(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025039332
(43)【公開日】2025-03-21
(54)【発明の名称】自動培養装置および自動培養方法
(51)【国際特許分類】
C12M 3/00 20060101AFI20250313BHJP
C12N 5/071 20100101ALI20250313BHJP
C12M 1/36 20060101ALI20250313BHJP
【FI】
C12M3/00 A
C12N5/071
C12M1/36
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023146363
(22)【出願日】2023-09-08
(71)【出願人】
【識別番号】000001007
【氏名又は名称】キヤノン株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】594164542
【氏名又は名称】キヤノンメディカルシステムズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003708
【氏名又は名称】弁理士法人鈴榮特許綜合事務所
(72)【発明者】
【氏名】池田 周平
(72)【発明者】
【氏名】河野 隆亮
(72)【発明者】
【氏名】八巻 智昭
【テーマコード(参考)】
4B029
4B065
【Fターム(参考)】
4B029AA02
4B029AA07
4B029BB11
4B029CC01
4B029CC02
4B029DF01
4B029DF05
4B029DF10
4B029DG10
4B065AA90X
4B065AC20
4B065BC01
4B065BC03
4B065BC50
4B065CA60
(57)【要約】
【課題】高効率な培養を実現することである。
【解決手段】本実施形態に係る自動培養装置は、複数のインキュベータと、液体制御部と、撮像部と、条件制御部とを含む。複数のインキュベータは、細胞または生体組織を培養する培養容器を収容する。液体制御部は、前記複数のインキュベータそれぞれに収容される前記培養容器に対して細胞懸濁液および培地の送排液を制御する。撮像部は、前記複数のインキュベータ内の前記培養容器内の前記細胞または前記生体組織を撮像する。条件制御部は、前記細胞または前記生体組織の培養条件をインキュベータごとに独立して制御する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
細胞または生体組織を培養する培養容器を収容する複数のインキュベータと、
前記複数のインキュベータそれぞれに収容される前記培養容器に対して細胞懸濁液および培地の送排液を制御する液体制御部と、
前記複数のインキュベータ内の前記培養容器内の前記細胞または前記生体組織を撮像する撮像部と、
前記細胞または前記生体組織の培養条件をインキュベータごとに独立して制御する条件制御部と、
を具備する自動培養装置。
【請求項2】
前記撮像部は、前記複数のインキュベータの配列方向に沿った1次元方向に移動することにより、各インキュベータ内の前記培養容器内の前記細胞または前記生体組織を撮像する、請求項1に記載の自動培養装置。
【請求項3】
前記撮像部は、前記複数のインキュベータの配置面と平行な2次元平面上で移動することにより、各インキュベータ内の前記培養容器内の前記細胞または前記生体組織を撮像する、請求項1に記載の自動培養装置。
【請求項4】
前記培養容器内の前記細胞または前記生体組織の育成状態を判定する判定部をさらに具備し、
前記条件制御部は、前記育成状態に基づいて、各インキュベータ内の温度、湿度およびガス組成のうちの少なくとも1つを制御する、請求項1に記載の自動培養装置。
【請求項5】
前記培養容器内の前記細胞または前記生体組織の育成状態を判定する判定部をさらに具備し、
前記液体制御部は、前記育成状態に基づいて、前記培地の送液量および送液間隔の少なくとも一方を制御する、請求項1に記載の自動培養装置。
【請求項6】
前記条件制御部は、前記培養容器内の前記細胞または前記生体組織の育成状態が最も早いインキュベータに設定された培養条件を、他のインキュベータの培養条件として設定する、請求項1に記載の自動培養装置。
【請求項7】
前記条件制御部は、前記培養容器内の前記細胞または前記生体組織の育成状態が最も遅いインキュベータに設定された培養条件を、他のインキュベータの培養条件として設定する、請求項1に記載の自動培養装置。
【請求項8】
前記育成状態は、前記細胞または前記生体組織のコロニー数、コロニーの大きさ、およびコンフルエンスの少なくとも1つを基準として判定される、請求項4から請求項7のいずれか1項に記載の自動培養装置。
【請求項9】
前記複数のインキュベータはそれぞれ、単一の培養容器を収容する、請求項1に記載の自動培養装置。
【請求項10】
複数のインキュベータそれぞれに収容される、細胞または生体組織を培養する培養容器に対して細胞懸濁液および培地の送排液を制御し、
前記複数のインキュベータ内の前記培養容器内の前記細胞または前記生体組織を撮像し、
前記細胞または前記生体組織の培養条件をインキュベータごとに独立して制御する、自動培養方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書及び図面に開示の実施形態は、自動培養装置および自動培養方法に関する。
【背景技術】
【0002】
再生医療の進展に伴い、人工多能性幹細胞(iPS細胞)などの細胞培養が注目されている。細胞培養では、ピペッティング技術如何によって再現性が異なることが多く、作業者間のばらつきが問題となる。そのため、人手を介在せずに細胞培養が可能な自動培養装置の利用が検討されているが、培養容器ごとに異なる培養条件を設定できないため、個々の細胞の成長度に合わせて最適な培養条件を設定することが困難である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本明細書および図面に開示の実施形態が解決しようとする課題の一つは、高効率な培養を実現することである。ただし、本明細書及び図面に開示の実施形態により解決しようとする課題は上記課題に限られない。後述する実施形態に示す各構成による各効果に対応する課題を他の課題として位置づけることもできる。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本実施形態に係る自動培養装置は、複数のインキュベータと、液体制御部と、撮像部と、条件制御部とを含む。複数のインキュベータは、細胞または生体組織を培養する培養容器を収容する。液体制御部は、前記複数のインキュベータそれぞれに収容される前記培養容器に対して細胞懸濁液および培地の送排液を制御する。撮像部は、前記複数のインキュベータ内の前記培養容器内の前記細胞または前記生体組織を撮像する。条件制御部は、前記細胞または前記生体組織の培養条件をインキュベータごとに独立して制御する。
【図面の簡単な説明】
【0006】
【
図1】
図1は、本実施形態に係る自動培養装置を示すブロック図である。
【
図2】
図2は、本実施形態に係る撮像部の第1構成例を示す図である。
【
図3】
図3は、本実施形態に係る撮像部の第2構成例を示す図である。
【
図4】
図4は、本実施形態に係る自動培養装置の培養処理を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0007】
以下、図面を参照しながら本実施形態に係る自動培養装置および自動培養方法について説明する。以下の実施形態では、同一の参照符号を付した部分は同様の動作を行なうものとして、重複する説明を適宜省略する。
【0008】
本実施形態に係る自動培養装置の概念図について
図1のブロック図を参照して説明する。
本実施形態に係る自動培養装置1は、処理回路10と、複数のインキュベータ11と、複数の送排液部12と、複数の培養条件設定部13と、撮像部14と、メモリ15とを含む。インキュベータ11と、送排液部12と、培養条件設定部13とは、それぞれ1対1に対応付けられる。つまり、
図1の例では、4台のインキュベータ11について、送排液部12および培養条件設定部13がそれぞれ接続される。なお、これに限らず、インキュベータ11は複数存在すればよく、自動培養装置1の仕様に応じて複数台のインキュベータ11が配置されればよい。
【0009】
処理回路10は、プロセッサであり、液体制御機能101と、判定機能102と、条件制御機能103とを含む。
液体制御機能101は、送排液部12を介して、複数のインキュベータ11それぞれに収容される、細胞または生体組織を培養する培養容器に対して細胞懸濁液または培地の送排液、送液量、送液間隔などを制御する。
【0010】
なお、以下では、細胞を培養する場合を例に説明するが、生体組織の場合でも同様に培養処理を実現できる。細胞は、例えばチャイニーズハムスター卵巣由来CHO細胞やマウス結合組織L929細胞、マウス骨格筋筋芽細胞(C2C12細胞)、ヒト胎児肺由来正常二倍体線維芽細胞(TIG-3細胞)、ヒト胎児腎臓由来細胞(HEK293細胞)、ヒト肺胞基底上皮腺癌由来A549細胞やヒト子宮頸癌由来HeLa細胞等の種々の培養細胞株に加え、例えば生体内の各組織、臓器を構成する上皮細胞や内皮細胞、収縮性を示す骨格筋細胞、平滑筋細胞、心筋細胞、神経系を構成するニューロン細胞、グリア細胞、繊維芽細胞、生体の代謝に関与する肝実質細胞、肝非実質細胞や脂肪細胞、分化能を有する細胞として、iPS細胞、胚性幹(ES)細胞、胚性生殖(EG)細胞、胚性癌(EC)細胞、間葉系幹細胞、肝幹細胞、膵幹細胞、皮膚幹細胞、筋幹細胞、生殖幹細胞等の各種幹細胞、または各組織の前駆細胞、さらにはそれらから分化誘導した細胞などが挙げられる。
また、培養容器は、例えばディッシュと呼ばれるプラスチック製の容器を想定するが、化学的に安定であり、所望の細胞を培養可能な容器であればよい。
【0011】
判定機能102は、細胞の育成状態を判定する。具体的に判定機能102は、育成状態として、例えば細胞のコロニー数、コロニーの大きさ、およびコンフルエンスなどの細胞の成長度を判定する。コンフルエンスは、細胞が培養容器底面を覆う割合である。
条件制御機能103は、例えば撮像部14で撮像された画像に基づき、細胞または前記生体組織の培養条件をインキュベータごとに独立して設定するように制御する。
【0012】
インキュベータ11は、温度と、湿度と、二酸化炭素濃度および酸素濃度などのガス組成とを一定に保持する恒温装置である。インキュベータ11内には、ディッシュなどの培養容器を格納可能である。1台のインキュベータ11には、単一の培養容器を格納することを想定するが、複数の培養容器が格納されてもよい。インキュベータ11は、後述する撮像部14により、内部の培養容器を撮像可能な構造を有する。例えば、インキュベータ11の筐体の一部に透明なアクリルパネルを設け、インキュベータ11内部の培養容器を撮像可能にすればよい。または、インキュベータ11に窓または蓋のような開閉機構を設け、筐体の一部を開放した状態で撮像部14により撮像可能な構造としてもよい。
【0013】
送排液部12は、インキュベータ11とチューブなどの管部材を介して接続される。送排液部12は、インキュベータ11内の培養容器に対し、配管を通して細胞懸濁液または培地などを送液する。また培地交換処理においては、送排液部12が、例えばインキュベータ11内に配置されるピペッティング部(図示せず)およびチューブを介して、培養容器から培地を吸い出して外部に排出し、新たな培地を培養容器に送液する。さらに、細胞回収処理においては、送排液部12が、ピペッティング部およびチューブを介して、培養容器から細胞を回収する。
【0014】
培養条件設定部13は、インキュベータ11とチューブなどの管部材、ヒートプレートなどを介して接続される。条件制御機能103からの制御指示に応じて、インキュベータ11内の温度、湿度、および二酸化炭素または酸素といったガス組成などを設定する。
【0015】
撮像部14は、例えば位相差顕微鏡であり、各インキュベータ11内の培養容器内の細胞を撮像する。これにより、ユーザは、培養容器内の細胞を観察することができ、コロニー数、コロニーの大きさ、コンフルエンスといった細胞の育成状態を確認することができる。なお、撮像部14は、位相差顕微鏡に限らず、明視野顕微鏡、蛍光顕微鏡などの光学顕微鏡でもよいし、電子顕微鏡、光学カメラであってもよい。
【0016】
メモリ15は、例えば、HDD(Hard Disk Drive)、SSD(Solid State Drive)などの不揮発性メモリであり、撮像部14により撮像された培養容器内の画像、各インキュベータ11に格納される培養容器内の細胞の育成状態などのデータを保持する。
【0017】
なお、図示しないが、自動培養装置1は、撮像された画像および撮像条件に関するデータなどを表示するためのディスプレイと、当該データを外部に出力するため、およびユーザからの入力を取得するための入出力インタフェースとをさらに含んでもよい。
【0018】
次に、本実施形態に係る撮像部14の第1構成例について
図2に示す。
図2は、撮像部14と複数のインキュベータ11との配置関係を示す概念図である。
撮像部14は、複数のインキュベータ11の配列方向に沿って延在する第1シャフト20に沿って1次元方向に移動可能に配設される。例えば、撮像部14が、第1シャフト20とリニアブッシュ(図示せず)などを介して接続され、第1シャフト20の延在方向に沿って直動案内されればよい。なお、第1シャフト20は、撮像部14がインキュベータ11と衝突しないよう、インキュベータ11の配置面の上方に設置される。これにより、撮像部14は、各インキュベータ11内の培養容器内の画像を個別に撮像できる。
【0019】
次に、本実施形態に係る撮像部14の第2構成例について
図3に示す。
図2の例では複数のインキュベータ11が一列に配置される例を示すが、
図3では複数のインキュベータ11が2次元に配置される場合の撮像部14の構成例である。
【0020】
ここでは、8台のインキュベータ11が2次元に配置される状態を図示する。第1シャフト20は、移動部21を介して、2本の第2シャフト22に接続される。移動部21は、例えばリニアブッシュに代表される、直動案内が可能な構造で形成されればよい。第2シャフト22は、インキュベータ11を上方から見た場合、インキュベータ11の配置領域の外側において、第1シャフト20の延在方向と直交する方向に延在し、移動部21が接続される。また、第1シャフト20、移動部21および第2シャフト22は、撮像部14がインキュベータ11と衝突しないよう、インキュベータ11の配置面の上方に配置される。
【0021】
これにより、インキュベータ11の配置面と平行な2次元平面上で撮像部14を自在に移動させることができるため、インキュベータ11が2次元に配置される場合でも、各インキュベータ11内の培養容器の画像を個別に撮像できる。なお、
図3に示す第2構成例に限らず、インキュベータ11の上方に3次元方向に移動自在なアームを配置し、アームの先端に撮像部14を接続し、培養容器の画像を個別に撮像可能としてもよい。
【0022】
また、
図2および
図3の例では、撮像部14が各インキュベータ11の上方から撮像する場合を説明したが、これに限らず、撮像部14が各インキュベータ11の下方に配置され、下方からインキュベータ11内の培養容器を撮像してもよい。この場合、インキュベータ11の構造として、筐体下方から撮像可能な構造でインキュベータ11が形成されればよい。
【0023】
次に、本実施形態に係る自動培養装置1の培養処理について
図4のフローチャートを参照して説明する。
【0024】
ステップSA1では、条件制御機能103により処理回路10が、培養条件の初期値をインキュベータ11ごとに独立に設定する。具体的には、細胞が播種された1以上の培養容器が各インキュベータ11内に格納された後、条件制御機能103により処理回路10が、培養条件設定部13を介して、培養条件、具体的には温度、湿度、二酸化炭素濃度を設定する。例えば、あるインキュベータ11は、温度37℃、湿度95%、二酸化炭素濃度5%に設定され、別のインキュベータ11は、温度を変更し、温度36.5℃、湿度95%、二酸化炭素濃度5%に設定される。このように、各インキュベータ11に対して異なる培養条件が設定されればよい。培養条件の初期値は、培養される細胞の種類に応じて、経験的に定められた値を基準に、インキュベータ11ごとに異なるように設定されればよい。
なお、複数のインキュベータ11で同一の培養条件を設定することも可能とする。例えば、複数のインキュベータ11に対して2台ずつ、同じ初期値が設定されてもよい。
【0025】
ステップSA2では、設定された培養条件の初期値に基づいて、自動培養装置1による培養が開始される。
ステップSA3では、撮像部14が、所定間隔で各インキュベータ11内の培養容器を撮像し、各培養容器の画像を取得する。例えば
図2または
図3に示す構成により、撮像部14が各インキュベータ11を巡回しながら培養容器内の細胞を撮像する。所定間隔は、例えば1日1回、決まった時刻でもよいし、8時、12時、16時など1日のうちで複数の時間間隔でもよいし、2日おきなど、細胞の成長を適切に観察できる間隔であればよい。
【0026】
ステップSA4では、判定機能102により処理回路10が、撮像部14により撮像された画像に基づき、細胞の育成状態を決定する。例えば、判定機能102により処理回路10が、画像解析することにより、細胞のコロニー数、コロニーの大きさ、コンフルエンスを算出すればよい。
ステップSA5では、判定機能102により処理回路10が、細胞の育成状態が培養のスケジュール通りであるか否かを判定する。例えば、細胞の培養開始直後であれば、画像から細胞が培養容器に接着し分裂が確認できた場合、細胞の育成状態がスケジュール通りであると判定する。また、培養開始後、ある程度日数が経過した後である場合は、スケジュールで規定された日程における成長予測値を閾値とし、画像解析により算出された細胞のコロニー数、コロニーの大きさ、およびコンフルエンスの少なくとも1つが閾値以上であれば、細胞の育成状態がスケジュール通りであると判定すればよい。
細胞の育成状態がスケジュール通りである場合、ステップSA6に進み、細胞の育成状態がスケジュール通りでない場合、ステップSA7に進む。
【0027】
ステップSA6では、液体制御機能101により処理回路10が、送排液部12を制御し、培地交換を実施する。送排液部12が、インキュベータ11内の培養容器の培地を吸い出し(回収し)、新しい培地を培養容器に送液する。培地交換は、培養容器をインキュベータ11外部に取り出さずに行うことを想定する。具体的には、送排液部12は、インキュベータ11内に培地回収用のピペットと、培地追加用のピペットと接続され、液体制御機能101による制御によってそれぞれのピペットが操作され、培養容器内の培地の回収および追加が実施されればよい。
また、液体制御機能101により処理回路10が、細胞の育成状態に基づいて、培地の送液量を制御してもよい。例えば、細胞の成長が早ければ、培地を多くするため送液量を増やすといった処理が行われればよい。また、ステップSA3からステップSA6までの処理を繰り返すことで、液体制御機能101により処理回路10は、細胞の育成状態に基づいて、培地の送液間隔が制御される。
【0028】
ステップSA7では、条件制御機能103により処理回路10は、培養条件設定部13を制御し、スケジュール通りに育成が進んでいない細胞の培養容器が収容されるインキュベータ11ごとに培養条件(温度、湿度、ガス組成)を変更する。例えば、細胞の育成状態が最も早いインキュベータ11に設定された培養条件を、他のインキュベータ11の培養条件として設定する。具体的には、条件制御機能103により処理回路10が、培養条件設定部13を制御し、例えばコロニーの大きさが最も大きい培養容器を収容するインキュベータ11に設定された温度、湿度およびガス組成を、他のインキュベータ11にも適用する。これにより、細胞の個体差によって成長の度合いが違うものの、各インキュベータ11の収容される細胞の成長を早めるような管理が期待できる。
【0029】
一方、スケジュールよりも細胞の成長が早く進んでしまっている場合は、細胞の育成状態が最も遅いインキュベータ11に設定された培養条件を、他のインキュベータ11の培養条件として設定すればよい。これにより、成長を早まる場合と同様、細胞の個体差はあるが、各インキュベータ11の収容される細胞の成長を遅らせるような管理が期待でき、例えば少数のコロニーで品質の良い細胞を培養したいといったニーズに適用できる。
【0030】
ステップSA8では、判定機能102により処理回路10が、撮像部14で撮像された画像に基づいて、培養が終了したか否かを判定する。例えば、画像に基づき、培地に占める細胞の占有面積率が7~8割程度である、いわゆるサブコンフルエントに達したと判定できる場合に、培養が終了したと判定すればよい。
培養が終了した場合、ステップSA9に進み、培養が終了していない場合、ステップSA3に戻り同様の処理を繰り返す。
ステップSA9では、培養容器がインキュベータ11から取り出され、細胞が回収される。以上で自動培養装置1の培養処理を終了する。
なお、
図4に示す培養処理では、細胞の育成状態がスケジュール通りである場合に培地交換をする例を示すが、これに限らず、ユーザ指示などによる任意のタイミングで、液体制御機能101により処理回路10が、送排液部12を介して培地交換を実施してもよい。
【0031】
本実施形態では、撮像部14が1つであり、撮像部14を移動させることで各インキュベータ11に収容される培養容器を撮像することを想定するが、各インキュベータ11専用に撮像部14を固定して設置してもよい。つまり、8台のインキュベータ11が存在すれば、8台の撮像部14を設置してもよい。
【0032】
以上に示した本実施形態によれば、自動培養装置は、培養容器を収容するインキュベータが複数存在し、撮像部が移動することにより、各インキュベータ内の培養容器の画像を撮像する。各インキュベータに対して培養条件を独立して設定するように制御可能とする。
これにより、複数のインキュベータで自動培養することができるため、作業者による培養のばらつきを抑えることができる。さらに、撮像部により各インキュベータの画像を撮像できるため、細胞の成長度に合わせて培養条件を最適化しながら独立制御できる。よって、高効率な培養を実現することができる。
【0033】
なお、上記説明において用いた「プロセッサ」という文言は、例えば、CPU(Central Processing Unit)、GPU(Graphics Processing Unit)、或いは、特定用途向け集積回路(Application Specific Integrated Circuit:ASIC)、プログラマブル論理デバイス(例えば、単純プログラマブル論理デバイス(Simple Programmable Logic Device:SPLD)、複合プログラマブル論理デバイス(Complex Programmable Logic Device:CPLD)、及びフィールドプログラマブルゲートアレイ(Field Programmable Gate Array:FPGA))などの回路を意味する。プロセッサが例えばCPUである場合、プロセッサは記憶回路に保存されたプログラムを読み出し実行することで機能を実現する。一方、プロセッサが例えばASICである場合、プログラムが記憶回路に保存される代わりに、当該機能がプロセッサの回路内に論理回路として直接組み込まれる。なお、本実施形態の各プロセッサは、プロセッサごとに単一の回路として構成される場合に限らず、複数の独立した回路を組み合わせて1つのプロセッサとして構成し、その機能を実現するようにしてもよい。さらに、図における複数の構成要素を1つのプロセッサへ統合してその機能を実現するようにしてもよい。すなわち、効率的かつ精度の高い検査を実施できる。
【0034】
いくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更、実施形態同士の組み合わせを行なうことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると同様に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれるものである。
【符号の説明】
【0035】
10 処理回路
11 インキュベータ
12 送排液部
13 培養条件設定部
14 撮像部
15 メモリ
20 第1シャフト
21 移動部
22 第2シャフト
101 液体制御機能
102 判定機能
103 条件制御機能