(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025004032
(43)【公開日】2025-01-14
(54)【発明の名称】水中油型乳化化粧料
(51)【国際特許分類】
A61K 8/06 20060101AFI20250106BHJP
A61Q 1/00 20060101ALI20250106BHJP
A61Q 19/00 20060101ALI20250106BHJP
A61K 8/55 20060101ALI20250106BHJP
A61K 8/34 20060101ALI20250106BHJP
A61K 8/73 20060101ALI20250106BHJP
【FI】
A61K8/06
A61Q1/00
A61Q19/00
A61K8/55
A61K8/34
A61K8/73
【審査請求】有
【請求項の数】1
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2024165062
(22)【出願日】2024-09-24
(62)【分割の表示】P 2022537591の分割
【原出願日】2019-12-20
(71)【出願人】
【識別番号】502189579
【氏名又は名称】エルブイエムエイチ レシェルシェ
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100128381
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 義憲
(72)【発明者】
【氏名】北村 三矢子
(72)【発明者】
【氏名】小澤 舞
(57)【要約】 (修正有)
【課題】乳化安定性に優れ、塗布後のべたつきが少なく、塗布時のコク感にも優れた水中油型乳化化粧料を提供する。
【解決手段】化粧的に許容される媒体中に、a)水素添加レシチン、b)微生物由来のアニオン界面活性剤、c)グリセリンを含む少なくとも一種のポリオール、及びd)多糖類を含有し、アニオン界面活性剤の含有量が、水中油型乳化化粧料全量基準で、好ましくは0.005質量%以上1質量%以下の範囲である、水中油型乳化化粧料を提供する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
化粧的に許容される媒体中に、
a)水素添加レシチン、
b)微生物由来のアニオン界面活性剤、
c)グリセリンを含む少なくとも一種のポリオール、及び
d)多糖類を含有し、
前記アニオン界面活性剤の含有量が、水中油型乳化化粧料全量基準で、好ましくは0.005質量%以上1質量%以下の範囲である、水中油型乳化化粧料。
【請求項2】
エマルション粒子の平均粒径が少なくとも500nmである、請求項1に記載の水中油型乳化化粧料。
【請求項3】
前記多糖類が、キサンタンガム、アルカリゲネス産生多糖体、ヒアルロン酸ナトリウム、及びこれらの混合物から選択される、請求項1又は2に記載の水中油型乳化化粧料。
【請求項4】
前記アニオン界面活性剤がサーファクチンナトリウムである、請求項1~3のいずれか一項に記載の水中油型乳化化粧料。
【請求項5】
グリセリンと、ブチレングリコール、プロパンジオール及びこれらの混合物から選択される少なくとも一種の他のポリオールとを含有する、請求項1~4のいずれか一項に記載の水中油型乳化化粧料。
【請求項6】
ポリオールの合計含有量が、水中油型乳化化粧料全量基準で、5質量%以上30質量%以下の範囲である、請求項1~5のいずれか一項に記載の水中油型乳化化粧料。
【請求項7】
電解質を更に含有する、請求項1~6のいずれか一項に記載の水中油型乳化化粧料。
【請求項8】
化粧水、乳液、美容液、メイク落とし、化粧下地、日焼け止め、ファンデーション、コンシーラーのような、スキンケア化粧料又はメイクアップ化粧料の形態である、請求項1~7のいずれか一項に記載の水中油型乳化化粧料。
【請求項9】
請求項1~8のいずれか一項に記載の水中油型乳化化粧料を、ケラチン物質、特に皮膚に塗布することを含む、ケラチン物質のケア及び/又はメイクアップのための化粧方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水中油型乳化化粧料に関する。
【背景技術】
【0002】
化粧料の剤型として、水性成分を含む水相中に油性成分が分散した水中油型乳化化粧料が知られている。水中油型乳化化粧料は、水性成分によるみずみずしい感触と油性成分による高い保湿性を肌に供与できるため、スキンケア製品等に応用されている。
【0003】
近年では、消費者の「ナチュラル」志向が高まり、天然物由来の原料を含有する化粧料の指示が高まっている。例えば、韓国公開特許第2003-0064986号公報には、植物から抽出したレシチンまたはレシチン誘導体と、枯草菌が産生するサーファクチンとを天然由来の界面活性剤として含有する水中油型乳化化粧料が開示されている。特開第2008-069075号公報は、サーファクチンナトリウムを含むスキンケア組成物も開示している。
[発明が解決しようとする課題]
【0004】
天然物由来の原料を使用した化粧料は、品質の安定性を確保することが難しい場合が多い。例えば、天然物由来の界面活性剤を使用した場合、合成界面活性剤を使用した場合に比べて乳化安定性が劣る傾向にある。そこで、天然物由来の界面活性剤を用いて化粧品の乳化安定性を高める方法が検討されている。韓国公開特許第2003-0064986号公報の化粧料では、エマルション粒子の平均粒径を10~100nmの範囲に小さくすることにより、乳化安定性を高めている。このようなエマルションは「ナノエマルション」と呼ばれる。しかし、平均粒径が小さい化粧料では、特に消費者が塗布時のコク感(塗布時の適度な粘性又は厚み感)を求める場合、化粧料に求められるテクスチャーが得られない場合が多い。
【0005】
また、化粧料に求められる質感も必要とされている。例えば、消費者は化粧料を塗布した後のべたつきの少なさを求めている。
【0006】
そこで本発明は、乳化安定性に優れ、塗布後のべたつきが少ない水中油型乳化化粧料を提供することを目的とする。本発明の別の目的は、乳化安定性に優れ、塗布後のべたつきが少なく、塗布時のコク感にも優れた水中油型乳化化粧料を提供することにある。
[課題を解決するための手段]
【0007】
本発明者らは、特定の天然物由来の界面活性剤を選択し、これに特定の成分を組み合わせることにより、乳化安定性の高い水中油型乳化化粧料が得られることを見出した。また、この水中油型乳化化粧料は、皮膚に塗布した際のべたつきが少ないことを見出し、本発明を完成するに至った。そして、本発明者らは、本発明の水中油型エマルションが、ナノエマルションと比較して、塗布時にコク感も与えるのに好ましいことを実証した。
[発明の概要]
【0008】
本発明の一態様によれば、水素添加レシチンと、微生物由来のアニオン界面活性剤と、グリセリンを含むポリオールと、多糖類とを化粧的に許容される媒体中に含む水中油型乳化化粧料が提供される。特定の実施形態において、アニオン界面活性剤の含有量は、水中油型乳化化粧料の全質量基準で0.005質量%から1質量%の範囲である。
【0009】
以下、「質量%」は「重量%」ともいう。
以下、「水中油型乳化化粧料」を「水中油型乳化物」、「水中油型乳化組成物」又は「手中油型乳化形態の化粧料組成物」ともいう。
「化粧的に又は生理学的に許容される」とは、ケラチン物質、特に皮膚との適合性を意味し、色、香り、心地よい感触を有し、許容できない不快感(ヒリヒリ感、張り感)を引き起こさないことをいう。
【0010】
この化粧料は、長期間保管してもエマルションにクリーミングが生じにくく、またエマルションに合一や分離も起こりにくいため、乳化安定性に優れている。この水中油型乳化化粧料は、肌への浸透性が高く、みずみずしさ、なめらかさ、潤いの持続性などの好ましい感触を与え、塗布後のべたつきも少ない。また、この水中油型乳化化粧料は天然物由来の界面活性剤を使用しているため、環境にも配慮した処方である。
【0011】
特定の実施形態では、エマルション粒子の平均粒径が500nm以上である。本実施形態において、本発明の水中油型乳化化粧料は「ナノエマルション」ではない。本実施形態の水中油型乳化化粧料は、塗布時のコク感に優れるという利点がある。すなわち、本発明の一態様は、乳化安定性に優れ、塗布後のべたつきが少なく、塗布時のコク感にも優れた水中油型乳化化粧料を提供することを別の目的とする。
塗布時のコク感とは、適度な粘性又は厚みを有する塗布感を意味する。
【0012】
アニオン界面活性剤は、好ましくはサーファクチンナトリウムである。ポリオールの含有量は、水中油型乳化化粧料の全量基準で、5質量%以上であることが好ましい。これにより、エマルジョンの安定性を更に高めることができる。
【0013】
水中油型乳化化粧料は、電解質を含んでいてもよい。電解質は、美容活性物質を含んでもよい。
【0014】
本発明はまた、本発明で定義される水中油型乳化化粧料を、ケラチン物質、特に皮膚に塗布することを含む、ケラチン物質のケア及び/又はメイクアップのための化粧方法にも関する。
[発明の効果]
【0015】
本発明によれば、従来の化粧料に比べて乳化安定性に優れ、塗布後のべたつきも少ない水中油型乳化化粧料を提供することができる。また、水中油型乳化化粧料が従来のエマルション、つまりナノエマルションではない場合でも、塗布時のコク感に優れる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明の実施形態について説明する。ただし、本発明は以下の実施形態に限定されるものではない。
【0017】
一実施形態に係る化粧料は、水中油型乳化化粧料(水中油型エマルションからなる化粧料)である。この化粧料では、水性成分を含む水相中に油性成分が粒子として分散している。水中油型エマルションでは、油性成分の粒子はエマルション粒子とも呼ばれます。
【0018】
本実施形態の水中油型乳化化粧料は、水素添加レシチンと、微生物由来のアニオン界面活性剤と、グリセリンを含むポリオールと、多糖類とを含有する。
水素添加レシチン
【0019】
水素添加レシチンは、水素添加処理を施したレシチンであり、不飽和二重結合の少なくとも一部を飽和結合に変換したものである。水素添加レシチンには、水素添加大豆レシチン、水素添加コーンレシチン、水素添加パームレシチン、水素添加ヤシレシチン等の植物性レシチンの水素添加レシチンが含まれる。水素添加レシチンは、水素添加大豆レシチンであることが好ましい。水素添加レシチンは、一種を単独で使用してもよいし、二種以上を併用してもよい。水中油型乳化化粧料が水素添加レシチンを含有すると、エマルション粒子の表面に安定なラメラ構造が形成され、水中油型乳化化粧料の乳化安定性を高めることができる。また、水素添加レシチンが含まれることにより、塗布時のコク感を与えつつ
塗布後のべたつきが抑えられる。
【0020】
水素添加レシチンの含有量は、乳化安定性をより高める観点から、水中油型乳化化粧料の全量を基準として、好ましくは0.1質量%以上、より好ましくは0.2質量%以上、更に好ましくは0.3質量%以上であり、好ましくは2質量%以下、より好ましくは1.5質量%以下、更に好ましくは1.0質量%以下である。特に、水素添加レシチンの含有量は、本発明の乳化化粧料の全量基準で、0.1質量%から2質量%、好ましくは0.2質量%から1.5質量%、より好ましくは0.3質量%から1質量%である。
微生物由来のアニオン界面活性剤
【0021】
微生物由来のアニオン界面活性剤としては、例えば、サーファクチン、アルスロファクチン、サーファクチンナトリウム等のリポペプチド又はその塩、スピクリスポール酸等の脂肪酸が挙げられる。微生物由来のアニオン界面活性剤は、エマルション粒子の形成を促進して乳化安定性をより高める観点から、リポペプチド又はその塩を含むことが好ましく、サーファクチン又はその塩を含むことがより好ましい。これら微生物由来のアニオン界面活性剤は、単独で用いてもよいし、二種以上を併用してもよい。
【0022】
サーファクチンは、下記式(1)で表される環状リポペプチドである。
【化1】
式中、Xは、ロイシン、イソロイシン、バリン、グリシン、セリン、アラニン、トレオニン、アスパラギン、グルタミン、アスパラギン酸、グルタミン酸、リジン、アルギニン、システイン、メチオニン、フェニルアラニン、チロシン、トリプトファン、ヒスチジン、プロリン、4-ヒドロキシプロリン、ホモセリン等が挙げられ、Rは炭素数8~14の直鎖状又は分岐状のアルキル基を表す。Xは好ましくはロイシンである。
【0023】
サーファクチンの塩としては、ナトリウム塩、カリウム塩、モノエタノールアミン塩、ジエタノールアミン塩、トリエタノールアミン塩、リジン塩及びアルギニン塩が含まれる。サーファクチン塩のは、好ましくはナトリウム塩(サーファクチンナトリウム)である。
【0024】
微生物由来のアニオン界面活性剤としてサーファクチンナトリウムを使用する場合、市販品を使用することができる。使用できるサーファクチンナトリウムの市販品の例は、カネカ サーファクチン(カネカ株式会社製)である。
【0025】
特定の実施形態において、微生物由来のアニオン界面活性剤の含有量は、水中油型乳化化粧料全量基準で1質量%以下である。これにより、水中油型乳化化粧料の乳化安定性を高め、べたつきを抑えることができる。同様の観点から、微生物由来のアニオン界面活性剤の含有量は、水中油型乳化化粧料全量基準で、0.8質量%以下、0.6質量%以下、0.5質量%以下、0.3質量%以下、0.1質量%以下、0.08質量%以下又は0.06質量%以下が好ましい。乳化安定性を高める観点から、微生物由来のアニオン界面活性剤の含有量は、水中油型乳化化粧料全量基準で、0.005質量%以上が好ましく、0.01質量%以上がより好ましく、0.02質量%以上が更に好ましい。
【0026】
この観点から、微生物由来のアニオン界面活性剤の含有量は、水中油型乳化化粧料全量基準で、0.005~1質量%、0.01~1質量%、0.02~1質量%、0.005~0.8質量%、0.01~0.8質量%、0.02~0.8質量%、0.005~0.6質量%、0.01~0.6質量%、0.02~0.6質量%、0.005~0.5質量%、0.01~0.5質量%、0.02~0.5質量%、0.005~0.3質量%、0.01~0.3質量%、0.02~0.3質量%、0.005~0.1質量%、0.01~0.1質量%、0.02~0.1質量%、0.005~0.08質量%、0.01~0.08質量%、0.02~0.08質量%、0.005~0.06質量%、0.01~0.06質量%、又は0.02~0.06質量%であってもよい。
特に、微生物由来のアニオン界面活性剤の含有量は、本発明の水中油型乳化化粧料全量基準で、0.005~1質量%、特に0.01~0.8質量%、好ましくは0.02~0.6質量%、更に好ましくは0.02~0.1質量%である。
多糖類
【0027】
水中油型乳化化粧料は、多糖類を含有する。これにより、乳化安定性と塗布時のコク感のレベルを高めることができる。多糖類としては、キサンタンガム、グアーガム、ローカストビーンガム、アルカリゲネス産生多糖体、シロキクラゲ多糖体、カラギーナン、寒天、ヒアルロン酸ナトリウムが含まれる。多糖類としては、天然物由来の多糖類が好ましく、キサンタンガム、アルカリゲネス産生多糖体、ヒアルロン酸ナトリウム等の微生物由来の多糖類がより好ましい。これらの多糖類は、単独で又は二種以上を組み合わせて使用することができる。水中油型乳化化粧料は、二種以上の多糖類を含有してもよい。
特定の実施形態では、水中油型乳化化粧料は、キサンタンガム、アルカリゲネス産生多糖体、ヒアルロン酸ナトリウム及びこれらの混合物から選択される多糖類を含有する。
【0028】
多糖類の含有量は、塗布時のコク感をより高める観点から、水中油型乳化化粧料全量基準で、好ましくは0.005質量%以上、より好ましくは0.01質量%以上、更に好ましくは0.05質量%以上であり、3質量%以下、2質量%以下、又は1質量%以下、0.5質量%以下、0.3質量%以下、又は0.2質量%以下であってよい。
特定の実施形態において、多糖類の含有量は、水中油型乳化化粧料全量基準で、0.005~3質量%であり、特に0.05~2質量%であり、好ましくは0.1~1質量%である。
ポリオール
【0029】
水中油型乳化化粧料は、少なくともグリセリンを含むポリオール(多価アルコール)を少なくとも一種含有する。ポリオールは、2つ以上のヒドロキシル基(-OH)を有する化合物であり、脂肪族化合物であることが好ましい。グリセリンを含むポリオールは、グリセリン単独であってもよいし、グリセリンと他のポリオールとの組み合わせであってもよい。水中油型乳化化粧料がグリセリンからなるポリオールを含有すると、塗布時のコク感を高めることができる。また、水素添加レシチン及び微生物由来のアニオン界面活性剤が良好に溶解されて乳化安定性を高めることができる。ポリオールがグリセリンを含む場合、乳化安定性は更に高まる。
【0030】
グリセリン以外のポリオールのヒドロキシル基の数は、2個以上、又は3個以上であってよく、10個以下、8個以下、6個以下又は4個以下であってもよい。ポリオールの炭素原子数は、例えば、1以上、2以上、又は3以上であってよく、10以下、8以下、又は6以下であってよい。
【0031】
グリセリン以外のポリオールとしては、ブチレングリコール(1,3-ブチレングリコール等)、ペンチレングリコール(1,2-ペンタンジオール等)、プロパンジオール(1,3-プロパンジオール、プロピレングリコール等)、ジプロピレングリコール、ヘキサンジオール(1,2-ヘキサンジオール等)などのグリコール;ジグリセリン、ポリグリセリン等のグリセロール;ソルビトール、グリセロール、キシリトール、マンニトール、エリスリトール等の糖アルコールが挙げられる。グリセリン以外のポリオールは、これらを一種単独で、又は二種以上を組み合わせて用いられてよい。
特定の実施形態において、本発明の水中油型乳化化粧料は、少なくともグリセリンと、ブチレングリコール、プロパンジオール、及びこれらの混合物から選択される別のポリオールとを含む。
【0032】
グリセリンを含むポリオールの含有量の合計は、水中油型乳化化粧料全量基準で、好ましくは5質量%以上である。これにより、乳化安定性をより高めることができる。グリセリンを含むポリオールの含有量の合計は、水中油型乳化化粧料全量基準で、より好ましくは6質量%以上、更に好ましくは8質量%以上であり、30質量%以下、25質量%以下、20質量%以下、15質量%以下、又は12質量%以下であってよい。特定の実施形態において、グリセリンを含むポリオール、好ましくはグリセリン、ブチレングリコール及びプロパンジオールの含有量の合計は、水中油型乳化化粧料全量基準で、5~30質量%、特に6~25質量%、好ましくは8~15質量%である。同様の観点から、グリセリンを含むポリオールの含有量は、5~30質量%、特に6~30質量%、6~25質量%、6~20質量%、6~15質量%、6~12質量%、8~30質量%、8~25質量%、8~20質量%、8~15質量%、又は8~12質量%であってよい。
【0033】
ポリオール全量中のグリセリンの含有量は、乳化安定性を更に高める観点から、ポリオール全量基準で、20質量%以上が好ましく、30質量%以上がより好ましく、40質量%以上が更に好ましい。グリセリンの含有量は、ポリオール全量基準で、100質量%であってよく、80質量%以下、又は60質量%以下であってよい。
油相
【0034】
本実施形態の水中油型乳化化粧料において、油性成分はエマルション粒子として存在する。一実施形態において、油性成分は油剤を含む。
【0035】
油剤としては、植物油脂、ロウ、炭化水素油、高級脂肪酸、高級アルコール、エステル油、シリコーン油等の、一般的に化粧料に使用される油剤が挙げられる。油剤は、液状、ペースト状、又は固形状であってよい。
【0036】
植物油脂としては、例えば、メドウフォーム油、オリーブ果実油、ツバキ油、ヤシ油、マカデミアンナッツ油、ローズヒップ油、アボカド油、ヒマワリ種子油、コメヌカ油、ヒマシ油、アーモンド油、マンゴー種子脂、ボタン種子油、ムルムル種子脂、シア脂等が挙げられる。
【0037】
ロウとしては、例えば、ホホバ種子油、カルナウバロウ、キャンデリラロウ等の植物性ロウが挙げられる。
【0038】
炭化水素油としては、例えば、流動パラフィン、パラフィン、ワセリン、セレシン、ドデカン、イソドデカン、テトラデカン、イソテトラデカン、ヘキサデカン、イソヘキサデカン、スクワラン、ポリブテン、ポリイソブテン、水添ポリイソブテン、オレフィンオリゴマー等が挙げられる。
【0039】
高級脂肪酸としては、例えば、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、イソステアリン酸等が挙げられる。
【0040】
高級アルコールとしては、例えば、セチルアルコール、イソステアリルアルコール、2-オクチルドデカノール、べヘニルアルコール等が挙げられる。
【0041】
エステル油としては、例えば、ミリスチン酸イソプロピル、ミリスチン酸2-オクチルドデシル、2-エチルヘキサン酸セチル、イソノナン酸イソノニル、炭酸ジカプリリル、ジイソステアリン酸ポリグリセリル、トリイソステアリン酸ジグリセリル、トリベヘン酸グリセリル、リンゴ酸ジイソステアリル等が挙げられる。
【0042】
シリコーン油としては、例えば、ポリジメチルシロキサン(ジメチコン)、ポリメチルフェニルシロキサン(ジフェニルジメチコン)、フェニルトリメチコン、ジフェニルシロキシフェニルトリメチコン等が挙げられる。
【0043】
上記の油剤の中でも、天然物由来の油剤が好ましく用いられる。天然物由来の油剤は、メドウフォーム油等の植物油脂;ホホバ種子油等のロウ;スクワラン等であってよい。
【0044】
油剤の含有量の合計は、水中油型乳化化粧料全量基準で、1質量%以上、2質量%以上、又は3質量%以上であってよく、30質量%以下、20質量%以下、又は10質量%以下であってよい。
特定の実施形態では、油剤の含有量の合計は、水中油型乳化化粧料全量基準で、1~30質量%、特に2~20質量%である。
追加成分
【0045】
水中油型乳化化粧料は、電解質を含んでいてもよい。ここでいう電解質とは、上述した水素添加レシチン、微生物由来の界面活性剤、多糖類、ポリオール、及び油剤とは異なる成分であり、水中油型乳化化粧料中で電離することにより、美容成分、pH調整剤、防腐剤等として機能する。
【0046】
電解質としては、例えば有機電解質及び無機電解質のような、化粧料に一般的に使用されているものを用いることができる。有機電解質の例には、リンゴ酸、クエン酸、乳酸、酒石酸、グリコール酸、エデト酸、コハク酸、アスコルビン酸、及びこれらの塩が含まれる。この実施形態では、有機電解質は美容成分の例を含み、例えば、アスコルビン酸2-グルコシド、トコフェリルリン酸ナトリウム等のビタミン誘導体;トリメチルグリシン、アデノシン等のアミノ酸及びその誘導体が挙げられる。無機電解質としては、水酸化ナトリウム、塩化ナトリウム、塩化マグネシウム、塩化カルシウム、硫酸アルミニウムカリウム、リン酸水素ナトリウム等が挙げられる。電解質は単独で使用してもよいし、二種以上を併用してもよい。
【0047】
特定の実施形態において、水中油型乳化化粧料は、アスコルビン酸の塩として、下記式(A)で表されるL-アスコルビン酸-2-リン酸エステルマグネシウムナトリウム塩を含まない。
【化2】
[式中、a及びbは当量を表し、aは0.3~1.1であり、bは0.8~2.4であり、かつ、2a+bの値は2.7~3.3である。]
【0048】
電解質の含有量は、水中油型乳化化粧料全量基準で、例えば、0.05質量%以上、0.1質量%以上、又は0.15質量%以上であってよく、10質量%以下、9質量%以下、8質量%以下、5質量%以下、3質量%以下、1質量%以下、又は0.5質量%以下であってよい。特定の実施形態において、電解質の含有量は、水中油型乳化化粧料全量基準で、0.05~10質量%、特に0.1~5質量%であってよい。
【0049】
水中油型乳化化粧料は、アニオン界面活性剤、カチオン界面活性剤、ノニオン界面活性剤等、上記の微生物由来のアニオン界面活性剤以外の他の界面活性剤を更に含有してもよい。他の界面活性剤としては、化粧料に通常用いられるものを適宜使用できる。水中油型乳化化粧料は、界面活性剤として、グリセリンモノ脂肪酸エステルを含有しなくてもよい。
【0050】
水中油型乳化化粧料は、多糖類以外のポリマーを更に含有してもよい。他のポリマーとしては、化粧料に通常用いられるものを適宜使用することができる。
【0051】
水中油型乳化化粧料は、エタノール等の一価アルコールを含有してもよい。一価アルコールは、水中油型乳化化粧料において、例えば防腐剤として機能する。水中油型乳化化粧料は、一価アルコールとして、フェノキシエタノール、又はフェノキシイソプロパノールを含有しなくてもよい。
【0052】
水中油型乳化化粧料は、上述した成分の他、クロルフェネシン、ヒドロキシアセトフェノン等の保存料、酸化防止剤、色素、香料等、化粧料に通常用いられる添加剤を適宜含有してもよい。水中油型乳化化粧料は、感触を調整すること等を目的として、無機粉体、有機粉体等の粉体を含有してもよい。粉体としては、化粧料に通常用いられるものを適宜使用することができる。
【0053】
特定の好ましい実施形態では、ナノエマルションの形態ではない。ナノエマルションにおいて、油剤は一般に、数平均粒径が250nm以下、好ましくは10~200nmの液滴の形態である。本発明の特定の好ましい実施形態では、水中油型エマルションを形成するエマルション粒子の平均粒径は、500nm以上である。これにより、水中油型乳化化粧料を肌に塗布した際に、優れたコク感を付与することができる。平均粒径は、600nm以上、又は700nm以上であってもよく、100μm以下、50μm以下、10μm以下、又は5μm以下であってもよい。
【0054】
「平均粒径」は、粒子の体積が50%である最大サイズを表す体積メジアンサイズであるD[50]を意味する。粒径は市販の粒子径測定装置(例えば、DelsaMax CORE、Beckman Coulter社製)を用いた動的光散乱法により測定され、これは、0.01μmから1000pmまでの広い範囲にわたって全ての粒子の粒子径分布を把握することが可能である。データは、古典的なミー散乱理論に基づいて処理される。この理論は、サブミクロンからマルチミクロンまでの範囲のサイズ分布に最も適しており、粒子の「有効な」直径を決定することができる。この理論は、Van de Hulst, HC, "Light Scattering by Small Particles",Chapters 9 and 10, Wiley, New York, 1957において特に説明されている。D[50]は、粒子の体積の50%を表す最大粒径を表す。エマルション粒子の平均粒径は、乳化時の攪拌条件の調整を行うことにより調整することができる。
【0055】
本実施形態に係る水中油型乳化化粧料は、例えば、水素添加レシチン、微生物由来のアニオン界面活性剤、グリセリンを含むポリオール、油性成分及び水をそれぞれ加熱してから(例えば60~100℃)均一になるように混合し、その後、他の材料を加え、撹拌して混合することにより製造することができる。
【0056】
本実施形態の水中油型乳化化粧料(「ノンナノエマルション」)を得るための方法は、ナノエマルションを得るために必要とされるような、製造に実質的な機械的エネルギー、例えばナノ化が要求される高圧乳化処理を必要としない。特定の実施形態において、本発明の水中油型乳化化粧料は、均一になるまで、1000rpm~5000rpm、特に1000rpm~3000rpmで混合及び攪拌することにより得られる。本発明の別の実施形態である、安定性に優れ、べたつきがなく、塗布時のコク感が少ないナノエマルション形態の水中油型乳化化粧料を得る方法は、実施例2で更に説明するように、実質的な機械的エネルギーの使用、特に高圧乳化処理を含み、この高圧乳化処理は、例えば、高圧乳化機(Starburst mini、株式会社スギノマシン製)を用いて200MPaで3回の高圧乳化処理である。
【0057】
本実施形態に係る水中油型乳化化粧料の25℃における粘度は、例えば1~100000mPa・sであってよい。水中油型乳化化粧料の25℃における粘度は、好ましくは10mPa・s以上、50mPa・s以上、又は100mPa・s以上であり、また、好ましくは、50000mPa・s以下、10000mPa・s以下、又は1000mPa・s以下である。粘度は、回転粘度計(例えば、Rheolab QC、アントンパール株式会社製、回転数100rpm)を用いた剪断粘度測定により測定できる。
【0058】
上記の水中油型乳化化粧料は、例えば、化粧水、乳液、美容液、メイク落とし、化粧下地、日焼け止め、ファンデーション、コンシーラー等の、スキンケア化粧料又はメイクアップ化粧料として使用することができる。
【0059】
本発明はまた、本発明で定義される水中油型乳化化粧料を、ケラチン物質、特に皮膚に塗布することを含む、ケラチン物質のケア及び/又はメイクアップするための化粧方法にも関する。
この水中油型乳化化粧料を塗布すると、塗布後のべたつきが少ない。特定の実施形態において、水中油型乳化化粧料が非ナノエマルションの形態である場合、前記組成物は、塗布中に優れたコク感さえも提供し、これは乾燥肌及び混合肌に特に有利である。
【実施例0060】
以下、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0061】
<水中油型乳化化粧料の調製>
実施例1及び比較例1~4について、表1に記載の組成に基づき、以下の方法により水中油型乳化化粧料を得た。組成物中に列挙された成分は、組成物の全質量に対する質量%で表される。
比較例1:微生物由来のアニオン界面活性剤が含まれない
比較例2:水素添加レシチンが含まれない
比較例3:ポリオールが含まれない
比較例4:グリセリンが含まれない
【0062】
実施例1として、まず、水素添加大豆レシチン(EmulmetikTM 950、Lucas Meyer Cosmetics Canada社製)、サーファクチンナトリウム(カネカサーファクチン、カネカ株式会社製)、及びポリオール(A)と、油剤(B)とをそれぞれ80℃に加熱し、(A)に(B)を加えて、撹拌機を用いて3000rpmで撹拌し均一になるまで混合した。次に、この混合物に80℃に加熱した水(C)を加え、同条件で更に混合した。続いて、この混合物に多糖類(D)を加え、80℃、3000rpmで撹拌した後、混合物を室温まで冷却した。最後に、保存料、エタノール及び香料(E)、並びに電解質(F)を加え、撹拌機を用いて、1000rpmで撹拌し均一になるまで混合した。
【0063】
実施例2として、表1に示す組成に基づき、高圧乳化処理を含む以下の方法により、ナノエマルション状の水中油型乳化化粧料を得た。まず、水素添加大豆レシチン、サーファクチンナトリウム及びポリオール(A)と、油剤(B)とをそれぞれ80℃に加熱し、(A)に(B)を加えて、撹拌機を用いて3000rpmで撹拌し均一になるまで混合した。80℃に加温した水(C)の半分を混合物に加え、同条件で混合を続けた。続いて、この混合物について、高圧乳化機(Starburst mini、株式会社スギノマシン製)を用いて、200MPaで3回高圧乳化処理を行った。一方、水(C)の残りの半量に多糖類(D)を加え、撹拌機を用いて80℃、3000rpmで均一になるまで混合してから、室温まで冷却することにより、多糖類溶液を調製した。この多糖類溶液に、保存料、エタノール及び香料(E)、並びに電解質(F)を加え、撹拌機を用いて1000rpmで均一になるまで混合してから、高圧乳化処理後の上記混合物をこれに加えた。
【0064】
<平均粒径の測定>
調製した水中油型乳化化粧料について、粒子径測定装置(DelsaMax CORE:Beckman Coulter社製)を用いた動的光散乱法によりエマルション粒子の平均粒径(D[50])を測定した。各化粧料の平均粒径を表1に示す。
【0065】
<乳化安定性の評価>
実施例及び比較例に係る化粧料を透明なガラス容器に充填し、密閉した。これを50℃の恒温槽に入れて1ヶ月間静置した。静置後、目視により、下記の評価基準に基づき乳化安定性を評価した。評価がBであると乳化安定性に優れているといえ、評価がAであると乳化安定性に特に優れているといえる。
A:乳化安定性が特に優れている
B:乳化安定性が優れている
C:ある程度の乳化安定性
D:合一又は分離等、乳化安定性なし
【0066】
<官能評価>
実施例及び比較例に係る水中油型乳化化粧料について、塗布時のコク感、塗布後のべたつきのなさを官能評価により評価した。官能評価においては、化粧品の専門家である評価パネルが各化粧料を肌に塗布し、下記の評価基準に基づき評価した。「B」の評価は、べたつきがない又は優れたコク感に対応し、「A」の評価は、特にべたつきのない又は特に優れたコク感に対応する。
(1)塗布後のべたつきのなさ
A:全くべたつかない
B:ほとんどべたつかない
C:ややべたつく
D:べたつく
(2)塗布時のコク感
A:特に優れたコク感
B:優れたコク感
C:ややコク感がある
D:コク感が全くない
【0067】
表1に示した結果から、水素添加レシチン、微生物由来のアニオン界面活性剤、少なくともグリセリンを含むポリオール及び多糖類を組み合わせることにより、他の比較例と比較して、乳化安定性に優れ、塗布後のべたつきが少ない水中油型乳化化粧料が得られることがわかる。また、塗布時のコクを評価したところ、ナノエマルションではない本発明の水中油型乳化化粧料(実施例1)は、同一組成でナノエマルションとした場合(実施例2)と比較して、塗布時のコク感がより優れていた。したがって、求められる性能(安定性、べたつきのなさ、及び必要に応じて塗布時のコク感)及び塗布する皮膚のタイプ(乾燥肌、混合肌又は脂性肌)に応じて、ナノエマルション組成物の実施形態、又は非ナノエマルション組成物の実施形態のいずれかが好まれる。
【0068】
水中油型乳化化粧料は、多糖類を含有する。これにより、乳化安定性と塗布時のコク感のレベルを高めることができる。多糖類としては、キサンタンガム、グアーガム、ローカストビーンガム、シロキクラゲ多糖体、カラギーナン、寒天、ヒアルロン酸ナトリウムが含まれる。多糖類としては、天然物由来の多糖類が好ましく、キサンタンガム、ヒアルロン酸ナトリウム等の微生物由来の多糖類がより好ましい。これらの多糖類は、単独で又は二種以上を組み合わせて使用することができる。水中油型乳化化粧料は、二種以上の多糖類を含有してもよい。
特定の実施形態では、水中油型乳化化粧料は、キサンタンガム、ヒアルロン酸ナトリウム及びこれらの混合物から選択される多糖類を含有する。