(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025040916
(43)【公開日】2025-03-25
(54)【発明の名称】発泡構造を備えないポリ塩化ビニル系人工皮革及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
D06N 3/06 20060101AFI20250317BHJP
C08L 27/06 20060101ALI20250317BHJP
C08L 67/00 20060101ALI20250317BHJP
C08G 63/16 20060101ALI20250317BHJP
C08G 63/78 20060101ALI20250317BHJP
C08K 5/098 20060101ALI20250317BHJP
C08G 63/91 20060101ALI20250317BHJP
B32B 27/30 20060101ALI20250317BHJP
D06N 3/08 20060101ALI20250317BHJP
【FI】
D06N3/06
C08L27/06
C08L67/00
C08G63/16
C08G63/78
C08K5/098
C08G63/91
B32B27/30 101
D06N3/08
【審査請求】有
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023191580
(22)【出願日】2023-11-09
(31)【優先権主張番号】112134565
(32)【優先日】2023-09-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】TW
(71)【出願人】
【識別番号】501296612
【氏名又は名称】南亞塑膠工業股▲分▼有限公司
【氏名又は名称原語表記】NAN YA PLASTICS CORPORATION
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】弁理士法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】廖 徳 超
(72)【発明者】
【氏名】鄭 維 昇
(72)【発明者】
【氏名】呉 朝 棟
【テーマコード(参考)】
4F055
4F100
4J002
4J029
【Fターム(参考)】
4F055AA01
4F055BA12
4F055BA13
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4F100AK15B
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4J029GA71
4J029HA01
4J029HB01
4J029KB24
4J029KH01
(57)【要約】
【課題】本発明は、発泡構造を備えないポリ塩化ビニル系人工皮革及びその製造方法を提供する。
【解決手段】
ポリ塩化ビニル系人工皮革は、ベース層及び表地層を含む。表地層は、ポリ塩化ビニル樹脂及び高分子可塑剤を含む表地組成物で形成される。高分子可塑剤は、二塩基酸原料と二価アルコール原料との重縮合反応を行った後に、末端封止脂肪酸で末端封止されて形成される。末端封止脂肪酸は、バイオマス由来の脂肪酸であり、その化学構造にはC8~C22長い炭素鎖を有し、長い炭素鎖の一端にカルボキシル基を有し、長い炭素鎖の他端にカルボキシル基を有しない。本発明で高分子可塑剤における二価アルコール原料の残留量は300ppm未満であり、高分子可塑剤の酸価は1mgKOH/g未満である。それによって、匂いの品質が優れた人工皮革を製造することができる。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ベース層と、
前記表地層は表地組成物で形成され、且つ前記ベース層に形成された表地層と、を備え、
前記表地組成物の総重量を100重量部として、前記表地組成物は、
ポリ塩化ビニル樹脂25重量部~65重量部と、
高分子可塑剤20重量部~60重量部と、を含み、
前記高分子可塑剤は、二塩基酸原料と二価アルコール原料との重縮合反応を行った後に、末端封止脂肪酸で末端封止されて形成され、
前記末端封止脂肪酸は、バイオマス由来の脂肪酸であり、前記末端封止脂肪酸の化学構造にはC8~C22長い炭素鎖を有し、前記長い炭素鎖の一端にカルボキシル基を有し、前記長い炭素鎖の他端にカルボキシル基を有しなく、
前記高分子可塑剤における前記二価アルコール原料の残留量は300ppm未満であり、前記高分子可塑剤の酸価は1mgKOH/g未満であることを特徴とする、発泡構造を備えないポリ塩化ビニル系人工皮革。
【請求項2】
前記末端封止脂肪酸は、ラウリン酸(lauric acid)、ステアリン酸(stearic acid)、パルミチン酸(palmitic acid)、リノール酸(linoleic acid)、n-カプリル酸(n-caprylic acid)、カプリン酸(capric acid)、ミリスチン酸(myristic acid)からなる群から選択される少なくとも1つである、請求項1に記載の発泡構造を備えないポリ塩化ビニル系人工皮革。
【請求項3】
前記重縮合反応において、前記二塩基酸原料の第1の開始モル数は、前記二価アルコール原料の第2の開始モル数より低い、請求項1に記載の発泡構造を備えないポリ塩化ビニル系人工皮革。
【請求項4】
前記表地組成物は、安定剤3重量部~5重量部を更に含み、
前記安定剤は、ステアリン酸リチウム、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸バリウム、ステアリン酸亜鉛、ラウリン酸マグネシウム、ラウリン酸バリウム、ラウリン酸亜鉛、リシノール酸カルシウム、リシノール酸バリウム、リシノール酸亜鉛、カプリル酸亜鉛からなる群から選択される少なくとも1つである、請求項1に記載の発泡構造を備えないポリ塩化ビニル系人工皮革。
【請求項5】
前記表地層と前記ベース層との間に、発泡層が含まれていなく、前記表地層にも発泡によるフォームポアを含まない、請求項1に記載の発泡構造を備えないポリ塩化ビニル系人工皮革。
【請求項6】
ベース層を提供することと、
表地組成物で形成された表地層を、前記ベース層の一面に形成することと、を含み、
前記表地組成物の総重量を100重量部として、前記表地組成物は、ポリ塩化ビニル樹脂25重量部~65重量部と、高分子可塑剤20重量部~60重量部と、を含み、
前記高分子可塑剤は、二塩基酸原料と二価アルコール原料との重縮合反応を行った後に、末端封止脂肪酸で末端封止されて形成され、
前記末端封止脂肪酸は、バイオマス由来の脂肪酸であり、前記末端封止脂肪酸の化学構造にはC8~C22長い炭素鎖を有し、前記長い炭素鎖の一端にカルボキシル基を有し、前記長い炭素鎖の他端にカルボキシル基を有しなく、
前記高分子可塑剤における前記二価アルコール原料の残留量は300ppm未満であり、前記高分子可塑剤の酸価は1mgKOH/g未満であることを特徴とする、発泡構造を備えないポリ塩化ビニル系人工皮革の製造方法。
【請求項7】
前記高分子可塑剤は、
前記二塩基酸原料と前記二価アルコール原料とを混合して、反応液体を形成すると共に、加熱で前記重縮合反応を行うことによって、化学構造の末端に過量の水酸基(-OH基)を有する高分子ポリエステルポリオールを形成する、エステル化工程と、
バイオマス由来の末端封止脂肪酸を前記反応液体に添加して、前記高分子ポリエステルポリオールにある過量の水酸基を末端封止して、前記重縮合反応を終止すると共に、前記高分子可塑剤を形成する、末端封止工程と、
で形成される、請求項6に記載の発泡構造を備えないポリ塩化ビニル系人工皮革の製造方法。
【請求項8】
前記二塩基酸原料の前記エステル化工程で供給される時の第1の開始モル数は、前記二価アルコール原料の前記エステル化工程で供給される時の第2の開始モル数より低い、請求項7に記載の発泡構造を備えないポリ塩化ビニル系人工皮革の製造方法。
【請求項9】
前記末端封止脂肪酸の前記末端封止工程で供給される時の第3の開始モル数は、前記二価アルコール原料の前記第2の開始モル数から前記二塩基酸の前記第1の開始モル数を引いた値より高く、
前記第3の開始モル数は、前記引いた値の1.5倍~3倍である、請求項8に記載の発泡構造を備えないポリ塩化ビニル系人工皮革の製造方法。
【請求項10】
前記二塩基酸原料の前記第1の開始モル数:前記二価アルコール原料の前記第2のモル数:前記末端封止脂肪酸の前記第3の開始モル数(モル比)は、0.27~0.31:0.32~0.35:0.06~0.09である、請求項9に記載の発泡構造を備えないポリ塩化ビニル系人工皮革の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリ塩化ビニル系人工皮革に関し、特に、発泡構造を備えないポリ塩化ビニル系人工皮革及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリ塩化ビニル(PVC)は、人工皮革の生産や開発において主要な原材料であり、自動車の内装に広く使用されている。重合度の高いポリ塩化ビニルは、溶融温度が高く、そのメルトの流動性が低いため、加工し難いという問題がある。
【0003】
ポリ塩化ビニルのメルトの流動性を改善して、加工温度を低くし、生産加工を容易にするために、ポリ塩化ビニル材料に可塑剤を添加する必要がある。しかし、従来の技術で使用されたフェノール酸系可塑剤は刺激臭を放出することがあり、また、発泡剤などの他の添加剤をポリ塩化ビニル加工過程に添加すると、刺激臭が放出されることがある。
【0004】
また、人工皮革の表面特性を改善するため、通常、合成皮革の表面が表面処理が施される。既存の表面処理方法は主に溶剤型の表面処理剤が使用されている。
【0005】
ただし、溶剤型の表面処理剤には臭いレベルが高い問題がある。既存の表面処理を施した人工皮革は、一般的な自動車臭気試験方法であるPV3900C3に基づいて測定された臭いレベルが4.0以上となり、使用者の快適性に大きな影響する。なお、既存の溶剤型の表面処理剤はほとんど刺激性を有する溶剤(例えば、トルエン及びキシレン)を含むため、身体の健康に害を及ぼす可能性がある。
【0006】
さらに、従来の技術のポリ塩化ビニル人工皮革(PVC人工皮革とも呼ばれる)には通常、緻密的な表地層と、レザーの手触りを提供するための発泡層と、が含まれている。しかし、既存の発泡層が発泡剤で形成された発泡構造であるため、依然として刺激臭を放出することがある。
【0007】
近年では、PVC人工皮革の臭気レベルを改善するための研究も数多く行われている。
【0008】
CN107190521Aには、ベース層、PVCレザー層、ペイント層を順に備えた臭いの薄いポリ塩化ビニル人工皮革が開示されている。本特許文献で使用される可塑剤には、エポキシ化大豆油およびフェノール酸系可塑剤が含まれる。レザーの手触りを提供するために、本特許文献は依然として発泡剤を使用して発泡構造を作成している。CN107366166Aは、ポリ塩化ビニル表地層と、ポリ塩化ビニル発泡層と、ポリ塩化ビニル表地層にコーティングされた水性ペイント層と、を含む非生殖毒性ポリ塩化ビニル人工皮革を開示する。水性ペイント層はN-メチルピロリドン及びN-メチルピロリドンを含まなく、低VOCと低臭気という環境保護要件を同時に満たす。しかしながら、レザーの手触りを提供するために、本特許文献は依然として発泡剤を使用して発泡構造を作成している。
【0009】
前記従来の技術におけるポリ塩化ビニル系人工皮革は依然として発泡剤で発泡(特に、化学発泡)して、発泡構造を生成するため、前記従来の技術で製造されたポリ塩化ビニル系人工皮革は依然として、刺激臭を有することがある。
【0010】
ポリ塩化ビニル系人工皮革の技術分野において、車内環境を改善し、高級車の要求を満たすように、ポリ塩化ビニル系人工皮革の臭いレベルを更に低減させる技術的方案を更に開発する必要がある。
【0011】
更に、ポリ塩化ビニル系人工皮革で非石油化学原料由来の材料の使用比を向上するのも、本分野の発展に注力する目標である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】中国公開第CN107190521A号明細書
【特許文献2】中国公開第CN107366166A号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明が解決しようとする技術の課題は、従来技術の不足に対し、発泡構造を備えないポリ塩化ビニル系人工皮革及びその製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記の技術的課題を解決するために、本発明が採用する一つの技術的手段は、発泡構造を備えないポリ塩化ビニル系人工皮革を提供する。発泡構造を備えないポリ塩化ビニル系人工皮革は、ベース層と、前記表地組成物で形成され、且つ前記ベース層に形成された表地層と、を備え、前記表地組成物の総重量を100重量部として、前記表地組成物は、ポリ塩化ビニル樹脂25重量部~65重量部と、高分子可塑剤20重量部~60重量部と、を含む。
【0015】
ここで、前記高分子可塑剤は、二塩基酸原料と二価アルコール原料との重縮合反応を行った後に、末端封止脂肪酸で末端封止して形成され、ここで、前記末端封止脂肪酸は、バイオマス由来の脂肪酸であり、前記末端封止脂肪酸の化学構造にはC8~C22長い炭素鎖を有し、前記長い炭素鎖の一端にカルボキシル基を有し、前記長い炭素鎖の他端にカルボキシル基を有しない。
【0016】
ここで、前記高分子可塑剤における前記二価アルコール原料の残留量は300ppm未満であり、前記高分子可塑剤の酸価は1mgKOH/g未満である。
【0017】
好ましくは、前記末端封止脂肪酸は、ラウリン酸(lauric acid)、ステアリン酸(stearic acid)、パルミチン酸(palmitic acid)、リノール酸(linoleic acid)、n-カプリル酸(n-caprylic acid)、カプリン酸(capric acid)、ミリスチン酸(myristic acid)からなる群から選択される少なくとも1つである。
【0018】
好ましくは、前記重縮合反応において、前記二塩基酸原料の第1の開始モル数は、前記二価アルコール原料の第2の開始モル数より低い。
【0019】
好ましくは、前記表地組成物は安定剤3重量部~5重量部を更に含み、前記安定剤は、ステアリン酸リチウム、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸バリウム、ステアリン酸亜鉛、ラウリン酸マグネシウム、ラウリン酸バリウム、ラウリン酸亜鉛、リシノール酸カルシウム、リシノール酸バリウム、リシノール酸亜鉛、カプリル酸亜鉛からなる群から選択される少なくとも1つである。
【0020】
好ましくは、前記表地層と前記ベース層との間に、発泡層が含まれていなく、前記表地層にも発泡によるフォームポアを含まない。
【0021】
上記の技術的課題を解決するために、本発明が採用するもう一つの技術的手段は、発泡構造を備えないポリ塩化ビニル系人工皮革の製造方法を提供する。前記ポリ塩化ビニル系人工皮革の製造方法は、ベース層を提供することと、表地組成物で形成された表地層を、前記ベース層の一面に形成することと、を含み、前記表地組成物の総重量を100重量部として、前記表地組成物は、ポリ塩化ビニル樹脂25重量部~65重量部と、高分子可塑剤20重量部~60重量部と、を含み、前記高分子可塑剤は、二塩基酸原料と二価アルコール原料との重縮合反応を行った後に、末端封止脂肪酸で末端封止されて形成され、前記末端封止脂肪酸は、バイオマス由来の脂肪酸であり、前記末端封止脂肪酸の化学構造にはC8~C22長い炭素鎖を有し、前記長い炭素鎖の一端にカルボキシル基を有し、前記長い炭素鎖の他端にカルボキシル基を有しなく、前記高分子可塑剤における前記二価アルコール原料の残留量は300ppm未満であり、前記高分子可塑剤の酸価は1mgKOH/g未満である。
【0022】
好ましくは、前記高分子可塑剤は、前記二塩基酸原料と前記二価アルコール原料とを混合して、反応液体を形成すると共に、加熱で前記重縮合反応を行うことによって、化学構造の末端に過量の水酸基(-OH基)を有する高分子ポリエステルポリオールを形成する、エステル化工程と、バイオマス由来の末端封止脂肪酸を前記反応液体に添加して、前記高分子ポリエステルポリオールにある過量の水酸基に末端封止して、前記重縮合反応を終止すると共に、前記高分子可塑剤を形成する、末端封止工程と、で形成される。
【0023】
好ましくは、前記重縮合反応において、前記二塩基酸原料のエステル化工程で供給される時の第1の開始モル数は、前記二価アルコール原料のエステル化工程で供給される時の第2の開始モル数より低い。
【0024】
好ましくは、前記末端封止脂肪酸の前記末端封止工程で供給される時の第3の開始モル数は、前記二価アルコール原料の前記第2の開始モル数から前記二塩基酸の前記第1の開始モル数を引いた値より高く、前記第3の開始モル数は、前記引いた値の1.5倍~3倍である。
【0025】
好ましくは、前記二塩基酸原料の前記第1の開始モル数:前記二価アルコール原料の前記第2のモル数:前記末端封止脂肪酸の前記第3の開始モル数(モル比)は、0.27~0.31:0.32~0.35:0.06~0.09である。
【発明の効果】
【0026】
本発明の有利な効果として、本発明の高分子可塑剤の分子量及び分子構造の設計によって、前記高分子可塑剤は、従来の低分子量の可塑剤の代わりとして用い、発泡剤の使用を回避することができ、ポリ塩化ビニル系人工皮革の臭いレベルを改良するだけでなく、前記高分子可塑剤の分子構造によって、ポリ塩化ビニル系人工皮革の表地層にレザーの手触りを与えることができる。
【0027】
更に説明すると、本発明の高分子可塑剤の化学構造の末端は、バイオマス由来の末端封止脂肪酸であるため、ポリ塩化ビニル系人工皮革におけるバイオマス含有量の割合を向上する。なお、バイオマス由来の末端封止脂肪酸は、天然の香り(例えば、天然石鹸の香り)を有するために、ポリ塩化ビニル系人工皮革が発する臭いの改善に役立つ。また、本発明の実施形態に提供された技術的手段において、反応液体における二価アルコールの残留量を低減する方法は、一般的な真空蒸留のみで二価アルコールを除去する方法に比べて、更に二価アルコールの残留量を効果的に低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【
図1】従来の技術のポリ塩化ビニル系人工皮革の積層構造の模式図である。
【
図2】本発明のポリ塩化ビニル系人工皮革の積層構造の模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
本発明の特徴及び技術内容がより一層分かるように、以下の本発明に関する詳細な説明と添付図面を参照されたい。しかし、提供される添付図面は参考と説明のために提供するものに過ぎず、本発明の請求の範囲を制限するためのものではない。
【0030】
以下、所定の具体的な実施態様によって本発明の実施形態を説明し、当業者は、本明細書に開示された内容に基づいて本発明の利点と効果を理解することができる。本発明は、他の異なる具体的な実施態様によって実行または適用でき、本明細書における各細部についても、異なる観点と用途に基づいて、本発明の構想から逸脱しない限り、各種の修正と変更を行うことができる。また、事前に説明するように、本発明の添付図面は、簡単な模式的説明であり、実際のサイズに基づいて描かれたものではない。以下の実施形態に基づいて本発明に係る技術内容を更に詳細に説明するが、開示される内容によって本発明の保護範囲を制限することはない。
【0031】
理解すべきことは、本明細書では、「第1」、「第2」、「第3」といった用語を用いて各種の材料又はパラメータを叙述することがあるが、これらの材料又はパラメータは、これらの用語によって制限されるものではない。また、本明細書において使用される「または」という用語は、実際の状況に応じて、関連して挙げられる項目におけるいずれか1つ又は複数の組み合わせを含むことがある。
【0032】
[塩化ビニル系人工皮革]
図2に示すように、本発明の実施形態において、ポリ塩化ビニル系人工皮革100(polyvinyl chloride artificial leather)を提供し、特に、発泡構造を備えないポリ塩化ビニル系人工皮革100を提供する。前記ポリ塩化ビニル系人工皮革100の組成は、バイオマス由来の材料を含む。
【0033】
本発明の実施形態に係るポリ塩化ビニル系人工皮革100は、発泡構造を備えない前提で、通常の人工皮革に必要されたレザーの手触りを提供することをできる。
【0034】
具体的に説明すると、本発明の実施形態に係るポリ塩化ビニル系人工皮革100は、ペース層1(base fabric layer)と、表地層2(top fabric layer)と、選択的に塗布された表面処理層3(surface treatment layer)と、が下から上までに含まれている。
【0035】
前記表地層2は、ベース層1の一面に直接に形成されていると共に、前記表面処理層3は、表地層2のベース層1から離れた面に形成されている。本発明の実施形態に係るポリ塩化ビニル系人工皮革100は、発泡構造(foam structure)を備えていない。
【0036】
より具体的に説明すると、本実施形態において、前記表地層2の前記ベース層1から離れた面から前記ベース層1に延びるように、中実構造(即ち、表地層2の本体構造である)が形成される。
【0037】
なお、前記表地層2の中実構造は、前記表地層2とベース層1との間に発泡層を備えないように、ベース層1に直接に接触している。前記表地層2の中実構造は、発泡されないため、フォームポア(foam pores)などの発泡構造を含まれず、発泡構造を含まない条件で、通常の人工皮革に要求されるレザーの手触りを提供することができる。
【0038】
説明すべきことは、本明細書における「中実構造」とは、発泡剤で発泡されていないと共に、フォームポアを含まない連続相の樹脂構造である。しかし、人工皮革の製造過程において、異なる高分子材料又は添加された材料との間の相溶性、若しくは製造方法のパラメータなどの原因によって、中実構造には少量のポアを含むことがあるが、発泡によるフォームポアではない。
【0039】
なお、本明細書における「レザーの手触り」とは、使用者がポリ塩化ビニル系人工皮革を触る時に、使用者が感じる手触りが天然皮革に似ていることを意味する。
【0040】
上述した技術目的を実現するために、本発明の実施形態に係る表地層2の中実構造は、表地組成物(fabric composition)で形成される。
【0041】
前記表地組成物は、ポリ塩化ビニル樹脂(polyvinyl chloride resin)と、高分子可塑剤(polymer plasticizer)と、を含む。
【0042】
前記表地組成物の総重量を100重量部として、前記ポリ塩化ビニル樹脂の使用量は、25重量部~65重量部であり、35重量部~55重量部であることが好ましい。前記高分子可塑剤の使用量は、20重量部~60重量部であり、30重量部~50重量部であることが好ましい。
【0043】
更に説明すると、前記ポリ塩化ビニル樹脂は、表地組成物のマトリックス材料であり、人工皮革に必要された機械的強度を提供することができる。前記高分子可塑剤は、高分子量の可塑剤であり、人工皮革の臭いレベルを改良するだけでなく、表地層2にレザーの手触りを与えられる。
【0044】
本発明の実施形態に係るポリ塩化ビニル樹脂は、30,000g/mol~200,000g/molである重量平均分子量(Mw)を有すると共に、80℃~85℃であるガラス転移温度(Tg)を有する。
【0045】
本発明の実施形態に係る高分子可塑剤は、特定の材料特性を有することによって、ポリ塩化ビニル系人工皮革が低い臭いレベルを有する。また、ポリ塩化ビニル系人工皮革は、発泡構造を備えていない前提において、通常の人工皮革に必要されたレザーの手触りを提供することができる。
【0046】
本発明の実施形態に係る前記高分子可塑剤の第1の重量平均分子量は、1,500g/mol~6,000g/molであり、2,000g/mol~5,000g/molであることが好ましいが、本発明はこれに制限されるものではない。
【0047】
特筆すべきことは、本発明の実施形態で使用される高分子可塑剤は、既存の一般的な可塑剤よりもはるかに高い分子量を有する(一般的に既存の可塑剤の重量平均分子量は300g/mol~800g/molである)。
【0048】
本発明の実施形態に係る前記高分子可塑剤の分子構造には直鎖状のソフトセグメント(soft segment)を含むと共に、前記ソフトセグメントはエーテル基(ether group)を有する。
【0049】
なお、前記エーテル基を含有する前記ソフトセグメントの前記高分子可塑剤での濃度は10wt%~50wt%であり、10wt%~40wt%であることが好ましく、10wt%~30wt%であることが特に好ましい。
【0050】
上記の高分子可塑剤の分子量及び分子構造の設計によって、前記高分子可塑剤は、従来の低分子量の可塑剤の代わりとして用い、発泡剤の使用を回避することができ、ポリ塩化ビニル系人工皮革の臭いレベルを改良するだけでなく、前記高分子可塑剤の分子構造によって、ポリ塩化ビニル系人工皮革100の表地層2にレザーの手触りを与える。
【0051】
また、前記高分子可塑剤の分子構造には、エーテル基を有し且つ直鎖状の前記ソフトセグメントを前記濃度範囲にすれば、樹脂材料を柔軟させて、レザーの手触りを提供することができる。
【0052】
本発明の実施形態の表地層2は、発泡構造を備えていない前提において、レザーの手触りを提供することができるので、前記ポリ塩化ビニル系人工皮革は、化学発泡の高温のプロセルを回避することができる。
【0053】
厚みについて、前記表地層2の厚みDは、十分なレザーの手触りを提供するように、100μm~600μmであり、150μm~350μmであることが好ましい。
【0054】
本発明の一つの実施形態において、前記エーテル基を有するソフトセグメントが高分子可塑剤の分子構造の中間部または末端部に組み込まれている。なお、前記エーテル基を有するソフトセグメントは、高分子可塑剤の分子構造の主鎖にあり、側鎖の形式として存在することではないが、本発明はこれに制限されるものではない。
【0055】
更に説明すると、前記高分子可塑剤は、二塩基酸原料と二価アルコール原料との重縮合反応(poly-condensation reaction)で形成された高分子ポリエステル(polyester)である。なお、前記エーテル基を有するソフトセグメントは、前記二塩基酸原料及び前記二価アルコール原料の少なくとも1つで構成される。
【0056】
ここで、前記二塩基酸原料は例えば、アジピン酸(adipic acid,AA)、コハク酸(succinic acid,SA)、マレイン酸(maleic acid,MA)、セバシン酸(decanedioic acid)及びドデカンジオン酸(dodecanedioic acid)からなる群から選択される少なくとも1つである。
【0057】
なお、前記二価アルコールは例えば、ジエチレングリコール(diethylene glycol,DEG)、トリエチレングリコール(triethylene glycol,TEG)、テトラエチレングリコール(tetraethylene glycol)、ポリテトラヒドロフラン(poly-tetra-hydrofuran,PTMEG)、1,2-プロピレングリコール(propane-1,2-diol,1,2-PG)、2-メチル-1,3-プロパンジオール(2-methyl-1,3-propanediol,MPO)、ネオペンチルグリコール(neopentyl glycol,NPG)、及び1,4-シクロヘキサンジメタノール([4-(hydroxymethyl)cyclohexyl]methanol,CHDM)からなる群から選択される少なくとも1つであってもよい。また、本発明の一つの実施形態において、前記高分子可塑剤の二塩基酸はアジピン酸(AA)であってもよい。前記高分子可塑剤の二価アルコール原料は、ジエチレングリコール(DEG)と、2-メチル-1,3-プロパンジオール(MPO)及び/又はポリテトラヒドロフラン(PTMEG)とを選択的に用いる。
【0058】
前記重縮合反応において、前記高分子可塑剤は、末端封止脂肪アルコール(end-capped fatty alcohol)で封止することによって、前記重縮合反応を中止する。末端封止脂肪酸は、バイオマス由来の一価脂肪酸であり、その化学構造は、単一のカルボキシル基(-COOH基)のみを有する。
【0059】
本発明の一つの実施形態において、前記末端封止脂肪酸の化学構造にはC8~C22、好ましくはC12~C18長い炭素鎖を有すると共に、長い炭素鎖の一端にカルボキシル基(-COOH基)を有し、他端にカルボキシル基を有しない。
【0060】
一つの実施形態において、前記末端封止脂肪酸は、ラウリン酸(lauric acid)、ステアリン酸(stearic acid)、パルミチン酸(palmitic acid)、リノール酸(linoleic acid)、n-カプリル酸(n-caprylic acid)、カプリン酸(capric acid)、ミリスチン酸(myristic acid)からなる群から選択される少なくとも1つである。
【0061】
例えば、バイオマス由来のラウリン酸は例えば、ココナッツミルク、ココナッツオイル、月桂樹油、及びパーム核油の中の少なくとも1つであってもよく、ココナッツミルクであることが好ましいが、本発明はこれに制限されるものではない。
【0062】
例えば、バイオマス由来のステアリン酸は例えば、ティーオイル、カカオバター、パーム油の中の少なくとも1つであってもよく、ティーオイルであることが好ましいが、本発明はこれに制限されるものではない。
【0063】
例えば、バイオマス由来のパルミチン酸は例えば、パーム油及びパーム核油の中の少なくとも1つであってもよく、パーム油であることが好ましいが、本発明はこれに制限されるものではない。
【0064】
例えば、バイオマス由来のリノール酸は例えば、ベニバナ油、ヒマワリ種子油、コーン油、及び亜麻仁油の中の少なくとも1つであってもよく、ベニバナ油であることが好ましいが、本発明はこれに制限されるものではない。
【0065】
バイオマス由来の末端封止脂肪酸の化学構造は、以下の通りである。
【表1】
【0066】
前記重縮合反応においては、反応全体の化学量数に対して、前記二塩基酸原料が限定反応物(limiting reactant、限定試薬ともいう)となり、二価アルコール原料が過剰反応物(excess reactants、過剰試薬ともいう)となる。
【0067】
即ち、前記重縮合反応において、前記二塩基酸原料の供給される時の第1の開始モル数は、前記二価アルコール原料の供給される時の第2の開始モル数より低い。
【0068】
前記二塩基酸原料と、二価アルコール原料との重縮合反応を行って、数平均分子量を500g/mol~2,000g/mol、好ましくは800g/mol~1,500g/molにした後に、前記二塩基酸原料が完全に反応し、前記高分子ポリエステルの化学構造の末端に過量の水酸基(-OH基)を有する。前記重縮合反応の反応液体に二価アルコール原料が残留する。
【0069】
本実施形態において、前記重縮合反応では、前記重縮合反応を停止するように、末端封止脂肪酸で過量の水酸基に対して末端封止することによって、前記高分子可塑剤を最終的に形成する。なお、前記末端封止脂肪酸は、反応液体に残留した二価アルコール原料に反応を行うことによって、高分子可塑剤における二価アルコールの残留量を、300ppm(parts per million)未満に低減させる。
【0070】
また、ゴム臭を改善するように、前記高分子可塑剤の酸価(acid value)を1mgKOH/g未満に制御される。
【0071】
ここで、酸価とは、1グラムの化学物質を中和するのに必要な水酸化カリウム(KOH)のミリグラム数を示す。試験規格は例えば、ASTM D664であってもよい。
【0072】
上記上述した構成により、本発明の実施形態に係る高分子可塑剤の化学構造の末端は、バイオマス由来の末端封止脂肪酸であるため、ポリ塩化ビニル系人工皮革のバイオマス含有量の割合を向上する。
【0073】
なお、バイオマス由来の末端封止脂肪酸は、天然の香り(例えば、天然石鹸の香り)を有するために、ポリ塩化ビニル系人工皮革が発する臭気の改善に役立つ。
【0074】
また、本発明の実施形態に提供された技術的手段において、反応液体における二価アルコールの残留量を低減する方法は、一般的な真空蒸留のみで二価アルコールを除去する方法に比べて、更に二価アルコールの残留量を効果的に低減することができる。
【0075】
更に説明すると、前記高分子可塑剤の粘度が比較的に高い可能性があるため、前記高分子可塑剤がポリ塩化ビニル樹脂と均一に混合することが困難となり、加工が困難となることがある。
【0076】
上記の技術的課題を解決するために、前記表地組成物は、加工助剤(processing aids)10重量部以下を更に含む。
【0077】
例えば、前記表地組成物は、1重量部、2重量部、3重量部、4重量部、5重量部、6重量部、7重量部、8重量部、9重量部、又は10重量部の加工助剤を含んでもよいが、本発明はこれに制限されるものではない。
【0078】
ここで、前記加工助剤は、直鎖状の脂肪族二塩基酸エステル(esters of aliphatic dibasic acid)である。また、前記加工助剤は、300~800である第2の重量平均分子量を有する。即ち、前記加工助剤の重量平均分子量は、前記高分子可塑剤の重量平均分子量より低い。
【0079】
材料について、前記加工助剤は、セバシン酸ビス(2-エチルヘキシル)(di-octyl sebacate,DOS)、アジピン酸ジ-2-エチルヘキシル(di-octyl adipate,DOA)、アジピン酸ジイソノニル(di-isononyl adipate,DINA)、アジピン酸ジイソデシル(di-isodecyl adipate,DIDA)、セバシン酸ジイソノニル(di-isononyl sebacate,DINS)からなる群から選択される少なくとも1つであり、セバシン酸ビス(2-エチルヘキシル)(di-octyl sebacate,DOS)であることが好ましい。
【0080】
上述した構成により、前記加工助剤は、表地組成物の粘度を低減することによって、前記表地組成物の加工性を向上することができる。
【0081】
なお、前記加工助剤も、可塑剤の役割を果たせると共に、前記表地層のレザーの手触りを向上することができる。
【0082】
ただし、前記加工助剤の使用量は高すぎるとはいけない。前記加工助剤の使用量が高すぎると(例えば、15重量部を超える)、前記表地層2は、必要されたレザーの手触り又は臭いレベルを達成できないことがある。
【0083】
本発明の一つの実施形態において、前記表地組成物は、ゴムの耐熱安定性を高め、且つ人工皮革の臭いレベルを低減するための安定剤(stabilizer)3重量部~5重量部を更に提供する。
【0084】
ここで、前記安定剤は、ステアリン酸リチウム(lithium stearate)、ステアリン酸マグネシウム(magnesium stearate)、ステアリン酸カルシウム(calcium stearate)、ステアリン酸バリウム(barium stearate)、ステアリン酸亜鉛(zinc stearate)、ラウリン酸マグネシウム(magnesium laurate)、ラウリン酸バリウム(barium laurate)、ラウリン酸亜鉛(zinc laurate)、リシノール酸カルシウム(calcium ricinoleate)、リシノール酸バリウム(barium ricinoleate)、リシノール酸亜鉛(zinc ricinoleate)、カプリル酸亜鉛(zinc caprylate)からなる群から選択される少なくとも1つである。
【0085】
本発明の一つの実施形態において、前記安定剤は、金属石鹸化合物であると共に、リシノール酸カルシウム、リシノール酸バリウム、リシノール酸亜鉛からなる群から選択される少なくとも1つである。
【0086】
特筆すべきことは、本発明の高分子可塑剤をポリ塩化ビニル系人工皮革に導入する製造過程において、ゴムには酸性物質(ブロックされた脂肪酸など)が多く含まれるため、人工皮革の加工にとって不利となる。
【0087】
このような技術的課題を解決するために、人工皮革の加工性を改善するように、本発明の表地組成物に安定剤(例えば、リシノール酸カルシウム及び/又はリシノール酸亜鉛)の使用量を増加する。
【0088】
例えば、本発明の一つの具体例において、リシノール酸カルシウム及びリシノール酸亜鉛を同時に用いる場合、前記ポリ塩化ビニル系人工皮革に熱安定性測定(即ち、190℃で前記ポリ塩化ビニル系人工皮革の変色状況を測定する)を行い、前記安定剤の使用量を3重量部を向上させると、前記ポリ塩化ビニル系人工皮革が80分間~85分間加熱された後でも変色することがないが、本発明はこれに制限されるものではない。
【0089】
本発明の一つの実施形態において、前記表地組成物は、充填剤(filler)0重量部~10重量部を更に含む。前記充填剤は、無機粒状材料である。
【0090】
ここで、前記充填剤は、炭酸カルシウム(calcium carbonate)、二酸化ケイ素(silicon dioxide)、アルミナ(alumina)、粘土(clay)、タルク(talc)、珪藻土(diatomaceous earth)、及び肥料鉄(fertilizer)などの金属酸化物であってもよい。もしくは、前記充填剤は、ガラス(glass)、カーボンブラック(carbon black)、金属などの繊維および粉末、ガラス球(glass ball)、グラファイト(graphite)、水酸化アルミニウム(aluminum hydroxide)、硫酸バリウム(barium sulfate)、酸化マグネシウム(magnesium oxide)、炭酸マグネシウム(magnesium carbonate)、ケイ酸マグネシウム(magnesium silicate)、及びケイ酸カルシウム(calcium silicate)からなる群から選択される少なくとも1つであってもよい。
【0091】
ここで、前記充填剤は、炭酸カルシウムであることが好ましいが、本発明はこれに制限されるものではない。
【0092】
本発明の一つの実施形態において、前記表地組成物は、難燃剤(flame retardant)2重量部~8重量部を更に含む。前記難燃剤は、水酸化アルミニウム(aluminum hydroxide)、水酸化マグネシウム(magnesium hydroxide)、三酸化アンチモン(antimony trioxide)、ホウ酸亜鉛(zinc borate)、リン酸クレジルジフェニル(cresyl diphenyl phosphate)、リン酸トリス(2-クロロエチル)(tris(2-chloroethyl) phosphate)、りん酸トリス(2-クロロ-1-メチルエチル)(tris(1-chloropropan-2-yl) phosphate)、リン酸トリス(1-メチルー2-クロロエチル)(phosphoric acid tris(2-chloro-1-methylethyl) ester)、塩素化パラフィンワック(chlorinated paraffin Wax)からなる群から選択される少なくとも1つであってもよい。前記難燃剤は、三酸化アンチモンであることが好ましい。
【0093】
特筆すべきことは、本発明の一つの実施形態において、前記表地組成物には、発泡剤(例えば、化学発泡剤又は物理発泡剤)が含まれていない。本発明の実施形態の表地層2は、発泡構造を備えていないか、若しくは発泡剤を用いていない前提において、通常の人工皮革に必要されたレザーの手触りを提供することができる。即ち、発泡剤の使用又は発泡構造による刺激臭は、本発明において回避することが可能である。
【0094】
続いて、
図2に示すように、前記ベース層は例えば、織布または不織布であってもよい。なお、前記表地層2は例えば、人工的な合成によって、基布層1に形成されることによって、外観において天然皮革に似た人工皮革を形成してもよい。
【0095】
本実施形態において、前記ポリ塩化ビニル系人工皮革100は、表面処理層3を更に含む。前記表面処理層3は、水性表面処理剤で塗布するように、表地層2のベース層から離れた面に形成される。前記表面処理層3は、ポリ塩化ビニル系人工皮革100の光沢、手触り、耐光性、耐熱性、耐汚れ性、耐摩耗性、及び耐スクラッチ性を改善することができる。
【0096】
前記表面処理層3の表地層2から離れた面には、人工皮革の表面に異なるパターンを形成するように、高温エンボス加工を行うことができる。本実施形態において、前記水性表面処理剤は、N-エチルピロリドンを含まない水性ポリウレタン系処理剤である。それによって、前記表面処理層3の配合も、ポリ塩化ビニル系人工皮革100の臭いレベルを低減することができるため、使用者の使用者の快適性を向上することができる。
【0097】
前記水性表面処理剤として、従来の溶剤系処理剤を捨て、N-エチルピロリドンを含まない水性ポリウレタン系処理剤を採用する。それによって、トルエン、キシレンなどの刺激臭を有し、且つ人体に害がある溶剤物質を回避することができる。同時に、本実施形態の水性ポリウレタン系処理剤を採用することによって、N-エチルピロリドンを含まないことを達成でき、刺激臭を低減することができる。
【0098】
特筆すべきことは、本実施形態において、前記表面処理層3と前記表地層2との間に、発泡層又は発泡構造が含まれていなく、前記表面処理層3にも発泡によるフォームポアを含まないが、本発明はこれに制限されるものではない。
【0099】
上述した構成により、本発明の実施形態に係る発泡構造を備えないポリ塩化ビニル系人工皮革100は、自動車内装に応用することができる。例えば、ドアパネル、インストルメントパネル、コンソール、コラム、シートバックパネル、シートファブリックなどが挙げられる。
【0100】
当然ながら、本発明の実施形態に係る発泡構造を備えないポリ塩化ビニル系人工皮革100は、自動車内装に類似する他の分野に応用することができる。
【0101】
[ポリ塩化ビニル系人工皮革の製造方法]
以上の内容は、本発明に係るポリ塩化ビニル系人工皮革の材料・特性に関する説明である。以下にて、ポリ塩化ビニル系人工皮革の製造方法を説明する。ポリ塩化ビニル系人工皮革の製造方法は、工程S110と、工程S120と、工程S130とを、含む。説明すべきことは、本実施形態における各工程の順番や操作方式はニーズに応じて調整することは可能であり、これに制限されるものではない。
【0102】
前記工程S110は、ベース層1を提供することを含む。前記ベース層1は例えば、織布または不織布であってもよい。
【0103】
前記工程S120は、表地層2をベース層1の一面に直接に形成することを含む。
【0104】
ここで、前記表地層2は、表地組成物で形成される。前記表地組成物は、ポリ塩化ビニル樹脂及び高分子可塑剤を含む。
【0105】
前記表地組成物の総重量を100重量部として、前記ポリ塩化ビニル樹脂の使用量は25重量部~65重量部であり、35重量部~55重量部であることが好ましい。前記高分子可塑劑の使用量は20重量部~60重量部であり、30重量部~50重量部であることが好ましい。
【0106】
前記高分子可塑剤の第1の重量平均分子量は、1,500g/mol~6,000g/molであり、2,000g/mol~5,000g/molであることが好ましいが、本発明はこれに制限されるものではない。更に説明すると、前記高分子可塑剤は、二塩基酸原料と二価アルコール原料との重縮合反応(poly-condensation reaction)で形成された高分子ポリエステル(polyester)である。前記二塩基酸原料の材料種類及び二価アルコール原料の材料種類はすでに前文に説明したので、ここで重複に説明しない。
【0107】
前記重縮合反応において、前記高分子可塑剤は、末端封止脂肪アルコール(end-capped fatty alcohol)で封止することによって、重縮合反応を中止する。ここで、末端封止脂肪酸は、バイオマス由来(例えば、植物由来)の一価脂肪酸であり、その化学構造は、単一のカルボキシル基(-COOH基)のみを有する。
【0108】
本発明の一つの実施形態において、前記末端封止脂肪酸の化学構造にはC8~C22、好ましくはC12~C18長い炭素鎖を有すると共に、長い炭素鎖の一端にカルボキシル基(-COOH基)を有し、他端にカルボキシル基を有しない。一つの実施形態において、前記末端封止脂肪酸は、ラウリン酸(lauric acid)、ステアリン酸(stearic acid)、パルミチン酸(palmitic acid)、リノール酸(linoleic acid)、n-カプリル酸(n-caprylic acid)、カプリン酸(capric acid)、ミリスチン酸(myristic acid)からなる群から選択される少なくとも1つである。前記重縮合反応においては、反応全体の化学量数に対して、前記二塩基酸原料が限定反応物(限定試薬ともいう)となり、前記二価アルコール原料が過剰反応物(過剰試薬ともいう)となる。即ち、前記二塩基酸原料の供給される時の第1の開始モル数は、前記二価アルコール原料の供給される時の第2の開始モル数より低い。
【0109】
前記二塩基酸原料と、二価アルコール原料との重縮合反応を行って、数平均分子量を500g/mol~2,000g/mol、好ましくは800g/mol~2,000g/molにした後に、前記二塩基酸原料が完全に反応し、前記高分子ポリエステルの化学構造の末端に過量の水酸基(-OH基)を有する。前記重縮合反応の反応液体に二価アルコール原料が残留する。
【0110】
本実施形態において、前記重縮合反応では、前記重縮合反応を停止するように、末端封止脂肪酸で過量の水酸基に対して末端封止することによって、前記高分子可塑剤を最終的に形成する。なお、前記末端封止脂肪酸は、反応液体に残留した二価アルコール原料に反応を行うことによって、高分子可塑剤における二価アルコールの残留量を、300ppm(parts per million)未満に低減させる。
【0111】
また、ゴム臭を改善するように、前記高分子可塑剤の酸価(acid value)を1mgKOH/g未満に制御される。ここで、酸価とは、1グラムの化学物質を中和するのに必要な水酸化カリウム(KOH)のミリグラム数を示す。試験規格は、例えばASTM D664であってもよい。
【0112】
上述した構成により、本発明の実施形態に係る高分子可塑剤の化学構造の末端は、バイオマス由来の末端封止脂肪酸であるため、ポリ塩化ビニル系人工皮革のバイオマス含有量の割合を向上する。なお、バイオマス由来の末端封止脂肪酸は、天然の香り(例えば、天然石鹸の香り)を有するために、ポリ塩化ビニル系人工皮革が発する臭気の改善に役立つ。
【0113】
また、本発明の実施形態に提供された技術的手段において、反応液体における二価アルコールの残留量を低減する方法は、一般的な真空蒸留のみで二価アルコールを除去する方法に比べて、更に二価アルコールの残留量を効果的に低減することができる。
【0114】
更に説明すると、前記高分子可塑剤は例えば、以下の製造方法で形成されてもよい。前記製造方法は、エステル化工程と、末端封止工程と、減圧工程とを、この順に含む。
【0115】
前記エステル化工程においては、二塩基酸原料(例えば、AA)及び二価アルコール原料(例えば、MPO、DEG、PTMEG)を混合して、反応液体を形成する。
【0116】
その後、前記反応液体を第1の温度(例えば、110℃~150℃、好ましくは120℃~140℃)に加熱して、0.5時間~2時間を保持することによって、重縮合反応を行う。
【0117】
その後、前記反応液体を第2の温度(例えば、190℃~200℃、好ましくは195℃)に加熱して、2時間~4時間を保持する。前記二塩基酸原料と、二価アルコール原料との重縮合反応を行って、数平均分子量を500g/mol~2,000g/mol、好ましくは800g/mol~1,500g/molにして、高分子ポリエステルポリオールを形成する。
【0118】
上述したように、前記重縮合反応においては、反応全体の化学量数に対して、前記二塩基酸原料が限定反応物となり、二価アルコール原料が過剰反応物となる。
【0119】
即ち、前記二塩基酸原料の供給される時の第1の開始モル数は、前記二価アルコール原料の供給される時の第2の開始モル数より低い。
【0120】
前記末端封止工程において、バイオマス由来の末端封止脂肪酸(例えば、ラウリン酸)を前記反応液体に添加して、前記エステル化工程で形成された前記高分子ポリエステルを末端封止して、前記重縮合反応を終止すると共に、前記反応液体において本発明の実施形態に係る高分子可塑剤が形成される。前記末端封止工程において、前記反応液体を第3の温度(例えば、200℃~210℃、好ましくは205℃)に加熱して、2時間~4時間を保持することによって、前記反応液中の水を続いて留去すると共に、前記高分子可塑剤の濃度を向上させる。
【0121】
特筆すべきことは、前記末端封止脂肪酸の前記末端封止工程で供給される時の第3の開始モル数は、前記二価アルコール原料の前記第2開始モル数から前記二塩基酸の前記第1の開始モル数を引いた値より高く、前記第3の開始モル数は、前記引いた値の1.5倍~3倍である。それによって、前記末端封止脂肪酸は高分子ポリエステルポリオールにある過量の水酸基を効果的に末端封止し、前記重縮合反応を中止すると共に、反応液体で残留した二価アルコール原料と反応して、反応液体における二価アルコールの残留量を低減し、過量の末端封止脂肪酸の残留も回避することができる。
【0122】
本発明の一つの実施形態において、二塩基酸原料の第1の開始モル数:二価アルコール原料の第2の開始モル数:末端封止脂肪酸の第3の開始モル数(モル比)は例えば、0.27~0.31:0.32~0.35:0.06~0.09であり、0.28~0.30:0.32~0.34:0.07~0.09であることが好ましく、具体的に、例えば0.29:0.33:0.08であってもよいが、本発明はこれに制限されるものではない。
【0123】
前記減圧工程においては、前記末端封止工程における高分子可塑剤を含む反応液体を、常圧(即ち、760トール(torr))から50~150トール(torr)の低圧に減圧させると共に、第4の温度(例えば、190℃~200℃、好ましくは195℃)に冷却させて、1時間~3時間を保持する。前記減圧工程において、前記高分子可塑剤の酸価(acid value)を1mgKOH/gに制御して、反応終点に至って、前記高分子可塑剤の製造を完了する。
【0124】
上記上述した構成により、前記高分子可塑剤の化学構造の末端に、バイオマス由来の末端封止脂肪酸を有するため、ポリ塩化ビニル系人工皮革のバイオマス含有量の割合を向上すると共に、前記ポリ塩化ビニル系人工皮革の匂いを改善する。
【0125】
前記工程S130において、表面処理層3を表地層2のベース層1から離れた面に形成する。前記表面処理層3は、水性表面処理剤を表地層2の表面に塗布することによって形成することによって、前記ポリ塩化ビニル系人工皮革を完成する。本実施形態において、前記水性表面処理剤は、N-エチルピロリドンを含まない水性ポリウレタン系処理剤である。
【0126】
[実験データの測定]
以下、実施例1~3及び比較例1により、本発明の内容を詳しく説明するが、それらの実施例は、本発明を理解するためのものであり、本発明はこれに制限されるものではない。
【0127】
[実施例1]
下表1に示す実施例1の表地組成物は、小型ミキサー及びバンブリミキサーをこの順で混合及び高温溶融を行い、次に、表地組成物を圧延機により圧延させて、前記表地組成物を表地層として形成すると共に、表地層を圧延によりベース層に貼り合わせて、そして、表地層の表面に水性ポリウレタン系処理剤を塗布・乾燥することによって、表面処理層を形成した。実施例1のポリ塩化ビニル系人工皮革の物理化学特性の測定を行い、その結果は、下表1に示すとおりである。ここで、高分子化素材は、二塩基酸原料(例えば、AA)及び二価アルコール原料(例えば、MPO:DEG:PTMEG(モル比)=2:1:0.05で混合されるもの)を混合し、130℃に加熱して1時間を保持して、195℃に加熱して3時間を保持することによって、重縮合反応(エステル化反応)を行うと共に、ポリエステルポリオールを形成した。反応液体にバイオマス由来の末端封止脂肪酸(例えば、ラウリン酸)を添加することによって、ポリエステルポリオールを末端封止し、温度条件について、205℃に加熱して3時間を保持することによって、水分を留去すると共に、反応液体において重量平均分子量が3,845g/molである高分子可塑剤を形成した。
【0128】
実施例1において、二塩基酸原料:二価アルコール原料:末端封止アルコール(モル比)は、0.29:0.33:0.08である。
【0129】
最後に、高分子可塑剤を含む反応液体を減圧部(760~100トール)に供給して195℃を保持して2時間反応した。前記高分子可塑剤の酸価(acid value)を1mgKOH/g未満に制御して、反応終点に至って、前記高分子可塑剤の製造を完了する。
【0130】
実施例2~実施例3の製造方法は、前記実施例と基本的に一致しており、実施例2~3と実施例1との相違点は、表地組成物の配合及び高分子可塑剤を合成するための末端封止脂肪酸にある。
【0131】
また、比較例1の高分子可塑剤の末端封止材料はイソオクタノール(一価アルコール)であり、末端封止脂肪酸(一価脂肪酸)ではなかった。
【0132】
次に、実施例1~3及び比較例1で製造されたポリ塩化ビニル系人工皮革の物理化学特性の測定を行うことによって、それらのポリ塩化ビニル系人工皮革の物理化学特性を得た。例えば、臭いレベル、低沸点アルコールの残留量(ppm)、匂いタイプなどである。関連する結果は、表1にまとめている。
【0133】
ここで、臭いレベルは、80℃、2時間での一般的な自動車臭気試験方法であるPV3900C3に基づいて測定された。臭いレベルのシステムは、六つのレベルが含まれている。1=臭いなし。2=臭いがあるが困ることがない。3=臭いが顕著だが、不快な臭いがない。4=不快な臭いがある。5=強い不快な臭がある。6=耐えられない臭いがある。
【0134】
ここで、低沸点アルコールの残留量(ppm)は、ヘッドスペースサンプリング方法で測定を行った。即ち、サンプル1gを試験瓶に入れ、120℃で30分間加熱し、注射針を用いて上部ガスを抽出し定量分析した。
【0135】
【0136】
表1の実験結果によれば、実施例1~3の臭いレベルはいずれも3であり、比較例1の3.5より低かった。実施例1~3の低沸点アルコールの残留量はいずれも300ppmであり、比較例1の2,242ppmより少なかった。実施例1~3の臭いレベルはいずれも自然な香りであり、比較例1の化学的な匂いと相違した。なお、表1に記載されていない実験結果において、実施例1~3での安定剤の使用量を3重量部を向上した。それによって、最終に形成されたポリ塩化ビニル系人工皮革は、80分間~85分間の加熱を経っても変色しなかった。
【0137】
[実施形態による有利な効果]
本発明の有利な効果として、本発明の高分子可塑剤の分子量及び分子構造の設計によって、前記高分子可塑剤は、従来の低分子量の可塑剤の代わりとして用い、発泡剤の使用を回避することができ、ポリ塩化ビニル系人工皮革の臭いレベルを改良するだけでなく、高分子可塑剤の分子構造によって、ポリ塩化ビニル系人工皮革の表地層にレザーの手触りを与える。
【0138】
更に説明すると、本発明の実施形態に係る高分子可塑剤の化学構造の末端は、バイオマス由来の末端封止脂肪酸であるため、ポリ塩化ビニル系人工皮革のバイオマス含有量の割合を向上する。なお、バイオマス由来の末端封止脂肪酸は、天然の香り(例えば、天然石鹸の香り)を有するために、ポリ塩化ビニル系人工皮革が発する臭気の改善に役立つ。
【0139】
また、本発明の実施形態に提供された技術的手段において、反応液体における二価アルコールの残留量を低減する方法は、一般的な真空蒸留のみで二価アルコールを除去する方法に比べて、更に二価アルコールの残留量を効果的に低減することができる。
【0140】
以上に開示された内容は、ただ本発明の好ましい実行可能な実施態様であり、本発明の請求の範囲はこれに制限されない。そのため、本発明の明細書及び図面内容を利用して成される全ての等価な技術変更は、いずれも本発明の請求の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0141】
<従来の技術>
100a...ポリ塩化ビニル系人工皮革
1a...ベース層
2a...発泡層
3a...表地層
4a....表面処理層
<本發明の実施例>
100...ポリ塩化ビニル系人工皮革
1...ベース層
2...表地層
3....表面処理層
D...厚み