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2025-40187積層体及びこれを用いた半導体装置並びに積層体の製造方法
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  • -積層体及びこれを用いた半導体装置並びに積層体の製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025040187
(43)【公開日】2025-03-24
(54)【発明の名称】積層体及びこれを用いた半導体装置並びに積層体の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C30B 29/16 20060101AFI20250314BHJP
   C30B 25/02 20060101ALI20250314BHJP
   C23C 16/40 20060101ALI20250314BHJP
   H01L 21/365 20060101ALI20250314BHJP
   H01L 21/368 20060101ALI20250314BHJP
【FI】
C30B29/16
C30B25/02 Z
C23C16/40
H01L21/365
H01L21/368 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】18
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023146942
(22)【出願日】2023-09-11
(71)【出願人】
【識別番号】000002060
【氏名又は名称】信越化学工業株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】513067727
【氏名又は名称】高知県公立大学法人
(74)【代理人】
【識別番号】100102532
【弁理士】
【氏名又は名称】好宮 幹夫
(74)【代理人】
【識別番号】100194881
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 俊弘
(74)【代理人】
【識別番号】100215142
【弁理士】
【氏名又は名称】大塚 徹
(72)【発明者】
【氏名】安岡 龍哉
(72)【発明者】
【氏名】橋上 洋
(72)【発明者】
【氏名】川原村 敏幸
(72)【発明者】
【氏名】渡部 武紀
(72)【発明者】
【氏名】坂爪 崇寛
(72)【発明者】
【氏名】劉 麗
(72)【発明者】
【氏名】須佐美 大夢
(72)【発明者】
【氏名】小松 正彦
【テーマコード(参考)】
4G077
4K030
5F045
5F053
【Fターム(参考)】
4G077AB06
4G077BB10
4G077DB06
4G077DB11
4G077EA02
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4G077TC16
4K030BA08
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4K030CA05
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5F045AC15
5F045AC16
5F045AD04
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5F053KK02
5F053KK10
5F053LL10
5F053RR13
(57)【要約】
【課題】
高性能な半導体装置の製造を可能にする優れた物性を有する結晶性金属酸化物半導体を含む積層体および該積層体を容易かつ低コストで安定的に製造する製造方法を提供することを目的とする。
【解決手段】
結晶基板と、前記結晶基板の主表面上に直接または他の層を介して形成された第1の結晶性金属酸化物半導体を主成分とする第1結晶層と、前記第1結晶層の上に直接または他の層を介して形成された第2の結晶性金属酸化物半導体を主成分とする第2結晶層と、を含む積層体であって、前記第2の結晶性金属酸化物半導体は、前記第1の結晶性金属酸化物半導体と同じ組成を有し、且つ前記第1の結晶性金属酸化物半導体とは異なる結晶相を有するものであることを特徴とする積層体。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
結晶基板と、
前記結晶基板の主表面上に直接または他の層を介して形成された第1の結晶性金属酸化物半導体を主成分とする第1結晶層と、
前記第1結晶層の上に直接または他の層を介して形成された第2の結晶性金属酸化物半導体を主成分とする第2結晶層と、を含む積層体であって、
前記第2の結晶性金属酸化物半導体は、前記第1の結晶性金属酸化物半導体と同じ組成を有し、且つ前記第1の結晶性金属酸化物半導体とは異なる結晶相を有するものであることを特徴とする積層体。
【請求項2】
前記第1の結晶性金属酸化物半導体と前記第2の結晶性金属酸化物半導体は酸化ガリウムであることを特徴とする請求項1に記載の積層体。
【請求項3】
前記第1の結晶性金属酸化物半導体はα酸化ガリウムであることを特徴とする請求項1に記載の積層体。
【請求項4】
前記第2の結晶性金属酸化物半導体はε酸化ガリウムまたはκ酸化ガリウムであることを特徴とする請求項1に記載の積層体。
【請求項5】
前記第1結晶層の電気抵抗率が5Ωcm以下であることを特徴とする請求項1に記載の積層体。
【請求項6】
前記第2結晶層は前記第1結晶層より電気抵抗率が高いものであることを特徴とする請求項1に記載の積層体。
【請求項7】
前記第1結晶層と前記第2結晶層の間に備わる前記他の層として、中間層を含むことを特徴とする請求項1に記載の積層体。
【請求項8】
前記結晶基板はサファイアであることを特徴とする請求項1に記載の積層体。
【請求項9】
半導体層と電極とを少なくとも含む半導体装置であって、前記半導体層として、請求項1から8のいずれか一項に記載の積層体の前記第1結晶層及び前記第2結晶層を備えることを特徴とする半導体装置。
【請求項10】
結晶性金属酸化物半導体を含む積層体の製造方法であって、
結晶基板を加熱するステップと、
霧化した金属酸化物前駆体を含む原料溶液ミストとキャリアガスを混合して第1混合気を形成するステップと、
前記第1混合気を前記結晶基板に供給して第1の結晶性金属酸化物半導体を主成分とする第1結晶層を形成するステップと、
前記第1結晶層の表面を表面改質雰囲気に晒して表面改質するステップと、
前記第1混合気を前記第1結晶層の表面を改質した結晶基板に供給して、前記第1の結晶性金属酸化物半導体と同じ組成を有し、且つ前記第1の結晶性金属酸化物半導体とは異なる結晶相を有する第2の結晶性金属酸化物半導体を主成分とする第2結晶層を形成するステップと、を含むことを特徴とする積層体の製造方法。
【請求項11】
前記第1の結晶性金属酸化物半導体と前記第2の結晶性金属酸化物半導体を酸化ガリウムとすることを特徴とする請求項10に記載の積層体の製造方法。
【請求項12】
前記表面改質雰囲気を、窒素、二酸化炭素、酸素、オゾン、水蒸気のいずれかを含む雰囲気とすることを特徴とする請求項10に記載の積層体の製造方法。
【請求項13】
前記第1結晶層の表面を表面改質するステップにおける基板温度を、前記第1結晶層を形成するステップにおける基板温度以下の温度とすることを特徴とする請求項10に記載の積層体の製造方法。
【請求項14】
前記第1結晶層の表面を表面改質するステップにおける基板温度を20℃以上500℃以下とすることを特徴とする請求項13に記載の積層体の製造方法。
【請求項15】
前記第1結晶層を形成するステップにおいて、さらに霧化した酸性溶液を含む支援剤ミストとキャリアガスを混合して形成される第2混合気を前記結晶基板に供給することを特徴とする請求項10に記載の積層体の製造方法。
【請求項16】
前記第2結晶層を形成するステップにおいて、さらに霧化した酸性溶液を含む支援剤ミストとキャリアガスを混合して形成される第2混合気を前記結晶基板に供給することを特徴とする請求項10に記載の積層体の製造方法。
【請求項17】
前記第1結晶層を形成するステップと、前記第2結晶層を形成するステップとにおいて、さらに霧化した酸性溶液を含む支援剤ミストとキャリアガスを混合して形成される第2混合気を前記結晶基板に供給することを特徴とする請求項10に記載の積層体の製造方法。
【請求項18】
前記酸性溶液が塩酸を含むことを特徴とする請求項15、16、17のいずれかに記載の積層体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、積層体及びこれを用いた半導体装置並びに積層体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
結晶薄膜を低温且つ大気圧下で形成できる方法として、ミストCVD法等の水微粒子を用いた成膜手法が知られている。この方法は特に、パワー半導体デバイスに適した準安定相の酸化ガリウム薄膜を形成できることで注目されており、最近では高周波デバイスに応用可能なε(もしくはκ)相の開発が活発化している。この場合、酸化ガリウム層の下地となる結晶の検討が多くされており、例えば非特許文献1では、ε-GaFeOを使用した例が開示されている。また特許文献1では、c面サファイア基板に形成したα-(AlGa1-xを使用した例が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2019-46984号公報
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】ACS Omega 2020,5,29585-29592
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上述の従来の方法では、基板自体が高価であったり、あるいは工程が複雑であったりするため生産コストが高くなるという問題があった。また下地層の電気導電性制御が困難であることから、デバイス設計上の自由度が低下し、高性能化の妨げとなっていた。
【0006】
本発明は、上記問題を解決するためになされたものであり、高性能な半導体装置の製造を可能にする優れた物性を有する低コストの、結晶性金属酸化物半導体を含む積層体および該積層体を容易かつ低コストで安定的に製造する製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、上記目的を達成するためになされたものであり、結晶基板と、前記結晶基板の主表面上に直接または他の層を介して形成された第1の結晶性金属酸化物半導体を主成分とする第1結晶層と、前記第1結晶層の上に直接または他の層を介して形成された第2の結晶性金属酸化物半導体を主成分とする第2結晶層と、を含む積層体であって、前記第2の結晶性金属酸化物半導体は、前記第1の結晶性金属酸化物半導体と同じ組成を有し、且つ前記第1の結晶性金属酸化物半導体とは異なる結晶相を有するものであることを特徴とする積層体を提供する。
【0008】
このような積層体によれば、高性能な半導体装置の製造を可能にする優れた物性を有する、結晶性金属酸化物半導体を含む積層体となる。
【0009】
このとき、前記第1の結晶性金属酸化物半導体と前記第2の結晶性金属酸化物半導体は酸化ガリウムとすることができる。
【0010】
これにより、より優れた物性を有する、結晶性金属酸化物半導体を含む積層体となる。
【0011】
このとき、前記第1の結晶性金属酸化物半導体はα酸化ガリウムとすることができる。
【0012】
これにより、さらに優れた物性を有する、結晶性金属酸化物半導体を含む積層体となる。
【0013】
このとき、前記第2の結晶性金属酸化物半導体はε酸化ガリウムまたはκ酸化ガリウムとすることができる。
【0014】
これにより、半導体装置としてさらに有用な積層体となる。
【0015】
このとき、前記第1結晶層の電気抵抗率が5Ωcm以下のものとすることができる。
【0016】
これにより、より優れた特性を有する半導体装置を実現可能な積層体となる。
【0017】
このとき、前記第2結晶層は前記第1結晶層より電気抵抗率が高いものとすることができる。
【0018】
これにより、さらに優れた特性を有する半導体装置を実現可能な積層体となる。
【0019】
このとき、前記第1結晶層と前記第2結晶層の間に備わる前記他の層として、中間層を含むことができる。
【0020】
これにより、第2結晶層がより高品質な積層体となる。
【0021】
このとき、前記結晶基板はサファイアとすることができる。
【0022】
これにより、より安価で半導体装置への応用に適した積層体となる。
【0023】
このとき、半導体層と電極とを少なくとも含む半導体装置であって、前記半導体層として、上述の積層体の前記第1結晶層及び前記第2結晶層を備えることを特徴とする半導体装置とすることができる。
【0024】
これにより、電気特性の優れた半導体装置となる。
【0025】
本発明はまた、結晶性金属酸化物半導体を含む積層体の製造方法であって、結晶基板を加熱するステップと、霧化した金属酸化物前駆体を含む原料溶液ミストとキャリアガスを混合して第1混合気を形成するステップと、前記第1混合気を前記結晶基板に供給して第1の結晶性金属酸化物半導体を主成分とする第1結晶層を形成するステップと、前記第1結晶層の表面を表面改質雰囲気に晒して表面改質するステップと、前記第1混合気を前記第1結晶層の表面を改質した結晶基板に供給して、前記第1の結晶性金属酸化物半導体と同じ組成を有し、且つ前記第1の結晶性金属酸化物半導体とは異なる結晶相を有する第2の結晶性金属酸化物半導体を主成分とする第2結晶層を形成するステップと、を含むことを特徴とする積層体の製造方法を提供する。
【0026】
このような積層体の製造方法によれば、半導体装置に適した優れた物性を有する積層体を容易にかつ低コストで製造することができる。
【0027】
このとき、前記第1の結晶性金属酸化物半導体と前記第2の結晶性金属酸化物半導体を酸化ガリウムとすることができる。
【0028】
これにより、より優れた物性を有する、結晶性金属酸化物半導体を含む積層体を容易にかつ低コストで製造することができる。
【0029】
このとき、前記表面改質雰囲気を、窒素、二酸化炭素、酸素、オゾン、水蒸気のいずれかを含む雰囲気とすることができる。
【0030】
これにより、高性能な半導体装置の製造を可能にする優れた物性を有する積層体を容易にかつ低コストで製造することが可能になる。
【0031】
このとき、前記第1結晶層の表面を表面改質するステップにおける基板温度を、前記第1結晶層を形成するステップにおける基板温度以下の温度とすることができる。
【0032】
これにより、高品質な積層体をより安定して製造することができる。
【0033】
この場合、前記第1結晶層の表面を表面改質するステップにおける基板温度を20℃以上500℃以下とすることができる。
【0034】
これにより、高品質な積層体をさらに安定して製造することができる。
【0035】
このとき、前記第1結晶層を形成するステップにおいて、さらに霧化した酸性溶液を含む支援剤ミストとキャリアガスを混合して形成される第2混合気を前記結晶基板に供給することができる。
【0036】
これにより、第1結晶層の結晶欠陥が低減され、その上に形成される第2結晶層の品質も改善することができるので、より高品質な積層体を製造することができる。
【0037】
このとき、前記第2結晶層を形成するステップにおいて、さらに霧化した酸性溶液を含む支援剤ミストとキャリアガスを混合して形成される第2混合気を前記結晶基板に供給することができる。
【0038】
これにより、より高品質な第2結晶層を有する積層体を製造することができる。
【0039】
このとき、前記第1結晶層を形成するステップと、前記第2結晶層を形成するステップとにおいて、さらに霧化した酸性溶液を含む支援剤ミストとキャリアガスを混合して形成される第2混合気を前記結晶基板に供給することができる。
【0040】
これにより、さらに高品質な第1結晶層と第2結晶層を有する積層体を製造することができる。
【0041】
このとき、前記酸性溶液が塩酸を含むことができる。
【0042】
これにより、高品質な積層体をより安価に安定して製造することができる。
【発明の効果】
【0043】
以上のように、本発明の積層体によれば、高性能な半導体装置の製造を可能にする優れた物性を有する低コストの、結晶性金属酸化物半導体を含む積層体となる。また、本発明の積層体の製造方法によれば、高性能な半導体装置を製造可能な高品質な半導体積層体を容易且つ低コストで安定的に製造することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0044】
図1】本発明に係る結晶性金属酸化物半導体を含む積層体の一形態を示す図である。
図2】本発明に係る結晶性金属酸化物半導体を含む積層体の別の形態を示す図である。
図3】本発明に係る結晶性金属酸化物半導体を含む積層体のさらに別の形態を示す図である。
図4】本発明に係る結晶性金属酸化物半導体を含む積層体の製造方法の一形態を示す図である。
図5】本発明に係る高電子移動度トランジスタの一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0045】
以下、本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0046】
上述のように、高性能な半導体装置の製造を可能にする優れた物性を有する結晶性金属酸化物半導体を含む積層体および該積層体を容易かつ低コストで安定的に製造する製造方法が求められていた。
【0047】
本発明者らは、上記課題について鋭意検討を重ねた結果、結晶基板と、前記結晶基板の主表面上に直接または他の層を介して形成された第1の結晶性金属酸化物半導体を主成分とする第1結晶層と、前記第1結晶層の上に直接または他の層を介して形成された第2の結晶性金属酸化物半導体を主成分とする第2結晶層と、を含む積層体であって、前記第2の結晶性金属酸化物半導体は、前記第1の結晶性金属酸化物半導体と同じ組成を有し、且つ前記第1の結晶性金属酸化物半導体とは異なる結晶相を有するものであることを特徴とする積層体により、高性能な半導体装置の製造を可能にする優れた物性を有する、結晶性金属酸化物半導体を含む積層体となることを見出し、本発明を完成した。
【0048】
本発明者らはまた、結晶性金属酸化物半導体を含む積層体の製造方法であって、結晶基板を加熱するステップと、霧化した金属酸化物前駆体を含む原料溶液ミストとキャリアガスを混合して第1混合気を形成するステップと、前記第1混合気を前記結晶基板に供給して第1の結晶性金属酸化物半導体を主成分とする第1結晶層を形成するステップと、前記第1結晶層の表面を表面改質雰囲気に晒して表面改質するステップと、前記第1混合気を前記第1結晶層の表面を改質した結晶基板に供給して、前記第1の結晶性金属酸化物半導体と同じ組成を有し、且つ前記第1の結晶性金属酸化物半導体とは異なる結晶相を有する第2の結晶性金属酸化物半導体を主成分とする第2結晶層を形成するステップと、を含むことを特徴とする積層体の製造方法により、上記積層体を容易且つ低コストで安定的に製造することが可能となることを見出し、本発明を完成した。
【0049】
以下、本発明について図1図2および図3を参照しながら詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0050】
図1に本発明の結晶性金属酸化物半導体を含む積層体(以下、単に積層体と呼称する場合もある)の一形態を示す。図1に示すように、結晶性金属酸化物半導体を含む積層体100は、基本的に、結晶基板101、第1結晶層102及び第2結晶層103を備える。
【0051】
図2に本発明の結晶性金属酸化物半導体を含む積層体の別の形態を示す。図2に示すように、結晶性金属酸化物半導体を含む積層体200は、基本的に、結晶基板201、第1結晶層202及び第2結晶層203を備え、結晶基板201と第1結晶層202の間に緩衝層204を備える。
【0052】
図3に本発明の結晶性金属酸化物半導体を含む積層体のさらに別の形態を示す。図3に示すように、結晶性金属酸化物半導体を含む積層体300は、基本的に、結晶基板301、第1結晶層302及び第2結晶層303を備え、結晶基板301と第1結晶層302の間に緩衝層304を、第1結晶層302と第2結晶層303の間に中間層305を備える。
【0053】
[基板]
結晶基板101、201、301は、結晶物を主成分として含む基板であれば特に限定されず、公知の基板であって良い。基板形状は特に限定されず、円形、楕円形、多角形のいずれでも良い。導電性基板であっても良いし、半導体基板であっても良いし、単結晶基板であっても良いし、多結晶基板であっても良いが、例えば、品質が良くより安価なサファイア基板であるのが好ましい。
【0054】
サファイア基板としては、例えば、c面サファイア基板、m面サファイア基板、a面サファイア基板、r面サファイア基板などが挙げられる。また、前記サファイア基板はオフ角を有していてもよい。前記オフ角は、特に限定されないが、好ましくは0°~15°である。尚、前記結晶基板の厚さは、特に限定されないが、コストの面から200~800μm程度が好ましい。
【0055】
[第1結晶層]
第1結晶層102、202、302は結晶性金属酸化物を主成分として含み、該結晶性金属酸化物は結晶基板101、201、301を構成する結晶構造を含んでいて良く、より好ましくは結晶基板101、201、301と同じ結晶構造で単一配向していると良い。
【0056】
前記結晶性金属酸化物は、結晶基板101、201、301の主成分と同じでも良いし、異なっていても良い。
【0057】
また前記結晶性金属酸化物は、単一の金属酸化物でも良いし複数の金属元素を含む混晶であっても良い。具体的には、アルミニウム、チタン、バナジウム、クロム、鉄、ガリウム、ロジウム、インジウム、イリジウムのいずれかを含む酸化物でも良い。
【0058】
第1結晶層102、202、302の結晶構造は特に限定されず様々な結晶構造を取ることが可能であるが、本発明においてはコランダム型結晶であるのが好ましい。具体的には、Al、Ti、V、Cr、Fe、Ga、Rh、In、Irである。前記結晶性金属酸化物は、上記の金属元素のうち2元素をA、Bとした場合に、(A1-x(0≦x≦1)で表される2元系の金属酸化物や、あるいは、上記の金属元素のうち3元素をA、B、Cとした場合に、(A1-x-y(0≦x≦1、0≦y≦1)で表される3元系の金属酸化物である場合がある。これらの金属酸化物はコランダム構造を取り得るので、第1結晶層102、202、302がコランダム構造である場合がある。
【0059】
前記結晶性金属酸化物は酸化ガリウム(Ga)であるのが好ましく、より好ましくはα-Gaであるのが良い。これにより、より優れた物性を有する、結晶性金属酸化物半導体を含む積層体となる。なお、α-Gaは、X線回折測定において少なくとも2θ=40.3°付近にピークを持つ結晶相を有する。
【0060】
なお、本発明において「主成分」とは、前記結晶性金属酸化物が、原子比で、結晶層の全成分に対し他のいずれの成分よりも高く、好ましくは50%以上含まれることを意味し、100%であっても良いことを意味する。上記比率は二次イオン質量分析法や蛍光X線分析法など公知の方法により定量が可能である。
【0061】
第1結晶層102、202、302の膜厚は、目的とする半導体装置の設計により適宜決定されるが、下限を1nmとすることができる。
【0062】
なお、図1では、第1結晶層102が結晶基板101の上に直接形成されている形態が示されているが、本発明はこれに限らず他の層を介して形成されていても良く、例えば結晶基板と第1結晶層間における結晶格子不整合などに伴う欠陥形成を嫌う場合などでは、図2のように、第1結晶層202が例えば緩衝層204を介して形成されていても良い。
【0063】
この場合、緩衝層204の格子定数は、緩衝層204の成長方向に、基板201の格子定数に近い又は同じ程度の値から、第1結晶層202の格子定数に近い又は同じ程度の値へと連続的あるいは段階的に変化しているのが良い。例えば、Al基板上にα-Gaの結晶領域が形成される場合、緩衝層は、(AlGa1-x(0≦x≦1)で形成され、基板201側から第1結晶層202側へ向かってx値が減少しているのが良い。またあるいは、組成の異なる膜が交互に積層された超格子構造膜などであっても良い。
【0064】
緩衝層204は、積層体を基板から剥離するための犠牲層である場合がある。この場合、例えば緩衝層204は第1結晶層202とは異なる光学特性や低い機械的脆性あるいは特定の薬液中における溶解性を有していても良い。
【0065】
第1結晶層102、202、302は導電性を有していても良い。この場合、第1結晶層102、202、302は導電性を付与するための不純物が添加されていて良い。例えば第1結晶層102、202、302が少なくともガリウムを含む場合には、前記不純物として、シリコン、ゲルマニウム、スズ、マグネシウム、チタン、ジルコニウム、バナジウムまたはニオブなどのn型ドーパントや、あるいは、鉄、銅、銀、コバルト、イリジウム、ロジウム、マグネシウム、ニッケル等のp型ドーパントなどが挙げられる。不純物添加により第1結晶層102、202、302に付与される電気抵抗率は、目的とする半導体装置の設計にもよるが、例えば後述する高電子移動度トランジスタにおいては5Ω・cm以下、より好ましくは1Ωcm以下であるのが良い。これにより、より優れた特性を有する半導体装置を実現可能な積層体となる。
【0066】
[第2結晶層]
第2結晶層103、203、303の主成分である結晶性金属酸化物半導体は、第1結晶層102、202、302の主成分である結晶性金属酸化物半導体と同一の組成から成り、且つ異なる結晶相のものである。このような積層体によれば、高性能な半導体装置の製造を可能にする優れた物性を有する、結晶性金属酸化物半導体を含む積層体とすることができる。
【0067】
第2結晶層103、203、303の主成分である結晶性金属酸化物半導体は酸化ガリウムであるのが好ましい。第1結晶層102、202、302の主成分である結晶性金属酸化物半導体がα-Gaである場合、第2結晶層103、203、303の主成分である結晶性金属酸化物半導体は、好ましくはβ-Ga、ε(またはκ)-Gaであり、本発明において、より好ましくはε(またはκ)-Gaであるのが良い。これにより、より優れた物性を有する、結晶性金属酸化物半導体を含む積層体となる。
【0068】
なお、ε相とκ相は、構造的に類似していることに起因して現時点では明確に分類されていないが、ここではX線回折測定において少なくとも2θ=38.9°付近にピークを持つ結晶相を指す。
【0069】
第2結晶層103、203、303は一部に非晶質を含んでいてもよいし、一部または全部が多結晶でも良いが、好ましくは全部が一結晶軸に配向した単一配向膜あるいは単結晶であるのが好ましい。
【0070】
以上では、第2結晶層103、203が第1結晶層102、202の上に直接形成されている形態について説明したが、本発明はこれに限らず、図3のように、第2結晶層303は、第1結晶層302上に他の層(中間層305)を介して形成されていても良い。
【0071】
中間層305は、第1結晶層302の構成元素を含む結晶もしくは非晶質、あるいはこれらが混在した層であって良い。また、中間層305は第1結晶層302の表面を終端する元素を含む層であっても良く、具体的には、水素、酸素、炭素、窒素、塩素、臭素、ヨウ素のいずれかを含んでいるのが良く、一原子層あるいは数原子層程度の層である場合がある。
【0072】
このような中間層305が形成されることで、第1結晶層302の転位欠陥の延伸が防がれると考えられており、第2結晶層303がより高品質なものとなる。なお、転位欠陥およびその密度は、TEM法やエッチピット法といった公知の方法で評価できる。
【0073】
また第2結晶層103、203、303は導電性を有していてもよい。この場合、第2結晶層103、203、303には、導電性を付与するための不純物が添加されていてよい。前記不純物は、第2結晶層103、203、303が酸化ガリウムを含む場合には、シリコン、ゲルマニウム、スズ、マグネシウム、チタン、ジルコニウム、バナジウムまたはニオブなどのn型ドーパントや、あるいは、鉄、銅、銀、コバルト、イリジウム、ロジウム、マグネシウム、ニッケル等のp型ドーパントなどが挙げられる。
【0074】
不純物添加により第2結晶層103、203、303に付与される電気抵抗率は、目的とする半導体装置の設計にもよるが、例えば後述する高電子移動度トランジスタにおいては第1結晶層より高抵抗であるのが好ましく、5Ω・cm以上、より好ましくは10Ωcm以上であるのが良い。これにより、さらに優れた特性を有する半導体装置を実現可能な積層体となる。
【0075】
なお、膜単体および積層体の電気抵抗またはキャリア密度は、4探針法、広がり抵抗法、渦電流法、走査型静電容量顕微鏡法、走査型マイクロ波顕微鏡法といった公知の方法により評価が可能である。
【0076】
[本発明の積層体を具備する半導体装置]
本発明の結晶性金属酸化物半導体を含む積層体は電気特性に優れており、工業的に有用なものである。このような結晶性金属酸化物半導体を含む積層体は、半導体装置等、とりわけ、パワーデバイスに有用なものとなる。
【0077】
本発明の半導体装置においては、前記結晶性金属酸化物半導体の膜がそのままで構成されていても良いし、公知の手段を用いて基板等から剥離された膜により構成されていても良い。
剥離して用いる場合、剥離した膜を例えば支持基板上に転写して用いることができる。この際、剥離膜と支持基板は公知の接合技術により固定することができ、たとえば接着剤や粘着剤、あるいはプラズマ処理して活性化させた表面を介して接合することができる。
【0078】
支持基板には、前記接合後のプロセスにおいて剥離膜を問題無く支持できるものであれば特に限定されず、セラミック製、ガラス製、金属製、半導体製、樹脂製の基板が広く使用できる。
【0079】
本発明の結晶性金属酸化物半導体を含む積層体は、電極が半導体層の片面側に形成された横型の素子(横型デバイス)と、半導体層の表裏両面側にそれぞれ電極を有する縦型の素子(縦型デバイス)に分類することができ、本発明においては、横型デバイスにも縦型デバイスにも好適に適用されるものとなるが、中でも、横型デバイスに好適に適用されるものとなる。具体的には、例えば、高電子移動度トランジスタ(HEMT)に適用されるものとなる。
【0080】
以下、本発明の結晶性金属酸化物を含む半導体膜がn型半導体層(n+型半導体やn-型半導体層等)に適用された場合の好適な例を、図面を用いて説明するが、本発明は、これらの例に限定されるものではない。なお、以下に例示する半導体装置において、さらに他の層(例えば絶縁体層、半絶縁体層、導体層、半導体層、またはその他中間層など)などが含まれていても良いし、また緩衝層(バッファ層)などは適宜省かれていても良い。
【0081】
図5は、本発明に係る結晶性金属酸化物半導体を含む積層体が適用されたHEMTの一例である。HEMT500は、バンドギャップの広いn型半導体層(電子供給層)501、バンドギャップの狭いn型半導体層(電子走行層)502、n型半導体層503、支持基板504、緩衝層505、ゲート電極506、ソース電極507およびドレイン電極508を備えている。
【0082】
バンドギャップの広いn型半導体層(電子供給層)501は本発明における第1結晶層に対応し、またバンドギャップの狭いn型半導体層(電子走行層)502は本発明における第2結晶層に対応する。また、この場合バンドギャップの狭いn型半導体層(電子走行層)502の内部に2次元電子ガスが形成されているのがよく、この目的のためバンドギャップの狭いn型半導体層(電子走行層)502の抵抗率は、少なくともバンドギャップの広いn型半導体層(電子供給層)501より高いものの方が良い。
【0083】
各電極の材料としては、例えば、アルミニウム、モリブデン、コバルト、ジルコニウム、スズ、ニオブ、鉄、クロム、タンタル、チタン、金、プラチナ、バナジウム、マンガン、ニッケル、銅、ハフニウム、タングステン、イリジウム、亜鉛、インジウム、パラジウム、ネオジムもしくはAg等の金属またはこれらの合金、酸化錫、酸化亜鉛、酸化レニウム、酸化インジウム、酸化インジウム錫(ITO)、酸化亜鉛インジウム(IZO)等の金属酸化物導電膜、ポリアニリン、ポリチオフェン又はポリピロ-ルなどの有機導電性化合物、またはこれらの混合物などが挙げられる。
【0084】
電極の成膜法は特に限定されることはなく、印刷方式、スプレー法、コ-ティング方式等の湿式方式、真空蒸着法、スパッタリング法、イオンプレ-ティング法等の物理的方式、CVD、プラズマCVD法等の化学的方式、などの中から前記材料との適性を考慮して適宜選択した方法に従って前記基板上に形成されている。
【0085】
上述したとおり、本発明の結晶性金属酸化物半導体を含む積層体の第1及び第2結晶層を含む半導体装置は、電気特性の優れた半導体装置となる。
【0086】
[積層体の製造方法]
以下では、本発明の積層体(図1の態様)の製造方法の一例について図4を参照しながら説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0087】
本発明の積層体の製造方法は、基本的に、ミストCVD装置400を用いる。
【0088】
[結晶基板を加熱するステップ]
結晶基板404を、成膜室406内で熱源407により加熱する。結晶基板404の温度は、用いる原料や目的の形成物により適宜最適化されるものであるが、第1結晶層に準安定相結晶の一つであるα-Gaを形成する場合には、一般に300℃以上600℃以下とするのが良い。300℃以上であれば非晶質より結晶をより多くすることが期待でき、600℃以下であれば準安定相をより安定して維持できる。
【0089】
[第1混合気を形成するステップ]
成膜用原料溶液421を霧化器402a内でミスト化する。原料溶液421の種類はミスト化が可能であれば特に限定されず、金属を錯体または塩の形態で有機溶媒または水に溶解あるいは分散させたものを用いることができる。
【0090】
前記金属は、半導体を構成可能な金属であればそれで良く、このような金属としては、例えば、アルミニウム、チタン、バナジウム、クロム、鉄、ガリウム、ロジウム、インジウム、イリジウムが挙げられる。原料溶液中の金属の含有量は特に限定されないが、好ましくは、0.001mol/L~50mol/Lであり、より好ましくは0.01mol/L~5mol/Lである。
【0091】
塩の形態としては、例えば塩化金属塩、臭化金属塩、ヨウ化金属塩といったハロゲン化塩が挙げられる。また、上記金属を塩酸、臭化水素酸、ヨウ化水素酸といったハロゲン化水素などに溶解した塩溶液として用いることもできる。
【0092】
錯体の形態としては、例えばアセチルアセトン錯体、カルボニル錯体、アンミン錯体、ヒドリド錯体などが挙げられる。また上記塩溶液にアセチルアセトンを混合することによってアセチルアセトナート錯体を形成することもできる。
【0093】
第1及び第2結晶層の主成分である結晶性金属酸化物半導体を酸化ガリウムとするのが好ましい。これにより、より優れた物性を有する、結晶性金属酸化物半導体を含む積層体を容易に製造することができる。
【0094】
第1結晶層の少なくとも一部に導電性を付与するドーピングを行う場合の不純物原料としては特に限定されないが、例えば前記金属が少なくともガリウムを含む場合には、シリコン、ゲルマニウム、スズ、マグネシウム、チタン、ジルコニウム、バナジウムまたはニオブなどのn型ドーパントや、あるいは、鉄、銅、銀、コバルト、イリジウム、ロジウム、マグネシウム、ニッケル等のp型ドーパントなどが挙げられる。これらの化合物を、原料溶液中に0.001~10原子数パーセント、より好ましくは0.01~1原子数パーセント混合させて用いると良い。
【0095】
原料溶液421の溶媒は、特に限定されず、水等の無機溶媒であっても良いし、アルコール等の有機溶媒であっても良いし、無機溶媒と有機溶媒との混合溶媒であっても良いが、本発明においては、前記溶媒が水であるのが好ましい。
【0096】
次に、バルブ411aを開いて、キャリアガス源401aから送り出されるキャリアガスを霧化器402aのミストと混合して第1混合気431を形成する。キャリアガスの種類は特に限定されず、例えば、空気、酸素、オゾンの他、窒素やアルゴン等の不活性ガス、または水素ガスやフォーミングガス等の還元ガスが好適に用いられる。キャリアガスの種類は1種類であってよいが、2種類以上であってもよい。キャリアガスの流量は、基板サイズや成膜室の大きさにより異なるが、0.01~40L/分程度とするのが一般的である。
【0097】
また、図には示していないが、希釈ガスとして、キャリアガスと同様のガスを例えば霧化器402aの下流側へ供給しても良い。希釈ガスはキャリアガスと同じものを用いても良いし、異なるものを用いても良い。この場合、希釈ガスの流量は成膜条件により異なるが、一般にキャリアガスの0.1~10倍/分であるのが好ましい。
【0098】
[第1結晶層を形成するステップ]
次に、第1混合気431を配管403aを通して成膜室406内に搬送する。成膜室406に導入された第1混合気431は、成膜室406内で熱源407により加熱された結晶基板404と反応し、結晶基板404上に膜(第1結晶層)が形成される。
【0099】
成膜室406の形状や材料は特に限定されるものではなく、アルミニウムやステンレスなどの金属を用いて良いし、これら金属の耐熱温度を超える、より高温で成膜を行う場合には石英や炭化シリコンを用いても良い。なお、405はサセプターである。
【0100】
成膜は大気圧下、加圧下および減圧下のいずれの条件下で行われてもよいが、装置コストや生産性の観点から、大気圧下で行われるのが好ましい。なお、膜厚は成膜時間を調整することにより、適宜設定することができる。
【0101】
本ステップにおいて、酸溶液を霧化した支援剤ミストを原料溶液ミストと混合させて、配管403bを通して、成膜室406内に載置された結晶基板404へ供給しても良い。この場合、霧化器402bに酸溶液422を充填し、これを霧化して得たミストをキャリアガス源401bから送り出されるキャリアガスと混合させて第2混合気432とし、第1混合気431と一緒に成膜室に供給させても良い。
【0102】
酸溶液422は、塩酸、臭化水素酸、ヨウ化水素酸、硫酸、硝酸、フッ酸(フッ化水素酸)、フッ化アンモニウム水溶液、過酸化水素水、カルボン酸あるいはこれらの混合物が使用できるが、生産コストとプロセスの安定性の観点から塩酸を含んでいるのが好ましい。塩酸を用いることで、高品質な積層体をより安価に安定して製造することができる。
【0103】
酸溶液422の溶媒の種類は特に限定されず、水等の無機溶媒であっても良いし、アルコール等の有機溶媒であっても良いし、無機溶媒と有機溶媒との混合溶媒であっても良いが、本発明においては水であるのが好ましい。この時の酸の濃度は成膜条件に応じて適宜決定されるものであるが、一般に0.01mol/L~2mol/Lとすることができる。
【0104】
第2混合気432に混合させるキャリアガスの種類は特に限定されず、例えば、空気、酸素、オゾンの他、窒素やアルゴン等の不活性ガス、または水素ガスやフォーミングガス等の還元ガスが好適に用いられる。第1混合気431に混合させるキャリアガスと同じものを用いても良いし、異なるものを用いても良い。また、第2混合気432の流量は所望の膜およびその成膜条件に応じて適宜調整されればよいが、一般的に第1混合気中の金属元素に対してモル比で2から50倍とするのが良い。
【0105】
このような支援剤は成長膜表面において所望の結晶とは異なる結晶相の結晶発生および成長(異常成長)を抑制する、あるいは所望の結晶相の結晶成長を安定化させる作用があり、高品質な第1結晶層を安定的に形成することができる。
【0106】
また、図4の形態では第1混合気431と第2混合気432を独立して成膜室406に供給しているが、本発明はこれに限らず、第1混合気431と第2混合気432を成膜室406の手前で混合してから成膜室406に供給する形態としても良い。この場合、図には示していないが、例えば第1混合気と第2混合気を混合・撹拌するためのミスト混合容器を経由してミストを成膜室に供給することもできる。
【0107】
第1混合気431の供給開始から所定時間経過した後、第1混合気431の供給を停止して成膜を停止する。第1混合気431の供給を停止する方法は特に限定されず、原料霧化を停止させるだけでも良いし、原料霧化を持続させたままバルブ411aを閉止してキャリアガス源401aからのキャリアガスの供給を停止することによって行っても良いし、原料霧化の停止とバルブ411aの閉止を両方行っても良い。
【0108】
[表面改質するステップ]
次に、バルブ411cを開いて表面改質ガス源401cから送り出される表面改質ガスを、配管403cを通して、成膜室406内に載置された結晶基板404に供給し、第1結晶層表面を表面改質ガスの雰囲気中に保持して第1結晶層の表面に改質処理を施す。
【0109】
表面改質ガスは少なくとも窒素、二酸化炭素、酸素、オゾン、水蒸気のいずれかを含んでいるのが良く、大気であっても良い。これにより、高性能な半導体装置の製造を可能にする優れた物性を有する積層体を容易に製造することが可能になる。
【0110】
本ステップは、結晶基板404を成膜室内に載置したまま行っても良いし、結晶基板404を、図には示していない別の容器、あるいは、特に表面改質ガスを大気とする場合には、開放雰囲気に移して処理を行っても良い。
【0111】
結晶基板404を容器内に載置して表面処理を行う場合、容器内を表面改質ガスに置換した後に容器を密閉しても良いし、表面改質ガスを連続的または断続的に流入させても良い。このとき、第1結晶層の表面は表面改質ガスの雰囲気に十分晒されていれば良い。したがって、表面改質ガスの流量は、表面改質処理を行う容器あるいは空間の容積や基板のサイズなどによって適宜決定されればよいが、特に容器内で表面改質処理を行う場合は、容器の容積の2~10倍/分程度とするのが良い。
【0112】
また、このときの結晶基板404の温度は、一般に第1結晶層形成時の基板温度以下で行うことが好ましく、より好ましくは20℃以上500℃以下とするのが良い。このような温度で結晶基板404を表面改質ガスの雰囲気に晒すことで、第1結晶層の表面に表面改質ガスに由来する分子を効率良く定着させることができる。
【0113】
なお、このときの第1結晶層の表面状態は、上記基板温度と表面改質ガスならびに後述の酸溶液ミストの混合条件により、後述する第2結晶層形成の際に消滅する表面状態となるか、あるいは中間層となって第1結晶層上に残るかの違いが生じる。例えば第1結晶層として形成したα-Ga上に中間層を形成する場合には、例えば表面改質ガスにオゾンや酸素を塩酸ミストと混合した混合気が好適に用いられる。
【0114】
表面改質の処理時間は、第1結晶層の種類や第2結晶層の種類、また表面改質に用いるガスおよび酸性ミストの条件により適宜決定され、また特に制限されるものではないが、生産性の観点から例えば数十分から数日とすることができる。
【0115】
以上では、成長膜表面の改質を上記ガスのみで行う形態の一例について説明したが、本発明はこれに限らず、表面改質ガスの代わりに第2混合気432を用いても良いし、または図には示していない霧化器で霧化した第2の支援剤ミストと表面改質ガスを混合させた混合気として結晶基板404に供給してもよい。
【0116】
第2の支援剤ミストには、塩酸、臭化水素酸、ヨウ化水素酸、硫酸、硝酸、フッ酸(フッ化水素酸)、フッ化アンモニウム水溶液、過酸化水素水、カルボン酸、あるいはこれらの混合物が使用できるが、生産コストとプロセスの安定性の観点から、塩酸を用いるのがより好ましい。
【0117】
これら酸溶液の溶媒の種類は特に限定されず、水等の無機溶媒であっても良いし、アルコール等の有機溶媒であっても良いし、無機溶媒と有機溶媒との混合溶媒であっても良いが、本発明においては水であるのが好ましい。この時の酸の濃度は成膜条件に応じて適宜決定されるものであるが、一般に0.01mol/L~2mol/Lとすることができる。
【0118】
上記表面改質ガス及び支援剤ミストの供給は、本ステップにおいて終始同一条件で行っても良いし、途中でガス種や溶液種、あるいはこれらの混合割合を変化させて行っても良い。
【0119】
所定の処理時間の経過後、バルブ411cを閉止して表面改質ガスの供給を停止する。
【0120】
[第2結晶層を形成するステップ]
次に、第2結晶層を形成する。
バルブ411aを開いて、キャリアガス源401aから送り出されるキャリアガスを霧化器402aの原料ミストと混合して第1混合気431を形成して成膜室406に供給する。このときの原料溶液421は第1結晶層形成時と同条件でも良いし、適用可能な原料溶液として前述した条件の範囲で異なっていても良いが、第1結晶層と同じ組成となるものである必要がある。
【0121】
キャリアガスの組成および流量は、第1結晶層形成時と同条件でも良いし、異なっていても良い。即ち、例えば、空気、酸素、オゾンの他、窒素やアルゴン等の不活性ガス、または水素ガスやフォーミングガス等の還元ガスが好適に用いられる。キャリアガスの種類は1種類であってよいが、2種類以上であってもよい。キャリアガスの流量は、基板サイズや成膜室の大きさにより異なるが、0.01~40L/分程度とすることができる。
【0122】
第2結晶層の少なくとも一部に導電性を付与するドーピングを行う場合の不純物原料としては、特に限定されないが、例えば前記原料溶液が少なくともガリウムを含む場合には、シリコン、ゲルマニウム、スズ、マグネシウム、チタン、ジルコニウム、バナジウムまたはニオブなどのn型ドーパントや、あるいは、鉄、銅、銀、コバルト、イリジウム、ロジウム、マグネシウム、ニッケル等のp型ドーパントなどが挙げられる。これらの化合物を、原料溶液中に0.0001~0.1原子数パーセント、より好ましくは0.0001~0.01原子数パーセント混合させて用いると良い。
【0123】
また、バルブ411bを開いて、キャリアガス源401bから送り出されるキャリアガスを霧化器402bの支援剤ミストと混合して第2混合気432を形成して成膜室406に供給することができる。
【0124】
第2混合気432は、酸溶液422をミスト化した支援剤ミストを含んだ混合気であって良い。すなわち、酸溶液422を霧化して得たミストとキャリアガスを混合させて形成した混合気であってよく、酸溶液422は、塩酸、臭化水素酸、ヨウ化水素酸、硫酸、硝酸、カルボン酸あるいはこれらの混合物が使用できるが、生産コストとプロセスの安定性の観点から、塩酸を用いるのがより好ましい。
【0125】
酸溶液422の溶媒の種類は特に限定されず、水等の無機溶媒であってもよいし、アルコール等の有機溶媒であってもよいし、無機溶媒と有機溶媒との混合溶媒であってもよいが、本発明においては水であるのが好ましい。この時の酸の濃度は成膜条件に応じて適宜決定されるものであるが、一般に0.01mol/L~2mol/Lとすることができる。
【0126】
第2混合気432に混合させるキャリアガスの種類は特に限定されず、例えば、空気、酸素、オゾンの他、窒素やアルゴン等の不活性ガス、または水素ガスやフォーミングガス等の還元ガスが好適に用いられる。第1混合気431に混合させるキャリアガスと同じものを用いても良いし、異なるものを用いても良い。また、第2混合気432の流量は所望の膜およびその成膜条件に応じて適宜調整されればよいが、一般的に第1混合気中の金属元素に対してモル比で2から50倍とするのが良い。
【0127】
このような支援剤は成長膜表面において所望の結晶とは異なる結晶相の結晶発生および成長(異常成長)を抑制する、あるいは所望の結晶相の結晶成長を安定化させる作用があり、高品質な第2結晶層を安定的に形成することができる。
【0128】
また、このような支援剤ミストの結晶基板404への供給は、第1結晶層の形成ステップ及び第2結晶層の形成ステップの両方のステップにおいて行うことが好ましい。これにより、さらに高品質な第1結晶層と第2結晶層を有する積層体を製造することができる。
【0129】
成膜室406に導入された第1混合気431および第2混合気432は、成膜室406内で熱源407により加熱された結晶基板404と反応し、第1結晶層の上に第2結晶層が形成される。
【0130】
結晶基板404の温度は、用いる原料や目的の形成物により適宜最適化されるものであるが、第2結晶層に例えば酸化ガリウムの準安定結晶相を形成する場合には、一般に300℃以上600℃以下とするのが良い。300℃以上であれば非晶質より結晶をより多くすることが期待でき、600℃以下であれば準安定相をより安定して維持できる。
【0131】
このとき、第2結晶層は第1結晶層と異なる結晶相を有しているが、これは、前述の表面改質処理によって第1結晶層表面に付着した分子と、混合気に含まれるミスト由来の分子との間で生じる相互作用により第2結晶層の核生成が促されていると考えられている。これに対し、中間層は、表面改質処理で第1結晶層の表面に少なくともその一部が結合した状態と考えられる。
【0132】
第2結晶層を形成する成膜室406は第1結晶層形成で用いたものと同じものでも良いし、異なっていても良い。後者の場合、成膜室406の形状や材料は特に限定されるものではなく、アルミニウムやステンレスなどの金属を用いて良いし、これら金属の耐熱温度を超える、より高温で成膜を行う場合には石英や炭化シリコンを用いても良い。
【0133】
成膜は大気圧下、加圧下および減圧下のいずれの条件下で行われても良いが、装置コストや生産性の観点から、大気圧下で行われるのが好ましい。なお、膜厚は成膜時間を調整することにより、適宜設定することができる。
【0134】
第1混合気431の供給開始から所定時間が経過した後、原料ミストの供給を停止して成膜を停止する。原料ミストの供給停止方法は特に限定されず、原料霧化を停止させるだけでも良いし、原料霧化を持続させたままバルブ411aおよび411bを閉止してキャリアガス源401aおよび401bからのキャリアガスの供給を停止することによって行っても良いし、原料霧化の停止とバルブ411a、411bの閉止を両方行っても良い。
【0135】
このような積層体の製造方法によれば、半導体装置に適した高性能な積層体を容易且つ低コストで安定的に製造することができる。
【実施例0136】
以下、実施例を挙げて本発明について詳細に説明するが、これは本発明を限定するものではない。
【0137】
(実施例1)
[結晶基板を加熱するステップ及び第1混合気を形成するステップ]
図4と同様のミストCVD装置を用いて、本発明に係る積層体を作製した。
2台の石英製霧化器(霧化器402a、霧化器402b)と、石英製の成膜室を用意した。また表面改質ガスとして圧縮乾燥空気を用いた。圧縮乾燥空気供給源と霧化器402a、402bを石英製配管で成膜室に接続した。
【0138】
次に、ガリウムアセチルアセトナート0.05mol/Lの水溶液に塩酸を0.2mol/Lの割合で加え、スターラーで60分間攪拌し、原料溶液を得た。この前駆体を霧化器402aに充填した。また塩酸を0.6mol/Lの割合で純水と混合して霧化器402bに充填した。
【0139】
次に、直径10cm、厚さ0.65mmのc面サファイア基板を、成膜室内に設置したサセプターに載置し、基板温度が450℃になるように加熱した。
【0140】
次に、2.4MHzの超音波振動子により水を通じて霧化器402a、402bの前駆体に超音波振動を伝播させて、前駆体を霧化(ミスト化)した。霧化器402aに窒素ガスを5L/minの流量で加えて、霧化した原料溶液と窒素ガスの混合気(第1混合気)を形成した。
【0141】
[第1結晶層を形成するステップ]
得られた第1混合気を成膜室に供給した。また霧化器402bに乾燥空気を5L/minの流量で加えて、霧化した塩酸(支援剤ミスト)と乾燥空気の混合気を第1混合気と同時に供給した。混合気の供給を20分間行った後、霧化器402a、402bの霧化を停止し、すべてのガス供給を停止した。
【0142】
[表面改質するステップ]
次に、基板を成膜室から取り出して室温付近まで冷却させ、その後恒温槽に移した。恒温槽内を乾燥空気で置換し、30℃に保った状態で30分間放置した。
【0143】
[第2結晶層を形成するステップ]
この後、基板を恒温槽から取り出して、再び成膜室内に設置したサセプターに載置し、基板温度が450℃になるように加熱した。
【0144】
次に、2.4MHzの超音波振動子により水を通じて霧化器402a、402bの前駆体に超音波振動を伝播させて、原料溶液を霧化した。
【0145】
次に、霧化器402aに窒素ガスを10L/minの流量で加えて、霧化した原料溶液と窒素ガスの混合気(第1混合気)を成膜室に供給した。また霧化器402bに乾燥空気を5L/minの流量で加えて、霧化した塩酸(支援剤ミスト)と乾燥空気の混合気を第1混合気と同時に供給した。混合気の供給を60分間行った後、霧化器402a、402bの霧化を停止し、すべてのガス供給を停止した。
【0146】
基板の加熱を停止し、室温付近まで冷却してから基板を成膜室から取り出した。
【0147】
[評価]
形成された積層体は、CuKα線を使ったX線回折法での2θ/ωスキャンで2θ=38.9°付近および40.3°付近にピークが現れたことから、ε-Gaとα-Gaとで構成されていることが確認された。さらに断面をEBSD分析したところ、基板上にα-Gaが形成され、さらにその上にε-Gaが形成されていることが分かった。積層体の断面観察から、各層の膜厚はα-Gaが約200nm、ε-Gaが約1200nmであった。
【0148】
次に積層膜の転位密度を評価した。転位密度は、積層体の縦断面を100nm厚に薄片化した試料を使い、TEM法によって定量した。
【0149】
(実施例2)
第2結晶層を形成するステップにおいて霧化器402bで形成した支援剤ミストを使用しなかった(塩酸ミストと乾燥空気の混合気供給を行わなかった)こと以外は実施例1と同様に成膜を行った。
【0150】
形成された積層体は、X線回折測定で2θ=38.9°付近および40.3°付近にピークが現れたことから、ε-Gaとα-Gaとで構成されていることが確認された。さらに断面をEBSD分析したところ、基板上にα-Gaが形成され、さらにその上にε-Gaが形成されていることが分かった。積層体の断面観察から、各層の膜厚はα-Gaが約200nm、ε-Gaが約1200nmであった。
次に実施例1と同様に、第1及び第2結晶層の転位密度の評価を行った。
【0151】
(実施例3)
第1結晶層を形成するステップにおいて霧化器402bで形成した支援剤ミストを使用しなかった(塩酸ミストと乾燥空気の混合気供給を行わなかった)こと以外は実施例1と同様に成膜を行った。
【0152】
形成された積層体は、X線回折測定で2θ=38.9°付近および40.3°付近にピークが現れたことから、ε-Gaとα-Gaとで構成されていることが確認された。さらに断面をEBSD分析したところ、基板上にα-Gaが形成され、さらにその上にε-Gaが形成されていることが分かった。積層体の断面観察から、各層の膜厚はα-Gaが約200nm、ε-Gaが約1200nmであった。
次に実施例1と同様に、第1及び第2結晶層の転位密度の評価を行った。
【0153】
(実施例4)
第1結晶層を形成するステップおよび第2結晶層を形成するステップのいずれにおいても霧化器402bで形成した支援剤ミストを使用しなかった(塩酸ミストと乾燥空気の混合気供給を行わなかった)こと以外は実施例1と同様に成膜を行った。
【0154】
形成された積層体は、X線回折測定で2θ=38.9°付近および40.3°付近にピークが現れたことから、ε-Gaとα-Gaとで構成されていることが確認された。さらに断面をEBSD分析したところ、基板上にα-Gaが形成され、さらにその上にε-Gaが形成されていることが分かった。積層体の断面観察から、各層の膜厚はα-Gaが約200nm、ε-Gaが約1200nmであった。
次に実施例1と同様に、第1及び第2結晶層の転位密度の評価を行った。
【0155】
(実施例5)
実施例1と同様に第1結晶層を形成した後、基板を成膜室内で450℃に保持した。
【0156】
次に、霧化器402bで霧化された塩酸(0.6mol/L)に、窒素にオゾンを体積比で10%加えた混合ガスを5L/minの流量で加えて得た混合気を基板に30分間供給することで、表面改質を行った。
【0157】
この後、実施例1と同様に第2結晶層を形成した。
【0158】
形成された積層体は、X線回折測定で2θ=38.9°付近および40.3°付近にピークが現れたことから、ε-Gaとα-Gaとで構成されていることが確認された。さらに断面をEBSD分析したところ、基板上にα-Gaが形成され、さらにその上にε-Gaが形成されていることが分かった。積層体の断面観察から、各層の膜厚はα-Gaが約200nm、ε-Gaが約1200nmであり、またこれらの層の間に酸素リッチな膜厚1~2nmの中間層が観察された。
次に実施例1と同様に、第1及び第2結晶層の転位密度の評価を行った。
【0159】
(比較例)
第1結晶層形成後、表面改質処理を行わなかったこと以外は実施例1と同様に成膜を行った。
【0160】
形成された積層体は、X線回折測定で2θ=40.3°付近にピークが現れたことからα-Gaであることが確認された。
【0161】
(実施例6)
第1結晶層(電子供給層)を形成するステップでの原料溶液として、ガリウムアセチルアセトナート0.05mol/Lの水溶液に塩酸を0.2mol/Lの割合で加え、スターラーで60分間攪拌した溶液に、さらに塩化スズ(II)2水和物を、Sn/Ga比が0.1%になるように混合したものを用いた。また第2結晶層(電子走行層)を形成するステップでの原料溶液として、ガリウムアセチルアセトナート0.1mol/Lの水溶液に塩酸を0.25mol/Lの割合で加え、スターラーで60分間攪拌した溶液に、さらに塩化スズ(II)2水和物をSn/Ga比が0.001%になるように混合したものを用いた。これらの他は実施例1と同様に成膜を行った。
【0162】
製造された積層体は、CuKα線を使ったX線回折法での2θ/ωスキャンで2θ=38.9°付近および40.3°付近にピークが現れたことから、ε-Gaとα-Gaとで構成されていることが確認された。さらに断面をEBSD分析したところ、基板上にα-Gaが形成され、さらにその上にε-Gaが形成されていることが分かった。積層体の断面観察から、各層の膜厚はα-Gaが約200nm、ε-Gaが約1200nmであった。
【0163】
次に、広がり抵抗法により各層の抵抗率を評価したところ、第1結晶層は0.2Ω・cm、第2結晶層は14.2Ω・cmであった。また実施例1と同様に、第1及び第2結晶層の転位密度の評価を行った。
【0164】
実施例1~6および比較例の結果を表1に示す。
【0165】
表1に示すとおり、本発明による成膜方法により、結晶相の異なる同組成の積層体が得られた。また電子デバイスとして有用な積層体が得られた。
【0166】
これに対し、従来の方法による成膜(比較例)では、結晶の相転移が起きず、単一結晶層の膜が形成されるに留まった。
【0167】
【表1】
【0168】
上記の結果から、本発明の結晶性金属酸化物半導体を含む積層体の製造方法によれば、従来技術では成し得なかった高品質な積層体を、容易かつ低コストな低温プロセスで製造することができた。
【0169】
本明細書は、以下の態様を包含する。
[1]:結晶基板と、前記結晶基板の主表面上に直接または他の層を介して形成された第1の結晶性金属酸化物半導体を主成分とする第1結晶層と、前記第1結晶層の上に直接または他の層を介して形成された第2の結晶性金属酸化物半導体を主成分とする第2結晶層と、を含む積層体であって、前記第2の結晶性金属酸化物半導体は、前記第1の結晶性金属酸化物半導体と同じ組成を有し、且つ前記第1の結晶性金属酸化物半導体とは異なる結晶相を有するものであることを含む積層体。
[2]:前記第1の結晶性金属酸化物半導体と前記第2の結晶性金属酸化物半導体は酸化ガリウムであることを含む上記[1]の積層体。
[3]:前記第1の結晶性金属酸化物半導体はα酸化ガリウムであることを含む上記[1]又は上記[2]の積層体。
[4]:前記第2の結晶性金属酸化物半導体はε酸化ガリウムまたはκ酸化ガリウムであることを含む上記[1]、上記[2]又は上記[3]の積層体。
[5]:前記第1結晶層の電気抵抗率が5Ωcm以下であることを含む上記[1]、上記[2]、上記[3]又は上記[4]の積層体。
[6]:前記第2結晶層は前記第1結晶層より電気抵抗率が高いものであることを含む上記[1]、上記[2]、上記[3]、上記[4]又は上記[5]の積層体。
[7]:前記第1結晶層と前記第2結晶層の間に備わる前記他の層として、中間層を含むことを含む上記[1]、上記[2]、上記[3]、上記[4]、上記[5]又は上記[6]の積層体。
[8]:前記結晶基板はサファイアであることを含む上記[1]、上記[2]、上記[3]、上記[4]、上記[5]、上記[6]又は上記[7]の積層体。
[9]:半導体層と電極とを少なくとも含む半導体装置であって、前記半導体層として、上記[1]、上記[2]、上記[3]、上記[4]、上記[5]、上記[6]、上記[7]又は上記[8]の積層体の前記第1結晶層及び前記第2結晶層を含む半導体装置。
[10]:結晶性金属酸化物半導体を含む積層体の製造方法であって、結晶基板を加熱するステップと、霧化した金属酸化物前駆体を含む原料溶液ミストとキャリアガスを混合して第1混合気を形成するステップと、前記第1混合気を前記結晶基板に供給して第1の結晶性金属酸化物半導体を主成分とする第1結晶層を形成するステップと、前記第1結晶層の表面を表面改質雰囲気に晒して表面改質するステップと、前記第1混合気を前記第1結晶層の表面を改質した結晶基板に供給して、前記第1の結晶性金属酸化物半導体と同じ組成を有し、且つ前記第1の結晶性金属酸化物半導体とは異なる結晶相を有する第2の結晶性金属酸化物半導体を主成分とする第2結晶層を形成するステップと、を含む積層体の製造方法。
[11]:前記第1の結晶性金属酸化物半導体と前記第2の結晶性金属酸化物半導体を酸化ガリウムとすることを含む上記[10]の積層体の製造方法。
[12]:前記表面改質雰囲気を、窒素、二酸化炭素、酸素、オゾン、水蒸気のいずれかを含む雰囲気とすることを含む上記[10]又は上記[11]の積層体の製造方法。
[13]:前記第1結晶層の表面を表面改質するステップにおける基板温度を、前記第1結晶層を形成するステップにおける基板温度以下の温度とすることを含む上記[10]、上記[11]又は上記[12]の積層体の製造方法。
[14]:前記第1結晶層の表面を表面改質するステップにおける基板温度を20℃以上500℃以下とすることを含む上記[10]、上記[11]、上記[12]又は上記[13]の積層体の製造方法。
[15]:前記第1結晶層を形成するステップにおいて、さらに霧化した酸性溶液を含む支援剤ミストとキャリアガスを混合して形成される第2混合気を前記結晶基板に供給することを含む上記[10]、上記[11]、上記[12]、上記[13]又は上記[14]の積層体の製造方法。
[16]:前記第2結晶層を形成するステップにおいて、さらに霧化した酸性溶液を含む支援剤ミストとキャリアガスを混合して形成される第2混合気を前記結晶基板に供給することを含む上記[10]、上記[11]、上記[12]、上記[13]、上記[14]又は上記[15]の積層体の製造方法。
[17]:前記第1結晶層を形成するステップと、前記第2結晶層を形成するステップとにおいて、さらに霧化した酸性溶液を含む支援剤ミストとキャリアガスを混合して形成される第2混合気を前記結晶基板に供給することを上記[10]、上記[11]、上記[12]、上記[13]、上記[14]、上記[15]又は上記[16]の積層体の製造方法。
[18]:前記酸性溶液が塩酸を含むことを含む上記[15]、上記[16]又は上記[17]の積層体の製造方法。
【0170】
なお、本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。上記実施形態は例示であり、本発明の特許請求の範囲に記載された技術的思想と実質的に同一な構成を有し、同様な作用効果を奏するものは、いかなるものであっても本発明の技術的範囲に包含される。
【符号の説明】
【0171】
100、200、300…結晶性金属酸化物半導体を含む積層体、
101、201、301…結晶基板、 102、202、302…第1結晶層、
103、203、303…第2結晶層、 204、304…緩衝層、
305…中間層、 400…ミストCVD装置、
401a、401b…キャリアガス源、 401c…表面改質ガス源、
402a、402b…霧化器、 403a、403b、403c…配管、
404…結晶基板、 405…サセプター、 406…成膜室、 407…熱源、
411a、411b、411c…バルブ、 421…成膜用原料溶液、
422…酸溶液、 431…第1混合気、 432…第2混合気、
500…HEMT(高電子移動度トランジスタ)、
501…バンドギャップの広いn型半導体層(電子供給層)、
502…バンドギャップの狭いn型半導体層(電子走行層)、
503…n型半導体層、 504…支持基板、 505…緩衝層、
506…ゲート電極、 507…ソース電極、 508…ドレイン電極。
図1
図2
図3
図4
図5