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特開2025-4102少なくとも100mmの厚さを有する鋼セクション及びその製造方法
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  • 特開-少なくとも100mmの厚さを有する鋼セクション及びその製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025004102
(43)【公開日】2025-01-14
(54)【発明の名称】少なくとも100mmの厚さを有する鋼セクション及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C22C 38/00 20060101AFI20250106BHJP
   C22C 38/58 20060101ALI20250106BHJP
   C21D 8/00 20060101ALI20250106BHJP
   C21D 9/00 20060101ALI20250106BHJP
【FI】
C22C38/00 301A
C22C38/58
C21D8/00 B
C21D9/00 102Z
【審査請求】有
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024174082
(22)【出願日】2024-10-03
(62)【分割の表示】P 2022143479の分割
【原出願日】2018-12-12
(31)【優先権主張番号】PCT/IB2017/058055
(32)【優先日】2017-12-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】IB
(71)【出願人】
【識別番号】515214729
【氏名又は名称】アルセロールミタル
(74)【代理人】
【識別番号】110001173
【氏名又は名称】弁理士法人川口國際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】クリストフ・ウイウー
(72)【発明者】
【氏名】バレリー・リナルディ
(72)【発明者】
【氏名】ボリス・ドネ
(72)【発明者】
【氏名】リウドミラ・ウェベル
(57)【要約】      (修正有)
【課題】高い引張強度、優れた溶接性を有する厚肉鋼セクションを提供する。
【解決手段】各側面で少なくとも100mmの厚さを有するフランジ部に接続されたウェブ中央部を含む鋼セクションであって、重量パーセントで、C:0.06~0.16%、Mn:1.10~2.00%、Si:0.10~0.40%、Cu:0.001~0.50%、Ni:0.001~0.30%、Cr:0.001~0.50%、Mo:0.001~0.20%、V:0.06~0.12%、N:0.0050%~0.0200%、Al≦0.040%、P≦0.040%、S≦0.030%を含み、Ti<0.005%、Nb≦0.05%うちの1種以上を任意に含み、残部は不純物であり、微細組織は、クロム、マンガン及び鉄から選択される1種以上の金属も含み得る少なくとも1種のバナジウム析出物を含み、当該析出物の70%超は、6nm未満の平均直径を有する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
各側面で少なくとも100mmの厚さを有するフランジ部に接続されたウェブ中央部を備えた鋼セクションであって、かかる鋼セクションが重量パーセントで
C:0.06~0.16%
Mn:1.10~2.00%
Si:0.10~0.40%
Cu:0.001~0.50%
Ni:0.001~0.30%
Cr:0.001~0.50%
Mo:0.001~0.20%
V:0.06~0.12%
N:0.0050%~0.0200%
Al≦0.040%
P≦0.040%
S≦0.030%
を含み、重量パーセンテージで、以下の元素のうちの1種以上を任意に含み、
Ti<0.005%
Nb≦0.05%
残部は、鉄及び微細化に起因する不純物であり、鋼セクションの微細組織は、クロム、マンガン及び鉄から選択される1種以上の金属も含み得る少なくとも1種のバナジウム析出物を含み、当該析出物は、窒化物、炭化物、炭窒化物又はこれらの任意の組み合わせから選択され、かかる析出物の70%超は、6nm未満の平均直径を有する、鋼セクション。
【請求項2】
かかるセクションの組成が、以下の関係、
0.4≦CEV≦0.6
ここで、CEV=C+Mn/6+(Cr+Mo+V)/5+(Ni+Cu)/15
が満たされるようなものである、請求項1に記載の鋼セクション。
【請求項3】
窒素量に対するバナジウム量の比が2.5~7の間である、請求項1又は2に記載の鋼セクション。
【請求項4】
かかるフランジ部の微細組織が、表面からコアまで、焼戻しマルテンサイトを含み、ベイナイトを含んでもよい硬化区域、並びにフェライト及びパーライトを含むコア区域を含む、請求項1~3のいずれか一項に記載の鋼セクション。
【請求項5】
かかる鋼セクションが、mm当たり少なくとも500個の析出物の平均密度を有する部分を含む、請求項1~4のいずれか一項に記載の鋼セクション。
【請求項6】
かかる析出物の少なくとも一部が規則的に間隔をあけた帯域に配置される、請求項1~5のいずれか一項に記載の鋼セクション。
【請求項7】
かかる規則的に間隔をあけた析出物の80%超が、3nm未満の平均直径を有する、請求項6に記載の鋼セクション。
【請求項8】
かかる規則的に間隔をあけた析出物が、少なくともバナジウム及びクロムを含む、請求項6又は7に記載の鋼セクション。
【請求項9】
かかる析出物の少なくとも一部が前記鋼セクションの前記コア内に位置する前記フェライト相中に不規則に分布する、請求項4~8のいずれか一項に記載の鋼セクション。
【請求項10】
かかる不規則に分布した析出物の80%超が、3.5~6nmの間の平均直径を有する、請求項9に記載の鋼セクション。
【請求項11】
かかる不規則に分布した析出物が、少なくともバナジウム、クロム及び鉄を含む、請求項10に記載の鋼セクション。
【請求項12】
前記析出物が前記コア区域に位置する、請求項1~11のいずれか一項に記載の鋼セクション。
【請求項13】
前記フランジ部は、最大140mmの厚さを有する、請求項1~12のいずれか一項に記載の鋼セクション。
【請求項14】
以下のステップ、
- 組成が請求項1~3のいずれか一項によるものである半製品を供給するステップ、
- かかる半製品を、1000℃を超える温度で再加熱し、それを少なくとも850℃の最終圧延温度で熱間圧延し、熱間圧延鋼セクションを得るステップ、
- 製品の全部又は一部の表面層のマルテンサイト及び/又はベイナイトの焼き入れを生じるように熱間圧延鋼セクションを冷却し、圧延製品の焼き入れされていない部分は、マルテンサイト及び/又はベイナイトの焼き入れされた表面層の自己焼戻しを引き起こし、その後の冷却の間にセクションのコア部においてオーステナイトをフェライト及び炭化物に変換することができるように十分高い温度のままであり、焼き入れ後の製品の焼戻しされた表面の最高温度は450~650℃であるステップ、
を含む鋼セクションの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、100mmを超える厚さを有するフランジ部に各側面で連結されたウェブ中央部を備える鋼セクションを扱う。本発明による鋼セクションは、特に、高層ビル、長大スパン、及びトランスファー用の柱、並びにベルトトラス、アウトリガー、及び橋桁の製造によく適している。
【背景技術】
【0002】
新しい現代の構造用鋼種の開発は、降伏強度及び靭性のようなより高い機械的特性、並びに作業場及び現場での効率的な製造技術を保証するような優れた技術的特性に対するユーザーの要求に常に促される。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
したがって、本発明の目的は、少なくとも485MPaの高い降伏強度、及び少なくとも580MPaの高い引張強度に達し、且つ優れた溶接性を有する厚肉鋼セクションを提供することである。
【0004】
構造用鋼の製造の実際においては、強度及び靭性を向上させるためには、より低温での熱間圧延を通して組織を微細化するか、又はオーステナイト結晶粒微細化のために若干の合金元素を添加することが好ましいことが知られている。両方の解決策は、より低い熱間圧延温度の場合、ロールの過熱が不可避であるため、重い構造用鋼製造には十分ではない。同時に、合金元素を高量で添加すると、鋼の溶接性が低下する。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の目的は、請求項1に記載の厚肉鋼セクションを提供することによって達成される。また、この厚肉鋼セクションは、請求項2~12に記載の特性を備えることができる。別の目的は、請求項13に記載の方法を提供することによって達成される。
【0006】
本発明の他の特徴及び利点は、本発明の以下の詳細な説明及び図から明らかになる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1】厚肉セクションのフランジのコア中に不規則に分布した析出物を示す電子顕微鏡写真である。
図2】規則的に間隔をあけた帯域に配列された析出物を示す電子顕微鏡写真である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
特に指定のない限り、全ての組成パーセントは重量パーセント(重量%)で示される。鋼の化学組成に関して、炭素は微細組織の形成及び目標とする機械的特性の達成に重要な役割を果たす。その主な役割は、マルテンサイト/ベイナイト相の焼き入れによるのみならず、鋼の金属元素の炭化物及び/又は炭窒化物の形成を通じて、鋼を強化することである。本発明によるグレードの炭素含有率は0.06~0.16重量%の間である。炭素含有率が0.06%未満では、十分なレベルの機械抵抗が得られず、485MPa未満の降伏強度値の原因となる。反対に、0.16%を超える炭素含有率は鋼の延性及び溶接性の低下をもたらすであろう。炭素含有率は、十分な強度及び溶接性を得るために、0.08~0.14%の間であることが好ましい。
【0009】
マンガンは焼入性を高める元素である。本発明によるグレードのマンガン含有率は1.10~2.00%の間である。1.10%未満のマンガン含有率では、十分なレベルの機械抵抗にはならない。反対に、2.00%を超えるマンガン含有率は溶接性の低下をもたらすか、又は硬質マルテンサイト-オーステナイト成分の形成を促進し、また鋼の靭性に悪影響を及ぼすであろう。
【0010】
ケイ素は脱酸元素であり、強度向上に寄与する。0.10%未満のケイ素含有率では、十分なレベルの機械抵抗又は良好な脱酸をもたらさない。反対に、0.40%を超えるケイ素含有率は酸化物の形成をもたらし、鋼の溶接特性を低下させるであろう。
【0011】
銅は、焼入性向上や析出強化により鋼の強度向上に寄与する元素である。銅含有率が0.001%を下回ると、十分なレベルの機械抵抗にはならない。反対に、0.50%を超える銅含有率は炭素当量を増加させ、このためCu富化相の粒界への浸透によって生じる熱間変形中の鋼の溶接性を悪化させるか、あるいは高温脆性に影響を与えるであろう。
【0012】
ニッケルは、鋼の強度及び靭性の向上に寄与する元素である。ニッケル含有率が0.001%未満では、十分なレベルの機械抵抗にはならない。反対に、0.30%を超えるニッケル含有率は高い合金化コストにつながるであろう。
【0013】
クロムは、固溶硬化によるのみならず、析出硬化による焼き入れ性の向上による鋼の強度向上に寄与する元素である。クロム含有率が0.001%を下回ると、十分なレベルの機械抵抗にはならない。反対に、クロム含有率が0.50%を超えると、鋼の靭性を劣化させる可能性のある、粗大な炭化クロム又は炭窒化クロムの発生をもたらすであろう。
【0014】
モリブデンは、焼入性の向上により鋼の強度向上に寄与する元素である。モリブデン含有率が0.001%を下回ると、十分なレベルの機械抵抗にはならない。反対に、0.20%を超えるモリブデン含有率は鋼の靭性を低下させるであろう。
【0015】
バナジウムは、窒化物、炭窒化物又は炭化物の析出によるのみならず、また結晶粒微細化を通じて、焼き入れ及び強化を達成するために使用される重要な元素である。バナジウム析出物の形成はオーステナイト結晶粒の粗大化を制限し、その結果フェライト結晶粒が減少し、フェライト相中の析出により強度が向上する。また、バナジウムはセメンタイト中のクロム及びマンガンの移動を妨げ、その結果微小な析出物の生成のために利用されうる。バナジウム含有率が0.06%を下回ると、十分なレベルの機械抵抗にはならない。反対に、バナジウム含有率が0.12%を超えると、過剰な析出により靭性が低下する危険性が生じ、これは避けなければならない。好ましい実施形態では、鋼の靭性をさらに改善するために、バナジウムの添加は0.09%に制限される。
【0016】
窒素は、バナジウム、ニオブ、アルミニウム及びチタン等の金属元素の窒化物及び炭窒化物を形成するための重要な元素である。それらのサイズ、分布密度及び安定性は、機械的強化に対して有意な効果を有する。窒素含有率が0.0050%未満では、十分なレベルの析出及び粒径制御にはならない。これらの特性をさらに改善するために、0.0060%、又はさらには0.0070%の、又はさらに良好には0.0080%の最低濃度が好ましい。反対に、0.0200%を超える窒素含有率は、溶接後の熱影響部で靭性に悪影響を及ぼすことが知られている、鋼中の遊離窒素の存在をもたらす。
【0017】
熱間圧延中に、バナジウムの一部はオーステナイト粒界の固定のためのVN粒子を形成するために窒素と結合する。固溶体中にある残余のバナジウムは、その後、鋼の冷却中に微細な析出物の形態で析出するため、最終強度に大きく寄与をする。本発明者らは、4:1の化学量論比に近づくために、鋼セクション中のバナジウム対窒素比を最適化することにより、析出強化を高めることができることを見出した。好ましい実施形態では、Nに対するVの比は2.5~7の間に含まれ、さらには3~5の間に含まれる。
【0018】
脱酸効果、及び鋼からの酸素除去を目的として、鋼にアルミニウムを添加することができる。鋼に他の脱酸元素を添加する場合、アルミニウム含有率は0.005%以下である。それ以外の場合のアルミニウム含有率は0.005~0.040%の間である。アルミニウム含有率が高すぎると、VNよりもAlNの形成が優先して起こるが、AlNの方がVNよりも大きいので、オーステナイト結晶粒界の固定はVNほど効率的ではない。
【0019】
硫黄及びリンは、粒界を脆弱化させ、中心及びミクロ偏析の形成につながる不純物である。それらの含有率は、十分な熱間延性を維持し、溶接特性の劣化を避けるために、それぞれ0.030及び0.040%を超えてはならない。
【0020】
ニオブは、窒化物、炭窒化物又は炭化物の析出によって焼き入れ及び強化を達成するために任意に使用され得る元素である。ニオブは圧延中のオーステナイト結晶粒の成長を抑制し、それらを微細化することにより、強度及び低温靭性の向上をもたらす。しかし、その量が0.05%を超えると、マルテンサイトの焼き入れにより熱影響部の靭性を劣化させる恐れがある。他方、ニオブ量が0.05%以上になると、ニオブが利用可能な窒素を固定するため、窒素がバナジウム析出物を形成するのを妨げ、セクションの延性コアの強化を保証する。
【0021】
チタンは、窒化物、炭窒化物又は炭化物の析出によって焼き入れ及び強化を達成するために任意に使用され得る元素である。しかし、その量が0.005%以上の場合、VNではなくTiNが形成される危険性がある。さらに、立方体粒子であるTiNは、応力集中体として作用し、したがって鋼の靭性及び疲労特性に悪影響を及ぼす可能性がある。好ましい実施形態では、チタンの最大量は0.003%に設定され、さらには0.001%に設定される。
【0022】
好ましい実施形態では、かかるグレードの炭素、マンガン、クロム、モリブデン、バナジウム、ニッケル及び銅含有率は、以下の関係、
0.4≦CEV≦0.6
CEV=C+Mn/6+(Cr+Mo+V)/5+(Ni+Cu)/15
が満たされるようなものである。
【0023】
これらの値を順守することにより、鋼セクションの良好な溶接性を維持しながら、ベイナイトの十分な形成を通じて、鋼セクションの焼入性が適切な範囲になることが保証される。炭素当量が減少することにより、予熱のような溶接処理工程を回避することが可能になり(許容される場合)、また、製造コストが削減される。好ましい実施形態では、CEV≦0.5%である。
【0024】
鋼セクションは、フランジ部に各側面で接続されたウェブ中央部を備える。
【0025】
本発明による鋼セクションのフランジの厚さは100mm超に設定され、特に高層建築構造物にこのような梁を使用することができる。その厚さは、要求された引張及び靭性特性を確実にするために十分な冷却速度が得られ難いことから、140mm未満であることが好ましい。
【0026】
本発明によれば、厚肉セクションのウェブ及びフランジは、表面の水冷から生じる硬化区域と、製品のコア中の非硬化区域とから構成される。鋼セクションの各区域は、焼戻しマルテンサイト、ベイナイト、フェライト及びパーライトの中の1つ以上の相を含むことができる特定の微細組織を有することができる。フェライトは、針状フェライト又は規則的フェライトの形で存在することができる。
【0027】
各区域の微細組織は、鋼セクションの厚さとそれが供される熱経路に依存する。
【0028】
好ましい実施形態において、フランジ部の微細組織は、表面からコアまで、焼戻しマルテンサイト及び場合によってはベイナイトを含む第1の区域と、フェライト及びパーライトを含む第2の区域とを含む。
【0029】
第1の区域は、例えば、フランジ部の表面下で最大10mmまで延在することができる。
【0030】
本発明の本質的な特徴は、鋼セクションの微細組織中に、クロム、マンガン及び鉄から選択される1種以上の金属を場合によって含む少なくとも1種のバナジウム析出物が存在することである。かかる析出物は、窒化物、炭化物、炭窒化物又はそれらの任意の組み合わせから選択され、このような析出物の70%超及び好ましくは80%超は、6nm未満の平均直径を有する。平均直径の決定は、以下の方法で行った。すなわち、検出された各析出物の表面を測定し、対応する円にあてはめ、そこから直径を導き出し、そして検出された全ての析出物の平均直径サイズを得た。
【0031】
好ましい実施形態では、それらの析出物の平均密度は、mm当たり少なくとも500個の析出物、好ましくはmm当たり少なくとも1000個の析出物である。これらの析出物は、強度に対して有益な効果を有し、それは、析出物のサイズが減少し、析出物の含有量が増加するにつれて増大することが知られている。
【0032】
このような析出物は、セクションのフランジのコア区域に、主にフェライト相中に存在することが好ましい。このような析出物の少なくとも70%、好ましくは少なくとも80%は、6nm未満の平均直径を有する。このような析出物のサイズの低下により、それらの焼き入れ効果、ひいては鋼セクションの引張強度が増加する。
【0033】
好ましい実施形態では、2種類の析出物が、好ましくは鋼セクションのフランジのコア区域内に存在する。すなわち、
- フェライト内部に不規則に分布した析出物、及び
- 規則的に間隔をあけた帯域に配列されており、粒子が密集した平行なシートを形成する析出物。
【0034】
不規則に分布した析出物は規則的に間隔をあけた帯域に配列されたものより大きい。
【0035】
好ましい実施形態では、このような規則的に間隔をあけた析出物は、少なくともバナジウム及びクロムを含む。
【0036】
別の好ましい実施形態では、不規則に分布した析出物の80%超が、3.5~6nmの間の平均直径を有する。このような析出物は、少なくともバナジウム、クロム及び鉄を含むことが好ましい。
【0037】
本発明による鋼セクションは、任意の適切な製造方法によって生産することができ、当業者は製造方法を明確にすることができる。しかし、加速冷却によって終了する方法を使用することが望ましく、その場合、熱間圧延ステップ後の表面区域の焼入れ及び自己焼戻しで終了する方法を使用することが望ましい。
【0038】
本発明による方法は、以下のステップを含む。
【0039】
- 組成が本発明によるものである半製品を供給するステップ、
- かかる半製品を、1000℃を超える温度で再加熱し、それを少なくとも900℃の最終圧延温度で熱間圧延し、熱間圧延鋼セクションを得るステップ、
- 製品の全部又は一部の表面層のマルテンサイト及び/又はベイナイトの焼き入れを生じるように熱間圧延鋼セクションを冷却し、圧延製品の焼き入れされていない部分は、マルテンサイト及び/又はベイナイトの焼き入れされた表面層の自己焼戻しを引き起こし、その後の冷却の間にセクションのコア部においてオーステナイトをフェライト及び炭化物に変換することができるように十分高い温度のままであり、焼き入れ後の製品の焼戻しされた表面の最高温度は450~650℃であり、さらには550~650℃であるステップ。
【0040】
本発明の鋼セクションは、上記の組成を有する本発明の鋼で作られた半製品を鋳造し、鋳造した投入ストックを、1000℃を超える、好ましくは1050℃を超える、より好ましくは1100℃を超える又は1150℃を超える温度まで加熱するか、又は中間冷却を行わずに鋳造後このような温度で直接使用する方法によって製造されることが好ましい。このような温度は炭窒化バナジウムの完全な溶解を可能にし、これはさらに析出強化機構に関与する。
【0041】
最終的な熱間圧延ステップは、850℃を超える温度で行われる。オーステナイト粒の微細化、ひいては変態後のより薄い微細組織の形成(それは靭性及び強度特性を高めることが知られている)を保証するために、圧延終了温度は850℃以上である。
【0042】
熱間圧延の際には、圧延ステップと圧延温度の制御をうまく組み合わせて用いることが好ましい。その目的は、圧延中の最後に生じる再結晶の結晶粒微細化による微細組織を作ることである。
【0043】
次に、前述の方法により得られた熱間圧延製品を、好ましくは焼き入れ及び自己焼戻し方法を用いて冷却する。
【0044】
いわゆる焼き入れ及び自己焼戻し処理(QST)は、製品の全部又は一部の表面層のマルテンサイト及び/又はベイナイトの焼き入れを生じるように、流体を用いて圧延機の仕上げスタンドから出る熱間圧延鋼セクションを冷却することからなる。さらに、流体冷却区域の出口では、圧延製品の焼入れされていない部分は、その後の空冷の際に、マルテンサイト及び/又はベイナイトの表面層の焼戻しが行われるのを許容するのに十分に高い温度にある。
【0045】
焼き入れ及び自己焼戻しステップを実施するために使用される冷却液は、通常、従来の添加剤、又は、例えば水性鉱物塩を含む又は含まない水である。この液体は、例えば、ガス中に水を懸濁して得られるミストであってもよいし、又は蒸気のようなガスであってもよい。
【0046】
実用的な観点からは、圧延製品の所望の冷却は、使用される冷却装置、及び冷却手段の長さ及び流量特性の適切な選択に依存する。
【0047】
製品の寸法は、鋼の組成、したがってその連続冷却変態図と同様に知られており、当該変態図により鋼セクションの適切な処理のために適用する条件、その中でもマルテンサイトが形成される温度と、所望の深さまで表面の焼入れを行うために利用可能な最長時間とを決定することが可能となる。
【0048】
圧延された鋼セクションのコア及び表皮内の温度勾配の曲線に基づいて、除去される熱量、並びに冷却装置の特性及び冷却装置によって適用される流体の流速を得ることができる。
【0049】
鋼セクションの異なる区域における所望の微細組織の形成を監視するために、マルテンサイト及び/又はベイナイトの焼入れの終わりから始まる鋼セクションの表皮温度の進展が測定されている。焼入れ後、表皮温度は上昇するが、一方コアの温度は、セクションが圧延機の最終スタンドから出た後、連続的に低下する。所定の断面における表皮温度及びコア温度は、2つの曲線が互いに実質的に平行に続く時点に向かって収束する。この時点の表皮温度を「均熱温度」と呼ぶ。
【実施例0050】
表1に組成をまとめた2つのグレードを半製品に鋳造し、表2にまとめた方法のパラメータに従い鋼セクションに加工し、加熱、制御された熱間圧延及びその後の水冷を経て、焼入れ及び自己焼戻しによって達成した。
【0051】
<表1-組成>
試験された組成物を、元素含有率が重量パーセント×1000で表される次の表にまとめた。
【0052】
【表1】
【0053】
試験1は比較例であり、試験2は本発明による例である。
【0054】
<表2-方法のパラメータ>
鋳造物としての鋼半製品を以下の条件で加工した。
【0055】
【表2】
【0056】
次いで、得られた試料を分析し、対応する微細組織要素及び機械的特性をそれぞれ表3及び4にまとめた。
【0057】
<表3-微細組織及び析出物>
得られた鋼セクションの微細組織の相のパーセントを決定した。
【0058】
【表3】
【0059】
セクションn°1の両区域、特にコア区域における相のパーセントは、セクションn°2と極めて類似しており、バナジウム析出強化の影響がより小さな微細組織規模で観察されることを示している。
【0060】
セクションのフランジの厚さのコア区域から採取したカーボン抽出レプリカのTEM試験により行われた析出分析により、バナジウム析出物の存在が示された。微細析出物分析をTEM薄箔方法により実施した。これにより、析出物の平均サイズと密度の定量化が可能になった。
【0061】
セクションの機械的強化に関与する析出物は、鋼セクションのコア区域、特にフェライト相内部に位置することが分かった。
【0062】
図1は、サイズが大きいか小さいかにかかわらず、バナジウム析出物の大部分が球形を有することを示す。より大きなサイズの析出物(直径約6nmの典型的なサイズ)は大部分が不規則に分布していた。しかし、微細な析出物(直径約3nmの典型的なサイズ)は規則的に間隔をあけた帯域に配列されていた。図2から、微細組織はバナジウム粒子が密集した平行なシートからなることが分かる。当該シートは規則的な間隔で現れる。
【0063】
【表4】
【0064】
【表5】
【0065】
<表4-機械的特性>
試験した鋼の機械的性質を決定し、次の表にまとめた。
【0066】
【表6】
【0067】
例は、本発明による鋼セクションが、その特定の組成及び微細組織のおかげで、目標の特性の全てを示す唯一のものであることを示す。
【0068】
本発明による鋼セクションは、高強度、靭性及び良好な溶接性の優れた値を示し、これは今日まで容易に達成することができないものである。本発明による鋼グレードにより、大規模な建築プロジェクトに関与する設計及び建築チームは、より効率的な構造的解決から利益を得ることができる。鋼セクションのより高い降伏強度により、他の一般的に使用される構造用鋼グレードよりも、軽量化並びにより低い輸送及び製造コストが可能になる。したがって、本発明は、建設業界に極めて大きな貢献をする。
図1
図2
【手続補正書】
【提出日】2024-11-01
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
各側面で少なくとも100mmの厚さを有するフランジ部に接続されたウェブ中央部を備えた鋼セクションであって、かかる鋼セクションが重量パーセントで
C:0.06~0.16%
Mn:1.10~2.00%
Si:0.10~0.40%
Cu:0.001~0.50%
Ni:0.001~0.30%
Cr:0.001~0.50%
Mo:0.001~0.20%
V:0.06~0.12%
N:0.0050%~0.0200%
Al≦0.040%
P≦0.040%
S≦0.030%
を含み、重量パーセンテージで、以下の元素のうちの1種以上を任意に含み、
Ti<0.005%
Nb≦0.05%
残部は、鉄及び微細化に起因する不純物であり、鋼セクションの微細組織は、クロム、マンガン及び鉄から選択される1種以上の金属も含み得る少なくとも1種のバナジウム析出物を含み、当該析出物は、窒化物、炭化物、炭窒化物又はこれらの任意の組み合わせから選択され、かかる析出物は、TEM薄箔法により測定して、70%超が、6nm未満の平均直径を有する、鋼セクションであって、
かかるセクションの組成が、以下の関係、
0.4≦CEV≦0.6
ここで、CEV=C+Mn/6+(Cr+Mo+V)/5+(Ni+Cu)/15
が満たされるようなものであり、
窒素量に対するバナジウム量の比が2.5~7の間であり、
少なくとも485MPaの降伏強度、及び少なくとも580MPaの引張強度を有する、
鋼セクション。
【請求項2】
かかるフランジ部の微細組織が、表面からコアまで、焼戻しマルテンサイトを含み、ベイナイトを含んでもよい硬化区域、並びにフェライト及びパーライトを含むコア区域を含む、請求項に記載の鋼セクション。
【請求項3】
かかる鋼セクションが、TEM薄箔法により測定して、mm当たり少なくとも500個の析出物の平均密度を有する部分を含む、請求項1又は2に記載の鋼セクション。
【請求項4】
かかる析出物の少なくとも一部が規則的に間隔をあけた帯域に配列され、かつ、破線状に延在する、請求項1~のいずれか一項に記載の鋼セクション。
【請求項5】
かかる規則的に間隔をあけた析出物が、少なくともバナジウム及びクロムを含む、請求項に記載の鋼セクション。
【請求項6】
かかる析出物の少なくとも一部が前記鋼セクションの前記コア内に位置する前記フェライト相中に不規則に分布する、請求項のいずれか一項に記載の鋼セクション。
【請求項7】
かかる不規則に分布した析出物の80%超が、TEM薄箔法により測定して、3.5~6nmの間の平均直径を有する、請求項に記載の鋼セクション。
【請求項8】
かかる不規則に分布した析出物が、少なくともバナジウム、クロム及び鉄を含む、請求項に記載の鋼セクション。
【請求項9】
前記析出物が前記コア区域に位置する、請求項1~のいずれか一項に記載の鋼セクション。
【請求項10】
前記フランジ部は、最大140mmの厚さを有する、請求項1~のいずれか一項に記載の鋼セクション。
【請求項11】
以下のステップ、
- 組成が請求項によるものである半製品を供給するステップ、
- かかる半製品を、1000℃を超える温度で再加熱し、それを少なくとも850℃の最終圧延温度で熱間圧延し、熱間圧延鋼セクションを得るステップ、
- 製品の全部又は一部の表面層に、硬化区域として、マルテンサイト及びベイナイトを生じる焼き入れを行うように、熱間圧延鋼セクションを冷却し、圧延製品の焼き入れされていない部分は、マルテンサイト及びベイナイトの焼き入れされた表面層の自己焼戻しを引き起こし、その後の冷却の間にセクションのコア部においてオーステナイトをフェライト及び炭化物に変換することができるように十分高い温度のままであり、焼き入れ後の製品の焼戻しされた表面の最高温度は450~650℃であるステップ、
を含む、請求項1~10のいずれか一項に記載の鋼セクションの製造方法。