(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025039048
(43)【公開日】2025-03-21
(54)【発明の名称】金属又は合金薄膜付与アニオン交換膜の製造方法
(51)【国際特許分類】
C23C 18/36 20060101AFI20250313BHJP
【FI】
C23C18/36
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023145798
(22)【出願日】2023-09-08
(71)【出願人】
【識別番号】899000068
【氏名又は名称】学校法人早稲田大学
(74)【代理人】
【識別番号】110003063
【氏名又は名称】弁理士法人牛木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】國本 雅宏
(72)【発明者】
【氏名】本間 敬之
【テーマコード(参考)】
4K022
【Fターム(参考)】
4K022AA13
4K022AA31
4K022AA41
4K022BA09
4K022BA14
4K022BA16
4K022BA32
4K022CA06
4K022DA01
4K022DB02
4K022DB03
(57)【要約】
【課題】実装可能性が高くパラジウムに比べて安価な触媒核を用いながらも、広範囲な金属種をアニオン交換膜上に無電解析出可能とする、金属又は合金薄膜付与アニオン交換膜の製造方法を提供する。
【解決手段】本発明の金属又は合金薄膜付与アニオン交換膜の製造方法は、アニオン交換膜の少なくとも一方の表面に金属又は合金薄膜を有する、金属又は合金薄膜付与アニオン交換膜の製造方法であって、
前記アニオン交換膜の少なくとも一方の表面に銀触媒核を付与する工程、及び
(a)1種又は2種以上の金属塩、(b1)アミンボラン、及び(b2)析出させる前記金属又は合金に応じた還元剤を含有する無電解析出浴に、前記銀触媒核を付与したアニオン交換膜を浸漬し、前記金属塩を還元して前記アニオン交換膜における前記銀触媒核を付与した表面に前記金属又は合金を析出させる工程を含む。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
アニオン交換膜の少なくとも一方の表面に金属又は合金薄膜を有する、金属又は合金薄膜付与アニオン交換膜の製造方法であって、
前記アニオン交換膜の少なくとも一方の表面に銀触媒核を付与する工程、及び
(a)1種又は2種以上の金属塩、(b1)アミンボラン、及び(b2)析出させる前記金属又は合金に応じた還元剤を含有する無電解析出浴に、前記銀触媒核を付与したアニオン交換膜を浸漬し、前記金属塩を還元して前記アニオン交換膜における前記銀触媒核を付与した表面に前記金属又は合金を析出させる工程を含む、金属又は合金薄膜付与アニオン交換膜の製造方法。
【請求項2】
(b2)還元剤がリン含有化合物を含む、請求項1に記載の金属又は合金薄膜付与アニオン交換膜の製造方法。
【請求項3】
(a)金属塩がニッケル塩を含む、請求項1又は2に記載の金属又は合金薄膜付与アニオン交換膜の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属又は合金薄膜付与アニオン交換膜の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
無電解めっきは、非導電性基板上に機能性薄膜を付与するための技術として従来使用されている。無電解めっきは外部電力を使用しないため、電子源としての還元剤の反応を開始する触媒核を基板上に付与するための前処理が必要である。この触媒核により、無電解めっき浴中の金属カチオンの還元が促進され、ガラス、セラミック、プラスチック等の非導電性基板表面上にそのカチオンを前駆体とする金属の薄膜が形成される。
【0003】
近年、アニオン交換膜が電気化学エネルギー装置の重要な要素として着目されているが、アニオン交換膜の適用例として主なものに水電解装置がある。当該装置はグリーン水素需要の増加傾向にあって、その高性能化、低コスト化が求められているが、アニオン交換膜を電解質膜に用いる水電解装置は、セル部材に適用可能な材料の選択肢が広く、低コストを実現しながら高い電解性能を発揮する可能性を有する。例えば水電解装置におけるアニオン交換膜はアノードとカソードの間のOH-経路として機能しアルカリ環境での水電解プロセスを可能にするため、酸に強い貴金属の利用を必須とせず、コスト効率の高いアルカリ水電解が可能になる。
【0004】
イオン交換膜等の高分子膜上に金属薄膜を直接形成する技術は、多くの用途に利用可能である。例えば電気分解反応用の電極触媒材料をアニオン交換膜上に直接形成する技術は、アニオン交換膜を水電解装置に実装する効果的な方法の1つとなる。このような触媒直接付与の方法は、電極触媒とアニオン交換膜との間に生じる抵抗を軽減するため、良好な電解性能を発揮する。従来の方法では、アイオノマーを用いてアニオン交換膜上に電極を結着していたが、熱による劣化が懸念されるアイオノマーを使用せずに電極触媒を膜上に形成できれば、耐久性の高い電極部材の作製につながり、より安定した運用を実現するデバイスの開発が可能となる。無電解めっき法はそのような、アイオノマーを使用せずに電極触媒をアニオン交換膜上に直接形成する技術として期待される。
【0005】
アニオン交換膜の表面は、炭化水素ベースの主鎖と、4級アンモニウム官能基をはじめとするカチオン末端を有する側鎖で構成されている。このように正の電荷を有する官能基は一般に、同じく正電荷を有する金属カチオンと相互作用することが困難であるため、そのような金属カチオンを前駆体とする触媒粒子の形成もまた困難である。従来のアプローチでは、このような金属カチオンに対して配位結合が可能な、非共有電子対を有する官能基末端を非導電性基板表面に設け、それによって金属カチオンと表面との相互作用性を高めることで触媒粒子を形成させていたが、アニオン交換膜を基板とする場合はそうした対策も困難である。そのため、アニオン交換膜上への触媒付与には従来とは異なるアプローチを要する。
【0006】
本発明者らは、アニオン交換膜上の新規な無電解めっきプロセスを提案した(非特許文献1)。触媒粒子をパラジウムとし、その修飾に浴中のアニオンが重要な役割を果たすことを見出し、アニオンの中でも特にCl-が、パラジウム触媒粒子の前駆体であるPd2+とアニオン交換膜表面の正電荷官能基との間に十分に強い結合を提供することを見出した。これに基づき、アニオン交換膜をPdCl2/HCl溶液に浸漬する前処理工程を開発し、パラジウム触媒粒子を良好に堆積させ、その上に無電解めっき反応を行うことで、アニオン交換膜上に金属又は合金薄膜を形成するに至った。一方例えば、従来知られているスズ含有溶液を用いた増感プロセスを、PdCl2/HCl溶液に浸漬する前処理工程の前に適用すると、Pd2+の吸着が妨げられその後の析出反応も阻害されることから無電解めっき反応は困難であり、そのような従来プロセスの不適合性も確認されていた。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Electrochemistry,89(2),192-196(2021)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
非特許文献1で提案した無電解めっきプロセスは、アニオン交換膜表面へ直接に金属又は合金薄膜を作製する可能性を提供する。しかしながら、めっき反応のための触媒核金属種に高価なパラジウムを使用するため、汎用性が低いという課題があった。一方、パラジウム以外の触媒核金属種では、無電解析出が可能な金属が限定されてしまうこともあり、汎用性にはやはり課題があった。
【0009】
本発明は、上記のような事情に鑑みてなされたものであり、実装可能性が高くパラジウムに比べて安価な触媒核を用いながらも、広範囲な金属種をアニオン交換膜上に無電解析出可能とする、金属又は合金薄膜付与アニオン交換膜の製造方法を提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記の課題を解決するために、本発明者らは鋭意検討を行い、触媒核形成過程としての前処理と無電解めっき過程の両面を改良することで、その汎用性の問題を解決するプロセスを見出した。触媒核形成過程では、非特許文献1のパラジウムに代わるものとして、比較的安価な銀を検討し、銀触媒核粒子がアニオン交換膜上に形成されることを見出した。だが、非特許文献1ではパラジウム触媒核を利用することによってアニオン交換膜上の無電解めっきが可能になるメカニズムを議論しているが、その知見をそのまま他の金属種触媒核を用いた無電解めっきに適用することは困難であり、例えば銀触媒核では、従来の還元剤を単独で用いても金属又は合金薄膜が析出せず、例えば次亜リン酸塩を用いてもNi-P合金は堆積しない。しかし、特定の還元剤であるアミンボランを必須とし、かつその他の還元剤と組み合わせることによって、アニオン交換膜上に種々の金属又は合金薄膜が析出できることを見出し、本発明を完成するに至った。
すなわち本発明の金属又は合金薄膜付与アニオン交換膜の製造方法は、アニオン交換膜の少なくとも一方の表面に金属又は合金薄膜を有する、金属又は合金薄膜付与アニオン交換膜の製造方法であって、
前記アニオン交換膜の少なくとも一方の表面に銀触媒核を付与する工程;及び
(a)1種又は2種以上の金属塩、(b1)アミンボラン、及び(b2)析出させる前記金属又は合金に応じた還元剤を含有する無電解析出浴に、前記銀触媒核を付与したアニオン交換膜を浸漬し、前記金属塩を還元して前記アニオン交換膜における前記銀触媒核を付与した表面に前記金属又は合金を析出させる工程を含むことを特徴としている。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、パラジウムに比べて安価な触媒核を用いて、アニオン交換膜上に広範囲な金属種の無電解析出が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】(A)はニッケル塩と鉄塩を含む水溶液に、ジメチルアミンボラン(DMAB)と次亜リン酸塩を混合することによって作製した浴にアニオン交換膜を浸漬後の写真であり(析出層視認可)、(B)は次亜リン酸塩のみを混合した浴にアニオン交換膜を浸漬後の写真である(析出層視認不可)。
【
図2】実施例において作製したNiFeP付与アニオン交換膜を用いて、析出したNiFeP層を水素発生反応用触媒として用いた際の触媒性能評価を示す。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明を実施するための形態について具体的に説明する。
本発明の方法は、アニオン交換膜の少なくとも一方の表面に金属又は合金薄膜を有する、金属又は合金薄膜付与アニオン交換膜の製造方法であって、以下の工程(A)及び(B)を含む。
(A)前記アニオン交換膜の少なくとも一方の表面に銀触媒核を付与する工程
(B)(a)1種又は2種以上の金属塩、(b1)アミンボラン、及び(b2)析出させる前記金属又は合金に応じた還元剤を含有する無電解析出浴に、前記銀触媒核を付与したアニオン交換膜を浸漬し、前記金属塩を還元して前記アニオン交換膜における前記銀触媒核を付与した表面に前記金属又は合金を析出させる工程。
【0014】
工程(B)の析出初期においては、銀触媒核によってアミンボランの反応が活性化され、金属塩(a)が還元された金属又は合金が析出する。その後、析出した金属又は合金によって還元剤(b2)の反応が活性化されて、無電解析出が促進され、金属又は合金薄膜が堆積する。
【0015】
表面に正電荷を持ち、非共有電子対を持たないアニオン交換膜上で、非特許文献1のパラジウム以外の金属を触媒核として形成させることは、非特許文献1の知見を用いるのみでは困難である。例えば、パラジウムの代わりにニッケルを使用しても、触媒核として付与されない。つまり、非特許文献1でアニオン交換膜への触媒核形成の要因とされる塩化物イオンを、[NiCl4]2-の形で配位させ前駆体として使用しても、ニッケル触媒核は形成されない。銀を触媒核として使用する場合も、使用可能な還元剤は限定され、例えば還元剤に(b1)アミンボランを使用せず(b2)のうち次亜リン酸塩のみを添加した析出浴を用いても、金属又は合金薄膜は形成されない。本発明では、銀触媒核によってアミンボランの反応が活性化され、金属塩(a)が還元された金属又は合金が析出し、その後、析出した金属又は合金によって還元剤(b2)の反応が活性化されて無電解析出が促進され、金属又は合金薄膜が堆積する。これにより、アニオン交換膜上に種々の金属又は合金薄膜が形成できる。
【0016】
アニオン交換膜としては、正の電荷交換基が固定されて、カチオンの通過を妨げアニオンのみを透過させる選択透過機能を持ち、吸水能を有し直流電気エネルギーによって電気泳動が可能で、電極間に存在する溶液のイオン調節が可能なものであれば特に限定されない。例えば、炭化水素ベースの主鎖と、正に荷電した4級アンモニウム官能基を含む側鎖で構成されるアニオン伝導性ポリマーの膜等が挙げられる。4級アンモニウム官能基を含む側鎖としては、例えば、トリメチルベンジルアンモニウム化合物に由来するもの等が挙げられる。
【0017】
工程(A)では、無電解析出用(還元剤酸化反応用)の銀触媒核をアニオン交換膜の表面に形成する。工程(B)では、還元剤の酸化反応で生じた電子を浴中金属イオンが受け取って還元が生じ、それによって金属又は合金が析出し、堆積する。ここでは還元剤の反応が駆動力になるため、この反応を制御することが析出反応全体を制御することにつながる。工程(B)において浴中で酸化還元が生じることを防ぐことも意図してアニオン交換膜の表面に還元剤用触媒核を修飾する触媒化工程が工程(A)でもある。
【0018】
触媒核を安定かつ高密度に形成するためには、触媒核前駆体の安定吸着が重要である。パラジウムは、例えばCl-など特定のアニオン種との組み合わせによってはアニオン交換膜の表面に安定な触媒核前駆体を形成可能であることが報告されているが(非特許文献1)、パラジウムは高価で実用性が低くプロセスの汎用性が低い。触媒核として他の金属種を選択すると、析出金属種が限られる。本発明では、より実用性の高い銀を触媒核として付与すると共に、還元剤としてアミンボラン(b1)と他の還元剤(b2)を併用することで、析出金属種を限定しない、汎用性の高いプロセスを提供する。
【0019】
銀触媒核前駆体を修飾する浴には、銀塩及び塩化物イオン(Cl-)を添加する。銀塩としては、例えばAgNO3が挙げられる。Cl-の供給源としては、例えば、HCl等が挙げられる。銀塩及びCl-を添加することで、銀の塩化物錯体を形成し、前駆体がアニオン交換膜の表面に吸着しやすくなる。触媒前駆体と、アニオン交換膜表面の官能基との間の相互作用を橋渡しするアニオン種を調整することが、アニオン交換膜上での無電解析出を達成するための重要な要素の1つである。Cl-は、前駆体Ag+とアニオン交換膜の正の官能基との間に十分に強い結合を提供し、これにより前駆体が強く膜表面に吸着、ひいては銀触媒粒子が良好に堆積すると推察される。Ag+カチオンだけでは、アニオン交換膜表面におけるトリメチルアンモニウム等の正に帯電しまた非共有電子対を持たない官能基と強く相互作用しないため、アニオン交換膜表面の触媒前駆体である、Cl-を含む銀錯体と、アニオン交換膜表面の官能基との間の十分に強い相互作用が重要であると考えられ、Cl-がAg+カチオン吸着構造を安定させる重要な役割を果たすと考えられる。
【0020】
銀触媒核前駆体を修飾する浴における銀塩の含有量は、特に限定されないが、銀触媒核前駆体の高密度かつ均一な吸着等の点と、一方で銀塩が溶解しにくい点の両面に鑑み、0.01M程度が好ましい。浴のpHについては、Ag+イオンが安定に存在する条件としては酸性が好ましいが、塩化物イオンの供給源として塩酸を加えるため、特別な操作がなければ液性は酸性に傾きやすい。浴には、銀塩及び塩化物イオン以外に、その他の成分を添加してもよい。その他の成分としては特に限定されないが、例えば、工程(B)の無電解析出浴に添加し得るその他の成分として後述したものが挙げられる。
【0021】
アニオン交換膜を浴中に浸漬し銀触媒核前駆体を修飾するための浴の温度は特に限定されないが、室温で行うことができる。浸漬時間は特に限定されないが、30~90秒が好ましく、60秒程度がより好ましい。アニオン交換膜は、浸漬前に酸洗浄、水洗等の表面を清浄にする前処理を施してもよい。
【0022】
アニオン交換膜の表面に銀触媒核前駆体を修飾した後、このアニオン交換膜を、還元剤を含む析出浴中に浸漬し、銀触媒核を還元析出させる。還元剤としては、例えば、アミンボラン等が挙げられる。析出浴における還元剤の含有量は、特に限定されないが、析出速度、均一な析出等の点から、0.01~0.1Mが好ましく、0.05M程度がより好ましい。析出浴のpHは、特に限定されない。析出浴には、還元剤以外に、その他の成分を添加してもよい。その他の成分としては、特に限定されないが、例えば、工程(B)の無電解析出浴に添加し得るその他の成分として後述したものが挙げられる。
【0023】
アニオン交換膜を析出浴中に浸漬し銀触媒核を析出するための浴の温度は特に限定されないが、室温で行うことができる。浸漬時間は特に限定されないが、30~90秒が好ましく、60秒程度がより好ましい。アニオン交換膜は、浸漬前に水洗等の表面を清浄にする前処理を施してもよい。
【0024】
工程(B)では、銀触媒核を付与したアニオン交換膜を無電解析出浴に浸漬し、金属塩(a)を還元して、銀触媒核を付与した表面に金属又は合金を析出させる。金属塩(a)としては、目的とする金属又は合金薄膜に応じて、無電解析出浴に可溶なものであれば特に限定されない。例えば、遷移金属元素を含む塩が挙げられる。遷移金属元素としては、例えば、ニッケル、鉄、コバルト、銅、白金、パラジウム、金、モリブデン、タングステン、レニウム等が挙げられる。金属塩(a)は、無電解析出浴に可溶な、特に水溶性である各種の無機塩であってよい。無機塩としては、例えば、硫酸塩、塩化物等のハロゲン化物、炭酸塩、硝酸塩等が挙げられる。これらは水和物であってもよい。また、モリブデン酸2ナトリウム等のモリブデン酸アルカリ金属塩、タングステン酸ナトリウム等のタングステン酸アルカリ金属塩、シアン化金カリウム等のシアン化金塩、亜硫酸金ナトリウム等の亜硫酸金塩等も用いることができる。金属塩(a)は、1種単独で使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0025】
上記した金属塩(a)の中でも、ニッケル塩を含む場合は、アミンボラン(b1)及び還元剤(b2)を組み合わせることによって、ニッケル薄膜又はニッケル合金薄膜の堆積に適する。
【0026】
無電解析出浴中における金属塩(a)の含有量は、特に限定されないが、金属又は合金薄膜の析出速度、均一な析出、浴の安定性等の点から、0.01~0.1Mが好ましく、0.05M程度がより好ましい。
【0027】
アミンボラン(b1)を構成するアミンとしては例えば、ジメチルアミン、トリメチルアミン等が好ましい。これらの中でも、ジメチルアミンがより好ましい。アミンボランとして具体的には、例えば、ジメチルアミンボラン、トリメチルアミンボラン等が挙げられる。これらの中でも、ジメチルアミンボランが好ましい。アミンボラン(b1)は、1種単独で使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0028】
無電解析出浴中におけるアミンボラン(b1)の含有量は、特に限定されないが、金属又は合金薄膜の析出速度、均一な析出、浴の安定性等の点から、0.01~0.1Mが好ましく、0.02M程度がより好ましい。
【0029】
還元剤(b2)としては、特に限定されないが、例えば、リン含有化合物、アミン化合物、ホウ素含有化合物、アルデヒド化合物、ギ酸又はその塩等が挙げられる。還元剤(b2)は、1種単独で使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0030】
リン含有化合物還元剤としては、例えば、次亜リン酸塩(例えば、ナトリウム塩、カリウム塩等)、その水和物等が挙げられる。これらの中でも、リン含有化合物は、ニッケル、コバルト、パラジウム、金、白金等の金属又は合金薄膜の堆積に適する。
【0031】
アミン化合物還元剤としては、例えば、ヒドラジン等が挙げられる。アミン化合物は、コバルト、ニッケル、白金、パラジウム、銅、金、銀等の金属又は合金薄膜の堆積に適する。
【0032】
ホウ素含有化合物還元剤としては、例えば、水素化ホウ素塩(例えば、ナトリウム塩、カリウム塩等)等が挙げられる。ホウ素含有化合物は、ニッケル、コバルト、パラジウム、白金、銅、銀、金等の金属又は合金薄膜の堆積に適する。
【0033】
アルデヒド化合物還元剤としては、例えば、ホルムアルデヒド等が挙げられる。アルデヒド化合物は、銅、金、銀、白金、パラジウム等の金属又は合金薄膜の堆積に適する。
【0034】
上記した還元剤(b2)の中でも、リン含有化合物を含むと、ニッケル等のリン合金薄膜の堆積に適する。
【0035】
無電解析出浴中における還元剤(b2)の含有量は特に限定されないが、金属又は合金薄膜の析出速度、均一な析出、浴の安定性等の点から、0.1~0.2Mが好ましく、0.18M程度がより好ましい。
【0036】
無電解析出浴には、金属塩(a)、アミンボラン(b1)、還元剤(b2)以外に、その他の成分を添加してもよい。その他の成分としては、特に限定されないが、例えば、無電解析出浴に添加する公知の成分等が挙げられ、具体的には、例えば、有機酸、アミノ酸類、アミン類等の錯化剤、鉛塩、ビスマス塩、硫黄化合物等の安定剤、塩酸、硫酸、リン酸、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、アンモニア水等のpH調整剤、リン酸塩、炭酸塩、有機酸、ホウ素化合物等のpH緩衝剤、ノニオン性、アニオン性、カチオン性、両性等の界面活性剤等が挙げられる。
【0037】
無電解析出浴のpHは、アルカリ性が好ましく、10程度がより好ましい。銀触媒核を付与したアニオン交換膜を無電解析出浴に浸漬し無電解析出させる際の無電解析出浴の温度は、室温より高いことが好ましく、適度な析出速度と浴安定性に鑑み60℃程度がより好ましい。無電解析出の時間は、所望する金属又は合金薄膜の膜厚に応じて選択される。銀触媒核を付与したアニオン交換膜は、浸漬前に水洗等の表面を清浄にする前処理を施してもよい。
【0038】
無電解析出によってアニオン交換膜上に堆積する金属又は合金薄膜としては、特に限定されないが、遷移金属元素を含む金属又は合金薄膜が挙げられる。遷移金属元素としては、例えば、ニッケル、鉄、コバルト、銅、白金、パラジウム、金、モリブデン、タングステン、レニウム等が挙げられる。ホウ素B及びリンPは、無電解析出によって堆積する薄膜に含まれてもよく、これらを成分とする合金として金属と共堆積され得る。アミンボラン(b1)及び還元剤(b2)を組み合わせた浴はニッケル薄膜や、ニッケルを主成分とする合金薄膜の堆積に適する。
【0039】
金属又は合金薄膜の膜厚は、特に限定されず、適用対象によって調整される。
【0040】
本発明の方法は、アニオン交換膜水電解装置の高性能化、高効率化のためのカソード/アノード触媒層形成プロセス等に好適に使用でき、水素発生反応(HER)用触媒としての応用が可能である。本発明の方法により製造された金属又は合金薄膜付与アニオン交換膜は、必要に応じて、触媒層の高機能化等を目的として電解析出プロセスを適用することで更に薄膜を堆積させてもよい。
【実施例0041】
以下、実施例により本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
<実施例1>
1.Ag触媒核の付与
アニオン交換膜(A201、トクヤマ(株)製)を希硫酸水溶液中に室温で30秒間浸漬し、酸洗浄した。超純水で水洗後、AgNO3(0.01M)、HCl(35%溶液を2.5mL/L分)を含有する水溶液中に室温で60秒間浸漬し、Ag触媒核前駆体を修飾した。
Ag触媒核前駆体を修飾したアニオン交換膜を水洗後、ジメチルアミンボラン(DMAB、0.05M)を含有する水溶液に室温で60秒間浸漬し、Ag触媒核前駆体を還元してAg触媒核を析出させた。
【0042】
2.無電解析出
NiSO
4(0.05M)、FeSO
4(0.05M)、ジメチルアミンボラン(DMAB、0.02M)、次亜リン酸ナトリウム(0.18M)、硫酸アンモニウム(0.4M)、クエン酸(0.2M)を含有するpH10の水溶液を、無電解析出浴として調製した。
Ag触媒核を付与したアニオン交換膜を超純水で水洗後、無電解析出浴に60℃で15分間浸漬した。アニオン交換膜のAg触媒核を付与した表面には、その表面全体を覆うようにNiFeP薄膜が析出した(
図1(A))。NiFeP薄膜の膜厚は数μmであった。なお、還元剤にDMABを使用せず還元剤を次亜リン酸のみとした析出浴を用いると、無電解析出は起こらずNiFeP薄膜は析出しなかった(
図1(B))。
【0043】
析出した合金膜組成のEDX分析結果を表1に示す。左はAgを触媒核に用いた結果、右は、Agに代えてPd(非特許文献1)を触媒核に用いた結果を示す。Pdを触媒核として用いた場合と同等の合金膜組成がAg触媒核の場合も得られることが明らかとなった。
【0044】
【0045】
アニオン交換膜上に形成したNiFeP層のHER性能を評価する電気化学的測定を行った。アニオン交換膜上に形成したNiFeP層を陰極として使用し、陽極にはフォーム状のNiを使用した。陰極と陽極の電極面積は両方とも10×10mm
2とし、電気化学測定は膜電極接合体構造に相当する標準セル(Int.J.Hydrоgen Energy,46,36619-36628(2021))を採用して実施した。電解液は1 M K
2CO
3溶液を用い、北斗電工社製ポテンシオ/ガルバノスタット機器を用いて、-500 mA cm
-2で30分間の定電流電解を行った。
図2に、電極の定電流電解の電位プロファイルを示す。無電解析出によって作製されたNiFeP電極は、HERの触媒電極として機能することが示された。
【0046】
<実施例2>
1.Ag触媒核の付与
アニオン交換膜(A201、トクヤマ(株)製)を希硫酸水溶液中に室温で30秒間浸漬し、酸洗浄した。超純水で水洗後、AgNO3(0.01M)、HCl(35%溶液を2.5mL/L分)を含有する水溶液中に室温で60秒間浸漬し、Ag触媒核前駆体を修飾した。
Ag触媒核前駆体を修飾したアニオン交換膜を水洗後、ジメチルアミンボラン(DMAB、0.05M)を含有する水溶液に室温で60秒間浸漬し、Ag触媒核前駆体を還元してAg触媒核を析出させた。
【0047】
2.無電解析出
CоSO4(0.05M)、ジメチルアミンボラン(DMAB、0.02M)、次亜リン酸ナトリウム(0.18M)、硫酸アンモニウム(0.4M)、クエン酸(0.2M)を含有するpH10の水溶液を、無電解析出浴として調製した。
Ag触媒核を付与したアニオン交換膜を超純水で水洗後、無電解析出浴に60℃で30分間浸漬した。アニオン交換膜のAg触媒核を付与した表面には、その表面全体を覆うようにCо薄膜が析出することを確認した。