 レーザ照射装置
W 被加工物
Wa コバ部
LB レーザ光
LBp 集光点
FD 液状媒体
Ip1~Ip3 入射点
LS 遮光領域(内部領域)
LSa 炭化過剰部分
C クラック
R1~R3 領域
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14