(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025003962
(43)【公開日】2025-01-14
(54)【発明の名称】メチルエステル化度が低く、固有粘度が高いことを特徴とするペクチン
(51)【国際特許分類】
C08B 37/06 20060101AFI20250106BHJP
A23L 29/231 20160101ALI20250106BHJP
【FI】
C08B37/06
A23L29/231
【審査請求】有
【請求項の数】24
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2024154864
(22)【出願日】2024-09-09
(62)【分割の表示】P 2020551372の分割
【原出願日】2019-03-18
(31)【優先権主張番号】18164090.5
(32)【優先日】2018-03-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(71)【出願人】
【識別番号】507323868
【氏名又は名称】シーピー ケルコ エイピーエス
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(72)【発明者】
【氏名】クラウス ローリン
(72)【発明者】
【氏名】メッテ エノエ ハンセン
(57)【要約】 (修正有)
【課題】メチルエステル化度が低いが固有粘度が高い柑橘類ペクチン、その製造方法、およびペクチンを生成するための酵素の使用を提供する。
【解決手段】a)メチルエステル化度が30以下であることと;b)固有粘度が5dl/g以上であること、とを特徴とする柑橘類ペクチンを提供する。前記柑橘類ペクチンを製造するための脱エステル化方法であって、柑橘類の皮を、以下を含む溶液中でインキュベートする工程を含む、方法とする:a)前記果皮を含む前記溶液のpHをpH5~8に維持する緩衝液と;b)カルシウム結合剤。
【選択図】
図1B
【特許請求の範囲】
【請求項1】
a)メチルエステル化度が30以下であることと;
b)固有粘度が5dl/g以上であること
とを特徴とする、柑橘類ペクチン。
【請求項2】
前記ペクチンが、オレンジペクチン、レモンペクチン、ライムペクチンまたはグレープ
フルーツペクチンである、請求項1に記載の柑橘類ペクチン。
【請求項3】
前記メチルエステル化度が、a)20以下;b)15以下;またはc)10以下である
、請求項1または2に記載の柑橘類ペクチン。
【請求項4】
前記固有粘度が、a)6dl/g以上;またはb)7dl/g以上である、請求項1~
3のいずれか一項に記載の柑橘類ペクチン。
【請求項5】
メチルエステル化度が30以下であることと;固有粘度が5dl/g以上であることと
を特徴とするペクチンを製造するための脱エステル化方法であって、柑橘類の皮を、以下
を含む溶液中でインキュベートする工程を含む、方法:
a)前記果皮を含む前記溶液のpHをpH5~8に維持する緩衝液と;
b)カルシウム結合剤。
【請求項6】
柑橘類の皮に内在しており、前記柑橘類の皮のペクチンを脱エステル化するための酵素
の使用。
【請求項7】
前記脱エステル化反応が、a)pHを5~8に維持する緩衝液と、b)カルシウム結合
剤とを含む、請求項6に記載の使用。
【請求項8】
前記脱エステル化のための前記緩衝液の濃度が0.02M以上である、請求項5に記載
の方法または請求項7に記載の使用。
【請求項9】
前記脱エステル化反応の温度が、a)55℃~75℃;またはb)59℃~65℃であ
る、請求項5および8に記載の方法または請求項6~8のいずれか一項に記載の使用。
【請求項10】
前記b)のカルシウム結合剤が前記a)の緩衝液でもある、請求項5および8~9のい
ずれか一項に記載の方法、または請求項7~9のいずれか一項に記載の使用。
【請求項11】
前記カルシウム結合緩衝液が、a)Na2H-クエン酸;b)Na3-クエン酸;c)
Na2H-リン酸;およびd)Na3-リン酸のうちの任意の1つまたは複数を含む、請
求項10に記載の方法または使用。
【請求項12】
前記カルシウム結合剤がカチオン交換ビーズを含む、請求項5および8~9のいずれか
一項に記載の方法または請求項7~9のいずれか一項に記載の使用。
【請求項13】
前記インキュベーション期間が30分以上である、請求項5または8~12のいずれか
一項に記載の方法。
【請求項14】
前記柑橘類の皮が、オレンジ、レモン、グレープフルーツまたはライムの皮である、請
求項5もしくは8~13のいずれか一項に記載の方法、または請求項6~13のいずれか
一項に記載の使用。
【請求項15】
請求項5または8~14のいずれか一項に記載の方法により得られるペクチン。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、メチルエステル化度が低いが固有粘度が高いことを特徴とする柑橘類ペクチ
ンと、柑橘類の皮を使用したペクチンの製造方法と、柑橘類の皮に内在しており、ペクチ
ンを生成するための酵素の使用とに関する。
【背景技術】
【0002】
ペクチンは、食品、医薬品、およびその他の様々な産業に応用されている重要な多糖類
である。その多糖鎖には、置換α1→4結合アンヒドロガラクツロン酸(AGU)の大き
な領域が含まれる(
図1a)。置換とは、6位でのメチルエステル化を指す(
図1b)。
この位置でメチルエステル化されたカルボキシル基の割合を「メチルエステル化度」また
は略称でDMと呼ぶ。市販のペクチンは、DMが50以上(%)であれば、高メチルエス
テルペクチンと呼ばれる。これは一般にHMペクチンと呼ばれる。DMが50未満のペク
チンは、一般に低メチルエステルペクチンまたはLMペクチンと呼ばれる。
【0003】
DM値は、ペクチンが溶液中の他の物質とどのように相互作用するかに強く影響し、ペ
クチンがどのような食品用途に使用されるかを大きく左右する。例えば、スクロース含量
が約65%のジャムは、典型的にはHMペクチンでゲル化されるが、スクロース含量が5
5%未満のジャムにはLMペクチンが好まれる。別例:HM-ペクチンは、ヨーグルト飲
料の供給でよく使用されるが、LMペクチンは通常、従来のヨーグルト(スプーンで食べ
ることができる)で好ましい。
【0004】
DMに加えて、固有粘度(IV)もペクチンの使用を決定する上で重要な値である。I
Vとは、ある物質が溶媒を増粘させる能力のことである。ペクチンは、ペクチンポリマー
内の繰り返し糖単位数を高く維持することで、高いIVを達成することができる。
【0005】
ペクチンのDMは、その溶解度を決定するものであり、ペクチンに対する溶媒としての
食品の品質に見合うように選択される必要があるが、ペクチンのIVは、ペクチン量およ
び所望の効果のロバスト性に影響を与える。高IVのペクチンは、不安定性を示しにくい
強力で弾力性のあるゲルを生成することができる。同様に、高IVのペクチンは、均一に
霞んているか「乳白色」の外観を呈し、薄い液体を容易に滲出させたり目に見える沈殿物
を形成したりしない安定した乳タンパク質の懸濁液を生成することができる。
【0006】
従来のペクチン抽出は、酸性条件を伴う。例えば、硝酸などの強い鉱酸が使用される。
しかし、高いIVを維持するために、pH約2.4で温度70℃などの穏やかな条件を1
時間採用すると、収量が低下する。満足のいく収量を得ながら比較的高いIVを確保する
手順で抽出されると、ペクチンのDMは少なくとも約55、典型的にはそれより高くなる
。DMを低下させるために、ペクチンを強酸またはアルカリでインキュベートすることが
できる。これにより、加水分解(酸の場合)または鹸化(アルカリの場合)により、カル
ボキシル基からメチル基が切り離される。しかし、エステルを切断するだけでなく、強酸
または強アルカリは主多糖鎖をも分解し、IVの低下を引き起こす。そのため、高いIV
を犠牲にしてDMを下げることになる。
【0007】
あるいは、ペクチンを微生物ペクチンエステラーゼ酵素とインキュベートすることによ
り、DMを低下させることができる。これにより、酸またはアルカリ脱エステル化に比べ
て、IVの損失が小さくなる場合がある。しかし、微生物ペクチンエステラーゼ酵素が作
用するためには、まずペクチンを皮から抽出しなければならない。さらに、触媒作用の後
、酵素(最終的なペクチン中で作用してはならない)は、混合物を高温に加熱することに
よって不活性化されなければならず、これもIVを低下させる。
【発明の概要】
【0008】
本発明者らは、IVを高く維持しながらDMが低いペクチンを製造する方法を開発した
。
【0009】
したがって、本発明は、
a)メチルエステル化度が30以下であることと;
b)固有粘度が5dl/g以上であること
とを特徴とする柑橘類ペクチンを提供するものである。
【0010】
ペクチンは、メチルエステル化度が、
a)20以下;b)15以下;またはc)10以下であり得る。
【0011】
柑橘類ペクチンは、オレンジ、レモン、グレープフルーツまたはライム由来のペクチン
であり得る。
【0012】
ペクチンの固有粘度は、a)6dl/g以上;またはb)7dl/g以上であり得る。
【0013】
本発明はまた、メチルエステル化度が30以下であることと;固有粘度が5dl/g以
上であることとを特徴とするペクチンを製造するための方法を提供するものであり、脱エ
ステル化方法は、柑橘類の皮を、以下を含む溶液中でインキュベートする工程を含む:
a)果皮を含む溶液のpHをpH5~8に維持する緩衝液と;
b)カルシウム結合剤。
【0014】
本方法により製造されて結果として得られるペクチンは、上記のように、a)メチルエ
ステル化度が30以下であり;b)固有粘度が5dl/g以上である柑橘類ペクチンであ
り得る。
【0015】
インキュベーション期間は30分以上であり得る。
【0016】
柑橘類の皮に内在しており、柑橘類の皮のペクチンを脱エステル化するための酵素の使
用も提供される。脱エステル化反応は、a)pHを5~8に維持する緩衝液と、b)カル
シウム結合剤とを含み得る。
【0017】
以下の説明は、本方法の脱エステル化反応または本使用のいずれかに適用される。
【0018】
緩衝液の濃度は0.02M以上であり得る。
【0019】
脱エステル化反応の温度は、a)55℃~75℃;またはb)59℃~65℃であり得
る。
【0020】
カルシウム結合剤は、緩衝液としても作用し得る。例えば、カルシウム結合緩衝液は、
a)Na2H-クエン酸;b)Na3-クエン酸;c)Na2H-リン酸;またはd)N
a3-リン酸であり得る。
【0021】
代替的に、または追加的に、カルシウム結合剤はカチオン交換ビーズを含み得る。
【0022】
柑橘類の皮は、オレンジ、レモンまたはライムの皮であり得る。
【0023】
上述の方法により得られるペクチンも提供される。
【0024】
本明細書全体を通して、文脈が別段の要求をしない限り、用語「含む(compris
e)」もしくは「含有する(include)」、または「含む(comprises)
」もしくは「含んでいる(comprising)」、「含有する(includes)
」もしくは「含有している(including)」などの変形は、本方法またはキット
が、記載の整数または整数の群を含有することを意味するが、他の整数または整数の群を
排除することを意味しないと理解されよう。
【0025】
本文中で引用された各文書、参考文献、特許出願または特許は、その全体が参照により
明示的に本明細書に組み込まれており、読者に本文の一部として読まれ検討されるべきで
あることを意味する。本文中で引用された文書、参考文献、特許出願または特許が本文中
で繰り返されていないのは、単に簡潔にするためである。本文中に含まれる引用資料また
は情報への言及は、その資料または情報が一般知識の一部であったこと、またはどの国で
も知られていたことを容認するものとして理解されるべきではない。
【0026】
単なる例示として、添付の実施例を参照しながら、本発明を以下でさらに説明する。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【
図1A】ペクチン中の置換α1→4結合アンヒドロガラクツロン酸の領域を示す図である。
【
図2】記載の新規方法で作られたペクチン(丸印)のIVおよびDMを示す図である。従来の酸脱エステル化により調製されたペクチンを菱形で表し、先行技術の酵素による脱エステル化により調製されたペクチンを三角形で表している。塗りつぶされていない円は18リットルスケールでの生産物であり、スラッシュ付きの小さな円は36リットルスケールを表し、大きな塗りつぶされた円は表2(黒の塗りつぶし)および3(灰色の塗りつぶし)からの800リットルスケールの例を表している。長方形(実線)は、Hoejgaard et al, Pectin for Heat Stable Bakery Jams (US20070621747 20070110)に記載されているように、酵素的に脱エステル化されたペクチンのパラメータ空間を区切っている。クレームされた組成物は、点線内の左上側にある。
【
図3】記載の新規方法で作られたペクチンのIVおよび収量を示す図である。先行技術のペクチンLMC:化学的に脱エステル化された低DMペクチン(H:PVIV 100の破線より下の塗りつぶされていない菱形)が比較のために含まれている。略号A~Gは、異なる果皮の処理手順(producers)である。
【
図4】見かけのη=f(DM、IV、pH)と見かけのG’=f(DM、IV、pH)の線形モデルにおけるMODDE係数を示す図である。
【
図5】酸性化ペクチン溶液に懸濁させた「シルバーパール」(ケーキ装飾用など)を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
(ペクチン)
ペクチンは、置換α1→4結合アンヒドロガラクツロン酸(AGU)の大きな領域を含
む多糖鎖である(
図1)。異なる果物、野菜および植物由来のペクチンには、異なる種類
の糖が含まれている。例えば、アロエの葉のペクチンには、柑橘類のペクチンには見られ
ない希少な糖である3-OMe-ラムノースが含まれている。異なる果物、野菜および植
物由来のペクチンでは、それらが含む異なる種類の糖の割合にも違いがある。例えば、リ
ンゴペクチンは、柑橘類のペクチンよりもキシロースの含有量がはるかに高い。
【0029】
本明細書で使用される用語ペクチンは、ペクテートとしても知られるペクチン塩を含む
。本明細書に記載のペクチンは、ペクチンの通常の定義を与えられた当業者に理解される
ように、非アミド化ペクチンである。
【0030】
(メチルエステル化度)
ペクチン中のメチルエステル化カルボキシル基の割合を「メチルエステル化度」または
略称でDMと呼ぶ。
【0031】
ペクチンのメチルエステル化度は、30以下であり得る。例えば、29、28、27、
26、25、24、23、22、21、20、19、18、17、16、15、14、1
3、12、11、10、9、8、7、6、5以下である。メチルエステル化度は、上記値
の任意の範囲を含み得る。
【0032】
メチルエステル化度は、実施例の項に記載のプロトコルに従って測定することができる
。
【0033】
例えば、指示薬を使用した滴定により。
【0034】
(固有粘度)
溶解したポリマー(ペクチンなど)のIVは、その組成および共有結合構造だけでなく
、溶媒との相互作用によって決まる。その分子の1つが「完全に単独であると感じる」ほ
どの低濃度で溶解している物質が溶媒を増粘する、物質固有の能力としてIVを説明する
ことができる。より正確な定義はIUPACという組織によって提供されており、ここに
要約する:ηがある物質の溶液の粘度であり、前記物質の濃度をcと名付けた場合、さら
に一連の様々な濃度(c)の溶液が提供され、それらの対応する粘度(η)は測定された
ものであると仮定し、純粋溶媒の粘度をη0と名付けた場合、前記溶媒中の前記物質の固
有粘度は、IV=limc→0((η-η0)/(c・η0))で与えられることになる
。この方程式の「limc→0」という部分は、cからc=0までの様々な値に対する(
(η-η0)/(c・η0))の値を外挿することを意味する。IVの次元は濃度の逆数
であり、値はしばしば単位dl/gで報告される。
【0035】
ペクチンの固有粘度(IV)を求める古典的な方法としては、ペクチンの溶液を数種類
用意し、これらの溶液の粘度を粘度計で測定する方法がある。
【0036】
より近代的な液体クロマトグラフィーの技術を使用することもできる。溶解した物質の
濃度を定量する検出器だけでなく、粘度検出器を備えたクロマトグラフを使用することが
できる。ペクチンをクロマトグラフィーにかけると、ペクチン濃度と粘度との一連の関連
値を取得することができる。その後、IVを統計母集団として解釈することができ、平均
IVが計算され得る。
【0037】
本出願で言及されるIVは、液体クロマトグラフィー、例えば、ゲル浸透クロマトグラ
フィーで求められる、平均化IVである。平均化とは、クロマトグラムのピーク周辺で取
得した値の平均を意味する。
【0038】
粘度が測定される溶離液は、クロマトグラフィーに使用されるものであり得る。適切な
溶離液の例には、酢酸リチウムが挙げられる。溶離液は、0.3M前後の濃度で使用され
得る。例えば、0.1、0.2、0.4、0.5または0.6Mである。
【0039】
溶離液のpHは4.6前後であり得る。例えば、3.5~5.5である。例えば、3.
5、4、4.5、5もしくは5.5、またはこれらの値の任意の範囲。
【0040】
ペクチンの濃度は、0.5mg~1.5mg/mlの範囲であり得る。例えば、1mg
/mlの濃度である。
【0041】
温度は、37℃±1℃で一定に保持され得る。
【0042】
例えば、粘度は、pH4.6の0.3M酢酸リチウムを溶媒として使用して、37℃で
測定され得る。
【0043】
IVを求めるための詳細なプロトコルは、以下の実施例の項で提供される。
【0044】
IVは5dl/g以上であり得る。例えば、IVは、5.5dl/g、5.6、5.7
、5.8、5.9、6、6.1、6.2、6.3、6.4、6.5、6.6、6.7、6
.8、6.9、7、7.1、7.2、7.3、7.4、7.5、7.6、7.7、7.8
、7.9、8、8.1、8.2、8.3、8.4、8.5、8.6、8.7、8.8、8
.9、または9dl/g以上である。
【0045】
(方法)
DMが30以下でIVが5dl/g以上のペクチンを製造する方法は、柑橘類の皮を、
以下を含む溶液中でインキュベートする工程を含む:a)果皮を含む溶液のpHをpH5
~8に維持する緩衝液と;b)カルシウム結合剤。
【0046】
本発明者らは、pHが、ペクチンを脱エステル化することができる柑橘類の皮の内因性
酵素に強く影響を与えるという仮説を立てている(内因性酵素とは、柑橘類の皮に天然に
存在する酵素を意味する;脱エステル化とは、メチルエステル化、すなわちDMを低下さ
せることを意味する)。本発明者らはさらに、カルシウム結合剤がペクチンからカルシウ
ムを除去することで、この内因性酵素がエステル結合にアクセスしてメチル基を切断する
ことが可能になり、ペクチンが脱エステル化されてLM-ペクチンが生成されるという仮
説を立てている。得られた脱エステル化ペクチンは溶液中に放出される。すなわち、脱エ
ステル化の前に、(例えば酸を用いて)ペクチンを最初に抽出する必要はない。ペクチン
は、果物または野菜のバイオマス中でin situで脱エステル化され、溶液中に放出
される。In situでの脱エステル化条件は穏やかなものであり、内因性酵素の活性
を維持するため、得られるLM-ペクチンも高いIV値を示す。
【0047】
したがって、酵素を安定化させるための脱エステル化条件は、高アルカリ性または酸性
のpHおよび高温を必要とするアルカリ鹸化または酸加水分解によるペクチンの脱エステ
ル化に従来使用されていたものとは異なる。したがって、本方法は、ペクチンを脱エステ
ル化するために使用される極端な温度およびpHによってペクチンのIVを低下させる、
脱エステル化のためのアルカリ鹸化または酸加水分解工程を必要としない(鹸化は、一般
的に少なくとも9のpHを必要とする。酸による脱エステル化は、一般的に約1.2未満
のpHを必要とする。例えば、約1.5、2、2.5または3未満のpH未満)。
【0048】
中和工程は、pHを極端な酸またはアルカリから戻すために、脱エステル化の酸加水分
解法およびアルカリ鹸化法においてもしばしば使用される。本明細書に記載の新規方法で
は、本方法が中性pHで実施されるため、この中和工程は必要ない。
【0049】
内因性酵素を使用するこの新規方法は、微生物酵素を使用したときに遭遇する欠点も克
服している:1)ペクチンの脱エステル化を触媒し、それを不溶性の植物物質から溶液中
に放出する果皮酵素との反応が果皮の中で起こるため、ペクチンを最初に皮から抽出する
必要がない;2)酵素は果皮に残り、果皮は、例えばドラム真空フィルターによって溶液
から濾過されるため、酵素がその触媒作用を発揮した後に、酵素を失活させる必要はない
。
【0050】
他のペクチン含有バイオマスを溶液に添加してもよく、このバイオマスから抽出された
ペクチンも柑橘類の皮由来の酵素の結果である。あるいは、請求項1~4に記載されてい
るか上述したような柑橘類ペクチンが、この得られたペクチンであり得る。すなわち、本
明細書に記載の方法により製造されるペクチンは、a)メチルエステル化度が30以下で
あることと;b)固有粘度が5dl/g以上であることとを特徴とする柑橘類ペクチンで
あり得る。
【0051】
(緩衝液およびpH)
緩衝液とは、pHの変化に抵抗性のある溶液のことである。
【0052】
本明細書に記載のペクチンを製造する方法の好ましいpHは、pH5~8である。例え
ば、pH、5、5.1、5.2、5.3、5.4、5.5、5.6、5.7、5.8、5
.9、6、6.1、6.2、6.3、6.4、6.5、6.6、6.7、6.8、6.9
、7、7.1、7.2、7.3、7.4、7.5、7.6、7.7、7.8、7.9また
は8である。pHは、記載された個々のpH値の任意の範囲であり得る。例えば、pH5
~7;またはpH5~8未満である。例えば、5~7.6、または5~7.7、または5
~7.8、または5~7.9である。
【0053】
このpH範囲で作用する緩衝液には、酢酸ナトリウム、Na2H-クエン酸またはNa
3-クエン酸、Na2H-リン酸、NaH2PO4またはNa3-リン酸が挙げられる。
緩衝液の任意の組み合わせも使用され得る。
【0054】
本方法で使用される緩衝液(単数または複数)は、pHを5~8のpH範囲内に維持す
るか、上記の個々の値から導かれる任意の他の範囲内に維持する。pHを維持するとは、
果皮が添加された溶液のpHを、メチルエステル化度が30以下でIVが5dl/g以上
のペクチンが生成されるように維持することを意味する。例えば、下記の任意のインキュ
ベーション期間中、溶液のpHを5~8のpH範囲内に保つ。
【0055】
緩衝液(単数または複数)は、0.01M~0.5Mの濃度で使用され得る。例えば、
0.01M、0.015M、0.02M、0.025M、0.03M、0.035M、0
.04M、0.045M、0.05M、0.055M、0.06M、0.065M、0.
07M、0.075M、0.08M、0.085M、0.09M、0.095M、0.1
M、0.105M、0.110M、0.115M、0.12M、0.125M、0.13
M、0.135M、0.14M、0.145M、0.15M、0.155M、0.16M
、0.165M、0.17M、0.175M、0.18M、0.185M、0.19M、
0.195M、0.2M、0.205M、0.21M、0.215M、0.22M、0.
225M、0.23M、0.235M、0.24M、0.245M、0.25M、0.3
M、0.35M、0.4M、0.45Mもしくは0.5M;または任意のこれらの値から
導かれる任意の範囲。
【0056】
以上説明したように、本発明者らは、緩衝液が柑橘類の皮のpH依存性酵素を安定化さ
せるという仮説を立てている。
【0057】
(カルシウム結合剤)
脱エステル化を触媒する柑橘類の皮の酵素(単数または複数)を安定化する緩衝液に加
えて、本方法にはカルシウム結合剤も必要である。
【0058】
上記で説明したように、本発明者らは、カルシウム結合剤が果皮中のペクチンからカル
シウムを除去し、脱エステル化酵素がエステル結合にアクセスして脱エステル化反応を触
媒することを可能にするという仮説を立てている。
【0059】
カルシウム結合剤は、硫酸もしくは硫酸塩含有塩;またはシュウ酸もしくはシュウ酸塩
含有塩であり得る。
【0060】
好ましくは、カルシウム結合剤は、本方法を5~8のpHに維持する緩衝液でもある。
このようにして、カルシウム結合緩衝液は、本方法を緩衝化して果皮中の脱エステル化酵
素を活性化することと;脱エステル化酵素が果皮中のペクチンにアクセスできるように、
果皮中のカルシウムに結合することの両方の機能を果たすため、果皮に加える必要のある
溶液は1つだけである。したがって、カルシウム結合剤は、リン酸塩またはクエン酸塩緩
衝液であり得る。カチオンは一価であり得る。一価カチオンは、ペクチンの溶解を助ける
。例えば、Na+またはK+。本発明者らは、Na+およびK+などのカチオンも、柑橘
類の皮の酵素を活性化するのに役立ち得ると仮説を立てている。
【0061】
例えば、Na2H-クエン酸もしくはNa3-クエン酸、またはこれらの塩の組み合わ
せ。例えば、Na2H-リン酸、NaH2PO4またはNa3-リン酸。
【0062】
あるいは、カルシウム結合緩衝液は、EDTA緩衝液、例えばNa-EDTA;または
Na-ピロリン酸であり得る。
【0063】
カルシウム結合緩衝液は、これらの緩衝液の組み合わせであり得るか、他のカルシウム
結合緩衝液であり得る。
【0064】
カルシウム結合剤は、果皮に加える溶液であり得る。あるいは、カルシウム結合剤を、
果皮に加えるビーズに付着させてもよい。例えば、カチオン交換ビーズ。カチオン交換ビ
ーズを、緩衝液、例えば、本項または上記「緩衝液およびpH」の項に記載されている緩
衝液のいずれかと組み合わせて使用することができる。カルシウム結合剤またはカルシウ
ム結合緩衝液は、0.01M~0.5Mの濃度で使用され得る。例えば、0.01M、0
.015M、0.02M、0.025M、0.03M、0.035M、0.04M、0.
045M、0.05M、0.055M、0.06M、0.065M、0.07M、0.0
75M、0.08M、0.085M、0.09M、0.095M、0.1M、0.105
M、0.110M、0.115M、0.12M、0.125M、0.13M、0.135
M、0.14M、0.145M、0.15M、0.155M、0.16M、0.165M
、0.17M、0.175M、0.18M、0.185M、0.19M、0.195M、
0.2M、0.205M、0.21M、0.215M、0.22M、0.225M、0.
23M、0.235M、0.24M、0.245M、0.25M、0.3M、0.35M
、0.4M、0.45Mもしくは0.5M;または任意のこれらの値から導かれる任意の
範囲。より高い濃度も使用することができる。しかし、上記の低濃度はコストを削減する
。緩衝液を再利用する場合には、高い濃度を使用してコストバランスをとることができる
。
【0065】
緩衝液の濃度は、果皮を添加する前の濃度である。例えば、529.4gのNa3-ク
エン酸、2・H2Oを、36lの脱イオン水に加える。果皮も添加するが、果皮中のわず
かな量の水は無視する。果皮は液体の体積に影響を与えないと見積もられる。Na3-ク
エン酸、2・H2Oの式量は294.10であるため、結果:濃度=(529.4/29
4.10)/36M=0.050M=50mMとなる。
【0066】
(温度)
本方法は、30~75℃の温度で実施することができる。例えば、30、32、34、
35、36、38、40、42、44、45、46、48、50、52、54、55、5
6、58、60、62、64、65、66、68、70、72、74もしくは75℃、ま
たはこれらの値から導かれる温度の任意の範囲。例えば、55~75℃または59~65
℃。
【0067】
(インキュベーション期間)
溶液中での果皮のインキュベーションの期間は、20分以上であり得る。例えば、30
分以上、45分以上、60分以上、75分以上、90分以上、105分以上、120分以
上、135分以上、150分以上、165分以上、180分以上、195分以上、210
分以上、225分以上、240分以上、255分以上、270分以上、285分以上また
は300分以上。
【0068】
(方法の原料)
ペクチンの抽出に使用される原料は、柑橘類の皮を含む。柑橘類の皮は、オレンジ、レ
モンおよび/またはライムの皮であり得る。
【0069】
(ペクチンの用途)
得られたペクチンは、食品および飲料に使用することができる。例えば、水不溶性物質
をゲルに懸濁させる際に。
【実施例0070】
次に、本発明の態様および実施形態を、単なる例示として、以下の実験を参照しながら
説明する。
【0071】
(IVを測定するためのプロトコル)
(FIPA(フローインジェクションポリマー分析)によるオレンジ、ライムおよびレモ
ンがベースのペクチンの固有粘度(IV)の測定)
【0072】
(原理)
ジュース中に存在する分子を、ゲル浸透サイズ排除クロマトグラフィーにより、その大
きさに応じて分離する。FIPAのセットアップでは、カラムの細孔径が非常に小さいた
め、ポリマー分子(ペクチン)が塩および糖などの低分子成分から分離して溶出される。
クロマトグラフィーカラムからの流出液は、屈折率(RI)、直角および低角レーザー光
散乱(RALLS/LALLS)、粘度検出器の4つの検出器を通過する。固有粘度は、
屈折率検出器と組み合わせて粘度計検出器の出力から求められる。濃度は屈折率検出器の
出力からのみ求められる。RALLSはデキストラン(対照)に使用され、屈折率検出器
と組み合わせてMwが求められる。
【0073】
(溶離液)
溶離液または溶媒は、pH4.6前後の0.3M酢酸リチウム緩衝液である。
【0074】
(処理手順)
(標準品および対照)
対照標準として、分子量約64,000ダルトンのデキストラン(濃度約2.0mg/
mL)を使用し、対照試料(作業バッチ)として、既知IVのペクチン(濃度1mg/m
L)を使用する。
【0075】
(試料の調製)
粉砕したペクチン粉体の手動試料調製:(ペクチンおよび作業バッチ)
1. 約40.0mgの試料を100mLのブルーキャップボトルに量り込み、セミミク
ロ分析天秤(読取限度0.01mg)を使用して正確な試料の量を記録する。
2. エタノール100μLを加え、磁気撹拌子をブルーキャップボトルに落とし入れる
。
3. 溶離液40,0mLを添加し、キャップをしてボトルを閉じる。
4. ブルーキャップボトルを磁気撹拌機の上に置く。
5. ブルーキャップボトルを75±2℃の蓄熱加熱機に置き、30分間磁気撹拌する。
6. 30分後、ボトルを5℃の水浴に5分間放置し、室温にまで冷却する。
7. オートサンプラーバイアルに移す。
【0076】
(分析条件)
溶離液:0.3M Li-酢酸緩衝液 pH4.6。
流量:1.0mL/分
ペクチン濃度:1.0mg/mL
温度:37℃
【0077】
(DMを測定するためのプロトコル)
(手順 - %DMのみの測定-指示薬を使用するか、pH計/オートビュレットを使用
して)
(酸アルコール:100mL 60%IPA+5mL発煙HCl37%)
1. ペクチン2.00gを250mLガラスビーカーに量り込む。
2. 酸アルコール100mLを加え、磁気撹拌機を使用して10分間撹拌する。
3. 濾紙を敷いたブフナー漏斗で濾過する。
4. ビーカーを酸アルコール90mLですすぐ。
5. 60%IPA 1000mLで洗浄する。
6. 100%IPA約30mLで洗浄する。
7. 試料を約15分間、真空吸引しながらブフナー漏斗上で乾燥させる。
8. 試料約0.40gを250mLのガラスビーカーに量り込む。
10. 二重測定用に2つの試料を秤量する。二重測定間の偏差は絶対値で1.5%を超
えてはならず、さもなければ試験を繰り返さなければならない。
11. ペクチンを100%IPA約2mLで湿らせ、磁気撹拌機を使用して撹拌しなが
ら脱イオン水約100mLを加える。
【0078】
これで、指示薬を使用するか、pH計/オートビュレットを使用した、試料の(ペクチ
ン中のカルボキシル基の脱エステル化率を計算するための)滴定準備が整った。指示薬法
については、以下に説明する。
【0079】
(指示薬を使用した滴定)
1. フェノールフタレイン指示薬を5滴加え、0.1M NaOHで色が変わるまで滴
定する(V1力価として記録する)。
2. 撹拌しながら20.0mLの0.5M NaOHを加える。ホイルで覆ったままき
っかり15分間放置する。
3. 撹拌しながら20.0mLの0.5M HClを添加し、色が消えるまで撹拌する
。
4. フェノールフタレイン指示薬を3滴加え、0,1M NaOHで色が変わるまで滴
定する(V2力価として記録する)。
【0080】
最初の滴定(V1)では、メチルエステル化していないすべてのカルボン酸基を定量す
る。次に、強アルカリを加え、メチルエステルを鹸化し、代わりに遊離カルボキシルを生
成する。次に、2回目の滴定では、元のエステル基であったこれらの新しいカルボン酸基
(V2)を定量する。
【0081】
(手動計算)
Vt=V1+(V2-B1)
(V2-B1)x100
%DE(エステル化度)=Vt
%DFA(遊離酸度)=100-%DE
194.1xVtxCx100
%GA*(ガラクツロン酸度)=m
*無灰および無水ベースで
194.1:GAの分子量
C:滴定に使用した0.1M NaOHの補正モル濃度(例えば0.1002M)
m:滴定用の洗浄済乾燥試料のmg単位での重量
酸洗浄、乾燥ペクチン量x100
%純粋ペクチン=秤量したペクチン量
【0082】
(実施例1:乾燥レモン果皮由来のペクチンの抽出)
1)Na3-クエン酸、2・H2O 529.4gを36lの脱イオン水に加え、溶解す
るまで撹拌する。
2)溶液を60℃に加熱する。
3)乾燥果皮900gを加える。
4)混合液を60℃で穏やかに撹拌しながら150分間インキュベートする。撹拌は、果
皮片を懸濁させ、運動させておくのに十分なものでなければならない。
5)液体をDicalite 4258(DICALITE EUROPE nv、B-
9000 GENT、http://www.dicalite-europe.com
)の床で濾過する。保持された物質を廃棄し、床を通過する液体を、以下の操作のために
秤量して回収する。(この液体は、不溶性物質が分散していないか、少ししか分散してい
ない溶液である。)
6)イオン交換樹脂Amberlite(商標)SR1L NA Resin 25LT
Bag、製品番号10026751(The Dow Chemical Compa
ny)を、液体抽出物1リットル当たり50mLの量で添加する;樹脂(イクラに似た小
さなビーズ)は、周囲温度で30分間撹拌することで懸濁状態を維持する。
7)液体抽出物を60μmナイロンクロス(SEFAR PETEX 07-59/33
、Sefar AG、9410 Heiden、Switzerland、filtra
tion@sefar.com)に通す。保持された物質、すなわち使用済みのイオン交
換樹脂は廃棄する。
8)2-プロパノールを穏やかに撹拌しながら、80%2-プロパノール3部に流体を注
ぐ。ペクチンの繊維状沈殿物が形成される。
9)混合液を60μmのナイロン布(SEFAR PETEX 07-59/33)に流
し通す。次に、この布を保持された固形物質(繊維状沈殿物)の周りで折り畳み、手で絞
ってできるだけ多くの液体を排出する。固形物質は、以下の操作のために回収される。布
を通過した液体は廃棄する。
10)上記の固形物質を65℃で10±2時間乾燥させる。
11)乾燥させた物質を秤量し、粉砕する;粉砕機は300μmのふるいを備えている。
このふるいを通過する粉体をペクチン生成物とみなす。
【0083】
抽出収量の計算:上記ポイント(10)で得られたペクチンは、粉砕前の重量が76.
77gであり、ふるい分け後の液体の重量は13375gであった。したがって、清澄化
抽出液1リットルあたりのペクチン収量は5.74‰w/wであった。ポイント(4)の
混合液には、合計36lの水を使用した。ペクチンは900gの果皮から採れ、これはポ
イント(3)を参照。本文書内で報告されている収量の値は、次のように計算される:
収量=(5.74・36/900)・100%w/w=23.0%w/w
【0084】
本文書で収量が言及されている場合は常に、このように計算されている。この計算は概
算であることに留意:乾燥ペクチンと同様に果皮の乾物含有量も100%とはわずかに異
なることを無視している。収量とは、抽出条件で溶解したペクチンの量を表し、これには
実際の製造では失われるであろうペクチンの量も含まれているが、その理由は、上記操作
(6)および(7)で廃棄した固形物質にペクチンが巻き込まれ、そのため前記物質をそ
のペクチン含有液体全体から抜き取ることができないためである。
【0085】
ペクチンの分析結果:IV=8.3dl/g;DM=8.7。
【0086】
結果の考察:IVは、DMが8.7以下の柑橘類ペクチンについて、先行技術に記載さ
れているどのIVよりも高い。収量も驚くほど良好であり、従来の抽出法を使用した場合
に良好な収量とされていたものと同等である。
【0087】
(実施例2、複数の果皮ロットのNa
3-クエン酸での抽出)
いくつかのペクチン試料を、下記の表1に指定した製造パラメータで、その他の点では
実施例1と同じ工程に従って製造した。得られた収量、IVおよびDMを以下の表1に示
す。PVIVも引用する。PVIVは、収量にIVを乗じたものである。これらの結果を
図2に示す。
【0088】
【0089】
【0090】
結果の考察:本方法は、様々な果皮のロットにわたって、DMが30以下でIVが5d
l/g以上のペクチンを提供することが示されている。また、25mMという低濃度の緩
衝液でも、60~74℃の温度範囲でも作用することが示されている。
【0091】
上記試料のpH条件は、以下の通りであった:
【表2】
【0092】
(実施例3:他の緩衝塩での抽出)
Na3-クエン酸以外の塩も抽出に使用され得る。Na2H-クエン酸を使用する場合
、抽出中のpHは、Na3-クエン酸を使用するときよりも低くなる。リン酸ナトリウム
も使用され得る。表2は、他の塩を使用したが他の点では実施例1と同じ工程に従った抽
出実験の結果をまとめたものである。表2に示された実験はすべて、18lの体積で実施
した。
【0093】
【0094】
結果の考察:見て取れるように、様々なリン酸塩およびクエン酸塩緩衝液は、果皮内の
脱エステル化酵素を安定化させ、DMが30以下でIVが5dl/g以上のペクチンの放
出を促進する。
【0095】
これらの溶液のpHは、以下の通りであった:
【0096】
【0097】
(実施例4:果皮/水比を高くした抽出)
大量のクエン酸塩は、抽出収量を高めるように見えるが、コストがかかる。
【0098】
クエン酸塩の利用率を向上させる目的で、高い果皮/水比および高いクエン酸塩/水比
での2つの抽出を行い、その後ふるいにかけ、希釈して間もなくDicalite 42
58で濾過した。このようにして、使用済み果皮の量あたりの通常の消費量しかない中で
、クエン酸塩は抽出のほとんどの期間を通して高濃度で存在することができた。表3は、
これらの実験の結果をまとめたものである。
【0099】
【0100】
(実施例5:既知の抽出方法を使用した比較例)
実験に使用した果皮ロットを、商業的ペクチン製造に使用される前の果皮の品質管理の
常法である、いわゆる「標準抽出」によっても試験した。標準抽出は、実施例1に記載さ
れているように、70℃で7時間、果皮を酸性水に懸濁させた後、濾過してペクチンを単
離することを含む。抽出前に混合液を、抽出の過程でpHが1.7になるほど多くの硝酸
を添加して酸性化した。標準抽出により作られたペクチンのDMは、通常約67±約4で
ある。本明細書に記載の実験に使用したこれら果皮ロットの標準抽出により製造されたペ
クチン試料の特性は、以下の表4にまとめている。
【0101】
【0102】
上記表4の様々な実施例(標準抽出)を、表1の実施例(クレームされた方法)と同じ
果皮ロットで実施した。
● 例えば、表1の試料EB-04~EB-07については、表4の試料19と同じ果皮
ロットを使用した。これらの試料の比較からわかるように、クレームされた方法ではDM
=15.6~29.5およびIV=5.29~6.30のペクチンが生成された;一方、
標準抽出ではDM=64およびIV=4.7のペクチンが生成された。
● 表1の試料EB-12~EB-17についても、表4の試料23と同じ果皮ロットを
使用した。これらの試料の比較からわかるように、クレームされた方法ではDM=12.
8~26.5およびIV=5.79~6.76のペクチンが生成された;一方、標準抽出
ではDM=65およびIV=5.4のペクチンが生成された。
● 最後に、表1の試料EB-24~EB-29についても、表4の試料25と同じ果皮
ロットを使用した。これらの試料の比較からわかるように、クレームされた方法ではDM
=4.2~14.6およびIV=4.4~10.4のペクチンが生成された;一方、標準
抽出ではDM=66およびIV=5.6のペクチンが生成された。
【0103】
表5および表6の他の試料は、通常これらが混合果皮ロットに由来する市販のペクチン
であるため、比較には有用ではなかった。
【0104】
非アミド化LM-ペクチンは、「LMC-ペクチン」とも呼ばれ、現在市販されている
製品である。表5に、一部のロットのLMCの特性を示す。これらのペクチンロットのI
V値は、本発明のペクチン試料のIV値よりもはるかに低いことに注目されたい。表5の
個々のペクチンロットの製造収量に関するデータはないが、収量約24%w/wがLMC
製造の典型的なものと考えることができる;この収量はPVIVを計算するために仮定さ
れたものである。下表の市販品タイプは、販売されているペクチンクラスの名称を示して
いる。
【0105】
【0106】
【0107】
【0108】
【0109】
DKPA200201033およびUS20070621747は、高いDMのペクチ
ンを酵素的に脱エステル化することにより、DMが約30~40のペクチンをどのように
して製造することができるかを記載している。この記述に従って製造された試料を、表6
に記載する。
【0110】
【0111】
表1~6の試料はすべて、DMをx軸、IVをy軸とする
図2に描かれている。この図
では、Hoejgaardのペクチン(実線の囲みを参照)が表現されている。このペク
チンは微生物ペクチンエステラーゼ酵素によって作られている。
【0112】
上記の表および
図2からわかるように、本明細書に記載の新規手順により製造された試
料は、図の左上部分にあるという点で、先行技術の試料とは非常に明確に異なり、すなわ
ち、それらは低DMおよび高IVのユニークな組み合わせを持っている。図は、本明細書
に記載の新規方法によって製造された本発明の組成物を、IV=5dl/gおよびDMが
30以下である点線として示している。
【0113】
同じ試料も、収量をx軸、IVをy軸とする
図3に描かれている。この図からわかるよ
うに、本明細書に記載の新規手順によって作られた試料は、一般に、以前の脱エステル化
方法よりも高いIVと高い収量とを有する。例えば、化学的に脱エステル化されたペクチ
ン(すなわち、アルカリ鹸化または酸加水分解によって作られたもの)を、塗りつぶされ
ていない菱形(H)で表す。
【0114】
(実施例6、ケーキビーズを繊細なゲルに懸濁させるための新規ペクチンの用途)
本発明のペクチン試料および(参考用に)クレームされたパラメータ外のいくつかの他
のペクチン試料の溶液を、ペクチン0.25gとスクロース5gとを乾式混合し、次いで
その粉末混合物を500gの純粋な脱イオン水に室温で撹拌しながら分散させることによ
って製造した。撹拌を10分間継続した。
【0115】
試験システム:
Haake Mars、Thermo Scientific、CPS100120、I
Iレオメーター(Thermo Fisher Scientific、ウォルサム、マ
サチューセッツ州、USA 02451)、以下の設定およびパラメータ:
●測定ジオメトリFL40(FL40ベーンスピンドル)
●25℃に設定した温度調節器DC30
●ギャップ4.000mm
【0116】
手順:
a)0.05%w/wペクチン溶液150mlを、25℃±0.1℃でカップ(直径44
mm、長さ120mm)に入れた。
b)ベーンツール(FL40-直径40mm)を流体中に挿入した
c)撹拌しながら、剪断速度25秒-1で1分間の測定手順を開始した
d)この測定手順の最初に、2mlの10%クエン酸溶液を加えて試料を酸性化した
【0117】
1分間の混合時間の後、溶液またはゲルを、印加応力=1.0Pa、振動周波数=1H
zの振動試験で評価した。30分後の見かけの粘度(記号η*)および見かけの貯蔵弾性
率(記号G’)を読み取った。
【0118】
結果を以下の表7にまとめる。
【0119】
【0120】
これらの結果を互いに相対的に比較することができるが、ベーンスピンドルを使用して
いるため、η*およびG’の絶対測定値とはなり得ない。
【0121】
レオロジーの結果である見かけのη*およびG’が、独立パラメータであるペクチンD
M、ペクチンIV、およびペクチンpHにどのように左右されるかを説明するために、表
7のデータをMODDEソフトウェアで解析した。ここでいう「ペクチンpH」とは、純
粋な脱イオン水に、ペクチンが0.3%w/wの濃度で溶解したときにもたらすpHを意
味する。MODDE係数を
図4のようにまとめている。上記の表7で使用した多様な溶液
で、IVが最も強い影響力を持つパラメータであることが示されている。
【0122】
表7のペクチン溶液をさらに、溶液またはゲル中の不溶性物質を懸濁させるために使用
した。「シルバーパール」(Dr. Oetker Danmark AS, Sydv
estvej 15, 2600 Glostrup)を液体中に穏やかに撹拌した;前
記「シルバーパール」は、デザートまたはケーキを飾るために考案された直径約4mmの
球体である。結果を
図5に示す。
図5の調合物は、ガラス容器(
図5に示す)を穏やかに
回転させる/ねじると浮くという意味では半液体または弱くゲル化しているが、容器の動
きを止めると、ビーズは元の動きの方向を逆にしてその動きをやめる;これはゲルの証拠
とみなされる。
図5から明らかなように、IVが高いペクチン溶液中ではビーズは懸濁し
たままであるが、IVが低いペクチン溶液中では底に沈降する。本明細書で「シルバーパ
ール」において示されている懸濁作用は、他の食品、例えばサラダドレッシング中のスパ
イスおよび野菜片の懸濁にもなり得る。