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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025040100
(43)【公開日】2025-03-24
(54)【発明の名称】滅菌装置
(51)【国際特許分類】
   A61L 2/20 20060101AFI20250314BHJP
   A61L 101/22 20060101ALN20250314BHJP
【FI】
A61L2/20
A61L101:22
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023146799
(22)【出願日】2023-09-11
(71)【出願人】
【識別番号】392022064
【氏名又は名称】キヤノンメドテックサプライ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】花田 康史
(72)【発明者】
【氏名】小山 高志
【テーマコード(参考)】
4C058
【Fターム(参考)】
4C058AA12
4C058BB07
4C058CC03
4C058DD04
4C058DD05
4C058DD06
4C058DD13
4C058EE26
4C058JJ12
4C058JJ26
(57)【要約】      (修正有)
【課題】滅菌装置において、滅菌を行うことによって生じる被滅菌物へのダメージを低減させること。
【解決手段】濃度分離室331は、原液の中の水分子を気化させて濃縮し、濃縮剤を生成する。回収室332は、濃度分離室で気化された分子を冷却し、希薄剤として回収する。連通部335は、濃度分離室と回収室との間に設けられ、濃度分離室で気化された分子を通過させ、回収室に移動させる。第1ヒータ333aは、濃度分離室を加熱する。気化皿331bは、濃度分離室に設けられ、貯留部から供給された原液を貯留し、原液の中の水分を気化させる。第2ヒータ333bは、気化皿を加熱する。冷却素子334は、回収皿の周囲に設けられ、回収室を冷却する。第1送出管は、原液の中の水分を気化させることにより気化皿の上に生じる濃縮剤を滅菌室へ送出する。第2送出管は、回収室を冷却することにより回収皿の上に生じる希薄剤を滅菌室へ送出する。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
被滅菌物を収容する滅菌室と、
滅菌剤の原液を貯留する貯留部と、
前記原液を前記原液よりも滅菌成分の濃度が高い濃縮剤と、前記滅菌成分を含む水を主成分とする希薄剤とに分離する濃度分離槽と、
前記原液を前記濃度分離槽に導入する導入管と、
前記貯留部から前記導入管へ前記原液を送出する送出部と、
前記濃度分離槽に設けられ、前記原液の中の水分子を気化させて濃縮し、濃縮剤を生成する濃度分離室と、
前記濃度分離槽に設けられ、前記濃度分離室で気化された分子を冷却し、希薄剤として回収する回収室と、
前記濃度分離室と前記回収室との間に設けられ、濃度分離室で気化された分子を通過させ、回収室に移動させる連通部と、
前記濃度分離室全体を加熱する第1ヒータと、
前記濃度分離室に設けられ、前記貯留部から供給された前記原液を貯留し、前記原液の中の水分を気化させる気化皿と、
前記気化皿を加熱する第2ヒータと、
前記回収室に設けられ、前記希薄剤を貯留する回収皿と、
前記回収皿の周囲に設けられ、前記回収室全体を冷却する冷却素子と、
前記原液の中の水分を気化させることにより前記気化皿の上に生じる前記濃縮剤を前記滅菌室へ送出する第1送出管と、
前記回収室を冷却することにより前記回収皿の上に生じる前記希薄剤を前記滅菌室へ送出する第2送出管と、
前記第1送出管を用いて前記濃縮剤を前記滅菌室へ供給する第1供給部と、
前記第2送出管を用いて前記希薄剤を前記滅菌室へ供給する第2供給部と、
を備える滅菌装置。
【請求項2】
前記第1ヒータの加熱温度は、前記第2ヒータの加熱温度よりも高い、
請求項1に記載の滅菌装置。
【請求項3】
前記気化皿は、円錐すり鉢状の溝を有し、当該溝に前記原液が貯留し、
前記回収皿は、円錐すり鉢状の溝を有し、当該溝に前記希薄剤が貯留する、
請求項1に記載の滅菌装置。
【請求項4】
前記濃度分離室で気化された分子を前記回収室側へ送出する機構及び前記濃度分離室で気化された分子を前記回収室側へ吸引する機構のうち、少なくとも1つを更に備える、
請求項1に記載の滅菌装置。
【請求項5】
前記連通部内の平均温度は、前記濃度分離室内の平均温度と前記回収室内の平均温度との間の温度である、
請求項1に記載の滅菌装置。
【請求項6】
前記濃度分離室は、高さ方向において、前記回収室よりも上方に設けられる、
請求項1に記載の滅菌装置。
【請求項7】
前記回収室は、高さ方向において、前記濃度分離室よりも上方に設けられる、
請求項1に記載の滅菌装置。
【請求項8】
前記滅菌室を減圧する真空ポンプと、
前記被滅菌物の滅菌処理の開始指示を受付ける受付部と、
前記開始指示を受付けた場合、所定量の前記原液を前記濃度分離槽に導入し、第1所定時間経過後に、前記滅菌室の減圧を開始し、前記滅菌室の圧力が規定値まで低下した後、前記濃縮剤を滅菌室へ供給し、第2所定時間経過後に、前記希薄剤を滅菌室へ供給するように、前記送出部、前記第1供給部、前記第2供給部、受付部、及び前記真空ポンプの動作を制御する制御部と、
を備える請求項1乃至7の何れか1項に記載の滅菌装置。
【請求項9】
前記滅菌室へ大気を導入する導入部を更に備え、
前記制御部は、前記第2所定時間経過後に前記希薄剤を供給した後、第3所定時間経過後、前記導入部の動作を制御して前記滅菌室に大気を導入し、前記滅菌室の圧力が規定値にまで上昇した後、第4所定時間経過するまで待機する制御を行う、
請求項8に記載の滅菌装置。
【請求項10】
前記制御部は、前記希薄剤の供給後から前記第4所定時間経過するまでの間に、所定量の前記原液を前記濃度分離槽に導入し、前記原液の前記濃度分離槽への供給から前記第4所定時間経過まで待機する一連の動作を所定回数繰り返す制御を行う、
請求項9に記載の滅菌装置。
【請求項11】
前記滅菌室を減圧する真空ポンプと、
前記被滅菌物の滅菌処理の開始指示を受付ける受付部と、
予め所定量の前記原液を前記濃度分離槽に導入して、前記濃縮剤を前記濃度分離室内に貯留させ、前記希薄剤を前記回収室内に貯留させ、前記開始指示を受付けた場合に、記滅菌室の減圧を開始し、前記滅菌室の圧力が規定値まで低下した後、予め貯留させた前記濃縮剤を滅菌室へ供給し、第2所定時間経過後に、予め貯留させた前記希薄剤を滅菌室へ供給するように、前記送出部、前記第1供給部、前記第2供給部、受付部、及び前記真空ポンプの動作を制御する制御部と、
を備える請求項1乃至7の何れか1項に記載の滅菌装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書等に開示の実施形態は、滅菌装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、滅菌器内の滅菌室を減圧して、過酸化水素水溶液等の滅菌剤を滅菌室に吸引しつつ当該滅菌剤を気化させて、滅菌室に収容された被滅菌物を気化された滅菌剤によって滅菌する滅菌装置が知られている。この種の滅菌装置に用いられる方法として、例えば、60%の過酸化水素水溶液を真空蒸気化させ、過酸化水素蒸気により被滅菌物を滅菌する方法が知られている。
【0003】
しかしながら、この方法では最初に水が蒸気化することから特に被滅菌物の内腔深部に対する滅菌力が低下してしまうという問題がある。このため、過酸化水素水溶液の水成分を排除し過酸化水素濃度を98%程度に濃縮することで被滅菌物の内腔深部への滅菌力を向上させる手段が講じられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2023-20569号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、酸化水素濃度を98%程度に濃縮した場合、例えば、被滅菌物に樹脂が含まれていると、濃縮された過酸化水素によるケミカルアタックが生じ、被滅菌物が破損してしまう可能性がある。また、被滅菌物にラベル等が貼付されている場合、ラベルが剥がれてしまったり、ラベルに書かれた文字が消えてしまったりする可能性もある。
【0006】
本明細書等に開示の実施形態が解決しようとする課題の一つは、滅菌を行うことによって生じる被滅菌物へのダメージを低減させることである。ただし、本明細書等に開示の実施形態により解決される課題は上記課題に限られない。後述する実施形態に示す各構成による各効果に対応する課題を、本明細書等に開示の実施形態が解決する他の課題として位置づけることもできる。
【課題を解決するための手段】
【0007】
実施形態に係る滅菌装置は、滅菌室と、貯留部と、濃度分離槽と、導入管と、送出部と、濃度分離室と、回収室と、連通部と、第1ヒータと、気化皿と、第2ヒータと、回収皿と、冷却素子と、第1送出管と、第2送出管と、第1供給部と、第2供給部とを備える。滅菌室は、被滅菌物を収容する。貯留部は、滅菌剤の原液を貯留する。濃度分離槽は、原液を原液よりも滅菌成分の濃度が高い濃縮剤と、滅菌成分を含む水を主成分とする希薄剤とに分離する。導入管は、原液を濃度分離槽に導入する。送出部は、貯留部から導入管へ原液を送出する。濃度分離室は、濃度分離槽に設けられ、原液の中の水分子を気化させて濃縮し、濃縮剤を生成する。回収室は、濃度分離槽に設けられ、濃度分離室で気化された分子を冷却し、希薄剤として回収する。連通部は、濃度分離室と回収室との間に設けられ、濃度分離室で気化された分子を通過させ、回収室に移動させる。第1ヒータは、濃度分離室を加熱する。気化皿は、濃度分離室に設けられ、貯留部から供給された原液を貯留し、原液の中の水分を気化させる。第2ヒータは、気化皿を加熱する。回収皿と、回収室に設けられ、希薄剤を貯留する。冷却素子は、回収皿の周囲に設けられ、回収室を冷却する。第1送出管は、原液の中の水分を気化させることにより気化皿の上に生じる濃縮剤を前記滅菌室へ送出する。第2送出管は、回収室を冷却することにより回収皿の上に生じる希薄剤を滅菌室へ送出する。第1供給部は、第1送出管を用いて濃縮剤を滅菌室へ供給する。第2供給部は、第2送出管を用いて希薄剤を滅菌室へ供給する。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1図1は、実施形態に係る滅菌装置の構成の一例を示す図である。
図2図2は、実施形態に係る濃度分離槽の構成の一例を示す図である。
図3図3は、実施形態に係る滅菌装置の構成の一例を示すブロック図である。
図4図4は、実施形態に係る滅菌装置が実行する滅菌動作での滅菌室内の圧力の変化の一例を示す図である。
図5図5は、変形例に係る濃度分離槽の構成の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下に添付図面を参照して、実施形態について詳細に説明する。なお、この実施形態により本発明が限定されるものではない。
【0010】
以下の複数の実施形態には、同様の構成要素が含まれている。それら同様の構成要素には共通の符号が付与されるとともに、重複する説明が省略される。また、図面は模式的なものであり、各要素の寸法の関係、各要素の比率などは、現実と異なる場合がある。また、図面の相互間においても、互いの寸法の関係や比率が異なる部分が含まれている場合がある。また、本明細書では、序数は、部品や、部材、部位、位置、方向等を区別するためだけに用いられており、順番や優先度を示すものではない。
【0011】
図1は、実施形態に係る滅菌装置1の構成の一例を示す図である。図1に示されるように、滅菌装置1は、滅菌処理部2と、制御装置3と、を備える。
【0012】
滅菌処理部2は、液体状の滅菌剤を気化させて、気化させた滅菌剤によって被滅菌物100を滅菌する。液体状の滅菌剤は、例えば過酸化水素水溶液である。また、被滅菌物100は、例えば、内視鏡や内視鏡ビデオカメラ、医療用プラスチック製品等の医療用機器であるが、他の物であってもよい。制御装置3は、滅菌処理部2を制御する。制御装置3は、制御部の一例である。
【0013】
ここで、本明細書において、滅菌処理には、対象物を滅菌、殺菌、除菌、または消毒する処理が含まれるものとする。また、本明細書において、滅菌は、殺菌、除菌、または消毒に読み替え可能であるものとする。
【0014】
なお、滅菌とは、有害・無害を問わず、対象物に存在する全ての細菌、ウイルス、その他微生物を死滅させることをいう。また、殺菌とは、対象物に存在する細菌、ウイルス、その他微生物を死滅させる(不活性化させる)ことをいう。また、除菌とは、対象物に存在する細菌、ウイルス、その他微生物の数を減らすことをいう。また、消毒とは、対象物に存在する病原性のある細菌、ウイルス、その他微生物を死滅させて(または除去して)害のない程度にすることをいう。
【0015】
滅菌処理部2は、滅菌庫11と、滅菌剤供給部12と、を備える。滅菌庫11の内部には、被滅菌物100を収容する滅菌室11aが設けられており、滅菌剤供給部12は、滅菌室11aに滅菌剤を供給する。滅菌室11aは、チャンバーとも称される。
【0016】
また、本実施形態では、便宜上、互いに直交する三方向が定義されている。X方向は、滅菌庫11の前後方向(奥行方向)の後方と一致し、Y方向は、滅菌庫11の幅方向に沿い、Z方向は、滅菌庫11の上下方向(高さ方向)の上方と一致する。なお、以後では、滅菌庫11の幅方向を左右方向とも称する。
【0017】
滅菌剤供給部12は、カートリッジ31と、液相ポンプ32と、濃度分離槽33と、電磁弁34と、分配器35と、加熱・気化ユニット36と、真空ポンプ37と、電磁弁38と、真空ゲージ39と、を備える。カートリッジ31と、液相ポンプ32と、濃度分離槽33と、電磁弁34と、分配器35と、加熱・気化ユニット36とは、流体回路を構成している。
【0018】
真空ポンプ37は、滅菌庫11内すなわち滅菌室11a、加熱・気化ユニット36内、分配器35内の気体を吸引して、それぞれの空間内を減圧し真空状態(大気圧より低い圧力である陰圧の気体で満たされた空間内の状態)にする。真空状態は、陰圧状態とも称される。
【0019】
カートリッジ31は、液体状の滅菌剤(原液)を収容している。カートリッジ31は、貯留部の一例である。液相ポンプ32は、カートリッジ31から液体状の滅菌剤を吸引して、吸引した液体状の滅菌剤を濃度分離槽33へ吐出する。液相ポンプ32は、送出部の一例である。換言すると、液相ポンプ32は、滅菌剤を濃度分離槽33へ供給する。液相ポンプ32は、滅菌剤の吸引量および吐出量を計量可能なチューブポンプである。
【0020】
濃度分離槽33は、液体状の滅菌剤を加熱して液体状の滅菌剤を濃縮剤と希薄剤とに分離する。ここで、濃縮剤とは、滅菌成分の濃度が、滅菌剤の原液中の滅菌成分の濃度よりも高いものである。例えば、滅菌材(原液)が60%過酸化水素水溶液であれば、濃縮剤は、60%を超える濃度の過酸化水素水溶液である。
【0021】
また、希薄剤とは、滅菌成分の濃度が、滅菌剤の原液中の滅菌成分の濃度よりも低いものである。例えば、滅菌材(原液)が60%過酸化水素水溶液であれば、希薄剤は、水を主成分とする60%以下の濃度の過酸化水素水溶液である。
【0022】
具体的には、濃度分離槽33は、過酸化水素水溶液中の水を熱により気化させて、過酸化水素水溶液中の過酸化水素の濃度を上げたものを濃縮剤とする。また、気化させた水を冷却して回収したものを希薄剤とする。過酸化水素水溶液中の水を熱により気化させる際に、過酸化水素も気化する可能性があるため、希薄剤には、過酸化水素が含まれていてもよい。
【0023】
濃度分離槽33は、濃度分離槽33aと濃度分離槽33bとで構成される。濃度分離槽33aと濃度分離槽33bとは同一の構成を備えている。以下の説明では、濃度分離槽33aと濃度分離槽33bとを特に区別しない場合、単に濃度分離槽33ともいう。
【0024】
以下、濃度分離槽33について図2を用いて説明する。図2は、濃度分離槽33の構成の一例を示す図である。濃度分離槽33は、濃度分離室331及び回収室332で構成される。本実施形態では、高さ方向において、濃度分離室331が上方に、回収室332が下方に配置される。濃度分離室331は、濃縮剤を貯留する密閉された空間である。回収室332は、希薄剤を貯留する空間である。
【0025】
濃度分離室331と回収室332とは、後述の気化皿331b及び回収皿332aにより形成される連通部335により連通している。
【0026】
濃度分離室331は、濃度分離室331の上面及び左右面に配置された壁331a及び気化皿331bにより形成される空間である。壁331aは、例えば、ステンレス鋼、アルミニウム合金、ニッケル合金等の耐腐食性を持つ金属素材で構成される。なお、壁331aは、アルミニウムやニッケル等の耐腐食性を持つ金属のメッキが施された鉄等で構成されていてもよい。
【0027】
濃度分離室331には、滅菌剤導入管336が設けられる。滅菌剤導入管336は、カートリッジ31に収容された滅菌剤を濃度分離室331に導入するためのチューブである。滅菌剤導入管336は、導入管の一例である。例えば、滅菌剤導入管336は、壁331aを貫通するように設けられる。この場合、壁331aと滅菌剤導入管336との間に生じる隙間は、Oリング等で埋められる。また、滅菌剤導入管336は、濃度分離処理により生じる濃縮剤CLに接することがないように設けられる。
【0028】
また、濃度分離室331には、濃縮剤送出管337が設けられる。濃縮剤送出管337は、第1送出管の一例である。濃縮剤送出管337は、濃度分離処理により生じた濃縮剤を濃度分離室331から送出するためのチューブである。例えば、濃縮剤送出管337は、壁331aを貫通するように設けられる。この場合、壁331aと濃縮剤送出管337との間に生じる隙間は、Oリング等で埋められる。
【0029】
また、濃度分離室331内の空間の中央付近には、気化皿331bが配置される。気化皿331bは、円錐すり鉢状の溝を有する。気化皿331bは、例えば、磁器で構成される。気化皿331bは、支持部材(図示しない)により壁331aに支持される。例えば、気化皿331bは、支持部材(図示しない)により吊り下げるようにして壁331aの上面により支持される。
【0030】
なお、上述の滅菌剤導入管336に濃度分離処理で生じた濃縮剤が付着しないように、滅菌剤導入管336の滅菌剤の出口は、なるべく気化皿331bの円錐すり鉢状の溝の周縁部側に位置していることが好ましい。
【0031】
また、壁331aの上面、左右面には、第1ヒータ333aが設けられる。第1ヒータ333aはリード線(図示しない)により、制御装置3に接続される。第1ヒータ333aは、濃度分離室331全体を加温する。
【0032】
例えば、第1ヒータ333aは、120℃に加温可能なPTCヒータである。なお、第1ヒータ333aは、PTCヒータに限定されない。後述する第2ヒータ333b以上の温度に温度調整が可能であれば、各種ヒータを適宜使用可能である。
【0033】
気化皿331bの円錐すり鉢状の溝には、濃度分離処理により生じた濃縮剤CLが貯留される。また、気化皿331bの底部には、第2ヒータ333bが内蔵されている。第2ヒータ333bはリード線333cにより、制御装置3に接続される。第2ヒータ333bは滅菌剤導入管336から濃度分離室331内に導入された液体状の滅菌剤を加温して滅菌剤を濃縮する。
【0034】
例えば、第2ヒータ333bは、80℃に加温可能なPTCヒータである。なお、第2ヒータ333bは、PTCヒータに限定されない。上述の第1ヒータ333aよりも低い温度に温度調整が可能であれば、各種ヒータを適宜使用可能である。
【0035】
回収室332は、気化皿331bの底部及び回収皿332aにより形成される空間である。回収皿332aは、壁331aと同様に、ニッケル等の耐腐食性を持つ金属素材で構成される。
【0036】
また、回収室332には、希薄剤送出管338が設けられる。希薄剤送出管338は、第2送出管の一例である。希薄剤送出管338は、濃度分離処理により生じた希薄剤を回収室332から送出するためのチューブである。例えば、希薄剤送出管338は、回収皿332aを貫通するように設けられる。この場合、回収皿332aと希薄剤送出管338との間に生じる隙間は、Oリング等で埋められる。
【0037】
回収皿332aの右側方、左側方、及び下方には、冷却素子334が設けられる。冷却素子334はリード線(図示しない)により、制御装置3に接続される。例えば、冷却素子334はペルチェ素子である。なお、冷却素子334はペルチェ素子に限定されない。冷却が可能な素子であれば既知の素子を適宜利用可能である。
【0038】
また、左右面の壁331aと、回収皿332aとの間には、温度緩衝帯335aが設けられる。例えば、温度緩衝帯335aは、PTFE(polytetrafluoroethylene)等で構成される。温度緩衝帯335aには、第1ヒータ333aも冷却素子334も設けられていない。このため、温度緩衝帯335aに接する連通部335内の平均温度は、濃度分離室331内の平均温度と回収室332内の平均温度との間の温度となる。
【0039】
このように、連通部335に接する部分に温度緩衝帯335aが設けられていることで、加熱部(濃度分離室331)と冷却部(回収室332)とを確実に分離できる。また、温度緩衝帯335aが存在することで、効率良く分子の運動を移行させることもできる。これにより、濃度分離室331から回収室332に至る前に分子が液化してしまう可能性を低減できる。
【0040】
以下、滅菌剤が60%過酸化水素水溶液である場合を例に、濃度分離槽33で行われる濃度分離処理について説明する。まず、液相ポンプ32の駆動により、カートリッジ31から所定量(例えば、1mL)の60%過酸化水素水溶液が濃度分離槽33a、33bに導入される。ここで、60%過酸化水素水溶液を濃度分離槽33aに導入するか、濃度分離槽33bに導入するかは、例えば、電磁バルブを設け、当該電磁バルブの開閉を制御すること等により切替可能である。
【0041】
滅菌剤導入管336から濃度分離室331の空間に導入された60%過酸化水素水溶液は、溝に貯留された60%過酸化水素水溶液は、第1ヒータ333aにより加熱される。これにより、60%過酸化水素水溶液が気化し始める。気化されなかった60%過酸化水素水溶液は、重力により気化皿331bの溝に貯留する。
【0042】
溝に貯留された60%過酸化水素水溶液は、第2ヒータ333bにより加熱される。また、気化した分子は、膨張により体積が増加する。体積の増加により、濃度分離室331の圧力が高まるため、回収室332の圧力よりも濃度分離室331の圧力の方が高い状態になる。したがって、圧力の均衡を保つため、気化した分子は圧力の高い濃度分離室331から連通部335を通過して圧力の低い方へ移動する。
【0043】
ここで、分子量が小さい水分子の方が、分子量が大きい過酸化水素分子よりも加熱による振動が大きいことが知られている。つまり、過酸化水素分子よりも水分子の方が気化しやすい。これにより、水分子が優先的に濃度分離室331から回収室332へ移動することになる。
【0044】
なお、気化皿331bの底部にファン等を設け、気化皿331bの直上に生じた分子の回収室332への移動を促進させてもよい。また、真空ポンプ37等を用いて、濃度分離室331で気化した分子を回収室332側へ吸引する等して、気化皿331bの直上に生じた分子の回収室332への移動を促進させてもよい。
【0045】
回収室332では、冷却素子334の冷却効果で気化した分子はその振動を奪われ体積が縮小し凝結し液化し沈殿する。上述のように、回収室332には水分子が優先的に移動するため、回収室332では水分子が優先的に液化し、回収皿332aの円錐すり鉢状の溝に液化した希薄剤DLが貯留することになる。
【0046】
ここで、蒸気化した分子の振動エネルギーよりも低い温度のものがあればそこで凝結現象が発生することが知られている。つまり、濃度分離室331内であっても気化皿331bよりも温度が低い領域があれば、そこで水分子が凝結し沈殿する可能性がある。濃度分離室331内で水分子が液化してしまうと、水分子が気化皿331bの溝に貯留することになり、濃縮剤CLの濃度が低下して濃縮の効率が低下する。
【0047】
本実施形態では、濃度分離室331の壁331aに設ける第1ヒータ333aの温度を、気化皿331bの底部に設けられる第2ヒータ333bの温度よりも高く設定している。これにより、濃度分離室331の内面全面の温度が気化皿331bの温度よりも高くなるため、濃度分離室331内で水分子の凝結現象が起きる可能性を低減させることができる。
【0048】
また、濃度分離槽33aでは、濃縮剤送出管337と電磁弁34aとが接続されている。濃度分離処理により生じた濃縮剤CLは、真空ポンプ(図示しない)等を用いて、濃縮剤送出管337を経由して電磁弁34aに送出される。なお、後述の真空ポンプ37を用いて、濃縮剤CLを電磁弁34aに送出してもよい。
【0049】
本実施形態では、濃度分離槽33aでは、濃度分離処理により生じた希薄剤DLが電磁弁34aの方に流出しないように、希薄剤送出管338と電磁弁34aとは接続されていない。なお、濃度分離槽33aの希薄剤送出管338と電磁弁34bとがチューブ等で接続されていてもよい。
【0050】
また、濃度分離槽33bでは、希薄剤送出管338と電磁弁34bとが接続されている。この場合、濃度分離処理により生じた希薄剤DLは、重力に従って下方に移動し、希薄剤送出管338を経由して電磁弁34bに送出される。なお、濃度分離槽33bの濃縮剤送出管337と電磁弁34aとがチューブ等で接続されていてもよい。この場合は、濃度分離槽33bで生じた濃縮剤も濃度分離槽33aと同様に、電磁弁34aに送出される。
【0051】
なお、1つの濃度分離槽33のみを設け、濃縮剤送出管337と電磁弁34aとを接続し、希薄剤送出管338と電磁弁34bとを接続してもよい。
【0052】
なお、上記は濃度分離処理の一例であり、濃度分離処理は上記に限定されない。滅菌剤に含まれる水分子を気化させて濃縮し、気化した水分子を冷却して回収できる構成であれば種々の構成を適用可能である。
【0053】
電磁弁34a、bは、濃度分離槽33と滅菌室11aとの間に設けられている。電磁弁34aが開くと、滅菌室11aが陰圧となっている場合には、濃度分離槽33からの濃縮剤が滅菌室11aに供給される。電磁弁34aは、濃縮剤を滅菌室11aに供給する役割を果たすため、第1供給部の一例である。
【0054】
また、同様に、電磁弁34bが開くと、滅菌室11aが陰圧となっている場合には、濃度分離槽33からの希薄剤が滅菌室11aに供給される。電磁弁34aは、希薄剤を滅菌室11aに供給する役割を果たすため、第2供給部の一例である。
【0055】
図1に戻り、説明を続ける。分配器35は、濃度分離槽33と滅菌室11aとの間に設けられている。分配器35は、陰圧によって電磁弁34aから流入した液体状の濃縮剤又は陰圧によって電磁弁34bから流入した液体状の希釈剤を、パスカルの法則により四分割して、後述の四つの気化器42に等量で分配する。以下、濃縮剤と希薄剤とを特に区別しない場合、濃縮剤及び希薄剤を滅菌剤とも称する。
【0056】
四つの気化器42は、液体状の滅菌剤を気化させて、気体状の滅菌剤を滅菌室11a内に供給する。
【0057】
電磁弁38は、滅菌室11aの内と外とを連通する開弁状態と滅菌室11aの内と外とを遮断する閉弁状態とに変化可能である。電磁弁38が開弁状態になると、滅菌室11aが減圧状態から大気圧状態に戻る。電磁弁38は、滅菌室11a内に大気を導入する役割を果たすため、大気を導入する機構の一例である。真空ゲージ39は、滅菌室11aの真空度を測定する。
【0058】
滅菌庫11の内部には、滅菌室11aが設けられている。滅菌室11aに被滅菌物100が収容される。また、滅菌室11aには、滅菌室11aの温度を検出する温度センサ48が配置されている。
【0059】
滅菌庫11は、前後方向を長手方向とし幅方向を短手方向とする略直方体状の箱形である。滅菌庫11は、本体21と、扉22と、を有する。なお、滅菌庫11は、筐体とも称される。
【0060】
本体21は、上壁21aと、下壁21bと、右壁21cと、左壁と、後壁21eと、を有する。上壁21aおよび下壁21bは、いずれも上下方向と直交する方向に延びており、上下方向に間隔を空けて互いに平行に設けられている。右壁21cおよび左壁は、いずれも幅方向と直交する方向に延びており、幅方向に間隔を空けて互いに平行に設けられている。後壁21eは、前後方向と直交する方向に延びており、上壁21a、下壁21b、右壁21c、および左壁のそれぞれの後端部を接続している。
【0061】
上壁21a、下壁21b、右壁21c、左壁、および後壁21eは、それぞれ、外面11bと内面とを有する。上壁21a、下壁21b、右壁21c、左壁、および後壁21eは、滅菌庫11の外壁である。本体21は、例えばステンレスによって構成されている。
【0062】
本体21の内部に滅菌室11aが設けられている。滅菌室11aは、上壁21a、下壁21b、右壁21c、左壁、および後壁21eによって囲まれている。
【0063】
扉22は、上壁21a、下壁21b、右壁21cまたは左壁の前端部に回転可能に支持され、本体21に対して開閉可能である。扉22は、閉められた状態では、前後方向と直交する方向に延びており、上壁21a、下壁21b、右壁21c、および左壁のそれぞれの前端部と重なり、滅菌室11aを閉塞する。
【0064】
扉22が開かれると、滅菌室11aが前方に開放される。なお、後壁21eが、扉22と同様に開閉可能な扉として構成されていてもよい。すなわち、扉22と後壁21eとが、両方とも開閉可能であってもよい。
【0065】
また、上壁21a、下壁21b、右壁21c、左壁、および後壁21eのそれぞれの外面11bには、外側ヒータ25が重ねられている。なお、図1では、上記の外側ヒータ25のうちの一部のみを示している。外側ヒータ25は、滅菌庫11の外側から滅菌庫11の内部すなわち滅菌室11aを加熱する。外側ヒータ25は、加熱部の一例である。
【0066】
外側ヒータ25は、滅菌室11aの温度が、滅菌装置1が設置される室内の温度である室温よりも高い温度(例えば50℃~60℃)になるように滅菌室11aを加熱する。外側ヒータ25は、シートヒータ等の熱源を有する。以下、この滅菌室11aの滅菌時の温度を滅菌温度と称することがある。
【0067】
滅菌室11aには、二つの棚23と、二つの加熱・気化ユニット36と、が収容されている。なお、棚23と加熱・気化ユニット36の数は、上記に限定されない。
【0068】
二つの棚23は、上下方向に間隔を空けて並べられている。各棚23は、右壁21cと左壁とに設けられた支持部(不図示)によって着脱可能に支持されている。二つの棚23は、滅菌庫11に対して前後方向にスライド可能である。
【0069】
二つの棚23は、それぞれ、被滅菌物100の載置が可能である。棚23は、複数の開口部が設けられた網状である。棚23の下側には、ネット26が重ねられている。例えば、ネット26は、棚23に溶接され、棚23と一体化されている。ネット26の比熱は、棚23の比熱よりも低い。ネット26には、複数の開口部が設けられている。なお、ネット26は設けられていなくてもよい。
【0070】
二つの加熱・気化ユニット36は、それぞれ、二つの棚23の下側に配置されている。詳細には、二つの加熱・気化ユニット36は、それぞれ、二つの棚23のそれぞれの直下に配置されている。直下とは、加熱・気化ユニット36に含まれる内側ヒータ43の上端と棚23の上端との間の上下方向の距離が、当該棚23上の被滅菌物100を収容可能な空間(以後、棚上収容空間とも称する)の上下方向の高さの半分以下のことをいう。
【0071】
二つの加熱・気化ユニット36のうち上側の加熱・気化ユニット36は、右壁21cと左壁(不図示)とに設けられた支持部によって着脱可能に支持されている。また、二つの加熱・気化ユニット36のうち下側の加熱・気化ユニット36は、下壁21bに着脱可能に支持されている。
【0072】
加熱・気化ユニット36は、ケース41と、二つの気化器42と、内側ヒータ43と、を有する。
【0073】
ケース41は、例えば、アルミニウムによって構成されている。
【0074】
二つの気化器42は、上下方向と交差する方向である前後方向に間隔を空けてケース41に配置されている。各気化器42は、二つの板45,46を有する。したがって、二つの板45,46の組47が二つ設けられており、これらの組47は、前後方向に間隔を空けてケース41に配置されている。なお、組47の数は、上記に限定されない。例えば、組47は、一つであってもよいし、三つ以上であってもよい。
【0075】
二つの板45,46は、滅菌室11aにおいて棚23の下側に配置されている。板45,46は、平板状である。二つの板45,46は、いずれも上下方向と直交する方向に延びて、上下方向に間隔を空けて互いに平行に設けられている。
【0076】
二つの板45,46は、平行平板とも称される。板46は、板45の下側に配置されている。また、気化器42には、供給口と出口とが設けられている。供給口は、板46の略中央部に設けられている。供給口には、分配器35から液体状の滅菌剤が供給される。供給口は、液体状の滅菌剤を二つの板45,46の間の隙間に供給する。隙間は、滅菌剤の流路(通路)である。
【0077】
出口は、二つの板45,46の間の隙間における二つの板45,46の外部に開放された外縁部によって構成されている。出口から、二つの板45,46の間の滅菌剤が二つの板45,46の間の隙間の外に流出する。
【0078】
内側ヒータ43は、滅菌室11aにおいて棚23の下側に配置されている。内側ヒータ43は、二つの組47のそれぞれの二つの板45,46の周囲に設けられている。例えば、内側ヒータ43は、折り曲げ加工された一つのシーズヒータである。
【0079】
制御装置3は、滅菌装置1の動作を統括的に制御する。以下、図3を用いて、制御装置3について説明する。図3は、実施形態の滅菌装置1の構成の一例を示すブロック図である。図3に示すように、制御装置3には、外側ヒータ25、液相ポンプ32、濃度分離槽33、電磁弁34a、34b、内側ヒータ43、真空ポンプ37、電磁弁38、真空ゲージ39、温度センサ48等が接続されている。
【0080】
制御装置3は、CPU(Central Processing Unit)、ROM(Read Only Memory)、およびRAM(Random Access Memory)を有する。すなわち、制御装置3は、コンピュータである。CPUは、ROM等に記憶されたプログラムを読み出して実行する。RAMは、CPUがプログラムを実行して種々の演算処理を実行する際に用いられる各種データを一時的に記憶する。
【0081】
制御装置3は、操作部13に対する開始操作の有無に関わらず滅菌庫11を加熱するよう外側ヒータ25を制御する。詳細には、制御装置3は、滅菌装置1に電源が投入されている間は、外側ヒータ25に加熱をさせる。制御装置3は、温度センサ48の検出結果に基づいて、滅菌庫11内の中心すなわち滅菌室11a内の温度が規定の目標温度となるように、外側ヒータ25を制御する。
【0082】
庫内設定温度は、例えば、40℃~65℃であってもよいし、45℃~60℃であってもよいし、65℃以上であってもよいし、これら以外であってもよい。なお、温度センサ48が測定する箇所は、内側ヒータ43が発する熱の影響を受けにくい箇所であることが好ましい。
【0083】
また、制御装置3は、濃度分離槽33a、33bの各部の動作を制御して、濃度分離処理を行う。例えば、制御装置3は、液相ポンプ32の動作を制御し、カートリッジ31から1mLの60%過酸化水素水溶液を濃度分離槽33a、33bに供給する。導入された60%過酸化水素水溶液は、濃度分離槽33a、33bの気化皿331bの溝に貯留する。
【0084】
制御装置3は、濃度分離槽33a、33bの第2ヒータ333bを制御して、溝に貯留された60%過酸化水素水溶液を加熱し、60%過酸化水素水溶液に含まれる水分子を気化させる。
【0085】
このとき、過酸化水素水溶液は加熱されると分子量の軽い水分子の方がより多く振動するため、水分子の方が優先的に気化するが、過酸化水素分子についても気化される可能性がある。気化皿331bの加温温度を上昇させることで、気化効率を上昇させることができるが、過酸化水素分子も気化される可能性が高くなる。
【0086】
過酸化水素分子が気化されると、気化された過酸化水素分子が回収室332へ移動し、回収室332内で凝結する可能性がある。この場合、希薄剤の過酸化水素濃度が上昇することになり、その分、濃縮剤の過酸化水素濃度も低下してしまう。つまり、過酸化水素分子が気化される割合が高まると、濃度分離の精度が低下してしまう。
【0087】
一方で、凝結現象は蒸気化した分子の振動エネルギーより低い温度のものがあればそこで発生するため、濃度分離室331内であっても気化皿より温度が低ければ凝結現象が起こり得る。このため、制御装置3は、第1ヒータ333aを制御して、濃度分離室331内を加温し、水分子の凝結現象を抑制している。
【0088】
しかしながら、第1ヒータ333aによる濃度分離室331内の加温が不十分だと、気化した水分子が凝結してしまう場合がある。この場合、凝結した水分子は気化皿331bの溝に貯留することになり、濃度分離の効率が低下する。
【0089】
つまり、過酸化水素分子の気化を抑制し、濃度分離の精度を向上させるため、第2ヒータ333bの加温温度は高過ぎないことが好ましい。一方で、濃度分離室331内での水分子の凝結現象を抑制するため、第1ヒータ333aの加温温度は、高い方が好ましい。このため、本実施形態に係る滅菌装置1は、第1ヒータ333aの加温温度が、第2ヒータ333bの加温温度よりも高くなる構成となっている。
【0090】
また、制御装置3は、後述する滅菌処理の真空引きの処理が終了するまでの間、濃度分離槽33a内での濃度分離処理を実行する。真空引きの処理の終了後、制御装置3は、電磁弁34aを開放して、濃度分離槽33aによる濃度分離処理で生じた濃縮剤を滅菌室11aに供給する。
【0091】
また、制御装置3は、滅菌処理の濃縮剤投入後の定圧待機が終了するまでの間、濃度分離槽33a内での濃度分離処理を実行する。濃縮剤投入後の定圧待機の終了後、制御装置3は、電磁弁34bを開放して、濃度分離槽33bによる濃度分離処理で生じた希薄剤を滅菌室11aに供給する。
【0092】
ところで、従来の蒸気化した過酸化水素を用いる滅菌手法では、被滅菌物の内腔深部の滅菌力を向上させるために過酸化水素濃度を98%程度に濃縮することでことが行われているが、従来手法では、高濃度の過酸化水素が被滅菌物にダメージを与える可能性があることが知られている。このため、従来の技術では、滅菌装置のユーザが、被滅菌物が酸化の影響を受けるか否かを確認した上で滅菌処理を行うことが求められている。
【0093】
これに対し、制御装置3は、滅菌装置1の各部の動作を制御して下記の滅菌処理を行う。以下の動作の説明の前提として、外側ヒータ25が動作しており、外側ヒータ25が滅菌室11aを滅菌室11aの外側から加熱しているものとする。また、滅菌剤は、60%過酸化水素水溶液であるものとする。
【0094】
図4は、実施形態に係る滅菌装置1が実行する滅菌動作での滅菌室11a内の圧力の変化の一例を示す図である。図4の滅菌パルスP1乃至P4は、滅菌装置1の滅菌室11a内の圧力変化の一例を表している。
【0095】
まず、制御装置3は、操作部13が開始操作を受け付けた場合に、液相ポンプ32を制御して、カートリッジ31内の滅菌剤を濃度分離槽33a、33bに供給する。操作部13は、受付部の一例である。制御装置3は、濃度分離槽33a、33bの各部の動作を制御して上述の濃度分離処理を開始する。
【0096】
濃度分離処理の開始から所定時間経過後に、制御装置3は、電磁弁34a、34bを閉じた状態で、真空ポンプ37によって滅菌室11aおよび滅菌室11aから電磁弁34までの間の流体回路中の流路(空間)の圧力を減圧(真空引き)する(C1)。この場合の所定時間は、第1所定時間の一例である。なお、所定時間を調整することで、滅菌室11aに投入する濃縮剤の過酸化水素濃度を調整してもよい。真空引きにより、滅菌室11aの圧力は低下していく。
【0097】
滅菌室11aの圧力が規定の圧力まで下がると、制御装置3は、電磁弁34aを開く(C2)。本実施形態では、濃度分離槽33a、33bによる濃度分離処理の開始から滅菌室11aの圧力が規定の圧力にまで下がる時間は、3分である。この場合、濃縮剤の過酸化水素濃度は、約80%程度、希薄剤の過酸化水素濃度は、約20%程度になる。
【0098】
なお、濃度分離槽33の濃度分離室331では、時間をかけるほど滅菌剤の濃縮が進むことになる。このため、制御装置3は、濃縮剤を投入するまでのタイミングを制御することで、濃縮剤の過酸化水素濃度の調整を行ってもよい。この場合、濃縮剤の過酸化水素濃度が高くなるほど、希薄剤の過酸化水素濃度は低くなる。
【0099】
また、濃度分離槽33aで得られた濃縮剤、濃度分離槽33bで得られた希薄剤、又は、両者を混合した濃縮剤を任意のタイミングで選択的に投入することで、滅菌室11aに供給する濃縮剤の過酸化水素濃度の調整を行ってもよい。なお、希薄剤についても、同様に、過酸化水素濃度の調整が可能である。また、上記のように、過酸化水素濃度を調整する場合に、濃縮剤と希薄剤とを混合して過酸化水素濃度を調整してもよい。
【0100】
電磁弁34aが開放されたことにより、濃度分離槽33aから送出された濃縮剤が、滅菌室11aに向かって進んでいく。濃縮剤は、分配器35により分配され、各加熱・気化ユニット36に流入する。
【0101】
濃縮剤は、各加熱・気化ユニット36において、供給口から二つの板45,46の間に進み、二つの板45,46の間で内側ヒータ43によって加熱される。これにより、濃縮剤は、二つの板45,46の間を熱膨張しながら、真空に引かれて、同心円状に拡散し、二つの板45,46との接触面積が瞬時に増大する。
【0102】
このとき、内側ヒータ43は、濃縮剤を加熱することにより濃縮剤の気化を促進している。これにより、濃縮剤が二つの板45,46の間で瞬時に飽和水蒸気圧まで蒸発する。すなわち、濃縮剤が、二つの板45,46の間で気化する。よって、過酸化水素水溶液中の水分子の気化と過酸化水素分子の気化とに時間差が生じるのが抑制される。
【0103】
気体状の濃縮剤は、二つの板45,46の出口から二つの板45,46の外側の滅菌室11aに流出する。滅菌室11aに入った気体状の濃縮剤は、上方に流れて、棚23に載置された被滅菌物100に接触する。これにより、被滅菌物100が滅菌される。このように、棚23の直下の気化器42で濃縮剤が気化して、気化した濃縮剤が棚23上の被滅菌物100に到達する。よって、気化器42で気化した濃縮剤が比較的短時間及び短距離で被滅菌物100に到達することができる。
【0104】
制御装置3は、上述したように、電磁弁34aを開放して気化した濃縮剤を滅菌室11a内で拡散させる。その後、滅菌室11a内の圧力が規定の圧力まで上昇すると、制御装置3は、当該圧力を保った状態で所定時間T1の間待機する(C3)。所定時間T1は、第2所定時間の一例である。例えば、所定時間T1は、約30秒~60秒である。
【0105】
所定時間T1の経過後、制御装置3は、電磁弁34bを開く(C4)。これにより、濃縮剤の場合と同様に、濃度分離槽33bで得られた希薄剤が滅菌室11a内で拡散し、滅菌室11a内の圧力が上昇する。電磁弁34bを開放して気化した希薄剤を拡散させ、滅菌室11a内の圧力が規定の圧力まで上昇すると、当該圧力を保った状態で所定時間T2の間待機する(C5)。所定時間T2は、第3所定時間の一例である。例えば、所定時間T2は、所定時間T1よりも短い時間で約15秒~30秒である。
【0106】
ここで、過酸化水素は親水性が高いことが知られている。したがって、滅菌室11a内に投入された希薄剤の主成分である水により、先行して滅菌室11a内に投入された濃縮剤の主成分である過酸化水素が希釈されることになる。このとき、滅菌室11a内に存在する過酸化水素の濃度は60%程度まで低下する。これにより、滅菌剤が与える被滅菌物100へのダメージを軽減することができる。
【0107】
また、例えば、被滅菌物100が内視鏡である場合、希薄剤を滅菌室11a内に拡散させることによって生じる圧力は、先に投入された気化した濃縮剤を内視鏡の内腔へと押し込む働きをする。このため、後から希薄剤を滅菌室11a内に投入することで滅菌効率を高めることもできる。
【0108】
所定時間T2の経過後、制御装置3は、電磁弁38を開く(C6)。これにより、滅菌室11a内の圧力が大気圧に戻される。滅菌室11a内の圧力が大気圧に戻った後、制御装置3は、滅菌室11a内の圧力を大気圧に保った状態で所定時間T3の間待機する(C7)。所定時間T3は、第4所定時間の一例である。例えば、所定時間T3は、約3分である。
【0109】
その後、制御装置3は、滅菌パルスP1のC1乃至C6の処理を、所定回数(図4の例では4回)繰り返し、滅菌パルスP2乃至P4を形成する制御を行う。なお、上記処理の繰り返し回数は4回に限定されない。例えば、被滅菌物100の種類や大きさ等に応じて、繰り返し回数を定めてもよい。
【0110】
なお、本実施形態では、制御装置3は、1の滅菌パルスを形成する毎に、真空引きの前に濃度分離槽33(33a、33b)に1回の滅菌剤(原液)の供給を行うものとするが、濃度分離処理の実行形態はこれに限定されない。
【0111】
例えば、制御装置3は、滅菌処理の真空引き開始前に1回の原液の供給を行い、生じた濃縮剤及び希釈剤をプールしておき、複数の滅菌パルスの形成に用いてもよい。また、制御装置3は、滅菌処理を行う前に濃度分離処理を行っておき、事前にプールした濃縮剤及び希釈剤を用いて滅菌処理を実行してもよい。
【0112】
以上、説明したように、本実施形態に係る滅菌装置1は、カートリッジ31から供給される滅菌剤の原液を、濃縮剤と希薄剤とに分離する濃度分離槽33を備える。濃度分離槽33は、滅菌剤の原液を濃度分離槽33に導入する滅菌剤導入管336により導入された滅菌剤の原液を貯留し、滅菌剤の原液を加熱して水分子を気化させることにより、滅菌剤の原液を濃縮して濃縮剤を生成する濃度分離室331と、濃度分離室331で気化された水分子を冷却して液化させ希薄剤として回収する回収室332とで構成される。また、濃度分離室331で生成された濃縮剤及び回収室332で回収した希薄剤は、滅菌室11aに供給される。
【0113】
このような構成によれば、1つの滅菌剤の原液から濃縮剤と希薄剤とを得ることができる。例えば、濃縮剤は被滅菌物を滅菌することに用いることが可能であり、濃縮を行うことで滅菌力を高めることができる。また、例えば、希薄剤は被滅菌物と濃縮剤とを反応させた後に投入することで、濃縮剤を中和することが可能である。被滅菌物の滅菌が完了した後も、濃縮剤が被滅菌物の周囲に存在し続けると、濃縮剤が被滅菌物にダメージを与える可能性があるため、希薄剤を投入して濃縮剤を中和することにより、滅菌剤が被滅菌物に与えるダメージを低減することができる。
【0114】
なお、上述した実施形態は、滅菌装置1が有する各装置の構成又は機能の一部を変更することで、適宜に変形して実施することも可能である。そこで、以下では、上述した実施形態に係るいくつかの変形例を他の実施形態として説明する。なお、以下では、上述した実施形態と異なる点を主に説明することとし、既に説明した内容と共通する点については詳細な説明を省略する。また、以下で説明する変形例は、個別に実施されてもよいし、適宜組み合わせて実施されてもよい。
【0115】
(変形例1)
上述した実施形態では、濃度分離室331(壁331a)の周囲には、第1ヒータ333aが設けられ、気化皿331bの底部には、第2ヒータ333bが設けられ、回収室332の周囲には、冷却素子334が設けられる形態について説明した。本変形例では、ヒータ(第1ヒータ333a、第2ヒータ333b)と冷却素子334とを組み合わせて濃度分離室331の加温温度及び回収室332の冷却温度を調整可能な形態について説明する。
【0116】
図5は、変形例1に係る濃度分離槽33の構成の一例を示す図である。本変形例の濃度分離槽33は、上述の実施形態と略同様の構成を有する。しかしながら、壁331aの周囲に冷却素子334が設けられる点、気化皿331bの底部に冷却素子334が設けられる点、回収室332の周囲に第1ヒータ333aが設けられる点で上述の実施形態と異なる。
【0117】
図5の例では、濃度分離室331の上面及び左右面の壁331aに120℃のPTCヒータ(第1ヒータ)333aとペルチェ素子(冷却素子)334とが交互に設けられている。また、図5の例では、気化皿331bの底部に80℃のPTCヒータ(第2ヒータ)333bとペルチェ素子334とが交互に設けられている。また、図5の例では、回収室332の回収皿332aの下面及び左右面にペルチェ素子334と120℃のPTCヒータ333aとが交互に設けられている。
【0118】
なお、図5の構成は一例であり、上記に限定されない。例えば、120℃のPTCヒータ333a、80℃のPTCヒータ333b、及びペルチェ素子334の数と配置とはユーザが自由に変更可能に構成してもよい。また、120℃と80℃のPTCヒータ以外の温度調整可能なヒータや温度調整が可能なペルチェ素子以外の冷却素子を用いてもよい。
【0119】
上述のように、ヒータと冷却素子を組み合わせて自由に配置することで、濃度分離室331の加温温度、気化皿331bの加温温度、及び回収室332の冷却温度を自由に調整することができる。
【0120】
例えば、気化皿331bの底部に120℃のPTCヒータのみを配置することで、水分子の気化を促進し、濃度分離処理の効率を向上させることができる。また、例えば、気化皿331bの底部に80℃のPTCヒータとペルチェ素子とを配置し、時間をかけて加熱を行うことで、過酸化水素分子の気化を抑制し、濃度分離処理の精度を向上させることができる。
【0121】
(変形例2)
上述の実施形態及び変形例1では、濃度分離槽33の濃度分離室331が上に、回収室332が下に配置される形態について説明した。本変形例では、回収室332が上に、濃度分離室331が下に配置される例について説明する。
【0122】
本変形例では、例えば、回収皿332aの左右の側面に、120℃のPTCヒータを配置する。また、回収皿332aの下面に、80℃のPTCヒータを配置する。また、滅菌剤導入管336を連通部335の直上に配置する。
【0123】
これにより、濃度分離槽33に導入された滅菌剤は、回収皿332aの溝の底部に貯留することになる。また、滅菌剤が回収皿332aの下面の80℃のPTCヒータで加熱されて気化する。上述したように、気化した分子は、圧力の低い方へ移動するため、連通部335を通過して濃度分離槽33の上方の空間へと移動する。つまり、本変形例では、回収皿332aが気化皿の役割を果たし、濃度分離槽33の下方の空間に濃度分離室が形成される。
【0124】
また、本変形例では、壁331aの上面及び左右の側面に、ペルチェ素子を配置する。また、気化皿331bの底部にもペルチェ素子を配置する。これにより、濃度分離槽33の下方の空間で気化され、情報の空間へと移動してきた水分子が冷却されて凝結する。つまり、本変形例では、気化皿331bが回収皿の役割を果たし、濃度分離槽33の上方の空間に回収室が形成される。
【0125】
なお、上述の変形例1のように、ヒータと冷却素子を組み合わせて自由に配置することで、濃度分離室全体の加温温度、気化皿の加温温度、及び回収室の冷却温度を自由に調整できるようにしてもよい。
【0126】
上述のように、濃度分離槽33の上方に回収室、下方に濃度分離室を設けることで、濃度分離室で過酸化水素分子が気化した場合でも、気化した過酸化水素分子の凝結現象が起こる場所が上方に配置した回収皿の円錐すり鉢状の溝より外側の領域(連通部335の上方付近の領域)であれば、凝結した過酸化水素重力に引かれて下方の濃度分離室に落下する。つまり、回収室で過酸化水素が凝結して希薄剤の過酸化水素濃度が上昇してしまうことを防止でき、濃度分離処理の精度を向上させることができる。
【0127】
(変形例3)
濃度分離槽33の濃度分離室331は、壁331aに衝撃を加える構成を備えていてもよい。壁331aに衝撃を加える構成は、例えば、ハンマーソレノイドである。本変形例では、制御装置3は、濃度分離処理中に所定時間経過する毎に、ハンマーソレノイドを作動させて、壁331aに衝撃を加える。
【0128】
上述のように、ハンマーソレノイドで壁331aに衝撃を加えることで、濃度分離室331内で気化した水分子の凝結現象が起こった場合でも、凝結した水分子を回収室332へと落下させることができる。これにより、凝結現象により壁331aに付着してしまった水分子についても希薄剤として回収することが可能になる。
【0129】
なお、ハンマーソレノイドの代わりに真空ポンプ37等を利用して、壁331aに振動を加えてもよい。この場合も振動により、濃度分離室331で凝結した水分子を回収室332へと落下させることができる。
【0130】
以上説明した少なくとも1つの実施形態によれば、滅菌を行うことによって生じる被滅菌物へのダメージを低減させることができる。
【0131】
発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0132】
1…滅菌装置、3…制御装置、11…滅菌庫、11a…滅菌室、33a、33b…濃度分離槽、331…濃度分離室、331a…壁、331b…気化皿、332…回収室、332a…回収皿、333a…第1ヒータ、333b…第2ヒータ、333c…リード線、334…冷却素子、335…連通部、336…滅菌剤導入管、337…濃縮剤送出管、338…希薄剤送出管、100…被滅菌物。
図1
図2
図3
図4
図5