(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025004059
(43)【公開日】2025-01-14
(54)【発明の名称】冷間圧延及び被覆された鋼板並びにその製造方法
(51)【国際特許分類】
C22C 38/00 20060101AFI20250106BHJP
C21D 9/46 20060101ALI20250106BHJP
C22C 38/60 20060101ALI20250106BHJP
【FI】
C22C38/00 301T
C21D9/46 J
C22C38/60
【審査請求】有
【請求項の数】26
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024168205
(22)【出願日】2024-09-27
(62)【分割の表示】P 2021571688の分割
【原出願日】2020-05-12
(31)【優先権主張番号】PCT/IB2019/054577
(32)【優先日】2019-06-03
(33)【優先権主張国・地域又は機関】IB
(71)【出願人】
【識別番号】515214729
【氏名又は名称】アルセロールミタル
(74)【代理人】
【識別番号】110001173
【氏名又は名称】弁理士法人川口國際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ジュン,ヒョン・ジョー
(72)【発明者】
【氏名】ポットーレ,ナラヤン
(72)【発明者】
【氏名】ファン,ドンウエイ
(72)【発明者】
【氏名】チェン,シェン(フランク)
(72)【発明者】
【氏名】ヤクボフスキー,オレグ
(57)【要約】 (修正有)
【課題】高強度及び高成形性の冷間圧延され被覆された鋼板を提供する。
【解決手段】冷間圧延及び被覆された鋼板であって、重量パーセントで表される、以下の元素である0.140%≦炭素≦0.2%、1.5%≦マンガン≦2.15%、0.5%≦ケイ素≦0.8%、0.4%≦アルミニウム≦0.8%、0%≦リン≦0.09%、0%≦硫黄≦0.09%、0%≦窒素≦0.09%、0.01%≦ニオブ≦0.1%、0.01%≦チタン≦0.1%を含む組成を有し、組成の残部が、鉄及び加工に起因する不可避不純物から構成され、鋼板の微細組織が、面積分率で、40~60%の変態区間フェライト、25~45%の変態フェライト、8%~20%及び5%~20%のフレッシュマルテンサイト、0%~10%のベイナイトを含み、変態区間フェライト及び変態フェライトの累積量が75%~85%である、冷間圧延及び被覆された鋼板。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
冷間圧延及び被覆された鋼板であって、重量パーセントで表される、以下の元素
0.140%≦炭素≦0.2%
1.5%≦マンガン≦2.15%
0.5%≦ケイ素≦0.8%
0.4%≦アルミニウム≦0.8%
0%≦リン≦0.09%
0%≦硫黄≦0.09%
0%≦窒素≦0.09%
0.01%≦ニオブ≦0.1%
0.01%≦チタン≦0.1%
を含む組成を有し、以下の任意の元素のうちの1つ以上
0%≦クロム≦0.1%
0%≦ニッケル≦3%
0%≦カルシウム≦0.005%
0%≦銅≦2%
0%≦モリブデン≦0.5%
0%≦バナジウム≦0.1%
0%≦ホウ素≦0.003%
0%≦セリウム≦0.1%
0%≦マグネシウム≦0.010%
0%≦ジルコニウム≦0.010%
を含有することができ、残部が、鉄及び加工に起因する不可避不純物から構成され、前記鋼板の微細組織が、面積分率で、40~60%の変態区間フェライト、25~45%の変態フェライト、8%~20%の残留オーステナイト及び5%~20%のフレッシュマルテンサイト、0%~10%のベイナイトを含み、変態区間フェライト及び変態フェライトの累積量が75%~85%である、冷間圧延及び被覆された鋼板。
【請求項2】
組成が0.5%~0.7%のケイ素を含む、請求項1に記載の冷間圧延及び被覆された鋼板。
【請求項3】
組成が0.14%~0.19%の炭素を含む、請求項1又は2に記載の冷間圧延及び被覆された鋼板。
【請求項4】
組成が0.4%~0.7%のアルミニウムを含む、請求項1~3のいずれか一項に記載の冷間圧延及び被覆された鋼板。
【請求項5】
組成が1.7%~2.15%のマンガンを含む、請求項1~4のいずれか一項に記載の冷間圧延及び被覆された鋼板。
【請求項6】
組成が0.4%~0.6%のアルミニウムを含む、請求項4に記載の冷間圧延及び被覆された鋼板。
【請求項7】
組成が1.8%~2.15%のマンガンを含む、請求項5に記載の冷間圧延及び被覆された鋼板。
【請求項8】
組成が0.14%~0.18%の炭素を含む、請求項3に記載の冷間圧延及び被覆された鋼板。
【請求項9】
ケイ素及びアルミニウムの累積量が0.9%~1.2%である、請求項1~8のいずれか一項に記載の冷間圧延及び被覆された鋼板。
【請求項10】
ケイ素及びアルミニウムの累積量が1%~1.2%である、請求項1~9のいずれか一項に記載の冷間圧延及び被覆された鋼板。
【請求項11】
残留オーステナイトの炭素含有量が0.8%~1.1%である、請求項1~10のいずれか一項に記載の冷間圧延及び被覆された鋼板。
【請求項12】
変態区間フェライトが45%~55%である、請求項1~12に記載の冷間圧延及び被覆された鋼板。
【請求項13】
変態フェライトが25%~40%である、請求項1~12のいずれか一項に記載の冷間圧延及び被覆された鋼板。
【請求項14】
フレッシュマルテンサイトが5%~15%である、請求項1~13のいずれか一項に記載の冷間圧延及び被覆された鋼板。
【請求項15】
前記鋼板が、780MPa以上の極限引張強さ及び18%以上の全伸びを有する、請求項1~14のいずれか一項に記載の冷間圧延及び被覆された鋼板。
【請求項16】
前記鋼板が、400MPa以上の降伏強さ及び20%以上の穴広げ率を有する、請求項15に記載の冷間圧延及び被覆された鋼板。
【請求項17】
冷間圧延及び被覆された鋼板の製造方法であって、以下の連続する
請求項1~10のいずれか一項に記載の鋼組成物を提供するステップと、
前記半製品を1000℃~1280℃の温度に再加熱するステップと、
熱間圧延仕上げ温度がAc3を超えるように、Ac3+100℃~Ac3+200℃の温度範囲において前記半製品を圧延して、熱間圧延鋼を得るステップと、
熱間圧延鋼を少なくとも30℃/秒の冷却速度で475℃~650℃である巻取り温度まで冷却し、前記熱間圧延鋼を巻き取るステップと、
前記熱間圧延鋼を室温まで冷却するステップと、
任意に、前記熱間圧延鋼板にスケール除去処理を実施するステップと、
任意に、熱間圧延鋼板に400℃~750℃で焼鈍を実施するステップと、
任意に、前記熱間圧延鋼板にスケール除去処理を実施するステップと、
前記熱間圧延鋼板を35~90%の圧下率で冷間圧延して、冷間圧延鋼板を得るステップと、
冷間圧延鋼板を室温からAc1~Ac3の均熱温度まで加熱するステップと、
次に、均熱温度で5~500秒間焼鈍を実施するステップと、
次に、冷間圧延鋼板を均熱温度から425℃~500℃の過時効温度まで、少なくとも5℃/秒の平均冷却速度で冷却するステップと、
次に、前記冷間圧延鋼板を過時効温度で5~500秒間過時効処理し、420℃~680℃の温度範囲にして被覆を容易にするステップと、
次に、冷間圧延板を被覆するステップと、
その後、冷間圧延鋼板を少なくとも55℃/秒の冷却速度で室温まで冷却して、冷間圧延被覆鋼板を得るステップと、
を含む、方法。
【請求項18】
巻取り温度が475℃~625℃である、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
仕上げ圧延温度が950℃を超える、請求項17又は18に記載の方法。
【請求項20】
均熱温度と過時効温度との間の平均冷却速度が10℃/秒を超える、請求項17~19のいずれか一項に記載の方法。
【請求項21】
均熱温度がAc1+30℃~Ac3-30℃であり、かかる均熱温度が均熱処理の終了時に少なくとも40%のオーステナイトの存在を確実にするように選択される、請求項17~20のいずれか一項に記載の方法。
【請求項22】
焼鈍均熱温度がAc1+30℃~Ac3-30℃であり、焼鈍均熱温度が焼鈍の終了時に少なくとも50%のオーステナイトの存在を確実にするように選択される、請求項21に記載の方法。
【請求項23】
過時効のための温度が440℃~480℃である、請求項17~22のいずれか一項に記載の方法。
【請求項24】
被覆後の冷却速度が少なくとも9℃/秒である、請求項17~23のいずれか一項に記載の方法。
【請求項25】
車両の構造部品又は安全部品の製造のための、請求項1~16のいずれか一項に記載の鋼板又は請求項17~24の方法に従って製造された鋼板の使用。
【請求項26】
請求項25に従って得られた部品を含む、車両。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車用鋼板としての使用に適した冷間圧延され被覆された鋼板に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車部品には、2つの相反する要求、すなわち、成形の容易さ及び強度を満たすことが求められているが、近年、地球環境への配慮から、自動車には燃費向上の第3の要求も課せられている。したがって、現在、自動車部品は、複雑な自動車アセンブリへの適合しやすさの基準に適合するように、高い成形性を有する材料で製造されなければならず、同時に、燃料効率を向上させるために車両の重量を低減させながら、車両の耐衝撃性及び耐久性の強度を改善しなければならない。
【0003】
したがって、材料の強度を高めることによって、自動車に使用される材料の量を減らすための精力的な研究開発が行われている。逆に、鋼板の強度が高くなると成形性が低下するため、高強度及び高成形性を兼ね備えた材料の開発が求められている。
【0004】
高強度及び高成形性鋼板の分野における以前の研究開発は、高強度及び高成形性鋼板を製造するためのいくつかの方法をもたらし、それらのうちのいくつかは、本発明の明確な理解のために本明細書に列挙される。
【0005】
EP2768989は、質量パーセントにて、以下の元素、0.13~0.19%のC、1.70~2.50%のMn、最大0.15%のSi、0.40~1.00%のAl、0.05~0.25%のCr、0.01~0.05%のNb、最大0.10%のP、最大0.004%のCa、最大0.05%のS、最大0.007%のN、及び任意で以下の元素、最大0.50%のTi、最大0.40%のV、最大0.50%のMo、最大0.50%のNi、最大0.50%のCu、最大0.005%のBのうちの少なくとも1種からなり、残部はFe及び不可避不純物であり、ここで、0.40%<Al+SI<1.05%及びMn+Cr>1.90%である、高強度溶融亜鉛メッキ鋼帯を有することを特許請求し、ここで、溶融亜鉛メッキ鋼帯は、8~12%の残留オーステナイト、10~20%のマルテンサイトを含有する微細組織を有し、残部はフェライト及びベイナイトの混合物であり、溶融亜鉛メッキ鋼帯は、10%以下のベイナイトを含有し、ここで、溶融亜鉛メッキ鋼帯は、少なくとも700MPaの極限引張強さRm、少なくとも400MPaの0.2%耐力Rp及び少なくとも18%の全伸びを有する。EP2768989の鋼は、20%を超える伸びを予測しながら、780MPa以上の強度を有する鋼を想定していない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、
780MPa以上、好ましくは800MPaを超える極限引張強さ、
400MPa以上、好ましくは450MPaを超える降伏強さ、
18%以上、好ましくは20%を超える全伸び、
20%以上、好ましくは22%を超える穴広げ率
を同時に有する冷間圧延鋼板を利用可能にすることによって、これらの問題を解決することである。
【0008】
好ましくは、かかる鋼はまた、良好な溶接性及び被覆性を有する、成形、圧延について良好な適合性を有することができる。
【0009】
本発明の別の目的はまた、製造パラメータの変更に対して堅牢でありながら、従来の産業用途に適合するこれらの鋼板の製造方法を利用可能にすることである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の冷間圧延及び熱処理された鋼板は、その耐食性を改善するために、亜鉛若しくは亜鉛合金、又はアルミニウム若しくはアルミニウム合金で被覆される。
【0011】
炭素は鋼中に0.140%~0.2%存在する。炭素は、マルテンサイト及びベイナイトなどの低温変態相を生成することによって鋼板の強度を高めるために必要な元素であり、さらに炭素はまた、オーステナイトの安定化において極めて重要な役割を果たし、したがって残留オーステナイトを確保するために必要な元素である。したがって、炭素は、1つは強度を増加させることにおいて、もう1つはオーステナイトを保持して延性を付与することにおいて、2つの極めて重要な役割を果たす。しかし、0.140%未満の炭素含有量では、本発明の鋼に必要とされる適切な量でオーステナイトを安定化させることができない。一方、炭素含有量が0.2%を超えると、鋼は、不十分なスポット溶接性を示し、自動車部品への適用が制限される。炭素が0.2%を超えて存在する場合、フレッシュマルテンサイトの存在が多くなる可能性があり、これは延性にとって有害である。本発明の鋼の炭素の好ましい範囲は、0.140%~0.19%、より好ましくは0.140%~0.18%である。
【0012】
本発明の鋼のマンガン含有量は1.5%~2.15%である。この元素はガンマジニアス(gammagenous)である。マンガンを添加する目的は、本質的にオーステナイトを含有する組織を得、鋼に強度を付与することである。少なくとも1.5重量%のマンガンの量は、鋼板の強度及び焼入れ性を提供するとともに、オーステナイトを安定化することが見出された。さらに、2.15%を超えるマンガン含有量はまた、延性を低下させ、また本発明の鋼の溶接性を低下させるので、伸びの目標を達成できない可能性がある。本発明の好ましい含有量は、1.7%~2.15%、さらにより好ましくは1.8%~2.15%に維持され得る。
【0013】
本発明の鋼のケイ素含有量は0.5%~0.8%である。ケイ素は焼鈍温度及び過時効後の冷却中の炭化物の析出を遅らせることができる成分であり、したがって、ケイ素の存在により、炭素に富んだオーステナイトは室温で安定化されるが、ケイ素の不均衡な含有量は前述の効果を生じず、焼戻し脆化及び液体金属脆化などの問題をもたらす。したがって、濃度は0.8%の上限内に制御される。本発明の好ましい含有量は、0.5%~0.7%に維持され得る。
【0014】
アルミニウムは必須元素であり、本発明の鋼中に0.4%~0.8%存在する。アルミニウムはフェライト形成を促進し、Ms温度を上昇させ、これにより、本発明は、本発明の鋼に延性及び強度を付与するために必要とする適切な量のマルテンサイト及びフェライトの両方を有することが可能になる。しかしながら、アルミニウムの存在が0.8%を超えると、それはAc3温度を上昇させ、完全オーステナイト領域での焼鈍及び熱間圧延仕上げ温度が経済的に不合理になる。アルミニウム含有量は、好ましくは0.4%~0.7%、より好ましくは0.4%~0.6%に制限される。
【0015】
本発明による残留オーステナイト及びフェライトの量、並びに18%、又はさらには20%の全伸び及び20%の穴広げ率を同時に確保するために、ケイ素及びアルミニウムの累積量は、好ましくは0.9%~1.2%、より好ましくは1%~1.2%である。
【0016】
リンは必須元素ではないが、鋼中に不純物として含有されていてもよく、本発明の観点からすれば、リン含有量は可能な限り少なく、0.09%未満であることが好ましい。リンは、特に粒界に偏析したり、又はマンガンと共偏析したりする傾向があるため、スポット溶接性及び熱間延性を低下させる。これらの理由から、その含有量は、0.09未満、好ましくは0.03%未満、より好ましくは0.014%未満に制限される。
【0017】
硫黄は必須元素ではないが、鋼中に不純物として含有されていてもよく、本発明の観点からすれば、硫黄含有量は可能な限り少ないことが好ましいが、製造コストの観点からは0.09%以下である。さらに、より多くの硫黄が鋼中に存在する場合、硫黄は特にマンガンと結合して硫化物を形成し、本発明の鋼に対するその有益な影響を減少させる。
【0018】
窒素は、材料の経時変化を回避し、鋼の機械的特性に有害な窒化物が凝固中に析出することを最小限に抑えるために、0.09%に制限される。
【0019】
クロムは本発明の任意の元素である。クロム含有量は、本発明の鋼中に0%~0.1%存在する。クロムは鋼に強度及び硬化をもたらすが、0.1%を超えて使用すると、鋼の表面仕上げを損なう。
【0020】
ニッケルは、鋼の強度を高め、その靭性を改善するために、3%以下の量で任意の元素として添加してもよい。かかる効果を生じるには、最低0.01%が好ましい。しかしながら、その含有量が3%を超えると、ニッケルは延性の低下を引き起こす。
【0021】
ニオブは本発明の必須元素である。ニオブ含有量は、本発明の鋼中に0.01%~0.1%存在し、析出硬化によって本発明の鋼に強度を付与するために炭窒化物を形成するために本発明の鋼に添加される。ニオブはまた、炭窒化物としてのその析出によって、及び熱処理中の再結晶を遅らせることによって、微細組織の構成要素のサイズに影響を及ぼす。このようにして、保持温度の終了時に、及び結果として、本発明の鋼に穴広げ率を付与する焼鈍の完了後に、微細な微細組織が形成される。しかしながら、0.1%を超えるニオブ含有量は、その影響の飽和効果が観察されることから、経済的に興味深いものではなく、これは、ニオブの追加の量が、製品のいかなる強度改善ももたらさないことを意味する。
【0022】
チタンは必須元素であり、本発明の鋼に0.01%~0.1%添加することができる。ニオブのように、チタンは炭窒化物の形成に関与するため、本発明の鋼の硬化において役割を果たす。さらに、チタンはまた、鋳造製品の凝固中に現れるチタン窒化物を形成する。チタンの量は、成形性に有害な粗大なチタン窒化物の形成を回避するために0.1%に制限される。チタン含有量が0.01%未満である場合、本発明の鋼に何ら影響を与えない。
【0023】
本発明の鋼中のカルシウム含有量は最大0.005%である。カルシウムは、特に介在物処理中に任意の元素として本発明の鋼に添加され、好ましい最小量は0.0001%である。カルシウムは、球状形態の有害な硫黄成分を抑制することによって、鋼の精錬に寄与しそれによって、硫黄の有害な影響を遅らせる。
【0024】
銅は、鋼の強度を高め、その耐食性を改善するために、2%以下の量で任意の元素として添加してもよい。かかる効果を得るには、最低0.01%の銅が好ましい。しかしながら、その含有量が2%を超えると、表面の様相を劣化させる可能性がある。
【0025】
モリブデンは、本発明の鋼の最大0.5%を構成する任意の元素である。モリブデンは、焼入れ性及び硬度を決定するのに有効な役割を果たし、ベイナイトの出現を遅らせ、ベイナイト中の炭化物の析出を回避する。しかしながら、モリブデンの添加は合金元素の添加のコストを過度に増加させるため、経済的理由からその含有量は0.5%に制限される。
【0026】
バナジウムは、炭化物又は炭窒化物を形成することによって鋼の強度を高めるのに有効であり、経済的理由により上限は0.1%である。セリウム、ホウ素、マグネシウム又はジルコニウムなどの他の元素は、個別に又は組み合わせて、以下の重量比率:セリウム≦0.1%、ホウ素≦0.003%、マグネシウム≦0.010%及びジルコニウム≦0.010%で添加することができる。示された最大含有量レベルまで、これらの元素は、凝固中に結晶粒を微細化することを可能にする。鋼の組成の残部は、鉄及び加工に起因する不可避不純物からなる。
【0027】
次に、鋼板の微細組織について説明する。
【0028】
変態区間フェライト(Inter-critical ferrite)は、本発明の鋼の面積分率で微細組織の40%~60%を構成する。この変態区間フェライトは、本発明の鋼に少なくとも20%の穴広げ率を付与する。変態区間フェライトは、Ac3未満の温度での焼鈍から生じる。変態区間フェライトは、以下に説明する「変態フェライト」と以下で呼ばれる、焼鈍後に生成され得るフェライトとは異なる。特に、変態フェライトとは対照的に、変態区間フェライトは多角形である。さらに、変態フェライトは、炭素及びマンガンに富んでおり、すなわち、変態区間フェライトの炭素及びマンガン含有量よりも高い炭素及びマンガン含有量を有する。したがって、変態区間フェライト及び変態フェライトは、メタ重亜硫酸塩でエッチングした後、二次電子を使用したFEG-TEM顕微鏡による顕微鏡写真を観察することによって識別することができる。かかる顕微鏡写真においては、変態区間フェライトは、ミディアムグレーに見えるが、変態フェライトは、そのより高い炭素及びマンガン含有量のためにダークグレーに見える。
【0029】
変態フェライトは、本発明の鋼について面積分率で微細組織の25%~45%を構成する。本発明の変態フェライトは、焼鈍後のフェライトと、鋼を被覆するための均熱処理中に形成されたベイニティックフェライトとから構成される。変態フェライトは、本発明の鋼に高強度及び伸びを付与する。18%、好ましくは20%以上の伸びを確保するためには、25%の変態フェライトを有する必要がある。本発明の変態フェライトは、焼鈍後に行われる冷却中及び鋼を被覆するための均熱処理中に形成され、本発明の鋼の変態フェライトは、変態区間フェライトと比較して炭素及びマンガンに富む。しかし、本発明の鋼中に変態フェライト含有量が45%を超えて存在するときは常に、引張強さ及び全伸びの両方を同時に有することは不可能である。本発明のフェライトの存在の好ましい限度は、25%~40%、より好ましくは25%~35%である。
【0030】
残留オーステナイトは、鋼の面積分率で8%~20%を構成する。本発明による鋼の残留オーステナイトは、TRIP効果により向上した延性を付与する。オーステナイトの存在の好ましい限度は、8%~18%、より好ましくは8%~15%である。本発明の残留オーステナイトは、好ましくは0.8%~1.1、より好ましくは0.9%~1.1%、さらにより好ましくは0.95%~1.05%の量で炭素を含有する。
【0031】
変態フェライト及び変態区間フェライトの累積量は75%~85%でなければならず、この変態フェライト及び変態区間フェライトの累積量は、本発明の鋼が常に18%を超える全伸び及び20%の穴広げ率を同時に有することを確保する。
【0032】
フレッシュマルテンサイトは、面積分率で微細組織の5%~20%を構成する。冷間圧延鋼板の被覆後の冷却中に、フレッシュマルテンサイトが形成される。マルテンサイトは、本発明の鋼に強度を付与する。しかしながら、マルテンサイトの存在が20%を超える場合、それは過剰な強度を付与するが、本発明の鋼の許容限度を超えて伸び及び穴広げ率を減少させる。本発明の鋼のマルテンサイトの好ましい限度は5%~15%であり、より好ましい限度は10%~15%である。
【0033】
ベイナイトは、本発明の鋼について面積分率で微細組織の0%~10%を構成し、それは任意の微細組織である。ベイナイトは、ベイニティックフェライト及び/又は炭化物を含まないベイナイトの形態であり得る。ベイナイトは、被覆前の過時効保持中に形成され得る。ベイナイトは、本発明の鋼に強度を付与する。780MPa以上の引張強さを達成するためには、2%のベイナイトを有することが好ましいが、10%を超えるベイナイトでは、鋼は穴広げ率を達成しない。ベイナイトの好ましい限度は2%~10%であり、より好ましい限度は5%~10%である。
【0034】
上記の微細組織に加えて、冷間圧延及び熱処理された鋼板の微細組織は、鋼板の機械的特性を損なうことなく、パーライト、焼戻しマルテンサイト及びセメンタイトなどの微細組織の構成要素を含まない。
【0035】
本発明による鋼板は、任意の好適な方法によって製造することができる。好ましい方法は、本発明による化学組成を有する鋼の半製品の鋳造物を提供することからなる。鋳造は、インゴットにするか、又は薄いスラブ若しくは薄いストリップの形態で、すなわち、スラブの場合は約220mmから薄いストリップの場合は数十ミリメートルまでの範囲の厚さで連続的に行うことができる。
【0036】
例えば、上述の化学組成を有するスラブは、連続鋳造によって製造され、スラブは、中心偏析を回避し、公称炭素に対する局所炭素の比を1.10未満に維持するために、連続鋳造工程中に任意に直接軽圧下鋳造を受けた。連続鋳造工程によって提供されるスラブは、連続鋳造後に高温で直接使用することができるが、最初に室温まで冷却し、次いで熱間圧延のために再加熱することもできる。
【0037】
熱間圧延に供されるスラブの温度は、少なくとも1000℃であり、1280℃未満でなければならない。スラブの温度が1000℃より低い場合、圧延機に過剰な負荷がかかり、さらに、仕上げ圧延中に鋼の温度がフェライト変態温度まで低下する可能性があり、それによって、鋼は組織中に変態フェライトが含有された状態で圧延される。したがって、スラブの温度は、Ac3+100℃~Ac3+200℃の温度範囲で熱間圧延を完了することができ、最終的な圧延温度がAc3を超えて留まるように、十分に高いことが好ましい。1280℃を超える温度での再加熱は、工業的に高価であるため避ける必要がある。
【0038】
最終的な圧延温度範囲のAc3~Ac3+200℃は、再結晶及び圧延に好ましい組織を有するために必要である。最終的な圧延パスは、950℃を超える温度で実施されることが好ましい、というのも、この温度未満では鋼板は圧延性の著しい低下を示すからである。次に、このようにして得られた熱間圧延鋼は、30℃/秒を超える冷却速度で、475℃~650℃でなければならない巻取り温度まで冷却される。好ましくは、冷却速度は200℃/秒以下である。
【0039】
次に、熱間圧延鋼は、楕円化を回避するために475℃~650℃、好ましくはスケール形成を回避するために475℃~625℃の巻取り温度で巻き取られる。かかる巻取り温度のより好ましい範囲は、500℃~625℃である。巻き取られた熱間圧延鋼は、任意の熱間帯焼鈍に供する前に室温まで冷却される。
【0040】
熱間圧延鋼は、任意の熱間帯焼鈍の前に熱間圧延中に形成されたスケールを除去するために、任意のスケール除去ステップに供されてもよい。次に、熱間圧延板は、例えば、400℃~750℃の温度で少なくとも12時間~96時間以下の任意の熱間帯焼鈍に供されてもよく、温度は、熱間圧延された微細組織の部分的な変態、したがって、微細組織の均一性の喪失を回避するために、750℃未満に留まる。その後、この熱間圧延鋼の任意のスケール除去ステップを、例えば、かかる鋼板の酸洗によって実施することができる。
【0041】
この熱間圧延鋼に冷間圧延を施して、圧下率35~90%の冷間圧延鋼板を得る。次に、冷間圧延工程から得られた冷間圧延鋼板に焼鈍を施して、本発明の鋼に微細組織及び機械的特性を付与する。
【0042】
前記冷間圧延鋼板を焼鈍するために、少なくとも3℃/秒の加熱速度で、Ac1~Ac3の均熱温度まで加熱し、次に、焼鈍をその温度で5~500秒間、好ましくは50~250秒間実施する。好ましい実施形態では、加熱は、少なくとも10℃/秒、より好ましくは少なくとも15℃/秒である。
【0043】
好ましい焼鈍均熱温度は、Ac1+30℃~Ac3、より好ましくはAc1+30℃~Ac3-30℃である。
【0044】
好ましい実施形態では、均熱処理の時間及び温度は、均熱処理終了時の鋼板の微細組織が少なくとも40%のオーステナイト、より好ましくは少なくとも50%のオーステナイトを含有することを確実にするように選択される。
【0045】
次に、冷間圧延鋼板は、少なくとも5℃/秒、好ましくは少なくとも10℃/秒の平均冷却速度で、均熱温度から425℃~500℃、好ましくは440℃~480℃の過時効保持温度まで冷却される。
【0046】
次に、冷間圧延鋼板は、過時効温度で5~500秒間保持される。
【0047】
次に、冷間圧延鋼板の溶融被覆を容易にするために、被覆の性質に応じて、冷間圧延鋼板を420℃~680℃の被覆浴の温度にすることができる。
【0048】
次に、被覆された冷間圧延鋼板を、少なくとも5℃/秒、好ましくは少なくとも9℃/秒の冷却速度で被覆浴温度から室温まで冷却して、本発明の鋼におけるフレッシュマルテンサイトの形成を確実にする。
【0049】
室温まで冷却した後、冷間圧延及び被覆された鋼板が得られる。冷間圧延鋼板はまた、電気亜鉛メッキ、JVD、PVDなどの既知の工業工程のいずれかによって被覆することができ、被覆前に上記の温度範囲にすることを必要としない場合もある。
【実施例0050】
本明細書に提示される以下の試験、実施例、図的例示及び表は、本質的に非限定的であり、例示のみを目的として考慮されなければならず、本発明の有利な特徴を示す。
【0051】
異なる組成を有する鋼から製造された鋼板を表1にまとめ、鋼板は、それぞれ表2に明記された処理パラメータに従って製造される。その後、表3に試験中に得られた鋼板の微細組織をまとめ、表4に得られた特性の評価結果をまとめる。
【0052】
【0053】
表2
表2に表1の鋼に対して実施された焼鈍処理パラメータをまとめる。鋼組成物A~Dは、本発明による鋼板の製造にかなう。表2はまた、Ac1及びAc3の一覧を示す。これらのAc1及びAc3は、本発明の鋼について定義され、参照の鋼は膨張率測定研究によって経験的に決定される。
【0054】
以下の処理パラメータは、表1のすべての鋼について同じである。表1のすべての鋼は、熱間圧延前に1120℃の温度に加熱され、すべての鋼の熱間圧延仕上げ温度は900℃である。その後、表1のすべての鋼を620℃で巻き取る。
【0055】
表2は以下の通りである。
【0056】
【0057】
表3
表3は、本発明の鋼及び参照の鋼の両方の微細組織を決定するための走査型電子顕微鏡などの種々の顕微鏡で規格に従って行われた試験の結果を例示する。
【0058】
結果は本明細書に明記されている。
【0059】
【0060】
表4
表4は、本発明の鋼及び参照の鋼の両方の機械的特性を例示する。引張強さ、降伏強さ及び全伸びを決定するために、ASTM規格に従って引張試験を行う。
【0061】
規格に従って行われた種々の機械的試験の結果をまとめる。
【0062】
均熱温度がAc1+30℃~Ac3-30℃であり、かかる均熱温度が均熱処理の終了時に少なくとも40%のオーステナイトの存在を確実にするように選択される、請求項17~20のいずれか一項に記載の方法。
焼鈍均熱温度がAc1+30℃~Ac3-30℃であり、焼鈍均熱温度が焼鈍の終了時に少なくとも50%のオーステナイトの存在を確実にするように選択される、請求項21に記載の方法。