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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025004006
(43)【公開日】2025-01-14
(54)【発明の名称】テベレリクス-TFA組成物
(51)【国際特許分類】
   A61K 38/09 20060101AFI20250106BHJP
   A61P 5/36 20060101ALI20250106BHJP
   A61P 13/08 20060101ALI20250106BHJP
   A61P 13/02 20060101ALI20250106BHJP
   A61P 15/00 20060101ALI20250106BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20250106BHJP
   A61P 5/24 20060101ALI20250106BHJP
   A61K 9/10 20060101ALI20250106BHJP
   A61K 47/12 20060101ALI20250106BHJP
   A61K 47/54 20170101ALI20250106BHJP
   C07K 7/23 20060101ALN20250106BHJP
【FI】
A61K38/09
A61P5/36
A61P13/08
A61P13/02
A61P15/00
A61P35/00
A61P5/24
A61K9/10
A61K47/12
A61K47/54
C07K7/23
【審査請求】有
【請求項の数】1
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2024159884
(22)【出願日】2024-09-17
(62)【分割の表示】P 2022183797の分割
【原出願日】2019-07-02
(31)【優先権主張番号】18181945.9
(32)【優先日】2018-07-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(71)【出願人】
【識別番号】519275607
【氏名又は名称】アンテヴ リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110002077
【氏名又は名称】園田・小林弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】ポーランド, ガイ
(72)【発明者】
【氏名】ブティニョン, フランソワ
(57)【要約】      (修正有)
【課題】合成ゴナドトロピン放出ホルモンアンタゴニスト(GnRHアンタゴニスト)であるテベレリクスの持続放出性注射用組成物において、組成物のゲル化を防止し、均一微結晶水性懸濁液の形態で提供可能な新規組成物を提供する。
【解決手段】少なくとも1:2.2のテベレリクス(Ac-D-Nal-D-pClPhe-D-Pal-Ser-Tyr-D-Hci-Leu-Lys(iPr)-Pro-D-Ala-NH2)とトリフルオロアセテート(TFA)とのモル比を有する、テベレリクス-TFA組成物とする。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1:2.2のテベレリクス(Ac-D-Nal-D-pClPhe-D-Pal-Ser-Tyr-D-Hci-Leu-Lys(iPr)-Pro-D-Ala-NH)とトリフルオロアセテートとのモル比を有する、テベレリクス-TFA組成物。
【請求項2】
テベレリクスとトリフルオロアセテートとのモル比が、少なくとも1:2.4である、請求項1に記載のテベレリクス-TFA組成物。
【請求項3】
テベレリクスとトリフルオロアセテートとのモル比が、1:2.8以下である、請求項1または2に記載のテベレリクス-TFA組成物。
【請求項4】
医薬として使用するための、請求項1から3のいずれか一項に記載のテベレリクス-TFA組成物。
【請求項5】
ゴナドトロピンホルモンの放出に関連する症状または疾患の治療に使用するための、請求項1から3のいずれか一項に記載のテベレリクス-TFA組成物。
【請求項6】
症状または疾患が、良性前立腺過形成;急性閉尿;子宮内膜症;前立腺がん、乳がん、もしくは子宮頸がんなどのがん;化学的去勢;ホルモン不均衡;アンドロゲン感受性症状;エストロゲン感受性症状;またはこれらの組み合わせである、請求項5に記載のテベレリクス-TFA組成物。
【請求項7】
請求項1から6のいずれか一項に記載のテベレリクス-TFA組成物を含む、薬学的製剤。
【請求項8】
微結晶均一水性懸濁液の形態であり、テベレリクスとトリフルオロアセテートとのモル比が1:2.2から1:2.8である、請求項7に記載の薬学的製剤。
【請求項9】
請求項1から6のいずれか一項に記載のテベレリクス-TFA組成物、または請求項7もしくは8に記載の薬学的製剤を充填した、包装。
【請求項10】
単位投与量の、請求項1から5のいずれか一項に記載のテベレリクス-TFA組成物、または請求項6に記載の薬学的製剤を含む、請求項9に記載の包装。
【請求項11】
包装が、皮下および/または筋肉内注射を提供するのに好適なシリンジである、請求項9または10に記載の包装。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、テベレリクス-TFA組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
テベレリクスは、下垂体前葉で受容体に結合する内因性神経ホルモンGnRH(別名、黄体化ホルモン放出ホルモン、LHRHとして知られる)に競合する、合成ゴナドトロピン放出ホルモンアンタゴニスト(GnRHアンタゴニスト)である。GnRHアンタゴニストは、GnRHの作用を低下させる、またはブロックすることによって、卵胞刺激ホルモン(FSH)および黄体化ホルモン(LH)が下垂体前葉から放出されることを抑制する。
【0003】
FSHおよびLHはいずれも、正常な生殖機能に関与する。女性においては、FSHは、未成熟なグラーフ卵胞の成長を刺激して成熟させ、LHレベルの変化は、排卵を制御する。一方、男性においては、FSHは、精子形成に重要な役割を果たし、LHは、精巣においてテストステロンの生成を刺激する。
【0004】
したがって、テベレリクスは、良性前立腺肥大、ホルモン依存性前立腺がん、子宮内膜症、および子宮横紋筋肉腫のような、ホルモン依存性症状の治療に好適である。
【0005】
テベレリクス(Ac-D-Nal-D-pClPhe-D-Pal-Ser-Tyr-D-Hci-Leu-Lys(iPr)-Pro-D-Ala-NH)は疎水性ペプチドであるため、多くの対イオンの存在下で、ゲルを形成する傾向がある。この問題は、ゲルの形成は、テベレリクスペプチドを対イオン、例えばトリフルオロアセテート(TFA)と、少なくとも1:1.6のペプチドと対イオンとのモル比で接触させることによって防止することができ、それにより流動的で乳状のテベレリクス塩(例えば、テベレリクス-TFA)の微結晶水性懸濁液を提供することを開示している、WO2003/022243によって解決されている。
【0006】
WO2003/022243によれば、所望の微結晶懸濁液を確実に得るためには、少なくとも1:1.6というテベレリクスと対イオンのトリフルオロアセテートの比は必須であり、そうでなければ、ゲルが形成されることになる。しかしながら、本発明の発明者は、このようなモル比は、望ましくないゲル形成と、均一でない懸濁液との両方を生じるであろうことを見出した。これは、このような懸濁液は注射が困難であろうためだけでなく、このペプチドの所望の持続作用にゲルが干渉するので、テベレリクスペプチドの生物学的利用能が損なわれるため、問題である。
【発明の概要】
【0007】
したがって、テベレリクスの均一微結晶水性懸濁液を提供することができ、テベレリクスの持続放出を提供するであろう、新しいテベレリクス-TFA組成物を提供することに、需要が存在する。
【0008】
この態様およびさらなる態様は、少なくとも1:2.2のテベレリクスとトリフルオロアセテートとのモル比を有する、テベレリクス-TFA組成物を提供することにより、本発明によって達成される。
【0009】
本発明の内容の範囲内で、「テベレリクスとトリフルオロアセテートとのモル比」という用語は、テベレリクスとトリフルオロアセテートとの間のモルによる関係を指し、モル比の第1の数は、組成物中のテベレリクスのモル含有量であり、第2の数は、組成物中のTFAのモル含有量を指す。例えば、1:2.2のモル比とは、組成物中のテベレリクス1molにつき、この組成物が2.2molのTFAを含むことを意味し、少なくとも1:2.2のモル比とは、組成物中のテベレリクス1モルにつき、組成物が少なくとも2.2molのトリフルオロアセテート(TFA)を含むことを意味する。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1a-1g】懸濁液A1~G1の顕微鏡写真である。
図2】異なるモル比における、可溶型および不溶型テベレリクスの濃度を示すグラフである。
図3】可溶型対不溶型テベレリクスの割合を示すグラフである。
図4】異なるTFA:テベレリクスのモル比における、1時間時点のテベレリクスの血漿濃度を示すグラフである。
図5】異なるTFAとテベレリクスとのモル比における、テベレリクスTFAの投与についての全選択平均PKプロファイルを示すグラフである。
図6】40℃で保管中の溶液において、異なるTFAとテベレリクスとのモル比における、溶液中のテベレリクスTFAの不純物の増加を示すグラフである。
図7】40℃で1箇月保管中の溶液において、TFAとテベレリクスとの異なるモル比における、10mg/mL溶液中のテベレリクスTFAの不純物の増加を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の発明者は、テベレリクスとトリフルオロアセテートとのモル比が、少なくとも1:2.2である場合、組成物は、可溶型テベレリクスと不溶型テベレリクスとの両方を含み、それによって、独特なテベレリクスの生物学的利用能を提供することを見出した。
【0012】
テベレリクスが体内に吸収されるためには、この成分が、吸収の部位において、溶液の形態で存在しなければならない。テベレリクスのような溶解性が低い薬剤の溶解度を増強するために、様々な技法が用いられるが、発明者は、テベレリクスとトリフルオロアセテートとがテベレリクスペプチドの組織化を提供する、改善された物理化学的特性(例えば、溶解度および安定性)ならびに改善された有効性(例えば、生物学的利用能)を有する結晶工学を見出し、結晶構造中の対イオンは、効果的なテベレリクスの持続放出を提供する。
【0013】
理論に束縛されるものではないが、可溶型テベレリクスは水溶液の形態であり、いくつかの状況ではゲルである。ゲルの存在によって、いずれの自由な水性テベレリクスも阻害されることとなり、そのため、即時の放出は防止されるか、少なくとも減少する。不溶型テベレリクスは、微結晶の形態である。この微結晶は、ゲル形成を防止することとなり、そのため、水性テベレリクスを「開放」する。時間が経つにつれて、本発明による組成物中のTFAは、体に吸収されて比率が低下することとなり、その後、微結晶がゲルとなって、徐放性デポを形成する。したがって、非ゲル-可溶型テベレリクスは直ちに利用可能であって、ほぼ即時の作用の発生を提供し、ゲル-可溶型および不溶型テベレリクス(微結晶)は、テベレリクスの持続放出を提供することを支援することとなる。したがって、本発明による組成物は、投与部位における可溶型-不溶型転移、ひいてはテベレリクスの持続放出を提供する。
【0014】
したがって、本発明による組成物は、ゴナドトロピンの迅速な抑制を招く作用の即時発生だけでなく、アンタゴニストの持続放出との両方を有することによって、対象が、血液血漿内の療法的有効濃度を維持することを確保する。これは、ゴナドトロピンに関連する(gonadotropin relates)疾患および症状の治療のための、より信頼のおける組成物を提供するだけでなく、より少ない投与(例えば注射)が必要となるため、患者への適合性も改善するであろう。
【0015】
テベレリクスとトリフルオロアセテートとのモル比は、好ましくは少なくとも1:2.2であり、すなわち、テベレリクス1モルにつき、組成物は少なくとも2.2molのトリフルオロアセテート(TFA)を含み、さらにより好ましくは、少なくとも1:2.4を含むが、これは、直接用いてもよい水性薬学的製剤を提供することになるためであり、すなわち、この製剤は、すぐに使用できる。
【0016】
テベレリクスは、水および酸に接触して配置される場合、脱アミド化するため、保管中に、望ましくない分解生成物(不純物)が、組成物/製剤中に現れるであろう。この不純物は、テベレリクス組成物/製剤の品質、安全性、および有効性に影響を及ぼす場合があり、それによって、潜在的に深刻な健康への危険性を生じる。
【0017】
本発明の発明者は、テベレリクスとTFAとのモル比が1:2.8以下である場合、すなわち、テベレリクス1mol当たりのTFAのモル含有量が2.8以下である場合、不純物のレベルが、許容されるレベルに保たれることを見出した。したがって、本発明による組成物中の最適なモル比は、好ましくは、1:2.2(または1:2.4)から1:2.8の間である。
【0018】
本発明による組成物は、テストステロンおよびジヒドロテストステロン(DHT)のようなゴナドトロピンの抑制を通じて、前立腺がんのような症状を治療するのにとりわけ好適である。このような組成物は、テストステロンの完全な抑制を招く作用の即時発生と、アンタゴニストの持続放出との両方を有することによって、対象が化学的去勢を維持することを確保することになるため、組成物は、疾患の迅速な制御が必要な前立腺がんを有する患者の治療においても、持続放出のみが関係する患者についても、両方に価値がある。
【0019】
しかしながら、本発明による組成物は同様に、ゴナドトロピンホルモンの放出に関連する他の疾患または症状を、少なくとも部分的に改善するために、よく用いられうる。このような疾患または症状は、良性前立腺過形成;急性閉尿;子宮内膜症;前立腺がん、乳がん、もしくは子宮頸がんなどのがん;化学的去勢;ホルモン不均衡;アンドロゲン感受性症状;エストロゲン感受性症状;またはこれらの組み合わせでありうる。
【0020】
本発明はまた、少なくとも1:2.2、好ましくは少なくとも約1:2.4のテベレリクスとトリフルオロアセテートとのモル比を有する、本発明によるテベレリクス-TFA組成物からなる、またはこれを含む、水性薬学的製剤、好ましくは乳状の微結晶均一水性懸濁液に関する。水性薬学的製剤の好ましい実施形態では、テベレリクスとトリフルオロアセテートとのモル比は、1:2.8を下回り、すなわち、1molのテベレリクス当たり、製剤は2.8mol以下のTFAを含有する。
【0021】
所望により、水性薬学的製剤は、マンニトールおよび/または薬学的に許容される添加物などの等張剤を含有してもよい。
【0022】
本発明による単純かつ好ましい実施形態では、テベレリクス-TFA組成物は、少なくとも1:2.2、さらにより好ましくは約1:2.4のテベレリクスとTFAとのモル比を有する単位投与量として提供され、それによって、提供される懸濁液が、実質的にゲルを含有しない、または懸濁液を注射に用いることができるほど少なくとも低濃度のゲルを含有することが確保される。
【0023】
したがって、本発明の別の態様は、単位投与量のテベレリクス-TFA組成物を充填した包装、例えばシリンジまたはバイアルを特徴とする。本発明の文脈の範囲内では、「単位投与量」という用語は、単回投与量において患者に投与される活性成分(テベレリクス)の量である。この単位投与量は、容易な投与を提供するために、例えば、好適なシリンジ内に配置される。
【0024】
一実施形態では、単位投与量は、1:2.4のテベレリクスと対イオンとのモル比を有する、最終的な水性テベレリクス-TFA製剤を提供する。好ましくは、テベレリクスの濃度は、30mg/mlから100mg/mlの間、さらにより好ましくは45mg/mlから90mg/mlの間、例えば約75mg/mlである。テベレリクスの濃度は、いくつかの状況では、約100mg/mlよりも高くてもよい。体積は、0.4mlから1.6mlの間、例えば約1.2mlでありうる。この濃度および体積において、皮下および/または筋肉内に与えられる注射は、穏やかな注射部位反応のみを提供することが実証されている。
【実施例0025】
テベレリクスと対イオンのトリフルオロアセテートとのモル比の影響を確かめるために、複数の試験を実行した。
【0026】
実施例1:異なるモル比を有するテベレリクス-TFA組成物の調製
低いTFA含有量を有するテベレリクスの特別製造バッチ、バッチAを入手した。このバッチの特性を、表1に示す。
【0027】
75mgのテベレリクスを含有する初期組成物である、組成物Aを所望する場合、次のように計算して、88.28mgのバッチAを用いなければならない。
【0028】
次いで、組成物A中のテベレリクスとTFAとのモル比を計算することができる:88.28mgのバッチA中のTFA含有量は、88.28mg×10.9/100(%TFA含有量)=9.62mgと計算することができる。
【0029】
TFAのモル質量MTFAは114g/molであり、テベレリクスのモル質量MTEVは1459g/molであるため、75mgのテベレリクス組成物中のTFAのモル濃度は0.084mmol、テベレリクスのモル濃度は0.051mmolと計算することができる。したがって、組成物A中のテベレリクスとTFAとのモル比は、1:1.64である。
【0030】
異なるモル比を有する、複数の異なる水性テベレリクス-TFA組成物を調製するために、44.14mg+5%(41.93~46.35mg)の組成物Aを含有する21個の試料を、マイクロピペットによって復元溶液を加えることができる蓋を有する、2mlガラスチューブに正確に秤量した。
【0031】
5%マンニトール中にTFAを含有する7種のTFA溶液を、Acros Organics(Geel,Belgium)から入手したTFA組成物を用いて調製した。このTFA組成物は、99%純粋であり、1.535g/mlの密度を有していた。各復元溶液を表2に示す。
【0032】
マイクロピペットを用いて、44.14mg+5%(41.93~46.35mg)の組成物Aを含有する21個のガラスチューブの蓋を通じて、0.5mlの上の復元溶液のそれぞれを加えることによって、各水性テベレリクス-TFA組成物を調製し、すなわち、同じモル比を有する3つの水性テベレリクス-TFA組成物を調製した。ボルテックスを用いて混合物を1分間撹拌し、所望されるテベレリクス-TFAの流動的で乳状の微結晶均一水性懸濁液を得たか、または代わりにゲルが形成されたかを確かめるために、溶液を10分間、視覚的に観察した。結果を下の表3にまとめる。
【0033】
第1の試験チューブ内の水性テベレリクス-TFA組成物の微結晶内容物を、Realux(France)によって供給された偏光顕微鏡でさらに観察した。
【0034】
それぞれのモル比についての結果を、図1a~図1gに示す。これらの観察から、1:1.85以下のモル比については、微結晶形成が観察されないことは明らかであり、したがって、所望の微結晶形成が開始されるためには、テベレリクスと対イオンのTFAとのモル比が、1:1.85を上回らなければならない。
【0035】
さらに、表3から明白であるように、1:2.1以下のモル比では、テベレリクス-TFAの均一懸濁液は得られず、したがって、水性テベレリクス-TFA懸濁液中のモル比は、1:2.2を上回り、好ましくは少なくとも1:2.36(約1:2.4)のようにより高いことが好ましく、そうでなければ、この組成物を、注射によって投与することができない。
【0036】
実施例2:モル比に対する可溶型テベレリクスおよび不溶型テベレリクスの含有量
各試験チューブにおける、不溶型テベレリクスに対する可溶型テベレリクスの含有量を決定するために、それぞれのモル比の第2および第3の試験チューブを、10~20分間、10,000rpmで遠心分離し、上清およびペレット中のテベレリクスの濃度を、HPLC分析を用いて測定した。
【0037】
HPLC分析についてのクロマトグラフィー条件を、表4に示す。
【0038】
59.9mgのテベレリクスアセテート(バッチ080113)を、メスフラスコに秤量し、水:アセトニトリル=65:35(v/v)により体積を100mlまで満たすことによって、2つの100%標準を調製した。10mlのこの溶液を、同じ溶媒によって50mlまで満たし、0.1mg/mlの濃度のテベレリクスペプチドを準備した。
【0039】
2mlの100%標準を、同じ溶媒によって200mlに希釈することによって、1%標準溶液を調製し、0.001mg/mlの濃度のテベレリクスペプチドを準備した。
【0040】
2つの100%標準を用いて、内部標準法を行った。1%標準を用いて、応答の直線性を確認した。100%標準による回収は、区間95%~105%になければならない。
【0041】
遠心分離後に得たペレットを、水:アセトニトリル=65:35(v/v)に可溶化し、同じ溶媒によって、体積を100mLまで満たした。この溶液を、5倍に希釈し(50mL中の10mL)、HPLCを実行した。
【0042】
上清をメスフラスコに移し、同じ溶媒、すなわち、水:アセトニトリル=65:35(v/v)によって、体積を100mLまで満たした。この溶液を、5倍に希釈し(50mL中の10mL)、HPLCを実行した。HPLC分析の結果を、表5に示す。
【0043】
それぞれのモル比の平均濃度を計算したので、表6を参照されたい。結果を図2および3に図示する。
【0044】
表5および6、ならびに図2および3から明白であるように、テベレリクスに対するトリフルオロアセテートの量が増加すると、不溶型テベレリクスの度合いが増加し、したがって、1:2.1のモル比においては、薬学的製剤の約50%は不溶型テベレリクスからなり、薬学的製剤中の不溶型(微結晶)テベレリクスの量は、1:2.2のモル比においては約80%であり、1:2.36(約1:2.4)のモル比モル比においては約82%である。
【0045】
実施例3:モル比に対する血漿濃度
テベレリクスの血漿濃度に対するモル比の関連性を評価するため、異なるモル比を含有する5つのガラスバイアルを、実施例1に論じたように調製し、表7に示す水性テベレリクス-TFA組成物を含む試験チューブを準備した。
【0046】
それぞれのモル比に対して、5匹のラットを試験した。25mm 21Gルアー6%レギュラーベベル針(Terumo(Leuven,Belgium)から入手可能)、および100μlルアースリップシリンジ(Hamilton Company(Reno,USA)から入手可能)を用いて、それぞれのラットに60μlの各溶液を注射した。投与の前、次いで、投与後1時間、6時間、24時間、48時間、7日目、10日目、14日目、21日目、および28日目に、血漿濃度を測定した。
【0047】
それぞれのラット個体への注射後のテベレリクスのピーク血漿濃度Cmaxを、表8に示し、図4に図示する。
【0048】
これらの結果から明らかであるように、テベレリクスのCmaxは、1:2.1のモル比までは上昇し、その後、血漿濃度は実質的に安定する。
【0049】
定期的な間隔で血液試料を採取することによって、4週間の期間にわたる血漿濃度も測定した。
【0050】
4週間の期間における平均血漿レベルを図5に示すが、テベレリクスの放出プロファイルが、モル比に依存することは明らかである。
【0051】
実施例4:モル比に対するテベレリクスの安定性
テベレリクスの安定性に関するテベレリクスと対イオンのトリフルオロアセテートとのモル比の影響を確かめるために、次の試験を実行した。
【0052】
テベレリクスとTFAとの異なるモル比(低1:1.7;中位1:2.16;高1:2.8;および超高1:4.0)を有する、4種のバッチのテベレリクスTFA溶液を、2つの濃度、10mg/mL(ベーステベレリクスとして表す)および1mg/mL(ベーステベレリクスとして表す)において調製した。
【0053】
乾燥粉末として供給される、復元可能なテベレリクスTFA組成物を入手した。このバッチの特性を、表9に示す。
【0054】
出発材料のモル比を、次の計算を用いて決定した。
【0055】
8つのバッチ:一方は、10mg/mlの4種のモル比のそれぞれ、一方は、1mg/mlの4種のモル比のそれぞれを、以下のように調製した。
【0056】
10mg/mLにおける低モル比(1:1.7)
1. 0.312gのテベレリクスTFA(正味重量テベレリクス)を、注射用水によって復元して、懸濁液を3.0mLに調合し、104mg/mLの均一乳状懸濁液を形成した。この濃度では、テベレリクスの96%が固体テベレリクスを形成することを、先行調査が実証しており、そのため、遠心分離後、およそ300mgのテベレリクスが、固体テベレリクスとして回収されることになる。
2. 調製物を、4℃において、10,000rpm(8,500g)で10分間、直ちに遠心分離した。
3. 遠心分離された材料の上清を廃棄した。固体テベレリクスが、およそ1:1.7のテベレリクスとTFAとのモル比を有することを、先行調査が実証している。
4. 遠心分離ペレットを、注射用水によって再懸濁させて、30mLに調合し、およそ10mg/mLの、およそ1:1.7のモル比の溶液を形成した。
【0057】
10mg/mLにおける中位モル比(Mid-molar range ratio)(1:2.16)
1. 0.1gのテベレリクスTFA(正味重量テベレリクス)を、10mL三角フラスコ中で注射用水によって復元して、10.0mL体積の溶液を作製し、10mg/mLにおける、1:2.16のテベレリクスとTFAとのモル比のテベレリクスの溶液を形成した。
【0058】
10mg/mLにおける高モル比(1:2.8)
1. 0.1gのテベレリクスTFA(正味重量テベレリクス)を、10mL三角フラスコ中で、5mLの0.0097M注射用水中トリフルオロ酢酸によって復元した。
2. 溶液を注射用水によって10.0mLに調合して、10mg/mLにおける、1:2.8のテベレリクスとTFAとのモル比のテベレリクスの溶液を形成した。
【0059】
10mg/mLにおける超高モル比(1:4.0)
1. 0.1gのテベレリクスTFA(正味重量テベレリクス)を、10mL三角フラスコ中で、5mLの0.0252M注射用水中トリフルオロ酢酸によって復元した。
2. 溶液を注射用水によって10.0mLに調合して、10mg/mLにおける、1:4.0のテベレリクスとTFAとのモル比のテベレリクスの溶液を形成した。
【0060】
1mg/mLにおける低モル比(1:1.7)
1. 0.312gのテベレリクスTFA(正味テベレリクス)を、注射用水によって復元して、懸濁液を3.0mLに調合し、104mg/mLの均一ミルク懸濁液を形成した。
2. 調製物を、4℃において、10,000rpm(8,500g)で10分間、直ちに遠心分離した。
3. 遠心分離された材料の上清を廃棄した。
3. 遠心分離ペレットを、注射用水中に再懸濁させて(最終体積300mL)、およそ1mg/mLの、およそ1:1.7のテベレリクスとTFAとのモル比の溶液を調合した。
4. 10.0mLを、10mL三角フラスコに移した。
【0061】
1mg/mLにおける中位モル比(Mid-molar range ratio)(1:2.16)
1. 注射用水中テベレリクスTFAの1mg/mL溶液を調製した。
【0062】
1mg/mLにおける高モル比(1:2.8)
1. 0.010gのテベレリクスTFA(正味重量テベレリクス)を、10mL三角フラスコ中で、5mLの0.001M注射用水中トリフルオロ酢酸によって復元した。
2. WFIによって、体積を10mLまで満たした。
【0063】
1mg/mLにおける超高モル比(1:4.0)
1. 0.010gのテベレリクスTFA(正味重量テベレリクス)を、10mL三角フラスコ中で、5mLの0.0205M注射用水中トリフルオロ酢酸によって復元した。
2. WFIによって、体積を10mLまで満たした。
【0064】
すべての溶液を、テベレリクス純度についての分析の前に、研究室温度(20℃)に保った。
【0065】
溶液それぞれから、試料を2回採取し、従来のRP-HPLC方法を用いて、テベレリクス純度について分析した。染色(chromatic)条件は、表10に示した通りである。
【0066】
調製後、すなわち時間0における溶液中のテベレリクスの純度を、表11に示す。
【0067】
経時的な安定性を評価するために、+40℃、75%の相対湿度のチャンバー内で、各溶液を共栓付きガラス三角フラスコに保管した。
【0068】
10mg/mL溶液については1箇月後、1mg/mL溶液については2週間後、既に記載した方法を用いて、テベレリクス純度分析を繰り返した。該当期間の後の溶液の純度を、下の表12に提示する。
【0069】
安定性の結果を図6および7に示し、保管中の不純物のパーセンテージの増加を、溶液のモル比によって図示する。
【0070】
これらの図から、溶媒中のより高濃度のトリフルオロアセテートは、有意により高濃度の不純物をもたらすことは明らかであり、したがって、テベレリクスが高濃度の酸(トリフルオロアセテート)と接触して配置される場合、望ましくない分解生成物(不純物)が少量現れることを、結果が証拠立てている。したがって、安定なテベレリクス-TFA製剤を得るためには、低濃度/含有量のトリフルオロアセテートを有する組成物を準備すること、すなわち、テベレリクス1molについてのトリフルオロアセテートのモル含有量を、可能な限り低く保つことが重要である。
【0071】
図6および7から、懸濁液中のテベレリクスとトリフルオロアセテートとのモル比が1:2.8を下回る(すなわち、1molのテベレリクス対2.8mol以下のTFA)場合、不純物、すなわち、例えば脱アミド化によって生じる、望ましくない分解生成物のレベルは、許容されるレベルに保たれることが見て取れる。
【0072】
これらの図から、テベレリクスの濃度もまた、不純物のレベルに関係することも明らかである。しかしながら、注射体積を減少させるためには、懸濁液が、少なくとも10mg/ml、好ましくは少なくとも30mg/mlのテベレリクスの濃度を含むことが関係し、したがって、最終的な製剤中のテベレリクスの濃度を単純に低下させることは、現実的には不可能である。しかしながら、低レベルの酸はより安定な生成物を提供することとなるため、この因子によって、組成物中の酸(トリフルオロアセテート)の含有量は、保管中にはいっそうより重要となる。
【0073】
したがって、テベレリクス1モルにつき、TFAのモル含有量は、2.2以上2.8以下であるべきである。
【0074】
テベレリクス1mol当たり2.2以上のTFAのモル含有量は、組成物/製剤/懸濁液が、可溶型テベレリクスと不溶型テベレリクスとの両方を確実に含み、それによって、独特なテベレリクスの生物学的利用能を提供するとともに、懸濁液が、皮下および/または筋肉内注射によって容易に投与されることを確保するためには必須である。1:2.2を下回るモル比は、望ましくないゲル形成をもたらし、懸濁液を注射することを非常に困難にするであろう。さらに、テベレリクス1モル当たり2.8以下のTFAのモル含有量は、不純物、例えば望ましくない脱アミド化生成物の量が許容されるレベルに保たれた、安定なテベレリクス-TFA生成物を提供することに関係する。
【0075】
本発明において提供する組成物および製剤は、製造に費用がかさまず、使用の容易さに起因して、非常に単純な投与体制(regime)も提供する。
【0076】
上の原理の修正および組み合わせ、ならびにその組み合わせは、本発明の範囲内で予見される。
図1a-1g】
図2
図3
図4
図5
図6
図7
【手続補正書】
【提出日】2024-10-17
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
明細書に記載された一発明。
【外国語明細書】