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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025040233
(43)【公開日】2025-03-24
(54)【発明の名称】滅菌装置及び滅菌制御方法
(51)【国際特許分類】
   A61L 2/20 20060101AFI20250314BHJP
   A61L 101/22 20060101ALN20250314BHJP
【FI】
A61L2/20 106
A61L101:22
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023147020
(22)【出願日】2023-09-11
(71)【出願人】
【識別番号】392022064
【氏名又は名称】キヤノンメドテックサプライ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】花田 康史
(72)【発明者】
【氏名】小山 高志
【テーマコード(参考)】
4C058
【Fターム(参考)】
4C058AA12
4C058BB07
4C058CC03
4C058DD05
4C058DD06
4C058DD13
4C058EE26
4C058JJ16
4C058JJ26
(57)【要約】
【課題】滅菌を行うことによって生じる被滅菌物へのダメージを低減させること。
【解決手段】実施形態に係る滅菌装置は、滅菌室と、流路と、第1供給部と、第2供給部と、加熱部と、真空ポンプと、制御部と、を備える。滅菌室は、被滅菌物を収容する。流路は、滅菌室に通じている。第1供給部は、流路を流れる滅菌剤を流路から滅菌室に供給する。第2供給部は、流路を流れる滅菌剤を中和する成分を滅菌室に供給する。加熱部は、滅菌室内を加熱する。真空ポンプは、滅菌室内を減圧する。制御部は、第1供給部、第2供給部、加熱部、及び真空ポンプの動作を制御する。また、制御部は、滅菌剤の供給から所定時間経過後に、中和剤を滅菌室に供給するよう第1供給部及び第2供給部の動作を制御する。
【選択図】図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
被滅菌物を収容する滅菌室と、前記滅菌室に通じる流路と、
前記流路を流れる滅菌剤を前記流路から前記滅菌室に供給する第1供給部と、
前記流路を流れる前記滅菌剤を中和する中和剤を前記滅菌室に供給する第2供給部と、
前記滅菌室を加熱する加熱部と、
前記滅菌室を減圧する真空ポンプと、
前記第1供給部、前記第2供給部、前記加熱部、及び前記真空ポンプの動作を制御する制御部と、
を備え、
前記制御部は、前記滅菌剤の供給から所定時間経過後に、前記中和剤を前記滅菌室に供給するよう前記第1供給部及び前記第2供給部の動作を制御する、
滅菌装置。
【請求項2】
前記制御部は、
前記滅菌室を加熱して前記被滅菌物を加温し、
前記滅菌室内の圧力を所定の圧力まで低下させ、
前記滅菌室内に前記滅菌剤を供給し、
前記滅菌剤の供給から所定時間経過後に、前記滅菌室内に前記中和剤を供給する制御を行う、
請求項1に記載の滅菌装置。
【請求項3】
前記滅菌剤の原液を、加熱及び冷却により、前記原液に含まれる滅菌成分を濃縮した濃縮剤と、水を主成分とする希薄剤とに分離する濃度分離槽を更に備え、
前記制御部は、
前記濃度分離槽に前記原液を供給して、前記原液を前記濃縮剤と、前記希薄剤とに分離させ、
前記滅菌室内に前記濃度分離槽で分離された前記濃縮剤を前記滅菌剤として供給し、
前記濃縮剤の供給から所定時間経過後に、前記滅菌室内に前記希薄剤を前記中和剤として供給する制御を行う、
請求項1に記載の滅菌装置。
【請求項4】
前記原液は、過酸化水素水溶液であり、前記濃縮剤は、前記原液から水を除去して濃縮した溶液であり、前記希薄剤は、水を主成分とする過酸化水素を含む溶液である、
請求項3に記載の滅菌装置。
【請求項5】
前記第2供給部と、前記滅菌室との間に設けられる過加熱炉を更に備え、
前記制御部は、前記希薄剤を、前記過加熱炉で加熱した後に前記滅菌室へ供給する制御を行う、
請求項3に記載の滅菌装置。
【請求項6】
前記制御部は、前記滅菌剤の前記滅菌室への供給タイミング及び前記中和剤の前記滅菌室への供給タイミングを制御する、
請求項1に記載の滅菌装置。
【請求項7】
前記滅菌室へ大気を導入する機構を更に備え、
前記制御部は、前記滅菌剤の供給後の所定のタイミングで、前記機構を制御して、前記滅菌室へ大気を導入する、
請求項1に記載の滅菌装置。
【請求項8】
前記制御部は、前記滅菌室を加熱して前記被滅菌物を加温し、前記滅菌室内の圧力を所定の圧力まで低下させ、前記滅菌室内に前記中和剤を供給し、前記中和剤の供給から所定時間経過後に、前記滅菌室内に前記滅菌剤を供給する第1工程を少なくとも1回実行した後に、
前記滅菌室内の圧力を所定の圧力まで低下させ、前記滅菌室内に前記滅菌剤を供給し、前記滅菌剤の供給から所定時間経過後に、前記滅菌室内に前記中和剤を供給する第2工程を少なくとも1回実行する制御を行う、
請求項1乃至7の何れか1項に記載の滅菌装置。
【請求項9】
被滅菌物を収容する滅菌室と、
前記滅菌室に通じる流路と、
前記流路を流れる滅菌剤を前記流路から前記滅菌室に供給する第1供給部と、
前記流路を流れる前記滅菌剤を中和する中和剤を前記滅菌室に供給する第2供給部と、
前記滅菌室を加熱する加熱部と、
前記滅菌室を減圧する真空ポンプと、
を備える滅菌装置による滅菌制御方法であって、
前記滅菌室を加熱して前記被滅菌物を加温するステップと、
前記滅菌室内の圧力を所定の圧力まで低下させるステップと、
前記滅菌室内に前記滅菌剤を供給するステップと、
前記滅菌剤の供給から所定時間経過後に、前記滅菌室内に前記中和剤を供給するステップと、
を含む滅菌制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書等に開示の実施形態は、滅菌装置及び滅菌制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、滅菌器内の滅菌室を減圧して、過酸化水素水溶液等の滅菌剤を滅菌室に吸引しつつ当該滅菌剤を気化させて、滅菌室に収容された被滅菌物を気化された滅菌剤によって滅菌する滅菌装置が知られている。この種の滅菌装置に用いられる方法として、例えば、60%の過酸化水素水溶液を真空蒸気化させ、過酸化水素蒸気により被滅菌物を滅菌する方法が知られている。
【0003】
しかしながら、この方法では最初に水が蒸気化することから特に被滅菌物の内腔深部に対する滅菌力が低下してしまうという問題がある。このため、過酸化水素水溶液の水成分を排除し過酸化水素濃度を98%程度に濃縮することで被滅菌物の内腔深部への滅菌力を向上させる手段が講じられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2023-20569号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、酸化水素濃度を98%程度に濃縮した場合、例えば、被滅菌物に耐薬品性の低い樹脂等が含まれていると、濃縮された過酸化水素によるケミカルアタックが生じ、被滅菌物が破損してしまう可能性がある。また、被滅菌物にラベル等が貼付されている場合、ラベルが剥がれてしまったり、ラベルに書かれた文字が消えてしまったりする可能性もある。
【0006】
本明細書等に開示の実施形態が解決しようとする課題の一つは、滅菌を行うことによって生じる被滅菌物へのダメージを低減させることである。ただし、本明細書等に開示の実施形態により解決される課題は上記課題に限られない。後述する実施形態に示す各構成による各効果に対応する課題を、本明細書等に開示の実施形態が解決する他の課題として位置づけることもできる。
【課題を解決するための手段】
【0007】
実施形態に係る滅菌装置は、滅菌室と、流路と、第1供給部と、第2供給部と、加熱部と、真空ポンプと、制御部と、を備える。滅菌室は、被滅菌物を収容する。流路は、滅菌室に通じている。第1供給部は、流路を流れる滅菌剤を流路から滅菌室に供給する。第2供給部は、流路を流れる滅菌剤を中和する成分を滅菌室に供給する。加熱部は、滅菌室内を加熱する。真空ポンプは、滅菌室内を減圧する。制御部は、第1供給部、第2供給部、加熱部、及び真空ポンプの動作を制御する。また、制御部は、滅菌剤の供給から所定時間経過後に、中和剤を滅菌室に供給するよう第1供給部及び第2供給部の動作を制御する。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1図1は、実施形態に係る滅菌装置の構成の一例を示す図である。
図2図2は、実施形態に係る濃度分離槽の構成の一例を示す図である。
図3図3は、実施形態に係る滅菌装置の構成の一例を示すブロック図である。
図4図4は、実施形態に係る滅菌装置が実行する滅菌動作での滅菌室内の圧力の変化の一例を示す図である。
図5図5は、実施形態に係る滅菌装置が実行する滅菌動作での滅菌室内の圧力の変化の一例を示す図である。
図6図6は、実施形態に係る滅菌装置が実行する処理の一例を示すフローチャートである。
図7図7は、変形例1に係る滅菌装置が実行する滅菌動作での滅菌室内の圧力の変化の一例を示す図である。
図8図8は、変形例2に係る滅菌装置が実行する滅菌動作での滅菌室内の圧力の変化の一例を示す図である。
図9図9は、変形例3に係る滅菌装置の構成の一例を示す図である。
図10図10は、変形例3に係る過加熱炉の構成の一例を示す図である。
図11図11は、実施形態とは異なる滅菌装置が実行する滅菌動作での滅菌室内の圧力の変化の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下に添付図面を参照して、実施形態について詳細に説明する。なお、この実施形態により本発明が限定されるものではない。
【0010】
以下の複数の実施形態には、同様の構成要素が含まれている。それら同様の構成要素には共通の符号が付与されるとともに、重複する説明が省略される。また、図面は模式的なものであり、各要素の寸法の関係、各要素の比率などは、現実と異なる場合がある。また、図面の相互間においても、互いの寸法の関係や比率が異なる部分が含まれている場合がある。また、本明細書では、序数は、部品や、部材、部位、位置、方向等を区別するためだけに用いられており、順番や優先度を示すものではない。
【0011】
図1は、実施形態に係る滅菌装置1の構成の一例を示す図である。図1に示されるように、滅菌装置1は、滅菌処理部2と、制御装置3と、を備える。
【0012】
滅菌処理部2は、液体状の滅菌剤を気化させて、気化させた滅菌剤によって被滅菌物100を滅菌する。液体状の滅菌剤は、例えば過酸化水素水溶液である。また、被滅菌物100は、例えば、内視鏡や内視鏡ビデオカメラ、医療用プラスチック製品等の医療用機器であるが、他の物であってもよい。制御装置3は、滅菌処理部2を制御する。制御装置3は、制御部の一例である。
【0013】
ここで、本明細書において、滅菌処理には、対象物を滅菌、殺菌、除菌、または消毒する処理が含まれるものとする。また、本明細書において、滅菌は、殺菌、除菌、または消毒に読み替え可能であるものとする。
【0014】
なお、滅菌とは、有害・無害を問わず、対象物に存在する全ての細菌、ウイルス、その他微生物を死滅させることをいう。また、殺菌とは、対象物に存在する細菌、ウイルス、その他微生物を死滅させる(不活性化させる)ことをいう。また、除菌とは、対象物に存在する細菌、ウイルス、その他微生物の数を減らすことをいう。また、消毒とは、対象物に存在する病原性のある細菌、ウイルス、その他微生物を死滅させて(または除去して)害のない程度にすることをいう。
【0015】
滅菌処理部2は、滅菌庫11と、滅菌剤供給部12と、を備える。滅菌庫11の内部には、被滅菌物100を収容する滅菌室11aが設けられており、滅菌剤供給部12は、滅菌室11aに滅菌剤を供給する。滅菌室11aは、チャンバーとも称される。
【0016】
また、本実施形態では、便宜上、互いに直交する三方向が定義されている。X方向は、滅菌庫11の前後方向(奥行方向)の後方と一致し、Y方向は、滅菌庫11の幅方向に沿い、Z方向は、滅菌庫11の上下方向(高さ方向)の上方と一致する。なお、以後では、滅菌庫11の幅方向を左右方向とも称する。
【0017】
滅菌剤供給部12は、カートリッジ31と、液相ポンプ32と、濃度分離槽33と、電磁弁34と、分配器35と、加熱・気化ユニット36と、真空ポンプ37と、電磁弁38と、真空ゲージ39と、を備える。カートリッジ31と、液相ポンプ32と、濃度分離槽33と、電磁弁34と、分配器35と、加熱・気化ユニット36とは、流体回路を構成している。
【0018】
真空ポンプ37は、滅菌庫11内すなわち滅菌室11a、加熱・気化ユニット36内、分配器35内の気体を吸引して、それぞれの空間内を減圧し真空状態(大気圧より低い圧力である陰圧の気体で満たされた空間内の状態)にする。真空状態は、陰圧状態とも称される。
【0019】
カートリッジ31は、液体状の滅菌剤(原液)を収容している。液相ポンプ32は、カートリッジ31から液体状の滅菌剤を吸引して、吸引した液体状の滅菌剤を濃度分離槽33へ吐出する。換言すると、液相ポンプ32は、滅菌剤を濃度分離槽33へ供給する。液相ポンプ32は、滅菌剤の吸引量および吐出量を計量可能なチューブポンプである。
【0020】
濃度分離槽33は、液体状の滅菌剤を加熱して液体状の滅菌剤を濃縮剤と希薄剤とに分離する。ここで、濃縮剤とは、滅菌成分の濃度が、滅菌剤の原液中の滅菌成分の濃度よりも高いものである。例えば、滅菌材(原液)が60%過酸化水素水溶液であれば、濃縮剤は、60%を超える濃度の過酸化水素水溶液である。
【0021】
また、希薄剤とは、滅菌成分の濃度が、滅菌剤の原液中の滅菌成分の濃度よりも低いものである。例えば、滅菌材(原液)が60%過酸化水素水溶液であれば、希薄剤は、水を主成分とする60%以下の濃度の過酸化水素水溶液である。
【0022】
具体的には、濃度分離槽33は、過酸化水素水溶液中の水を熱により気化させて、過酸化水素水溶液中の過酸化水素の濃度を上げたものを濃縮剤とする。また、気化させた水を冷却して回収したものを希薄剤とする。過酸化水素水溶液中の水を熱により気化させる際に、過酸化水素も気化する可能性があるため、希薄剤には、過酸化水素が含まれていてもよい。
【0023】
濃度分離槽33は、濃度分離槽33aと濃度分離槽33bとで構成される。濃度分離槽33aと濃度分離槽33bとは同一の構成を備えている。以下の説明では、濃度分離槽33aと濃度分離槽33bとを特に区別しない場合、単に濃度分離槽33ともいう。
【0024】
以下、濃度分離槽33について図2を用いて説明する。図2は、濃度分離槽33の構成の一例を示す図である。濃度分離槽33は、濃度分離室331及び回収室332で構成される。本実施形態では、高さ方向において、濃度分離室331が上方に、回収室332が下方に配置される。濃度分離室331は、濃縮剤を貯留する密閉された空間である。回収室332は、希薄剤を貯留する空間である。
【0025】
濃度分離室331と回収室332とは、後述の気化皿331b及び回収皿332aにより形成される連通部335により連通している。
【0026】
濃度分離室331は、濃度分離室331の上面及び左右面に配置された壁331a及び気化皿331bにより形成される空間である。壁331aは、例えば、ステンレス鋼、アルミニウム合金、ニッケル合金等の耐腐食性を持つ金属素材で構成される。なお、壁331aは、アルミニウムやニッケル等の耐腐食性を持つ金属のメッキが施された鉄等で構成されていてもよい。
【0027】
濃度分離室331には、滅菌剤導入管336が設けられる。滅菌剤導入管336は、カートリッジ31に収容された滅菌剤を濃度分離室331に導入するためのチューブである。例えば、滅菌剤導入管336は、壁331aを貫通するように設けられる。この場合、壁331aと滅菌剤導入管336との間に生じる隙間は、Oリング等で埋められる。また、滅菌剤導入管336は、濃度分離処理により生じる濃縮剤CLに接することがないように設けられる。
【0028】
また、濃度分離室331には、濃縮剤送出管337が設けられる。濃縮剤送出管337は、濃度分離処理により生じた濃縮剤を濃度分離室331から送出するためのチューブである。例えば、濃縮剤送出管337は、壁331aを貫通するように設けられる。この場合、壁331aと濃縮剤送出管337との間に生じる隙間は、Oリング等で埋められる。
【0029】
また、濃度分離室331内の空間の中央付近には、気化皿331bが配置される。気化皿331bは、すり鉢状の溝を有する。気化皿331bは、例えば、磁器で構成される。気化皿331bは、支持部材(図示しない)により壁331aに支持される。例えば、気化皿331bは、支持部材(図示しない)により吊り下げるようにして壁331aの上面により支持される。
【0030】
なお、上述の滅菌剤導入管336に濃度分離処理で生じた濃縮剤が付着しないように、滅菌剤導入管336の滅菌剤の出口は、なるべく気化皿331bの円錐すり鉢状の溝の周縁部側に位置していることが好ましい。
【0031】
また、壁331aの上面、左右面には、第1ヒータ333aが設けられる。第1ヒータ333aはリード線(図示しない)により、制御装置3に接続される。第1ヒータ333aは、濃度分離室331全体を加温する。
【0032】
例えば、第1ヒータ333aは、120℃に加温可能なPTCヒータである。なお、第1ヒータ333aは、PTCヒータに限定されない。後述する第2ヒータ333bよりも高い温度に温度調整が可能であれば、各種ヒータを適宜使用可能である。
【0033】
気化皿331bの円錐すり鉢状の溝には、濃度分離処理により生じた濃縮剤CLが貯留される。また、気化皿331bの底部には、第2ヒータ333bが内蔵されている。第2ヒータ333bはリード線333cにより、制御装置3に接続される。第2ヒータ333bは滅菌剤導入管336から濃度分離室331内に導入された液体状の滅菌剤を加温して滅菌剤を濃縮する。
【0034】
例えば、第2ヒータ333bは、80℃に加温可能なPTCヒータである。なお、第2ヒータ333bは、PTCヒータに限定されない。上述の第1ヒータ333aよりも低い温度に温度調整が可能であれば、各種ヒータを適宜使用可能である。
【0035】
回収室332は、気化皿331bの底部及び回収皿332aにより形成される空間である。回収皿332aは、壁331aと同様に、ステンレス鋼、アルミニウム合金、ニッケル合金等の耐腐食性を持つ金属素材で構成される。
【0036】
また、回収室332には、希薄剤送出管338が設けられる。希薄剤送出管338は、第2送出管の一例である。希薄剤送出管338は、濃度分離処理により生じた希薄剤を回収室332から送出するためのチューブである。例えば、希薄剤送出管338は、回収皿332aを貫通するように設けられる。この場合、回収皿332aと希薄剤送出管338との間に生じる隙間は、Oリング等で埋められる。
【0037】
回収皿332aの右側方、左側方、及び下方には、冷却素子334が設けられる。冷却素子334はリード線(図示しない)により、制御装置3に接続される。例えば、冷却素子334はペルチェ素子である。なお、冷却素子334はペルチェ素子に限定されない。冷却が可能な素子であれば既知の素子を適宜利用可能である。
【0038】
また、左右面の壁331aと、回収皿332aとの間には、温度緩衝帯335aが設けられる。例えば、温度緩衝帯335aは、PTFE(polytetrafluoroethylene)等で構成される。温度緩衝帯335aには、第1ヒータ333aも冷却素子334も設けられていない。このため、温度緩衝帯335aに接する連通部335内の平均温度は、濃度分離室331内の平均温度と回収室332内の平均温度との間の温度となる。
【0039】
このように、連通部335に接する部分に温度緩衝帯335aが設けられていることで、加熱部(濃度分離室331)と冷却部(回収室332)とを確実に分離できる。また、温度緩衝帯335aが存在することで、効率良く分子の運動を移行させることもできる。これにより、濃度分離室331から回収室332に至る前に分子が液化してしまう可能性を低減できる。
【0040】
以下、滅菌剤が60%過酸化水素水溶液である場合を例に、濃度分離槽33で行われる濃度分離処理について説明する。滅菌剤導入管336から濃度分離室331の空間に導入された60%過酸化水素水溶液は、溝に貯留された60%過酸化水素水溶液は、第1ヒータ333aにより加熱される。これにより、60%過酸化水素水溶液が気化し始める。気化されなかった60%過酸化水素水溶液は、重力により気化皿331bの溝に貯留する。
【0041】
溝に貯留された60%過酸化水素水溶液は、第2ヒータ333bにより加熱される。また、気化した分子は、膨張により体積が増加する。体積の増加により、濃度分離室331の圧力が高まるため、回収室332の圧力よりも濃度分離室331の圧力の方が高い状態になる。したがって、圧力の均衡を保つため、気化した分子は圧力の高い濃度分離室331から連通部335を通過して圧力の低い方へ移動する。
【0042】
ここで、分子量が小さい水分子の方が、分子量が大きい過酸化水素分子よりも加熱による振動が大きいことが知られている。つまり、過酸化水素分子よりも水分子の方が気化しやすい。これにより、水分子が優先的に濃度分離室331から回収室332へ移動することになる。
【0043】
なお、気化皿331bの底部にファン等を設け、気化皿331bの直上に生じた分子の回収室332への移動を促進させてもよい。また、真空ポンプ37等を用いて、濃度分離室331で気化した分子を回収室332側へ吸引する等して、気化皿331bの直上に生じた分子の回収室332への移動を促進させてもよい。
【0044】
回収室332では、冷却素子334の冷却効果で気化した分子はその振動を奪われ体積が縮小し凝結し液化し沈殿する。上述のように、回収室332には水分子が優先的に移動するため、回収室332では水分子が優先的に液化し、回収皿332aのすり鉢状の領域に液化した希薄剤DLが貯留することになる。
【0045】
ここで、蒸気化した分子の振動エネルギーよりも低い温度のものがあればそこで凝結現象が発生することが知られている。つまり、濃度分離室331内であっても気化皿331bよりも温度が低い領域があれば、そこで水分子が凝結し沈殿する可能性がある。濃度分離室331内で水分子が液化してしまうと、水分子が気化皿331bの溝に貯留することになり、濃縮剤CLの濃度が低下して濃縮の効率が低下する。
【0046】
本実施形態では、濃度分離室331の壁331aに設ける第1ヒータ333aの温度を、気化皿331bの底部に設けられる第2ヒータ333bの温度よりも高く設定している。これにより、濃度分離室331の内面全面の温度が気化皿331bの温度よりも高くなるため、濃度分離室331内で水分子の凝結現象が起きる可能性を低減させることができる。
【0047】
また、濃度分離槽33aでは、濃縮剤送出管337と電磁弁34aとが接続されている。濃度分離処理により生じた濃縮剤CLは、真空ポンプ(図示しない)等を用いて、濃縮剤送出管337を経由して電磁弁34aに送出される。なお、後述の真空ポンプ37を用いて、濃縮剤CLを電磁弁34aに送出してもよい。
【0048】
本実施形態では、濃度分離槽33aでは、濃度分離処理により生じた希薄剤DLが電磁弁34aの方に流出しないように、希薄剤送出管338と電磁弁34aとは接続されていない。なお、濃度分離槽33aの希薄剤送出管338と電磁弁34bとがチューブ等で接続されていてもよい。
【0049】
また、濃度分離槽33bでは、希薄剤送出管338と電磁弁34bとが接続されている。この場合、濃度分離処理により生じた希薄剤DLは、重力に従って下方に移動し、希薄剤送出管338を経由して電磁弁34bに送出される。なお、濃度分離槽33bの濃縮剤送出管337と電磁弁34aとがチューブ等で接続されていてもよい。この場合は、濃度分離槽33bで生じた濃縮剤も濃度分離槽33aと同様に、電磁弁34aに送出される。
【0050】
なお、1つの濃度分離槽33のみを設け、濃縮剤送出管337と電磁弁34aとを接続し、希薄剤送出管338と電磁弁34bとを接続してもよい。
【0051】
なお、上記は濃度分離処理の一例であり、濃度分離処理は上記に限定されない。滅菌剤に含まれる水分子を気化させて濃縮し、気化した水分子を冷却して回収できる構成であれば種々の構成を適用可能である。
【0052】
電磁弁34a、bは、濃度分離槽33と滅菌室11aとの間に設けられている。電磁弁34aが開くと、滅菌室11aが陰圧となっている場合には、濃度分離槽33からの濃縮剤が滅菌室11aに供給される。電磁弁34aは、滅菌剤(濃縮剤)を滅菌室11aに供給する役割を果たすため、第1供給部の一例である。
【0053】
また、同様に、電磁弁34bが開くと、滅菌室11aが陰圧となっている場合には、濃度分離槽33からの希薄剤が滅菌室11aに供給される。電磁弁34aは、中和剤(希薄剤)を滅菌室11aに供給する役割を果たすため、第2供給部の一例である。
【0054】
図1に戻り、説明を続ける。分配器35は、濃度分離槽33と滅菌室11aとの間に設けられている。分配器35は、陰圧によって電磁弁34aから流入した液体状の濃縮剤又は陰圧によって電磁弁34bから流入した液体状の希釈剤を、パスカルの法則により四分割して、後述の四つの気化器42に等量で分配する。以下、濃縮剤と希薄剤とを特に区別しない場合、濃縮剤及び希薄剤を滅菌剤とも称する。
【0055】
四つの気化器42は、液体状の滅菌剤を気化させて、気体状の滅菌剤を滅菌室11a内に供給する。
【0056】
電磁弁38は、滅菌室11aの内と外とを連通する開弁状態と滅菌室11aの内と外とを遮断する閉弁状態とに変化可能である。電磁弁38が開弁状態になると、滅菌室11aが減圧状態から大気圧状態に戻る。電磁弁38は、滅菌室11a内に大気を導入する役割を果たすため、大気を導入する機構の一例である。真空ゲージ39は、滅菌室11aの真空度を測定する。
【0057】
滅菌庫11の内部には、滅菌室11aが設けられている。滅菌室11aに被滅菌物100が収容される。また、滅菌室11aには、滅菌室11aの温度を検出する温度センサ48が配置されている。
【0058】
滅菌庫11は、前後方向を長手方向とし幅方向を短手方向とする略直方体状の箱形である。滅菌庫11は、本体21と、扉22と、を有する。なお、滅菌庫11は、筐体とも称される。
【0059】
本体21は、上壁21aと、下壁21bと、右壁21cと、左壁と、後壁21eと、を有する。上壁21aおよび下壁21bは、いずれも上下方向と直交する方向に延びており、上下方向に間隔を空けて互いに平行に設けられている。右壁21cおよび左壁は、いずれも幅方向と直交する方向に延びており、幅方向に間隔を空けて互いに平行に設けられている。後壁21eは、前後方向と直交する方向に延びており、上壁21a、下壁21b、右壁21c、および左壁のそれぞれの後端部を接続している。
【0060】
上壁21a、下壁21b、右壁21c、左壁、および後壁21eは、それぞれ、外面11bと内面とを有する。上壁21a、下壁21b、右壁21c、左壁、および後壁21eは、滅菌庫11の外壁である。本体21は、例えばステンレスによって構成されている。
【0061】
本体21の内部に滅菌室11aが設けられている。滅菌室11aは、上壁21a、下壁21b、右壁21c、左壁、および後壁21eによって囲まれている。
【0062】
扉22は、上壁21a、下壁21b、右壁21cまたは左壁の前端部に回転可能に支持され、本体21に対して開閉可能である。扉22は、閉められた状態では、前後方向と直交する方向に延びており、上壁21a、下壁21b、右壁21c、および左壁のそれぞれの前端部と重なり、滅菌室11aを閉塞する。
【0063】
扉22が開かれると、滅菌室11aが前方に開放される。なお、後壁21eが、扉22と同様に開閉可能な扉として構成されていてもよい。すなわち、扉22と後壁21eとが、両方とも開閉可能であってもよい。
【0064】
また、上壁21a、下壁21b、右壁21c、左壁、および後壁21eのそれぞれの外面11bには、外側ヒータ25が重ねられている。なお、図1では、上記の外側ヒータ25のうちの一部のみを示している。外側ヒータ25は、滅菌庫11の外側から滅菌庫11の内部すなわち滅菌室11aを加熱する。外側ヒータ25は、加熱部の一例である。
【0065】
外側ヒータ25は、滅菌室11aの温度が、滅菌装置1が設置される室内の温度である室温よりも高い温度(例えば50℃~60℃)になるように滅菌室11aを加熱する。外側ヒータ25は、シートヒータ等の熱源を有する。以下、この滅菌室11aの滅菌時の温度を滅菌温度と称することがある。
【0066】
滅菌室11aには、二つの棚23と、二つの加熱・気化ユニット36と、が収容されている。なお、棚23と加熱・気化ユニット36の数は、上記に限定されない。
【0067】
二つの棚23は、上下方向に間隔を空けて並べられている。各棚23は、右壁21cと左壁とに設けられた支持部(不図示)によって着脱可能に支持されている。二つの棚23は、滅菌庫11に対して前後方向にスライド可能である。
【0068】
二つの棚23は、それぞれ、被滅菌物100の載置が可能である。棚23は、複数の開口部が設けられた網状である。棚23の下側には、ネット26が重ねられている。例えば、ネット26は、棚23に溶接され、棚23と一体化されている。ネット26の比熱は、棚23の比熱よりも低い。ネット26には、複数の開口部が設けられている。なお、ネット26は設けられていなくてもよい。
【0069】
二つの加熱・気化ユニット36は、それぞれ、二つの棚23の下側に配置されている。詳細には、二つの加熱・気化ユニット36は、それぞれ、二つの棚23のそれぞれの直下に配置されている。直下とは、加熱・気化ユニット36に含まれる内側ヒータ43の上端と棚23の上端との間の上下方向の距離が、当該棚23上の被滅菌物100を収容可能な空間(以後、棚上収容空間とも称する)の上下方向の高さの半分以下のことをいう。
【0070】
二つの加熱・気化ユニット36のうち上側の加熱・気化ユニット36は、右壁21cと左壁(不図示)とに設けられた支持部によって着脱可能に支持されている。また、二つの加熱・気化ユニット36のうち下側の加熱・気化ユニット36は、下壁21bに着脱可能に支持されている。
【0071】
加熱・気化ユニット36は、ケース41と、二つの気化器42と、内側ヒータ43と、を有する。
【0072】
ケース41は、例えば、アルミニウムによって構成されている。
【0073】
二つの気化器42は、上下方向と交差する方向である前後方向に間隔を空けてケース41に配置されている。各気化器42は、二つの板45,46を有する。したがって、二つの板45,46の組47が二つ設けられており、これらの組47は、前後方向に間隔を空けてケース41に配置されている。なお、組47の数は、上記に限定されない。例えば、組47は、一つであってもよいし、三つ以上であってもよい。
【0074】
二つの板45,46は、滅菌室11aにおいて棚23の下側に配置されている。板45,46は、平板状である。二つの板45,46は、いずれも上下方向と直交する方向に延びて、上下方向に間隔を空けて互いに平行に設けられている。
【0075】
二つの板45,46は、平行平板とも称される。板46は、板45の下側に配置されている。また、気化器42には、供給口と出口とが設けられている。供給口は、板46の略中央部に設けられている。供給口には、分配器35から液体状の滅菌剤が供給される。供給口は、液体状の滅菌剤を二つの板45,46の間の隙間に供給する。隙間は、滅菌剤の流路(通路)である。
【0076】
出口は、二つの板45,46の間の隙間における二つの板45,46の外部に開放された外縁部によって構成されている。出口から、二つの板45,46の間の滅菌剤が二つの板45,46の間の隙間の外に流出する。
【0077】
内側ヒータ43は、滅菌室11aにおいて棚23の下側に配置されている。内側ヒータ43は、二つの組47のそれぞれの二つの板45,46の周囲に設けられている。例えば、内側ヒータ43は、折り曲げ加工された一つのシーズヒータである。
【0078】
制御装置3は、滅菌装置1の動作を統括的に制御する。以下、図3を用いて、制御装置3について説明する。図3は、実施形態の滅菌装置1の構成の一例を示すブロック図である。図3に示すように、制御装置3には、外側ヒータ25、液相ポンプ32、濃度分離槽33、電磁弁34a、34b、内側ヒータ43、真空ポンプ37、電磁弁38、真空ゲージ39、温度センサ48等が接続されている。
【0079】
制御装置3は、CPU(Central Processing Unit)、ROM(Read Only Memory)、およびRAM(Random Access Memory)を有する。すなわち、制御装置3は、コンピュータである。CPUは、ROM等に記憶されたプログラムを読み出して実行する。RAMは、CPUがプログラムを実行して種々の演算処理を実行する際に用いられる各種データを一時的に記憶する。
【0080】
制御装置3は、操作部13に対する開始操作の有無に関わらず滅菌庫11を加熱するよう外側ヒータ25を制御する。詳細には、制御装置3は、滅菌装置1に電源が投入されている間は、外側ヒータ25に加熱をさせる。制御装置3は、温度センサ48の検出結果に基づいて、滅菌庫11内の中心すなわち滅菌室11a内の温度が規定の目標温度となるように、外側ヒータ25を制御する。
【0081】
庫内設定温度は、例えば、40℃~65℃であってもよいし、45℃~60℃であってもよいし、65℃以上であってもよいし、これら以外であってもよい。なお、温度センサ48が測定する箇所は、内側ヒータ43が発する熱の影響を受けにくい箇所であることが好ましい。
【0082】
ところで、従来の蒸気化した過酸化水素を用いる滅菌手法では、被滅菌物の内腔深部の滅菌力を向上させるために過酸化水素濃度を98%程度に濃縮することでことが行われているが、従来手法では、高濃度の過酸化水素が被滅菌物にダメージを与える可能性があることが知られている。図11は、実施形態とは異なる滅菌装置が実行する滅菌動作での滅菌室内の圧力の変化の一例を示す図である。
【0083】
図11の滅菌パルスP31は、実施形態とは異なる滅菌装置の滅菌室内の圧力変化の一例を表している。まず、滅菌装置が滅菌室の空間を減圧すること(以下、真空引きともいう)により、滅菌室内の圧力が低下していく(C31)。滅菌室の圧力が規定の値にまで低下した後、滅菌装置は、滅菌剤(98%程度に濃縮した過酸化水素水溶液)を投入する。これにより、滅菌室内の圧力が上昇していく(C32)。
【0084】
滅菌剤の投入後、滅菌装置は、滅菌室内の圧力を滅菌剤の投入が終了した時点における圧力に保った状態で所定時間T31の間待機する(C33)。所定時間T31は、例えば、約1分半程度である。待機時間経過後、滅菌装置は、滅菌室内の圧力を大気圧に戻す(C34)。
【0085】
滅菌室内の圧力が大気圧に戻った後、滅菌装置は、滅菌室内の圧力を大気圧に保った状態で所定時間T32の間待機する(C35)。所定時間T32は、例えば、約3分である。待機期間経過後、滅菌装置は、次の真空引きを開始する。
【0086】
滅菌室内の被滅菌物の表面には、滅菌剤の投入後から真空引きにより滅菌室内の圧力が蒸気圧を下回るまでの時間T33の間、高濃度の過酸化水素が付着した状態になる。例えば、時間T33は、約5分である。
【0087】
このため、被滅菌物が酸化により劣化する素材で形成されている場合、表面が高濃度の過酸化水素に約5分もの間、曝されることになり、被滅菌物が破損してしまう可能性がある。また、被滅菌物自体は酸化の影響を受け難い素材で形成されていても、管理のためのラベル等が貼られている場合、ラベルが剥がれてしまったり、ラベルに記載された文字が剥がれてしまったりする可能性もある。
【0088】
したがって、従来の技術では、滅菌装置のユーザが、被滅菌物が酸化の影響を受けるか否かを確認した上で滅菌処理を行うことが求められている。
【0089】
これに対し、制御装置3は、滅菌装置1の各部の動作を制御して下記の滅菌処理を行う。以下の動作の説明の前提として、外側ヒータ25が動作しており、外側ヒータ25が滅菌室11aを滅菌室11aの外側から加熱しているものとする。また、滅菌剤は、60%過酸化水素水溶液であるものとする。
【0090】
図4は、実施形態に係る滅菌装置1が実行する滅菌動作での滅菌室11a内の圧力の変化の一例を示す図である。図4の滅菌パルスP1は、滅菌装置1の滅菌室11a内の圧力変化の一例を表している。
【0091】
まず、制御装置3は、操作部13が開始操作を受け付けた場合に、液相ポンプ32を制御して、カートリッジ31内の滅菌剤を濃度分離槽33a、33bに供給する。制御装置3は、濃度分離槽33a、33bの各部の動作を制御して上述の濃度分離処理を開始する。
【0092】
また、制御装置3は、電磁弁34a、34bを閉じた状態で、真空ポンプ37によって滅菌室11aおよび滅菌室11aから電磁弁34までの間の流体回路中の流路(空間)の圧力を減圧(真空引き)する(C1)。これにより、滅菌室11aの圧力は低下していく。
【0093】
滅菌室11aの圧力が規定の圧力まで下がると、制御装置3は、電磁弁34aを開く(C2)。本実施形態では、濃度分離槽33a、33bによる濃度分離処理の開始から滅菌室11aの圧力が規定の圧力にまで下がる時間は、3分である。この場合、濃縮剤の過酸化水素濃度は、約80%程度、希薄剤の過酸化水素濃度は、約20%程度になる。
【0094】
なお、濃度分離槽33の濃度分離室331では、時間をかけるほど滅菌剤の濃縮が進むことになる。このため、制御装置3は、濃縮剤を投入するまでのタイミングを制御することで、濃縮剤の過酸化水素濃度の調整を行ってもよい。この場合、濃縮剤の過酸化水素濃度が高くなるほど、希薄剤の過酸化水素濃度は低くなる。
【0095】
また、濃度分離槽33aで得られた濃縮剤、濃度分離槽33bで得られた希薄剤、又は、両者を混合した濃縮剤を任意のタイミングで選択的に投入することで、滅菌室11aに供給する濃縮剤の過酸化水素濃度の調整を行ってもよい。なお、希薄剤についても、同様に、過酸化水素濃度の調整が可能である。また、上記のように、過酸化水素濃度を調整する場合に、濃縮剤と希薄剤とを混合して過酸化水素濃度を調整してもよい。
【0096】
電磁弁34aが開放されたことにより、濃度分離槽33aから送出された濃縮剤が、滅菌室11aに向かって進んでいく。濃縮剤は、分配器35により分配され、各加熱・気化ユニット36に流入する。
【0097】
濃縮剤は、各加熱・気化ユニット36において、供給口から二つの板45,46の間に進み、二つの板45,46の間で内側ヒータ43によって加熱される。これにより、濃縮剤は、二つの板45,46の間を熱膨張しながら、真空に引かれて、同心円状に拡散し、二つの板45,46との接触面積が瞬時に増大する。
【0098】
このとき、内側ヒータ43は、濃縮剤を加熱することにより濃縮剤の気化を促進している。これにより、濃縮剤が二つの板45,46の間で瞬時に飽和水蒸気圧まで蒸発する。すなわち、濃縮剤が、二つの板45,46の間で気化する。よって、過酸化水素水溶液中の水分子の気化と過酸化水素分子の気化とに時間差が生じるのが抑制される。
【0099】
気体状の濃縮剤は、二つの板45,46の出口から二つの板45,46の外側の滅菌室11aに流出する。滅菌室11aに入った気体状の濃縮剤は、上方に流れて、棚23に載置された被滅菌物100に接触する。これにより、被滅菌物100が滅菌される。このように、棚23の直下の気化器42で濃縮剤が気化して、気化した濃縮剤が棚23上の被滅菌物100に到達する。よって、気化器42で気化した濃縮剤が比較的短時間及び短距離で被滅菌物100に到達することができる。
【0100】
制御装置3は、上述したように、電磁弁34aを開放して気化した濃縮剤を滅菌室11a内で拡散させる。その後、滅菌室11a内の圧力が規定の圧力まで上昇すると、制御装置3は、当該圧力を保った状態で所定時間T1の間待機する(C3)。例えば、所定時間T1は、約30秒~60秒である。
【0101】
所定時間T1の経過後、制御装置3は、電磁弁34bを開く(C4)。これにより、濃縮剤の場合と同様に、希薄剤が滅菌室11a内で拡散し、滅菌室11a内の圧力が上昇する。電磁弁34bを開放して気化した希薄剤を拡散させ、滅菌室11a内の圧力が規定の圧力まで上昇すると、当該圧力を保った状態で所定時間T2の間待機する(C5)。例えば、所定時間T2は、所定時間T1よりも短い時間で約15秒~30秒である。
【0102】
ここで、過酸化水素は親水性が高いことが知られている。したがって、滅菌室11a内に投入された希薄剤の主成分である水により、先行して滅菌室11a内に投入された濃縮剤の主成分である過酸化水素が希釈されることになる。このとき、滅菌室11a内に存在する過酸化水素の濃度は60%程度まで低下する。これにより、滅菌剤が与える被滅菌物100へのダメージを軽減することができる。
【0103】
また、例えば、被滅菌物100が内視鏡である場合、希薄剤を滅菌室11a内に拡散させることによって生じる圧力は、先に投入された気化した濃縮剤を内視鏡の内腔へと押し込む働きをする。このため、後から希薄剤を滅菌室11a内に投入することで滅菌効率を高めることもできる。
【0104】
所定時間T2の経過後、制御装置3は、電磁弁38を開く(C6)。これにより、滅菌室11a内の圧力が大気圧に戻される。滅菌室11a内の圧力が大気圧に戻った後、制御装置3は、滅菌室11a内の圧力を大気圧に保った状態で所定時間T3の間待機する(C
7)。例えば、所定時間T3は、約3分である。所定時間T3後、制御装置3は、再び真空引きを行う。
【0105】
なお、上記の処理は、所定回数繰り返されてもよい。図5は、実施形態に係る滅菌装置1が実行する滅菌動作での滅菌室11a内の圧力の変化の一例を示す図である。図5の例では、制御装置3は、上記の処理を4回繰り返し、滅菌パルスP1~P4を形成している。なお、上記処理の繰り返し回数は4回に限定されない。例えば、被滅菌物100の種類や大きさ等に応じて、繰り返し回数を定めてもよい。
【0106】
次に、滅菌装置1の制御装置が実行する処理の流れについて説明する。図6は、実施形態に係る滅菌装置1が実行する処理の一例を示すフローチャートである。以下の説明の前提として、滅菌剤は、60%過酸化水素水溶液であるものとする。
【0107】
まず、制御装置3は、濃度分離処理を行って、滅菌剤を濃縮剤と希薄剤とに分離する(ステップS101)。例えば、制御装置3は、液相ポンプ32の動作を制御して、カートリッジ31から滅菌剤を濃度分離槽33a、33bに供給する。制御装置3は、濃度分離槽33a、33bの各部の動作を制御して、供給された滅菌剤の濃度分離処理を行う。
【0108】
次いで、制御装置3は、滅菌室11aの真空引きを行う(ステップS102)。例えば、制御装置3は、真空ポンプ37の動作を制御して、滅菌室11a内が規定の圧力になるまで減圧を行う。次いで、制御装置3は、滅菌室11aに濃縮剤を投入する(ステップS103)。例えば、制御装置3は、電磁弁34aを開放し、濃度分離処理により生じた濃縮剤を滅菌室11aに拡散させる。
【0109】
次いで、制御装置3は、所定時間待機する(ステップS104)。例えば、制御装置3は、電磁弁34aの開放後、滅菌室11a内の圧力が規定の値になったら、滅菌室11a内の圧力を保った状態で所定時間待機する。次いで、制御装置3は、滅菌室11aに希薄剤を投入する(ステップS105)。例えば、制御装置3は、電磁弁34bを開放し、濃度分離処理により生じた希薄剤を滅菌室11aに拡散させる。
【0110】
次いで、制御装置3は、所定時間待機する(ステップS106)。例えば、制御装置3は、電磁弁34bの開放後、滅菌室11a内の圧力が規定の値になったら、滅菌室11a内の圧力を保った状態で所定時間待機する。次いで、制御装置3は、滅菌室11a内に大気圧を導入する(ステップS107)。例えば、制御装置3は、電磁弁38を開放し、滅菌室11a内の圧力を大気圧に戻す。
【0111】
次いで、制御装置3は、所定時間待機する(ステップS108)。例えば、制御装置3は、滅菌室11a内の圧力が大気圧の値になったら、滅菌室11a内の圧力を大気圧の値に保った状態で所定時間待機する。
【0112】
次いで、制御装置3は、規定回数(例えば、4回)の滅菌パルスを生成したか否かを判定する(ステップS109)。滅菌パルスの生成回数が規定回数に達していない場合(ステップS109:No)、ステップS101の処理に戻る。一方、滅菌パルスの生成回数が規定回数に達している場合(ステップS109:Yes)、本処理を終了する。
【0113】
以上、説明したように、本実施形態に係る滅菌装置1は、濃縮剤を滅菌室に供給し、滅菌剤が滅菌室に供給されてから所定時間経過後に、濃縮剤を中和する成分として、希薄剤を滅菌室11aに供給する。
【0114】
このような構成によれば、濃縮された滅菌剤である濃縮剤を滅菌室11a内に投入することで、滅菌力を向上させることができる。また、濃縮剤の投入から所定時間経過後に希薄な滅菌剤である希薄剤を滅菌室11a内に投入することで、滅菌が完了した後に、滅菌室11a内の濃縮剤の濃度を低下させることができる。これにより、滅菌が完了した後も被滅菌物が高濃度の滅菌剤に曝されてしまうことを抑止できる。つまり、本実施形態に係る滅菌装置1によれば、滅菌を行うことによって生じる被滅菌物へのダメージを低減させることができる。
【0115】
なお、上述した実施形態は、滅菌装置1が有する各装置の構成又は機能の一部を変更することで、適宜に変形して実施することも可能である。そこで、以下では、上述した実施形態に係るいくつかの変形例を他の実施形態として説明する。なお、以下では、上述した実施形態と異なる点を主に説明することとし、既に説明した内容と共通する点については詳細な説明を省略する。また、以下で説明する変形例は、個別に実施されてもよいし、適宜組み合わせて実施されてもよい。
【0116】
(変形例1)
上述した実施形態では、先に濃縮剤を投入した後に希薄剤を投入する滅菌パルスを4回繰り返す形態について説明した。本変形例では、始めの2パルスは、先に希薄剤を投入した後に濃縮剤を投入し、後の2パルスでは先に濃縮剤を投入した後に希薄剤を投入する形態について説明する。
【0117】
図7は、変形例1に係る滅菌装置1が実行する滅菌動作での滅菌室11a内の圧力の変化の一例を示す図である。図7では、滅菌パルスP11~P14を示す。滅菌パルスP11と滅菌パルスP12とは同一のパルスである。また、滅菌パルスP13と滅菌パルスP14とは同一のパルスである。滅菌パルスP13及び滅菌パルスP14は、図4、5の滅菌パルスP1~P4と同様のパルスであるため、説明は省略する。
【0118】
以下、滅菌パルスP11、P12について説明する。まず、図4,5の滅菌パルスP1のC1と同様に真空引きを行う(C11)。本変形例の制御装置3は、真空引きの後、電磁弁34bを開く(C12)。これにより、上述の実施形態で真空引き後に濃縮剤を投入した場合と同様に、希薄剤が滅菌室11a内で拡散し、滅菌室11a内の圧力が上昇する。
【0119】
制御装置3は、電磁弁34bを開放して気化した希薄剤を拡散させ、滅菌室11a内の圧力が規定の圧力まで上昇すると、当該圧力を保った状態で所定時間T11の間待機する(C13)。例えば、所定時間T11は、約30秒~60秒である。
【0120】
所定時間T11の経過後、制御装置3は、電磁弁34aを開く(C14)。これにより、希薄剤の場合と同様に、濃縮剤が滅菌室11a内で拡散し、滅菌室11a内の圧力が上昇する。制御装置3は、電磁弁34aを開放して気化した濃縮剤を拡散させ、滅菌室11a内の圧力が規定の圧力まで上昇すると、当該圧力を保った状態で所定時間T12の間待機する(C15)。例えば、所定時間T12は、約15秒~30秒である。
【0121】
所定時間T12の経過後、制御装置3は、電磁弁38を開く(C16)。これにより、滅菌室11a内の圧力が大気圧に戻される。滅菌室11a内の圧力が大気圧に戻った後、制御装置3は、滅菌室11a内の圧力を大気圧に保った状態で所定時間T13の間待機する。例えば、所定時間T13は、約3分である。
【0122】
所定時間T13経過後、制御装置3は、再び真空引き(P12のC11)を行う。その後、制御装置3は、上記と同様の制御を行って滅菌パルスP12を形成する。また、本変形例では、制御装置3は、滅菌パルスP12のC16の後、図4、5の滅菌パルスP1~P4と同様の滅菌パルスである滅菌パルスP13、P14を形成する制御を行う。
【0123】
なお、本変形例では、滅菌パルスP11、P12で希薄剤の投入後に濃縮剤を投入しているが、滅菌パルスP11、P12では濃縮剤を投入せずに廃棄してもよい。また、滅菌パルスP11、P12では、得られた濃縮剤をプールしておき、滅菌パルスP13、P14では、滅菌パルスP11、P12でプールしておいた濃縮剤と、滅菌パルスP13、P14時に得られた濃縮剤とを混合して投入してもよい。
【0124】
ここで、例えば、被滅菌物が内視鏡である場合、内腔深部を滅菌するために滅菌剤として高濃度の過酸化水素が用いられる。また、例えば、被滅菌物である内視鏡の温度が十分に上昇していない場合、気化した過酸化水素分子が凝結現象を起こし、液状になってしまうため、内視鏡の内腔深部には気化した過酸化水素分子が到達しない可能性があることが知られている。一方、被滅菌物の表面を滅菌するのであれば、比較的低濃度の過酸化水素でも滅菌可能であることも知られている。
【0125】
本変形例では、上述のように、被滅菌物の加温が十分でない始めの2回(滅菌パルスP11、P12)は、希薄剤、濃縮剤の順で投入を行い、後の2回(滅菌パルスP13、P14)では、濃縮剤、希薄剤の順で投入を行う。
【0126】
これにより、被滅菌物の加温が十分でない可能性がある初期の段階では、先に希薄剤が投入されているため、後から濃縮剤が投入されても、先に投入された希薄剤により、濃縮剤は中和される。つまり、本変形例によれば、被滅菌物の加温が十分でない可能性がある初期の段階において、滅菌物が濃縮剤に曝される時間をなるべく短くすることができる。
【0127】
また、被滅菌物の温度が上昇した段階では、先に投入された濃縮剤が気化した状態で、被滅菌物の内腔に到達する。このため、本変形例によれば、被滅菌物の温度が上昇した段階では、滅菌効率を向上させることができる。
【0128】
(変形例2)
上述の変形例2では、始めの2パルスでは、濃縮剤の投入後に所定時間待機し、その後に大気を導入し、後の2パルスでは、希薄剤の投入後に所定時間待機する形態について説明した。本変形例では、始めの2パルスでは、濃縮剤の投入後、すぐに大気を導入し、後の2パルスでは、希薄剤の投入後、すぐに大気を導入する形態について説明する。
【0129】
図8は、変形例2に係る滅菌装置1が実行する滅菌動作での滅菌室11a内の圧力の変化の一例を示す図である。図8では、滅菌パルスP21~P24を示す。滅菌パルスP21と滅菌パルスP22とは同じ滅菌パルスである。また、滅菌パルスP23と滅菌パルスP24とは同じ滅菌パルスである。
【0130】
まず、滅菌パルスP21、P22について説明する。まず、図7の滅菌パルスP11のC11と同様に真空引きを行う(C21)。本変形例の制御装置3は、真空引きの後、電磁弁34bを開く(C22)。これにより、上述の変形例1と同様に、希薄剤が滅菌室11a内で拡散し、滅菌室11a内の圧力が上昇する。
【0131】
制御装置3は、電磁弁34bを開放して気化した希薄剤を拡散させ、滅菌室11a内の圧力が規定の圧力まで上昇すると、当該圧力を保った状態で所定時間T21の間待機する(C23)。例えば、所定時間T21は、約30秒~60秒である。
【0132】
所定時間T21の経過後、制御装置3は、電磁弁34aを開く(C24)。これにより、希薄剤の場合と同様に、濃縮剤が滅菌室11a内で拡散し、滅菌室11a内の圧力が上昇する。電磁弁34aを開放して気化した濃縮剤を拡散させる。
【0133】
滅菌室11a内の圧力が規定の圧力まで上昇すると、制御装置3は、電磁弁38を開く(C25)。これにより、滅菌室11a内の圧力が大気圧に戻される。滅菌室11a内の圧力が大気圧に戻った後、制御装置3は、滅菌室11a内の圧力を大気圧に保った状態で所定時間T22の間待機する。例えば、所定時間T22は、約3分である。
【0134】
所定時間T22経過後、制御装置3は、再び真空引き(P22のC21)を行う。その後、制御装置3は、上記と同様の制御を行って滅菌パルスP22を形成する。
【0135】
次に、滅菌パルスP23、P24について説明する。まず、滅菌パルスP21、P22と同様に真空引きを行う(C21)。制御装置3は、真空引きの後、電磁弁34aを開く(C24)。これにより、上述の変形例1と同様に、濃縮剤が滅菌室11a内で拡散し、滅菌室11a内の圧力が上昇する。
【0136】
制御装置3は、電磁弁34aを開放して気化した濃縮剤を拡散させ、滅菌室11a内の圧力が規定の圧力まで上昇すると、当該圧力を保った状態で所定時間T21の間待機する(C23)。所定時間T21の経過後、制御装置3は、電磁弁38を開く(C27)。これにより、滅菌室11a内に大気が導入され、滅菌室11a内の圧力が上昇していく。
【0137】
制御装置3は、滅菌室11a内の圧力が規定の圧力まで上昇すると、一旦、電磁弁38を閉状態にし、当該圧力を保った状態で所定時間T23の間待機する(C28)。所定時間T23経過後、制御装置3は、電磁弁34bを開く(C22)。これにより、濃縮剤の場合と同様に、希薄剤が滅菌室11a内で拡散し、滅菌室11a内の圧力が上昇する。電磁弁34bを開放して気化した希薄剤を拡散させる。
【0138】
滅菌室11a内の圧力が規定の圧力まで上昇すると、制御装置3は、電磁弁38を開く(C25)。これにより、滅菌室11a内の圧力が大気圧に戻る。滅菌室11a内の圧力が大気圧に戻った後、制御装置3は、滅菌室11a内の圧力を大気圧に保った状態で所定時間T22の間待機する。
【0139】
所定時間T23経過後、制御装置3は、再び真空引き(P24のC21)を行う。その後、制御装置3は、上記と同様の制御を行って滅菌パルスP24を形成する。
【0140】
なお、本変形例では、制御装置3は、始めの2パルスと後の2パルスとで異なる滅菌パルスを形成する制御を行っているが、滅菌パルスを形成する制御はこれに限定されない。例えば、制御装置3は、滅菌パルスP23と同様の滅菌パルスを形成する制御を4回繰り返してもよい。
【0141】
上述のように、本変形例では、始めの2パルスでは希薄剤、濃縮剤の順で投入を行い、濃縮剤の投入後、定圧待機せずに滅菌室11a内への大気の導入を行う。また、後の2パルスでは濃縮剤、希薄剤の順で投入を行い、希薄剤の投入前に1回目の滅菌室11a内への大気の導入を行って、滅菌室11a内の圧力が規定の圧力まで上昇した後、定圧待機してから希薄剤を投入し、定圧待機せずに2回目の滅菌室11a内への大気の導入を行う。
【0142】
このように、始めの2パルスでは、濃縮剤の投入後に定圧待機せずに滅菌室11a内へ大気の導入を行うことで、滅菌室11a内での濃縮剤の拡散が促進され、先に投入された希薄剤と濃縮剤とが反応しやすくなり、濃縮剤の中和を効率的に行うことができる。また、後の2パルスでは、先に濃縮剤を投入し、定圧待機の後、1回目の滅菌室11a内への大気の導入を行うことで、滅菌室11a内での濃縮剤の拡散が促進され、被滅菌物の滅菌効率を向上させることができる。さらに、希薄剤の投入後、定圧待機せずに滅菌室11a内に大気の導入を行うことで、滅菌室11a内での希薄剤の拡散が促進され、先に投入された濃縮剤と希薄剤とが反応しやすくなり、濃縮剤の中和を効率的に行うことができる。
【0143】
(変形例3)
上述の実施形態及び変形例では、濃縮剤と希薄剤との気化を、気化器42の平行平板45、46のみで行う形態について説明した。本変形例では、濃縮剤の気化を平行平板45、46のみで行い、希薄剤の気化を別途設けられた過加熱炉を利用して行う形態について説明する。
【0144】
図9は、変形例3に係る滅菌装置1の構成の一例を示す図である。変形例3に係る滅菌装置1の構成は、図1の滅菌装置1の構成と略同様であるが、過加熱炉49を備える点で図1と異なる。また、本変形例では、図9に示すように、電磁弁34bと過加熱炉49とは、分配器35を介さずに接続されている。
【0145】
以下、過加熱炉49の構成について説明する。図10は変形例3に係る過加熱炉49の構成の一例を示す図である。図10に示すように、過加熱炉49は、上流側搬送パイプ491、下流側搬送パイプ492、導入弁493、送出弁494、過加熱槽495、及びヒータ496を備える。
【0146】
上流側搬送パイプ491は、濃度分離槽33側に設けられるパイプである。電磁弁34bが開放されると、上流側搬送パイプ491の中を希薄剤が流れていき、過加熱炉49内へ希薄剤が導入される。下流側搬送パイプ492は、滅菌室11a側に設けられるパイプである。過加熱炉49で気化された希薄剤は、下流側搬送パイプ492を通過して、滅菌室11a内へ導入される。
【0147】
導入弁493は、上流側搬送パイプ491と過加熱槽495との間に設けられる。例えば、導入弁493は、電磁弁である。導入弁493を開放することで、希薄剤が過加熱槽495へと導入される。送出弁494は、過加熱槽495と下流側搬送パイプ492との間に設けられる。例えば、送出弁494は、電磁弁である。送出弁494を開放することで、過加熱槽495により過加熱状態となった希薄剤が滅菌室11a内に供給される。
【0148】
過加熱槽495は、槽内に導入された液体を加熱し、当該液体に、液体として最も高いエネルギーを与える。ヒータ496は、過加熱槽495を加熱する。ヒータ496は、過加熱槽495の周囲に設けられる。ヒータ496としては、既知のヒータを適宜用いることができる。
【0149】
ここで、液体に液体として最も高いエネルギーを与えることは、液体を過加熱状態とすると言い換えることができる。また、過加熱状態とは、熱されて沸点まで達しても核形成部位(気泡が形成されるのに必要な界面)がないために沸騰できない状態のことをいう。
【0150】
一般的に過加熱状態は、気泡が必要とする界面を与えない場合に発生すると考えられているが、本明細書では、密閉空間で沸騰できない環境を整えた後、密閉の一端を開放することで気化を促すことを過加熱というものとする。
【0151】
以下、過加熱炉49の動作について説明する。制御装置3は、導入弁493を閉鎖状態、送出弁494を開放状態にする。制御装置3は、真空ポンプ37等を利用して、過加熱槽495内を真空状態にする。過加熱槽495内を真空状態になった後、制御装置3は、導入弁493を開放状態、送出弁494を閉鎖状態にする。これにより、真空圧によって、希薄剤が過加熱槽495内に導入される。
【0152】
制御装置3は、希薄剤の過加熱槽495内への導入後、導入弁493を閉鎖状態にする。制御装置3は、ヒータ496の動作を制御して、過加熱槽495内の希薄剤を加熱する。制御装置3は、所定時間の間、希薄剤の加熱を行って、希薄剤を過加熱状態にする。
【0153】
制御装置3は、この状態で送出弁494を開放状態にする。これにより、過加熱状態の液体の希薄剤が滅菌室11a内に導入され、滅菌室11a内に拡散する。滅菌室11a内で拡散した希薄剤は、気化器42の平行平板45、46で気化される。
【0154】
ところで、平行平板を用いて短時間に連続して液体の気化を行うと、気化の終了時に平行平板が温度降下を起こすため、気化効率が低下してしまうことが知られている。また、液体が気化することにより、滅菌室内の真空度も低下するため、真空蒸発も起こり難くなり、この点でも気化効率が低下してしまう。
【0155】
上述のように、本変形例では、希薄剤を過加熱状態にして気化を行うため、平行平板45、46の温度降下を抑制することができる。このため、本変形例によれば、短時間で連続して滅菌剤の気化を行っても、気化効率の低下を抑制することが可能である。
【0156】
また、平行平板を用いて液体の気化を行うメリットの一つとして、質量の異なる分子を同時に気化させる点が挙げられる。しかしながら、希薄剤の主成分は水であり、本変形例において、希薄剤を投入する主な目的は濃縮剤を中和することにある。したがって、希薄剤については、各分子を同時に気化させることは求められない。このため、希薄剤を過加熱状態にして気化を行った場合には、各分子を同時に均等に気化できない可能性があるが、この点がデメリットになることもない。
【0157】
以上説明した少なくとも1つの実施形態によれば、滅菌を行うことによって生じる被滅菌物へのダメージを低減させることができる。
【0158】
発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0159】
1…滅菌装置、3…制御装置、11…滅菌庫、11a…滅菌室、33a、33b…濃度分離槽、331…濃度分離室、331a…壁、331b…気化皿、332…回収室、332a…回収皿、333a…第1ヒータ、333b…第2ヒータ、333c…リード線、334…冷却素子、335…連通部、336…滅菌剤導入管、337…濃縮剤送出管、338…希薄剤送出管、100…被滅菌物。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11