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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025037294
(43)【公開日】2025-03-18
(54)【発明の名称】溶接ロボットシステム
(51)【国際特許分類】
   B25J 13/08 20060101AFI20250311BHJP
   B23K 9/10 20060101ALI20250311BHJP
   B23K 9/127 20060101ALI20250311BHJP
【FI】
B25J13/08 A
B23K9/10 A
B23K9/127 509F
【審査請求】有
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023144116
(22)【出願日】2023-09-06
(71)【出願人】
【識別番号】521432650
【氏名又は名称】技術研究組合産業用ロボット次世代基礎技術研究機構
(71)【出願人】
【識別番号】504150450
【氏名又は名称】国立大学法人神戸大学
(74)【代理人】
【識別番号】100115749
【弁理士】
【氏名又は名称】谷川 英和
(74)【代理人】
【識別番号】100121223
【弁理士】
【氏名又は名称】森本 悟道
(72)【発明者】
【氏名】横小路 泰義
(72)【発明者】
【氏名】中川 慎一郎
(72)【発明者】
【氏名】平本 修介
【テーマコード(参考)】
3C707
4E082
【Fターム(参考)】
3C707AS11
3C707BS10
3C707CS01
3C707HT20
3C707HT22
3C707KT01
3C707KT05
3C707LT15
4E082AA04
4E082AA08
4E082EA04
(57)【要約】
【課題】ワークの溶接部分と溶接トーチのずれを小さくすることができる遠隔操作式の溶接ロボットシステムを提供する。
【解決手段】溶接ロボットシステム10は、溶接ロボット11と、ワーク5の未溶接の溶接部分を撮影するカメラ12と、撮影された映像を表示する表示装置13と、映像の表示に応じて、作業者から溶接位置の補正の指示を受け付ける受付部15と、教示データに基づいて溶接ロボット11を制御して溶接を行わせると共に、受け付けられた指示に応じて溶接位置を補正するための制御を行うロボット制御部16と、溶接ロボット11による溶接の軌跡上の複数の点の位置を蓄積する蓄積部17と、蓄積された複数の点の位置を用いて溶接経路を予測する予測部18とを備え、ロボット制御部16は、予測された溶接経路に沿って溶接トーチが移動するように溶接ロボット11を制御する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶接トーチを移動させる溶接ロボットと、
前記溶接ロボットに取り付けられており、ワークの未溶接の溶接部分を撮影するカメラと、
前記カメラによって撮影された映像を表示する表示装置と、
前記表示装置による映像の表示に応じて、作業者から溶接位置の補正の指示を受け付ける受付部と、
教示データに基づいて前記溶接ロボットを制御して溶接を行わせると共に、前記受付部によって受け付けられた指示に応じて溶接位置を補正するための制御を行うロボット制御部と、
前記溶接ロボットによる溶接の軌跡上の複数の点の位置を蓄積する蓄積部と、
前記蓄積部によって蓄積された複数の点の位置を用いて溶接経路を予測する予測部と、を備え、
前記ロボット制御部は、前記予測部によって予測された溶接経路に沿って前記溶接トーチが移動するように前記溶接ロボットを制御する、溶接ロボットシステム。
【請求項2】
前記予測部は、前記複数の点と、所定の線形状の近似線との差に応じた目的関数を最適化するように近似線の位置を特定し、当該特定した近似線の位置に応じた前記溶接経路を予測する、請求項1記載の溶接ロボットシステム。
【請求項3】
前記予測部は、前記複数の点と前記近似線との差に、現時点と溶接時点との差が大きいほど小さくなる重みを付けた目的関数を最適化する、請求項2記載の溶接ロボットシステム。
【請求項4】
前記所定の線形状は直線状である、請求項2または請求項3記載の溶接ロボットシステム。
【請求項5】
前記表示装置は、前記予測部によって予測された溶接経路に沿って前記溶接トーチが移動する場合に、当該溶接経路の方向が、あらかじめ決められた向きになる映像を表示する、請求項1から請求項3のいずれか記載の溶接ロボットシステム。
【請求項6】
前記受付部は、前記予測部によって予測された溶接経路に沿って前記溶接トーチが移動する場合には、当該溶接経路に垂直な方向における補正の指示を受け付ける、請求項5記載の溶接ロボットシステム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、遠隔操作によって溶接ロボットを動作させる溶接ロボットシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
船舶やプラントタンクなどの大型構造物の溶接施工は、作業者の立ち入りが困難な場所、例えば、高所や狭所などで行われることが多いため、溶接ロボットによる自動溶接施工が導入されている。また、そのような溶接施工では、仮に溶接欠陥が発生した場合には重大な事故に繋がることがあるため、高品質な溶接、例えば、気密性の高い溶接が要求される。完全な自動溶接施工では、そのような高品質性を担保することができないことがあるため、ワークを自動で溶接する溶接ロボットシステムにおいて、作業者がカメラによって撮影された映像を遠隔地から見ながら、熱歪み等に起因する溶接部分のずれに対して溶接トーチの狙い位置を補正する遠隔操作が行われている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特公昭61-044595号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
溶接においては、図6で示されるように、目標とする溶接経路L100に沿って溶接トーチ111を移動できることが理想的であるが、実際の溶接軌跡L103は、その目標とする溶接経路L100からずれることがある。そのずれの程度が、許容範囲を示す境界線L101,L102の範囲内であれば、溶接の品質に問題は生じないが、境界線L101,L102を超えるずれが発生した場合には、溶接の品質に問題が生じることになる。
【0005】
遠隔操作式の溶接ロボットシステムでは、図7で示されるように、溶接トーチの先端は、教示データによって示される教示線L1に沿って進行方向に一定の速度で移動することになる。そのような状況において、例えば、図7で示されるように、ワークの溶接部分L2が、ワークの熱歪みに応じて歪み方向に変化することがある。この変化に追従した溶接を行うため、作業者は、カメラによって撮影された映像を見ながら、図7で示される実線の矢印で示されるように、溶接トーチの狙い位置を補正する。この補正を行うことによって、溶接部分L2からの溶接の軌跡L201のずれを許容範囲内に抑えることができる。このような遠隔操作での補正を行っている状況において、例えば、通信遅延などの影響によって、映像が所定の期間だけ飛んだとすると、図7で示されるように、映像なしの期間には補正を行うことができないため、溶接トーチは教示線L1の方向に移動することになり、ワークの溶接部分L2からの溶接の軌跡L201のずれが許容範囲を超え、溶接の品質に問題が生じることになる。
【0006】
また、そのような映像なしの期間がなかったとしても、ワークの熱歪みによる溶接部分L2の変化が大きい場合には、図8の実線の矢印で示されるように、溶接の軌跡L202の補正の頻度が高くなる。また、仮に溶接の途中から熱歪みが進行せず、溶接の軌跡L202が途中から直線状になったとしても、一旦、当初の教示線L1から外れた場合には、頻繁に補正を行う必要がある。作業者は、カメラの映像のみを見ながら補正を行うため、補正の頻度が高い場合には、作業者の疲労度合いが高くなる。そのため、作業者が集中して作業できる時間が短くなり、作業者の交代要員を準備しなくてはならなくなる。このことは、熟練工が少ない状況において、大きな負担となる。
【0007】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであり、ワークの溶接部分と溶接トーチとのずれをより小さくすることができる遠隔操作式の溶接ロボットシステムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するため、本発明の一態様による溶接ロボットシステムは、溶接トーチを移動させる溶接ロボットと、溶接ロボットに取り付けられており、ワークの未溶接の溶接部分を撮影するカメラと、カメラによって撮影された映像を表示する表示装置と、表示装置による映像の表示に応じて、作業者から溶接位置の補正の指示を受け付ける受付部と、教示データに基づいて溶接ロボットを制御して溶接を行わせると共に、受付部によって受け付けられた指示に応じて溶接位置を補正するための制御を行うロボット制御部と、溶接ロボットによる溶接の軌跡上の複数の点の位置を蓄積する蓄積部と、蓄積部によって蓄積された複数の点の位置を用いて溶接経路を予測する予測部と、を備え、ロボット制御部は、予測部によって予測された溶接経路に沿って溶接トーチが移動するように溶接ロボットを制御する、ものである。
【0009】
このような構成により、ワークの未溶接の溶接部分が熱歪みによって変化したとしても、予測された溶接経路に沿って溶接トーチを移動させることによって、ワークの未溶接の溶接部分と溶接トーチとのずれを小さくすることができる。その結果、作業者が行う遠隔での補正の頻度が少なくなり、作業者の疲労を低減することができる。そのため、例えば、より少ない作業者によって、遠隔での補正を行うことができるようになる。また、予測された溶接経路に沿って溶接トーチを移動させることによって、仮に通信遅延などによって、所定の期間だけ映像が飛ぶことがあっても、その間に溶接トーチのずれが許容範囲を超える可能性を低減することができる。すなわち、通信遅延に対してよりロバストな溶接ロボットシステムを提供することができる。
【0010】
また、本発明の一態様による溶接ロボットシステムでは、予測部は、複数の点と、所定の線形状の近似線との差に応じた目的関数を最適化するように近似線の位置を特定し、特定した近似線の位置に応じた溶接経路を予測してもよい。
このような構成により、溶接の軌跡上の複数の点にフィットした溶接経路を予測することができるようになる。特に、溶接の軌跡上の最新の点のみを用いて近似線を予測した場合には、仮に作業者が誤って必要以上に大きな補正を行ったようなときに、予測された近似線が、本来の予測すべき近似線から大きくずれてしまう可能性もある。一方、溶接の軌跡上の複数の点を用いて近似線の位置を特定することによって、その複数の点からの誤差を最小にする近似線の位置を特定することができ、一部の点の誤差に過敏にならず、時間変化の滑らかな近似線の特定が可能となる。
【0011】
また、本発明の一態様による溶接ロボットシステムでは、予測部は、複数の点と近似線との差に、現時点と溶接時点との差が大きいほど小さくなる重みを付けた目的関数を最適化してもよい。
このような構成により、溶接経路を予測する際に、溶接の軌跡のうち、より新しい箇所の影響がより大きくなるようにすることができ、溶接トーチの現在の溶接箇所によりフィットした溶接経路を予測することができるようになる。また、熱歪み等によって、ワークの未溶接の溶接部分の形状が徐々に変化する場合であっても、最新の状況に応じた溶接経路の予測を行うことができるようになる。例えば、最新の点のみを用いて近似線を予測した場合には、上記したように、誤った補正が行われた際に、それに応じて本来の近似線から大きくずれた近似線を予測する可能性がある。一方、複数の点の重みを均等にした場合には、溶接の軌跡の最新の傾向が近似線に反映されないことになる。それらに対して、現時点と溶接時点との差が大きいほど小さくなる重みを用いることによって、それらの課題を解決した適切な近似線の位置の特定を実現することができるようになる。
【0012】
また、本発明の一態様による溶接ロボットシステムでは、所定の線形状は直線状であってもよい。
このような構成により、溶接経路をより容易に予測することができるようになる。
【0013】
また、本発明の一態様による溶接ロボットシステムでは、表示装置は、予測部によって予測された溶接経路に沿って溶接トーチが移動する場合に、溶接経路の方向が、あらかじめ決められた向きになる映像を表示してもよい。
このような構成により、溶接経路の方向が変化した場合でも、作業者は、溶接経路の方向があらかじめ決められた向きとなる映像を見ながら溶接位置の補正を行うことができ、作業負担の軽減につながることになる。
【0014】
また、本発明の一態様による溶接ロボットシステムでは、受付部は、予測部によって予測された溶接経路に沿って溶接トーチが移動する場合には、溶接経路に垂直な方向における補正の指示を受け付けてもよい。
このような構成により、溶接経路の方向があらかじめ決められた向きになるように映像が表示されている際に、作業者は、より直感的な補正を行うことができるようになる。
【発明の効果】
【0015】
本発明の一態様による溶接ロボットシステムによれば、ワークの溶接部分からの溶接トーチのずれがより小さくなるようにすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本発明の実施の形態による溶接ロボットシステムの構成を示す模式図
図2】同実施の形態における溶接ロボットシステムの一例を示す模式図
図3】同実施の形態における溶接の軌跡上の複数の点と近似線との一例を示す図
図4】同実施の形態による溶接ロボットシステムの動作を示すフローチャート
図5A】同実施の形態における溶接の軌跡とその補正について説明するための図
図5B】同実施の形態における溶接の軌跡とその補正について説明するための図
図6】溶接の許容範囲について説明するための図
図7】従来の溶接の軌跡とその補正について説明するための図
図8】従来の溶接の軌跡とその補正について説明するための図
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明による溶接ロボットシステムについて、実施の形態を用いて説明する。なお、以下の実施の形態において、同じ符号を付した構成要素及びステップは同一または相当するものであり、再度の説明を省略することがある。本実施の形態による溶接ロボットシステムは、遠隔操作によって溶接の狙い位置を補正すると共に、過去の溶接の軌跡を用いて予測した溶接経路に沿って溶接トーチを移動させるものである。
【0018】
図1は、本実施の形態による溶接ロボットシステム10の構成を示す模式図である。本実施の形態による溶接ロボットシステム10は、溶接トーチ11aを移動させる溶接ロボット11と、溶接ロボット11に取り付けられたカメラ12と、カメラ12によって撮影された映像を表示する表示装置13と、教示データ等が記憶される記憶部14と、作業者からの溶接位置の補正の指示を受け付ける受付部15と、教示データ等に基づいて溶接ロボット11を制御するロボット制御部16と、溶接の軌跡上の点の位置を蓄積する蓄積部17と、蓄積された点の位置を用いて溶接経路を予測する予測部18とを備え、必要に応じて、溶接で用いられる高電圧を溶接トーチ11aやワーク5に供給する溶接電源19をさらに備えてもよい。
【0019】
本実施の形態では、一例として、図1で示されるように、溶接ロボット11及びカメラ12が、溶接が行われる作業場所1に存在し、表示装置13、記憶部14、受付部15等が、遠隔操作の行われる遠隔地2に存在し、両者がケーブル3で接続されている場合について主に説明する。ケーブル3は、例えば、カメラ12によって撮影された映像の信号を伝送するための通信線と、溶接ロボット11の制御信号を伝送するための制御線と、溶接に必要な高電圧を伝送するための溶接用ケーブルとを含んでいてもよい。なお、溶接ロボット11及びカメラ12が作業場所1に存在し、表示装置13及び受付部15が遠隔地2に存在するのであれば、その他の構成は、例えば、作業場所1に存在してもよく、遠隔地2に存在してもよく、その他の場所に存在してもよい。この場合であっても、遠隔操作を行うことができるからである。
【0020】
溶接ロボット11は、溶接トーチ11aを有しており、その溶接トーチ11aを移動させてワーク5の溶接を行う。溶接ロボット11は、例えば、垂直多関節ロボットであり、その手先に溶接トーチ11aが装着されていてもよく、溶接トーチ11aを3次元の任意の方向に移動させることができるその他のロボットであってもよい。また、図2で示されるように、溶接ロボット11自体も、昇降装置21などの移動装置によって移動されてもよい。昇降装置21は、例えば、鉛直方向に配置されたレールと、そのレールにスライド可能に組み付けられたスライダと、スライダを鉛直方向に移動させるための移動手段とを有していてもよい。移動手段は、例えば、ラックアンドピニオンとピニオンを駆動させる駆動手段とを含んでもよく、ボールねじとねじ軸を回転させる駆動手段とを含んでもよい。そして、溶接ロボット11は、スライダに固定されていてもよい。なお、図2は、ワーク5の4か所の溶接が4個の溶接ロボット11によって行われ、それぞれの溶接箇所の状況を表示装置13で確認している4人の作業者7が、それぞれの溶接ロボット11における溶接の狙い位置の補正を行う場合について示しているが、遠隔操作式の溶接ロボットシステム10に含まれる溶接ロボット11の個数や、各溶接ロボット11の狙い位置を遠隔操作で補正する作業者の人数は、これに限定されるものではない。
【0021】
溶接ロボット11によって行われる溶接は、例えば、アーク溶接であってもよい。遠隔操作式の溶接ロボットシステム10では、アーク溶接であるTIG溶接が行われることが一般的であるが、MIG溶接などのそれ以外のアーク溶接が行われてもよい。溶接ロボット11によって行われるアーク溶接は、例えば、TIG溶接などの非消耗電極式の溶接であってもよく、MIG溶接などの消耗電極式の溶接であってもよい。
【0022】
カメラ12は、溶接ロボット11に取り付けられており、ワーク5の未溶接の溶接部分を撮影する。ワーク5の溶接部分は、例えば、開先溶接における開先部や、隅肉溶接における隅肉部、突合せ溶接における突合せ部であってもよい。カメラ12によって、動画像である映像が取得される。カメラ12によって撮影された映像によって、溶接トーチ11aの先端と、ワーク5の未溶接の溶接部分とのずれの程度が分かることが好適である。そのため、カメラ12は、例えば、ワーク5の未溶接の溶接部分のうち、溶接トーチ11aの先端に近い位置を撮影してもよい。また、カメラ12の撮影対象には、例えば、ワーク5の未溶接の溶接部分と共に、溶接トーチ11aの先端も含まれていてもよい。
【0023】
表示装置13は、カメラ12によって撮影された映像を表示する。表示装置13は、例えば、通信線を介してカメラ12から送信された映像を受信し、その受信した映像を表示してもよい。なお、送受信される映像は、厳密には映像の信号であるが、説明の便宜上、単に映像と呼ぶことがある。表示装置13は、例えば、液晶ディスプレイや、有機ELディスプレイなどであってもよい。
【0024】
記憶部14では、溶接ロボット11の教示データが記憶される。この教示データによって、例えば、溶接トーチ11aの先端の移動経路(例えば、位置や姿勢等)が示されてもよい。また、例えば、教示データには、溶接の開始点や終了点、溶接電流や溶接電圧等の溶接条件に関する情報が含まれていてもよい。また、蓄積部17によって、溶接の軌跡上の点の位置が記憶部14に蓄積されてもよい。
【0025】
記憶部14に教示データが記憶される過程は問わない。例えば、記録媒体を介して教示データが記憶部14で記憶されるようになってもよく、通信回線等を介して送信された教示データが記憶部14で記憶されるようになってもよく、または、教示時に取得された教示データが記憶部14で記憶されるようになってもよい。記憶部14は、不揮発性の記録媒体によって実現されることが好適であるが、揮発性の記録媒体によって実現されてもよい。記録媒体は、例えば、半導体メモリや磁気ディスクなどであってもよい。
【0026】
受付部15は、表示装置13による映像の表示に応じて、作業者から溶接位置の補正の指示を受け付ける。すなわち、表示装置13によって表示された映像を見ている作業者から、溶接位置の補正の指示が受け付けられることになる。作業者は、表示装置13に表示された映像を見ながら、溶接位置の補正を行うことになる。この溶接位置の補正は、例えば、溶接トーチ11aの狙い位置の補正であってもよい。溶接位置の補正の指示は、例えば、溶接位置の補正の方向と、その補正の程度(距離)とを含んでいてもよい。なお、補正の方向は、例えば、あらかじめ決められた方向から選択されてもよい。受付部15は、例えば、入力デバイス(例えば、ティーチングペンダントや、ジョイスティックなど)から入力された指示を受け付けてもよく、有線または無線の通信回線を介して送信された指示を受信してもよい。なお、受付部15は、受け付けを行うためのデバイス(例えば、入力デバイスや通信デバイスなど)を含んでもよく、または含まなくてもよい。また、受付部15は、ハードウェアによって実現されてもよく、または所定のデバイスを駆動するドライバ等のソフトウェアによって実現されてもよい。
【0027】
ロボット制御部16は、記憶部14で記憶されている教示データに基づいて溶接ロボット11を制御して溶接を行わせる。また、ロボット制御部16は、受付部15によって受け付けられた指示に応じて溶接位置を補正するための制御を行う。すなわち、溶接位置を補正するための指示が受付部15によって受け付けられた場合には、ロボット制御部16は、その指示に応じて溶接位置が変更されるように、溶接ロボット11を制御する。また、予測部18によって溶接経路が予測された場合には、ロボット制御部16は、その予測された溶接経路に沿って溶接トーチ11aが移動するように溶接ロボット11を制御する。このように、ロボット制御部16は、予測された溶接経路がある場合には、その溶接経路を用いて溶接ロボット11を制御し、予測された溶接経路がない場合には、教示データを用いて溶接ロボット11を制御してもよい。そして、溶接位置の補正の指示が受け付けられた場合には、ロボット制御部16は、その指示に応じて溶接位置を補正するための制御を行ってもよい。溶接位置を補正するための制御は、例えば、受け付けられた指示によって示される方向に、その指示によって示される程度だけ溶接トーチ11aの狙い位置を移動させるための制御であってもよい。なお、例えば、溶接位置の補正の指示によって、補正後の溶接位置が示される場合には、ロボット制御部16は、例えば、溶接トーチ11aの狙い位置が、受け付けられた指示によって示される溶接位置となるように溶接ロボット11を制御してもよい。また、予測された溶接経路に沿って溶接トーチ11aが移動するとは、例えば、予測された溶接経路上を溶接トーチ11aの先端が移動すること、すなわち溶接位置が予測された溶接経路上になることであってもよく、後述するように、近似線と溶接経路とが等しい場合には、溶接経路(すなわち、近似線)の方向に溶接トーチ11aの先端が移動することであってもよい。本実施の形態では、前者の場合について主に説明する。なお、溶接トーチ11aの先端は、例えば、溶接トーチ11aの狙い位置であってもよい。
【0028】
蓄積部17は、溶接ロボット11による溶接の軌跡上の複数の点の位置を記憶部14に蓄積する。溶接の軌跡は、例えば、溶接済みの溶接線であってもよい。また、位置の蓄積の対象となる点は、例えば、受け付けられた溶接位置の補正の指示に応じて補正された後の位置であってもよい。この場合には、溶接位置の補正の指示が受け付けられるごとに、補正後の溶接位置である溶接の軌跡上の点の位置が記憶部14に蓄積されてもよい。また、例えば、補正後の溶接位置以外の溶接の軌跡上の点の位置が記憶部14に蓄積されてもよい。本実施の形態では、補正の指示が受け付けられるごとに、補正後の溶接位置である溶接の軌跡上の点の位置が蓄積される場合について主に説明する。溶接の軌跡上の点の位置は、例えば、ロボット座標系などの所定の座標系における座標値であってもよい。蓄積部17は、例えば、蓄積された順番が分かるように、複数の点の位置を蓄積してもよい。一例として、蓄積部17は、蓄積時点の時刻に対応付けて、点の位置を蓄積してもよい。
【0029】
予測部18は、蓄積部17によって蓄積された複数の点の位置を用いて溶接経路を予測する。予測部18は、例えば、蓄積された複数の点の位置のうち、最新の所定の個数の点の位置を用いて溶接経路を予測してもよい。予測部18は、例えば、位置の蓄積された複数の点と、所定の線形状の近似線との差に応じた目的関数を最適化するように近似線の位置を特定し、その特定した近似線の位置に応じた溶接経路を予測してもよい。近似線は、例えば、回帰分析における回帰線であってもよい。また、溶接経路は、例えば、今後、溶接トーチ11aの先端が移動する経路であってもよい。したがって、溶接経路は、例えば、未溶接の溶接線に応じた経路であると考えてもよい。
【0030】
所定の線形状は、例えば、直線状であってもよく、変曲点のない曲線状であってもよい。変曲点のない曲線状とは、曲線の途中に変曲点が存在しないことであり、例えば、円弧状であってもよく、放物線形状であってもよい。本実施の形態では、所定の線形状の近似線が直線である場合について主に説明する。位置の蓄積された各点と近似線との差は、例えば、その各点と、近似線との距離であってもよい。この距離は、例えば、所定の方向における両者間の距離であってもよい。具体的には、後述する図3におけるy軸方向における近似線L10と、各点P~Pとの距離であってもよい。
【0031】
蓄積された複数の点と、所定の線形状の近似線との差に応じた目的関数は、例えば、その複数の点と近似線との差(誤差)が大きくなるほど、値が大きくなる関数であってもよく、または、その差が大きくなるほど、値が小さくなる関数であってもよい。前者の場合には、最適化は目的関数を最小化することになり、後者の場合には、最適化は目的関数を最大化することになる。いずれの場合であっても、目的関数の最適化が行われることによって、複数の点と近似線との差が小さくなるように、近似線の位置が求められることになる。すなわち、複数の点にフィットするように、近似線の位置が特定されることになる。本実施の形態では、目的関数を最小化する場合について主に説明する。
【0032】
また、予測部18は、複数の点と近似線との差に、現時点と溶接時点との差が大きいほど小さくなる重みを付けた目的関数を最適化してもよい。この場合には、目的関数において、ある点と近似線との差に、現時点と、その点に対応する溶接時点との差が大きいほど、より小さくなる重み、すなわち、その差が小さいほど、より大きくなる重みが乗算されていてもよい。このようにすることで、近似線の位置を特定する際に、現時点に近い点ほど近似線の位置の特定に与える影響が大きくなるようにすることができる。したがって、溶接の軌跡のうち、より後に溶接された箇所の形状に合うように近似線の位置が特定されることになり、溶接の軌跡の形状が徐々に変化しているような場合でも、最新の形状に応じた近似線の位置の特定を行うことができるようになる。また、ワーク5の溶接部分の形状が溶接の進行に応じて変化する場合であっても、現在の溶接位置に近い箇所の形状に合うように近似線の位置を特定することができるようになる。
【0033】
ここで、図3で示されるように、N個の蓄積された点P~Pの位置を用いて近似線L10の位置を特定する方法について説明する。なお、Nは2以上の整数であり、あらかじめ決められていてもよい。また、点Pの位置が最後に蓄積されたものとする。すなわち、図3では、点Pが最も古い溶接線上の位置であり、点Pが最も新しい溶接線上の位置であるとする。また、xy直交座標系における点Pの座標を(x,y)とする。kは1からNまでの整数である。xy直交座標系は、例えば、教示データによって示される教示線が直線状である場合に、x軸が教示線の方向となるように設定されてもよい。
【0034】
また、直線状の近似線L10の式をy=a+bxとすると、目的関数Qは、次式で示されるものであってもよい。なお、a,bは、実数である。
【数1】
【0035】
上式において、ωは、次式で示される重みである。次式において、ω,Lは、それぞれ正の実数の定数である。なお、Lの値を変化させることによって、新しい点の重みの程度を調整することができる。より大きいLの値に設定することによって、より新しい点の重みをより大きくすることができる。また、この重みは一例であり、現在の点から離れるほど小さくなる重み、すなわちkが大きくなるほど小さくなる重みであれば、その他の重みが用いられてもよいことは言うまでもない。
【数2】
【0036】
なお、上記した目的関数Qの式では、点と直線とのy軸方向の距離が2乗されており、重み付きの最小二乗法によって近似線L10の位置を特定する場合について示しているが、そうでなくてもよい。例えば、点と直線とのy軸方向の距離は4乗されてもよく、その距離の絶対値が用いられてもよい。また、重みωは、新しい点ほど、すなわちkの値が小さいほど、重みが大きくなるように設定されている。したがって、この重みωは、現時点と溶接時点との差が大きいほど小さくなる重みである。なお、重みを用いない場合には、上式において、例えば、ω=1としてもよい。
【0037】
予測部18は、上記目的関数Qを最適化することによって、a,bの値を特定することができ、近似線であるy=a+bxを特定することができる。なお、この場合の最適化は、最小化である。予測部18は、例えば、この近似線を溶接経路にしてもよい。この場合には、現在の溶接位置と、近似線とが近い位置になるようにするため、最新の点Pの重みが、他の重みと比較して大きくなるように設定されること、すなわち、Lがより大きい値に設定されることが好適である。
【0038】
また、予測部18は、例えば、現在の溶接位置から、この近似線に平行に延びる直線を、溶接経路にしてもよい。現在の溶接位置が点Pの位置である場合には、予測部18は、例えば、点Pを通り、最適化で求めた傾きbの方向に延びる直線を溶接経路としてもよい。本実施の形態では、この場合について主に説明する。
【0039】
溶接電源19は、溶接で用いられる高電圧を溶接トーチ11aやワーク5に供給する。溶接電源19は、例えば、ロボット制御部16からの指示に応じて、高電圧を供給してもよい。また、溶接ロボット11によって消耗電極式のアーク溶接が行われる場合には、溶接電源19は、溶接ワイヤの供給に関する制御も行ってもよい。
【0040】
次に、溶接ロボットシステム10の動作について図4のフローチャートを用いて説明する。
(ステップS101)受付部15は、溶接位置の補正の指示を受け付けたかどうか判断する。そして、補正の指示を受け付けた場合には、ステップS102に進み、そうでない場合には、ステップS106に進む。
【0041】
(ステップS102)ロボット制御部16は、受け付けられた指示に応じて溶接位置を補正するための制御を行う。この制御に応じて、溶接ロボット11の溶接トーチ11aの狙い位置が変更されることになる。
【0042】
(ステップS103)蓄積部17は、溶接の軌跡上の点の位置を記憶部14に蓄積する。この蓄積対象となる点の位置は、例えば、補正後の溶接位置であってもよい。
【0043】
(ステップS104)予測部18は、溶接経路を予測するかどうか判断する。そして、溶接経路を予測する場合には、ステップS105に進み、そうでない場合には、ステップS101に戻る。なお、予測部18は、例えば、記憶部14において、あらかじめ決められた個数以上の点の位置が記憶されている場合に、溶接経路を予測すると判断してもよい。
【0044】
(ステップS105)予測部18は、記憶部14において記憶されている複数の点の位置を用いて、溶接経路を予測する。予測部18は、例えば、複数の点と、近似線との差に応じた目的関数を最適化することによって近似線の位置を特定し、その特定した近似線の位置を用いて、溶接経路を予測してもよい。予測された溶接経路を示す情報は、例えば、記憶部14等に蓄積されてもよい。そして、ステップS101に戻る。
【0045】
(ステップS106)ロボット制御部16は、予測された溶接経路があるかどうか判断する。そして、予測された溶接経路がある場合には、ステップS107に進み、そうでない場合には、ステップS108に進む。
【0046】
(ステップS107)ロボット制御部16は、予測された溶接経路に沿って溶接トーチ11aが移動するように、溶接ロボット11を制御する。そして、ステップS101に戻る。この制御が繰り返されることによって、溶接トーチ11aは、予測された溶接経路に沿って移動することになる。
【0047】
(ステップS108)ロボット制御部16は、記憶部14で記憶されている教示データに応じて溶接ロボット11を制御する。そして、ステップS101に戻る。なお、この制御が繰り返されることによって、溶接ロボット11は、教示データに応じて動作することになる。すなわち、溶接ロボット11の溶接トーチ11aは、教示されたように移動することになる。
【0048】
なお、図4のフローチャートにおけるステップS102,S107,S108において、ロボット制御部16は、あらかじめ決められた溶接条件で溶接が行われるように、溶接電源19を制御してもよい。その溶接条件は、例えば、教示データに含まれていてもよい。また、図4のフローチャートにおける処理の順序は一例であり、同様の結果を得られるのであれば、各ステップの順序を変更してもよい。また、図4のフローチャートには含まれないが、カメラ12によって溶接箇所の映像が撮影され、その撮影された映像が表示装置13によって表示されてもよい。溶接位置の補正を行う作業者は、その表示された映像を見ながら、ティーチングペンダントやジョイスティックなどの入力デバイスを介して補正の指示を入力してもよい。また、図4のフローチャートにおいて、電源オフや処理終了の割り込みにより処理は終了する。
【0049】
次に、本実施の形態による溶接ロボットシステム10の動作について、具体例を用いて説明する。本具体例では、図5Aで示されるように教示線L1が設定されており、それに対して、ワーク5の溶接部分L2が、ワーク5の熱歪みによって、教示線L1から図中の左向きである歪み方向に徐々にずれていくものとする。
【0050】
まず、溶接トーチ11aは、教示データに応じて教示線L1に沿って移動され、その教示線L1に沿った溶接が行われる(ステップS101、S106,S108)。また、溶接箇所の映像がカメラ12によって撮影され、表示装置13で表示される。その映像によって、溶接位置がワーク5の溶接部分L2からずれてきたことを確認すると、作業者は、入力デバイスを操作して、溶接位置を補正するための指示を入力する。この入力は、受付部15によって受け付けられ、ロボット制御部16に渡される(ステップS101)。溶接位置の補正の指示を受け取ると、ロボット制御部16は、その指示に応じて溶接ロボット11を制御し、溶接位置を変更する(ステップS102)。この制御によって、溶接位置が図5Aの位置Paに変更されたとする。この変更に応じて、ロボット制御部16は、位置Paのロボット座標系における座標値を蓄積部17に渡す。その座標値を受け取ると、蓄積部17は、その位置Paの座標値を記憶部14に蓄積する(ステップS103)。
【0051】
なお、本具体例では、蓄積された最新の3個の位置を用いて溶接経路の予測が行われることになっていたとする。すると、この時点では、まだ1個の位置しか蓄積されていないため、予測部18は、溶接経路の予測を行わないと判断する(ステップS104)。そして、教示データで示される進行方向に沿った溶接が継続される(ステップS101、S106,S108)。
【0052】
また、作業者から再度、溶接位置を補正するための指示が受け付けられると(ステップS101)、その指示に応じて溶接位置が図5Aの位置Pbに変更され(ステップS102)、位置Pbの座標値が記憶部14に蓄積される(ステップS103)。この時点でも、まだ2個の位置しか蓄積されていないため、溶接経路の予測は行われないことになる(ステップS104)。
【0053】
その後、作業者からさらに溶接位置を補正するための指示が受け付けられると(ステップS101)、その指示に応じて溶接位置が図5Aの位置Pcに変更され(ステップS102)、位置Pcの座標値が記憶部14に蓄積される(ステップS103)。この時点では、3個の位置が記憶部14で記憶されているため、予測部18は、溶接経路の予測を行うと判断し(ステップS104)、3個の点Pa,Pb,Pcの各位置を用いて直線状の近似線の位置を特定し、点Pcを通り、その近似線の方向に延びる溶接経路を予測し、その予測した溶接経路をロボット制御部16に渡す(ステップS105)。ロボット制御部16に渡される溶接経路は、例えば、ロボット座標系における溶接経路を示す情報であってもよい。
【0054】
予測された溶接経路を受け取ると、ロボット制御部16は、その予測された溶接経路に沿って溶接トーチ11aが移動するように溶接ロボット11を制御する(ステップS101、S106,S107)。その結果、図5Aで示されるように、点Pcから矢印A1の方向に溶接が行われることになる。このように、予測された溶接経路に沿って溶接トーチ11aが移動することによって、ワーク5の溶接部分L2と、溶接の軌跡L3とのずれが小さくなる。このようにして、溶接位置の補正の指示の回数が減るため、作業者の疲労が少なくなる。また、図5Aで示されるように、映像なしの期間があったとしても、その期間内に許容範囲を超えたずれが発生する可能性を低減することができ、溶接品質を向上させることができる。
【0055】
また、作業者からさらに溶接位置を補正するための指示が受け付けられると(ステップS101)、その指示に応じて溶接位置が図5Aの位置Pdに変更され(ステップS102)、位置Pdの座標値が記憶部14に蓄積される(ステップS103)。そして、予測部18は、3個の点Pb,Pc,Pdの各位置を用いて直線状の近似線の位置を特定し、点Pdを通り、その近似線の方向に延びる溶接経路を予測し、その予測した溶接経路をロボット制御部16に渡す(ステップS104,S105)。また、ロボット制御部16によって、その予測された溶接経路に沿った溶接が行われるように、溶接ロボット11が制御される(ステップS101、S106,S107)。このようにして、図5Aの点Pdから矢印A2の方向に溶接が行われることになる。
【0056】
なお、本具体例では、所定の個数の点が蓄積されるのを待って、溶接経路の予測を開始する場合について説明したが、そうでなくてもよい。例えば、溶接のスタート地点から教示線L1と逆方向にダミーの溶接線を仮定し、そのダミーの溶接線上に複数の点をあらかじめ設定しておくことによって、1個目の点が蓄積された時点から溶接経路の予測を行うようにしてもよい。このようにすることで、例えば、点Paの座標値が蓄積された時点でも、溶接経路の予測を行うことができるようになる。
【0057】
以上のように、本実施の形態による溶接ロボットシステム10によれば、ワーク5の未溶接の溶接部分が熱歪みによって変化したとしても、その変化に応じて予測された溶接経路に沿って溶接トーチ11aを移動させることができるため、ワーク5の未溶接の溶接部分と溶接トーチ11aの溶接位置とのずれを小さくすることができる。その結果、作業者が行う遠隔での補正の頻度を少なくすることができ、作業者の疲労を低減することができる。そのため、例えば、より少ない作業者によって、遠隔での補正を行うことができるようになる。また、変化後の溶接部分に応じて予測された溶接経路に沿って溶接トーチ11aを移動させることができるため、仮に通信遅延などによって、所定の期間だけ映像が飛ぶことがあっても、その間に溶接トーチ11aのずれが許容範囲を超える可能性を低減することができ、通信遅延に対してよりロバストな溶接ロボットシステム10を提供することができる。また、ワーク5に熱歪みが生じた場合には、例えば、図5Aで示されるように、ワーク5の溶接部分が一方向にずれることが多いため、このように溶接の軌跡を用いて溶接経路を予測することによって、精度の高い溶接経路の予測を実現できると考えられる。
【0058】
また、溶接の軌跡上の複数の点と、近似線との差に応じた目的関数を最適化するように近似線の位置を特定し、その近似線を用いて溶接経路を予測することによって、その複数の点にフィットした溶接経路を予測することができる。また、複数の点と近似線との差に、現時点と溶接時点との差が大きいほど小さくなる重みを付けた目的関数を最適化することによって、溶接経路を予測する際に、より新しい溶接の軌跡上の点の影響が大きくなるようにすることができ、例えば、現在の溶接箇所によりフィットした溶接経路を予測することができる。また、熱歪み等によって、ワーク5の未溶接の溶接部分の形状が徐々に変化する場合であっても、最新の状況に応じた溶接経路の予測を行うことができるようになる。
【0059】
なお、本実施の形態では、教示線L1に垂直な方向において溶接位置を補正する場合について主に説明したが、そうでなくてもよい。例えば、予測部18によって予測された溶接経路L3に沿って溶接トーチ11aが移動する場合に、受付部15は、溶接経路L3に垂直な方向における溶接位置の補正の指示を受け付け、ロボット制御部16は、その指示に応じて溶接位置を補正してもよい。また、予測部18によって予測された溶接経路L3に沿って溶接トーチ11aが移動する場合には、例えば、表示装置13は、溶接経路L3の方向が、あらかじめ決められた向きになる映像を表示してもよい。あらかじめ決められた向きは、例えば、表示装置13の表示画面におけるあらかじめ決められた向き(例えば、左右方向など)であってもよい。より具体的には、溶接経路の方向が、表示画面の左右方向(水平方向)となるように映像が表示されてもよい。このような表示は、例えば、カメラ12の向きを変えることによって行われてもよく、または、画像処理によって行われてもよい。そして、直線状の溶接経路が左右方向に表示されている場合には、受付部15は、その水平方向に直角な方向である上下方向における溶接位置の補正の指示を受け付けてもよい。このような補正を行うことによって、作業者は、より直感的な溶接位置の補正を行うことができるようになる。また、溶接経路の向きが種々の方向になった場合でも、作業者は、同じ補正の作業を行うことができることになり、作業負担の軽減につながることになる。この場合には、例えば、図5Bで示されるように、矢印A1の方向に溶接が行われているときには、その方向に直交する向きに溶接位置が補正され、また、矢印A2の方向に溶接が行われているときには、その方向に直交する向きに溶接位置が補正されることになる。なお、溶接経路の方向とは、例えば、溶接経路が直線状である場合には、その直線状の溶接経路の方向であってもよく、溶接経路が曲線状である場合には、現在の溶接位置における溶接経路の接線方向であってもよい。また、溶接経路に垂直な方向とは、例えば、溶接経路が直線状である場合には、その直線状の溶接経路に垂直な方向であってもよく、溶接経路が曲線状である場合には、現在の溶接位置における溶接経路の接線に垂直な方向であってもよい。
【0060】
また、上記実施の形態において、各処理または各機能は、単一の装置または単一のシステムによって集中処理されることによって実現されてもよく、または、複数の装置または複数のシステムによって分散処理されることによって実現されてもよい。
【0061】
また、以上の実施の形態は、本発明を具体的に実施するための例示であって、本発明の技術的範囲を制限するものではない。本発明の技術的範囲は、実施の形態の説明ではなく、特許請求の範囲によって示されるものであり、特許請求の範囲の文言上の範囲及び均等の意味の範囲内での変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0062】
10 溶接ロボットシステム
11 溶接ロボット
11a 溶接トーチ
12 カメラ
13 表示装置
14 記憶部
15 受付部
16 ロボット制御部
17 蓄積部
18 予測部
図1
図2
図3
図4
図5A
図5B
図6
図7
図8
【手続補正書】
【提出日】2025-02-17
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶接トーチを移動させる溶接ロボットと、
前記溶接ロボットに取り付けられており、ワークの未溶接の溶接部分を撮影するカメラと、
前記カメラによって撮影された映像を表示する表示装置と、
前記表示装置による映像の表示に応じて、作業者から溶接位置の補正の指示を受け付ける受付部と、
教示データに基づいて前記溶接ロボットを制御して溶接を行わせると共に、前記受付部によって受け付けられた指示に応じて溶接位置を補正するための制御を行うロボット制御部と、
前記受付部によって受け付けられた溶接位置の補正の指示に応じた補正後の溶接位置である溶接の軌跡上の複数の点の位置を蓄積する蓄積部と、
前記蓄積部によって蓄積された複数の点の位置を用いて溶接経路を予測する予測部と、を備え、
前記ロボット制御部は、前記予測部によって予測された溶接経路に沿って前記溶接トーチが移動するように前記溶接ロボットを制御する、溶接ロボットシステム。
【請求項2】
前記予測部は、前記複数の点と、所定の線形状の近似線との差に応じた目的関数を最適化するように近似線の位置を特定し、当該特定した近似線の位置に応じた前記溶接経路を予測する、請求項1記載の溶接ロボットシステム。
【請求項3】
前記予測部は、前記複数の点と前記近似線との差に、現時点と溶接時点との差が大きいほど小さくなる重みを付けた目的関数を最適化する、請求項2記載の溶接ロボットシステム。
【請求項4】
前記所定の線形状は直線状である、請求項2または請求項3記載の溶接ロボットシステム。
【請求項5】
前記表示装置は、前記予測部によって予測された溶接経路に沿って前記溶接トーチが移動する場合に、当該溶接経路の方向が、あらかじめ決められた向きになる映像を表示する、請求項1から請求項3のいずれか記載の溶接ロボットシステム。
【請求項6】
前記受付部は、前記予測部によって予測された溶接経路に沿って前記溶接トーチが移動する場合には、当該溶接経路に垂直な方向における補正の指示を受け付ける、請求項5記載の溶接ロボットシステム。