(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025003980
(43)【公開日】2025-01-14
(54)【発明の名称】肺気量ゲートX線撮像システム及び方法
(51)【国際特許分類】
A61B 6/00 20240101AFI20250106BHJP
A61B 6/50 20240101ALI20250106BHJP
【FI】
A61B6/00 520Z
A61B6/00 530A
A61B6/50 500C
【審査請求】有
【請求項の数】21
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2024157345
(22)【出願日】2024-09-11
(62)【分割の表示】P 2021518428の分割
【原出願日】2019-05-23
(31)【優先権主張番号】16/420,030
(32)【優先日】2019-05-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】16/420,007
(32)【優先日】2019-05-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】62/682,720
(32)【優先日】2018-06-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】62/812,818
(32)【優先日】2019-03-01
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】16/420,011
(32)【優先日】2019-05-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(71)【出願人】
【識別番号】520479401
【氏名又は名称】データ インテグリティ アドバイザーズ,エルエルシー
(74)【代理人】
【識別番号】100079108
【弁理士】
【氏名又は名称】稲葉 良幸
(74)【代理人】
【識別番号】100109346
【弁理士】
【氏名又は名称】大貫 敏史
(74)【代理人】
【識別番号】100117189
【弁理士】
【氏名又は名称】江口 昭彦
(74)【代理人】
【識別番号】100134120
【弁理士】
【氏名又は名称】内藤 和彦
(72)【発明者】
【氏名】カイリー,ジャニド,パトリシア,ブランコ
(57)【要約】 (修正有)
【課題】幾何学的に分解されたX線撮像システム(GREX)を提供する。
【解決手段】患者の肺の撮像方法であって、X線撮像装置に対して第1の向きに患者を配置することと、患者の呼吸体積測定値を取得することと、患者がX線撮像装置に対して第1の向きに配置されている間、並びに、患者の呼吸体積測定値を取得する間において、患者の呼吸体積測定値に基づき、患者の呼吸期を判定することと、患者の呼吸期が既定の呼吸期と一致すると判定された場合に、X線撮像装置のゲート制御を行い、患者の肺のX線投影映像を生成することと、を含む、方法を提供する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
患者の肺の撮像方法であって、
X線撮像装置に対して第1の向きに患者を配置することと、
患者の呼吸体積測定値を取得することと、
患者が前記X線撮像装置に対して前記第1の向きに配置されている間、並びに、患者の前記呼吸体積測定値を取得する間において、
患者の前記呼吸体積測定値に基づき、患者の呼吸期を判定することと、
患者の前記呼吸期が既定の呼吸期と一致すると判定された場合に、前記X線撮像装置のゲート制御を行い、患者の肺のX線投影映像を生成することと、を含む、方法。
【請求項2】
前記既定の呼吸期は、複数の既定の呼吸期のうち第1の既定の呼吸期であり、
前記方法は更に、
患者の前記呼吸体積測定値を取得する間、患者の前記呼吸期が前記複数の既定の呼吸期のいずれかと一致すると判定された場合に、前記X線撮像装置のゲート制御を行い、患者の肺のX線投影映像をそれぞれ生成すること、を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
患者の肺のX線投影映像は、患者の前記呼吸体積測定値により判定された患者の前記呼吸期が、前記複数の既定の呼吸期のうちいずれか1つと一致する場合にのみ取得する、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記複数の既定の呼吸期は、患者の完全呼吸周期における早期呼気相、後期呼気相、最大呼気相、早期吸気相、後期吸気相、最大吸気相を含む、請求項2又は3に記載の方法。
【請求項5】
前記X線投影映像は第1のX線投影映像であって、
前記方法は更に、
前記X線撮像装置に対して第2の向きに患者を再配置することと、
患者が前記X線撮像装置に対して前記第2の向きに配置されている間、並びに、患者の前記呼吸体積測定値を取得し続けている間において、
患者の前記呼吸体積測定値に基づき、患者の呼吸期を決定し続けることと、
患者の前記呼吸期が前記既定の呼吸期と一致すると判定された場合に、X線撮像装置のゲート制御を行い、患者の肺の第2のX線投影映像を生成することと、
前記第1のX線投影映像と前記第2のX線投影映像とを用いて、前記既定の呼吸期に対応する静止画像キューブを生成することと、を含む、請求項1~4のうちいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
前記既定の呼吸期に対応する前記静止画像キューブは、前記既定の呼吸期にて様々な角度から取得した10未満のX線投影映像から生成されたものである、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
患者の前記呼吸体積測定値は、患者の胸部上昇測定値を含む、請求項1~6のうちいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
患者の前記呼吸体積測定値は、3Dスキャナ、肺活量計、腹部ベルトからなる群の体積呼吸期センサを1つ以上用いて取得する、請求項1~6のうちいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
患者の胸部表面における点群を作成すること、を更に含み、患者の前記呼吸体積測定値は、患者の胸部表面における前記点群から判定されたものである、請求項1~8のうちいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
患者の胸部表面における前記点群は、3D撮像技術を用いて取得し、患者の胸部における1つ以上の位置を測定する、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
患者の胸部表面における前記点群を用いて患者の胸部表面における1つ以上の解剖学ランドマークを識別することと、
患者の胸部表面における前記点群から患者の胸部内における1つ以上の内側解剖学ランドマークの位置を推測することと、を更に含む、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
患者の前記呼吸期は、未来の呼吸期であって、
患者の前記呼吸体積測定値に基づいて患者の呼吸期を判定することは、
1つ以上の現在及び/又は過去の呼吸期から前記未来の呼吸期を予測することを含む、請求項1~11のうちいずれか1項に記載の方法。
【請求項13】
システムであって、
X線装置と、
1つ以上のプロセッサと、
命令を格納するメモリと、を備え、前記命令が前記1つ以上のプロセッサによって実行されると、前記1つ以上のプロセッサは、
X線撮像装置に対して第1の向きに患者を配置することと、
患者の呼吸体積測定値を取得することと、
患者が前記X線撮像装置に対して前記第1の向きに配置されている間、並びに、患者の前記呼吸体積測定値を取得する間において、
患者の前記呼吸体積測定値に基づき、患者の呼吸期を判定することと、
患者の前記呼吸期が既定の呼吸期と一致すると判定された場合に、前記X線撮像装置のゲート制御を行い、患者の肺のX線投影映像を生成することと、を含む一連の動作を行う、システム。
【請求項14】
システムであって、
X線装置と、
1つ以上のプロセッサと、
命令を格納するメモリと、を備え、前記命令が前記1つ以上のプロセッサによって実行されると、前記1つ以上のプロセッサは、請求項1~12のうちいずれか1項に記載の方法を行う、システム。
【請求項15】
命令を格納する非一時的なコンピュータ可読記憶媒体であって、前記命令が、X線装置と、1つ以上のプロセッサとを備えるシステムによって実行されると、前記1つ以上のプロセッサは、
X線撮像装置に対して第1の向きに患者を配置することと、
患者の呼吸体積測定値を取得することと、
患者がX線撮像装置に対して前記第1の向きに配置されている間、並びに、患者の前記呼吸体積測定値を取得する間において、
患者の前記呼吸体積測定値に基づき、患者の呼吸期を判定することと、
患者の前記呼吸期が既定の呼吸期と一致すると判定された場合に、前記X線撮像装置のゲート制御を行い、患者の肺のX線投影映像を生成することと、を含む一連の動作を行う、記憶媒体。
【請求項16】
命令を格納する非一時的なコンピュータ可読記憶媒体であって、前記命令が、X線装置と、1つ以上のプロセッサとを備えるシステムによって実行されると、前記1つ以上のプロセッサは、請求項1~12のうちいずれか1項に記載の方法を行う、記憶媒体。
【請求項17】
放射線源に対して第1の向きに患者を配置することと、
患者の呼吸測定値を取得することと、
患者の心機能測定値を取得することと、
患者が前記放射線源に対して前記第1の向きに配置されている間、並びに、患者の前記呼吸測定値を取得する間において、
患者の前記呼吸測定値から患者の呼吸期を判定することと、
患者の前記心機能測定値から患者の心拍相を判定することと、
前記放射線源のゲート制御を、
患者の前記呼吸期が既定の呼吸期と一致するという判定、並びに
患者の前記心拍相が心周期の既定枠と一致するという判定に基づいて行い、患者を放射線に曝露させることと、を含む、方法。
【請求項18】
前記放射線源はX線画像装置であって、
前記放射線源のゲート制御を行って患者を放射線に曝露させることは、前記X線撮像装置のゲート制御を行い、患者の肺のX線投影映像を生成すること、を含む、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
前記放射線源は放射線治療源であって、
前記放射線源のゲート制御を行って患者を放射線に曝露させることは、前記放射線治療源のゲート制御を行い、患者の肺領域に治療線量を照射すること、を含む、請求項17に記載の方法。
【請求項20】
前記放射線源のゲート制御を行って患者を放射線に曝露させる前に、
患者の複数の心周期から患者の心機能測定値を取得することと、
前記複数の心周期から取得した患者の前記心機能測定値を用いて、前記既定心拍相と、心周期の前記既定枠の開始点との平均間隔を判定することと、を更に含み、
患者の前記心拍相が、心周期の前記既定枠と一致することを判定することは、心周期の前記既定枠を、
リアルタイムで既定の心拍相を検出することと、
前記既定の心拍相と心周期の前記既定枠の開始点との平均間隔に対応する時間の長さを待機することと、により予測することと、を含む、請求項17~19のうちいずれか1項に記載の方法。
【請求項21】
患者の前記複数の心周期から取得した測定値は、前記複数の心周期の波形測定値であって、
前記方法は、
統計的に安定しているとして、前記複数の心周期の前記波形測定値を検証すること、を含む、請求項20に記載の方法。
【請求項22】
心周期の前記既定枠は、心周期の鎮静枠である、請求項17~21のうちいずれか1項に記載の方法。
【請求項23】
システムであって、
放射線源と、
1つ以上のプロセッサと、
命令を格納するメモリと、を備え、前記命令が前記1つ以上のプロセッサによって実行されると、前記1つ以上のプロセッサは、
放射線源に対して第1の向きに患者を配置することと、
患者の呼吸測定値を取得することと、
患者の心機能測定値を取得することと、
患者が前記放射線源に対して前記第1の向きに配置されている間、並びに、患者の前記呼吸測定値を取得する間において、
患者の前記呼吸測定値から患者の呼吸期を判定することと、
患者の前記心機能測定値から患者の心拍相を判定することと、
前記放射線源のゲート制御を、
患者の前記呼吸期が既定の呼吸期と一致するという判定、並びに
患者の前記心拍相が心周期の既定枠と一致するという判定に基づいて行い、患者を放射線に曝露させることと、を含む一連の動作を行う、システム。
【請求項24】
システムであって、
放射線源と、
1つ以上のプロセッサと、
命令を格納するメモリと、を備え、前記命令が前記1つ以上のプロセッサによって実行されると、前記1つ以上のプロセッサは、請求項17~22のうちいずれか1項に記載の方法を行う、システム。
【請求項25】
命令を格納する非一時的なコンピュータ可読記憶媒体であって、前記命令が、X線装置と、1つ以上のプロセッサとを備えるシステムによって実行されると、前記1つ以上のプロセッサは、
放射線源に対して第1の向きに患者を配置することと、
患者の呼吸測定値を取得することと、
患者の心機能測定値を取得することと、
患者が前記放射線源に対して前記第1の向きに配置されている間、並びに、患者の前記呼吸測定値を取得する間において、
患者の前記呼吸測定値から患者の呼吸期を判定することと、
患者の前記心機能測定値に基づき、患者の心拍相を判定することと、
前記放射線源のゲート制御を、
患者の前記呼吸期が既定の呼吸期と一致するという判定、並びに
患者の前記心拍相が心周期の既定枠と一致するという判定に基づいて行い、患者を放射線に曝露させることと、を含む、とを含む一連の動作を行う、記憶媒体。
【請求項26】
命令を格納する非一時的なコンピュータ可読記憶媒体であって、前記命令が、X線装置と、1つ以上のプロセッサとを備えるシステムによって実行されると、前記1つ以上のプロセッサは、請求項17~22のうちいずれか1項に記載の方法を行う、記憶媒体。
【請求項27】
肺の異なる呼吸期に対応する複数のX線測定値から患者の肺の生物理学モデルを判定する方法であって、
肺の異なる呼吸期に対応する複数のX線測定値から肺組織の複数の変位場を抽出し、各変位場は、第1の呼吸期から第2の呼吸期への前記肺組織の運動を表し、各呼吸期は、対応する生体パラメータのセットを有する、ことと、
肺の異なる呼吸期と、対応する生体パラメータのセットとの間の肺組織の複数の変位場を用いて、肺の生物理学モデルの1つ以上の生物理学的パラメータを計算することと、を含む、方法。
【請求項28】
前記1つ以上の生物理学的パラメータは、肺の異なる呼吸期に関連付けらえれた生体パラメータと、肺組織の複数の変位場との物理的関係を定義する、請求項27に記載の方法。
【請求項29】
肺の異なる呼吸期に関連付けられた前記生体パラメータと前記肺組織の複数の変位場と
の物理的関係は、下記の式により定義され、
【数17】
前記
p1
→ベクトルは、一回換気量により生じる通常の応力を表し、
p2
→は、気流により生じる通常の応力であり、
p3
→は、気流により生じるせん断応力であり、
p4
→は、心臓運動による組織運動であり、閉ループ軌道における任意点での組織の変位(U
→-U
0
→)は、一回換気量(Tv)、気流(Af)、心拍相(Hc)によりそれぞれスケーリングされた応力、ひずみ、摂動心臓運動ベクトルの合計として表される、請求項28に記載の方法。
【請求項30】
肺の異なる呼吸期に対応する複数のX線測定値から、肺の異なる呼吸期に対応する複数の医用画像キューブを生成することを更に含み、
前記肺組織の複数の変位場は、肺の異なる呼吸期に対応する前記複数の医用画像キューブから、更に
画像セグメンテーションにより、第1の医用画像キューブの残りの部分から肺組織を描写することと、
前記第1の医用画像キューブ内の各ボクセルについて、前記第1の医用画像キューブと第2の医用画像キューブとの間の強度ベース構造マッピングを用いて、前記第1の医用画像キューブ内のボクセルと前記第2の医用画像キューブとの間の変位ベクトルを判定することと、
前記第1の医用画像キューブ内の異なるボクセルと前記第2の医用画像キューブ内の対応ボクセルとの変位ベクトルを繰り返し調整することと、により抽出する、請求項27~29のうちいずれか1項に記載の方法。
【請求項31】
各呼吸期に関連付けられた前記生体パラメータのセットは、各呼吸期における肺の一回換気量及び気流、並びに肺の各呼吸期に対応する心拍相を含む、請求項27~30のうちいずれか一項に記載の方法。
【請求項32】
肺の異なる呼吸期に対応する前記複数のX線測定値から、肺の異なる呼吸期に対応する複数の医用画像キューブを生成することと、
前記複数の医用画像キューブのうちの1つ以上を参照医用画像キューブとして選択することと、
各参照医用画像キューブに関連付けられる生体パラメータのセットを決定することと、
2つの参照医用画像キューブに関連付けられた生体パラメータ2セット間の肺の生体測定値に基づき、生体パラメータ1セットを選択することと、
肺の生体測定値に基づく生体パラメータのセットを生物理学モデルに適用することによって、前記2つの参照医用画像キューブ間で医用画像キューブをシミュレートすることと、を更に含む、請求項27~31のうちいずれか1項に記載の方法。
【請求項33】
前記肺の異なる呼吸期は、患者の完全呼吸周期における早期呼気相、後期呼気相、最大呼気相、早期吸気相、後期吸気相、最大吸気相を含む、請求項27~32のうちいずれか1項に記載の方法。
【請求項34】
1つ以上のセンサを用いて1つ以上の時系列シーケンスとして患者の生体信号を測定し、前記1つ以上のセンサは、1つ以上の3D空間位置ローカライザ、呼吸期センサ、心拍相センサを含む、請求項27~33のうちいずれか1項に記載の方法。
【請求項35】
前記3D空間位置ローカライザは、呼吸と心拍により生じる患者の体の動きをリアルタイムで測定し、時系列として出力するように構成されている、請求項34に記載の方法。
【請求項36】
前記呼吸期センサは、一回換気量とその一次時間導関数とを含む、患者の呼吸に関連する1つ以上の生理学的指標を測定するように構成されている、請求項34又は35に記載の方法。
【請求項37】
前記心拍相センサは、患者の心臓により生成される周期的・定常的な電気信号を測定するように構成されている、請求項34~36のうちいずれか1項に記載の方法。
【請求項38】
前記1つ以上のセンサにより測定された患者の生体信号を用いてX線ユニットをトリガーさせ、特定の呼吸期及び心拍相にて患者のX線画像を取得する、請求項34~37のうちいずれか1項に記載の方法。
【請求項39】
前記X線ユニットはクロックを含み、
前記1つ以上のセンサにより測定された患者の前記生体信号は、前記X線ユニットのクロックと同期し、
前記生体信号のそれぞれの値を、取得された前記X線画像に関連付けて記録する、請求項38に記載の方法。
【請求項40】
トレーニング枠中に測定された患者の前記生体信号は、X線ユニットが作動して患者のX線画像を撮る所望の呼吸期を予測するための最適化呼吸予測モデルの構築に用いられる、請求項39に記載の方法。
【請求項41】
肺の異なる呼吸期に対応する複数のX線測定値から患者の肺の生物理学モデルを判定するシステムであって、
1つ以上のプロセッサと、
命令を格納するメモリと、を備え、前記命令が前記1つ以上のプロセッサによって実行されると、前記1つ以上のプロセッサは、
肺の異なる呼吸期に対応する複数のX線測定値から肺組織の複数の変位場を抽出し、各変位場は、第1の呼吸期から第2の呼吸期への前記肺組織の運動を表し、各呼吸期は、対応する生体パラメータのセットを有する、ことと、
肺の異なる呼吸期と、対応する生体パラメータのセットとの間の肺組織の複数の変位場を用いて、肺の生物理学モデルの1つ以上の生物理学的パラメータを計算することと、を含む一連の動作を行う、システム。
【請求項42】
肺の異なる呼吸期に対応する複数のX線測定値から患者の肺の生物理学モデルを判定するシステムであって、
1つ以上のプロセッサと、
命令を格納するメモリと、を備え、前記命令が前記1つ以上のプロセッサによって実行されると、前記1つ以上のプロセッサは、請求項27~40のうちいずれか1項に記載の方法を行う、システム。
【請求項43】
命令を格納する非一時的なコンピュータ可読記憶媒体であって、前記命令が、1つ以上のプロセッサを備えるシステムによって実行されると、前記1つ以上のプロセッサは、
肺の異なる呼吸期に対応する複数のX線測定値から肺組織の複数の変位場を抽出し、各変位場は、第1の呼吸期から第2の呼吸期への前記肺組織の運動を表し、各呼吸期は、対応する生体パラメータのセットを有する、ことと、
肺の異なる呼吸期と、対応する生体パラメータのセットとの間の肺組織の複数の変位場を用いて、肺の生物理学モデルの1つ以上の生物理学的パラメータを計算することと、を含む一連の動作を行う、システム。
【請求項44】
命令を格納する非一時的なコンピュータ可読記憶媒体であって、前記命令が、1つ以上のプロセッサを備えるシステムによって実行されると、前記1つ以上のプロセッサは、請求項27~40のうちいずれか1項に記載の方法を行う、記憶媒体。
【請求項45】
患者の2D X線画像から3D X線画像キューブ動画を生成する方法であって、
異なる投影角度で撮った肺のX線画像の第1複数セットを、異なる呼吸期に対応する肺のX線画像の第2複数セットに変換することと、
逆投影法を用いて、各呼吸期でX線画像の第2複数セットの各セットから静止画像キューブを生成することと、
肺の異なる呼吸期に対応する静止画像キューブを、時間補間法によって3D X線画像キューブ動画に組み合わせることと、を含む、方法。
【請求項46】
異なる投影角度で撮った肺のX線画像の第1複数セットを、異なる呼吸期に対応する肺のX線画像の第2複数セットに変換することは、
異なる投影角度での前記肺のX線画像の第1複数セットを撮り、前記X線画像の第1複数セットの各セットは、特定の投影角度における肺の異なる呼吸期に対応することと、
前記肺のX線画像の第1複数セットを、関連付けられた呼吸期によって、前記肺のX線画像の第2複数セットに再編成し、前記X線画像の第2複数セットの各セットは、肺の各呼吸期に対応すること、を更に含む、請求項45に記載の方法。
【請求項47】
任意の特定のセット内のX線画像は幾何学的に分解され、時間的に独立している、請求項45又は46に記載の方法。
【請求項48】
肺の異なる呼吸期は、肺の動きの異なる一回換気量パーセンタイルに対応する、請求項45~47のうちいずれか1項に記載の方法。
【請求項49】
前記肺の異なる呼吸期は、患者の完全呼吸周期における早期呼気相、後期呼気相、最大呼気相、早期吸気相、後期吸気相、最大吸気相を含む、請求項45~48のうちいずれか1項に記載の方法。
【請求項50】
異なる投影角度で撮った前記肺の複数のX線画像は、全て同じ呼吸期に対応する、請求項45~49のうちいずれか1項に記載の方法。
【請求項51】
1つ以上のセンサを用いて1つ以上の時系列シーケンスとして患者の生体信号を測定し、前記1つ以上のセンサは、1つ以上の3D空間位置ローカライザ、呼吸期センサ、心拍相センサを含む、請求項45~50のうちいずれか1項に記載の方法。
【請求項52】
1つ以上の心拍相センサの測定値を用いて心拍相ゲート枠を識別することと、
1つ以上の呼吸期センサの測定値を用いて呼吸期を予測することと、
X線撮像パルスを生成する、心拍相ゲート枠と予測した呼吸期との一致点を特定することと、
前記X線撮像パルスに対応するX線画像に、呼吸期、心拍相、3D空間位置ローカライザの測定値をタグ付けすることと、を更に含む、請求項51に記載の方法。
【請求項53】
前記3D空間位置ローカライザは、呼吸と心拍により生じる患者の体の動きをリアルタイムで測定し、時系列として出力するように構成されている、請求項51又は52に記載の方法。
【請求項54】
前記呼吸期センサは、一回換気量とその一次時間導関数とを含む、患者の呼吸に関連する1つ以上の生理学的指標を測定するように構成されている、請求項51~53のうちい
ずれか1項に記載の方法。
【請求項55】
前記心拍相センサは、患者の心臓により生成され、心拍相に対応する特徴を備える、周期的・定常的な電気信号を測定するように構成されている、請求項51~54のうちいずれか1項に記載の方法。
【請求項56】
前記X線ユニットのクロックと同期された後、2つの別々のフィルタを用いて患者の生体信号から信号ドリフト及びノイズを除去する、請求項51~55のうちいずれか1項に記載の方法。
【請求項57】
前記1つ以上のセンサにより測定された患者の生体信号を用いてX線ユニットをトリガーさせ、特定の呼吸期及び心拍相にて患者のX線画像を取得する、請求項51~56のうちいずれか1項に記載の方法。
【請求項58】
前記X線ユニットはクロックを含み、
前記1つ以上のセンサにより測定された患者の前記生体信号は、前記X線ユニットのクロックと同期し、
前記生体信号のそれぞれの値を、取得された前記X線画像に関連付けて記録する、請求項57に記載の方法。
【請求項59】
患者の前記生体信号は、患者のX線画像を撮る前、トレーニング枠中に測定され、トレーニング枠中に測定された患者の前記生体信号は、患者の複数の完全呼吸周期を含む、請求項51~58のうちいずれか1項に記載の方法。
【請求項60】
完全呼吸周期における複数の一回換気量パーセンタイルは、トレーニング枠中に測定された患者の生体信号を用いて識別され、一回換気量パーセンタイルはそれぞれ、異なる呼吸期のうち1つに対応する、請求項59に記載の方法。
【請求項61】
前記トレーニング枠中に測定された患者の前記生体信号は、X線ユニットをトリガーして患者のX線画像を撮る所望の呼吸期を予測するための最適化呼吸予測モデルの構築に用いられる、請求項59又は60に記載の方法。
【請求項62】
前記最適化呼吸予測モデルは、自己回帰和分移動平均(ARIMA)モデルに基づく、請求項61に記載の方法。
【請求項63】
患者のX線画像を撮る前記所望の呼吸期は、心臓誘発性肺運動がゆっくりと変化している心臓ゲート枠と一致するように構成されている、請求項61又は62に記載の方法。
【請求項64】
前記心臓ゲート枠は、心電図(ECG)信号におけるT波及びP波の位置に基づいて選ばれ、それにより、心臓誘発性肺運動がゆっくりと変化する、請求項63に記載の方法。
【請求項65】
特定の投影角度における肺の異なる呼吸期が、少なくとも2回の呼吸周期から収集される、請求項45~64のうちいずれか1項に記載の方法。
【請求項66】
肺の異なる呼吸期に対応する複数のX線測定値から患者の肺の生物理学モデルを判定するシステムであって、
1つ以上のプロセッサと、
命令を格納するメモリと、を備え、前記命令が前記1つ以上のプロセッサによって実行されると、前記1つ以上のプロセッサは、
異なる投影角度で撮った肺のX線画像の第1複数セットを、異なる呼吸期に対応する
肺のX線画像の第2複数セットに変換することと、
逆投影法を用いて、各呼吸期でX線画像の第2複数セットの各セットから静止画像キューブを生成することと、
肺の異なる呼吸期に対応する静止画像キューブを、時間補間法によって3D X線画像キューブ動画に組み合わせることと、を含む一連の動作を行う、システム。
【請求項67】
肺の異なる呼吸期に対応する複数のX線測定値から患者の肺の生物理学モデルを判定するシステムであって、
1つ以上のプロセッサと、
命令を格納するメモリと、を備え、前記命令が前記1つ以上のプロセッサによって実行されると、前記1つ以上のプロセッサは、請求項45~65のうちいずれか1項に記載の方法を行う、システム。
【請求項68】
命令を格納する非一時的なコンピュータ可読記憶媒体であって、前記命令が、1つ以上のプロセッサを備えるシステムによって実行されると、前記1つ以上のプロセッサは、
異なる投影角度で撮った肺のX線画像の第1複数セットを、異なる呼吸期に対応する肺のX線画像の第2複数セットに変換することと、
逆投影法を用いて、各呼吸期でX線画像の第2複数セットの各セットから静止画像キューブを生成することと、
肺の異なる呼吸期に対応する静止画像キューブを、時間補間法によって3D X線画像キューブ動画に組み合わせることと、を含む一連の動作を行う、記憶媒体。
【請求項69】
命令を格納する非一時的なコンピュータ可読記憶媒体であって、前記命令が、1つ以上のプロセッサを備えるシステムによって実行されると、前記1つ以上のプロセッサは、請求項45~65のうちいずれか1項に記載の方法を行う、記憶媒体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示の一部の実施形態は、医療用撮像法、より具体的には、幾何学的に分解されたX線撮像法を実行するシステム及び方法に関する。本開示の一部の実施形態は、放射線療法に関する。
【背景技術】
【0002】
人体の計算モデリングにより、様々な生理学的状態を表す解剖学的挙動を容易に理解できるようになった。医師は、最先端の撮像技術により解剖学的挙動を視覚化できるが、心臓や肺の複雑な動きを正確に撮像できる最新の技術は、多くの場合、費用が高すぎて採用できない。更に心拍動、例えば、過程が複雑で呼吸周期とは無関係の心臓の変形は、CTやX線写真による呼吸運動測定値にはノイズとして現れる可能性がある。その結果、呼吸運動を表す数学的モデルの精度は、一見ランダムの心臓運動のため、低下してしまう。当該問題に対処する方法としては、患者に息を止めさせ、画像に肺の動きが表れないようにする方法が考えられる。患者の呼吸運動を停止させるので、肺の健康に関する重要な情報を息止めの状態で撮った当該画像から特定するのは難しいことがある。
【発明の概要】
【0003】
本開示の実施形態は、幾何学的に分解されたX線撮像システム(GREX)を提供することによって、従来技術の問題の少なくとも1つをある程度は解決することを目的とする。
【0004】
一部の実施形態によれば、GREX撮像システムは、特定の呼吸期及び特定の心拍相を算出し目標化することによって、患者の胸部の画像を取得する。GREX撮像システムは、一連の結像面において対象呼吸期にて胸部のスナップショットを撮ることにより、時間非依存型の解剖学的形状を取得する。時間非依存型の解剖学的形状につき、収集した呼吸信号及び心臓信号に基づいて位置合わせと補間を行い、胸部の対話型体積動画を作成する。対話型動画は、従来の静止撮像に比べて重要な利点を有する。対話型動画を用いて、GREXは、患者の呼吸中に生じる胸部の形状変化を定量的に記述する生体力学モデルを作成する。生体力学モデルは、基本的な物理法則に基づき、肺組織の弾性、応力、ひずみ、呼吸コンプライアンスなど、重要な指標の推定値を提供する。これらの特性による診断機能は、現在、医師などの医療従事者にあまり普及されていない。よって医師は、GREX撮像システムが提供する当該情報を活用して、患者の肺疾患の病因について情報を把握できる。
【0005】
一部の実施形態において、GREX撮像システムは、既存のデジタル診断用X線ユニットに用いられる独自のハードウェアと、ソフトウェアアドオンパッケージとを含む。ハードウェアとソフトウェアアドオンパッケージの組み合わせは、患者の生体信号を用いて、診断により役立つ情報を与えるカスタム撮像手順を提供する、新しく改善された撮像機能により従来のデジタル診断用X線ユニットの診断品質を向上させる。ハードウェアとソフトウェアのアドオンパッケージは、市販のデジタル診断用X線ユニット(例えば、従来のX線ユニット)であればいずれにも適用できる汎用のアップグレードである。
【0006】
一部の実施形態によれば、患者の肺の撮像方法が提供される。当該方法は、X線撮像装置(例えば、X線ユニット)に対して第1の向きに患者を配置することと、患者の呼吸体積測定値を取得することと、を含む。当該方法は、患者がX線撮像装置に対して第1の向きに配置されている間、並びに、患者の呼吸体積測定値を取得する間において、患者の呼吸体積測定値に基づき、患者の呼吸期を判定することを含む。当該方法は、患者の呼吸期
が既定の呼吸期と一致すると判定された場合に、X線撮像装置のゲート制御を行い、患者の肺のX線投影映像を生成することを含む。
【0007】
一部の実施形態において、既定の呼吸期は、複数の既定の呼吸期のうち第1の既定の呼吸期であり、当該方法は更に、患者の呼吸体積測定値を取得する間、患者の呼吸期が複数の既定の呼吸期のいずれかと一致すると判定された場合に、X線撮像装置のゲート制御を行い、患者の肺のX線投影映像を生成することを含む。
【0008】
一部の実施形態において、患者の肺のX線測定値は、患者の呼吸体積測定値により判定された患者の呼吸期が、複数の既定の呼吸期のうちいずれか1つと一致する場合にのみ取得する。
【0009】
一部の実施形態において、複数の既定の呼吸期は、患者の完全呼吸周期における早期呼気相、後期呼気相、最大呼気相、早期吸気相、後期吸気相、最大吸気相を含む。
【0010】
一部の実施形態において、X線投影映像は第1のX線投影映像であり、当該方法は更に、X線撮像装置に対して第2の向きに患者を再配置することを含む。一部の実施形態において、当該方法は更に、患者がX線撮像装置に対して第2の向きに配置されている間、並びに、患者の呼吸体積測定値を取得し続けている間において、患者の呼吸体積測定値に基づき、患者の呼吸期を決定し続けることと、患者の呼吸期が既定の呼吸期と一致すると判定された場合に、X線撮像装置のゲート制御を行い、患者の肺の第2のX線投影映像を生成することと、を含む。一部の実施形態において、当該方法は、第1のX線投影映像と第2のX線投影映像とを用いて、既定の呼吸期に対応する静止画像キューブを生成することを含む。
【0011】
一部の実施形態において、既定の呼吸期に対応する静止画像キューブは、既定の呼吸期にて様々な角度から取得した10未満のX線投影映像から生成されたものである。
【0012】
一部の実施形態において、患者の呼吸体積測定値は、患者の胸部上昇測定値を含む。
【0013】
一部の実施形態において、患者の呼吸体積測定値は、3Dスキャナ、肺活量計、腹部ベルトからなる群の体積呼吸期センサを1つ以上用いて取得する。
【0014】
一部の実施形態において、当該方法は、患者の胸部表面における点群を作成することを更に含み、患者の呼吸体積測定値は、患者の胸部表面における点群から判定されたものである。
【0015】
一部の実施形態において、患者の胸部表面における点群は、3D撮像技術を用いて取得し、患者の胸部における1つ以上の位置を測定する。
【0016】
一部の実施形態において、当該方法は、患者の胸部表面における点群を用いて患者の胸部表面における1つ以上の解剖学ランドマークを識別することと、患者の胸部表面における点群から患者の胸部内における1つ以上の内側解剖学ランドマークの位置を推測することと、を更に含む。
【0017】
一部の実施形態において、患者の呼吸期は、未来の呼吸期であって、患者の呼吸体積測定値に基づいて患者の呼吸期を判定することは、1つ以上の現在及び/又は過去の呼吸期から未来の呼吸期を予測することを含む。
【0018】
一部の実施形態において、方法が提供される。当該方法は、放射線源に対して第1の向
きに患者を配置することと、患者の呼吸測定値を取得することと、患者の心機能測定値を取得することと、を含む。当該方法は更に、患者が放射線源に対して第1の向きに配置されている間、並びに、患者の呼吸測定値を取得する間において、患者の呼吸測定値から患者の呼吸期を判定することと、患者の心機能測定値から患者の心拍相を決定することと、を含む。当該方法は更に、放射線源のゲート制御を、患者の呼吸期が既定の呼吸期と一致するという判定、並びに、患者の心拍相が心周期の既定枠と一致するという判定に基づいて行い、患者を放射線に曝露させることを含む。
【0019】
一部の実施形態において、放射線源はX線画像装置であり、放射線源のゲート制御を行って患者を放射線に曝露させることは、X線撮像装置のゲート制御を行い、患者の肺のX線投影映像を生成することを含む。
【0020】
一部の実施形態において、放射線源は放射線治療源であって、放射線源のゲート制御を行って患者を放射線に曝露させることは、放射線治療源のゲート制御を行い、患者の肺領域に治療線量を照射することを含む。
【0021】
一部の実施形態において、当該方法は更に、放射線源のゲート制御を行って患者を放射線に曝露させる前に、患者の複数の心周期から患者の心機能測定値を取得することと、複数の心周期から取得した患者の心機能測定値を用いて、既定心拍相と、心周期の既定枠の開始点との平均間隔を判定することと、を含む。一部の実施形態において、患者の心拍相が、心周期の既定枠と一致することを判定することは、心周期の既定枠を、リアルタイムで既定の心拍相を検出することと、既定の心拍相と心周期の既定枠の開始点との平均間隔に対応する時間の長さを待機することと、により予測することと、を含む。
【0022】
一部の実施形態において、患者の複数の心周期から取得した測定値は、複数の心周期の波形測定値であって、当該方法は更に、統計的に安定しているとして、複数の心周期の波形測定値を検証することを含む。
【0023】
一部の実施形態において、心周期の既定枠は、心周期の鎮静枠である。
【0024】
一部の実施形態において、肺の異なる呼吸期に対応する複数のX線測定値から患者の肺の生物理学モデルを判定する方法を提供する。当該方法は、肺の異なる呼吸期に対応する複数のX線測定値から肺組織の複数の変位場を抽出することを含む。各変位場は、第1の呼吸期から第2の呼吸期への肺組織の運動を表し、各呼吸期は、対応する生体パラメータのセットを有する。当該方法は更に、肺の異なる呼吸期と、対応する生体パラメータのセットとの間の肺組織の複数の変位場を用いて、肺の生物理学モデルの1つ以上の生物理学的パラメータを計算することを含む。
【0025】
一部の実施形態において、1つ以上の生物理学的パラメータは、肺の異なる呼吸期に関連付けらえれた生体パラメータと、肺組織の複数の変位場との物理的関係を定義する。
【0026】
一部の実施形態において、肺の異なる呼吸期に関連付けられた生体パラメータと肺組織の複数の変位場との物理的関係は、下記の式により定義される。
【数1】
【0027】
【数2】
ベクトルは、一回換気量により生じる通常の応力を表し、
【数3】
は、気流により生じる通常の応力であり、
【数4】
は、気流により生じるせん断応力であり、
【数5】
は、心臓運動による組織運動であり、閉ループ軌道における任意点での組織の変位
【数6】
は、一回換気量(T
v)、気流(A
f)、心拍相(H
c)によりそれぞれスケーリングされた応力、ひずみ、摂動心臓運動ベクトルの合計として表される。
【0028】
一部の実施形態において、当該方法は、肺の異なる呼吸期に対応する複数のX線測定値から、肺の異なる呼吸期に対応する複数の医用画像キューブを生成することを更に含む。肺組織の複数の変位場は、肺の異なる呼吸期に対応する複数の医用画像キューブから、更に、画像セグメンテーションにより、第1の医用画像キューブの残りの部分から肺組織を描写することで、抽出される。当該方法は、第1の医用画像キューブ内の各ボクセルについて、第1の医用画像キューブと第2の医用画像キューブとの間の強度ベース構造マッピングを用いて、第1の医用画像キューブ内のボクセルと第2の医用画像キューブとの間の変位ベクトルを判定することと、第1の医用画像キューブ内の異なるボクセルと第2の医用画像キューブ内の対応ボクセルの変位ベクトルとを繰り返し調整することと、を含む。
【0029】
一部の実施形態において、各呼吸期に関連付けられた生体パラメータのセットは、各呼吸期における肺の一回換気量及び気流、並びに肺の各呼吸期に対応する心拍相を含む。
【0030】
一部の実施形態において、当該方法は、肺の異なる呼吸期に対応する複数のX線測定値から、肺の異なる呼吸期に対応する複数の医用画像キューブを生成することをさらに含む。一部の実施形態において、当該方法は、複数の医用画像キューブのうちの1つ以上を参照医用画像キューブとして選択することと、各参照医用画像キューブに関連付けられる生体パラメータのセットを決定することと、2つの参照医用画像キューブに関連付けられた生体パラメータ2セット間の肺の生体測定値に基づき、生体パラメータ1セットを選択することと、を含む。一部の実施形態において、当該方法は更に、肺の生体測定値に基づく生体パラメータのセットを生物理学モデルに適用することによって、2つの参照医用画像キューブ間で医用画像キューブをシミュレートすることを含む。
【0031】
一部の実施形態において、肺の異なる呼吸期は、患者の完全呼吸周期における早期呼気相、後期呼気相、最大呼気相、早期吸気相、後期吸気相、最大吸気相を含む。
【0032】
一部の実施形態において、1つ以上のセンサを用いて1つ以上の時系列シーケンスとして患者の生体信号を測定し、1つ以上のセンサは、1つ以上の3D空間位置ローカライザ、呼吸期センサ、心拍相センサを含む。
【0033】
一部の実施形態において、3D空間位置ローカライザは、呼吸と心拍により生じる患者の体の動きをリアルタイムで測定し、時系列として出力するように構成されている。
【0034】
一部の実施形態において、呼吸期センサは、一回換気量とその一次時間導関数とを含む、患者の呼吸に関連する1つ以上の生理学的指標を測定するように構成されている。
【0035】
一部の実施形態において、心拍相センサは、患者の心臓により生成される周期的・定常的な電気信号を測定するように構成されている。
【0036】
一部の実施形態において、1つ以上のセンサにより測定された患者の生体信号を用いてX線ユニットをトリガーさせ、特定の呼吸期及び心拍相にて患者のX線画像を取得する。
【0037】
一部の実施形態において、X線ユニットはクロックを含み、1つ以上のセンサにより測定された患者の生体信号は、X線ユニットのクロックと同期する。一部の実施形態において、生体信号のそれぞれの値を、取得されたX線画像に関連付けて記録する。
【0038】
一部の実施形態において、トレーニング枠中に測定された患者の生体信号は、X線ユニットをトリガーして患者のX線画像を撮る所望の呼吸期を予測するための最適化呼吸予測モデルの構築に用いられる。
【0039】
一部の実施形態において、患者の2D X線画像から3D X線画像キューブ動画を生成する方法を提供する。当該方法は、異なる投影角度で撮った肺のX線画像の第1複数セットを、異なる呼吸期に対応する肺のX線画像の第2複数セットに変換することを含む。当該方法は更に、逆投影法を用いて、各呼吸期でX線画像の第2複数セットの各セットから静止画像キューブを生成することと、肺の異なる呼吸期に対応する静止画像キューブを、時間補間法によって3D X線画像キューブ動画に組み合わせることと、を含む。
【0040】
一部の実施形態において、異なる投影角度で撮った肺のX線画像の第1複数セットを、異なる呼吸期に対応する肺のX線画像の第2複数セットに変換することは、異なる投影角度での肺のX線画像の第1複数セットを撮ることを更に含む。肺のX線画像の第1複数セットの各セットは、特定の投影角度における肺の異なる呼吸期に対応する。当該変換は更に、肺のX線画像の第1複数セットを、関連付けられた呼吸期によって、肺のX線画像の第2複数セットに再編成することを含む。X線画像の第2複数セットの各セットは、肺の各呼吸期に対応する。
【0041】
一部の実施形態において、任意の特定のセット内のX線画像は幾何学的に分解され、時間的に独立している。
【0042】
一部の実施形態において、肺の異なる呼吸期は、肺の動きの異なる一回換気量パーセンタイルに対応する。
【0043】
一部の実施形態において、肺の異なる呼吸期は、患者の完全呼吸周期における早期呼気相、後期呼気相、最大呼気相、早期吸気相、後期吸気相、最大吸気相を含む。
【0044】
一部の実施形態において、異なる投影角度で撮った肺の複数のX線画像は、全て同じ呼吸期に対応する。
【0045】
一部の実施形態において、1つ以上のセンサを用いて1つ以上の時系列シーケンスとして患者の生体信号を測定し、1つ以上のセンサは、1つ以上の3D空間位置ローカライザ、呼吸期センサ、心拍相センサを含む。
【0046】
一部の実施形態において、当該方法は、1つ以上の心拍相センサの測定値を用いて心拍相ゲート枠を識別することと、1つ以上の呼吸期センサの測定値を用いて呼吸期を予測することと、X線撮像パルスを生成する、心拍相ゲート枠と予測した呼吸期との一致点を特定することと、X線撮像パルスに対応するX線画像に、呼吸期、心拍相、3D空間位置ローカライザの測定値をタグ付けすることと、を更に含む。
【0047】
一部の実施形態において、3D空間位置ローカライザは、呼吸と心拍により生じる患者の体の動きをリアルタイムで測定し、時系列として出力するように構成されている。
【0048】
一部の実施形態において、呼吸期センサは、一回換気量とその一次時間導関数とを含む、患者の呼吸に関連する1つ以上の生理学的指標を測定するように構成されている。
【0049】
一部の実施形態において、心拍相センサは、患者の心臓により生成され、心拍相に対応する特徴を備える、周期的・定常的な電気信号を測定するように構成されている。
【0050】
一部の実施形態において、X線ユニットのクロックと同期された後、2つの別々のフィルタを用いて患者の生体信号から信号ドリフト及びノイズを除去する。
【0051】
一部の実施形態において、1つ以上のセンサにより測定された患者の生体信号を用いてX線ユニットをトリガーさせ、特定の呼吸期及び心拍相にて患者のX線画像を取得する。
【0052】
一部の実施形態において、X線ユニットはクロックを含み、1つ以上のセンサにより測定された患者の生体信号は、X線ユニットのクロックと同期する。一部の実施形態において、生体信号のそれぞれの値を、取得されたX線画像に関連付けて記録する。
【0053】
一部の実施形態において、患者の生体信号は、患者のX線画像を撮る前、トレーニング枠中に測定され、トレーニング枠中に測定された患者の生体信号は、患者の複数の完全呼吸周期を含む。
【0054】
一部の実施形態において、完全呼吸周期における複数の一回換気量パーセンタイルは、トレーニング枠中に測定された患者の生体信号を用いて識別され、一回換気量パーセンタイルはそれぞれ、異なる呼吸期のうち1つに対応する。
【0055】
一部の実施形態において、トレーニング枠中に測定された患者の生体信号は、X線ユニットをトリガーして患者のX線画像を撮る所望の呼吸期を予測するための最適化呼吸予測モデルの構築に用いられる。
【0056】
一部の実施形態において、最適化呼吸予測モデルは、自己回帰和分移動平均(ARIMA)モデルに基づく。
【0057】
一部の実施形態において、患者のX線画像を撮る所望の呼吸期は、心臓誘発性肺運動がゆっくりと変化している心臓ゲート枠と一致するように構成されている。
【0058】
一部の実施形態において、心臓ゲート枠は、心電図(ECG)信号におけるT波及びP波の位置に基づいて選ばれ、それにより、心臓誘発性肺運動がゆっくりと変化する。
【0059】
一部の実施形態において、特定の投影角度における肺の異なる呼吸期が、少なくとも2回の呼吸周期から収集される。
【0060】
本開示の実施形態の更なる態様や利点の一部を、下記の説明、或いは本開示の実施形態の具現から理解できるはずである。
【図面の簡単な説明】
【0061】
本開示の実施形態や先行技術における技術的解決策をより明確に説明するために、実施形態又は先行技術の記述に必要な図面を簡単に説明する。下記の図面は、本開示の実施形
態の一部に過ぎない。当業者であれば、創造力を発揮せずとも、当該図面に図示されている構造から、他の図面を導き出すことができる。
【0062】
【
図1】本開示の一部の実施形態による、ハードウェアボックス、取得ソフトウェア、後処理ソフトウェアを含むGREX撮像システムの概略ブロック図
【0063】
【
図2】本開示の一部の実施形態によるGREX画像取得プロセスの概略フローチャート
【0064】
【
図3】本開示の一部の実施形態による、GREX撮像システムの3D空間位置ローカライザの上面図を示す概略ブロック図
【0065】
【
図4】本開示の一部の実施形態による、時間的に同じ最大吸気相を共有するが一回換気量が根本的に異なる2つの呼吸の例
【0066】
【
図5】本開示の一部の実施形態による、通常呼吸をしている患者(左上のサブプロット)、及び、不規則呼吸をしている患者(右上のサブプロット)のそれぞれの一回換気量パーセンタイル(下のサブプロット2つ)の例
【0067】
【
図6】本開示の一部の実施形態による同期プロセスの概略フローチャート
【0068】
【
図7】本開示の一部の実施形態による、同期された心臓心電図(ECG)信号及び肺呼吸信号
【0069】
【
図8】本開示の一部の実施形態による、ドリフト・信号ノイズ除去プロセスの概略フローチャート
【0070】
【
図9】本開示の一部の実施形態による、例示の呼吸における一回換気量と時間の関係のプロット
【0071】
【
図10】本開示の一部の実施形態による、
図9に図示されたものと同じ呼吸における、気流と一回換気量の関係のプロット
【0072】
【
図11】本開示の一部の実施形態による呼吸期予測プロセスの概略フローチャート
【0073】
【
図12】本開示の一部の実施形態による、心臓誘発性肺運動がゆっくりと変化するように、ECG信号のT波及びP波の位置に基づいて選ばれた時間内ゲート枠の例
【0074】
【
図13】本開示の一部の実施形態による、心臓ゲート枠のリアルタイム識別の代わりに心拍相予測を用いる別のGREX手順の概略フローチャート
【0075】
【
図14】本開示の一部の実施形態による、早期呼気相、後期呼気相、最大呼気相、早期吸気相、後期吸気相、最大吸気相(左から順番に)におけるトリガー画像の例
【0076】
【
図15】本開示の一部の実施形態による画像取得トリガープロセスの概略フローチャート
【0077】
【
図16】本開示の一部の実施形態によるGREX画像再構成アルゴリズムの例示に用いられる変数の概略ブロック図
【0078】
【
図17】本開示の一部の実施形態による撮像手順中のGREX撮像システムの作動構成要素の概略ブロック図
【0079】
【
図18】本開示の一部の実施形態による、組織深度0°(A)及び90°(B)における横断X線投影映像の例
【0080】
【
図19】本開示の一部の実施形態による、狭角の投影角度範囲(1)及び広角の投影角度範囲(2)からの深度分解能の例
【0081】
【
図20】本開示の一部の実施形態による、主要結像面3つに対するβ撮像角位置(左)と、上面図におけるGREX撮像システムの撮像アイソセンタに対するβ撮像角位置(右)の例
【0082】
【
図21】本開示の一部の実施形態による、GREX撮像システムが2D X線投影映像を静止画像キューブに、最終的には画像キューブ動画に変換する方法を示すブロック図の例
【0083】
【
図22】本開示の一部の実施形態による、
図21に図示された静止画像キューブ作成プロセスの図解
【0084】
【
図23】本開示の一部の実施形態による画像フィルタリングープロセスの概略フローチャート
【0085】
【
図24】本開示の一部の実施形態による、心臓と肺の相互作用により生じた心臓の近い左肺に位置する組織片の閉ループ肺組織軌道の例
【0086】
【
図25】本開示の一部の実施形態による生体力学モデルの構成要素の動作を示す概略フローチャート
【0087】
【
図26】(A)本開示の一部の実施形態による呼吸周期中の肺組織要素の運動軌道の図解
【0088】
【
図26】(B)本開示の一部の実施形態による、異なる呼吸期同士における変位ベクトルの図解
【0089】
【
図27】本開示の一部の実施形態による、多重解像度3Dオプティカルフローアルゴリズムの概略フローチャート
【0090】
【
図28】(A)本開示の一部の実施形態による、生体補間法を用いた動画作成を示す概略フローチャート
【0091】
【
図28】(B)本開示の一部の実施形態による、生体データ行列を用いる中間画像キューブ作成を示すブロック図
【0092】
【
図29】健常者の標準放射線写真と、病期1bの左上肺腫瘍(矢印)を患う患者の標準放射線写真の例
【0093】
【
図30】本開示の一部の実施形態による、健常者の健康状態指標を示すGREXパラメータマップと、患者の健康状態指標を示すGREXパラメータマップの例
【0094】
【
図31】(A)及び(B)は本開示の一部の実施形態による、患者の肺の撮像方法のフロー図
【0095】
【
図32】(A)及び(B)は本開示の一部の実施形態による、放射線源のゲート制御方法のフロー図
【0096】
【
図33】(A)~(C)は本開示の一部の実施形態による、患者の肺の生物理学モデル決定方法のフロー図
【0097】
【
図34】(A)~(C)は本開示の一部の実施形態による、3D X線画像キューブ動画の生成方法のフロー図
【0098】
【
図35】一部の実施形態による、患者を支持する患者位置決め固定具(PPF)(例えば、回転椅子)の例
【0099】
【
図36】一部の実施形態による、生物学的事象監視プロセス(BEMP)カードの例
【発明の詳細な説明】
【0100】
下記に本開示の実施形態を詳しく説明する。同一又は類似の要素や、同一又は類似の機能を有する要素には、明細書を通して同様の参照番号を割り当てている。図面を参照して本明細書に記載している実施形態は、本開示の理解を深めるための一例に過ぎず、本開示を限定するものとして解釈してはならない。
【0101】
本明細書において、別途定めがない限り、「中央」、「縦」、「横」、「前」、「後」、「右」、「左」、「内側」、「外側」、「下」、「上」、「水平」、「垂直」、「上方」、「下方」、「頂」、「底」などの相対語、並びのその派生語(例えば「水平方向」、「下向き」、「上向き」など)は、関連図面に説明又は図示されている方位を指すと解釈すべきである。上記の相対語は、説明の便宜上使用するものであり、特定の方位における構築又は操作を意味する訳ではない。
【0102】
本発明では、別途定めがない限り、「取付」、「接続」、「結合」、「固定」などの用語を幅広く使用するが、これらは、例えば固定連結、脱着連結、一体型、機械的・電気的連結、直接連結、介在構造を介する間接連結、2つの要素の内部連通など、当業者が特定の状況に応じて理解できる様々な形態に相当し得る。
【0103】
本発明では、別途定めがない限り、第1の特徴要素が第2の特徴要素の「上」又は「下」にある構造は、第1の特徴要素が第2の特徴要素と直接接触している実施形態を含み、更には、第1の特徴要素が第2の特徴要素と直接接触していない実施形態や、第1の特徴要素が第2の特徴要素の間に追加要素を挟んで接触している実施形態を含み得る。また、第1の特徴要素が第2の特徴要素の「上」、「上方」、「上部」にある場合、第1の特徴要素が第2の特徴要素の真上又は斜め上にある実施形態を含み、或いは、ただ第2の特徴要素より高い位置にあるという意味でもあり得る。一方、第1の特徴要素が第2の特徴要素の「下」、「下方」、「下部」にある場合、第1の特徴要素が第2の特徴要素の真下又は斜め下にある実施形態を含み、或いは、ただ第2の特徴要素より低い位置にあるという意味でもあり得る。
【0104】
図1は、本開示の一部の実施形態による、ハードウェアボックス102、取得ソフトウェア104(例えば、非一時的なメモリに格納)、後処理ソフトウェア106(例えば、非一時的なメモリに格納)を含むGREX撮像システム100の概略ブロック図である。
【0105】
ハードウェアボックス102には、3つの測定センサ(例えば、3D空間位置ローカライザ300、呼吸期センサ110、心拍相センサ112)があり、時系列として患者の生体信号を独立的に収集する。収集された時系列は、取得ソフトウェア104に入力される。取得ソフトウェア104は、生体時系列測定値に対して処理やフィルタリングを行い、撮像トリガー信号を生成する(例えば、X線ユニット108を作動させる信号)。撮像トリガー信号は、特定の呼吸期を目標とするが、必要に応じて患者の心拍相を目標とすることもある。呼吸期と心拍相はそれぞれ、生体時系列測定値によって定義される。接続ケーブルは、撮像トリガー信号を取得ソフトウェア104からX線ユニット108に送信し、X線ユニット108は、目標の呼吸期にて、呼吸期と心拍相の放射線画像を取得する。完全呼吸周期を定義する目標の呼吸期・心拍相で撮像した一連の画像が、後処理ソフトウェア106に入力される。後処理ソフトウェアは、目標の呼吸期・心拍相で撮像した画像から肺運動の生体力学モデルを構築する。続いて、生体力学モデルを用いて、後処理ソフトウェアで他の診断結果を生成する。本願では、一例としてX線画像を使用するが、本願に開示された方法は、ほとんど労力をかけず他の医用画像にも適用できることを、当業者であれば理解するはずである。例えば、生体力学モデルの構築プロセスは、X線画像に限定されず、他の医用画像(例えば、CTスキャンやMRI)も使用できる。
【0106】
図2は、本開示の一部の実施形態によるGREX画像取得プロセス200(例えば、
図1の取得ソフトウェア104により行われる)の概略フローチャートである。具体的には、取得ソフトウェア104は、潜在的な信号ドリフトやノイズを除去するために、ハードウェアボックス102からの時系列測定値に対して同期及び処理を行う。次いで取得ソフトウェア104は、同期済みのドリフトやノイズを持たない時系列入力から、呼吸期・心拍相を予測する位相予測アルゴリズムを実装する。呼吸期・心拍相の予測結果に基づいて、取得ソフトウェア104は、論理アルゴリズム118を用いて、目標の呼吸期・心拍相と一致するものを検索する。目標の呼吸期・心拍相との一致は、撮像トリガーの生成と、それによるX線ユニット108の画像取得を可能とする条件である。GREX画像が取得されると、後処理ソフトウェアは、GREX画像を使用して新しい肺疾患の診断を行う。GREX画像は、少し前までは医療従事者にあまり普及されていなかった。例えば、取得したGREX画像を用いて、敢えて時間パラメータを用いずとも、呼吸期・心拍相の関数として胸部の形状を定義する生体力学モデルを構築する。
【0107】
本明細書では、GREXベース撮像システムを3つに分けて説明する。第1章は、ハードウェアボックス102の実施形態に関する。第2章は、取得ソフトウェア104の実施形態を取り扱う。第3章は、後処理ソフトウェア106の実施形態である。各章では、
図1に示された、ハードウェアボックス102、取得ソフトウェア104、後処理ソフトウェア106を構成する構成要素及び機能をより詳細に説明する。
【0108】
第1章.ハードウェアボックス102
【0109】
一部の実施形態において、ハードウェアボックス102は、少なくとも2つの役割を果たす。一つは、胸部の解剖学的形状を定義する生体信号を収集することである。もう一つは、デジタル診断用X線ユニット(例えば、X線ユニット108)と通信を行うことである。
【0110】
胸部の解剖学的形状を定義する生体信号入力は、胸部の寸法(3D空間ローカライザ300で測定。
図3)、呼吸期(呼吸期センサ110で測定)、心拍相(ECGモニタで測定)を含む。ハードウェアボックス102において、生体信号は、各信号入力の時系列曲線を作成するために、100Hzにてリアルタイムにサンプリングされる。ハードウェアボックス102の出力、つまり時系列曲線は、取得ソフトウェアに送信される。
【0111】
図3は本開示の一部の実施形態による、GREX撮像システム100の3D空間位置ローカライザ300の上面図を示す概略ブロック図である。
1.1.3D空間位置ローカライザ300
【0112】
3D空間位置ローカライザ300は、呼吸と心拍により生じる患者の体の動きをリアルタイムで測定し、座標空間(例えば、デカルト座標系、極座標系、超球座標系など)に時系列として出力する。
図3に図示されているように、3D空間位置ローカライザ300は、部屋の天井の平衡円形路に固定された3つの3Dカメラ(例えば、カメラ302a~302c)を含む。3つのカメラ302aは互いに120°ずつ離れている。患者は、X線ユニット108と検出器パネル304との間に位置するので、天井に取り付けられた3D空間位置ローカライザ300の中心に位置づけられることになる。システムは、既定の座標空間で患者の胸部拡張(例えば、上昇や下降)を測定する。各カメラ302は、患者の胴体と、X線ユニット108及び検出器パネル304のうちの1つを、遮るものなく眺望できる視野を有する。
【0113】
リアルタイム深度マップを使用して、各3Dカメラ302は、患者の表面レンダリングを作成する。3Dカメラ302 3台からの情報を組み合わせ、患者の呼吸期と心拍相に基づいてリアルタイムで変化する体積皮膚表面位置測定値を形成する(例えば、光線照射技術を使用する)。3D空間位置ローカライザ300は、少なくとも2つの方法、つまり(i)患者の空間境界の定義、(ii)患者の組織位置の判定に、体積皮膚表面位置測定値を用いる。正規の医療内部被曝線量(MIRD)解剖学データベースから得た皮膚の厚さ、肋骨の厚さ、筋肉の厚さ、骨格の位置などの前提情報に基づいて、3D空間位置ローカライザ300は患者内部の肺のリアルタイム空間位置を概算する。3D空間位置ローカライザ300は、MIRDデータを用いて肺の空間境界条件を計算する。後に後処理ソフトウェア106で当該空間境界条件を利用することになる。例えば、肺の空間境界条件に対する3D空間位置ローカライザ300の推定値は、後処理ソフトウェア106がX線ユニット108で発生する光線に沿った累積組織密度をシミュレートするときに用いる初期胸部形状を作成する。
1.2.呼吸期センサ110
【0114】
ハードウェアボックス102の呼吸期センサ110は、呼吸に関連する主要な生理学的指標、つまり、一回換気量とその一次時間導関数(例えば、一回換気量の経時変化率、又は流量)を測定する。一回換気量の測定法には、直接一回換気量測定法と間接一回換気量測定法の2つがある。直接一回換気量測定法は、患者の吸気又は呼気の流量に比例する速度で回転するチューブ内のタービンで構成される口肺活量計を用いる。間接一回換気量測定法は、呼吸中の患者の腹囲変化を測定する腹部ベルト(或いは、その他の患者の胸部に対する幾何学的測定。下記に説明する)を用いる(
図1を参照)。腹囲が大きいと吸入を意味し、腹囲が小さいと呼気を意味する。腹部ベルトでは一回換気量を直接測定することはできない。腹囲変化を生理学的に意味のある量に変換するために、ハードウェアボックス102は、腹囲変化を、3D空間位置ローカライザ300により判定された推定肺気量と関連付ける。例えば、胸部の拡張は呼吸中の腹部の拡張に比例する。腹部ベルトと3D空間位置ローカライザ300による測定値を一緒に用いて、肺の空気含有量を推定することもできる。
【0115】
本明細書における「一回換気量」とは、現在の肺気量と既定の基準線(例えば、余分な努力をせず正常呼吸で最大に吐き出すときの量、余分な努力をせず正常呼吸を最大に吸入するときの量、或いはその他の基準体積)との差を意味する。理想気体の法則に基づくと、室内空気と内部空気の密度差により、肺の空気は一回換気量より11%膨張する。質量保存の法則により、体は吸気量より11%膨張することになる。従って、肺の一回換気量
は、内部の空気量に合わせて較正された身体の外部測定値を用いて計算できる。また、3D空間位置ローカライザ300は、呼吸中の患者の体積膨張率を把握し、空気量と一回換気量測定値の精度に対して二次検証を行う。つまり、体の体積膨張率を、X線画像から得た、気管、肺、気管支の空気体積推定値と比較する。
1.3.心拍相センサ112
【0116】
図1に図示されているように、心拍相は、心電図(ECG)モニターや血液量圧力装置のいずれか(例えば、心拍相センサ112)を用いて測定する。例えば、臨床医はECGモニターを用いて、患者の腕にリードを付け、患者の腹部の左下側(横隔膜と腹部ベルトから離れた位置)に接地リードを付ける。人間の心臓は、心拍の位相に対応する特徴を備えた、周期的・定常的な電気信号を生成する。定常信号は、同時確率分布が経時変化を伴わない確率過程である。血液量圧力装置は、光源と光センサを用いて、患者の指の光減衰を測定する。心拍の度に送り出される循環血液量は、指の光減衰度を変化させる。光減衰度は、心拍相に正比例する。
【0117】
通常、デジタル診断用X線ユニット(例えば、X線ユニット108)は、プラグポートに取り付けたアナログプランジャで作動させる。プラグポートは、特定のピン構造を有するプランジャを受容するように独自に構成されている。ピン構造はいずれもX線ユニットを作動させる(例えば、ゲート制御)電圧信号を受容する「取得ピン」を含む。使用者がプランジャを押すと、電圧パルスをデジタル診断用X線ユニットに送信する。デジタル診断用X線ユニットは、患者の体を貫通する撮像ビームを活性化させる。
【0118】
図1に図示されているように、ハードウェアボックス102は、接続ケーブルを用いて、同じ電圧パルス(例えば、ゲート信号)を取得ソフトウェアからデジタル診断用X線ユニット108に送信する。電圧パルス信号は、既定の電圧閾値を超えると、デジタル診断用X線ビームを作動させ(例えば、X線ビームをゲート制御する)、ピンの電圧パルス信号が既定の電圧閾値未満となれば、X線ユニット108がオフとなる。一部の実施形態において、ハードウェアボックス102は、既定の電圧閾値より大きいパルス高さを有する方形波信号を生成し、画像露光の間、パルス高さを維持する。つまり、X線ユニット108が患者のX線画像を撮影できるように、X秒間続くY電圧の方形パルスを生成する。Y未満の閾下電圧はスキャナをトリガーしないため、X線撮像を開始するためには、Yの値が既定の電圧閾値よりも大きくなければならない。パルス持続時間Xは、電圧Yが既定の電圧閾値を超えた瞬間から始まり、電圧が既定の電圧閾値を下回ったときに終了する、画像の露光時間を指す。電圧が既定の電圧閾値を下回ると、X線ユニット108のオフとなる。パルス持続時間は製造社の仕様書に定義されているが、通常は数ミリ秒くらいである。
【0119】
第2章.取得ソフトウェア104
【0120】
取得ソフトウェア104は、ハードウェアボックス102が測定した空間、心臓、肺の時系列を収集し、特定の呼吸期や心拍相でX線画像を取得するためにX線ユニット108をトリガーするタイミングを決定する。取得ソフトウェア104は、測定した心臓や肺の位相に対して正確にオーバーレイ(例えば、同期)を行い、収集した生体時系列を処理(例えば、フィルタリング)し、適切な撮像時間を把握して、デジタル診断用X線ユニット108の電子トリガー信号を生成する。電子トリガー信号(例えば、ゲート信号)は、X線ユニット108を作動させ、胸部形状のスナップショット画像を取得する。スナップショットに関連付けられている空間、心臓、肺の値を記録し、画像が撮影されたときの胸の表面形状を定義する。プロセスは完全自動化プロセスであり、使用者の入力には依存しない。
図1及び
図2に図示されているように、取得ソフトウェア104により実現されるプロセスは、4つの補助構成要素、つまり2.1(同期モジュール114)、2.2(信号
処理モジュール116)、2.3(論理アルゴリズム118)、2.4(トリガー生成モジュール120)を含む。
2.1.同期モジュール114
【0121】
同期モジュール114に対する入力は、3D空間位置ローカライザ300の信号、呼吸期センサ110の信号、心拍相センサ112の信号を含む。同期モジュール114は、これらの入力をX線ユニット108のクロックと同期する。生理学的生体信号は非同期状態で収集されるため、後に同期が必要となる。非同期の原因としては、呼吸周期が心周期よりも遅く、心周期から完全に独立していることが挙げられる。上述しているように、呼吸周期と心周期は異なるセンサで別途測定される。同期モジュール114は、呼吸期センサや心拍相センサを取得済み画像と同期させるように構成される。画像を撮影すると、当該画像は、ある時点における胸部の解剖学的形状を表示する。その時点は、X線ユニット108の固有タイミングシステムで記録されるが、必ずしも呼吸センサや心臓センサの生体時系列と同期している訳ではない。
【0122】
時間だけでは、不規則呼吸の期間と通常呼吸の期間を区別することができない。言い換えれば、時間が呼吸期を定義する唯一の次元である場合、正常呼吸時の撮影画像と異常呼吸(咳など)時の撮影画像は、計算上区別がつかないのである。
図4は、開示の一部の実施形態による、時間的に同じ最大吸気相を共有するが一回換気量が根本的に異なる2つの呼吸400(例えば、400a及び400b)の例である。重ね合わせてみると、最大吸気相が類似しているにも関わらず、2つの呼吸400が実際は異なることが分かる。一回換気量の大きさが異なるためである。一部の実施形態において、一回換気量は、基準体積値に対する測定体積値(例えば、ml単位)を指す。例えば、基準体積値は、患者の正常呼吸(例えば、呼気に余分な努力を要せず、強制性もない場合)時の肺の最小体積値(例えば、最大呼気相)に当たる。一部の実施形態において、基準体積値は、患者ごとに異なる。一部の実施形態において、基準体積値は、0である。一部の実施形態において、一回換気量は、ある時点で測定される。ある期間に渡る一回換気量の変化を
図4に図示した。
【0123】
時間次元の問題を克服するために、GREX撮像システム100は、ハードウェアボックス102の様々な生理学的センサから取得する生理学的値により呼吸期を定義する。これは時間に比べ、より有益な呼吸期次元と言える。同期モジュール114の機能は、主に、X線ユニット108とGREX撮像システム100とが、互いに継ぎ目なく滑らかに移行できるようにすることである。一部の実施形態において、取得ソフトウェア104は、30秒のトレーニング枠(下記の2.2で詳細に説明する)を用いて、トレーニング枠の間に収集した一回換気量時系列観測値から一回換気量パーセンタイルを計算する。取得ソフトウェア104は、周期余弦波の頂点間期間ではなく、一回換気量パーセンタイルを用いて呼吸期を定義する。取得ソフトウェア104の一回換気量パーセンタイルは、呼吸ごとに一回換気量が変動するため、肺の形状の定義には周期余弦波の頂点間期間よりもずっと有益である。
【0124】
図5は、本開示の一部の実施形態による、通常呼吸をしている患者(左上のサブプロット)、並びに不規則呼吸をしている患者(右上のサブプロット)のそれぞれの一回換気量パーセンタイル(下のサブプロット2つ)の例である。不規則呼吸の一回換気量ヒストグラムに対する定量評価のために、正常吸気時の一回換気量と異常吸気時の一回換気量の比を、呼吸期の指標として使用する。当該比は、患者の不規則呼吸の確率を定義する閾値を有する。
図5の下のサブプロット2つに示されているように、垂直線は、一回換気量ヒストグラムにおける85パーセンタイル、90パーセンタイル、95パーセンタイル、98パーセンタイルの一回換気量の位置を示している。通常呼吸時(
図5の左下のサブプロット)、正常な一回換気量のパーセンタイル値(85及び90)は、不規則呼吸時(
図5の右下のサブプロット)に比べ、異常な一回換気量のパーセンタイル値(95及び98)の
近くに存在する。
【0125】
図6は、本開示の一部の実施形態による、ハードウェアボックス102の様々なセンサと診断用X線ユニット108との同期プロセス600を示す、概略フローチャートである。ハードウェアボックス102は、一回換気量パーセンタイルで定義された呼吸期、ECGで定義された心拍相、3D空間位置ローカライザ300で定義された座標の胸部形状を、継続的に収集する。これらの測定値の元となるセンサ信号は、X線ユニット108と同期する前に、まず互いに同期させる必要がある。そのために、様々なセンサの測定チャネルの差やケーブルの電気抵抗率の差を、デジタル-アナログコンバータのインピーダンス整合を用いてトレース長を整合させることで補正する。X線ユニット108のクロック(例えば、タイミングシステム)は、通常、ハードウェアボックス102のクロックと同期されていないので、接続ケーブルは、データ収集ボードに接続して、当該ボードをX線ユニット108のクロックとインターフェースするように構成される。X線ユニット108のクロックは、分配バッファを通過し、アナログ-デジタル変換器の各チャネルに対してトレースマッチングされる。変換されたデジタル信号はフィールドプログラマブルゲートアレイへ送られ、全ての信号が同期される。取得ソフトウェア104が呼吸期センサや心拍相センサの信号を適切に同期させると、その結果は
図7に示される例と同様のものになる。
【0126】
患者が不要な放射線被曝をされないように、取得ソフトウェア104は、GREX撮像システム100の構成要素同士を適切に同期しない限り、接続ケーブルを介してX線ユニット108を起動するトリガー信号を送信しない。一部の実施形態において、30秒のトレーニング枠を用いて、ハードウェアボックス102のクロックとX線ユニット108のクロックとの同期を検証する。従って、30秒のトレーニング枠は、30秒に相当するサンプルを含む必要がある。ハードウェアボックス102のすべてのセンサや線ユニット108のクロックが正確に30秒に相当するサンプルを示さない場合、同期されていないことになる。上述の検証手順から不一致が発見されると、同期システムが再起動して不一致を修正する。但し、30秒のトレーニング枠はあくまでも例示に過ぎず、当業者は、同期プロセスを実行するに足るデータがある限り、トレーニング枠の長さはさほど重要ではないことを理解するはずである。
2.2.信号処理モジュール116
【0127】
空間位置、呼吸期、心拍位相信号が同期された後、取得ソフトウェア104は、センサ信号を処理してノイズを除去し、最終的に患者の一回換気量を精度高く予測する。肺と心臓の測定時系列に存在するノイズは、センサの電子機器、電極、バックグラウンドの電気信号によるものである。時間的精度を保証する一連のフィルタは、肺と心臓の測定時系列からノイズを除去する。一連のフィルタによりフィルタリングされた生体時系列は、時間的精度を維持できるようになる。
【0128】
一部の実施形態において、別途のフィルタ(例えば、ウェーブレットフィルタ)2つを用いて、生体時系列から信号ドリフトやノイズを除去する。信号ドリフトは、測定値に経時歪みを与えるので、データ収集開始時の測定値は、データ収集終了時の測定値と一致しなくなってしまう。信号ノイズは本質的に生理学的なものではなく、一回換気量測定から患者の気流を計算するときに深刻な問題となり得る。
図8は、本開示の一部の実施形態による、ドリフト・信号ノイズ除去プロセス800の概略フローチャートである。
【0129】
取得ソフトウェア104は、一回換気量の一次時間導関数、例えば、気流を計算するために、滑らかな一回換気量時系列を必要とする。一回換気量の時系列が滑らかでない場合、一回換気量の一次時間導関数は滑らかな曲線を生成することができない。曲線には呼吸の生物理学的現状に背く不連続性が含まれてしまう。
図9は本開示の一部の実施形態によ
る、例示の呼吸における一回換気量と時間の関係のプロットである。
図10は本開示の一部の実施形態による、
図9に図示されたものと同じ呼吸における、気流と一回換気量の関係のプロット、つまり生体力学モデリング(3.1を参照)のために後処理ソフトウェア106が用いる連続閉ループである。
【0130】
取得ソフトウェア104は、フィルタリング済みで時間的に正確時系列曲線を用いて、2つの異なる機能を実行する。取得ソフトウェア104の1つ目の機能は、短予測範囲を用い呼吸期予測値を生成することである。
図11は、本開示の一部の実施形態による呼吸期予測プロセス1100の概略フローチャートである。短予測範囲は、予測アルゴリズムの「先読み」である。予測アルゴリズムは、所望一回換気量と気流(例えば、呼吸期)が生じる未来の瞬間を予測する。「所望」の呼吸期を、診断用X線ユニット108をトリガーして所望の胸部形状を取得できる目標とする。
【0131】
短予測範囲は、呼吸予測における不正確さの更なる原因、例えば、呼吸振幅や呼吸期間における呼吸ごとの変動を軽減する。予測範囲の限界値がゼロに近づくと、肺の形状変化もゼロに近づく(例えば、肺の形状は実質的に一定となる)。言い換えれば、肺の形状が短予測範囲中に劇的に変化する可能性はほとんどない。従って、予測範囲が短ければ、呼吸運動モデルの予測精度に対する人間の呼吸変動の影響が軽減される。
【0132】
時間的に精度高い、フィルタリング済みの一回換気量の時系列は、呼吸予測アルゴリズムの入力値として機能する。呼吸予測アルゴリズムにより、呼吸期の高速、リアルタイム、且つ精度高い予測が可能となる。例えば、呼吸予測アルゴリズムは、自己回帰和分移動平均(ARIMA)モデルに基づく。ARIMAモデルは入力値が定常であるとは想定せず、多項式で構成されているため、呼吸予測に適している。ARIMAモデルの多項式係数は、撮像検査の開始時から始まる30秒のトレーニング枠中に推定される。ARIMAモデルの多項式係数の数、例えばモデルの次数を、非線形最適化で検証し、情報量基準検索関数を最小化して過剰適合を削減又は排除する。モデルの次数が収集したトレーニングデータに最適である場合、一回換気量ヒストグラム(2.1を参照)を作成し、対数尤度目的関数を用いて確率密度関数を計算する。2.1で説明したように、一回換気量の分布は不規則呼吸を把握するためのものである。不規則呼吸が検出された場合、トレーニングデータを破棄して、取得し直す。不規則呼吸が検出されなかった場合、トレーニングデータと確率密度関数を用いて、最尤法でARIMAモデル係数を推定する。30秒のトレーニング枠は、撮像前の機器検証としての役割も果たしている。
図11は、呼吸期予測プロセスのフローチャートである。
【0133】
取得ソフトウェア104の2つ目の機能は、心拍相を識別して心臓が所望する各胸部形状において同位相になるようにすることである。予測範囲の持続時間は、人間の呼吸が準ランダム関数であるため(各呼吸には独自の側面があるため)、人間の呼吸を正確に予測する取得ソフトウェア104の取り組みにおいて重要なパラメータとして機能する。一部の実施形態において、予測範囲の持続時間は、デジタル診断用X線ユニット108の待ち時間とX線撮像の露光時間の合計よりも長い。デジタル診断用X線ユニット108の待ち時間とX線画像の露光時間との合計は非常に短く、10ミリ秒くらいである。その結果、予測期間も短くなる(100~1000Hzの動作周波数におけるセンサ測定サンプル値1~2つくらい)。
【0134】
取得ソフトウェア104が心拍相と呼吸期との一致を探るとき、各時系列の単一点によって表される位相が整列する可能性は低い。結果として、単一点の一致を探す撮像方法は、極めて確率の低い一致を取得ソフトウェア104が探し出すまで待たなければならないので、完了までより長い時間がかかる。しかしながら、心臓ゲート枠は一致枠のサイズを拡張するため、撮像にかかる時間が短くなる。
【0135】
信号処理ソフトウェアの計算時間を更に短縮するために、信号処理ソフトウェアは心拍相を予測しない。代わりに信号処理ソフトウェアは、心臓が肺の急速な変位をもたらさない特定のゲート枠を目標とする。
図12は、本開示の一部の実施形態による、心臓誘発性肺運動がゆっくりと変化するように、ECG信号のT波及びP波の位置に基づいて選ばれた時間内ゲート枠の例である。点線は心拍による肺運動を示す。肺運動変化率(例えば、速度)は、点線の傾きで表される。点線の傾きが小さい場合、変化率が小さく、対応する心拍相が理想的なゲート枠になる。
図12は、ゲート枠がT波とP波との間に(一貫して)発生し、P波に向かってより歪んでいることを示している。ゲート枠において心拍による肺運動は最小限に生じる。
【0136】
上記では、目標とする呼吸期が所望の心拍相と一致し得る枠を維持しながら、肺に対する心臓の物理的影響を最小限に抑える理想的な心臓ゲート枠を特定する方法について説明した。一部の実施形態において、GREX撮像システム100は、心拍相と呼吸期を区別する信号処理の差(例えば、心拍相は周期的且つ安定している)に基づき、心拍相をゲート制御する代わりに、予測する。心拍相は周期的且つ安定しているため、逆伝播法を用いた教師なし多層パーセプトロンにより、時系列予測プロセスの代わりにパターン抽出に基づいて、次の心拍を予測することができる。
【0137】
図13は、本開示の一部の実施形態による、心臓ゲート枠のリアルタイム識別の代わりに心拍相予測を用いる別のGREXプロセス1300の概略フローチャートである。この場合、トレーニング枠の20秒(心拍数20~22)がアルゴリズムのトレーニングに使用され、残りの10秒(心拍数10~11)が多層パーセプトロンノードの重みの検証に用いられる。ノードの重みは、トレーニングセットのモデルエラーが最小となるまで、勾配降下最適化によって繰り返し決定される。トレーニング済みモデルを10秒の検証データに適用し、検証データにおける多層パーセプトロンの心拍相予測が不十分である場合、ノードの重みを再度計算する。
2.3.論理アルゴリズム118
【0138】
心周期におけるECGのT波とP波を識別する医療アルゴリズムとシステムは既に存在する。心拍相センサ112は心周期を連続的に測定するため、T波とそれに続くP波との時間間隔(心周期の一定の割合に等しく、従って心拍数に比例する)も周知である。論理アルゴリズム118は、時間間隔内のECG特徴を用いて、ゲート枠が、例えばT波とP波の中間で開始し、論理アルゴリズム118がP波を識別した後に閉じるように、ゲート枠を開始する前に短いタイムラグを導入する。
【0139】
図14は、本開示の一部の実施形態による、早期呼気相、後期呼気相、最大呼気相、早期吸気相、後期吸気相、最大吸気相(左から順番に)など、呼吸周期の異なる呼吸期に対応するトリガー済みX線画像撮影枠の例である。この場合、取得ソフトウェア104は、単一の呼吸周期を表す少なくとも6つの呼吸期を識別する。トレーニング期間中に、取得ソフトウェア104はサンプルの分布を生成し、論理アルゴリズム118は、論理アルゴリズム118の目標呼吸期を定義する一回換気量パーセンタイルを計算する。
図14に示される矢印は、論理アルゴリズム118が撮像トリガー信号を生成するはずの目標呼吸期と一致する6つの心臓ゲート枠を指し示す。取得ソフトウェア104が呼吸期を取得すると、自動検証を生成し、同じ呼吸期の重複撮像を防止する。
【0140】
図15は、本開示の一部の実施形態による画像取得トリガープロセス1500の概略フローチャートである。心拍相センサ測定値は、
図12を参照して前述した通り、心臓ゲート枠を識別するために使用される。呼吸期センサ110の測定値は、
図11を参照して前述した通り、呼吸期を予測するために使用される。論理アルゴリズム118は、心拍相ゲ
ート枠と予測呼吸期との一致を識別する。一致が見つかると、呼吸期のリストを検証し、呼吸期が既に取得されているか否かを判定する。呼吸期が以前に取得されている場合、撮像トリガーパルスを生成しない。呼吸期がまだ取得されていない場合は、撮像トリガーパルスを生成絵し、患者の解剖学的構造のスナップショットを取得する。呼吸期、心拍相、3D空間位置ローカライザ300の測定値を記録し、画像にタグ付けする。呼吸期を全て取得すると、画像の重複撮影がないように呼吸期リストを更新する。
2.4.トリガー生成(ゲート制御)
【0141】
X線ユニット108は、一連の電気ピンを含むポートを有する。ピンのうち1つは、放射線被曝のタイミングと期間を定義する電気インパルスを受け付ける。心臓ゲート枠内の論理アルゴリズム118の識別済み呼吸期に基づいて、トリガー生成器は、電気インパルスとして方形波トリガーを生成する。ベンダー固有の差し込みプラグを備えた光ファイバーケーブルにより、生成されたトリガー信号をX線ユニット108に送信する。
第3章.後処理ソフトウェア
【0142】
ハードウェアボックス102(第1章)及び取得ソフトウェア104(セクション2)によって識別された生体情報に基づく撮像トリガーは、画像再構成アルゴリズムにより品質の高いデータを入力する(また、低品質の入力を除去する)。具体的には、正常呼吸中に生体データに基づき目標を絞って画像を取得するプロセスにより、画像の再構成や画像の後処理技術が向上することで、品質も向上する訳である。基礎となる放射線数学の基本的な仮定は、様々なプローブによる撮像角度における解剖学的同等性を前提としているため、正常呼吸中に生体データに基づき目標を絞って画像を取得するプロセスにより、同じ患者に対して異なる角度から異なる時間(例えば、異なる呼吸)で撮影された複数の解剖学的形状の画像をより正確に関連付けることができる。品質を高めた画像は観察値として機能し、生体信号は胸部形状の複雑な生体力学モデルの入力データとして機能する。
3.1.デジタルトモシンセシス系のGREX画像取得
【0143】
3Dの再構成には、複数の撮像角度が必要である。GREX撮像の場合、呼吸期ごとに各角度を取得しなければならない。取得ソフトウェア104(第2章)は、X線ユニット108が特定の形状で胸部を繰り返し撮像できるようにするトリガー信号を作成する。異なる撮像角度と異なる呼吸にて撮像された同一の形状は、3Dを再構成するために用いられる2D投影画像のセットとなる。複数の2D投影画像から3Dを再構成する方法は既に多くが知られている。例示としては、一連の2D投影を使用して3D密度関数を直接再構成する畳み込み逆投影アルゴリズムが挙げられる。「FDK画像再構成アルゴリズム」と呼ばれ、Feldkamp L.A.、Davis L.C.、Kress J.W.、「Practical cone beam algorithm」、J Opt Soc Am 1、612-619(1984)に開示されている。
【0144】
図16は、本開示の一部の実施形態による画像再構成アルゴリズムに用いられる変数の概略ブロック図である。単一の投影映像を取得すると、X線ユニット108は角度βほど移動し、検出器面はX線ユニット108に対して垂直を維持するように移動する。一部の実施形態において、患者の方を動かし、X線ユニット108は投影映像取得の間、同じ位置に留まる。
図17は、
図3のX線ユニット108及び検出器パネル304が移動して複数の撮像角度を得るプロセスの例示を概略的に図示している。例えば、X線ユニット108は、位置1700aから位置1700b、そして位置1700cに移動する。検出器パネル304は、位置1702aから位置1702b、そして位置1702cに移動する。検出器面は検出器面に平行な軸を中心に回転し、結像面はその平行軸zを中心に回転する。検出器面内のピクセルと結像面内の対応ピクセルの位置は、距離sだけ離れている。任意の深度yでの結像面((x、z)平面)の解剖学的情報(f(x、z/y))を、次の式(1)により計算する。
【数7】
【0145】
式(1)において、NOは投影映像の総数、βは各投影映像の角度、dは光源から結像面までの距離、sはピクセルから検出器までの距離、pは回転軸に垂直な検出器軸は、ξは回転軸に平行な検出器軸、R(β,p,ξ)はコーンビーム投影データに対応し(例えば、関数Rは特定の角度に対する検出器の読み取り値、p及びξは座標である)、hは畳み込みフィルタ、W(p)は重み関数である。基本的に、式(1)は、畳み込み、逆投影、重み付けの組み合わせを表す。
【0146】
中央平面にある点の情報は、検出器面と中央平面の交点に沿った投影データから計算できる(y=0)。中央平面に平行な線に沿って検出器面と交差するが、中央平面内では存在しない投影映像(一定で、ゼロ以外のy)は、それ自体が平面を区画する。該平面は、別の傾斜した中央平面として取り扱う。投影映像の完全セットを取得すると(「完全」は法線の周りの全ての回転角度を取得したという意味である)、傾斜面の密度はラドン変換を用いて再構成される。投影映像の完全セットを取得するために、傾斜面の円に沿って被写体の周りで光源を360°回転させる必要がある。例えば、CT撮像では、被写体を中心に完全に360°回転する。太字の「被写体」は、ラドン変換の基本的な仮定(式(1)のR(β,p,ξ)の項にも組み合わされている)、つまり、ラドン変換入力を、時間と空間が変化せず、単一固定、非移動の解剖学的構造の静止物体に対する様々な角度プローブとして見なすという仮定に反すると、撮像の基礎となる地上検証データの解剖学的構造の再構成における代表性を損なうことを暗示(より正確には、明言)している。GREX撮像は、精度高い(異なる呼吸で発生しているいるが、幾何学的に同一の呼吸期)ラドン変換入力のみを生体データに基づく目標化(つまり「事前選択」)の対象としている。ここで、呼吸期(つまり、時間領域の変化)が幾何学的、解剖学的、物理的に厳密に定義された(例えば、定義的に正しい公式化)GREXに用いられ、また実際にはGREX撮像固有の短予測範囲と生体データに基づく見込み目標化を使用しているため、変換の基本的な仮定を定義的・実際的に順守していると言える。
【0147】
但し、胴体の3Dの再構成に必要な多数の投影映像が臨床手技時間を増加させ、患者の被曝線量を増加させるため、360°回転はGREX撮像では実用的ではない。代わりに、GREX撮像は-45°≦β≦45°又は0°≦β<90°を投影角度の範囲とし、最大90°となる。当業者であれば、実験的試験でより最適な投影角度範囲を特定し得るが、理論投影角度範囲は90°を超えないことを理解するはずである。一部の場合、-45°≦β≦45°の方が0°≦β<90°より好ましいが、これは-45°≦β≦45°撮像手順の被曝線量をできるだけ低く維持するためである。X線光子は、0°≦β<90°の投影角度範囲に比べ、-45°≦β≦45°の投影角度範囲の方でヒト組織の透過頻度が低く、よって
図18A及び
図18Bにも図示されているように、光子のエネルギーが低くなり、線量も抑えられる。
【0148】
過度の被曝線量なしに高品質の2D画像を生成するためには、光子エネルギーが患者の体を部分的に透過できる高さでありながら、完全に患者を透過するほど高くはならないようにする必要がある。体の厚みがある患者はない患者よりも高い光子エネルギーを必要とする。|β|>45°の場合、人体は|β|<45°の場合よりかなり厚いことになる。一般的には、β→0°に連れ、光子エネルギーが減少する。一部の実施形態において、GREX撮像システム100は、5つの異なる投影角度で6つの呼吸期を取得て、合計30の投影を行うが、GREX撮像技術の用途に応じて、投影回数は異なってもよい。例えば、乳房トモシンセシスにおいて、乳房の対称的な湾曲は、乳房表面が全ての投影角度で光源から本質的に等距離にあることを意味する。つまり、トモシンセシスは乳房に適してい
る。更に、クレードルに載置したときに乳房は動かない。息を止めた肺撮像に準じる、典型的な臨床トモシンセシスといえる。
【0149】
肺運動及び心臓運動に関する課題は、呼吸期のGREXベースの幾何学的定義に加えてGREXベースの非常に正確且つ高速な見込み目標化予測アルゴリズム(2.1及び2.2)によって解決できるので、GREX撮像ステム100は3D空間位置ローカライザ(1.1)により集めた生体表面情報を用いて、変化する胴体の曲率を処理することができる。生体表面情報は、画像の後処理を支援して、撮像フィールドの組織密度の減衰に対処する。これにより、以前は無視されていた減衰源を定量化し、最終的にはより忠実な画像再構成を実現する。要約すると、GREX撮像技術は、デジタルトモシンセシスにより、息止めをさせなくても(「動的」)肺や心臓を撮像できるようにする。
【0150】
GREXベースの3D再構成は、患者個人に合わせてもよく(個別化された角度と対応アークを用いるカスタム医療)、「汎用の最小手順時間と汎用の最小送達線量」(およそ5つの離散角度±3角度において過去の再構成方法統計と、患者の以前のGREXベースのデータセットの数を考慮)として用いられてもよい。
【0151】
図19に示されるように、X線ユニット108の回転が狭い範囲の角度をなす場合、深度分解能は、X線ユニット108の回転がより広い範囲の角度をなす場合よりも低くなる。運動があれば、大きさは関係なく再構成された画像には画像アーチファクトが発生し、一般的には、偽陽性の癌を検出する結果となる。しかしながら、GREX撮像システム100の独自のハードウェアボックス102(第1章)は、胸部の形状が臨床的に同一になるように画像を撮影するタイミングを取得ソフトウェア104(第2章)に通知する生体信号を収集し、それによってスマート胸部デジタルトモシンセシスを可能とする。
【0152】
一部の実施形態において、GREX撮像技術は、1つの呼吸期中に投影角度を変化させることができるが、異なる時点(GREX撮像の「呼吸期」の定量的定義によって定義される)で捕捉された複数の投影角度は、全て同じ呼吸期に対応する。つまり、全てが1つの胸部形状を撮影していると見なされる。更に、GREXベースのトモシンセシスでは、全てのピクセルにわたる検出器の最終的な光子数と検出器面の空間における光子数の分布が、複数の角度でプローブされた単一の胸部形状を反映しているため、深度情報を取得することができる。
【0153】
GREX撮像技術では、X線ユニット108及び検出器パネル304を非電動アームやスタンドに取り付けられることもできる。GREX撮像手順における手動アームの例は、
図20に説明されている。
1)β
1位置では、必須である胸部形状(「GREXの定量的に定義された呼吸期」)6つを全て撮像する。
2)臨床医はX線ユニット108及び検出器パネル304の向きを物理的に変えて、β
2位置で患者を撮像する。
3)患者に対するX線ユニット108及び検出器パネル304の向きは、3D空間ローカライザで検証するので、β
2で撮像することができる。
4)β
2において、最初の呼吸中に必要な6つの胸部形状画像のうち4つだけが取得された場合、残りの2つの胸部形状画像が取得されるまで、患者はβ
2位置で通常どおり呼吸を続けければいい。
5)呼吸の形状6つを全てβ
1とβ
2で取得したので、X線アームを再配置し、各撮像角度を(β
2→β
3;β
3→β
4;β
4→β
5)の順番に得る。
6)ワークフローの→矢印で示されているように、手順の終わりまでX線アームは計4回のみ移動している(β
1→β
2;β
2→β
3;β
3→β
4;β
4→β
5)。
【0154】
GREX撮像技術では、手順中にアームを4回のみ移動しているので、臨床医は、6つの呼吸期でアームをβ1からβ5へ移動させるくらいしかX線アームと相互作用しておらず(例えば、X線装置の向きを30回変える)、手順時間、手順中の臨床医と機器の相互作用、X線アームの摩耗の程度を最小限に抑えることができる。
【0155】
一部の実施形態において、3D空間位置決めローカライザは、3つの個々の要素、つまり、患者の姿勢や位置、X線ユニット108の位置、空間内の検出器の位置に対して、事前の位置検証や安全インターロックを可能にし、また、軸や他の要素の位置に対する各要素の位置/配置において集合的な一貫性を保つことができる。GREX撮像が呼吸期を幾何学的に定義するので、事前の位置検証と安全インターロックも可能となる。従って、GREX撮像システム100(見込み呼吸期予測アルゴリズム)は、X線アーム又は検出器のいずれか(或いは両方)、又は患者の姿勢が特定の角度βに対して空間に誤配置された(又は一貫性を欠如している)としても、(安全インターロックの場合に)トリガーアルゴリズムの「ビームオン」開始を防止するソフトウェアベースの安全・品質保証制御機能を使用者に提供できる。
【0156】
一部の実施形態において、3D空間位置決めローカライザは、手順中に機器の座標を全て記録するので、画像再構成技術は、各β角度やそれに関連する不確実性の(事後)定量化ができるという利点を有する。
【0157】
図21は、本開示の一部の実施形態による、GREX撮像システム100が各撮像角位置から撮影した2D投影映像データから静止画像キューブを再構成する方法を示すブロック図の例である。具体的には、
図21は、冠状や矢状面自体が撮像角度位置(例えば、投影角度)の外側限界/境界を形成するGREX撮像の例を示す。i番目の平面のX線投影映像は、6つの呼吸形状のそれぞれにつき、単一の撮像角度位置(β
i)から撮影される。i=1からi=nの平面投影の合計は、i=1からi=nの投影を用いてプローブした(v
1,f
1)形状の(x,y,z)における深度情報を再構成(式1)し、それぞれが(他の投影と比較して)固有の深度で焦点面を有する。
【0158】
2D投影映像データは、各投影角度(s)で6回取得される(早期吸気(EI)、後期
吸気(LI)、最大吸気(MI)、早期呼気(EE)、後期呼気(LE)、最大呼気(ME))。簡単に言えば、投影角度は0°から90°の範囲となる。X線ユニット108は、全ての呼吸期が前の投影角度で取得された場合にのみ、次の投影角度に移動する。
2D投影は呼吸期に従って分類されるため、静止画像キューブが再構成され(例えば、(v1、f1)で胸部形状をプローブしたβi=1からβi=nの投影角度まで)、各呼吸期における胸部の体積を表す。静止画像キューブは、下記の3.3で説明する方法を用いて時間的に補間される。
【0159】
各角度βで取得されたX線投影映像は、ARIMAモデル(2.2)を使用して識別された目標の呼吸期でも取得される。目標の呼吸期が取得された後、X線ユニット108は次の撮像角度位置に移動する。
図22は、最大吸気相と最大呼気相のみを取得ソフトウェア104で取得した例を図示する。この例では、最大吸気相と最大呼気相がβ
1で撮像された後、X線ユニット108がβ
2に移動し、最大吸気相と最大呼気相をβ
2でも取得する。目標の呼吸期が全ての撮像角度位置で取得されると、画像はそれぞれの呼吸期に従って分類される。呼吸段期に従ってX線画像を並べ替え、生体的に定義された6つの呼吸期に従って投影映像をグループ化する。呼吸期は異なる呼吸中に取得されるが、精度高いARIMAモデルにより、異なる投影角度で撮影されたX線投影映像であっても、一回換気量と気流パラメータは確実に同一である。GREX撮像は、肺が複数の時点で「同じ胸部形状」に存在するように、「同じ胸部形状」を生体的に定義する。ARIMAモデル(2.2)は高速予測法であるため、GREX撮像は異なる角度で同じ生体呼吸期をプローブ
することになる。胸部形状予測エラーは、ARIMAモデルの短予測範囲を用いて最小化する。個々の角度の深度情報の連合同等性(全体として、実際の構造的深さ情報を生成するため)は、様々なプローブ角度にわたる胸部の幾何学的位置の同等性(一貫性、近似許容範囲内)に依存している。このように、呼吸期予測の精度は成功的な画像再構成を保証する。
【0160】
呼吸期で分類された投影映像を用いて、式(1)で与えられる前述の標準FDK画像再構成アルゴリズム(又は同様のコーンビーム形状画像再構成アルゴリズム)により静止画像キューブを作成する。画像再構成アルゴリズムは、呼吸期で分類された投影映像を用いて、呼吸期で分類された静的画像キューブを作成する。各呼吸期には、個別の画像キューブがある。静止画像キューブは、単一の呼吸期で解剖学的構造を表すため、静止キューブと呼ばれる。目標の呼吸期全てを表す静止キューブを組み合わせ、時間的に補間することで(3.3を参照)、3D静止画像キューブから3D画像キューブ動画を作成する。
【0161】
GREX撮像システム100は、統計的画像再構成により合理的に達成可能な最低レベルに被曝線量を維持する。取得された各画像は、撮像プロセス全体の線量を増加させるが(臨床的に望ましくない)、画像再構成に用いられる追加情報を提供する(臨床的に望ましい)。フーリエ変換やフィルタ処理逆投影法に基づく従来の画像再構成は、欠落した情報、例えば欠落した投影角度βを処理できないため、画像アーチファクトができる傾向がある。例えば、投影が5°ではなく10°ごとに行われる場合、前者と後者とを比べ、静止画像キューブの作成に利用できる情報は半分になり、線量も半分くらいになる。統計的反復画像再構成法を以ってすれば、不完全な画像データセットにより生じる情報の欠落にも対処できる。
【0162】
GREX撮像システム100は、様々な既存の統計的画像再構成アルゴリズムを用いて、画像再構成作業を完了してもよい(例えば、静止画像キューブを構築する)。一方、GREX撮像システム100は、独自のフィードバックステップを実装し、質量保存の法則ベースの境界条件に準拠することにより、従来の統計的画像再構成アルゴリズムを改善することができる。
【0163】
GREX画像は、物理法則に統制される生物物理学的量によって生物理学的に定義されるため、物理学の基本原理をGREXの統計的画像再構成に適用することができる。各画像と結果として得た画像キューブに生体タグを付け、更に、患者を撮像していない場合でも手順中に連続生体データストリームを収集することで、質量交換(吸気・呼気)と体積変化の呼吸ダイナミクスが分かる(スキャンの過程で一貫している不変の肺組織量の問題が解決できる)。静止画像キューブは、肺などの動く器官から初めて構築可能となるため、質量保存の法則を適用できる。これは、異なる時点で同じ胸部形状に正確にラベルを付けて取得する見込み予測/トリガーアルゴリズムの速度や精度(2.2及び2.3)によるものである。言い換えれば、静止画像キューブ内の組織の質量は、任意の静止画像キューブとその次の静止画像キューブで変化してはならない(例えば、質量保存の法則により変化しない)。理想気体の法則に基づくと、室温の空気と肺内の空気の比は1.11である。センサデータからの画像キューブの一回換気量を得て、1.11の比と、室温を基準とした偏差の質量/体積空気曲線を用いると、吸気の質量(絶対値、並びに異なる呼吸期の画像キューブの比としての相対値)を判定できる。
【0164】
GREX撮像の質量保存の法則ベースの境界条件は、例えば、空気の存在によりボクセルが人為的に暗くなり、統計的画像レジストレーションアルゴリズムが物体の密度を正確に決定する能力に悪影響を与える可能性があるため、非常に役立つ。取得した投影映像を空気量の差について補正し、スキャンの過程で一定である必要がある量(例えば、肺組織の質量)を一貫して分離することにより、GREX撮像は、静止画像キューブの生成に用
いられるより精度高い画像再構成を生成する。
【0165】
異なる撮像角度、同じく生体的に定義された呼吸期で撮影された2つのGREX投影映像を考慮すると、肺の空気量は同じであるが、空気が組織を変位させる方法は2つの投影映像において異なってもよく、これによって、影響を受け誤りが生じている2番目の投影映像の結節の明度は1番目の投影に比べて暗くなる。このエラーの結果、1番目の投影映像に表示されていた組織の一部(「結節」)が2番目の投影映像では表示されなくなり、最終的には、結果として得た画像キューブにおいて「結節」の鮮度が鈍くなる(或いは背景と誤解される)。GREX撮像の質量保存の法則ベースの境界条件は、薄暗い結節を持つ前述の画像キューブと、後の呼吸期から得た別の(「結節の」明度を正しく解剖学的に表す)画像キューブとの間で肺の質量が保存されていることを確認するフィードバックステップとして実現される。GREX撮像のフィードバックステップは、1番目の投影映像を絶対的基準として使用するシミュレーションに基づいて予想される形状を更新することにより、再構成中に誤りが生じた画像キューブの2番目の投影映像の補正を行う。これによって、GREX統計画像の再構成は、より精度高い静止画像キューブを生成することができる。
【0166】
既存の統計的画像再構成アルゴリズムに加えて、GREXの後処理ソフトウェア106は、エッジ定義フィルタ(3.2を参照)、空間境界条件(3.2を参照)、呼吸期同士の滑らかな移行(セクション3.3で説明)をデジタル診断用X線画像に組み込むことで、解剖学的撮像を改善している。
3.2.画像フィルタ
【0167】
デジタル診断用X線画像の品質は、X線ユニット108の設定や画像の解剖学的検査部位に左右される。各患者と解剖学的部位の電子密度は異なり、X線がそれを透過して画像を生成する。例えば、肺は主に空気で、大腿骨は骨で構成されているため、大腿骨の撮像は胸部の撮像よりも必要なX線エネルギーが高い。高エネルギーのX線が低エネルギーのX線よりも体の透過度が大きいことを考慮すると、フラットパネル検出器に到達するために体から発散されるX線の数は、同じ解剖学的形状を撮像しても高エネルギーのX線と低エネルギーのX線で異なる。身体から発散されるX線が多すぎると、光学写真の露出オーバーと同様に、フラットパネル検出器の露出オーバーになってしまう。X線ユニット108の設定が解剖学的画像検査部位に最適でない場合、画質は大幅に低下する。臨床診療では、商業ベンダーが、選択された解剖学的部位に最適するX線ユニット設定を大まかに推定するデジタル診断用X線ユニットの撮像プロトコルを考案している。しかしながら、最適なチューブ設定の概算は、各患者の解剖学的部位の潜在的に重要な解剖学的変動に対処できるようにカスタマイズされていないという短所がある(例えば、肥満男性の胃と平均体重の男性の胃は異なる)。実際、ベンダーによる既存の撮像プロトコル設定は、概ねの見積もりに過ぎず、高品質の画像の形成には適していない。
【0168】
最適なX線ユニット設定や他の撮像パラメータが撮像前に不明な場合(現在の医学界もそうである)、デジタル画像フィルタを戦略的に活用し、X線ユニット設定が最適でなくとも画質を向上させることができる。改善された画像は、人間の目にはほとんど見えない解剖学的特徴の視認性を高める。例えば、冠状面では、すべての肋骨がデジタル診断用X線画像に表示されない場合がある。後処理ソフトウェア106は、ラプラシアンフィルタなど、エッジ強調フィルタで冠状面画像をフィルタリングし、元の画像の肋骨境界を人間(例えば、放射線科医)の目では視認できない場合でも、結果として得られた画像に全ての肋骨の境界を表示する。後処理ソフトウェア106は、フィルタリング済み画像を元の画像とオーバーレイし、元の画像に強調済み(例えば、フィルタリング後)の以前は見えなかった肋骨のエッジを強調表示する。使用者が適用できる画像フィルタには、ラプラシアンフィルタ、ハニングフィルタ、バターワースフィルタ、Parzenフィルタ、ウィ
ーナーフィルタ、Metzフィルタ、Rampフィルタ、非線形空間平均フィルタ、ハイブリッドフィルタが含まれる。
【0169】
一部の実施形態において、後処理ソフトウェア106は、3D空間位置ローカライザ300の皮膚表面測定値を用いて、各呼吸期で撮影された画像に対して最適な撮像パラメータを計算する。患者が呼吸すると、より多くの空気が吸入され、胸囲が増加するため、体の電子密度が変化する。患者の直径が増加し、患者とX線ユニット108との距離は減少して、患者と検出器パネル304との距離も減少するので、結果として生じるX線画像に画像ノイズが追加的に入る。3D空間位置ローカライザ300は、X線ユニット108及び検出器パネル304に対して、各画像における患者の皮膚表面位置を追跡する。皮膚表面位置の追跡により、デジタル診断用X線検査に用いられる固有の測定値を提供することができる。
【0170】
現存のデジタル診断放射線学は、電離箱で測定された線量指数の読取値を、概算した患者の体格指数にスケーリングすることで成立する。放射線科医は現在、2つの測定のみを行っている。直径16cmの組織密度に相当する固体水円筒形ファントムを用いる測定と、直径32cmの実質的に同一のファントムを用いる測定である。X線ユニット108は、ベンダーの定義に従い、様々な解剖学的位置に対して「1つのサイズで全て(患者)をまかなう」プロトコルを内蔵している。例えば、ベンダーは、患者の胸の直径に関係なく、放射線科医が選択し得る画像設定が組み込まれた単一のプロトコルのみを提供する。つまり、胸部に厚みのある男性でもそうでない男性でも、同様の撮像設定で画像を取得する。
【0171】
GREX撮像システム100の3D空間位置ローカライザ300は、患者の胸部直径の個別測定値をリアルタイムで生成する。技師が患者に合わせてカスタマイズされたX線ユニット設定を選択すると、測定が開始される。患者が呼吸していると、胸の直径は変化する。患者の胸部の直径が変化すると、技師は最適の撮像パラメータを設定して患者の胸部の直径に一致させることができなくなる。一方、リアルタイム且つカスタマイズの胸部の直径の測定値を用いると、後処理で画像ノイズを除去し、最適な画像パラメータで撮影されたX線画像をシミュレートすることができる。
【0172】
図23は、本開示の一部の実施形態による、ノイズ無しの肺画像を計算して最適のX線ユニット設定で撮影した画像をシミュレートする画像フィルタリングープロセス2300の概略フローチャートである。第2章で説明しているように、画像を取得した後、首の領域を横方向(左から右)に通過するセグメントのラインプロファイルを用いて気管を識別する。首は筋肉、骨、動脈で構成されているが、気管には空気しか含まれておらず、組織よりも密度が著しく低いため、気管は他のすべての組織から際立ってしまう。ラインセグメントは空気の位置を示し、空気に割り当てられたピクセルを含む小さな領域が識別される。X線画像の画像ノイズは、画像全体を小さなパッチに分割して計算される。ガウスノイズはパッチごとに個別に推定され、ノイズの量が最も少ないパッチがテクスチャマッピングに使用される。テクスチャマッピング法では、勾配共分散行列を用いて、各パッチの初期テクスチャレベルを推定する。初期ノイズレベルが最も小さいパッチでは、パッチのノイズ推定値が勾配共分散行列の追加の反復で収束するまで続く反復プロセスで、ノイズレベルが再推定される。弱いテクスチャパッチは空気中のものであると想定される。空気は患者から離れた場所、例えばX線画像の上隅に存在すると思われる。パッチのノイズレベルを推定すると、画像全体の基準ノイズレベルが得られる。次に、反復勾配共分散行列が識別した基準ノイズレベルを画像全体から差し引き、気管内のノイズのない空気密度の推定値を取得する。
【0173】
後処理ソフトウェア106は、肺の初期位置を推定するために、3D空間位置ローカラ
イザ300により提供される表面位置推定に(患者ごとに個別にスケーリングされる)ヒト骨格モデルをオーバーレイする。個別にスケーリングされた患者の骨格は、皮膚表面に存在する視認できるランドマーク(例えば、鎖骨、回旋腱板、肩甲骨、椎骨)を用いて、X線画像に対して剛体位置合わせを行う。X線画像に対して骨格の剛体位置合わせを行うと、骨格から胸郭の位置が分かる。胸郭自体は、肺の端部と気管のノイズ無し空気密度の推定値に近いピクセル値の境界条件を提示する。肺の端部(胸郭の位置を介して)と、気管のノイズ無し空気密度の推定値に近いピクセル値の両方は、領域形成アルゴリズムによってシード位置として自動的に識別される(領域形成アルゴリズムが開始して、その後、半径方向外側に成長していく位置)。領域形成法は、領域ベースのセグメンテーション法である。セグメンテーションでは、まず、画像の初期シード点のセットを識別し、次に初期シード点の隣接ピクセルを調べ、隣接ピクセルを領域に追加する必要があるか否かを決める。このプロセスは、一般的なデータクラスタリングアルゴリズムと同じ方法で繰り返される。言い換えると、領域形成アルゴリズムは、シードピクセルの初期配置を使用して、「類似」ピクセルを付加する統計的プロセスを使用して外側に拡張する。領域形成アルゴリズムは、識別ピクセルが併合クラスターと統計的に異なるまで続行される(類似ピクセルを併合し続ける)。
【0174】
実際には、GREX撮像システムで領域形成アルゴリズムは、重要な解剖学的ランドマークインターフェイス(例えば、胸郭の強調ピクセルに囲まれている肺)で「停止」する(例えば、ピクセルの非類似性を検出する)。領域形成アルゴリズムが肺組織に属すると識別していないピクセルはマスクされ(マスク画像は、元の画像から差し引かれると構造を強化する画像として定義される)、別途の画像2つを形成する。別途の画像2つとは、(i)セグメント化された肺、(ii)その他の人体組織である。放射線科医の診断可視性を向上させる正確且つノイズ無しセグメント化肺気量(例えば、肺以外の組織によって視覚的に隠されていない肺気量)を提供するため、ボディマスク(例えば、肺と関連性がなく、従って視覚情報量が少ない)に関する組織が肺の画像から削除される。例えば、シミュレートされた各撮像光線投影の肋間筋に属するピクセルは、セグメント化肺画像から完全に差し引かれる。肺組織の視覚化を改善するための肺画像から前述のようにボディマスクを減算し、更に、ボディマスクを用いて、3D空間位置ローカライザ300で計算した患者表面位置に対して第2の検証を行う。例えば、後処理ソフトウェア106は、領域形成アルゴリズムがボディマスクとして識別するピクセル数を計算し、次に、胴体の高さに沿った様々な位置での体径を計算する。この体径の計算は、患者の体径に対する3D空間位置ローカライザ300の推定値と厳密に一致する必要がある。そうでない場合、精度を高めるために3D空間位置ローカライザ300を再較正する必要があることを示し得る。
【0175】
臨床使用者がボディマスクのより正確なビューを希望する場合(例えば、臨床的・教育的な理由により)、ボディマスク画像は最適なX線ユニット設定でシミュレートされ、ノイズの形態と潜在的なアーチファクトの原因をボディマスクから取り除く。次いで、ボディマスクとセグメント化された肺を再び組み合わせ、アーチファクトやノイズのないX線画像を形成し、構造の輪郭形成などの臨床用途を更に総体的に改善する。
3.3.生体力学モデリング
【0176】
後処理ソフトウェア106で用いられる生体力学モデルは、物理学の第一原理、つまり質量保存の法則と理想気体の法則に基づくものである。後処理ソフトウェア106の生体力学モデルの目標は、臨床医の疾患診断能力を高める生物理学的指標を決定することである。問題の生物理学的指標には、肺組織要素の応力やひずみが含まれるが、これらに限定されない。
【0177】
力を印加すれば機械的システムは応力を発生させる。肺の場合、機械的システムの要素
を構成するのは肺組織である。医用画像から可視の肺組織は、実質(肺胞嚢、肺胞壁、気管支、血管を含む)で構成されている。実質は肺機能に直接関与する。生体力学モデリングに適する組織要素は、内部が均一になるように小さく、更に呼吸刺激に応答して統計的に安定している必要がある。肺の医用撮像範囲における一般的なボクセルサイズは1mm3~3mm3であり、125~375個の肺胞に相当する。ボクセルは密度がほぼ均一であり、呼吸刺激に対して安定した応答ができるほどの肺胞を含んでいると見なされる。肺胞は六角形の配列に配置され、共有している各肺胞壁からの法線応力の膨張により膨張する。肺組織要素の膨張する正常な応力の合計から、肺胞が経験して呼吸刺激により生じる圧力の推定値を得ることができる。膨張応力は、肺胞壁の反動応力により相殺され、組織要素を通る気流が0の場合、2つの応力が平衡状態となる。肺の一回換気量の変化により肺組織要素の位置が任意の方向へ空間移動すると、肺組織要素の対応面にかかる通常の応力に対する組織要素の応答によってモデリングすることができる。言い換えると、生体力学モデルには、一回換気量の増加に対する肺組織要素の応答を記述するベクトル項 が含まれ、ベクトル項は通常の応力に関連している。
【0178】
ひずみは、応力に対する機械的システムの応答として定義される。要素(例えば、組織)の観点からみると、応力は変形力であり、ひずみは復元力である。肺組織表面の応力ベクトルには、2つの要素、つまり(i)法線応力(それぞれ膨張や収縮をもたらす肺組織要素の外向き又は内向きの方向の運動に関連する)、(ii)法線応力と直交し、気流により誘発される圧力の不均衡から生じるせん断応力が含まれる。定義上、せん断応力の直交成分は肺気量の変化に寄与しない。法線応力/せん断応力と一回換気量/気流との関係は、
図10に図示されている「気流と一回換気量の関係」プロットに図解されている。呼気は、気流が0(曲線の左端)である最も低い一回換気量に当たる。吸入中、気流は正であり、一回換気量は増加している(曲線の上部)。気流が遅くなると、一回換気量は最大となる。一回換気量が最大(曲線の右端)に近づくと、気流は急激に減少し、肺の空気排出量は増加し始める。肺がより多くの空気を排出するにつれて、一回換気量も減少し始める。一回換気量は、気流が負の場合に減少し、一回換気量が残存容量に達して気流がゼロになるまで減少し続ける(例えば、呼気)。要するに、肺組織要素の運動は、一回換気量と気流呼吸刺激によって定義される。肺組織要素の運動は、要素に作用する法線応力とせん断応力による。肺組織要素の形状変化(例えば、圧縮や伸長)は、応力ではなく、ひずみによりモデリングされる。
【0179】
モデルを用いた医学的分析は力の定量的分析に依存しているので、モデルは医学分野において新しい診断を可能とする。肺の機能的挙動(例えば、肺組織の運動)に対する臨床的観点からの視覚化や分析ができるようになったため、基本的には、肺の各ボクセルにおける応力とひずみ力のバランスで肺の健康状態を評価する。
【0180】
モデル構築の第一歩は、肺の一部である組織とそうでない組織を特定することである。このため、GREX撮像技術は、複数の構成(6つの異なる呼吸期)で胸部形状のスナップショットをいくつか取得する。肺は、気管の空気密度を領域形成アルゴリズムの最初の開始点として用いる領域形成セグメンテーションアルゴリズムに基づいてセグメント化される。GREX撮像システム100は、生体力学モデルを構築するために2つの変形可能な画像に対してレジストレーションを行う。一方は肺組織に作用し、他方は肺以外の組織(例えば、胸壁、肋骨、肝臓、心臓、気管、食道など)に作用する。領域形成アルゴリズムから得た結果は、変形可能な画像のレジストレーションの前に、肺組織と肺以外の組織で区別しておく。
【0181】
1つは肺用で、もう1つはその他の組織用である、2つの変形可能なレジストレーションを使用するGREX撮像システムは、肺の運動と材質特性がその他の組織とは異なるという事実に基づいている。肺と他の組織の全体に対して変形可能な画像レジストレーショ
ンが1つのみ使用される場合、レジストレーションは、肺組織よりもその他の組織に大きな重みを割り当てる。つまり、肺組織に非現実的に低い重みを付ける。従って、運動の範囲が非現実的に制限されてしまう。GREX撮像技術は、計算が複雑な肺表面での潜行性運動など、潜行性肺運動を視覚的に解明するために構築されたものである。
【0182】
画像における組織運動を追跡できる変形可能な画像レジストレーションアルゴリズムとして、オプティカルフローアルゴリズムが挙げられる。
図27は、本開示の一部の実施形態による、多重解像度3Dオプティカルフローアルゴリズム2700の概略フローチャートである。具体的には、3D多重解像度オプティカルフローアルゴリズムは、各構造の明度やコントラスト、或いはその両方に基づいて2つの異なる画像の構造を識別する変形可能な画像レジストレーションを実行する。肺以外の組織が肺組織と比べてより明るい(例えば、密度が少なくとも10倍高い)特徴を有する解剖学的構造(例えば、肋骨、胸筋、胸骨など)を含むことを考慮すると、単一の3D多重解像度オプティカルフローアルゴリズムを肺以外の領域と肺領域の両方に適用すると、密度の低い肺組織をアルゴリズムで人為的に優先することができなくなる。アルゴリズムの計算リソースは、肺以外の組織に存在する明るいコントラスト構造(例えば、肋骨など)に優先的に割り当てられる。計算リソースの割り当てが肺組織のダイナミクスを優先的に無視している以上、肺組織の潜行性運動を視覚的に解明するというGREX撮像の目的を真正面から違反してしまう。
【0183】
高コントラスト構造にリソースを優先的に割り当てるのは、3D多重解像度オプティカルフローアルゴリズムの特徴であるため、胸部における変形可能な画像レジストレーション作業を、2つの補助作業(例えば、2つの内部的に更に均質な領域)、つまり(i)肺の画像レジストレーションと、(ii)肺以外の組織の画像レジストレーションに分ける。一部の実施形態において、胸部から全体として別々の作業領域2つを解析するために、3D多重解像度オプティカルフローや変形可能画像レジストレーションの前に、肺表面(例えば、肺と、肺以外の組織との境界)の識別が必要となる。空気で満たされた(例えば、視覚的に暗い)領域にある肺の内側から始まり、肺表面境界に向かって外側に拡張していき、肺表面境界で高ピクセルコントラストに遭遇する領域形成アルゴリズムで肺表面を識別することができる。まずは、領域形成アルゴリズムを実行する。
【0184】
肺は胸壁に付着していない。そのため、肺の運動は胸部運動から比較的に独立している。言い換えれば、肺表面境界における予測可能なプッシュプル応答ではなく、他の組織ダイナミクスが機能する。例えば、水平方向に隣接する胸部ボクセルは垂直方向に下向きに移動するため、肺ボクセルは胸部ボクセルが以前存在していた空間へ水平方向に移動する。
【0185】
複雑な運動ダイナミクスを正確にモデリングするために、GREX撮像システム100は、肺表面境界でサーファクタント層にかかるせん断力を定量化する。肺組織と肺以外の組織に2つの別々のセグメンテーションを適用し、力推定の基礎データを得る。セグメント化された肺ピクセルをX線画像から差し引く(例えば、割り当てられた値を削除する)ことにより、力推定の手順を実行できる(再構成された呼吸期画像ごとに実行)。事前にセグメント化された肺は、その他の組織を全て含む画像を提供する元の画像からマスクされる。個々の画像からセグメント化された胸部形状を、他の画像の各胸部形状と位置合わせをして、各肺組織要素の位置を全ての画像で把握する必要がある。多重解像度オプティカルフローアルゴリズムは、異なる呼吸期で撮影された2つの画像の全ピクセルの変位を示す変位ベクトル場を計算し、画像レジストレーションを実行する。実際、変位ベクトル場を知ることにより、胸部形状の全ての肺組織要素の空間的位置を精度高く説明することができる。セグメント化された肺レジストレーションの変位ベクトル場と肺以外の組織の変位ベクトル場の差から、肺と胸壁におけるせん断力の大きさと方向が分かる。
【0186】
150人以上の患者を観察した結果、変位と一回換気量との関係は線形であることが分かった。変位と気流の関係も線形である。多重解像度オプティカルフローアルゴリズムの出力は、測定された一回換気量と気流の大きさのそれぞれについて、座標空間の変位ベクトルとなる。変位ベクトルを全ての呼吸期について計算すると、結果は閉ループ軌道(
図10を参照)となり、これは生体力学モデルの観察値に当たる。下記でより詳しく説明するが、生体力学モデルのパラメータ(一回換気量に関連する法線応力、気流に関連する法線応力、気流に関連するせん断応力を表すパラメータを含むことができる)は、各肺組織要素のQR分解を個別に適用して得られる。パラメータは、各肺組織要素に固有であり(例えば、各肺組織要素には固有の解がある)、呼吸刺激に対する肺組織要素の応答をまとめて記述する。生体力学モデルのパラメータは、測定された一回換気量と気流によって大域にスケーリングされるベクトルである(例えば、一回換気量と気流はスカラー値である)。2つの(ベクトル化)パラメータ間の角度などの生体力学モデルパラメータの関係は、肺の潜在発病率の診断に有用である。肺組織要素の固有の生体力学モデルベクトルパラメータ(例えば、組織の各部分が異なるベクトルパラメータを持っている)に基づいて、肺組織要素の変位は胸部形状にスケーリングされる。胸部形状は、一回換気量と気流の測定値によって定義される。生体力学モデルは、患者ごとに計算することも、複数の患者で共有することもできる。
【0187】
一部の実施形態において、生体力学モデルは肺組織の運動を、肺の一回換気量(T
v)、気流(A
f)、心拍相(H
c)を含む複数の要因の関数に近似する。これらの値は大域値である。例えば、心拍相は胸部の全ての組織要素で同じである。大域値はスカラー数として扱われ、第1章で説明したハードウェアによって測定される。一回換気量、気流、心拍相は全て時間とともに変化する測定値である。各組織要素の固有の応力とひずみの値は、ベクトルp
1
→、p
2
→、p
3
→、p
4
→を用いて次の数式で表される。
【数8】
p
1
→ベクトルは、一回換気量により生じる法線応力である。p
2
→は気流により生じる法線応力である。p
3
→は気流により生じるせん断応力で、p
4
→は心臓の摂動心臓により導入される組織運動である。全体として、閉ループ軌道の任意の点における組織の変位(U
→-U
0
→)は、一回換気量、気流、心拍相によりそれぞれスケーリングされた応力、ひずみ、心臓の摂動運動ベクトルの合計として表される。
【0188】
図24は、本開示の一部の実施形態による、部分的には心臓と肺の相互作用により生じた心臓の近い左肺に位置する組織片の閉ループ肺組織運動軌道の例である。
図24に図示されている波動挙動は、心臓と肺の相互作用から生じる。
図24は、本開示の一部の実施形態による前述の生体力学モデルに基づいて、閉ループ肺組織運動軌道内を移動する肺組織片の位置を決定する方法を例示する概略ブロック図である。
図24は、上記の式で記述された生体力学モデルの3つのベクトルを合計し、原点から閉ループ軌道上の任意の位置に至る単一の組織要素の変位を計算する方法を図示する。
【0189】
生理学に基づいた生体力学モデルを用いて、取得した呼吸期で画像を補間すると、定量的な物理量で生体力学モデルの出力結果の精度を検証できる大きな利点がある。理想気体の法則によれば、肺気量の変化と一回換気量の比は、室温で1.11である。言い換えれば、室内空気密度と肺空気密度の比は1.11です。従って、法線応力ベクトルの発散の体積積分も1.11である必要がある(例えば、
【数9】
Vは全身の体積である)。理想気体の法則は、「サニティーチェック」により、3D空間位置ローカライザ300、呼吸期センサ110、各補間画像に関する有用な品質保証情報
を生成する。
【0190】
GREX撮像技術の生体力学モデリングが診断を強化する方法の例として、撮像検査時に放射線科医の目では視認できない初期段階の肺腫瘍が挙げられる。腫瘍は画像感度によりずっと小さいため、放射線科医には見えない。腫瘍が放射線科医には見えずとも、腫瘍の電子密度は健康な肺組織の電子密度より大きいため、その存在は肺内の力のバランスに影響を及ぼし得る。腫瘍の電子密度が高いということは、腫瘍の材質と機械的特性(例えば、異なる特性応力やひずみパラメータ)が異なると、腫瘍の運動と腫瘍周辺の局所領域の運動(例えば、腫瘍部位に近い健康な組織)の両方に影響を与えることを意味する。局所の健康な肺組織に対する腫瘍の影響は、一般相対性理論の下で質量が時空連続体に及ぼす影響として大まかに類推することができる。巨大な物体が存在するとき、物体の周りの時空は曲がり、物体の周りで光は、その質量が存在しない場合の挙動とは異なる挙動を示す。同じ類推原理が肺にも当てはまり、腫瘍は隣接する健康な組織の運動軌道を歪ませて、健康な肺の運動軌道とは異なる運動を見せる。生体力学モデルの変位ベクトルマップから、医師は、肺組織の組成と生体力学的特性の変化をすぐ把握することができる。つまり、腫瘍を事前に設定しておくと、変位ベクトル場は不自然なベクトルカールやその他の変化した特性を示す。GREX撮像技術の後処理ソフトウェア106によるパラメータマップの作成(3.4を参照)は、今まで使用者には視認できなかった重要な診断情報を視覚的に表示してくれる。GREX撮像技術のパラメータマップは、GREXプラットフォームが医学界で新しく展開する診断の例である。
【0191】
図25は、本開示の一部の実施形態による生体力学モデルの構成要素の動作2500を示す概略フローチャートである。
【0192】
生体力学モデルのプロセスは、定量的手段により、異なる呼吸期で取得された2つの画像(2D又は3D)を生体的に補間する。式(2)は、生体力学モデルの解が2つの呼吸期間の変位であることを示す(U→-U0
→)。上述したように、2つの呼吸期の間の変位(U→-U0
→)は、変形可能な画像レジストレーションを実行して2つの呼吸期に相互インデックスを付けることで検出される。これは通常、次の3つのステップで構成される。
・ステップ1:領域ベースのセグメンテーションを実行して、肺と肺以外の組織との構造的境界を描画する。
・ステップ2:3D多重解像度オプティカルフローを用いて強度ベース構造マッピングを実行し、2つの画像キューブの「同じ」構造を一致させる。
・ステップ3:一部の実施形態において、2つの呼吸期の間の変位の初期推定値(U→-U0
→)を、最適化されるまで繰り返し改善する。
【0193】
図26Aは、本開示の一部の実施形態による呼吸周期中の肺組織要素の運動軌道の図解である。
図26Aでは、画像角度ごとに6つの画像があり、
図14に図示されているように、左から順番に完全呼吸周期の6つの呼吸期のそれぞれ、つまり早期吸気相(EI)、後期吸気相(LI)、最大吸気相(MI)、早期呼気相(EE)、後期呼気相(LE)、最大呼気相(ME)に対応する。有限ひずみ理論によれば、変形無しの構成と変形構成の粒子の位置を結ぶベクトルは、粒子の変位ベクトルと呼ばれる。EI画像キューブ内の特定のボクセルを参照として用いると、6つの画像は、呼吸周期中の元の位置、サイズ、形状における参照ボクセルの変形を示すことになる。肺に空気がどんどん入ると、参照ボクセルは「泡立ち」始める。言い換えると、参照ボクセルに対応する肺組織は、ボクセルが「泡立ち」すると変形する。2つの呼吸期間の変位(U
→-U
0
→)はボクセルの泡立ちや対応肺組織の変形の程度を定量化する。変形可能な画像レジストレーションは、EI画像キューブ内の参照ボクセルがLI画像キューブ内の新しい位置に移動すると同時に、肺組織へのより多くの空気の吸入により変形することを前提としている。呼吸周期が進むと
、参照ボクセルは、それぞれMI、EE、LE、ME画像キューブが図示するように、運動軌道を維持する。言い換えると、参照画像キューブ内の全てのボクセルについて、変位ベクトルのセットを6つの画像キューブ全てに渡って計算する。
【0194】
図26Bは、EI画像キューブと他の5つの画像キューブの間に、5つの変形可能なレジストレーション(2→1、3→1、4→1、5→1、6→1)が存在することを図示する。これらの6つの画像キューブは、対応する6つの既定の呼吸期での患者の胸部の解剖学的構造を表している。ボクセルごとに、6つの呼吸期のそれぞれに対応する画像キューブでベクトル(U
→)が存在する。EI画像キューブに対応するベクトルがゼロであると仮定すると、特定のボクセルの6つの変位ベクトルは、
【数10】
と表され、或いは[U
n
→]と示される。パラメータ「n」は、それぞれの呼吸期に対応する時間依存性パラメータである。
【0195】
同様に、特定の呼吸期「n」の場合、肺の一回換気量(T
v)、気流(A
f)、心拍相(H
c)を含む生体データ行列は、
【数11】
と表され、或いは[B
n]と示される。
【0196】
画像キューブ内の各ボクセルについて、パラメータ行列の生体力学モデルの
【数12】
は、上記の6つの変位ベクトル
【数13】
と、上述の対応する生体データ行列
【数14】
を用いて解くことができる。4つのベクトルは、ボクセルの変位ベクトルと変形を担うボクセルの組織特性を表す。参照画像キューブの各ボクセルに対しては、
【数15】
が成立する。
【0197】
上記のように、3D多重解像度オプティカルフローアルゴリズムを含み、GREX撮像の画像レジストレーションを実行できる多くの変形可能な画像レジストレーションアルゴリズムが存在する。3D多重解像度オプティカルフローアルゴリズムは、観測された様々な一回換気量で撮影された画像間の滑らかな(例えば、流体のような)移行を計算する。2つの呼吸期の間で計算された変位(U
→-U
0
→)は、
図24に示される組織軌道における観測点となる。生体力学モデルのパラメータ(p
1
→、p
2
→、p
3
→、p
4
→)を、例えば、最小二乗回帰で解くと、一回換気量(T
v)、気流(A
f)、心拍相(H
c)が変化し、閉ループ軌道全体を生成する。胸部の全ての組織要素の閉ループ軌道を取得すると、生体的に補間されたと見なされる新しい画像キューブが得られる。表1は、GREXの生体力学モデルの各構成要素とその検出方法を要約している。
【表1】
【0198】
取得された画像キューブ間に対して後処理ソフトウェア106の生体補間を行い、全ての潜在的な呼吸期にデータを入力し、胸部の完全な動画を作成する。一般的に、動画はスムーズなフレーム間の移行のために少なくとも30個のシミュレーション画像を必要とする。
図28Aは、本開示の一部の実施形態による、生体補間法を用いた動画作成2800を示す概略フローチャートである。
図28Bに図示されているように、EI画像キューブに対応する生体データ行列は、T
v=20 ml、(A
f)=20 ml/s、H
c=0.10と想定される。
【0199】
呼吸周期の特定の瞬間、例えばEI+Δt、EI+2Δt、EI+3Δtなどの中間シミュレーション画像キューブ内の各ボクセルは、パラメータ行列の生体力学モデル[P→]、及び特定の瞬間に対応する生体データ行列を用いて計算することができる。
3.4.パラメータマップ
【0200】
GREX撮像技術の臨床的利点として、独自のパラメータマップが挙げられる。GREX撮像技術は、2Dプロット、2Dカラーウォッシュ、3Dプロット、3Dベクトル場マップを用いて、これまで利用できなかった患者の胸部健康情報を使用者に提示する。
【0201】
図29は、健常者の標準放射線写真(左)と、病期1bの左上肺腫瘍(矢印で示された右)を患う患者の標準放射線写真の例である。両方とも、現在のX線撮影分野で用いられる標準のX線写真を示している。
図29の右側の罹患した左肺は初期の肺腫瘍であり、標準のX線写真では読みにくく解剖学的情報しか表示されないため、容易に見つけることができない。それに対して、
図30は、本開示の一部の実施形態による、同じ患者2人の健康状態指標を示す付随GREXパラメータマップを示す。右側のパラメータマップは、標準のX線写真が曖昧であるのに対し、患者が左上肺に疾患を持っていることを明確に示している。枠レベルと画像のコントラストを変更すると、最終的には左上肺の換気ができていない領域が表示される。但し、使用者がこれらの手順を踏まない場合、この初期段階の肺がんの腫瘍を発見する可能性は低くなる。言い換えれば、GREXで生成されたパラメータマップは、使用者が疾患を見逃すリスクを大幅に減らすことができる。
【0202】
まずは、一回換気量に関する法線応力を表す、
図30におけるp
1
→の2Dカラーマップについて考えるものとする。p
1
→の定義に基づき、使用者は、p
1
→が横隔膜の近くでは肺の頂点に比べ大きくなることを期待できる(例えば、一回換気量が増加すると、横隔膜の組織変位は肺の頂点よりも大きくなる)。一般的に言えば、p
1
→の大きさは健康な肺全体で滑らかに変化する。p
1
→の勾配が肺全体で計算された場合、滑らかな関数が
得られる。
図30に図示されている例によると、両方の患者につき、p
1
→パラメータが同様に分布していても、健常者は患者の2倍の組織変位を示す。
【0203】
次に、気流に関連する法線応力とせん断応力の合計を表す、(p
2
→+p
3
→)の2Dカラーウォッシュについて考える。一般的に言えば、パラメータは、気管支樹がより速い速度で肺に空気を取り込む領域(肺の中央)の近くで高くなる。しかしながら、罹患した肺において腫瘍の存在は肺の弾性挙動を実質的に変化させ、機能的に健康な肺組織分布から腫瘍を視覚的に区別させる可能性がある。
図30に図示されている例では、大きさが有意に異なるため、肺腫瘍の存在が左肺から明確に視認できる。疾患が肺領域に影響を与える場合、他の肺組織領域は、疾患領域ではなく健康領域を換気して「たるみを取る」。しかしながら、
図29の左側の図に図示されているように、健康な肺は病気を患う肺より弾力性がある。言い換えれば、気流抵抗は腫瘍の位置で大幅に増加して腫瘍の存在を強調し、呼吸中に適切に換気する患者の能力に対する腫瘍の影響に関する定量分析を可能とする。一回換気量に関連するパラメータと気流に関連するパラメータの比は、左上肺が健常者とはかなり異なるパターンを持っていることを明確に示している。物理的に、より高いパーセンテージは、組織が
図24に図示されている組織軌道の例よりも円形のパターンで移動していると解釈できる。2Dカラーウォッシュの下にある、一回換気量(T
vp
1
→)及び気流(A
f(p
2
→+p
3
→))に起因する観測済みの総運動成分ヒストグラムは、左肺の病気の明確な指標も示す。健康な肺は二峰性の分布A
f(p
2
→+p
3
→)を持っている。しかしながら、片方の肺が疾患を患う場合、全体的な分布パターンは両方の肺で異なる。GREX撮像技術には、Bayesプロセスが含まれ、患者の問診(検査前に患者から自発的に提供された情報)と生体力学モデルのパラメータヒストグラムの分布を活用して、疾患の病因をより適切に分類する。要約すると、複数の新しいGREXパラメータに対する肺疾患の一貫した指標(例えば、
図30に示されるような腫瘍の存在)は、早期発見や疾患診断に大いに役立つ。
3.5.診断用疾患ポインタ
【0204】
肺がん、慢性閉塞性肺疾患(COPD)、下気道感染症、結核は全て、既存のデジタル診断用X線画像で確認し得る疾患ポインタを持っている。但し、診断用疾患ポインタは、疾患の初期段階で常に表示されるとは限らない。しかしながら、
図29及び
図30に示されているように、GREXパラメータは、初期の疾患段階で診断用疾患ポインタとして役立ち得る。医療チームが標準のX線写真のみを検討した場合、肺がんの腫瘍は標準のX線写真に明確に表示されるほど大きくないため、肺がんの存在は検出されない可能性がある。GREX撮像は、生体信号を生体データに基づく目標化した複数の放射線写真と組み合わせて使用し、肺の運動に関する、これまで利用できなかった情報を活用して疾患を診断する。GREXプロセスでは、デジタル診断用X線画像の特異性が低い傾向にある、初期の肺がんに直接対処できる。デジタル診断用X線ベースの診断の既存の感度制限は、疾患を示す患者固有の呼吸情報を用いる、生体情報に基づく撮像により対処する。臨床医は、疾患の発症の早い段階で診断し、肺組織の運動の視覚化とパラメータマップにより疾患の進行度に合わせて患者を監視し続けることができる。機械学習と有限要素解析技術を適用し、肺機能の潜行性パターンや基準線の変化を見つけ出し、使用者は発症時に疾患を検出し、患者の生存率を高め、治療の選択肢を増やす。
【0205】
GREXが診断法に波紋をもたらす別の例としては、肺疾患の病因の分類が挙げられる。生検では、アスベストによる肺疾患とタバコによる肺疾患の症状が異なる。アスベストは、何百万もの微細な繊維で構成された長くて細い繊維状の結晶からなる天然のケイ酸塩鉱物である。吸入されたアスベスト繊維は肺胞に浸透し、最終的には緻密網を形成して、肺胞機能を損ない、肺機能を低下させる。緻密網は癌性組織を集めるので、中皮腫と呼ばれる。標準のX線写真では、プラークが蓄積されたときのみ中皮腫を特定できる。プラークの蓄積は、肺の画像に高密度の硬化(ぼやけ)として現れる。GREXは、使用者がア
スベストの存在を視認する前に、パラメータマップを通じて潜行性アスベストを検出する場合がある。アスベストが網を形成している場合、肺の弾力性が局所的に低下する。弾性の局所的且つ僅かな低下は、パラメータマップ(2Dカラーウォッシュ、パラメータ比、ヒストグラム)に表れる。例えば、弾力性を失った組織では、呼吸中の組織の軌道は楕円形よりも円形になる。これは、p1
→と(p2
→+p3
→)の大きさの比が健康な組織よりも高くなるということである。カラーマップを参照すると、疾患を示すパターンを示す肺の領域が明確に見える。
【0206】
吸入された粒子(非繊維)は、繊維状のアスベスト粒子とは全く異なる。吸入された粒子は肺内に沈着し、気道を「詰まらせ」、瘢痕組織を形成し、網の代わり腫瘍を形成して、肺機能を低下させる。GREXは、健康的な特性と矛盾する肺運動のダイナミクスの微小な局所的変化を検出することにより、粒子沈着が始まっていることを示す。たばこは、肺胞に付着して肺機能を劇的に変化させるタールとラドンを含む。GREXは、肺機能の低下を追跡し、使用者に喫煙習慣の破壊力を患者に示すことができる独自のツールを提供する。COPDは、現在の臨床方法よりもパラメータマップで効果的に解明できるもう1つの疾患である。COPDは現在、肺活量測定検査と標準のX線撮影で検出している。これらの方法は特に感度が高くなく、COPDを早期に検出することができない。なるべく早期に病気を発見すれば、手遅れになる前に予防治療を施し、悪習を変える機会を患者に与えることができる。
3.6.動画プレゼンテーション
【0207】
動画プレゼンテーションのグラフィックユーザーインターフェイス(GUI)の利点は、平面動画と3D動画の結果を表示するクリーンで直感的なキャンバスを提供することである。回転ビュー、動画の一時停止、ルーラなどの機能は、画面上部のタブで表されるビンに配置される。機能を選択すると、ツールチップが変更され、使用中の機能が使用者に表示される。GUIは軽めに設計されているため、古いコンピュータシステムでも問題なく機能する。最後に、動画プレゼンテーションGUIは、注釈/輪郭、考えられる病気のポインタ、クラウドコンピューティングプラットフォームと連携して機能する。
【0208】
医療従事者の使用者は、画像に追加の文書を添付する代わり、医療画像に直接強調表示をし、メモを残すことを好む。医療従事者の使用者は、画像注釈(「注意を引く」矢印と治療メモ)と解剖学的輪郭(解剖学的構造の周りに仮想線を引く)の機能を撮像検査に求めている。医療従事者の使用者は、多くの場合、患者を共同で治療する大規模ケアチームの一員である。次の例では、臨床ケアチームの現在のワークフローと技術的能力について説明する。
【0209】
肺がん患者に撮像検査を行うと、放射線科医が画像を読み取り、放射線腫瘍医に放射線治療の指示が入り、手術を行う外科医による外科的介入の基礎となる。具体的には、放射線科医は腫瘍部位の周りに輪郭を描き、輪郭を描いた画像を放射線腫瘍医に渡す。
【0210】
放射線腫瘍医は、画像に基づいて放射線治療及び/又は腫瘍切除手術の指示を書く。
【0211】
放射線科医が描いた輪郭と放射線腫瘍医の腫瘍切除の指示に基づいて、外科医は腫瘍を切除する。
【0212】
後処理ソフトウェア106は、使用者が動画に直接注釈を付けて輪郭を描くツールを提供し、これによりヘルスケアワークフローが更に合理的なものとなる。この使いやすい機能は、ヘルスケアワークフローを強化し、医療ミスの可能性を減らす。ユーザインターフェイスのインタラクティブな性質により、治療の指示や医学的懸念が全ての使用者にはっきりと認知され、臨床ノートは対応する解剖学的関心領域に正しく表示される。
【0213】
図31A~31Bは患者の肺の撮像方法3100のフロー図である。本開示の一部の実施形態において、下記に説明する動作の一部又は全部は、人間の介入無し(例えば、技師による介入無し)に実行することができる。一部の実施形態において、方法3100は、本明細書に記載の装置のいずれかにより実行される(例えば、
図1に図示されるGREX撮像システム100)。方法3100の一部の動作は、1つ以上のプロセッサ、並びに、1つ以上のプロセッサにより実行されたとき1つ以上プロセッサに方法3100の動作を実行させる命令を格納するメモリを含むコンピュータシステムによって実行される。方法3100の一部の動作を、任意に組み合わせてもよく、順序を任意に変更してもよい。
【0214】
当該方法は、X線撮像装置(例えば、
図1のGREX撮像システム)に対して第1の向きに患者を配置すること(3102)を含む。一部の実施形態において、方法3100は、下記に説明する特定の動作を実行するように修正された既存の医用画像システムで実行される。一部の実施形態において、第1の向きに患者を配置することは、患者を第1の向きに動かす(例えば、回転)ことを含み(例えば、
図35を参照)、X線撮像システム(例えば、X線ユニットと検出器パネル)は固定位置に留まる。例えば、一部の実施形態において、患者は、
図35を参照として説明したPFF3501などの患者位置決め固定具(PPF)に着席しているか、或いは立っている。一部の実施形態において、X線撮像装置に対して第1の向きに患者を配置することは、患者位置決め固定具を回転させることを含む。例えば、一部の実施形態において、方法3100の開始時に、患者の矢状面がX線画像装置の光軸(例えば、X撮像装置がX線を透過させる軸)に対して所定の角度で配置されるように、患者位置決め固定具を回転する。一部の実施形態において、既定の角度は、-45度、-22.5度、0度、22.5度、45度からなる群から選ばれる。
【0215】
一部の実施形態において、第1の向きに患者を配置することは、X線撮像システムを動かす(例えば、回転)ことを含む。その間、患者は固定位置に留まっている(例えば、
図17を参照)。
【0216】
一部の実施形態において、患者がX線撮像装置に対して第1の向きに配置されている間、患者位置決め固定具は、患者を固定位置に維持し(例えば、患者の位置を安定させる)、患者の肺の3D画像は、「静止物体」の仮定に基づいて(例えば、本明細書を参照)再構成することができる。
【0217】
当該方法は、患者の呼吸体積測定値を取得すること(3104)を含む(例えば、患者は正常に呼吸していて、息を止める必要がない)。一部の実施形態において、患者の呼吸体積測定値は、患者の肺気量(例えば、瞬間肺気量)の測定(例えば、直接測定)、或いは患者の肺気量の導関数(例えば、流量)である。一部の実施形態において、下記により詳しく説明するが、患者の呼吸体積測定値は、患者の一回換気量に変換することができる測定値である(例えば、胸部の上昇・下降を測定する)。本明細書で用いられる一回換気量とは、現在の肺気量と既定の基準線との差を意味する(例えば、余分な努力をせず正常呼吸で最大に吐き出すときの量、余分な努力をせず正常呼吸を最大に吸入するときの量、或いはその他の基準体積)。
【0218】
一部の実施形態において、患者の呼吸体積測定値は、患者の呼吸の幾何学的(空間的又は位置的)測定である。
【0219】
一部の実施形態において、患者の呼吸体積測定値は、患者の胸部上昇(及び/又は胸部下降)測定値を含む(3106)。一部の実施形態において、患者の呼吸体積測定値は、3Dスキャナ、肺活量計、腹部ベルトからなる群の体積呼吸期センサ(例えば、
図1の呼吸期センサ110)を1つ以上用いて取得する(3108)。一部の実施形態において、
当該方法は、患者の胸部表面における点群を作成する(3110)ことを更に含む。患者の呼吸体積測定値は、患者の胸部表面における点群から判定されたものである。
【0220】
一部の実施形態において、3D点群は、患者の胸部のメッシュ再構成を生成せず、患者の呼吸体積測定値を決定するために用いられる(例えば、3D点群の生の出力を、メッシュを生成せず、患者の呼吸体積測定値を生成するために用いる)。一部の実施形態において、患者の胸部表面における点群は、3D撮像技術を用いて取得し、患者の胸部における1つ以上の位置を測定する(3112)。例えば、3D撮像技術には、光検出/測距(LIDAR)などのレーザスキャン技術が含まれる。一部のレーザは、患者が衣服を着用しているときでも患者の胸の位置を正確に測定できるため、レーザスキャン技術は非常に有益である(例えば、患者は方法3100を受けている間にLIDAR透過性衣服を着用する)。
【0221】
一部の実施形態において、方法3100は、患者の胸部表面における点群を用いて患者の胸部表面における1つ以上の解剖学ランドマーク(例えば、鎖骨、気管、胸骨ノッチ、胸骨、剣状突起、脊椎などの外部から見えるランドマーク)を識別する(3114)ことを更に含む。当該方法は、患者の胸部表面における点群から患者の胸部内における1つ以上の内側解剖学ランドマークの位置(例えば、患者の肺の位置)を推測することを更に含む。一部の実施形態において、当該方法は、患者の再構成を生成することを含む(例えば、「仮想患者」とも呼ばれる、患者のためのコンピュータモデルを生成する)。一部の実施形態において、患者の再構成を生成することは、患者の内部解剖学的構造の再構成を生成することを含む。一部の実施形態において、患者の内部解剖学的構造の再構成は、組織密度のコンピュータモデル(例えば、3Dモデル)を含む。一部の実施形態において、再構成は、体内の複数の場所での吸収断面積(例えば、X線吸収断面積)を含むか、またはそれらの位置を決定するために使用される。一部の実施形態において、患者の再構成を用いて、X線撮像装置により(例えば、各画像に対して)送達されるX線線量を決定する。
【0222】
当該方法は更に、患者が放射線源に対して第1の向きに配置されている間、並びに、患者の呼吸測定値を取得する間において、患者の体積測定値から患者の呼吸期を判定する(3116)(例えば、患者が正常に呼吸しているときにリアルタイムで)ことを含む。一部の実施形態において、患者の呼吸期は、肺の体積によって定義される。したがって、一部の実施形態において、肺の呼吸期を判定することは、肺の体積を判定することを含む。
【0223】
一部の実施形態において、動作3102以降は、方法3100の撮像期間の一部として実行される。方法3100は、撮像期間の前に、患者の正常呼吸に関する情報が得られるトレーニング期間を設けることを更に含む。例えば、トレーニング期間中、患者の呼吸体積測定値は、患者の複数の呼吸周期にわたって一定の間隔で取得される(例えば、患者の呼吸周期の15サイクル、20サイクル、50サイクルが1回の呼吸に対応すると見なす)。次に、トレーニング期間の体積測定値を用いて、特定の体積測定値を特定の呼吸期に関連付ける。例えば、一回換気量400mlに対応する体積測定値は、最大吸気相に関連付けられ、一回換気量0mlに対応する体積測定値は、最大呼気相に関連付けられる。更に、トレーニング期間中に患者の呼吸に関する統計(例えば、ヒストグラム)を取得し、撮像中に取得した呼吸が「正常」呼吸であることを確認するために使用してもよい(例えば、深呼吸や異常な呼吸などがないこと)。
【0224】
撮像期間中、一部の実施形態において、判定される(3118)患者の呼吸期は、未来(例えば、予測)の呼吸期である。つまり、一部の実施形態において、患者の呼吸体積測定値に基づいて患者の呼吸期を判定することは、1つ以上の現在及び/又は過去の呼吸期から未来の呼吸期を予測することを含む。例えば、予測は呼吸期の時系列に基づいている。一部の実施形態において、1つ以上の現在及び/又は過去の呼吸期から未来の呼吸期を
予測することは、自己回帰和分移動平均(ARIMA)モデルを生成することを含む。一部の実施形態において、予測は、トレーニング期間からのデータを使用する。
【0225】
当該方法は、患者の呼吸期が既定の呼吸期と一致する(例えば、肺気量が既定の肺気量と一致する)と判定された場合に、X線撮像装置のゲート制御を行い、患者の肺のX線投影映像(投影画像と呼ばれることもある)を生成すること(3120)を含む。一部の実施形態において、X線投影映像は、特定の角度で撮影された画像である(例えば、X線撮像装置に対する患者の向きによって決定される)。一部の実施形態において、X線投影映像は、単一のX線曝露を用いて得られる。一部の実施形態において、この方法は、患者の呼吸期が既定の呼吸期と一致しないと判定された場合に、X線撮像装置のゲート制御を放棄する(例えば、患者をX線放射に曝露することを放棄する)ことを含む。
【0226】
一部の実施形態において、当該方法は、患者の呼吸体積測定値から、現在の呼吸が不規則呼吸であるか否かを判定することを含む。当該方法は更に、現在の呼吸が不規則呼吸であると判定された場合、X線撮像装置のゲート制御(例えば、取得)を放棄する(例えば、呼吸期に対してX線投影映像を取得するのに適切な呼吸を待ち続ける)ことを含む。
【0227】
一部の実施形態において、既定の呼吸期は、複数の既定の呼吸期のうち第1の既定の呼吸期である(3122)。一部の実施形態において、当該方法は更に、患者の呼吸体積測定値を取得する間、患者の呼吸期が複数の既定の呼吸期のいずれかと一致すると判定された場合に、X線撮像装置のゲート制御を行い、患者の肺のX線投影映像をそれぞれ生成することを含む。一部の実施形態において、患者の肺のX線投影映像(例えば、X線測定値)は、患者の呼吸体積測定値により判定された患者の呼吸期が、複数の既定の呼吸期のうちいずれか1つと一致する場合にのみ取得する(3124)。従って、患者のX線被曝の総量が減少する。
【0228】
一部の実施形態において、複数の既定の呼吸期は、患者の完全呼吸周期における早期呼気相、後期呼気相、最大呼気相、早期吸気相、後期吸気相、最大吸気相を含む(3216)(例えば、
図14を参照)。一部の実施形態において、患者がX線撮像装置に対して第1の向きに配置されている間に、複数の既定の呼吸期のそれぞれについてX線投影映像を得る。
【0229】
一部の実施形態において、X線投影映像は第1のX線投影映像であり(3128)、当該方法は更に、X線撮像装置に対して第2の向きに患者を再配置する(例えば、患者やX線撮像システムを回転させる)ことを含む。一部の実施形態において、当該方法は、患者がX線撮像装置に対して第2の向きに配置されている間、並びに、患者の呼吸体積測定値を取得し続けている間において、患者の呼吸体積測定値に基づき、患者の呼吸期を決定し続けることを含む。一部の実施形態において、当該方法は、患者の呼吸期が既定の呼吸期と一致すると判定された場合に、X線撮像装置のゲート制御を行い、患者の肺の第2のX線投影映像を生成することを含む。
【0230】
一部の実施形態において、当該方法は、第1のX線投影映像と第2のX線投影映像とを用いて、既定の呼吸期に対応する静止画像キューブを生成することを更に含む(例えば、
図21を参照)。一部の実施形態において、静止画像キューブは、患者の肺の体積の3次元再構成である。一部の実施形態において、X線投影映像は、患者がX線画像装置に対して複数の向き(第1の向き及び第2の向きを含む)のそれぞれに配置されている間に、複数の既定の呼吸期のそれぞれについて得られる。一部の実施形態において、複数の向きは、少なくとも5つの向き(例えば、-45度、-22.5度、0度、22.5度、45度)を含む。一部の実施形態において、複数の向きは、5つを超える向き(例えば、6つ、7つ、8つ、又はそれ以上の向き)を含む。一部の実施形態において、患者がX線撮像装
置に対して複数の向き(第1の向き及び第2の向きを含む)のそれぞれに配置されている間、複数の既定の呼吸期を除いて、X線投影映像を取得しないものとする。従って、5つの向きと6つの異なる呼吸期でX線投影映像が取得されるため、合計30のX線投影映像が取得される(例えば、X線撮像装置は上述の通りゲート制御によりこれらの画像のみを取得する)。
【0231】
本明細書で既に説明しているが、これらの30のX線投影映像を用いて、肺運動に関する3D生体力学モデルを再構築することができる。一部の実施形態において、既定の呼吸期に対応する静止画像キューブ(例えば、
図21を参照)は、既定の呼吸期にて様々な角度から取得した10未満のX線投影映像から生成(3130)されたものである。
【0232】
当業者は、方法3100が、呼吸による肺運動以外の運動にも適用できることを理解するはずである。例えば、一部の実施形態において、方法は、X線撮像装置に対して第1の向きで患者を配置することを含む。当該方法は、患者の体の一部の3D測定値を取得することを更に含む(例えば、患者の身体部位の位置の3D測定値)。当該方法は更に、患者がX線撮像装置に対して第1の向きに配置されている間、並びに、患者の身体部位の3D測定値を取得する間において、患者の身体部位の3D測定値に基づいてX線画像装置による放射線曝露をトリガーするためのトリガー基準を満たしているか否かを判定することと、トリガー基準を満たしていると判定された場合に、X線撮像装置のゲート制御を行い、患者のX線画像を生成することと、を含む。一部の実施形態において、X線画像は、患者の身体部位(例えば、患者の脚、腹部、頭蓋骨など)の画像である。一部の実施形態において、トリガー基準は、患者の身体部位の3D測定値が、患者の身体部位が既定の位置(例えば、撮像装置に対する位置)にあることを示すときに満たされる基準を含む。一部の実施形態において、当該方法は、トリガー基準を満たしていないと判定された場合に、X線撮像装置のゲート制御を放棄する(例えば、患者をX線に曝露することを放棄する)ことを含む。更に、一部の実施形態において、方法3100は、厳密にはX線に基づかないその他の撮像、例えば、陽電子放出断層撮影(PET)撮像やMRI撮像にも適用できる。
【0233】
また、方法3100は、放射線治療や放射線撮像にも適用できる。例えば、一部の実施形態において、方法は、放射線療法源に対して第1の向きに患者を配置することを含む。当該方法は、患者の身体部位の3D測定値を取得することを更に含む(例えば、患者の身体部位の位置の3D測定値)。当該方法は更に、患者が放射線療法源に対して第1の向きに配置されている間、並びに、患者の身体部位の3D測定値を取得する間において、患者の身体部位の3D測定値に基づいて放射線療法源による放射線曝露をトリガーするためのトリガー基準を満たしているか否かを判定することと、トリガー基準を満たしていると判定された場合に、放射線療法源のゲート制御を行い、患者を放射線に曝露すること(例えば、患者の身体部部位を放射線に曝露する)と、を含む。一部の実施形態において、トリガー基準は、患者の身体部位の3D測定値が、患者の身体部位が既定の位置(例えば、撮像装置に対する位置)にあることを示すときに満たされる基準を含む。一部の実施形態において、当該方法は、トリガー基準を満たしていないと判定された場合に、患者を放射線に曝露することを放棄することを含む。
【0234】
図31A~31Bに記載されている動作の特定の順序は単なる例に過ぎず、記載された順序は、動作を実行できる唯一の順序であることを意味する訳ではない。当業者は、本明細書に記載の動作を様々に並べ替えられることを理解するはずである。また、本明細書に記載の他の方法に関して本明細書に記載される他のプロセスも、
図31A~31Bを参照として上記に記載された方法3100に類似した方式により適用可能である。そのようなプロセスは、例えば、
図2、
図6、
図8、
図11、
図13、
図15、
図21、
図23、
図25、
図27、
図28A~28B、
図32A~32B、
図33A~33C、
図34A~3
4Cを参照として記述されている。簡潔性のために、詳細な説明は省けるものとする。
【0235】
図32A~32Bは、患者の呼吸期・心拍相の一致における放射線源のゲート制御方法(3200)のフロー図である。一部の実施形態において、下記に説明する動作の一部又は全部は、人間の介入無し(例えば、技師による介入無し)に実行することができる。一部の実施形態において、方法3200は、本明細書に記載の装置のいずれかにより実行される(例えば、
図1に図示されるGREX撮像システム100)。方法3200の一部の動作は、1つ以上のプロセッサ、並びに、1つ以上のプロセッサにより実行されたとき1つ以上プロセッサに方法3200の動作を実行させる命令を格納するメモリを含むコンピュータシステムによって実行される。方法3200の一部の動作を、任意に組み合わせてもよく、順序を任意に変更してもよい。
【0236】
当該方法は、放射線源に対して第1の向きに患者を配置すること(3202)を含む。一部の実施形態において、放射線源は、X線撮像装置である(3204)。一部の実施形態において、放射線源は、放射線治療源である(3206)。例えば、
図3及び
図35に図示されているように、患者(例えば、患者3502)は、放射線源3504(例えば、X線ユニット108)に対して第1の位置に配置される。一部の実施形態において、動作3102(
図31A)のように、患者の位置決めは、患者を動かす(例えば、回転)ことを含み、一部の実施形態において、患者の位置決めは、X線装置(例えば、X線源と検出器)を動かす(例えば、回転)ことを含む。
【0237】
当該方法は、患者の呼吸測定値を取得すること(3208)を含む(例えば、呼吸期センサを用いる)。一部の実施形態において、患者の呼吸測定値は、動作3104(
図31A)における、患者の呼吸体積測定値である。一部の実施形態において、患者の呼吸測定値は、患者の呼吸体積測定値でない(例えば、タイミングベースの患者の呼吸測定値)。
【0238】
当該方法は、患者の心機能測定値を取得すること(3210)を含む。一部の実施形態において、一つ以上のセンサを用いて患者の心機能を測定する(3304)。一部の実施形態において、心電図(ECG)を、患者の心機能測定に使用する(例えば、3リード、又は12リードECG)。一部の実施形態において、当該方法は、患者の心臓の動きを制御する時系列の電気信号を提供する、患者の心機能の複数の測定値を取得することを含む。
【0239】
撮像に戻り、当該方法は、患者が放射線源に対して第1の向きに配置されている間、並びに、患者の呼吸測定値を取得する間において(3212)、患者の呼吸測定値から患者の呼吸期を判定すること(3214)と、患者の心機能測定値から患者の心拍相(例えば、リアルタイム)を決定すること(3216)と、を含む。例えば、一部の実施形態において、患者の心拍相は、
図36を参照して説明しているように、ゼロ命令セットコンピュータ(ZISC)プロセッサを用いて判定される。ZISCプロセッサは、単一の心周期又は心周期の一部で、心周期に既定のランドマークが生じたことを識別することができる(例えば、S波又はT波)。
【0240】
一部の実施形態において、当該方法は更に、放射線源のゲート制御を行って患者を放射線に曝露させる(動作3222、後述)前に、患者の複数の心周期から患者の心機能測定値を取得すること(3218)を含む。一部の実施形態において、当該方法は、複数の心周期から取得した患者の心機能測定値を用いて、既定心拍相と、心周期の既定枠の開始点との平均間隔を判定することを含む。例えば、心周期の既定枠は、R波の上部とゲート枠の開始点との間隔を表する。例えば、一部の実施形態において、動作3202以降は、方法3200の撮像期間の一部として実行される。方法3200は、撮像期間の前に、患者の心機能に関する情報が得られるトレーニング期間を設けることを更に含む。例えば、ト
レーニング期間中、患者のECG測定値は、複数の心周期にわたって一定の間隔で取得される(例えば、患者の心周期の15サイクル、20サイクル、50サイクル。1周期は、任意のT波から次のT波までなど、心臓運動の全期間1回に対応する)。次に、トレーニング期間からのECG測定値を用いて、下記に説明するように、撮像期間中の心臓の動きの鎮静期間を予測する。
【0241】
一部の実施形態において、患者の複数の心周期から取得した測定値は、複数の心周期の波形測定値(3220)(例えば、ECG測定値)であって、当該方法は、統計的に安定しているとして、複数の心周期の波形測定値を検証することを含む。
【0242】
当該方法は、放射線源のゲート制御(3222)を、患者の呼吸期が既定の呼吸期と一致するという判定、並びに、患者の心拍相が心周期の既定枠と一致するという判定に基づいて行い、患者を放射線に曝露させることを更に含む。一部の実施形態において、放射線源のゲート制御を行うと、患者の肺は放射線に曝露される。一部の実施形態において、既定の心臓枠は、心臓の動きの鎮静期間(例えば、
図12を参照して説明されているように、心臓運動が最小である心周期中の期間)に対応する。一部の実施形態において、決定された心拍相と同じ心周期のうちに放射線源のゲート制御を行う。このように、呼吸期と既定の心拍相枠との一致に基づいて患者の肺の曝露に対するゲート制御を行うことにより、肺の正確な領域(例えば、肺組織の正確な領域)が、心臓の動きによる摂動や運動を伴わず放射線に曝露される。
【0243】
一部の実施形態において、放射線源はX線撮像装置である。放射線源のゲート制御を行って患者を放射線に曝露させることは、X線撮像装置のゲート制御を行い、患者の肺のX線投影映像を生成すること(3224)を含む。一部の実施形態において、
図31A~31Bの方法3100のように、X線投影映像は、X線撮像源と、複数の呼吸期に対する患者の複数の向きとに対して取得することができる。
これらのX線投影映像を用いて、肺運動の動画及び/又は肺の生物理学的モデルを作成できる(例えば、肺組織の運動を応力、ひずみ、弾性などの生物理学的パラメータに関連付ける)。一部の実施形態において、方法3200に従って、これらの画像は、心臓の動きによる肺の摂動又は運動を最小限に抑えるために、既定の心臓枠内で取得される。
【0244】
一部の実施形態において、放射線源は放射線治療源である。放射線源のゲート制御を行って患者を放射線に曝露させることは、放射線治療源のゲート制御を行い、患者の肺領域に治療線量を照射する(3226)ことを含む。これらの状況では、罹患組織(例えば、癌性組織)に可能な限り多くの放射線量を与え、健康な組織には可能な限り少ない放射線量を与えることが重要である。方法3200は、健康な組織に照射される放射線を最小限に抑えながら、病変組織に精度高く線量を照射することにより、放射線治療装置を改善する。
【0245】
一部の実施形態において、患者の心拍相が、心周期の既定枠と一致することを判定することは、心周期の既定枠を、リアルタイムで既定の心拍相を検出する(例えば、
図36のBEMPカードを用いる)ことと、既定の心拍相と心周期の既定枠の開始点との平均間隔に対応する時間の長さを待機することと、により予測すること(3228)である。例えば、一部の実施形態において、T波のピークを検出し、T波から理想的なゲート枠までの平均間隔を待機し、その時点で放射線源のゲート制御を行う。
【0246】
図32A~32Bに記載されている動作の特定の順序は単なる例に過ぎず、記載された順序は、動作を実行できる唯一の順序であることを意味する訳ではない。当業者は、本明細書に記載の動作を様々に並べ替えられることを理解するはずである。また、本明細書に記載の他の方法に関して本明細書に記載される他のプロセスも、
図32A~32Bを参照
として上記に記載された方法3100に類似した方式により適用可能である。そのようなプロセスは、例えば、
図2、
図6、
図8、
図11、
図13、
図15、
図21、
図23、
図25、
図27、
図28A~28B、
図31A~31B、
図33A~33C、
図34A~34Cを参照として記述されている。簡潔性のために、詳細な説明は省けるものとする。
【0247】
図33A~33Cは本開示の一部の実施形態による、位置合わせ済みの画像からデータをフィッティングして肺の機械的特性のモデルを生成する方法3300のフロー図である。一部の実施形態において、下記に説明する動作の一部又は全部は、人間の介入無し(例えば、技師による介入無し)に実行することができる。一部の実施形態において、方法3300は、本明細書に記載の装置のいずれかにより実行される(例えば、
図1に図示されるGREX撮像システム100)。方法3300の一部の動作は、1つ以上のプロセッサ、並びに、1つ以上のプロセッサにより実行されたとき1つ以上プロセッサに方法3300の動作を実行させる命令を格納するメモリを含むコンピュータシステムによって実行される。方法3300の一部の動作を、任意に組み合わせてもよく、順序を任意に変更してもよい。
【0248】
当該方法は、肺の異なる呼吸期に対応する複数のX線測定値(例えば、X線画像、或いはX線投影映像ともいう)から肺組織の複数の変位場を抽出すること(3302)を含む。各変位場は、第1の呼吸期から第2の呼吸期への肺組織の運動を表し、各呼吸期は、対応する生体パラメータのセットを有する。一部の実施形態において、X線測定値は、方法3100及び/又は方法3200により取得したX線投影映像(X線投影画像ともいう)である。一部の実施形態において、肺組織から変位場を抽出することは、第1の呼吸期からの1つ以上の第1のX線投影映像の肺組織の一部を、第2の呼吸期からの1つ以上の第2のX線投影映像における肺組織の同じ部分に対応するものとして識別することと、第1の呼吸期から第2の呼吸期への肺組織の部分の変位を判定すること(例えば、
図28Bを参照)と、を含む。一部の実施形態において、識別は上述の変形可能な画像レジストレーションアルゴリズムを用いて行われる。
【0249】
一部の実施形態において、複数のX線測定値は、患者に対するX線撮像装置の複数の向きのそれぞれについて第1の呼吸期にて得られた複数のX線画像を含み、それにより、第1の呼吸期に対応する複数のX線画像と、第2の呼吸期に対応する複数のX線画像を形成する。一部の状況では、第1の呼吸期に対応する異なるX線画像とは異なる患者の呼吸周期の間に、第1の呼吸期に対応するX線画像の少なくとも1つが得られた(例えば、同じ呼吸期、異なる呼吸で画像を得た)。一部の実施形態において、この方法は、呼吸期によって複数のX線画像をグループ化することを含む。
【0250】
一部の実施形態において、当該方法は、変位場が一例となる、複数のベクトル場を抽出することを含む。
【0251】
一部の実施形態において、1つ以上のセンサを用いて1つ以上の時系列シーケンスとして患者の生体信号を測定(3304)し、1つ以上のセンサは、3D空間位置ローカライザ(例えば、
図3の3D空間ローカライザ300)、呼吸期センサ、心拍相センサを含む。一部の実施形態において、3D空間位置ローカライザは、呼吸と心拍により生じる患者の体の動きをリアルタイムで測定し、時系列として出力するように構成されている(3306)。一部の実施形態において、呼吸期センサは、一回換気量とその一次時間導関数とを含む、患者の呼吸に関連する1つ以上の生理学的指標を測定するように構成されている(3308)。一部の実施形態において、心拍相センサは、患者の心臓により生成される周期的・定常的な電気信号(例えば、ECG信号)を測定するように構成されている(3310)。例えば、心拍相センサは、心拍相に対応する特徴を備える、周期的・定常的な電気信号を測定する。
【0252】
一部の実施形態において、1つ以上のセンサにより測定された患者の生体信号を用いてX線ユニットをトリガーさせ(3312)、特定の呼吸期及び心拍相にて患者のX線画像を取得する(例えば、方法3200を参照)。
【0253】
一部の実施形態において、X線ユニットはクロックを含み(3314)、1つ以上のセンサにより測定された患者の生体信号は、X線ユニットのクロックと同期する。一部の実施形態において、生体信号のそれぞれの値を、取得されたX線画像に関連付けて記録する。
【0254】
一部の実施形態において、トレーニング枠中に測定された患者の生体信号は、X線ユニットをトリガーして患者のX線画像を撮る所望の呼吸期を予測するための最適化呼吸予測モデルの構築に用いられる(3316)。
【0255】
当該方法は、肺の異なる呼吸期と、対応する生体パラメータのセットとの間の肺組織の複数の変位場を用いて、肺の生物理学モデルの1つ以上の生物理学的パラメータを計算すること(3318)を含む。一部の実施形態において、1つ以上の生物理学的パラメータを計算することは、変位場の1つ以上の導関数(例えば、カール、勾配など)を計算することを含む。一部の実施形態において、生物理学的パラメータは、生体力学的パラメータ(例えば、応力、ひずみ、弾性率、弾性限界など)である。一部の実施形態において、1つ以上の生物理学的パラメータは、肺の異なる呼吸期に関連付けられた生体パラメータと、肺組織の複数の変位場との物理的関係を定義する(3320)。一部の実施形態において、各呼吸期に関連付けられた生体パラメータのセットは、各呼吸期での肺の一回換気量及び気流、並びにそれぞれの呼吸期に対応する心拍相を含む(3322)。一部の実施形態において、肺の異なる呼吸期に関連付けられた生体パラメータと肺組織の複数の変位場との物理的関係は、下記の式により定義される。
【数16】
【0256】
p1
→ベクトルは、一回換気量により生じる通常の応力を表し、p2
→は、気流により生じる通常の応力であり、p3
→は、気流により生じるせん断応力であり、p4
→は、心臓運動による組織運動であり、閉ループ軌道における任意点での組織の変位(U→-U0
→)は、一回換気量(Tv)、気流(Af)、心拍相(Hc)によりそれぞれスケーリングされた応力、ひずみ、摂動心臓運動ベクトルの合計として表される。
【0257】
一部の実施形態において、肺の異なる呼吸期は、患者の完全呼吸周期における早期呼気相、後期呼気相、最大呼気相、早期吸気相、後期吸気相、最大吸気相を含む(3324)。
【0258】
一部の実施形態において、当該方法は、生物理学的パラメータの視覚的表現を表示することを更に含む。例えば、
図30の例示では、生物理学的パラメータがp
1
→と(p
2
→+p
3
→)の比である。一部の実施形態において、視覚的表現を表示することは、肺の画像を表示することを含み、肺の画像内の位置の色は、生物理学的パラメータに対応する(例えば、肺の画像は、生物理学的パラメータのカラーマップを用いて表示される)。このような視覚的表現を表示すると、診断の精度が向上するため、X線撮像装置そのものも向上する。例えば、
図29に示すように、従来のX線写真よりも、
図30で患者の左肺が罹患していることが明確且つ簡単に分かる。
【0259】
一部の実施形態において、当該方法は、肺の異なる呼吸期に対応する複数のX線測定値から、肺の異なる呼吸期に対応する複数の医用画像キューブを生成すること(3326)
を更に含む(例えば、
図21を参照)。一部の実施形態において、肺組織の複数の変位場は、肺の異なる呼吸期に対応する複数の医用画像キューブから、画像セグメンテーションにより、第1の医用画像キューブの残りの部分から肺組織を描写することと、第1の医用画像キューブ内の各ボクセルについて、第1の医用画像キューブと第2の医用画像キューブとの間の強度ベース構造マッピングを用いて、第1の医用画像キューブ内のボクセルと第2の医用画像キューブとの間の変位ベクトルを判定することと、により、抽出される(3328)。肺組織の複数の変位場は、肺の異なる呼吸期に対応する複数の医用画像キューブから、第1の医用画像キューブ内の異なるボクセルと第2の医用画像キューブ内の対応ボクセルの変位ベクトルとを繰り返し調整することにより、抽出される。
【0260】
一部の実施形態において、当該方法は、複数の医用画像キューブのうちの1つ以上を参照医用画像キューブとして選択すること(3330)と、各参照医用画像キューブに関連付けられる生体パラメータのセットを決定することと、2つの参照医用画像キューブに関連付けられた生体パラメータ2セット間の肺の生体測定値に基づき、生体パラメータ1セットを選択することと、肺の生体測定値に基づく生体パラメータのセットを生物理学モデルに適用することによって、2つの参照医用画像キューブ間で医用画像キューブをシミュレートすることと、を含む。
【0261】
図33A~33Cに記載されている動作の特定の順序は単なる例に過ぎず、記載された順序は、動作を実行できる唯一の順序であることを意味する訳ではない。当業者は、本明細書に記載の動作を様々に並べ替えられることを理解するはずである。また、本明細書に記載の他の方法に関して本明細書に記載される他のプロセスも、
図33A~33Cを参照として上記に記載された方法3300に類似した方式により適用可能である。そのようなプロセスは、例えば、
図2、
図6、
図8、
図11、
図13、
図15、
図21、
図23、
図25、
図27、
図28A~28B、
図31A~31B、
図32A~32B、
図34A~34Cを参照として記述されている。簡潔性のために、詳細な説明は省けるものとする。
【0262】
図34A~34Cは、3D X線画像キューブ動画の生成方法3400のフロー図である。一部の実施形態において、下記に説明する動作の一部又は全部は、人間の介入無し(例えば、技師による介入無し)に実行することができる。一部の実施形態において、方法3400は、本明細書に記載の装置のいずれかにより実行される(例えば、
図1に図示されるGREX撮像システム100)。方法3400の一部の動作は、1つ以上のプロセッサ、並びに、1つ以上のプロセッサにより実行されたとき1つ以上プロセッサに方法3400の動作を実行させる命令を格納するメモリを含むコンピュータシステムによって実行される。方法3400の一部の動作を、任意に組み合わせてもよく、順序を任意に変更してもよい。
【0263】
一部の実施形態において、1つ以上のセンサを用いて1つ以上の時系列シーケンスとして患者の生体信号を測定(3402)し、1つ以上のセンサは、3D空間位置ローカライザ、呼吸期センサ、心拍相センサを含む(例えば、方法3100及び方法3200を参照)。
【0264】
一部の実施形態において、当該方法は、1つ以上の心拍相センサの測定値を用いて心拍相ゲート枠を識別することと、1つ以上の呼吸期センサの測定値を用いて呼吸期を予測することと、X線撮像パルスを生成する、心拍相ゲート枠と予測した呼吸期との一致点を特定することと、X線撮像パルスに対応するX線画像に、呼吸期、心拍相、3D空間位置ローカライザの測定値をタグ付けすることと、を更に含む(3406)(例えば、方法3200を参照)。
【0265】
一部の実施形態において、3D空間位置ローカライザは、呼吸と心拍により生じる患者
の体の動きをリアルタイムで測定し、時系列として出力するように構成されている(3408)(例えば、方法3100及び方法3200を参照)。
【0266】
一部の実施形態において、呼吸期センサは、一回換気量とその一次時間導関数とを含む、患者の呼吸に関連する1つ以上の生理学的指標を測定するように構成されている(3410)。例えば、一回換気量の割合は、時間や気流によって変化する。
【0267】
一部の実施形態において、心拍相センサは、患者の心臓により生成され、心拍相に対応する特徴を備える、周期的・定常的な電気信号を測定するように構成されている(3412)。
【0268】
一部の実施形態において、X線ユニットのクロックと同期された後、2つの別々のフィルタを用いて患者の生体信号から信号ドリフト及びノイズを除去する(3414)。
【0269】
一部の実施形態において、1つ以上のセンサにより測定された患者の生体信号を用いてX線ユニットをトリガーさせ、特定の呼吸期及び心拍相にて患者のX線画像を取得する(3416)。
【0270】
一部の実施形態において、X線ユニットはクロックを含む(3418)。1つ以上のセンサにより測定された患者の生体信号は、X線ユニットのクロックと同期する。生体信号のそれぞれの値を、取得されたX線画像に関連付けて記録する。
【0271】
一部の実施形態において、患者の生体信号は、患者のX線画像を撮る前、トレーニング枠(例えば、トレーニング期間)中に測定(3422)され、トレーニング枠中に測定された患者の生体信号は、患者の複数の完全呼吸周期を含む(例えば、方法3100及び方法3200を参照)。
【0272】
一部の実施形態において、完全呼吸周期における複数の一回換気量パーセンタイルは、トレーニング枠中に測定された患者の生体信号を用いて識別(3424)され、一回換気量パーセンタイルはそれぞれ、異なる呼吸期のうち1つに対応する。
【0273】
一部の実施形態において、トレーニング枠中に測定された患者の生体信号は、X線ユニットをトリガーして患者のX線画像を撮る所望の呼吸期を予測するための最適化呼吸予測モデルの構築に用いられる(3426)。
【0274】
一部の実施形態において、最適化呼吸予測モデルは、自己回帰和分移動平均(ARIMA)モデルに基づく(3428)。
【0275】
一部の実施形態において、患者のX線画像を撮る所望の呼吸期は、心臓誘発性肺運動がゆっくりと変化している心臓ゲート枠と一致するように構成されている(3430)。
【0276】
一部の実施形態において、心臓ゲート枠は、心電図(ECG)信号におけるT波及びP波の位置に基づいて選ばれ(3432)、それにより、心臓誘発性肺運動がゆっくりと変化する。
【0277】
当該方法は、異なる投影角度で撮った肺のX線画像の第1複数セットを、異なる呼吸期に対応する肺のX線画像の第2複数セットに変換すること(3434)を含む。
【0278】
一部の実施形態において、異なる投影角度で撮った肺のX線画像の第1複数セットを、異なる呼吸期に対応する肺のX線画像の第2複数セットに変換することは、異なる投影角
度での肺のX線画像の第1複数セットを撮ることを更に含む(3436)。X線画像の第1複数セットの各セットは、特定の投影角度における肺の異なる呼吸期に対応する。一部の実施形態において、異なる投影角度で撮った肺のX線画像の第1複数セットを、異なる呼吸期に対応する肺のX線画像の第2複数セットに変換することは更に、肺のX線画像の第1複数セットを、関連付けられた呼吸期によって、肺のX線画像の第2複数セットに再編成することを含む。X線画像の第2複数セットの各セットは、肺の各呼吸期に対応する。
【0279】
一部の実施形態において、任意の特定のセット内のX線画像は幾何学的に分解され、時間的に独立している(3438)。
【0280】
一部の実施形態において、肺の異なる呼吸期は、肺の動きの異なる一回換気量パーセンタイルに対応する(3440)。
【0281】
一部の実施形態において、肺の異なる呼吸期は、患者の完全呼吸周期における早期呼気相、後期呼気相、最大呼気相、早期吸気相、後期吸気相、最大吸気相を含む(3442)。
【0282】
一部の実施形態において、異なる投影角度で撮った肺の複数のX線画像は、全て同じ呼吸期に対応する(3444)。
【0283】
一部の実施形態において、特定の投影角度における肺の異なる呼吸期が、少なくとも2回の呼吸周期から収集される(3446)。
【0284】
当該方法は、逆投影法を用いて、各呼吸期でX線画像の第2複数セットの各セットから静止画像キューブを生成すること(3448)を含む。
【0285】
当該方法は、肺の異なる呼吸期に対応する静止画像キューブを、時間補間法によって3D X線画像キューブ動画に組み合わせること(3450)を含む。
【0286】
図34A~34Cに記載されている動作の特定の順序は単なる例に過ぎず、記載された順序は、動作を実行できる唯一の順序であることを意味する訳ではない。当業者は、本明細書に記載の動作を様々に並べ替えられることを理解するはずである。また、本明細書に記載の他の方法に関して本明細書に記載される他のプロセスも、
図34A~34Cを参照として上記に記載された方法3400に類似した方式により適用可能である。そのようなプロセスは、例えば、
図2、
図6、
図8、
図11、
図13、
図15、
図21、
図23、
図25、
図27、
図28A~28B、
図31A~31B、
図32A~32B、
図33A~33Cを参照として記述されている。簡潔性のために、詳細な説明は省けるものとする。
【0287】
図35は、一部の実施形態による、患者を支持する患者位置決め固定具(PPF)3501(例えば、回転椅子)の例である(3502)。一部の実施形態において、PPF3501は(例えば、回転3503に沿って)回転して、患者を放射線源(3504)(例えば、X線撮像システム又は放射線治療システム)に対して複数の角度(例えば、向き)に配置する(2502)。例えば、PPFは、患者を所望の位置に移動させるように動いて(例えば、患者は独立して移動する必要はない)、その結果、放射線装置3504は、様々な角度で患者のX線画像を撮影することができる。一部の実施形態において、患者は、PPF3501を回転させず、複数の角度をなしながら(例えば、回転3502に沿って)回転する(3502)。一部の実施形態において、PPF3501及び/又は患者3205は、自動的に回転及び/又は(例えば、モータを使用)移動し、所望の位置につく。一部の実施形態において、技師は、患者3502を回転および/または移動させる。一
部の実施形態において、フラットパネル検出器ユニット3505は、放射線装置3504に対して患者の後ろに配置される。
【0288】
一部の実施形態において、1つ以上のカメラ3506-1~3506-mを用いて、PPF3501を取り囲む既定の領域(例えば、部屋)内の物体を検出する。例えば、カメラ3506は、PPF3501が既定の領域の周りを移動する(及びその中で回転する)ときに、物体がPPF3501と衝突するか否かを撮影する。一部の実装形態では、PPF3501(及び患者3502)との衝突回避のための工夫がなされている。
【0289】
一部の実施形態において、1つ以上の3D撮像センサ(例えば、LIDARセンサ又は構造化光センサ)を用いて、方法3100のように、患者3502の呼吸を幾何学的に監視する。
【0290】
図36は、生物学的事象監視プロセス(BEMP)カード3600の例である。BEMPカード3600は、プログラマブルアナログフィルタ、プログラマブルアナログ-デジタルコンバータ(ADC)/デジタルシグナルプロセッサ(DSP)3605、ゼロ命令セットコンピュータ(ZISC)プロセッサ3606を含む。BEMPカード3600は、患者の生体信号を含むアナログ入力信号3602を受信する。一部の実施形態において、アナログ入力3602は、ECG信号を含む。一部の実施形態において、アナログ入力は、3リードECG信号又は12リードECG信号である。ZISCプロセッサ3606は、アナログ入力における既定のパターンをリアルタイムで検出する。例えば、ZISCプロセッサ3606は、ECG信号のR波を検出して、患者の心周期の次の鎮静期間がいつになるか(例えば、TP間隔内)を予測する。一部の実施形態において、ZISCプロセッサ3606は、放射線源(例えば、X線撮像システムや放射線治療システム)をトリガーするために使用できるZISC 4ビット加重出力を出力する。一部の実施形態において、BEMPカード3600のクロック信号3603は、放射線源などの外部源から提供され、それによりBEMPカード3600は、放射線源に同期させることができる。
【0291】
後処理ソフトウェア106の章で説明されている計算技術は、計算リソースを大量に消費する。多くの地域病院や小さな診療所は、動画の作成、生体力学モデルの計算、使用者に迅速且つスムーズな体験結果を提供するために必要なコンピューターハードウェアを持たない。後処理ソフトウェア106の機能はクラウドで実行されるので、使用者は、治療コンソール、オフィスデスクトップ、仕事用ラップトップで後処理ソフトウェア106の強力な視覚化ツールにアクセスすることができる。
【0292】
本明細書全体を通して、「実施形態」、「一部の実施形態」、「1つの実施形態」、「別の実施例」、「実施例」、「特定の例」、又は「一部の例」は、特定の特徴、構造、実施形態又は実施例に関連して説明される材料または特性は、本開示の少なくとも1つの実施形態や実施例に含まれることを意味する。従って、本明細書において「一部の実施形態において」、「一実施形態において」、「実施形態において」、「別の実施形態において」、「実施例において」、「特定の実施例において」、又は「一部の実施例において」などの表現は、本開示の実施形態や実施例を必ずしも指している訳ではない。更に、特定の特徴、構造、材料、特性は、1つ以上の実施形態や実施例において任意の適切な方法で組み合わせることができる。
【0293】
上記に実施形態を提示して説明したが、上記の実施形態は本開示を限定するものではなく、変更、代替、修正は、本開示の原則、精神、範囲から逸脱しない限り行うことができることを当業者は理解するはずである。
【手続補正書】
【提出日】2024-10-11
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
患者の2D X線画像から3D X線画像キューブ動画を生成する方法であって、
肺のX線画像の複数の第1セットを、前記肺のX線画像の複数の第2セットに変換することであって、
X線画像の各第1セットは、前記肺の異なる一回換気量ベースの呼吸期及び同じ投影角度で撮った複数のX線画像を含み、
前記X線画像の複数の第1セットのX線画像の各第1セットは、前記X線画像の複数の第1セットのX線画像の別の第1セットとは異なる投影角度で撮られ、
X線画像の各第2セットは、前記肺の同じ呼吸期及び異なる投影角度で撮った複数のX線画像を含み、
前記X線画像の複数の第2セットのX線画像の各第2セットは、前記X線画像の複数の第2セットのX線画像の別の第2セットとは異なる呼吸期で撮られ、
前記変換することは、前記肺の前記X線画像の複数の第1セットを、関連付けられた一回換気量ベースの呼吸期によって、前記肺の前記X線画像の複数の第2セットに再編成することを含む、ことと、
逆投影法を用いて、各一回換気量ベースの呼吸期で前記X線画像の複数の第2セットの各セットから静止画像キューブを生成することと、
前記肺の前記異なる一回換気量ベースの呼吸期に対応する静止画像キューブを、時間補間法によって3D X線画像キューブ動画に組み合わせることと、を含む、方法。
【請求項2】
任意の特定のセット内のX線画像は幾何学的に分解され、時間的に独立している、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記肺の異なる一回換気量ベースの呼吸期は、前記肺の動きの異なる一回換気量パーセンタイルに対応する、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記肺の異なる一回換気量ベースの呼吸期は、前記患者の完全呼吸周期における早期呼気相、後期呼気相、最大呼気相、早期吸気相、後期吸気相、最大吸気相を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
1つ以上のセンサを用いて1つ以上の時系列シーケンスとして前記患者の生体信号を測定し、前記1つ以上のセンサは、1つ以上の3D空間位置ローカライザ、呼吸期センサ、心拍相センサを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
1つ以上の心拍相センサの測定値を用いて心拍相ゲート枠を識別することと、
1つ以上の呼吸期センサの測定値を用いて一回換気量ベースの呼吸期を予測することと、
X線撮像パルスを生成する、前記心拍相ゲート枠と予測した一回換気量ベースの呼吸期との一致点を特定することと、
前記X線撮像パルスに対応するX線画像に、前記一回換気量ベースの呼吸期、心拍相、3D空間位置ローカライザの測定値をタグ付けすることと、を更に含む、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記3D空間位置ローカライザは、呼吸と心拍により生じる患者の体の動きをリアルタイムで測定し、時系列として出力するように構成されている、請求項5に記載の方法。
【請求項8】
前記呼吸期センサは、一回換気量とその一次時間導関数とを含む、患者の呼吸に関連する1つ以上の生理学的指標を測定するように構成されている、請求項5に記載の方法。
【請求項9】
前記心拍相センサは、患者の心臓により生成され、心拍相に対応する特徴を備える、周期的・定常的な電気信号を測定するように構成されている、請求項5に記載の方法。
【請求項10】
前記X線ユニットのクロックと同期された後、2つの別々のフィルタを用いて患者の生体信号から信号ドリフト及びノイズを除去する、請求項5に記載の方法。
【請求項11】
前記1つ以上のセンサにより測定された患者の生体信号を用いてX線ユニットをトリガーさせ、特定の呼吸期及び心拍相にて患者のX線画像を取得する、請求項5に記載の方法。
【請求項12】
前記X線ユニットはクロックを含み、
前記1つ以上のセンサにより測定された患者の前記生体信号は、前記X線ユニットのクロックと同期し、
前記生体信号のそれぞれの値を、取得された前記X線画像に関連付けて記録する、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
患者の前記生体信号は、患者のX線画像を撮る前、トレーニング枠中に測定され、トレーニング枠中に測定された患者の前記生体信号は、患者の複数の完全呼吸周期を含む、請求項5に記載の方法。
【請求項14】
完全呼吸周期における複数の一回換気量パーセンタイルは、トレーニング枠中に測定された患者の生体信号を用いて識別され、一回換気量パーセンタイルはそれぞれ、異なる一回換気量ベースの呼吸期のうち1つに対応する、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
前記トレーニング枠中に測定された患者の前記生体信号は、X線ユニットをトリガーして患者のX線画像を撮る所望の一回換気量ベースの呼吸期を予測するための最適化呼吸予測モデルの構築に用いられる、請求項13に記載の方法。
【請求項16】
前記最適化呼吸予測モデルは、自己回帰和分移動平均(ARIMA)モデルに基づく、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
患者のX線画像を撮る前記所望の一回換気量ベースの呼吸期は、心臓誘発性肺運動がゆっくりと変化している心臓ゲート枠と一致するように構成されている、請求項15に記載の方法。
【請求項18】
前記心臓ゲート枠は、心電図(ECG)信号におけるT波及びP波の位置に基づいて選ばれ、それにより、心臓誘発性肺運動がゆっくりと変化する、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
特定の投影角度における前記肺の異なる一回換気量ベースの呼吸期が、少なくとも2回の呼吸周期から収集される、請求項1に記載の方法。
【請求項20】
肺の異なる一回換気量ベース呼吸期に対応する複数のX線測定値から患者の肺の生物理学モデルを判定するシステムであって、
1つ以上のプロセッサと、
命令を格納するメモリと、を備え、前記命令が前記1つ以上のプロセッサによって実行されると、前記1つ以上のプロセッサは、
肺のX線画像の複数の第1セットを、前記肺のX線画像の複数の第2セットに変換することであって、
X線画像の各第1セットは、前記肺の異なる一回換気量ベースの呼吸期及び同じ投影角度で撮った複数のX線画像を含み、
前記X線画像の複数の第1セットのX線画像の各第1セットは、前記X線画像の複数の第1セットのX線画像の別の第1セットとは異なる投影角度で撮られ、
X線画像の各第2セットは、前記肺の同じ呼吸期及び異なる投影角度で撮った複数のX線画像を含み、
前記X線画像の複数の第2セットのX線画像の各第2セットは、前記X線画像の複数の第2セットのX線画像の別の第2セットとは異なる呼吸期で撮られ、
前記変換することは、前記肺の前記X線画像の複数の第1セットを、関連付けられた一回換気量ベースの呼吸期によって、前記肺の前記X線画像の複数の第2セットに再編成することを含む、ことと、
逆投影法を用いて、各一回換気量ベースの呼吸期で前記X線画像の複数の第2セットの各セットから静止画像キューブを生成することと、
前記肺の前記異なる一回換気量ベースの呼吸期に対応する静止画像キューブを、時間補間法によって3D X線画像キューブ動画に組み合わせることと、を含む一連の動作を行う、システム。
【請求項21】
命令を格納する非一時的なコンピュータ可読記憶媒体であって、前記命令が、1つ以上のプロセッサを備えるシステムによって実行されると、前記1つ以上のプロセッサは、
肺のX線画像の複数の第1セットを、前記肺のX線画像の複数の第2セットに変換することであって、
X線画像の各第1セットは、前記肺の異なる一回換気量ベースの呼吸期及び同じ投影角度で撮った複数のX線画像を含み、
前記X線画像の複数の第1セットのX線画像の各第1セットは、前記X線画像の複数の第1セットのX線画像の別の第1セットとは異なる投影角度で撮られ、
X線画像の各第2セットは、前記肺の同じ呼吸期及び異なる投影角度で撮った複数のX線画像を含み、
前記X線画像の複数の第2セットのX線画像の各第2セットは、前記X線画像の複数の第2セットのX線画像の別の第2セットとは異なる呼吸期で撮られ、
前記変換することは、前記肺の前記X線画像の複数の第1セットを、関連付けられた一回換気量ベースの呼吸期によって、前記肺の前記X線画像の複数の第2セットに再編成することを含む、ことと、
逆投影法を用いて、各一回換気量ベースの呼吸期で前記X線画像の複数の第2セットの各セットから静止画像キューブを生成することと、
前記肺の前記異なる一回換気量ベースの呼吸期に対応する静止画像キューブを、時間補間法によって3D X線画像キューブ動画に組み合わせることと、を含む一連の動作を行う、記憶媒体。
【外国語明細書】