(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025040345
(43)【公開日】2025-03-24
(54)【発明の名称】医療システムおよび液体循環システム
(51)【国際特許分類】
A61M 1/00 20060101AFI20250314BHJP
A61M 5/145 20060101ALI20250314BHJP
【FI】
A61M1/00 137
A61M5/145 500
A61M1/00 140
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023147225
(22)【出願日】2023-09-11
(71)【出願人】
【識別番号】000109543
【氏名又は名称】テルモ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100098796
【弁理士】
【氏名又は名称】新井 全
(74)【代理人】
【識別番号】100121647
【弁理士】
【氏名又は名称】野口 和孝
(74)【代理人】
【識別番号】100187377
【弁理士】
【氏名又は名称】芳野 理之
(72)【発明者】
【氏名】北岡 孝史
【テーマコード(参考)】
4C066
4C077
【Fターム(参考)】
4C066AA10
4C066BB01
4C066CC01
4C066EE06
4C066EE14
4C066FF01
4C066HH02
4C066HH12
4C066HH22
4C066QQ35
4C066QQ72
4C066QQ92
4C077AA16
4C077BB10
4C077DD10
4C077DD11
4C077DD12
4C077DD16
4C077DD25
4C077EE02
4C077EE04
4C077JJ04
4C077JJ05
4C077JJ08
4C077JJ16
4C077JJ19
4C077JJ24
4C077KK27
4C077PP07
4C077PP16
(57)【要約】
【課題】頭蓋内圧の変動を抑えつつ脳の治療領域に液体を効率的に送達できる医療システムおよび液体循環システムを提供すること。
【解決手段】医療システム2は、体腔内に液体を注入せず、かつ、液体を体腔内から排出し、かつ、体腔内に配置され拡張および収縮が可能なバルーン54を拡張する第1期間と、体腔内に液体を注入し、かつ、液体を体腔内から排出せず、かつ、バルーン54を収縮する第2期間と、を設定し、第1期間と第2期間とを交互に繰り返す制御を実行する制御部21を備える。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象者の脳脊髄液が存在する体腔内に液体を注入し、前記体腔内に存在する前記液体を前記体腔内から排出する医療システムであって、
前記体腔内に前記液体を注入せず、かつ、前記液体を前記体腔内から排出し、かつ、前記体腔内に配置され拡張および収縮が可能なバルーンを拡張する第1期間と、
前記体腔内に前記液体を注入し、かつ、前記液体を前記体腔内から排出せず、かつ、前記バルーンを収縮する第2期間と、
を設定し、前記第1期間と前記第2期間とを交互に繰り返す制御を実行する制御部を備えたことを特徴とする医療システム。
【請求項2】
前記制御部は、前記第1期間において前記液体の排出と前記バルーンの前記拡張とを同時に実行し、前記第2期間において前記液体の注入と前記バルーンの前記収縮とを同時に実行することを特徴とする請求項1に記載の医療システム。
【請求項3】
前記制御部は、前記第1期間において前記バルーンの拡張量を前記液体の排出量と実質的に同じに設定し、前記第2期間において前記バルーンの収縮量を前記液体の注入量と実質的に同じに設定することを特徴とする請求項1に記載の医療システム。
【請求項4】
前記体腔内に前記液体を注入する注入カテーテルと、
前記液体を前記体腔内から排出する排出カテーテルと、
をさらに備え、
前記注入カテーテルの先端と、前記排出カテーテルの先端と、の間の距離は、前記制御の実行開始時において30センチメートル以下であることを特徴とする請求項1に記載の医療システム。
【請求項5】
液体を脳脊髄液が存在する体腔内に注入し、前記体腔外に排出することで前記液体を循環させる液体循環システムであって、
前記液体を前記体腔内に注入する注入カテーテルと、
前記液体を前記体腔内から前記体腔外に排出する排出カテーテルと、
前記体腔内に配置され、拡張および収縮が可能なバルーンと、
前記注入カテーテルに接続された送液ラインと、
前記排出カテーテルに接続された排液ラインと、
前記送液ライン上に設けられ、前記液体を移動させる第1送液部と、
前記排液ライン上に設けられ、前記液体を移動させる第2送液部と、
前記第1送液部の動作と前記第2送液部の動作と前記バルーンの前記拡張および前記収縮とを制御する単一の制御部と、
を備えたことを特徴とする液体循環システム。
【請求項6】
ピストン駆動部さらに備え、
前記第1送液部は、前記体腔内に注入する前記液体を貯留する第1シリンジと、前記第1シリンジ内を摺動し往復移動可能な第1ピストンと、を有し、
前記第2送液部は、前記体腔内から排出された前記液体を貯留する第2シリンジと、前記第2シリンジ内を摺動し往復移動可能な第2ピストンと、を有し、
前記第1ピストンおよび前記第2ピストンは、互いに連結されており、互いに連結された状態で前記ピストン駆動部により往復移動することを特徴とする請求項5に記載の液体循環システム。
【請求項7】
前記注入カテーテルおよび前記排出カテーテルに接続されたシステム回路部と、
前記システム回路部の下流側に設けられ、前記システム回路部が前記第1シリンジに接続される流路と、前記第1シリンジが前記注入カテーテルに接続される流路と、を切り替え可能な第1流路切替部と、
前記システム回路部の上流側に設けられ、前記排出カテーテルが前記第2シリンジに接続される流路と、前記第2シリンジが前記システム回路部に接続される流路と、を切り替え可能な第2流路切替部と、
をさらに備えたことを特徴とする請求項6に記載の液体循環システム。
【請求項8】
前記注入カテーテルおよび前記排出カテーテルに接続されたシステム回路部と、
前記システム回路部の下流側に設けられ、前記第1シリンジが前記注入カテーテルに接続される流路と、前記第1シリンジが前記バルーンに接続される流路と、を切り替え可能な第1流路切替部と、
前記システム回路部の下流側に設けられ、前記システム回路部が前記第1シリンジに接続される流路と、前記第1シリンジが前記バルーンに接続される流路と、を切り替え可能な第2流路切替部と、
前記システム回路部の上流側に設けられ、前記排出カテーテルが前記第2シリンジに接続される流路と、前記第2シリンジが前記システム回路部に接続される流路と、を切り替え可能な第3流路切替部と、
前記システム回路部の上流側に設けられ、前記第2シリンジが前記システム回路部に接続される流路と、前記第2シリンジが前記バルーンに接続される流路と、を切り替え可能な第4流路切替部と、
をさらに備えたことを特徴とする請求項6に記載の液体循環システム。
【請求項9】
前記第1送液部は、前記液体を前記注入カテーテルに供給する第1ポンプであり、
前記第2送液部は、前記液体を前記排出カテーテルを介して前記体腔外に送出する第2ポンプであることを特徴とする請求項5に記載の液体循環システム。
【請求項10】
前記第1ポンプの下流側に設けられ、前記第1ポンプが前記注入カテーテルに接続される流路と、前記第1ポンプが前記バルーンに接続される流路と、を切り替え可能な第1流路切替部と、
前記第2ポンプの上流側に設けられ、前記排出カテーテルが前記第2ポンプに接続される流路と、前記バルーンが前記第2ポンプに接続される流路と、を切り替え可能な第2流路切替部と、
をさらに備えたことを特徴とする請求項9に記載の液体循環システム。
【請求項11】
前記バルーンを拡張するための拡張用流体を貯留するバルーン用流体貯留部を有し、前記バルーン用流体貯留部内の前記拡張用流体を前記バルーン内に注入する動作と、前記拡張用流体を前記バルーン内から前記バルーン用流体貯留部内に送る動作と、を行うバルーン駆動部をさらに備え、
前記バルーン駆動部は、前記拡張用流体を前記バルーンに注入して前記バルーンを拡張し、前記拡張用流体を前記バルーンから排出して前記バルーンを収縮することを特徴とする請求項5に記載の液体循環システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、脳疾患の治療に用いられる医療システムおよび液体循環システムに関する。
【背景技術】
【0002】
脳疾患として例えば脳梗塞が発症すると、脳細胞に酸素を供給する血流が遮断され、脳細胞にダメージが発生するおそれがある。したがって、脳梗塞が発症した場合には、血流の早期再灌流が必要である。脳梗塞の治療の1つとして、酸素化した脳脊髄液などの高酸素化溶液を患者の脳脊髄液が存在する体腔内に注入し、酸素が欠乏している脳細胞に酸素を直接供給することが提案されている。
【0003】
特許文献1には、1つのルーメンで液体の生体への注入及び生体からの吸引を行うことのできるカテーテルシステムが開示されている。特許文献1に記載されたカテーテルシステムは、カテーテルと、管本体のルーメンを介して注入口に流体を供給する注入駆動部と、吸引口から管本体のルーメンを介して流体を吸引する吸引駆動部と、頭蓋内圧の状態を検出する検出部と、注入駆動部及び吸引駆動部を制御する制御部と、を有する。カテーテルの吸引口は、カテーテルの注入口が開状態の際に閉状態である。また、カテーテルの注入口は、カテーテルの吸引口が開状態の際に閉状態である。そして、制御部は、検出部で検出された頭蓋内圧の状態が一定の範囲となるように、注入駆動部と吸引駆動部とを交互に動作させる。
【0004】
ここで、脳疾患の治療を目的として高酸素化溶液などの液体が体腔内に注入される場合、頭蓋内圧を一定範囲に保つ必要がある。頭蓋内圧の正常な範囲は、5mmHg以上、15mmHg以下程度である。頭蓋内から脊髄腔内までの圧力が大幅に変動すると、脳に障害を与えるおそれがある。例えば、頭蓋内圧が20mmHg以上に上昇すると、頭蓋内圧亢進症(すなわち脳組織が負荷を受けることで発症する様々な症状)が発生するおそれがある。一方で、頭蓋内圧が5mmHg以下に低下すると、低髄液圧症候群(すなわち脳組織の位置を保てなくなることで発症する様々な症状)が発生するおそれがある。
【0005】
脳脊髄液が存在する体腔(例えばクモ膜下腔および脳室)は、ほぼ閉鎖空間である。そのため、頭蓋内圧を一定範囲に保つためには、体腔内の脳脊髄液の量を一定範囲に保つ必要がある。体腔内の脳脊髄液の量を一定範囲に保つためには、体腔内に注入した液体の量と同じ量の脳脊髄液を速やかに排出することが求められる。
【0006】
しかし、例えば腰椎付近からクモ膜下腔に挿入された注入用カテーテルおよび排出用カテーテルを介してポンプにより液体を循環させて液体を体腔内に注入する場合、注入のタイミングおよび排出のタイミングによっては、注入用カテーテルの注入口から体腔内に注入された液体が排出用カテーテルの排出口に向かう流れ(すなわち局所定常流)が形成される。これにより、注入用カテーテルの注入口から脳の治療領域に向かう液体の流れがわずかとなり、脳の治療領域に液体を効率的に送達できないという問題がある。
【0007】
この問題を解決するために、注入用カテーテルの注入口を脳の付近に配置し、排出用カテーテルの排出口を腰椎付近に配置することで、注入口と排出口との間の距離を十分に取り、局所定常流の影響を極力抑えることが考えられる。しかしながら、脳の付近までカテーテルを挿入しようとした場合、周囲に脊髄のような神経組織が走行しているとともに湾曲しているクモ膜下腔にカテーテルを長距離に渡って挿入することとなる。このようなカテーテルのクモ膜下腔深部への挿入の際には神経組織にカテーテルが触れることを極力避けるのが望ましいため、カテーテルの挿入長は可能な限り短くすることが望ましい。
【0008】
また、例えば腰椎付近からクモ膜下腔に挿入された注入用カテーテルおよび排出用カテーテルを介してポンプにより液体を循環させて液体を体腔内に注入する場合、体腔内の脳脊髄液の量を一定範囲に保つためには、注入用カテーテルおよび排出用カテーテルのそれぞれの内腔の断面積、内腔の表面性状による流体抵抗、および長さなどのパラメータをコントロールし、注入量および排出量を一定にする必要がある。しかし、カテーテルの製造時のばらつき、および使用時のカテーテルの内腔の断面形状の変形などにより、前述したパラメータにばらつきが生ずる。そのため、注入量および排出量を一定にすることは困難である。
【0009】
また、液体の循環回路は、感染防止のために閉鎖系であることが望ましい。しかし、液体の循環回路が閉鎖系である場合、キャビテーション現象により気泡が循環回路内で発生することにより液体の全体容量が治療初期の容量よりも増加したり、脳脊髄液を酸素化する過程において水分が蒸発により失われることにより液体の全体容量が治療初期の容量よりも減少したりするおそれがある。閉鎖系の循環回路において液体の全体容量が増加したり減少したりすると、頭蓋内圧を一定範囲に保つことができないおそれがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、前記事情に鑑みてなされたものであり、頭蓋内圧の変動を抑えつつ脳の治療領域に液体を効率的に送達できる医療システムおよび液体循環システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、(1)対象者の脳脊髄液が存在する体腔内に液体を注入し、前記体腔内に存在する前記液体を前記体腔内から排出する医療システムであって、前記体腔内に前記液体を注入せず、かつ、前記液体を前記体腔内から排出し、かつ、前記体腔内に配置され拡張および収縮が可能なバルーンを拡張する第1期間と、前記体腔内に前記液体を注入し、かつ、前記液体を前記体腔内から排出せず、かつ、前記バルーンを収縮する第2期間と、を設定し、前記第1期間と前記第2期間とを交互に繰り返す制御を実行する制御部を備えたことを特徴とする医療システムである。
【0013】
上記(1)の医療システムによれば、制御部は、第1期間において、体腔内に液体を注入せず、かつ、液体を体腔内から排出し、さらに、体腔内に配置されたバルーンを液体と同体積分だけ拡張する。これにより、制御部は、液体を体腔内から排出する第1期間において、閉鎖空間としての体腔の容積の変動を抑えることができるので、頭蓋内圧の変動を抑えられる。また、制御部は、第2期間において、体腔内に液体を注入し、かつ、液体を体腔内から排出せず、さらに、体腔内に配置されたバルーンを液体と同体積分だけ収縮する。これにより、制御部は、体腔内に液体を注入する第2期間において、閉鎖空間としての体腔の容積の変動を抑えることができるので、頭蓋内圧の変動を抑えられる。
【0014】
なお、第1期間および第2期間において、液体排出量とバルーン拡張量との差、もしくは液体注入量とバルーン収縮量との差などによって容積変動がわずかに生じる場合がある。この場合の容積変動量は、対象者の体腔が自ら持つ容積変動能力、すなわち体腔内圧を維持するための順応性(コンプライアンス)の許容領域内での容積変動量である。そのため、減少または増加した液体の量に対して生体が追従して変形することで、頭蓋内圧を一定に維持しながら上記容積変動を打ち消すことができる。
【0015】
また、上記(1)の医療システムにおいて、バルーンの拡張収縮を補助的に使用することも可能である。液体の出納量に対して、それよりも小さい体積でバルーンが拡張収縮することによって、体腔内における容積変動を一部分のみ打ち消し、容積変動量が生体の有するコンプライアンスで対処可能な領域に収まるように抑制する。これによって、高コンプライアンス領域を超えるより大きな液量での出納が可能になるほか、バルーンが液体の出納量と同体積分だけ拡張収縮する場合と同様の効果を得ることができる。
【0016】
そして、制御部は、第1期間と第2期間とを交互に繰り返す制御を実行する。そのため、液体の注入および液体の排出が同時に行われることはなく、注入口から体腔内に注入された液体が排出口に向かう局所定常流の発生を抑えることができる。そのため、体腔内に注入された液体は、注入方向および注入流速に従い脳の治療領域に向かって流れる。また、体腔内に注入された液体と体腔内の脳脊髄液との間の抵抗により生ずる乱流により、液体および脳脊髄液が撹拌される。さらに、液体に含まれる酸素等の濃度差による拡散が進行する。これにより、脳の治療領域に液体を効率的に送達できる。
【0017】
(2)上記(1)の医療システムにおいて、前記制御部は、前記第1期間において前記液体の排出と前記バルーンの前記拡張とを同時に実行し、前記第2期間において前記液体の注入と前記バルーンの前記収縮とを同時に実行することが好ましい。
【0018】
上記(2)の医療システムによれば、制御部は、第1期間において液体の排出とバルーンの拡張とを同時に実行する。そのため、制御部は、液体を体腔内から排出する第1期間において、体腔の容積の変動をより一層抑えることができる。そのため、第1期間における頭蓋内圧の変動がより一層抑えられる。また、制御部は、第2期間において液体の注入とバルーンの収縮とを同時に実行する。制御部は、体腔内に液体を注入する第2期間において、体腔の容積の変動をより一層抑えることができる。そのため、第2期間における頭蓋内圧の変動がより一層抑えられる。
【0019】
(3)上記(1)または(2)の医療システムにおいて、前記制御部は、前記第1期間において前記バルーンの拡張量を前記液体の排出量と実質的に同じに設定し、前記第2期間において前記バルーンの収縮量を前記液体の注入量と実質的に同じに設定することが好ましい。
【0020】
上記(3)の医療システムによれば、制御部は、第1期間においてバルーンの拡張量を液体の排出量と実質的に同じに設定する。そのため、体腔内で減少した液体の量(すなわち体積)が、バルーンが体腔内で拡張した量(すなわち体積)と実質的に同じになる。そのため、体腔の容積は、第1期間において実質的に変化しない。これにより、第1期間における頭蓋内圧の変動がより確実に抑えられる。また、制御部は、第2期間においてバルーンの収縮量を液体の注入量と実質的に同じに設定する。そのため、体腔内で増加した液体の量(すなわち体積)が、バルーンが体腔内で収縮した量(すなわち体積)と実質的に同じになる。そのため、体腔の容積は、第2期間において実質的に変化しない。これにより、第2期間における頭蓋内圧の変動がより確実に抑えられる。
【0021】
(4)上記(1)~(3)のいずれかの医療システムは、前記体腔内に前記液体を注入する注入カテーテルと、前記液体を前記体腔内から排出する排出カテーテルと、をさらに備え、前記注入カテーテルの先端と、前記排出カテーテルの先端と、の間の距離は、前記制御の実行開始時において30センチメートル以下であることが好ましい。
【0022】
上記(4)の医療システムによれば、液体の注入および液体の排出が同量で交互に繰り返されるため、注入カテーテルの先端と、排出カテーテルの先端と、の間の距離が制御の実行開始時において30センチメートル以下であっても、注入口から体腔内に注入された液体が排出口に向かう局所定常流の発生を抑えることができる。これにより、注入カテーテルを生体内に深く挿入することなく、脳の治療領域に液体を効率的に送達できる。
【0023】
本発明は、(5)液体を脳脊髄液が存在する体腔内に注入し、前記体腔外に排出することで前記液体を循環させる液体循環システムであって、前記液体を前記体腔内に注入する注入カテーテルと、前記液体を前記体腔内から前記体腔外に排出する排出カテーテルと、前記体腔内に配置され、拡張および収縮が可能なバルーンと、前記注入カテーテルに接続された送液ラインと、前記排出カテーテルに接続された排液ラインと、前記送液ライン上に設けられ、前記液体を移動させる第1送液部と、前記排液ライン上に設けられ、前記液体を移動させる第2送液部と、前記第1送液部の動作と前記第2送液部の動作と前記バルーンの前記拡張および前記収縮とを制御する単一の制御部と、を備えたことを特徴とする液体循環システムである。
【0024】
上記(5)の液体循環システムによれば、注入カテーテルおよび排出カテーテルを含む回路(すなわち生体回路部)と、注入カテーテルに接続された送液ラインおよび排出カテーテルに接続された排液ラインを含む回路(すなわちシステム回路部)と、に分割されている。また、送液ライン上に設けられ液体を移動させる第1送液部と、排液ライン上に設けられ液体を移動させる第2送液部と、が生体回路部およびシステム回路部において共有の送液部として機能する。液体循環システムがこのような構成を有することにより、システム回路部が、生体側の状況を維持しつつ、キャビテーション現象により生ずる液体の全体容量の増加および蒸発により生ずる液体の全体容量の減少に対応することができ、生体回路部内の液体の増減を極小化することができる。また、制御部は、第1送液部の動作と第2送液部の動作と体腔内に配置されたバルーンの拡張および収縮とを制御することにより、閉鎖空間としての体腔の容積の変動を抑えることができるので、頭蓋内圧の変動を抑えられる。
【0025】
(6)上記(5)の液体循環システムは、ピストン駆動部さらに備え、前記第1送液部は、前記体腔内に注入する前記液体を貯留する第1シリンジと、前記第1シリンジ内を摺動し往復移動可能な第1ピストンと、を有し、前記第2送液部は、前記体腔内から排出された前記液体を貯留する第2シリンジと、前記第2シリンジ内を摺動し往復移動可能な第2ピストンと、を有し、前記第1ピストンおよび前記第2ピストンは、互いに連結されており、互いに連結された状態で前記ピストン駆動部により往復移動することが好ましい。
【0026】
上記(6)の液体循環システムによれば、第1シリンジ内を摺動し往復移動可能な第1ピストンと、第2シリンジ内を摺動し往復移動可能な第2ピストンと、が互いに連結された状態でピストン駆動部により往復移動する。これにより、第1送液部および第2送液部は、生体回路部およびシステム回路部において一体化された共有の1つの送液部として機能する。これにより、液体循環システムは、システムの簡易化を図りつつ、脳の治療領域に液体を効率的に送達できる。
【0027】
(7)上記(6)の液体循環システムは、前記注入カテーテルおよび前記排出カテーテルに接続されたシステム回路部と、前記システム回路部の下流側に設けられ、前記システム回路部が前記第1シリンジに接続される流路と、前記第1シリンジが前記注入カテーテルに接続される流路と、を切り替え可能な第1流路切替部と、前記システム回路部の上流側に設けられ、前記排出カテーテルが前記第2シリンジに接続される流路と、前記第2シリンジが前記システム回路部に接続される流路と、を切り替え可能な第2流路切替部と、をさらに備えたことが好ましい。
【0028】
上記(7)の液体循環システムによれば、制御部は、液体の注入とバルーンの収縮とのタイミングおよび速度、ならびに液体の排出とバルーンの拡張とのタイミングおよび速度をより適切に設定できる。これにより、頭蓋内圧の変動がより一層抑えられる。
【0029】
(8)上記(6)の液体循環システムは、前記注入カテーテルおよび前記排出カテーテルに接続されたシステム回路部と、前記システム回路部の下流側に設けられ、前記第1シリンジが前記注入カテーテルに接続される流路と、前記第1シリンジが前記バルーンに接続される流路と、を切り替え可能な第1流路切替部と、前記システム回路部の下流側に設けられ、前記システム回路部が前記第1シリンジに接続される流路と、前記第1シリンジが前記バルーンに接続される流路と、を切り替え可能な第2流路切替部と、前記システム回路部の上流側に設けられ、前記排出カテーテルが前記第2シリンジに接続される流路と、前記第2シリンジが前記システム回路部に接続される流路と、を切り替え可能な第3流路切替部と、前記システム回路部の上流側に設けられ、前記第2シリンジが前記システム回路部に接続される流路と、前記第2シリンジが前記バルーンに接続される流路と、を切り替え可能な第4流路切替部と、をさらに備えたことが好ましい。
【0030】
上記(8)の液体循環システムによれば、体腔内に注入する液体と、前記バルーンを拡張するための液体と、を共有できる。これにより、制御部は、複雑な制御を行わなくとも、液体の注入とバルーンの収縮とのタイミングおよび速度、ならびに液体の排出とバルーンの拡張とのタイミングおよび速度をより適切に設定できる。
【0031】
(9)上記(5)の液体循環システムにおいて、前記第1送液部は、前記液体を前記注入カテーテルに供給する第1ポンプであり、前記第2送液部は、前記液体を前記排出カテーテルを介して前記体腔外に送出する第2ポンプであることが好ましい。
【0032】
上記(9)の液体循環システムによれば、制御部は、第1ポンプおよび第2ポンプのそれぞれを制御し、バルーンの拡張および収縮をさらに制御することにより、液体の注入とバルーンの収縮とのタイミングおよび速度、ならびに液体の排出とバルーンの拡張とのタイミングおよび速度をより適切に設定できる。これにより、頭蓋内圧の変動がより一層抑えられる。
【0033】
(10)上記(9)の液体循環システムは、前記第1ポンプの下流側に設けられ、前記第1ポンプが前記注入カテーテルに接続される流路と、前記第1ポンプが前記バルーンに接続される流路と、を切り替え可能な第1流路切替部と、前記第2ポンプの上流側に設けられ、前記排出カテーテルが前記第2ポンプに接続される流路と、前記バルーンが前記第2ポンプに接続される流路と、を切り替え可能な第2流路切替部と、をさらに備えたことが好ましい。
【0034】
上記(10)の液体循環システムによれば、体腔内に注入する液体と、前記バルーンを拡張するための液体と、を共有できる。これにより、制御部は、複雑な制御を行わなくとも、液体の注入とバルーンの収縮とのタイミングおよび速度、ならびに液体の排出とバルーンの拡張とのタイミングおよび速度をより適切に設定できる。
【0035】
(11)上記(5)~(10)のいずれかの液体循環システムは、前記バルーンを拡張するための拡張用流体を貯留するバルーン用流体貯留部を有し、前記バルーン用流体貯留部内の前記拡張用流体を前記バルーン内に注入する動作と、前記拡張用流体を前記バルーン内から前記バルーン用流体貯留部内に送る動作と、を行うバルーン駆動部をさらに備え、前記バルーン駆動部は、前記拡張用流体を前記バルーンに注入して前記バルーンを拡張し、前記拡張用流体を前記バルーンから排出して前記バルーンを収縮することが好ましい。
【0036】
上記(11)の液体循環システムによれば、バルーン駆動部がさらに設けられている。バルーン駆動部は、バルーンを拡張するための拡張用流体を貯留するバルーン用流体貯留部を有し、バルーン用流体貯留部内の拡張用流体をバルーン内に注入する動作と、拡張用流体をバルーン内から排出する動作と、を行う。バルーン駆動部は、拡張用流体をバルーンに注入してバルーンを拡張する。一方で、バルーン駆動部は、拡張用流体をバルーンから排出してバルーンを収縮する。これにより、バルーン駆動部は、バルーンの拡張および収縮を個別に制御できる。そのため、液体の注入とバルーンの収縮とのタイミングおよび速度、ならびに液体の排出とバルーンの拡張とのタイミングおよび速度が、より適切に設定される。これにより、頭蓋内圧の変動がより一層抑えられる。
【発明の効果】
【0037】
本発明によれば、頭蓋内圧の変動を抑えつつ脳の治療領域に液体を効率的に送達できる医療システムおよび液体循環システムを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【
図1】本発明の実施形態に係る医療システムの概要を表す模式図である。
【
図2】本実施形態の医療デバイスの例を表す模式図である。
【
図3】本実施形態の注入カテーテルの注入口近傍を表す平面図である。
【
図4】本実施形態の排出カテーテルの排出口近傍を表す平面図である。
【
図5】
図4に表した切断面A-Aにおける断面図である。
【
図6】本実施形態の医療デバイスの他の例を表す模式図である。
【
図7】本実施形態の医療デバイスのさらに他の例を表す模式図である。
【
図8】液体循環の開始直後に体腔内で生ずる液体の流れを説明する模式図である。
【
図9】液体循環中に体腔内で生ずる液体の流れを説明する模式図である。
【
図10】液体循環の停止後に体腔内で生ずる液体の流れを説明する模式図である。
【
図11】頭蓋内容積と頭蓋内圧との関係の一例を表すグラフである。
【
図12】本実施形態の制御による注入量と排出量とバルーン体積と体腔内液量との関係を表すグラフである。
【
図13】本実施形態の制御によって実行される第1期間を説明する模式図である。
【
図14】本実施形態の制御によって実行される第2期間を説明する模式図である。
【
図15】本実施形態の制御の注入において体腔内で生ずる液体の流れを説明する模式図である。
【
図16】本実施形態の制御の停止中において体腔内で生ずる液体の流れを説明する模式図である。
【
図17】本実施形態の制御の排出において体腔内で生ずる液体の流れを説明する模式図である。
【
図18】本実施形態に係る液体循環システムの概要を表す模式図である。
【
図19】本実施形態に係る液体循環システムの動作を説明する模式図である。
【
図20】本実施形態に係る液体循環システムの動作を説明する模式図である。
【
図21】本実施形態に係る液体循環システムの動作を説明する模式図である。
【
図22】本実施形態に係る液体循環システムの動作を説明する模式図である。
【
図23】本実施形態の第1変形例に係る液体循環システムの概要を表す模式図である。
【
図24】本変形例に係る液体循環システムの動作を説明する模式図である。
【
図25】本変形例に係る液体循環システムの動作を説明する模式図である。
【
図26】本実施形態の第2変形例に係る液体循環システムの概要を表す模式図である。
【
図27】本変形例に係る液体循環システムの動作を説明する模式図である。
【
図28】本変形例に係る液体循環システムの動作を説明する模式図である。
【
図29】本変形例に係る液体循環システムの動作を説明する模式図である。
【
図30】本変形例に係る液体循環システムの動作を説明する模式図である。
【
図31】本変形例に係る液体循環システムの動作を説明する模式図である。
【
図32】本変形例に係る液体循環システムの動作を説明する模式図である。
【
図33】本変形例に係る液体循環システムの動作を説明する模式図である。
【
図34】本変形例に係る液体循環システムの動作を説明する模式図である。
【
図35】本実施形態の第3変形例に係る液体循環システムの概要を表す模式図である。
【
図36】本変形例に係る液体循環システムの動作を説明する模式図である。
【
図37】本変形例に係る液体循環システムの動作を説明する模式図である。
【
図38】本変形例に係る液体循環システムの動作を説明する模式図である。
【
図39】本変形例に係る液体循環システムの動作を説明する模式図である。
【
図40】本変形例に係る液体循環システムの動作を説明する模式図である。
【
図41】本変形例に係る液体循環システムの動作を説明する模式図である。
【
図42】本発明者が実施した実験の概要を説明する模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0039】
以下に、本発明の好ましい実施形態を、図面を参照して詳しく説明する。
なお、以下に説明する実施形態は、本発明の好適な具体例であるから、技術的に好ましい種々の限定が付されているが、本発明の範囲は、以下の説明において特に本発明を限定する旨の記載がない限り、これらの態様に限られるものではない。また、各図面中、同様の構成要素には同一の符号を付して詳細な説明は適宜省略する。
【0040】
図1は、本発明の実施形態に係る医療システムの概要を表す模式図である。
本実施形態に係る医療システム2は、対象者の脳脊髄液(CSF:Cerebrospinal Fluid)が存在する体腔内に液体を注入し、体腔内に存在する液体を体腔内から排出する。脳脊髄液は、主にクモ膜下腔および脳室に存在する。すなわち、脳脊髄液が存在する体腔には、クモ膜下腔および脳室が含まれる。
【0041】
図1に表したように、医療システム2は、制御部21と、ポンプ22と、医療デバイス5と、を備える。制御部21は、ポンプ22に接続され、制御信号をポンプ22に送信しポンプ22の動作を制御する。ポンプ22は、制御部21から送信された制御信号に基づいて稼動し、
図1に表した矢印A1のように、医療デバイス5を介して対象者の体腔内から脳脊髄液を吸引して排出する。ポンプ22により体腔外に排出された脳脊髄液は、例えば、酸素化機構(図示しない)などにより通常の脳脊髄液の酸素濃度よりも高い酸素濃度の液体(すなわち高酸素化溶液)に生成される。そして、
図1に表した矢印A2のように、ポンプ22は、医療デバイス5を介して体腔内に液体を注入する。
【0042】
なお、体腔内に注入される液体は、高酸素化溶液に限定されるわけではない。例えば、体腔内に注入される液体は、体外循環中の脳脊髄液に薬剤が付加された薬剤を含む液体であってもよく、体外循環中に好ましくない物質を除去するようフィルターで濾過した脳脊髄液であってもよい。その他、体腔内に注入される液体は、エネルギーを照射したり、加熱したりするなど、何らかの処理を脳脊髄液に施して体腔内に戻すものであってもよい。以下の説明では、説明の便宜上、体腔内に注入される液体が高酸素化溶液である例を挙げることがある。また、治療の初期段階において、生体内に注入する液体は、脳脊髄液の代替液として、乳酸リンゲル液を使用することが出来る。本実施形態においては、脳脊髄液や乳酸リンゲル液等の人工脳脊髄液、脳脊髄液と乳酸リンゲル液の混合液などを総じて液体と表記することがある。
【0043】
図1に表したように、医療デバイス5は、排出カテーテル51と、注入カテーテル52と、バルーン54と、を有し、側臥位の状態にした腰椎付近からクモ膜下腔に挿入されて配置される。注入カテーテル52の配置される先端位置は、挿入時の安全性を配慮して、T6と呼ばれる上から6番目の胸椎付近からL1と呼ばれる上から1番目の腰椎の位置の間とすることが望ましい。例えば
図1に表した矢印A11のように、排出カテーテル51は、体腔内に存在する脳脊髄液を排出口511から吸引し体腔外に排出する。例えば
図1に表した矢印A13のように、注入カテーテル52は、脳脊髄液が存在するクモ膜下腔等の体腔内に注入口521から液体を注入する。制御部21は、体腔内に配置されたバルーン54を所定のタイミングで拡張したり収縮したりする。
【0044】
図2は、本実施形態の医療デバイスの例を表す模式図である。
図3は、本実施形態の注入カテーテルの注入口近傍を表す平面図である。
図4は、本実施形態の排出カテーテルの排出口近傍を表す平面図である。
図5は、
図4に表した切断面A-Aにおける断面図である。
【0045】
図2に表したように、本実施形態の医療デバイス5は、バルーンカテーテル54Aと、排出カテーテル51と、注入カテーテル52と、を有する。バルーンカテーテル54Aは、バルーン54を先端部に有する。
【0046】
例えば
図2に表した矢印A3のように、バルーンカテーテル54Aの基端部から供給された拡張用流体は、バルーンカテーテル54Aの内腔542を通り、バルーンカテーテル54Aの先端部に向かって流れる。そして、例えば
図2に表した矢印A4のように、バルーンカテーテル54Aの先端部に向かって流れた拡張用流体は、バルーンカテーテル54Aの先端部に形成された孔541を通ってバルーン54の内部に供給される。これにより、拡張用流体は、バルーン54を拡張する。すなわち、バルーン54が膨張する。一方で、拡張用流体がバルーン54から排出されると、バルーン54は収縮する。なお、バルーン54は、最大拡張時においてもバルーンカテーテル54Aを挿入する腰椎付近のクモ膜下腔を強くは圧迫しないように設計されるのが望ましい。
【0047】
脊髄腔の内部に脊髄が存在しているため、脊髄腔の断面積は真円形状にならない。また、脊髄腔が存在する脊椎は、全体としてゆるやかにS字状のカーブを描いているほか、加齢や外傷、疾患などによって変形する場合がある。従って、バルーン54は、ゴム又はエラストマー等の弾性材料(伸縮性材料)によって構成され、注入された拡張用流体の量に応じて体積を変動させるコンプライアントバルーンが望ましい。コンプライアントバルーンは、脊髄腔の形状に追従して変形することができる。
【0048】
バルーン54の拡張時における断面積は、前述の条件を満たす限り特に限定されないが、一般的な脊髄腔の断面積がおよそ6.7mm2~16.7mm2であることから、ほぼその半分の断面積である、3.3mm2~8.3mm2程度が好ましい。バルーン54の最大拡張時における容積は、脊髄クモ膜下腔に存在する脊髄液量(例えば約75mL)を超過しない程度が好ましく、より好ましくは3~10mL程度である。
【0049】
さらに、
図2に表したように、本実施形態において脊髄腔内に配置されるバルーン54は1個のみだが、この構成に限定されない。バルーン54は、例えば、膨張する部分が軸方向に複数設けられ、バルーンとバルーンとの間が可撓性を有する素材によって連結される構造を有してもよい。この構造を有することによって、各バルーンの軸方向の寸法(長さ)を短くすると共に、各バルーンの拡張時の外径を一定値以下に制限することができる。また、それぞれのバルーンの内部空間を独立したものとしても良く、軸方向に離れた複数の位置から拡張用流体を注入することになるため、バルーンが1つの空間のみで構成されるときに比べて、バルーン全体の拡張時の総体積を変えることなく、均一に拡張することが可能になるほか、バルーンとバルーンとの間にある連結部が変曲点となるため、脊髄腔の形状により追従しやすくなる。
【0050】
また、バルーン54は、複数の独立したバルーンカテーテルを有する構造であってもよい。それぞれのバルーンカテーテルが独立して操作可能になるため、脊髄腔の形状や断面積に合わせて隙間を埋めるようにバルーンを移動、配置できる。この構造を実施することによって、バルーン54の拡張によって脊髄の一部分を強く圧迫するリスクが低減されるため、より生体への負荷を抑えることができる。つまり、バルーン54は脊髄腔の形状や断面積に追従し、脊髄を強く圧迫しないものであればよく、その形状等は特に限定されない。
【0051】
拡張用流体は、液体であってもよく、気体であってもよい。拡張用流体としては、例えば、生理食塩水、脳脊髄液、および空気などが挙げられる。拡張用流体は、体腔内に注入される液体とは別の流体であってもよく、体腔内に注入される液体と同じ流体であってもよい。
【0052】
バルーン54の材料としては、例えばシリコンおよび天然ゴムなどのエラストマーやゴムからなる伸縮性素材(すなわちコンプライアント素材)などが挙げられる。但し、バルーン54の材料は、これだけに限定されるわけではない。
【0053】
図4に表したように、排出カテーテル51の先端部は、排出口511として開口しており、腰椎付近のクモ膜下腔に配置される。例えば
図4に表した矢印A11および矢印A12のように、排出カテーテル51は、対象者のクモ膜下腔に挿入され、腰椎付近のクモ膜下腔に存在する脳脊髄液を排出口511を通して排出カテーテル51の内腔513(
図5参照)と注入カテーテル52の外表面との間の空間53(
図5参照)に吸引する。
【0054】
また、
図4に表したように、排出カテーテル51は、複数の孔512を側面に有する。孔512は、排出カテーテル51の内腔513と、排出カテーテル51の外側と、を連通させている。例えば
図4に表した矢印A10のように、排出カテーテル51は、腰椎付近のクモ膜下腔に存在する脳脊髄液を複数の孔512を通して空間53に吸引する。なお、
図1に関して前述したように、脳脊髄液を吸引する力は、ポンプ22により与えられる。そして、
図2に表した矢印A6のように、排出カテーテル51は、脳脊髄液を空間53を通して対象者体腔外に排出する。
【0055】
注入カテーテル52の外径は、排出カテーテル51の内径よりも小さい。例えば、注入カテーテル52の外径は1.0mm~1.3mm程度が好ましく、一方で排出カテーテル51の内径は1.4mm~1.7mm程度が好ましい。注入カテーテル52は、排出カテーテル51の内腔513に配置可能である。また、注入カテーテル52は、排出カテーテル51と結合されておらず、排出カテーテル51の長手方向D1(
図4参照)に沿って排出カテーテル51の内腔513を移動可能である。排出される脳脊髄液が通過する流路は、排出カテーテル51の内腔513の内部であり、なおかつ注入カテーテル52の外側、すなわち、排出カテーテル51の内表面と注入カテーテル52の外表面との間が使用される。そのため、注入カテーテル52が内腔513に配置されたうえで、一定の空間が脳脊髄液の流路として保たれる必要がある。排出用の流路となる空間について、特に限定されないが、注入カテーテル52の流路抵抗と同等であることが好ましい。排出と注入との流路抵抗を同等にすることによって、ポンプに対する負荷を同程度にすることが可能である。排出カテーテル51の先端部が排出口511として開口しているため、
図4に表したように、注入カテーテル52の先端部は、排出カテーテル51の排出口511を通過可能である。
【0056】
これにより、注入カテーテル52の先端部は、排出カテーテル51の長手方向D1において排出カテーテル51の排出口511から露出可能とされている。排出カテーテル51の先端部と、排出カテーテル51の排出口511から露出した注入カテーテル52の先端部と、の間の長手方向D1の距離は、所定距離に調整可能である。本願明細書における「所定距離」としては、例えば0mm以上、300mm以下程度が挙げられる。これにより、患者のクモ膜下腔へカテーテルを深く挿入する際に生じるリスクを避けることができる。
【0057】
図2に表したように、注入カテーテル52の先端部は、注入口521として開口しており、排出カテーテル51の排出口511を通過してクモ膜下腔内に配置される。例えば
図2に表した矢印A5のように、注入カテーテル52の基端部から供給された液体は、注入カテーテル52の内腔523(
図5参照)を通って、注入カテーテル52の先端部に向かって流れる。そして、例えば
図2および
図3に表した矢印A13のように、注入カテーテル52は、患者のクモ膜下腔に挿入され、注入カテーテル52の内腔523を通してクモ膜下腔に存在する脳脊髄液に注入口521から液体を注入する。なお、
図1に関して前述したように、脳脊髄液に液体を注入する力は、ポンプ22により与えられる。
【0058】
なお、注入カテーテル52は、必ずしも排出カテーテル51の内腔513に配置されていなくともよい。すなわち、バルーンカテーテル54Aと、排出カテーテル51と、注入カテーテル52と、がそれぞれ別個に内腔513内に存在していてもよい。
図2に表したように、注入カテーテル52が排出カテーテル51の内腔513に配置されている場合には、生体の穿刺箇所の数を低減することができる。
【0059】
図6は、本実施形態の医療デバイスの他の例を表す模式図である。
なお、
図6に表した医療デバイス5Aの構成要素が、
図2~
図5に関して前述した医療デバイス5の構成要素と同様である場合には、重複する説明は適宜省略し、以下、相違点を中心に説明する。
【0060】
図6に表した医療デバイス5Aは、排出カテーテル51Aと、注入カテーテル52Aと、バルーン54と、が互いに一体化された構造を有する。注入カテーテル52Aは、排出カテーテル51Aの内腔513に配置され、排出カテーテル51Aに結合されている。そのため、注入カテーテル52Aは、排出カテーテル51Aの長手方向D1に沿って排出カテーテル51Aの内腔513を移動できない。バルーン54は、排出カテーテル51Aの先端部と、注入カテーテル52Aの先端部と、の間の部分であって注入カテーテル52Aの外側の部分に設けられている。
【0061】
前述したように、バルーン54は、挿入している腰椎付近の脊髄を強く圧迫しないことが望ましい。このとき、本実施形態におけるバルーン54の拡張時における断面積は、一般的な脊髄腔の断面積がおよそ6.7mm2~16.7mm2であることから、ほぼその半分の断面積である、例えば3.3mm2~8.3mm2程度が好ましい。また、長手方向D1に沿ったバルーン54の長さは1mm~300mm程度が好ましく、36mm~200mm程度が更に好ましい。
【0062】
例えば
図6に表した矢印A3のように、医療デバイス5Aの基端部から供給された拡張用流体は、医療デバイス5Aの内部に形成された内腔542Aを通り、医療デバイス5Aの先端部に向かって流れる。そして、例えば
図6に表した矢印A4のように、医療デバイス5Aの先端部に向かって流れた拡張用流体は、排出カテーテル51Aの先端部と、注入カテーテル52Aの先端部と、の間の部分に形成された孔541Aを通ってバルーン54の内部に供給される。これにより、拡張用流体は、バルーン54を拡張する。すなわち、バルーン54が膨張する。一方で、拡張用流体がバルーン54から排出されると、バルーン54は収縮する。
【0063】
例えば
図6に表した矢印A10のように、排出カテーテル51Aは、腰椎付近のクモ膜下腔に存在する脳脊髄液を複数の孔512を通して空間53に吸引する。そして、
図6に表した矢印A6のように、排出カテーテル51Aは、脳脊髄液を空間53を通して対象者体腔外に排出する。
【0064】
例えば
図6に表した矢印A5のように、注入カテーテル52Aの基端部から供給された液体は、注入カテーテル52Aの内腔523を通って、注入カテーテル52Aの先端部に向かって流れる。そして、例えば
図6に表した矢印A13のように、注入カテーテル52Aは、注入カテーテル52Aの内腔523を通してクモ膜下腔に存在する脳脊髄液に注入口521から液体を注入する。
【0065】
図7は、本実施形態の医療デバイスのさらに他の例を表す模式図である。
なお、
図7に表した医療デバイス5Bの構成要素が、
図2~
図5に関して前述した医療デバイス5の構成要素と同様である場合には、重複する説明は適宜省略し、以下、相違点を中心に説明する。
【0066】
図7に表した医療デバイス5Bは、排出カテーテル51と、注入カテーテル52Bと、バルーン54と、を有する。バルーン54は、注入カテーテル52Bの先端部に設けられている。つまり、注入カテーテル52Bは、バルーン54を先端部に有する。排出カテーテル51は、
図2~
図5に関して前述した通りである。
【0067】
注入カテーテル52Bは、排出カテーテル51の内腔513に配置され、排出カテーテル51と結合されていない。そのため、注入カテーテル52Bは、排出カテーテル51の長手方向D1に沿って排出カテーテル51の内腔513を移動可能である。排出カテーテル51の先端部が排出口511として開口しているため、
図7に表したように、注入カテーテル52Bの先端部(すなわちバルーン54が設けられた部分)は、排出カテーテル51の排出口511を通過可能である。すなわち、医療デバイス5Bは、注入カテーテル52Bとバルーン54のみが一体に形成されており、排出カテーテル51とは結合されていない構造を有する。この構造をとることによって、注入カテーテルと排出カテーテルの位置を変更することが可能となるため、患者の脊髄腔の形に合わせて注入カテーテルを配置することが可能になる。
【0068】
また、本実施形態において、排出カテーテル51の先端部と、排出カテーテル51の排出口511から露出した注入カテーテル52Bの先端部と、の間の長手方向D1の距離は、例えば0mm以上、300mm以下程度となることが好ましい。また、バルーン54の断面積は、一般的な脊髄腔の断面積がおよそ6.7mm2~16.7mm2であること、およびバルーン54とは別体で排出カテーテル51を脊髄腔内に配置することをふまえると、ほぼその半分の断面積である、例えば3.3mm2~8.3mm2程度が好ましい。バルーン54の長手方向D1に沿った長さは、例えば1mm~300mm程度、好ましくは36mm~200mmが挙げられる。これにより、注入カテーテル52Bをバルーン54の長さだけ排出カテーテル51の先端から離した位置に配置することで、バルーン54が拡張した際、バルーン54と排出カテーテル51の先端部にある排出口511とが接触して相互に干渉することなく機能を果たすことができる。
【0069】
例えば
図7に表した矢印A3のように、注入カテーテル52Bの基端部から供給された拡張用流体は、注入カテーテル52Bの内部に形成された内腔542Bを通り、注入カテーテル52Bの先端部に向かって流れる。そして、例えば
図7に表した矢印A4のように、注入カテーテル52Bの先端部に向かって流れた拡張用流体は、注入カテーテル52Bの先端部に形成された孔541Bを通ってバルーン54の内部に供給される。これにより、拡張用流体は、バルーン54を拡張する。すなわち、バルーン54が膨張する。一方で、拡張用流体がバルーン54から排出されると、バルーン54は収縮する。
【0070】
例えば
図7に表した矢印A11および矢印A12のように、排出カテーテル51は、腰椎付近のクモ膜下腔に存在する脳脊髄液を排出口511を通して空間53に吸引する。また、例えば
図7に表した矢印A10のように、排出カテーテル51は、腰椎付近のクモ膜下腔に存在する脳脊髄液を複数の孔512を通して空間53に吸引する。そして、
図7に表した矢印A6のように、排出カテーテル51は、脳脊髄液を空間53を通して対象者体腔外に排出する。
【0071】
例えば
図7に表した矢印A5のように、注入カテーテル52Bの基端部から供給された液体は、注入カテーテル52Bの内腔523を通って、注入カテーテル52Bの先端部に向かって流れる。そして、例えば
図7に表した矢印A13のように、注入カテーテル52Bは、注入カテーテル52Bの内腔523を通してクモ膜下腔に存在する脳脊髄液に注入口521から液体を注入する。
【0072】
次に、液体循環において体腔内で生ずる液体の流れを、図面を参照して説明する。
図8は、液体循環の開始直後に体腔内で生ずる液体の流れを説明する模式図である。
図9は、液体循環中に体腔内で生ずる液体の流れを説明する模式図である。
図10は、液体循環の停止後に体腔内で生ずる液体の流れを説明する模式図である。
図11は、頭蓋内容積と頭蓋内圧との関係の一例を表すグラフである。
【0073】
図8~
図10に関する説明では、
図2~
図5に関して前述した排出カテーテル51および注入カテーテル52を例に挙げる。
図8に表したように、液体循環の開始直後において、注入カテーテル52の注入口521から体腔内に注入された液体91は、
図9に関して後述するように脳脊髄液が排出カテーテル51の排出口511および孔512から排出されるときの吸引の流れが注入口521に届くまでは、例えば
図8に表した矢印A13のように前方(すなわち脳が存在する方向)に向かって流れる。前方に向かって流れる液体91の流量は、
図9に関して後述する場合と比較してやや多い。また、液体循環の開始直後の短時間では、液体に含まれる酸素および薬剤など(以下、説明の便宜上「酸素等」と称する。)の濃度差による拡散は、ほとんど生じない。
【0074】
続いて、
図9に表したように、液体循環中すなわち液体の連続循環の最中では、脳脊髄液が排出カテーテル51の排出口511および孔512から排出されるときの吸引の流れが、注入カテーテル52の注入口521に届いて影響を及ぼす。そうすると、注入カテーテル52の注入口521から排出カテーテル51の排出口511および孔512に向かう流れが定常化する。すなわち、例えば
図9に表した矢印A14および矢印A15のように、注入カテーテル52の注入口521から体腔内に注入された液体91が排出カテーテル51の排出口511および孔512に向かう局所定常流が生ずる。これにより、注入カテーテル52の注入口521から体腔内に注入された液体91は、ほとんど前方(すなわち脳が存在する方向)に流れなくなる。
【0075】
また、局所定常流の影響により、液体91に含まれる酸素等の脳側への拡散は、液体循環の開始直後と比較して減速する。局所定常流の影響により、液体91に含まれる酸素等の濃度差によって腰椎側へ拡散した液体91は、排出カテーテル51の排出口511および孔512から体腔外へ排出される。
【0076】
図10に表したように、液体循環の停止後では、液体循環中に生じていた局所定常流が無くなる。そのため、例えば
図10に表した矢印A16および矢印A17のように、液体91に含まれる酸素等の拡散が、脳側および腰椎側に向かって生ずる。
【0077】
図9に関して説明したように、液体の連続循環が実行されると、注入カテーテル52の注入口521から体腔内に注入された液体91が排出カテーテル51の排出口511および孔512に向かう局所定常流が生ずる。これにより、注入カテーテル52の注入口521から脳の治療領域に向かう液体91の流れがわずかとなり、脳の治療領域に液体91を効率的に送達することが困難になる。
【0078】
そこで、本発明者は、体腔内に液体91を注入し、かつ、液体91を体腔内から排出しないA期間と、体腔内に液体91を注入せず、かつ、液体91を体腔内から排出するB期間と、を設定し、A期間とB期間とを交互に繰り返すことで、上記局所定常流を発生させずに液体91を効率よく脳側に送達させることを検討した。また、本発明者は、A期間における液体91の注入量をB期間における液体91の排出量と実質的に同じに設定することで、元々体腔内にあった脳脊髄液量の増減を抑制し、体腔内の圧力を許容範囲内に抑制することを検討した。
【0079】
前述した検討によれば、例えばA期間では、液体91が体腔内に注入され、かつ、液体91が体腔内から排出されないため、頭蓋内容積が一時的に増加することがある。あるいは、例えばB期間では、液体91が体腔内に注入されず、かつ、液体91が体腔内から排出されるため、頭蓋内容積が一時的に減少することがある。
【0080】
ここで、脳脊髄液が存在するクモ膜下腔には、コンプライアンスが存在する。本願明細書における「コンプライアンス」とは、頭蓋内容積のある程度の変化に対してクモ膜下腔の動的な軟らかさに基づく変形等により頭蓋内圧を維持できる順応性をいう。
図11に表したように、コンプライアンスは、頭蓋内圧の変化に対する頭蓋内容積の変化(ΔV/ΔP)で表される。
図11に表したA領域すなわち高コンプライアンス領域では、クモ膜下腔は、クモ膜下腔内の液量の変化に追従して十分に変形できる。そのため、高コンプライアンス領域では、クモ膜下腔内の液量の変化が頭蓋内容積の変化と等しくなり、頭蓋内圧の変動は、ほとんど生じない。一方で、
図11に表したB領域すなわち低コンプライアンス領域では、クモ膜下腔は、クモ膜下腔内の液量の変化に追従できない。そのため、低コンプライアンス領域では、クモ膜下腔内の液量の変化が頭蓋内容積の変化よりも大きくなり、頭蓋内圧の変動が生ずる。
【0081】
頭蓋内のコンプライアンスは、対象者によって異なる。つまり、高コンプライアンス領域と低コンプライアンス領域との境界は、対象者によって異なる。そのため、頭蓋内圧が許容範囲を超えるような限界の頭蓋内容積は、不明である。
【0082】
そこで、本実施形態に係る医療システム2の制御部21は、体腔内に液体91を注入せず、かつ、液体91を体腔内から排出し、かつ、体腔内に配置されたバルーン54を拡張する第1期間と、体腔内に液体91を注入し、かつ、液体91を体腔内から排出せず、かつ、バルーン54を収縮する第2期間と、を設定し、第1期間と第2期間とを交互に繰り返す制御を実行する。これにより、頭蓋内圧の変動を抑えつつ、上記局所定常流を発生させずに液体91を効率よく脳側に送達させることを可能とした。以下、本実施形態に係る医療システム2の制御の詳細を、図面を参照して説明する。
【0083】
図12は、本実施形態の制御による注入量と排出量とバルーン体積と体腔内液量との関係を表すグラフである。
図13は、本実施形態の制御によって実行される第1期間を説明する模式図である。
図14は、本実施形態の制御によって実行される第2期間を説明する模式図である。
図15は、本実施形態の制御の注入において体腔内で生ずる液体の流れを説明する模式図である。
図16は、本実施形態の制御の停止中において体腔内で生ずる液体の流れを説明する模式図である。
図17は、本実施形態の制御の排出において体腔内で生ずる液体の流れを説明する模式図である。
【0084】
図13および
図14に関する説明では、
図6に関して前述した医療デバイス5Aを例に挙げる。
図15~
図17に関する説明では、
図2~
図5に関して前述した排出カテーテル51および注入カテーテル52を例に挙げる。
【0085】
図12に表したグラフの横軸は、時間を示している。
図12に表したグラフの縦軸は、液量の推移を表している。具体的には、
図12に表した「注入量」は、制御の実行開始時から体腔内に注入された液体91の積算量を表している。
図12に表した「排出量」は、制御の実行開始時から体腔外に排出された脳脊髄液の積算量を表している。
図12に表した「体腔内液量」は、制御の実行開始時において体腔内に存在していた脳脊髄液の変化量を表している。また、
図12に表したグラフの縦軸は、バルーン54の体積の変化を表している。
【0086】
図12に表したように、本実施形態の制御において、制御部21は、体腔内に液体91を注入せず、かつ、液体91を体腔内から排出し、かつ、体腔内に配置されたバルーン54を拡張する第1期間211と、体腔内に液体91を注入し、かつ、液体91を体腔内から排出せず、かつ、バルーン54を収縮する第2期間212と、を設定する。
【0087】
図13に表した矢印A10および矢印A6のように、第1期間211では、排出カテーテル51Aは、腰椎付近のクモ膜下腔に存在する脳脊髄液92(液体91を含む。)を複数の孔512を通して空間53に吸引し、空間53を通して対象者体腔外に排出する。また、
図13に表した矢印A3および矢印A4のように、第1期間211では、拡張用流体93が、医療デバイス5Aの基端部から供給され、内腔542Aを通り、孔541Aを通ってバルーン54の内部に供給される。これにより、バルーン54が膨張する。
【0088】
これによれば、制御部21は、脳脊髄液92(液体91を含む。)を体腔内から排出する第1期間211において、閉鎖空間としての体腔の容積の変動を抑えることができる。そのため、体腔は、高コンプライアンス領域で容積を変動させ、体腔内で減少した液体の量に追従して変形できる。そのため、第1期間211における頭蓋内圧の変動が抑えられる。
【0089】
制御部21は、第1期間211において、脳脊髄液92(液体91を含む。)の排出と、バルーン54の拡張と、を同時に実行する。また、制御部21は、第1期間211において、バルーン54の拡張量(すなわちバルーン54への拡張用流体93の注入量)を脳脊髄液92(液体91を含む。)の排出量と実質的に同じに設定する。
【0090】
これによれば、体腔内で減少した液体の量(すなわち体積)が、バルーン54が体腔内で拡張した量(すなわち体積)と実質的に同じになる。そのため、体腔の容積は、第1期間211において実質的に変化しない。これにより、第1期間211における頭蓋内圧の変動がより確実に抑えられる。
【0091】
一方で、
図14に表した矢印A5および矢印A13のように、第2期間212では、注入カテーテル52Aは、注入カテーテル52Aの基端部から供給された液体91を、内腔523を通してクモ膜下腔に存在する脳脊髄液に注入口521から注入する。また、
図14に表した矢印A7および矢印A8のように、第2期間212では、バルーン54の内部の拡張用流体93が、孔541Aを通り、内腔542Aを通って、バルーン54の外部に排出される。これにより、バルーン54が収縮する。
【0092】
これによれば、制御部21は、体腔内に液体91を注入する第2期間212において、閉鎖空間としての体腔の容積の変動を抑えることができる。そのため、体腔は、高コンプライアンス領域で容積を変動させ、体腔内で増加した液体の量に追従して変形できる。そのため、第2期間212における頭蓋内圧の変動が抑えられる。
【0093】
制御部21は、第2期間212において、液体91の注入と、バルーン54の収縮と、を同時に実行する。また、制御部21は、第2期間212において、バルーン54の収縮量(すなわちバルーン54からの拡張用流体93の排出量)を液体91の注入量と実質的に同じに設定する。
【0094】
これによれば、体腔内で増加した液体の量(すなわち体積)が、バルーン54が体腔内で収縮した量(すなわち体積)と実質的に同じになる。そのため、体腔の容積は、第2期間212において実質的に変化しない。これにより、第2期間212における頭蓋内圧の変動がより確実に抑えられる。
【0095】
そして、
図12に表したように、制御部21は、第1期間211と第2期間212とを交互に繰り返す。本実施形態に係る医療システム2の制御では、液体91の注入および排出が同時に行われることはなく、注入カテーテル52の注入口521から体腔内に注入された液体91が排出カテーテル51の排出口511に向かう局所定常流の発生を抑えることができる。
【0096】
図15に表したように、第2期間212では、注入カテーテル52の注入口521から体腔内に注入された液体91が、注入方向および注入流速に従い脳側に向かって流れる。また、例えば
図15に表した矢印A21のように、注入カテーテル52の注入口521から体腔内に注入された液体91と体腔内の脳脊髄液との間の抵抗により生ずる乱流により、液体91および脳脊髄液が撹拌される。さらに、例えば
図15に表した矢印A22および矢印A23のように、液体91に含まれる酸素等の濃度差による拡散が進行する。これにより、脳の治療領域に液体を効率的に送達できる。
【0097】
例えば
図17に表した矢印A26のように、第1期間211では、注入カテーテル52の注入口521から体腔内に注入された液体91の量と同じ量の液体91が排出カテーテル51の排出口511に向かって流れ、排出カテーテル51の排出口511に吸引される。また、注入カテーテル52の注入口521から体腔内に注入された液体91は、排出カテーテル51の排出口511に向かって全体的に引き戻される一方で、例えば
図17に表した矢印A27のように、注入方向に拡がった液体91が体腔内に残る。
【0098】
制御部21は、体腔内に液体91を注入せず、かつ、液体91を体腔内から排出しない第3期間を、第1期間211と第2期間212との間および第2期間212と第1期間211との間にさらに設定してもよい。つまり、第3期間では、体腔内への液体91の注入と、体腔内からの液体91の排出と、が同時に停止される。例えば、制御部21は、第1期間211と、第3期間と、第2期間212と、第3期間と、をこの順に繰り返す。この場合において、第3期間では、例えば
図16に表した矢印A24および矢印A25のように、液体91に含まれる酸素等の濃度差による拡散が、脳側および腰椎側に向かって第3期間の時間(すなわち停止時間)に応じて進行する。第3期間の時間は、直前の注入、または排出で生じた流れが無くなるまでであることが好ましく、具体的には1秒以上が好ましい。
【0099】
このように、本実施形態に係る医療システム2の制御では、液体91の注入および排出が同時に行われることはなく、注入カテーテル52の注入口521から体腔内に注入された液体91が排出カテーテル51の排出口511に向かう局所定常流の発生を抑えることができる。そのため、体腔内に注入された液体91は、注入方向および注入流速に従い脳の治療領域に向かって流れる。また、体腔内に注入された液体と体腔内の脳脊髄液との間の抵抗により生ずる乱流により、液体および脳脊髄液が撹拌される。さらに、液体91に含まれる酸素等の濃度差による拡散が進行する。これにより、脳の治療領域に液体を効率的に送達できる。
【0100】
以上説明したように、本実施形態に係る医療システム2によれば、体腔内で増減した液体の量(すなわち体積)が、バルーン54が体腔内で増減した量(すなわち体積)と実質的に同じになる。そのため、体腔の容積は、実質的に変化しない。これにより、頭蓋内圧の変動が抑えられる。また、体腔の容積が実質的に変化しないため、体腔は、液体91の注入量にかかわらず高コンプライアンス領域で容積を変動させ、体腔内で増減した液体の量に追従して変形できる。そのため、体腔は、液体の量のバランスが多少崩れた場合であっても、コンプライアンスにより対応できる。さらに、体腔の容積が液体91の注入量にかかわらず実質的に変化しないため、バルーン54の膨張できるスペースが許される限りにおいて、液体91の注入量を増加させることができる。
【0101】
その一方で、バルーン54の容量は負の量にすることができないため、どのタイミングにおいても、第2期間212のバルーン54収縮後におけるバルーン54に対する流体の注入量と排出量との積算の収支が負にならないように調整する必要がある。具体的には、バルーンへの注入量およびバルーンからの排出量を「(n回のバルーン注入量の合計)―(n-1回のバルーン排出量の合計)≧n回目の排出量」となるように制限される。なお、一度あたりの排出量は、脊髄腔の容積を超過しない程度であれば特に限定されず、例えば1mL~30mL程度である。一度あたりの注入量は、1mL~30mL程度、バルーン54の断面積や長手方向D1に沿って配置できる長さを考えると、より好ましくは3~10mL程度である。
【0102】
次に、本実施形態に係る液体循環システムを、図面を参照して説明する。
なお、液体循環システム3の構成要素が、
図1~
図17に関して前述した医療システム2の構成要素と同様である場合には、重複する説明は適宜省略し、以下、相違点を中心に説明する。
【0103】
本実施形態に係る液体循環システムの説明では、
図2~
図5に関して前述した医療デバイス5を例に挙げる。また、本実施形態に係る液体循環システムの説明では、例えば
図18に表したように、説明の便宜上、注入カテーテル52が排出カテーテル51の内腔513に配置されていない場合を例に挙げる。但し、
図2~
図5に関して前述したように、注入カテーテル52は、排出カテーテル51の内腔513に配置されていてもよい。
【0104】
図18は、本実施形態に係る液体循環システムの概要を表す模式図である。
本実施形態に係る液体循環システム3は、液体を身体内に注入し、身体外に排出することで液体を循環させる。身体内としては、例えば、対象者の脳脊髄液が存在する体腔内が挙げられる。本実施形態に係る液体循環システム3の説明では、身体内に注入する液体が高酸素化溶液である場合を例に挙げる。
【0105】
図18に表したように、液体循環システム3は、システム回路部31と、生体回路部32と、ポンプ部33と、を備える。
【0106】
システム回路部31は、高酸素化溶液の生成および温度調整を行うとともに、循環回路における液体の全体容量の調整を行う部分であり、制御部21と、リザーバ311と、酸素化機構312と、酸素供給源313と、熱交換器314と、を有する。
【0107】
システム回路部31は、第1駆動部23と、第2駆動部24と、第3駆動部25と、をさらに有する。本実施形態の第1駆動部23は、本発明の「ピストン駆動部」の一例である。第1駆動部23と、第2駆動部24と、第3駆動部25と、のそれぞれは、制御部21に接続されており、制御部21から送信された制御信号に基づいて稼動する。第1駆動部23、第2駆動部24および第3駆動部25としては、例えばモータなどのアクチュエータが挙げられる。なお、第1駆動部23、第2駆動部24および第3駆動部25は、ポンプ部33に設けられていてもよい。
【0108】
生体回路部32は、液体を身体内に注入するとともに液体を身体外に排出する部分であり、排出カテーテル51と、注入カテーテル52と、バルーンカテーテル54Aと、を有する。排出カテーテル51および注入カテーテル52は、ポンプ部33を介してシステム回路部31に接続されている。排出カテーテル51、注入カテーテル52およびバルーンカテーテル54Aは、
図2~
図5に関して前述した通りである。
【0109】
生体回路部32は、バルーン用シリンジ544と、バルーン用ピストン545と、第4駆動部26と、をさらに備える。本実施形態のバルーン用シリンジ544は、本発明の「バルーン用流体貯留部」の一例であり、バルーン用シリンジ544およびバルーン用ピストン545は、本発明の「バルーン駆動部」の一例である。つまり、本発明の「バルーン駆動部」は、バルーン用シリンジ544と、バルーン用ピストン545と、を有する。本実施形態の第4駆動部26は、本発明の「ピストン駆動部」の一例である。
【0110】
ポンプ部33は、システム回路部31および生体回路部32において共有の送液部として機能する。ポンプ部33は、第1シリンジ331と、第1ピストン332と、第1流路切替部333と、第2シリンジ334と、第2ピストン335と、第2流路切替部336と、を有する。前述したように、ポンプ部33は、第1駆動部23と、第2駆動部24と、第3駆動部25と、を有していてもよい。
【0111】
本実施形態の第1シリンジ331および第1ピストン332は、本発明の「第1送液部」の一例である。つまり、本発明の「第1送液部」は、第1シリンジ331と、第1ピストン332と、を有する。本実施形態の第2シリンジ334および第2ピストン335は、本発明の「第2送液部」の一例である。つまり、本発明の「第2送液部」は、第2シリンジ334と、第2ピストン335と、を有する。
【0112】
図18に表したように、酸素化機構312は、第1管41を介して第1流路切替部333に接続されている。また、酸素化機構312は、第5管45を介してリザーバ311と接続されている。さらに、酸素化機構312は、第6管46を介して酸素供給源313と接続されている。酸素化機構312は、リザーバ311から第5管45を通して供給された脳脊髄液もしくは乳酸リンゲル液等の人工脳脊髄液もしくはそれらの混合液に、酸素供給源313から第6管46を通して供給された酸素を混合して酸素化された脳脊髄液を生成する。また、酸素化機構312は、第7管47および第8管48を介して熱交換器314に接続されている。熱交換器314は、酸素化された脳脊髄液の温度調整を行う。そして、酸素化機構312は、酸素化された脳脊髄液を高酸素化溶液として第1管41を通して第1流路切替部333に供給する。本実施形態における酸素化機構312としては、血液に酸素を付加するための中空糸膜型人工肺を使用することが出来る。
【0113】
第1流路切替部333は、システム回路部31の下流側に設けられ、システム回路部31が第1シリンジ331に接続される流路と、第1シリンジ331が注入カテーテル52に接続される流路と、を切り替え可能である。具体的には、第1流路切替部333は、第1管41と第2管42と注入カテーテル52との接続部に設けられ、第1管41と第2管42とが接続される流路と、第2管42と注入カテーテル52とが接続される流路と、を切り替え可能である。第2駆動部24が、制御部21から送信された制御信号に基づいて第1流路切替部333の動作を制御し、第1管41と第2管42とが接続される流路と、第2管42と注入カテーテル52とが接続される流路と、を切り替える。本実施形態の第1管41および第2管42は、本発明の「送液ライン」の一例である。
【0114】
第1流路切替部333は、第2管42を介して第1シリンジ331に接続されている。第1ピストン332は、第1シリンジ331内を摺動し往復移動可能である。具体的には、第1駆動部23が、制御部21から送信された制御信号に基づいて第1ピストン332の動作を制御し、第1ピストン332を第1シリンジ331内で往復移動させる。第1流路切替部333が第1管41と第2管42とを接続している状態において、第1ピストン332が第1シリンジ331から抜去される方向に移動すると、第1シリンジ331は、酸素化機構312から第1管41および第2管42を通して供給された液体91を貯留する。一方で、第1流路切替部333が第2管42と注入カテーテル52とを接続している状態において、第1ピストン332が第1シリンジ331に挿入される方向に移動すると、第1ピストン332は、第1シリンジ331に貯留された液体91を第2管42を通して注入カテーテル52に供給する。
【0115】
このように、第1シリンジ331は、身体内に注入される液体91を一時的に貯留する。また、第1ピストン332は、第1シリンジ331に液体を供給するとともに第1シリンジ331に貯留された液体を注入カテーテル52に供給する。
【0116】
図18に表したように、リザーバ311は、第4管44を介して第2流路切替部336に接続されている。また、リザーバ311は、第5管45を介して酸素化機構312に接続されている。リザーバ311は、第4管44を通して供給された脳脊髄液を一時的に貯留する。そして、リザーバ311は、貯留された脳脊髄液を第5管45を通して酸素化機構312に供給する。リザーバ311は、内部と外部とが互いに連通した構造を有し、貯留された脳脊髄液に含まれる気体を外部に抜くことができる。つまり、リザーバ311は、エアトラップとしての機能を有する。
【0117】
第2流路切替部336は、システム回路部31の上流側に設けられ、排出カテーテル51が第2シリンジ334に接続される流路と、第2シリンジ334がシステム回路部31に接続される流路と、を切り替え可能である。具体的には、第2流路切替部336は、排出カテーテル51と第3管43と第4管44との接続部に設けられ、排出カテーテル51と第3管43とが接続される流路と、第3管43と第4管44とが接続される流路と、を切り替え可能である。第3駆動部25が、制御部21から送信された制御信号に基づいて第2流路切替部336の動作を制御し、排出カテーテル51と第3管43とが接続される流路と、第3管43と第4管44とが接続される流路と、を切り替える。本実施形態の第3管43および第4管44は、本発明の「排液ライン」の一例である。
【0118】
第2流路切替部336は、第3管43を介して第2シリンジ334に接続されている。第2ピストン335は、第2シリンジ334内を摺動し往復移動可能である。具体的には、第1駆動部23が、制御部21から送信された制御信号に基づいて第2ピストン335の動作を制御し、第2ピストン335を第2シリンジ334内で往復移動させる。つまり、
図18に表したように、第1ピストン332および第2ピストン335は、互いに連結されており、互いに連結された状態で第1駆動部23の駆動力を受けて往復移動する。第2流路切替部336が排出カテーテル51と第3管43とを接続している状態において、第2ピストン335が第2シリンジ334から抜去される方向に移動すると、第2シリンジ334は、排出カテーテル51および第3管43を通して身体内から身体外に排出された液体(すなわち脳脊髄液)を貯留する。一方で、第2流路切替部336が第3管43と第4管44とを接続している状態において、第2ピストン335が第2シリンジ334に挿入される方向に移動すると、第2ピストン335は、第2シリンジ334に貯留された液体を第3管43と第4管44とを通してリザーバ311に供給する。
【0119】
このように、第2ピストン335は、第3管43を介して排出カテーテル51に接続されており、第2シリンジ334に液体を供給するとともに第2シリンジ334に貯留された液体をリザーバ311に供給する。
【0120】
第1シリンジ331および第2シリンジ334は、互いに同じ形状および容量で形成されている。また、前述したように、第1ピストン332および第2ピストン335は、互いに連結されており、互いに連結された状態で第1駆動部23の駆動力を受けて往復移動する。これにより、身体内に注入される液体の容量は、身体外に排出される液体の容量に常に等しい。
【0121】
バルーン用ピストン545は、バルーン用シリンジ544内を摺動し往復移動可能である。具体的には、第4駆動部26が、制御部21から送信された制御信号に基づいてバルーン用ピストン545の動作を制御し、バルーン用ピストン545をバルーン用シリンジ544内で往復移動させる。バルーン用ピストン545がバルーン用シリンジ544に挿入される方向に移動すると、バルーン用ピストン545は、バルーン用シリンジ544に貯留された拡張用流体93をバルーンカテーテル54Aのバルーン54に供給する。これにより、制御部21は、バルーン54を拡張する。一方で、バルーン用ピストン545がバルーン用シリンジ544から抜去される方向に移動すると、バルーン用シリンジ544は、バルーンカテーテル54Aのバルーン54から拡張用流体93を吸引し貯留する。これにより、制御部21は、バルーン54を収縮する。
【0122】
このように、バルーン用シリンジ544は、バルーン54に注入される拡張用流体93を一時的に貯留する。また、バルーン用ピストン545は、バルーン用シリンジ544に拡張用流体93を供給するとともにバルーン用シリンジ544に貯留された拡張用流体93をバルーン54に供給する。バルーン用シリンジ544およびバルーン用ピストン545は、バルーン54の動作(すなわち拡張および収縮)を駆動するバルーン駆動部として機能する。すなわち、バルーン駆動部は、バルーン用シリンジ544内の拡張用流体93をバルーン54内に注入する動作と、拡張用流体93をバルーン54内からバルーン用シリンジ544内に送る動作と、を行う。
【0123】
図19~
図22は、本実施形態に係る液体循環システムの動作を説明する模式図である。
なお、説明の便宜上、
図19~
図22では、制御部21、第1駆動部23、第2駆動部24、第3駆動部25および第4駆動部26を省略している。また、以下に示す動作では、予め回路内のチューブやリザーバ、各ポンプ(シリンジ)、酸素化機構が、乳酸リンゲル液等の人工脳脊髄液で満たされたプライミング済みとなっている状態から開始するものとして説明する。
【0124】
まず、
図18に表したように、初期位置(第0ステップ)として、液体91が第1シリンジ331に充填されている。第2シリンジ334は、空の状態である。拡張用流体93は、バルーン用シリンジ544に充填されている。第1流路切替部333は、第1管41と第2管42とを接続している状態である。第2流路切替部336は、第3管43と第4管44とを接続している状態である。
【0125】
続いて、
図19に表したように、第1ステップとして、制御部21は、第2駆動部24に制御信号を送信して第1流路切替部333の動作を制御し、第1管41と第2管42とを接続する(すなわち、接続状態を維持する)。また、制御部21は、第3駆動部25に制御信号を送信して第2流路切替部336の動作を制御し、排出カテーテル51と第3管43とを接続する。この状態において、制御部21は、第1駆動部23に制御信号を送信し、
図19に表した矢印A41のように、第1シリンジ331の挿入方向に第1ピストン332を移動させるとともに、第2シリンジ334の抜去方向に第2ピストン335を移動させる。
【0126】
そうすると、
図19に表した矢印A42のように、第1シリンジ331に貯留されていた液体91(すなわち高酸素化溶液)が第2管42と第1管41とを通して酸素化機構312に戻される。また、
図19に表した矢印A11および矢印A10のように、身体内の脳脊髄液92が排出カテーテル51の排出口511および孔512に吸引される。そして、
図19に表した矢印A43のように、脳脊髄液92が、排出カテーテル51および第3管43を通して第2シリンジ334に吸引され貯留される。
【0127】
さらに、制御部21は、第1駆動部23に制御信号を送信するタイミングと同じタイミングで第4駆動部26に制御信号を送信し、
図19に表した矢印A3のように、バルーン用シリンジ544の挿入方向にバルーン用ピストン545を移動させる。そうすると、
図19に表した矢印A4のように、バルーン用シリンジ544に貯留されていた拡張用流体93が、バルーン54に供給される。これにより、バルーン54が膨張する。
【0128】
続いて、
図20に表したように、第2ステップとして、制御部21は、第2駆動部24に制御信号を送信して第1流路切替部333の動作を制御し、第1管41と第2管42とを接続する(すなわち、接続状態を維持する)。また、制御部21は、第3駆動部25に制御信号を送信して第2流路切替部336の動作を制御し、第3管43と第4管44とを接続する。この状態において、制御部21は、第1駆動部23に制御信号を送信し、
図20に表した矢印A44のように、第1シリンジ331の抜去方向に第1ピストン332を移動させるとともに、第2シリンジ334の挿入方向に第2ピストン335を移動させる。
【0129】
そうすると、
図20に表した矢印A45のように、酸素化機構312において生成された液体91が、第1管41および第2管42を通して第1シリンジ331に供給され貯留される。また、
図20に表した矢印A46のように、第2シリンジ334に貯留されていた脳脊髄液92が第3管43および第4管44を通してリザーバ311に供給され貯留される。さらに、
図20に表した矢印A47のように、リザーバ311に貯留されていた脳脊髄液92が、第5管45を通して酸素化機構312に供給される。
【0130】
続いて、
図21に表したように、第3ステップとして、制御部21は、第2駆動部24に制御信号を送信して第1流路切替部333の動作を制御し、第2管42と注入カテーテル52とを接続する。また、制御部21は、第3駆動部25に制御信号を送信して第2流路切替部336の動作を制御し、第3管43と第4管44とを接続する(すなわち、接続状態を維持する)。この状態において、制御部21は、第1駆動部23に制御信号を送信し、
図21に表した矢印A48のように、第1シリンジ331の挿入方向に第1ピストン332を移動させるとともに、第2シリンジ334の抜去方向に第2ピストン335を移動させる。
【0131】
そうすると、
図21に表した矢印A49のように、第1シリンジ331に貯留されていた液体91が、第2管42を通して注入カテーテル52に供給される。そして、例えば
図21に表した矢印A13のように、液体91が、注入カテーテル52の注入口521から身体内に注入される。一方で、
図21に表した矢印A51のように、リザーバ311に貯留されていた脳脊髄液92が、第4管44と第3管43とを通して第2シリンジ334に戻される。
【0132】
さらに、制御部21は、第1駆動部23に制御信号を送信するタイミングと同じタイミングで第4駆動部26に制御信号を送信し、
図21に表した矢印A7のように、バルーン用シリンジ544の抜去方向にバルーン用ピストン545を移動させる。そうすると、
図21に表した矢印A8のように、バルーン54に貯留されていた拡張用流体93が、バルーン用シリンジ544に吸引され貯留される。これにより、バルーン54が収縮する。
【0133】
続いて、
図22に表したように、第4ステップとして、制御部21は、第2駆動部24に制御信号を送信して第1流路切替部333の動作を制御し、第1管41と第2管42とを接続する。また、制御部21は、第3駆動部25に制御信号を送信して第2流路切替部336の動作を制御し、第3管43と第4管44とを接続する(すなわち、接続状態を維持する)。この状態において、制御部21は、第1駆動部23に制御信号を送信し、
図22に表した矢印A52のように、第1シリンジ331の抜去方向に第1ピストン332を移動させるとともに、第2シリンジ334の挿入方向に第2ピストン335を移動させる。
【0134】
そうすると、
図22に表した矢印A53のように、酸素化機構312において生成された液体91が、第1管41および第2管42を通して第1シリンジ331に供給され貯留される。また、
図22に表した矢印A54のように、第2シリンジ334に貯留されていた脳脊髄液92が第3管43および第4管44を通してリザーバ311に供給され貯留される。さらに、
図22に表した矢印A55のように、リザーバ311に貯留されていた脳脊髄液92が、第5管45を通して酸素化機構312に供給される。
【0135】
本実施形態に係る液体循環システム3によれば、注入カテーテル52および排出カテーテル51を含む生体回路部32と、注入カテーテル52に接続された送液ライン(第1管41および第2管42)および排出カテーテル51に接続された排液ライン(第3管43および第4管44)を含むシステム回路部31と、に分割されている。また、送液ライン上に設けられ液体を移動させる第1送液部(第1シリンジ331および第1ピストン332)と、排液ライン上に設けられ液体を移動させる第2送液部(第2シリンジ334および第2ピストン335)と、が生体回路部32およびシステム回路部31において共有の送液部として機能する。液体循環システム3がこのような構成を有することにより、システム回路部31が、生体側の状況を維持しつつ、キャビテーション現象により生ずる液体の全体容量の増加および蒸発により生ずる液体の全体容量の減少に対応することができ、生体回路部32内の液体の増減を極小化することができる。また、制御部21は、第1送液部の動作と第2送液部の動作と体腔内に配置されたバルーン54の拡張および収縮とを制御することにより、閉鎖空間としての体腔の容積の変動を抑えることができる。そのため、体腔は、高コンプライアンス領域で容積を変動させ、体腔内で減少または増加した液体の量に追従して変形できる。これにより、頭蓋内圧の変動が抑えられる。
【0136】
また、第1ピストン332と第2ピストン335とが互いに連結された状態で第1駆動部23により往復移動する。これにより、第1送液部および第2送液部は、生体回路部32およびシステム回路部31において一体化された共有の1つの送液部として機能する。これにより、液体循環システム3は、システムの簡易化を図りつつ、脳の治療領域に液体を効率的に送達できる。
【0137】
また、前述したように、第1流路切替部333は、システム回路部31が第1シリンジ331に接続される流路と、第1シリンジ331が注入カテーテル52に接続される流路と、を切り替える。また、第2流路切替部336は、排出カテーテル51が第2シリンジ334に接続される流路と、第2シリンジ334がシステム回路部31に接続される流路と、を切り替える。そのため、制御部21は、液体91の注入とバルーン54の収縮とのタイミングおよび速度、ならびに液体91の排出とバルーン54の拡張とのタイミングおよび速度をより適切に設定できる。これにより、頭蓋内圧の変動がより一層抑えられる。
【0138】
さらに、バルーン駆動部(バルーン用シリンジ544およびバルーン用ピストン545)は、拡張用流体93をバルーン54に注入してバルーン54を拡張する。一方で、バルーン駆動部は、拡張用流体93をバルーン54から排出してバルーン54を収縮する。これにより、バルーン駆動部は、バルーン54の拡張および収縮を個別に制御できる。そのため、液体91の注入とバルーン54の収縮とのタイミングおよび速度、ならびに液体91の排出とバルーン54の拡張とのタイミングおよび速度が、より適切に設定される。これにより、頭蓋内圧の変動がより一層抑えられる。
【0139】
次に、本実施形態の第1変形例に係る液体循環システムを、図面を参照して説明する。
なお、本変形例に係る液体循環システム3Aの構成要素が、
図18~
図22に関して前述した液体循環システム3の構成要素と同様である場合には、重複する説明は適宜省略し、以下、相違点を中心に説明する。
【0140】
図23は、本実施形態の第1変形例に係る液体循環システムの概要を表す模式図である。
図23に表したように、液体循環システム3Aは、システム回路部31Aと、生体回路部32Aと、ポンプ部33Aと、を備える。
【0141】
システム回路部31Aは、高酸素化溶液の生成および温度調整を行うとともに、循環回路における液体の全体容量の調整を行う部分であり、制御部21と、リザーバ311と、酸素化機構312と、酸素供給源313と、熱交換器314と、を有する。
【0142】
生体回路部32Aは、液体を体腔内に注入するとともに液体を体腔外に排出する部分であり、排出カテーテル51と、注入カテーテル52と、バルーンカテーテル54Aと、を有する。排出カテーテル51および注入カテーテル52は、ポンプ部33Aと、リザーバ311および酸素化機構312を含むシステム回路部31Aと、に接続されている。排出カテーテル51、注入カテーテル52およびバルーンカテーテル54Aは、
図2~
図5に関して前述した通りである。
【0143】
ポンプ部33Aは、システム回路部31Aおよび生体回路部32Aにおいて共有の送液部として機能する。ポンプ部33Aは、第1ポンプ337と、第2ポンプ338と、を有する。本変形例の第1ポンプ337は、本発明の「第1送液部」の一例である。本変形例の第2ポンプ338は、本発明の「第2送液部」の一例である。第1ポンプ337および第2ポンプ338としては、例えば輸液ポンプおよびシリンジポンプなどが挙げられる。
【0144】
図23に表したように、酸素化機構312は、第1管41を介して第1ポンプ337に接続されている。第1ポンプ337は、注入カテーテル52に接続されている。また、酸素化機構312は、第5管45を介してリザーバ311と接続されている。さらに、酸素化機構312は、第6管46を介して酸素供給源313と接続されている。酸素化機構312は、リザーバ311から第5管45を通して供給された脳脊髄液もしくは乳酸リンゲル液もしくはそれらの混合液に、酸素供給源313から第6管46を通して供給された酸素を混合して酸素化された脳脊髄液を生成する。また、酸素化機構312は、第7管47および第8管48を介して熱交換器314に接続されている。熱交換器314は、酸素化された脳脊髄液の温度を約37℃程度に調整する。熱交換器による温度調整は、例えば32℃~40℃程度である。酸素化機構312は、酸素化された脳脊髄液を高酸素化溶液として第1管41および第1ポンプ337を通して注入カテーテル52に供給する。本変形例における酸素化機構312としては、血液に酸素を付加するための中空糸膜型人工肺を使用することが出来る。
【0145】
第1ポンプ337は、第1管41と注入カテーテル52とに接続され、第1管41と注入カテーテル52との間に設けられている。本変形例の第1管41は、本発明の「送液ライン」の一例である。すなわち、第1管41は、第1ポンプ337を介して注入カテーテル52に接続されている。第1ポンプ337は、制御部21から送信された制御信号に基づいて稼動し、酸素化機構312から注入カテーテル52に向かって液体を移動させる。
【0146】
第1ポンプ337が駆動すると、第1ポンプ337は、酸素化機構312において生成された液体(すなわち高酸素化溶液)を第1管41を通して注入カテーテル52に供給し、最終的には体腔内に注入する。
【0147】
図23に表したように、リザーバ311は、第4管44を介して第2ポンプ338に接続されている。また、リザーバ311は、第5管45を介して酸素化機構312に接続されている。リザーバ311は、第4管44を通して供給された脳脊髄液を一時的に貯留する。そして、リザーバ311は、貯留された脳脊髄液を第5管45を通して酸素化機構312に供給する。リザーバ311は、内部と外部とが互いに連通した構造を有し、貯留された脳脊髄液に含まれる気体を外部に抜くことができる。つまり、リザーバ311は、エアトラップとしての機能を有する。
【0148】
第2ポンプ338は、第4管44と排出カテーテル51とに接続され、第4管44と排出カテーテル51との間に設けられている。本変形例の第4管44は、本発明の「排液ライン」の一例である。すなわち、第4管44は、第2ポンプ338を介して排出カテーテル51に接続されている。第2ポンプ338は、制御部21から送信された制御信号に基づいて稼動し、排出カテーテル51からリザーバ311に向かって液体を移動させる。
【0149】
第2ポンプ338が駆動すると、第2ポンプ338は、排出カテーテル51を通して体腔内から体腔外に排出された液体(すなわち脳脊髄液)を第4管44を通してリザーバ311に供給する。これにより、リザーバ311は、排出カテーテル51を通して体腔内から体腔外に排出された液体(すなわち脳脊髄液)を貯留する。
その他の構造は、
図18~
図22に関して前述した液体循環システム3の構成要素と同様である。
【0150】
図24~
図25は、本変形例に係る液体循環システムの動作を説明する模式図である。
なお、説明の便宜上、
図24~
図25では、制御部21および第4駆動部26を省略している。また、以下に示す動作では、予め回路内のチューブやリザーバ、酸素化機構が、乳酸リンゲル液等の人工脳脊髄液で満たされたプライミング済みとなっている状態から動作を開始するものとして説明する。
【0151】
まず、
図24に表したように、第1ステップとして、制御部21は、第2ポンプ338に制御信号を送信して第2ポンプ338を駆動する。その際、制御部21は、第1ポンプ337を静止状態にする。
【0152】
そうすると、
図24に表した矢印A11および矢印A10のように、体腔内の脳脊髄液92が排出カテーテル51の排出口511および孔512に吸引される。そして、
図24に表した矢印A61および矢印A62のように、脳脊髄液92が、排出カテーテル51および第4管44を通してリザーバ311に供給され貯留される。さらに、
図24に表した矢印A63のように、リザーバ311に貯留されていた脳脊髄液92が、第5管45を通して酸素化機構312に供給される。
【0153】
さらに、制御部21は、第2ポンプ338に制御信号を送信するタイミングと同じタイミングで第4駆動部26に制御信号を送信し、
図24に表した矢印A3のように、バルーン用シリンジ544の挿入方向にバルーン用ピストン545を移動させる。そうすると、
図24に表した矢印A4のように、バルーン用シリンジ544に貯留されていた拡張用流体93が、バルーン54に供給される。これにより、バルーン54が膨張する。
【0154】
続いて、
図25に表したように、第2ステップとして、制御部21は、第1ポンプ337に制御信号を送信して第1ポンプ337を駆動する。その際、制御部21は、第2ポンプ338を静止状態にする。
【0155】
そうすると、
図25に表した矢印A64および矢印A65のように、酸素化機構312において生成された液体91(すなわち高酸素化溶液)が、第1管41を通して注入カテーテル52に供給される。そして、
図25に表した矢印A13のように、液体91が、注入カテーテル52の注入口521から体腔内に注入される。
【0156】
さらに、制御部21は、第1ポンプ337に制御信号を送信するタイミングと同じタイミングで第4駆動部26に制御信号を送信し、
図25に表した矢印A7のように、バルーン用シリンジ544の抜去方向にバルーン用ピストン545を移動させる。そうすると、
図25に表した矢印A8のように、バルーン54に貯留されていた拡張用流体93が、バルーン用シリンジ544に吸引され貯留される。これにより、バルーン54が収縮する。
【0157】
本変形例に係る液体循環システム3Aによれば、制御部21は、第1ポンプ337および第2ポンプ338のそれぞれを制御し、バルーン54の拡張および収縮をさらに制御することにより、液体91の注入とバルーン54の収縮とのタイミングおよび速度、ならびに液体91の排出とバルーン54の拡張とのタイミングおよび速度をより適切に設定できる。これにより、頭蓋内圧の変動がより一層抑えられる。
【0158】
次に、本実施形態の第2変形例に係る液体循環システムを、図面を参照して説明する。
なお、本変形例に係る液体循環システム3Bの構成要素が、
図18~
図22に関して前述した液体循環システム3の構成要素と同様である場合には、重複する説明は適宜省略し、以下、相違点を中心に説明する。
【0159】
図26は、本実施形態の第2変形例に係る液体循環システムの概要を表す模式図である。
図26に表したように、液体循環システム3Bは、システム回路部31Bと、生体回路部32Bと、ポンプ部33Bと、を備える。
【0160】
システム回路部31Bは、高酸素化溶液の生成および温度調整を行うとともに、循環回路における液体の全体容量の調整を行う部分であり、制御部21と、リザーバ311と、酸素化機構312と、酸素供給源313と、熱交換器314と、を有する。
【0161】
システム回路部31は、第1駆動部23と、第2駆動部24と、第3駆動部25と、第4駆動部26と、第5駆動部27と、をさらに有する。本実施形態の第1駆動部23は、本発明の「ピストン駆動部」の一例である。第1駆動部23と、第2駆動部24と、第3駆動部25と、第4駆動部26と、第5駆動部27と、のそれぞれは、制御部21に接続されており、制御部21から送信された制御信号に基づいて稼動する。第1駆動部23、第2駆動部24、第3駆動部25、第4駆動部26および第5駆動部27としては、例えばモータなどのアクチュエータが挙げられる。なお、第1駆動部23、第2駆動部24、第3駆動部25、第4駆動部26および第5駆動部27は、ポンプ部33Bに設けられていてもよい。
【0162】
生体回路部32Bは、液体を体腔内に注入するとともに液体を体腔外に排出する部分であり、排出カテーテル51と、注入カテーテル52と、バルーンカテーテル54Aと、を有する。排出カテーテル51および注入カテーテル52は、ポンプ部33Bと、リザーバ311および酸素化機構312を含むシステム回路部31Bと、に接続されている。排出カテーテル51、注入カテーテル52およびバルーンカテーテル54Aは、
図2~
図5に関して前述した通りである。
【0163】
ポンプ部33Bは、システム回路部31Bおよび生体回路部32Bにおいて共有の送液部として機能する。ポンプ部33Bは、
図18に関して前述したポンプ部33と同様である。前述したように、ポンプ部33は、第1駆動部23と、第2駆動部24と、第3駆動部25と、第4駆動部26と、第5駆動部27と、を有していてもよい。
【0164】
図26に表したように、酸素化機構312は、第1管61を介して第2流路切替部333bに接続されている。また、酸素化機構312は、第7管67を介してリザーバ311と接続されている。さらに、酸素化機構312は、第8管68を介して酸素供給源313と接続されている。酸素化機構312は、リザーバ311から第7管67を通して供給された脳脊髄液もしくは乳酸リンゲル液等の人工脳脊髄液もしくはそれらの混合液に、酸素供給源313から第8管68を通して供給された酸素を混合して酸素化された脳脊髄液を生成する。また、酸素化機構312は、第9管69および第10管70を介して熱交換器314に接続されている。熱交換器314は、酸素化された脳脊髄液の温度調整を行う。そして、酸素化機構312は、酸素化された脳脊髄液を高酸素化溶液として第1管61を通して第2流路切替部333bに供給する。本実施形態における酸素化機構312としては、血液に酸素を付加するための中空糸膜型人工肺を使用することが出来る。
【0165】
第2流路切替部333bは、システム回路部31Bの下流側に設けられ、システム回路部31Bが第1シリンジ331に接続される流路と、第1シリンジ331がバルーン54に接続される流路と、を切り替え可能である。具体的には、第2流路切替部333bは、第1管61と第2管62と第11管71との接続部に設けられ、第1管61と第2管62とが接続される流路と、第2管62と第11管71とが接続される流路と、を切り替え可能である。第4駆動部26が、制御部21から送信された制御信号に基づいて第2流路切替部333bの動作を制御し、第1管61と第2管62とが接続される流路と、第2管62と第11管71とが接続される流路と、を切り替える。
【0166】
第1流路切替部333aは、システム回路部31Bの下流側に設けられ、第1シリンジ331が注入カテーテル52に接続される流路と、第1シリンジ331がバルーン54に接続される流路と、を切り替え可能である。具体的には、第1流路切替部333aは、第2管62と第3管63と注入カテーテル52との接続部に設けられ、第2管62と第3管63とが接続される流路と、第3管63と注入カテーテル52とが接続される流路と、を切り替え可能である。第2駆動部24が、制御部21から送信された制御信号に基づいて第1流路切替部333aの動作を制御し、第2管62と第3管63とが接続される流路と、第3管63と注入カテーテル52とが接続される流路と、を切り替える。本実施形態の第1管61、第2管62および第3管63は、本発明の「送液ライン」の一例である。
【0167】
第3流路切替部336aは、システム回路部31Bの上流側に設けられ、排出カテーテル51が第2シリンジ334に接続される流路と、第2シリンジ334がシステム回路部31Bに接続される流路と、を切り替え可能である。具体的には、第3流路切替部336aは、排出カテーテル51と、第4管64と、第5管65と、の接続部に設けられ、排出カテーテル51と第4管64とが接続される流路と、第4管64と第5管とが接続される流路と、を切り替え可能である。第3駆動部25が、制御部21から送信された制御信号に基づいて第3流路切替部336aの動作を制御し、排出カテーテル51と第4管64とが接続される流路と、第4管64と第5管とが接続される流路と、を切り替える。
【0168】
第4流路切替部336bは、システム回路部31Bの上流側に設けられ、第2シリンジ334がシステム回路部31Bに接続される流路と、第2シリンジ334がバルーン54に接続される流路と、を切り替え可能である。具体的には、第4流路切替部336bは、第5管65と第6管66と第12管72との接続部に設けられ、第5管65と第6管66とが接続される流路と、第5管65と第12管72とが接続される流路と、を切り替え可能である。第5駆動部27が、制御部21から送信された制御信号に基づいて第4流路切替部336bの動作を制御し、第5管65と第6管66とが接続される流路と、第5管65と第12管72とが接続される流路と、を切り替える。第4管64、第5管65および第6管66は、本発明の「排液ライン」の一例である。
【0169】
図26に表したように、リザーバ311は、第6管66を介して第4流路切替部336bに接続されている。また、リザーバ311は、第7管67を介して酸素化機構312に接続されている。リザーバ311は、第6管66を通して供給された脳脊髄液を一時的に貯留する。そして、リザーバ311は、貯留された脳脊髄液を第7管67を通して酸素化機構312に供給する。リザーバ311は、内部と外部とが互いに連通した構造を有し、貯留された脳脊髄液に含まれる気体を外部に抜くことができる。つまり、リザーバ311は、エアトラップとしての機能を有する。
【0170】
第11管71は、第2流路切替部333bに接続されるとともに、接続部79を介して第12管72とバルーンカテーテル54Aとに接続されている。第12管72は、第4流路切替部336bに接続されるとともに、接続部79を介して第11管71とバルーンカテーテル54Aとに接続されている。
【0171】
図27~
図34は、本変形例に係る液体循環システムの動作を説明する模式図である。
なお、説明の便宜上、
図27~
図34では、制御部21、第1駆動部23、第2駆動部24、第3駆動部25、第4駆動部26および第5駆動部27を省略している。さらに、説明の便宜上、
図27~
図34では、酸素化機構312、酸素供給源313および熱交換器314を省略し、第1管61がリザーバ311と第2流路切替部333bとに接続されたものとする。また、以下に示す動作では、予め回路内のチューブやリザーバ、酸素化機構が、乳酸リンゲル液等の人工脳脊髄液で満たされたプライミング済みとなっている状態から動作を開始するものとして説明する。
【0172】
さらに、本変形例に係る液体循環システム3Bの動作の説明では、前回のステップから変化した動作のみを説明し、動作状態および接続状態が維持された部分の説明を適宜省略する。
【0173】
まず、
図26に表したように、初期位置(第0ステップ)として、液体91が第1シリンジ331に充填されている。第2シリンジ334は、空の状態である。第1流路切替部333aは、第2管62と第3管63とを接続している状態である。第2流路切替部333bは、第1管61と第2管62とを接続している状態である。第3流路切替部336aは、第4管64と第5管65とを接続している状態である。第4流路切替部336bは、第5管65と第6管66とを接続している状態である。バルーン54は、収縮した状態である。
【0174】
続いて、第1ステップとして、
図27に表した矢印A71のように、制御部21は、第4駆動部26に制御信号を送信して第2流路切替部333bの動作を制御し、第2管62と第11管71とを接続する。また、
図27に表した矢印A72のように、制御部21は、第3駆動部25に制御信号を送信して第3流路切替部336aの動作を制御し、排出カテーテル51と第4管64とを接続する。
【0175】
続いて、第2ステップとして、
図28に表した矢印A73のように、制御部21は、第1駆動部23に制御信号を送信し、
図28に表した矢印A73のように、第1シリンジ331の挿入方向に第1ピストン332を移動させるとともに、第2シリンジ334の抜去方向に第2ピストン335を移動させる。
【0176】
そうすると、
図28に表した矢印A74のように、第1シリンジ331に貯留されていた液体91(すなわち高酸素化溶液)が、第3管63と第2管62と第11管71とを介してバルーンカテーテル54Aに供給される。そして、
図28に表した矢印A4のように、液体91がバルーン54に供給される。これにより、バルーン54が膨張する。つまり、本変形例において、液体91(すなわち高酸素化溶液)は、バルーン54の拡張用流体として機能する。
【0177】
また、
図28に表した矢印A11および矢印A10のように、身体内の脳脊髄液92が排出カテーテル51の排出口511および孔512に吸引される。そして、
図28に表した矢印A75のように、脳脊髄液92が、排出カテーテル51および第4管64を通して第2シリンジ334に吸引され貯留される。
【0178】
続いて、第3ステップとして、
図29に表した矢印A76のように、制御部21は、第4駆動部26に制御信号を送信して第2流路切替部333bの動作を制御し、第1管61と第2管62とを接続する。また、
図29に表した矢印A77のように、制御部21は、第3駆動部25に制御信号を送信して第3流路切替部336aの動作を制御し、第4管64と第5管65とを接続する。制御部21は、第3ステップを実行してバルーン54に接続された流路を閉じることにより、バルーン54の自己収縮力によりバルーン54が収縮してしまう現象を抑えることができる。
【0179】
続いて、第4ステップとして、
図30に表した矢印A78のように、制御部21は、第1駆動部23に制御信号を送信し、第1シリンジ331の抜去方向に第1ピストン332を移動させるとともに、第2シリンジ334の挿入方向に第2ピストン335を移動させる。
【0180】
そうすると、
図30に表した矢印A79のように、液体91が第1管61、第2管62および第3管63を通して第1シリンジ331に供給され貯留される。また、
図30に表した矢印A81のように、第2シリンジ334に貯留されていた脳脊髄液92が第4管64、第5管65および第6管66を通してリザーバ311に供給され貯留される。
【0181】
続いて、第5ステップとして、
図31に表した矢印A82に表したように、制御部21は、第2駆動部24に制御信号を送信して第1流路切替部333aの動作を制御し、第3管63と注入カテーテル52とを接続する。また、
図31に表した矢印A83のように、制御部21は、第5駆動部27に制御信号を送信して第4流路切替部336bの動作を制御し、第5管65と第12管72とを接続する。
【0182】
続いて、第6ステップとして、
図32に表した矢印A84のように、制御部21は、第1駆動部23に制御信号を送信し、第1シリンジ331の挿入方向に第1ピストン332を移動させるとともに、第2シリンジ334の抜去方向に第2ピストン335を移動させる。
【0183】
そうすると、
図32に表した矢印A85のように、第1シリンジ331に貯留されていた液体91が、第3管63を通して注入カテーテル52に供給される。そして、例えば
図32に表した矢印A13のように、液体91が、注入カテーテル52の注入口521から身体内に注入される。また、
図32に表した矢印A8および矢印A86のように、バルーン54に貯留されていた液体91が、第12管72、第5管65および第4管64を通して第2シリンジ334に吸引され貯留される。これにより、バルーン54が収縮する。
【0184】
続いて、第7ステップとして、
図33に表した矢印A87のように、制御部21は、第2駆動部24に制御信号を送信して第1流路切替部333aの動作を制御し、第2管62と第3管63とを接続する。また、
図33に表した矢印A88のように、制御部21は、第5駆動部27に制御信号を送信して第4流路切替部336bの動作を制御し、第5管65と第6管66とを接続する。制御部21は、第7ステップを実行してバルーン54に接続された流路を閉じることにより、バルーン54の自己収縮力によりバルーン54が収縮してしまう現象を抑えることができる。
【0185】
続いて、第8ステップとして、
図34に表した矢印A89のように、制御部21は、第1駆動部23に制御信号を送信し、第1シリンジ331の抜去方向に第1ピストン332を移動させるとともに、第2シリンジ334の挿入方向に第2ピストン335を移動させる。
【0186】
そうすると、
図34に表した矢印A91のように、液体91が第1管61、第2管62および第3管63を通して第1シリンジ331に供給され貯留される。また、
図34に表した矢印A92のように、第2シリンジ334に貯留されていた脳脊髄液92が第4管64、第5管65および第6管66を通してリザーバ311に供給され貯留される。
【0187】
本変形例に係る液体循環システム3Bによれば、体腔内に注入する液体91と、バルーン54を拡張するための拡張用流体と、を共有できる。これにより、制御部21は、複雑な制御を行わなくとも、液体91の注入とバルーン54の収縮とのタイミングおよび速度、ならびに液体91の排出とバルーン54の拡張とのタイミングおよび速度をより適切に設定できる。
【0188】
次に、本実施形態の第3変形例に係る液体循環システムを、図面を参照して説明する。
なお、本変形例に係る液体循環システム3Cの構成要素が、
図18~
図22に関して前述した液体循環システム3の構成要素と同様である場合には、重複する説明は適宜省略し、以下、相違点を中心に説明する。
【0189】
図35は、本実施形態の第3変形例に係る液体循環システムの概要を表す模式図である。
図35に表したように、液体循環システム3Cは、システム回路部31Cと、生体回路部32Cと、ポンプ部33Cと、を備える。
【0190】
システム回路部31Cは、高酸素化溶液の生成および温度調整を行うとともに、循環回路における液体の全体容量の調整を行う部分であり、制御部21と、リザーバ311と、酸素化機構312と、酸素供給源313と、熱交換器314と、を有する。
【0191】
システム回路部31Cは、第2駆動部24と、第3駆動部25と、をさらに有する。第2駆動部24と、第3駆動部25と、のそれぞれは、制御部21に接続されており、制御部21から送信された制御信号に基づいて稼動する。第2駆動部24および第3駆動部25としては、例えばモータなどのアクチュエータが挙げられる。なお、第2駆動部24および第3駆動部25は、ポンプ部33Cに設けられていてもよい。
【0192】
生体回路部32Cは、液体を体腔内に注入するとともに液体を体腔外に排出する部分であり、排出カテーテル51と、注入カテーテル52と、バルーンカテーテル54Aと、を有する。排出カテーテル51および注入カテーテル52は、ポンプ部33Aと、リザーバ311および酸素化機構312を含むシステム回路部31Aと、に接続されている。排出カテーテル51、注入カテーテル52およびバルーンカテーテル54Aは、
図2~
図5に関して前述した通りである。
【0193】
ポンプ部33Cは、システム回路部31Cおよび生体回路部32Cにおいて共有の送液部として機能する。ポンプ部33Cは、第1ポンプ337と、第2ポンプ338と、を有する。本変形例の第1ポンプ337は、本発明の「第1送液部」の一例である。本変形例の第2ポンプ338は、本発明の「第2送液部」の一例である。第1ポンプ337および第2ポンプ338としては、例えば輸液ポンプおよびシリンジポンプなどが挙げられる。
【0194】
図35に表したように、酸素化機構312は、第1管41を介して第1ポンプ337に接続されている。第1ポンプ337は、第2管42に接続されている。また、酸素化機構312は、第5管45を介してリザーバ311と接続されている。さらに、酸素化機構312は、第6管46を介して酸素供給源313と接続されている。酸素化機構312は、リザーバ311から第5管45を通して供給された脳脊髄液もしくは乳酸リンゲル液もしくはそれらの混合液に、酸素供給源313から第6管46を通して供給された酸素を混合して酸素化された脳脊髄液を生成する。また、酸素化機構312は、第7管47および第8管48を介して熱交換器314に接続されている。熱交換器314は、酸素化された脳脊髄液の温度を約37℃程度に調整する。酸素化機構312は、酸素化された脳脊髄液を高酸素化溶液として第1管41、第1ポンプ337および第2管42を通して注入カテーテル52に供給する。本変形例における酸素化機構312としては、血液に酸素を付加するための中空糸膜型人工肺を使用することが出来る。
【0195】
第1ポンプ337は、第1管41と第2管42とに接続され、第1管41と第2管42との間に設けられている。本変形例の第1管41および第2管42は、本発明の「送液ライン」の一例である。第1ポンプ337は、制御部21から送信された制御信号に基づいて稼動し、酸素化機構312から注入カテーテル52に向かって液体を移動させる。
【0196】
第1ポンプ337が駆動すると、第1ポンプ337は、酸素化機構312において生成された液体(すなわち高酸素化溶液)を第1管41および第2管42を通して注入カテーテル52に供給し、最終的には体腔内に注入する。
【0197】
図35に表したように、リザーバ311は、第4管44を介して第2ポンプ338に接続されている。また、リザーバ311は、第5管45を介して酸素化機構312に接続されている。リザーバ311は、第4管44を通して供給された脳脊髄液を一時的に貯留する。そして、リザーバ311は、貯留された脳脊髄液を第5管45を通して酸素化機構312に供給する。リザーバ311は、内部と外部とが互いに連通した構造を有し、貯留された脳脊髄液に含まれる気体を外部に抜くことができる。つまり、リザーバ311は、エアトラップとしての機能を有する。
【0198】
第2ポンプ338は、第3管43と第4管44とに接続され、第3管43と第4管44との間に設けられている。本変形例の第3管43および第4管44は、本発明の「排液ライン」の一例である。第2ポンプ338は、制御部21から送信された制御信号に基づいて稼動し、排出カテーテル51からリザーバ311に向かって液体を移動させる。
【0199】
第2ポンプ338が駆動すると、第2ポンプ338は、排出カテーテル51を通して体腔内から体腔外に排出された液体(すなわち脳脊髄液)を第3管43および第4管44を通してリザーバ311に供給する。これにより、リザーバ311は、排出カテーテル51を通して体腔内から体腔外に排出された液体(すなわち脳脊髄液)を貯留する。
【0200】
第1流路切替部333は、第1ポンプ337の下流側に設けられ、第1ポンプ337が注入カテーテル52に接続される流路と、第1ポンプ337がバルーン54に接続される流路と、を切り替え可能である。具体的には、第1流路切替部333は、第2管42と第11管71と注入カテーテル52との接続部に設けられ、第2管42と注入カテーテル52が接続される流路と、第2管42と第11管71とが接続される流路と、を切り替え可能である。第2駆動部24が、制御部21から送信された制御信号に基づいて第1流路切替部333の動作を制御し、第2管42と注入カテーテル52が接続される流路と、第2管42と第11管71とが接続される流路と、を切り替える。
【0201】
第2流路切替部336は、第2ポンプ338の上流側に設けられ、排出カテーテル51が第2ポンプ338に接続される流路と、バルーン54が第2ポンプ338に接続される流路と、を切り替え可能である。具体的には、第2流路切替部336は、排出カテーテル51と第3管43と第12管72との接続部に設けられ、排出カテーテル51と第3管43とが接続される流路と、第3管43と第12管72とが接続される流路と、を切り替え可能である。第3駆動部25が、制御部21から送信された制御信号に基づいて第2流路切替部336の動作を制御し、排出カテーテル51と第3管43とが接続される流路と、第3管43と第12管72とが接続される流路と、を切り替える。
【0202】
第11管71は、第1流路切替部333に接続されるとともに、接続部79を介して第12管72とバルーンカテーテル54Aとに接続されている。第12管72は、第2流路切替部336に接続されるとともに、接続部79を介して第11管71とバルーンカテーテル54Aとに接続されている。
【0203】
図36~
図41は、本変形例に係る液体循環システムの動作を説明する模式図である。
なお、説明の便宜上、
図36~
図41では、制御部21、第2駆動部24および第3駆動部25を省略している。また、以下に示す動作では、予め回路内のチューブやリザーバ、酸素化機構が、乳酸リンゲル液等の人工脳脊髄液で満たされたプライミング済みとなっている状態から動作を開始するものとして説明する。さらに、本変形例に係る液体循環システム3Cの動作の説明では、前回のステップから変化した動作のみを説明し、動作状態および接続状態が維持された部分の説明を適宜省略する。
【0204】
まず、
図36に表したように、第1ステップとして、制御部21は、第2駆動部24に制御信号を送信して第1流路切替部333の動作を制御し、第2管42と第11管71とを接続する。また、制御部21は、第3駆動部25に制御信号を送信して第2流路切替部336の動作を制御し、排出カテーテル51と第3管43とを接続する。
【0205】
続いて、
図37に表したように、第2ステップとして、制御部21は、第1ポンプ337および第2ポンプ338に制御信号を同時に送信して第1ポンプ337および第2ポンプ338を同時に駆動する。
【0206】
そうすると、
図37に表した矢印A101のように、酸素化機構312において生成された液体91(すなわち高酸素化溶液)が、第1管41と第2管42と第11管71とを介してバルーンカテーテル54Aに供給される。そして、
図37に表した矢印A4のように、液体91がバルーン54に供給される。これにより、バルーン54が膨張する。つまり、本変形例において、液体91(すなわち高酸素化溶液)は、バルーン54の拡張用流体として機能する。
【0207】
また、
図37に表した矢印A11および矢印A10のように、身体内の脳脊髄液92が排出カテーテル51の排出口511および孔512に吸引される。そして、
図37に表した矢印A102および矢印A103のように、脳脊髄液92が、排出カテーテル51、第3管43および第4管44を通してリザーバ311に供給され貯留される。さらに、
図37に表した矢印A104のように、リザーバ311に貯留されていた脳脊髄液92が、第5管45を通して酸素化機構312に供給される。
【0208】
続いて、
図38に表したように、第3ステップとして、制御部21は、第1ポンプ337および第2ポンプ338に制御信号を同時に送信して第1ポンプ337および第2ポンプ338を同時に停止する。これにより、脳脊髄液92の排出が停止する。また、バルーン54の膨張が停止する。
【0209】
続いて、
図39に表したように、第4ステップとして、制御部21は、第2駆動部24に制御信号を送信して第1流路切替部333の動作を制御し、第2管42と注入カテーテル52とを接続する。また、制御部21は、第3駆動部25に制御信号を送信して第2流路切替部336の動作を制御し、第3管43と第12管72とを接続する。
【0210】
続いて、
図40に表したように、第5ステップとして、制御部21は、第1ポンプ337および第2ポンプ338に制御信号を同時に送信して第1ポンプ337および第2ポンプ338を同時に駆動する。
【0211】
そうすると、
図40に表した矢印A105のように、酸素化機構312において生成された液体91が、第1管41および第2管42を通して注入カテーテル52に供給される。そして、例えば
図40に表した矢印A13のように、液体91が、注入カテーテル52の注入口521から身体内に注入される。また、
図40に表した矢印A8、矢印A106、矢印A107および矢印A108のように、バルーン54に貯留されていた液体91が、第12管72、第3管43および第4管44を通してリザーバ311に供給され貯留される。さらに、
図40に表した矢印A109のように、リザーバ311に貯留されていた脳脊髄液92が、第5管45を通して酸素化機構312に供給される。
【0212】
続いて、
図41に表したように、第6ステップとして、制御部21は、第1ポンプ337および第2ポンプ338に制御信号を同時に送信して第1ポンプ337および第2ポンプ338を同時に停止する。これにより、液体91の注入が停止する。また、バルーン54の収縮が停止する。
【0213】
本変形例に係る液体循環システム3Cによれば、体腔内に注入する液体91と、バルーン54を拡張するための拡張用流体と、を共有できる。これにより、制御部21は、複雑な制御を行わなくとも、液体91の注入とバルーン54の収縮とのタイミングおよび速度、ならびに液体91の排出とバルーン54の拡張とのタイミングおよび速度をより適切に設定できる。
【0214】
次に、本発明者が実施した実験の一例を、図面を参照して説明する。
図42は、本発明者が実施した実験の概要を説明する模式図である。
図43および
図44は、
図42に表した切断面B-Bにおける断面図である。
なお、
図43は、バルーン54を拡張した状態を表している。
図44は、バルーン54を収縮した状態を表している。
【0215】
本発明者は、
図26~
図34に関して前述した第2変形例に係る液体循環システム3Bを用いて検証を行った。注入カテーテル52の外径は1.12mmであり、注入カテーテル52の内径は、0.87mmである。排出カテーテル51の外径は1.65mmであり、排出カテーテル51の内径は1.40mmである。バルーン54の材料は、シリコンである。バルーン54の内部の容積は、4mLである。
【0216】
本実験に用いた液体の全量は、約180mL程度である。第1シリンジ331および第2シリンジ334のそれぞれの容積は、5mLである。つまり、第1シリンジ331および第2シリンジ334の合計の容積は、10mLである。リザーバ311および充填用回路部チューブの体積は、約15mL程度である。
【0217】
脊髄腔を模したモデルとして、塩化ビニルにより形成されたチューブ55を用いた。チューブ55の外径は17.2mmであり、チューブ55の内径は12.5mmである。チューブ55の全長は、400mmである。脳室および脳槽を模したモデルとして、タンク56を用いた。タンク56の内部の容積は、157mLである。脊髄を模したモデルとして、シリコン樹脂により形成された棒状部材57を用いた。棒状部材57の外径は8.2mmである。棒状部材57の全長は、430mmである。
【0218】
排出カテーテル51の排出口511と、注入カテーテル52の注入口521と、の間の距離L1は、5cmである。排出カテーテル51および注入カテーテル52の基端部と、載置面58と、の間の距離L2は、10cmである。タンク56とチューブ55との接続部と、載置面58と、の間の距離L3は、15cmである。
【0219】
このような条件のもと、本発明者は、チューブ55内に液体を注入せず、かつ、液体をチューブ55内から排出し、かつ、バルーン54を拡張する第1期間と、チューブ55内に液体を注入し、かつ、液体をチューブ55内から排出せず、かつ、バルーン54を収縮する第2期間と、を交互に繰り返す実験を実施した。
図43に表したように、第1期間において、バルーン54がチューブ55内において膨張することが確認された。また、
図44に表したように、第2期間において、バルーン54がチューブ55内において収縮することが確認された。
【0220】
さらに、本発明者は、第1期間と第2期間とを交互に繰り返しているときに、タンク56の内部の容積が変化するか否かを確認した。その結果、第1期間と第2期間とを交互に繰り返しているときであっても、タンク56の内部の容積が変化しないことが確認された。これにより、第1期間および第2期間の両方において、タンク56の内圧の変動が抑えられたことを確認できた。
【0221】
以上、本発明の実施形態について説明した。しかし、本発明は、上記実施形態に限定されず、特許請求の範囲を逸脱しない範囲で種々の変更を行うことができる。上記実施形態の構成は、その一部を省略したり、上記とは異なるように任意に組み合わせたりすることができる。
【符号の説明】
【0222】
2:医療システム、 3:液体循環システム、 3A:液体循環システム、 3B:液体循環システム、 3C:液体循環システム、 5:医療デバイス、 5A:医療デバイス、 5B:医療デバイス、 21:制御部、 22:ポンプ、 23:第1駆動部、 24:第2駆動部、 25:第3駆動部、 26:第4駆動部、 27:第5駆動部、 31:システム回路部、 31A:システム回路部、 31B:システム回路部、 31C:システム回路部、 32:生体回路部、 32A:生体回路部、 32B:生体回路部、 32C:生体回路部、 33:ポンプ部、 33A:ポンプ部、 33B:ポンプ部、 33C:ポンプ部、 41:第1管、 42:第2管、 43:第3管、 44:第4管、 45:第5管、 46:第6管、 47:第7管、 48:第8管、 51:排出カテーテル、 51A:排出カテーテル、 52:注入カテーテル、 52A:注入カテーテル、 52B:注入カテーテル、 53:空間、 54:バルーン、 54A:バルーンカテーテル、 55:チューブ、 56:タンク、 57:棒状部材、 58:載置面、 61:第1管、 62:第2管、 63:第3管、 64:第4管、 65:第5管、 66:第6管、 67:第7管、 68:第8管、 69:第9管、 70:第10管、 71:第11管、 72:第12管、 79:接続部、 91:液体、 92:脳脊髄液、 93:拡張用流体、 211:第1期間、 212:第2期間、 311:リザーバ、 312:酸素化機構、 313:酸素供給源、 314:熱交換器、 331:第1シリンジ、 332:第1ピストン、 333:第1流路切替部、 333a:第1流路切替部、 333b:第2流路切替部、 334:第2シリンジ、 335:第2ピストン、 336:第2流路切替部、 336a:第3流路切替部、 336b:第4流路切替部、 337:第1ポンプ、 338:第2ポンプ、 511:排出口、 512:孔、 513:内腔、 521:注入口、 523:内腔、 541:孔、 541A:孔、 541B:孔、 542:内腔、 542A:内腔、 542B:内腔、 544:バルーン用シリンジ、 545:バルーン用ピストン