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特開2025-40494ノンバックラッシギアおよびその組立方法
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  • 特開-ノンバックラッシギアおよびその組立方法 図1
  • 特開-ノンバックラッシギアおよびその組立方法 図2
  • 特開-ノンバックラッシギアおよびその組立方法 図3
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025040494
(43)【公開日】2025-03-25
(54)【発明の名称】ノンバックラッシギアおよびその組立方法
(51)【国際特許分類】
   F16H 55/18 20060101AFI20250317BHJP
【FI】
F16H55/18
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023147338
(22)【出願日】2023-09-12
(71)【出願人】
【識別番号】000149066
【氏名又は名称】オークマ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106091
【弁理士】
【氏名又は名称】松村 直都
(74)【代理人】
【氏名又は名称】渡邉 彰
(74)【代理人】
【識別番号】100199369
【弁理士】
【氏名又は名称】玉井 尚之
(74)【代理人】
【識別番号】100228175
【弁理士】
【氏名又は名称】近藤 充紀
(72)【発明者】
【氏名】秋元 あゆみ
【テーマコード(参考)】
3J030
【Fターム(参考)】
3J030AB05
3J030AC03
3J030BB03
3J030BB17
(57)【要約】
【課題】位相合わせのための治具を小型化して、しかも、2枚の歯車を締結するボルトを任意の構成とできることで、2枚の歯車を締結するボルトが必須の構成であることで生じる従来の問題点を解消したノンバックラッシギアおよびその組立方法を提供する。
【解決手段】2枚の歯車2,3を連結すると共に一方の歯車2に対して他方の歯車3を周方向に付勢する弾性体4と、2枚の歯車2,3を相対回転させて歯2a,3a同士の位相が一致した状態を保持する位相保持機構5とを備えている。位相保持機構5は、伸縮可能で所定の長さで状態を保持可能な間隔保持治具11と、間隔保持治具11を嵌め込み可能なように2枚の歯車2,3にそれぞれ設けられた長穴15,16とを備えている。間隔保持治具11を長穴15,16内で弾性体4の弾性力に抗して伸縮させることで2枚の歯車2a,3a同士の位相が一致させられる。
【選択図】 図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
同径で同数の歯を持つ2枚の歯車の歯で相手歯車の歯を弾性力を介して挟み込みバックラッシを無くすノンバックラッシギアであって、
前記2枚の歯車を連結すると共に一方の歯車に対して他方の歯車を周方向に付勢する弾性体と、前記2枚の歯車を相対回転させて歯の位相が一致した状態を保持する位相保持機構とを備え、
前記位相保持機構は、伸縮可能で所定の長さで状態を保持可能な間隔保持治具と、前記間隔保持治具を嵌め込み可能なように前記2枚の歯車にそれぞれ設けられた長穴とを備え、前記間隔保持治具を前記長穴内で前記弾性体の弾性力に抗して伸縮させることで前記位相が一致させられることを特徴とするノンバックラッシギア。
【請求項2】
前記間隔保持治具は、ボルト部材およびこれにねじ合わされたナット部材からなるねじ式のものであり、
前記弾性体による付勢力が前記2枚の歯車に作用している状態において、前記長穴は、前記2枚の歯車間で連通しており、前記ねじ式の間隔保持治具を嵌め込み可能であることを特徴とする請求項1に記載のノンバックラッシギア。
【請求項3】
前記長穴は、前記2枚の歯車で同形状であり、前記長穴の位置が前記2枚の歯車間で一致したときに前記2枚の歯車の歯の位相が一致することを特徴とする請求項2に記載のノンバックラッシギア。
【請求項4】
前記位相保持機構において、前記2枚の歯車の歯の位相が一致した状態で、前記2枚の歯車をボルトで締結することが可能とされていることを特徴とする請求項1~3のいずれか1項に記載のノンバックラッシギア。
【請求項5】
同径で同数の歯を持つ2枚の歯車の歯で相手歯車の歯を弾性力を介して挟み込みバックラッシを無くすノンバックラッシギアの組立方法であって、
伸縮可能で所定の長さで状態を保持可能な間隔保持治具を前記2枚の歯車の各歯車に設けた長穴に嵌め込み、前記間隔保持治具を前記長穴内で前記弾性力に抗して伸縮させることで前記2枚の歯車の歯の位相を一致させ、前記間隔保持治具の長さを保持した状態で前記2枚の歯車を前記相手歯車と噛み合う位置に配置することを特徴とするノンバックラッシギアの組立方法。
【請求項6】
前記間隔保持治具の長さを保持した状態で前記2枚の歯車の各歯車同士をボルトで締結した後に、前記2枚の歯車を前記相手歯車と噛み合う位置に配置することを特徴とする請求項5に記載のノンバックラッシギアの組立方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、歯車による駆動伝達において発生するバックラッシを抑制することを可能にしたノンバックラッシギアおよびその組立方法に関する。
【背景技術】
【0002】
このようなノンバックラッシギアとしては、図3に示すように、同径で同数の歯(32a)(33a)を持つ2枚の歯車(32)(33)と、2枚の歯車(32)(33)を連結すると共に一方の歯車(32)に対して他方の歯車(33)を周方向に付勢する弾性体としての複数(図示は6つ)の引っ張りコイルばね(34)と、2枚の歯車(32)(33)を相対回転させて歯(32a)(33a)の位相が一致した状態を保持する位相保持機構としての治具(35)およびボルト(36)とを備えているものが知られている。
【0003】
このノンバックラッシギア(31)によると、引っ張りコイルばね(34)によって、一方の歯車(32)には反時計回りの弾性力が作用し、他方の歯車(33)には時計回りの弾性力が作用することで、2枚の歯車(32)(33)の位相がずれるようになされており、この位相のずれを治具(35)およびボルト(36)によってなくした状態で2枚の歯車(32)(33)を相手歯車(41)と噛み合う位置に配置し、この後、治具(35)およびボルト(36)を取り外すことにより、2枚の歯車(32)(33)の歯(32a)(33a)で相手歯車(41)の歯(41a)を弾性力を介して挟み込みバックラッシが無いものとされている。
一般に、同図に示すように、2枚の歯車(32)(33)が大径で、相手歯車(41)が小径とされている。
【0004】
2枚の歯車(32)(33)は、図3においては、その位相が一致しているが、噛み合わされる前には位相がずれた状態となっており、このようなノンバックラッシギア(31)を組み立てる際には、2枚の歯車(32)(33)の位相を高精度に合わせた状態で2枚の歯車(32)(33)と相手側の歯車(41)との組立を実施する必要がある。
【0005】
図3に示すノンバックラッシギア(31)では、治具(35)およびボルト(36)からなる位相保持機構を使用して、まず、治具(35)によって2枚の歯車(32)(33)を挟み込んで弾性体(34)の弾性力に抗して2枚の歯車(32)(33)を位相を合わせる方向に相対回転させて大まかな位置決めを行い、さらに、複数の先端がテーパ形状の特殊なボルト(36)を2枚の歯車(32)(33)に設けられた複数の穴にそれぞれねじ込むことにより高精度な位置決めおよび固定を行うようになっている。
【0006】
また、特許文献1においては、位相保持機構として、一方の歯車に第1ねじ穴を設け、他方の歯車に第2ねじ穴および傾斜面を設け、ボルトを両方の歯車にねじ込むに際して、傾斜面に沿って擦りながらねじ込んで位相を変化させるものが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2020-46052号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記従来のノンバックラッシギアの組立に際し、2枚の歯車(32)(33)を挟み込む治具(35)を使うものでは、大径の2枚の歯車(32)(33)に対応させることから、治具(35)が大型化してしまうという問題があり、また、2枚の歯車を締結するボルトが必須の構成であって、それが特殊形状の専用品となるという問題があった。
【0009】
また、特許文献1のものでは、他方の歯車にねじ穴に加えて傾斜面を設けるための歯幅を確保する必要があり、歯幅の薄い歯車に適用しにくいという問題があり、また、2枚の歯車を締結するボルトが必須の構成であって、ボルトを傾斜面に沿って擦りながら位相を変化させるため、ばねの弾性力を大きくすると、傾斜面とボルトとの間の接触圧が大きく材料が早期摩耗するという問題があった。また、ボルトをねじ込む際に、ばねに横方向の力が作用することから、ばねの設計上の制約が出るという問題もあった。
【0010】
この発明の目的は、位相合わせのための治具を小型化して、しかも、2枚の歯車を締結するボルトを任意の構成とできることで、2枚の歯車を締結するボルトが必須の構成であることで生じる従来の問題点を解消したノンバックラッシギアおよびその組立方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
この発明によるノンバックラッシギアは、同径で同数の歯を持つ2枚の歯車の歯で相手歯車の歯を弾性力を介して挟み込みバックラッシを無くすノンバックラッシギアであって、前記2枚の歯車を連結すると共に一方の歯車に対して他方の歯車を周方向に付勢する弾性体と、前記2枚の歯車を相対回転させて歯の位相が一致した状態を保持する位相保持機構とを備え、前記位相保持機構は、伸縮可能で所定の長さで状態を保持可能な間隔保持治具と、前記間隔保持治具を嵌め込み可能なように前記2枚の歯車にそれぞれ設けられた長穴とを備え、前記間隔保持治具を前記長穴内で前記弾性体の弾性力に抗して伸縮させることで前記位相が一致させられることを特徴とするものである。
【0012】
このようなノンバックラッシギアによると、組立に際しては、弾性体の弾性力によって2枚の歯車の歯の位相がずれている状態において、長穴内に嵌め込まれた間隔保持治具を弾性体の弾性力に抗して所定の長さまで伸縮させる。これにより、間隔保持治具によって2枚の歯車が相対回転することが抑えられた状態で、2枚の歯車の歯の位相を一致させることができる。そして、この位相が一致した状態で、2枚の歯車と相手歯車とを噛み合わせた後、間隔保持治具を取り外すことで、バックラッシの無いノンバックラッシギアが得られる。
【0013】
間隔保持治具としては、ねじ、ばね、流体圧、モータなどを使用して一方の歯車の長穴の端面と他方の歯車の長穴の端面との間で突っ張り支持される種々の治具を使用することができる。
【0014】
この発明のノンバックラッシギアによると、間隔保持治具が長穴内に嵌め込まれる大きさであることで、位相合わせのための治具を小型化することができる。
【0015】
また、間隔保持治具が所定の長さで状態を保持可能とされていることによって、2枚の歯車の歯の位相が一致した状態で保持されるため、2枚の歯車をボルトで締結する必要はなく、2枚の歯車を締結するボルトを任意の構成とできることで、2枚の歯車を締結するボルトが必須の構成であることで生じる従来の問題点を解消することができる。
【0016】
前記間隔保持治具は、ボルト部材およびこれにねじ合わされたナット部材からなるねじ式のものであり、前記弾性体による付勢力が前記2枚の歯車に作用している状態において、前記長穴は、前記2枚の歯車間で連通しており、前記ねじ式の間隔保持治具を嵌め込み可能とされることが好ましい。
【0017】
このようにすると、ボルト部材を固定した状態でナット部材を回転させることで、間隔保持治具を伸縮させることが可能であり、組立を容易に行うことができる。また、ボルト部材およびナット部材としては、汎用性が高いボルトおよびナットを使用することもでき、組立を安価に行うことができる。
【0018】
前記長穴は、前記2枚の歯車で同形状であり、前記長穴の位置が前記2枚の歯車間で一致したときに前記2枚の歯車の歯の位相が一致することが好ましい。
【0019】
このようにすると、長穴が間隔保持治具の伸縮時の位置決め部材を兼ねることになり、ノンバックラッシギアを簡素化することができる。
【0020】
前記位相保持機構において、前記2枚の歯車の歯の位相が一致した状態で、前記2枚の歯車をボルトで締結することが可能とされていることが好ましい。
【0021】
ノンバックラッシギアの組立に際しては、間隔保持治具によって2枚の歯車が相対回転することが抑えられているので、2枚の歯車をボルトで締結することは必須ではないが、ボルトを使用して2枚の歯車を締結すると、2枚の歯車が相対回転することがより確実に抑えられるので、より安全に組立作業を行うことができる。ボルトによる締結は、間隔保持治具によって2枚の歯車が相対回転することが抑えられているので、特殊ボルトではなく汎用性が高いボルトを使用することができ、従来の特殊ボルトの使用に伴う問題を生じさせることはない。
【0022】
なお、ボルトによる締結を行わない場合には、2枚の歯車と相手歯車とを噛み合わせた後、間隔保持治具を取り外すことになるが、ボルトによる締結を行う場合には、2枚の歯車と相手歯車とを噛み合わせる前に間隔保持治具を取り外しておいて、2枚の歯車と相手歯車とを噛み合わせた後、ボルトを取り外すようにしてもよい。
【0023】
この発明によるノンバックラッシギアの組立方法は、同径で同数の歯を持つ2枚の歯車の歯で相手歯車の歯を弾性力を介して挟み込みバックラッシを無くすノンバックラッシギアの組立方法であって、伸縮可能で所定の長さで状態を保持可能な間隔保持治具を前記2枚の歯車の各歯車に設けた長穴に嵌め込み、前記間隔保持治具を前記長穴内で前記弾性力に抗して伸縮させることで前記2枚の歯車の歯の位相を一致させ、前記間隔保持治具の長さを保持した状態で前記2枚の歯車を前記相手歯車と噛み合う位置に配置することを特徴とするものである。
【0024】
このようなノンバックラッシギアの組立方法によると、弾性体の弾性力によって2枚の歯車の歯の位相がずれている状態において、長穴内に嵌め込まれた間隔保持治具を弾性体の弾性力に抗して所定の長さまで伸縮させることで、間隔保持治具によって2枚の歯車が相対回転することが抑えられた状態で、2枚の歯車の歯の位相を一致させることができる。そして、この位相が一致した状態で、2枚の歯車と相手歯車とを噛み合わせた後、間隔保持治具を取り外すことで、バックラッシの無いノンバックラッシギアが得られる。
【0025】
この発明のノンバックラッシギアの組立方法によると、間隔保持治具が長穴内に嵌め込まれた大きさであることで、位相合わせのための治具を小型化することができる。
【0026】
前記間隔保持治具の長さを保持した状態で前記2枚の歯車の各歯車同士をボルトで締結した後に、前記2枚の歯車を前記相手歯車と噛み合う位置に配置することが好ましい。
【0027】
間隔保持治具によって2枚の歯車が相対回転することが抑えられているので、2枚の歯車をボルトで締結することは必須ではないが、ボルトを使用して2枚の歯車を締結すると、2枚の歯車が相対回転することがより確実に抑えられるので、より安全に組立作業を行うことができる。ボルトによる締結は、間隔保持治具によって2枚の歯車が相対回転することが抑えられているので、特殊ボルトではなく汎用性が高いボルトを使用することができ、従来の特殊ボルトの使用に伴う問題を生じさせることはない。なお、ボルトで締結する場合、2枚の歯車を相手歯車と噛み合う位置に配置するに際しては、2枚の歯車と相手歯車とを噛み合わせる前に間隔保持治具を取り外しておいて、2枚の歯車と相手歯車とを噛み合わせた後、ボルトを取り外すようにしてもよい。
【発明の効果】
【0028】
この発明のノンバックラッシギアおよびその組立方法によると、2枚の歯車の位相を合わせる構成に関し、長穴内に嵌め込まれた間隔保持治具を伸縮させて治具を所定の長さとすることで2枚の歯車の位相を合わせることが可能となり、位相合わせのための治具を小型化して、しかも、2枚の歯車を締結するボルトを任意の構成とできることで、2枚の歯車を締結するボルトが必須の構成であることで生じる従来の問題点を解消することができる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
図1図1は、この発明のノンバックラッシギアの1実施形態を示す斜視図である。
図2図2は、位相保持機構の間隔保持治具を示す断面図で、(a)は弾性体の弾性力によって2枚の歯車の歯の位相がずれた状態時のもの、(b)は間隔保持治具を伸ばすことによって2枚の歯車の歯の位相が一致した状態時のものである。
図3図3は、従来のノンバックラッシギアの1例を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下、図1および図2を参照して、この発明の1実施形態について説明する。
【0031】
図1に示すように、この発明のノンバックラッシギア(1)は、同径で同数の歯(2a)(3a)を持つ2枚の歯車(2)(3)と、2枚の歯車(2)(3)を連結すると共に一方の歯車(2)に対して他方の歯車(3)を周方向に付勢する弾性体としての複数(図示は6つ)の引っ張りコイルばね(4)と、2枚の歯車(2)(3)を相対回転させて歯(2a)(3a)同士の位相が一致した状態を保持する位相保持機構(5)とを備えている。
【0032】
引っ張りコイルばね(4)は、図3に示したものと同じとされており、各歯車(2)(3)に設けられたばね用長穴(6)に嵌め入れられて、引っ張りコイルばね(4)の一端部(4a)が一方の歯車(2)に、他端部(4b)が他方の歯車(3)に取り付けられることにより、一方の歯車(2)には反時計方向の弾性力が作用し、他方の歯車(3)には時計方向の弾性力が作用するようになされている。
【0033】
位相保持機構(5)は、伸縮可能で所定の長さで状態を保持可能な間隔保持治具(11)と、2枚の歯車(2)(3)同士を締結する固定ボルト(12)とを備えている。
【0034】
間隔保持治具(11)は、引っ張りコイルばね(4)の径方向内側に1つ置きで計3つ設けられている。
【0035】
間隔保持治具(11)は、頭部(13a)および軸部(13b)からなるボルト部材(13)と、ボルト部材(13)の軸部(13b)の反頭部側の端部にねじ合わされたナット部材(14)とからなるねじ式のものとされている。この実施形態においては、ボルト部材(13)およびナット部材(14)は、いずれも汎用性が高いものが使用されている。
【0036】
2枚の歯車(2)(3)には、2枚の歯車間で連通するように同一形状の長方形状の長穴(15)(16)がそれぞれ設けられており、これらの長穴(15)(16)にまたがって間隔保持治具(11)が嵌め込み可能とされている。
【0037】
引っ張りコイルばね(4)の弾性力は、2枚の歯車(2)(3)の歯(2a)(3a)の位相がずれるように作用しており、図示省略するが、位相保持機構(5)が取り外された状態では、2枚の歯車(2)(3)の歯(2a)(3a)の位相がずれている。図1には、位相保持機構(5)によって2枚の歯車(2)(3)を相対回転させてこの位相のずれをなくした状態が示されている。同図に示すように2枚の歯車(2)(3)と相手歯車(41)とを噛み合わせ、この後、位相保持機構(5)を構成する間隔保持治具(11)および固定ボルト(12)を2枚の歯車(2)(3)から取り外すことによって、2枚の歯車(2)(3)の歯(2a)(3a)で相手歯車(41)の歯(41a)を弾性力を介して挟み込むバックラッシが無いノンバックラッシギア(1)が得られる。
【0038】
間隔保持治具(11)は、ボルト(13)を固定してナット(14)を回転させることで、図2に拡大して示すように、(a)に示す縮んだ状態と、(b)に示す伸びた状態とに伸縮可能とされている。(b)に示す伸びた状態が図1に示す2枚の歯車(2)(3)の歯(2a)(3a)同士の位相が一致した状態に対応しており、(a)に示す縮んだ状態が引っ張りコイルばね(4)の弾性力によって2枚の歯車(2)(3)の歯(2a)(3a)の位相がずれた状態に対応している。
【0039】
(a)に示す縮んだ状態において、間隔保持治具(11)は、一方の歯車(2)の長穴(15)の時計方向側端面(15a)と他方の歯車(3)の長穴(16)の反時計方向側端面(16b)とに挟まれており、この状態においては、間隔保持治具(11)の時計方向側端面(ナット(14)の端面)と他方の歯車(3)の長穴(16)の時計方向側端面(16a)との間には隙間(G)があり、間隔保持治具(11)の反時計方向側端面(ボルト(13)の頭部(13a)の端面)と一方の歯車(2)の長穴(15)の反時計方向側端面(15b)との間にも隙間(G)がある。
【0040】
(b)に示す間隔保持治具(11)が伸びた状態においては、(a)に示す縮んだ状態において存在している隙間(G)が無くなり、長穴(15)(16)の位置が2枚の歯車(2)(3)間で一致している。
【0041】
固定ボルト(12)は、間隔保持治具(11)が図2(b)に示す伸びた状態とされた後に、一方の歯車(2)に設けられた貫通穴に挿通されて他方の歯車(3)に設けられためねじにねじ合わされる。固定ボルト(12)は、好ましくは、根元側の軸部に研磨加工が施されたものとされる。
【0042】
ノンバックラッシギア(1)の組立に際しては、間隔保持治具(11)によって2枚の歯車(2)(3)が相対回転することが抑えられているので、2枚の歯車(2)(3)を固定ボルト(12)で締結することは必須ではないが、弾性体(4)の付勢力およびこれに対向する間隔保持治具(11)の付勢力は、いずれも周方向に作用しており、この力とは別に、固定ボルト(12)による軸方向の力で2枚の歯車(2)(3)同士を固定することにより、2枚の歯車(2)(3)が相対回転することが確実に抑えられるので、より安全に組立作業を行うことができる。
【0043】
固定ボルト(12)による締結に際しては、間隔保持治具(11)によって2枚の歯車(2)(3)が相対回転することが抑えられているので、2枚の歯車(2)(3)および固定ボルト(12)に対しては、軸方向の力だけが作用して、軸方向に直交する方向の力は作用しない。したがって、特殊ボルトではなく汎用性が高いボルトを使用することができ、従来の特殊ボルトの使用に伴う問題を生じさせることはなく、また、固定ボルト(12)を両方の歯車(2)(3)にねじ込むに際して、一方の歯車に設けられた傾斜面に沿って擦りながらねじ込んで位相を変化させる必要もないので、2枚の歯車(2)(3)と固定ボルト(12)との擦れに伴う早期摩耗という問題も起きない。こうして、2枚の歯車を締結するボルトが必須の構成であることで生じる従来の問題点が解消されている。
【0044】
上記実施形態において、弾性体を複数の引っ張りコイルばね(4)としたが、弾性体(4)は引っ張りコイルばねに限られるものではなく、複数の圧縮コイルばねとしてもよく、また1つのC字状ばねとしてもよい。
【0045】
また、伸縮可能で所定の長さに固定可能な間隔保持治具(11)をねじ式のもの(ねじ式のジャッキ)としたが、間隔保持治具(11)としては、ねじ以外に、ばね、流体圧、モータなどを利用した種々のもの(ジャッキ、シリンダー、突っ張り棒などと称されているもの)を使用することができる。また、ねじ式とする場合に、汎用性が高いボルト・ナットをそのまま使用するのではなく、適宜変更を加えてもよい。間隔保持治具(11)および固定ボルト(12)として汎用性が高いボルト・ナットを使用することにより、位相保持機構(5)をより簡単でより安価なものとできる。
【0046】
また、間隔保持治具(11)において、両端部にゴムなどの変形しやすくて摩擦係数の大きい物質を取り付け、間隔保持治具(11)と歯車(2)(3)の長穴(15)(16)の端面(15a)(15b)(16a)(16b)との接触面積を増やして、加工精度のばらつきをゴムの弾性変形により吸収すると共に、間隔保持治具(11)と2枚の歯車(2)(3)との間の摩擦抵抗を大きくすることで、組立時に2枚の歯車(2)(3)に取り付けた間隔保持治具(11)が落下しにくくなるようにしてもよい。このようにすることで、固定ボルト(12)を使用しない場合における組立作業をより安全なものとできる。
【符号の説明】
【0047】
(1):ノンバックラッシギア
(2)(3):歯車
(2a)(3a):歯
(4):引っ張りコイルばね(弾性体)
(5):位相保持機構
(11):間隔保持治具
(12):固定ボルト
(13):ボルト部材
(14):ナット部材
(15)(16):長穴
(41):相手歯車
(41a):歯
図1
図2
図3