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特開2025-37538プライマー塗料組成物、及びガスケット
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  • 特開-プライマー塗料組成物、及びガスケット 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025037538
(43)【公開日】2025-03-18
(54)【発明の名称】プライマー塗料組成物、及びガスケット
(51)【国際特許分類】
   C09D 163/00 20060101AFI20250311BHJP
   B32B 27/30 20060101ALI20250311BHJP
   B32B 27/38 20060101ALI20250311BHJP
   C09D 5/00 20060101ALI20250311BHJP
   C09D 127/14 20060101ALI20250311BHJP
   C09D 127/12 20060101ALI20250311BHJP
   F16J 15/08 20060101ALI20250311BHJP
【FI】
C09D163/00
B32B27/30 D
B32B27/38
C09D5/00 D
C09D127/14
C09D127/12
F16J15/08 J
F16J15/08 C
【審査請求】有
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023144521
(22)【出願日】2023-09-06
(71)【出願人】
【識別番号】000198237
【氏名又は名称】石川ガスケット株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002000
【氏名又は名称】弁理士法人栄光事務所
(72)【発明者】
【氏名】木下 裕一
【テーマコード(参考)】
3J040
4F100
4J038
【Fターム(参考)】
3J040EA15
3J040EA17
3J040EA19
3J040EA43
3J040EA48
3J040FA02
3J040FA05
3J040FA06
3J040FA07
3J040FA11
3J040FA13
3J040HA01
3J040HA16
4F100AA08B
4F100AA08D
4F100AA18C
4F100AA37B
4F100AA37C
4F100AB00A
4F100AB04A
4F100AC10B
4F100AC10D
4F100AH03B
4F100AH03D
4F100AK17B
4F100AK17C
4F100AK18B
4F100AK18D
4F100AK19B
4F100AK19C
4F100AK53B
4F100AK53D
4F100AN02C
4F100BA02
4F100BA04
4F100BA07
4F100CA02B
4F100CC00B
4F100EH46B
4F100EJ69A
4F100GB51
4F100JK09
4F100JL11
4F100YY00B
4J038CD111
4J038CD121
4J038CD131
4J038DB061
4J038DB071
4J038DB261
4J038DB281
4J038MA14
4J038NA12
4J038PB06
4J038PB07
4J038PC02
4J038PC08
(57)【要約】
【課題】基材との密着性に優れ、かつ、耐摩耗性に優れ基材の傷つきを防止することができるプライマー層を与えるプライマー塗料組成物を提供すること、及び、前記プライマー塗料組成物が硬化されてなるプライマー層、及び、前記プライマー層が少なくとも一部に直接形成されてなるガスケットを提供すること。
【解決手段】エポキシ樹脂とフッ素樹脂微粒子とを含有する、プライマー塗料組成物、前記プライマー塗料組成物が硬化されてなるプライマー層、及び、前記プライマー層が少なくとも一部に直接形成されてなる、ガスケット。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
エポキシ樹脂とフッ素樹脂微粒子とを含有する、プライマー塗料組成物。
【請求項2】
前記フッ素樹脂微粒子が、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、テトラフルオロエチレン・パーフルオロアルコキシエチレン共重合体(PFA)、テトラフルオロエチレン・ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)、テトラフルオロエチレン・エチレン共重合体(ETFE)、ポリビニリデンフルオライド(PVDF)、ポリクロロトリフルオロエチレン(PCTFE)及びエチレン・クロロトリフルオロエチレン共重合体(ECTFE)からなる群から選択される少なくとも1種からなる、請求項1に記載のプライマー塗料組成物。
【請求項3】
前記エポキシ樹脂100質量部に対して前記フッ素樹脂微粒子を5~50質量部含有する、請求項1に記載のプライマー塗料組成物。
【請求項4】
前記フッ素樹脂微粒子の平均粒径が3~18μmである、請求項1に記載のプライマー塗料組成物。
【請求項5】
金属材表面に塗布するための、請求項1に記載のプライマー塗料組成物。
【請求項6】
ガスケットの金属材表面に塗布するための、請求項5に記載のプライマー塗料組成物。
【請求項7】
請求項1~6のいずれか1項に記載のプライマー塗料組成物が硬化されてなるプライマー層。
【請求項8】
請求項7に記載のプライマー層が少なくとも一部に直接形成されてなる、ガスケット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はプライマー塗料組成物、前記プライマー塗料組成物が硬化されてなるプライマー層、及び、前記プライマー層が少なくとも一部に直接形成されてなるガスケットに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、金属、ポリマー等の基材に対して層を積層することにより、基材に対して所望の特性を付与することが行われている。作業性の観点から、層の形成には塗料が広く用いられており、塗料に配合される成分により層が発揮する特性は様々である。
【0003】
特許文献1には、無機微細体を含有するエポキシ樹脂からなる塗料を鉄合金体に塗布することにより、塗膜を硬化させるために高温度に加熱しても、幅及び厚さが均一な層が得られることが開示されている。また、特許文献2には、特定のウレタン樹脂、固体潤滑剤及び溶剤を所定の割合で含有する塗料をガスケットに塗布してエラストマーを被覆させることにより、ガスケット本来のシール性を損なわせることなく、相手材へのエラストマー成分の固着を防止することができることが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平10-036764号公報
【特許文献2】特開2012-219183号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
他方、基材への傷が性能に対して大きな影響を及ぼす部材、例えばガスケット等、において、密着性や耐摩耗性に優れるプライマー層を基材に対して設けることは重要である。しかしながら、そのような観点から精緻に設計されたプライマー塗料組成物はほとんど存在しないか、存在したとしても、十分な性能が得られていないのが現状である。
【0006】
本発明の目的は、基材との密着性に優れ、かつ、耐摩耗性に優れ基材の傷つきを防止することができるプライマー層を与えるプライマー塗料組成物を提供することである。また、本発明の別の目的は、前記プライマー塗料組成物が硬化されてなるプライマー層、及び、前記プライマー層が少なくとも一部に直接形成されてなるガスケットを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、鋭意検討を行った結果、エポキシ樹脂とフッ素樹脂微粒子とを含有するプライマー塗料組成物とすることにより、基材との密着性に優れ、かつ、耐摩耗性に優れ基材の傷つきを防止することができるプライマー層が得られることを見出し、本発明を完成するに至った。すなわち、本発明は下記に関する。
【0008】
[1]
エポキシ樹脂とフッ素樹脂微粒子とを含有する、プライマー塗料組成物。
[2]
前記フッ素樹脂微粒子が、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、テトラフルオロエチレン・パーフルオロアルコキシエチレン共重合体(PFA)、テトラフルオロエチレン・ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)、テトラフルオロエチレン・エチレン共重合体(ETFE)、ポリビニリデンフルオライド(PVDF)、ポリクロロトリフルオロエチレン(PCTFE)及びエチレン・クロロトリフルオロエチレン共重合体(ECTFE)からなる群から選択される少なくとも1種からなる、[1]に記載のプライマー塗料組成物。
[3]
前記エポキシ樹脂100質量部に対して前記フッ素樹脂微粒子を5~50質量部含有する、[1]又は[2]に記載のプライマー塗料組成物。
[4]
前記フッ素樹脂微粒子の平均粒径が3~18μmである、[1]~[3]のいずれか1つに記載のプライマー塗料組成物。
[5]
金属材表面に塗布するための、[1]~[4]のいずれか1つに記載のプライマー塗料組成物。
[6]
ガスケットの金属材表面に塗布するための、[5]に記載のプライマー塗料組成物。
【0009】
[7]
[1]~[6]のいずれか1つに記載のプライマー塗料組成物が硬化されてなるプライマー層。
[8]
[7]に記載のプライマー層が少なくとも一部に直接形成されてなる、ガスケット。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、基材との密着性に優れ、かつ、耐摩耗性に優れ基材の傷つきを防止することができるプライマー層を与えるプライマー塗料組成物を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1図1は、実施例及び比較例の評価用サンプルに対する圧縮ねじり試験の結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明のプライマー塗料組成物、前記プライマー塗料組成物が硬化されてなるプライマー層、及び、前記プライマー層が少なくとも一部に直接形成されてなるガスケットについて、詳細に説明する。
なお、本発明は以下に記載する実施態様に限定されるものではない。また、本明細書において、「~」を用いて表現される数値範囲は前後の数値を含むものであり、例えば、「P~Q」は「P以上Q以下」を意味する。
【0013】
<プライマー塗料組成物>
本発明のプライマー塗料組成物は、エポキシ樹脂とフッ素樹脂微粒子とを含有する。これにより、基材との密着性に優れ、かつ、耐摩耗性に優れ基材の傷つきを防止することができるプライマー層を与えるプライマー塗料組成物を提供することができる。
【0014】
[エポキシ樹脂]
本発明のプライマー塗料組成物は、エポキシ樹脂を含有する。エポキシ樹脂の種類には特に制限がないが、1分子中に2個以上のエポキシ基を有するエポキシ樹脂が好ましい。
好ましいエポキシ樹脂の例としては、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂などのビスフェノール型エポキシ樹脂;ナフタレン型エポキシ樹脂;ビフェニル型エポキシ樹脂;フェノールノボラック型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂などのノボラック型エポキシ樹脂;環式脂肪族エポキシ樹脂;グリシジルアミン型樹脂;複素環式エポキシ樹脂;多官能型エポキシ樹脂などが挙げられる。これらは1種のみを用いてもよく、2種以上を併用して用いてもよい。
【0015】
エポキシ樹脂のさらなる具体例としては、ユカレジン RE-1050(吉村油化学株式会社製)、ECOBOND SEW-47S(SNC Chemicals社製)、アデカレジン EM-101-50(株式会社ADEKA製)、アデカレジン EM-0425C(株式会社ADEKA製)、jER1001(三菱ケミカル株式会社製)、jER1004(三菱ケミカル株式会社製)、jER1004F(三菱ケミカル株式会社製)、jER1007(三菱ケミカル株式会社製)、jER4005P(三菱ケミカル株式会社製)、EPICLON1050(DIC株式会社製)、EPICLON3050(DIC株式会社製)、EPICLON4050(DIC株式会社製)、エポトートYD014D(日鉄ケミカル&マテリアル株式会社製)、EPONANYANPES-904(南亜プラスチック社製)などが挙げられる。
【0016】
エポキシ樹脂の軟化点は特に限定されないが、耐熱性の観点から120~200℃が好ましく、140~200℃がより好ましく、150~200℃がさらに好ましい。
また、エポキシ樹脂のエポキシ当量も特に限定されないが、耐摩耗強度の観点から20~60が好ましく、20~50がより好ましく、30~50がさらに好ましい。
【0017】
[フッ素樹脂微粒子]
本発明のプライマー塗料組成物は、フッ素樹脂微粒子を含有する。フッ素樹脂微粒子の種類には特に制限がないが、好ましいフッ素樹脂微粒子の例としては、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、テトラフルオロエチレン・パーフルオロアルコキシエチレン共重合体(PFA)、テトラフルオロエチレン・ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)、テトラフルオロエチレン・エチレン共重合体(ETFE)、ポリビニリデンフルオライド(PVDF)、ポリクロロトリフルオロエチレン(PCTFE)及びエチレン・クロロトリフルオロエチレン共重合体(ECTFE)などが挙げられる。これらは1種のみを用いてもよく、2種以上を併用して用いてもよい。
【0018】
本発明のプライマー塗料組成物において、フッ素樹脂微粒子の含有量には特に制限がなく、プライマー塗料組成物に求められる特性により自由に設定することができる。フッ素樹脂微粒子の含有量としては、エポキシ樹脂100質量部に対してフッ素樹脂微粒子を5~50質量部含有することが好ましく、5~30質量部含有することがより好ましい。
【0019】
プライマー塗料組成物がエポキシ樹脂100質量部に対してフッ素樹脂微粒子を5質量部以上含有すると、得られるプライマー層の耐摩耗性を好ましい範囲まで向上させることができるため、好ましい。また、プライマー塗料組成物がエポキシ樹脂100質量部に対してフッ素樹脂微粒子を50質量部以下含有すると、得られるプライマー層の耐摩耗性と基材への密着性とを好ましい範囲で両立させることができるため、好ましい。
【0020】
フッ素樹脂微粒子の平均粒径には特に制限がなく、プライマー塗料組成物に求められる特性により自由に設定することができる。フッ素樹脂微粒子の平均粒径としては、3~18μmが好ましく、3~10μmがより好ましく、3~8μmがさらに好ましい。
プライマー塗料組成物が含有するフッ素樹脂微粒子の平均粒径が3μm以上であると、得られるプライマー層の耐摩耗性を好ましい範囲まで向上させることができるため、好ましい。また、プライマー塗料組成物が含有するフッ素樹脂微粒子の平均粒径が18μm以下であると、得られるプライマー層の耐摩耗性と基材への密着性とを好ましい範囲で両立させることができるため、好ましい。
【0021】
なお、本明細書でいうフッ素樹脂微粒子の平均粒径とは、体積基準粒度分布の50%粒子径(D50)を指し、レーザ回折/散乱式粒度分布測定装置を用いて測定される粒度分布から求められる。上記フッ素樹脂微粒子の平均粒径は、レーザ回折・散乱法による球相当径で表される。
【0022】
フッ素樹脂微粒子をプライマー塗料組成物に含有させることで、プライマー層の強度が上昇し、摩耗によってプライマー層が消失しにくくなることにより、基材の傷つきを防止することができる。
また、フッ素樹脂微粒子をプライマー塗料組成物に含有させる場合には、基材に形成される塗膜最表面の平滑性への影響が低いため、他の層を形成するための組成物に比して大きな平均粒径のフッ素樹脂微粒子を用いることができる。これにより、本発明のプライマー塗料組成物は、基材の傷つきを防止する点でより優れた効果を発揮することができる。
【0023】
[任意成分]
本発明のプライマー塗料組成物は、エポキシ樹脂とフッ素樹脂微粒子に加えて、その性能を損なわない範囲において、以下の任意成分を含有することができる。
【0024】
(溶剤)
本発明のプライマー塗料組成物は、必要に応じて、溶剤をさらに含有することができる。溶剤の種類には特に制限がなく、好ましい溶剤の例としては、トルエン、キシレン、及びメシチレン等の芳香族系溶剤;プロパノール、ブタノール、プロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル等のアルコール;メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、メチルアミルケトン、イソホロン等のケトン;酢酸エチル、酢酸ブチル等のエステル;等の有機溶剤が挙げられる。溶剤としては、有機溶剤に加えて、水系溶剤を併用してもよい。水系溶剤は、例えば、水、任意の水溶液等の少なくとも1種が挙げられる。溶剤は1種のみを使用してもよく、2種以上を任意の比率及び組み合わせで使用してもよい。
【0025】
本発明のプライマー塗料組成物が溶剤を含有する場合、膜厚確保の観点から、溶剤の含有量はプライマー塗料組成物全体100質量部に対して40~70質量部含有することが好ましく、40~60質量部含有することがより好ましい。
【0026】
(その他の任意成分)
本発明のプライマー塗料組成物は、必要に応じて、その他の任意成分をさらに含有することができる。その他の任意成分の種類には特に制限がないが、好ましい成分の例としては、可塑剤;硬化剤;レベリング剤;消泡剤;顔料分散剤;シランカップリング剤;紫外線吸収剤;酸化防止剤;増粘剤;加硫剤;シリカ、タルク、クレー、マイカ、炭酸カルシウム、酸化マグネシウム、水酸化カルシウム、ウォラストナイト、カーボンブラック等の充填剤;安定剤;ブロッキング防止剤などが挙げられる。これらの任意成分は、1種のみを使用してもよく、2種以上を任意の比率及び組み合わせで使用してもよい。
【0027】
[基材とその用途]
本発明のプライマー塗料組成物は、基材表面に塗布することによりプライマー層を形成することができる。
【0028】
本発明のプライマー塗料組成物が塗布される基材には特に制限がなく、例えば、鉄、鋼、銅、アルミニウム、スズ、亜鉛等の金属及びこれらの金属を含む合金等から選択される金属材;ポリプロピレン樹脂、ポリカーボネート樹脂、ウレタン樹脂、ポリエステル樹脂、ポリスチレン樹脂、ABS樹脂、塩化ビニル樹脂、ポリアミド樹脂等から選択されるプラスチック材などが挙げられる。前記基材は、用途によって適宜選択され得る。
【0029】
金属材は、プライマー塗料組成物を塗布する前に、必要に応じて、三価クロム、六価クロム等によるクロメート処理;リン酸亜鉛処理、ジルコニウム処理等の非クロメート処理などの化成処理;コロナ放電処理、紫外線/オゾン処理、プラズマ処理、酸素プラズマ処理、フレーム処理、溶剤処理などの表面処理が行われていてもよい。
また、プラスチック材は、プライマー塗料組成物を塗布する前に、必要に応じて、コロナ放電処理、紫外線/オゾン処理、プラズマ処理、酸素プラズマ処理、フレーム処理、溶剤処理などの表面処理が行われていてもよい。
【0030】
本発明のプライマー塗料組成物を基材としての金属材表面に塗布すると、基材との密着性に優れ、かつ、耐摩耗性に優れ、基材の傷つきを防止する効果がより顕著に発揮されるため、好ましい。すなわち、本発明のプライマー塗料組成物は、金属材表面に塗布するためのプライマー塗料組成物であることが好ましい。
また、ガスケットとしての強度確保の観点から、金属材としてはステンレス材がより好ましい。
【0031】
本発明のプライマー塗料組成物が塗布される金属材の用途には特に制限がなく、基材への傷が性能に対して大きな影響を及ぼす部材を構成するための金属材であることが好ましい。このような金属材として、例えば、ガスケットの金属材、パッキンの金属材、ねじの金属材、ナットの金属材などが挙げられる。これらのうち、基材への傷が気密性に重大な影響を及ぼすガスケットの金属材又はパッキンの金属材、特に、ガスケットの金属材に対して本発明のプライマー塗料組成物を塗布した場合に、発明の効果をより顕著に発揮することができるため好ましい。
すなわち、本発明のプライマー塗料組成物は、ガスケットの金属材表面に塗布するためのプライマー塗料組成物であることがより好ましい。
【0032】
[プライマー塗料組成物の製造方法]
本発明のプライマー塗料組成物は、任意の方法により製造することができる。製造方法としては、例えば、プライマー塗料組成物が含有する各成分を混合することが挙げられる。各成分の混合には、例えば、ローラーミル、ボールミル、ビーズミル、ペブルミル、サンドグラインドミル、ポットミル、ペイントシェーカー又はディスパーなどの混合機分散機、混錬機などを用いることができる。
【0033】
<プライマー層>
本発明は、上述のプライマー塗料組成物が硬化されてなるプライマー層にも関する。
【0034】
本発明のプライマー層が含有する成分及びその好ましい態様は、上述のプライマー塗料組成物について述べたものと同一である。但し、プライマー塗料組成物が含む成分のうち、溶剤など、プライマー層が形成される際に揮発又は消失する成分は、プライマー層には含まれない。
【0035】
本発明のプライマー層の厚さには特に制限がなく、目的や用途等によって適宜変更することができる。エンジンの水・油・燃焼ガスのシーリングの観点、及び、ガスケットの耐摩耗性を向上させる観点から、プライマー層の厚さは5~20μmが好ましく、10~20μmがより好ましく、15~20μmがさらに好ましい。
【0036】
本発明のプライマー層は、任意の方法により製造することができる。製造方法としては、例えば、本発明のプライマー塗料組成物を噴霧、浸漬、刷毛塗り、ロールコータ等の方法で基材表面に塗布し、それぞれに適した乾燥条件及び/又は焼付条件で乾燥及び/又は焼付け処理して硬化すること;スクリーン印刷等の印刷処理などが挙げられる。
【0037】
<ガスケット>
本発明は、上述のプライマー層が少なくとも一部に直接形成されてなるガスケットにも関する。本発明のガスケットは、ガスケット表面との密着性に優れ、かつ、耐摩耗性に優れガスケット表面の傷つきを防止することができるプライマー層が少なくとも一部に直接形成されているため、耐久性、信頼性及び耐亀裂性に優れ、エンジンへのアタック性が軽減する。
本発明のガスケットに形成されるプライマー層が含有する成分及びその好ましい態様は、上述のプライマー層について述べたものと同一である。また、ガスケットの構成材料及びその好ましい態様は、上述の基材について述べたものと同一である。
【0038】
[さらなる層]
本発明のガスケットは、プライマー層のガスケット側表面とは反対側の表面に対して、さらなる層を含んでいてもよい。さらなる層には特に制限がなく、ガスケットが使用される目的や環境等により適宜選択することができる。さらなる層としては、例えば、ゴム層;潤滑層などを挙げることができる。さらなる層は、1層のみが形成されていてもよく、2層以上の任意の組み合わせで形成されていてもよい。
【0039】
(ゴム層)
ゴム層は、耐熱性向上、ミクロシール性の役割を有することができる。ゴム層は、公知の耐熱性に富むゴムを用いることができる。耐熱性に富むゴムとしては、フッ素ゴム、シリコーンゴムなどの合成ゴムが例示され、フッ素ゴムが好ましい。
【0040】
ゴム層が存在する場合、その厚さには特に制限がなく、目的や用途等によって適宜変更することができる。ゴム層の厚さは、3~15μmであることが好ましい。
【0041】
(潤滑層)
潤滑層は、潤滑性に優れていればよく、公知の固体潤滑剤を用いることができる。固体潤滑剤としては、フッ素樹脂、二硫化モリブデン、および、グラファイトなどの微粒子が例示される。潤滑層は、固体潤滑剤のみで構成することもできるが、下層との密着性を高めるために結合剤としてバインダを用いてもよい。潤滑層は、結合剤としてエポキシ樹脂とフッ素樹脂微粒子との組み合わせで構成されていてもよい。
【0042】
潤滑層が存在する場合、その厚さには特に制限がなく、目的や用途等によって適宜変更することができる。潤滑層の厚さは、5~15μmであることが好ましい。
【0043】
[用途]
本発明のガスケットは耐久性、信頼性及び耐亀裂性に優れ、エンジンへのアタック性を軽減させることができるため、車両のエンジン等の内燃機関;配管などにおいて好適に用いることができる。
【実施例0044】
<製造例1:ベース塗料組成物Aの調製>
ビスフェノールA型エポキシ樹脂(日鉄ケミカル&マテリアル株式会社製、YD-014)100質量部、アミン系硬化剤(ハンツマン社製、ジェファーミンD-230)20質量部、カーボンブラック(キャボット社製、N762)10質量部、タルク(日本タルク株式会社製、P-3)30質量部、炭酸カルシウム(三共製粉株式会社製、エスカロン#2000)20質量部、及びシリカ(日本アエロジル株式会社製、アエロジル#200)10質量部をイソホロンに固形分が30%となるように均一に溶解し、ベース塗料組成物Aを調製した。
【0045】
<製造例2:ベース塗料組成物Bの調製>
フッ素ゴム(フッ化ビニリデン・ヘキサフルオロプロピレン系共重合体)(ケマーズ社製、バイトンA-200)100質量部、カーボンブラック(キャボット社製、N762)20質量部、水酸化カルシウム(近江化学工業株式会社製、カルディック #1000)6質量部、酸化マグネシウム(協和化学工業株式会社製、キョーワマグ150)3質量部、加硫剤(ケマーズ社製、キュラティブ#20)2質量部、加硫剤(ケマーズ社製、キュラティブ#30)4質量部をイソホロンに固形分が30%となるように均一に溶解し、ベース塗料組成物Bを調製した。
【0046】
<製造例3:潤滑層形成用組成物1の調製>
ビスフェノールA型エポキシ樹脂(日鉄ケミカル&マテリアル株式会社製、YD-014)100質量部、アミン系硬化剤(ハンツマン社製、ジェファーミンD-230)20質量部、カーボンブラック(キャボット社製、N762)5質量部、タルク(日本タルク株式会社製、P-3)15質量部、炭酸カルシウム(三共製粉株式会社製、エスカロン#2000)10質量部、及びフッ素樹脂微粒子(ポリテトラフルオロエチレン(PTFE、平均粒径:6μm、マイクロパウダー社製、Fluo300))100質量部をイソホロンに固形分が30%となるように均一に溶解し、潤滑層形成用組成物1を調製した。
【0047】
<製造例4:ゴム層形成用組成物1の調製>
ベース塗料組成物B100質量部に対してフッ素樹脂微粒子(ポリテトラフルオロエチレン(PTFE、平均粒径:6μm、マイクロパウダー社製、Fluo300))20質量部を添加したのち均一に混合し、ゴム層形成用組成物1を調製した。
【0048】
<実施例1:プライマー塗料組成物1の調製>
ベース塗料組成物A100質量部に対してフッ素樹脂微粒子(ポリテトラフルオロエチレン(PTFE、平均粒径:6μm、マイクロパウダー社製、Fluo300))を添加したのち均一に混合し、プライマー塗料組成物1を調製した。フッ素樹脂微粒子の含有量は、ビスフェノールA型エポキシ樹脂100質量部に対して20質量部であった。
【0049】
<比較例1:プライマー塗料組成物2の調製>
フッ素樹脂微粒子を加えず、ベース塗料組成物Aをそのままプライマー塗料組成物2とした。
【0050】
<実施例2-1:ガスケット1の製造>
平板状の基材(ステンレスSUS301Hをクロメート処理したもの;寸法100mm×100mm×0.2mm)上に、プライマー塗料組成物1をスクリーン印刷機により印刷し、厚さ10.5μmのプライマー層を形成した。得られたプライマー層上に、ゴム層形成用組成物1を前記スクリーン印刷機により印刷し、厚さ7.5μmのゴム層を形成した。得られたゴム層上に、潤滑層形成用組成物1を前記スクリーン印刷機により印刷し、厚さ10.0μmの潤滑層を形成し、ガスケット1を得た。得られたガスケット1は、基材側からプライマー層、ゴム層及び潤滑層の順に積層されており、基材を除く層全体の厚さは28.0μmであった。
【0051】
<実施例2-2:ガスケット2の製造>
プライマー層の厚さを17.5μm、ゴム層の厚さを7.5μm、潤滑層の厚さを7.5μmとした以外は実施例2-1と同様の方法により、ガスケット2を得た。得られたガスケット2は、基材側からプライマー層、ゴム層及び潤滑層の順に積層されており、基材を除く層全体の厚さは32.5μmであった。
【0052】
<比較例2:ガスケット3の製造>
平板状の基材(ステンレスSUS301Hをクロメート処理したもの;寸法100mm×100mm×0.2mm)上に、プライマー塗料組成物2をスクリーン印刷機により印刷し、厚さ11.5μmのプライマー層を形成した。得られたプライマー層上に、ゴム層形成用組成物1を前記スクリーン印刷機により印刷し、厚さ13.5μmのゴム層を形成した。得られたゴム層上に、潤滑層形成用組成物1を前記スクリーン印刷機により印刷し、厚さ10.0μmの潤滑層を形成し、ガスケット3を得た。得られたガスケット3は、基材側からプライマー層、ゴム層及び潤滑層の順に積層されており、基材を除く層全体の厚さは35.0μmであった。
【0053】
<ガスケットの評価:圧縮ねじり試験>
得られたガスケットの潤滑層上にリング状の試験治具(アルミ系合金A2618;直径φ:60mm、中空部の直径φ:30mm、厚さ:30mm;当社加工)を戴置して評価用サンプルとし、圧縮ねじり試験機(株式会社島津製作所製)にセットした。評価用サンプルに対して温度200℃で200MPaの荷重がかかるように圧縮ねじり試験機を設定し、角度1度の範囲で10HZにて繰り返し摺動させる試験を行った。18000サイクル後に評価用サンプルから試験治具を外し、評価用サンプル表面を目視で観察することにより下記のとおり評価した。なお、下記の評価に当たり、評価用サンプル表面に樹脂層が残存している場合には、少なくともプライマー層が基材に密着した状態で残存していると判断した。結果を表1に示す。
A(良い):基材表面の75%以上(面積比)にプライマー層が残存している
B(問題ない):基材表面の50%以上75%未満(面積比)にプライマー層が残存している
C(悪い):基材表面の50%未満(面積比)にプライマー層が残存している
【0054】
また、圧縮ねじり試験におけるサイクル数と摩擦係数との関係を図1に示す。
【0055】
【表1】
【0056】
表1に示すとおり、本発明によるプライマー塗料組成物を用いた実施例2-1及び2-2のガスケットから作成された評価用サンプルは、圧縮ねじり試験後でもプライマー層の残存性が高かった。このことから、実施例2-1及び2-2のガスケットに含まれるプライマー層は、基材との密着性に優れ、かつ、耐摩耗性に優れ基材の傷つきを防止することができることがわかった。これに対し、本発明とは異なるプライマー塗料組成物を用いた比較例2のガスケットから作成された評価用サンプルは、圧縮ねじり試験後の残存性が低かった。
【0057】
また、図1に示すとおり、本発明によるプライマー塗料組成物を用いた実施例2-1及び2-2のガスケットから作成された評価用サンプルは、摩擦係数が上昇に転じるまでに要するサイクル数が多く、これに対して、本発明とは異なるプライマー塗料組成物を用いた比較例2のガスケットから作成された評価用サンプルは、比較的少ないサイクル数で摩擦係数が上昇に転じた。評価用サンプルの摩擦係数は、フッ素樹脂微粒子が基材と試験治具との間に残存している間は低い値に保たれ、これが失われると上昇に転じる。このため、摩擦係数が上昇に転じるまでに要するサイクル数が多い評価用サンプルほど、基材との密着性に優れ、かつ、耐摩耗性に優れ基材の傷つきを防止することができることを意味する。特に、本発明によるプライマー塗料組成物を用いたプライマー層が厚い実施例2-2のガスケットから作成された評価用サンプルは、摩擦係数が上昇に転じるまでのサイクル数が非常に多いことがわかった。
【産業上の利用可能性】
【0058】
本発明のプライマー塗料組成物は、基材との密着性に優れ、かつ、耐摩耗性に優れ基材の傷つきを防止することができるプライマー層が得られるため、例えばガスケットのプライマー層を形成するために好適に利用することができる。
図1
【手続補正書】
【提出日】2024-10-04
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
エポキシ樹脂とフッ素樹脂微粒子とを含有し、かつ、フェノール樹脂を含有しない、
ガスケットの金属材表面に塗布するための、プライマー塗料組成物。
【請求項2】
前記フッ素樹脂微粒子が、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、テトラフルオロエチレン・パーフルオロアルコキシエチレン共重合体(PFA)、テトラフルオロエチレン・ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)、テトラフルオロエチレン・エチレン共重合体(ETFE)、ポリビニリデンフルオライド(PVDF)、ポリクロロトリフルオロエチレン(PCTFE)及びエチレン・クロロトリフルオロエチレン共重合体(ECTFE)からなる群から選択される少なくとも1種からなる、請求項1に記載のプライマー塗料組成物。
【請求項3】
前記エポキシ樹脂100質量部に対して前記フッ素樹脂微粒子を5~50質量部含有する、請求項1に記載のプライマー塗料組成物。
【請求項4】
前記フッ素樹脂微粒子の平均粒径が3~18μmである、請求項1に記載のプライマー塗料組成物。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか1項に記載のプライマー塗料組成物が硬化されてなるプライマー層が少なくとも一部に直接形成されてなる、ガスケット