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特開2025-3930切断プラズマを生成し得る電気外科用器具を制御するための方法、及び対応する電気外科用発電機
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  • 特開-切断プラズマを生成し得る電気外科用器具を制御するための方法、及び対応する電気外科用発電機 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025003930
(43)【公開日】2025-01-14
(54)【発明の名称】切断プラズマを生成し得る電気外科用器具を制御するための方法、及び対応する電気外科用発電機
(51)【国際特許分類】
   A61B 18/12 20060101AFI20250106BHJP
【FI】
A61B18/12
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2024075222
(22)【出願日】2024-05-07
(31)【優先権主張番号】63/472,838
(32)【優先日】2023-06-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(71)【出願人】
【識別番号】516236908
【氏名又は名称】オリンパス・ヴィンター・ウント・イベ・ゲゼルシャフト・ミット・ベシュレンクテル・ハフツング
【氏名又は名称原語表記】OLYMPUS WINTER & IBE GmbH
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】イェレ ダイクストラ
(72)【発明者】
【氏名】ファビアン ヤニッヒ
(57)【要約】      (修正有)
【課題】動作中に、組織において、その組織を切断又は気化させるための切断プラズマを生成し得る電気外科用器具を制御するための方法を提供する。
【解決手段】電気外科用発電機が、基本的に正弦波である電圧信号を生成し、電圧信号が、電気外科用器具に印加され、電圧信号を電気外科用器具に印加すると、切断プラズマを供給し得る動作電流信号がもたらされ、動作電流信号が、基本周波数を有する正弦波である線形電流成分と、基本周波数を有さない非線形電流成分であって、特に、非正弦波である、及び/又は過渡的な性質である、非線形電流成分と、を含み、動作電流信号が、切断プラズマを制御するために非線形電流成分に応じて制御される、方法。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
動作中に、組織において、前記組織を切断又は気化させるための切断プラズマを生成し得る電気外科用器具を制御するための方法であって、
電気外科用発電機が、基本的に正弦波である電圧信号を生成し、前記電圧信号が、前記電気外科用器具に印加され、
前記電圧信号を前記電気外科用器具に印加すると、前記切断プラズマを供給し得る動作電流信号がもたらされ、
前記動作電流信号が、
基本周波数を有する正弦波である線形電流成分と、
前記基本周波数を有さない非線形電流成分であって、特に、非正弦波である、及び/又は過渡的な性質である、非線形電流成分と
を含み、
前記動作電流信号が、前記切断プラズマを制御するために前記非線形電流成分に応じて制御される、
方法。
【請求項2】
前記非線形電流成分を受けるために、前記非線形電流成分が残るように、前記線形電流成分が、前記動作電流信号から抽出される、
ことを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記線形電流成分が、前記動作電流信号の第1の高調波を特徴付ける信号係数を計算することによって決定され、
前記線形電流成分が、これらの信号係数を使用して記述される、
ことを特徴とする、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記線形電流成分が、以下の式に従って前記動作電流信号の第1の高調波フーリエ三角関数係数a及びbを計算することによって決定され、
【数1】
及び
【数2】
ここで、
x[k]が、前記動作電流信号のサンプルであり、
Nが、使用されるサンプルの数であり、
前記動作電流信号のサンプルが、前記線形電流信号又は前記電圧信号の1周期の時間間隔にわたって採取される、
ことを特徴とする、請求項1から3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記動作電流信号が、前記非線形電流成分のrms値に応じて制御され、
前記非線形電流成分の前記rms値が、前記動作電流信号のrms値の二乗と、前記線形電流成分のrms値の二乗との間の差の平方根を計算することによって計算される、
ことを特徴とする、請求項1から4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記非線形電流成分のrms値又は前記rms値Inlに応じて前記動作電流信号を制御するために、前記rms値Inlが、以下の式を使用して計算され、
【数3】
ここで、
rmsが、前記動作電流信号の前記rms値であり、
及びbが、前記動作電流信号の前記第1の高調波フーリエ三角関数係数である、
ことを特徴とする、請求項1から5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記動作電流信号を制御するために、前記非線形電流成分のrms値又は前記rms値が、基準値に制御され、並びに/あるいは
前記非線形電流成分の前記rms値が、前記基準値を下回るか、又は第1の基準値を下回ると、前記電圧信号の振幅が増加し、及び
前記非線形電流成分の前記rms値が、前記基準値を上回るか、又は第2の基準値を上回ると、前記電圧信号の前記振幅が減少する、
ことを特徴とする、請求項1から6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
生理食塩水を加熱するための第1の制御段階では、前記非線形電流成分のrms値又は前記rms値が、第1の基準値又は前記第1の基準値に制御され、
前記切断プラズマを供給するための第2の制御段階では、前記非線形電流成分の前記rms値が、第2の基準値に制御され、
前記第1の基準値が、前記第2の基準値よりも大きい、
ことを特徴とする、請求項1から7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記電気外科用器具が、前記電極と、生理食塩水又は隣接組織との間に前記切断プラズマを供給するための単一の電極を備えるか、又は
前記電気外科用器具が、これらの2つの電極間に前記切断プラズマを供給する2つの電極を備える、
ことを特徴とする、請求項1から8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
動作中に、組織において、前記組織を切断又は気化させるための切断プラズマを生成し得る電気外科用器具を制御するための電気外科用発電機であって、前記電気外科用発電機が
前記電気外科用発電機が、基本的に正弦波である電圧信号を生成し、前記電圧信号が、前記電気外科用器具に印加され、
前記電圧信号を前記電気外科用器具に印加すると、前記切断プラズマを供給し得る動作電流信号がもたらされ、
前記動作電流信号が、
基本周波数を有する正弦波である線形電流成分と、
基本周波数を有さない非線形電流成分であって、特に、非正弦波である、及び/又は過渡的な性質である、非線形電流成分と
を含み、
前記動作電流信号が、前記切断プラズマを制御するために前記非線形電流成分に応じて制御される
といった方法を実行するように適合される、電気外科用発電機。
【請求項11】
前記外科用発電機を制御するように適合された制御デバイスを備え、
前記電気外科用発電機、特に前記制御デバイスが、請求項1から9のいずれか一項に記載の方法を実行するように適合される、
請求項10に記載の電気外科用発電機。
【請求項12】
制御デバイス又は前記制御デバイスに接続される、前記電圧信号を生成するための周波数変換器、並びに/あるいは
前記発電機によって制御されたとき、及び動作中に、組織において、前記組織を切断又は気化させるための切断プラズマを生成し得る電気外科用器具を接続するための出力ポート、並びに/あるいは
動作電流を測定し、前記周波数変換器及び/又は前記制御デバイスに接続される、電流センサ
を備える、請求項10又は11に記載の電気外科用発電機。
【請求項13】
電気外科設備であって、
請求項10から12のいずれか一項に記載の電気外科用発電機と、
前記電気外科用発電機に接続される電気外科用器具と
を備える、電気外科設備。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、動作中に、組織において、その組織を切断又は気化させるための切断プラズマを生成し得る電気外科用器具を制御する方法に関する。本発明はまた、組織を切断又は気化させるための切断プラズマを生成し得る電気外科用発電機に関する。
【0002】
本発明は、TURis(生理食塩水での経尿道切除術)処置中の切断プラズマの生成に関する。この処置では、いわゆる作業要素に挿入された電極周りで点火されたプラズマを用いて、前立腺及びブラッタ組織を切断/気化することができる。
【0003】
プラズマの点火は、2つのステップを含む。まず、電極周りの生理食塩水を大電流で加熱する。これにより、電極周りにガスポケットを生成し、それを、生理食塩水から電気的に絶縁する。次いで、このガスポケットにわたる高電圧は、ガスのイオン化を引起し、それによってプラズマを点火する。
【背景技術】
【0004】
現在、TURisに使用される電気外科用発電機は、主に電圧制御で動作する。点火中、導電性流体のインピーダンスが極めて低いので、出力電流は極めて大きい。ガスポケットが形成されるとすぐに、インピーダンスが上昇するにつれて、電流は自動的に減少する。
【0005】
既知のシステムにおけるプラズマの強度は、出力電圧を介して制御される。この関係は非線形性が強く、出力電圧の小さな変化は、出力電力を大きく変化させる可能性がある。一例として、異なる段階に対して既知のシステムによって使用される3つの電圧設定があり、これらの3つの電圧設定は、280V、300V、及び320Vであり得る。
【0006】
組織接触がないとき、これにより出力電力は低下し、視界を遮る気泡が少なくなるので、電圧を下げることが有益であろう。これは2つの点で問題がある。第1に、安定したプラズマ状態を維持するための必要な最小電圧は、温度、電極サイズ、電極位置、流量などの環境設定に依存する。第2に、組織接触と非組織接触との間を区別することは困難である。
【0007】
解決策は、電圧ではなく電流に対して制御することであり得る。しかしながら、このモードは、ガス層が崩壊しようとするときはいつでも高電流の短いバーストを必要とするので、電流制限を伴う直流制御は実現困難である。したがって、電流制限をかけると、ガス層が不安定になるので、安定性が著しく低下する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
したがって、本発明の目的は、上記の問題の少なくとも1つに対処することである。特に、切断プラズマを正確に制御し、及び/又は切断プラズマを供給するための動作電流信号を正確に制御し得る、解決策が提供されるべきである。これまでに知られている解決策に関して、少なくとも代替的な解決策が提供されるべきである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明による、請求項1に記載の方法を提供する。したがって、動作中に、組織において、すなわちいわゆる作業要素において、その組織を切断又は気化させるための切断プラズマを生成し得る電気外科用器具を制御するための方法を提供する。本方法による、電気外科用発電機は、基本的に正弦波である電圧信号を生成し、電圧信号を電気外科用器具に印加し、電圧信号を電気外科用器具に印加することにより、切断プラズマを供給し得る動作電流信号がもたらされる。
【0010】
したがって、電気外科用器具に供給される電力を基本的に供給し、制御する電気外科用発電機がある。これは、電圧信号が電気外科用器具に印加されるように行われる。このような電圧信号は、基本的に正弦波である。したがって、DC信号が患者に害を及ぼす可能性があるので、電圧信号は交流信号である。使用される最低周波数は、200kHzであり、したがって、基本的に正弦波の電圧信号は200kHz以上の周波数を有する。
【0011】
そのような電圧信号を電気外科用器具に印加すると、上記の動作電流がもたらされる。それゆえに、上記の動作電流は、切断プラズマがもたらさせるように印加される電圧信号によって制御される。
【0012】
本方法によれば、動作電流信号は、基本周波数を有する正弦波である線形電流成分と、基本周波数を有さない非線形電流成分と、を含む。特に、非線形電流成分は、非正弦波であってもよく、及び/又は過渡的な性質であってもよい。しかしながら、非線形電流成分が正弦波で、少なくとも正弦波パターンを有するが、基本周波数を有さないことも可能である。
【0013】
簡単に言えば、線形電流、それゆえに、正弦波電流のみを制御する方が容易である可能性がある。しかしながら、切断プラズマを供給する電流は、切断プラズマに依存するインピーダンスを変化させる。もちろん、組織にも、あるいは周囲の生理食塩水及び/又は生成されたガスポケットにも依存する。これは主に非線形電流成分に反映されることが分かった。
【0014】
このことから、切断プラズマを制御するためには、非線形電流成分に応じて動作電流信号を制御することを発案する。
【0015】
組織において、又はその近くで、それゆえに、電気外科用器具において、発生するプロセスは、非線形電流成分に強く依存することが分かった。切断プラズマを動作させるためには、線形電流成分と非線形電流成分との両方が必要であるが、非線形電流成分のみ、又は主に非線形電流成分は、進行中のプロセスを示す。したがって、非線形電流に応じて、切断プラズマが強くなりすぎず、分解しないように制御を駆動することができる。
【0016】
動作電流の制御は、特に、非線形電流成分のフィードバック、又は非線形電流成分を示す信号が存在するように、フィードバック制御として実行される。このフィードバック信号に基づいて、動作電流は、特に印加電圧信号によって制御される。フィードバック信号は設定値と比較することができ、比較に応じて制御を、それに応じて適合することができる。しかしながら、1つの更なる例として、状態コントローラなどの異なるフィードバック制御方法を適用してもよい。設定値を変化させてもよい。
【0017】
一態様によれば、非線形電流成分を受けるために、非線形電流成分が残るように、線形電流成分を、動作電流信号から抽出することを発案する。
【0018】
線形電流成分は、正弦波信号であると理解されるべきである。したがって、そのような正弦波信号、それゆえに線形電流成分を、その振幅、周波数、及び位相角によって容易に記述することができる。したがって、このような線形電流成分を、単純で、時不変に記述することができる。少なくともそのような信号の形状は、余り急速に変化しない。そのような線形電流成分は、準定常信号として理解することができる。少なくともこのような線形信号は、これらのパラメータが少なくとも1周期にわたって一定であると理解することができる。
【0019】
それに基づいて、それゆえに、そのような線形電流成分、すなわちこれらのパラメータによって記述されるそのような正弦波信号も、極めて容易に識別することができる。1つの可能性は、特定のフィルタを有することである。少なくとも周波数及び位相角を識別するために位相ロックループ(PLL)を使用することも可能である。カルマンフィルタなどの他のフィルタも同様に使用することができる。
【0020】
しかしながら、以下で更に説明するように、最も有利なフーリエ変換を使用することができる。
【0021】
一態様によれば、線形電流成分は、動作電流信号の第1の高調波を特徴付ける信号係数を計算することによって決定され、線形電流成分は、これらの信号係数を使用して記述される。
【0022】
したがって、その信号を、フーリエ変換を使用して分析することができる。このようなフーリエ変換は、一般に、動作電流信号の第1の高調波及び高次高調波を特徴付ける信号係数を計算することができる。このようにして、動作信号を、これらのフーリエ信号係数を使用して全体的に記述することができる。
【0023】
基本的な考え方は、第1の高調波が、線形成分を記述し、高次高調波成分が、動作電流信号の非線形部分を記述するというものである。
【0024】
しかしながら、高次高調波成分の信号係数を計算する必要はなく、代わりに、動作電流信号の第1の高調波の信号係数のみを計算する。その結果、明確な単一の正弦波電流信号が得られる。
【0025】
線形電流成分の周波数、それゆえに、動作電流信号全体の周波数は既知であることも分かった。したがって、このような変換が、変換される必要がある信号のこの周波数を必要とするので、フーリエ変換を適用することは容易である。したがって、このようにして、動作電流信号の第1の高調波を特徴付ける信号係数を容易に計算することができ、それゆえに、線形電流成分を、容易に識別し、それゆえに、動作電流信号全体から減算することができる。
【0026】
それゆえに、減算の結果は、非線形電流成分であり、これは、動作電流信号を制御するために使用される。したがって、これは、フィードバック制御が使用される場合、フィードバック制御のためのフィードバックで使用される。
【0027】
一態様によれば、線形電流成分は、以下の式に従って動作電流信号の第1の高調波フーリエ三角関数係数a及びbを計算することによって決定される、
【数1】
及び
【数2】
ここで、
x[k]は、動作電流信号のサンプルであり、
Nは、使用されるサンプルの数であり、
動作電流信号のサンプルは、線形電流信号又は電圧信号の1周期の時間間隔にわたって採取される。
【0028】
したがって、このようにして、動作電流信号の第1の高調波を特徴付ける信号係数として理解され得る第1の高調波フーリエ三角係数a及びbを計算するための明確な式が存在する。
【0029】
したがって、動作電流信号をサンプリングし、これらの係数を計算することだけが必要である。これらのサンプルを取得するために、信号は、1周期の時間間隔にわたってサンプリングされる。この周期又は対応する周波数は、電圧信号が電気外科用発電機によって生成されるので既知である。それゆえに、ほぼ正確に1周期の時間間隔にわたって正確にサンプリングすることも容易である。したがって、第1の高調波フーリエ三角係数a及びb、すなわち第1の高調波の信号係数についての良好で正確な結果もまた、高品質に計算することができる。
【0030】
しかし、この計算によって、実際には必要以上に高い品質で線形電流成分を計算できることも分かった。
【0031】
それゆえに、そのような線形電流成分は、動作電流信号全体から減算するために使用されるだけでよく、残りの非線形電流成分をもたらし、残りの非線形電流成分を、動作電流信号を制御するために使用することができる。
【0032】
一態様によれば、動作電流信号は、非線形電流成分のrms値に応じて制御され、非線形電流成分のrms値は、動作電流信号のrms値の二乗と、線形電流成分のrms値の二乗との間の差の平方根を計算することによって計算される。そのようなrms値は、特に、線形電流信号又は電圧信号の1つの期間にわたって、あるいは複数のそのような期間にわたって、特に2、3、4、5又は5を超える期間にわたって、並びに/あるいは10未満にわたって、取得される。したがって、予想される非線形性を考慮しても、瞬時値を考慮する必要はなく、rms値を考慮すれば十分であることが分かった。更なる結果として、正弦波電圧信号を供給することによって動作電流を制御することも可能であるが、そのような正弦波電圧信号の振幅を調整するだけで十分であり得る。言い換えれば、この電圧信号の瞬時値を制御する必要がない。
【0033】
更に、線形電流成分のrms値と、動作電流信号全体のrms値とに基づいて、非線形電流成分を計算すればよいことが分かった。
【0034】
このようにして、動作電流信号の制御は十分であるが、非線形電流成分の計算は、サンプリングされた信号のrms値、及び上記フーリエ係数によって定義された非線形電流成分だけが必要であるため、極めて単純であることが分かった。
【0035】
特に、非線形電流成分に応じて動作電流信号を制御しても、このようなrms値で十分であり得る。また、非線形部分が作業要素の動作状況に特徴的であっても、rms値は、その動作状況の考慮に十分であることが分かった。非線形電流成分の特定の形状を考慮する必要はない。使用されるエネルギーは状況の重要な特性であり、それゆえに、rms値は、それを説明するために良好な値であることも分かった。
【0036】
正弦波電圧信号は、非線形電流成分に応じて適合される。特に、正弦波電圧信号の振幅は、非線形電流成分のrms値に応じて調整される。
【0037】
一態様によれば、
非線形電流成分のrms値Inlに応じて動作電流信号を制御するために、rms値Inlは、以下の式を使用して計算され、
【数3】
ここで、
rmsは、動作電流信号のrms値であり、
及びbは、動作電流信号の第1の高調波フーリエ三角関数係数である
ことを発案する。
【0038】
それゆえに、動作電流信号の上記第1の高調波フーリエ三角係数を使用することによって、線形電流成分を容易に考慮できることが分かった。したがって、非線形電流成分を計算するために、サンプリングされた電流信号のrms値及びこれら2つの係数のみが必要である。
【0039】
特に、この非線形電流成分は、線形電流信号又は電圧信号の1周期当たり1つの値とすることができる。
【0040】
一態様によれば、動作電流信号を制御するために、非線形電流成分のrms値が基準値に制御されることを発案する。基準値は、設定値として理解されてもよい。
【0041】
このような非線形電流成分の基準値により、簡便で、効果的な制御が可能であることが分かった。しかしながら、特定の状況及び/又は特に切断プラズマの動的挙動に制御を適合させるために、基準値は、一態様に従って一定であってもよいが、特に柔軟な別の態様に従って可変であってもよい。
【0042】
一態様によれば、非線形電流成分のrms値が基準値を下回るか、又は第1の基準値を下回ると、電圧信号の振幅が増加し、非線形電流成分のrms値が基準値を上回るか、又は第2の基準値を上回ると、電圧信号の振幅が減少することを発案する。
【0043】
したがって、非線形電流成分を増加させるために電圧信号を増加させることができ、非線形電流成分を減少させるために電圧信号を減少させることができる。判断は、基準値とすることができる。基本的な概念は、以下の通りである。
【0044】
非線形電流成分は、プラズマの強度又は振幅に対応することが分かった。気相が存在しない限り、非線形電流成分は小さい。したがって、その場合、非線形電流成分も増加するために、電圧信号を増加する。電圧信号の振幅を増加させることによって、高電圧がプラズマを点火させる状況に達することになる。その結果、非線形電流成分が自動的に大幅に増加する。この増加により、非線形電流成分が基準値を超える結果となる。したがって、電圧信号の振幅が減少する。
【0045】
非線形電流成分が更に観察され、制御に使用される。電圧信号の振幅が減少すると、非線形電流成分も減少することになる。電圧信号は、非線形電流成分が小さすぎる値に低下しないように制御され、小さすぎる値ではプラズマが分解する可能性がある。その場合、非線形電流成分のrms値は基準値を下回り、したがって、多くの気相を生成し、それゆえに、プラズマの分解を防止するために、電圧信号の振幅を再び増加することになる。
【0046】
したがって、発案した方法によって、プラズマがまだ存在しないときの説明した第1の相と、プラズマが存在するときの第2の相との間を区別することができない。第1の相が第2の相に変化すると、すなわちプラズマが最初に存在するとき、第1の相から第2の相へのこの切替えは、非線形電流成分の著しい増加をもたらすことに留意されたい。この結果、非線形電流成分も基準値を超えることになる。簡単に言えば、非線形電流成分は、この基準値を飛び越える。
【0047】
この効果のために、基準値が、どれほど正確な値を有するかは、それほど重要ではない。基準値が妥当な範囲にある場合、非線形電流成分は、この基準値を超えて増加する。
【0048】
しかしながら、プラズマの分解を回避し、それゆえに、第2の相でプラズマを制御するために、非線形電流成分が基準値を著しく下回らない限り、プラズマが分解しないように基準値を選択することができる。したがって、プラズマの分解を回避するための安全な値であると考えられるそのような値に応じて、基準値を選択することができる。非線形電流成分が低く、それゆえに、プラズマが点火されない限り、基準値を下回る、第1の相でも、このような基準値は機能する。
【0049】
このような基準値は、試験を行うことにより求めることができる。そのような試験は、従来の方法で動作電流を制御し、非線形電流成分を観測することによって、行うことができる。そのような基準値は、そのような動作プロセス中に適合される可変基準値を使用することによっても求めることができる。実際の組織上で動作するとき、最終的に存在する環境と同様の環境で試験を行うことも可能である。適切な基準値を求めるためのシミュレーションも可能である。
【0050】
しかしながら、異なる基準値、すなわち第1の相を制御するための、すなわち非線形電流成分がそのような第1の基準値を下回るときの状況を制御するための、第1の基準値を使用することも可能である。第2の相では、第2の基準値を使用して、すなわち、プラズマが分解しないように非線形電流成分を制御してもよい。非線形電流成分が第1の基準値を超えると、第1の基準値から第2の基準値への切替えを行うことができる。しかしながら、それを連続的に変化させることによって単一の基準値を適合させることも可能である。
【0051】
基準値、すなわち第1及び第2の基準値は、それぞれ予め定められていてもよいし、異なっていてもよい。これらの基準値を変更する方法の1つの可能性は、制御中にこれらを変更又は適合させることである。そのような制御は、電気外科用器具が動作している環境の識別された変化に応じて、基準値を変更し得る適応制御とすることができる。
【0052】
一態様によれば、生理食塩水を加熱するための第1の制御段階では、非線形電流成分のrms値は、第1の基準値に制御され、電流切断プラズマを供給するための第2の制御段階では、非線形電流成分のrms値は、第2の基準値に制御され、特に第1の基準値は、第2の基準値よりも大きいことを発案する。
【0053】
したがって、この態様は、前述の態様と同様であるが、この態様によれば、第1及び第2の制御段階は、更に明確に識別される。上記で説明した第1の相に関連する第1の制御段階のように、第1の基準値は、第2の基準値よりも大きくなければならず、プラズマが点火されるように非線形電流成分も増加するように、電圧信号を最初に増加させる必要があることが分かった。プラズマが点火されると、制御は、第2の制御段階に移り、非線形電流成分は、再び減少し得る。言い換えれば、プラズマを点火するためには、既に存在するプラズマを制御するよりも高い電流が必要である。
【0054】
一態様によれば、電気外科用器具は、電極と、生理食塩水又は隣接組織との間に切断プラズマを供給するための単一の電極を備えることを発案する。したがって、切断プラズマの制御は、電極と生理食塩水との間の、又は電極と隣接組織との間の、相互作用に依存する。しかしながら、非線形電流成分に依存する発案した制御は、電圧信号が線形電流信号又は電圧信号の各周期を調整することができるので、極めて高速な制御をもたらす。
【0055】
言い換えれば、動作電流信号の周波数が200kHz以上であるので、これは、制御サイクルの周波数とすることができる。したがって、電極と、生理食塩水又は隣接組織との間の相互作用の任意の変化は、非線形電流成分の変化をもたらし、したがって制御によって考慮されることになる。それゆえに、動作電流信号は、電極と、生理食塩水又は隣接組織との間の相互作用の任意の変化を補償するために極めて迅速に適合されることになる。
【0056】
電気外科用器具は、これらの2つの電極間に切断プラズマを供給する2つの電極を備えることも可能である。これらの2つの電極間の生理食塩水又は組織の任意の変化は、プラズマ、それゆえに、動作電流信号に影響を及ぼすことになる。しかしながら、それは非線形電流成分にも影響を及ぼし、単一電極について説明したような制御によっても考慮される。
【0057】
本発明によれば、動作中に、組織において、その組織を切断又は気化させるための切断プラズマを生成し得る電気外科用器具を制御するための電気外科用発電機を供給するものであり、電気外科用発電機が、
電気外科用発電機が、基本的に正弦波である電圧信号を生成し、電圧信号が、電気外科用器具に印加され、
電圧信号を電気外科用器具に印加すると、切断プラズマを供給し得る動作電流信号がもたらされ、
動作電流信号が、
基本周波数を有する正弦波である線形電流成分と、
基本周波数を有さない非線形電流成分であって、特に、非正弦波である、及び/又は過渡的な性質である、非線形電流成分と
を含み、
動作電流信号が、切断プラズマを制御するために非線形電流成分に応じて制御される
といった方法を実行するように適合される。
【0058】
特に、そのような電気外科用発電機は、上記で説明した方法を実行するように適合される。使用される電気外科用器具は、上記で説明した設計であってもよい。電気外科用発電機を、方法、特に、対応するプログラムが、電気外科用発電機に実装されるように適合することができる。
【0059】
一態様によれば、電気外科用発電機は、電気外科用発電機を制御するように適合された制御デバイスを備え、電気外科用発電機、特に制御デバイスは、上記で説明した態様のいずれかによる方法を実行するように適合されることを発案する。
【0060】
したがって、周波数変換器を制御するように適合されたプロセッサとすることができる制御デバイスを提供する。周波数変換器は、電気外科用発電機の一部であってもよく、電圧信号、特に基本的に正弦波の電圧信号を生成することができてもよい。それゆえに、本方法は、そのようなプロセッサ上で実施され、プロセッサは、周波数変換器を制御するように適合され、周波数変換器は、電気外科用発電機に接続された電気外科用器具に、出力電圧信号として電圧信号を供給するように適合される。
【0061】
一態様によれば、電気外科用発電機は、制御デバイスに接続される、電圧信号を供給するための周波数変換器を備え、並びに/あるいは発電機によって制御されたとき、及び動作中に、組織において、その組織を切断又は気化させるための切断プラズマを生成し得る電気外科用器具を接続するための出力ポートを備え、並びに/あるいは動作電流を測定し、周波数変換器又は制御デバイスに接続される電流センサを備える。
【0062】
したがって、周波数変換器は、電圧信号を供給することができ、それゆえに、周波数変換器は、制御デバイスに接続される。したがって、制御デバイスは、周波数変換器、ひいては電圧信号を制御することができる。
【0063】
電気外科用器具は、出力ポートに接続されてもよく、このようにして、周波数変換器によって生成された電圧信号は、接続された電気外科用器具に、この出力ポートを介して供給される。
【0064】
このようにして、電気外科用器具は、制御デバイスによって制御される周波数変換器によって制御される。
【0065】
発電機は、動作電流を測定するための電流センサを備えてもよい。そのような動作電流は、組織内又は組織において動作しているとき、すなわち作業要素で動作しているとき、電圧信号を電気外科用器具に供給することによってもたらされた。それゆえに、電流センサは、周波数変換器又は制御デバイス又はその両方に接続される。それゆえに、この電流センサは、動作電流をサンプリングするために使用することができ、サンプリングされた値は、線形電流成分、特にこれらのサンプリングされた値に基づく第1の高調波フーリエ三角係数を計算するために更に使用することができる。それに基づいて、サンプリングされた値は、上記で説明した非線形電流成分を計算するために更に使用することができる。
【0066】
本発明によれば、上記で説明した態様のいずれかによる電気外科用発電機を備え、更に電気外科用発電機に接続された電気外科用器具を備える、電気外科設備を供給する。
【0067】
それゆえに、そのような電気外科用器具は、上記で説明した設計であってもよい。
【0068】
ここで、本発明を、添付の図面の例によって説明する。
【図面の簡単な説明】
【0069】
図1】電気外科用発電機を示す図である。
図2】簡略化した制御構造を示す図である。
図3】電圧信号及び電流信号を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0070】
図1は、電気外科用器具102が接続され、組織104、すなわち作業要素上で動作する電気外科用発電機100を示しており、これは単に概略的に示している。
【0071】
電気外科用発電機100は、制御デバイス108によって制御される周波数変換器106を備える。周波数変換器106は、動作時に、その出力110において、取り付けられた電気外科用器具102に印加される電圧信号を供給し、動作電流をもたらす。
【0072】
電圧信号を測定する電圧センサ112と、動作電流を測定する電流センサ114とがある。これらのセンサ112,114は、更なる検討のために制御デバイス108に接続される。
【0073】
制御デバイス108は、電流センサ114によって供給された電流サンプル値から非線形電流成分を計算する。これに基づいて、制御デバイス108は、周波数変換器106を制御する。したがって、周波数変換器出力では、計算した非線形電流成分に応じた電圧信号が生成される。
【0074】
電圧センサ112は、周波数変換器106がどのような電圧を生成するかが分かっているため、必要がない場合もある。電圧センサ112を周波数変換器106に直接接続することも可能である。制御デバイス108が周波数変換器106の一部であることも可能である。
【0075】
図2は、概略的な制御構造200を示す。この制御構造200は、非線形電流成分Inlと、基準電流Irefと、に基づく制御であることを示している。これらの値は、第1の加算要素202において減算され、制御誤差eをもたらす。この制御誤差eは、制御ブロック204に渡され、結果として電圧信号Vsetの設定値が得られる。電圧信号Vsetのこの設定値は、図1による周波数変換器106と同一であり得る周波数変換器206に与えられる。
【0076】
周波数変換器206の結果が電圧信号Vsigである。この電圧信号は、図1による電気外科用器具102と同一であり得る電気外科用器具208に渡される。電気外科用器具208はまた、概略的に示した組織210、すなわち作業要素上で動作する。
【0077】
電圧信号Vsigを電気外科用器具208に印加すると、動作電流iOPがもたらされる。この動作電流iOPは、電流センサ214によって測定される。それゆえに、この動作電流iOPは、電流センサ214によってサンプリングされたサンプリング電流である。このサンプリング電流は、フーリエ変換ブロック216に、及びrmsブロック218に与えられる。フーリエ変換ブロック216は、第1の高調波フーリエ三角係数を計算し、このようにして線形電流成分Ilinを識別する。rmsブロック218は、二乗平均平方根値Irms、それゆえに、サンプリング電流iopの実効値を計算する。第2の加算要素220では、動作電流のrms値Irmsと、線形電流成分Ilinとの差が計算され、非線形電流成分Inlがもたらされる。したがって、非線形電流成分Inlもrms値である。しかしながら、非線形電流成分Inlのこの計算は、すべての計算ステップを示していない図2の単なる簡略した図であり、好ましくは、その電流成分Inlは、動作電流のrms値Irmsの二乗と、線形電流成分Ilinの二乗との差の平方根をとることによって計算される。すなわち第2の加算要素220は、Inl=sqrt(Irms -Ilin )の簡略図である。
【0078】
しかしながら、このようにして、非線形電流成分Inlが計算され、上記で説明した第1の加算要素202に供給される。
【0079】
制御ブロック204は、誤差信号eに応じて、すなわち、基準値Irefと、非線形電流成分Inlとの比較結果に応じて、電圧設定値Vsetを増減させるように設計することができる。挙動は、PI制御と同様であってもよい。しかしながら、好ましくは、これはまた、デジタル式に実現することもでき、これにより、誤差信号eが正である場合、各制御サイクルにおいて電圧設定値を特定の増分だけ増加させ、又は誤差信号が負であるとき、説明した増加と同じであり得る特定の増分だけ減少させることができる。したがって、これは、一態様によれば、誤差信号の振幅が考慮されず、負であるか正であるかのみが考慮され得るので、I挙動とは異なり得る。しかしながら、エラー信号の特定の値を考慮することも選択肢であってもよい。
【0080】
電圧設定値を制御サイクルごとに一定の増分だけ増加させる可能性は、サイクル周波数が200kHz以上であり得るので、ほぼ連続的な挙動をもたらすことに留意されたい。
【0081】
図3は、TURis動作中の記録された電圧及び電流データを示している。電圧はほぼ正弦波であるが、電流はプラズマブレークスルーに対応する線形部分及び非線形部分からなる。非線形電流成分は、「プラズマ電流」と理解することもでき、直接測定することはできない。したがって、発案は、非線形電流成分から、すなわち「プラズマ電流」から線形電流成分を分離し、「プラズマ電流」のみを制御することである。
【0082】
電流を分離する1つの方法は、フーリエ変換を使用して測定電流の第1の高調波を計算することである。これは、任意の容量性電流及びオーム電流を含む。この測定電流を全測定電流から減算すると、非線形電流成分、すなわち「プラズマ電流」の推定値が得られ、これを制御に使用することができる。「プラズマ電流」のrms値のみが関連するので、それは、以下の式に従って、全電流のrms値、並びに計算されたフーリエ係数a及びbから計算することができる。
【数4】
【0083】
図3:実線は、電気外科用発電機のTURis動作中の測定された電圧Vsig及び電流iopのデータを示す。電流は、電圧に対して90°位相シフトした容量性電流と、電圧と同相の電流ピークとの組合せである。点火中、電圧と同相の極めて高い電流が存在する。破線は、サンプリングされた電流iopの第1の高調波成分Ilinを示す。
図1
図2
図3
【外国語明細書】