(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025039691
(43)【公開日】2025-03-21
(54)【発明の名称】注射液製剤
(51)【国際特許分類】
A61K 31/724 20060101AFI20250313BHJP
A61J 1/06 20060101ALI20250313BHJP
A61J 1/14 20230101ALI20250313BHJP
A61K 9/08 20060101ALI20250313BHJP
A61P 21/00 20060101ALI20250313BHJP
A61P 39/02 20060101ALI20250313BHJP
【FI】
A61K31/724
A61J1/06 G
A61J1/14 520
A61K9/08
A61P21/00
A61P39/02
【審査請求】有
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2025002223
(22)【出願日】2025-01-07
(62)【分割の表示】P 2021542056の分割
【原出願日】2020-06-25
(31)【優先権主張番号】P 2019158309
(32)【優先日】2019-08-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000109543
【氏名又は名称】テルモ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000671
【氏名又は名称】IBC一番町弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】吉川 弘樹
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 宏
(72)【発明者】
【氏名】山本 聡
(57)【要約】
【課題】類縁物質などの不純物の増減を抑制し、かつ長期間安定的に保存することのできるスガマデクスナトリウム注射液製剤を提供する。
【解決手段】有効成分としてスガマデクスナトリウムを含有するスガマデクスナトリウム水溶液を充填して高圧蒸気滅菌した、酸素透過性容器を有する医療用容器と、酸素難透過性包装容器と、を備え、(i)前記医療用容器を、脱酸素剤と共に、前記酸素難透過性包装容器内に収容して密封してなる;または(ii)前記医療用容器を、不活性ガスにて置換した前記酸素難透過性包装容器内に収容して密封してなる、注射液製剤。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
有効成分としてスガマデクスナトリウムを含有するスガマデクスナトリウム水溶液を充填して高圧蒸気滅菌した、酸素透過性容器を有する医療用容器と、
酸素難透過性包装容器と、を備え、
(i)前記医療用容器を、脱酸素剤と共に、前記酸素難透過性包装容器内に収容して密封してなる;または
(ii)前記医療用容器を、不活性ガスにて置換した前記酸素難透過性包装容器内に収容して密封してなる、注射液製剤。
【請求項2】
前記医療用容器が、加圧媒体として、不活性ガス、不活性ガスと空気の混合ガスまたは空気を用いて高圧蒸気滅菌したものである、請求項1に記載の注射液製剤。
【請求項3】
前記スガマデクスナトリウム水溶液中のスガマデクスナトリウム濃度が50~200mg/mLである、請求項1または2に記載の注射液製剤。
【請求項4】
前記医療用容器がシリンジであり、前記酸素透過性容器が前記シリンジを構成する樹脂製の外筒である、請求項1~3のいずれか1項に記載の注射液製剤。
【請求項5】
前記樹脂がポリプロピレンまたは環状ポリオレフィンである、請求項4に記載の注射液製剤。
【請求項6】
前記シリンジがエラストマー製のガスケットを有する、請求項4または5に記載の注射液製剤。
【請求項7】
前記エラストマーがブチルゴムまたは熱可塑性エラストマーである、請求項6に記載の注射液製剤。
【請求項8】
前記酸素透過性容器を形成する材料の酸素透過度が、23℃および90%RHで測定したときに、50cm3/m2・day・atm(120μm)以上である、請求項1~7のいずれか1項に記載の注射液製剤。
【請求項9】
前記酸素難透過性包装容器を形成する材料の酸素透過度が、23℃および90%RHで測定したときに、1.0cm3/m2・day・atm以下である、請求項1~8のいずれか1項に記載の注射液製剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、注射液製剤に関する。
【背景技術】
【0002】
スガマデクスナトリウムは、6-メルカプト-シクロデキストリン誘導体であり、ロクロニウム臭化物又はベクロニウム臭化物による筋弛緩状態からの回復に使用する化合物である(特許第3880041号公報(国際公開第2001/040316号))。
【0003】
現在市販されているスガマデクスナトリウム注射液製剤は、1バイアル2mL中にスガマデクスナトリウムを200mg含有、または1バイアル5mL中にスガマデクスナトリウムを500mg含有するバイアル製剤(100mg/mL)であり、使用時にはバイアルからシリンジに薬液を吸って使用する必要がある。
【0004】
一方、近年、薬剤取り違えや院内感染の防止、廃棄性の向上、医療従事者の負担の軽減などの観点から、薬液を予め充填した状態の製剤製品であるプレフィルドシリンジが使用されている。このようなプレフィルドシリンジの薬液収容部、すなわち外筒の材質としては、ガラスまたは各種プラスチックが用いられている。プラスチック製プレフィルドシリンジはガラス製のものに比べて軽くて割れにくく、医療現場でより安全に調剤業務を行うことができる点でガラス製のものに比べて利点がある。
【0005】
上記の観点から、注射液製剤をプラスチック製のプレフィルドシリンジ製剤とすることが望ましい。しかしながら、薬剤をプラスチック製容器へ充填することにより製剤安定性が低下する場合がある。また、シリンジの外筒の材質であるプラスチックまたはガスケットの材質であるエラストマーと薬剤とが何らかの相互作用、すなわちプラスチック等への薬剤の吸着、外筒またはガスケットの材質成分の薬液への溶出などを起こす場合もあり、プレフィルドシリンジ製剤化には慎重な検討が必要である。
【0006】
スガマデクスナトリウムには、不純物として、14種類の類縁物質が存在することが報告されており(ブリディオン静注200mg及び同静注500mg 審議結果報告書(平成21年10月27日 医薬食品局審査管理課))、光によって類縁物質が経時的に増減することから遮光保存を要することが知られている。そして、保存条件によっては類縁物質が規格をこえることがあることも知られている。さらに、スガマデクスナトリウムは、酸素に対して安定であると考えられており、スガマデクス注射液製剤では、現在までに製造時や保管時に酸素についての厳密な管理は行なわれておらず、その必要性もまったく認識されていなかったと考えられる。
【発明の概要】
【0007】
しかしながら、スガマデクスナトリウム注射液製剤をプラスチック製シリンジに充填して長期間保存すると、長期間安定して保存できないという問題があることを本発明者らは知得し、その原因が酸素の影響で不純物が経時的に増減するためであることを見出した。
【0008】
したがって、本発明は、類縁物質などの不純物の増減を抑制し、かつ長期間安定的に保存することのできるスガマデクスナトリウム注射液製剤を提供することを目的とする。
【0009】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意研究を積み重ねた。その結果、有効成分としてスガマデクスナトリウムを含有するスガマデクスナトリウム水溶液を充填して高圧蒸気滅菌した、酸素透過性容器を有する医療用容器と、
酸素難透過性包装容器と、を備え、
(i)前記医療用容器を、脱酸素剤と共に、前記酸素難透過性包装容器内に収容して密封してなる;または
(ii)前記医療用容器を、不活性ガスにて置換した前記酸素難透過性包装容器内に収容して密封してなる、注射液製剤によって上記課題を解決することを見出し、本発明の完成に至った。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の一形態に係る実施の形態を説明する。本発明は、以下の実施の形態のみには限定されない。
【0011】
本明細書において、範囲を示す「X~Y」は「X以上Y以下」を意味する。また、特記しない限り、操作および物性等の測定は室温(1~30℃)の条件で行う。
【0012】
<注射液製剤>
本発明の一形態は、有効成分としてスガマデクスナトリウムを含有するスガマデクスナトリウム水溶液を充填して高圧蒸気滅菌した、酸素透過性容器を有する医療用容器と、
酸素難透過性包装容器と、を備え、
(i)前記医療用容器を、脱酸素剤と共に、前記酸素難透過性包装容器内に収容して密封してなる;または
(ii)前記医療用容器を、不活性ガスにて置換した前記酸素難透過性包装容器内に収容して密封してなる、注射液製剤である。
【0013】
本形態の注射液製剤は、スガマデクスナトリウム類縁物質などの不純物の増減を抑制し、かつ長期間安定的に保存することができる。
【0014】
上述のとおり、スガマデクスナトリウムは、酸素に対して安定であると考えられており、スガマデクス注射液製剤では、現在までに製造時や保管時に酸素についての一貫した厳密な管理は行なわれておらず、その必要性もまったく認識されていなかった。
【0015】
しかし、本発明者らは、スガマデクスナトリウム水溶液をプラスチック製シリンジに充填して長期間保存すると、酸素の影響で不純物が経時的に増減するため、長期間安定して保存できないことを見出した。
【0016】
そこで、本発明者らは、スガマデクスナトリウム水溶液について、スガマデクスナトリウムの安定性に対する酸素の影響をあらためて検証した。
【0017】
まず、スガマデクスナトリウム水溶液を充填した酸素透過性を有するプラスチック製シリンジについて、不活性ガスの導入下または不活性ガスの雰囲気中で高圧蒸気滅菌を行った後、および空気中で高圧蒸気滅菌を行った後それぞれの不純物量の増減を調査した。その結果、滅菌雰囲気における酸素除去の有無にかかわらず、滅菌後の不純物量の増減は見られなかった。
【0018】
しかし、これらのシリンジを長期間保存した後、不純物量を測定したところ、類縁物質の増減が確認された。
【0019】
そのため、本発明者らは、不純物量の増減が高圧滅菌段階での酸素管理には依存せず、その後の保存中に起こることから、スガマデクスナトリウムが酸素と急激に反応するのではなく、酸素との反応が遅いタイプの化合物であると推測した。
【0020】
そこで、本発明者らは、シリンジ中のスガマデクスナトリウム水溶液に残存している酸素、およびシリンジの外部に存在する酸素を徐々にでも確実に除去するため、高圧滅菌後のシリンジを脱酸素剤とともに酸素難透過性の袋体内に封入して60℃にて3週間または40℃にて6箇月間保存した。また、当該シリンジを、不活性ガスにて置換した酸素難透過性の袋体内に封入して60℃にて3週間または40℃にて6箇月間保存した。3週間後または6箇月後、これらのシリンジ内のスガマデクスナトリウム水溶液を分析すると、類縁物質の増減が抑制されることを確認した(実施例参照)。
【0021】
(医療用容器)
本形態の注射液製剤は、有効成分としてスガマデクスナトリウムを含有するスガマデクスナトリウム水溶液を充填して高圧蒸気滅菌した、酸素透過性容器を有する医療用容器を備える。
【0022】
スガマデクスナトリウムは、γ-シクロデキストリン(環状グルコース8量体)の全てのグルコース単位の6位水酸基にチオプロピオン酸側鎖を導入した構造を有する。本形態に係るスガマデクスナトリウムとしては、注射液製剤として使用可能なスガマデクスナトリウムであれば、いずれも使用することができる。
【0023】
本形態に係るスガマデクスナトリウム水溶液は、有効成分としてスガマデクスナトリウムを含有する。本明細書において、「有効成分としてスガマデクスナトリウムを含有する」とは、クロニウム臭化物またはベクロニウム臭化物による筋弛緩状態から回復するのに十分な量(すなわち、有効量)で、上記スガマデクスナトリウムを含有することを意味する。好ましい実施形態では、スガマデクスナトリウム水溶液中のスガマデクスナトリウム濃度は、50~200mg/mLである。前記スガマデクスナトリウム濃度が50mg/mL以上であると、患者に投与する液量の増加を抑制できる。また、前記スガマデクスナトリウム濃度が200mg/mL以下であると、スガマデクスナトリウムを十分に溶解することができる。
【0024】
スガマデクスナトリウム水溶液のpHは、例えば7~8である。
【0025】
スガマデクスナトリウム水溶液は、溶媒として水を含む。水としては、薬理学的および生理学的に許容されうる水であれば、特に制限されない。水としては、例えば蒸留水、常水、精製水、滅菌精製水、注射用水、注射用蒸留水などが挙げられる。これらの水の定義は、第十七改正日本薬局方に基づく。
【0026】
スガマデクスナトリウム水溶液は、スガマデクスナトリウムおよび水に加えて、pH調節剤、等張化剤、抗酸化剤、緩衝剤、鎮痛剤、抗炎症剤、抗嘔吐剤、抗てんかん剤、抗うつ剤、抗ウィルス剤、ポリオール、錯化剤、アルカノール、ビタミンなどのその他の成分を含むことができる。
【0027】
一実施形態において、スガマデクスナトリウム水溶液は、pH調節剤、等張化剤、抗酸化剤および緩衝剤から選択される少なくとも一種を含む。
【0028】
pH調節剤としては、注射液において従来用いられているpH調節剤を使用できる。pH調節剤の例としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムなどの塩基;塩酸などの無機酸;クエン酸、乳酸、酢酸、コハク酸、リンゴ酸などの有機酸が挙げられる。
【0029】
pH調節剤の含有量は、スガマデクスナトリウム水溶液が上記pH範囲となるように、適宜調整できる。
【0030】
等張化剤としては、注射液製剤において従来用いられている等張化剤を使用できる。等張化剤の例としては、マンニトール、ソルビトール、イノシトール、グルコース、プロピレングリコール、グリセロールなどの非イオン性等張化剤;塩化ナトリウムなどのイオン性等張化剤などを挙げることができる。
【0031】
等張化剤の含有量は、スガマデクスナトリウム水溶液の浸透圧比が約1~2(生理食塩液に対する比)となる量とするのがよい。
【0032】
抗酸化剤としては、注射液製剤において従来用いられている抗酸化剤を使用できる。抗酸化剤の例としては、システインなどのチオール官能基を有する有機化合物、その塩またはそれらの水和物(システイン塩酸塩水和物など)、亜硫酸水素ナトリウムなどの亜硫酸塩、アスコルビン酸またはその塩、ジブチルヒドロキシトルエンなどが挙げられる。
【0033】
緩衝剤としては、注射液製剤において従来用いられている緩衝剤を使用できる。緩衝剤の例としては、リン酸、その塩またはそれらの水和物(リン酸水素ナトリウム水和物など)、クエン酸、その塩またはその水和物、酢酸、その塩またはその水和物などが挙げられる。
【0034】
スガマデクスナトリウム水溶液の調製方法は、特に制限されず、スガマデクスナトリウムおよび水、ならびに必要に応じてその他の成分を混合することにより、スガマデクスナトリウム水溶液を調製することができる。
【0035】
スガマデクスナトリウム水溶液の調製は、スガマデクスナトリウムおよびその他の成分が変質したり分解したりすることなく、均一に溶解したスガマデクスナトリウム水溶液が得られる条件であれば、特に制限されない。
【0036】
スガマデクスナトリウム水溶液の調製は、大気(空気)中、不活性ガスの雰囲気中、空気および不活性ガスの混合ガスの雰囲気中で行うことができる。不活性ガスとしては、窒素ガス、アルゴンガス、二酸化炭素ガスなどを用いることができる。
【0037】
本形態に係るスガマデクスナトリウム水溶液は、酸素透過性容器を有する医療用容器に充填され高圧滅菌されている。
【0038】
酸素透過性容器を有する医療用容器は、医療用容器そのものが酸素透過性容器であっても、スガマデクスナトリウム水溶液を充填した酸素透過性容器を構成として有する医療用容器であってもよい。
【0039】
医療用容器の形態、サイズなどは、特に制限されず、充填されるスガマデクスナトリウム水溶液の量、用途、使用形態などに応じて適宜選択することができる。
【0040】
医療用容器の形態としては、例えばシリンジ、バイアル、バッグ、アンプル、カートリッジ、ボトルなどが挙げられ、好ましくはシリンジまたはバイアルである。
【0041】
医療用容器がシリンジである場合、少なくともシリンジを構成する外筒が酸素透過性容器である。また、医療用容器がバイアルである場合、少なくともバイアルを構成するバイアル容器が酸素透過性容器である。
【0042】
酸素透過性容器を形成する材料は、樹脂であり、好ましくは耐蒸気滅菌性、透明性、成形性および汎用性に優れた樹脂である。このような樹脂の例としては、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリスチレン、ポリアミド、ポリカーボネート、ポリ塩化ビニル、ポリ-(4-メチルペンテン-1)、アクリル樹脂、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン共重合体、ポリエチレンテレフタレートなどのポリエステル、環状オレフィンポリマー(COP)、環状オレフィンコポリマー(COC)などの環状ポリオレフィンなどが挙げられる。
【0043】
環状ポリオレフィンを構成する環状オレフィンとしては、単環式環状オレフィン、多環式環状オレフィン、橋架け構造を有する多環式環状オレフィンなどが挙げられる。環状オレフィンは、1種または2種以上を用いることができる。
【0044】
環状オレフィンの例としては、置換されたまたは置換されていないノルボルネン系単量体、置換されたまたは置換されていないテトラシクロドデセン系単量体、置換されたまたは置換されていないジシクロペンタジエン系単量体、側鎖にシクロヘキシル基、フェニル基を有する環状ポリオレフィンなどが挙げられる。
【0045】
環状オレフィンコポリマーが環状オレフィンと非環状オレフィンとのコポリマーである場合、非環状オレフィンとしては、エチレン、プロピレン、ブテン、イソブチレン、メチルペンテンなどが挙げられる。非環状オレフィンは、1種または2種以上を用いることができる。
【0046】
環状ポリオレフィンは、合成してもよく、市販品を使用してもよい。市販品としては、例えば「ゼオネックス(登録商標)」(日本ゼオン株式会社製)、「ゼオノア(登録商標)」(日本ゼオン株式会社製)、「アペル(登録商標)」(三井化学株式会社製)、「トパス(登録商標)」(ポリプラスチック株式会社製)などが挙げられる。
【0047】
酸素透過性容器を形成する材料の酸素透過度は、本発明の効果をより発揮するとの観点から、23℃および90%RHで測定したときに、好ましくは50cm3/m2・day・atm(120μm)以上である。
【0048】
本形態の注射液製剤が医療用容器を、脱酸素剤と共に、酸素難透過性包装容器内に収容して密封してなる場合、酸素透過度が50cm3/m2・day・atm(120μm)以上であれば、酸素透過性容器内のスガマデクスナトリウム水溶液、ヘッドスペースなどに含まれている酸素を、包装容器の外部からの包装容器内への空気(酸素)の通過を遮断しながら、脱酸素剤によって酸素透過性容器を通して十分に吸収することができ、酸素透過性容器内の酸素量を低減することができる。
【0049】
本形態の注射液製剤が医療用容器を、不活性ガスにて置換した酸素難透過性包装容器内に収容して密封してなる場合、酸素透過度が50cm3/m2・day・atm(120μm)以上であれば、酸素透過性容器内のスガマデクスナトリウム水溶液、ヘッドスペースなどに含まれている酸素が、徐々に酸素難透過性包装容器内の不活性ガスに置換されることで、酸素透過性容器内の酸素量を低減することができる。
【0050】
なお、酸素透過性容器を形成する材料の酸素透過度の上限値は、特に制限されない。
【0051】
酸素透過性容器を形成する材料の酸素透過度は、実施例に記載の方法により測定された値を採用する。
【0052】
一実施形態では、医療用容器はシリンジであり、酸素透過性容器は、シリンジを構成する樹脂製の外筒である。樹脂は、成形の容易性および耐熱性、薬剤安定性などの観点から、好ましくはポリプロピレン(PP)または環状ポリオレフィンであり、より好ましくはポリプロピレンである。よって、本形態の医療用容器は、プラスチック製のプレフィルドシリンジであることが好ましい。
【0053】
シリンジは、エラストマー製のガスケットを有することができる。エラストマーとしては、特に制限されず、天然ゴム、イソプレンゴム、塩素化や臭素化を含むブチルゴム、クロロプレンゴム、ニトリル-ブタジエンゴム、スチレン-ブタジエンゴム、シリコーンゴムなどのゴム(特に、加硫処理したもの);スチレン系エラストマー、水添スチレン系エラストマー、ポリ塩化ビニル系エラストマー、オレフィン系エラストマー、ポリエステル系エラストマー、ポリアミド系エラストマー、ポリウレタン系エラストマーなどの熱可塑性エラストマー;スチレン系エラストマーと、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブテン、α-オレフィン重合体などのポリオレフィンと、流動パラフィン、プロセスオイルなどのオイルと、タルク、キャスト、マイカなどの粉体無機物との混合物などが挙げられる。エラストマーは、1種単独でも、2種以上の混合物であってもよい。
【0054】
エラストマーは、弾性特性を有し、γ線滅菌、電子線滅菌および高圧蒸気滅菌が可能であるとの観点から、好ましくはブチルゴムまたは熱可塑性エラストマーであり、より好ましくはブチルゴムまたはスチレン系エラストマーである。
【0055】
シリンジを構成するガスケットは、外筒の内側に密接し、外筒内部空間の後端開口側を密封するとともに、外筒内を容易に摺動可能であり、後端部にプランジャーが取り付け可能な形態であることが好ましい。
【0056】
酸素透過性容器へのスガマデクスナトリウム水溶液の充填は、常法に従って行うことができる。また、前記充填は、大気(空気)中、不活性ガスの雰囲気中、空気および不活性ガスの混合ガスの雰囲気中で行うことができる。不活性ガスとしては、窒素ガス、アルゴンガス、二酸化炭素ガスなどを用いることができる。
【0057】
スガマデクスナトリウム水溶液を充填した酸素透過性容器を有する医療用容器は、高圧蒸気滅菌されている。高圧蒸気滅菌の方法は、特に制限されず、従来公知の方法を使用することができる。高圧蒸気滅菌の滅菌媒体としては、水蒸気を用いることができる。高圧蒸気滅菌の加圧媒体としては、不活性ガスと空気の混合ガスまたは空気を用いることができる。すなわち、高圧蒸気滅菌は、滅菌媒体として水蒸気を用い加圧媒体として空気を用いて行なってもよいし、滅菌媒体として水蒸気を用い加圧媒体として不活性ガスを用いて行なってもよいし、または滅菌媒体として水蒸気を用い加圧媒体として空気と不活性ガスの混合ガスを用いて行ってもよい。
【0058】
高圧蒸気滅菌で使用される不活性ガスとしては、窒素ガス、アルゴンガス、二酸化炭素ガスなどが挙げられ、安価に入手できる点から、好ましくは窒素ガスである。
【0059】
高圧蒸気滅菌を行う際の温度、圧力、時間などの滅菌条件は、注射液製剤を滅菌する際に通常実施されている条件でよい。例えば、温度は、通常100~129℃であり、好ましくは115~124℃である。
【0060】
酸素透過性容器および医療用容器の製造方法は、特に制限されず、酸素透過性容器および医療用容器を形成する材料の種類、形状などに応じて、射出成形、押出成形、ブロー成形、回転成形、吹き込み成形、トランスファー成形、プレス成形、溶液キャスト法などの公知の方法を適宜選択することができる。
【0061】
(酸素難透過性包装容器)
本形態の注射液製剤は、酸素難透過性包装容器を備える。
【0062】
本形態に係る酸素難透過性包装容器は、上記医療用容器を収納して密封できる容器であり、毒性のない容器であれば、特に制限されない。また、酸素難透過性包装容器は、軟質の容器であっても、硬質の容器であってもよい。
【0063】
酸素難透過性包装容器を形成する材料の酸素透過度は、本発明の効果をより発揮するとの観点から、23℃および90%RHで測定したときに、好ましくは1.0cm3/m2・day・atm以下であり、より好ましくは0.3cm3/m2・day・atm以下であり、さらに好ましくは0.1cm3/m2・day・atm以下である。
【0064】
酸素難透過性包装容器を形成する材料の酸素透過度が低ければ低いほど、酸素透過性容器内に充填されたスガマデクスナトリウム水溶液、ヘッドスペースなどに含まれている酸素が脱酸素剤によって吸収されたり、不活性ガスに置換されたりすることで、除去されやすくなるため好ましい。
【0065】
酸素難透過性包装容器を形成する材料の酸素透過度は、実施例に記載の方法により測定された値を採用する。
【0066】
酸素難透過性包装容器を形成する材料としては、ある程度の強度と硬度とを有し、かつ酸素バリア性を有する材料であれば、特に制限されない。このような材料の例としては、アルミニウム、金、銀などの金属箔、アルミニウム、金、銀などの金属蒸着フィルムおよび金属蒸着シート、SiOxなどの無機物蒸着フィルムおよび無機物蒸着シート、ポリ塩化ビニリデン、ポリ塩化ビニリデン-ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン-アクリル酸エステル共重合体、エチレン-ビニルアルコール共重合体、高密度ポリエチレンなどから形成されたフィルムおよびシートなどが挙げられる。
【0067】
金属蒸着フィルム、金属蒸着シート、無機物蒸着フィルムおよび無機物蒸着シートの基材の材料としては、ポリプロピレン、ポリエチレンなどのポリオレフィン樹脂、ポリアミド、ポリ塩化ビニル、ポリエステル、ポリスチレン/ポリプロピレン樹脂などが挙げられる。
【0068】
酸素難透過性包装容器を形成する材料は、積層体であってもよい。積層体は、少なくとも一層が上記酸素バリア性を有する材料を含む。積層体を構成する他の層の材料は、特に制限されない。
【0069】
本発明の一実施形態において、酸素難透過性包装容器は、酸素難透過性のフィルムまたはシートから形成されている。
【0070】
酸素難透過性のフィルムまたはシートを形成するための材料としては、アルミニウム、銀、金などの金属箔、またはアルミニウム、銀、金などが表面に蒸着された金属蒸着フィルム、SiOXなどが表面に蒸着された無機物蒸着フィルム、酸素バリア性樹脂フィルム(例えばポリ塩化ビニリデン、ポリ塩化ビニリデン-ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン-アクリル酸エステル共重合体、エチレン-ビニルアルコール共重合体、高密度ポリエチレンなどのフィルム)が好適に使用できる。
【0071】
金属蒸着フィルム、金属蒸着シート、無機物蒸着フィルムおよび無機物蒸着シートの基材の材料としては、ポリプロピレン、ポリエチレンなどのポリオレフィン樹脂、ポリアミド、ポリ塩化ビニル、ポリエステル、ポリスチレン/ポリプロピレン樹脂などが挙げられる。
【0072】
当該酸素難透過性のフィルムまたはシートを折りたたんで周囲をヒートシールして包装容器を形成することが多いことから、折りたたんだときに最内面となる部分が少なくともヒートシール性の接着樹脂層(例えば、ポリプロピレン、ポリエチレンなどのポリオレフィン樹脂、ポリスチレン/ポリプロピレン樹脂、エチレン-酢酸ビニル系樹脂、エチレン-アクリル酸系樹脂、ポリ塩化ビニル系樹脂、各種熱可塑性エラストマー)から形成されていることが好ましい。
【0073】
限定されるものではないが、酸素難透過性の包装容器用の材料として、本発明で用い得る材料の具体例としては、
・ポリプロピレン(PP)/シリカ蒸着ポリエチレンテレフタレート(PET)/ポリプロピレン(PP)をこの順に積層した多層フィルムまたは多層シート;
・2軸延伸ポリアミド(OPA)/ポリエチレン(PE)/アルミニウム蒸着PET/ポリエチレン(PE)をこの順に積層した多層フィルムまたは多層シート;
・OPA/PE/アルミニウム蒸着PET/PEをこの順に積層した多層フィルムまたは多層シート;
・OPA/PE/アルミニウム箔/PE/PEをこの順に積層した多層フィルムまたは多層シート;
・OPA/PE/アルミニウム箔/PE/PET/PEをこの順に積層した多層フィルムまたは多層シート;
・PET/PE/アルミニウム蒸着PET/PE/エチレン-酢酸ビニル共重合体(EVA)/PEをこの順で積層した多層フィルムまたは多層シート;
・ポリ塩化ビニリデン/PE/アルミニウム蒸着PET/PEをこの順で積層した多層フィルムまたは多層シート;
・PET/アルミニウム蒸着エチレン-ビニルアルコール共重合体(EVOH)/PEをこの順で積層した多層フィルムまたは多層シート;
・2軸延伸ナイロン(ONY)/EVOH/PEをこの順で積層した多層フィルムまたは多層シート;
などを挙げることができる。
【0074】
本形態に係る酸素難透過性包装容器の形態としては、ブリスター容器、袋、チューブなどが挙げられる。
【0075】
酸素難透過性包装容器の製造方法は、特に制限されず、酸素難透過性包装容器を形成する材料の種類、形状などに応じて、公知の方法を適宜選択することができる。
【0076】
一実施形態では、酸素難透過性包装容器は、医療用容器収納用凹部を備える包装容器本体と、包装容器本体の凹部開口を封止する剥離可能な封止フィルムとから形成されている。
【0077】
包装容器本体の材料としては、ある程度の強度と硬度を有することが好ましく、ポリプロピレン、ポリエチレンなどのポリオレフィン樹脂、ポリ塩化ビニル、ポリエステル、ポリスチレン/ポリプロピレン樹脂などが挙げられ、これら樹脂からなる層と酸素難透過性を有する樹脂(例えば、ポリ塩化ビニリデン、エチレン-ビニルアルコール共重合体、ポリエチレンテレフタレート等)からなる層とを積層した形態が挙げられる。
【0078】
包装容器本体の上面には、医療用容器収納用凹部を封止するように封止フィルムが気密に固着されている。封止フィルムは、酸素バリア性フィルムと、この酸素バリア性フィルムの下面の少なくとも外周部分に固着された接着性樹脂層と、酸素バリア性フィルムの上面に設けられた表面保護層から形成されているものが好ましい。酸素バリア性フィルムは、包装容器外部からの酸素の透過を抑制する。酸素バリア性フィルムとしては、アルミニウム、銀、金などの金属箔またはアルミニウム、銀、金などが表面に蒸着された金属蒸着フィルム、SiOXなどが表面に蒸着された無機物蒸着フィルム、酸素バリア性樹脂フィルム(例えばポリ塩化ビニリデン、ポリ塩化ビニリデン-ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン-アクリル酸エステル共重合体、エチレン-ビニルアルコール共重合体、高密度ポリエチレンなどのフィルム)が好適に使用できる。
【0079】
接着性樹脂層は、酸素バリア性フィルムと包装容器本体とを剥離可能にヒートシールするためのものであり、次のような種々の易剥離機構を利用することができる。例えば、包装容器本体のヒートシール面にポリプロピレンを用いる場合は、接着性樹脂層として、エチレン-酢酸ビニル系樹脂、エチレン-アクリル酸系樹脂、ポリプロピレンとポリエチレンとをブレンドしたものなどのオレフィン系樹脂や2液硬化型ウレタン系ドライラミネート接着剤などが好適に使用できる。また、包装容器本体として、ポリ塩化ビニルを用いる場合は、接着性樹脂層として、エチレン-酢酸ビニル系樹脂、エチレン-アクリル酸系樹脂などのオレフィン系樹脂、ポリスチレンにスチレン-ブタジエンブロック共重合体をブレンドしたもの、塩化ビニル-酢酸ビニル共重合体や、2液硬化型ウレタン系ドライラミネート接着剤などが好適に使用できる。さらに、包装容器本体として、ポリエステルを用いる場合は、エチレン-酢酸ビニル系樹脂、エチレン-アクリル酸系樹脂などのオレフィン系樹脂、コポリエステルや2液硬化型ウレタン系ドライラミネート接着剤が好適に使用できる。
【0080】
表面保護層としては、合成樹脂(例えばポリエステル、ポリプロピレン、ポリエチレン、ナイロン、ポリエチレンテレフタレート(PET)、エポキシ樹脂、ポリアミド樹脂)をコーティングすること、または上記の合成樹脂製フィルム、紙などを張り合わせることにより形成することが好ましい。表面保護層は、収納される酸素透過性容器を有する医療用容器に充填された薬剤の名称、充填量などの必要事項を記載するための印刷層としても使用できる。なお、表面保護層と酸素バリア性フィルム間に白色インキ等の遮光性材料を介在させて、遮光フィルムとしてもよい。
【0081】
封止フィルムの具体例としては、ポリエチレンテレフタレート/エチレン-ビニルアルコール共重合体/延伸ナイロン/接着性樹脂の4層から形成されるフィルム(酸素バリア性仕様)、ポリエチレンテレフタレート/延伸ナイロン/接着性樹脂の3層から形成されるフィルムが挙げられる。
【0082】
酸素難透過性包装容器の製造方法は、特に制限されず、従来公知の方法を用いることができる。
【0083】
(医療用容器の酸素難透過性包装容器内への収容および密封)
本形態の注射用製剤は、上記酸素透過性容器を有する医療用容器と、上記酸素難透過性包装容器とを備え、(i)前記医療用容器を、脱酸素剤と共に、前記酸素難透過性包装容器内に収容して密封してなる;または(ii)前記医療用容器を、不活性ガスにて置換した前記酸素難透過性包装容器内に収容して密封してなる。
【0084】
一実施形態では、上記医療用容器が、脱酸素剤と共に、上記酸素難透過性包装容器内に収容され密封されている。
【0085】
本形態に係る脱酸素剤としては、使用上毒性などの問題がなく、酸素を効率的に吸収して雰囲気中の酸素量を低減できる脱酸素剤であれば、特に制限されない。
【0086】
脱酸素剤としては、例えば水酸化鉄、酸化鉄、炭化鉄などの鉄化合物;亜硝酸塩、ハロゲン化金属などの無機物を主体とする脱酸素剤;アスコルビン酸、ポリフェノールなどの有機物を主体とする脱酸素剤;グルコースおよびグルコースオキシダーゼの酵素作用を利用する脱酸素剤などが挙げられる。
【0087】
脱酸素剤は、酸素吸収と共に炭酸ガスを同時に吸収するものであっても、酸素吸収と共に炭酸ガスを排出するものであってもよい。
【0088】
脱酸素剤の形態としては、毒性を有さずかつ優れた酸素吸収性能を発揮できれば、特に制限されない。例えば、酸素透過性の容器に上記した脱酸素性能を有する物質を封入したもの、酸素吸収剤を練りこんだフィルム、酸素吸収剤を使用した成形容器、両方の表面層が酸素難透過性の層でそれらの層の内側に脱酸素性の層が配置された積層構造を有し当該積層体の側面から酸素を吸収するようにしたものなどを使用できる。
【0089】
脱酸素剤の市販品としては、エージレス(登録商標)(三菱ガス化学株式会社製)、モデュラン(日本化薬フードテクノ株式会社製)、セキュール(登録商標)(ニッソーファイン株式会社製)などが挙げられる。
【0090】
脱酸素剤の脱酸素性能としては、酸素透過性容器内に充填されたスガマデクスナトリウム水溶液2mLまたは5mLに対して、常温(25℃)、大気圧下および20時間で、10cm3以上、好ましくは20cm3以上の酸素を吸収できる脱酸素剤が好ましい。具体的には、三菱ガス化学株式会社製「エージレス(登録商標)Z-10PTR」(酸素吸収量=10cm3/20時間以上(大気圧下))、三菱ガス化学株式会社製「エージレス(登録商標)Z-20PT」(酸素吸収量=20cm3/20時間以上(大気圧下))を挙げることができる。
【0091】
医療用容器の酸素難透過性包装容器内への収容および密封は、常法に従って行うことができる。また、前記収容および密封は、大気(空気)中、不活性ガスの雰囲気中、空気および不活性ガスの混合ガスの雰囲気中で行うことができる。さらに、前記収容および密封は、酸素難透過性包装容器内を不活性ガスで置換した後に行ってもよい。
【0092】
一実施形態では、上記医療用容器が、不活性ガスにて置換した上記酸素難透過性包装容器内に収容されて密封されている。
【0093】
本形態に係る不活性ガスとしては、窒素ガス、アルゴンガス、二酸化炭素ガスなどが挙げられ、好ましくは窒素ガスである。
【0094】
酸素難透過性包装容器内を不活性ガスで置換する方法は、特に制限されず、公知の方法を採用することができる。また、医療用容器の酸素難透過性包装容器内への収容および密封は、不活性ガスの雰囲気中であれば特に制限されず、公知の方法を採用することができる。
【実施例0095】
本発明の効果を、以下の実施例および比較例を用いて説明する。ただし、本発明の技術的範囲が以下の実施例のみに制限されるわけではない。特記しない限り、「%」および「部」は、それぞれ、「質量%」および「質量部」を意味する。
【0096】
(実施例1)
(1)注射用水にスガマデクスナトリウム10gを加えて溶解した後、注射用水を加えて全量を100mLとし、100mg/mLのスガマデクスナトリウム水溶液を得た(pH約7.5)。
(2)上記(1)で得られたスガマデクスナトリウム水溶液を、2.5mL容量のプラスチック製シリンジ(外筒:ポリプロピレン(PP)製、ガスケット:ブチルゴム製)に2mL充填し密栓して、スガマデクスナトリウム水溶液入り容器を得た。
(3)上記(2)で得られたスガマデクスナトリウム水溶液入り容器を、窒素ガスを加圧媒体として高圧蒸気滅菌(121℃、20分間)した。
(4)上記(3)で得られた高圧蒸気滅菌後のスガマデクスナトリウム水溶液入り容器と脱酸素剤(「エージレス(登録商標)」、三菱ガス化学株式会社製)とを、袋(外層から順に2軸延伸ナイロン(ONY)層(15μm)、エチレン-ビニルアルコール共重合体(EVOH)層(15μm)、およびポリエステル(PE)層(50μm)からなる3層フィルム)で包装して、注射液製剤を製造した。
【0097】
(実施例2)
実施例1の(3)において、加圧媒体として窒素ガスに代えて空気を使用したこと以外は、実施例1と同様にして注射液製剤を製造した。
【0098】
(実施例3)
実施例1の(2)において、2.5mL容量のプラスチック製シリンジ(外筒:ポリプロピレン(PP)製、ガスケット:ブチルゴム製)に代えて2.5mL容量のプラスチック製シリンジ(外筒:ポリプロピレン(PP)製、ガスケット:スチレン系熱可塑性エラストマー製)を使用したこと以外は、実施例1と同様にして注射液製剤を製造した。
【0099】
(実施例4)
実施例2において、2.5mL容量のプラスチック製シリンジ(外筒:ポリプロピレン(PP)製、ガスケット:ブチルゴム製)に代えて2.5mL容量のプラスチック製シリンジ(外筒:ポリプロピレン(PP)製、ガスケット:スチレン系熱可塑性エラストマー製)を使用したこと以外は、実施例2と同様にして注射液製剤を製造した。
【0100】
(実施例5)
(1)実施例1の(1)および(2)と同様にして、スガマデクスナトリウム水溶液入り容器を得た。
(2)上記(1)で得られたスガマデクスナトリウム水溶液入り容器を、空気を加圧媒体として高圧蒸気滅菌(121℃、20分間)した。
(3)上記(2)で得られた高圧蒸気滅菌後のスガマデクスナトリウム水溶液入り容器を、袋(外層から順に2軸延伸ナイロン(ONY)層(15μm)、エチレン-ビニルアルコール共重合体(EVOH)層(15μm)、およびポリエステル(PE)層(50μm)からなる3層フィルム)を用い、袋内を窒素ガスで置換したのちに包装して、注射液製剤を製造した。
【0101】
(実施例6)
実施例5の(1)において、2.5mL容量のプラスチック製シリンジ(外筒:ポリプロピレン(PP)製、ガスケット:ブチルゴム製)に代えて2.5mL容量のプラスチック製シリンジ(外筒:ポリプロピレン(PP)製、ガスケット:スチレン系熱可塑性エラストマー製)を使用したこと以外は、実施例5と同様にして注射液製剤を製造した。
【0102】
(実施例7)
実施例2において、2.5mL容量のプラスチック製シリンジ(外筒:ポリプロピレン(PP)製、ガスケット:ブチルゴム製)に代えて2.5mL容量のプラスチック製シリンジ(外筒:環状オレフィンポリマー(COP)製、ガスケット:ブチルゴム製)を使用したこと以外は、実施例2と同様にして注射液製剤を製造した。
【0103】
(実施例8)
実施例5において、2.5mL容量のプラスチック製シリンジ(外筒:ポリプロピレン(PP)製、ガスケット:ブチルゴム製)に代えて2.5mL容量のプラスチック製シリンジ(外筒:環状オレフィンポリマー(COP)製、ガスケット:ブチルゴム製)を使用したこと以外は、実施例5と同様にして注射液製剤を製造した。
【0104】
(比較例1)
実施例1の(4)において、脱酸素剤を用いずに、高圧蒸気滅菌後のスガマデクスナトリウム水溶液入り容器を低密度ポリエチレン(LDPE)製(40μm)の袋で包装したこと以外は、実施例1と同様にして注射液製剤を製造した。
【0105】
(比較例2)
比較例1において、2.5mL容量のプラスチック製シリンジ(外筒:ポリプロピレン(PP)製、ガスケット:ブチルゴム製)に代えて2.5mL容量のプラスチック製シリンジ(外筒:ポリプロピレン(PP)製、ガスケット:スチレン系熱可塑性エラストマー製)を使用したこと以外は、比較例1と同様にして注射液製剤を製造した。
【0106】
(参考例1)
(1)実施例1の(1)と同様にして、100mg/mLのスガマデクスナトリウム水溶液を得た(pH約7.5)。
(2)上記(1)で得られたスガマデクスナトリウム水溶液を、2.0mL容量のガラスバイアルに2mL充填し密栓して、スガマデクスナトリウム水溶液入り容器を得た。
(3)上記(2)で得られたスガマデクスナトリウム水溶液入りガラスバイアルを、窒素ガスを加圧媒体として高圧蒸気滅菌(121℃、20分間)して、注射液製剤を製造した。
【0107】
(酸素透過度の測定)
実施例1~8および比較例1~2で使用した外筒を形成する材料(厚さ120μm)および包装容器を形成する材料(袋)について、酸素透過率測定装置(MOCON社製 OX-TRAN(登録商標) MODEL2/21)を用いて、温度23℃、湿度90%RHの条件で酸素透過度を測定した。
【0108】
実施例1~8、比較例1~2および参考例1で製造した注射液製剤の特徴を表1にまとめる。
【0109】
【0110】
(試験例1)安定性試験:スガマデクスナトリウム残存率
実施例1~6、比較例1~2および参考例1で製造した注射液製剤を60℃にて3週間保存した。試験開始時に対する3週間経過後のスガマデクスナトリウム残存率(%)を測定した(表中の値はn=2の平均値)。
【0111】
〔スガマデクスナトリウム残存率の測定方法〕
試験開始直前および3週間経過後の注射液製剤中のスガマデクスナトリウム水溶液1mLを正確に量り、水を加えて正確に50mLとした。この液2mLを正確に量り、水を加えて正確に100mLとして、試料溶液を得た。
【0112】
スガマデクスナトリウム標準物質20mgを精密に量り、水に溶かし、正確に100mLとした。この液10mLを正確に量り、水を加えて50mLとして、標準溶液を得た。
【0113】
試料溶液および標準溶液それぞれ50μLを以下の条件で液体クロマトグラフィー(HPLC)に供した。各試料の各々のピーク面積を自動積分法により測定し、面積百分率法にてスガマデクスナトリウムの含有量(%)を算出した。さらに、3週間経過後の注射液製剤中のスガマデクスナトリウムについて、試験開始直前の注射液製剤中のスガマデクスナトリウム含有量を100%としたときの残存率(%)を算出した。また、保管中の内用液の蒸散量より補正したスガマデクスナトリウムの残存率(%)を算出した。
【0114】
検出条件
検出器:紫外吸光光度計(測定波長:210nm)
カラム:内径4.6mm、長さ150mmのステンレス管に5μmの液体クロマトグラフィー用オクタデシルシリル化シリカゲルを充填した
カラム温度:40℃付近の一定温度
移動相A:リン酸二水素ナトリウム二水和物3.90gを水900mLに溶かし、薄めたリン酸溶液(1→10)を加えてpH3.0に調整し、水を加えて1000mLとした。この液800mLにアセトニトリル200mLを加えた
移動相B:アセトニトリル
移動相の送液:移動相A及び移動相Bの混合比を変えて濃度勾配を制御した
流量:毎分0.5mL。
【0115】
結果を表2に示す。
【0116】
【0117】
表2に示すように、実施例および比較例の注射液製剤は、ガラスバイアル(参考例1)に収容した注射液製剤と同様の結果であり、スガマデクスナトリウムが安定に保たれていることが分かる。なお、スガマデクスナトリウム残存率の増加については、保管中の内溶液の蒸散の影響が考えられるため、保管中の内用液の蒸散量より補正したスガマデクスナトリウムの残存率を示した。
【0118】
(試験例2)安定性試験:pH
実施例1~6、比較例1~2および参考例1で製造した注射液製剤について、保存直前および60℃にて保存し、3週間経過後のスガマデクスナトリウム水溶液のpHを、pHメーター(東亜ディーケーケー株式会社製)により測定した。(表中の値はn=2の平均値)。結果を表3に示す。
【0119】
【0120】
表3に示すように、実施例および比較例の注射液製剤は、ガラスバイアル(参考例1)に収容した注射液製剤と同様の結果であり、スガマデクスナトリウム水溶液のpHが安定に保たれていることが分かる。
【0121】
(試験例3)注射液製剤中のスガマデクスナトリウム類縁物質の変化率
実施例1~6、比較例1~2および参考例1で製造した注射液製剤を60℃にて保存した、試験開始時に対する3週間経過後のスガマデクスナトリウム類縁物質の変化率(%)を測定した(表中の値はn=2の平均値)。
【0122】
〔スガマデクスナトリウム類縁物質の変化量の測定方法〕
試験開始直前および3週間経過後の注射液製剤中のスガマデクスナトリウム水溶液1mLを正確に量り、水を加えて正確に50mLとして、試料溶液を得た。
【0123】
スガマデクスナトリウム標準物質20mgを精密に量り、水に溶かし、正確に100mLとして、標準溶液を得た。
【0124】
試料溶液および標準溶液それぞれ10μLを以下の条件で液体クロマトグラフィー(HPLC)に供した。得られたクロマトグラムの各類縁物質ピークのピーク面積の面積百分率(%)を求め、各類縁物質の含有量(%)を求めた。さらに、3週間経過後の注射液剤中のスガマデクスナトリウム類縁物質について、試験開始直前の注射液製剤中の各類縁物質の含有量を100%としたときの変化率(%)を算出した。
【0125】
なお、類縁物質I、II、IIIはそれぞれ、スガマデクスナトリウムのピークに対する相対保持時間が約0.49、約0.65、約1.30である類縁物質を示した。
【0126】
検出条件
検出器:紫外吸光光度計(測定波長:210nm)
カラム:内径4.6mm、長さ150mmのステンレス管に5μmの液体クロマトグラフィー用オクタデシルシリル化シリカゲルを充填した
カラム温度:40℃付近の一定温度
移動相A:リン酸二水素ナトリウム二水和物3.90gを水900mLに溶かし、薄めたリン酸溶液(1→10)を加えてpH3.0に調整し、水を加えて1000mLとした。この液800mLにアセトニトリル200mLを加えた
移動相B:アセトニトリル
移動相の送液:移動相A及び移動相Bの混合比を変えて濃度勾配を制御した
流量:毎分0.5mL。
【0127】
結果を表4に示す。
【0128】
【0129】
表4に示すように、実施例1~6の注射液製剤は、比較例および参考例と比べて、類縁物質の変化率の増減を抑制することができるため、長期保存安定性に極めて優れていることがわかる。
【0130】
(試験例4)安定性試験:スガマデクスナトリウム残存率
実施例2、4~5、比較例1~2および参考例1で製造した注射液製剤を40℃にて6箇月間保存した。試験開始時に対する6箇月間経過後のスガマデクスナトリウム残存率(%)を測定した(表中の値はn=2の平均値)。
【0131】
〔スガマデクスナトリウム残存率の測定方法〕
試験開始直前および6箇月間経過後の注射液製剤中のスガマデクスナトリウム水溶液1mLを正確に量り、水を加えて正確に50mLとした。この液2mLを正確に量り、水を加えて正確に100mLとして、試料溶液を得た。
【0132】
スガマデクスナトリウム標準物質20mgを精密に量り、水に溶かし、正確に100mLとした。この液10mLを正確に量り、水を加えて50mLとして、標準溶液を得た。
【0133】
試料溶液および標準溶液それぞれ50μLを以下の条件で液体クロマトグラフィー(HPLC)に供した。各試料の各々のピーク面積を自動積分法により測定し、面積百分率法にてスガマデクスナトリウムの含有量(%)を算出した。さらに、6箇月間経過後の注射液製剤中のスガマデクスナトリウムについて、試験開始直前の注射液製剤中のスガマデクスナトリウム含有量を100%としたときの残存率(%)を算出した。また、保管中の内用液の蒸散量より補正したスガマデクスナトリウムの残存率(%)を算出した。
【0134】
検出条件
検出器:紫外吸光光度計(測定波長:210nm)
カラム:内径4.6mm、長さ150mmのステンレス管に5μmの液体クロマトグラフィー用オクタデシルシリル化シリカゲルを充填した
カラム温度:40℃付近の一定温度
移動相A:リン酸二水素ナトリウム二水和物3.90gを水900mLに溶かし、薄めたリン酸溶液(1→10)を加えてpH3.0に調整し、水を加えて1000mLとした。この液800mLにアセトニトリル200mLを加えた
移動相B:アセトニトリル
移動相の送液:移動相A及び移動相Bの混合比を変えて濃度勾配を制御した
流量:毎分0.5mL。
【0135】
結果を表5に示す。
【0136】
【0137】
表5に示すように、実施例および比較例の注射液製剤は、ガラスバイアル(参考例1)に収容した注射液製剤と同様の結果であり、スガマデクスナトリウムが安定に保たれていることが分かる。なお、スガマデクスナトリウム残存率の増加については、保管中の内溶液の蒸散の影響が考えられるため、保管中の内用液の蒸散量より補正したスガマデクスナトリウムの残存率を示した。
【0138】
(試験例5)安定性試験:pH
実施例2、4~5、比較例1~2および参考例1で製造した注射液製剤を40℃にて保存し、6箇月間経過後のスガマデクスナトリウム水溶液のpHを、pHメーター(東亜ディーケーケー株式会社製)により測定した。(表中の値はn=2の平均値)。結果を表6に示す。
【0139】
【0140】
表6に示すように、実施例および比較例の注射液製剤は、ガラスバイアル(参考例1)に収容した注射液製剤と同様の結果であり、スガマデクスナトリウム水溶液のpHが安定に保たれていることが分かる。
【0141】
(試験例6)注射液製剤中のスガマデクスナトリウム類縁物質の変化率
実施例2、4~5、比較例1~2および参考例1で製造した注射液製剤を40℃にて保存した、試験開始時に対する6箇月間経過後のスガマデクスナトリウム類縁物質の変化率(%)を測定した(表中の値はn=2の平均値)。
【0142】
〔スガマデクスナトリウム類縁物質の変化量の測定方法〕
試験開始直前および6箇月間経過後の注射液製剤中のスガマデクスナトリウム水溶液1mLを正確に量り、水を加えて正確に50mLとして、試料溶液を得た。
【0143】
スガマデクスナトリウム標準物質20mgを精密に量り、水に溶かし、正確に100mLとして、標準溶液を得た。
【0144】
試料溶液および標準溶液それぞれ10μLを以下の条件で液体クロマトグラフィー(HPLC)に供した。得られたクロマトグラムの各類縁物質ピークのピーク面積の面積百分率(%)を求め、各類縁物質の含有量(%)を求めた。さらに、6箇月間経過後の注射液剤中のスガマデクスナトリウム類縁物質について、試験開始直前の注射液製剤中の各類縁物質の含有量を100%としたときの変化率(%)を算出した。
【0145】
なお、類縁物質I、II、IIIはそれぞれ、スガマデクスナトリウムのピークに対する相対保持時間が約0.49、約0.65、約1.30である類縁物質を示した。
【0146】
検出条件
検出器:紫外吸光光度計(測定波長:210nm)
カラム:内径4.6mm、長さ150mmのステンレス管に5μmの液体クロマトグラフィー用オクタデシルシリル化シリカゲルを充填した
カラム温度:40℃付近の一定温度
移動相A:リン酸二水素ナトリウム二水和物3.90gを水900mLに溶かし、薄めたリン酸溶液(1→10)を加えてpH3.0に調整し、水を加えて1000mLとした。この液800mLにアセトニトリル200mLを加えた
移動相B:アセトニトリル
移動相の送液:移動相A及び移動相Bの混合比を変えて濃度勾配を制御した
流量:毎分0.5mL。
【0147】
結果を表7に示す。
【0148】
【0149】
表7に示すように、実施例の注射液製剤は、比較例および参考例と比べて、類縁物質の変化率の増減を抑制することができるため、長期保存安定性に極めて優れていることがわかる。
【0150】
本出願は、2019年8月30日に出願された日本国特許出願第2019-158309号に基づいており、その開示内容は、参照により全体として引用されている。