IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ JRCモビリティ株式会社の特許一覧

特開2025-37274車両位置検出装置および車両位置検出方法
<>
  • 特開-車両位置検出装置および車両位置検出方法 図1
  • 特開-車両位置検出装置および車両位置検出方法 図2
  • 特開-車両位置検出装置および車両位置検出方法 図3
  • 特開-車両位置検出装置および車両位置検出方法 図4
  • 特開-車両位置検出装置および車両位置検出方法 図5
  • 特開-車両位置検出装置および車両位置検出方法 図6
  • 特開-車両位置検出装置および車両位置検出方法 図7
  • 特開-車両位置検出装置および車両位置検出方法 図8
  • 特開-車両位置検出装置および車両位置検出方法 図9
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025037274
(43)【公開日】2025-03-18
(54)【発明の名称】車両位置検出装置および車両位置検出方法
(51)【国際特許分類】
   G01S 19/49 20100101AFI20250311BHJP
   G01S 13/60 20060101ALI20250311BHJP
   B61L 25/02 20060101ALI20250311BHJP
   B61L 23/06 20060101ALI20250311BHJP
【FI】
G01S19/49
G01S13/60 200
B61L25/02 G
B61L23/06
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023144077
(22)【出願日】2023-09-06
(71)【出願人】
【識別番号】318006365
【氏名又は名称】JRCモビリティ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100126561
【弁理士】
【氏名又は名称】原嶋 成時郎
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 久嗣
(72)【発明者】
【氏名】中川 賢人
【テーマコード(参考)】
5H161
5J062
5J070
【Fターム(参考)】
5H161AA01
5H161BB02
5H161BB06
5H161CC13
5H161DD23
5H161GG01
5H161GG12
5H161GG22
5H161GG24
5J062BB01
5J062CC07
5J062DD24
5J062EE01
5J062FF01
5J062FF04
5J062FF05
5J062HH09
5J070AC06
5J070AE07
5J070AF03
(57)【要約】
【課題】GNSSを利用した鉄道車両の測位が精度よく行なえない場合でも鉄道車両の位置を精度よく検出することが可能な車両位置検出装置および車両位置検出方法を提供する。
【解決手段】車上装置2は、GNSS受信部211によりGNSS座標を計算し、レーダ速度計24により鉄道車両の速度を計測し、加速度センサ213および角速度センサ214により加速度および角速度を測定し、GNSS信号の測位精度指標が所定値以上である場合には、GNSS座標に基づいて鉄道車両Trの位置を計算し、測位精度指標が所定値未満である場合には、GNSS座標と、速度と、慣性運動量とに基づく複合座標を計算し、複合座標に基づいて鉄道車両Trの位置を計算する。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉄道軌道上を走行する鉄道車両に搭載され、測位衛星から受信した測位信号に基づいて衛星測位座標を計算する測位手段と、
前記鉄道車両に搭載され、レーダ波を送信し、前記レーダ波の反射波を受信して前記鉄道車両の速度を計測するレーダ速度計と、
前記鉄道車両に搭載され、前記鉄道車両の慣性運動量を計測する慣性センサと、
前記鉄道軌道上における前記鉄道車両の位置を、前記鉄道車両に関連する車両関連情報に基づいて計算する車両位置計算手段と、を備え、
前記車両位置計算手段は、
前記測位手段から出力される測位精度指標が所定値以上である場合には、前記車両関連情報として前記衛星測位座標に基づいて前記鉄道車両の位置を計算し、
前記測位精度指標が所定値未満である場合には、前記衛星測位座標と、前記速度と、前記慣性運動量とに基づく複合座標を計算し、前記車両関連情報として前記複合座標に基づいて前記鉄道車両の位置を計算する、
ことを特徴とする車両位置検出装置。
【請求項2】
前記車両位置計算手段は、
前記複合座標と、前記鉄道軌道の位置情報とを比較して前記複合座標の精度を判定し、前記複合座標の精度が所定値未満である場合には、前記車両関連情報として前記速度に基づいて前記鉄道車両の位置を計算する、
ことを特徴とする請求項1に記載の車両位置検出装置。
【請求項3】
前記車両位置計算手段は、
前記レーダ速度計により計測された前記速度の信頼度を前記反射波に基づいて判定し、前記信頼度が所定値未満である場合には、前記車両関連情報として前記慣性運動量に基づいて前記鉄道車両の位置を計算する、
ことを特徴とする請求項2に記載の車両位置検出装置。
【請求項4】
前記車両位置計算手段は、
前記車両関連情報として選択された1つの情報に基づいて、前記鉄道車両の直近の移動量である第1の直近移動量を計算し、
前記車両関連情報として選択されなかったその他の情報に基づいて、前記鉄道車両の直近の移動量である第2の直近移動量をそれぞれ計算し、
前記第1の直近移動量および前記第2の直近移動量と、所定の閾値とを比較し、
前記第1の直近移動量が前記所定の閾値未満である場合には、前記第1の直近移動量の計算に用いられた前記車両関連情報に基づいて前記鉄道車両の位置の計算を継続し、
前記第1の直近移動量が前記所定の閾値以上である場合には、前記第2の直近移動量のうち、前記所定の閾値未満である前記第2の直近移動量の計算に用いられた情報を新たな前記車両関連情報として前記鉄道車両の位置の計算を行なう、
ことを特徴とする請求項3に記載の車両位置検出装置。
【請求項5】
前記車両位置計算手段は、前記衛星測位座標と前記複合座標との誤差量を推定し、推定した前記誤差量を前記複合座標の計算に用いる、
ことを特徴とする請求項1に記載の車両位置検出装置。
【請求項6】
前記車両位置計算手段は、前記鉄道車両に搭載された外部装置、または前記鉄道車両以外の場所に設置された外部装置に設けられている、
ことを特徴とする請求項1ないし5のいずれか1項に記載の車両位置検出装置。
【請求項7】
測位手段により測位衛星から測位信号を受信し、受信した測位信号に基づいて衛星測位座標を計算する処理と、
レーダ速度計からレーダ波を送信し、前記レーダ波の反射波を受信して前記鉄道車両の速度を計測する処理と、
慣性センサにより前記鉄道車両の慣性運動量を計測する処理と、を備え、
前記測位手段から出力される測位精度指標が所定値以上である場合には、前記衛星測位座標に基づいて前記鉄道車両の位置を計算し、
前記測位精度指標が所定値未満である場合には、前記衛星測位座標と、前記速度と、前記慣性運動量とに基づく複合座標を計算し、前記複合座標に基づいて前記鉄道車両の位置を計算する、
ことを特徴とする車両位置検出方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉄道軌道上の鉄道車両の位置を検出する車両位置検出装置および車両位置検出方法に関する。
【背景技術】
【0002】
鉄道工事などにおける鉄道車両と作業員との接触などの事故を防ぐため、列車接近警報システムが用いられている(例えば、特許文献1参照)。特許文献1に記載されている列車接近警報システムでは、GPS(Global Positioning System)などのGNSS(Global Navigation Satellite System)を用いて鉄道車両の位置を測位し、鉄道軌道の位置情報を含む地図情報である鉄道GIS(Geographic Information System)を参照して鉄道軌道上を走行する鉄道車両の位置(具体的には、キロ程)を計算する。そして、鉄道車両が作業員まで所定の距離(警報距離ともいう)内に接近したときに、作業員が携行する警報端末に警報を発生させ、鉄道車両が作業員の作業位置を通過したときに警報を停止する。作業員は、警報が送信されている間、鉄道軌道から離れた位置に退避する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2003-212121号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
GNSSを利用した鉄道車両の測位は、鉄道車両がトンネル内を走行しているとき、沿線に測位を阻害するほど高い樹木が密生し、あるいはビルなどの建造物が存在するとき、さらには山影などを走行するときには行なうことができない。そのため、例えば作業員がトンネルの出口側で作業を行なっていて、警報距離がトンネル内に設定されるような場合には、鉄道車両がトンネルに入る直前に警報を発生させたり、列車接近警報システムが使用できないことを通知したりするなどしている。また、トンネルの出口付近では、GNSS衛星からの信号にマルチパスが発生し、測位が不安定になることがあるため、鉄道車両がトンネルを通過して測位が完了してから警報を停止している。そのため、トンネルが存在する路線で鉄道工事を行なう際には、作業員の退避時間が実際に必要な退避時間よりも長くなるという問題があった。
【0005】
そこで本発明は、GNSSを利用した鉄道車両の測位が精度よく行なえない場合でも鉄道車両の位置を精度よく検出することが可能な車両位置検出装置および車両位置検出方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、請求項1に記載の発明は、鉄道軌道上を走行する鉄道車両に搭載され、測位衛星から受信した測位信号に基づいて衛星測位座標を計算する測位手段と、前記鉄道車両に搭載され、レーダ波を送信し、前記レーダ波の反射波を受信して前記鉄道車両の速度を計測するレーダ速度計と、前記鉄道車両に搭載され、前記鉄道車両の慣性運動量を計測する慣性センサと、前記鉄道軌道上における前記鉄道車両の位置を、前記鉄道車両に関連する車両関連情報に基づいて計算する車両位置計算手段と、を備え、前記車両位置計算手段は、前記測位手段から出力される測位精度指標が所定値以上である場合には、前記車両関連情報として前記衛星測位座標に基づいて前記鉄道車両の位置を計算し、前記測位精度指標が所定値未満である場合には、前記衛星測位座標と、前記速度と、前記慣性運動量とに基づく複合座標を計算し、前記車両関連情報として前記複合座標に基づいて前記鉄道車両の位置を計算する、ことを特徴とする車両位置検出装置である。
【0007】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の車両位置検出装置において、前記車両位置計算手段は、前記複合座標と、前記鉄道軌道の位置情報とを比較して前記複合座標の精度を判定し、前記複合座標の精度が所定値未満である場合には、前記車両関連情報として前記速度に基づいて前記鉄道車両の位置を計算する、ことを特徴とする。
【0008】
請求項3に記載の発明は、請求項2に記載の車両位置検出装置において、前記車両位置計算手段は、前記レーダ速度計により計測された前記速度の信頼度を前記反射波に基づいて判定し、前記信頼度が所定値未満である場合には、前記車両関連情報として前記慣性運動量に基づいて前記鉄道車両の位置を計算する、ことを特徴とする。
【0009】
請求項4に記載の発明は、請求項1に記載の車両位置検出装置において、前記車両位置計算手段は、前記車両関連情報として選択された1つの情報に基づいて、前記鉄道車両の直近の移動量である第1の直近移動量を計算し、前記車両関連情報として選択されなかったその他の情報に基づいて、前記鉄道車両の直近の移動量である第2の直近移動量をそれぞれ計算し、前記第1の直近移動量および前記第2の直近移動量と、所定の閾値とを比較し、前記第1の直近移動量が前記所定の閾値未満である場合には、前記第1の直近移動量の計算に用いられた前記車両関連情報に基づいて前記鉄道車両の位置の計算を継続し、前記第1の直近移動量が前記所定の閾値以上である場合には、前記第2の直近移動量のうち、前記所定の閾値未満である前記第2の直近移動量の計算に用いられた情報を新たな前記車両関連情報として前記鉄道車両の位置の計算を行なう、ことを特徴とする。
【0010】
請求項5に記載の発明は、請求項1に記載の車両位置検出装置において、前記車両位置計算手段は、前記衛星測位座標と前記複合座標との誤差量を推定し、推定した前記誤差量を前記複合座標の計算に用いる、ことを特徴とする。
【0011】
請求項6に記載の発明は、請求項1ないし5のいずれか1項に記載の車両位置検出装置において、前記車両位置計算手段は、前記鉄道車両に搭載された外部装置、または前記鉄道車両以外の場所に設置された外部装置に設けられている、ことを特徴とする。
【0012】
請求項7に記載の発明は、測位手段により測位衛星から測位信号を受信し、受信した測位信号に基づいて衛星測位座標を計算する処理と、レーダ速度計からレーダ波を送信し、前記レーダ波の反射波を受信して前記鉄道車両の速度を計測する処理と、慣性センサにより前記鉄道車両の慣性運動量を計測する処理と、を備え、前記測位手段から出力される測位精度指標が所定値以上である場合には、前記衛星測位座標に基づいて前記鉄道車両の位置を計算し、前記測位精度指標が所定値未満である場合には、前記衛星測位座標と、前記速度と、前記慣性運動量と、に基づく複合座標を計算し、前記複合座標に基づいて前記鉄道車両の位置を計算する、ことを特徴とする車両位置検出方法である。
【発明の効果】
【0013】
請求項1および請求項7に記載の発明によれば、測位信号に基づく測位精度指標が所定値未満である場合には、衛星測位座標と、速度と、慣性運動量とに基づく複合座標を計算し、複合座標に基づいて鉄道車両の位置を計算するので、測位信号に基づく測位精度が悪い場合でも鉄道車両の位置を精度よく検出することが可能である。また、鉄道車両の車軸の回転数を検出して速度を計測する場合、車輪の空転・滑走によって速度の計測精度が悪化するが、本発明ではレーダ速度計を用いるので、精度よく鉄道車両の速度を検出することが可能である。
【0014】
請求項2に記載の発明によれば、複合座標の精度が所定値未満である場合には、速度に基づいて鉄道車両の位置を計算するので、例えば、鉄道車両がトンネル内を走行していて複合座標の精度が低下した場合でも鉄道車両の位置を精度よく検出することが可能である。
【0015】
請求項3に記載の発明によれば、レーダ速度計により計測された速度の信頼度が所定値未満の場合(すなわち、信頼できない場合)には、慣性運動量に基づいて鉄道車両の位置を計算するので、例えば積雪によってレーダ波が吸収され、レーダ速度計では速度が計測できない場合でも鉄道車両の位置を精度よく検出することが可能である。
【0016】
請求項4に記載の発明によれば、車両関連情報に基づいて計算された鉄道車両の直近移動量と、車両関連情報として選択されなかった情報に基づいて計算された鉄道車両の直近移動量とを適宜比較し、車両関連情報に基づいて計算された鉄道車両の直近移動量が適正ではない可能性がある場合には、直近移動量が適正であると思われる情報に基づいて鉄道車両の位置を計算するので、測位手段、レーダ速度計および慣性センサなどに瞬時的に発生する可能性がある未知の挙動や異常値に対応することが可能である。
【0017】
請求項5に記載の発明によれば、複合座標の計算に、衛星測位座標と複合座標との誤差量を用いるので、衛星測位座標、速度および慣性運動量などの誤差やノイズが発生する計測値から鉄道車両の位置を精度よく検出することが可能である。
【0018】
請求項6に記載の発明によれば、鉄道車両に搭載された外部装置に車両位置計算手段を設けるので、例えば、外部装置に高速な演算処理が可能なコンピュータなどを用いることにより、鉄道車両の位置を高速に計算することができ、計算した位置情報を利用して鉄道車両の運行を支援するアプリケーションソフトウェアなどを動作させることが可能である。また、鉄道車両以外の場所に設置された外部装置に車両位置計算手段を設ける場合には、多数の鉄道車両に搭載される車上装置のコストを抑制することが可能である。さらに、多数の鉄道車両の位置検出を外部装置で一括して処理することができるので、車上装置の処理負荷を軽減し電力消費量を抑制することが可能である。また、車両位置計算手段の機能をアップデートする際には、外部装置の車両位置計算手段にのみ変更を行なうだけでよいので、各車上装置に車両位置計算手段が設置されている場合よりも簡単に機能をアップデートすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】この発明の実施の形態1に係る車両接近警報システムの概略構成を示すブロック図である。
図2図1に示す車上装置の概略構成を示すブロック図である。
図3図2に示す複合測位部による複合座標の計算手法を示す説明図である。
図4図2に示すキロ程計算部によるキロ程の計算手法を示す説明図である。
図5】本実施の形態による鉄道車両の位置の検出手順を示すフローチャートである。
図6】(A)は鉄道車両の走行環境の変化を示し、(B)は走行環境の変化に応じて切り替えられる測位座標の計算手法を示す図である。
図7】鉄道車両の位置計算が適正であるか否かを判定する手順を示す実施の形態2のフローチャートである。
図8】鉄道車両に搭載された外部装置に車両位置計算部を設置した実施の形態3に係る車両接近警報システムの概略構成を示すブロック図である。
図9】鉄道車両以外の場所に設置された外部装置に車両位置計算部を設置した実施の形態4に係る車両接近警報システムの概略構成を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、この発明を図示の実施の形態に基づいて説明する。
【0021】
(実施の形態1)
図1は、本発明の車両位置検出装置および車両位置検出方法を用いた、第1の実施の形態に係る車両接近警報システム1の概略構成を示すブロック図である。車両接近警報システム1は、例えば、鉄道車両Trに搭載された車上装置(車両位置検出装置)2と、鉄道工事に従事する作業員Wにより携行される警報端末3と、サーバ4と、これらを相互に通信可能に接続する通信ネットワーク5と、を備える。通信ネットワーク5は、例えば、携帯電話通信網やインターネットなどの公衆通信網である。
【0022】
車上装置2は、鉄道車両Trに搭載されており、鉄道車両Trの鉄道軌道R上の位置(例えば、鉄道路線ごとに設定される起点からの距離を示すキロ程)、速度、方位(進行方向)を検出し、これらの検出結果を含む列車情報をサーバ4へ送信する。
【0023】
より具体的には、車上装置2は、GNSS衛星(例えばGPS衛星)Stから測位信号であるGNSS信号(例えばGPS信号)を受信し、受信したGNSS信号に基づいてGNSS座標(衛星測位座標)を計算する。また、車上装置2は、接続されたレーダ速度計からレール方向(鉄道車両Trが走行可能な方向)にレーダ波を送信し、レーダ波の反射波を受信して鉄道車両Trの速度を計測する。さらに、車上装置2は、慣性センサにより鉄道車両Trの慣性運動量を測定する。なお、レール方向は、鉄道車両Trが前進する際の進行方向に限られず、鉄道車両Trが後進する際の後方も含まれる。
【0024】
そして、車上装置2は、GNSS衛星StからGNSS信号とともに受信した測位精度指標が所定値以上である場合には、GNSS座標に基づいて鉄道車両Trの位置を計算し、測位精度指標が所定値未満である場合には、GNSS座標と、速度と、慣性運動量とに基づく複合座標を計算し、複合座標に基づいて鉄道車両Trの位置を計算する。
【0025】
また、車上装置2は、複合座標と、鉄道軌道Rの軌道座標(位置情報)とを比較して複合座標の精度を判定し、複合座標の精度が所定値未満である場合には、速度に基づいて鉄道車両Trの位置を計算する。
【0026】
さらに、車上装置2は、速度に基づいて鉄道車両Trの位置を計算する際に、レーダ速度計により計測された速度の信頼度を反射波に基づいて判定し、信頼度が所定値(閾値)未満の場合(すなわち、信頼できない場合)には、慣性運動量に基づいて鉄道車両Trの位置を計算する。
【0027】
このように、本実施の形態に係る車上装置2は、GNSS信号に基づく測位精度が良好な場合には、GNSS座標に基づいて鉄道車両Trの位置を計算し、GNSS信号に基づく測位精度が低下した場合には、複合座標に基づいて鉄道車両Trの位置を計算する。また、複合座標の精度が悪い場合には、レーダ速度計の速度に基づいて鉄道車両Trの位置を計算し、積雪などによってレーダ波が吸収され、レーダ速度計で速度が計測できない場合には、慣性運動量に基づいて鉄道車両Trの位置を計算する。
【0028】
警報端末3は、GNSS衛星StからGNSS信号を受信し、受信したGNSS信号に基づいて警報端末3の位置、すなわち、作業員Wの位置を検出する機能と、サーバ4から鉄道車両Trの列車情報を受信する機能と、鉄道車両Trの位置が作業員Wの位置から警報距離内に接近したときに音や光などを用いて警報を発生する機能と、鉄道車両Trの位置が作業員Wの位置を通過したときに警報を停止する機能とを備えている。なお、警報を発生する機能には、鉄道車両Trとの接近距離や速度を文字情報によって表示し、あるいは、線路図上に作業位置と鉄道車両Trのアイコンを表示して感覚的に位置関係を把握できるような機能が含まれる。
【0029】
なお、上記では、警報端末3で警報の発生および停止の判断を行なうようにしたが、サーバ4で行なうようにしてもよい。この場合、サーバ4は、車上装置2から列車情報を収集し、警報端末3から、作業員情報(作業員Wの位置、作業路線、線別などを含む情報で、位置はキロ程でもよいし、緯度・経度でもよい)を収集する。そして、鉄道車両Trの位置が作業員Wの位置から警報距離内に接近したときには、警報を発生させるための警報信号を警報端末3へ送信し、鉄道車両Trの位置が作業員Wの位置を通過したときには、警報を停止させるための警報停止信号を警報端末3へ送信する。
【0030】
図2は、車上装置2の概略構成を示すブロック図である。車上装置2は、装置本体21と、GNSSアンテナ22と、通信アンテナ23と、レーダ速度計24とを備える。装置本体21は、GNSS受信部211と、通信モジュール212と、加速度センサ213と、角速度センサ214と、鉄道GIS215と、制御部216とを備えている。
【0031】
GNSSアンテナ22は、複数のGNSS衛星StからGNSS信号を受信し、GNSS受信部211へ出力する。GNSS受信部211は、GNSS信号に基づいて、GNSS座標と、速度と、方位とを計算し、制御部216へ出力する。また、GNSS信号には、GNSS座標の測位精度を示す測位精度指標が含まれており、この測位精度指標はGNSS座標とともに制御部216に出力される。GNSSアンテナ22およびGNSS受信部211は、本発明の測位手段を構成する。なお、GNSSによる測位の仕法は周知の技術であるので詳細な説明は省略する。
【0032】
通信アンテナ23は、通信モジュール212から出力された列車情報を、通信ネットワーク5を介してサーバ4へ送信する。
【0033】
レーダ速度計24は、レーダアンテナ(図示せず)からレール方向にレーダ波を送信し、レール、枕木などが敷設された線路軌道によって反射された反射波を受信して、鉄道車両Trの速度を計測し、計測結果を制御部216へ出力する。レーダ速度計24は、レーダ波が積雪などにより吸収されて反射波が受信できないときには、計測NGフラグを制御部216へ出力する。なお、レーダ速度計による速度計測の仕法は周知の技術であるので詳細な説明は省略する。
【0034】
加速度センサ213および角速度センサ214(慣性センサ)は、鉄道車両Trの走行時に発生する加速度および角速度(慣性運動量)を計測し、計測結果を制御部216へ出力する。
【0035】
鉄道GIS215は、鉄道路線の地図情報と、鉄道路線ごとの鉄道軌道Rの緯度・経度およびキロ程の情報とが記録された地理情報システムである。鉄道GIS215には、例えば下掲の表1に示すように、鉄道路線ごとに、複数の軌道座標を相互に区別するための識別番号としての軌道座標番号と、各軌道座標の緯度および経度と、当該の鉄道路線の起点(別言すると、始発駅)から各軌道座標までの距離を示すキロ程と、の組み合わせデータが、鉄道路線の地図情報と対応付けて蓄積されている。
【0036】
【表1】
【0037】
制御部216は、車上装置2を構成する各部の動作を統括的に制御する機能を備え、例えば、鉄道車両Trの位置(具体的には、キロ程)の計算に纏わる演算処理を行うCPU(Central Processing Unit)などを有する機序として構成される。
【0038】
制御部216は、記憶部(図示せず)に格納されている、車上装置2の動作を制御するためのプログラム(図示省略)をCPUが実行することにより、車両位置計算部(車両位置計算手段)25として機能する。
【0039】
車両位置計算部25は、鉄道車両Trに関連する車両関連情報に基づいて、鉄道車両Trの位置(具体的には、キロ程)を計算するための機能部であり、複合測位部251と、速度測位部252と、慣性測位部253と、キロ程計算部254とを備える。
【0040】
複合測位部251は、複数の情報に基づいて鉄道車両Trの測位座標である複合座標を計算するための測位部である。複合測位部251は、GNSS受信部211によって計算されたGNSS座標と、レーダ速度計24により計測された鉄道車両Trの速度と、加速度センサ213および角速度センサ214により計測された鉄道車両Trの加速度および角加速度とに基づいて、鉄道車両Trの複合座標を計算する。
【0041】
図3は、複合測位部251による複合座標の計算手法を示している。複合測位部251は、複合座標を含む複合測位情報を計算して出力する慣性演算部2511と、GNSS座標と複合座標の誤差量を推定して出力する誤差推定部2512とを備える。
【0042】
複合測位部251は、鉄道車両Trが運行を開始すると複合座標を常時計算する。GNSS受信部211は、鉄道車両Trの運行開始前に初期位置および初期方位が初期化される。初期位置は、GNSS信号から計算されたGNSS座標に基づいて初期化され、初期方位は、鉄道車両Trの運行開始時の移動方位に基づいて初期化される。GNSS受信部211は、初期化後に計算したGNSS測位情報(緯度、経度、方位および速度)を誤差推定部2512へ出力する。
【0043】
慣性演算部2511は、鉄道車両Trの運行開始前に初期姿勢角が初期化される。具体的には、停車中の鉄道車両Trの加速度をx、y、zの3軸方向に分解して初期化する。慣性演算部2511は、レーダ速度計24により計測された鉄道車両Trの速度と、加速度センサ213および角速度センサ214により計測された鉄道車両Trの加速度および角加速度と、誤差推定部2512から入力された誤差量とに基づいて、複合座標を含む複合測位情報(緯度、経度、方位、姿勢、速度)を計算して誤差推定部2512へ出力する。誤差推定部2512は、GNSS座標と複合座標の誤差量を推定して慣性演算部2511へ出力する。
【0044】
上記のように、複合測位部251は、レーダ速度計24により計測された鉄道車両Trの速度と、加速度センサ213および角速度センサ214により計測された鉄道車両Trの加速度および角加速度と、誤差推定部2512から入力されたGNSS座標と複合座標との誤差量とに基づいて、複合座標を繰り返し計算することにより、より正確な測位座標を出力する。
【0045】
速度測位部252は、GNSS座標または複合座標の精度が低下した場合に、車両関連情報として、レーダ速度計24で計測された速度に基づいて鉄道車両Trの測位座標である速度座標を計算する。具体的には、精度の低下前に計算されたGNSS座標または複合座標と、レーダ速度計24により計測された鉄道車両Trの速度を積分して求めた距離とに基づいて、速度座標を計算する。
【0046】
慣性測位部253は、積雪などによってレーダ波が吸収され、レーダ速度計24で速度が計測できない場合に、車両関連情報として、慣性運動量に基づいて鉄道車両Trの測位座標である慣性座標を計算する。具体的には、GNSS座標または複合座標の精度の低下前に計算されたGNSS座標または複合座標、あるいは、速度測位部252により最後に計算された速度座標と、加速度センサ213および角速度センサ214により計測された鉄道車両Trの加速度および角加速度を2回積分して求めた距離とに基づいて慣性座標を計算する。
【0047】
キロ程計算部254は、鉄道車両Trの測位座標であるGNSS座標、複合座標、速度座標または慣性座標と、鉄道GIS215に記録されている情報とに基づいて鉄道車両Trのキロ程を計算する。
【0048】
キロ程計算部254は、GNSS受信部211、複合測位部251、速度測位部252または慣性測位部253から出力される測位座標の入力を受けるとともに、鉄道GIS215を参照して、測位座標に最も近い位置にある一対の軌道座標を特定し、測位座標と一対の軌道座標とに基づいてキロ程を計算する。
【0049】
より具体的には、図4に示すように、測位座標M(x,y)に対し、最も近い位置にある一対の軌道座標A(x,y)および軌道座標B(x,y)を特定し、測位座標Mから軌道座標Aと軌道座標Bとの間の線分ABへと垂線を下ろし、線分ABと垂線との交点Pの位置(x,y)を、鉄道軌道R上に存在する鉄道車両Trの位置とする。
【0050】
鉄道車両Trのキロ程Kは、軌道座標Aのキロ程Kに軌道座標Aから交点Pまでの距離aを加算して求める。なお、測位座標Mは、厳密にいうとGNSSアンテナ22の位置であるため、鉄道車両Trのキロ程Kは、鉄道車両Trに設置されたGNSSアンテナ22の設置位置と鉄道車両Trの先端との距離値と、進行方向とを考慮して決定される。距離aは、測位座標Mから軌道座標Aまでの距離DMAと、測位座標Mから軌道座標Bまでの距離DMBと、軌道座標Aと軌道座標Bとの間の距離とに基づき、三平方の定理により求めることが可能である。
【0051】
次に、図5に示すフローチャートと、図6に示す説明図とに基づいて、鉄道車両Trの位置の検出手順について説明する。図6(A)は、図中右方向に走行する鉄道車両Trの走行環境の変化を示し、同図(B)は、走行環境の変化に応じて切り替えられる測位座標の計算手法を示している。
【0052】
車上装置2の車両位置計算部25は、鉄道車両Trの運行開始前にGNSS受信部211の初期位置および初期方位を初期化し、複合測位部251の慣性演算部の初期姿勢角を初期化する(ステップS1)。なお、ステップS1の初期化処理は、トンネル内などの未測位環境で行なわれる可能性があるため、車上装置2の電源オフ時に保存された最終キロ程を初期位置に設定してもよい。
【0053】
車両位置計算部25の複合測位部251は、鉄道車両Trが運行を開始すると、レーダ速度計24により計測された鉄道車両Trの速度と、加速度センサ213および角速度センサ214により計測された鉄道車両Trの加速度および角加速度と、誤差推定部2512から入力されたGNSS座標と複合座標との誤差量とに基づいて、複合座標を繰り返し計算する(ステップS2)。
【0054】
車両位置計算部25は、GNSS受信部211から入力された測位精度指標が予め設定された所定値(閾値)以上であるか否かを判定し(ステップS3)、測位精度指標が所定値以上である場合には、GNSS測位の精度が良好であると判定し(ステップS3でYES)、キロ程計算部254は車両関連情報としてGNSS座標から鉄道車両Trのキロ程を計算する(ステップS4)。
【0055】
図6(A)に示すように、鉄道車両Trが、GNSS衛星StからのGNSS信号がトンネルTや樹林Fによって遮られず、GNSS信号のマルチパスが発生しやすいトンネルTの出口Te付近を走行していない場合には、測位精度指標は所定値以上になるので、同図(B)にハッチングで示したように、GNSS受信部211により測位されたGNSS座標に基づいて鉄道車両Trのキロ程が計算される。
【0056】
また、上記のステップS3において、測位精度指標が所定値未満である場合には(ステップS3でNO)、車両位置計算部25は、複合測位部251による複合測位の精度が予め設定された所定値(閾値)以上であるか否かを判定する(ステップS5)。なお、測位精度指標に関する閾値は、鉄道GIS215にエリアごとに異なる値を予め記憶しておき、エリアごとに異なる測位環境下に対しても鉄道GIS215を参照して閾値を取得して判定を行なうことで、より適切な位置演算を行なうことが可能となる。さらに、鉄用車両TrにおけるGNSSアンテナ22の設置位置は、車種の違いによる車両の構造上の違いによって異なるが、閾値をGNSSアンテナ22の設置位置に応じて設定することで、GNSSアンテナ22の設置位置が異なることにより生じる測位精度の変化にも対応することが可能である。
【0057】
複合測位の精度は、図4に示すように、複合座標の測位座標M(x,y)に対し、最も近い位置にある一対の軌道座標A(x,y)および軌道座標B(x,y)を特定し、測位座標Mから軌道座標Aと軌道座標Bとの間の線分ABへと垂線を下ろし、測定座標Mと線分ABとの距離mを求める。距離mは、三平方の定理により求められる。そして、距離mが予め設定された所定値よりも短い場合には、複合測位の精度が所定値以上、すなわち精度が良好であると判定し(ステップS5でYES)、キロ程計算部254は車両関連情報として複合座標から鉄道車両Trのキロ程を計算する(ステップS6)。
【0058】
図6(A)に示すように、鉄道車両Trが、GNSS信号のマルチパスが発生しやすいトンネルTの出口Te付近を走行している場合には、GNSS座標の測位精度指標は閾値未満になるが、複合測位の精度は所定値以上になるので、同図(B)に示すように、複合測位部251により測位された複合座標に基づいて鉄道車両Trのキロ程が計算される。
【0059】
また、上記のステップS5において、複合測位部251による複合測位の精度が予め設定された所定値未満である場合には(ステップS5でNO)、車両位置計算部25は、レーダ速度計24により計測された速度の信頼度を反射波に基づいて求め、信頼度が所定値(閾値)未満であるか否かを判定する(ステップS7)。
【0060】
レーダ速度計24により計測された速度の信頼度は、種々の手法によって求めることができるが、この実施の形態では、レーダ速度計24からの計測NGフラグの出力の有無によって信頼度を判定する。すなわち、計測NGフラグが出力された場合には、速度の信頼度は所定値未満(信頼できない)であると判定し、計測NGフラグが出力されない場合には、速度の信頼度は所定値以上(信頼できる)であると判定する。
【0061】
レーダ速度計24により計測された速度の信頼度が所定値以上である場合(すなわち、信頼できる場合)には(ステップS7でYES)、キロ程計算部254は車両関連情報として速度座標から鉄道車両Trのキロ程を計算する(ステップS8)。
【0062】
図6(A)に示すように、鉄道車両TrがトンネルT内を走行している場合には、GNSS座標の測位精度指標は閾値未満になり、GNSS座標を利用する複合測位の精度も所定値未満となるので、同図(B)に示すように、速度測位部252により測位された速度座標に基づいて鉄道車両Trのキロ程が計算される。
【0063】
また、上記のステップS7において、レーダ速度計24により計測された速度の信頼度が所定値未満の場合(すなわち、信頼できない場合)には(ステップS7でNO)、キロ程計算部254は慣性測位部253から出力された慣性座標を車両関連情報として鉄道車両Trのキロ程を計算する(ステップS9)。
【0064】
図6(A)に示すように、鉄道車両Trが積雪Scのある樹林F内を走行している場合には、GNSS座標の測位精度指標は閾値未満になり、GNSS座標を利用する複合測位の精度も所定値未満になり、レーダ速度計24では速度が計測できない。そのため、同図(B)に示すように、慣性測位部253により測位された慣性座標に基づいて鉄道車両Trのキロ程が計算される。
【0065】
なお、速度の信頼度として、計測NGフラグの有無を用いたが、反射波の強度などを用いてもよい。その場合には、鉄道GIS215にエリアごとに異なる閾値を予め記憶しておき、エリアごとに異なる閾値を用いてもよい。これによれば、エリアごとに異なる速度測定環境下に対しても鉄道GIS215を参照して閾値を取得して判定を行なうことで、より適切な位置演算を行なうことが可能となる。
【0066】
図5にA~Dで示すように、以上で説明したステップS3~S9は、GNSS衛星StからGNSS信号を受信するたびに繰り返され、より精度のよい測位座標に基づいて鉄道車両Trの位置が計算される。
【0067】
上記の実施の形態に係る車両接近警報システム1によれば、GNSS信号に基づく測位精度指標が所定値未満である場合には、GNSS座標と、速度と、慣性運動量とに基づく複合座標を計算し、複合座標に基づいて鉄道車両Trの位置を計算するので、GNSS信号に基づく測位精度が悪い場合でも鉄道車両Trの位置を精度よく検出することが可能である。また、鉄道車両Trの車軸の回転数を検出して速度を計測する場合、車輪の空転・滑走によって速度の計測精度が悪化するが、本実施の形態ではレーダ速度計24を用いるので、精度よく鉄道車両Trの速度を検出することが可能である。
【0068】
また、本実施の形態に係る車両接近警報システム1によれば、複合座標の精度が所定値未満である場合には、速度に基づいて鉄道車両の位置を計算するので、例えば、鉄道車両TrがトンネルT内を走行していて複合座標の精度が低下した場合でも鉄道車両Trの位置を精度よく検出することが可能である。
【0069】
さらに、本実施の形態に係る車両接近警報システム1によれば、レーダ速度計24により計測された速度の信頼度が所定値未満(信頼できない)である場合には、慣性運動量に基づいて鉄道車両Trの位置を計算するので、例えば積雪によってレーダ波が吸収され、レーダ速度計では速度が計測できない場合でも鉄道車両Trの位置を精度よく検出することが可能である。
【0070】
また、本実施の形態に係る車両接近警報システム1によれば、複合座標の計算に、衛星測位座標と複合座標との誤差量を用いるので、GNSS座標、速度および慣性運動量などの誤差やノイズが発生する計測値から鉄道車両Trの位置を精度よく検出することが可能である。
【0071】
(実施の形態2)
上記の実施の形態1では、所定の周期でGNSS座標、複合座標、速度座標または慣性座標のいずれかを用いて鉄道車両Trの位置を計算しているが、GNSS受信部211、レーダ速度計24、加速度センサ213および各速度センサ214などに瞬時的に未知の挙動や異常値が発生し、鉄道車両Trの位置が適切に計算できなくなる可能性がある。このような場合に対処するため、鉄道車両Trの位置が適正であるか否かを適宜判定するようにしてもよい。
【0072】
図7のフローチャートに示すように、本実施の形態に係る車両位置計算部25は、任意のタイミングで、車両関連情報として選択された1つの情報に基づいて、鉄道車両Trの直近の移動量である第1の直近移動量を計算する(ステップS10)。ここで、直近移動量とは、最新の計算により求められた鉄道車両Trの最新位置と、最新の計算の直前に行なわれた計算により求められた鉄道車両Trの直前位置との差分である。すなわち、車両関連情報としてGNSS座標が用いられている場合には、GNSS座標に基づいて計算された鉄道車両Trの直近移動量が第1の直近移動量として計算される。
【0073】
また、車両位置計算部25は、車両関連情報として選択されなかったその他の情報に基づいて、鉄道車両Trの直近の移動量である第2の直近移動量をそれぞれ計算する(ステップS11)。ここで、車両関連情報として選択されなかったその他の情報とは、例えば、車両関連情報としてGNSS座標が用いられている場合には、それ以外の複合座標、速度座標および慣性座標などが相当し、車両位置計算部25は、複合座標、速度座標および慣性座標のそれぞれから第2の直近移動量を計算する。なお、GNSS受信部211、レーダ速度計24、加速度センサ213および各速度センサ214などが有効に機能していない場合には、その機能していないセンサに基づく直近移動量は計算しなくてもよい。
【0074】
次いで、車両位置計算部25は、第1の直近移動量および第2の直近移動量と、所定の閾値とを比較する(ステップS12)。ここで、所定の閾値とは、例えば、鉄道車両Trの移動量の上限値であり、鉄道車両Trの運用速度や性能などに応じて適宜設定される。
【0075】
次いで、車両位置計算部25は、第1の直近移動量が所定の閾値未満である場合には(ステップS13でNO)、第1の直近移動量の計算に用いられた車両関連情報に基づいて鉄道車両Trの位置の計算を継続する(ステップS14)。また、これとは逆に、第1の直近移動量が所定の閾値以上である場合には(ステップS13でYES)、第2の直近移動量のうち、所定の閾値未満である第2の直近移動量の計算に用いられた情報を新たな車両関連情報として鉄道車両Trの位置の計算を継続する(ステップS15)。
【0076】
なお、所定の閾値未満である第2の直近移動量が複数存在する場合には、図5に示すように、GNSS座標、複合座標、速度座標および慣性座標の優先度順に応じて、鉄道車両Trの位置計算に用いる車両関連情報を決定してもよいし、閾値未満である複数の第2の直近移動量の平均値を用いて鉄道車両Trの現在位置を補正するようにしてもよい。
【0077】
また、複数の第2の直近移動量の全てが所定の閾値以上である場合には、現在の車両関連情報を用いて鉄道車両Trの位置を計算するが、その際に鉄道車両Trの位置の信頼度が低い旨を、警報端末3などを用いて作業員Wに報知するようにしてもよい。この報知は、信頼度の高いGNSS座標に基づく位置計算が行なわれるまで継続することが望ましい。
【0078】
本実施の形態に係る車両接近警報システムによれば、車両関連情報に基づいて計算された鉄道車両Trの直近移動量と、車両関連情報として選択されなかった情報に基づいて計算された鉄道車両Trの直近移動量とを適宜比較し、車両関連情報に基づいて計算された鉄道車両Trの直近移動量が適正ではない可能性がある場合には、直近移動量が適正であると思われる情報に基づいて鉄道車両Trの位置を計算するので、測位手段、レーダ速度計および慣性センサなどに瞬時的に発生する可能性がある未知の挙動や異常値に対応することが可能である。
【0079】
(実施の形態3)
図8は、本発明の車両位置検出装置および車両位置検出方法を用いた、第3の実施の形態に係る車両接近警報システム1Aの概略構成を示すブロック図である。なお、実施の形態1に係る車両接近警報システム1と同一の構成については、同じ符号を用いて詳細な説明は省略する。
【0080】
本実施の形態に係る車両接近警報システム1Aは、鉄道車両Trに搭載され、車上装置2に接続された外部装置6に車両位置計算部(車両位置計算手段)25と、鉄道GIS215とを搭載している。すなわち、本実施の形態では、GNSS受信部211により計算されたGNSS座標、レーダ速度計24により計測された速度、加速度センサ213および角速度センサ214により計測された加速度および角速度を車上装置2から外部装置6に送信し、外部装置6の車両位置計算部25および鉄道GIS215によって鉄道車両Trの位置を検出している。
【0081】
本実施の形態に係る車両接近警報システム1Aによれば、例えば、外部装置6に高速な演算処理が可能なコンピュータなどを用いることにより、鉄道車両Trの位置を高速に計算することができ、計算した位置情報を利用して鉄道車両Trの運行を支援するアプリケーションソフトウェアなどを動作させることが可能である。また、車上装置2の処理負荷を軽減し、電力消費量を抑制することが可能である。
【0082】
(実施の形態4)
図9は、本発明の車両位置検出装置および車両位置検出方法を用いた、第4の実施の形態に係る車両接近警報システム1Bの概略構成を示すブロック図である。なお、実施の形態1に係る車両接近警報システム1と同一の構成については、同じ符号を用いて詳細な説明は省略する。
【0083】
本実施の形態に係る車両接近警報システム1Bは、鉄道車両Tr以外の場所に設置された外部装置、例えばサーバ4に車両位置計算部(車両位置計算手段)25と、鉄道GIS215とを搭載している。すなわち、本実施の形態では、GNSS受信部211により計算されたGNSS座標、レーダ速度計24により計測された速度、加速度センサ213および角速度センサ214により計測された加速度および角速度を車上装置2からサーバ4に送信し、サーバ4の車両位置計算部25および鉄道GIS215によって鉄道車両Trの位置を検出している。
【0084】
本実施の形態に係る車両接近警報システム1Bによれば、サーバ4の車両位置計算部25によって多数の鉄道車両Trの位置を検出するので、多数の鉄道車両Trに搭載される車上装置2のコストを抑制することが可能である。さらに、多数の鉄道車両Trの位置検出をサーバ4で一括して処理することができるので、各鉄道車両Trに設置された車上装置2の処理負荷を軽減し電力消費量を抑制することが可能である。また、車両位置計算部25の機能をアップデートする際には、サーバ4の車両位置計算部25にのみ変更を行なうだけでよいので、各車上装置2に車両位置計算部25が設置されている場合よりも簡単に機能をアップデートすることができる。
【0085】
以上、この発明の実施の形態について説明したが、具体的な構成は、上記の実施の形態に限られるものではなく、この発明の要旨を逸脱しない範囲の設計の変更等があっても、この発明に含まれる。
【0086】
例えば、上記の実施の形態4では、サーバ4に車両位置計算部25および鉄道GIS215を設けたが、サーバ4以外の外部装置に設けるようにしてもよい。
【0087】
また、上記の実施の形態では、車軸に連動する速度計の誤差の影響を受けないようにするためにレーダ速度計を用いたが、車軸に連動する速度計の誤差が許容されるシステムにおいては、車軸に連動する既設の速度計から情報を取得してもよいし、この既設の速度計とレーダ速度計とを併用してもよい。
【0088】
さらに、上記の実施の形態では、GNSS受信部211に基づくGNSS座標、レーダ速度計24に基づく速度座標、加速度センサ213および角速度センサ214に基づく慣性座標、GNSS受信部211、レーダ速度計24、加速度センサ213および角速度センサ214に基づく複合座標の4つのうちのいずれかを用いて鉄道車両Trの位置を計算するようにしたが、装置構成の簡素化、低価格化を図るために、鉄道車両Trの位置計算に用いるセンサまたは手段の種類を少なくしてもよい。すなわち、鉄道軌道上における鉄道車両Trの位置を、鉄道車両Trに関連する車両関連情報に基づいて計算する車両位置計算手段において、車両関連情報を得るためのセンサまたは手段の数を少なくとも2つとし、その2つの車両関連情報のいずれかを用いて鉄道車両Trの位置を計算するようにしてもよい。
【0089】
具体的には、加速度センサ213および角速度センサ214の計測結果に基づいて計算される速度および距離の誤差が許容できる範囲である場合には、装置価格が高いレーダ速度計24や、高い処理能力が必要とされる複合測位部251などを省略し、GNSS受信部211に基づくGNSS座標または加速度センサ213および角速度センサ214に基づく慣性座標のいずれかに基づいて、鉄道車両Trの位置を計算するようにしてもよい。より具体的に説明すると、図5に示すフローチャートにおいて、ステップS5、S6およびステップS7、S8を省略する。これによれば、装置の簡素化による故障頻度の低下、低価格化による普及促進を図ることが可能である。
【0090】
さらに、本発明は、車両位置検出装置、車両接近警報システムの異常状態の検出を行い、異常状態の程度に応じて注意喚起や、システム異常などの通知を行なう機能を備えるようにしてもよい。検出される異常状態としては、例えば、各センサ、機器からのデータ入力が無いことを検出してもよいし、通信網の定期的なデータ受信断を検出してもよいし、各位置検出手段での計算が可能な状態で、それぞれの位置を比較し、誤差が所定値より大きい場合には異常と判定するようにしてもよい。
【0091】
1、1A、1B 車両接近警報システム
2 車上装置(車両位置検出装置)
21 装置本体
211 GNSS受信部(測位手段)
213 加速度センサ(慣性センサ)
214 角速度センサ(慣性センサ)
215 鉄道GIS
22 GNSSアンテナ(測位手段)
24 レーダ速度計
25 車両位置計算部(車両位置計算手段)
251 複合測位部
2511 慣性演算部
2512 誤差量推定部
252 速度測位部
253 慣性測位部
254 キロ程計算部
3 警報端末
4 サーバ
F 樹林
R 鉄道軌道
Sc 積雪
St GNSS衛星
T トンネル
Te 出口
Tr 鉄道車両
W 作業員
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9