(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025039184
(43)【公開日】2025-03-21
(54)【発明の名称】インナーロータ型電動機
(51)【国際特許分類】
H02K 7/102 20060101AFI20250313BHJP
H02K 7/108 20060101ALI20250313BHJP
H02K 1/2713 20220101ALI20250313BHJP
【FI】
H02K7/102
H02K7/108
H02K1/2713
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023146086
(22)【出願日】2023-09-08
(71)【出願人】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000028
【氏名又は名称】弁理士法人明成国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】砂田 洋尚
【テーマコード(参考)】
5H607
5H622
【Fターム(参考)】
5H607AA12
5H607BB01
5H607BB07
5H607BB14
5H607CC03
5H607DD02
5H607EE03
5H607EE07
5H607EE19
5H622AA00
(57)【要約】
【課題】ブレーキなどの伝達部を内蔵し、構成の簡略なインナーロータ型電動機を提供する。
【解決手段】回転軸に取り付けられたロータと、ロータの外周に離間して設けられ、回転磁界を発生するためのステータコイルを収容したステータと、通電されることにより、回転磁界と相互作用する磁界を形成することで、ロータに回転力を作用させるロータコイルと、を備えるインナーロータ型電動機に伝達部を内蔵する。伝達部は、ロータコイルへの通電によって非通電時の初期位置から作動位置に移動するアーマチャを備え、アーマチャは、初期位置および作動位置の一方においてロータと他の部材とを結合し、初期位置および作動位置の他方においてロータと他の部材との結合を解除する。
【選択図】
図5A
【特許請求の範囲】
【請求項1】
インナーロータ型電動機であって、
回転軸に取り付けられたロータと、
前記ロータの外周に離間して設けられ、回転磁界を発生するためのステータコイルを収容したステータと、
通電されることにより、前記回転磁界と相互作用する磁界を形成することで、前記ロータに回転力を作用させるロータコイルと、
前記ロータコイルへの通電によって非通電時の初期位置から作動位置に移動するアーマチャを備え、前記アーマチャは、前記初期位置および前記作動位置の一方において前記ロータと他の部材とを結合し、前記初期位置および前記作動位置の他方において前記ロータと前記他の部材との結合を解除する伝達部と、
を備えたインナーロータ型電動機。
【請求項2】
前記伝達部の前記他の部材は、前記ロータの回転とは無関係な固定部材であり、
前記伝達部の前記アーマチャは、前記初期位置において前記他の部材と結合して前記ロータの回転を阻害し、前記作動位置において前記ロータを回転可能とするブレーキである、請求項1記載のインナーロータ型電動機。
【請求項3】
前記ブレーキは、前記回転軸と共に回転し、かつ前記回転軸の軸方向に移動可能に取り付けられた回転部材を備え、
前記アーマチャは、
前記ロータに設けられた弾性部材と接する位置に配置され、
前記非通電時には、前記弾性部材の付勢力により前記初期位置に保持されて、前記回転部材に制動力を付与し、
前記通電時には、前記弾性部材の前記付勢力に抗して移動された前記作動位置において、前記回転部材への制動力の作用を解消する、
請求項2記載のインナーロータ型電動機。
【請求項4】
前記弾性部材は、予め定めた自由長を有し、前記ロータの端部に設けられた前記自由長より浅い収容部に収容されたスプリングであり、
前記アーマチャは、前記スプリングによって、前記回転軸の前記軸方向に沿った移動が可能に支承されている、
請求項3に記載のインナーロータ型電動機。
【請求項5】
前記アーマチャは、前記初期位置において、前記回転部材を、前記ステータを囲うハウジング部材の一部に接触させて、前記制動力を付与する、請求項3に記載のインナーロータ型電動機。
【請求項6】
前記他の部材は、前記回転軸とは異なる他の回転軸であり、
前記伝達部は、前記アーマチャが前記作動位置にあるとき、前記ロータを前記他の回転軸と接続状態とし、前記アーマチャが前記初期位置にあるとき、前記ロータを前記他の回転軸と非接続状態とするクラッチである、請求項1に記載のインナーロータ型電動機。
【請求項7】
請求項6に記載のインナーロータ型電動機であって、
内燃機関のスタータモータまたはオルタネータとして使用され、
前記他の回転軸は、内燃機関の駆動軸または前記駆動軸に連動する回転軸である、インナーロータ型電動機。
【請求項8】
前記ロータは、クローポール型ロータコアを備える、請求項1から請求項7のいずれか一項に記載のインナーロータ型電動機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、インナーロータ型電動機に関する。
【背景技術】
【0002】
ステータコイルが外周に存在し、ステータコイルの内側に設けられたロータが回転するインナーロータ型電動機において、電動機の非駆動時にロータを固定するため、ブレーキを内蔵するものがある(例えば、下記特許文献1参照)。この電動機では、非駆動時において、ロータがブレーキシューにより固定される構成となっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1の電動機では、電動機の駆動時にステータコイルに流す電流を用いて、ロータ自体をブレーキシューから離脱させている。このため、電動機の駆動時に、ロータをブレーキのかからない位置に保持しておく必要があり、モータの駆動とは関係のない大きな電流を流す必要があり、電動機としての効率を高める事ができないという問題があった。特許文献1では、ロータの移動にステータコイルを流れる電流の一部を利用したが、独立した電磁ブレーキを用いたとしても、固定/解除のために電流の供給を必要とするから、電気的な効率を高めることができないことに変わりはない。また、専用の電磁ブレーキが必要となり、装置の大型化を招きやすいという課題も生じ得る。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本開示は、以下の形態又は適用例として実現することが可能である。
【0006】
(1)本開示の一実施形態は、インナーロータ型電動機としての構成である。このインナーロータ型電動機は、回転軸に取り付けられたロータと、前記ロータの外周に離間して設けられ、回転磁界を発生するためのステータコイルを収容したステータと、通電されることにより、前記回転磁界と相互作用する磁界を形成することで、前記ロータに回転力を作用させるロータコイルと、前記ロータコイルへの通電によって非通電時の初期位置から作動位置に移動するアーマチャを備え、前記アーマチャは、前記初期位置および前記作動位置の一方において前記ロータと他の部材とを結合し、前記初期位置および前記作動位置の他方において前記ロータと前記他の部材との結合を解除する伝達部とを備える。こうすれば、ロータコイルへの通電により伝達部のアーマチャを動作させることができ、アーマチャと他の部材との結合・結合の解除を行なうことができる。このため、例えば、伝達部をブレーキとして動作させる構成や、クラッチとして動作させる構成などを採用可能である。
(2)上記構成において 前記伝達部の前記他の部材は、前記ロータの回転とは無関係な固定部材であり、前記伝達部の前記アーマチャは、前記初期位置において前記他の部材と結合して前記ロータの回転を阻害し、前記作動位置において前記ロータを回転可能とするブレーキでとしてよい。こうすれば、ロータコイルへの通電を行なわない初期位置においてロータの回転を阻害でき、ブレーキ動作に電力を要しない。
(3)上記の構成において、前記ブレーキは、前記回転軸と共に回転し、かつ前記回転軸の軸方向に移動可能に取り付けられた回転部材を備え、前記アーマチャは、前記ロータに設けられた弾性部材と接する位置に配置され、前記非通電時には、前記弾性部材の付勢力により前記初期位置に保持されて、前記回転部材に制動力を付与し、前記通電時には、前記弾性部材の前記付勢力に抗して移動された前記作動位置において、前記回転部材への制動力の作用を解消するものとしてよい。こうすれば、弾性部材の付勢力を調整することで、ロータコイルへに非通電の場合の制動の状態を調整できる。
(4)上記の構成において、前記弾性部材は、予め定めた自由長を有し、前記ロータの端部に設けられた前記自由長より浅い収容部に収容されたスプリングであり、前記アーマチャは、前記スプリングによって、前記回転軸の前記軸方向に沿った移動が可能に支承されているものとしてよい。こうすれば、スプリングの自由長により容易に上記調整を行なうことができる。
(5)上記の構成において、前記アーマチャは、前記初期位置において、前記回転部材を、前記ステータを囲うハウジング部材の一部に接触させて、前記制動力を付与するものとしてよい。こうすれば、他の部材をハウジング部材の一部と兼用でき、構成を簡略化できる。
(6)上記の構成において、前記他の部材は、前記回転軸とは異なる他の回転軸であり、前記伝達部は、前記アーマチャが前記作動位置にあるとき、前記ロータを前記他の回転軸と接続状態とし、前記アーマチャが前記初期位置にあるとき、前記ロータを前記他の回転軸と非接続状態とするクラッチであるものとしてよい。こうすれば、ロータコイルに非通電の場合にクラッチを非接続状態にできる。
(7)上記の構成において、内燃機関のスタータモータまたはオルタネータとして使用され、前記他の回転軸は、内燃機関の駆動軸または前記駆動軸に連動する回転軸であるものとしてよい。こうすれば、ロータコイルへの通電を制御することにより、スタータモータとして、内燃機関のクランキングを行なったり、オルタネータとして、内燃機関の動力により回生発電を行なったりすることができる。
(8)上記の構成において、前記ロータは、クローポール型ロータコアを備えるものとしてよい。こうすれば、電動機を小型化でき、また回生発電における効率を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】実施形態としてのインナーロータ型電動機であるモータの概略構成を断面により示す説明図。
【
図2】実施形態のモータにおけるロータの形状を例示する斜視図。
【
図3】一対のロータを取り出して構造を示す説明図。
【
図4】モータを駆動する電気的な接続を模式的に示す説明図。
【
図5A】実施形態におけるブレーキの非通電時の状態を模式的に示す説明図。
【
図5B】実施形態におけるブレーキの通電時の状態を模式的に示す説明図。
【
図6】回転軸と共に回転する回転部材の構成を例示する説明図。
【
図7】他の構成例におけるブレーキの非通電時の状態を模式的に示す説明図。
【
図8】伝達部をクラッチとして構成した構成例を示す説明図。
【発明を実施するための形態】
【0008】
A.第1実施形態:
(A1)モータのハードウェア構成:
図1に示したように、インナーロータ型電動機(以下、単にモータという)10は、各部品を収容するハウジング12と、ハウジング12の略中心に軸受け14,15により回転自在に設けられた回転軸20と、回転軸20に取り付けられたロータ30と、ロータ30の外周に離間して設けられ、回転磁界を発生するためのステータコイル41を収容したステータ40と、通電されることにより、回転磁界と相互作用する磁界を形成することで、ロータ30に回転力を作用させるロータコイル32と、ロータコイル32への通電によって非通電時の初期位置から作動位置に移動するアーマチャ52を備えたブレーキ50とを、ハウジング12内に収容して備える。ブレーキ50は、アーマチャ52の他に、回転軸20の軸方向に移動可能に取り付けられた回転部材54、回転部材54の回転に制動力を付与する固定プレート55を備える。固定プレート55は、ロータ30の回転とは無関係な固定部材に相当する。また、固定プレート55は、ハウジング12で代用することも可能である。ブレーキ50の構成と働きについては、後で詳しく説明する。
【0009】
本実施形態のモータ10のロータ30は、いわゆるクローポール型ロータコアを備える。
図2は、ロータ30の構造を例示する斜視図である。図示するように、ロータ30は、ロータコイル32の外側に、爪形のロータコア31S,30Nが交互に配置された構造を備える。一対のロータコア31Sとロータコア31Nとを、
図3に示した。ロータコア31Sとロータコア31Nとは、共通の鉄心35により一体に構成されており、鉄心35に巻かれたロータコイル32に直流電流が流れると、鉄心35は励磁され、鉄心35から遠いロータコア31S,30Nのそれぞれは、S極,N極に分極する。ロータ30は、
図3に示したロータコア31S,30Nのペアを、外周方向に6組備える。この結果、爪形のロータコア31S,30Nは、ロータ30の外周方向に交互に6個ずつ配置され、ロータ30の外周には、S極とN極とが交互に存在する状態となる。
【0010】
図1に示したように、ロータコイル32には、回転軸20に設けられたスリップリング21,22に接触するブラシ25,26を介して、励磁用の電力が供給される。他方、ロータ30の外側に設けられたステータ40の3相に分巻きされたステータコイル41には、三相交流が印加される。三相交流の印加により、ステータコイル41により生じる磁界は、見かけ上、一方向に回転移動する。このステータ40側の磁界と、ロータ30のロータコア31S,30Nに形成されるS極、N極との相互作用により、ロータ30は回転軸20と共に回転する。
【0011】
ロータコイル32やステータコイル41に通電して、モータ10を駆動する回路構成を、
図4に模式的に示した。モータ10の電源であるバッテリ61からの直流出力は、制御回路70のインバータ71により三相交流に変換され、ステータ40のスター結線された三相のステータコイル41に印加される。他方、ロータ30のロータコイル32には、制御回路70のDC-DCコンバータ72を介して、所定の直流電圧が印加される。制御回路70によるステータコイル41への三相交流の通電により、ロータ30が回転する。
【0012】
(A2)ブレーキの構成:
図5A,
図5Bは、ブレーキ50の構成を拡大し模式的に示す説明図である。
図5Aは、ロータコイル32へのDC-DCコンバータ72からの通電がなされておらず、ブレーキ50が作動している状態を示し、
図5Bは、ロータコイル32へのDC-DCコンバータ72からの通電がなされており、ブレーキ50が非作動の状態を示す。DC-DCコンバータ72からの通電のオフ・オンは、
図5A,
図5Bや、他の頭においても、スイッチSWのオフ・オンとして描いたが、実際には、DC-DCコンバータ72を直接制御して、出力をオフ・オンさせればよい。アーマチャ52は、作動位置において、回転部材54から離間していることでロータ30を回転可能とし、初期位置において、回転部材54を固定プレート55に押し付けることで、ロータ30の回転を阻害する。
【0013】
具体的には、ロータコア31Nのアーマチャ52と対向している面(側端面という)33には、弾性部材としてのスプリング58が装着される収容部59が複数箇所設けられており、ここにスプリング58が装着される。収容部59の深さは、スプリング58の自由長より短い。収容部59の深さをD、スプリング58の自由長をL、アーマチャ52の厚みをW、ロータコア31Nの側端面33から回転部材54の表面までの距離をRとすると、
R<<(L-D)+W
となっている。このため、ロータコイル32に通電されていない状態では、スプリング58は、
ΔL=(R-W)-(L-D)
だけ圧縮される。この圧縮分に対応する力で、アーマチャ52は、回転部材54を押圧し、回転部材54は、固定プレート55に押し付けられる。本実施形態では、弾性部材はコイルパネであるスプリング58としたが、コイルバネに限らず板バネや弦巻バネなども利用可能である。バネではなく、圧縮性のあるエラストマなども弾性部材として利用可能である。
【0014】
回転部材54が複数のスプリング58により固定プレート55に押し付けられる力をFとすると、回転部材54と固定プレート55との摩擦係数をμとして、
M=μ×F
の静摩擦力が生じることになり、これにより回転軸20は回転しないように保持される。もとよりロータコイル32には通電されていないので、モータ10自身が回転することはなく、回転軸20に接続された被駆動部材、例えば車輪等からの力を受けても、回転軸20は回転しない。つまりブレーキがかかった状態に維持される。
【0015】
回転部材54は、回転軸20に対して、軸方向へのスライドは可能で、回転はできないように、結合部29により、結合されている。この様子を、回転軸20の軸方向から見た説明図である
図6に示した。結合部29は、回転軸20に直交する断面形状が矩形をしており、回転部材54の中心部には、この結合部29の形状に対応した摺動穴が開けられている。このため、回転部材54は、回転軸20と共に回転する。他方、摺動孔と結合部29との嵌め合いは、回転部材54が軸方向に摺動するのを許容している。このため、アーマチャ52がスプリング58により押されて回転部材54に接触すると、回転部材54は回転軸20の軸方向に移動して、固定プレート55に押し付けられる。
【0016】
この状態から、モータ10の運転を始めるために、
図4に示した制御回路70のDC-DCコンバータ72を駆動して、ロータコイル32に電流を流すと、ロータコイル32に流れる電流により生じる磁界により、
図5Bに示したように、アーマチャ52がロータコア31Nに引き寄せられる。ロータコイル32のへ通電により鉄心35に生じた磁界による磁束は、破線で示したように、ロータコア31Nを通るが、その磁束の一部は、ロータコア31Nの側端面33から漏れ出て、磁性体であるアーマチャ52の内部を通ることで、アーマチャ52をロータコア31Nの側端面33に引き寄せる。この結果、アーマチャ52は、スプリング58の付勢力に抗して側端面33側に移動し、回転部材54から離脱する。したがって、回転部材54と固定プレート55との静摩擦力も失われ、回転部材54は、回転軸20と共に回転可能な状態となる。インバータ71を介して、ステータコイル41に三相交流を印加すると、三相交流の周波数に応じた回転数で、ロータ30が回転する。
【0017】
ステータコイル41に印加される三相交流の周波数を高めて行くと、回転磁界の回転速度も高まるので、ロータ30の回転数は、これに応じて高くなる。ロータ30が高速回転することで、ステータコイル41に生じる逆起電力が高くなる場合には、DC-DCコンバータ72を制御して、ロータコイル32に流れる電流を低下させればよい。他方、ロータ30の回転を止める場合には、ステータコイル41に印加される三相交流の周波数を徐々に低下してロータ30の回転数を低下し、あるいはステータコイル41への三相交流の印加を中止してロータ30の回転を負荷により低下させればよい。ロータ30の回転が止まったところで、ロータコイル32に流す励磁電流をオフにすれば、アーマチャ52はロータコア31Nの側端面33から離脱し、スプリング58の付勢力により、回転部材54を固定プレート55に押圧する。これにより、モータ10は、ブレーキ50が係った状態となる。ロータ30の回転数は、ホール素子などを用いた回転数検出用のセンサにより検出すればよく、あるいはステータコイル41に生じる起電力を検出することによって取得してもよい。
【0018】
モータ10に対して、非常停止の要請があった場合には、非常停止の要請を制御回路70に入力し、制御回路70により、インバータ71やDC-DCコンバータ72を制御して、全ての通電をオフにする。この場合、ロータ30を回転させようとする力は失われ、更にアーマチャ52がスプリング58により回転部材54側に押し付けられるから、短時間のうちに、ロータ30の回転は停止され、モータ10は、ブレーキ50が係った状態となる。
【0019】
以上説明した第1実施形態のモータ10によれば、ロータ30を駆動するためのロータコイル32に通電していない状態では、アーマチャ52は、スプリング58の付勢力により、回転部材54に接触し、これを固定プレート55に押し付けることで、回転部材54と共に回転するよう結合部29で接合された回転軸20の回転を阻止する。つまり、アーマチャ52が初期位置にあるとき、モータ10を、その回転軸20が回転しないようにブレーキがかかった状態にできる。このとき、ブレーキ50の動作に電力を消費しないから、省電力化を図ることができる。ブレーキ50を動作させておくのに電力を消費しないから、このモータ10を利用した自動搬送機などを、停止状態にして放置した結果、バッテリ61の電力が放電等により失われた場合でも、モータ10の回転軸20はブレーキ50により制動状態に保たれる。
【0020】
他方、モータ10を回転しようとして、制御回路70が、DC-DCコンバータ72を制御して、ロータコイル32に直流電流を流すと、ロータコイル32を流れる電流によって生じた磁束の一部が、アーマチャ52をスプリング58の付勢力に抗してロータコア31Nの側端面33(作動位置)に引き寄せ、回転部材54をフリーの状態にし、つまりブレーキ50による制動を解除する。このように、本実施形態のモータ10は、ブレーキ50を解除するのに、専用のコイルなどアクチュエータを用いる必要がない。しかも、ロータ30を回転するためにロータコイル32に通電するというインナーロータ型電動機の構成を利用してブレーキを解除しているので、構成を簡略化できる。
【0021】
B.第2実施形態:
モータ10の第2実施形態について説明する。
図7は、第2実施形態のモータ10に備えられたロータ30Bの構成を示す説明図である。図は、アーマチャ52Bが初期位置にある状態を示している。第2実施形態のロータ30Bは、アーマチャ52Bの形状とロータコア31Nの側端面33Bの形状とが第1実施形態と異なる点を除いて、他は第1実施形態とほぼ同様の構成を備える。
【0022】
第2実施形態のモータ10のロータ30Bは、図示するように、第1実施形態の平板な形状のアーマチャ52に代えて、回転軸20を取り囲むスカート部53を備えたアーマチャ52Bを備える。スカート部53は、ストラス軸受けにより回転軸20に取付られていてもよい。ロータ30Bは、スカート部53に対応する部分が切り欠かれた鉄心35Bを備える。また、ロータコア31Nの側端面33Bには、円周方向に連続する溝が形成されており、磁束が通過する磁路が狭められている。このため、ロータコイル32に直流電流を流することにより形成される磁束は、スカート部53および内周側突部33iからアーマチャ52Bに誘導され、外周側突部33oからロータコア31Nの爪形の先端に向かうため、アーマチャ52Bは、ロータ30Bに強く吸引される。このため、50Bを動作させるためにロータコイル32に流す電流量を低減できる。その他の作用効果は、第1実施形態と同様である。
【0023】
C.他の実施形態:
上述したモータ10は、ロータ30として、クローポール型ロータコアを備える構造を用いたが、必ずしもクローポール型ロータコアに限るものではない。通電によってロータコアにS/Nの磁極を形成できる構造であれば、他の形態であってもよい。また、上記実施形態では、ブレーキ50,50Bは、N極となるロータコア31N側に設けたが、S極となるロータコア31S側に設けてもよいし、両側に設けてもよい。ステータコイル41は、スター結線された三相コイルとしたが、Δ結線を用いてもよい。また三相に限らず、5相以上の多相コイルを用いることも差し支えない。
【0024】
上記の実施形態で用いたクローポール型ロータコアを用いたモータ10は、電動機としての使用に加えて、発電機として用いることも可能である。例えば、車両のスタータモータとしての利用の他、オルタネータとしての利用も可能である。この場合、アーマチャ52,52B等は、ブレーキ50,50Bではなく、クラッチを構成し、回転軸20と、内燃機関等の駆動軸との結合を入り切りするよう構成される。具体的な構成例を、
図8に示した。図では、モータ10をスタータとして用いる構成例と、オルタネータとして用いる構成例とを、纏めて示した。
【0025】
この例では、モータ10の回転軸20と他の回転軸(以下、出力軸という)120との間に電磁クラッチ90が取り付けられている。出力軸120には、スプロケット101が取り付けられており、内燃機関等のエンジンEGのクランク軸130に取り付けられたスプロケット102との間には動力を伝達するチェーンベルト100が架設されている。このため、電磁クラッチ90を接続状態にすれば、モータ10の回転により、エンジンEGをクランキングすることや、逆に、エンジンEGを運転してクランク軸130を回転することにより、モータ10の回転軸20を回転させ、モータ10を発電機として用いて、電力を回生することも可能である。電磁クラッチ90は、クランク軸130に連動する出力軸120に設けたが、モータ10のロータ30や回転軸20を、直接クランク軸130に接続する構成としてもよい。
【0026】
図8を用いて、スタータモータまたはオルタネータとしての動作について説明する。図の最上段は、エンジンEGが停止しており、スタータモータまたはオルタネータとして用いられるモータ10も停止している状態を示す。この状態では、エンジンEGは停止しており、モータ10のロータコイル32への通電は行なわれていない。このため、アーマチャ52Cは初期位置に位置し、電磁クラッチ90はオフ、つまり非接続状態となっている。アーマチャ52Cが初期位置に位置するのは、電磁クラッチ90側に設けられたスプリングなどにより、モータ10のロータ30の側端部、詳しくはロータコアの側端部とは離間した位置に保持されているからである。
【0027】
図8の中段は、エンジンEGが回転しており、スタータモータまたはオルタネータとして用いられるモータ10も運転している状態を示す。この状態では、モータ10をスタータモータまたはオルタネータのいずれとして用いる場合でも、ロータコイル32への通電が行なわれる。スタータモータとして用いる場合は、同時にステータコイル41への三相交流の印加が行なわれ、モータ10はロータ30を回転駆動し、回転軸20も回転する。ロータコイル32への通電により、第1,第2実施例と同様、アーマチャ52Cがロータコア31Nに吸引され、電磁クラッチ90はモータ10のロータ30接続状態となる。この結果、回転軸20と共に回転するロータ30の回転は、電磁クラッチ90を介して出力軸120に伝達され、更にチェーンベルト100を介してクランク軸130を回転する。この結果、クランク軸130がクラキングされ、エンジンEGが始動される。
【0028】
他方、モータ10をオルタネータとして用いる場合には、ロータコイル32への通電が行なわれるが、スタータモータとして用いる場合と異なり、ステータコイル41への三相交流の印加は行なわれない。この場合、ロータコイル32への通電により、アーマチャ52Cがロータコア31N側に吸引され、電磁クラッチ90は接続状態となる。この結果、モータ10のロータ30は電磁クラッチ90を介して出力軸120と結合され、更にチェーンベルト100を介してクランク軸130に結合された状態となる。従って、エンジンEGが運転されることで、回転軸20と共にロータ30が回転する。このとき、モータ10は発電機として動作し、ステータコイル41に生じる起電力を、インバータ71により直流化して、バッテリ61を充電する。図において、電磁クラッチ90の出力側の出力軸120とエンジンEGのクランク軸130とが回転していることを、チェーンベルト100のハッチングにより示している。
【0029】
エンジンEGが運転されている状態で、モータ10を停止して、スタータモータとしてもオルタネータとしても使用しない状態を、図の最下段に示した。このとき、エンジンEGは運転されており、電磁クラッチ90は非接続状態となっている。この状態では、エンジンEGは運転されており、クランク軸130は回転し、出力軸120も回転している。モータ10のロータコイル32への通電は行なわれていない。このため、アーマチャ52Cはスプリングなどにより初期位置に位置し、電磁クラッチ90はオフ、つまり非接続状態となっている。つまり、モータ10をスタータモータとして用いる場合、エンジンEGが運転状態となっているので、もはやスタータモータによるクランキングは必要ないとして、電磁クラッチ90を非接続状態としている。また、モータ10をオルタネータとして用いる場合であっても、例えばバッテリ61の充電量SOCが十分に高い場合などでは、オルタネータによる発電は必要ないとして、電磁クラッチ90を非接続状態とする場合がある。図の最下段はこの状態を示す。
【0030】
以上説明した実施形態では、アーマチャ52Cは、ロータコイル32に通電していない初期位置において、ロータ30と他の部材である出力軸120と結合しない状態とし、作動位置においてロータ30と出力軸120とを結合する電磁クラッチ90を構成する。この結果、モータ10のロータ30とエンジンEGのクランク軸130とを結合するか否かを、ロータ30のロータコイルへの通電のオン・オフによって切り換えることができ、モータ10をスタータモータとして、あるいはオルタネータとして、動作させることができる。この実施形態でも、電磁クラッチ90を構成する新たなコイルなどが必要なく、ロータ30に設けられたロータコイルへの通電を制御することで、クラッチのオン・オフ(接続・非接続)を実現できる。
【0031】
図8に示した形態では、伝達部である電磁クラッチ90は、ロータコイルが非通電の場合に、接続がオフ(非接続状態)となっているが、ロータコイルが非通電の場合にオン(接続状態)、通電されている場合にオフ(非接続状態)としてもよい。こうした構成は、電磁クラッチ90のアーマチャ52Cを第1,第2実施形態と同様に、ロータコアの側端面にスプリングを用いて支承することで容易に構成できる。また、これとは逆に、第1,第2実施形態の伝達部であるブレーキ50を、ロータコイル32への通電がされていないときにロータ30,30Bを制動し、通電されているとき非制動とすることも差し支えない。
【0032】
上記各実施形態において、ハードウェアによって実現されていた構成の一部をソフトウェアに置き換えるようにしてもよい。ソフトウェアによって実現されていた構成の少なくとも一部は、ディスクリートな回路構成により実現することも可能である。また、本開示の機能の一部または全部がソフトウェアで実現される場合には、そのソフトウェア(コンピュータプログラム)は、コンピュータ読み取り可能な記録媒体に格納された形で提供することができる。「コンピュータ読み取り可能な記録媒体」とは、フレキシブルディスクやCD-ROMのような携帯型の記録媒体に限らず、各種のRAMやROM等のコンピュータ内の内部記憶装置や、ハードディスク等のコンピュータに固定されている外部記憶装置も含んでいる。すなわち、「コンピュータ読み取り可能な記録媒体」とは、データパケットを一時的ではなく固定可能な任意の記録媒体を含む広い意味を有している。
【0033】
本開示は、上述の実施形態に限られるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲において種々の構成で実現することができる。例えば、発明の概要の欄に記載した各形態中の技術的特徴に対応する実施形態中の技術的特徴は、上述の課題の一部又は全部を解決するために、あるいは、上述の効果の一部又は全部を達成するために、適宜、差し替えや、組み合わせを行うことが可能である。また、その技術的特徴が本明細書中に必須なものとして説明されていなければ、適宜、削除することが可能である。
【符号の説明】
【0034】
10…モータ、12…ケース、20…回転軸、21,22…スリップリング、25,26…ブラシ、29…結合部、30,30B…ロータ、31N,31S…ロータコア、32…ロータコイル、33,33B…側端面、33i…内周側突部、33o…外周側突部、35,35B…鉄心、40…ステータ、41…ステータコイル、50…ブレーキ、52,52B,52C…アーマチャ、53…スカート部、54…回転部材、55…固定プレート、58…スプリング、59…凹部、61…バッテリ、70…制御回路、71…インバータ、72…DC-DCコンバータ、90…電磁クラッチ、100…チェーンベルト、101,102…スプロケット、120…出力軸、130…クランク軸