(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025040869
(43)【公開日】2025-03-25
(54)【発明の名称】ストロビルリンA類縁体化合物
(51)【国際特許分類】
C07C 69/734 20060101AFI20250317BHJP
C07C 69/736 20060101ALI20250317BHJP
C07C 67/31 20060101ALI20250317BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20250317BHJP
A61P 17/00 20060101ALI20250317BHJP
A61P 1/18 20060101ALI20250317BHJP
A61K 31/232 20060101ALI20250317BHJP
A61P 11/00 20060101ALI20250317BHJP
C07B 61/00 20060101ALN20250317BHJP
A61K 36/07 20060101ALN20250317BHJP
【FI】
C07C69/734 Z CSP
C07C69/736
C07C67/31
A61P35/00
A61P17/00
A61P1/18
A61K31/232
A61P11/00
C07B61/00 300
A61K36/07
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023147938
(22)【出願日】2023-09-12
(71)【出願人】
【識別番号】504150461
【氏名又は名称】国立大学法人鳥取大学
(74)【代理人】
【識別番号】100083806
【弁理士】
【氏名又は名称】三好 秀和
(74)【代理人】
【識別番号】100111235
【弁理士】
【氏名又は名称】原 裕子
(74)【代理人】
【識別番号】100170575
【弁理士】
【氏名又は名称】森 太士
(72)【発明者】
【氏名】石原 亨
(72)【発明者】
【氏名】高橋 賢次
(72)【発明者】
【氏名】田中 智也
【テーマコード(参考)】
4C088
4C206
4H006
4H039
【Fターム(参考)】
4C088AA02
4C088BA08
4C088BA11
4C088BA31
4C088NA14
4C088ZA59
4C088ZA66
4C088ZA89
4C088ZB26
4C206AA01
4C206AA02
4C206AA03
4C206DB13
4C206DB43
4C206MA01
4C206MA04
4C206NA14
4C206ZA59
4C206ZA66
4C206ZA89
4C206ZB26
4H006AA01
4H006AA02
4H006AB28
4H006AC43
4H006AC48
4H006BJ50
4H006BP10
4H006BP30
4H006BP60
4H006KA31
4H039CA20
(57)【要約】
【課題】ストロビルリンAまたはXと比べて細胞増殖阻害活性、がん細胞増殖阻害活性、およびがん細胞選択性のうちの1つ以上が高められたストロビルリンA類縁体化合物を提供する
【解決手段】ストロビルリンAの骨格を有するストロビルリンA類縁体化合物であって、(a)4’位に独立して炭素数2以上のヘテロアルキルもしくはアルキル置換基またはアリール含有もしくはヘテロアリール含有置換基を有するか、(b)3’位および4’位にそれぞれ独立して炭素数1以上のヘテロアルキルもしくはアルキル置換基またはアリール含有もしくはヘテロアリール含有置換基を有するか、(c)2’ 位に独立して炭素数1以上のヘテロアルキルもしくはアルキル置換基またはアリール含有もしくはヘテロアリール含有置換基を有するか、または(d)3’位に独立して炭素数2以上のヘテロアルキルもしくはアルキル置換基またはアリール含有もしくはヘテロアリール含有置換基を有する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ストロビルリンAの骨格を有するストロビルリンA類縁体化合物であって、
(a)4’位に独立して炭素数2以上のヘテロアルキルもしくはアルキル置換基またはアリール含有もしくはヘテロアリール含有置換基を有するか、
(b)3’位および4’位にそれぞれ独立して炭素数1以上のヘテロアルキルもしくはアルキル置換基またはアリール含有もしくはヘテロアリール含有置換基を有するか、
(c)2’ 位に独立して炭素数1以上のヘテロアルキルもしくはアルキル置換基またはアリール含有もしくはヘテロアリール含有置換基を有するか、または
(d)3’位に独立して炭素数2以上のヘテロアルキルもしくはアルキル置換基またはアリール含有もしくはヘテロアリール含有置換基を有する、
化合物。
【請求項2】
前記ヘテロアルキルもしくはアルキル置換基は炭素数14以下のヘテロアルキルもしくはアルキル基である、請求項1に記載の化合物。
【請求項3】
前記ヘテロアルキルはアルキルオキシである、請求項2に記載の化合物。
【請求項4】
前記アリール含有もしくはヘテロアリール含有置換基はアリールオキシ、ヘテロアリールオキシ、アリールアルキル、ヘテロアリールアルキル、アリール、またはヘテロアリール基である、請求項1に記載の化合物。
【請求項5】
4’位に独立して炭素数14以下のアルキルオキシもしくはアルキル置換基またはアリールオキシ、アリールアルキル、もしくはアリール置換基を有する、請求項1に記載の化合物。
【請求項6】
以下のものからなる群から選択される、
【化1】
請求項1に記載の化合物。
【請求項7】
G361細胞、A549細胞およびMIA PACA-2細胞からなる群から選択される少なくとも一つの細胞に対する細胞毒性、および/または、NB1RGB細胞に対する前記少なくとも一つの細胞の選択性インデックス(SI)が、ストロビルリンAまたはストロビルリンXにおける対応する値より大きい、請求項1に記載の化合物。
【請求項8】
請求項1~7のいずれか一項に記載の化合物を含むがん治療用の医薬組成物。
【請求項9】
前記がんが、メラノーマ、肺がん、または膵臓がんである、請求項8に記載の医薬組成物。
【請求項10】
ストロビルリンAの骨格を有する化合物の製造方法であって、
一般式(I)
【化2】
(式中、R
1、R
2、R
3はそれぞれ独立に、水素、または非アルデヒド置換基である)
のベンズアルデヒドを前駆体として、
一般式(II)
【化3】
の中間体を合成すること、
および、前記中間体から、
一般式(III)
【化4】
の化合物を合成することを含む、製造方法。
【請求項11】
請求項1~7のいずれか一項に記載の化合物を製造する、請求項10に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、ストロビルリンAの骨格を有するストロビルリンA類縁体化合物に関する。
【背景技術】
【0002】
がんは、罹患率の高さおよび重病になる可能性の大きさから、人間にとって最も恐るべき疾患の1つであり、特に日本人にとっては死因の第1位を占めるものである。がんの新たな治療薬や治療方法の開発が常に求められている。また、がんは人間に限られた病気ではない。獣医療においても、近年、伴侶動物の高齢化に伴いがんの症例が増えてきている。
【0003】
がん治療薬の世界市場規模は年々拡大し続けており、数年以内に3000億米ドルに達すると見積もられている。様々な化学療法剤が開発されてきているが、例えば免疫チェックポイントに作用する抗体医薬などに代表されるように薬価が極めて高いものが多く、医療保険制度に対する大きな負担にもなっている。従って、比較的安価な低分子医薬、特に天然物質に関連する低分子医薬に対する期待と需要は依然として大きい。
【0004】
これまでに、カビなどの菌類から様々な有用生理活性物質が発見されてきた。しかしながら、きのこが有する生理活性物質については、きのこ全般の遍在性および多様性にも関わらず研究例が相対的に少ない。きのこは比較的未開拓の資源であると言え、きのこには多くの有用物質が秘められている可能性がある。
【0005】
本発明者らによる先行研究(特許文献1)において、きのこ抽出物ライブラリーを用いて、がん細胞に対する増殖抑制効果を有する化合物の探索が行われた。その結果、ヌメリツバタケモドキの菌糸体および培養液ろ液の抽出物に含まれる、ストロビルリンAおよびストロビルリンXが、がん細胞に対する増殖阻害効果を有することが判明した。また、細胞増殖阻害に関し、ストロビルリンXはストロビルリンAよりも、がん細胞に対する選択性が高かった。しかしながら、ストロビルリンのがん細胞に対する増殖阻害効果およびがん細胞選択性にどのような化学構造が寄与できるのかはまったく理解されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【0007】
本発明者らは、ストロビルリンAのベンゼン環に様々な置換基を導入することに適した合成方法を開発した。その成果に少なくとも部分的に基づき、本開示は、ストロビルリンAの骨格を有する新規ストロビルリンA類縁体化合物およびそれを含む組成物を提供する。本開示は特に、ストロビルリンAまたはXと比べて細胞増殖阻害活性、がん細胞増殖阻害活性、およびがん細胞選択性のうちの1つ以上が高められたストロビルリンA類縁体化合物ならびにそれらを含む組成物を提供する。
【0008】
本開示は少なくとも以下の実施形態を含む。
[項1]
ストロビルリンAの骨格を有するストロビルリンA類縁体化合物であって、
(a)4’位に独立して炭素数2以上のヘテロアルキルもしくはアルキル置換基またはアリール含有もしくはヘテロアリール含有置換基を有するか、
(b)3’位および4’位にそれぞれ独立して炭素数1以上のヘテロアルキルもしくはアルキル置換基またはアリール含有もしくはヘテロアリール含有置換基を有するか、
(c)2’ 位に独立して炭素数1以上のヘテロアルキルもしくはアルキル置換基またはアリール含有もしくはヘテロアリール含有置換基を有するか、または
(d)3’位に独立して炭素数2以上のヘテロアルキルもしくはアルキル置換基またはアリール含有もしくはヘテロアリール含有置換基を有する、
化合物。
[項2]
前記ヘテロアルキルもしくはアルキル置換基は炭素数14以下のヘテロアルキルもしくはアルキル基である、項1に記載の化合物。
[項3]
前記ヘテロアルキルはアルキルオキシである、項1または2に記載の化合物。
[項4]
前記アリール含有もしくはヘテロアリール含有置換基はアリールオキシ、ヘテロアリールオキシ、アリールアルキル、ヘテロアリールアルキル、アリール、またはヘテロアリール基である、項1~3のいずれかに記載の化合物。
[項5]
4’位に独立して炭素数14以下のアルキルオキシもしくはアルキル置換基またはアリールオキシ、アリールアルキル、もしくはアリール置換基を有する、項1~4のいずれかに記載の化合物。
[項6]
以下のものからなる群から選択される、
【化1】
項1~5のいずれかに記載の化合物。
[項7]
G361細胞、A549細胞およびMIA PACA-2細胞からなる群から選択される少なくとも一つの細胞に対する細胞毒性、および/または、NB1RGB細胞に対する前記少なくとも一つの細胞の選択性インデックス(SI)が、ストロビルリンAまたはストロビルリンXにおける対応する値より大きい、項1~6のいずれかに記載の化合物。
[項8]
項1~7のいずれか一項に記載の化合物を含むがん治療用の医薬組成物。
[項9]
前記がんが、メラノーマ、肺がん、または膵臓がんである、項8に記載の医薬組成物。
[項10]
ストロビルリンAの骨格を有する化合物の製造方法であって、
一般式(I)
【化2】
(式中、R
1、R
2、R
3はそれぞれ独立に、水素、または非アルデヒド置換基である)
のベンズアルデヒドを前駆体として、
一般式(II)
【化3】
の中間体を合成すること、
および、前記中間体から、
一般式(III)
【化4】
の化合物を合成することを含む、方法。
[項11]
項1~7のいずれかに記載の化合物を製造する、項10に記載の方法。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】
図1は、膵臓がん細胞および肺がん細胞に対する試験化合物の増殖阻害活性を示す。Et:4’-エチルSA、PeO:4’-ペンチロキシSA、EtO:4’-エトキシSA、PhO:4’-フェノキシSA、Bn:4’-ベンジルSA。
【発明を実施するための形態】
【0010】
<ストロビルリンA類縁体化合物>
【0011】
一態様において、ストロビルリンAの骨格を有するストロビルリンA類縁体化合物が提供される。ストロビルリンA(以下、SAとも表記される)は、例えばヌメリツバタケモドキ(Mucidula mucida var. asiatica)の菌糸体および培養液ろ液の抽出物に含まれ、以下に示される構造を有する化合物である。
【化5】
上記構造式において、2’、3’および4’は炭素原子の位置を表す符号である。本明細書において、ストロビルリンAの骨格を有するストロビルリンA類縁体化合物に関して2’位とは、上記式で表されるストロビルリンAの2’位に対応する位置を指す。3’位、4’位についても同様である。例えばストロビルリンAの骨格の2’位に置換基を有するとは、上記構造式において2’で示される位置に対応する炭素原子に結合する水素原子が、当該置換基に置換されていることを意味する。同様に、3’位および4’位に置換基を有するとは、それぞれ、上記構造式において3’および4’で示される位置に対応する炭素原子に結合する水素原子が当該置換基に置換されていることを意味する。
【0012】
特定の実施形態において、ストロビルリンAの骨格を有するストロビルリンA類縁体化合物は以下の一般式を有する。
一般式(IV)
【化6】
ここで、R
1は前記2’位の置換基または水素であり、R
2は前記3’位の置換基または水素であり、R
3は前記4’位の置換基または水素であるが、R
1~R
3がすべて水素ではない。いくつかの実施形態では、R
1~R
3のうち1つ、またはR
2およびR
3が置換基であり、残りは水素である。
【0013】
一実施形態において、前記置換基はヒドロキシ基またはアミノ基を含有しない置換基であり得る。一実施形態において、前記置換基はケト基またはアルデヒド基を含有しない置換基であり得る。
【0014】
実施形態において、前記置換基は、ヘテロアルキルもしくはアルキル置換基またはアリール含有もしくはヘテロアリール含有置換基であり得る。本開示において、アルキル基およびヘテロアルキル基は、他の基の一部をなす場合(例えばアルキルオキシのアルキル部分、またはアリールアルキルの二価アルキル部分)を含め、直鎖状もしくは分岐状もしくは環状(シクロアルキルおよびヘテロシクロアルキル)またはそれらの組合せであり得る。直鎖状のアルキル基が好ましい。アルキルオキシはアルコキシとも呼ばれる。ヘテロアルキルおよびアルキル基は炭素数14以下であることが好ましく、炭素数12以下、10以下、8以下、または6以下であり得る。他の置換基の一部をなさないアルキル置換基そのものは炭素数2以上であることが好ましい。本開示における「アルキル基」および「ヘテロアルキル基」には、置換されているアルキル基およびヘテロアルキル基も包含される。置換基の例としてはハロゲン、アミノ、ヒドロキシ、アルキニル、およびアジドが挙げられるがこれらに限定されない。アリール含有基およびヘテロアリール含有基は好ましくは単一の六員環または五員環を含む。本開示における「アリール含有基」および「ヘテロアリール含有基」には、置換されているアリール含有基およびヘテロアリール含有基も包含され、その置換基の例としてはハロゲン、アミノ、ヒドロキシ、メチル、エチル、プロピル、メトキシ、アルキニル、およびアジドが挙げられるがこれらに限定されない。
【0015】
実施形態において、ヘテロアルキル基およびヘテロアリール基はヘテロ原子として酸素原子、窒素原子、もしくは硫黄原子を含み得る。ヘテロ原子は好ましくは酸素原子である。
【0016】
実施形態において、ヘテロアルキル基は好ましくはアルキルオキシ基である。アリール含有もしくはヘテロアリール含有置換基は好ましくはアリールオキシ、ヘテロアリールオキシ、アリールアルキル、ヘテロアリールアルキル、アリール、またはヘテロアリール基であり得る。
【0017】
実施形態において、ストロビルリンAの骨格を有する化合物は、上記ストロビルリンAの構造式から1つ以上の水素原子を除いた部分構造を、その一部として含む化合物として記述され得る。
【0018】
いくつかの実施形態のストロビルリンA類縁体化合物は、4’位に独立して炭素数2以上のヘテロアルキルもしくはアルキル置換基またはアリール含有もしくはヘテロアリール含有置換基を有する。4’位に独立して置換基を有するという場合、その置換基は4’位以外の位置にさらに結合して環状構造を形成してはいない。他の位置についての対応する記載も同様の意味で解される。本実施形態を含め本開示の様々な実施形態において、置換基の存在が特定されていない位置(特にストロビルリンA骨格のベンゼン環について、あるいはより具体的にR1~R3について)は非置換の水素原子を有することができ、あるいは、1つ以上の水素原子の代わりに独立にハロゲン、アミノ、およびヒドロキシ等から選択される置換基を有していてもよい。
【0019】
いくつかの実施形態のストロビルリンA類縁体化合物は、3’位および4’位にそれぞれ独立して炭素数1以上のヘテロアルキルもしくはアルキル置換基またはアリール含有もしくはヘテロアリール含有置換基を有する。3’位および4’位にそれぞれ独立して置換基を有するという場合、それらの置換基はそれぞれの位置以外の位置にさらに結合して環状構造を形成してはおらず、また、3’位の置換基と4’位の置換基が互いに異なる種類であってもよい。
【0020】
いくつかの実施形態のストロビルリンA類縁体化合物は、2’ 位に独立して炭素数1以上のヘテロアルキルもしくはアルキル置換基またはアリール含有もしくはヘテロアリール含有置換基を有する
【0021】
いくつかの実施形態のストロビルリンA類縁体化合物は、3’位に独立して炭素数2以上のヘテロアルキルもしくはアルキル置換基またはアリール含有もしくはヘテロアリール含有置換基を有する。
【0022】
特定の実施形態のストロビルリンA類縁体化合物は、好ましくは、4’位に独立して炭素数14以下のアルキルオキシもしくはアルキル置換基またはアリールオキシ、アリールアルキル、もしくはアリール置換基を有する。アルキルオキシまたはアルキル基の炭素数は例えば2~14、2~12、または2~10であり得る。アリールアルキルの二価アルキル部分の炭素数は例えば1~8、1~6、または1~4であり得る。ある実施形態では、ストロビルリンA類縁体化合物は、3’位および4’位にそれぞれ独立して、または2’ 位に独立して、炭素数14以下のアルキルオキシ置換基を有し得る。
【0023】
実施形態のストロビルリンA類縁体化合物は、以下のいずれかの化合物であり得る。
【化7】
【0024】
実施形態のストロビルリンA類縁体化合物は、G361細胞、A549細胞およびMIA PACA-2細胞からなる群から選択される少なくとも一つの細胞に対する細胞毒性、および/または、NB1RGB細胞に対する前記少なくとも一つの細胞の選択性インデックス(SI)が、ストロビルリンAまたはストロビルリンXにおける対応する値より大きい、化合物でありうる。これらの細胞は当業者に知られており、公的な細胞バンクから入手可能である。G361、A549、およびMIA PACA-2はがん細胞株であり、それぞれメラノーマ細胞株、肺がん細胞株、および膵臓がん細胞株である。NB1RGBは正常線維芽細胞である。当業者は、ストロビルリンA類縁体化合物と、ストロビルリンAまたはストロビルリンXとを、それぞれ同条件で試験細胞に投与して細胞生存率を比較することにより、細胞毒性を比較することができる。例えば第1の化合物と第2の化合物の、それぞれ濃度を変化させていって細胞生存率についてのIC50(半数阻害濃度)値が低くなる化合物の方が細胞毒性が高いと決定することができる。また、同様にして決定された細胞毒性値(IC50値)に基づいて、がん細胞に対する毒性がNB1RGB細胞に対する毒性の何倍高いかを決めることができ、その倍数が選択性インデックス(SI)である。つまりSI=IC50(正常NB1RGB細胞)/IC50(がん細胞)として定義できる。SIが高い化合物は、正常細胞は比較的殺さずがん細胞を選択的に殺す、すなわちがん細胞選択性が高いと理解することができる。典型的には、NB1RGB細胞とG361メラノーマ細胞の組合せで化合物のSIを決定することができる。
【0025】
本開示において、細胞毒性という用語は、細胞増殖阻害性と換言することができる。つまりここでいう細胞毒性とは、本来ならば増殖する条件にある細胞の増殖を阻害する活性である。細胞毒性アッセイのためには、対数増殖期にある細胞が好ましく用いられる。細胞毒性アッセイは例えば、当業者によく知られたダルベッコ改変イーグル(DMEM)培地で培養された細胞が好ましく用いられる。具体的には例えば96ウェルプレートのウェルにおいて、DMEM培地(例えば100μL)中に試験化合物と共に細胞(例えばG361細胞またはNB1RGB細胞)を入れ、5% CO2、37℃環境下で48時間インキュベートした後に細胞生存率を測定することができる。アッセイのために好ましい細胞密度は個々の細胞の増殖速度にもよるが例えばG361およびNB1RGBでは5000細胞/100μLが好適であり、MIA PACA-2およびA549では3000細胞/100μLが好適である。細胞生存率を測定するための具体的な方法は当業者に知られている。例えば培地にテトラゾリウム塩WST-8を加える方法は、450 nmにおける吸光度を測定するだけで簡便に細胞生存率を測定できるため好ましい。WST-8は、生細胞に含まれるデヒドロゲナーゼによって、450 nmの光の吸収を示すホルマザン化合物に変換されるものである。当業者によく知られるように、化合物濃度に対して細胞生存率をプロットした曲線のフィッティングを行うことで、細胞生存率50%を示す化合物の濃度(例えば、WST-8の450 nm吸光度の最大値(試験化合物濃度ゼロでの対照値)の50%を示す化合物の濃度)であるIC50値を得ることが出来る。フィッティングに用いる曲線の例としては、当業者に知られるシグモイド関数 y=1/[1+e(ax-b)] が挙げられる。
【0026】
実施形態のストロビルリンA類縁体化合物の細胞毒性、および/または選択性インデックスの測定において、公知の化合物を比較化合物として用いることができる。そのような公知の化合物の非限定的な例としては、上述したストロビルリンAおよびストロビルリンXの他に、3’-メトキシストロビルリンA(m-SX)、ストロビルリンB(SB)、ストロビルリンG(SG)、オーデマンシンA(OA)、オーデマンシンB(OB)等が挙げられる。
【0027】
別の一側面において、ストロビルリンA類縁体化合物は、
一般式(V)
【化8】
の化合物であって、R
1、R
2、R
3はそれぞれ独立に、水素(H)、C1~C14アルキル基、C5~C14アリール基、C1~C14アルキルオキシ基、およびC5~C14アリールオキシ基からなる群から選択されるものである化合物(但し、R
1が水素であり、R
2が水素であり、かつR
3が水素である化合物、R
1が水素であり、R
2がメトキシ基であり、かつR
3が水素である化合物、およびR
1が水素であり、R
2が水素であり、かつR
3がメトキシ基である化合物を除く)であり得る。また前記化合物において、R
1、R
2、R
3それぞれ独立にはヘテロアルキルもしくはアルキル置換基またはアリール含有、カルボシクリル含有、ヘテロアリール含有もしくはヘテロカルボシクリル含有置換基であり得、例えばハロゲン置換体であるこれらの基であってもよい。好ましくはR
1、R
2、R
3はそれぞれ独立に、水素(H)、エチル基(-C
2H
5)、フェニル基(-C
6H
5)、エトキシ基(-O-C
2H
5)、プロポキシ基(-O-C
3H
7)、ペンチロキシ基(-O-C
5H
11)、デシロキシ基(-O-C
10H
21)およびフェノキシ基(-O-C
6H
5)からなる群から選択されるものである。さらに、R
3は、独立して炭素数2以上のヘテロアルキルもしくはアルキル置換基またはアリール含有もしくはヘテロアリール含有置換基であり得、R
2およびR
3はそれぞれ独立して炭素数1以上のヘテロアルキルもしくはアルキル置換基またはアリール含有もしくはヘテロアリール含有置換基であり得、R
1は、独立して炭素数1以上のヘテロアルキルもしくはアルキル置換基またはアリール含有もしくはヘテロアリール含有置換基であり得、R
2は独立して炭素数2以上のヘテロアルキルもしくはアルキル置換基またはアリール含有もしくはヘテロアリール含有置換基であり得る。
【0028】
<医薬組成物>
【0029】
一態様において、<ストロビルリンA類縁体化合物>のセクションで記載されたストロビルリンA類縁体化合物を含む、腫瘍治療用、またはがん治療用の医薬組成物が提供される。治療されるがんは、メラノーマ、肺がん、または膵臓がんであり得るがこれらに限定されない。
【0030】
実施形態の医薬組成物は、ストロビルリンA類縁体化合物を当業者によって知られた方法によって製剤化することによって製造することが出来る。医薬組成物は、ストロビルリンA類縁体化合物の他に、薬学的に許容される賦形剤を含み得る。医薬組成物は、当業者によって知られた緩衝液等pH調整剤、界面活性剤、可溶化剤、保存剤、および担体のうちのいずれか1つ以上を含むがこれらに限定されない、製剤化に必要な成分を適宜含有し得る。
【0031】
<ストロビルリンAの骨格を有する化合物の製造方法>
【0032】
一態様において、<ストロビルリンA類縁体化合物>のセクションで記載されたストロビルリンA類縁体化合物を含む、ストロビルリンAの骨格を有する化合物の製造方法が提供される。この新規の製造方法は、ストロビルリンAのベンゼン環部分に多様な置換基を導入することに適していること、および3ステップという少ない操作数(最後の反応は1ポットで行われるため1ステップ中にカウントしている)で合成が行えることという利点を有する。ステップ数が少なくなったため公知のストロビルリン合成方法よりも収率も著しく向上し得る。具体的な実験に基づく発明者らによる見積もりでは、公知の合成方法よりも2倍程度収率の向上が達成できたと見られた。
【0033】
実施形態の化合物の製造方法は、ストロビルリンAの骨格を有する化合物の製造方法であって、
一般式(I)
【化9】
(R
1、R
2、R
3はそれぞれ独立に、水素、または非アルデヒド置換基である)のベンズアルデヒドを前駆体として、
一般式(II)
【化10】
の中間体を合成することを含む。本実施形態の製造方法は、先行セクションで記述した様々なストロビルリンA類縁体化合物を製造するのに適した方法である。従って、それらに対応するR
1、R
2、R
3を選択し得ることが理解されるであろう。R
1、R
2、R
3の置換基はそれぞれ例えばヘテロアルキルもしくはアルキル置換基またはアリール含有、カルボシクリル含有、ヘテロアリール含有もしくはヘテロカルボシクリル含有置換基等であり得る。例えばこれらの基はハロゲン置換体であってもよい。
【0034】
より具体的には、式(I)中のアルデヒド基をメチルビニルケトンと反応させ、さらにその生成物をメチル-(トリフェニルホスホラニリデン)アセテートと反応させて、式(II)の中間体を合成することができる。ここに開示される製造方法と適合する置換基、保護基、試薬、溶媒、反応条件等の詳細は当業者が本開示および通常の知識に基づいて適宜決定することができる。例えば式(I)においてR1、R2、R3のいずれかがさらにアルデヒド基であると式(II)の中間体の適切な生成が妨げられ得ることは当業者に理解されるであろう。R1、R2、R3のいずれかは、当業者に知られる保護基を有してもよい(特にアミノ、ヒドロキシ等に関して)
【0035】
本実施形態の方法は、さらに、式(II)の中間体から、一般式(III)
【化11】
の化合物を合成することを含む。具体的には、式(II)の中間体に、水素化ナトリウムおよびギ酸メチルを加えて反応させ、その後さらに当業者に知られるメチル化試薬を加えて反応させることにより、式(III)の化合物が得られる。より詳細には、水素化ナトリウムおよびギ酸メチルの存在下で、式(II)のカルボニル炭素の隣の炭素が脱プロトン化およびホルミル化を受け、その炭素にヒドロキシメチリデン置換基(=CH-OH)が形成される。その後、メチル化試薬によってこの-OH基がメチル化されて、式(III)の化合物を与える。前記-OH基のメチル化に適したメチル化試薬は当業者に知られており、例えばヨードメタンおよび硫酸ジメチルが挙げられる。
【0036】
実施形態の化合物の製造方法は、以下のスキーム1に示す工程を含み得る。
【化12】
上記スキーム1において、ベンズアルデヒド(1)とメチルビニルケトン(2)を、インジウムおよび塩化インジウムの存在下、THFと水の混合液中で反応させて化合物(3)を合成する。化合物(3)と化合物(4)をトルエン中で還流して反応させて化合物(5)を合成する。次に化合物(5)と水素化ナトリウムおよびギ酸メチルを混合し、反応が十分に進行したのちにヨードメタンにより最後のメチル化を行って、目的化合物6を合成する。これらの反応は室温で行うことができる。必要に応じて化合物6における保護基の脱保護を行ってもよい。これらの工程の途中または最後において、カラムクロマトグラフィー、HPLC等により反応生成物の精製を適宜行い得ることが当業者に理解される。
【実施例0037】
以下に本開示の実施例を記載するが、本開示は以下に記載する実施例に限定されない。
【0038】
[ストロビルリンA類縁体化合物の合成]
ストロビルリンAの骨格を有するストロビルリンA類似体の合成を、上述したスキーム1に基づいて行った。以下に、4’-メトキシストロビルリンA(ストロビルリンX)の合成を例として詳しく説明する。置換ベンズアルデヒド1(680 mg, 5.0 mmol;この例では4’-メトキシ置換)、In(1.1 g, 10 mmol, 2 equiv.)、InCl3(553 mg, 2.5 mmol, 0.5 equiv.)、およびメチルビニルケトン2(1.2 mL, 15 mmol, 3 equiv.)を水-THF(2:1, v/v, 30 mL)中、室温で6時間撹拌した。2N塩酸(7.5 mL)を加えた後、反応混合物を30分間撹拌し、酢酸エチル(50 mL × 3)で抽出した。有機層を合わせ、飽和食塩水で洗浄し、MgSO4上で乾燥した。MgSO4を濾別した後、濾液を真空中で濃縮し、残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(酢酸エチル-ヘキサン、1:10)で精製してケトン化合物3を得た。
【0039】
トルエン(10 mL)中のケトン化合物3(559 mg, 2.9 mmol)の溶液に、室温でメチル-(トリフェニルホスホラニリデン)アセテート(4; 2.0 g, 6.0 mmol, 2 equiv)を加え、18~24時間還流した。反応混合物をシリカゲルのパッド(酢酸エチル-ヘキサン, 1:4)でろ過し、トリフェニルホスフィンオキシドを除去した。溶媒除去後、粗生成物をLC-MSで分析して、ジエノエート5の生成を確認した。粗生成物は、精製することなく次の反応に供した。NaH(300 mg、13 mmol、10 equiv)を、室温でN2ガス雰囲気下、ジエノエート5(立体異性体の混合物)(316 mg、1.3 mmol)およびギ酸メチル(2 mL)の撹拌混合物に添加した。反応混合物を4時間撹拌した後、DMF(2 mL)およびヨウ化メチル(800μL, 13 mmol, 10 equiv)を加えた。反応混合物をさらに14~18時間撹拌した後、水を加えて反応を停止させた。生成物を酢酸エチル(20 mL×3)で抽出した。有機層を合わせ、飽和食塩水で洗浄し、MgSO4上で乾燥した。MgSO4を除去した後、溶液を真空中で濃縮した。目的化合物6をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(酢酸エチル-ヘキサン、1:5)およびHPLC(65%アセトニトリル-水、7 mL/min)で精製した。
【0040】
上記と同様にして表1に示す化合物の合成を行った。これらのR置換基を有する置換ベンズアルデヒド前駆体は、東京化成工業、シグマアルドリッチ、および富士フイルム和光純薬を含む化学薬品販売会社から入手可能であり、あるいは入手可能な化合物から当業者が容易に調製することができるものである。
【表1】
【0041】
別の実験において、バイオコンバージョンによる4-フルオロストロビルリンAの合成も試みた。4-フルオロ安息香酸を終濃度1 mMで添加したモルト液体培地5 Lに、あらかじめモルト寒天培地で生育させたM. venosolamellataの菌糸体のブロック(5 mm × 5 mm)を3個加え、114日間培養した。最終的に22 mgの4′-フルオロSAが得られた。しかしながら、同じ手順でメトキシ安息香酸を出発基質とした実験では、対応するメトキシSAを得ることはできなかった。
【0042】
[細胞増殖阻害活性の測定]
100μLのDMEM培地に懸濁した、5000細胞/ウェルの対数増殖期にある正常線維芽細胞NB1RBGおよびメラノーマがん細胞G361を96穴プレートに播種した。各ウェルの細胞に、表1に示す、ストロビルリンAの骨格を有するストロビルリンA類縁体化合物を異なる濃度で添加して、5% CO2インキュベータ内で48時間インキュベーションを行った。その後、生細胞を検出し定量化するために、各ウェルにWST-8を加え、CO2インキュベータ内で2時間インキュベーションを行った後、各ウェルの450 nmの光の吸収をプレートリーダー(Sunrise THERMO RC-R plate reader, Tecan Group Ltd, Germany)で測定した。
【0043】
IC50値の計算のために、スプレッドシートを用いて、各化合物濃度における生存細胞量(450 nmにおける吸光度)の実測値とシグモイド関数y=1/[1+e(ax-b)](ここで、yは吸光度値、xは化合物のlog濃度、a、bは曲線のパラメータ)で求めた計算値の差を2乗した値の総和が最小になるように近似曲線のパラメータを求めた。得られた近似曲線において、吸光度が最大値の50%となるとき時の化合物濃度、すなわちy=0.5を上記の式に代入した時のxの値をIC50値とした。NB1RGB(正常線維芽細胞)のIC50をG361(がん細胞)のIC50で割った値をSI(選択性インデックス)として得た。
【0044】
【0045】
本願で新しく提供されたストロビルリンA類縁体化合物は、ストロビルリンA(SA)および/またはストロビルリンX(SX)と比べて細胞増殖阻害活性、がん細胞増殖阻害活性、およびがん細胞選択性のうちの1つ以上が高められていることが見て取れる。特に4’-アルキルオキシ、4’-アリールオキシ、または4’-アルキル置換基を有する化合物で著しく高い抗がん活性および高いSIがサポートされた。表1、2で示しているのは代表的な例に過ぎないことに留意すべきである。
【0046】
同様のアッセイを用いて、膵臓がん細胞株MIA PACA-2および肺がん細胞株A549に対する試験化合物の増殖阻害活性を調べた。異なる濃度の試験化合物の存在下で細胞を72時間増殖させた後、WST-8を用いて細胞生存率を測定した。結果を
図1に示す。試験化合物はどちらのがん細胞株に対しても増殖阻害活性を示し、これらの化合物の増殖阻害活性は特定のがん細胞に限定されないことが示唆された。
【0047】
以上に例示された結果より、本開示のストロビルリンAの骨格を有するストロビルリンA類縁体化合物の実施形態は、優れたがん細胞増殖抑制効果と、がん細胞に対する高い選択性を提供できることが理解される。
【0048】
様々な実施形態を参照して本開示を説明したが、本開示は上記の代表的な実施形態に限定されるものではない。本発明の構成や詳細には、本開示の範囲内で様々な変更をすることができる。