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特開2025-3730癌患者への免疫チェックポイント阻害薬の投与の有効性を予測するためのデータを収集する方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025003730
(43)【公開日】2025-01-09
(54)【発明の名称】癌患者への免疫チェックポイント阻害薬の投与の有効性を予測するためのデータを収集する方法
(51)【国際特許分類】
   C12Q 1/6886 20180101AFI20241226BHJP
   C12Q 1/682 20180101ALI20241226BHJP
   C12Q 1/686 20180101ALI20241226BHJP
   C12Q 1/02 20060101ALI20241226BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20241226BHJP
   A61K 39/395 20060101ALI20241226BHJP
   A61K 38/22 20060101ALI20241226BHJP
【FI】
C12Q1/6886 Z
C12Q1/682 Z
C12Q1/686 Z
C12Q1/02
A61P35/00
A61K39/395 U
A61K39/395 T
A61K38/22
【審査請求】有
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024190459
(22)【出願日】2024-10-30
(62)【分割の表示】P 2020037980の分割
【原出願日】2020-03-05
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成29~30年度、国立研究開発法人日本医療研究開発機構、次世代がん医療創生研究事業、「免疫チェックポイント阻害剤反応性を考慮したがん免疫微小環境とそれを反映する血液因子の解析による免疫抑制分子の同定と制御法の開発」委託事業、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】598121341
【氏名又は名称】慶應義塾
(74)【代理人】
【識別番号】100165179
【弁理士】
【氏名又は名称】田▲崎▼ 聡
(74)【代理人】
【識別番号】100188558
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 雅人
(74)【代理人】
【識別番号】100175824
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 淳一
(74)【代理人】
【識別番号】100152272
【弁理士】
【氏名又は名称】川越 雄一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100181722
【弁理士】
【氏名又は名称】春田 洋孝
(72)【発明者】
【氏名】河上 裕
(72)【発明者】
【氏名】大多 茂樹
(72)【発明者】
【氏名】松本 大地
(57)【要約】
【課題】免疫チェックポイント阻害薬の投与の有効性を予測する新たな技術を提供する。
【解決手段】癌患者への免疫チェックポイント阻害薬の投与の有効性を予測するためのデータを収集する方法であって、前記癌患者由来の生体試料における、マーカー遺伝子又はマーカータンパク質の発現量を測定する工程を含み、前記マーカー遺伝子又はマーカータンパク質が、NELL2遺伝子若しくはタンパク質、AMICA1遺伝子若しくはタンパク質、CLEC11A遺伝子若しくはタンパク質、CLECL1遺伝子若しくはタンパク質又はCMTM7遺伝子若しくはタンパク質を含み、前記発現量が前記有効性を予測するためのデータであり、前記発現量が基準値よりも高いことが、前記癌患者への前記免疫チェックポイント阻害薬の投与が有効であることを示す、方法。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
癌患者への免疫チェックポイント阻害薬の投与の有効性を予測するためのデータを収集する方法であって、
前記癌患者由来の生体試料における、マーカー遺伝子又はマーカータンパク質の発現量を測定する工程を含み、
前記マーカー遺伝子又はマーカータンパク質が、CLEC11A遺伝子若しくはタンパク質を含み、
前記発現量が前記有効性を予測するためのデータであり、前記発現量が基準値よりも高いことが、前記癌患者への前記免疫チェックポイント阻害薬の投与が有効であることを示す、方法。
【請求項2】
前記生体試料が、CD8陽性T細胞、癌組織切片、血漿又は血清である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記免疫チェックポイント阻害薬が、抗PD-1抗体又は抗PD-L1抗体である、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
CLEC11Aタンパク質に対する特異的結合物質、
CLEC11A遺伝子のcDNAを増幅するプライマー、又は、
CLEC11A遺伝子のmRNAにハイブリダイズするプローブを含む、癌患者への免疫チェックポイント阻害薬の投与の有効性を予測するためのキット。
【請求項5】
CD8タンパク質に対する特的結合物質、
CD8遺伝子のcDNAを増幅するプライマー、又は、
CD8遺伝子のmRNAにハイブリダイズするプローブを更に含む、請求項4に記載のキット。
【請求項6】
抗癌剤のスクリーニング方法であって、
被験物質の存在下でCD8陽性T細胞をインキュベートする工程と、
前記CD8陽性T細胞におけるマーカー遺伝子又はマーカータンパク質の発現量を測定する工程と、を含み、
前記マーカー遺伝子又はマーカータンパク質が、CLEC11A遺伝子若しくはタンパク質を含み、
前記発現量が、前記被験物質の非存在下における発現量と比較して上昇したことが、前記被験物質が抗癌剤であることを示す、方法。
【請求項7】
CLEC11Aタンパク質若しくはその発現ベクターを有効成分として含有する、抗癌剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、癌患者への免疫チェックポイント阻害薬の投与の有効性を予測するためのデータを収集する方法に関する。より詳細には、本発明は、癌患者への免疫チェックポイント阻害薬の投与の有効性を予測するためのデータを収集する方法、癌患者への免疫チェックポイント阻害薬の投与の有効性を予測するためのキット、抗癌剤のスクリーニング方法及び抗癌剤に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、ニボルマブ(抗PD-1抗体)に代表される免疫チェックポイント阻害薬を用いた治療法により、進行期の固形癌でも治癒が可能であることが示されている。しかしながら、免疫チェックポイント阻害薬を用いた治療の奏効率は約5~30%にとどまっている。このため、免疫チェックポイント阻害薬の投与前にその有効性を正確に予測する技術が求められている。
【0003】
例えば特許文献1には、抗PD-L1抗体を、PD-L1:PD-1経路を標的とする治療剤の有効性を予測するために使用することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特表2017-518366号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、免疫チェックポイント阻害薬の投与の有効性を予測する新たな技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は以下の態様を含む。
[1]癌患者への免疫チェックポイント阻害薬の投与の有効性を予測するためのデータを収集する方法であって、前記癌患者由来の生体試料における、マーカー遺伝子又はマーカータンパク質の発現量を測定する工程を含み、前記マーカー遺伝子又はマーカータンパク質が、NELL2遺伝子若しくはタンパク質、AMICA1遺伝子若しくはタンパク質、CLEC11A遺伝子若しくはタンパク質、CLECL1遺伝子若しくはタンパク質又はCMTM7遺伝子若しくはタンパク質を含み、前記発現量が前記有効性を予測するためのデータであり、前記発現量が基準値よりも高いことが、前記癌患者への前記免疫チェックポイント阻害薬の投与が有効であることを示す、方法。
[2]前記マーカー遺伝子又はマーカータンパク質が、(i)NELL2遺伝子若しくはタンパク質と、SLAMF6遺伝子若しくはタンパク質、CD44遺伝子若しくはタンパク質又はIL7R遺伝子若しくはタンパク質との組み合わせ、又は、(ii)AMICA1遺伝子若しくはタンパク質と、SELL遺伝子若しくはタンパク質、IL7R遺伝子若しくはタンパク質又はCCR7遺伝子若しくはタンパク質との組み合わせ、を含む、[1]に記載の方法。
[3]前記生体試料が、CD8陽性T細胞、癌組織切片、血漿又は血清である、[1]又は[2]に記載の方法。
[4]前記免疫チェックポイント阻害薬が、抗PD-1抗体又は抗PD-L1抗体である、[1]~[3]のいずれかに記載の方法。
[5]NELL2タンパク質、AMICA1タンパク質、CLEC11Aタンパク質、CLECL1タンパク質若しくはCMTM7タンパク質に対する特異的結合物質、NELL2遺伝子、AMICA1遺伝子、CLEC11A遺伝子、CLECL1遺伝子若しくはCMTM7遺伝子のcDNAを増幅するプライマー、又は、NELL2遺伝子、AMICA1遺伝子、CLEC11A遺伝子、CLECL1遺伝子若しくはCMTM7遺伝子のmRNAにハイブリダイズするプローブを含む、癌患者への免疫チェックポイント阻害薬の投与の有効性を予測するためのキット。
[6]CD8タンパク質に対する特的結合物質、CD8遺伝子のcDNAを増幅するプライマー、又は、CD8遺伝子のmRNAにハイブリダイズするプローブを更に含む、[5]に記載のキット。
[7]抗癌剤のスクリーニング方法であって、被験物質の存在下でCD8陽性T細胞をインキュベートする工程と、前記CD8陽性T細胞におけるマーカー遺伝子又はマーカータンパク質の発現量を測定する工程と、を含み、前記マーカー遺伝子又はマーカータンパク質が、NELL2遺伝子若しくはタンパク質、AMICA1遺伝子若しくはタンパク質、CLEC11A遺伝子若しくはタンパク質、CLECL1遺伝子若しくはタンパク質又はCMTM7遺伝子若しくはタンパク質を含み、前記発現量が、前記被験物質の非存在下における発現量と比較して上昇したことが、前記被験物質が抗癌剤であることを示す、方法。
[8]NELL2タンパク質若しくはその発現ベクター、AMICA1タンパク質若しくはその発現ベクター、CLEC11Aタンパク質若しくはその発現ベクター、CLECL1タンパク質若しくはその発現ベクター又はCMTM7タンパク質若しくはその発現ベクターを有効成分として含有する、抗癌剤。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、免疫チェックポイント阻害薬の投与の有効性を予測する新たな技術を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】実験例1の実験スケジュールを示す図である。
図2】(a)は、実験例2において、ニボルマブの投与が有効であった患者と有効でなかった患者のCD8陽性T細胞におけるNELL2遺伝子の発現量を解析した結果を示すグラフである。(b)は、実験例2において、ニボルマブの投与が有効であった患者と有効でなかった患者のCD8陽性T細胞における、NELL2遺伝子高発現、SLAMF6遺伝子高発現細胞の割合を解析した結果を示すグラフである。(c)は、実験例2において、ニボルマブの投与が有効であった患者と有効でなかった患者のCD8陽性T細胞における、NELL2遺伝子高発現、CD44遺伝子高発現細胞の割合を解析した結果を示すグラフである。(d)は、実験例2において、ニボルマブの投与が有効であった患者と有効でなかった患者のCD8陽性T細胞における、NELL2遺伝子高発現、IL7R遺伝子高発現細胞の割合を解析した結果を示すグラフである。
図3】実験例2における、メラノーマ患者の予後解析の結果を示すグラフである。
図4】実験例2において、癌抗原特異的細胞傷害性T細胞のIFN-γの産生量を定量した結果を示すグラフである。
図5】(a)は、実験例3において、ニボルマブの投与が有効であった患者と有効でなかった患者のCD8陽性T細胞におけるAMICA1遺伝子の発現量を解析した結果を示すグラフである。(b)は、実験例3において、ニボルマブの投与が有効であった患者と有効でなかった患者のCD8陽性T細胞における、AMICA1遺伝子高発現、SELL遺伝子高発現細胞の割合を解析した結果を示すグラフである。(c)は、実験例3において、ニボルマブの投与が有効であった患者と有効でなかった患者のCD8陽性T細胞における、AMICA1遺伝子高発現、IL7R遺伝子高発現細胞の割合を解析した結果を示すグラフである。(d)は、実験例3において、ニボルマブの投与が有効であった患者と有効でなかった患者のCD8陽性T細胞における、AMICA1遺伝子高発現、CCR7遺伝子高発現細胞の割合を解析した結果を示すグラフである。
図6】(a)及び(b)は、実験例3におけるメラノーマ患者の予後解析の結果を示すグラフである。
図7】実験例3において、癌抗原特異的細胞傷害性T細胞のIFN-γの産生量を定量した結果を示すグラフである。
図8】実験例4において、ニボルマブの投与が有効であった患者と有効でなかった患者のCD8陽性T細胞におけるCLEC11A遺伝子の発現量を解析した結果を示すグラフである。
図9】実験例4におけるメラノーマ患者の予後解析の結果を示すグラフである。
図10】(a)~(d)は、実験例4におけるフローサイトメトリー解析の結果を示すグラフである。
図11】実験例5において、ニボルマブの投与が有効であった患者と有効でなかった患者のCD8陽性T細胞におけるCLEC1L1遺伝子の発現量を解析した結果を示すグラフである。
図12】実験例6において、ニボルマブの投与が有効であった患者と有効でなかった患者のCD8陽性T細胞におけるCMTM7遺伝子の発現量を解析した結果を示すグラフである。
図13】実験例6におけるメラノーマ患者の予後解析の結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
[データを収集する方法]
1実施形態において、本発明は、癌患者への免疫チェックポイント阻害薬の投与の有効性を予測するためのデータを収集する方法であって、前記癌患者由来の生体試料における、マーカー遺伝子又はマーカータンパク質の発現量を測定する工程を含み、前記マーカー遺伝子又はマーカータンパク質が、NELL2遺伝子若しくはタンパク質、AMICA1遺伝子若しくはタンパク質、CLEC11A遺伝子若しくはタンパク質、CLECL1遺伝子若しくはタンパク質又はCMTM7遺伝子若しくはタンパク質を含み、前記発現量が前記有効性を予測するためのデータであり、前記発現量が基準値よりも高いことが、前記癌患者への前記免疫チェックポイント阻害薬の投与が有効であることを示す、方法を提供する。
【0010】
実施例において後述するように、発明者らは、NELL2遺伝子若しくはNELL2タンパク質、AMICA1遺伝子若しくはAMICA1タンパク質、CLEC11A遺伝子若しくはCLEC11Aタンパク質、CLECL1遺伝子若しくはCLECL1タンパク質、又は、CMTM7遺伝子若しくはCMTM7タンパク質を、癌患者への免疫チェックポイント阻害薬の投与の有効性を予測するためのマーカー遺伝子又はマーカータンパク質として利用することができることを明らかにした。
【0011】
癌患者由来の生体試料におけるこれらの遺伝子又はタンパク質の発現量が、基準値よりも高い場合、癌患者への免疫チェックポイント阻害薬の投与が有効であると判断することができる。
【0012】
したがって、本実施形態の方法は、癌患者への免疫チェックポイント阻害薬の投与の有効性を予測する方法であるということができる。あるいは、本実施形態の方法は、癌患者への免疫チェックポイント阻害薬の投与が有効か否かを診断する方法であるということもできる。
【0013】
ここで、基準値は、例えば、免疫チェックポイント阻害薬の投与が有効でないことがすでに明らかとなっている癌患者由来の生体試料における、上記の遺伝子又はタンパク質の発現量であってよい。また、基準値は予め設定された値であってもよい。
【0014】
生体試料としては、CD8陽性T細胞、癌組織切片、血漿、血清等が挙げられる。中でも、生体試料はCD8陽性T細胞であることが好ましい。
【0015】
マーカー遺伝子の発現量の測定方法は特に限定されず、例えば、RNA-Seq、定量的RT-PCR、DNAマイクロアレイ法等が挙げられる。また、マーカータンパク質の発現量の測定方法は特に限定されず、例えば、フローサイトメトリー、ELISA法、プロテインアレイ法等が挙げられる。
【0016】
本実施形態の方法において、免疫チェックポイント阻害薬としては、抗PD-1抗体又は抗PD-L1抗体等が挙げられる。より具体的な抗PD-1抗体としては、例えば、ニボルマブ、ペムブロリズマブ等が挙げられる。より具体的な抗PD-L1抗体としては、例えば、アベルマブ、アテゾリズマブ等が挙げられる。
【0017】
ヒトNELL2遺伝子のmRNAのNCBIアクセッション番号は、NM_001145107.1、NM_001145108.1、NM_001145109.1等である。また、ヒトNELL2タンパク質のNCBIアクセッション番号は、NP_001138580.1、NP_001138579.1、NP_006150.1等である。
【0018】
ヒトAMICA1遺伝子のmRNAのNCBIアクセッション番号は、NM_001098526.1、NM_001286570.1、NM_001286571.1、NM_153206.2等である。また、ヒトAMICA1タンパク質のNCBIアクセッション番号は、NP_001273500.1、NP_001273499.1、NP_001091996.1、NP_694938.2等である。
【0019】
ヒトCLEC11A遺伝子のmRNAのNCBIアクセッション番号は、NM_002975.3等である。また、ヒトCLEC11Aタンパク質のNCBIアクセッション番号は、NP_002966.1等である。
【0020】
ヒトCLECL1遺伝子のmRNAのNCBIアクセッション番号は、NM_001253750.1、NM_001267701.1、NM_172004.3等である。また、ヒトCLEC11Aタンパク質のNCBIアクセッション番号は、NP_001240679.1、NP_742001.1、NP_001254630.1等である。
【0021】
ヒトCMTM7遺伝子のmRNAのNCBIアクセッション番号は、NM_138410.4、NM_181472.3等である。また、ヒトCMTM7タンパク質のNCBIアクセッション番号は、NP_852137.1、NP_612419.1等である。
【0022】
上記のマーカー遺伝子又はマーカータンパク質は、(i-1)NELL2遺伝子若しくはタンパク質と、SLAMF6遺伝子若しくはタンパク質との組み合わせであってもよく、(i-2)NELL2遺伝子若しくはタンパク質と、CD44遺伝子若しくはタンパク質との組み合わせであってもよく、(i-3)NELL2遺伝子若しくはタンパク質と、IL7R遺伝子若しくはタンパク質との組み合わせであってもよい。
【0023】
実施例において後述するように、NELL2遺伝子若しくはタンパク質単独の発現量を測定する場合と比較して、これらの組み合わせを測定することにより、癌患者への免疫チェックポイント阻害薬の投与が有効か否かをより正確に予測することができる。
【0024】
ヒトSLAMF6遺伝子のmRNAのNCBIアクセッション番号は、NM_001184714.1、NM_001184715.1、NM_001184716.1、NM_052931.4等である。また、ヒトSLAMF6タンパク質のNCBIアクセッション番号は、NP_001171644.1、NP_443163.1、NP_001171645.1等である。
【0025】
ヒトCD44遺伝子のmRNAのNCBIアクセッション番号は、NM_000610.4、NM_001001389.2、NM_001001390.2等である。また、ヒトCD44タンパク質のNCBIアクセッション番号は、NP_001001391.1、NP_001001390.1、NP_001189485.1等である。
【0026】
ヒトIL7R遺伝子のmRNAのNCBIアクセッション番号は、NM_002185.3等である。また、ヒトIL7Rタンパク質のNCBIアクセッション番号は、NP_002176.2等である。
【0027】
あるいは、上記のマーカー遺伝子又はマーカータンパク質は、(ii-1)AMICA1遺伝子若しくはタンパク質と、SELL遺伝子若しくはタンパク質との組み合わせであってもよく、(ii-2)AMICA1遺伝子若しくはタンパク質と、IL7R遺伝子若しくはタンパク質との組み合わせであってもよく、(ii-3)AMICA1遺伝子若しくはタンパク質と、CCR7遺伝子若しくはタンパク質との組み合わせであってもよい。
【0028】
実施例において後述するように、AMICA1遺伝子若しくはタンパク質単独の発現量を測定する場合と比較して、これらの組み合わせを測定することにより、癌患者への免疫チェックポイント阻害薬の投与が有効か否かをより正確に予測することができる。
【0029】
ヒトSELL遺伝子のmRNAのNCBIアクセッション番号は、NM_000655.4等である。また、ヒトSELLタンパク質のNCBIアクセッション番号は、NP_000646.2等である。
【0030】
ヒトIL7R遺伝子若しくはタンパク質のNCBIアクセッション番号は上述した通りである。
【0031】
ヒトCCR7遺伝子のmRNAのNCBIアクセッション番号は、NM_001301714.1、NM_001301716.1、NM_001301717.1、NM_001301718.1、NM_001838.3等である。また、ヒトCCR7タンパク質のNCBIアクセッション番号は、NP_001288645.1、NP_001288647.1、NP_001288646.1、NP_001288643.1、NP_001829.1等である。
【0032】
[キット]
1実施形態において、本発明は、NELL2タンパク質、AMICA1タンパク質、CLEC11Aタンパク質、CLECL1タンパク質若しくはCMTM7タンパク質に対する特異的結合物質、NELL2遺伝子、AMICA1遺伝子、CLEC11A遺伝子、CLECL1遺伝子若しくはCMTM7遺伝子のcDNAを増幅するプライマー、又は、NELL2遺伝子、AMICA1遺伝子、CLEC11A遺伝子、CLECL1遺伝子若しくはCMTM7遺伝子のmRNAにハイブリダイズするプローブを含む、癌患者への免疫チェックポイント阻害薬の投与の有効性を予測するためのキットを提供する。
【0033】
本実施形態のキットは、NELL2タンパク質、AMICA1タンパク質、CLEC11Aタンパク質、CLECL1タンパク質又はCMTM7タンパク質に対する特異的結合物質を含んでいてもよい。特異的結合物質としては、抗体、抗体断片、アプタマー等が挙げられる。抗体断片としては、F(ab’)、Fab’、Fab、Fv、scFv等が挙げられる。特異的結合物質は、NELL2タンパク質、AMICA1タンパク質、CLEC11Aタンパク質、CLECL1タンパク質又はCMTM7タンパク質を検出することができれば特に限定されない。特異的結合物質は、固相に結合されて、例えば、プロテインアレイ等を構成していてもよい。
【0034】
本実施形態のキットは、NELL2遺伝子、AMICA1遺伝子、CLEC11A遺伝子、CLECL1遺伝子又はCMTM7遺伝子のcDNAを増幅するプライマーを含んでいてもよい。通常、プライマーは、センスプライマー及びアンチセンスプライマーのセットである。プライマーは、NELL2遺伝子、AMICA1遺伝子、CLEC11A遺伝子、CLECL1遺伝子又はCMTM7遺伝子のcDNAを増幅することができれば、その塩基配列や長さは特に限定されない。
【0035】
本実施形態のキットは、NELL2遺伝子、AMICA1遺伝子、CLEC11A遺伝子、CLECL1遺伝子又はCMTM7遺伝子のmRNAにハイブリダイズするプローブを含んでいてもよい。通常、プローブは、核酸断片である。プローブの塩基配列は、NELL2遺伝子、AMICA1遺伝子、CLEC11A遺伝子、CLECL1遺伝子又はCMTM7遺伝子のmRNAを検出することができれば特に限定されない。プローブは核酸アレイを構成していてもよい。
【0036】
本実施形態のキットは、CD8タンパク質に対する特的結合物質、CD8遺伝子のcDNAを増幅するプライマー、又は、CD8遺伝子のmRNAにハイブリダイズするプローブを更に含んでいてもよい。これにより、癌患者由来のCD8陽性T細胞における上記マーカー遺伝子又はマーカータンパク質の発現量を測定することができる。
【0037】
本実施形態のキットは、SLAMF6タンパク質、CD44タンパク質、IL7Rタンパク質、SELLタンパク質若しくはCCR7タンパク質に対する特異的結合物質、SLAMF6遺伝子、CD44遺伝子、IL7R遺伝子、SELL遺伝子若しくはCCR7遺伝子のcDNAを増幅するプライマー、又は、SLAMF6遺伝子、CD44遺伝子、IL7R遺伝子、SELL遺伝子若しくはCCR7遺伝子のmRNAにハイブリダイズするプローブを更に含んでいてもよい。
【0038】
上述したように、NELL2遺伝子若しくはタンパク質の発現量と、SLAMF6遺伝子若しくはタンパク質、CD44遺伝子若しくはタンパク質又はIL7R遺伝子若しくはタンパク質の発現量を組み合わせて測定することにより、癌患者への免疫チェックポイント阻害薬の投与が有効か否かをより正確に予測することができる。また、AMICA1遺伝子若しくはタンパク質の発現量と、SELL遺伝子若しくはタンパク質、IL7R遺伝子若しくはタンパク質又はCCR7遺伝子若しくはタンパク質の発現量を組み合わせて測定することにより、癌患者への免疫チェックポイント阻害薬の投与が有効か否かをより正確に予測することができる。
【0039】
[抗癌剤のスクリーニング方法]
1実施形態において、本発明は、抗癌剤のスクリーニング方法であって、被験物質の存在下でCD8陽性T細胞をインキュベートする工程と、前記CD8陽性T細胞におけるマーカー遺伝子又はマーカータンパク質の発現量を測定する工程と、を含み、前記マーカー遺伝子又はマーカータンパク質が、NELL2遺伝子若しくはタンパク質、AMICA1遺伝子若しくはタンパク質、CLEC11A遺伝子若しくはタンパク質、CLECL1遺伝子若しくはタンパク質又はCMTM7遺伝子若しくはタンパク質を含み、前記発現量が、前記被験物質の非存在下における発現量と比較して上昇したことが、前記被験物質が抗癌剤であることを示す、方法を提供する。
【0040】
本実施形態のスクリーニング方法において、被験物質としては、特に限定されず、例えば、天然化合物ライブラリ、合成化合物ライブラリ、既存薬ライブラリ等を用いることができる。また、CD8陽性T細胞は、健常人由来の細胞であってもよいし、癌患者由来の細胞であってもよいし、株化された細胞であってもよい。
【0041】
本実施形態のスクリーニング方法において、マーカー遺伝子の発現量の測定方法は上述したものと同様であり、例えば、RNA-Seq、定量的RT-PCR、DNAマイクロアレイ法等が挙げられる。また、マーカータンパク質の発現量の測定方法についても上述したものと同様であり、例えば、フローサイトメトリー、ELISA法、プロテインアレイ法等が挙げられる。
【0042】
CD8陽性T細胞における、NELL2遺伝子若しくはNELL2タンパク質、AMICA1遺伝子若しくはAMICA1タンパク質、CLEC11A遺伝子若しくはCLEC11Aタンパク質、CLECL1遺伝子若しくはCLECL1タンパク質又はCMTM7遺伝子若しくはCMTM7タンパク質の発現量を上昇させる被験物質は、従来の免疫チェックポイント阻害薬の代わりに使用することができる抗癌剤であるということができる。あるいは、このような被験物質は、癌患者への従来の免疫チェックポイント阻害薬の投与の有効性を向上させる薬物であるということもできる。
【0043】
本実施形態のスクリーニング方法において、上記のマーカー遺伝子又はマーカータンパク質は、(i-1)NELL2遺伝子若しくはタンパク質と、SLAMF6遺伝子若しくはタンパク質との組み合わせであってもよく、(i-2)NELL2遺伝子若しくはタンパク質と、CD44遺伝子若しくはタンパク質との組み合わせであってもよく、(i-3)NELL2遺伝子若しくはタンパク質と、IL7R遺伝子若しくはタンパク質との組み合わせであってもよい。
【0044】
NELL2遺伝子若しくはタンパク質単独の発現量を測定する場合と比較して、これらの組み合わせを測定することにより、被験物質の抗癌作用をより正確に予測することができる。
【0045】
あるいは、上記のマーカー遺伝子又はマーカータンパク質は、(ii-1)AMICA1遺伝子若しくはタンパク質と、SELL遺伝子若しくはタンパク質との組み合わせであってもよく、(ii-2)AMICA1遺伝子若しくはタンパク質と、IL7R遺伝子若しくはタンパク質との組み合わせであってもよく、(ii-3)AMICA1遺伝子若しくはタンパク質と、CCR7遺伝子若しくはタンパク質との組み合わせであってもよい。
【0046】
AMICA1遺伝子若しくはタンパク質単独の発現量を測定する場合と比較して、これらの組み合わせを測定することにより、被験物質の抗癌作用をより正確に予測することができる。
【0047】
[抗癌剤]
1実施形態において、本発明は、NELL2タンパク質若しくはその発現ベクター、AMICA1タンパク質若しくはその発現ベクター、CLEC11Aタンパク質若しくはその発現ベクター、CLECL1タンパク質若しくはその発現ベクター又はCMTM7タンパク質若しくはその発現ベクターを有効成分として含有する、抗癌剤を提供する。AMICA1タンパク質は、可溶化されていることが好ましく、例えば、抗体定常領域との融合タンパク質の形態(AMICA1-Fc)であってもよいし、AMICA1タンパク質の一部(例えば、細胞外ドメイン等)であってもよい。発現ベクターとしては、プラスミドベクター、アデノウイルスベクター、レトロウイルスベクター等を利用することができる。本実施形態の抗癌剤は、例えば、キメラ抗原受容体(CAR)-T細胞製剤、TCR-T細胞製剤、腫瘍浸潤T細胞(TIL)療法等と組み合わせて用いることができる。
【0048】
実施例において後述するように、発明者らは、NELL2が、癌抗原特異的細胞傷害性T細胞のIFN-γの産生量を増加させる機能を有することを明らかにした。したがって、NELL2タンパク質又はNELL2タンパク質の発現ベクターを抗癌剤として使用することができる。発現ベクターについては上述したものと同様である。例えば、キメラ抗原受容体(CAR)-T細胞製剤、TCR-T細胞製剤、腫瘍浸潤T細胞(TIL)等に、NELL2タンパク質を発現させて用いることができる。
【0049】
また、実施例において後述するように、発明者らは、AMICA1タンパク質(AMICA1-Fc)が、癌抗原特異的細胞傷害性T細胞のIFN-γの産生量を増加させる機能を有することを明らかにした。したがって、AMICA1タンパク質又はAMICA1タンパク質の発現ベクターを抗癌剤として使用することができる。AMICA1タンパク質を抗癌剤として用いる場合、AMICA1タンパク質は可溶化されていることが好ましく、例えばAMICA1-Fcの形態であってもよいし、AMICA1タンパク質の一部であってもよい。発現ベクターについては上述したものと同様である。例えば、キメラ抗原受容体(CAR)-T細胞製剤、TCR-T細胞製剤、腫瘍浸潤T細胞(TIL)等に、AMICA1-Fcを発現させるか、これらの細胞にAMICA1-Fcタンパク質を接触させて用いることができる。
【0050】
また、実施例において後述するように、発明者らは、CLEC11Aタンパク質が、T細胞の未分化性を維持する機能分子であることを明らかにした。未分化なT細胞は免疫チェックポイント阻害薬の投与の有効性を向上させる可能性が考えられる(例えば、Kurtulus S., et al., Checkpoint Blockade Immunotherapy Induces Dynamic Changes in PD-1-CD8+ Tumor-Infiltrating T Cells, Immunity, 50 (1):181-194, 2019 を参照。)。したがって、CLEC11Aタンパク質又はCLEC11Aタンパク質の発現ベクターを抗癌剤として使用することができる。発現ベクターについては上述したものと同様である。例えば、キメラ抗原受容体(CAR)-T細胞製剤、TCR-T細胞製剤、腫瘍浸潤T細胞(TIL)等に、CLEC11Aタンパク質を発現させて用いることができる。
【0051】
本実施形態の抗癌剤は、薬学的に許容される担体と混合した医薬組成物として製剤化されていることが好ましい。本実施形態の抗癌剤は、例えば、点滴剤、注射剤、皮膚外用剤等の形態に製剤化して非経口的に投与してもよい。皮膚外用剤としては、軟膏剤、貼付剤等の剤型が挙げられる。
【0052】
薬学的に許容される担体としては、点滴用溶剤、注射用溶剤、粘着剤等が挙げられる。点滴用溶剤、注射用溶剤としては、点滴剤、注射剤に一般的に使用されるものを特に限定なく使用することができ、例えば、生理食塩水、ブドウ糖、D-ソルビトール、D-マンノース、D-マンニトール、塩化ナトリウム等の補助薬を含む等張液等が挙げられるがこれらに限定されない。点滴用溶剤、注射用溶剤は、エタノール等のアルコール;プロピレングリコール、ポリエチレングリコール等のポリアルコール;ポリソルベート80(商標)、HCO-50等の非イオン性界面活性剤等を含有していてもよい。
【0053】
粘着剤としては、一般的な貼付剤等に使用されるものを特に限定なく使用することができ、例えば、ゴム系粘着剤、シリコーン系粘着剤等が挙げられるがこれらに限定されない。
【0054】
抗癌剤の患者への投与は、例えば、点滴静脈注射、静脈注射、皮内投与、皮下投与、貼付剤の貼付等により行うことができる。また、投与量は、患者の年齢、体重、症状、投与方法等により適宜調整することができ、通常成人(体重60kg)においては、1回あたり、例えば0.001mg~1000mg、例えば0.001mg~1000mg、例えば0.1mg~10mgの有効成分(タンパク質又は発現ベクター)を投与する量が挙げられる。抗癌剤の患者への投与回数は、1回であってもよく、複数回であってもよい。複数回投与する場合の投与間隔は、例えば数日から数か月であってもよい。
【0055】
[その他の実施形態]
1実施形態において、本発明は、癌患者から生体試料を採取する工程と、前記生体試料における、マーカー遺伝子又はマーカータンパク質の発現量を測定する工程と、前記発現量が基準値よりも高い場合に、前記癌患者に免疫チェックポイント阻害薬を投与する工程と、を含み、前記マーカー遺伝子又はマーカータンパク質が、NELL2遺伝子若しくはNELL2タンパク質、AMICA1遺伝子若しくはAMICA1タンパク質、CLEC11A遺伝子若しくはCLEC11Aタンパク質、CLECL1遺伝子若しくはCLECL1タンパク質又はCMTM7遺伝子若しくはCMTM7タンパク質を含む、癌の治療方法を提供する。
【0056】
1実施形態において、本発明は、NELL2タンパク質若しくはその発現ベクター、AMICA1タンパク質若しくはその発現ベクター、CLEC11Aタンパク質若しくはその発現ベクター、CLECL1タンパク質若しくはその発現ベクター又はCMTM7タンパク質若しくはその発現ベクターの有効量を、治療を必要とする患者に投与することを含む、癌の治療方法を提供する。
【0057】
1実施形態において、本発明は、癌の治療のための、NELL2タンパク質若しくはその発現ベクター、AMICA1タンパク質若しくはその発現ベクター、CLEC11Aタンパク質若しくはその発現ベクター、CLECL1タンパク質若しくはその発現ベクター又はCMTM7タンパク質若しくはその発現ベクターを提供する。
【0058】
1実施形態において、本発明は、抗癌剤を製造するための、NELL2タンパク質若しくはその発現ベクター、AMICA1タンパク質若しくはその発現ベクター、CLEC11Aタンパク質若しくはその発現ベクター、CLECL1タンパク質若しくはその発現ベクター又はCMTM7タンパク質若しくはその発現ベクターの使用を提供する。
【実施例0059】
次に実施例を示して本発明を更に詳細に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0060】
[実験例1]
(シングルセルRNAシーケンス(scRNA-Seq))
9名のメラノーマ患者について、ニボルマブの投与前の血液試料及びニボルマブの投与開始から7週間後の血液試料を採取した。図1は実験スケジュールを示す図である。図1中、「PD1 Ab」はニボルマブを示し、「Pre PBMC」はニボルマブの投与前の末梢血単核球細胞を示し、「After PBMC」はニボルマブの投与後の末梢血単核球細胞を示し、「0W」、「3W」、「6W」、「7W」は、それぞれ、0週後(ニボルマブの投与開始時)、3週間後、6週間後、7週間後を示す。
【0061】
また、下記表1に、メラノーマ患者の内訳を示す。表1中、「PR」は腫瘍の大きさの和が30%以上減少した状態(Partial Response)を意味し、「LSD」は腫瘍の大きさが6ヵ月を超えて変化しない状態(Long Stable Disease)を意味し、「PD」は腫瘍の大きさの和が20%以上増加し且つ絶対値でも5mm以上増加した状態、あるいは新病変が出現した状態「Progressive Disease」を意味する。
【0062】
【表1】
【0063】
続いて、各血液試料から末梢血単核球細胞を調製し、セルソーター(型番「SH800S」、ソニー)で96ウェルプレートに1個/ウェルずつCD8陽性T細胞を回収した。
【0064】
続いて、回収した各CD8陽性T細胞から、市販のキット(製品名「SMART-Seq(R)v4 3’DE Kit」、クロンテック社)を用いて次世代シーケンス用のcDNAライブラリを作製した。続いて、次世代シーケンサー(製品名「NovaSeq6000」、イルミナ社)を用いて作製したcDNAライブラリのシーケンス(RNA-seq)を行った。
【0065】
インシリコ解析の結果、RNA-Seq解析を行った3,456細胞のうち、3,206細胞の結果が、ミトコンドリア含有量10%以下であり、QC(quality control)をパスした。その結果、1細胞あたり、270万リード、平均6,000遺伝子(種類)/細胞の検出に成功した。
【0066】
この解析結果に基づき、ニボルマブの投与の有効性を予測しうるマーカー遺伝子として、NELL2、AMICA1、CLEC11A、CLECL1に着目し、以下の検討を行った。
【0067】
[実験例2]
(NELL2の検討)
《scRNA-Seq》
図2(a)は、実験例1のRNA-Seqの結果に基づいて、ニボルマブ投与前(Pre)及びニボルマブ投与後(Post)のCD8陽性T細胞におけるNELL2遺伝子の発現量を、ニボルマブの投与が有効であった患者(PR又はLSD)と、ニボルマブの投与が有効でなかった患者(PD)のそれぞれについて解析した結果を示すグラフである。グラフの縦軸は100万リードあたりのNELL2のリード数である。
【0068】
その結果、ニボルマブ投与前(Pre)及びニボルマブ投与後(Post)において、ニボルマブの投与が有効であった患者は、ニボルマブの投与が有効でなかった患者よりもNELL2遺伝子の発現量が高い傾向が認められた。したがって、NELL2遺伝子又はNELL2タンパク質は、ニボルマブの投与の有効性を予測するマーカーとして使用することができる。
【0069】
図2(b)は、実験例1のRNA-Seqの結果に基づいて、ニボルマブ投与前(Pre)及びニボルマブ投与後(Post)のCD8陽性T細胞における、NELL2遺伝子高発現、SLAMF6遺伝子高発現細胞の割合を、ニボルマブの投与が有効であった患者(PR又はLSD)と、ニボルマブの投与が有効でなかった患者(PD)のそれぞれについて解析した結果を示すグラフである。グラフの縦軸は割合(%)である。
【0070】
本実験例では、NELL2遺伝子の発現量を正規化し、第1四分位数以上の発現量を示した細胞をNELL2遺伝子高発現細胞と定義した。同様に、SLAMF6遺伝子の発現量を正規化し、第1四分位数以上の発現量を示した細胞をSLAMF6遺伝子高発現細胞と定義した。
【0071】
その結果、ニボルマブ投与前(Pre)において、ニボルマブの投与が有効であった患者は、ニボルマブの投与が有効でなかった患者よりも、NELL2遺伝子高発現、SLAMF6遺伝子高発現細胞の割合が高い傾向が認められた。また、NELL2遺伝子とSLAMF6遺伝子の発現を組み合わせて解析することにより、NELL2遺伝子単独の発現を解析するよりもニボルマブの投与の有効性を精度よく予測できる傾向が認められた。
【0072】
したがって、SLAMF6遺伝子又はSLAMF6タンパク質は、NELL2遺伝子又はNELL2タンパク質と組み合わせて、ニボルマブの投与の有効性を予測するマーカーとして使用することができる。
【0073】
図2(c)は、実験例1のRNA-Seqの結果に基づいて、ニボルマブ投与前(Pre)及びニボルマブ投与後(Post)のCD8陽性T細胞における、NELL2遺伝子高発現、CD44遺伝子高発現細胞の割合を、ニボルマブの投与が有効であった患者(PR又はLSD)と、ニボルマブの投与が有効でなかった患者(PD)のそれぞれについて解析した結果を示すグラフである。グラフの縦軸は割合(%)である。
【0074】
上述したように、NELL2遺伝子の発現量を正規化し、第1四分位数以上の発現量を示した細胞をNELL2遺伝子高発現細胞と定義した。同様に、CD44遺伝子の発現量を正規化し、第1四分位数以上の発現量を示した細胞をCD44遺伝子高発現細胞と定義した。
【0075】
その結果、ニボルマブ投与前(Pre)において、ニボルマブの投与が有効であった患者は、ニボルマブの投与が有効でなかった患者よりも、NELL2遺伝子高発現、CD44遺伝子高発現細胞の割合が高い傾向が認められた。また、NELL2遺伝子とCD44遺伝子の発現を組み合わせて解析することにより、NELL2遺伝子単独の発現を解析するよりもニボルマブの投与の有効性を精度よく予測できる傾向が認められた。
【0076】
したがって、CD44遺伝子又はCD44タンパク質は、NELL2遺伝子又はNELL2タンパク質と組み合わせて、ニボルマブの投与の有効性を予測するマーカーとして使用することができる。
【0077】
図2(d)は、実験例1のRNA-Seqの結果に基づいて、ニボルマブ投与前(Pre)及びニボルマブ投与後(Post)のCD8陽性T細胞における、NELL2遺伝子高発現、IL7R遺伝子高発現細胞の割合を、ニボルマブの投与が有効であった患者(PR又はLSD)と、ニボルマブの投与が有効でなかった患者(PD)のそれぞれについて解析した結果を示すグラフである。グラフの縦軸は割合(%)である。
【0078】
上述したように、NELL2遺伝子の発現量を正規化し、第1四分位数以上の発現量を示した細胞をNELL2遺伝子高発現細胞と定義した。同様に、IL7R遺伝子の発現量を正規化し、第1四分位数以上の発現量を示した細胞をIL7R遺伝子高発現細胞と定義した。
【0079】
その結果、ニボルマブ投与前(Pre)において、ニボルマブの投与が有効であった患者は、ニボルマブの投与が有効でなかった患者よりも、NELL2遺伝子高発現、IL7R遺伝子高発現細胞の割合が高い傾向が認められた。また、NELL2遺伝子とIL7R遺伝子の発現を組み合わせて解析することにより、NELL2遺伝子単独の発現を解析するよりもニボルマブの投与の有効性を精度よく予測できる傾向が認められた。
【0080】
したがって、IL7R遺伝子又はIL7Rタンパク質は、NELL2遺伝子又はNELL2タンパク質と組み合わせて、ニボルマブの投与の有効性を予測するマーカーとして使用することができる。
【0081】
《公開データベースを用いた予後解析》
公開データベースであるThe Cancer Genome Atlas(TCGA)を用いて、NELL2遺伝子の発現とメラノーマ(Skin Cutaneous Melanoma)患者の予後との関連性を検討した。具体的には、CD8遺伝子及びNELL2遺伝子の発現量に基づいて、各メラノーマ患者を(i)CD8A遺伝子高発現、NELL2遺伝子高発現群、(ii)CD8A遺伝子高発現、NELL2遺伝子低発現群、(iii)CD8A遺伝子低発現、NELL2遺伝子高発現群、(iv)CD8A遺伝子低発現、NELL2遺伝子低発現群、の4群に分け、予後解析を行った。
【0082】
図3は、メラノーマ患者の予後解析の結果を示すグラフである。図3中、「CD8A+/NELL2+」は、CD8A遺伝子高発現、NELL2遺伝子高発現群の結果であることを示し、「CD8A+/NELL2-」は、CD8A遺伝子高発現、NELL2遺伝子低発現群の結果であることを示し、「CD8A-/NELL2+」は、CD8A遺伝子低発現、NELL2遺伝子高発現群の結果であることを示し、「CD8A-/NELL2-」は、CD8A遺伝子低発現、NELL2遺伝子低発現群の結果であることを示す。
【0083】
その結果、CD8A遺伝子高発現、NELL2遺伝子高発現群の予後が最も良好であることが明らかとなった。
【0084】
《癌抗原特異的細胞傷害性T細胞の応答》
MART-1抗原は、メラノーマ細胞の表面に存在することが知られているタンパク質である。まず、HLA-A201拘束性にMART-1抗原を認識するT細胞受容体(MART-1 TCR)を発現するT細胞(以下、「MART-1 TCR-T細胞」という場合がある。)6×10個に、ヒトNELL2を発現するレトロウイルスを感染させた。
【0085】
続いて、感染後、培養4日目に、メラノーマ細胞株であるMEL888にHLA-A201を発現させた細胞(以下、「MEL888 HLA A201細胞」という場合がある。)と1:1の細胞数(それぞれ10個)で共培養を行い、共培養の開始から24時間後の培養上清中のインターフェロン(IFN)-γ量を測定した。また、対照として、MEL888 HLA A201細胞の代わりにMEL888細胞を用いた群も用意した。
【0086】
図4は、IFN-γの産生量を定量した結果を示すグラフである。図4中、「Control」は、MART-1 TCR-T細胞に、空のレトロウイルスを感染させた結果であることを示し、「NELL2」は、MART-1 TCR-T細胞に、ヒトNELL2を発現するレトロウイルスを感染させた結果であることを示し、「Mel888」はMEL888細胞を用いた結果であることを示し、「Mel888 HLA A201」は、MEL888にHLA-A201を発現させた細胞(MEL888 HLA A201細胞)を用いた結果であることを示す。
【0087】
その結果、癌抗原特異的細胞傷害性T細胞(MART-1 TCR-T細胞)にNELL2をレトロウイルスで過剰発現させると、癌抗原特異的細胞傷害性T細胞のIFN-γの産生量が増加することが明らかとなった。この結果は、NELL2タンパク質が抗癌活性を有することを示す。したがって、NELL2タンパク質は抗癌剤として使用することができる。
【0088】
[実験例3]
(AMICA1の検討)
《scRNA-Seq》
図5(a)は、実験例1のRNA-Seqの結果に基づいて、ニボルマブ投与前(Pre)及びニボルマブ投与後(Post)のCD8陽性T細胞における、AMICA1遺伝子高発現細胞の割合を、ニボルマブの投与が有効であった患者(PR又はLSD)と、ニボルマブの投与が有効でなかった患者(PD)のそれぞれについて解析した結果を示すグラフである。グラフの縦軸は割合(%)である。本実験例では、AMICA1遺伝子の発現量を正規化し、第1四分位数以上の発現量を示した細胞をAMICA1遺伝子高発現細胞と定義した。
【0089】
その結果、ニボルマブ投与前(Pre)及びニボルマブ投与後(Post)において、ニボルマブの投与が有効であった患者は、ニボルマブの投与が有効でなかった患者よりもAMICA1遺伝子高発現細胞の割合が高い傾向が認められた。したがって、AMICA1遺伝子又はAMICA1タンパク質は、ニボルマブの投与の有効性を予測するマーカーとして使用することができる。
【0090】
図5(b)は、実験例1のRNA-Seqの結果に基づいて、ニボルマブ投与前(Pre)及びニボルマブ投与後(Post)のCD8陽性T細胞における、AMICA1遺伝子高発現、SELL遺伝子高発現細胞の割合を、ニボルマブの投与が有効であった患者(PR又はLSD)と、ニボルマブの投与が有効でなかった患者(PD)のそれぞれについて解析した結果を示すグラフである。グラフの縦軸は割合(%)である。
【0091】
上述したように、AMICA1遺伝子の発現量を正規化し、第1四分位数以上の発現量を示した細胞をAMICA1遺伝子高発現細胞と定義した。同様に、SELL遺伝子の発現量を正規化し、第1四分位数以上の発現量を示した細胞をSELL遺伝子高発現細胞と定義した。
【0092】
その結果、ニボルマブ投与前(Pre)において、ニボルマブの投与が有効であった患者は、ニボルマブの投与が有効でなかった患者よりも、AMICA1遺伝子高発現、SELL遺伝子高発現細胞の割合が有意に高いことが明らかとなった。また、AMICA1遺伝子とSELL遺伝子の発現を組み合わせて解析することにより、AMICA1遺伝子単独の発現を解析するよりもニボルマブの投与の有効性を精度よく予測できることが明らかとなった。
【0093】
したがって、SELL遺伝子又はSELLタンパク質は、AMICA1遺伝子又はAMICA1タンパク質と組み合わせて、ニボルマブの投与の有効性を予測するマーカーとして使用することができる。
【0094】
図5(c)は、実験例1のRNA-Seqの結果に基づいて、ニボルマブ投与前(Pre)及びニボルマブ投与後(Post)のCD8陽性T細胞における、AMICA1遺伝子高発現、IL7R遺伝子高発現細胞の割合を、ニボルマブの投与が有効であった患者(PR又はLSD)と、ニボルマブの投与が有効でなかった患者(PD)のそれぞれについて解析した結果を示すグラフである。グラフの縦軸は割合(%)である。
【0095】
上述したように、AMICA1遺伝子の発現量を正規化し、第1四分位数以上の発現量を示した細胞をAMICA1遺伝子高発現細胞と定義した。同様に、IL7R遺伝子の発現量を正規化し、第1四分位数以上の発現量を示した細胞をIL7R遺伝子高発現細胞と定義した。
【0096】
その結果、ニボルマブ投与前(Pre)において、ニボルマブの投与が有効であった患者は、ニボルマブの投与が有効でなかった患者よりも、AMICA1遺伝子高発現、IL7R遺伝子高発現細胞の割合が高い傾向が認められた。また、AMICA1遺伝子とIL7R遺伝子の発現を組み合わせて解析することにより、AMICA1遺伝子単独の発現を解析するよりもニボルマブの投与の有効性を精度よく予測できる傾向が認められた。
【0097】
したがって、IL7R遺伝子又はIL7Rタンパク質は、AMICA1遺伝子又はAMICA1タンパク質と組み合わせて、ニボルマブの投与の有効性を予測するマーカーとして使用することができる。
【0098】
図5(d)は、実験例1のRNA-Seqの結果に基づいて、ニボルマブ投与前(Pre)及びニボルマブ投与後(Post)のCD8陽性T細胞における、AMICA1遺伝子高発現、CCR7遺伝子高発現細胞の割合を、ニボルマブの投与が有効であった患者(PR又はLSD)と、ニボルマブの投与が有効でなかった患者(PD)のそれぞれについて解析した結果を示すグラフである。グラフの縦軸は割合(%)である。
【0099】
上述したように、AMICA1遺伝子の発現量を正規化し、第1四分位数以上の発現量を示した細胞をAMICA1遺伝子高発現細胞と定義した。同様に、CCR7遺伝子の発現量を正規化し、第1四分位数以上の発現量を示した細胞をCCR7遺伝子高発現細胞と定義した。
【0100】
その結果、ニボルマブ投与前(Pre)において、ニボルマブの投与が有効であった患者は、ニボルマブの投与が有効でなかった患者よりも、AMICA1遺伝子高発現、CCR7遺伝子高発現細胞の割合が有意に高いことが明らかとなった。また、AMICA1遺伝子とCCR7遺伝子の発現を組み合わせて解析することにより、AMICA1遺伝子単独の発現を解析するよりもニボルマブの投与の有効性を精度よく予測できることが明らかとなった。
【0101】
したがって、CCR7遺伝子又はCCR7タンパク質は、AMICA1遺伝子又はAMICA1タンパク質と組み合わせて、ニボルマブの投与の有効性を予測するマーカーとして使用することができる。
【0102】
《公開データベースを用いた予後解析1》
公開データベースであるThe Cancer Genome Atlas(TCGA)を用いて、AMICA1遺伝子の発現とメラノーマ(Skin Cutaneous Melanoma)患者の予後との関連性を検討した。具体的には、CD8遺伝子及びAMICA1遺伝子の発現量に基づいて、各メラノーマ患者を(i)CD8A遺伝子高発現、AMICA1遺伝子高発現群、(ii)CD8A遺伝子高発現、AMICA1遺伝子低発現群、(iii)CD8A遺伝子低発現、AMICA1遺伝子高発現群、(iv)CD8A遺伝子低発現、AMICA1遺伝子低発現群、の4群に分け、予後解析を行った。
【0103】
図6(a)は、メラノーマ患者の予後解析の結果を示すグラフである。図6(a)中、「CD8A+/AMICA1+」は、CD8A遺伝子高発現、AMICA1遺伝子高発現群の結果であることを示し、「CD8A+/AMICA1-」は、CD8A遺伝子高発現、AMICA1遺伝子低発現群の結果であることを示し、「CD8A-/AMICA1+」は、CD8A遺伝子低発現、AMICA1遺伝子高発現群の結果であることを示し、「CD8A-/AMICA1-」は、CD8A遺伝子低発現、AMICA1遺伝子低発現群の結果であることを示す。
【0104】
その結果、CD8A遺伝子高発現、AMICA1遺伝子高発現群の予後が最も良好であることが明らかとなった。
【0105】
《公開データベースを用いた予後解析2》
公開データベースであるThe Cancer Genome Atlas(TCGA)を用いて、AMICA1遺伝子の発現とメラノーマ(Skin Cutaneous Melanoma)患者の予後との関連性を検討した。具体的には、各メラノーマ患者を、AMICA1遺伝子高発現群とAMICA1遺伝子低発現群の2群に分け、予後解析を行った。
【0106】
図6(b)は、メラノーマ患者の予後解析の結果を示すグラフである。図6(b)中、「AMICA1+」は、AMICA1遺伝子高発現群の結果であることを示し、「AMICA1-」は、AMICA1遺伝子低発現群の結果であることを示す。
【0107】
その結果、AMICA1遺伝子高発現群の予後が有意に良好であることが明らかとなった。
【0108】
《癌抗原特異的細胞傷害性T細胞の応答》
上述したMART-1 TCR-T細胞6×10個の培地に、ヒトAMICA1タンパク質と抗体定常領域との融合タンパク質(AMICA1-Fc、R&D社)を終濃度が400ng/mLとなるように添加した。また、対照として、抗体定常領域(IgG1-Fc)を終濃度が400ng/mLとなるように添加した群も用意した。
【0109】
続いて、培養4日目に、MEL888にHLA-A201を発現させた細胞(MEL888 HLA A201細胞)と1:1の細胞数(それぞれ10個)で共培養を行い、共培養の開始から24時間後の培養上清中のIFN-γ量を測定した。また、対照として、MEL888 HLA A201細胞の代わりにMEL888細胞を用いた群も用意した。
【0110】
図7は、IFN-γの産生量を定量した結果を示すグラフである。図7中、「IgG1-Fc」は、MART-1 TCR-T細胞の培地に、IgG1-Fcを添加した結果であることを示し、「AMICA1-Fc」は、MART-1 TCR-T細胞の培地に、AMICA1-Fcを添加した結果であることを示し、「Mel888」はMEL888細胞を用いた結果であることを示し、「Mel888 HLA A201」は、MEL888にHLA-A201を発現させた細胞(MEL888 HLA A201細胞)を用いた結果であることを示す。
【0111】
その結果、培地にAMICA1タンパク質を添加すると、癌抗原特異的細胞傷害性T細胞(MART-1 TCR-T細胞)のIFN-γの産生量が増加することが明らかとなった。この結果は、AMICA1タンパク質が抗癌活性を有することを示す。したがって、AMICA1タンパク質は抗癌剤として使用することができる。
【0112】
[実験例4]
(CLEC11Aの検討)
《scRNA-Seq》
図8は、実験例1のRNA-Seqの結果に基づいて、ニボルマブ投与前(Pre)及びニボルマブ投与後(Post)のCD8陽性T細胞におけるCLEC11A遺伝子の発現量を、ニボルマブの投与が有効であった患者(PR又はLSD)と、ニボルマブの投与が有効でなかった患者(PD)のそれぞれについて解析した結果を示すグラフである。グラフの縦軸は100万リードあたりのNELL2のリード数である。
【0113】
その結果、ニボルマブ投与前(Pre)及びニボルマブ投与後(Post)において、ニボルマブの投与が有効であった患者は、ニボルマブの投与が有効でなかった患者よりもCLEC11A遺伝子の発現量が有意に高いことが明らかとなった。したがって、CLEC11A遺伝子又はCLEC11Aタンパク質は、ニボルマブの投与の有効性を予測するマーカーとして使用することができる。
【0114】
《公開データベースを用いた予後解析》
公開データベースであるThe Cancer Genome Atlas(TCGA)を用いて、NELL2遺伝子の発現とメラノーマ(Skin Cutaneous Melanoma)患者の予後との関連性を検討した。具体的には、CD8遺伝子及びCLEC11A遺伝子の発現量に基づいて、各メラノーマ患者を(i)CD8A遺伝子高発現、CLEC11A遺伝子高発現群、(ii)CD8A遺伝子高発現、CLEC11A遺伝子低発現群、(iii)CD8A遺伝子低発現、CLEC11A遺伝子高発現群、(iv)CD8A遺伝子低発現、CLEC11A遺伝子低発現群、の4群に分け、予後解析を行った。
【0115】
図9は、メラノーマ患者の予後解析の結果を示すグラフである。図9中、「CLEC11Ahigh_CD8Ahigh」は、CD8A遺伝子高発現、CLEC11A遺伝子高発現群の結果であることを示し、「CLEC11Alow_CD8Ahigh」は、CD8A遺伝子高発現、CLEC11A遺伝子低発現群の結果であることを示し、「CLEC11Ahigh_CD8Alow」は、CD8A遺伝子低発現、CLEC11A遺伝子高発現群の結果であることを示し、「CLEC11Alow_CD8Alow」は、CD8A遺伝子低発現、CLEC11A遺伝子低発現群の結果であることを示す。
【0116】
その結果、CD8A遺伝子高発現、CLEC11A遺伝子高発現群の予後が最も良好であることが明らかとなった。
【0117】
《CLEC11AはT細胞の分化に与える影響の検討》
末梢血単核球細胞に、CLEC11A遺伝子を過剰発現又はノックダウンし、T細胞の分化に与える影響を検討した。具体的には、まず、ヒト末梢血より単離した単核球を培養し、CD3/CD28抗体で刺激した。続いて、培養開始から3日目に各レトロウイルス(ヒトCLEC11Aを過剰発現させるレトロウイルス、ヒトCLEC11Aに対するshRNAを発現させるレトロウイルス、対照のレトロウイルス)を感染させた。
【0118】
続いて、培養開始から7日目、14日目、21日目にCD3/CD28抗体刺激を行い、培養開始から24日目に、ウイルス感染CD8T細胞(GFP陽性)の、細胞分画のポピュレーション解析をCD62L、CD45RAの発現を指標に行った。
【0119】
図10(a)~(d)は、フローサイトメトリー解析の結果を示すグラフである。図10(a)~(d)において、CD8陽性GFP陽性細胞にゲートをかけた。図10(a)~(d)中、横軸はCD62Lの発現強度を示し、縦軸はCD45RAの発現強度を示す。
【0120】
図10(a)は、対照ベクターを導入したCD8陽性T細胞の分化状態を解析した結果を示すグラフである。また、図10(b)は、CLEC11A遺伝子を過剰発現させたCD8陽性T細胞の分化状態を解析した結果を示すグラフである。
【0121】
その結果、CLEC11Aを過剰発現させると、CD62L陰性CD45RA細胞の割合が減少したことが明らかとなった。この結果は、CLEC11A遺伝子を過剰発現させると、CD8陽性T細胞の分化が抑制することを示す。
【0122】
また、図10(c)は、対照ベクターを導入したCD8陽性T細胞の分化状態を解析した結果を示すグラフである。また、図10(d)は、CLEC11A遺伝子をノックダウンしたCD8陽性T細胞の分化状態を解析した結果を示すグラフである。
【0123】
その結果、CLEC11A遺伝子をノックダウンすると、CD62L陰性CD45RA細胞の割合が増加したことが明らかとなった。この結果は、CLEC11A遺伝子をノックダウンすると、CD8陽性T細胞の分化が促進することを示す。
【0124】
以上の結果は、CLEC11Aタンパク質が、T細胞の未分化性を維持する機能分子であることを示す。未分化なT細胞の存在は、免疫チェックポイント阻害薬の投与の有効性を向上させると考えられている。したがって、T細胞におけるCLEC11Aタンパク質又はCLEC11Aタンパク質の発現を上昇させる物質は、免疫チェックポイント阻害薬の投与の有効性を向上させる薬物として使用することができる。
【0125】
[実験例5]
(CLECL1の検討)
《scRNA-Seq》
図11は、実験例1のRNA-Seqの結果に基づいて、ニボルマブ投与前(Pre)及びニボルマブ投与後(Post)のCD8陽性T細胞におけるCLECL1遺伝子の発現量を、ニボルマブの投与が有効であった患者(PR又はLSD)と、ニボルマブの投与が有効でなかった患者(PD)のそれぞれについて解析した結果を示すグラフである。グラフの縦軸は100万リードあたりのCLECL1のリード数である。
【0126】
その結果、ニボルマブ投与前(Pre)及びニボルマブ投与後(Post)において、ニボルマブの投与が有効であった患者は、ニボルマブの投与が有効でなかった患者よりもCLEC1L1遺伝子の発現量が有意に高いことが明らかとなった。したがって、CLEC1L1遺伝子又はCLEC1L1タンパク質は、ニボルマブの投与の有効性を予測するマーカーとして使用することができる。
【0127】
[実験例6]
(CMTM7の検討)
《scRNA-Seq》
図12は、実験例1のRNA-Seqの結果に基づいて、ニボルマブ投与前(Pre)及びニボルマブ投与後(Post)のCD8陽性T細胞におけるCMTM7遺伝子の発現量を、ニボルマブの投与が有効であった患者(PR又はLSD)と、ニボルマブの投与が有効でなかった患者(PD)のそれぞれについて解析した結果を示すグラフである。グラフの縦軸は100万リードあたりのCMTM7のリード数である。図12中の数値はp値を示す。
【0128】
その結果、ニボルマブ投与前(Pre)及びニボルマブ投与後(Post)において、ニボルマブの投与が有効であった患者は、ニボルマブの投与が有効でなかった患者よりもCMTM7遺伝子の発現量が有意に高いことが明らかとなった。したがって、CMTM7遺伝子又はCMTM7タンパク質は、ニボルマブの投与の有効性を予測するマーカーとして使用することができる。
【0129】
《公開データベースを用いた予後解析》
公開データベースであるThe Cancer Genome Atlas(TCGA)を用いて、CMTM7遺伝子の発現とメラノーマ(Skin Cutaneous Melanoma)患者の予後との関連性を検討した。具体的には、CD8遺伝子及びCMTM7遺伝子の発現量に基づいて、各メラノーマ患者を(i)CD8A遺伝子高発現、CMTM7遺伝子高発現群、(ii)CD8A遺伝子高発現、CMTM7遺伝子低発現群、(iii)CD8A遺伝子低発現、CMTM7遺伝子高発現群、(iv)CD8A遺伝子低発現、CMTM7遺伝子低発現群、の4群に分け、予後解析を行った。
【0130】
図13は、メラノーマ患者の予後解析の結果を示すグラフである。図13中、「CD8A+/CMTM7+」は、CD8A遺伝子高発現、CMTM7遺伝子高発現群の結果であることを示し、「CD8A+/CMTM7-」は、CD8A遺伝子高発現、CMTM7遺伝子低発現群の結果であることを示し、「CD8A-/CMTM7+」は、CD8A遺伝子低発現、CMTM7遺伝子高発現群の結果であることを示し、「CD8A-/CMTM7-」は、CD8A遺伝子低発現、CMTM7遺伝子低発現群の結果であることを示す。
【0131】
その結果、CD8A遺伝子高発現、CMTM7遺伝子高発現群の予後が最も良好であることが明らかとなった。
【産業上の利用可能性】
【0132】
本発明によれば、免疫チェックポイント阻害薬の投与の有効性を予測する新たな技術を提供することができる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13