(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025040254
(43)【公開日】2025-03-24
(54)【発明の名称】モータ制御装置
(51)【国際特許分類】
H02P 23/06 20160101AFI20250314BHJP
H02M 7/48 20070101ALI20250314BHJP
H02P 27/06 20060101ALI20250314BHJP
【FI】
H02P23/06
H02M7/48 E
H02P27/06
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023147060
(22)【出願日】2023-09-11
(71)【出願人】
【識別番号】000180025
【氏名又は名称】山洋電気株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001416
【氏名又は名称】弁理士法人信栄事務所
(72)【発明者】
【氏名】井出 勇治
(72)【発明者】
【氏名】北原 通生
(72)【発明者】
【氏名】平出 敏雄
【テーマコード(参考)】
5H505
5H770
【Fターム(参考)】
5H505CC05
5H505EE48
5H505HA03
5H505HA05
5H505HB01
5H505JJ04
5H505JJ28
5H505LL22
5H505LL24
5H505LL28
5H770BA01
5H770CA02
5H770DA03
5H770DA10
5H770DA41
5H770EA11
5H770HA02Z
5H770HA03W
5H770HA05Z
5H770KA03Z
(57)【要約】
【課題】120度通電方式の電源回生コンバータにおいて電源電流からコンバータの直流電流を高精度に推定する機能、及び、高精度な瞬時電力や電力量のモニタリング機能を備えたモータ制御装置を提供する。
【解決手段】モータ制御装置は、多相電源からの交流電力を直流電力に変換するコンバータ回路と、前記直流電力をモータ駆動用の交流電力に変換するインバータ回路と、前記多相電源と前記コンバータ回路の間を流れる交流電流を検出する電流検出部と、前記コンバータ回路の直流電流を推定する直流電流推定部と、を備える。前記直流電流推定部は、前記交流電流の各相の正方向の電流のみ、または、負方向の電流のみを加算して力行電流を算出する力行電流算出部を有する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
モータ制御装置であって、
多相電源からの交流電力を直流電力に変換するコンバータ回路と、
前記直流電力をモータ駆動用の交流電力に変換するインバータ回路と、
前記多相電源と前記コンバータ回路の間を流れる交流電流を検出する電流検出部と、
前記コンバータ回路の直流電流を推定する直流電流推定部と、
を備え、
前記直流電流推定部は、前記交流電流の各相の正方向の電流のみ、または、負方向の電流のみを加算して力行電流を算出する力行電流算出部を有することを特徴とする、モータ制御装置。
【請求項2】
前記コンバータ回路は、前記インバータ回路からの回生直流電力を回生交流電力に変換して前記多相電源に回生する電源回生機能を備え、
前記直流電流推定部は、
回生電流を算出する回生電流算出部と、
電流選択部と、
を有し、
前記電流選択部は、前記回生電流の極性に基づいて、前記回生電流と前記力行電流を選択する、請求項1に記載のモータ制御装置。
【請求項3】
前記回生電流算出部は、前記交流電力の各相のうち電圧が高い位相を検出し、検出された前記位相に基づいて前記交流電流のいずれかの相の電流を選択して前記回生電流を算出する、請求項2に記載のモータ制御装置。
【請求項4】
前記モータ制御装置は、
瞬時電力算出部と、
をさらに備え、
前記瞬時電力算出部は、前記直流電流推定部によって推定された直流電流推定値に、前記コンバータ回路の直流電圧を乗算して瞬時電力を算出する、請求項1に記載のモータ制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、モータ制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
電源回生機能付きモータ制御装置は、コンバータと平滑コンデンサとインバータから構成される。モータの力行運転を行う場合は、コンバータにより交流電力を直流電力に変換し、インバータにより直流電力を交流電力に変換し、モータを駆動する。モータの回生運転を行う場合は、モータが発電する交流電力をインバータにより直流電力に変換し、コンバータにより直流電力を交流電力に変換し、電源に回生する。
【0003】
電源回生用のコンバータには、コスト面から120°通電方式の電源回生が多く採用されている。120°通電方式の電源回生では、モータが発電する交流電力がインバータを通して直流部に変換されると、直流部の電圧が上昇する。直流部の電圧が電源電圧の全波整流電圧の波高値より所定電圧だけ高くなると、電源回生を動作させる。具体的には、電源電圧の各相の電圧の高い120°区間において、各相のコンバータのスイッチをONさせ、スイッチONの区間で、主回路直流電圧をACリアクトルに印加し、電源に電流を回生する。
【0004】
このような電源回生機能付きモータ制御装置では、電源回生の制御や電力のモニタリングのためにコンバータの直流部の電流を算出する。例えば特許文献1には、商用電源側の位相情報に基づいてコンバータのスイッチング制御用のゲート信号を生成し、電源電流とゲート信号により直流電流を推定して、直流電流推定値と直流電圧に基づいて力行運転か回生運転かの運転状態の判定を行う電源回生コンバータが開示されている。また、例えば特許文献2には、交流電圧の位相を検出し、検出した位相から特定の相の交流電流を選択して直流電流に変換し、変換した直流電流を平均化して所定の係数を乗算し、直流電圧と掛け合わせて電力を演算し、時間で積分して積算電力を演算するモータ制御装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2004-180393
【特許文献2】特開2013-123341
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に開示されている電源回生コンバータは、スイッチング制御用のゲート信号を用いてコンバータの直流電流を推定する。このため、回生運転時には直流電流を推定できるが、力行運転時にはゲート信号が停止してしまい、直流電流を推定できないという課題がある。
【0007】
また、特許文献2のモータ制御装置は、交流電圧の位相を基に特定の相の交流電流を選択し、コンバータの直流電流を推定する。ゲート信号でなく交流電圧の位相を基にしているため、回生運転時だけでなく力行運転時も直流電流を推定できる。120°通電方式の電源回生では、電源電圧の各相の電圧の高い120°区間毎に2相を選択し、ゲートを駆動して電源回生する。このため、回生運転時において、ゲートを駆動して電流が流れている2相のうち1相の交流電流を選択することで、精度よく直流電流を推定できる。しかしながら、力行運転時は、コンバータを構成する半導体スイッチに設けられているダイオードによって三相全波整流が行われるため、電流を三相に流すことができる。実際に、力行運転時において、交流電流はACリアクトルの影響で120°区間を超えて流れ、120°を超えた区間では3相の電流が同時に流れる。このため、回生運転時と同じ交流電圧の位相を基に、交流電流を選択して直流電流を推定する方法では、力行運転時に高精度に直流電流を推定できないという課題がある。
【0008】
図5は、特許文献2のモータ制御装置における、力行運転時の交流電流と、電流選択信号を基に電流を選択した電流選択出力を示す図である。
図5に示すように、電流選択信号が切り替わった直後に電流選択出力が0まで低下している。特許文献2のモータ制御装置では、電流選択出力の低下分に対し、所定の係数を乗算する補正を行っている。しかしながら、電源インピーダンスや電源電圧の高調波等により交流電流の波形が異なると、同じ係数では正しく直流電流を推定できないという課題がある。また、直流電流を平均化して電力を算出しているため、平均電力しか算出できず、瞬時電力を算出できないという課題もある。
【0009】
そこで、本発明は、120度通電方式の電源回生コンバータにおいて電源電流からコンバータの直流電流を高精度に推定する機能、及び、高精度な瞬時電力や電力量のモニタリング機能を備えたモータ制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の一側面に係るモータ制御装置は、
多相電源からの交流電力を直流電力に変換するコンバータ回路と、
前記直流電力をモータ駆動用の交流電力に変換するインバータ回路と、
前記多相電源と前記コンバータ回路の間を流れる交流電流を検出する電流検出部と、
前記コンバータ回路の直流電流を推定する直流電流推定部と、
を備え、
前記直流電流推定部は、前記交流電流の各相の正方向の電流のみ、または、負方向の電流のみを加算して力行電流を算出する力行電流算出部を有する。
【発明の効果】
【0011】
三相全波整流を模擬した演算を行うことによりコンバータの直流電流を高精度に推定できるモータ制御装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本発明の第一実施形態に係るモータ制御装置のブロック図である。
【
図2】本発明の第一実施形態において、交流電流、電流選択信号、及び、電流選択信号を基に電流を選択した電源電流を示す図である。
【
図4】本発明の第二実施形態に係るモータ制御装置のブロック図である。
【
図5】参考例に係るモータ制御装置において、交流電流、電流選択信号、及び、電流選択信号を基に電流を選択した電源電流を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施形態について図面を参照しながら説明する。尚、実施形態の説明において既に説明された構成と同一の参照番号を有する構成については、説明の便宜上、その説明は省略する。
[第一実施形態]
【0014】
図1は、本発明の第一実施形態に係るモータ制御装置1のブロック図である。
図1に示すように、モータ制御装置1は、ACリアクトルACLと、コンバータ回路2と、平滑コンデンサ3と、インバータ回路4と、電流検出部5と、直流電流推定部10を備える。
【0015】
コンバータ回路2は、三相(r相、s相、t相)のフルブリッジ回路であり、6個の半導体スイッチング素子から構成される。半導体スイッチング素子は、例えば、IGBTと、逆並列された還流ダイオードとから構成される。コンバータ回路2は、交流電源100から入力される三相交流を直流に変換する。なお、交流電源100は三相交流電源であるが、多相交流電源であればよく、三相に限定されるものではない。
【0016】
平滑コンデンサ3は、例えば電解コンデンサであり、コンバータ回路2が出力する直流を平滑化し、蓄電する。
【0017】
インバータ回路4は、三相(u相、v相、w相)のフルブリッジ回路であり、6個の半導体スイッチング素子から構成される。半導体スイッチング素子は、例えば、IGBTと、逆並列された還流ダイオードとから構成される。インバータ回路4は、平滑コンデンサ3からの直流またはコンバータ回路2が出力する直流をモータ駆動用の三相交流に変換し、モータMへ供給する。
【0018】
電流検出部5は、交流電源100とコンバータ回路2の間を流れる交流電流を検出する。
【0019】
また、モータ制御装置1は、電源回生機能を有する。回生動作時には、電源電圧の各相における電圧の高い120°区間で、コンバータ回路2の半導体スイッチング素子を通電させて、電力を交流電源100に回生する。
【0020】
直流電流推定部10は、回生電流算出部20と、力行電流算出部30と、電流選択部40から構成される。回生電流算出部20は、位相検出部21と、電流選択信号生成部22とセレクタ23を有する。力行電流算出部30は、リミッタ31a~31cを有する。電流選択部40は、極性判定部41と、スイッチ42を有する。
【0021】
位相検出部21は、電源電圧の各相における電圧が高い120°区間の位相を検出し、位相信号を出力する。電流選択信号生成部22は、位相信号を基に電流選択を行うための交流電流選択信号を生成する。交流電流選択信号は、ゲートを駆動して電流が流れている二相のうち、電圧が増加していく相の電源電流を選択するように生成される。ここで、電圧が増加していく相の電源電流を選択するのは、回生動作時に、ゲートタイミングを120°通電の電圧位相より進めるような制御を行った場合に、電圧増加部分の電流が、電圧下降部分の電流より大きくなるためである。
【0022】
ここで、交流電流が選択される過程を、
図2を用いて詳細に説明する。
図2は、本発明の第一実施形態において、交流電流、電流選択信号、及び、電流選択信号を基に電流を選択した電源電流を示す図である。例えば、符号22aで示された、R相の電圧が高い120°区間のうち前半60°区間において、R相とS相の電流が流れており、R相の電圧が増加しているため、R相が選択される。また、符号22bで示された、R相の電圧が高い120°区間のうち後半60°区間において、R相とT相の電流が流れており、T相の電圧が負方向に増加しているため、T相の電流を符号反転して選択される。なお、符号反転するのは、回生動作時の直流電流の符号をマイナスにするためである。
【0023】
図1の説明に戻る。セレクタ23は、交流電流選択信号を基に電流検出部5で検出される電源電流(交流電流)を選択して、回生電流を出力する。ここで、セレクタ23による電源電流(交流電流)の選択は、交流直流変換と等価であり、力行動作時の回生電流出力はプラスになる。
【0024】
力行電流算出部30は、電流検出部5で検出される電源電流(交流電流)の各相電流の負方向をリミッタ31a~31cで制限し、正方向のみを出力して加算する。この三相全波整流を模擬した演算により、三相全波整流出力の直流電流をプラスとして算出する。三相分の電源電流を用いるため、三相同時に電流が流れても精度よく直流電流を算出できる。ここで、電源電流の各相電流のうち正方向のみを出力するのは、力行動作時の直流電流の符号をプラスにするためである。
図3は、上記のように算出された力行電流を示している。
【0025】
極性判定部41は、回生電流の極性を判定する。スイッチ42は、回生電流算出部20からの回生電流と力行電流算出部30からの力行電流が入力され、極性判定部41によって判定された回生電流の極性に基づき、回生電流の極性がマイナスの場合は回生電流を選択し、回生電流の極性がプラスの場合は力行電流を選択する。これにより、回生動作時は電源電圧の位相に基づいて流れている二相のうち電圧が増加していく相の電流を選択してマイナスの値を出力し、力行動作時は三相全波整流により流れている三相分の電流の正方向電流を加算してプラスの値を出力し、精度よく直流電流を推定できる。
【0026】
なお、力行方向をマイナス、回生方向をプラスとして直流電流を推定する場合、回生電流算出部20の交流電流選択信号の生成時に極性を考慮して符号反転し、力行電流算出部30で正方向をリミットすればよい。また、電源回生を行う場合にゲートタイミングを120°通電の電圧位相より進めるような制御を行わない場合、電流選択信号の生成時に電圧下降部分の電流を選択してもよい。さらに、電源回生を行う場合にゲートタイミングを120°通電の電圧位相より進めるような制御を行う場合、回生電流を算出する位相信号として、進めた位相信号を用いて電流選択を行ってもよい。
[第二実施形態]
【0027】
図4は、本発明の第二実施形態に係るモータ制御装置1’のブロック図である。第二実施形態に係るモータ制御装置1’、第一実施形態に係るモータ制御装置1の直流電流推定部10で推定された直流電流推定値を電力量モニタに適用した構成である。
【0028】
モータ制御装置1’は、ACリアクトルACLと、コンバータ回路2と、平滑コンデンサ3と、インバータ回路4と、電力量算出部60を備える。電力量算出部60は、直流電流推定部10と、瞬時電力算出部50と、積算部61から構成される。なお、ACリアクトルACL、コンバータ回路2、平滑コンデンサ3、インバータ回路4、直流電流推定部10は、第一実施形態に係るモータ制御装置1のACリアクトルACL、コンバータ回路2、平滑コンデンサ3、インバータ回路4、直流電流推定部10と同様の構成であるため説明を省略する。
【0029】
瞬時電力算出部50は、直流電流推定部10で推定された直流電流推定値と平滑コンデンサ3の直流電圧を乗算して瞬時電力を算出する。直流電流推定値および直流電圧は瞬時値のため、瞬時電力を算出することができる。積算部61は、瞬時電力を積算することにより電力量を算出する。直流電流推定部10における直流電流の推定精度が高いことから、算出される瞬時電力や電力量の精度も向上する。
【0030】
以上、本発明の実施形態に係るモータ制御装置では、回生動作時は電源電流を120°通電の電源位相に基づいて選択して回生電流を算出し、力行動作時は三相全波整流を模擬した演算により力行電流を算出し、回生電流の極性に基づき回生電流と力行電流を選択して直流電流を推定する構成とした。これにより、精度の高い直流電流推定機能を備えたモータ制御装置を実現し、高精度な瞬時電力モニタや電力量モニタを備えたモータ制御装置も実現でき、その他さまざまなコンバータ制御への適用が期待できる。
【0031】
以上、本発明の実施形態について説明をしたが、本発明の技術的範囲が本実施形態の説明によって限定的に解釈されるべきではないのは言うまでもない。本実施形態は単なる一例であって、特許請求の範囲に記載された発明の範囲内において、様々な実施形態の変更が可能であることが当業者によって理解されるところである。本発明の技術的範囲は特許請求の範囲に記載された発明の範囲及びその均等の範囲に基づいて定められるべきである。
【符号の説明】
【0032】
1、1’:モータ制御装置
2:コンバータ回路
3:平滑コンデンサ
4:インバータ回路
5:電流検出部
10:直流電流推定部
20:回生電流算出部
21:位相検出部
22:電流選択信号生成部
23:セレクタ
30:力行電流算出部
31a、31b、31c:リミッタ
40:電流選択部
41:極性判定部
42:スイッチ
50:瞬時電力算出部
60:電力量算出部
61:積算部
100:交流電源
M:モータ