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特開2025-38533エレベーター用基板の劣化診断システム及び劣化診断方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025038533
(43)【公開日】2025-03-19
(54)【発明の名称】エレベーター用基板の劣化診断システム及び劣化診断方法
(51)【国際特許分類】
   B66B 5/00 20060101AFI20250312BHJP
   B66B 3/00 20060101ALI20250312BHJP
【FI】
B66B5/00 G
B66B3/00 R
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023145198
(22)【出願日】2023-09-07
(71)【出願人】
【識別番号】000236056
【氏名又は名称】三菱電機ビルソリューションズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】弁理士法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】後藤 勝彦
(72)【発明者】
【氏名】池内 雄哉
【テーマコード(参考)】
3F303
3F304
【Fターム(参考)】
3F303BA01
3F303CB42
3F303DC35
3F303EA03
3F304BA06
3F304EA29
3F304ED13
3F304ED18
(57)【要約】
【課題】エレベーターの基板の劣化時期を正確に推定し易くて、エレベーターの高い安全性を実現し易いエレベーター用基板の劣化診断システム等を提供すること。
【解決手段】劣化診断システム1が、エレベーター20の基板6に搭載された電解コンデンサ11aの温度を特定できる温度特定情報を取得する温度センサ5、基板6に電力が供給されている全時間を特定できる全時間情報を取得する電源トータルカウンター2、温度特定情報及び全時間情報に基づいて電解コンデンサ11aの余寿命を推定する余寿命推定部46b、余寿命に基づいて基板6が交換時期になったか否かを特定する交換時期特定部46g、及び交換時期特定部46gが、基板6が交換時期になったと特定すると、基板6が交換時期になったことを表す情報を出力する通信部42を備える。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
エレベーターの基板に搭載された1以上のコンデンサに関して、前記コンデンサの温度を特定できる温度特定情報を取得する温度情報取得部と、
前記基板に電力が供給されている全時間を特定できる全時間情報を取得する時間情報取得部と、
前記温度特定情報及び前記全時間情報に基づいて前記コンデンサの余寿命を推定する余寿命推定部と、
前記余寿命に基づいて前記基板が交換時期になったか否かを特定する交換時期特定部と、
前記交換時期特定部が、前記基板が交換時期になったと特定すると、前記基板が交換時期になったことを表す情報を出力する出力部と、
を備える、エレベーター用基板の劣化診断システム。
【請求項2】
前記交換時期特定部は、前記余寿命を劣化閾値と比較することで交換時期になったか否かを特定する、請求項1に記載のエレベーター用基板の劣化診断システム。
【請求項3】
前記余寿命を前記劣化閾値よりも大きい警告閾値と比較することで警告時期を特定する警告時期特定部を備え、
前記警告時期特定部が前記警告時期を特定すると、前記出力部が、前記基板が交換時期に近づいていることを表す情報を出力する、請求項2に記載のエレベーター用基板の劣化診断システム。
【請求項4】
前記余寿命推定部は、所定期間内に互いに時間的な間隔をおいて取得された複数の前記温度特定情報に基づいて前記所定期間における前記コンデンサの平均温度を算出し、当該平均温度に基づいて前記余寿命を推定する、請求項1から3のいずれか1つに記載のエレベーター用基板の劣化診断システム。
【請求項5】
前記余寿命推定部は、複数の前記コンデンサの余寿命を推定し、
前記交換時期特定部は、前記複数の余寿命のうちで最も短い前記余寿命に基づいて前記交換時期になったか否かを特定する、請求項1から3のいずれか1つに記載のエレベーター用基板の劣化診断システム。
【請求項6】
前記エレベーターの巻上機の巻上機モータを制御する制御装置と通信する監視装置を備え、
前記監視装置が、前記余寿命推定部、前記交換時期特定部、及び前記出力部を含み、
前記出力部が、前記基板が交換時期になったことを表す情報を通信ネットワークのクラウド上に位置する情報処理装置に向けて出力する、請求項1から3のいずれか1つに記載のエレベーター用基板の劣化診断システム。
【請求項7】
前記余寿命推定部が、前記余寿命の推定を推定開始時期から前記交換時期までの期間に所定期間毎に継続的に行う、請求項1から3のいずれか1つに記載のエレベーター用基板の劣化診断システム。
【請求項8】
前記基板に電力が供給されている時間と、前記余寿命との関係を示す余寿命曲線を記憶する記憶部を備え、
前記交換時期特定部は、前記余寿命曲線に基づいて前記交換時期になったか否かを特定する、請求項1から3のいずれか1つに記載のエレベーター用基板の劣化診断システム。
【請求項9】
エレベーターの基板に搭載された1以上のコンデンサに関して、前記コンデンサの温度を特定できる温度特定情報を取得するステップと、
前記基板に電力が供給されている全時間を特定できる全時間情報を取得するステップと、
前記温度特定情報及び前記全時間情報に基づいて前記コンデンサの余寿命を推定するステップと、
前記余寿命に基づいて前記基板が交換時期になったか否かを特定するステップと、
前記基板が交換時期になったと特定すると、前記基板が交換時期になったことを表す情報を出力するステップと、
を含む、エレベーター用基板の劣化診断方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、エレベーター用基板の劣化診断システム及び劣化診断方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1に記載されているように、エレベーターの制御盤は、制御基板を備える。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2022-092202号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
制御基板の劣化時期を正確に推定できると、制御基板を劣化前に交換することができる。よって、エレベーターの動作不良を抑制できて、高い安全性を実現でき、大きな意義がある。そこで、本開示の目的は、エレベーターの基板の劣化時期を正確に推定し易くて、エレベーターの高い安全性を実現し易いエレベーター用基板の劣化診断システム及び劣化診断方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するため、本開示に係るエレベーター用基板の劣化診断システムは、エレベーターの基板に搭載された1以上のコンデンサに関して、前記コンデンサの温度を特定(推定)できる温度特定情報を取得する温度情報取得部と、前記基板に電力が供給されている全時間を特定(推定)できる全時間情報を取得する時間情報取得部と、前記温度特定情報及び前記全時間情報に基づいて前記コンデンサの余寿命を推定する余寿命推定部と、前記余寿命に基づいて前記基板が交換時期になったか否かを特定する交換時期特定部と、前記交換時期特定部が、前記基板が交換時期になったと特定すると、前記基板が交換時期になったことを表す情報を出力する出力部と、を備える。
【0006】
本願発明者は、回収したエレベーターの基板(例えば、制御基板を構成するプリント基板)の調査により、基板の寿命が、当該基板に搭載されたコンデンサ(例えば、電解コンデンサ)の寿命に依存することを確認した。より詳しくは、基板の寿命は、基板に搭載されている有寿命部品(電解コンデンサ、LED、電源装置等)の影響を受けることになるが、本願発明者は、現場で使用された基板の回収調査結果から、基板寿命が、コンデンサの寿命に影響されることを確認し、突き止めた。
【0007】
本開示によれば、余寿命推定部が、温度特定情報及び全時間情報に基づいてコンデンサの余寿命を推定し、交換時期特定部が、推定した余寿命に基づいて基板が交換時期になったと特定すると、出力部が、基板が交換時期になったことを表す情報を出力する。したがって、その出力に基づいて基板が交換時期になったことを認識した人(例えば、保守作業員)が、基板を新しいものに交換できる。よって、エレベーターの動作不良を抑制し易く、エレベーターの高い安全性を実現し易い。
【0008】
また、前記交換時期特定部は、前記余寿命を劣化閾値と比較することで交換時期になったか否かを特定してもよい。
【0009】
本構成によれば、単純な制御で基板の交換時期を正確に推定し易い。
【0010】
また、前記余寿命を前記劣化閾値よりも大きい警告閾値と比較することで警告時期を特定する警告時期特定部を備え、前記警告時期特定部が前記警告時期を特定すると、前記出力部が、前記基板が交換時期に近づいていることを表す情報を出力してもよい。
【0011】
本構成によれば、人が交換時期よりも前に基板が交換時期に近づいていることを知ることができる。よって、基板の交換準備を事前に行うことができ、基板の交換を円滑に行うことができると共に、基板の動作不良を略確実に防止することができる。
【0012】
また、前記余寿命推定部は、所定期間内に互いに時間的な間隔をおいて取得された複数の前記温度特定情報に基づいて前記所定期間における前記コンデンサの平均温度を算出し、当該平均温度に基づいて前記余寿命を推定してもよい。
【0013】
本構成によれば、単純な制御で基板の交換時期を正確に推定し易い。
【0014】
また、前記余寿命推定部は、複数の前記コンデンサの前記余寿命を推定し、前記交換時期特定部は、前記複数の余寿命のうちで最も短い前記余寿命に基づいて前記交換時期になったか否かを特定してもよい。
【0015】
本構成によれば、人が、基板が交換時期になったことを更に正確に特定できる。したがって、エレベーターの動作不良を確実に抑制でき、エレベーターの高い安全性を確実に実現できる。なお、この場合、時間情報取得部は、1つでよいが、温度情報取得部は、コンデンサの数と同じ数だけあると好ましく、温度情報取得部は、各コンデンサに1つずつ設置又は近接配置されると好ましい。
【0016】
前記エレベーターの巻上機の巻上機モータを制御する制御装置と通信する監視装置を備え、前記監視装置が、前記余寿命推定部、前記交換時期特定部、及び前記出力部を含み、前記出力部が、前記基板が交換時期になったことを表す情報を通信ネットワークのクラウド上に位置する情報処理装置に向けて出力してもよい。
【0017】
情報処理装置には、複数(多数)のエレベーターのデータが収納されることがある。よって、情報処理装置が基板の交換時期を特定するようにすると、情報処理装置の情報処理に大きな負荷がかかる虞がある。本構成によれば、基板の交換時期の特定を、エレベーター側の監視装置で行う。よって、エレベーターの監視装置と通信する情報処理装置に大きな負荷がかかることを抑制できる。
【0018】
また、前記余寿命推定部が、前記余寿命の推定を推定開始時期から前記交換時期までの期間に所定期間毎に継続的に行ってもよい。
【0019】
本構成によれば、基板の稼働時間(基板に電力が供給されている時間)が経過するにしたがって余寿命のデータが増大する。したがって、基板の可動時間の経過とともに基板の交換時期を正確に特定し易い。
【0020】
また、前記基板に電力が供給されている時間と、前記余寿命との関係を示す余寿命曲線を記憶する記憶部を備え、前記交換時期特定部は、前記余寿命曲線に基づいて前記交換時期になったか否かを特定してもよい。
【0021】
本構成によれば、基板の交換時期を正確に特定し易い。
【0022】
なお、前記余寿命推定部が、前記余寿命の推定を推定開始時期から前記交換時期までの期間に所定期間毎に継続的に行い、しかも、前記基板に電力が供給されている時間と、前記余寿命との関係を示す余寿命曲線を記憶する記憶部を備え、前記交換時期特定部が、前記余寿命曲線に基づいて前記交換時期になったか否かを特定すると好ましい。
【0023】
この場合、基板の稼働時間が経過するにしたがって余寿命のデータが増大するので、余寿命曲線が基板の可動時間が経過するにしたがって正確なものに近づくことになる。よって、基板の可動時間の経過とともに基板の交換時期を正確に特定できる。
【0024】
また、本開示に係るエレベーター用基板の劣化診断方法は、エレベーターの基板に搭載された1以上のコンデンサに関して、前記コンデンサの温度を特定できる温度特定情報を取得するステップと、前記基板に電力が供給されている全時間を特定できる全時間情報を取得するステップと、前記温度特定情報及び前記全時間情報に基づいて前記コンデンサの余寿命を推定するステップと、前記余寿命に基づいて前記基板が交換時期になったか否かを特定するステップと、前記基板が交換時期になったと特定すると、前記基板が交換時期になったことを表す情報を出力するステップと、を含む。
【0025】
本開示によれば、エレベーターの動作不良を抑制し易く、エレベーターの高い安全性を実現し易い。
【発明の効果】
【0026】
本開示に係るエレベーター用基板の劣化診断システム及び劣化診断方法によれば、エレベーターの基板の劣化時期を正確に推定し易くて、エレベーターの高い安全性を実現し易い。
【図面の簡単な説明】
【0027】
図1】本開示の一実施形態に係るエレベーター用基板の劣化診断システムを説明する概略構成図である。
図2】劣化診断システムにおける基板の交換時期の特定に関連する主要構成の概略構成図である。
図3】基板の交換時期の出力に関する動作手順の一例について説明する図である。
図4】アレニウスの法則による電解コンデンサの寿命の推定方法を説明する図である。
図5】余寿命曲線生成部が生成する余寿命曲線の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下に、本開示に係る実施の形態について添付図面を参照しながら詳細に説明する。なお、以下において複数の実施形態や変形例などが含まれる場合、それらの特徴部分を適宜に組み合わせて新たな実施形態を構築することは当初から想定されている。また、以下の実施例では、図面において同一構成に同一符号を付し、重複する説明を省略する。また、以下で説明される構成要素のうち、最上位概念を示す独立請求項に記載されていない構成要素については、任意の構成要素であり、必須の構成要素ではない。
【0029】
図1は、本開示の一実施形態に係るエレベーター用基板6の劣化診断システム1を説明する概略構成図である。図1に示すように、劣化診断システム1は、昇降路13内に配置されたカゴ22を備えるエレベーター20の運転制御を行う制御盤30、制御盤30に例えば有線又は無線で接続されて制御盤30との間でデータの授受を行う監視装置40、監視装置40と通信ネットワーク35を介して接続されて監視装置40との間でデータの授受を行うと共に、情報センター8内に配置される管理装置70を備える。監視装置40は、エレベーター20に含まれる。管理装置70は、情報処理装置の一例である。なお、図1では、管理装置70と情報のやり取りを行うエレベーター20は、1台であるが、情報処理装置は、複数のエレベーター20、例えば、100台以上のエレベーター20と情報のやり取りを行ってもよい。
【0030】
制御盤30、監視装置40、及び管理装置70の夫々は、コンピュータ、例えば、マイクロコンピュータを含み、制御部3a,46(図2参照)と、記憶部3b,47(図2参照)を含む。制御部3a,46、すなわち、プロセッサは、例えば、CPU(Central Processing Unit)を含む。また、記憶部3b,47は、ハードディスクドライブ(HDD)や、ソリッドステートドライブ(SSD)等で構成され、ROM(Read Only Memory)等の不揮発性メモリや、RAM(Random Access Memory)等の揮発性メモリを含んでもよい。記憶部3b,47は、一つのみの記憶媒体で構成されてもよく、複数の異なる記憶媒体で構成されてもよい。CPUは、記憶部3b,47に予め記憶されたプログラム等を読み出して実行する。また、不揮発性メモリは、制御プロラムや所定の閾値等を予め記憶する。また、揮発性メモリは、読み出したプログラムや処理データを一時的に記憶する。
【0031】
以下で詳細に説明する、基板6(図2参照)の交換時期の特定に関するプログラムやデータ(例えば、閾値等)は、制御盤30の記憶部、監視装置40の記憶部47、及び管理装置70の記憶部のうちの少なくとも1つの記憶部に予め記憶される。基板6の交換時期の特定に関するプログラムやデータは、特に、制御盤30の記憶部、又は監視装置40の記憶部47に予め記憶されると好ましい。なお、本実施形態では、基板6は、制御基板を構成するが、基板6は、制御基板でなくてもよい。
【0032】
次に、基板6の交換時期の特定に関連する動作について詳細に説明する。図2は、劣化診断システム1における基板6の交換時期の特定に関連する主要構成の概略構成図である。図2に示すように、制御盤30は、基板(制御基板)6、電源スイッチ7、時間情報取得部の一例としての電源トータルカウンター2、及び温度情報取得部の一例としての温度センサ5を備える。基板6には、1以上のコンデンサ11が実装され、本実施形態では、複数のコンデンサ11が実装されている。
【0033】
複数のコンデンサ11には、整流回路で変換された直流電力に含まれる脈動分(リプル)を平滑化するためのコンデンサ、入出力の耐ノイズ性を向上させるためのコンデンサ、及び電気回路に緩和時間をもたらすコンデンサのうちの1以上のコンデンサが含まれてもよい。複数のコンデンサ11には、1以上の電解コンデンサ11aが含まれてもよい。なお、以下の実施形態では、主に、1つのみの電解コンデンサ11aの余寿命を推定する場合について説明する。しかし、余寿命を推定するコンデンサは、電解コンデンサ以外の種類のコンデンサでもよい。また、変形例で述べるように、複数のコンデンサの余寿命を推定してもよい。
【0034】
電源スイッチ7は、制御部3a及び記憶部3bを有する制御装置3からの信号に基づいて基板6へ電力を供給するか、又は基板6への電力供給を遮断する。電源スイッチ7は、スイッチング素子で構成されてもよく、例えば、トランジスタ等で構成されてもよい。電源トータルカウンター2は、基板6へ電力が供給されているトータル時間を特定できる情報を検出する。電源トータルカウンター2は、タイマーで構成されてもよく、制御装置3からの情報に基づいて電源スイッチ7がON制御されているトータル時間を特定する構成でもよい。電源トータルカウンター2は、基板6へ電力が供給されているトータル時間を特定できる情報を監視装置40に出力する。電源トータルカウンター2は、基板6に電力が供給されている時間を検出することになるため、結果として、電解コンデンサ11aを使用している時間を検出することになる。
【0035】
温度センサ5は、電解コンデンサ11aの温度を特定できる情報を検出する。本実施形態では、温度センサ5が温度を検出するのが電解コンデンサ11aである。温度センサ5は、例えば、電解コンデンサ11aに固定されたサーミスタ素子を含んでもよい。サーミスタ素子は、温度によって電気抵抗が変化する。サーミスタ素子は、配線(リード線)を介して監視装置40の制御装置45と電気的に接続される。サーミスタ素子の温度がその設置箇所の温度に応じて変化すると、サーミスタ素子の抵抗値が変化して配線を流れる電流が変化する。
【0036】
制御装置45は、配線を流れる電流を検出することで電解コンデンサ11aの温度を特定する。監視装置40は、トランジスタ等で構成され、温度センサ5に電力を供給するか、又は基板6への電力供給を遮断するスイッチ部43を有し、スイッチ部43は、例えば、トランジスタ等で構成される。制御装置45からの信号に基づいてスイッチ部43は、オンオフ制御され、スイッチ部43が、オン制御されると、サーミスタ素子に電流が流れ、電解コンデンサ11aの温度が特定される。なお、温度センサは、電解コンデンサ11aの温度を検出できる如何なるセンサで構成されてもよく、例えば、熱電対や、白金測温抵抗体等で構成されてもよい。温度センサは、電解コンデンサ11aに直接設置されてもよく、又は間隔をおいて近接配置される。
【0037】
図2に示すように、監視装置40は、スイッチ部43の他に、A/D(アナログ/デジタル)変換部41、出力部の一例としての通信部42、及び制御装置45を有する。A/D変換部41は、公知のA/D変換器で構成される。基板6に電力が投入されている間、電源トータルカウンター2から監視装置40に連続的な時間データが入力される。また、温度センサ5から監視装置40に連続的な温度データが入力される。A/D変換部41は、電源トータルカウンター2及び温度センサ5からのアナログ信号をデジタル信号に変換する。制御装置45で扱う信号が、デジタル信号であるため、A/D変換部41が必要になる。
【0038】
A/D変換部41は、アナログ信号を一定時間ごとに区切り、その値を読み込む(サンプリング)標本化を行い、その後、標本化して読み込んだ値をデジタル信号に変換できるように加工する量子化を行い、続いて、量子化された値を指定された2進数の桁数で表現する符号化を行うことで、ナログ信号をデジタル信号に変換する。
【0039】
通信部42は、外部の装置、例えば、制御盤30の通信部、及び管理装置70の通信部とデータを送受信するためのインターフェースで構成される。制御装置45は、制御部46と、記憶部47を有し、制御部46は、トータル時間特定部46a、余寿命推定部46b、温度特定回数判定部46c、所定時間経過判定部46d、余寿命曲線生成部46e、警告時期特定部46f、及び交換時期特定部46gを含む。トータル時間特定部46a、余寿命推定部46b、温度特定回数判定部46c、所定時間経過判定部46d、余寿命曲線生成部46e、警告時期特定部46f、及び交換時期特定部46gの動作については、次に図3乃至図5を用いて詳細に説明する。
【0040】
図3は、基板6の交換時期の出力に関する動作手順の一例について説明する図である。エレベーター20が新規に設置されて、その稼働がスタートするか、又は、基板6が取り換えられた後にエレベーター20の稼働がスタートすると、制御がスタートし、ステップS1で、トータル時間特定部46aが、電源トータルカウンター2からの情報に基づいて、基板6の稼働時間、換言すると、基板6に電力が投入された時間が所定時間以上になったか否かを判定する。
【0041】
電解コンデンサ11aは定格寿命が規定されており、定格寿命は10年程度である。定格寿命は、製品毎に一意に決定され、通常製品のカタログに記載されている。上記所定時間は、例えば、定格寿命の半分の時間に設定されることができ、例えば、5年程度の時間に設定されることができる。基板稼働時間が所定時間に到達した時期は、制御装置45が電解コンデンサ11aの余寿命の推定(特定)を開始する推定開始時期(特定開始時期)となる。ステップS1で否定判定されると、ステップS1が繰り返される。
【0042】
他方、ステップS1で肯定判定されると、ステップS2に移行して、余寿命推定部46bが、電解コンデンサ11aの余寿命を推定する。この余寿命推定は、記憶部47に予め記憶されている余寿命推定のためのソフトウェアを起動することで行う。この余寿命推定は、例えば、次のように行う。詳しくは、余寿命推定部46bは、スイッチ部43をオン制御して、温度センサ5に電力を供給して、温度センサ5から温度データを取り込み、温度を特定する。温度センサ5から温度データを取り込んだ後、余寿命推定部46bは、スイッチ部43をオフ制御して、温度センサ5への電力を遮断する。この動作を第1所定時間、例えば、1時間の間に第2所定時間毎、例えば、10分毎に行い、特定した所定個、例えば、6個の温度の平均を算出する。そして、算出した平均の温度を、その測定での電解コンデンサ11aの温度と特定する。
【0043】
余寿命推定部46bは、特定した電解コンデンサ11aの温度を用いて電解コンデンサ11aの余寿命を推定する。この余寿命の推定は、アレニウスの法則による電解コンデンサの寿命の推定式を用いて行う。図4に示すように、電解コンデンサ11aの最高使用温度をT[℃]とし、電解コンデンサ11aの使用温度、すなわち、上述の特定した温度をT[℃]とし、最高使用温度での電解コンデンサ11aの寿命、すなわち、電解コンデンサ11aの定格寿命をL[h]としたとき、使用温度での電解コンデンサ11aの寿命、すなわち、上述の特定した温度における電解コンデンサ11aの寿命L[h]は、次の(1)式で推定される。
L=L×2(T-T0)/10・・・(1)
【0044】
よって、基板6の稼働時間がL[h]であるとき、電解コンデンサ11aの余寿命L[h]は、次の(2)式で推定されることになる。余寿命推定部46bは、(1)式及び(2)式を用いて電解コンデンサ11aの余寿命を推定する。(1)式に示すアレニウスの推定式により、使用温度が10[℃]上がれば電解コンデンサ11aの寿命L[h]が2分の1となり、使用温度が10[℃]下がれば電解コンデンサ11aの寿命L[h]が2倍になることが分かる。電解コンデンサ11aの最高使用温度をT[℃]は、例えば、105[℃]である。
=L×2(T-T0)/10-L・・・(2)
【0045】
ステップS2の後のステップS3では、温度特定回数判定部46cが、電解コンデンサ11aの余寿命推定の回数が所定回数、例えば、10回以上となっているか否かを判定する。ステップS3で否定判定されると、ステップS4に移行して、所定時間経過判定部46dが、電源トータルカウンター2からの情報に基づいて前回の電解コンデンサ11aの余寿命Lの推定から第3所定時間経過したか否かを判定する。第3所定時間は、例えば、1週間の時間(24×7=168[h])に設定されてもよく、1か月程度の時間(24×30=720[h])に設定されてもよい。
【0046】
第3所定時間の時間経時は、例えば、前回の余寿命推定において最初の電解コンデンサ11aの温度特定を開始した時刻から開始してもよい。所定時間経過判定部46dが、前回の電解コンデンサ11aの余寿命Lの推定から第3所定時間経過したと判定すると、余寿命推定部46bが、上述の推定方法を用いて電解コンデンサ11aの余寿命Lを推定し、その後、ステップS3に移行する。
【0047】
他方、ステップS3で肯定判定されると、ステップS5に移行して、余寿命曲線生成部46eが、今まで推定されて記憶部47に記憶されている全ての余寿命に基づいて余寿命曲線(劣化曲線)を生成する。余寿命曲線は、今まで推定されて記憶部47に記憶されている全ての余寿命に基づいて、公知の方法、例えば、最小二乗法を用いて生成される。ステップS3の所定回数は、余寿命曲線をある程度正確に生成できる回数に設定される。ステップS3の所定回数が10回以上に設定されると、余寿命曲線をある程度正確に生成し易くて好ましい。
【0048】
図5は、余寿命曲線生成部46eが生成する余寿命曲線の一例を示す図(グラフ)である。なお、図5に示す例では、電解コンデンサ11aの余寿命推定の測定点を2点のみ示している。図5に示すように、余寿命曲線は、余寿命時間と、基板6の稼働時間との関係を示す曲線である。
【0049】
ステップS5の後のステップS6では、警告時期特定部46fが、電解コンデンサ11aの余寿命Lが警告閾値K図5参照)以下になったか否か判定する。ステップS6で否定判定されると、ステップS7に移行して、所定時間経過判定部46dが、電源トータルカウンター2からの情報に基づいて前回の電解コンデンサ11aの余寿命Lの推定から第3所定時間経過したか否かを判定する。第3所定時間の時間経時は、例えば、前回の余寿命推定において最初の電解コンデンサ11aの温度特定を開始した時刻から開始してもよい。所定時間経過判定部46dが、前回の電解コンデンサ11aの余寿命Lの推定から第3所定時間経過したと判定すると、余寿命推定部46bが、上述の推定方法を用いて電解コンデンサ11aの余寿命Lを推定し、その後、ステップS5に移行する。
【0050】
他方、ステップS6で肯定判定されると、ステップS8に移行して、警告時期特定部46fが、基板6の寿命が警告寿命以下になったことを表す情報を、通信部42に通信ネットワーク35を介して管理装置70に送信させ、その情報が管理装置70の記憶部におけるエレベーター20に対応する領域に記憶される。人、より詳しくは、当該エレベーター20の保守を担当する保守作業員は、定期的に管理装置70の記憶部における当該領域にアクセスし、当該エレベーター20の診断カルテを確認する。この診断カルテは、基板6の寿命が警告寿命以下になったか否かを特定できる情報を含む。よって、当該保守作業員は、当該エレベーター20の基板6が交換時期に近づいたことを知ることができ、基板6の交換準備を始めることができる。
【0051】
ステップS8の後のステップS9では、所定時間経過判定部46dが、電源トータルカウンター2からの情報に基づいて前回の電解コンデンサ11aの余寿命Lの推定から第3所定時間経過したか否かを判定する。第3所定時間の時間経時は、例えば、前回の余寿命推定において最初の電解コンデンサ11aの温度特定を開始した時刻から開始してもよい。所定時間経過判定部46dが、前回の電解コンデンサ11aの余寿命Lの推定から第3所定時間経過したと判定すると、余寿命推定部46bが、上述の推定方法を用いて電解コンデンサ11aの余寿命Lを推定し、その後、ステップS10に移行する。
【0052】
ステップS10では、余寿命曲線生成部46eが、今まで推定されて記憶部47に記憶されている全ての余寿命に基づいて余寿命曲線を生成する。余寿命曲線は、ステップS5と同様に、今まで推定されて記憶部47に記憶されている全ての余寿命に基づいて、公知の方法、例えば、最小二乗法を用いて生成される。電解コンデンサ11aの余寿命の測定回数が多くなればなる程、余寿命曲線が正確なものになる。よって、ステップS10で生成された余寿命曲線は、ステップS5で生成された余寿命曲線よりも正確なものになっている。
【0053】
ステップS10の後のステップS11では、交換時期特定部46gが、電解コンデンサ11aの余寿命Lが劣化閾値(交換閾値)R(<K)(図5参照)以下になったか否か判定する。ステップS11で否定判定されると、ステップS9以下が繰り替えされる。他方、ステップS11で肯定判定されると、ステップS12に移行して、交換時期特定部46gが、基板6の寿命が尽きて、基板6が交換時期に達したことを表す情報を、通信部42に通信ネットワーク35を介して管理装置70に送信させ、その情報が管理装置70の記憶部におけるエレベーター20に対応する領域に記憶される。これにより、当該領域にアクセスした人(保守作業員)が、基板6が交換時期に達したことを知ることができる。ステップS12が完了すると制御がエンドとなる。
【0054】
以上、劣化診断システム1は、エレベーター20の基板6に搭載された1以上のコンデンサ11(本実施形態では、1つの電解コンデンサ11a)に関して、電解コンデンサ11aの温度を特定できる温度特定情報を取得する温度情報取得部(温度センサ5)と、基板6に電力が供給されている全時間を特定できる全時間情報を取得する時間情報取得部(電源トータルカウンター2)と、温度特定情報及び全時間情報に基づいて電解コンデンサ11aの余寿命を推定する余寿命推定部46b(制御装置45)と、余寿命に基づいて基板6が交換時期になったか否かを特定する交換時期特定部46g(制御装置45)と、交換時期特定部46gが、基板6が交換時期になったと特定すると、基板6が交換時期になったことを表す情報を出力する出力部(通信部42)と、を備える。
【0055】
従来、コンデンサ(例えば、電解コンデンサ11a)の寿命を、基板6の寿命と同定して、コンデンサの寿命に基づいて基板6の交換を促すという技術的思想は存在せず、そのようなシステムは存在しなかった。
【0056】
係る背景において、本願発明者は、現場で使用されたエレベーター20の基板(例えば、制御基板を構成するプリント基板)6の回収調査の結果、基板6の寿命が、当該基板6に搭載されたコンデンサ11(例えば、電解コンデンサ11a)の寿命に依存することを初めて確認して見出した。より詳しくは、基板6の寿命は、基板6に搭載されている有寿命部品(例えば、電解コンデンサ、LED、電源装置等)の影響を受けることになるが、本願発明者は、上記回収調査結果から、基板6の寿命が、有寿命部品のうちでもコンデンサ11の寿命に影響されることを初めて確認し、突き止めた。
【0057】
本開示によれば、余寿命推定部46bが、温度特定情報及び全時間情報に基づいて電解コンデンサ11aの余寿命を推定し、交換時期特定部46gが、その余寿命に基づいて基板6が交換時期になったと特定すると、通信部42が、基板6が交換時期になったことを表す情報を出力する。したがって、その出力に基づいて基板6が交換時期になったことを認識した人(例えば、保守作業員)が、基板6を新しいものに交換できる。よって、エレベーター20の動作不良を抑制し易く、エレベーター20の高い安全性を実現し易い。
【0058】
また、交換時期特定部46g(制御装置45)は、電解コンデンサ11aの余寿命を劣化閾値Rと比較することで交換時期になったか否かを特定してもよい。
【0059】
本構成によれば、単純な制御で基板6の交換時期を正確に推定し易い。
【0060】
また、電解コンデンサ11aの余寿命を劣化閾値Rよりも大きい警告閾値Kと比較することで警告時期を特定する警告時期特定部46f(制御装置45)を備え、警告時期特定部46fが警告時期を特定すると、通信部42が、基板6が交換時期に近づいていることを表す情報を出力してもよい。
【0061】
本構成によれば、人が交換時期よりも前に交換時期に近づいていることを知ることができる。よって、基板6の交換準備を事前に行うことができて、基板6の交換を円滑に行うことができるので、基板6の動作不良を略確実に防止することができる。
【0062】
また、余寿命推定部46b(制御装置45)は、所定期間内に互いに時間的な間隔をおいて取得された複数の温度特定情報に基づいて所定期間における電解コンデンサ11aの平均温度を算出し、当該平均温度に基づいて電解コンデンサ11aの余寿命を推定してもよい。
【0063】
本構成によれば、単純な制御で基板6の交換時期を正確に推定し易い。
【0064】
また、エレベーター20の巻上機の巻上機モータを制御する制御装置3と通信する監視装置40を備え、監視装置40が、余寿命推定部46b(制御装置45)、交換時期特定部46g(制御装置45)、及び出力部(通信部42)を含み、通信部42が、基板6が交換時期になったことを表す情報を通信ネットワーク35のクラウド上に位置する情報処理装置(管理装置70)に向けて出力してもよい。
【0065】
管理装置70には、複数(多数)のエレベーター20のデータが収納されることがある。よって、管理装置70が基板6の交換時期を特定するようにすると、管理装置70の情報処理に大きな負荷がかかる虞がある。本構成によれば、基板6の交換時期の特定を、エレベーター側の監視装置40で行う。よって、エレベーター20の監視装置40と通信する管理装置70に大きな負荷がかかることを抑制できる。
【0066】
また、余寿命推定部46b(制御装置45)が、電解コンデンサ11aの余寿命の推定を推定開始時期(図3のステップS1において基板稼働時間が所定時間に到達した時期)から交換時期までの期間に所定期間(例えば、168時間や720時間)毎に継続的に行ってもよい。
【0067】
本構成によれば、基板6の稼働時間(基板6に電力が供給されている時間)が経過するにしたがって電解コンデンサ11aの余寿命のデータが増大する。したがって、基板6の可動時間の経過とともに基板6の交換時期を正確に特定し易い。
【0068】
また、基板6に電力が供給されている時間と、電解コンデンサ11aの余寿命との関係を示す余寿命曲線を記憶する記憶部47を備え、交換時期特定部46g(制御装置45)は、その余寿命曲線に基づいて交換時期になったか否かを特定してもよい。
【0069】
本構成によれば、基板6の交換時期を正確に特定し易い。
【0070】
なお、余寿命推定部46bが、余寿命の推定を推定開始時期から交換時期までの期間に所定期間毎に継続的に行い、しかも、基板6に電力が供給されている時間と、余寿命との関係を示す余寿命曲線を記憶する記憶部47を備え、交換時期特定部46gが、その余寿命曲線に基づいて交換時期になったか否かを特定すると好ましい。
【0071】
この場合、基板6の稼働時間が経過するにしたがって余寿命のデータが増大するので、余寿命曲線が基板6の可動時間が経過するにしたがって正確なものに近づくことになる。よって、基板6の可動時間の経過とともに基板6の交換時期を正確に特定できる。
【0072】
また、本開示に基板6の劣化診断方法は、エレベーター20の基板6に搭載された1以上の電解コンデンサ11aに関して、電解コンデンサ11aの温度を特定できる温度特定情報を取得するステップと、基板6に電力が供給されている全時間を特定できる全時間情報を取得するステップと、温度特定情報及び全時間情報に基づいて電解コンデンサ11aの余寿命を推定するステップと、余寿命に基づいて基板6が交換時期になったか否かを特定するステップと、基板6が交換時期になったと特定すると、基板6が交換時期になったことを表す情報を出力するステップと、を含む。
【0073】
本開示によれば、エレベーター20の動作不良を抑制し易く、エレベーター20の高い安全性を実現し易い。
【0074】
以上、実施形態の劣化診断システム1について詳細に説明したが、実施形態の劣化診断システム1の要点をまとめると次のようになる。
【0075】
劣化診断システム1は、プリント基板搭載部品の内、電解コンデンサ11aを状態監視し、電解コンデンサ11aの部品表面温度をデータとして監視装置40に取り込むと共に、当該基板6の稼働時間をデータとして取り込む。そして、劣化診断システム1では、取得データから電解コンデンサ11aの余寿命曲線を導き、基板6の余寿命時間と同定される電解コンデンサ11aの余寿命時間を計算し、その余寿命時間に基づいて基板自体の交換を促す。
【0076】
劣化診断システム1では、定期的に(例えば、週1回や月1回)、監視装置40を使用して電解コンデンサ11aの余寿命時間を計算し、余寿命時間が劣化閾値(要交換時間)Rになったら、基板6が交換時期となったことを情報センター8に設置された管理装置70に発報する。劣化診断システム1では、次の(1)-(3)の手順で当該発報を行う。
【0077】
(1)基板装着時、電源ONと同時に電源トータルカウンター2の動作を開始し記憶部(記録部)47に稼働時間を記録する。
(2)温度センサ5により電解コンデンサ11aのコンデンサ表面温度を検出し、制御装置(演算部)45にて計算したコンデンサ表面温度の平均温度を電解コンデンサ寿命式(アレニウス式)へ代入し稼働時間とコンデンサ寿命時間との差により余寿命時間を推定する。
(3)推定した余寿命時間が、予め設定した劣化閾値Rに到達したら、基板交換を促す発報を行う。
【0078】
劣化診断システム1によれば、現場毎に適切な交換周期で基板6を交換することができる。また、発報により、基板交換のタイミングを逸することなく、確実に基板6の交換ができる。
【0079】
なお、本開示は、上記実施形態およびその変形例に限定されるものではなく、本願の特許請求の範囲に記載された事項およびその均等な範囲において種々の改良や変更が可能である。
【0080】
例えば、上記実施形態では、警告閾値Kを用いて、基板6が交換時期に近づいていることを特定する場合について説明した。しかし、警告閾値Kを用いず、劣化閾値Rだけを用いて、いきなり基板6の交換時期を推定してもよい。
【0081】
また、余寿命推定部46bが、各回の電解コンデンサ11aの余寿命の推定において、電解コンデンサ11aの所定個の温度の平均を算出し、その温度平均に基づいて電解コンデンサ11aの余寿命を推定する場合について説明した。しかし、余寿命推定部は、各回のコンデンサの余寿命の推定において、コンデンサの所定個の温度の平均を算出しなくてもよく、1回のみのコンデンサの温度特定に基づいてコンデンサの余寿命を推定してもよい。
【0082】
また、監視装置40が、余寿命推定部46b(制御装置45)、交換時期特定部46g(制御装置45)、及び出力部(通信部42)を含む場合について説明した。しかし、制御盤30が、余寿命推定部、交換時期特定部、及び出力部を含んでもよい。又は、情報センター8内に配置される管理装置70が、余寿命推定部、交換時期特定部、及び出力部を含んでもよい。また、管理装置70の制御装置が、余寿命推定部、及び交換時期特定部を構成してもよく、管理装置70に含まれると共に液晶パネルや有機ELパネル等で構成される表示部71(図1参照)が、出力部を構成してもよい。そして、表示部71が、基板6が交換時期になったことを表す情報を表示により出力してもよい。
【0083】
また、基板6の交換時期を、基板6に実装されている1つの電解コンデンサ11aの余寿命に基づいて基板6の交換時期を推定する場合について説明した。しかし、余寿命推定部が、複数のコンデンサの余寿命を推定し、交換時期特定部が、複数のコンデンサの複数の余寿命のうちで最も短い余寿命に基づいて基板が交換時期になったか否かを特定してもよい。
【0084】
本構成によれば、人が、基板が交換時期になったことを更に正確に特定できる。したがって、エレベーターの動作不良を確実に抑制でき、エレベーターの高い安全性を確実に実現できる。なお、この場合、時間情報取得部は、1つのみでよいが、温度情報取得部は、複数のコンデンサの数と同じ数だけ存在し、各コンデンサに1つずつ直接設置されるか、又は各コンデンサに1つずつ間隔をおいて近接配置されると好ましい。
【0085】
また、基板6が交換時期になったことを表す情報を、情報センター8の管理装置70に出力する場合について説明した。しかし、基板6が交換時期になったことを表す情報は、管理装置70以外の情報処理装置に出力されてもよく、例えば、管理装置70経由で人(例えば、当該エレベーター20の保守を担当する保守作業員)が所持する情報端末(例えば、スマートフォンやノートパソコン)に出力されてもよく、管理装置70を経由せずに人が所持する情報端末に出力されてもよい。
【0086】
また、図5に示す余寿命曲線を用いて基板6の交換時期を特定する場合について説明した。しかし、余寿命曲線を用いなくてもよく、単に、定期的に電解コンデンサ11aの余寿命時間を計算して、計算した余寿命時間が劣化閾値R以下になったときに基板6が交換時期となったことを特定してもよい。
【0087】
また、基板6に電力が供給されている全時間を特定できる全時間情報を取得する時間情報取得部が、電源トータルカウンター2で構成される場合について説明した。しかし、当該全時間は、それに一対一に相関がある如何なる物理量に基づいて特定されてもよい。時間情報取得部は、例えば、巻上機モータの駆動時間、カゴ扉モータの駆動時間、カゴ室内の照明装置の点灯時間、カゴ室内の空気を調和する空気調和機の駆動時間、秤装置がカゴ室内に人がいることを検知している時間、乗場に設置されているカゴ呼び釦を光らせる発光装置が発光している時間、及びカゴ室内に設置されている行先階指定釦を光らせる発光装置の何れかが発光している時間のうちの1以上の時間を取得してもよい。そして、基板6に電力が供給されている全時間が、その1以上の時間に基づいて特定されてもよい。
【0088】
また、本開示のエレベーター用基板の劣化診断システムは、以下の構成であってもよい。
構成1:エレベーターの基板に搭載された1以上のコンデンサに関して、前記コンデンサの温度を特定できる温度特定情報を取得する温度情報取得部と、前記基板に電力が供給されている全時間を特定できる全時間情報を取得する時間情報取得部と、前記温度特定情報及び前記全時間情報に基づいて前記コンデンサの余寿命を推定する余寿命推定部と、前記余寿命に基づいて前記基板が交換時期になったか否かを特定する交換時期特定部と、前記交換時期特定部が、前記基板が交換時期になったと特定すると、前記基板が交換時期になったことを表す情報を出力する出力部と、を備える、エレベーター用基板の劣化診断システム。
構成2:前記交換時期特定部は、前記余寿命を劣化閾値と比較することで交換時期になったか否かを特定する、構成1に記載のエレベーター用基板の劣化診断システム。
構成3:前記余寿命を前記劣化閾値よりも大きい警告閾値と比較することで警告時期を特定する警告時期特定部を備え、前記警告時期特定部が前記警告時期を特定すると、前記出力部が、前記基板が交換時期に近づいていることを表す情報を出力する、構成2に記載のエレベーター用基板の劣化診断システム。
構成4:前記余寿命推定部は、所定期間内に互いに時間的な間隔をおいて取得された複数の前記温度特定情報に基づいて前記所定期間における前記コンデンサの平均温度を算出し、当該平均温度に基づいて前記余寿命を推定する、構成1から3のいずれか1つに記載のエレベーター用基板の劣化診断システム。
構成5:前記余寿命推定部は、複数の前記コンデンサの前記余寿命を推定し、前記交換時期特定部は、前記複数の余寿命のうちで最も短い前記余寿命に基づいて前記交換時期になったか否かを特定する、構成1から4のいずれか1つに記載のエレベーター用基板の劣化診断システム。
構成6:前記エレベーターの巻上機の巻上機モータを制御する制御装置と通信する監視装置を備え、前記監視装置が、前記余寿命推定部、前記交換時期特定部、及び前記出力部を含み、前記出力部が、前記基板が交換時期になったことを表す情報を通信ネットワークのクラウド上に位置する情報処理装置に向けて出力する、構成1から5のいずれか1つに記載のエレベーター用基板の劣化診断システム。
構成7:前記余寿命推定部が、前記余寿命の推定を推定開始時期から前記交換時期までの期間に所定期間毎に継続的に行う、構成1から6のいずれか1つに記載のエレベーター用基板の劣化診断システム。
構成8:前記基板に電力が供給されている時間と、前記余寿命との関係を示す余寿命曲線を記憶する記憶部を備え、前記交換時期特定部は、前記余寿命曲線に基づいて前記交換時期になったか否かを特定する、構成1から7のいずれか1つに記載のエレベーター用基板の劣化診断システム。
【符号の説明】
【0089】
1 劣化診断システム、 2 電源トータルカウンター、 3 制御装置、 3a 制御部、 3b 記憶部、 5 温度センサ、 6 基板、 7 電源スイッチ、 8 情報センター、 11 コンデンサ、 11a 電解コンデンサ、 13 昇降路、 20 エレベーター、 22 カゴ、 30 制御盤、 35 通信ネットワーク、 40 監視装置、 41 変換部、 42 通信部、 43 スイッチ部、 45 制御装置、 46 制御部、 46a トータル時間特定部、 46b 余寿命推定部、 46c 温度特定回数判定部、 46d 所定時間経過判定部、 46e 余寿命曲線生成部、 46f 警告時期特定部、 46g 交換時期特定部、 47 記憶部、 70 管理装置、 71 表示部、 K 警告閾値、 L 電解コンデンサの寿命、 L 電解コンデンサの余寿命、 R 劣化閾値。
図1
図2
図3
図4
図5