(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025038239
(43)【公開日】2025-03-18
(54)【発明の名称】電磁波遮蔽材料
(51)【国際特許分類】
H05K 9/00 20060101AFI20250311BHJP
【FI】
H05K9/00 W
【審査請求】有
【請求項の数】1
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024230376
(22)【出願日】2024-12-26
(62)【分割の表示】P 2021561571の分割
【原出願日】2020-11-27
(31)【優先権主張番号】P 2019215451
(32)【優先日】2019-11-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2020111760
(32)【優先日】2020-06-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000004503
【氏名又は名称】ユニチカ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【弁理士】
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100221501
【弁理士】
【氏名又は名称】式見 真行
(74)【代理人】
【識別番号】100197583
【弁理士】
【氏名又は名称】高岡 健
(72)【発明者】
【氏名】竹田 裕孝
(57)【要約】 (修正有)
【課題】本発明は、数十GHzの高周波領域(特に準ミリ波およびミリ波)における電磁波遮蔽性、特に電磁波吸収性に優れた電磁波遮蔽材料を提供する。
【解決手段】本発明は、鉄とニッケルとから構成されるナノワイヤーを含む電磁波遮蔽材料に関する。ナノワイヤーにおける鉄とニッケルの質量比率(鉄/ニッケル)が20/80~65/35である電磁波遮蔽材料。さらに誘電体を含む。誘電体がバインダーである。ナノワイヤーと前記誘電体の合計に対するナノワイヤーの割合が10質量%以上65質量%未満である。ナノワイヤーと前記誘電体の合計に対する前記ナノワイヤーの割合が40質量%以上60質量%以下である。体積抵抗率が10-2Ω・cm以上である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉄とニッケルとから構成されるナノワイヤーを含む電磁波遮蔽材料。
【請求項2】
前記ナノワイヤーにおける鉄とニッケルの質量比率(鉄/ニッケル)が20/80~65/35である請求項1に記載の電磁波遮蔽材料。
【請求項3】
さらに誘電体を含む請求項1または2に記載の電磁波遮蔽材料。
【請求項4】
誘電体がバインダーである請求項3に記載の電磁波遮蔽材料。
【請求項5】
前記ナノワイヤーと前記誘電体の合計に対する前記ナノワイヤーの割合が10質量%以上65質量%未満である請求項3または4に記載の電磁波遮蔽材料。
【請求項6】
前記ナノワイヤーと前記誘電体の合計に対する前記ナノワイヤーの割合が40質量%以上60質量%以下である請求項3または4に記載の電磁波遮蔽材料。
【請求項7】
体積抵抗率が10-2Ω・cm以上である請求項1~6いずれかに記載の電磁波遮蔽材料。
【請求項8】
請求項1~7いずれかに記載の電磁波遮蔽材料を含む分散液。
【請求項9】
請求項1~7いずれかに記載の電磁波遮蔽材料を含むシート。
【請求項10】
請求項1~7いずれかに記載の電磁波遮蔽材料を含むフィルム。
【請求項11】
請求項1~7いずれかに記載の電磁波遮蔽材料を含む電子部品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、数十GHzの高周波領域の電磁波遮蔽性、特に電磁波吸収性に優れた電磁波遮蔽材料に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、第5世代移動通信システムや先進運転支援システムにおいて、準ミリ波やミリ波領域の電波の利用が急速に進んでいる。第5世代移動通信システムでは、n257(26.50-29.50GHz)、n258(24.25-27.50GHz)、n259(39.5-43.50GHz)、n260(37.00-40.00GHz)、n261(27.50-28.35GHz)などの周波数の電波を使い無線通信を行う。先進運転支援システムの一部であるミリ波レーダーでは、24GHz帯狭帯域レーダシステムとして24.05-24.25GHz、24GHz/26GHz帯UWBレーダシステムとして24.25-29.0GHz、60GHz帯ミリ波レーダシステムとして60.0-61.0GHz、76GHz帯ミリ波レーダシステムとして76.0-77.0GHz、79GHz帯高分解能レーダシステムとして77.0-81.0GHzの周波数の電波ビームを使い自車周辺のセンシングを行う。これら第5世代移動通信システムや、先進運転支援システムのミリ波レーダーの電子部品はこれまでと異なり、準ミリ波やミリ波領域の電波を含むノイズの発生や影響を抑制するため、それに適した電磁波遮蔽材料が切望されている。
【0003】
従来、電子機器類のEMC(電磁両立性)はメタルケース等の導電体で装置自体を覆うのが主流であった。しかし、第5世代移動通信システムや先進運転支援システムにおける準ミリ波およびミリ波の利用や、電子部品の小型化や高集積化などにより、装置等内部で発生したノイズにより半導体等の電子部品の特性低下が起こる自家中毒(イントラEMC)と呼ばれる現象が問題となっている。自家中毒の抑制には従来の導電体ではなく、電波を吸収する材料が望まれている。
【0004】
準ミリ波やミリ波帯を吸収する電磁波遮蔽材料(電波吸収体)としては、メタマテリアル電波吸収体が公知であるが、吸収可能な周波数帯が0.1GHz未満と非常に狭く、第5世代移動通信システムや先進運転支援システムのミリ波レーダーなど広い帯域を使い大容量の無線通信を行うシステムには不適であった。また、引用文献1に、ニッケルナノワイヤーを用いた電磁波遮蔽材料が開示されている。しかしながら、引用文献1の電磁波遮蔽材料は、その遮蔽性能が不十分であり、特に電波の吸収に課題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、数十GHzの高周波領域(特に準ミリ波領域およびミリ波領域)における電磁波遮蔽性、特に電磁波吸収性に優れた電磁波遮蔽材料を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、鉄とニッケルから構成されるナノワイヤーを含む材料が、上記目的を達成することを見出し、本発明に到達した。
【0008】
すなわち、本発明の要旨は以下のとおりである。
(1) 鉄とニッケルとから構成されるナノワイヤーを含む電磁波遮蔽材料。
(2) 前記ナノワイヤーにおける鉄とニッケルの質量比率(鉄/ニッケル)が20/80~65/35である(1)に記載の電磁波遮蔽材料。
(3) さらに誘電体を含む(1)または(2)に記載の電磁波遮蔽材料。
(4) 誘電体がバインダーである(3)に記載の電磁波遮蔽材料。
(5) 前記ナノワイヤーと前記誘電体の合計に対する前記ナノワイヤーの割合が10質量%以上65質量%未満である(3)または(4)に記載の電磁波遮蔽材料。
(6) 前記ナノワイヤーと前記誘電体の合計に対する前記ナノワイヤーの割合が40質量%以上60質量%以下である(3)または(4)に記載の電磁波遮蔽材料。
(7) 体積抵抗率が10-2Ω・cm以上である(1)~(6)いずれかに記載の電磁波遮蔽材料。
(8) (1)~(7)いずれかに記載の電磁波遮蔽材料を含む分散液。
(9) (1)~(7)いずれかに記載の電磁波遮蔽材料を含むシート。
(10) (1)~(7)いずれかに記載の電磁波遮蔽材料を含むフィルム。
(11) (1)~(7)いずれかに記載の電磁波遮蔽材料を含む電子部品。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、数十GHzの高周波領域(特に準ミリ波領域およびミリ波領域における電磁波遮蔽性、特に電磁波吸収性に優れた電磁波遮蔽材料を提供することができる。
本発明の電磁波遮蔽材料は、第5世代移動通信システムや、先進運転支援システムなどの電子部品等で好適に用いることできる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】実施例1のKバンドにおける電磁波吸収性を示した図面である。
【
図2】実施例1のKaバンドにおける電磁波吸収性を示した図面である。
【
図3】実施例1のUバンドにおける電磁波吸収性を示した図面である。
【
図4】実施例1のEバンドにおける電磁波吸収性を示した図面である。
【
図5】実施例1のKバンドにおける電磁波遮蔽性を示した図面である。
【
図6】実施例1のKaバンドにおける電磁波遮蔽性を示した図面である。
【
図7】実施例1のUバンドにおける電磁波遮蔽性を示した図面である。
【
図8】実施例1のEバンドにおける電磁波遮蔽性を示した図面である。
【
図9】実施例5のKバンドにおける電磁波吸収性を示した図面である。
【
図10】実施例5のKaバンドにおける電磁波吸収性を示した図面である。
【
図11】実施例5のUバンドにおける電磁波吸収性を示した図面である。
【
図12】実施例5のEバンドにおける電磁波吸収性を示した図面である。
【
図13】実施例5のKバンドにおける電磁波遮蔽性を示した図面である。
【
図14】実施例5のKaバンドにおける電磁波遮蔽性を示した図面である。
【
図15】実施例5のUバンドにおける電磁波遮蔽性を示した図面である。
【
図16】実施例5のEバンドにおける電磁波遮蔽性を示した図面である。
【
図17】比較例2のKバンドにおける電磁波吸収性を示した図面である。
【
図18】比較例2のKaバンドにおける電磁波吸収性を示した図面である。
【
図19】比較例2のUバンドにおける電磁波吸収性を示した図面である。
【
図20】比較例2のEバンドにおける電磁波吸収性を示した図面である。
【
図21】比較例2のKバンドにおける電磁波遮蔽性を示した図面である。
【
図22】比較例2のKaバンドにおける電磁波遮蔽性を示した図面である。
【
図23】比較例2のUバンドにおける電磁波遮蔽性を示した図面である。
【
図24】比較例2のEバンドにおける電磁波遮蔽性を示した図面である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の電磁波遮蔽材料は、鉄とニッケルとから構成されるナノワイヤーを含む。
【0012】
本発明において、電磁波遮蔽(シールド)性とは、電磁波を反射する性能(電磁波反射性)と電磁波を吸収する性能(電磁波吸収性)をいずれも考慮した性能である。電磁波反射性とは、電磁波の入射面方向に電磁波を反射することで対面への電磁波の透過を抑制する性能を意味する。電磁波吸収性とは、電磁波のエネルギーを磁性、熱に変換し、対面への透過する電磁波を抑制する性能を意味する。電磁波遮蔽性と電磁波吸収性は、フリースペース法にて測定することができる。本明細書中、数十GHzの高周波数帯とは、18~110GHz(特に24.05~81.0GHz)の周波数域を意味する。準ミリ波とは、20~30GHzの周波数帯を意味する。ミリ波とは、30~300GHzの周波数帯を意味する。
【0013】
本発明に用いるナノワイヤーは、平均径が1μm未満の繊維状物である。ナノワイヤーは、電磁波遮蔽材料の製造しやすさや、電磁波遮蔽性、特に電磁波吸収性のさらなる向上の観点から、平均径は50~900nm、平均長は5μm以上(特に10μm以上)であることが好ましく、平均径は70~700nm、平均長は15~500μmであることがより好ましい。本発明に用いるナノワイヤーのアスペクト比は通常、10以上(特に50以上)であり、電磁波遮蔽性(特に電磁波吸収性)のさらなる向上の観点から、好ましくは10~1000であり、より好ましくは50~500である。
【0014】
本明細書中、ナノワイヤーのアスペクト比は、SEM(走査型電子顕微鏡)で撮影した画像から各ナノワイヤーの長軸(長さ)/短軸(径)の値を算出し、100本の値の平均値を用いた。
【0015】
ナノワイヤーを構成する鉄とニッケルのモルフォロジーは特に限定されないが、例えば、鉄とニッケルがランダムに配された構造、鉄の周りにニッケルが配された芯鞘構造、ニッケルの周りに鉄が配された芯鞘構造、鉄粒子とニッケル粒子の粒子連鎖構造が挙げられる。中でも、電磁波遮蔽性、特に電磁波吸収性向上の観点から、鉄とニッケルがランダムに配された構造が好ましい。
【0016】
ナノワイヤーにおける鉄とニッケルの質量比率(鉄/ニッケル)は特に限定されない。電磁波を吸収するには磁性材料が有利であり、そのため、鉄とニッケルの質量比率は20/80~65/35であることが好ましく、より好ましくは20/80~50/50であり、さらに好ましくは20/80~40/60であり、特に好ましくは20/80~30/70であり、さらに透磁率が高くなるため、パーマロイAの質量比(鉄:ニッケル=21.5:78.5(質量比率))が最も好ましい。
【0017】
本発明に用いるナノワイヤーの製造方法は特に限定されないが、例えば、反応溶液中で鉄塩とニッケル塩を還元しナノワイヤー分散液を作製し、その後、ナノワイヤーを回収する方法が挙げられる。
【0018】
反応溶液中で鉄塩とニッケル塩を還元しナノワイヤー分散液を作製する方法としては、例えば、陽電子酸化膜を用いた電解法や液相還元法が挙げられる。液相還元法とは、反応溶液中で、磁場をかけながら、鉄塩とニッケル塩を還元し、分散液を得る方法である。中でも、比較的安価に製造することができることから、後者の方法が好ましい。
【0019】
鉄塩とニッケル塩は、塩化物、酢酸物が好ましく、得られる分散液の分散性の観点から、塩化物がより好ましい。具体的には、鉄塩は、塩化鉄(II)、塩化鉄(II)四水和物が好ましく、ニッケル塩は、塩化ニッケル、塩化ニッケル六水和物が好ましい。
【0020】
反応溶液中の鉄塩とニッケル塩の合計濃度は、10~1000μmol/gとすることが好ましく、得られるナノワイヤーの形状制御や収率向上の観点から、10~500μmol/gとすることがより好ましく、15~85μmol/gとすることがさらに好ましい。
【0021】
反応溶液には、得られるナノワイヤーの形状制御や収率向上の観点から、クエン酸塩を添加することが好ましい。クエン酸塩の添加量は、鉄塩とニッケル塩の合計に対して0.5~5mol%とすることが好ましく、0.5~3mol%とすることがより好ましい。
【0022】
反応溶液に用いる反応溶媒は、極性の高い反応溶媒が好ましく、例えば、水、アルコール、グリコール等が挙げられる。還元反応の温度や発生ガスに対して安定であることから、沸点および粘度の高いエチレングリコールが好ましい。
【0023】
本発明において、還元反応の溶液の液性は重要であり、酸性から中性の領域では還元反応が進行せず、ナノワイヤーが生成しない。そのため、還元反応の溶液の液性は、アルカリ性であることが必要である。溶液の液性は、アルカリ性の化合物の添加により調整すればよく、具体的には、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等のアルカリ性化合物を添加することにより調整すればよい。アルカリ性化合物の添加量は、鉄塩とニッケル塩の合計1molに対して、1mol以下とすることが好ましく、鉄塩およびニッケル塩の還元反応性や、得られるナノワイヤーの形状制御や収率向上の観点から、0.2~1molとすることが好ましく、0.5~0.8molとすることがより好ましい。アルカリ性化合物は、反応溶媒に溶解していることが好ましい。
【0024】
水酸化ナトリウム、水酸化カリウムを添加すると、各塩から生じる鉄イオンやニッケルイオンと反応し、鉄とニッケルを含む塩の共沈物が発生する。共沈物は還元しにくいため、還元反応が著しく遅延したり、鱗片状や不定形の粒子が生成したりする等の問題が生じる。本発明においては、共沈物を再溶解するため、アンモニアを添加しアンミン錯体化することが好ましい。アンモニアの添加量は、アルカリ性化合物1molに対して3~30molとすることが好ましく、鉄イオンおよびニッケルイオンの還元反応性や、得られるナノワイヤーの形状制御や収率向上の観点から、10~30molとすることが好ましく、20~30molとすることがより好ましい。アンモニアは、取扱い等の観点からアンモニア水での添加が好ましい。
【0025】
還元反応は、還元剤を用いておこなう。還元剤としては、例えば、ヒドラジン、ヒドラジン一水和物が挙げられる。次亜リン酸等のリン系還元剤やジメチルアミノボラン等のホウ素系還元剤等のヒドラジン類以外の還元剤を用いた場合、ナノワイヤーが得られない場合がある。
【0026】
還元剤としてヒドラジン一水和物を用いる場合、鉄イオンおよびニッケルイオンの還元反応性や、得られるナノワイヤーの形状制御や収率向上観点から、その濃度は、鉄塩とニッケル塩の合計1molに対して、1~20molとすることが好ましく、2~10molとすることがより好ましく、2~4molとすることがさらに好ましく、2.5~3.5molとすることが特に好ましい。還元反応時の、ニッケル塩、鉄塩、クエン酸塩、アンモニア、還元剤等の添加順序は、還元剤を最後に添加する限り添加順序は特に限定されない。
【0027】
還元反応時に、磁場を印加することにより、ナノワイヤーを得ることができる。磁場を印加する方法としてはネオジム磁石で作る磁気回路程度で印加すればよく、その強度は100mT程度が好ましく、特に100~200mTが好ましい。
【0028】
還元反応の温度および反応時間は、還元反応が進行する限り特に限定されない。例えば、ヒドラジン、ヒドラジン一水和物等のヒドラジン類を還元剤として用いる場合、還元反応の温度は、鉄イオンおよびニッケルイオンの還元反応性や、ナノワイヤーへの形状制御や収率向上の観点から、70~100℃とすることが好ましく、80~100℃とすることがより好ましく、80~95℃とすることがさらに好ましい。また、還元時間は、鉄イオンおよびニッケルイオンの還元反応性や、ナノワイヤーへの形状制御や収率向上の観点から、30分以上とすることが好ましく、60分以上とすることがより好ましい。
【0029】
還元反応後、ナノワイヤー分散液を濾過やデカンテーション等をおこなうことによりナノワイヤーを精製回収することができ、好ましくは濾過により精製回収することができる。濾過の方法としては、吸引濾過、加圧濾過等が挙げられる。
【0030】
濾過に用いるフィルターは、アルカリ性溶媒や極性溶媒が用いることができるフィルターであれば特に限定されない。フィルターは、ポリフッ化ビニリデン樹脂(PVDF)等の疎水性フィルターであっても、アルコール等で濾過面を湿潤させておけば用いることができる。フィルターの孔径は、ナノワイヤー長より小さいものであれば特に限定されず、具体的には10μm以下であることが好ましい。
【0031】
精製回収したナノワイヤーに、さらに誘電体を混合することにより、本発明の電磁波遮蔽材料を得ることができる。詳しくは、本発明の電磁波遮蔽材料は、誘電体中において、ナノワイヤーが分散および含有されている。誘電体としては、導電体および半導体の化合物以外の化合物が挙げられ、エポキシ樹脂、アクリル樹脂、スチレン樹脂、ポリエステル樹脂、アルキド樹脂、フェノール樹脂、ウレタン樹脂、ポリアミド樹脂、ポリイミド樹脂、シリコーン樹脂、フッ素樹脂、エラストマー、ゴム(特に天然ゴム)等の有機材料;およびセラミック等の無機材料が挙げられる。誘電体は、バインダーとしての効果も有する。ナノワイヤーに誘電体を混合することにより、成形することができるようになり、電磁波遮蔽体とすることができる。これらの中でエポキシ樹脂、シリコーン樹脂、フッ素樹脂、セラミックなどは耐熱性に優れ、吸湿性が低いため好ましく、さらにエポキシ樹脂、シリコーン樹脂は電子部品との密着性に優れるため好ましい。誘電体は、電磁波遮蔽材料の電磁波遮蔽性(特に電磁波吸収性)のさらなる向上の観点から、好ましくはスチレン樹脂、シリコーン樹脂、エポキシ樹脂であり、より好ましくはスチレン樹脂、シリコーン樹脂であり、さらに好ましくはスチレン樹脂である。なお、樹脂はポリマーを含む概念で用いている。
【0032】
本発明の電磁波遮蔽材料におけるナノワイヤーと誘電体の質量比率(ナノワイヤー/誘電体)は特に限定されず、通常は10/90~95/10であり、電磁波遮蔽性(特に電磁波吸収性)のさらなる向上の観点から、好ましくは10/90~90/10であり、より好ましくは10/90以上65/35未満であり、さらに好ましくは40/60~60/40である。前記質量比率は、電磁波を反射または吸収により遮蔽するかにより適宜変更することができる。
【0033】
ナノワイヤーと誘電体の合計に対するナノワイヤーの割合を10質量%以上65質量%未満とした場合、誘電体の材料を得ることができる。具体的には、得られる材料の体積抵抗率を10-2Ω・cm以上(特に4.4×106Ω・cm以上)とすることができる。このような材料は、主に電磁波を吸収することにより遮蔽することができる。通常、ナノワイヤーの比率が許容範囲内で高いほど電磁波遮蔽性(特に電磁波吸収性)に関する性能は高くなるが、加工性が悪くなり、ポッティングやデッピング、スクリーン印刷などに加工手段が限定される可能性があり、ナノワイヤーの比率を低くするとダイコーター、スプレーコートなどの各種コーティングや転写、プレス成型などが可能となる。電磁波遮蔽性(特に電磁波吸収性)と加工性とのバランスの観点から、ナノワイヤーの割合はナノワイヤーと誘電体の合計に対して40質量%以上60質量%以下であることが好ましい。
【0034】
ナノワイヤーと誘電体の合計に対するナノワイヤーの割合を65質量%以上90質量%以下とした場合、導電体を得ることができる。具体的には、得られる材料の体積抵抗率を10-2Ω・cm未満とすることができる。ナノワイヤーと誘電体の合計に対するナノワイヤーの割合は、80質量%以上90質量%以下とすることがより好ましい。このような材料は、主に電磁波を反射することにより遮蔽することができる。
【0035】
本発明の電磁波遮蔽材料には、本発明の効果を損なわない範囲において、フィラー、柔軟化剤、酸化防止剤、タック性付与剤等を含有させてもよい。本発明の電磁波遮蔽材料は硬化剤(または架橋剤)により硬化(または架橋)されていてもよい。
【0036】
本発明の電磁波遮蔽材料は、鉄ニッケルナノワイヤーと誘電体を混合することで製造できる。混合方法は特に限定されないが、例えば、溶媒等を用いて遊星ミキサーで混合し、電磁波遮蔽材料を含む分散液とし、それを成形する方法が挙げられる。
【0037】
詳しくは、例えば、誘電体が有機材料の場合、有機材料を含む溶媒に鉄ニッケルナノワイヤーを分散させて分散液とし、分散液を塗布し、溶媒を乾燥することにより、本発明の電磁波遮蔽材料を得ることができる。分散液中、有機材料は溶解されていてもよいし、または分散されていてもよい。有機材料として、当該有機材料を形成し得るモノマー(特に重合性モノマー)を用いてもよく、この場合、分散液を塗布した後、重合(または硬化)させればよい。この場合、分散液は溶媒を含まなくてもよい。分散液はペーストとして用いることもできる。上記した分散液やペーストを板状のテンプレートに充填し、硬化させることでシートを得ることができる。
【0038】
また例えば、誘電体が有機材料の場合、有機材料および鉄ニッケルナノワイヤーを溶融および混合し、成形することにより、本発明の電磁波遮蔽材料を得ることができる。
【0039】
また例えば、誘電体が無機材料の場合、無機材料および鉄ニッケルナノワイヤーを溶媒とともに混合し、混合物を成形および焼結することにより、本発明の電磁波遮蔽材料を得ることができる。
【0040】
本発明は電磁波遮蔽材料を含む分散液も提供する。電磁波遮蔽材料を含む分散液とは、本発明の電磁波遮蔽材料を製造することができる分散液のことである。当該分散液は、本発明の電磁波遮蔽材料を構成する鉄ニッケルナノワイヤーおよび溶媒ならびに所望により誘電体(例えば有機材料または当該有機材料を形成し得るモノマー(特に重合性モノマー))を含む。溶媒としては、ナノワイヤーの分散液の分野で使用されているあらゆる溶媒が使用可能であり、例えば、トルエン、キシレン、メチルエチルケトン等の有機溶媒が挙げられる。当該分散液は、有機材料として、当該有機材料を形成し得るモノマー(特に重合性モノマー)を用いる場合、溶媒を含まなくてもよい。
【0041】
本発明の電磁波遮蔽材料の形状は特に限定されないが、例えば、シートやフィルムが挙げられる。また、本発明の電磁波遮蔽材料は、半導体等の各種電子部品の塗膜としても用いることができる。シートおよびフィルムは1μm~5mmの厚みを有していてもよい。塗膜は1~500μmの厚みを有していてもよい。
【0042】
本発明の電磁波遮蔽材料(特にナノワイヤーと誘電体の合計に対するナノワイヤーの割合が10質量%以上65質量%未満である本発明の電磁波遮蔽材料)は、18GHz以上の周波数において、電磁波(電波)を吸収することもできる。詳しくは、18GHz以上の周波数の電磁波として、以下のいずれかの周波数域において平均15dB以上の吸収を有することが好ましく、さらにこれらの領域において、3帯域以上の複数の周波数帯を吸収できることが好ましい。また吸収率としては15dB以上であれば97%の電波の電力を吸収することができるため好ましく、20dBであれば99%吸収することができるため、さらに好ましい。
(周波数域)
・第5世代移動通信システムでは、日本、韓国で使用されるn257(26.50-29.50GHz)、EUで使用されるn258(24.25-27.50GHz)、アメリカ、中国で使用されるn259(39.5-43.50GHz)、n260(37.00-40.00GHz)、n261(27.50-28.35GHz);および
・先進運転支援システムの一部であるミリ波レーダーでは、24GHz帯狭帯域レーダシステムとして24.05-24.25GHz、24GHz/26GHz帯UWBレーダシステムとして24.25-29.0GHz、60GHz帯ミリ波レーダシステムとして60.0-61.0GHz、76GHz帯ミリ波レーダシステムとして76.0-77.0GHz、79GHz帯高分解能レーダシステムとして77.0-81.0GHz。
【0043】
本発明の電磁波遮蔽材料を用いた部品の電磁波遮蔽性は、用途に適した吸収率、遮蔽率を設計すればよい。遮蔽率は10dBで電磁波の電力を90%遮蔽することができ、15dBで97%、20dBで99%、25dBで99.7%、30dBで99.9%遮蔽することができる。
【0044】
本発明の電磁波遮蔽材料は、ナノワイヤーの割合をナノワイヤーと誘電体の合計に対して40質量%以上60質量%以下とすることにより、以下の周波数帯において、平均で15dB以上、特に20dB以上の吸収を示すことができる:
・n257(26.50-29.50GHz);
・n261(27.50-28.35GHz);および
・79GHz帯高分解能レーダシステムとしての77.0-81.0GHz。
【0045】
本発明のシートの電磁波吸収性や電磁波遮蔽性は、磁界中で処理することで、変化させることができる。例えば、磁界中で本発明の電磁波遮蔽材料を再溶融させ、成型することにより、吸収率が低かった周波数帯の吸収率を上げることができる。
【0046】
本発明の一実施態様において、本発明の電磁波遮蔽材料は、18GHz以上の周波数において、電磁波を吸収性する。詳しくは、以下の通りである。
本発明の電磁波遮蔽材料は、26.5から29.5GHzの周波数の電磁波を平均10dB以上吸収することができる。
本発明の電磁波遮蔽材料は、24.5から27.5GHzの周波数の電磁波を平均10dB以上吸収することができる。
本発明の電磁波遮蔽材料は、39.5から43.5GHzの周波数の電磁波を平均10dB以上吸収することができる。
本発明の電磁波遮蔽材料は、37.0から40.0GHzの周波数の電磁波を平均10dB以上吸収することができる。
本発明の電磁波遮蔽材料は、27.5から28.35GHzの周波数の電磁波を平均10dB以上吸収することができる。
本発明の電磁波遮蔽材料は、24.05から24.25GHzの周波数の電磁波を平均10dB以上吸収することができる。
本発明の電磁波遮蔽材料は、24.25から29.0GHzの周波数の電磁波を平均10dB以上吸収することができる。
本発明の電磁波遮蔽材料は、60.0から61.0GHzの周波数の電磁波を平均10dB以上吸収することができる。
本発明の電磁波遮蔽材料は、76.0から77.0Hzの周波数の電磁波を平均10dB以上吸収することができる。
本発明の電磁波遮蔽材料は、77.0から81.0GHzの周波数の電磁波を平均10dB以上吸収することができる。
【0047】
本発明の別の一実施態様において、本発明の電磁波遮材料は、厚み1mmシートに加工した際、18~110GHzの周波数における電磁波吸収性の平均値を10dB以上とすることができる。本発明の電磁波遮蔽材料はまた、18~110GHzのいずれかの周波数で極大ピークを有し、前記極大ピークの最大値を50dB以上とすることができる。本発明の電磁波遮蔽材料はさらに、厚み1mmシートに加工した際、18~110GHzの周波数における電磁波遮蔽性の平均値を10dB以上とすることができる。本発明においては、理由は明確ではないが、透磁率が高い鉄とニッケルから構成されるナノワイヤーを用いたことにより、特異的な電磁波遮蔽性を示したものと推定される。
【0048】
本発明のまた別の一実施態様においては、本発明の電磁波遮蔽材料をノイズ等に対する電波吸収体として用いる場合、18GHz以上の周波数において、電磁波吸収性の最大値が20dB以上であることが好ましく、40dB以上であることがより好ましい。
【実施例0049】
以下、本発明を実施例によって具体的に説明するが、本発明はこれらによって限定されるものではない。
【0050】
評価は、以下の方法によりおこなった。
A.電磁波遮蔽材料の評価
(1)体積抵抗率
実施例、比較例で得られたシートをJIS K 7194(1994)に準じて5箇所測定し、平均値を算出した。
【0051】
(2)電磁波吸収性
実施例、比較例で得られたシートにアルミ板を貼り付けたものをサンプルとし、ベクトルネットワークアナライザを用いたフリースペース法にて、Kバンド(18~26.5GHz)、Kaバンド(26.5~40GHz)、Uバンド(40GHz~60GHz)、Eバンド(60GHz~90GHz)、Wバンド(75GHz~110GHz)の電磁波吸収測定をおこなった。
例えば、実施例1のシートにおける、Kバンド、Kaバンド、UバンドおよびEバンドの電磁波吸収測定結果をそれぞれ
図1~
図4に示す。
また例えば、実施例5のシートにおける、Kバンド、Kaバンド、UバンドおよびEバンドの電磁波吸収測定結果をそれぞれ
図9~
図12に示す。
また例えば、比較例2のシートにおける、Kバンド、Kaバンド、UバンドおよびEバンドの電磁波吸収測定結果をそれぞれ
図17~
図20に示す。
【0052】
測定結果の評価としては、n257(26.50-29.50GHz)、n258(24.25-27.50GHz)、n259(39.5-43.50GHz)、n260(37.00-40.00GHz)、n261(27.50-28.35GHz)、24GHz帯狭帯域レーダシステム(24.05-24.25GHz)、24GHz/26GHz帯UWBレーダシステム(24.25-29.0GHz)、60GHz帯ミリ波レーダシステム(60.0-61.0GHz)、76GHz帯ミリ波レーダシステム(76.0-77.0GHz)、79GHz帯高分解能レーダシステム(77.0-81.0GHz)の10区間の周波数帯それぞれの吸収率の平均値を算出した。各平均値を金属成分の含有量に応じて以下の基準で評価した。なお、本発明においては、含有量がいずれの場合も〇あるいは◎の帯域が多いほど好ましい。
【0053】
金属成分を50質量%含有するサンプルに関しては、以下の基準に従い、各平均値を評価するとともに、総合評価を行った。
(各周波数帯の吸収率の平均値)
◎:20dB以上;
〇:15dB以上20dB未満;
△:10dB以上15dB未満;
×:10dB未満。
(各周波数帯の吸収率の総合評価)
最良:◎および〇の周波数帯の数が7以上;
優:◎および〇の周波数帯の数が6;
良:◎および〇の周波数帯の数が5;
可:◎および〇の周波数帯の数が3~4;
不可:◎および〇の周波数帯の数が2以下。
本発明において、金属成分を50質量%含有する場合、「各周波数帯の吸収率の総合評価」の結果は「可」以上のレベルであることが求められ、好ましくは「良」以上のレベルであり、より好ましくは「優」以上のレベルであり、最も好ましくは「最良」である。
【0054】
金属成分を20質量%含有するサンプルに関しては、以下の基準に従い、各平均値を評価するとともに、総合評価を行った。
(各周波数帯の吸収率の平均値)
〇:10dB以上;
×:10dB未満。
(各周波数帯の吸収率の総合評価)
優:〇の周波数帯の数が3以上;
良:〇の周波数帯の数が2;
可:〇の周波数帯の数が1;
不可:〇の周波数帯の数が0。
本発明において、金属成分を20質量%含有する場合、「各周波数帯の吸収率の総合評価」の結果は「可」以上のレベルであることが求められ、好ましくは「良」以上のレベルであり、より好ましくは「優」である。
【0055】
金属成分を10質量%含有するサンプルに関しては、以下の基準に従い、各平均値を評価するとともに、総合評価を行った。
(各周波数帯の吸収率の平均値)
〇:10dB以上;
×:10dB未満。
(各周波数帯の吸収率の総合評価)
可:〇の周波数帯の数が1以上;
不可:〇の周波数帯の数が0。
本発明において、金属成分を10質量%含有する場合、「各周波数帯の吸収率の総合評価」の結果は「可」以上のレベルであることが求められる。
【0056】
次に、18~110GHzの全周波数帯の吸収率について、平均値ならびに最大値およびその位置(周波数)を求め、以下の基準で評価した。
(18~110GHz帯の吸収率の平均値)
◎:20dB以上;
○:10dB以上20dB未満;
△:7.5dB以上10dB未満;
×:7.5dB未満。
平均値は、実用上、7.5dB以上であることが求められ、10dB以上(○または◎)であることが好ましく、20dB以上(◎)であることがより好ましい。
(18~110GHzの吸収率の最大値)
◎:40dB以上;
○:20dB以上40dB未満;
△:10dB以上20dB未満;
×:10dB未満。
本発明においては、電磁波吸収性の最大値が10dB以上(△)である場合、合格とした。電磁波吸収性の最大値は20dB以上(○)であることが好ましく、40dB以上(◎)であることがより好ましい。
【0057】
(3)電磁波遮蔽性
実施例、比較例で得られたシートをサンプルとし、ベクトルネットワークアナライザを用いたフリースペース法にて、Kバンド(18~26.5GHz)、Kaバンド(26.5~40GHz)、Uバンド(40GHz~60GHz)、Eバンド(60GHz~90GHz)、Wバンド(75GHz~110GHz)の電磁波遮蔽測定をおこなった。
例えば、実施例1のシートにおける、Kバンド、Kaバンド、UバンドおよびEバンドの電磁波遮蔽測定結果をそれぞれ
図5~
図8に示す。
また例えば、実施例5のシートにおける、Kバンド、Kaバンド、UバンドおよびEバンドの電磁波遮蔽測定結果をそれぞれ
図13~
図16に示す。
また例えば、比較例2のシートにおける、Kバンド、Kaバンド、UバンドおよびEバンドの電磁波遮蔽測定結果をそれぞれ
図21~
図24に示す。
【0058】
測定結果の評価としては、n257(26.50-29.50GHz)、n258(24.25-27.50GHz)、n259(39.5-43.50GHz)、n260(37.00-40.00GHz)、n261(27.50-28.35GHz)、24GHz帯狭帯域レーダシステム(24.05-24.25GHz)、24GHz/26GHz帯UWBレーダシステム(24.25-29.0GHz)、60GHz帯ミリ波レーダシステム(60.0-61.0GHz)、76GHz帯ミリ波レーダシステム(76.0-77.0GHz)、79GHz帯高分解能レーダシステム(77.0-81.0GHz)の10区間の周波数帯それぞれの遮蔽率の平均値を算出した。各平均値を金属成分の含有量に応じて以下の基準で評価した。なお、本発明においては、含有量がいずれの場合も〇あるいは◎の帯域が多いほど好ましい。
【0059】
金属成分を50質量%含有するサンプルに関しては、以下の基準に従い、各平均値を評価するとともに、総合評価を行った。
(各周波数帯の遮蔽率の平均値)
◎:20dB以上;
〇:15dB以上20dB未満;
△:10dB以上15dB未満;
×:10dB未満。
(各周波数帯の遮蔽率の総合評価)
最良:◎の周波数帯の数が10;
優:◎の周波数帯の数が9;
良:◎の周波数帯の数が8;
可:◎の周波数帯の数が7;
不可:◎の周波数帯の数が6以下。
本発明において、金属成分を50質量%含有する場合、「各周波数帯の遮蔽率の総合評価」の結果は「可」以上のレベルであることが求められ、好ましくは「良」以上のレベルであり、より好ましくは「優」以上のレベルであり、最も好ましくは「最良」である。
【0060】
金属成分を20質量%含有するサンプルに関しては、以下の基準に従い、各平均値を評価するとともに、総合評価を行った。
(各周波数帯の遮蔽率の平均値)
〇:10dB以上;
×:10dB未満。
(各周波数帯の遮蔽率の総合評価)
優:〇の周波数帯の数が9以上;
良:〇の周波数帯の数が8;
可:〇の周波数帯の数が7;
不可:〇の周波数帯の数が6以下。
本発明において、金属成分を20質量%含有する場合、「各周波数帯の遮蔽率の総合評価」の結果は「可」以上のレベルであることが求められ、好ましくは「良」以上のレベルであり、より好ましくは「優」である。
【0061】
金属成分を10質量%含有するサンプルに関しては、以下の基準に従い、各平均値を評価するとともに、総合評価を行った。
(各周波数帯の遮蔽率の平均値)
〇:10dB以上;
×:10dB未満。
(各周波数帯の遮蔽率の総合評価)
最良:〇の周波数帯の数が5以上;
優:〇の周波数帯の数が3または4;
良:〇の周波数帯の数が2;
可:〇の周波数帯の数が1;
不可:〇の周波数帯の数が0。
本発明において、金属成分を10質量%含有する場合、「各周波数帯の遮蔽率の総合評価」の結果は「可」以上のレベルであることが求められる。
【0062】
次に、28GHz帯(28GHzを中心とした1GHz幅の周波数帯)の遮蔽率平均値、79GHz帯(79GHzを中心とした1GHz幅の周波数帯)の遮蔽率平均値、ならびに18~110GHzの全周波数帯域の遮蔽率の平均値および最大値を求め、以下の基準で評価した。
(28GHz帯、79GHz帯および18~110GHzの遮蔽率の平均値)
◎:25dB以上;
○:20dB以上25dB未満;
△:10dB以上20dB未満;
×:10dB未満。
当該平均値は、実用上、10dB以上であることが求められ、20dB以上(○または◎)であることが好ましく、25dB以上(◎)であることがより好ましい。
(18~110GHzの遮蔽率の最大値)
◎:70dB以上;
○:20dB以上70dB未満;
△:10dB以上20dB未満;
×:10dB未満。
本発明においては、電磁波遮蔽性の最大値が10dB以上(△)である場合、合格とした。電磁波遮蔽性の最大値は20dB以上(○)であることが好ましく、70dB以上(◎)であることがより好ましい。
【0063】
B.材料
本発明の電磁波遮蔽材料に用いたナノワイヤーおよび粒子は以下のとおり作製した。
(1)鉄とニッケルから構成されるナノワイヤー(FeNiNW1、Fe:Ni=21.5:78.5)
塩化ニッケル六水和物15.35g(64.58mmol)、クエン酸三ナトリウム二水和物0.30g(1.02mmol)をエチレングリコールに添加し、全量で350.0gとした。この溶液を90℃に加熱し、塩化ニッケルを溶解させ、ニッケル-クエン酸塩溶液を得た。
水酸化ナトリウム2.50g(62.52mmol)をエチレングリコールに添加し、全量で388.5gにした。この溶液を90℃に加熱し、水酸化ナトリウムを溶解させ、水酸化ナトリウム溶液を得た。
塩化鉄(II)四水和物3.70g(18.61mmol)をエチレングリコールに添加し、全量で150.0gとした。室温で撹拌することで、塩化鉄(II)四水和物を溶解させ、鉄溶液を得た。
中心に磁場を印加できる磁気回路の中にある反応容器を90~95℃に加熱し、ニッケル-クエン酸塩溶液350.0g、水酸化ナトリウム溶液388.5g、28%アンモニア水100.0g(アンモニア量28.0g)、鉄溶液150.0g、ヒドラジン一水和物11.5g(229.72mmol)をこの順で添加した。すべて添加後、150mTの磁場を印加し、90~95℃で、90分間還元反応をおこなった。
反応終了後、T100A090CのPTFE製フィルターを用いてナノワイヤーを回収した。
回収したナノワイヤーをICP-MSで確認したところ、鉄とニッケルの質量比率は21.5/78.5であった。ナノワイヤーの長さ、径、アスペクト比の平均値はそれぞれ22.6μm、0.2μm、113であった。
【0064】
(2)鉄とニッケルから構成されるナノワイヤー(FeNiNW2、Fe:Ni=55:45)
塩化ニッケル六水和物8.18g(34.43mmol)、クエン酸三ナトリウム二水和物0.30g(1.02mmol)をエチレングリコールに添加し、全量で350.0gとした。この溶液を90℃に加熱し、塩化ニッケルを溶解させ、ニッケル-クエン酸塩溶液を得た。
水酸化ナトリウム2.50g(62.52mmol)をエチレングリコールに添加し、全量で388.5gにした。この溶液を90℃に加熱し、水酸化ナトリウムを溶解させ、水酸化ナトリウム溶液を得た。
塩化鉄(II)四水和物9.24g(46.48mmol)をエチレングリコールに添加し、全量で150.0gとした。室温で撹拌することで、塩化鉄(II)四水和物を溶解させ、鉄溶液を得た。
中心に磁場を印加できる磁気回路の中にある反応容器を90~95℃に加熱し、ニッケル-クエン酸塩溶液350.0g、水酸化ナトリウム溶液388.5g、28%アンモニア水100.0g(アンモニア量28.0g)、鉄溶液150.0g、ヒドラジン一水和物11.5g(229.72mmol)をこの順で添加した。すべて添加後、150mTの磁場を印加し、90~95℃で、90分間還元反応をおこなった。
反応終了後、T100A090CのPTFE製フィルターを用いてナノワイヤーを回収した。
回収したナノワイヤーをICP-MSで確認したところ、鉄とニッケルの質量比率は54.8/45.2であった。ナノワイヤーの長さ、径、アスペクト比の平均値はそれぞれ24.6μm、0.2μm、123であった。
【0065】
(3)鉄とニッケルから構成されるナノワイヤー(FeNiNW3、Fe:Ni=64:36)
塩化ニッケル六水和物6.89g(28.99mmol)、クエン酸三ナトリウム二水和物0.30g(1.02mmol)をエチレングリコールに添加し、全量で350.0gとした。この溶液を90℃に加熱し、塩化ニッケルを溶解させ、ニッケル-クエン酸塩溶液を得た。
水酸化ナトリウム2.50g(62.52mmol)をエチレングリコールに添加し、全量で388.5gにした。この溶液を90℃に加熱し、水酸化ナトリウムを溶解させ、水酸化ナトリウム溶液を得た。
塩化鉄(II)四水和物10.78g(54.17mmol)をエチレングリコールに添加し、全量で150.0gとした。室温で撹拌することで、塩化鉄(II)四水和物を溶解させ、鉄溶液を得た。
中心に磁場を印加できる磁気回路の中にある反応容器を90~95℃に加熱し、ニッケル-クエン酸塩溶液350.0g、水酸化ナトリウム溶液388.5g、28%アンモニア水100.0g(アンモニア量28.0g)、鉄溶液150.0g、ヒドラジン一水和物11.5g(229.72mmol)をこの順で添加した。すべて添加後、150mTの磁場を印加し、90~95℃で、90分間還元反応をおこなった。
反応終了後、T100A090CのPTFE製フィルターを用いてナノワイヤーを回収した。
回収したナノワイヤーをICP-MSで確認したところ、鉄とニッケルの質量比率は64.0/36.0であった。ナノワイヤーの長さ、径、アスペクト比の平均値はそれぞれ23.2μm、0.2μm、116であった。
【0066】
(4)鉄とニッケルから構成される粒子(FeNiP)
塩化ニッケル六水和物15.35g(64.58mmol)、クエン酸三ナトリウム二水和物0.30g(1.02mmol)をエチレングリコールに添加し、全量で350.0gとした。この溶液を90℃に加熱し、塩化ニッケルを溶解させ、ニッケル-クエン酸塩溶液を得た。
水酸化ナトリウム2.50g(62.52mmol)をエチレングリコールに添加し、全量で388.5gにした。この溶液を90℃に加熱し、水酸化ナトリウムを溶解させ、水酸化ナトリウム溶液を得た。
塩化鉄(II)四水和物3.70g(18.61mmol)をエチレングリコールに添加し、全量で150.0gとした。室温で撹拌することで、塩化鉄(II)四水和物を溶解させ、鉄溶液を得た。
反応容器を90~95℃に加熱し、ニッケル-クエン酸塩溶液350.0g、水酸化ナトリウム溶液388.5g、28%アンモニア水100.0g(アンモニア量28.0g)、鉄溶液150.0g、ヒドラジン一水和物11.5g(229.72mmol)をこの順で添加した。すべて添加後、90~95℃で、90分間還元反応をおこなった。
反応終了後、T100A090CのPTFE製フィルターを用いてナノワイヤーを回収した。
回収した粒子をICP-MSで確認したところ、鉄とニッケルの質量比率は21.5/78.5であった。粒子状であったため、アスペクト比は1であった。
【0067】
(5)ニッケルから構成されるナノワイヤー(NiNW)
塩化ニッケル六水和物4.00g(16.8mmol)、クエン酸三ナトリウム二水和物0.375g(1.27mmol)をエチレングリコールに添加し、全量で500.0gとした。この溶液を90℃に加熱し溶解させ、ニッケル-クエン酸塩溶液を得た。
別の容器に、水酸化ナトリウム1.00gをエチレングリコールに添加し、全量で499.0gにした。この溶液を90℃に加熱し溶解させ、水酸化ナトリウム溶液を得た。
中心に磁場を印加できる磁気回路の中にある反応容器を90~95℃に加熱し、ニッケル-クエン酸塩溶液500.0g、水酸化ナトリウム溶液499.0g、ヒドラジン一水和物1.0g(229.72mmol)をこの順で添加した。すべて添加後、150mTの磁場を印加し、90~95℃で、90分間還元反応をおこなった。
反応終了後、T100A090CのPTFE製フィルターを用いてナノワイヤーを回収した。ナノワイヤーの長さ、径、アスペクト比の平均値はそれぞれ24μm、0.1μm、240であった。
【0068】
実施例1
FeNiNW1 10gとスチレン樹脂(St、富士フイルム和光純薬社製)10gとトルエン10gとを遊星ミキサーで混合し、分散液を得た。
得られた分散液をテフロンシート上に流延塗布し、40℃で乾燥し、被膜をテフロンシートから剥離し、厚み1mmのシートを得た。
【0069】
実施例2
FeNiNW1 10gとTSE3450(Si、モメンティブ社製シリコーン樹脂)9gとを遊星ミキサーで混合し、さらにTSE3450(モメンティブ社製シリコーン樹脂用硬化剤)1gを混合し、分散液を得た。
得られた分散液を、ポリカーボネート樹脂シートに流延塗布し、室温で24時間以上硬化させ、被膜をポリカーボネート樹脂シートから剥離し、厚み1mmのシートを得た。
【0070】
実施例3、4
FeNiNW1とスチレン樹脂の質量比率が表2Aまたは3Aの質量比率になるように、用いるFeNiNWとスチレン樹脂の質量比率を変更する以外は実施例1と同様の操作をおこなって、シートを得た。
【0071】
実施例5
実施例1で作製したシートの両面にテフロンシートを積層し、テフロンシート/実施例1で得たシート/テフロンシートからなる積層体を作製した。
得られた積層体の端に、1mm厚のスペーサー板で厚みを固定した後、積層体をフェライト磁石板2枚で挟み、130℃で4時間熱処理をおこなった。その後、積層体を取り出し、テフロンシートを剥離し、厚み1mmのシートを得た。
【0072】
実施例6
FeNiNW1 13gとjER(Ep、三菱ケミカル社製エポキシ樹脂)9gとを遊星ミキサーで混合し、さらにトリメチルヘキサメチレンジアミン4gを混合し、分散液を得た。
得られた分散液を、テフロンシートに流延塗布し、120℃で30分以上硬化させ、被膜をテフロンシートから剥離し、厚み1mmのシートを得た。
【0073】
実施例7、8
FeNiNW1をFeNiNW2またはFeNiNW3に変更する以外は、実施例6と同様の作業により厚み1mmのシートを得た。
【0074】
比較例1
FeNiNWをFeNiPに変更する以外は実施例1と同様の操作をおこなって、シートを得た。
【0075】
比較例2
FeNiNWをNiNWに変更する以外は、実施例1と同様の操作をおこなって、シートを得た。
【0076】
比較例3
FeNiNWをNiNWに変更する以外は、実施例2と同様の操作をおこなって、シートを得た。
【0077】
比較例4
FeNiNWをNiNWに変更する以外は、実施例3と同様の操作をおこなって、シートを得た。
【0078】
比較例5
FeNiNWをNiNWに変更する以外は、実施例4と同様の操作をおこなって、シートを得た。
【0079】
比較例6
FeNiNWをAgNW(アルドリッチ製)に変更する以外は、実施例1と同様の操作をおこなって、シートを得た。
【0080】
実施例および比較例で得られた電磁波遮蔽材料の組成および評価結果を表1A、表1B、表1C、表2A、表2B、表2C、表3A、表3B、表3C、表4A、表4Bおよび表4Cに示す。
【0081】
【0082】
【0083】
【0084】
【0085】
【0086】
【0087】
【0088】
【0089】
【0090】
【0091】
【0092】
【0093】
金属成分を50%含有する実施例1、2、6は利用される10周波数帯中6以上の周波数帯において15dB以上の電磁波の吸収率を有し、電磁波遮蔽特性とともに優れていた。一方、比較例1~3、6は、実施例1、2、6と同じ金属成分の含有量であったが、鉄とニッケルからなるナノワイヤーを含まないため、15dB以上吸収可能な帯域の数が3未満(特に2以下)であり、十分に吸収できない周波数帯が多く、材料として使用が限定されるものであった。
【0094】
金属成分を20%含有する実施例3は10dB以上吸収することができる周波数帯の数が4であり、電磁波遮蔽性とともに優れていた。対する比較例4は10dB以上吸収できる周波数帯が無かった。
【0095】
金属成分を10%含有する実施例4は10dB以上吸収することができる周波数帯の数が1つであったが、対する比較例5は10dB以上吸収できる周波数帯が無かった。
【0096】
実施例5は実施例1と同様の組成であるが、磁場中で溶融再成型することで、実施例1では吸収できなかったn258(24.25-27.5GHz)と24GHz帯狭帯域レーダシステム(24.05-24.25GHz)、さらに吸収率が15dB未満であった24GHz/26GHz帯UWBレーダシステム(24.25-29.0GHz)で20dB以上の高い吸収率が確認できた。
本発明の電磁波遮蔽材料は、高周波領域(特に準ミリ波領域およびミリ波領域)における電磁波遮蔽性、特に電磁波吸収性に優れていることから、第5世代移動通信システムや、先進運転支援システムなどの電子部品に対して好適に用いることできる。