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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025040335
(43)【公開日】2025-03-24
(54)【発明の名称】光アイソレータ及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   G02B 27/28 20060101AFI20250314BHJP
【FI】
G02B27/28 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023147201
(22)【出願日】2023-09-11
(71)【出願人】
【識別番号】392017004
【氏名又は名称】湖北工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000213
【氏名又は名称】弁理士法人プロスペック特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】岩崎 勝博
(72)【発明者】
【氏名】木藤 克哉
【テーマコード(参考)】
2H199
【Fターム(参考)】
2H199AA02
2H199AA07
2H199AA09
2H199AA16
2H199AA32
2H199AA54
2H199AA67
2H199AA83
2H199AA90
2H199AA94
(57)【要約】
【課題】 マルチコア光ファイバ用の光アイソレータにおいて、戻り光に起因したクロストークの増加を抑制しながら当該光アイソレータを小型化する。
【解決手段】 光アイソレータ10は、複数の第1コアを備える第1光ファイバ20と、第1レンズ30と、アイソレータユニット群40、50と、第2レンズ60と、複数の第2コアを備える第2光ファイバ70と、が順方向にこの順に所定の軸線に沿って配置されて成る。第1光ファイバの端面の正面視において、第2コアから出射される複数の戻り光のそれぞれと複数の第1コアのそれぞれと、の間の距離のうち最も短い距離を最小距離と規定すると、最小距離の値は、アイソレータユニット群の軸線周りにおける回転に伴い所定の上限値と所定の下限値との間で変動し、アイソレータユニット群は、最小距離の値が、最小距離の変動幅の30%に下限値を加算した値から上限値までの範囲内の値となるような位置で固定されている。
【選択図】 図6
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の第1コアを備える第1光ファイバと、第1レンズと、アイソレータユニット群と、第2レンズと、複数の第2コアを備える第2光ファイバと、を備え、これらが順方向においてこの順に所定の軸線に沿って配置されており、前記第1光ファイバと前記第2光ファイバの少なくとも一方がマルチコア光ファイバである、マルチコア光ファイバ用の光アイソレータであって、
前記第1レンズは、前記第1光ファイバの前記第1コアから出射される任意の偏光状態にある光線のそれぞれをコリメートし、
前記アイソレータユニット群は、一対の偏光分離素子と、前記一対の偏光分離素子の間に設けられたファラデー回転子と、を含むアイソレータユニットが1個以上直列に配置されて成り、前記順方向に進行する前記光線のそれぞれを透過させる一方で、逆方向に進行する光線である戻り光のそれぞれを偏光面が互いに直交する第1光線と第2光線とに分離した状態で透過させ、
前記第2レンズは、前記アイソレータユニット群を透過した前記光線のそれぞれが前記第2光ファイバの対応する前記第2コアに入射するように前記光線のそれぞれを収束させ、
前記第1光ファイバの端面の正面視において、前記複数の戻り光のそれぞれと前記複数の第1コアのそれぞれとの間の距離のうち最も短い距離を最小距離と規定すると、
前記最小距離の値は、前記アイソレータユニット群の前記軸線周りにおける回転に伴い所定の上限値と所定の下限値との間で変動し、
前記アイソレータユニット群は、前記最小距離の値が、前記最小距離の変動幅に30%を乗じた値に前記下限値を加算した値から前記上限値までの範囲内の値となるような位置で固定されている、
光アイソレータ。
【請求項2】
請求項1に記載の光アイソレータにおいて、
前記アイソレータユニット群は、前記最小距離の値が、前記最小距離の変動幅に30%以上を満たす所定の割合を乗じた値に前記下限値を加算した値から前記上限値までの範囲内の値となるような位置で固定されている、
光アイソレータ。
【請求項3】
請求項2に記載の光アイソレータにおいて、
前記割合は60%である、
光アイソレータ。
【請求項4】
請求項1乃至請求項3の何れか一項に記載の光アイソレータにおいて、
前記最小距離の前記下限値は、前記第1光ファイバのコアピッチ以下である、
光アイソレータ。
【請求項5】
請求項4に記載の光アイソレータにおいて、
前記第1光ファイバのコアピッチと前記第2光ファイバのコアピッチは互いに等しい、
光アイソレータ。
【請求項6】
請求項1乃至請求項3の何れか一項に記載の光アイソレータにおいて、
前記第1光ファイバ及び前記第2光ファイバの中心軸線は、前記軸線上に位置している、
光アイソレータ。
【請求項7】
請求項1乃至請求項3の何れか一項に記載の光アイソレータにおいて、
前記アイソレータユニット群は2個のアイソレータユニットを含み、
前記偏光分離素子は、くさび形形状の複屈折性を有する単結晶である、
光アイソレータ。
【請求項8】
マルチコア光ファイバ用の光アイソレータの製造方法であって、
複数の第1コアを備え、その端面が斜研磨されている第1光ファイバと、前記第1コアから出射される任意の偏光状態にある光線のそれぞれをコリメートするように構成された前記第1レンズと、を含む入力側コリメータを準備する工程と、
複数の第2コアを備える第2光ファイバと、前記光線のそれぞれが前記第2光ファイバの対応する前記第2コアに入射するように前記光線のそれぞれを収束するように構成された前記第2レンズと、を含む出力側コリメータを準備する工程と、
一対の四角柱形状を呈する複屈折板と、前記一対の複屈折板の間に設けられたファラデー回転子と、を含むアイソレータユニットが1個以上直列に配置されて成り、前記入力側コリメータから前記出力側コリメータに向かう方向である順方向に進行する前記光線のそれぞれを透過させる一方で、逆方向に進行する光線である戻り光のそれぞれを偏光面が互いに直交する第1光線と第2光線とに分離した状態で透過させるように構成されたアイソレータユニット群を準備する工程と、
前記第1光ファイバと、前記第1レンズと、前記アイソレータユニット群と、前記第2レンズと、前記第2光ファイバと、が、前記順方向においてこの順に所定の軸線に沿って配置されるように、前記入力側コリメータ、前記アイソレータユニット群、及び、前記出力側コリメータを配置する工程と、
前記第1光ファイバの斜研磨方向と、前記順方向において最も前段に位置している前記複屈折板の傾斜方向と、が成す特定角度が所定の特定角度範囲内に含まれるように、前記アイソレータユニット群を前記入力側コリメータ及び前記出力側コリメータに対して相対的に固定する工程と、
を含み、
前記第1光ファイバと前記第2光ファイバの少なくとも一方がマルチコア光ファイバであり、
前記第1光ファイバの端面の正面視において、前記複数の戻り光のそれぞれと前記複数の第1コアのそれぞれとの間の距離のうち最も短い距離を最小距離と規定すると、
前記最小距離の値は、前記アイソレータユニット群の前記軸線周りにおける回転に伴い所定の上限値と所定の下限値との間で変動し、
前記特定角度範囲は、前記最小距離の変動幅に30%を乗じた値に前記下限値を加算した値から前記上限値までの範囲である特定距離範囲に対応する角度範囲である、
光アイソレータの製造方法。
【請求項9】
請求項8に記載の光アイソレータの製造方法において、
前記固定する工程は、更に、
前記特定角度が前記特定角度範囲内に含まれるように前記アイソレータユニット群を前記軸線周りに回転させながら、前記戻り光のそれぞれに起因するクロストークの最大値である逆方向最大クロストークを測定する工程と、
前記逆方向最大クロストークが所定のクロストーク閾値以下となる回転位置で前記アイソレータユニット群を固定する工程と、
を含む、
光アイソレータの製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マルチコア光ファイバ用の偏光無依存型光アイソレータ及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
光ファイバ1本当たりの伝送容量を増大させ、1ビット当たりのコストを低減する目的で、マルチコア光ファイバを用いた空間分割多重(SDM:Space Division Multiplexing)技術に関する研究開発が進められている。例えば、従来、光増幅器にはシングルコア光ファイバが用いられ、シングルコア光ファイバからマルチコア光ファイバへの変換、又は、マルチコア光ファイバからシングルコア光ファイバへの変換はファンイン/ファンアウト(FIFO:Fan-in/Fan-out)デバイスにより行われていた。しかしながら、FIFOデバイスの挿入による損失の増加により伝送容量が低下するという問題があったため、近年、マルチコア光ファイバを用いた光増幅器(以下、「MCF光増幅器」とも称する。)が提案されている(非特許文献1参照)。MCF光増幅器によればFIFOデバイスを省略することができるため、FIFOデバイスの挿入損失に起因した伝送容量の低下を抑制することができる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】若山雄太、外2名、「ファイバーブラッググレーティングベースの利得平坦化フィルターを備えたFIFOレスコア励起マルチコアファイバーアンプ」、The European Conference on Optical Communication、2022
【発明の概要】
【0004】
MCF光増幅器ではマルチコア光ファイバを用いた光アイソレータが必要であるが、戻り光によるクロストークの増加を抑制するために光アイソレータの寸法を大型化せざるを得ないという問題がある。即ち、一般に、光ファイバ用の偏光無依存型光アイソレータは、入力側の光ファイバのコアからの出射光を透過させて出力側の光ファイバの対応するコアに入射させる一方で、出力側の光ファイバの当該コアからの出射光(別言すれば、戻り光)を分離することにより戻り光が入力側の光ファイバの当該コアと結合することを抑制する(即ち、戻り光をアイソレートする)ように構成されている。このような光アイソレータをマルチコア光ファイバに用いる場合、出力側のマルチコア光ファイバの各コアからの戻り光が入力側のマルチコア光ファイバの対応する各コアと結合することは好適に抑制できるものの、当該戻り光が「対応するコア以外のコア」と結合することでクロストークが増加する可能性がある。このため、光アイソレータの寸法を大型化することにより戻り光によるクロストークの増加を抑制することが行われている。光アイソレータの寸法は、マルチコア光ファイバのコア数が多くなるほど大型化する傾向にある。なお、上述した問題はMCF光増幅器に限られず、マルチコア光ファイバ用の偏光無依存型光アイソレータ全般に共通している。
【0005】
本発明は、上述した問題に対処するためになされたものである。即ち、本発明の目的の一つは、マルチコア光ファイバ用の光アイソレータにおいて、戻り光に起因したクロストークの増加を抑制しながら当該光アイソレータを小型化することが可能な技術を提案することにある。
【0006】
1つ目の発明に係るマルチコア光ファイバ用の光アイソレータ(10)は、
複数の第1コア(C1乃至C4)を備える第1光ファイバ(20)と、第1レンズ(30)と、アイソレータユニット群(G)と、第2レンズ(60)と、複数の第2コア(C1乃至C4)を備える第2光ファイバ(70)と、を備え、これらが順方向においてこの順に所定の軸線(A)に沿って配置されて成る。前記第1光ファイバと前記第2光ファイバの少なくとも一方がマルチコア光ファイバである。
前記第1レンズは、前記第1光ファイバの前記第1コアから出射される任意の偏光状態にある光線(b1乃至b4)のそれぞれをコリメートし、
前記アイソレータユニット群は、一対の偏光分離素子(42,46、52,56)と、前記一対の偏光分離素子の間に設けられたファラデー回転子(44、54)と、を含むアイソレータユニット(40、50)が1個以上直列に配置されて成り、前記順方向に進行する前記光線のそれぞれを透過させる一方で、逆方向に進行する光線である戻り光(br1乃至br4)のそれぞれを偏光面が互いに直交する第1光線(br11乃至br41)と第2光線(br12乃至br42)とに分離した状態で透過させ、
前記第2レンズは、前記アイソレータユニット群を透過した前記光線のそれぞれが前記第2光ファイバの対応する前記第2コアに入射するように前記光線のそれぞれを収束させ、
前記第1光ファイバの端面の正面視において、前記複数の戻り光のそれぞれと前記複数の第1コアのそれぞれとの間の距離のうち最も短い距離を最小距離(dmin)と規定すると、
前記最小距離の値は、前記アイソレータユニット群の前記軸線周りにおける回転に伴い所定の上限値(dminu)と所定の下限値(dminl)との間で変動し、
前記アイソレータユニット群は、前記最小距離の値が、前記最小距離の変動幅に30%を乗じた値に前記下限値を加算した値から前記上限値までの範囲内の値となるような位置で固定されている。
【0007】
2つ目の発明に係るマルチコア光ファイバ用の光アイソレータ(10)の製造方法は、
複数の第1コア(C1乃至C4)を備え、その端面が斜研磨されている第1光ファイバ(20)と、前記第1コアから出射される任意の偏光状態にある光線(b1乃至b4)のそれぞれをコリメートするように構成された前記第1レンズ(30)と、を含む入力側コリメータ(Cin)を準備する工程と、
複数の第2コア(C1乃至C4)を備える第2光ファイバ(70)と、前記光線のそれぞれが前記第2光ファイバの対応する前記第2コアに入射するように前記光線のそれぞれを収束するように構成された前記第2レンズ(60)と、を含む出力側コリメータ(Cout)を準備する工程と、
一対の四角柱形状を呈する複屈折板(42,46、52,56)と、前記一対の複屈折板の間に設けられたファラデー回転子(44、54)と、を含むアイソレータユニット(40、50)が1個以上直列に配置されて成り、前記入力側コリメータから前記出力側コリメータに向かう方向である順方向に進行する前記光線のそれぞれとを透過させる一方で、逆方向に進行する光線である戻り光(br1乃至br4)のそれぞれを偏光面が互いに直交する第1光線(br11乃至br41)と第2光線(br12乃至br42)とに分離した状態で透過させるように構成されたアイソレータユニット群(G)を準備する工程と、
前記第1光ファイバと、前記第1レンズと、前記アイソレータユニット群と、前記第2レンズと、前記第2光ファイバと、が、前記順方向においてこの順に所定の軸線(A)に沿って配置されるように、前記入力側コリメータ、前記アイソレータユニット群、及び、前記出力側コリメータを配置する工程と、
前記第1光ファイバの斜研磨方向と、前記順方向において最も前段に位置している前記複屈折板の傾斜方向と、が成す特定角度が所定の特定角度範囲内に含まれるように、前記アイソレータユニット群を前記入力側コリメータ及び前記出力側コリメータに対して相対的に固定する工程と、
を含む。
この製造方法では、前記第1光ファイバと前記第2光ファイバの少なくとも一方がマルチコア光ファイバである。
前記第1光ファイバの端面の正面視において、前記複数の戻り光のそれぞれと前記複数の第1コアのそれぞれとの間の距離のうち最も短い距離を最小距離(dmin)と規定すると、
前記最小距離の値は、前記アイソレータユニット群の前記軸線周りにおける回転に伴い所定の上限値(dminu)と所定の下限値(dminl)との間で変動し、
前記特定角度範囲は、前記最小距離の変動幅に30%を乗じた値に前記下限値を加算した値から前記上限値までの範囲である特定距離範囲に対応する角度範囲である。
【0008】
本発明によれば、マルチコア光ファイバ用の光アイソレータにおいて、戻り光に起因したクロストークの増加を抑制しながら当該光アイソレータを小型化することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1A】本発明の実施形態に係る光アイソレータの側面図であり、順方向における光路の一例を示す図である。
図1B】光アイソレータの平面図であり、順方向における光路の一例を示す図である。
図1C】光アイソレータの側面図であり、逆方向における光路の一例を示す図である。
図1D】光アイソレータの平面図であり、逆方向における光路の一例を示す図である。
図2】入力側のマルチコア光ファイバの端面の正面図である。
図3】出力側のマルチコア光ファイバの端面の正面図である。
図4A図2の正面図に基準状態における戻り光の位置を重畳的に示した図である。
図4B図2の正面図に、アイソレータユニット群を基準状態から軸線周りに回転角φだけ回転したときの戻り光の位置を重畳的に示した図である。
図5】分離量sと、距離dmin及び回転角φと、の関係を規定したグラフである。
図6】条件Aに従って、回転角φと、距離dmin及び逆方向最大クロストークXTrmaxの絶対値と、の関係を規定したグラフである。
図7】条件Bに従って、回転角φと、距離dmin及び逆方向最大クロストークXTrmaxの絶対値と、の関係を規定したグラフである。
図8】条件Cに従って、回転角φと、距離dmin及び逆方向最大クロストークXTrmaxの絶対値と、の関係を規定したグラフである。
図9】条件Cに用いられるマルチコア光ファイバの正面図である。
図10】順方向及び逆方向のクロストークの波長依存特性を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、図面を参照して本発明の実施形態に係る光アイソレータ10について説明する。光アイソレータ10は、偏光無依存型、即ち、入射光線の偏光状態に関わらず挿入損失が変化しないタイプの光アイソレータである。図1A及び図1Cは、光アイソレータ10の側面図であり、図1B及び図1Dは、光アイソレータ10の平面図である。図1A乃至図1Dに示すように、光アイソレータ10は、マルチコア光ファイバ20と、レンズ30と、アイソレータユニット群Gと、レンズ60と、マルチコア光ファイバ70と、を備える(以下、マルチコア光ファイバを「MCF」とも称する。)。これらの部材は、軸線Aに沿って上記の順に配置されている。光アイソレータ10には、直交座標系が設定されている。z軸は、MCF20からMCF70に向かう方向が正方向となるように軸線Aと平行に延びている。y軸は、z軸と直交しており、図1A及び図1Cにおいては紙面上方向が正方向となるように延びている。x軸は、y軸及びz軸と直交しており、図1B及び図1Dにおいては紙面上方向が正方向となるように延びている。
【0011】
本明細書では、+z軸方向を光アイソレータ10の順方向と規定し、-z軸方向を光アイソレータ10の逆方向と規定している。このため、MCF20は入力側のマルチコア光ファイバとして機能し、MCF70は出力側のマルチコア光ファイバとして機能する。
図1A及び図1Bでは、入力側のMCF20から出射された光線(厳密には、後述するコアC1からの出射光線)の順方向における光路を示し、図1C及び図1Dでは、出力側のMCF70から出射された光線(厳密には、後述するコアC1からの出射光線)の逆方向における光路を示す。なお、出力側のMCF70から出射される光線とは、光アイソレータ10の順方向における後段に配置された各光学部品において反射された光線(いわゆる戻り光)である。
【0012】
本明細書では、図を見易くするために、特定の部材(例えば、MCF20及び70)の寸法及び光線の角度等を変更して図示している。MCF20及びMCF70は、それぞれ「第1マルチコア光ファイバ」及び「第2マルチコア光ファイバ」の一例に相当する。レンズ30及びレンズ60は、それぞれ「第1レンズ」及び「第2レンズ」の一例に相当する。
【0013】
MCF20は円柱状であり、少なくともその+z軸方向の端部における中心軸線は、軸線Aと一致している。MCF20の当該端部は、図示しないフェルールに挿通されて保持されている。MCF20の端面20a及びフェルールの端面は一括して斜研磨されており、その研磨角度は例えば8°である。ここで、任意のMCFの端面を正面視した場合において、「対応するレンズから最も離間している位置である遠位端」から「対応するレンズに最も近接している位置である近位端」に向かう方向を「斜研磨方向」と規定すると、MCF20の斜研磨方向は+y軸方向である(図1A参照)。
【0014】
図2は、端面20aの正面図(即ち、端面20aを中心軸線に沿って見た図)である。図2に示すように、MCF20は、4つのコアC1乃至C4と、これらのコアC1乃至C4を取り囲む共通のクラッドCLと、を備える。コアC1乃至C4は、端面20aの中心を中心とした正方形の頂点に位置しており、コアピッチは44μmである。コアC1乃至C4は、MCF20の中心軸線と平行な方向に延在している。なお、MCF20のモードフィールド径は10.6μmである。
【0015】
図1A及び図1Bに戻って説明を続ける。レンズ30は、焦点距離が2.5mmのコリメートレンズであり、より詳細には、回転対称な曲面を有する非球面レンズである。レンズ30の光軸は、軸線A上に位置している。なお、レンズ30の曲面は、各コアC1乃至C4からの光線をコリメート可能であれば、非回転対称であってもよい。また、レンズ30は、球面レンズ又はGRINレンズであってもよいし、片面が平坦なレンズであってもよい。
【0016】
MCF20が収容されたフェルールと、レンズ30と、によりコリメータが構成されている。このコリメータは入力側コリメータCinとして機能する。
【0017】
アイソレータユニット群Gは、2個のアイソレータユニット40及び50が直列に接続されて成る。アイソレータユニット40は、軸線Aに沿って配置された一対の複屈折板42及び46と、これら一対の複屈折板42及び46の間に設けられたファラデー回転子44と、を含む。アイソレータユニット50は、アイソレータユニット40に対して順方向後段に位置しており、軸線Aに沿って配置された一対の複屈折板52及び56と、これら一対の複屈折板52及び56の間に設けられたファラデー回転子54と、を含む。
【0018】
複屈折板42、46、52及び56は、何れもルチル(TiO2)を材料とするくさび形形状の複屈折性を有する単結晶であり、互いに同一の光学特性を有する。複屈折板42、46、52及び56は、断面が直角台形の四角柱であり、これらの大きさ及び形状は互いに同一である。複屈折板42、46、52及び56は、「偏光分離素子」の一例に相当する。なお、複屈折板42、46、52及び56の断面形状は直角台形に限られず、任意の矩形状であってもよい。また、複屈折性を有する単結晶には、ルチル以外を材料とする単結晶が用いられてもよい。更に、複屈折板42、46、52及び56には、複屈折性を有する単結晶に限られず、複屈折性を有する他の光学要素が用いられてもよい。
【0019】
複屈折板42は、複屈折板46に対して順方向前段に位置している。複屈折板42は、側周面を構成する4つの面として、面42a、42b、42c及び42dを有する。面42a及び42bは互いに対向しており、面42c及び42dは互いに対向している。面42bはxy平面と平行であり、面42aは面42bに対し所定のテーパ角(例えば、5°)だけ傾斜している。複屈折板42は、面42a及び42bがそれぞれ順方向に進行する光線の入射面及び出射面となるように配置されている。面42cの幅(z軸方向の長さ)は、面42dの幅よりも狭い。即ち、面42cは幅狭面であり、面42dは幅広面である。
【0020】
複屈折板46は、側周面を構成する4つの面として、面46a、46b、46c及び46dを有する。面46a及び46bは互いに対向しており、面46c及び46dは互いに対向している。面46bはxy平面と平行であり、面46aは面46bに対し上記テーパ角だけ傾斜している。複屈折板46は、面46b及び46aがそれぞれ順方向に進行する光線の入射面及び出射面となるように配置されている。面46cの幅は、面46dの幅よりも狭い。即ち、面46cは幅狭面であり、面46dは幅広面である。
【0021】
上記の説明から明らかなように、アイソレータユニット40内では、傾斜面である面42a及び46aが外側を向いており、垂直面である面42b及び46bが内側を向いている。ここで、幅狭面(面42c又は46c)から幅広面(面42d又は46d)に向かう方向を「傾斜方向」と規定する(図1Aにおいては、複屈折板42の傾斜方向は-y軸方向であり、複屈折板46の傾斜方向は+y軸方向である。)。この場合、複屈折板42及び46は、両者の傾斜方向が180°を成すように配置されている。特に、本実施形態では、面42aのテーパ角は面46aのテーパ角と等しい。このため、複屈折板42及び46は、面42aと面46aとが互いに平行となるように配置されているということもできる。また、複屈折板42の光学軸及び複屈折板46の光学軸はそれぞれ異なる方向に延びており、両者の成す角度は45°である。
【0022】
ファラデー回転子44は、入射光線の偏光面を特定方向(例えば、順方向においては時計回りであり、逆方向においては反時計回り)に45°だけ回転させる。
【0023】
複屈折板52は、複屈折板56に対して順方向前段に位置している。アイソレータユニット50内における複屈折板52の構成は、アイソレータユニット40内における複屈折板42の構成と同一である。また、アイソレータユニット50内における複屈折板56の構成は、アイソレータユニット40内における複屈折板46の構成と同一である。このため、アイソレータユニット50内では、傾斜面である面52a及び56aが外側を向いており、垂直面である面52b及び56bが内側を向いている。また、複屈折板52及び56は、両者の傾斜方向が180°を成すように配置されている。特に、本実施形態では、面52aのテーパ角は面56aのテーパ角と等しい。このため、複屈折板52及び56は、面52aと面56aとが互いに平行となるように配置されているということもできる。更に、複屈折板52の光学軸及び複屈折板56の光学軸はそれぞれ異なる方向に延びており、両者の成す角度は45°である。
【0024】
ファラデー回転子54は、入射光線の偏光面を上記特定方向とは反対の反特定方向(例えば、順方向においては反時計回りであり、逆方向においては時計回り)に45°だけ回転させる。
【0025】
アイソレータユニット40及び50は、複屈折板46の光学軸と複屈折板52の光学軸(隣接する複屈折板の光学軸同士)が直交する位置関係となるように配置されている。即ち、アイソレータユニット群G内では、隣接するアイソレータユニットは、「光線の進行方向における前段のアイソレータユニットの後段の複屈折板の光学軸」と「光線の進行方向における後段のアイソレータユニットの前段の複屈折板の光学軸」とが直交する位置関係となるように配置されている。これにより、前段のアイソレータユニットにおいて分離されて出射される分離光線のそれぞれが後段のアイソレータユニットにおいて更に分離されることを抑制できるという効果が得られる(後述)。なお、当該効果が得られる限り、ファラデー回転子54が入射光線の偏光面を回転させる方向はファラデー回転子44の方向と同一であってもよい。
【0026】
レンズ60は、焦点距離が2.5mmのコリメートレンズであり、より詳細には、回転対称な曲面を有する非球面レンズである。レンズ60の光軸は、軸線A上に位置している。なお、レンズ60の曲面は、コリメート光を収束可能であれば、非回転対称であってもよい。また、レンズ60は、球面レンズ又はGRINレンズであってもよいし、片面が平坦なレンズであってもよい。
【0027】
MCF70は円柱状であり、少なくともその-z軸方向の端部における中心軸線は、軸線Aと一致している。MCF70の当該端部は、図示しないフェルールに挿通されて保持されている。MCF70の端面70a及びフェルールの端面は一括して斜研磨されており、その研磨角度は例えば8°である。また、MCF70の斜研磨方向は-x軸方向である(図1B参照)。即ち、本実施形態では、MCF70の斜研磨方向は、MCF20の斜研磨方向に対して90°だけずれている。但し、MCF20及び70の斜研磨方向が成す角はこれに限られない。
【0028】
図3は、端面70aの正面図(即ち、端面70aを中心軸線に沿って見た図)である。図3に示すように、MCF70は、4つのコアC1乃至C4と、これらのコアC1乃至C4を取り囲む共通のクラッドCLと、を備える。コアC1乃至C4は、端面70aの中心を中心とした正方形の頂点に位置しており、コアピッチは44μmである。即ち、MCF20のコアピッチとMCF70のコアピッチは互いに等しい。コアC1乃至C4は、MCF70の中心軸線と平行な方向に延在している。
【0029】
図1A及び図1Bに戻って説明を続ける。レンズ60と、MCF70が収容されたフェルールと、によりコリメータが構成されている。このコリメータは出力側コリメータCoutとして機能する。
【0030】
入力側コリメータCin、アイソレータユニット群G、及び、出力側コリメータCoutは、図示しないスリーブに収容され、その両端がゴム封止される。ゴム封止された両端からはMCF20及び70がその外部に延びている。本明細書において「光アイソレータ10を小型化する」とは、このスリーブのサイズを小さくする(特に、径方向に小さくする)ことを意味する。
【0031】
次に、順方向及び逆方向における光路について説明する。なお、図を見易くするため、図1A及び図1Bでは、MCF20の各コアC1乃至C4(図2参照)からそれぞれ出射される光線b1乃至b4のうち、コアC1からの光線b1のみ図示しており、図1C及び図1Dでは、MCF70の各コアC1乃至C4(図3参照)からそれぞれ出射される光線(戻り光)br1乃至br4のうち、コアC1からの光線br1のみ図示している。
【0032】
まず、順方向においては、図1A及び図1Bに示すように、MCF20の各コアC1乃至C4を伝搬してきた任意の偏光状態にある光線b1乃至b4は、端面20aからレンズ30に向けて出射される。これらの光線b1乃至b4は、進行するにつれて発散する発散光であり、端面20aが斜研磨されていることにより軸線Aに対して所定の角度だけ傾斜してレンズ30に入射する。レンズ30は、これらの入射光線b1乃至b4をそれぞれコリメート(平行化)する。コリメートされた光線b1乃至b4は、レンズ30への入射位置及び入射角度に応じた出射角度でそれぞれ出射され、アイソレータユニット40に入射する。複屈折板42は、これらの入射光線b1乃至b4のそれぞれを、偏光面が互いに直交する第1光線b11乃至b41と、第2光線b12乃至b42と、に分離する(図1A及び図1Bでは、第1光線b11及び第2光線b12のみ図示)。複屈折板42から出射された第1光線b11乃至b41及び第2光線b12乃至b42は、ファラデー回転子44により偏光面が特定方向に45°回転され、複屈折板46を透過してアイソレータユニット50に入射する。アイソレータユニット50に入射するまでは、第1光線b11乃至b41が常光線であり、第2光線b12乃至b42が異常光線である。
【0033】
上述したように、複屈折板46の光学軸と複屈折板52の光学軸とは直交している。このため、第1光線b11乃至b41及び第2光線b12乃至b42は、これ以上分離されることなくアイソレータユニット50内を進行する。これにより、アイソレータユニット50からの出射光線の数が増加することを抑制できる。加えて、アイソレータユニット50に入射すると、第1光線b11乃至b41は常光線から異常光線へと変化し、第2光線b12乃至b42は異常光線から常光線へと変化する。これにより、アイソレータユニット40を透過した直後に第1光線b11乃至b41と第2光線b12乃至b42との間に生じていた伝搬遅延が解消される。以下では、第1光線及び第2光線を単に「光線」とも称する。なお、光線b11乃至b41及び光線b12乃至b42は、ファラデー回転子54により偏光面がそれぞれ反特定方向に回転される。
【0034】
複屈折板56を透過した光線b11乃至b41及び光線b12乃至b42は、レンズ60に入射する。レンズ60は、これらの光線b11乃至b41及び光線b12乃至b42を収束させる。レンズ60及びMCF70は、レンズ60からの出射光線b11乃至b41及び光線b12乃至b42が、斜研磨されたMCF70の端面70aに適切な入射角度で入射するとともに、端面70a上で収束するような位置関係となるようにそれぞれ配置されている。このため、光線b11及びb12は、対応するコアC1に収束し、光線b21及びb22は、対応するコアC2に収束し、光線b31及びb32は、対応するコアC3に収束し、光線b41及びb42は、対応するコアC4に収束する。この構成によれば、光アイソレータ10の順方向における結合損失を極めて低くすることができる。
【0035】
次に、逆方向においては、図1C及び図1Dに示すように、MCF70の各コアC1乃至C4を伝搬してきた戻り光である光線br1乃至br4は、端面70aからレンズ60に向けて出射され、軸線Aに対して所定の角度だけ傾斜してレンズ60に入射する。レンズ60によりコリメートされた光線br1乃至br4は、レンズ60への入射位置及び入射角度に応じた出射角度でそれぞれ出射され、アイソレータユニット50に入射する。複屈折板56は、これらの入射光線br1乃至br4のそれぞれを、偏光面が互いに直交する第1戻り光線br11乃至br41と、第2戻り光線br12乃至br42と、に分離する(図1C及び図1Dでは、第1戻り光線br11及び第2戻り光線br12のみ図示)。複屈折板56から出射された第1戻り光線br11乃至br41及び第2戻り光線br12乃至br42は、ファラデー回転子54によりこれらの偏光面がそれぞれ反特定方向に45°回転され、複屈折板52を透過してアイソレータユニット40に入射する。第1戻り光線br11乃至br41は、複屈折板52に入射すると常光線から異常光線へと変化する。第2戻り光線br12乃至br42は、複屈折板52に入射すると異常光線から常光線へと変化する。
【0036】
アイソレータユニット40では、第1戻り光線br11乃至br41及び第2戻り光線br12乃至br42はこれ以上分離されることなく進行し、ファラデー回転子44によりこれらの偏光面が特定方向にそれぞれ45°回転される。第1戻り光線br11乃至br41は、複屈折板46に入射すると異常光線から常光線へと変化し、複屈折板42に入射すると常光線から異常光線へと変化する。第2戻り光線br12乃至br42は、複屈折板46に入射すると常光線から異常光線へと変化し、複屈折板42に入射すると異常光線から常光線へと変化する。複屈折板42を透過した光線br11乃至br41及び光線br12乃至br42は、レンズ30によりそれぞれ屈折されてMCF20又はその近傍に到達する。
【0037】
図4Aは、光アイソレータ10の構成部材が図1C及び図1Dに示すような位置関係で配置されているときのMCF20の端面20aの正面図である。別言すれば、図4Aは、MCF20の斜研磨方向が+y軸方向を向いており、複屈折板42の傾斜方向が-y軸方向を向いているときの端面20aの正面図である。図4Aでは、逆方向に進行してきた光線br11乃至br41及び光線br12乃至br42の位置を重畳的に示している。図4Aに示すように、MCF70のコアC1乃至C4から出射された光線br1乃至br4の分離光線(br11,br12)、(br21,br22)、(br31,br32)及び(br41,br42)は、何れもMCF20のコアC1乃至C4からそれぞれ等距離だけ分離している。これらの分離光線の分離量sは互いに等しい。戻り光がこのように分離されることにより、戻り光が対応するコアに結合することが好適に抑制され、高いアイソレーションを実現できる。この方法は、光アイソレータがシングルコア光ファイバに用いられる場合には適切に機能する。しかしながら、この方法では戻り光が他のコア(対応するコア以外のコア)と結合する可能性については全く考慮されていないため、MCF用の光アイソレータ(即ち、光アイソレータ10)に用いられる場合は戻り光に起因したクロストーク(逆方向クロストーク)が増大する可能性があり、光アイソレータを大型化せざるを得ないという問題があった。例えば、図4Aの例では、光線br22(MCF70のコアC2からの戻り光)はMCF20の対応するコアC2から離間しているため高いアイソレーションを実現できているが、その一方でコアC4に非常に近接しているため、光線br22に起因したコアC4のクロストークが増大する可能性がある。
【0038】
そこで、本願発明者らは、MCF用の光アイソレータにおいて、戻り光に起因したクロストークの増加を抑制しながら当該光アイソレータを小型化することが可能な技術を検討した。本明細書では、戻り光に起因したクロストークXTrを「MCF70の任意のコアCj(j:1~4の整数)から出射されて逆方向に入力される光線のパワーPinj」に対する「当該光線がMCF20の他のコアCk(k:jを除く1~4の整数)と結合して逆方向に出力されるときのパワーPoutk」の比率として規定している。なお、パワーPoutkは、常光線と異常光線の2つのパワーPoutkのうち大きい方が用いられる。例えば、j=1のとき、「Pout2/Pin1」、「Pout3/Pin1」及び「Pout4/Pin1」の3個のクロストークXTrが測定され得る。即ち、クロストークXTrは、全部で12個測定され得る。本願発明者らは、これら12個のクロストークXTrの最大値である逆方向最大クロスロークXTrmaxの値を低減できればクロストークXTrの増加を好適に抑制できると考えた(以下では、逆方向最大クロストークを単に「最大クロストーク」とも称する)。
【0039】
以下では、光線br11乃至br41と光線br12乃至br42とが互いに分離している方向を「分離方向」と規定する。また、光線br11乃至br41及び光線br12乃至br42が図4Aに示す位置に分布しているときを「基準状態」と規定し、基準状態におけるy軸と分離方向とが成す角を「基準角θ」と規定する。図4Aの例では、基準角θ=-45°である。更に、MCF20の端面20aの正面視において、光線br11乃至br41及び光線br12乃至br42のそれぞれと、コアC1乃至C4のそれぞれとの間の距離のうち最も短い距離を「距離dmin」と規定する。図4Aの例では、距離dminは、光線br22とコアC4との距離(又は、光線br41とコアC2との距離)である。
【0040】
ここで、アイソレータユニット群Gを軸線A周りに基準状態から角度φだけ回転すると、図4Bに示すように、光線br11乃至br41及び光線br12乃至br42も、対応するコアC1乃至C4を中心として角度φだけ回転する。即ち、アイソレータユニット群Gの回転角は、「任意の1組の分離光線の基準状態における分離方向と、回転後の当該分離光線の分離方向と、が成す角」に等しい。本願発明者らはこの点に着目し、アイソレータユニット群Gを軸線A周りに回転させることにより、距離dminが周期的に変化するという知見を得た。そして、距離dminが比較的大きい値となるようにアイソレータユニット群Gを基準状態から回転させることにより最大クロストークXTrmaxを低減できると考えた。なお、本実施形態では、-z軸方向から見て反時計回りにアイソレータユニット群Gを回転させている。但し、回転方向はこれに限られない。
【0041】
図5は、光アイソレータ10を用いて、分離量sと、距離dmin及び回転角φと、の関係を規定したグラフである。このグラフでは、回転角φを増減させる過程で距離dminが最大となるときの回転角φ及び距離dminをプロットしている。このグラフによれば、分離量sが比較的に小さい範囲では、回転角φによらず、分離量sが大きくなるほど距離dminが増加している。また、分離量sがある程度大きくなると、分離量sの増加に伴い距離dminが減少している。これは、分離量sが大きくなるにつれて分離光線の到達位置が他のコア(対応するコア以外のコア)に接近していくためであると考えられる。分離量sが更に大きくなると、距離dminも増加している。これは、分離量sの増大に伴って分離光線の到達位置も他のコアから離間していくためであると考えられる。一方、距離dminの最大値を与える回転角φは、距離dminの増加に伴い大きくなっている。以上より、距離dminを増大させるためには、分離量sを大きくすればよいことが分かる。しかしながら、分離量sはレンズ30及びレンズ60の焦点距離及び複屈折板42、46、52及び56の分離角に依存するため、分離量sを大きくしようとすると光アイソレータ10が大型化してしまう。
【0042】
そこで、本願発明者らは、「光アイソレータ10の小型化」と「最大クロストークXTrmaxの低減」とを両立させるために、分離量sが156μmとなるように光アイソレータ10の構成部材の位置関係を調整し、回転角φと、距離dmin及び最大クロストークXTrmaxと、の関係を調査した。距離dminについては計算値(理論値)を用い、最大クロストークXTrmaxについては測定値を用いた。以下、この調査条件を「条件A」と称する。条件Aによる調査結果を図6に示す。なお、図6では、説明の便宜上、最大クロストークXTrmaxをその絶対値で示した。これは、後述する図7及び図8についても同様である。
【0043】
加えて、本願発明者らは、分離量s、距離dmin及び最大クロストークXTrmaxの関係をより詳細に調べるために、調査条件を変えて2通りの測定を行った。1つ目の調査条件である条件Bでは、レンズ30及びレンズ60の代わりに焦点距離が1.8mmのレンズを使用した。分離量sは114μmであり、基準角θは-45°であった。条件Bによる調査結果を図7に示す。一方、2つ目の調査条件である条件Cでは、レンズ30及びレンズ60の代わりに焦点距離が1.8mmのレンズを使用した。加えて、MCF20及びMCF70の代わりに、MCF120(図9参照)を使用した。ここで、図9に示すように、MCF120は、7つのコアC0乃至C6と、これらのコアC0乃至C6を取り囲む共通のクラッドCLと、を備える。コアC0は軸線A上に位置しており、コアC1乃至C6は、端面220aの中心を中心とした正六角形の頂点に位置しており、コアピッチは37μmである。即ち、入力側のマルチコア光ファイバ(MCF120)のコアピッチと、出力側のマルチコア光ファイバ(MCF120)のコアピッチは互いに等しい。MCF120のモードフィールド径は10μmである。分離量sは114μmであり、基準角θは-45°であった。条件Cによる調査結果を図8に示す。
【0044】
図6乃至図8のグラフによれば、何れの条件A乃至Cにおいても、距離dminは、回転角φの変化に伴い360°の範囲内で周期的に変動している。具体的には、条件A及びBでは距離dminは90°周期で変動しており、条件Cでは距離dminは60°周期で変動している。これは、MCFのコア配置が条件A、Bでは4回対称であり(360°/4=90°)、条件Cでは6回対称である(360°/6=60°)ことによるものであると考えられる。条件Bでは、条件Aと比較して、距離dminの上限値dminu及び下限値dminlがそれぞれ小さくなっている。これは、条件Bの分離量s(=114μm)が条件Aの分離量s(=156μm)より小さいためであると考えられる。また、条件Cでは、条件Aと比較して、上限値dminu及び下限値dminlがそれぞれ小さくなっている。これは、条件Cの分離量s(=114μm)が条件Aの分離量sより小さいことに加え、両者のコア数及びコア配置(コアピッチを含む)が互いに異なっているためであると考えられる。
【0045】
更に、条件B及びCでは、回転角φの変化に伴う|XTrmax|の挙動は距離dminの挙動とよく一致しているが、条件Aでは、回転角φの所定の角度範囲(0°≦φ≦15°及び75°≦φ≦90°)においてのみ|XTrmax|の挙動と距離dminの挙動が一致しており、それ以外の角度範囲(15°<φ<75°)においては両者の挙動が一致していない。これは、|XTrmax|が大きくなるほど(即ち、XTrmaxが小さくなるほど)、様々な外的要因(例えば、迷光)による影響が大きくなるからであると考えられる。今回の測定により、外的要因がXTrmaxの値に影響を及ぼし始めるのは|XTrmax|が50dBを超えてからであることが確認された。また、|XTrmax|が50dB以下の場合は、距離dminが大きくなるほど|XTrmax|が大きくなる(即ち、XTrmaxを低減できる)ことが確認された。なお、条件B及びCの結果を条件Aに適用すれば、回転角φが15°<φ<75°を満たす場合(別言すれば、dmin≧25μmの場合)においては、|XTrmax|は50dBより大きくなる(XTrmaxを-50dB未満に低減できる)と推測される。特に、回転角φが22.5°≦φ≦67.5°を満たす場合(別言すれば、dmin≧33μmの場合)、|XTrmax|は60dBを十分に超える(XTrmaxを-60dB以下に低減できる)ことが推測される。
【0046】
本願発明者らは、上記調査結果に基づき、回転角φを、距離dminの値が、「中間値dminmから上限値dminuまでの範囲内の値」となるように設定することにより、距離dminを比較的に大きくすることができ、結果としてXTrmaxを好適に低減できると考えた。なお、中間値dminmは、上限値dminuと下限値dminlとの中間の値である。以下では、中間値dminmから上限値dminuまでの範囲を距離dminの「特定距離範囲」とも称する。
【0047】
また、本願発明者らは、分離量sを設定する際は、「下限値dminlが入力側のMCFのコアピッチpin以下となるような値」に設定することとした。具体的には、条件Aでは分離量sは156μmであるが、これは、下限値dminl(=15.8μm)がMCF20のコアピッチpin(=44μm)以下となるような分離量s(図5参照)の範囲から選択された値である。同様に、条件Bでは分離量sは114μmであるが、これは、下限値dminl(=5.2μm)がMCF20のコアピッチpin(=44μm)以下となるような分離量sの範囲から選択された値である。条件Cでは分離量sは114μmであるが、これは、下限値dminl(=7.1μm)がMCF120のコアピッチpin(=37μm)以下となるような分離量sの範囲から選択された値である。
【0048】
分離量sをこのように設定したのは以下の理由による。即ち、そもそも、本発明は、MCF用の光アイソレータでは寸法を小型化すると逆方向クロストークXTrが増大する傾向にあるという問題に鑑みてなされた発明である。逆方向クロストークXTrを評価する基準の1つとして、順方向クロストークXTが挙げられる。ここで、順方向クロストークXTは、「順方向に進行してきた光線がMCF70の対応するコアCjと結合して順方向に出力されるときのパワーPoutj」に対する「当該光線がMCF70の他のコアCi(i:jを除く1~4の整数)と結合して順方向に出力されるときのパワーPouti」の比率として規定される周知のパラメータである。「逆方向最大クロストークXTrmax(別言すれば、最も評価の低い逆方向クロストークXTr)が順方向クロストークXT以下であること」は、XTrmaxの増加を適切に抑制できていることを示す1つの評価基準となり得る。ここで、任意の回転角φにおいて距離dminがコアピッチpinより大きい(dmin>pin)場合、XTrmax<XTが成立する(即ち、上記評価基準を満たす)ため、回転角φを制御する必要性が低くなる。このため、上記評価基準を満たすことを目的とした場合、本発明が有用であるのは、実際には、「(下限値dminlではなく)上限値dminuがコアピッチpin以下となるような値に分離量sが設定される場合」である。しかしながら、「下限値dminlがコアピッチpin以下となるような値に分離量sが設定される場合」であっても、従来と比較して「光アイソレータ10の小型化」と「最大クロストークXTrmaxの低減」を十分に両立できる。また、逆方向最大クロストークXTrmaxの評価基準はそもそも上記基準に限られず、他の評価基準が採用され得る。以上より、設計の自由度を高く確保する観点から、分離量sを「dminl≦pin」が成立するような値に設定(限定)することとした。
【0049】
なお、分離量sの設定範囲は上記に限られない。例えば、分離量sは、「下限値dminl」が「コアピッチpinに100%以上の所定の割合を乗算した値」以下となるような値に設定されてもよい。この割合は、例えば120%であってもよいし、150%であってもよい。この割合が大きくなるほど設計の自由度が高くなる。一方、この割合が(100%以上の範囲内で)小さくなるほど、光アイソレータ10をより小型化できる。
【0050】
本願発明者らは、上記検討結果を検証するために、条件Aを満たす光アイソレータ10の回転角φを22.5°に設定し、最大クロストークXTrmaxを含む様々な光学特性を測定した。なお、この回転角φ=22.5°は、距離dminの中間値dminmから上限値dminuまでの範囲内から選択されたdminに対応する回転角である。
【0051】
図10は、12個全てのクロストークXTr(逆方向クロストークXTr)と、順方向に進行する光線に起因した12個のクロストークXT(順方向クロストークXT)と、の波長依存特性を示すグラフである。図10のグラフによれば、波長λが1525nm≦λ≦1570nmを満たす範囲においては、順方向及び逆方向の合計24個のクロストークXT及びXTrの全てが-50dB未満であることが確認された。
【0052】
また、MCF20の各コアC1乃至C4について、-5℃から70℃までの温度範囲におけるアイソレーションの波長依存特性及び挿入損失ILの波長依存特性についても調査した。挿入損失ILの測定にはカットバック法を用いた。その結果、波長が1550nm且つ温度が25℃のときにアイソレーションが60dBを超えたが、波長が1550nmの場合は温度が高くなるにつれてアイソレーションが低下し、温度が25℃の場合は波長が大きくなるにつれてアイソレーションが低下することが確認された。これは、ファラデー回転子44及び54の特性によるものであり、シングルコア光ファイバ用の光アイソレータにも同様の傾向がある。また、挿入損失ILは0.24dB≦IL≦0.44dBの範囲であり、シングルコア光ファイバ用の光アイソレータの挿入損失ILと同等であった。
【0053】
その他、偏波依存損失、リターンロス及び偏波モード分散についても調査した結果、何れもシングルコア光ファイバ用の光アイソレータの偏波依存損失、リターンロス及び偏波モード分散と同等であることが確認された。
【0054】
また、回転角φ=22.5°で固定された光アイソレータ10の寸法は、外径5.5mm×29mmであり、シングルコア光ファイバ用の光アイソレータと同等の寸法であった。この寸法は、従来のマルチコア光ファイバ用の光アイソレータの寸法(例えば、41mm×14mm×14mm)よりも大幅に小さい。
【0055】
続いて、光アイソレータ10の製造方法について説明する。光アイソレータ10を製造する際は、まず、入力側コリメータCinと、出力側コリメータCoutと、アイソレータユニット群Gと、をそれぞれ準備する。次に、MCF20と、レンズ30と、アイソレータユニット群Gと、レンズ60と、MCF70と、が順方向においてこの順に軸線Aに沿って配置されるように、入力側コリメータCin、アイソレータユニット群G、及び、出力側コリメータCoutを配置する。
【0056】
次に、MCF20の斜研磨方向と、複屈折板42(別言すれば、順方向において最も前段に位置している複屈折板)の傾斜方向と、が成す特定角度θsが後述する所定の特定角度範囲内に含まれるように、アイソレータユニット群Gを入力側及び出力側コリメータCin及びCoutに対して相対的に固定する。ここで、特定角度範囲とは、上記特定距離範囲に対応する角度範囲である。なお、本実施形態では、コリメータCin、Cout、及び、アイソレータユニット群Gを、上述した図示しないスリーブ内に溶接することにより固定する。光アイソレータ10は、このようにして製造される。
【0057】
なお、アイソレータユニット群Gを固定する位置は、最大クロストークXTrmaxの測定値に基づいて決定されてもよい。具体的には、まず、特定角度θsが特定角度範囲を逸脱しない範囲内でアイソレータユニット群Gを軸線A周りに回転させながら、戻り光に起因する最大クロストークXTrmaxを測定する。例えば、条件Aの光アイソレータ10では、最大クロストークXTrmaxは図6に示すように90°周期で変動する。その後、最大クロストークXTrmaxが所定のクロストーク閾値XTth以下となる回転位置(即ち、回転角φ)でアイソレータユニット群Gを固定する。クロストーク閾値XTrthには、例えば、距離dminの中間値dminmに対応するクロストークXTrの理論値が採用され得る。
【0058】
以上説明したように、本実施形態に係るMCF用の光アイソレータ10によれば、その寸法を低減するために分離量sを減少させても、回転角φを調整して距離dminをできるだけ大きい値に設定することにより、最大クロストークXTrmaxの増加を抑制することができる。従って、逆方向のクロストーク(戻り光に起因したクロストーク)XTrの増加を抑制しながら光アイソレータ10を小型化することができる。また、クロストークXTr以外の光学特性についてもシングルコア光ファイバ用の光アイソレータと同等の光学特性を実現することができる。
【0059】
以上、実施形態に係る光アイソレータ及びその製造方法について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的を逸脱しない限り、種々の変更が可能である。
【0060】
例えば、アイソレータユニット群Gは、dminの値が、中間値dminmから上限値dminuまでの範囲内から選択された値となるような位置で固定される構成に限られない。例えば、当該選択値は、dminが、「dminの変動幅(=dminu-dminl)に30%以上を満たす所定の割合を乗じた値に下限値dminlを加算した値」から「上限値dminu」までの範囲Rから選択された値でもよい。この場合、範囲Rが「特定距離範囲」に相当する。この構成によっても、基準状態(φ=0°)と比較してクロストークXTrの増加を適切に抑制できる。また、この割合は、例えば40%に設定されてもよいし、それより大きい値(例えば、60%又は80%)に設定されてもよい。割合が高くなるほど、クロストークXTrの増加をより適切に抑制できる。
【0061】
また、MCF20及び70のコア配置は回転対称に限られず、非回転対称であってもよい。この場合、距離dminは360°周期で変動する。
【0062】
また、入力側又は出力側の光ファイバの一方には、1つのコアを備える複数本のシングルコア光ファイバ(SCF)が束ねられたバンドル光ファイバが用いられてもよい。バンドル光ファイバが用いられる場合、各SCFのコアの中心を結んで構成される多角形の辺の長さが「コアピッチ」に相当する。
【0063】
また、アイソレータユニット群Gが含むアイソレータユニットの個数は2個に限られない。アイソレータユニット群Gは、1個のアイソレータユニットを含むように構成されてもよいし、3個以上の直列に配置されたアイソレータユニットを含むように構成されてもよい。
【符号の説明】
【0064】
10:光アイソレータ、20:マルチコア光ファイバ、30:レンズ、40:アイソレータユニット、50:アイソレータユニット、60:レンズ、70:マルチコア光ファイバ
図1A
図1B
図1C
図1D
図2
図3
図4A
図4B
図5
図6
図7
図8
図9
図10