(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025040669
(43)【公開日】2025-03-25
(54)【発明の名称】玉軸受
(51)【国際特許分類】
F16C 33/41 20060101AFI20250317BHJP
F16C 19/16 20060101ALI20250317BHJP
【FI】
F16C33/41
F16C19/16
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023147605
(22)【出願日】2023-09-12
(71)【出願人】
【識別番号】000102692
【氏名又は名称】NTN株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100130513
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 直也
(74)【代理人】
【識別番号】100074206
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 文二
(74)【代理人】
【識別番号】100130177
【弁理士】
【氏名又は名称】中谷 弥一郎
(72)【発明者】
【氏名】西口 航平
(72)【発明者】
【氏名】田窪 孝康
(72)【発明者】
【氏名】杉山 彰悟
【テーマコード(参考)】
3J701
【Fターム(参考)】
3J701AA02
3J701AA32
3J701AA42
3J701AA52
3J701AA62
3J701BA24
3J701BA44
3J701EA31
3J701FA15
3J701FA33
3J701FA46
3J701FA51
3J701GA24
3J701XB01
(57)【要約】
【課題】樹脂製の冠形保持器を組み込んだ玉軸受において、回転時の遠心力による保持器のつのの変形を効果的に抑えられるようにする。
【解決手段】保持器4のつの6の補強部9を、ポケット7の径方向中心位置Aよりも径方向外側で円環基部5と連続する外周面9aと、ポケット7の径方向中心位置Aよりも径方向内側で円環基部5と連続する内周面9bとを有するブロック状に形成し、その外周面9aの一部を軸方向一方側へ向かうにつれて内周面9bに近づくように傾斜する傾斜面9a2とすることにより、保持器4のつの6を減肉して軽量化しつつ、つの6全体の径方向および円周方向の強度低下を小さくして、保持器4が回転による遠心力を受けたときに、つの6の変形が効果的に抑えられるようにした。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
外輪(1)と、前記外輪(1)の径方向内側に配される内輪(2)と、前記外輪(1)と前記内輪(2)の間に転動自在に配される複数の玉(3)と、前記複数の玉(3)を保持する樹脂製の保持器(4)とを備え、
前記保持器(4)は、円環基部(5)と、前記円環基部(5)から円周方向に等間隔で軸方向一方側に延びる複数のつの(6)とからなり、円周方向で隣り合う前記つの(6)どうしの間に形成された、前記玉(3)を収容するポケット(7)を有し、
前記保持器(4)のつの(6)は、周方向で互いに対向する一対の片持ち梁状の爪部(8)の間に、その爪部(8)どうしを連結するように補強部(9)を設けたものである玉軸受において、
前記保持器(4)は、前記つの(6)の補強部(9)が、前記ポケット(7)の径方向中心位置(A)よりも径方向外側で前記円環基部(5)と連続する外周面(9a)と、前記ポケット(7)の径方向中心位置(A)よりも径方向内側で前記円環基部(5)と連続する内周面(9b)とを有するブロック状に形成されており、前記補強部(9)の外周面(9a)が少なくとも一部で軸方向一方側へ向かうにつれて前記内周面(9b)に近づくように傾斜していることを特徴とする玉軸受。
【請求項2】
前記保持器(4)の爪部(8)が、先端に近づくほど外径寸法が小さくなる形状に形成されている請求項1に記載の玉軸受。
【請求項3】
前記保持器(4)の補強部(9)は、前記外周面(9a)の周方向中央部に軸方向一方側から見てU字状の凹部(9d)が形成されている請求項1または2に記載の玉軸受。
【請求項4】
前記保持器(4)の補強部(9)の外周面(9a)は、軸方向断面において少なくとも1つの直線または少なくとも1つのR形状を含む形状に形成されている請求項1または2に記載の玉軸受。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂製の冠形保持器を組み込んだ玉軸受に関する。
【背景技術】
【0002】
電動車の技術分野においては、電費低減や走行性能向上を図るための手段として、電動機の回転速度を高めるとともに電動機を小型・軽量化して電動機の出力密度を高めようとする動きがある。しかし、電動機を高速化しようとすると、電動機の回転が入力される回転軸を支持する転がり軸受は、回転速度の上昇に伴って内部部品に作用する遠心力が大きくなり、それによる内部部品の変形の増大が種々の不具合を生じやすくなる。
【0003】
特に、樹脂製の冠形保持器(以下、単に「保持器」とも称する。)を組み込んだ玉軸受では、高速回転下で使用した際に、その保持器の片持ち梁状のつのが遠心力によって径方向外側に変形しやすい。そして、変形したつのの先端部分が外輪の内周面や玉に強く接触することにより、回転抵抗が増大して発熱し、焼付き等により軸受機能の失陥をまねくおそれがある。
【0004】
このため、上記のような樹脂製の冠形保持器が組み込まれ、高速回転下で使用される玉軸受は、その保持器のつのを減肉して軽量化することにより、遠心力によるつのの変形を抑えるようにしていることが多い(例えば、特許文献1参照。)。
【0005】
特許文献1に開示されている玉軸受は、
図13に示すように、外輪51と、外輪51の径方向内側に配される内輪52と、外輪51と内輪52の間に転動自在に配される複数の玉53と、その複数の玉53を保持する樹脂製の冠形保持器54とを備えている。その保持器54は、
図13乃至
図15に示すように、円環基部(環状体)55と、円環基部55から円周方向に等間隔で軸方向一方側に延びる複数のつの56とからなり、円周方向で隣り合うつの56どうしの間に玉53を収容するポケット57が形成されている。そして、そのつの56は、周方向で互いに対向する一対の片持ち梁状の爪部(つの本体)58の間に、爪部58どうしを連結するように板状の補強部(補剛リブ)59を設けた構成となっている。
【0006】
そして、保持器54のつの56を上記のような構成として、つの56に欠損部(一般的な冠形保持器のつのに対して欠けている部分)を形成することにより、つの56を軽量化して遠心力によるつの56の変形を小さくできるとともに、つの56の強度低下は補強部59により防ぐことができるとしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、上記特許文献1の玉軸受では、保持器54のつの56の補強部59がポケット57の径方向中心位置Cよりも径方向内側で円環基部55から軸方向一方側(つの56の突出方向)に延びる板状に形成されているので、高速回転下では遠心力による爪部58の径方向外側への変形を十分に抑えることができず、爪部58の外輪51や玉53との接触に起因するトラブルを防止できないおそれがある。
【0009】
そこで、この発明は、樹脂製の冠形保持器を組み込んだ玉軸受において、回転時の遠心力による保持器のつのの変形を効果的に抑えられるようにすることを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記の課題を解決するために、この発明は、外輪と、前記外輪の径方向内側に配される内輪と、前記外輪と前記内輪の間に転動自在に配される複数の玉と、前記複数の玉を保持する樹脂製の保持器とを備え、前記保持器は、円環基部と、前記円環基部から円周方向に等間隔で軸方向一方側に延びる複数のつのとからなり、円周方向で隣り合う前記つのどうしの間に形成された、前記玉を収容するポケットを有し、前記保持器のつのは、周方向で互いに対向する一対の片持ち梁状の爪部の間に、その爪部どうしを連結するように補強部を設けたものである玉軸受において、前記保持器は、前記つのの補強部が、前記ポケットの径方向中心位置よりも径方向外側で前記円環基部と連続する外周面と、前記ポケットの径方向中心位置よりも径方向内側で前記円環基部と連続する内周面とを有するブロック状に形成されており、前記補強部の外周面が少なくとも一部で軸方向一方側へ向かうにつれて前記内周面に近づくように傾斜している構成(構成1)の玉軸受を提供するようにした。
【0011】
すなわち、上記構成1の玉軸受は、保持器のつのの補強部をポケットの径方向中心位置の内外に拡がるブロック状のものとし、その外周面を少なくとも一部で軸方向一方側へ向かうにつれて内周面に近づくように傾斜させることにより、保持器のつのを一般的な仕様のものよりも減肉して軽量化しつつ、つの全体の径方向および円周方向の強度低下を前述の特許文献1のものよりも小さくして、保持器が回転による遠心力を受けたときに、つのの変形が効果的に抑えられるようにしたのである。
【0012】
そして、この発明は、前記保持器の爪部が、先端に近づくほど外径寸法が小さくなる形状に形成されている場合に(構成2)、特に効果的に適用することができる。このような形状の爪部を有するつのは、一般的な仕様の(爪部が一定の外径に形成されている)つのよりも遠心力が抑えられて変形しにくいからである。
【0013】
また、上記構成1または2において、前記保持器の補強部は、前記外周面の周方向中央部に軸方向一方側から見てU字状の凹部が形成されている構成とすれば(構成3)、つの全体の強度低下を抑えながらつのをさらに軽量化して、遠心力によるつのの変形をより小さく抑えることが可能となる。
【0014】
上記構成1乃至3のいずれにおいても、前記保持器の補強部の外周面は、軸方向断面において少なくとも1つの直線または少なくとも1つのR形状を含む形状に形成されているものとすることができる(構成4)。
【発明の効果】
【0015】
上述したように、本発明の玉軸受は、保持器のつのの補強部をポケットの径方向中心位置の内外に拡がるブロック状のものとし、その外周面の少なくとも一部を軸方向一方側へ向かうにつれて内周面に近づくように傾斜させたものであるから、保持器のつのの軽量化と強度の確保を両立して、回転時の遠心力によるつのの変形を効果的に抑えることができる。したがって、保持器のつのの爪部が外輪や玉と接触することによるトラブルが生じにくく、高速回転する用途に適したものとなっている。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図3】
図1の保持器の要部を拡大して示す正面断面図
【
図4】
図1の保持器の要部を軸方向一方側から見た側面図
【
図5】
図4に対応して保持器のつの形状の第1変形例を示す要部の側面図
【
図6】
図3に対応して保持器のつの形状の第2変形例を示す要部の正面断面図
【
図7】
図3に対応して保持器のつの形状の第3変形例を示す要部の正面断面図
【
図8】
図3に対応して保持器のつの形状の第4変形例を示す要部の正面断面図
【
図9】
図3に対応して保持器のつの形状の第5変形例を示す要部の正面断面図
【
図10】
図3に対応して保持器のつの形状の第6変形例を示す要部の正面断面図
【
図11】
図3に対応して保持器のつの形状の第7変形例を示す要部の正面断面図
【
図12】
図1の保持器および
図11の保持器とそれぞれに対する比較例の保持器の変形量の数値解析結果を示すグラフ
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、
図1乃至
図12に基づき、本発明の実施形態を説明する。この玉軸受は、
図1に示すように、内周面に軌道面1aが形成された外輪1と、外輪1の径方向内側に配され、外周面に軌道面2aが形成された内輪2と、外輪1の軌道面1aと内輪2の軌道面2aとの間に転動自在に配される複数の玉3と、その複数の玉3をそれぞれ等間隔で転動自在に保持する樹脂製の冠形保持器4とを備えた玉軸受(深溝玉軸受)である。
【0018】
ここで、外輪1、内輪2および保持器4のそれぞれの中心軸(図示省略)は同軸に配されており、玉軸受の設計上の回転中心である軸受中心軸に相当する。以下、保持器4の中心軸を単に「中心軸」という。
【0019】
そして、軸方向とは中心軸に沿った方向のことをいい、軸方向一方側は
図1における左側、軸方向他方側は
図1における右側である。また、径方向とは中心軸と直交する方向のことをいう。そして、径方向外側とは径方向で中心軸から遠ざかる方向のことをいい、径方向内側とは径方向で中心軸に接近する方向のことをいう。また、円周方向とは、中心軸周りに一周する円周に沿った方向のことをいう。
【0020】
保持器4は、
図1乃至
図3に示すように、円周方向に延びる円環基部5と、円環基部5から円周方向に等間隔で軸方向一方側に延びる複数のつの6とからなり、円周方向で隣り合うつの6どうしの間に玉3を収容するポケット7が形成されている。円環基部5の外周面および内周面はそれぞれ円筒面となっている。ポケット7は、径方向外側、径方向内側および軸方向一方側に開口した空間であり、つの6と同数だけ形成されている。
【0021】
また、ポケット7の内面形状は球面であり、その径方向外側、径方向内側および軸方向一方側の開口は玉3を通過させない寸法となっている。したがって、ポケット7への玉3の収納は、玉軸受を組み立てる際に、外輪1の軌道面1aと内輪2の軌道面2aとの間に配した玉3に対して、保持器4のつの6を軸方向他方側から押し付けることにより、つの6を弾性変形させて、ポケット7の軸方向一方側の開口を円周方向に広げながら玉3をポケット7内に入り込ませるようにする。
【0022】
この保持器4のつの6は、周方向で互いに対向する一対の片持ち梁状の爪部8の間に、その爪部8どうしを連結するように補強部9が設けられている。各爪部8は、その外周面8aが円環基部5の外周面と同一面に形成された円筒面8a1と、2つの凹曲面8a2、8a3を軸方向他方側から順に連続させたものとなっており、先端に近づくほど外径寸法が小さくなる形状に形成されている。また、爪部8の内周面8bは円環基部5の内周面と同一面に形成されている。
【0023】
つの6の補強部9は、
図3に示すように、ポケット7の径方向中心位置Aよりも径方向外側で円環基部5と連続する外周面9aと、ポケット7の径方向中心位置Aよりも径方向内側で円環基部5と連続する内周面9bと、ポケット7の径方向中心位置Aよりも径方向内側で外周面9aおよび内周面9bと連続する先端面9cとを有するブロック状に形成されている。その内周面9bは、爪部8の内周面8bおよび円環基部5の内周面と同一面に形成されている。ここで、ポケット7の径方向中心位置Aは、円環基部5の外周面と内周面の中間位置に一致し、三次元測定機によりポケット7の溝部を除く曲面部を測定することで求めることができる。
【0024】
補強部9の外周面9aは、円筒面9a1と、軸方向一方側へ向かうにつれて内周面9bに近づくように傾斜する傾斜面9a2を軸方向他方側から順に連続させたものとなっている。その円筒面9a1は、爪部8の外周の円筒面8a1(円環基部5の外周面)よりも小径に形成されている。傾斜面9a2は、軸方向断面において直線状に形成されている。なお、軸方向他方側の円筒面9a1は、軸方向一方側へ向かうにつれて傾斜面9a2と異なる傾きで内周面に近づく傾斜面に変えることもできる。
【0025】
補強部9の先端面9cは、ポケット7の軸方向中心位置Bよりも軸方向他方側で径方向に延びる平面に形成されている。先端面9cをこの位置に形成しているのは、爪部8の先端側が周方向に変形しやすいようにして、ポケット7への玉3の組み込み性を良好なものとするためである。なお、先端面9cは、径方向内側へ向かうにつれて爪部8の先端に近づくように傾斜する傾斜面に変えることもできる。
【0026】
また、補強部9の外周面9aの周方向中央部には、軸方向一方側から見てU字状で、円環基部5の軸方向一方側の端面まで達する凹部9dが形成されている。その凹部9dは、
図4に示すように、軸方向一方側から見てポケット7の径方向中心位置A上に中心をもつ半円状の底面9d1と、底面9d1の周方向両端から径方向外側へ互いに平行に延びる一対の側面9d2とを有している。そして、その最大幅(底面9d1の半円の直径)Waが、一対の爪部8間の最小幅Wbに対して、0.5Wb≦Wa<Wbとなるように形成されている。
【0027】
この玉軸受は、上記の構成であり、保持器4のつの6の補強部9がポケット7の径方向中心位置Aの内外に拡がるブロック状に形成されており、その補強部9の外周面9aのほぼ全部を占める傾斜面9a2が軸方向一方側へ向かうにつれて内周面9bに近づくように傾斜しており、またその外周面9aの周方向中央部に凹部9dが形成されているので、保持器4のつの6の軽量化と強度の確保を両立して、回転時の遠心力によるつの6の変形を効果的に抑えることができる。このため、保持器4のつの6の爪部8が外輪1や玉3と接触することによるトラブルが生じにくく、高速回転する用途に特に有効に適用することができる。
【0028】
また、この玉軸受は、保持器4のつの6の爪部8および補強部9がいずれも軸方向一方側で径方向寸法が小さくなるように形成されているので、保持器4のポケット7へ玉3を組み込む際に爪部8の先端側が変形しやすく、組込作業がしやすいという特徴もある。
【0029】
図5は保持器4のつの形状の第1変形例を示す。この第1変形例は、つの6の補強部9の凹部9dを、軸方向一方側から見た底面9d1の半円の中心がポケット7の径方向中心位置Aよりも径方向外側に位置するように形成し、側面9d2をなくしたものである。
【0030】
図6乃至
図8はそれぞれ保持器4のつの形状の第2乃至第4変形例を示す。これらの変形例はいずれもつの6の補強部9の外周面形状を変更したものであって、
図6に示す第2変形例では、補強部9の外周面9aのうちの傾斜面9a2を、軸方向断面においてR形状をなすものとしている。また、
図7に示す第3変形例では、補強部9の傾斜面9a2を、軸方向断面において傾斜角度の異なる2つの直線からなる形状に形成している。一方、
図8に示す第4変形例では、補強部9の傾斜面9a2を、軸方向断面において直線とR形状が軸方向他方側から順に連続したものとしている。
【0031】
図9乃至
図11はそれぞれ保持器4のつの形状の第5乃至第7変形例を示す。これらの変形例は、いずれも
図1乃至
図4に示した例のつの6の補強部9の形状は変えず、爪部8の外周面形状を変更したものである。
図9に示す第5変形例では、爪部8の外周面8aを軸方向断面において傾斜角度の異なる2つの直線からなる形状に形成しており、その直線の傾斜角度は軸方向一方側の方が軸方向他方側よりも大きくなっている。また、
図10に示す第6変形例では、爪部8の外周面8aが、円環基部5の外周面と同一面に形成された円筒面と、軸方向断面において傾斜角度の異なる2つの直線からなる形状の傾斜面を軸方向他方側から順に連続させたものとなっている。その直線の傾斜角度は、
図9の第5変形例とは逆に、軸方向他方側の方が軸方向一方側よりも大きく設定されている。そして、
図11に示す第7変形例は、爪部8の外周面8a全体を円環基部5の外周面と同一の円筒面に形成している。
【0032】
これらの各変形例は、いずれも
図1乃至
図4に示した例と同様の効果を発揮することができる。そのうち、
図11の第7変形例は、爪部8の径方向寸法が一定に形成されているので、他の例に比べて玉3の組み込み性およびつの6の軽量化の点では不利であるが、つの6の強度は高くなっている。
【0033】
次に、この実施形態の玉軸受における保持器4のつの6の変形量低減効果を確認した数値解析について説明する。
【0034】
数値解析は、
図1乃至
図4に示した例(実施例1)および
図11示した第7変形例(実施例2)と、実施例1の補強部をなくした比較例1および実施例2の補強部をなくした比較例2を対象とし、保持器の表面温度を25℃としたときの変形量を複数の回転速度条件で計算した。
【0035】
図12は解析対象の各例の保持器について、つのの爪部の径方向外側への変形率(径方向寸法に対する変形量の比率)の計算結果を示す。ここで、図中のdmn値は玉のピッチ円直径dm(mm)×回転数n(min
-1)である。この図から、実施例1、2は、それぞれ比較例1、2に対して爪部の変形率(変形量)を抑制でき、特にdmn値が200万を超える高速回転領域では変形率を10~20%程度低減できることがわかる。これにより、この発明は、特に高速回転下で遠心力によるつのの変形に対して大きな低減効果があることが確認された。
【0036】
したがって、例えば、この発明の玉軸受を電動車の電動機に組み込めば、その電動機の許容回転数を上げることができ、電動機の小型化に貢献することが期待できる。
【0037】
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。この発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【0038】
また、この発明は、上述した実施形態のような深溝玉軸受に限らず、冠形保持器を組み込んだアンギュラ玉軸受にも適用することができる。
【符号の説明】
【0039】
1 外輪
2 内輪
3 玉
4 保持器
5 円環基部
6 つの
7 ポケット
8 爪部
9 補強部
9a 外周面
9a2 傾斜面
9b 内周面
9d 凹部