(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025037350
(43)【公開日】2025-03-18
(54)【発明の名称】エスカレータ微速運転装置
(51)【国際特許分類】
B66B 31/00 20060101AFI20250311BHJP
【FI】
B66B31/00 D
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023144223
(22)【出願日】2023-09-06
(71)【出願人】
【識別番号】000236056
【氏名又は名称】三菱電機ビルソリューションズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】弁理士法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】立松 功次
(72)【発明者】
【氏名】中村 知至
【テーマコード(参考)】
3F321
【Fターム(参考)】
3F321AA02
3F321HA04
(57)【要約】
【課題】主電源を遮断した状態で行われるエレベータの保守作業の労力を大幅に低減できるエスカレータ微速運転装置を提供する。
【解決手段】エスカレータ微速運転装置100は、主電源から供給される電力によりステップチェーンユニットを駆動する中間駆動ユニットと、保守作業時にハンドル40に入力されたトルクをステップチェーンユニットに伝達するための伝達機構とを備えるエスカレータを、保守作業時に運転するためのエスカレータ微速運転装置である。エスカレータ微速運転装置100は、主電源とは異なる電源から供給される電力により第1中心軸C1周りに回転駆動される第1回転軸111を有する電動装置110と、電動装置110の駆動時において電動装置110の第1回転軸111から出力されたトルクをハンドル40に伝達し、かつ電動装置110の駆動停止時においてハンドル40に制動力を付与するように設けられている伝達部材120とを備える。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
主電源から供給される電力によりステップチェーンユニットを駆動する中間駆動ユニットと、保守作業時に入力部に入力されたトルクを前記ステップチェーンユニットに伝達するための伝達機構とを備えるエスカレータを、前記保守作業時に運転するためのエスカレータ微速運転装置であって、
前記主電源とは異なる電源から供給される電力により第1中心軸周りに回転駆動される第1回転軸を有する電動装置と、
前記電動装置の駆動時において前記電動装置の前記第1回転軸から出力されたトルクを前記入力部に伝達し、かつ前記電動装置の駆動停止時において前記入力部に制動力を付与するように設けられている伝達部材とを備える、エスカレータ微速運転装置。
【請求項2】
前記入力部が第2中心軸周りに回転可能な第1歯車を含む前記エスカレータに用いられるエスカレータ微速運転装置であって、
前記伝達部材は、
前記第1歯車と係合しかつ第3中心軸周りに回転可能な第2歯車と、
前記第2歯車を前記第1歯車に対して位置決めする第1位置決め部材と、
前記第1回転軸に取り付けられている第1摩擦部材と、
前記第2歯車に取り付けられている第2摩擦部材とを含み、
前記第1摩擦部材及び前記第2摩擦部材は、摩擦クラッチを構成している、請求項1に記載のエスカレータ微速運転装置。
【請求項3】
前記第1摩擦部材は、第1摩擦面を有し、
前記第2摩擦部材は、第2摩擦面を有し、
前記第1摩擦面は、前記第1中心軸に対して傾斜しており、
前記第2摩擦面は、前記第3中心軸に対して傾斜しており、
前記第1摩擦部材が前記第2摩擦部材に押し当てられている状態において、前記第1中心軸が前記第3中心軸と同一直線上に配置されて、前記第1摩擦面が前記第2摩擦面に面接触する、請求項2に記載のエスカレータ微速運転装置。
【請求項4】
前記第1位置決め部材は、前記入力部を前記伝達機構に対して位置決めするように設けられている、請求項2または3に記載のエスカレータ微速運転装置。
【請求項5】
第1作業時において前記ステップチェーンユニットを走行させるために必要な第1トルクは、前記第1作業とは異なる第2作業時において前記ステップチェーンユニットを走行させるために必要な第2トルクよりも小さく、
前記電動装置は、前記第1トルクよりも大きく前記第2トルクよりも小さい第3トルクを出力可能な第1状態と、前記第2トルクよりも大きい第4トルクを出力可能である第2状態とを切り替え可能である、請求項2または3に記載のエスカレータ微速運転装置。
【請求項6】
前記電動装置は、充電式の電動工具である、請求項5に記載のエスカレータ微速運転装置。
【請求項7】
前記入力部が第2中心軸周りに回転可能な軸と、前記第2中心軸に沿った方向において互いに反対を向いている第1面及び第2面を有するホイールとを含む前記エスカレータに用いられるエスカレータ微速運転装置であって、
前記伝達部材は、
前記第1回転軸に取り付けられおり、前記第1面と接触する第3摩擦面を有する第3摩擦部材と、
前記第3摩擦面と対向しかつ前記第2面と接触可能な第4摩擦面を有する第4摩擦部材と、
前記第4摩擦部材を前記電動装置及び前記第3摩擦部材に対して位置決めする第2位置決め部材とを含み、
前記第2位置決め部材は、前記第3摩擦面が前記第1面に接触しかつ前記第4摩擦面が前記第2面に接触している第3状態を実現可能であり、
前記第4摩擦部材は、前記第3状態において、前記第1回転軸及び前記第3摩擦部材の回転に伴い従動回転可能である、請求項1に記載のエスカレータ微速運転装置。
【請求項8】
前記伝達部材は、前記入力部を前記伝達機構に対して位置決めする第3位置決め部材をさらに含む、請求項7に記載のエスカレータ微速運転装置。
【請求項9】
前記第2位置決め部材は、前記第3状態と、前記第3摩擦面と前記第4摩擦面との間の距離が前記第3状態とは異なる第4状態とを切り替え可能である、請求項7または8に記載のエスカレータ微速運転装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、エスカレータ微速運転装置に関する。
【背景技術】
【0002】
エスカレータの保守作業では、関連機器に近接作業者が居る状況、あるいは関連機器の一部を分解した状況において、エスカレータを試運転する状況が発生する。このような試運転は、安全上、主電源を遮断した状態において手動で行われている。
【0003】
特開2001-122574号公報(特許文献1)は、手動ハンドルを手動で回して踏段を走行させる乗客コンベアー装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
手動による上記試運転には、多大な労力が必要である。特に、ステップチェーンのユニットを交換する作業時には、ステップチェーンを1周走行させる必要があるため、労力及び作業時間が過大となる。
【0006】
また、試運転時には、必要に応じて、エスカレータのステップチェーンを即時停止させる必要がある。ステップチェーン及びステップチェーンに固定されている複数のステップからなる重量体を慣性に逆らって即時停止させることにも、多大な労力が必要となる。
【0007】
本開示の主たる目的は、主電源を遮断した状態で行われるエレベータの保守作業の労力を大幅に低減できるエスカレータ微速運転装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本開示に係るエスカレータ微速運転装置は、保守作業時に入力部に入力されたトルクをステップチェーンユニットに伝達するための伝達機構を備えるエスカレータを、保守作業時に運転するためのエスカレータ微速運転装置である。上記エスカレータ微速運転装置は、主電源とは異なる電源から供給される電力により第1中心軸周りに回転駆動される第1回転軸を有する電動装置と、電動装置の駆動時において電動装置の第1回転軸から出力されたトルクを入力部に伝達し、かつ電動装置の駆動停止時において入力部に制動力を付与するように設けられている伝達部材とを備える。
【発明の効果】
【0009】
本開示によれば、主電源を遮断した状態で行われるエレベータの保守作業の労力を大幅に低減できるエスカレータ微速運転装置を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本実施の形態に係るエスカレータの構成部品であって、通常運転時に使用される主要部品を説明するための概略側面図である。
【
図2】本実施の形態に係るエスカレータの構成部品であって、保守作業時に使用される主要部品を説明するための概略側面図である。
【
図3】実施の形態1に係るエスカレータ微速運転装置及びその使用状態を、エスカレータ微速運転装置の第1回転軸と直交する方向から視た概略図である。
【
図4】実施の形態1に係るエスカレータ微速運転装置及びその使用状態を、エスカレータ微速運転装置の第1回転軸と直交する方向から視た概略図である。
【
図5】実施の形態1に係るエスカレータ微速運転装置及びその使用状態を、エスカレータ微速運転装置の第1回転軸に沿った方向から視た概略図である。
【
図6】実施の形態2に係るエスカレータ微速運転装置及びその使用状態を、エスカレータ微速運転装置の第1回転軸と直交する第1方向から視た概略図である。
【
図7】実施の形態2に係るエスカレータ微速運転装置及びその使用状態を、エスカレータ微速運転装置の第1回転軸と直交する第2方向から視た概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本開示の実施の形態を説明する。なお、同一の構成には同一の参照番号を付し、その説明は繰り返さない。また、図面は、本実施の形態に係るエスカレータ微速運転装置の構成要素とエスカレータの主要な構成要素との接続関係を示しており、各構成要素の物理的な空間における配置を必ずしも示すものではない。
【0012】
<エスカレータの構成>
図1に示されるように、エスカレータ1は、トラス2と、上側スプロケット3と、下側スプロケット4と、ステップチェーン5と、中間駆動ユニット6と、制御装置7と、複数のステップ8と、欄干9と、移動手摺10と、とを備える。エスカレータ1は、いわゆる中間駆動式のエスカレータである。
【0013】
トラス2は、上側スプロケット3、下側スプロケット4、ステップチェーン5、中間駆動ユニット6、及び制御装置7を収容する。上側スプロケット3は、トラス2のうち上階の部分に設置される。下側スプロケット4は、トラス2のうち下階の部分に設置される。ステップチェーン5は、上側スプロケット3と下側スプロケット4とに巻き掛けられている。ステップチェーン5には、ステップ8等が取り付けられている。本明細書では、ステップチェーン5及びそれに取り付けられているステップ8等を含むユニットを、ステップチェーンンユニットと記載する。中間駆動ユニット6は、トラス2のうち上階と下階との間の傾斜部分に設置される。中間駆動ユニット6は、エスカレータ1の主電源から供給された電力によりステップチェーン5を駆動する。ステップチェーン5が移動して、複数のステップ8は、上階と下階との間を循環走行する。制御装置7は、主電源のオン/オフを切り替える第1開閉器と、主電源が遮断されているときにブレーキ開放スイッチ38に電力を供給可能である第1副電源のオン/オフを切り替える第2開閉器とを含む。
【0014】
トラス2の上方に、欄干9が設けられている。欄干9は、トラス2の長手方向に延在している。欄干9には、移動手摺10が設けられている。移動手摺10は、上階と下階との間を循環移動する。中間駆動ユニット6は、移動手摺10をさらに駆動してもよい。移動手摺10は、ステップ8と連動して移動する。
【0015】
中間駆動ユニット6は、駆動モータ11、減速機15、及び図示しないディスクブレーキを主に含む。
【0016】
駆動モータ11は、第2回転軸12を有する。第2回転軸12には、モータ側プーリ13が固定されている。駆動モータ11は、エスカレータ1の主電源から供給された電力により、第2回転軸12及びモータ側プーリ13を回転駆動する。
【0017】
減速機15は、減速機入力軸16と、減速機出力軸17とを有する。減速機15は、減速機入力軸16から入力された動力の回転速度を減じて、減速機出力軸17から出力する。減速機入力軸16には、減速機プーリ18、ディスクブレーキ、及び後述する第1プーリ31が固定されている。モータ側プーリ13と減速機プーリ18との間には、ベルト20が巻き掛けられている。減速機出力軸17には、駆動チェーンスプロケット19が固定されている。駆動チェーンスプロケット19は、ステップチェーン5と係合している。
【0018】
ディスクブレーキは、エスカレータ1の主ブレーキである。ディスクブレーキは、電磁力を利用して減速機入力軸16の回転運動を制動する電磁ブレーキである。ディスクブレーキの制動動作は、制御装置7によって制御される。
【0019】
図1及び
図2に示されるように、エスカレータ1は、通常運転時には使用されず保守作業時に使用される部品として、第1プーリ31、第2プーリ32、図示しない第1シャフト、第1伝達部33、第2シャフト34、第2伝達部35、第3シャフト36、ハンドル挿入部37、ブレーキ開放スイッチ38、及びハンドル40(入力部)をさらに備える。第1プーリ31、第2プーリ32、図示しない第1シャフト、第1伝達部33、第2シャフト34、第2伝達部35、第3シャフト36、及びハンドル挿入部37は、保守作業時にハンドル40に入力されたトルクを上記ステップチェーンユニットに伝達するための伝達機構を構成している。
【0020】
第1プーリ31は、中間駆動ユニット6内に配置されている。第2プーリ32、第1シャフト、第1伝達部33、第2シャフト34、第2伝達部35、及び第3シャフト36は、トラス2内であって中間駆動ユニット6外に配置されている。第2プーリ32、第1伝達部33、第2シャフト34、第2伝達部35、及び第3シャフト36は、例えば中間駆動ユニット6よりも上階側に配置されている。ハンドル挿入部37及びブレーキ開放スイッチ38は、例えばトラス2外であって、通常運転時にはカバー21で覆われるが保守作業時にカバー21が取り外されることによって露出する床部分22に配置されている。
【0021】
第1プーリ31は、減速機15の減速機入力軸16に固定されている。第1プーリ31は、減速機入力軸16と一体として回転可能とされている。第2プーリ32は、第1プーリ31と間隔を空けて配置されている。第2プーリ32は、第1シャフトの一端と連結されている。
【0022】
第1伝達部33は、例えば1対のかさ歯車を含む。第1伝達部33の一方の歯車は、第1シャフトの他端と連結されている。第1伝達部33の他方の歯車は、第2シャフト34の一端と連結されている。
【0023】
第2伝達部35は、例えば1対のかさ歯車を含む。第2伝達部35の一方の歯車は、第2シャフト34の他端と連結されている。第2伝達部35の他方の歯車は、第3シャフト36の一端と連結されている。第3シャフト36の他端は、ハンドル挿入部37に挿入されたハンドル40の軸41の先端と係合可能である。
【0024】
ハンドル挿入部37は、例えば、第3シャフト36の他端を露出させる開口部37A(
図3参照)と、当該開口部37A内にハンドル40の軸41の先端を導くためのガイド部とを含む。
【0025】
ブレーキ開放スイッチ38は、制御装置7に接続されている。ブレーキ開放スイッチ38は、ディスクブレーキを強制的に開放するためのスイッチである。ブレーキ開放スイッチ38は、制御装置7の上記第2開閉器が閉じられている状態において、押圧されることにより導通(オン)され、押圧されていない状態において非導通(オフ)とされる。ブレーキ開放スイッチ38は、オンされている状態において、第1副電源の電力をディスクブレーキに供給して、ディスクブレーキを電気的に開放するように設けられている。ブレーキ開放スイッチ38は、例えばハンドル挿入部37の近くに配置されている。
【0026】
ハンドル40は、エスカレータ1の保守作業時にのみ、ハンドル挿入部37に挿入されて第3シャフト36と連結される。ハンドル40は、軸41と、ホイール42とを含む。ハンドル40の軸41の幅W1は、ハンドル挿入部37の開口部37Aの開口幅W2以下である。軸41の幅W1は、例えば開口幅W2未満である。軸41の一端(先端)は、ハンドル挿入部37に挿入されたときに、第3シャフト36の上記他端と係合可能である。軸41の他端は、ホイール42の中心と連結されている。軸41及びホイール42は、同軸状に配置されている。本明細書では、軸41及びホイール42の各々の中心軸を、第2中心軸C2と記載する。
【0027】
ホイール42は、第2中心軸C2に沿った方向において互いに反対を向いている第1面42A及び第2面42Bと、第1面42A及び第2面42Bの外周縁間を接続する外周面42Cとを有している。第2中心軸C2に沿った方向から視て、外周面42Cの外形状は歯形である。実施の形態1において、ホイール42は、第1歯車として構成されている。
【0028】
ハンドル40は、例えばエスカレータ1の構成部品である。この場合、ハンドル40は、エスカレータ1の通常運転時において、エスカレータ1の機械室内に収容されている。なお、ハンドル40は、エスカレータ1の構成部品でなくてもよい。この場合、本実施の形態に係るエスカレータ微速運転装置100がハンドル40を備えていればよい。
【0029】
エスカレータ1の通常運転時には、制御装置7の第1開閉器が閉じられており、主電源から中間駆動ユニット6に電力が供給される。他方、エスカレータ1の通常運転時には、
図1に示されるように、第2プーリ32は第1プーリ31と接続されていない。つまり、通常運転時において、中間駆動ユニット6が生みだす駆動力は第2プーリ32に伝達されない。エスカレータ1の通常運転時には、カバー21がハンドル挿入部37及びブレーキ開放スイッチ38を覆っており、ハンドル40がハンドル挿入部37されていない。エスカレータ1の通常運転時には、第2開閉器が開かれている。
【0030】
エスカレータ1の保守作業時には、作業者が第1開閉器を開くことにより、主電源が遮断され、中間駆動ユニット6が通電されていない状態が実現される。さらに保守作業時には、作業者が第2開閉器を閉じることにより、ブレーキ開放スイッチ38のオン/オフによってディスクブレーキの制動動作を制御可能な状態が実現される。
【0031】
さらにエスカレータ1の保守作業時には、
図2に示されるように、第2プーリ32は保守用チェーン30を介して、第1プーリ31と接続されている。さらに保守作業時には、カバー21が取り外されて、ハンドル40の先端がハンドル挿入部37に挿入されて第3シャフト36の上記他端と連結される。ブレーキ開放スイッチ38がオンされている状態において、ハンドル挿入部37に挿入されたハンドル40に第2中心軸C2周りのトルクが入力されると、当該トルクは、第3シャフト36、第2伝達部35、第2シャフト34、第1伝達部33、第1シャフト、第2プーリ32、保守用チェーン30、及び第1プーリ31を介して、減速機入力軸16に伝達される。減速機入力軸16に伝達されたトルクは、減速機出力軸17及び駆動チェーンスプロケット19を介して、ステップチェーン5に伝達される。
【0032】
以下では、本開示に係るエスカレータ微速運転装置を説明する。本開示に係るエスカレータ微速運転装置は、エスカレータ1の保守作業時に、ステップチェーン5を微側で走行させるとともに、必要に応じてステップチェーン5を即時停止させるために用いられる。本開示に係るエスカレータ微速運転装置は、ハンドル40を回転させるとともに、必要に応じてハンドル40の回転を即時停止させるように設けられている。
【0033】
実施の形態1.
<エスカレータ微速運転装置の構成>
図3に示されるように、実施の形態1に係るエスカレータ微速運転装置100は、電動装置110と、伝達部材120とを備える。
【0034】
電動装置110は、エスカレータ1の主電源及び第1副電源とは異なる電源(第2副電源)により第1中心軸C1周りに回転駆動される第1回転軸111を有する。電動装置110は、第1回転軸111が回転している状態と、第1回転軸111が回転停止している状態とを切り替えるためのスイッチ112をさらに有する。電動装置110は、ステップチェーンンユニットを走行させるために必要なトルク以上のトルクを出力可能である。
【0035】
好ましくは、電動装置110は、出力するトルクを可変である。電動装置110は、例えば出力するトルクを段階的に変更可能である。この場合、電動装置110は、ステップチェーンンユニットを走行させるために必要なトルクよりも1段階大きなトルクを出力可能であることが好ましい。
【0036】
保守作業では、その作業によって、ステップチェーンンユニット重量が異なる。そのため、保守作業時において、ステップチェーンユニットを走行させるために必要なトルク、すなわちフライホイールを回転するために必要なトルクは、その作業に応じて異なる。例えば、第1作業時においてステップチェーンユニットを走行させるために必要な第1トルクは、第1作業とは異なる第2作業時においてステップチェーンユニットを走行させるために必要な第2トルクよりも小さい。この場合、電動装置110は、第1トルクよりも大きく第2トルクよりも小さい第3トルクを出力可能な第1状態と、第2トルクよりも大きい第4トルクを出力可能である第2状態とを切り替え可能であることが好ましい。
【0037】
電動装置110は、手持ち式の電動装置である。好ましくは、電動装置110は、充電式の電動工具である。電動装置110は、電動工具の市販品として準備されてもよい。
【0038】
伝達部材120は、電動装置110の駆動時において電動装置110の第1回転軸111から出力されたトルクをハンドル40に伝達し、かつ電動装置110の駆動停止時においてハンドル40に制動力を付与するように設けられている。
【0039】
伝達部材120は、第2歯車130、第1位置決め部材140、第1摩擦部材150、及び第2摩擦部材160を含む。
【0040】
第2歯車130は、第1歯車としてのホイール42と係合する。第2歯車130の外径は、例えばホイール42の外径よりも短い。本明細書では、第2歯車130の中心軸を、第3中心軸C3と記載する。第2歯車130は、後述する第1位置決め部材140の第3回転軸147と連結されている。第2歯車130及び第3回転軸147は、同軸状に配置されている。
【0041】
第1位置決め部材140は、第2歯車130をホイール42に対して位置決めする。具体的には、第1位置決め部材140は、第2歯車130の第3中心軸C3がハンドル40の第2中心軸C2と平行であり、かつ第2歯車130がホイール42と係合している状態において、第2歯車130をホイール42に対して位置決めする。
【0042】
好ましくは、第1位置決め部材140は、第2歯車130をハンドル40及びハンドル挿入部37の各々に対して位置決めする。好ましくは、第1位置決め部材140は、第1軸受141、第2軸受142、第1軸受141と第2軸受142とを接続する第1接続部材143、嵌合部144、第3軸受145、嵌合部144と第3軸受145とを接続する第2接続部材146、及び第3回転軸147を含む。
【0043】
第1軸受141は、ハンドル40の軸41を回転可能に支持する。第2軸受142は、第3回転軸147を回転可能に支持する。第1軸受141の内輪には、軸41が嵌め合わされる。第2軸受142の内輪には、第3回転軸147が嵌め合わされる。第1軸受141の外輪及び第2軸受142の外輪は、第1接続部材143に固定されている。
【0044】
嵌合部144は、ハンドル挿入部37と嵌め合うように設けられている。第3軸受145は、第3回転軸147を回転可能に支持する。第3軸受145の内輪には、第3回転軸147が嵌め合わされる。嵌合部144及び第3軸受145の外輪は、第2接続部材146に固定されている。
【0045】
第1摩擦部材150及び第2摩擦部材160は、摩擦クラッチを構成している。第1摩擦部材150は、原動軸としての第1回転軸111に固定されている原動側摩擦部であり、第2摩擦部材160は、従動軸としての第2歯車130及び第3回転軸147に固定されている従動側摩擦部である。第1摩擦部材150及び第2摩擦部材160は、例えばそれぞれの摩擦面が円錐面として構成されている円錐クラッチを構成している。
【0046】
第1摩擦部材150は、電動装置110の第1回転軸111に取り付けられている。第1摩擦部材150は、電動装置110の駆動時及び駆動停止時のそれぞれにおいて第2摩擦部材160に押し当てられて、駆動時においては電動装置110から出力されたトルクを第2歯車130に伝達し、かつ駆動停止時においては第2歯車130に制動力を付与するように設けられている。第1摩擦部材150は、第1中心軸C1に対して回転対称性を有している。
【0047】
第1摩擦部材150は、第1摩擦面151を有している。第3中心軸C3に沿った断面において、第1摩擦面151は、第3中心軸C3に対して傾斜している。第1摩擦面151は、例えば、電動装置110から離れるにつれて第1中心軸C1に対する内径が徐々に短くなるように設けられている円錐面である。
【0048】
第2摩擦部材160は、第2歯車130に取り付けられている。第2摩擦部材160は、第2歯車130及び第3回転軸147と一体として第3中心軸C3周りに回転するように設けられている。第2歯車130、第3回転軸147、及び第2摩擦部材160は、第3中心軸C3に対して回転対称性を有している。
【0049】
第2摩擦部材160は、第2摩擦面161を有している。第2摩擦部材160には、上面に対して凹んでいる凹部が形成されている。第2摩擦面161は、第2摩擦部材160の凹部の内周面として形成されている。第3中心軸C3に沿った断面において、第2摩擦面161は、第3中心軸C3に対して傾斜している。第2摩擦面161は、例えば、上面から離れるにつれて第3中心軸C3に対する内径が徐々に短くなるように設けられている円錐面である。
【0050】
伝達部材120において、第2歯車130、第1位置決め部材140、及び第2摩擦部材160は、一体とされている。第1摩擦部材150は、第2歯車130、第1位置決め部材140、及び第2摩擦部材160とは別体とされている。
【0051】
第1摩擦部材150及び第2摩擦部材160は、第1摩擦部材150が第2摩擦部材160に押し当てられている状態において、第1中心軸C1が第3中心軸C3と同一直線上に配置されて、第1摩擦面151が第2摩擦面161に面接触するように、設けられている。第2摩擦部材160及び第1摩擦部材150は、上記状態において第1摩擦面151と第2摩擦面161との間に生じる摩擦力によって、電動装置110から出力されたトルクを第2歯車130を経てハンドル40に伝達するように設けられている。
【0052】
さらに、第1摩擦部材150及び第2摩擦部材160は、上記状態において電動装置110の駆動が停止されると、ハンドル40に制動力を付与するように設けられている。
【0053】
第1摩擦部材150及び第2摩擦部材160の各々は、例えば弾性部材である。
<エスカレータ微速運転装置の使用方法>
上述のように、エスカレータ微速運転装置100は、エスカレータ1の保守作業時に、ステップチェーン5に伝達されるべきトルクをハンドル40に入力するとともに、必要に応じてステップチェーン5を即時停止させるために用いられる。
【0054】
以下では、
図3~
図5を参照して、エスカレータ微速運転装置100の使用方法の一例を説明する。
【0055】
図3に示されるように、互い一体とされている電動装置110と第1摩擦部材150と、互いに一体とされている第2歯車130、第1位置決め部材140、及び第2摩擦部材160とが準備される。さらに、第1位置決め部材140の嵌合部144がハンドル挿入部37に嵌め合わされた状態において、ハンドル40の軸41が第1軸受141の内輪に嵌め合わされる。これにより、
図3に示される状態が実現する。
【0056】
次に、電動装置110の第1回転軸111に取り付けられている第1摩擦部材150が第2摩擦部材160に押し当てられる。これにより、
図4に示される状態が実現される。
【0057】
次に、作業員は、ブレーキ開放スイッチ38を足で踏み込むことにより、ディスクブレーキを開放した後、電動装置110のスイッチ113をONにする。これにより、
図5に示されるように、電動装置110から出力されたトルクは、第1摩擦部材150、第2摩擦部材160、第2歯車130を経てハンドル40のホイール42に伝達される。さらに、ハンドル40に伝達されたトルクは、第3シャフト36、第2伝達部35、第2シャフト34、第1伝達部33、第1シャフト、第2プーリ32、保守用チェーン30、第1プーリ31、減速機入力軸16、減速機出力軸17、及び駆動チェーンスプロケット19を経て、ステップチェーン5に伝達される。その結果、ステップチェーンユニットは微速にて走行する。ステップチェーンユニットが必要な距離を移動した後、あるいは、ステップチェーン5を即時停止させる必要が生じた場合、作業者は第1摩擦部材150の第1摩擦面151が第2摩擦部材160の第2摩擦面161に接触した状態を保持したまま、電動装置110のスイッチ113をOFFにする。これにより、第2摩擦面161と第1摩擦面151との間に生じる摩擦力によってハンドル40が慣性により回転し続けることを防ぎ、ステップチェーンユニットは即時停止する。作業者は、保守作業の終了後、エスカレータ微速運転装置100を回収する。
【0058】
ステップチェーンユニットを微速にて走行させるために必要な第1トルクが第2作業時必要とされる第2トルクよりも小さい上記第1作業では、電動装置110が上記第1状態とされる。上記第2作業では、電動装置110が上記第2状態とされる。
【0059】
<効果>
エスカレータ微速運転装置100は、電動装置110と伝達部材120とを備え、伝達部材120は、電動装置110の駆動時には電動装置110から出力されたトルクをハンドル40等を介してステップチェーンユニットに伝達し、かつ電動装置110の駆動停止時にはハンドル40等を介してステップチェーンユニットに制動力を付与するように設けられている。そのため、エスカレータ微速運転装置100によれば、主電源を遮断した状態で行われるエレベータの保守作業において手動にてフライホイールを回転させる場合と比べて、保守作業の労力を大幅に低減できる。
【0060】
特に、ステップチェーンユニットの交換作業を従来のように手動で行う場合には、複数の作業者が交代でフライホイールを回転させる必要があった。これに対し、エスカレータ微速運転装置100を用いることにより、一人の作業者が、ステップチェーンユニットを1周スムーズに走行させることができる。
【0061】
また、エスカレータ微速運転装置100は、比較的簡便な構造を有しており、第1プーリ31、第2プーリ32、第1シャフト、第1伝達部33、第2シャフト34、第2伝達部35、第3シャフト36、ハンドル挿入部37、ブレーキ開放スイッチ38を備える既設のエスカレータ1の保守作業に容易に用いられ得る。そのため、エスカレータ微速運転装置100によれば、設備投資及びランニングコストが抑制され得る。
【0062】
さらにエスカレータ微速運転装置100では、電動装置110として充電式の電動工具が採用され得る。この場合、電動装置110、第1回転軸111、及び第1摩擦部材150は、保守作業に用いられる電動工具に、第1回転軸111と第1摩擦部材150との一体物をその先端工具として取りつけることにより、容易に準備され得る。さらに、上記使用後には、第1回転軸111と第1摩擦部材150との一体物を、電動ドライバ等の他の先端工具に取り換えることにより、電動装置110を他の保守作業に流用できる。エスカレータ微速運転装置100では、設備投資及びランニングコストがさらに抑制され得る。
【0063】
エスカレータ微速運転装置100では、電動装置110の第1回転軸111に取り付けられている第1摩擦部材150と、ハンドル40のホイール42と係合する第2歯車130に取り付けられている第2摩擦部材160とが、摩擦クラッチを構成している。そのため、エスカレータ微速運転装置100によれば、ステップチェーンユニットを走行させるために必要なトルクを電動装置110からハンドル40に安定して供給できる。また、ステップチェーンユニットを含む摩擦クラッチの従動側に大きな負荷がかかった場合には、第2摩擦面161が第1摩擦面151に対して滑り、第1摩擦部材150は従動回転を停止する。そのため、エスカレータ微速運転装置100を用いることにより、保守作業の安全性を高めることができる。
【0064】
エスカレータ微速運転装置100では、第2摩擦部材160及び第1摩擦部材150が円錐クラッチを構成している。つまり、第2摩擦部材160の第2摩擦面161が第3中心軸C3に対して傾斜しており、第1摩擦部材150の第1摩擦面151が第1中心軸C1に対して傾斜している。第1摩擦部材150が第2摩擦部材160に押し当てられている状態において、第1中心軸C1が第3中心軸C3と同一直線上に配置されて、第1摩擦面151が第2摩擦面161に面接触する。このような第2摩擦部材160及び第1摩擦部材150によれば、外径が等しい円板クラッチと比べて、伝達可能なトルクが大きくなる。
【0065】
エスカレータ微速運転装置100では、第1位置決め部材140が、ハンドル40の軸41に嵌め合わされる第1軸受141と、ハンドル挿入部37に嵌め合わされる嵌合部144とを含む。これにより、第1位置決め部材140は、第2歯車130、ハンドル40、及びハンドル挿入部37の3者間の相対的な位置を決めることができる。そのため、上記のようにハンドル40の軸41の幅W1がハンドル挿入部37の開口部37Aの開口幅W2未満である場合にも、第1位置決め部材140は、ハンドル40の第2中心軸C2が第3シャフト36の中心軸と同一直線上に配置されるようにハンドル挿入部37に対して位置決めされたハンドル40に対し、第2歯車130を位置決めできる。
【0066】
好ましくは、電動装置110は、第1トルクよりも大きく第2トルクよりも小さい第3トルクを出力可能な第1状態と、第2トルクよりも大きい第4トルクを出力可能である第2状態とを切り替え可能である。1つのエスカレータ微速運転装置100は、第1トルクが必要とされる第1作業時にも、第2トルクが必要とされる第2作業時にも、対応可能である。
【0067】
<変形例>
第2摩擦面161及び第1摩擦面151の各々の形状は、エスカレータ1の保守作業において必要とされるトルクの数及び各トルクの大きさに応じて、適宜変更され得る。第2摩擦面161及び第1摩擦面151は、円板クラッチとして構成されていてもよい。また、第2摩擦部材160及び第1摩擦部材150は、噛み合いクラッチとして構成されていてもよい。
【0068】
第1位置決め部材140は、ハンドル40を伝達機構の一部であるハンドル挿入部37に対して位置決めするように設けられていなくてもよい。第1位置決め部材140は、嵌合部144に代えて、ハンドル40の軸41を回転可能に支持する第4軸受を含んでいてもよい。このような第1位置決め部材140を含むエスカレータ微速運転装置100は、例えばハンドル40の軸41の幅W1がハンドル挿入部37の開口部37Aの開口幅W2と等しく、軸41の先端をハンドル挿入部37に挿入することのみによってハンドル40をハンドル挿入部37に対して位置決め可能な場合に、利用され得る。
【0069】
実施の形態2.
実施の形態2に係るエスカレータ微速運転装置は、特に説明しない限り、実施の形態1に係るエスカレータ微速運転装置と同一の構成を有し、同一の効果を奏する。
【0070】
図5及び
図6に示されるように、実施の形態2に係るエスカレータ微速運転装置200は、電動装置210と、伝達部材220とを備える。
【0071】
電動装置210は、エスカレータ1の主電源とは異なる電源により第1中心軸C1周りに回転駆動される第1回転軸211を有する。電動装置210は、第1回転軸211が回転している状態と、第1回転軸211が回転停止している状態とを切り替えるためのスイッチ212をさらに有する。電動装置210は、ステップチェーンンユニット走行させるために必要なトルク以上のトルクを出力可能である。電動装置210は、手持ち式ではなく、据付式の電動装置である。電動装置210は、第2位置決め部材250によって、エスカレータ1のトラス2の壁面等に着脱可能に固定される。
【0072】
好ましくは、電動装置210は、出力するトルクを可変である。電動装置210は、例えば出力するトルクを段階的に変更可能である。この場合、電動装置210は、ステップチェーンンユニットを走行させるために必要なトルクよりも1段階大きなトルクを出力可能であることが好ましい。
【0073】
電動装置210も、第1トルクよりも大きく第2トルクよりも小さい第3トルクを出力可能な第1状態と、第2トルクよりも大きい第4トルクを出力可能である第2状態とを切り替え可能であることが好ましい。電動装置210は、充電式の電動工具であってもよい。
【0074】
伝達部材220は、電動装置210の駆動時において電動装置210の第1回転軸211から出力されたトルクをハンドル40に伝達し、かつ電動装置210の駆動停止時においてハンドル40に制動力を付与するように設けられている。
【0075】
伝達部材220は、第3摩擦部材230、第4摩擦部材240、第2位置決め部材250、及び第3位置決め部材260を含む。
【0076】
第3摩擦部材230は、第1回転軸211に取り付けられおり、ホイール42の第1面42Aと接触する第3摩擦面231を有する。第3摩擦面231は、例えば第1中心軸C1に直交する任意の断面において円形状である。第3摩擦面231は、例えば円柱面である。
【0077】
第4摩擦部材240は、第3摩擦面231と対向しかつホイール42の第2面42Bと接触可能な第4摩擦面241を有する。
【0078】
第4摩擦面241は、例えば第1中心軸C1に直交する任意の断面において円形状である。第4摩擦面241は、例えば円柱面である。第4摩擦部材240は、例えば第4回転軸242に固定されている。第4摩擦部材240及び第4回転軸242は、第4中心軸C4周りに回転可能に、第2位置決め部材250に固定されている。
【0079】
第2位置決め部材250は、第4摩擦部材240を電動装置210及び第3摩擦部材230に対して位置決めする。第2位置決め部材250は、第3摩擦面231が第1面42Aに接触しかつ第4摩擦面241が第2面42Bに接触している第3状態を実現可能である。第3状態では、第3摩擦部材230及び第4摩擦部材240が第2中心軸C2に沿った方向においてホイール42を挟み込んでいる。第3摩擦部材230及び第4摩擦部材240の各々は、上記第3状態において、上記ホイール42に押し当てられる。
【0080】
第2位置決め部材250は、例えば電動装置210を収容する第1収容部251と、第4回転軸242を収容する第2収容部252とを有する。第1収容部251及び第2収容部252の各々は、例えば貫通孔として構成されている。電動装置210は、第1収容部251に嵌め合わされて固定されている。第4回転軸242は、第2収容部252に挿通されている状態において、第1固定部材243により第2位置決め部材250の第2収容部252に対して回転可能に位置決めされている。例えば第4回転軸242にはネジ山が設けられており、ナットなどの第1固定部材243が当該ネジ山に緊締される。
【0081】
第2位置決め部材250は、エスカレータ微速運転装置200をトラス2の壁面に着脱可能に固定するための第2固定部材253をさらに有する。第2固定部材253は、任意の構造を有していればよいが、例えばトラス2のL字状のアングル2Aを挟み込むように設けられている。第2固定部材253は、例えば、アングル2Aの一方の面に接触する接触部と、接触部に接続されておりかつアングル2Aの他方の面と対向しかつネジ孔が形成されている対向部と、対向部のネジ孔と螺合してアングル2Aの他方の面を押圧する先端部を有するボルトとを含む。
【0082】
第3位置決め部材260は、ハンドル40を上記伝達機構の一部であるハンドル挿入部37に対して位置決めする。第3位置決め部材260は、第3シャフト36(
図1及び
図2参照)の中心軸と同一直線上に配置されている状態を実現可能である。第3位置決め部材260は、例えば筒状部材261、複数の第3固定部材262、及び第5軸受263を含む。
【0083】
筒状部材261は、ハンドル40の軸41の先端がハンドル挿入部37に挿入されて第3シャフト36の上記他端と連結されている状態において、ハンドル挿入部37と軸41の少なくとも一部とを内部に収容するように設けられている。筒状部材261には、複数の第3固定部材262の各々と螺合する複数のネジ孔264が形成されている。複数のネジ孔264は、筒状部材261の一端がハンドル挿入部37が設けられている床部分22に接触したときに、第2中心軸C2に対する径方向においてハンドル挿入部37と対向する筒状部材261の領域に形成されている。
【0084】
複数の第3固定部材262の各々は、各ネジ孔264と螺合するネジ山を含む。複数の第3固定部材262の各々は、例えばボルトである。
【0085】
第5軸受263は、筒状部材261の内部に嵌め合わされる外輪と、ハンドル40の軸41と嵌め合わされる内輪と、外輪と内輪との間を転動する転動体とを含む。第5軸受263は、第2中心軸C2に沿った方向において、複数のネジ孔264と間隔を空けて配置される。
【0086】
第3摩擦部材230は、上記第3状態において、電動装置210の駆動時に電動装置210から出力されたトルクをホイール42に伝達し、かつ電動装置210の駆動停止時にホイール42に制動力を付与するように設けられている。第4摩擦部材240は、第3状態において、第3摩擦部材230の回転に伴い従動回転するように設けられている。第3摩擦部材230及び第4摩擦部材240の各々は、例えば弾性部材である。
【0087】
好ましくは、第2位置決め部材250は、上記第3状態と、第3摩擦面231と第4摩擦面241との間の距離が上記第3状態とは異なる第4状態とを切り替え可能である。第2中心軸C2に沿った方向において、第2収容部252の開口幅W3(
図6参照)は、第4回転軸242の幅(外径)よりも広い。第4回転軸242は、第2収容部252内を第2中心軸C2に沿った方向に移動可能である。第1固定部材243は、第2中心軸C2に沿った方向において第2収容部252内の任意の位置に配置されている第4回転軸242を、第2収容部252に固定可能である。これにより、エスカレータ微速運転装置200では、第3摩擦部材230と第4摩擦部材240とによりホイール42を挟み込む圧力を調整可能である。つまり、エスカレータ微速運転装置200によれば、ホイール42の厚みが異なる複数種のエスカレータ1の各保守作業において、ホイール42に適切な圧力を付与できる。
【0088】
エスカレータ微速運転装置200は、エスカレータ微速運転装置100と同様に使用され得る。
図5及び
図6に示されるように、作業者は、第1回転軸211がハンドル40の軸41と直交し、かつ第3摩擦部材230及び第4摩擦部材240がホイール42を挟み込むように、エスカレータ微速運転装置200を配置して、これをトラス2の壁面に固定する。さらに作業員は、ブレーキ開放スイッチ38を足で踏み込むことにより、ディスクブレーキを開放する。その後、作業者は、電動装置210のスイッチ212をONにして、ハンドル40にトルクを入力する。これにより、ステップチェーンユニットは微速にて走行する。ステップチェーンユニットが必要な距離を移動した後、あるいは、ステップチェーン5を即時停止させる必要が生じた場合、作業者は、電動装置210のスイッチ212をOFFにする。これにより、第3摩擦部材230とホイール42との間に生じる摩擦力によってハンドル40が慣性により回転し続けることを防ぎ、ステップチェーンユニットは即時停止する。作業者は、保守作業の終了後、エスカレータ微速運転装置200を回収する。
【0089】
なお、エスカレータ微速運転装置200の第2位置決め部材250は、第3摩擦部材230及び第4摩擦部材240の各々がホイール42に接触していない非接触状態を保持可能であってもよい。この場合、保守作業終了後に、電動装置210に電力を供給するための上記電源が遮断され、かつ上記非接触状態が実現されれば、エスカレータ微速運転装置200はトラス2の壁面に固定された状態で保持されてもよい。
【0090】
エスカレータ微速運転装置200の伝達部材220は、第3位置決め部材260を含んでいなくてもよい。このような伝達部材220を備えるエスカレータ微速運転装置200は、例えばハンドル40の軸41の幅W1がハンドル挿入部37の開口部37Aの開口幅W2と等しく、軸41の先端をハンドル挿入部37に挿入することのみによってハンドル40をハンドル挿入部37に対して位置決め可能な場合に、利用され得る。
【0091】
電動装置210は、ディスクブレーキに給電して、ディスクブレーキを開放するように設けられていてもよい。この場合、作業者は、ブレーキ開放スイッチ38を機械的に操作することなく、エスカレータ微速運転装置200のスイッチ212をONにすることのみにより、ディスクブレーキを開放し、かつステップチェーンユニットを微速で走行させることが可能となる。
【0092】
今回開示された実施の形態及びその変形例はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本開示の範囲は、上記した説明ではなく特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることを意図される。
【符号の説明】
【0093】
1 エスカレータ、2 トラス、2A アングル、3 上側スプロケット、4 下側スプロケット、5 ステップチェーン、6 中間駆動ユニット、7 制御装置、8 ステップ、9 欄干、10 移動手摺、11 駆動モータ、12 第2回転軸、13 モータ側プーリ、15 減速機、16 減速機入力軸、17 減速機出力軸、18 減速機プーリ、19 駆動チェーンスプロケット、20 ベルト、21 カバー、22 床部分、30 保守用チェーン、31 第1プーリ、32 第2プーリ、33 第1伝達部、34 第2シャフト、35 第2伝達部、36 第3シャフト、37 ハンドル挿入部、37A 開口部、38 ブレーキ開放スイッチ、40 ハンドル、41 軸、42 ホイール、42A 第1面、42B 第2面、42C 外周面、100,200 エスカレータ微速運転装置、110,210 電動装置、111,211 第1回転軸、112,113,212 スイッチ、120,220 伝達部材、130 第2歯車、140 第1位置決め部材、141 第1軸受、142 第2軸受、143 第1接続部材、144 嵌合部、145 第3軸受、146 第2接続部材、147 第3回転軸、150 第1摩擦部材、151 第1摩擦面、160 第2摩擦部材、161 第2摩擦面、230 第3摩擦部材、231 第3摩擦面、240 第4摩擦部材、241 第4摩擦面、242 第4回転軸、243 第1固定部材、250 第2位置決め部材、251 第1収容部、252 第2収容部、253 第2固定部材、260 第3位置決め部材、261 筒状部材、262 第3固定部材、263 第5軸受、264 ネジ孔。