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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025037386
(43)【公開日】2025-03-18
(54)【発明の名称】制御システムおよび制御方法
(51)【国際特許分類】
   G05B 13/02 20060101AFI20250311BHJP
   G05B 11/32 20060101ALI20250311BHJP
【FI】
G05B13/02 B
G05B11/32 F
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023144292
(22)【出願日】2023-09-06
(71)【出願人】
【識別番号】000006666
【氏名又は名称】アズビル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100098394
【弁理士】
【氏名又は名称】山川 茂樹
(72)【発明者】
【氏名】田中 雅人
【テーマコード(参考)】
5H004
【Fターム(参考)】
5H004GA08
5H004JA04
5H004KB01
5H004KB31
(57)【要約】
【課題】強非線形特性の制御対象に対して良好な制御特性を得る。
【解決手段】産業用PC1は、理想的な制御応答に相当する制御量と操作量の時系列データを生成し、制御量のデータを送信すると同時に、操作量のデータから算出した操作量変化幅のデータを送信する。PIDコントローラ2は、送信された制御量を参照設定値として受信し、操作量変化幅をフィードフォワード制御操作量の変化幅として受信する受信部29と、1制御周期前の第1の操作量にフィードフォワード制御操作量の変化幅を加算して第2の操作量とするフィードフォワード加算部25と、参照設定値と制御量の計測値に基づいて速度型PID演算を行ってフィードバック制御操作量の変化幅を算出し、この変化幅に第2の操作量を加算して第1の操作量とするフィードバック加算部26と、第1の操作量を制御対象に出力する操作量出力部28を備える。
【選択図】 図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ホスト装置とPIDコントローラとから構成され、
前記ホスト装置は、
理想的な制御応答に相当する制御量の時系列データと操作量の時系列データとを生成するように構成された理想応答生成部と、
前記制御量の時系列データと前記操作量の時系列データとを記憶するように構成された記憶部と、
規定のタイミングになったときに、前記記憶部に記憶された時系列データから制御周期毎の制御量のデータを順次取り出して前記PIDコントローラに順次送信すると同時に、前記記憶部に記憶された時系列データから制御周期毎の操作量のデータを順次取り出して、取り出したデータから算出した操作量変化幅のデータを前記PIDコントローラに順次送信するように構成された送信部とを備え、
前記PIDコントローラは、
前記ホスト装置から送信された制御量を参照設定値の新たな値として受信すると共に、前記ホスト装置から送信された操作量変化幅をフィードフォワード制御操作量の変化幅の新たな値として受信するように構成された受信部と、
制御量の計測値を取得するように構成された制御量取得部と、
1制御周期前の第1の操作量に、前記受信部が受信した前記フィードフォワード制御操作量の変化幅を加算した値を第2の操作量として算出するように構成されたフィードフォワード加算部と、
前記参照設定値と前記制御量の計測値とを入力として、速度型PID演算を行ってフィードバック制御操作量の変化幅を算出し、前記第2の操作量に前記フィードバック制御操作量の変化幅を加算した値を前記第1の操作量の新たな値として算出するように構成されたフィードバック加算部と、
前記フィードバック加算部によって算出された前記第1の操作量を制御対象に出力するように構成された操作量出力部とを備えることを特徴とする制御システム。
【請求項2】
請求項1記載の制御システムにおいて、
前記PIDコントローラは、前記フィードバック加算部によって算出された前記第1の操作量を、操作量上限値と操作量下限値の範囲内の値に制限した第3の操作量を出力するように構成されたリミット処理部をさらに備え、
前記ホスト装置の前記送信部は、前記規定のタイミングになったときに、前記制御周期毎の操作量の誤差範囲を想定した前記操作量上限値と前記操作量下限値とを、前記制御量のデータおよび前記操作量変化幅のデータと共に前記PIDコントローラに送信し、
前記PIDコントローラの前記受信部は、前記ホスト装置から送信された前記操作量上限値と前記操作量下限値とを、前記リミット処理部で用いる新たな値として受信し、
前記PIDコントローラの前記操作量出力部は、前記第1の操作量を制御対象に出力する代わりに、前記第3の操作量を制御対象に出力することを特徴とする制御システム。
【請求項3】
請求項2記載の制御システムにおいて、
前記フィードバック加算部は、前記第2の操作量に前記フィードバック制御操作量の変化幅を加算する際に、前記フィードバック制御操作量の変化幅のうちの比例動作と微分動作の成分を前記第2の操作量に加算し、加算結果が前記操作量上限値と前記操作量下限値の範囲内にある場合のみ、前記フィードバック制御操作量の変化幅のうちの積分動作の成分を前記第2の操作量にさらに加算することを特徴とする制御システム。
【請求項4】
請求項2記載の制御システムにおいて、
前記送信部は、前記制御周期毎の操作量に上昇側マージン値を加算した値を前記操作量上限値とし、前記制御周期毎の操作量から下降側マージン値を減算した値を前記操作量下限値とすることを特徴とする制御システム。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれか1項に記載の制御システムにおいて、
前記理想応答生成部は、前記制御対象の挙動をコンピュータ上で再現するための仮想的な制御対象モデルを利用して、理想的な制御応答に相当する制御量の時系列データと操作量の時系列データとを生成することを特徴とする制御システム。
【請求項6】
ホスト装置が、理想的な制御応答に相当する制御量の時系列データと操作量の時系列データとを生成する第1のステップと、
前記ホスト装置が、前記制御量の時系列データと前記操作量の時系列データとを記憶する第2のステップと、
前記ホスト装置が、規定のタイミングになったときに、前記第2のステップで記憶した時系列データから制御周期毎の制御量のデータを順次取り出してPIDコントローラに順次送信すると同時に、前記第2のステップで記憶した時系列データから制御周期毎の操作量のデータを順次取り出して、取り出したデータから算出した操作量変化幅のデータを前記PIDコントローラに順次送信する第3のステップと、
前記PIDコントローラが、前記ホスト装置から送信された制御量を参照設定値の新たな値として受信すると共に、前記ホスト装置から送信された操作量変化幅をフィードフォワード制御操作量の変化幅の新たな値として受信する第4のステップと、
前記PIDコントローラが、制御量の計測値を取得する第5のステップと、
前記PIDコントローラが、1制御周期前の第1の操作量に、前記フィードフォワード制御操作量の変化幅を加算した値を第2の操作量として算出する第6のステップと、
前記PIDコントローラが、前記参照設定値と前記制御量の計測値とを入力として、速度型PID演算を行ってフィードバック制御操作量の変化幅を算出し、前記第2の操作量に前記フィードバック制御操作量の変化幅を加算した値を前記第1の操作量の新たな値として算出する第7のステップと、
前記PIDコントローラが、前記第7のステップによって算出した前記第1の操作量を制御対象に出力する第8のステップとを含むことを特徴とする制御方法。
【請求項7】
請求項6記載の制御方法において、
前記第7のステップによって算出された前記第1の操作量を、操作量上限値と操作量下限値の範囲内の値に制限した第3の操作量を出力する第9のステップをさらに含み、
前記第3のステップは、前記規定のタイミングになったときに、前記制御周期毎の操作量の誤差範囲を想定した前記操作量上限値と前記操作量下限値とを、前記制御量のデータおよび前記操作量変化幅のデータと共に前記PIDコントローラに送信するステップを含み、
前記第4のステップは、前記ホスト装置から送信された前記操作量上限値と前記操作量下限値とを、前記第9のステップで用いる新たな値として受信するステップを含み、
前記第8のステップは、前記第1の操作量を制御対象に出力する代わりに、前記第3の操作量を制御対象に出力するステップを含むことを特徴とする制御方法。
【請求項8】
請求項7記載の制御方法において、
前記第7のステップは、前記第2の操作量に前記フィードバック制御操作量の変化幅を加算する際に、前記フィードバック制御操作量の変化幅のうちの比例動作と微分動作の成分を前記第2の操作量に加算し、加算結果が前記操作量上限値と前記操作量下限値の範囲内にある場合のみ、前記フィードバック制御操作量の変化幅のうちの積分動作の成分を前記第2の操作量にさらに加算するステップを含むことを特徴とする制御方法。
【請求項9】
請求項7記載の制御方法において、
前記第3のステップは、前記制御周期毎の操作量に上昇側マージン値を加算した値を前記操作量上限値とし、前記制御周期毎の操作量から下降側マージン値を減算した値を前記操作量下限値とするステップを含むことを特徴とする制御方法。
【請求項10】
請求項6乃至9のいずれか1項に記載の制御方法において、
前記第1のステップは、前記制御対象の挙動をコンピュータ上で再現するための仮想的な制御対象モデルを利用して、理想的な制御応答に相当する制御量の時系列データと操作量の時系列データとを生成するステップを含むことを特徴とする制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フィードバック制御とフィードフォワード制御とを併用する制御システムおよび制御方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
PID制御について、設定値SPを変更した際の制御性能を好適に維持するためのPIDパラメータの自動調整技術が開示されている(特許文献1参照)。このPIDパラメータ調整技術は、温度制御を行なうためのPIDコントローラである温調計に適用可能である。また、制御量PVの目標軌道に追従するように、PIDパラメータを探索する方法であり、理論上は線形特性の制御対象を想定した方法である。
【0003】
線形特性とは、図21に示すようにグラフの横軸に理論上の操作量MVの出力値0%~100%を取り、縦軸に実際の制御対象への出力作用0%~100%を取ったときに、理論上の操作量MVと実際の制御対象への出力作用との関係が直線になるような特性のことを言う。ただし、例えば図22に示すような若干の非線形特性(弱非線形特性)は、PID制御の許容範囲として、特許文献1に開示された技術を適用できる。
【0004】
特許文献1に開示された手法では、理論と実際の関係が例えば図23に示すような強非線形特性の制御対象に対しては、PID制御の良好な性能を維持できない。このような強非線形特性は、特殊な電気ヒータを使用する温度制御系、あるいはバルブで流体を制御する流量制御系や圧力制御系に現れる。
【0005】
そこで図24図26に、操作量MV(ヒータ出力)が0%で、制御量PV(温度)が50℃で整定している状態から、異なる目標温度(設定値SP)にPID制御で昇温したときのシミュレーション結果を示す。これらのシミュレーションでは、図24に示す50℃から150℃へ昇温する場合において、制御量PVが目標温度に追従するようにPIDパラメータが調整されている。
【0006】
ここで、図25に示すように50℃から250℃へ昇温する場合に、図24の場合と同じPIDパラメータであれば、制御量PVに上下動が発生してしまう。同様に、図26に示すように50℃から350℃へ昇温する場合に、図24の場合と同じPIDパラメータであれば、制御量PVにさらに大きな上下動が発生してしまう。制御量PVに上下動が発生する理由は、図27に示すように、図24図26の各目標温度に維持するための操作量MV(図24の場合で約70%、図25の場合で約80%,図26の場合で約90%)の理論と実際の傾きが異なることが原因であり、傾きが大きいほど上下動が発生し易くなる。
【0007】
以上のように、例えば強非線形特性の制御対象に対して、PID制御では良好な制御特性を得ることは難しい。一方で、PID制御ループは安定・安全な制御動作の継続を目的として、PID演算専用のPIDコントローラ(温調計など)で実行することが、産業界の、特に製造装置内における標準的な計装コンセプトでもある。すなわち、PIDコントローラが活用されるべき理由を維持しながら、PID制御の限界を超えなければならないということであり、改善が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特許第4223894号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、上記課題を解決するためになされたもので、強非線形特性の制御対象に対して良好な制御特性が得られる制御システムおよび制御方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の制御システムは、ホスト装置とPIDコントローラとから構成され、前記ホスト装置は、理想的な制御応答に相当する制御量の時系列データと操作量の時系列データとを生成するように構成された理想応答生成部と、前記制御量の時系列データと前記操作量の時系列データとを記憶するように構成された記憶部と、規定のタイミングになったときに、前記記憶部に記憶された時系列データから制御周期毎の制御量のデータを順次取り出して前記PIDコントローラに順次送信すると同時に、前記記憶部に記憶された時系列データから制御周期毎の操作量のデータを順次取り出して、取り出したデータから算出した操作量変化幅のデータを前記PIDコントローラに順次送信するように構成された送信部とを備え、前記PIDコントローラは、前記ホスト装置から送信された制御量を参照設定値の新たな値として受信すると共に、前記ホスト装置から送信された操作量変化幅をフィードフォワード制御操作量の変化幅の新たな値として受信するように構成された受信部と、制御量の計測値を取得するように構成された制御量取得部と、1制御周期前の第1の操作量に、前記受信部が受信した前記フィードフォワード制御操作量の変化幅を加算した値を第2の操作量として算出するように構成されたフィードフォワード加算部と、前記参照設定値と前記制御量の計測値とを入力として、速度型PID演算を行ってフィードバック制御操作量の変化幅を算出し、前記第2の操作量に前記フィードバック制御操作量の変化幅を加算した値を前記第1の操作量の新たな値として算出するように構成されたフィードバック加算部と、前記フィードバック加算部によって算出された前記第1の操作量を制御対象に出力するように構成された操作量出力部とを備えることを特徴とするものである。
【0011】
また、本発明の制御システムの1構成例において、前記PIDコントローラは、前記フィードバック加算部によって算出された前記第1の操作量を、操作量上限値と操作量下限値の範囲内の値に制限した第3の操作量を出力するように構成されたリミット処理部をさらに備え、前記ホスト装置の前記送信部は、前記規定のタイミングになったときに、前記制御周期毎の操作量の誤差範囲を想定した前記操作量上限値と前記操作量下限値とを、前記制御量のデータおよび前記操作量変化幅のデータと共に前記PIDコントローラに送信し、前記PIDコントローラの前記受信部は、前記ホスト装置から送信された前記操作量上限値と前記操作量下限値とを、前記リミット処理部で用いる新たな値として受信し、前記PIDコントローラの前記操作量出力部は、前記第1の操作量を制御対象に出力する代わりに、前記第3の操作量を制御対象に出力することを特徴とするものである。
【0012】
また、本発明の制御システムの1構成例において、前記フィードバック加算部は、前記第2の操作量に前記フィードバック制御操作量の変化幅を加算する際に、前記フィードバック制御操作量の変化幅のうちの比例動作と微分動作の成分を前記第2の操作量に加算し、加算結果が前記操作量上限値と前記操作量下限値の範囲内にある場合のみ、前記フィードバック制御操作量の変化幅のうちの積分動作の成分を前記第2の操作量にさらに加算することを特徴とするものである。
また、本発明の制御システムの1構成例において、前記送信部は、前記制御周期毎の操作量に上昇側マージン値を加算した値を前記操作量上限値とし、前記制御周期毎の操作量から下降側マージン値を減算した値を前記操作量下限値とすることを特徴とするものである。
また、本発明の制御システムの1構成例において、前記理想応答生成部は、前記制御対象の挙動をコンピュータ上で再現するための仮想的な制御対象モデルを利用して、理想的な制御応答に相当する制御量の時系列データと操作量の時系列データとを生成することを特徴とするものである。
【0013】
また、本発明の制御方法は、ホスト装置が、理想的な制御応答に相当する制御量の時系列データと操作量の時系列データとを生成する第1のステップと、前記ホスト装置が、前記制御量の時系列データと前記操作量の時系列データとを記憶する第2のステップと、前記ホスト装置が、規定のタイミングになったときに、前記第2のステップで記憶した時系列データから制御周期毎の制御量のデータを順次取り出してPIDコントローラに順次送信すると同時に、前記第2のステップで記憶した時系列データから制御周期毎の操作量のデータを順次取り出して、取り出したデータから算出した操作量変化幅のデータを前記PIDコントローラに順次送信する第3のステップと、前記PIDコントローラが、前記ホスト装置から送信された制御量を参照設定値の新たな値として受信すると共に、前記ホスト装置から送信された操作量変化幅をフィードフォワード制御操作量の変化幅の新たな値として受信する第4のステップと、前記PIDコントローラが、制御量の計測値を取得する第5のステップと、前記PIDコントローラが、1制御周期前の第1の操作量に、前記フィードフォワード制御操作量の変化幅を加算した値を第2の操作量として算出する第6のステップと、前記PIDコントローラが、前記参照設定値と前記制御量の計測値とを入力として、速度型PID演算を行ってフィードバック制御操作量の変化幅を算出し、前記第2の操作量に前記フィードバック制御操作量の変化幅を加算した値を前記第1の操作量の新たな値として算出する第7のステップと、前記PIDコントローラが、前記第7のステップによって算出した前記第1の操作量を制御対象に出力する第8のステップとを含むことを特徴とするものである。
【0014】
また、本発明の制御方法の1構成例は、前記第7のステップによって算出された前記第1の操作量を、操作量上限値と操作量下限値の範囲内の値に制限した第3の操作量を出力する第9のステップをさらに含み、前記第3のステップは、前記規定のタイミングになったときに、前記制御周期毎の操作量の誤差範囲を想定した前記操作量上限値と前記操作量下限値とを、前記制御量のデータおよび前記操作量変化幅のデータと共に前記PIDコントローラに送信するステップを含み、前記第4のステップは、前記ホスト装置から送信された前記操作量上限値と前記操作量下限値とを、前記第9のステップで用いる新たな値として受信するステップを含み、前記第8のステップは、前記第1の操作量を制御対象に出力する代わりに、前記第3の操作量を制御対象に出力するステップを含むことを特徴とするものである。
【0015】
また、本発明の制御方法の1構成例において、前記第7のステップは、前記第2の操作量に前記フィードバック制御操作量の変化幅を加算する際に、前記フィードバック制御操作量の変化幅のうちの比例動作と微分動作の成分を前記第2の操作量に加算し、加算結果が前記操作量上限値と前記操作量下限値の範囲内にある場合のみ、前記フィードバック制御操作量の変化幅のうちの積分動作の成分を前記第2の操作量にさらに加算するステップを含むことを特徴とするものである。
また、本発明の制御方法の1構成例において、前記第3のステップは、前記制御周期毎の操作量に上昇側マージン値を加算した値を前記操作量上限値とし、前記制御周期毎の操作量から下降側マージン値を減算した値を前記操作量下限値とするステップを含むことを特徴とするものである。
また、本発明の制御方法の1構成例において、前記第1のステップは、前記制御対象の挙動をコンピュータ上で再現するための仮想的な制御対象モデルを利用して、理想的な制御応答に相当する制御量の時系列データと操作量の時系列データとを生成するステップを含むことを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、ホスト装置に理想応答生成部と記憶部と送信部とを設け、PIDコントローラに受信部と制御量取得部とフィードフォワード加算部とフィードバック加算部と操作量出力部とを設けることにより、PIDコントローラを効率的に活用しつつ、強非線形特性の制御対象に対して良好な制御特性を得ることができる。また、本発明では、PIDコントローラの演算量と記憶量の増大を抑えつつ、良好な制御特性を得ることができるので、安定継続を維持し易い計装を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1図1は、本発明の実施例に係る制御システムの構成を示すブロック図である。
図2図2は、本発明の実施例に係る産業用PCとPIDコントローラとの通信、およびPIDコントローラにおける演算の概略を説明する図である。
図3図3は、本発明の実施例に係る産業用PCの動作を説明するフローチャートである。
図4図4は、本発明の実施例に係るPIDコントローラの動作を説明するフローチャートである。
図5図5は、理想的な制御応答に相当する制御量と操作量の変化を示す図である。
図6図6は、理想的な制御応答に相当する制御量と操作量の変化を示す図である。
図7図7は、理想的な制御応答に相当する制御量と操作量の変化を示す図である。
図8図8は、強非線形特性の制御対象に対してフィードフォワード制御のみを実行した結果を示す図である。
図9図9は、強非線形特性の制御対象に対してフィードフォワード制御のみを実行した結果を示す図である。
図10図10は、強非線形特性の制御対象に対してフィードフォワード制御のみを実行した結果を示す図である。
図11図11は、本発明の実施例に係る制御のシミュレーション結果を示す図である。
図12図12は、本発明の実施例に係る制御のシミュレーション結果を示す図である。
図13図13は、本発明の実施例に係る制御のシミュレーション結果を示す図である。
図14図14は、本発明の実施例に係る制御のシミュレーション結果を示す図である。
図15図15は、本発明の実施例に係る制御のシミュレーション結果を示す図である。
図16図16は、本発明の実施例に係る制御のシミュレーション結果を示す図である。
図17図17は、本発明の実施例において操作量上限値と操作量下限値によるリミット処理を実行しない場合のシミュレーション結果を示す図である。
図18図18は、本発明の実施例において操作量上限値と操作量下限値によるリミット処理を実行しない場合のシミュレーション結果を示す図である。
図19図19は、本発明の実施例において操作量上限値と操作量下限値によるリミット処理を実行しない場合のシミュレーション結果を示す図である。
図20図20は、本発明の実施例に係る制御システムを実現するコンピュータの構成例を示すブロック図である。
図21図21は、線形特性の制御対象について説明する図である。
図22図22は、弱非線形特性の制御対象について説明する図である。
図23図23は、強非線形特性の制御対象について説明する図である。
図24図24は、強非線形特性の制御対象に対するPID制御のシミュレーション結果を示す図である。
図25図25は、強非線形特性の制御対象に対するPID制御のシミュレーション結果を示す図である。
図26図26は、強非線形特性の制御対象に対するPID制御のシミュレーション結果を示す図である。
図27図27は、非線形特性の制御対象に対するPID制御において制御量に上下動が発生する理由を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
[発明の原理]
強非線形特性を含み得る制御対象モデル(微分方程式などの数式をベースとして、制御対象の挙動をコンピュータ上で再現するための仮想的な制御対象)を利用するシミュレーションか、あるいは実際の制御対象を利用する制御試行により、理想的な制御応答に近い制御量PVの変化と操作量MVの変化とを求めることは、実現可能である。
【0019】
そこで、シミュレーションあるいは制御試行によって得られた制御量PVの時系列データを参照設定値SPとし、操作量MVの時系列データをフィードフォワード制御の操作量MV_fとすれば、強非線形特性の制御対象であっても参照設定値SPに追従するフィードバック制御(PID制御)を実現することは原理的に可能である。
【0020】
ところで、制御対象モデルによるシミュレーションの実行や、諸条件を想定した多数の時系列データセットの記憶は、温調計のようなPIDコントローラ(安定継続を目的として演算機能などを限定したローカルコントローラ)よりも上位の産業用PC(Industrial Personal Computer:IPC)などで実施するべきなので、各機能ブロックの分散配置が必須になる。
【0021】
そこで、発明者は、温調計では、温度制御自体が装置筐体の保温性などによる任意の平衡点で整定する理由などから、速度型PID演算則であることが一般的であることに着眼した。そして、温調計側には、操作量変化幅ΔMV_fの外部入力を有する構成が好適であることに想到した。この構成を基礎にすることで、PIDコントローラ(温調計など)自体の演算量と記憶量を極力減らせるので、強非線形特性に対応しつつ、安定継続を維持し易い計装へと改善できる。
【0022】
[実施例]
以下、本発明の実施例について図面を参照して説明する。本実施例は、発明の原理に対応するものであるが、基礎となる構成以外にも、安定継続の支障にならず、むしろ好適な機能を追加した構成として説明する。
【0023】
図1は本実施例に係る制御システムの構成を示すブロック図である。制御システムは、産業用PC1(ホスト装置)と、PIDコントローラ2とから構成される。産業用PC1は、理想的な制御応答に相当する制御量PVの時系列データと操作量MVの時系列データとを生成する理想応答生成部10と、制御量PVの時系列データを記憶する制御量変化記憶部11と、操作量MVの時系列データを記憶する操作量変化記憶部12と、規定のタイミングになったときに、記憶部11に記憶された時系列データから制御周期毎の制御量PVのデータを順次取り出してPIDコントローラ2に順次送信する制御量出力部13と、規定のタイミングになったときに、記憶部12に記憶された時系列データから制御周期毎の操作量MVのデータを順次取り出して、取り出したデータから算出した操作量変化幅ΔMVのデータをPIDコントローラ2に順次送信する操作量変化幅出力部14と、規定のタイミングになったときに、制御周期毎の操作量MVの誤差範囲を想定した操作量上限値OH_xをPIDコントローラ2に送信する操作量上限値出力部15と、規定のタイミングになったときに、制御周期毎の操作量MVの誤差範囲を想定した操作量下限値OL_xをPIDコントローラ2に送信する操作量下限値出力部16とを備えている。
【0024】
制御量変化記憶部11と操作量変化記憶部12とは、記憶部17を構成し、制御量出力部13と操作量変化幅出力部14と操作量上限値出力部15と操作量下限値出力部16とは、送信部18を構成している。
【0025】
PIDコントローラ2は、産業用PC1から送信された制御量PVを参照設定値SP_rの新たな値として受信する設定値入力部20と、産業用PC1から送信された操作量変化幅ΔMVをフィードフォワード制御操作量の変化幅ΔMV_fの新たな値として受信する操作量変化幅入力部21と、産業用PC1から送信された操作量上限値OH_xを受信する操作量上限値入力部22と、産業用PC1から送信された操作量下限値OL_xを受信する操作量下限値入力部23と、制御量PVの計測値を取得する制御量取得部24と、1制御周期前の操作量MV_x’(第1の操作量)に、フィードフォワード制御操作量の変化幅ΔMV_fを加算した値を操作量MV_z(第2の操作量)として算出するフィードフォワード加算部25と、参照設定値SP_rと制御量PVの計測値とを入力として、速度型PID演算を行ってフィードバック制御操作量の変化幅ΔMV_bを算出し、フィードフォワード加算部25で得られた操作量MV_zにフィードバック制御操作量の変化幅ΔMV_bを加算した値を操作量MV_x’の新たな値として算出するフィードバック加算部26と、フィードバック加算部26によって算出された操作量MV_x’を、操作量上限値OH_xと操作量下限値OL_xの範囲内の値に制限した操作量MV(第3の操作量)を出力するリミット処理部27と、リミット処理部27で得られた操作量MVを制御対象に出力する操作量出力部28とを備えている。
【0026】
設定値入力部20と操作量変化幅入力部21と操作量上限値入力部22と操作量下限値入力部23とは、受信部29を構成している。
送信部18と受信部29とは、有線通信でデータを送受信してもよいし、無線通信でデータを送受信してもよい。また、本発明は、特定の通信規格に限定されるものではなく、適切な通信規格を適宜選択して、産業用PC1とPIDコントローラ2との通信を実現すればよい。
【0027】
図2は産業用PC1とPIDコントローラ2との通信、およびPIDコントローラ2における演算の概略を説明する図、図3は産業用PC1の動作を説明するフローチャートである。
【0028】
産業用PC1の理想応答生成部10は、理想的な制御応答に相当する制御量PVの時間変化のデータと、この制御応答時に制御対象に出力される操作量MVの時間変化のデータとを生成する(図3ステップS100)。理想応答生成部10は、強非線形特性を含み得る制御対象モデルを利用するシミュレーションでの最適解探索、あるいは実際の制御対象を利用する制御の自動試行指示などにより、理想的な制御応答に近い制御量PVの変化と操作量MVの変化とを求めるようにすればよい。本発明において、理想応答生成部10によるデータの生成手法は特に限定されない。
【0029】
理想応答生成部10は、予め設定された制御の条件毎に制御量PVの時系列データと操作量MVの時系列データとを生成する。制御の条件とは、通常は、例えばPIDコントローラ2(温調計)を利用した昇温制御において想定される設定値SP変更の条件(変更前の設定値SPと変更後の設定値SP)のことを言う。
【0030】
生成された制御量PVの時系列データと操作量MVの時系列データのそれぞれには、制御動作の開始時点を時刻0とする時刻の情報(タイムスタンプ)が付加されている。生成される時系列データの時間間隔は、PIDコントローラ2の制御周期と同じことが望ましいが、制御周期より細かい時間間隔でもよい。
【0031】
制御量変化記憶部11は、理想応答生成部10によって制御の条件毎に生成された制御量PVの時系列データのセットを記憶する(図3ステップS101)。制御の条件毎に生成されたデータセットには、制御の条件に対応するIDが理想応答生成部10によって付加されている。制御量変化記憶部11は、このIDをデータセットと共に記憶する。
【0032】
一方、操作量変化記憶部12は、理想応答生成部10によって制御の条件毎に生成された操作量MVの時系列データのセットを記憶する(図3ステップS102)。上記のとおり、制御の条件毎に生成されたデータセットには、制御の条件に対応するIDが理想応答生成部10によって付加されている。操作量変化記憶部12は、このIDをデータセットと共に記憶する。
【0033】
なお、理想応答生成部10は、データの生成を、設定値SP変更後に制御量PVが整定した時点から規定の終了時間が経過した時点で終了する必要がある。その理由は、データの生成を継続すると、制御量変化記憶部11と操作量変化記憶部12の記憶量が膨大な量になるためである。
【0034】
次に、制御量出力部13は、規定のタイミングになったときに(図3ステップS103においてYES)、制御量変化記憶部11に記憶された制御量PVの時系列データセットのうち、規定のデータセットを選択する。制御量出力部13は、選択したデータセットからPIDコントローラ2の制御周期毎の制御量PVのデータを順次取り出してPIDコントローラ2に順次送信する。このとき、制御量出力部13は、自身が順次送信するデータのタイムスタンプ値が示す時刻の間隔とPIDコントローラ2の制御周期とが一致するように、制御周期毎の制御量PVのデータを送信する(図3ステップS104)。
【0035】
操作量変化幅出力部14は、規定のタイミングになったときに、操作量変化記憶部12に記憶された操作量MVの時系列データセットのうち、規定のデータセットを選択する。操作量変化幅出力部14は、選択したデータセットからPIDコントローラ2の制御周期毎の操作量MVのデータを順次取り出して、取り出したデータから算出した1制御周期あたりの操作量変化幅ΔMVをPIDコントローラ2に順次送信する。このとき、操作量変化幅出力部14は、制御量出力部13が送信する制御量PVのデータのタイムスタンプ値が示す時刻と自身が送信するデータのタイムスタンプ値(データセットから取り出した操作量MVのタイムスタンプ値)が示す時刻とが同一になるように、制御周期毎の操作量変化幅ΔMVのデータを送信する(図3ステップS105)。これにより、操作量変化幅出力部14が順次送信するデータのタイムスタンプ値が示す時刻の間隔とPIDコントローラ2の制御周期とが一致する。
【0036】
操作量変化幅ΔMVは、1制御周期前の操作量MVとの差である。操作量変化幅出力部14は、操作量変化幅ΔMVを、選択したデータセットから逐一算出すればよい。例えば、時刻tにおける操作量MVが0、時刻t+1における操作量MVが1、時刻t+2における操作量MVが3、時刻t+3における操作量MVが4、時刻t+4における操作量MVが2とすれば、時刻t,t+1,t+2,t+3,t+4における操作量変化幅ΔMVを、ΔMV=0,1,2,1,-2と算出できる。
【0037】
なお、PIDコントローラ2にデータバッファがある場合、制御量出力部13と操作量変化幅出力部14とは、データバッファに格納し得る複数の制御量PVのデータと複数の操作量MVのデータとをまとめて送信するようにしてもよい。
【0038】
操作量上限値出力部15は、規定のタイミングになったときに、規定のデータセットから操作量変化幅出力部14が取り出した制御周期毎の操作量MV(操作量変化幅ΔMVの基になった操作量MVであり、制御量出力部13が送信する制御量PVと同じタイムスタンプ値の操作量MV)の誤差範囲を想定した操作量上限値OH_xを算出する。操作量上限値出力部15は、制御量出力部13が送信する制御量PVのデータのタイムスタンプ値が示す時刻と自身が送信する操作量上限値OH_xに付加されるタイムスタンプ値(操作量変化幅出力部14がデータセットから取り出した操作量MVのタイムスタンプ値)が示す時刻とが同一になるように、操作量上限値OH_xをPIDコントローラ2に送信する(図3ステップS106)。これにより、操作量上限値出力部15が順次送信するデータのタイムスタンプ値が示す時刻の間隔とPIDコントローラ2の制御周期とが一致する。
【0039】
最もシンプルな処理としては、操作量MVを中心とする上昇側マージンを予め規定しておく。操作量上限値出力部15は、規定のデータセットから操作量変化幅出力部14が取り出した制御周期毎の操作量MVに上昇側マージン値を加算した値を、操作量上限値OH_xとして送信すればよい。
【0040】
操作量下限値出力部16は、規定のタイミングになったときに、規定のデータセットから操作量変化幅出力部14が取り出した制御周期毎の操作量MV(操作量変化幅ΔMVの基になった操作量MVであり、制御量出力部13が送信する制御量PVと同じタイムスタンプ値の操作量MV)の誤差範囲を想定した操作量下限値OL_xを算出する。操作量下限値出力部16は、制御量出力部13が送信する制御量PVのデータのタイムスタンプ値が示す時刻と自身が送信する操作量下限値OL_xに付加されるタイムスタンプ値(操作量変化幅出力部14がデータセットから取り出した操作量MVのタイムスタンプ値)が示す時刻とが同一になるように、操作量下限値OL_xをPIDコントローラ2に送信する(図3ステップS107)。これにより、操作量下限値出力部16が順次送信するデータのタイムスタンプ値が示す時刻の間隔とPIDコントローラ2の制御周期とが一致する。
【0041】
最もシンプルな処理としては、操作量MVを中心とする下降側マージンを予め規定しておく。操作量下限値出力部16は、規定のデータセットから操作量変化幅出力部14が取り出した制御周期毎の操作量MVから下降側マージン値を減算した値を、操作量下限値OL_xとして送信すればよい。
【0042】
なお、上昇側マージン値と下降側マージン値を固定値にする必要はなく、後述のように設定値SP変更時点からの経過時間に応じて上昇側マージン値と下降側マージン値のそれぞれを変更するようにしてもよい。
【0043】
制御量出力部13と操作量変化幅出力部14と操作量上限値出力部15と操作量下限値出力部16とは、制御量変化記憶部11と操作量変化記憶部12とに記憶された規定のデータセットを送信し終えるまで(図3ステップS108においてYES)、ステップS104~S107の処理を繰り返し実行する。
【0044】
データの同期、すなわちタイムスタンプ値が同一であることが必要とされる制御量PVと操作量変化幅ΔMVと操作量上限値OH_xと操作量下限値OL_xとは、PIDコントローラ2に同時に到着することが望ましいが、到着に時間差があっても構わない。この時間差がPIDコントローラ2の制御周期(例えば1秒)に対して僅かな時間であれば、実用上問題ない。
以上で、産業用PC1側の動作が終了し、産業用PC1は次の規定のタイミングになるまで待機する。
【0045】
ここで、上記の規定のタイミングと規定のデータセットについて説明する。例えば産業用PC1のオペレータがPIDコントローラ2の設定値SPを手動で変更する場合、オペレータが設定値SP変更を指示したタイミングが規定のタイミングとなり、オペレータが指示したデータセット(制御の条件)が規定のデータセットとなる。
【0046】
また、例えば加熱炉等の温度制御が予め定められたスケジュール情報に従って自動実行される場合、スケジュール情報で定められた設定値SP変更のタイミングが規定のタイミングとなり、スケジュール情報で定められたデータセット(制御の条件)が規定のデータセットとなる。
【0047】
図4はPIDコントローラ2の動作を説明するフローチャートである。PIDコントローラ2の設定値入力部20は、産業用PC1から送信された制御量PVを参照設定値SP_rの新たな値として受信する(図4ステップS200)。最もシンプルな処理としては、PIDコントローラ2の制御周期毎に、1個の制御量PVのデータを受信する形態になる。
【0048】
操作量変化幅入力部21は、産業用PC1から送信された操作量変化幅ΔMVをフィードフォワード制御操作量の変化幅ΔMV_fの新たな値として受信する(図4ステップS201)。最もシンプルな処理としては、PIDコントローラ2の制御周期毎に、1個の操作量変化幅ΔMVのデータ値を受信する形態になる。
【0049】
操作量上限値入力部22は、産業用PC1から送信された操作量上限値OH_xをリミット処理部27で用いる新たな値として受信する(図4ステップS202)。操作量下限値入力部23は、産業用PC1から送信された操作量下限値OL_xをリミット処理部27で用いる新たな値として受信する(図4ステップS203)。PIDコントローラ2に事前に設定されている操作量上限値OH_xの初期値は100%、操作量下限値OL_xの初期値は0%である。
【0050】
なお、PIDコントローラ2にデータバッファが設けられており、制御量出力部13と操作量変化幅出力部14と操作量上限値出力部15と操作量下限値出力部16とが、データバッファに格納し得る複数の制御量PVのデータと複数の操作量MVのデータと複数の操作量上限値OH_xのデータと複数の操作量下限値OL_xのデータとをまとめて送信する場合、設定値入力部20と操作量変化幅入力部21と操作量上限値入力部22と操作量下限値入力部23とは、データバッファに格納された制御量PVと操作量変化幅ΔMVと操作量上限値OH_xと操作量下限値OL_xの各データをPIDコントローラ2の制御周期毎に1つずつ取り出すようにすればよい。
【0051】
制御量取得部24は、制御量PVの計測値を取得する(図4ステップS204)。PIDコントローラ2(温調計)を利用する温度制御であれば、温度センサから制御量PVの値を取得することになる。
【0052】
次に、フィードフォワード加算部25は、式(1)に示すように、フィードバック加算部26が1制御周期前に算出した操作量MV_x(後述するMV_x’の1制御周期前の値)に、操作量変化幅入力部21が受信したフィードフォワード制御操作量の変化幅ΔMV_fを加算した値を、操作量MV_zとする(図4ステップS205)。
MV_z=MV_x+ΔMV_f ・・・(1)
【0053】
フィードバック加算部26は、参照設定値SP_rと制御量PVの計測値とを入力として、制御量PVの計測値が参照設定値SP_rと一致するように、式(2)に示す伝達関数式のような速度型PID演算を行ってフィードバック制御操作量の変化幅ΔMV_bを算出する(図4ステップS206)。
ΔMV_b=Kp{ΔEr+(1/Ti)Er+TdΔEr} ・・・(2)
【0054】
式(2)において、Erは制御偏差であり、参照設定値SP_rと制御量PVの計測値との差SP_r-PVである。また、ΔErは制御偏差Erの1階差分(1制御周期あたりの偏差Erの変化量)、ΔErは制御偏差Erの2階差分(1制御周期あたりの偏差Erの変化量の変化量)、KpはPIDパラメータのうちの比例ゲイン、TiはPIDパラメータのうちの積分時間、TdはPIDパラメータのうちの微分時間である。なお、比例ゲインKpは、比例帯PbとはKp=100/Pbの関係にある。
【0055】
フィードバック加算部26は、式(3)に示すように、フィードフォワード加算部25によって算出された操作量MV_zに、フィードバック制御操作量の変化幅ΔMV_bを加算した値を操作量MV_x’とする(図4ステップS207)。
MV_x’=MV_z+ΔMV_b ・・・(3)
【0056】
なお、フィードバック加算部26は、操作量MV_zにフィードバック制御操作量の変化幅ΔMV_bを加算する際に、比例動作(P動作)と微分動作(D動作)の加算を積分動作(I動作)の加算に先行して実行し、比例動作と微分動作の加算結果が、操作量上限値入力部22と操作量下限値入力部23が受信した操作量上限値OH_xと操作量下限値OL_xの範囲内にある場合に積分動作の加算を実行することで、アンチリセットワインドアップ処理(積分動作の不要な蓄積を防止する処理)の作用が得られるようにするのが好適である。
【0057】
すなわち、フィードバック制御操作量の変化幅ΔMV_bのうちの比例動作と微分動作の成分ΔMV_b_pdは、式(4)のようになり、積分動作(I動作)の成分ΔMV_b_iは、式(5)のようになる。
ΔMV_b_pd=Kp(ΔEr+TdΔEr) ・・・(4)
ΔMV_b_i=Kp(1/Ti)Er ・・・(5)
【0058】
したがって、操作量MV_zとΔMV_b_pdとの加算結果MV_z’は、式(6)のようになる。
MV_z’=MV_z+ΔMV_pd ・・・(6)
【0059】
フィードバック加算部26は、加算結果MV_z’が操作量下限値OL_x以上で操作量上限値OH_x以下の場合に、式(7)に示すように、フィードバック制御操作量の変化幅ΔMV_bのうちの積分動作の成分ΔMV_b_iを加算結果MV_z’にさらに加算した結果を操作量MV_x’とする。
MV_x’=MV_z’+ΔMV_b_i ・・・(7)
【0060】
また、フィードバック加算部26は、加算結果MV_z’が操作量下限値OL_x未満または操作量上限値OH_xより大の場合に、ΔMV_b_iを加算せず、加算結果MV_z’をそのまま操作量MV_x’とする。
MV_x’=MV_z’ ・・・(8)
【0061】
式(1)の処理により本発明に特有のフィードフォワード制御操作量の変化幅ΔMV_fも加算済みなので、式(4)~式(8)で説明した処理により、後段のリミット処理との整合を取るために必要な演算量を極力減らす効果が得られる。ただし、積分動作の加算条件を適宜追加してもよい。
【0062】
リミット処理部27は、フィードバック加算部26によって算出された操作量MV_x’を、操作量下限値OL_x以上で操作量上限値OH_x以下の値に制限した操作量MVを出力する(図4ステップS208)。つまり、リミット処理部27は、操作量MV_x’が操作量下限値OL_xより小さい場合(MV_x’<OL_x)、操作量MV=OL_xとし、操作量MV_x’が操作量上限値OH_xより大きい場合(MV_x’>OH_x)、操作量MV=OH_xとし、操作量MV_x’が操作量下限値OL_x以上で操作量上限値OH_x以下の場合(OL_x≦MV_x’≦OH_x)、操作量MV=MV_x’とするリミット処理を行う。
【0063】
なお、通常は温調計の標準的な操作量上限値100%と操作量下限値0%のリミット処理をさらに実行する。すなわち、リミット処理部27は、操作量MVが操作量下限値0%より小さい場合、操作量MVを0%とし、操作量MVが操作量上限値100%より大きい場合、操作量MVを100%とする。
【0064】
操作量出力部28は、リミット処理部27でリミット処理された操作量MVを制御対象に出力する(図4ステップS209)。操作量MVの出力先は、ヒータやバルブなどの操作部(不図示)である。ヒータの場合には、操作量MVの実際の出力先は、ヒータに電力を供給する電力調整器(不図示)となる。
【0065】
PIDコントローラ2は、例えばオペレータからの指令によって制御が終了するまで(図4ステップS210においてYES)、ステップS200~S209の処理を制御周期毎に実行する。
【0066】
ただし、設定値入力部20と操作量変化幅入力部21と操作量上限値入力部22と操作量下限値入力部23とは、制御量PVの計測値が整定した時点から一定の継続時間が経過した時点で(図4ステップS211においてYES)、参照設定値SP_rとフィードフォワード制御操作量の変化幅ΔMV_fと操作量上限値OH_xと操作量下限値OL_xの更新を停止する(図4ステップS212)。
【0067】
これにより、参照設定値SP_rとフィードフォワード制御操作量の変化幅ΔMV_fと操作量上限値OH_xと操作量下限値OL_xとは、それぞれ1制御周期前に受信した値に固定される。ただし、操作量上限値入力部22は、操作量上限値OH_xを初期値(100%)に戻し、操作量下限値入力部23は、操作量下限値OL_xを初期値(0%)に戻すようにしてもよい。
【0068】
上記の継続時間は、産業用PC1からのデータ送信が終了する前に、参照設定値SP_rとフィードフォワード制御操作量の変化幅ΔMV_fと操作量上限値OH_xと操作量下限値OL_xの更新が停止するように設定しておく必要がある。
【0069】
以後は、次の規定のタイミングになって、ステップS200~S203の処理が再開されるまで、ステップS204~S209の処理が制御周期毎に実行される。
【0070】
次に、本実施例の効果を、図23に示した強非線形特性の制御対象への適用例(シミュレーション)で説明する。ここでは、理想応答生成部10は、制御対象モデルを利用するシミュレーションにより、理想的な制御応答に相当する制御量PVの時系列データと操作量MVの時系列データとを生成するものとする。
【0071】
図23の非線形特性がモデル化されていれば、図24図26に示した昇温制御について、昇温後の整定状態での操作量MVがモデルからも得られるので、例えば図5図7のようなシンプルなデータが生成できる。図5は、図24のように50℃から150℃へ昇温する場合の理想的な制御応答に相当する制御量PV(温度)の変化と操作量MVの変化とを示している。図6は、図25のように50℃から250℃へ昇温する場合の理想的な制御応答に相当する制御量PVの変化と操作量MVの変化とを示している。図7は、図26のように50℃から350℃へ昇温する場合の理想的な制御応答に相当する制御量PVの変化と操作量MVの変化とを示している。
【0072】
制御量変化記憶部11は、理想応答生成部10によって制御の条件毎に生成された制御量PVの時系列データのセットを記憶する。操作量変化記憶部12は、理想応答生成部10によって制御の条件毎に生成された操作量MVの時系列データのセットを記憶する。制御の条件毎に生成されたデータセットには、制御の条件に対応するIDが理想応答生成部10によって付加されている。図5図7の例では、50℃から150℃へ昇温する場合のデータセットと50℃から250℃へ昇温する場合のデータセットと50℃から350℃へ昇温する場合のデータセットのそれぞれには異なるIDが付与される。
なお、図5図7では、設定値SPの変化も便宜上記載しているが、設定値SPを記憶する必要はない。
【0073】
ここで、図5図7に示した操作量MVの変化をフィードフォワード制御だけで実行する場合、つまりPIDコントローラ2のフィードバック制御と組合せない場合の、実用上の問題点についても説明しておく。制御対象の強非線形特性は、一般的には数種類の複雑な特性が重なることで現れる特性であり、高精度な再現性を伴うものではない。そこで、モデルと実対象に3%の誤差を与えてフィードフォワード制御のみを実行した結果を、図8図10に示す。
【0074】
図8は、50℃から150℃へ昇温するときにフィードフォワード制御のみを実行した結果を示している。図9は、50℃から250℃へ昇温するときにフィードフォワード制御のみを実行した結果を示している。図10は、50℃から350℃へ昇温するときにフィードフォワード制御のみを実行した結果を示している。フィードフォワード制御のみを実行した場合、昇温後の整定状態での操作量MVに誤差が生じるので、図8図10に示すように設定値SPと制御量PVにオフセットが残ってしまうことが分かる。
【0075】
次に、本実施例を適用した場合について説明する。図2にも示しているように、理想的な制御応答のデータセットが産業用PC1に記憶され、上位側から制御量PVのデータを、PIDコントローラ2の参照設定値SP_rのデータとして送信する点が、本実施例の重要な特徴部分である。また、速度型PID演算への適合のために、上位側から操作量変化幅ΔMVを、PIDコントローラ2のフィードフォワード制御操作量の変化幅ΔMV_fとして送信する点も、重要な特徴部分である。
【0076】
なお、図5図7の例であれば、時刻100秒の時点での操作量上昇の変化幅と、時刻150秒の時点での操作量下降の変化幅の2回以外は、ΔMV_f=0.0である。現実にはほぼ起こり得ないことであるが、モデル誤差が0%であれば、図5図7と完全に同じ結果が得られる。すなわち、フィードバック制御は不要な制御になる。
【0077】
そこで、理想応答生成部10がシミュレーションで用いた制御対象モデルと実対象との誤差を5%として、フィードフォワード制御とフィードバック制御が同時に動作するようにする。フィードバック制御については、図24図26に示したように、目標温度次第では操作量MVに不必要な上下動が発生するので、操作量上限値OH_xと操作量下限値OL_xにより規制するのが好適である。
【0078】
具体的には、時刻150秒の時点(設定値SPの変更時点から50秒の時点)までは理想的な制御応答の操作量MVに対して上昇側マージン値と下降側マージン値をそれぞれ10%とし、時刻150秒の時点以降は上昇側マージン値と下降側マージン値をそれぞれ5%とする。これらの処理も含めて実行した本実施例の結果を、図11図16に示す。
【0079】
図11は、50℃から150℃へ昇温するときの参照設定値SP_rと制御量PVの計測値と操作量出力部28が出力する操作量MVの変化を示している。図12は、50℃から250℃へ昇温するときの参照設定値SP_rと制御量PVの計測値と操作量出力部28が出力する操作量MVの変化を示している。図13は、50℃から350℃へ昇温するときの参照設定値SP_rと制御量PVの計測値と操作量出力部28が出力する操作量MVの変化を示している。
【0080】
図14は、50℃から150℃へ昇温するときに操作量出力部28が出力する操作量MVと操作量上限値OH_xと操作量下限値OL_xの変化を示している。図15は、50℃から250℃へ昇温するときに操作量出力部28が出力する操作量MVと操作量上限値OH_xと操作量下限値OL_xの変化を示している。図16は、50℃から350℃へ昇温するときに操作量出力部28が出力する操作量MVと操作量上限値OH_xと操作量下限値OL_xの変化を示している。
【0081】
図11図16によれば、本実施例では、強非線形特性の制御対象にも対応できており、かつPIDコントローラ2自体の演算量と記憶量とを極力減らしているので、安定継続を維持し易い計装を実現できることが分かる。
【0082】
参考のために、操作量上限値OH_xと操作量下限値OL_xによるリミット処理を実行しない場合の結果を、図17図19に示す。リミット処理による規制の効果がないので、図11図16の場合よりも制御対象の強非線形特性に起因する不必要な上下動が発生するが、図24図26よりはかなり改善された制御応答が得られる。
【0083】
このように、本発明においてリミット処理部27は必須の構成要件ではない。リミット処理部27を設けない場合、操作量出力部28は、フィードバック加算部26によって算出された操作量MV_x’を制御対象に出力する。リミット処理部27を設けない場合には、産業用PC1からの操作量上限値OH_xと操作量下限値OL_xの送信が不要となり、また式(4)~式(8)で説明したアンチリセットワインドアップ処理を実行しないことになる。
【0084】
本実施例で説明した産業用PC1とPIDコントローラ2の各々は、CPU(Central Processing Unit)、記憶装置及びインターフェースを備えたコンピュータと、これらのハードウェア資源を制御するプログラムによって実現することができる。このコンピュータの構成例を図20に示す。
【0085】
コンピュータは、CPU200と、記憶装置201と、インターフェース装置(I/F)202とを備えている。産業用PC1の場合、I/F202には、PIDコントローラ2との通信のための通信回路のハードウェア等が接続される。PIDコントローラ2の場合、I/F202には、制御量PVを計測するセンサと、産業用PC1との通信のための通信回路のハードウェアと、電力調整器等が接続される。このようなコンピュータにおいて、本発明の制御方法を実現させるためのプログラムは記憶装置201に格納される。産業用PC1とPIDコントローラ2の各々のCPU200は、記憶装置201に格納されたプログラムに従って本実施例で説明した処理を実行する。
【産業上の利用可能性】
【0086】
本発明は、制御システムに適用することができる。
【符号の説明】
【0087】
1…産業用PC、2…PIDコントローラ、10…理想応答生成部、11…制御量変化記憶部、12…操作量変化記憶部、13…制御量出力部、14…操作量変化幅出力部、15…操作量上限値出力部、16…操作量下限値出力部、17…記憶部、18…送信部、20…設定値入力部、21…操作量変化幅入力部、22…操作量上限値入力部、23…操作量下限値入力部、24…制御量取得部、25…フィードフォワード加算部、26…フィードバック加算部、27…リミット処理部、28…操作量出力部、29…受信部。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
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図18
図19
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図21
図22
図23
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