(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025004021
(43)【公開日】2025-01-14
(54)【発明の名称】エアバッグ用ポリエステル基布
(51)【国際特許分類】
B60R 21/235 20060101AFI20250106BHJP
D03D 1/02 20060101ALI20250106BHJP
【FI】
B60R21/235
D03D1/02
【審査請求】有
【請求項の数】1
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024161404
(22)【出願日】2024-09-18
(62)【分割の表示】P 2021567679の分割
【原出願日】2020-12-25
(31)【優先権主張番号】P 2019234251
(32)【優先日】2019-12-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000003160
【氏名又は名称】東洋紡株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】弁理士法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】竹内 柊平
(72)【発明者】
【氏名】酒井 将宏
(57)【要約】 (修正有)
【課題】コスト負担軽減可能なポリエステル繊維を使用し、エアバッグ用基布としての機械的特性を保持しつつ、展開時に乗員を受け止める高い拘束性能を有し、更には、経年変化しても当該性能を高い水準で保持するエアバッグ用ポリエステル製基布を提供する。
【解決手段】ポリエステル製基布のクリンプ率を最適化し、70℃95%RH408時間劣化処理後のスクラブ試験回数が400回以上であることを特徴とする少なくとも片面に樹脂が配されたエアバッグ用ポリエステル製基布を提供する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも片面に樹脂が配されたエアバッグ用ポリエステル製基布であって、
前記エアバッグ用ポリエステル製基布を構成する糸のクリンプ率が、経糸および緯糸共
に1.0%~12.0%であることを特徴とする、エアバッグ用ポリエステル製基布。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エアバッグ用ポリエステル基布に関する。より詳細には、本発明は、エアバッグとしての機械的特性を保持しつつ、展開時に乗員を受け止める高い拘束性能を有し、更には、経年変化しても当該性能を高い水準で保持するエアバッグ用ポリエステル製基布に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、エアバッグは自動車の乗員安全保護装置として広く装着されており、その装着箇所は、運転席用、助手席用、座席シートに内蔵された大腿部保護用、側部窓に沿って展開するカーテンエアバッグ等多岐に広がり、自動車1台当たりに使用されるエアバッグ用基布の量は増加する傾向にある。現在のエアバッグを構成する基布は、エアバッグ用基布に適した性質を有するポリアミド繊維、特にナイロン6,6繊維が主として使用されているが、ナイロン6,6繊維は比較的高価であり、エアバッグが広く使用されるにつれそのコスト負担が増大している。そこで、ナイロン6,6繊維よりも原糸コストが安価なポリエステル繊維からなる基布が望まれている。
【0003】
しかしながら、エアバッグ用基布は、自動車の乗員を保護するため種々の特性を具備してすることが要求される。例えば、エアバッグ用基布は展開性だけでなく、乗員を受け止めるために必要な各種機械特性を備える必要があるとともに、使用環境を想定した経年劣化加速試験においても、十分な性能を維持していることが求められている。これらの要求を満たすために、例えば特許文献1には、湿熱劣化後の耐揉み性能を規定することで、経年劣化後の性能を保持することを意図したエアバッグ用基布が提案されている。しかし、このような基布は、いずれもナイロン6,6等のポリアミド製の基布であり、ポリエステル製の基布では、実質的に開示されていない。
ポリエステル繊維の性質は、ナイロン6,6繊維に比して、エアバッグ用基布への使用としては好ましくない点が見られ、ポリエステル繊維を使用したエアバッグ基布は十分に普及していないのが現状である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、上記の従来技術の課題を背景になされたものであり、コスト負担軽減可能なポリエステル繊維を使用し、エアバッグ用基布としての機械的特性を保持しつつ、展開時に乗員を受け止める高い拘束性能を有し、更には、経年変化しても当該性能を高い水準で保持するエアバッグ用ポリエステル製基布を提供することを課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記課題を解決するため鋭意研究した結果、ついに本発明を完成するに到った。すなわち、本発明は以下の通りである。
【0007】
1.70℃95%RH408時間劣化処理後のスクラブ試験回数が400回以上であることを特徴とするエアバッグ用ポリエステル製基布。
2.下記式1で計算される単位重量当たりのエネルギー許容量(EA)が5.0(J/g)以下である上記1.に記載のエアバッグ用ポリエステル製基布。
式1: EA(J/g)=(EW+EF)/W
ここで
EW(mJ/cm2)は、応力120N/cmまで伸張し、その後、応力0N/cmまで緩和させたときの経糸方向の単位表面積当たりのヒステリシスエネルギーを、
EF(mJ/cm2)は、応力120N/cmまで伸張し、その後、応力0N/cmまで緩和させたときの緯糸方向の単位表面積当たりのヒステリシスエネルギーを、
W(g/m2)は、単位面積当たりの基布重量を、
それぞれ示す。
3.下記式2で計算される拘束能力使用率(RR)が85%以上である上記1.または2.に記載のエアバッグ用ポリエステル製基布。
式2:RR(%)=RW/BW+RF/BF
ここで
RW(mm)は、120N/cm荷重時の経糸方向の基布の伸びを、
BW(mm)は、経糸方向の伸長破断時の基布の伸びを、
RF(mm)は、120N/cm荷重時の緯糸方向の基布の伸びを、
BF(mm)は、緯糸方向の伸長破断時の基布の伸びを、
それぞれ示す。
4.初期のスクラブ試験回数が500回以上である上記1~3いずれかに記載のエアバッグ用ポリエステル製基布。
5.カバーファクターが1900~2600である上記1~4いずれかに記載のエアバッグ用ポリエステル製基布。
6.目付が300g/m2以下である上記1~5いずれかに記載のエアバッグ用ポリエステル製基布。
7.配されている樹脂が、シリコーン樹脂であって、5g/m2以上50g/m2以下塗布されている上記1~6いずれかに記載のエアバッグ用ポリエステル製基布。
8.総繊度が200~555dtex、単糸繊度が6.0dtex以下のポリエステル繊維から構成される上記1~7いずれかに記載のエアバッグ用ポリエステル製基布。
9.乾熱収縮率が3%以下である上記1~8いずれかに記載のエアバッグ用ポリエステル製基布。
10.布目曲がり率が3%以下である上記1~9いずれかに記載のエアバッグ用ポリエステル製基布。
11.VOC成分含有量が100ppm以下である上記1~10いずれかに記載のエアバッグ用ポリエステル製基布。
12.基布を構成する糸のクリンプ率が、経糸、緯糸共に1.0%~12.0%である上記1~11いずれかに記載のエアバッグ用ポリエステル製基布。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、比較的安価なポリエステル繊維を使用した基布であっても、エアバッグに使用するに際し、自動車の乗員を保護するための種々の特性を高いレベルで具備した基布を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】布目曲がり率の測定方法を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の技術思想は、主として3つの要素からなる。すなわち、70℃95%RH408時間劣化処理後のスクラブ試験回数が400回以上であること、応力120N/cm時の基布のヒステリシスエネルギーより求められる単位重量当たりのエネルギー許容量(EA)が5.0J/g 以下であること、破断時の伸びに対する120N/cm時の伸びの比率より求められる拘束能力使用率(RR)が85%以上であること、である。
【0011】
本発明者等がポリエステル製基布とナイロン6,6等のポリアミド製基布を詳細に分析したところ、まず、70℃95%RH408時間劣化処理後のスクラブ試験回数が400回以上であれば、ポリエステル製基布であっても、ポリアミド製基布に比して遜色ないエアバッグ用基布が得られることを見出した。より好ましい70℃95%RH408時間劣化処理後のスクラブ試験回数は、450回以上である。また、スクラブ試験回数の上限については、特に制限はないが、使用するエアバッグ用基布とコーティング剤との関係から好ましくは2500回以下であり、より好ましくは2000回以下である。
【0012】
本発明者等の分析によれば、通常のポリエステル製基布は、ポリアミド製基布に比して湿熱劣化後の耐揉み性が劣る傾向が見られた。これは、エアバッグのコーティングに一般に使用されるシリコーンコーティングとポリエステル間の結合がナイロン6,6に比べ水分による影響を受けやすいことに起因すると考えられる。
【0013】
70℃95%RH408時間劣化処理後のスクラブ試験回数が400回以上のポリエステル製基布を得るための手段は特に限定されるものではなく、例えばポリエステル繊維の表面を改質する等であってもよい。
【0014】
しかしながら、低価格というポリエステル繊維の特長を効果的に引き出すためには、後述する通り、基布を構成するポリエステル繊維のクリンプ率を高くすることが推奨される。クリンプ率が高い程基布の表面構造に凹凸が多く存在することになるため、コーティング剤がポリエステル製基布と接触する表面積が増加し、その結果、湿熱劣化後の耐揉み性までも改善することを本発明者は見出した。これによれば、ポリエステル繊維の表面改質等の必要がないため、低コストで湿熱劣化に耐え得るエアバッグ用ポリエステル製基布を得ることができる。
【0015】
本発明において基布の70℃95%RH408時間劣化処理後のスクラブ試験回数は、ISO5981により測定する。具体的には、恒温恒湿槽を用いて70℃95%RH408時間劣化処理後の試験片をスクラブ試験テスターに固定し、1kgf初荷重の下、試験を行い、試験後のサンプルのコーティングの剥がれ具合を目視にて確認する。
【0016】
本発明のエアバッグ用ポリエステル製基布は、下記式1で計算される単位重量当たりのエネルギー許容量(EA)が5.0(J/g)以下であることが好ましい。
式1: EA(J/g)=(EW+EF)/W
ここで
EW(mJ/cm2)は、応力120N/cmまで伸張し、その後、応力0N/cmまで緩和させたときの経糸方向の単位表面積当たりのヒステリシスエネルギーを、
EF(mJ/cm2)は、応力120N/cmまで伸張し、その後、応力0N/cmまで緩和させたときの緯糸方向の単位表面積当たりのヒステリシスエネルギーを、
W(g/m2)は、単位面積当たりの基布重量を、
それぞれ示す。
【0017】
ここで、「120N/cm」という値は、展開中のエアバッグ基布に加わる最大応力に相当する。すなわち、エアバッグにおいて、応力120N/cmまで伸張し、その後、応力0N/cmまで緩和させた際のエネルギー許容量は、エアバッグの展開挙動におけるインフレーターからエアバッグ基布が受けるエネルギーをどの程度許容するかを示しており、このエネルギー許容量が小さいほど展開性能が良好であり、さらには基布が受けたエネルギーによるエアバッグのバーストを抑制する観点から、重要な要素となる。
【0018】
単位重量当たりのエネルギー許容量(EA)は、5.0J/g 以下であれば、得られるエアバッグは、インフレーターから発せられる展開時のエネルギーを無駄なく使用することができ、速やかな展開とすることができるだけでなく、基布が許容するエネルギーが小さいため、基布の破断によるバーストの危険性も抑制できると考えられる。より好ましい単位重量当たりのエネルギー許容量(EA)は4.0J/g 以下である。一方、単位重量当たりのエネルギー許容量(EA)の下限については特に制限はないが、ポリエステル製繊維の特性上0.1J/g 以上が好ましく、さらに好ましくは0.5J/g 以上である。
【0019】
本発明のエアバッグ用ポリエステル製基布は、下記式2で計算される拘束能力使用率(RR)が85%以上であることが好ましい。
式2:RR(%)=RW/BW+RF/BF
ここで
RW(mm)は、120N/cm荷重時の経糸方向の基布の伸びを、
BW(mm)は、経糸方向の伸長破断時の基布の伸びを、
RF(mm)は、120N/cm荷重時の緯糸方向の基布の伸びを、
BF(mm)は、緯糸方向の伸長破断時の基布の伸びを、
それぞれ示す。
より好ましい拘束能力使用率(RR)は90%以上である。一方、拘束能力使用率(RR)の上限については特に制限はないが、基布の特性上200%以下が好ましく、さらにこのましくは150%以下である。
【0020】
本発明者等は、ポリエステル製基布はポリアミド製基布に比してバーストし易い傾向があることを突き止めた。これは、従来のポリエステル製基布は、ナイロン6,6等のポリアミド製基布よりも固く、ポリエステル製基布の応力―伸びの伸長曲線はナイロン6,6に比べ短い伸びで高い応力に達する、すなわち剛直性が高くなっており、それゆえにナイロン6,6に比べ伸び性能に劣り、展開時のエネルギーを許容しきれないためバーストし易いと考えられる。
【0021】
「破断伸度に対する120N/cm時の伸び」で定義される拘束能力使用率(RR)という値は、エアバッグの展開挙動における応力-伸び曲線の傾きを示している。すなわち、拘束能力使用率(RR)が高い程より展開時の基布の伸びが大きくため、急激な基布の伸びによるエアバッグの展開時におけるバーストの危険性を抑制することができることを本発明者等は見出した。
【0022】
本発明のエアバッグ用ポリエステル製基布の初期のスクラブ試験回数は、展開時の安全性確保の点から、好ましくは500回以上であり、より好ましくは550回以上である。また、スクラブ試験回数の上限については、特に制限はないが、使用するポリエステル製基布とコーティング剤との関係から好ましくは3000回以下であり、より好ましくは2500回以下である。
【0023】
本発明において基布の初期のスクラブ試験回数は、ISO5981により測定する。具体的には、試験片をスクラブ試験テスターに固定し、1kgf初荷重の下、試験を行い、試験後のサンプルのコーティングの剥がれ具合を目視にて確認する。
【0024】
本発明のエアバッグ用ポリエステル製基布のカバーファクター(CF)は、拘束能力使用率(RR)、スクラブ試験回数を考慮すると、1900~2600であることが好ましい。より好ましいはカバーファクター(CF)の下限は2200であり、より好ましいカバーファクター(CF)の上限は2500である。なお、CFは下記の式により計算した。
CF=(√A)×(W1)+(√B)×(W2)
式中、AおよびBはそれぞれ経糸および緯糸の太さ(dtex)を示し、W1およびW2はそれぞれ経織密度および緯織密度(本/2.54cm)を示す。
【0025】
本発明のエアバッグ用ポリエステル製基布は、目付が300g/m2以下であることが好ましい。より好ましくは233g/m2である。係る範囲内であれば、エアバッグ基布が軽量化し易くなり、更にはモジュールへの収納性が向上する。
【0026】
本発明のエアバッグ用ポリエステル製基布の目付の下限は、エアバッグの使用において満足できる通気性を確保できる範囲であれば特に制限はないが、180g/m2以上であれば、エアバッグとして使用できる通気性を有すると考えられる。
【0027】
本発明において、目付は、JIS L 1096 8.3により測定する。試料から約200mm×200mmの試験片を2枚採取し,それぞれの絶乾質量(g)を量り、1m2当たりの質量(g/m2)を求め、その平均値を算出し、目付とする。
【0028】
本発明のエアバッグ用ポリエステル製基布は、配されている樹脂が、シリコーン樹脂であって、5g/m2以上50g/m2以下塗布されていることが好ましい。シリコーン樹脂は比較的安価で優れた低通気性を確保することができる。また、上記樹脂の塗布量の範囲であれば、十分に通気性を抑制しつつ、柔軟性、収納性を確保することができる。
【0029】
本発明のエアバッグ用ポリエステル製基布は、総繊度が200~555dtexのポリエステル繊維から構成されることが好ましい。ポリエステル繊維は、ナイロン6,6繊維に比して剛性が高く、収納性が低下する傾向が見られるが、総繊度が200dtex以上であれば、過度に織密度を高くする必要がないため、経糸と緯糸の拘束力の過度の上昇を抑え、エアバッグモジュールでの収納性を適切な範囲内に留めやすくなる。また、総繊度が555dtex以下であれば、織物構成糸自体の剛性の過度な上昇を抑えやすくなる。
【0030】
本発明のエアバッグ用ポリエステル製基布は、単糸繊度が6.0dtex以下のポリエステル繊維から構成されることが好ましい。単糸の繊度が6.0dtex以下であれば、紡糸操業性を確保すると共に、エアバッグの収納性をも確保することができる。
【0031】
本発明のエアバッグ用ポリエステル製基布は、150℃30分間乾燥の条件での乾熱収縮率が3%以下であることが好く、より好ましくは2.5%以下である。係る範囲の乾熱収縮率であれば、糸の残留収縮を十分に除去できており、エアバッグモジュールとしてからの寸法変化を抑制することができる。
【0032】
本発明のエアバッグ用ポリエステル製基布は、布目曲がり率が3%以下であることが好ましく、より好ましくは2.5%である。係る範囲の布目曲がり率であれば、織物の歪みが小さいため、裁断、縫製工程での作業効率向上に資することができる。
【0033】
本発明のエアバッグ基布は、VOC含有量が100ppm以下であることが好ましい。VOC含有量が100ppm以下であれば、各国の環境規制に対応することができる。
【0034】
本発明のエアバッグ用ポリエステル製基布は、基布を構成する糸のクリンプ率が、経糸、緯糸共に1.0%~12.0%であることが好ましい。より好ましくは経糸緯糸共に1.5%~10.0%、更に好ましくは2.0%~7.0%である。係る範囲であれば、上記70℃95%RH408時間劣化処理後のスクラブ試験回数、単位重量当たりのエネルギー許容量(EA)および拘束能力使用率(RR)の範囲を満たすポリエステル製基布を安価に得られることを本発明者等は見出した。すなわち、係る範囲のクリンプ率であれば、基布は適度な凹凸を有するため、ポリエステルの基布層と樹脂層との接着性が向上し、且つ均一に樹脂を塗布することができるのみならず、基布に適度な応力-伸度特性、応力に対する応答性を付与することができるため、単位重量当たりのエネルギー許容量(EA)および拘束能力使用率(RR)の範囲を満たすポリエステル製基布が得られやすくなる。
【0035】
クリンプ率が上記範囲にあると、エアバッグ展開時に基布が経方向や緯方向に引っ張られる際に、急激に基布に掛かる力をクリンプが伸びることでクッションのような役割を果たし、応力を分散することが可能になり、ナイロン製基布に比べて伸長しにくいと言われるポリエステル製基布の欠点を補うことが可能になったと推定される。
【0036】
本発明における上記クリンプ率は、JIS L1096(2010)8.7.2 B法記載の方法で測定した。なお、荷重として、1dtexに対し1/10gの荷重を使用した。
【0037】
本発明のエアバッグ用ポリエステル製基布に使用するポリエステル繊維は、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート等が例示され、ポリエチレンテレフタレートやポリブチレンテレフタレートに酸成分としてイソフタル酸、5-ナトリウムスルホイソフタル酸、アジピン酸等の脂肪族ジカルボン酸が共重合された共重合ポリエステルからなる繊維であってもよい。
【0038】
本発明のエアバッグ用ポリエステル製基布は、織密度が経糸方向および緯方向ともに好ましくは40本/2.54cm以上であり、より好ましくは46本/2.54cm以上である。織密度が46本/2.54cm以上であれば、製織加工時の基布組織の崩れを抑制することができる。また、織密度の上限については特に制限はないが、製織における緯入れの制約から70本/2.54cm以下であることが好ましい。
【0039】
本発明において、織密度はJIS L1096(2010)8.6.1により測定する。具体的には、試料を平らな台の上に置き、不自然なしわおよび張力を除いてから、異なる5か所について2.54cm区間の経糸および緯糸の本数を数え、それぞれの平均値を単位長さについて算出し、織密度とする。
【0040】
本発明のエアバッグ用ポリエステル製基布の引張強度は、機械的特性の点から、好ましくは500N/cm以上であり、より好ましくは550N/cm以上である。また、引張強度の上限については、特に制限はないが、使用するポリエステルマルチフィラメントの総繊度、引張強度、およびエアバッグ基布の織密度との関係から好ましくは1000N/cm以下であり、より好ましくは900N/cm以下である。
【0041】
本発明において、基布の引張強度は、JIS L1096(2010)8.12.1により測定する。具体的には、試験片を初荷重の下、引張試験機でつかみ、試験片の幅50mm、つかみ間隔200mm、引張速度200m/minの条件で試験を行い、切断時の強さ(N)を測定する。ただし、つかみから10mm以内で切れたもの、または異常に切れたものは除く。
【0042】
本発明のエアバッグ用ポリエステル製基布を構成するポリエステル繊維の単糸断面形状のアスペクト比は、好ましくは1.4以下である。エアバッグ基布の構成糸の単糸の断面形状は、加工時の張力等の影響により、原糸の単糸の断面形状と異なる形状に変化することがある。エアバッグ基布の構成糸の単糸の断面形状がアスペクト比1.4以下の場合、エアバッグを折り畳む際に、糸の断面が所定の方向に整然と揃うため、所望する低通気度が得られやすい。
【0043】
本発明のエアバッグ用ポリエステル製基布の製造に使用する原糸としてのポリエステル繊維の乾熱収縮率は、通気度を低減させる点および適度なクリンプ率を付与する点から、好ましくは3%以上であり、より好ましくは4%以上である。一方、乾熱収縮率が高すぎると収縮加工後のエアバッグ基布の厚みが厚くなる、或いは表面凹凸が大きく均一な樹脂層を形成できない可能性がある。また、モジュールへの収納性の観点から、原糸としてのポリエステル繊維の乾熱収縮率は好ましくは12%以下であり、より好ましくは10%以下である。乾熱収縮率を前記範囲内とすることで、後術の収縮処理により、低通気度であり、適度なクリンプ率を有し、且つモジュールへの収納性が良好なエアバッグ基用コーティング布を得ることができる。
【0044】
本発明において、原糸の乾熱収縮率は、JIS L1013(2010)8.18.2乾熱寸法変化率B法により測定する。具体的には以下の通り測定する。試料に初荷重をかけ、500mm離間する2点をマーキングしてから初荷重を除き、これを180℃の乾燥器中に吊り下げ、30分間放置する。その後、試料を取り出して室温まで冷却後後再び初荷重をかける。上記2点間の長さを測り、次の式によって乾熱寸法変化率(%)を算出し、3回の平均値を乾熱収縮率とする。
ΔL=L-500/500×100
ΔL:乾熱収縮率(%) L:2点間の長さ(mm)
【0045】
以下、本発明のエアバッグ用ポリエステル製基布を得るに適した製法について詳述するが、本発明のエアバッグ用ポリエステル製基布はこれらの製法で製造された基布に限定されるものではない。
【0046】
本発明のエアバッグ用ポリエステル製基布を製織する際の経糸テンションは、好ましくは120~200cN/本である。経糸テンションが120cN/本以上であれば、製織時の経糸に弛みが生じにくく、布帛の欠点や織機の停止に繋がりにくい上にクリンプ率を適正な範囲に制御することができる。一方、経糸テンションが200cN/本以下であれば、経糸へ過剰な負荷が加わることを避けやすく、布帛の欠点に繋がりにくい。
【0047】
ポリエステル繊維は、ナイロン6,6繊維に比してクリンプ率を高くすることが困難であることから、本発明のエアバッグ用ポリエステル製基布を製織する際、基布欠点を抑制しつつ、クリンプ率を高めるため、筬のドエル角を60~120°に設定することが好ましい。筬のドエル角がこの角度範囲から外れる場合、緯糸の飛走領域が確保できず、基布欠点が多発する懸念がある。
【0048】
更に、経方向のクリンプ率を向上させ、加えて基布欠点を抑制するためにバックローラーと綜絞との間に、ワープラインから20~50mm経糸を持ち上げるようにガイドロールを取り付けることが好ましい。ワープラインがこの位置範囲から外れる場合、上糸の張力と下糸の張力との差から基布欠点が多発する懸念がある。
【0049】
また、経方向のクリンプ率を向上させつつ基布強度を維持するために積極イージング機構をバックローラーに取り付けることが好ましい。積極イージング機構におけるイージング量は5~7.5mmが好ましく、イージングのタイミングはその織機のクロスタイミング±30°とすることが好ましい。積極イージング機構をこの設定範囲で使用した場合、開口運動の際に経糸に過剰な張力が加わるのを防ぐことが可能になり、糸へ過度の負荷が加わるのを防ぎ、基布強度を維持できる。また適正な張力で経糸を開口させることができるため、経方向のクリンプ率を向上させることができる。また、ポンプ径、ストローク、ノズル径を糸の搬送力を上げる方向に調整することが経糸方向のクリンプ率を向上させるために好ましい。
【0050】
ポリエステル繊維は、ナイロン6,6繊維に比してクリンプ率を高くすることが難しいことから、更に製織工程の巻取機における巻取り張力を250~1500Nに設定することが好ましい。ポリエステル製基布はナイロン6,6製基布より剛性があり、ナイロン6,6に比べ巻取り張力を低く設定することができるため、巻き取り時の皺や弛みが発生しない程度に巻取り張力を低く設定することで、クリンプ率を向上させることができる。
【0051】
収縮加工としては、例えば熱水加工やピンテンターに代表される熱セット加工が挙げられるが、収縮加工に熱水を用いる熱水加工が特に好ましい。熱水を用いる際には、上記製織で得られた織物を熱水中に浸漬する方法や、織物に熱水を吹き付ける方法などを採用できる。熱水の温度は好ましくは80~100℃程度であり、より好ましくは95℃以上である。熱水の温度がこの温度であると、製織後の生機が効率よく収縮し、基布のクリンプ率が向上させることができるため好ましい。なお、製織して得られた織物は、一旦乾燥させた後、収縮加工を施しても良いが、製造コストの点では、製織して得られた織物を、乾燥することなく収縮加工を施し、次いで乾燥仕上げを行えば有利である。
【0052】
本発明のエアバッグ用ポリエステル製基布の製造工程における熱風乾燥処理の乾燥温度は、乾燥器出口における基布表面温度が100℃~150℃であることが好ましい。基布表面温度がこの範囲内であれば、基布の乾燥を十分に行うことができ、さらには熱風により基布のクリンプ率をも向上させることができる。また、熱風乾燥器の温度は乾燥器出口における基布表面温度が100℃~150℃の範囲となるように調整することが好ましく、そのために熱風乾燥器の温度を130℃~180℃に設定することが好ましい。
【0053】
本発明のエアバッグ用ポリエステル製基布の製造工程におけるコーティング工程で使用するコーティング樹脂は、耐熱性、耐寒性、難燃性を有するエラストマー樹脂が好ましいが、最も効果的であるのはシリコーン系樹脂である。シリコーン系樹脂の具体例としては付加重合型シリコーンゴム等が挙げられる。例えば、ジメチルシリコーンゴム、メチルビニルシリコーンゴム、メチルフェニルシリコーンゴム、トリメチルシリコーンゴム、フロロシリコーンゴム、メチルシリコーンレジン、メチルフェニルシリコーンレジン、メチルビニルシリコーンレジン、エポキシ変性シリコーンレジン、アクリル変性シリコーンレジン、ポリエステル変性シリコーンレジンなどが挙げられる。なかでも、硬化後にゴム弾性を有し、強度や伸びに優れ、コスト面でも有利な、メチルビニルシリコーンゴムが好適である。
【0054】
本発明のエアバッグ用ポリエステル製基布において、使用するシリコーン樹脂の樹脂粘度は非常に重要である。シリコーン樹脂の粘度は10Pa・sec以上が好ましく、より好ましくは15Pa・sec以上である。上限は特に限定されないが、樹脂粘度が40Pa・secより大きくなるとコート後のポリエステル製基布の引張強度を向上させる上で必須である非コート面の経糸と緯糸の目合い部分に樹脂を存在する事が出来ない。上記の粘度の範囲内に調整できるのであれば、溶剤系、無溶剤系どちらでも構わないが、環境への影響を考慮すると、無溶剤系が好適である。なお、本発明では、樹脂以外の添加剤を含有する樹脂組成物の場合、該樹脂組成物の粘度も「樹脂の粘度」と定義する。
【0055】
また、該樹脂の膜強度が3MPa以上、膜伸度が250%以上である事が好ましい。一般的に膜強度と膜伸度は連動した物性値になるが、特に膜伸度が250%以上にすると経糸と緯糸の目合い部分に樹脂が存在した場合に、樹脂が伸びる事により、スクラブ試験時にコート布の追随性がよくなることで、高い耐もみ性を達成する事が出来る。膜伸度のより好ましい範囲は300%以上である。膜強度の上限は特に限定されないが、10MPa以下が好ましい。なお、シリコーン樹脂の膜強伸度測定用の試料は、実際にエアバッグ用布帛にコーティングし、被膜を形成する時の条件(温度、時間、圧力)に合わせて作製する。具体的には、シリコーン樹脂の0.5mmの一定厚みの樹脂膜を作製し、熱風照射方式にて190℃2分間硬化処理し、引張試験を行う。
【0056】
また、該樹脂の硬度はASTM D2240に準拠して測定し、ショアーAの硬さ計を用いて測定した硬度が40以下である事が好ましい。より好ましくは38以下である。硬度が40以下の場合、樹脂の伸度同様にスクラブ試験時に樹脂が変形する事による追随性がよくなることで、基布として高い耐もみ性を達成する事が出来る。下限は特に限定されないが、通常は25以上である。
【0057】
本発明のエアバッグ用ポリエステル製基布は、コート布表面における頭頂部の経緯平均樹脂厚みが4μm以上であることが好ましく、より好ましくは6μm以上である。なお、頭頂部とは、経糸もしくは緯糸におけるもっとも樹脂の膜圧が薄くなる部分をいう。本発明においては、樹脂を織物内部まであまり浸透させず、コート面の織物全体、特に織物頭頂部にも比較的均一な膜厚で樹脂を存在させることが好ましい。4μm未満であると、通気抑制及び難燃性を満たさない可能性がある。上限は特に設けていないが、25μm以上ではナイフコートによる塗布が困難になる。
【0058】
本発明のエアバッグ用ポリエステル製基布は、コート布表面における頭頂部の経緯平均樹脂厚みが4μm以上であることが好ましく、より好ましくは6μm以上である。なお、頭頂部とは、経糸もしくは緯糸におけるもっとも樹脂の膜圧が薄くなる部分をいう。本発明においては、樹脂を織物内部まであまり浸透させず、コート面の織物全体、特に織物頭頂部にも比較的均一な膜厚で樹脂を存在させることが好ましい。4μm未満であると、通気抑制及び難燃性を満たさない可能性がある。上限は特に設けていないが、25μm以上ではナイフコートによる塗布が困難になる。
【0059】
本発明において、樹脂を塗布する方法としては、従来の公知の方法が用いられるが、コート量の調整の容易さや異物(突起物)混入時の影響の点から、ナイフコート、特にナイフオンエアー方式によるコートが最も好ましい。ナイフオンベッド方式では、樹脂が織物内部まで浸透させ易いが、コート面の織物頭頂部に樹脂を存在させにくくなり、本来コート布に求められる通気抑制を達成する事が出来なくなる。本発明において、ナイフコートの際に使用されるナイフは、その刃の先端形状として、半円状、角状等が使用できる。
【0060】
ナイフオンエアー方式によるナイフコートでは、進行方向の基布張力は500~2000N/m が好ましく、特に好ましくは1000~1800N/mである。進行方向の基布張力が500N/m 未満の場合、ベース織物の耳部の嵩が高くなり、基布中央部と端部の塗布量に大きな差が生じやすくなる。一方、進行方向の基布張力が2000N/mを超える場合、経糸と緯糸にある空隙を埋めてしまい、非コート面の経糸と緯糸の目合い部分に樹脂が存在出来なくなることに加え、コーティング時に基布が引き伸ばされ、基布のクリンプ率が低下する可能性がある。
【0061】
本発明において、ナイフの押し込み量が1~6mmである事が重要である。ナイフの押し込み量は、ナイフオンエアー方式において、直前に位置するベッドの上面の高さを0mmとし、その高さから下側方向にナイフを押し込んだ量に相当する。より好ましくは1.5~4.5mmである。ナイフ押し込み量が1mm未満の場合、本発明の目的である非コート面の経糸と緯糸の目合い部分に樹脂が存在させる事が出来ない。6mm以上の場合、樹脂が織物内部まで浸透させ易いが、コート面の織物頭頂部に樹脂を存在させにくくなり、本来コート布に求められる通気抑制を達成する事が出来なくなる。
【0062】
塗布後のコーティング剤を乾燥、硬化させる方法としては、熱風、赤外光、マイクロウェーブ等など、一般的な加熱方法を使用することができる。コーティング硬化温度、硬化時間については、熱処理機出口における基布表面温度が165℃~200℃であることが好ましい。基布表面温度がこの範囲内であれば、シリコーン樹脂が十分に硬化することに加え、さらには熱により基布のクリンプ率をも向上させることができる。また、熱処理機の温度は熱処理機出口における基布表面温度が165℃~200℃の範囲とすることが好ましく、そのため熱処理機の温度を200℃~220℃に設定することが好ましい。
【0063】
本発明のエアバッグ用ポリエステル製基布を用いたエアバッグは、例えば、運転席用エアバッグ、助手席用エアバッグ、カーテンエアバッグ、サイドエアバッグ、ニーエアバッグおよびシートエアバッグ、補強布等に好適に用いられる。よって、これら製品も、本発明の範囲に含まれる。本発明のエアバッグ基布を用いたエアバッグとしては、本発明のエアバッグ用コーティング基布が緯方向に長い部品を裁断する際の縫製後の目ずれがしにくいことから、特に緯方向に長い部品が要求されるエアバッグが好ましい。具体的には、サイドカーテン用エアバッグが好ましい。また、本発明のエアバッグ用コーティング基布は収容性にも特に優れていることから、収容性が特に要求されるエアバッグも好ましい。具体的には、運転席用エアバッグ、助手席用エアバッグ、およびカーテンエアバッグが好ましい。本発明のエアバッグ用基布を用いたエアバッグとしては、緯方向に長い部品であることと収容性とが要求されるエアバッグがより好ましい。具体的には、サイドカーテン用エアバッグがより好ましい。
【実施例0064】
以下、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はもとより下記実施例によって制限を受けるものではなく、前・後記の趣旨に適合し得る範囲で適当に変更を加えて実施することも勿論可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲に包含される。なお、下記実施例で採用した各種性能の試験法は下記の通りである。
【0065】
<基布の目付>
JIS L1096(2010)8.3.2に準拠し測定した。試料から約200mm×200mmの試験片を2枚採取し,それぞれの絶乾質量(g)を量り、1m2当たりの質量(g/m2)を求め、その平均値を算出し、目付とした。
【0066】
<基布の織密度>
JIS L1096(2010)8.6.1に基づいて測定した。試料を平らな台の上に置き、不自然なしわおよび張力を除いて、異なる5か所について2.54cm区間の経糸および緯糸の本数を数え、それぞれの平均値を単位長さについて算出し、密度とした。
【0067】
<基布の厚み>
JIS L1096(2010)8.4に基づいて測定した。具体的には、試料の異なる5カ所について厚さ測定機を用いて、23.5kPaの加圧下、厚さを落ち着かせるために10秒間待った後に測定し、平均値を算出した。
【0068】
<基布の引張強度および破断伸度>
JIS K 6404-3:1999 6.試験方法B(ストリップ法)に基づいて測定した。試験片を初荷重の下引張試験機でつかみ、試験片の幅50mm、つかみ間隔200mm、引張速度200m/minの条件で試験を行い、切断時の強さ(N)および伸び(mm)を測定した。ただし、つかみから10mm以内で切れたもの、または異常に切れたものは除く。
【0069】
<単位重量当たりのエネルギー許容量>
単位重量当たりのエネルギー許容量は、JIS K 6404-3:1999 6.試験方法B(ストリップ法)に基づいて、経方向および緯方向のそれぞれについて、幅の両側から糸を取り除いて幅30mm、長さ300mmの試験片を3枚ずつ採取し、定速緊張型の試験機にて、つかみ間隔150mm、引張速度200mm/minで応力が120N/cmになるまで伸張させ、その直後より、応力が0N/cmになるまで引張速度200mm/minで緩和させた。得られた応力と伸びのデータ、および、以下の式(3)に基づいて、伸張開始から終了までの曲線で囲まれた面積を算出した。この面積は、伸張開始から終了までの過程において基布が許容できるエネルギー量に相当する。算出した面積を積算した結果に基づいて、経糸方向お基布が経糸方向およびよび緯糸方向のそれぞれ平均値を算出し、さらにその平均値をそれぞれチャック間の基布表面積(30mm×150mm)で割ることにより、単位表面積当たりのヒステリシスエネルギーを算出する。経糸方向および緯糸方向の基布チャック間表面積当たりのヒステリシスエネルギーを布の目付で割ることにより、経糸方向のエネルギー許容量(EW)、および、緯糸方向のエネルギー許容量(EF)を算出した。
任意の時点におけるエネルギー吸収量 ={(n+1番目の伸度)-(n番目の伸度)}×(n+1番目の応力) ・・・(3)
ここで、n番目の伸度とは、経方向または緯方向に応力を加え、次いで、緩和するまでの一連の工程において、任意の時点における経方向または緯方向の伸度の値であり、n+1番目の伸度(応力)とは、n番目の伸度(応力)の値から50msec後の経方向または緯方向の伸度(応力)の値をいう。式(3)によれば、経方向または緯方向において応力を加えてから緩和するまでの一連の工程における、任意の時点でのエネルギー許容量が算出される。そのため、開始から終了までに得られるそれぞれの時点におけるエネルギー許容量を足し合わせ、その合計値をチャック間表面積(30mm×150mm)で割ることにより、単位表面積当たりのヒステリシスエネルギーが算出される。さらに経糸方向および緯糸方向の基布チャック間表面積当たりのヒステリシスエネルギーを目付で割ることにより、経糸方向のエネルギー許容量(EW)および緯糸方向のエネルギー許容量(EF)が算出され得る。
【0070】
<拘束能力使用率>
拘束能力使用率及はJIS K 6404-3:1999 6.試験方法B(ストリップ法)に基づいて、経方向および緯方向のそれぞれについて、幅の両側から糸を取り除いて幅30mm、長さ300mmの試験片を3枚ずつ採取し、定速緊張型の試験機にて、つかみ間隔150mm、引張速度200mm/minで応力が120N/cmになるまで伸張させ、得られた伸びのデータ、上記既定した基布の破断時の伸び、および以下の式(4)に基づいて、経糸方向の拘束能力使用率(RW)、および、緯糸方向の拘束能力使用率(RF)を算出した。
120N/cm時の伸び/破断時の伸び ・・・(4)
【0071】
<基布の初期のスクラブ試験回数>
ISO5981に基づいて算出した。具体的には、試料より試験片を5枚採取し、それぞれの試験片をスクラブ試験テスターに固定し、1kgf初荷重の下、試験を行い、試験後のサンプルのコーティングの剥がれ具合を目視にて確認した。サンプルのコーティングが剥がれ、基布面が露出した直前の回数、すなわちサンプルのコーティングが剥がれない限界の回数を50回単位で求め、その平均値を算出し、スクラブ試験回数とした。
【0072】
<70℃95%RH408時間劣化処理後の基布のスクラブ試験回数>
試料をESPEC(株)製低温恒温恒湿器PL-2Jを使用して70℃95%RH408時間劣化処理を行い、劣化処理後のサンプルを使用してISO5981に基づいて算出した。具体的には、試料より試験片を5枚採取し、それぞれの試験片をスクラブ試験テスターに固定し、1kgf初荷重の下、試験を行い、試験後のサンプルのコーティングの剥がれ具合を目視にて確認した。サンプルのコーティングが剥がれ、基布面が露出した直前の回数、すなわちサンプルのコーティングが剥がれない限界の回数を50回単位で求め、その平均値を算出し、スクラブ試験回数とした。
【0073】
<基布の乾熱収縮率>
JIS L1096(2010)8.38.3に準拠して測定した。具体的には、試料から約250mm×250mmの試験片を2枚採取し、カット端から2.5cmのところから20cm長さで、たて方向、およびよこ方向に3箇所ずつ等間隔で印を付け、印間の長さを処理前の長さとして記録した。長さを記録したサンプルを150℃30分間恒温乾燥器内で乾燥し、処理後のサンプルを取り出した後、処理前と同様に印間の長さを処理後の長さとして記録し、以下の式(5)に基づいて乾熱収縮率を算出した。
乾熱収縮率(%)=(b―a)/a × 100 ・・・(5)
a:処理前の長さ(cm)、b:処理後の長さ(cm)
【0074】
<基布の布目曲がり率>
JIS L1096(2010)8.12.Aに基づいて測定した。具体的には、試料から全幅で長さ10cmの試験片を1枚採取し、
図1のように一方の耳端Aから、そのよこ糸の糸上に沿って他の耳端Bに至るよこ糸線ABを引く。次にAから耳端と直角になる線を引き、他の耳端と交わる点をCとし線AC(幅)の長さa(cm)を求め
図1に示すAC間における最大斜行距離(cm)を測定し、以下の式(6)に基づいて布目曲がり率を算出した。
布目曲り(%)= b / a × 100 ・・・(6)
a:幅(cm)、b:最大斜行距離(cm)
【0075】
<基布のVOC含有量>
VDA278に準拠して測定した。具体的には、試料30mg±5mgを精密秤量後、試料を90℃30分間加熱した際の発生成分を加熱脱着 -GCMSにて測定し、トルエン換算にて定量した。同様の測定を2回行い、高い値をVOC含有量とした。
【0076】
<基布のクリンプ率>
JIS L1096(2010)8.7.2 B法記載の方法で測定した。なお、荷重として、1dtexに対し1/10gの荷重を使用した。
【0077】
<基布のコーティング剤塗布量>
樹脂を硬化させた後のコーティング布を正確に5cm角で採取し、ベース基布である繊維のみを溶かす溶剤(ポリエステル繊維の場合はヘキサフルオロイソプロパノール)に浸漬して基布を溶解させた。次に、不溶物であるシリコーンコート層のみを回収してアセトン洗浄を行い、真空乾燥後、試料の秤量を行った。なお、塗布量は、1m2あたりの質量(g/m2)で表した。
【0078】
<原糸の総繊度>
JIS L1013(2010)8.3.1に準拠して測定した。具体的には、初荷重をかけて正確に長さ90cmの試料をとり、絶乾質量を量り、以下の式(7)に基づいて正量繊度(dtex)を算出し、5回の平均値を総繊度とした。
F0=1000×m/0.9×+(100+R0)/100 ・・・(7)
F0:正量繊度(dtex) 、 L:試料の長さ(m)、 m:試料の絶乾質量(g)、 R0:公定水分率(%)
【0079】
(実施例1)経糸、緯糸に繊度555dtex/96fのポリエステルマルチフィラメント原糸(単糸断面は丸断面である)を用い、経緯とも51本/2.54cmの設定織密度、製織時の条件は表1の記載のとおりでウォータージェットルームを用いて平織にて製織した後、乾燥せずに98℃の熱水収縮槽を通過させ、引き続き、乾燥器出口における基布表面温度(非接触式温度計で測定)が120℃になるよう乾燥工程を通過させた。
次に、前記の織物の片面に、樹脂粘度が18Pa・secの無溶剤系シリコーン樹脂組成物を、ナイフオンエアー方式で塗布量が26g/m2になるよう表1の条件に調整して塗布した。さらに、熱処理機出口における基布表面温度(非接触式温度計で測定)が170℃になるよう硬化処理し、コーティング基布を得た。製造条件の詳細を表1に、得られたコーティング基布の物性等を表2にそれぞれ示した。
【0080】
(実施例2)経糸、緯糸に繊度470dtex/144fのポリエステルマルチフィラメント原糸(単糸断面は丸断面である)を用い、経緯とも51本/2.54cmの設定織密度、製織時の条件は表1の記載のとおりでウォータージェットルームを用いて平織にて製織した後、乾燥せずに98℃の熱水収縮槽を通過させ、引き続き、乾燥器出口における基布表面温度(非接触式温度計で測定)が120℃になるよう乾燥工程を通過させた。
次に、前記の織物の片面に、樹脂粘度が18Pa・secの無溶剤系シリコーン樹脂組成物を、ナイフオンエアー方式で塗布量が24g/m2になるよう表1の条件に調整して塗布した。さらに、熱処理機出口における基布表面温度(非接触式温度計で測定)が170℃になるよう硬化処理し、コーティング基布を得た。製造条件の詳細を表1に、得られたコーティング基布の物性等を表2にそれぞれ示した。
【0081】
(実施例3)経糸、緯糸に繊度470dtex/96fのポリエステルマルチフィラメント原糸(単糸断面は丸断面である)を用い、経緯とも46本/2.54cmの設定織密度、製織時の条件は表1の記載のとおりでウォータージェットルームを用いて平織にて製織した後、乾燥せずに98℃の熱水収縮槽を通過させ、引き続き、乾燥器出口における基布表面温度(非接触式温度計で測定)が120℃になるよう乾燥工程を通過させた。
次に、前記の織物の片面に、樹脂粘度が18Pa・secの無溶剤系シリコーン樹脂組成物を、ナイフオンエアー方式で塗布量が15g/m2になるよう表1の条件に調整して塗布した。さらに、熱処理機出口における基布表面温度(非接触式温度計で測定)が170℃になるよう硬化処理し、コーティング基布を得た。製造条件の詳細を表1に、得られたコーティング基布の物性等を表2にそれぞれ示した。
【0082】
(実施例4)経糸、緯糸に繊度470dtex/96fのポリエステルマルチフィラメント原糸(単糸断面は丸断面である)を用い、経緯とも46本/2.54cmの設定織密度、製織時の条件は表1の記載のとおりでウォータージェットルームを用いて平織にて製織した後、乾燥せずに98℃の熱水収縮槽を通過させ、引き続き、乾燥器出口における基布表面温度(非接触式温度計で測定)が120℃になるよう乾燥工程を通過させた。
次に、前記の織物の片面に、樹脂粘度が50Pa・secの無溶剤系シリコーン樹脂組成物を、ナイフオンエアー方式で塗布量が15g/m2になるよう表1の条件に調整して塗布した。さらに、熱処理機出口における基布表面温度(非接触式温度計で測定)が170℃になるよう硬化処理し、コーティング基布を得た。製造条件の詳細を表1に、得られたコーティング基布の物性等を表2にそれぞれ示した。
【0083】
(実施例5)経糸、緯糸に繊度470dtex/144fのポリエステルマルチフィラメント原糸(単糸断面は丸断面である)を用い、経緯とも58.5本/2.54cmの設定織密度、製織時の条件は表1の記載のとおりでウォータージェットルームを用いて平織にて製織した後、乾燥せずに98℃の熱水収縮槽を通過させ、引き続き、乾燥器出口における基布表面温度(非接触式温度計で測定)が120℃になるよう乾燥工程を通過させた。
次に、前記の織物の片面に、樹脂粘度が18Pa・secの無溶剤系シリコーン樹脂組成物を、ナイフオンエアー方式で塗布量が25g/m2になるよう表1の条件に調整して塗布した。さらに、熱処理機出口における基布表面温度(非接触式温度計で測定)が170℃になるよう硬化処理し、コーティング基布を得た。製造条件の詳細を表1に、得られたコーティング基布の物性等を表2にそれぞれ示した。
【0084】
(実施例6)経糸、緯糸に繊度555dtex/144fのポリエステルマルチフィラメント原糸(単糸断面は丸断面である)を用い、経緯とも54.5本/2.54cmの設定織密度、製織時の条件は表1の記載のとおりでウォータージェットルームを用いて平織にて製織した後、乾燥せずに98℃の熱水収縮槽を通過させ、引き続き、乾燥器出口における基布表面温度(非接触式温度計で測定)が120℃になるよう乾燥工程を通過させた。
次に、前記の織物の片面に、樹脂粘度が18Pa・secの無溶剤系シリコーン樹脂組成物を、ナイフオンエアー方式で塗布量が25g/m2になるよう表1の条件に調整して塗布した。さらに、熱処理機出口における基布表面温度(非接触式温度計で測定)が170℃になるよう硬化処理し、コーティング基布を得た。製造条件の詳細を表1に、得られたコーティング基布の物性等を表2にそれぞれ示した。
【0085】
(比較例1)経糸、緯糸に繊度560dtex/96fのポリエステルマルチフィラメント原糸(単糸断面は丸断面である)を用い、経緯とも46本/2.54cmの設定織密度、製織時の条件は表1の記載のとおりでウォータージェットルームを用いて平織にて製織した後、乾燥せずに65℃の熱水収縮槽を通過させ、引き続き、乾燥器出口における基布表面温度(非接触式温度計で測定)が90℃になるよう乾燥工程を通過させた。
次に、前記の織物の片面に、樹脂粘度が50Pa・secの無溶剤系シリコーン樹脂組成物を、ナイフオンエアー方式で塗布量が29g/m2になるよう表1の条件に調整して塗布した。さらに、熱処理機出口における基布表面温度(非接触式温度計で測定)が160℃になるよう硬化処理し、コーティング基布を得た。製造条件の詳細を表1に、得られたコーティング基布の物性等を表2にそれぞれ示した。
【0086】
(比較例2)経糸、緯糸に繊度560dtex/96fのポリエステルマルチフィラメント原糸(単糸断面は丸断面である)を用い、経緯とも46本/2.54cmの設定織密度、製織時の条件は表1の記載のとおりでウォータージェットルームを用いて平織にて製織した後、乾燥せずに65℃の熱水収縮槽を通過させ、引き続き、乾燥器出口における基布表面温度(非接触式温度計で測定)が90℃になるよう乾燥工程を通過させた。
次に、前記の織物の片面に、樹脂粘度が50Pa・secの無溶剤系シリコーン樹脂組成物を、ナイフオンエアー方式で塗布量が18g/m2になるよう表1の条件に調整して塗布した。さらに、熱処理機出口における基布表面温度(非接触式温度計で測定)が160℃になるよう硬化処理し、コーティング基布を得た。製造条件の詳細を表1に、得られたコーティング基布の物性等を表2にそれぞれ示した。
【0087】
【0088】
本発明は、エアバッグとしての機械的特性を保持しつつ、展開時に乗員を受け止める高い拘束性能を有し、更には、経年変化しても当該性能を高い水準で保持するエアバッグ用ポリエステル製基布であるため、比較的低価格のポリエステル製エアバッグを普及させることが可能となり、産業の発展に寄与すること大である。