(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025004105
(43)【公開日】2025-01-14
(54)【発明の名称】垂直共振器型発光素子
(51)【国際特許分類】
H01S 5/183 20060101AFI20250106BHJP
H01S 5/343 20060101ALI20250106BHJP
【FI】
H01S5/183
H01S5/343 610
【審査請求】有
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024174188
(22)【出願日】2024-10-03
(62)【分割の表示】P 2021569805の分割
【原出願日】2020-12-18
(31)【優先権主張番号】P 2020001533
(32)【優先日】2020-01-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000002303
【氏名又は名称】スタンレー電気株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001025
【氏名又は名称】弁理士法人レクスト国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】倉本 大
(57)【要約】 (修正有)
【課題】高い発光効率を有する垂直共振器型発光素子を提供する。
【解決手段】窒化ガリウム系半導体基板の上方に形成された第1の半導体層、第1の半導体層上に形成された活性層、及び活性層上に形成されかつ前記第1の半導体層とは反対の導電型を有する第2の半導体層を含む半導体構造層と、第1の半導体層に電気的に接触している第1の電極層と、半導体構造層の上面に形成され上面の1の領域において第2の半導体層に電気的に接触している第2の電極層と、半導体構造層の第1の半導体層側に配置された第1の多層膜反射鏡と、半導体構造層の第2の半導体層側に配置され、第1の多層膜反射鏡との間で共振器を構成する第2の多層膜反射鏡と、を有し、半導体構造層は、当該1の領域を囲繞する領域に上面から前記活性層を貫通する1または複数の凹部を含む1の凹構造を有し、当該凹構造は、当該1の領域の外縁から50μm以内に設けられていることを特徴とする。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
窒化ガリウム系半導体基板と、
前記窒化ガリウム系半導体基板の上方に形成された第1の導電型を有する窒化物半導体よりなる第1の半導体層、前記第1の半導体層上に形成された窒化物半導体よりなる活性層、及び前記活性層上に形成されかつ前記第1の導電型とは反対の第2の導電型を有する窒化物半導体よりなる第2の半導体層を含む半導体構造層と、
前記半導体構造層の前記第1の半導体層に電気的に接触している第1の電極層と、
前記半導体構造層の上面に形成され前記上面の1の領域において前記半導体構造層の前記第2の半導体層に電気的に接触している第2の電極層と、
前記半導体構造層の前記第1の半導体層側に配置された第1の多層膜反射鏡と、
前記半導体構造層の前記第2の半導体層側に配置され、前記第1の多層膜反射鏡との間で共振器を構成する第2の多層膜反射鏡と、を有し、
前記半導体構造層は、前記1の領域を囲繞する領域に前記上面から前記活性層を貫通する1または複数の凹部を含む1の凹構造を有し、
前記凹構造は、前記1の領域の外縁から50μm以内に設けられている垂直共振器型発光素子。
【請求項2】
前記凹構造は、前記垂直共振器型発光素子を上方から見た際の前記活性層の発光強度が、前記活性層の発光強度のピークの1.8%以下になる領域に形成されている請求項1に記載の垂直共振器型発光素子。
【請求項3】
前記凹構造は、前記半導体構造層の面内方向に対して垂直な方向からみて、前記第2の多層膜反射鏡と重なるように形成されている請求項1または請求項2に記載の垂直共振器型発光素子。
【請求項4】
前記凹構造は、前記半導体構造層の面内方向に対して垂直な方向からみて、前記第2の多層膜反射鏡の周囲に形成されている請求項1乃至3のいずれか1つに記載の垂直共振器型発光素子。
【請求項5】
前記窒化ガリウム系半導体基板の前記半導体構造層が形成されている面は、c面からm面及びa面のうちの1の結晶面にオフセットした面であり、前記1または複数の凹部は、半導体構造層の上面において、前記1の領域から見て前記1の結晶面に垂直な1の軸に沿った方向にある領域に延在しており、前記1の軸に沿った方向と垂直な方向にある領域に形成されていない請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の垂直共振器型発光素子。
【請求項6】
前記半導体構造層の上面の前記1の領域を囲繞する領域において前記第2の半導体層と前記第2の電極層は、電気的に絶縁されている請求項1から請求項5のいずれか1項に記載の垂直共振器型発光素子。
【請求項7】
前記1の領域を囲繞する領域における前記第2の半導体層と前記第2の電極層の間は、絶縁層によって電気的に絶縁されている請求項6に記載の垂直共振器型発光素子。
【請求項8】
前記1の領域を囲繞する領域における前記第2の半導体層と前記第2の電極層の間は、エッチングされた前記第2の半導体層表面によって電気的に絶縁されている請求項6に記載の垂直共振器型発光素子。
【請求項9】
前記1の領域を囲繞する領域における前記第2の半導体層と前記第2の電極層の間は、イオン注入された前記第2の半導体層表面によって電気的に絶縁されている請求項6に記載の垂直共振器型発光素子。
【請求項10】
前記第1の多層膜反射鏡は、半導体多層膜反射鏡である請求項1から請求項9のいずれか1項に記載の垂直共振器型発光素子。
【請求項11】
前記第1の多層膜反射鏡は、前記窒化ガリウム系半導体基板と前記半導体構造層の間に配置されている請求項1から請求項10のいずれか1項に記載の垂直共振器型発光素子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、垂直共振器型面発光レーザ(VCSEL:vertical cavity surface emitting laser)などの垂直共振器型発光素子に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、半導体レーザの1つとして、電圧の印加によって光を放出する半導体層と、当該半導体層を挟んで互いに対向する多層膜反射鏡と、を有する垂直共振器型の半導体面発光レーザ(以下、単に面発光レーザとも称する)が知られている。例えば、特許文献1には、n型半導体層及びp型半導体層にそれぞれ接続されたn電極及びp電極を有する垂直共振器型の半導体レーザが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
例えば、面発光レーザなどの垂直共振器型発光素子には、対向する反射鏡によって光共振器が形成されている。例えば、面発光レーザ内においては、電極を介して半導体層に電圧が印加されることで、当該半導体層から放出された光が当該光共振器内で共振し、レーザ光が生成される。
【0005】
しかし、垂直共振器型の半導体レーザ素子には、例えば、活性層を含む半導体層の面内方向に共振器を有する水平共振器型の半導体レーザに比べ発光効率が低いということが課題の一例として挙げられる。
【0006】
本発明は上記した点に鑑みてなされたものであり、高い発光効率を有する垂直共振器型発光素子を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明による垂直共振器型発光素子は、窒化ガリウム系半導体基板と、前記窒化ガリウム系半導体基板の上方に形成された第1の導電型を有する窒化物半導体よりなる第1の半導体層、前記第1の半導体層上に形成された窒化物半導体よりなる活性層、及び前記活性層上に形成されかつ前記第1の導電型とは反対の第2の導電型を有する窒化物半導体よりなる第2の半導体層を含む半導体構造層と、前記半導体構造層の前記第1の半導体層に電気的に接触している第1の電極層と、前記半導体構造層の上面に形成され前記上面の1の領域において前記半導体構造層の前記第2の半導体層に電気的に接触している第2の電極層と、前記半導体構造層の前記第1の半導体層側に配置された第1の多層膜反射鏡と、前記半導体構造層の前記第2の半導体層側に配置され、前記第1の多層膜反射鏡との間で共振器を構成する第2の多層膜反射鏡と、を有し、前記半導体構造層は、前記1の領域を囲繞する領域に前記上面から前記活性層を貫通する1または複数の凹部を含む1の凹構造を有し、前記凹構造は、前記1の領域の外縁から50μm以内に設けられていることを特徴とする。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の実施例について詳細に説明する。以下の説明においては、半導体面発光レーザ素子を例に説明する(半導体レーザ)が、本発明は、面発光レーザのみならず、垂直共振器型発光ダイオードなど、種々の垂直共振器型発光素子に適用することができる。
【実施例0010】
図1は、実施例1に係る垂直共振器型面発光レーザ(VCSEL:Vertical Cavity Surface Emitting Laser、以下、単に面発光レーザとも称する)10の斜視図である。
【0011】
基板11は、窒化ガリウム系半導体基板、例えばGaN基板である。基板11は、例えば、上面形状が矩形の基板である。基板11の上には、基板11の上に成長させられた半導体層からなる第1の多層膜反射鏡13が形成されている。
【0012】
第1の多層膜反射鏡13は、AlInNの組成を有する低屈折率半導体膜と、GaN組成を有し低屈折率半導体膜よりも屈折率が高い高屈折率半導体膜とが交互に積層された半導体多層膜反射鏡である。言い換えれば、第1の多層膜反射鏡13は、半導体材料からなる分布フラッグ反射器(DBR:Distributed Bragg Reflector)である。例えば、基板11の上面には、GaN組成を有するバッファ層が設けられ、当該バッファ層上に上記高屈折率半導体膜と低屈折半導体膜とを交互に成膜されることで第1の多層膜反射鏡13が形成される。
【0013】
なお、基板11の上面、すなわちGaN組成を有するバッファ層が設けられている面はC面またはC面から0.5°以内にオフした面であることが好ましい。後述する半導体構造層15の結晶性などが良好となるためである。
【0014】
半導体構造層15は、第1の多層膜反射鏡13上に形成された複数の半導体層からなる積層構造体である。半導体構造層15は、第1の多層膜反射鏡13上に形成されたn型半導体層(第1の半導体層)17と、n型半導体層17上に形成された発光層(または活性層)19と、活性層19上に形成されたp型半導体層(第2の半導体層)21と、を有する。
【0015】
n型半導体層17は、第1の多層膜反射鏡13上に形成された半導体層である。n型半導体層17は、GaN組成を有し、n型不純物としてSiがドーピングされている半導体層である。n型半導体層17は、角柱状の下部17Aとその上に配された円柱状の上部17Bとを有する。具体的には、例えば、n型半導体層17は、角柱状の下部17Aの上面17Sから突出した円柱状の上部17Bを有している。言い換えれば、n型半導体層17は、上部17Bを含むメサ形状の構造を有する。
【0016】
活性層19は、n型半導体層17の上部17B上に形成されており、InGaN組成を有する井戸層及びGaN組成を有する障壁層を含む量子井戸構造を有する層である。面発光レーザ10においては、活性層19において光が発生する。
【0017】
p型半導体層21は、活性層19上に形成されたGaN組成を有する半導体層である。p型半導体層21には、p型の不純物としてMgがドーピングされている。
【0018】
n電極23は、n型半導体層17の下部17Aの上面17Sに設けられ、n型半導体層17と電気的に接続されている金属電極である。n電極23は、n型半導体層17の上部17Bを囲繞するように環状に形成されている。
【0019】
絶縁層25は、p型半導体層21上に形成されている絶縁体からなる層である。絶縁層25は、例えばSiO2等のp型半導体層21を形成する材料よりも低い屈折率を有する物質によって形成されている。絶縁層25は、p型半導体層21上において環状に形成されており、中央部分にp型半導体層21を露出する開口部(図示せず)を有している。
【0020】
p電極27は、絶縁層25上に形成された金属電極である。p電極27は、絶縁層25の上記開口部から露出したp型半導体層21の上面に、ITO又はIZOなどの金属酸化膜からなる透明電極(図示せず)介して電気的に接続されている。
【0021】
第2の多層膜反射鏡29は、Al2O3からなる低屈折率誘電体膜と、Ta2O5からなり低屈折率誘電体膜よりも屈折率が高い高屈折率誘電体膜とが交互に積層された誘電体多層膜反射鏡である。言い換えれば、第2の多層膜反射鏡29は、誘電体材料からなる分布フラッグ反射器(DBR:Distributed Bragg Reflector)である。
【0022】
図2は、面発光レーザ10の上面図である。上述したように、面発光レーザ10は、矩形の上面形状を有する基板11上に形成されたn型半導体層17、上面形状が円形の活性層19及びp型半導体層21を含む半導体構造層15を有している(
図1参照)。p型半導体層21上には、絶縁層25及びp電極27が形成されている。p電極27上には、第2の多層膜反射鏡29が形成されている。
【0023】
絶縁層25は、上述した絶縁層25のp型半導体層21を露出する円形の開口部である開口部25Hを有している。
図2に示すように、開口部25Hは、面発光レーザ10の上方からみて絶縁層25の中央部に形成されており、面発光レーザ10の上方からみて第2の多層膜反射鏡29に覆われている。言い換えれば、開口部25Hは、p型半導体層21の上面において第2の多層膜反射鏡29に覆われている。さらに言い換えれば、開口部25Hは、絶縁層25の多層膜反射鏡29の下面と対向する領域に形成されている。
【0024】
p電極27は、面発光レーザ10の上方からみて絶縁層25の中央部に形成されており、開口部25Hを囲む開口部27Hを有している。すなわち、開口部27Hは、開口部25Hよりも大きい開口である。例えば、開口部27Hの形状は、開口部25Hの形状と同心円の円形形状である。
【0025】
図2に破線で示すように、p型半導体層21の上面、すなわち半導体構造層15の上面には、円環状の溝15Gが形成されている。溝15Gは、開口部25H及び開口部27Hの外側の領域に形成されている。すなわち、溝15Gは、半導体構造層15の面内方向に対して垂直な方向から見て環状に設けられている溝である。
【0026】
本実施例においては、溝15Gは、p型半導体層21の上面において第2の多層膜反射鏡29によって覆われるように形成されている。すなわち、本実施例においては、溝15Gは、第2の多層膜反射鏡29の下面と対向する位置に形成されている。
【0027】
図3は、面発光レーザ10の
図2の3-3線に沿った断面図である。上述のように、面発光レーザ10は、GaN基板である基板11を有し、基板11上に第1の多層膜反射鏡13が形成されている。なお、基板11の下面には、ARコートが施されていてもよい。
【0028】
第1の多層膜反射鏡13上には、半導体構造層15が形成されている。半導体構造層15は、n型半導体層17、活性層19及びp型半導体層21がこの順に形成されてなる積層体である。
【0029】
半導体構造層15に形成されている溝15Gは、p型半導体層21の上面の中央部において突出している突出部21Pを囲むように形成されており、p型半導体層21の上面から活性層19を貫通してn型半導体層17に至っている。
【0030】
このように、実施例1の面発光レーザ10においては、溝15Gが活性層19を貫通するように形成されている。言い換えれば、溝15Gによって活性層19に隙間が形成されている。
【0031】
絶縁層25は、p型半導体層21の上面及び溝15Gの内面を覆うように形成されている。絶縁層25は、上述のようにp型半導体層21よりも低い屈折率を有している材料からなっている。絶縁層25は、突出部21Pを露出せしめる開口部25Hを有している。例えば、
図2に示すように開口部25Hは円形である。例えば、開口部25Hと突出部21Pとは同様の形状を有しており、開口部25Hの内側面と突出部21Pの外側面は接している。
【0032】
透光電極層31は、絶縁層25及び絶縁層25の開口部25Hから露出している突出部21Pを覆うように形成された透光性を有する導電体からなる層である。すなわち、透光電極層31は、p型半導体層21の上面の開口部25Hによって露出している領域において、p型半導体層21と電気的に接触している。透光電極層31は、例えば、ITOまたはIZO等の活性層19からの出射光に対して透光性を有する金属酸化物によって形成されている。
【0033】
p電極27は、上述したように金属電極であり、透光電極層31を覆うように形成されている。すなわち、p電極27は、透光電極層31と電気的に接触している。従って、p電極27は、p型半導体層21の上面の開口部25Hによって露出している領域において、透光電極層31を介してp型半導体層21と電気的に接触または接続している。p電極27は、中央部において、透光電極層31を露出する開口部27Hを有する。開口部27Hは、開口部25Hよりも幅が大きい開口である。
【0034】
第2の多層膜反射鏡29は、開口部27H及び溝15Gを覆うように形成されている。第2の多層膜反射鏡29は、開口部27Hによって形成される空間を埋めて、透光電極層31に接するように形成されている。また、第2の多層膜反射鏡29は、溝15Gによって形成される空間を埋めるように形成されている。
【0035】
面発光レーザ10において、第1の多層膜反射鏡13は、第2の多層膜反射鏡29よりもわずかに低い反射率を有する。従って、第1の多層膜反射鏡13と第2の多層膜反射鏡29との間で共振した光は、その一部が第1の多層膜反射鏡13及び基板11を透過し、外部に取り出される。
【0036】
上述のように、実施例1の面発光レーザ10においては、溝15Gが活性層19を貫通するように形成されている。言い換えれば、溝15Gによって活性層19に隙間が形成されている。この溝15Gは、半導体構造層15が形成された後に形成される。その後、絶縁層25が、透光電極層31、p電極27及び第2の多層膜反射鏡29が形成される前に形成される。
【0037】
従って、半導体構造層15が形成された後に、活性層19に至る溝15Gが形成されることで、活性層19の面内に沿った方向において空間または隙間が形成される。この隙間によって、活性層19の形成時に活性層19の層内方向または半導体構造層15の層面方向において発生した歪みが緩和される。
【0038】
具体的に言えば、活性層19はその形成時に量子井戸構造を形成するInGaNとGaNの格子定数の差によって結晶構造が歪んで圧電分極が生じて、ピエゾ電界が生ずる。このピエゾ電界の発生により、発光層に注入される電子と正孔との再結合確率が低下し、これが内部量子効率が低くなる一因となる。
【0039】
面発光レーザ10においては、半導体構造層15に活性層19に至る溝15Gが形成される。この溝による間隙により、活性層19の成長時において活性層19の層内方向に生じた歪みが緩和され、活性層19における内部量子効率が向上すると考えられる。
【0040】
ここで、面発光レーザ10の動作について説明する。面発光レーザ10において、n電極23及びp電極27との間に電圧が印加されると、図中太線一点鎖線に示す様に、半導体構造層15内に電流が流れ、活性層19から光が放出される。活性層19から放出された光は、第1の多層膜反射鏡13と第2の多層膜反射鏡29との間において反射を繰り返し、共振状態に至る(レーザ発振する)。
【0041】
面発光レーザ10においては、p型半導体層21には、開口部25Hによって露出している部分のみから電流が注入される。また、p型半導体層21は非常に薄いため、p型半導体層21内では面内方向、すなわち半導体構造層15の面内に沿った方向には電流は拡散しない。従って、面発光レーザ10においては、活性層19のうち、開口部25Hの直下の領域にのみ電流が供給されて、当該領域からのみ光が放出される。すなわち、面発光レーザ10において、開口部25Hが活性層19における電流の供給範囲を制限する電流狭窄構造となっている。
【0042】
上述のように、本実施例においては、第1の多層膜反射鏡13は、第2の多層膜反射鏡29よりもわずかに低い反射率を有する。従って、第1の多層膜反射鏡13と第2の多層膜反射鏡29との間で共振した光は、その一部が第1の多層膜反射鏡13及び基板11を透過し、外部に取り出される。このようにして、面発光レーザ10は、基板11の下面から、基板11の下面及び半導体構造層15の各層の面内方向に対して垂直な方向に光を出射する。
【0043】
なお、半導体構造層15のp型半導体層21の突出部21P及び絶縁層25の開口部25Hは、活性層19における発光領域の中心である発光中心を画定し、共振器OCの中心軸(発光中心軸)AXを画定する。共振器OCの中心軸AXは、p型半導体層21の突出部21Pの中心を通り、半導体構造層15の面内方向に対して垂直な方向に沿って延びる。
【0044】
なお、活性層19の発光領域とは、例えば、活性層19内における所定の強度以上の光が放出される所定の幅を有する領域であり、その中心が発光中心である。また、例えば、活性層19の発光領域とは、活性層19内において所定の密度以上の電流が注入される領域であり、その中心が発光中心である。また、当該発光中心を通る基板11の上面または半導体構造層15の各層の面内方向に対して垂直な直線が中心軸AXである。発光中心軸AXは、第1の多層膜反射鏡13と第2の多層膜反射鏡29とによって構成される共振器OCの共振器長方向に沿って延びる直線である。また、中心軸AXは、面発光レーザ10から出射されるレーザ光の光軸に対応する。
【0045】
ここで、面発光レーザ10における第1の多層膜反射鏡13、半導体構造層15及び第2の多層膜反射鏡29各層の例示的な構成及び溝15Gの例示的な寸法について説明する。本実施例においては、第1の多層膜反射鏡13は、基板11の上面に形成された1μmのGaN下地層、及び42ペアのn-GaN層及びAlInN層からなる。
【0046】
n型半導体層17は、1580nmの層厚のn-GaN層である。活性層19は、4nmのGaInN層及び5nmのGaN層が4ペア積層された多重量子井戸構造の活性層からなる。活性層19上には、MgドープされたAlGaNの電子障壁層が形成され、その上に50nmのp-GaN層からなるp型半導体層21が形成されている。第2の多層膜反射鏡29は、Nb2O5及びSiO2を10.5ペア積層したものである。この場合の共振波長は、440nmであった。
【0047】
半導体構造層15に形成される溝部15Gは、8μmの外径を有し、深さが120nm、幅2μmである。なお、半導体構造層15上に形成される透光電極層31は、20nmのITOからなる層であり、透光電極層31及びp電極27の上に40nmのNbO5のスペーサー層を挟んで第2の多層膜反射鏡29が形成されている。
【0048】
また、基板11の裏面は、研磨面となっており、当該研磨面にNb2O5及びSiO2の二層のARコートが形成されている。
【0049】
また、p型半導体層21は、突出部21Pにおいて50nmの層厚を有し、それ以外の領域において30nmの層厚を有することとしてもよい。すなわち、p型半導体層21は、突出部21Pとそれ以外の部分で層厚が異なっていてもよい。また、絶縁層25の上面は、p型半導体層21の突出部21Pの上面と同一の高さ位置に配置されるように構成されている。なお、これらは一例に過ぎない。
【0050】
以下、面発光レーザ10内部の光学的な特性について説明する。上述のように、面発光レーザ10において、絶縁層25は、p型半導体層21よりも低い屈折率を有する。また、第1の多層膜反射鏡13と第2の多層膜反射鏡29との間における他の層の層厚は、面内のいずれの箇所においても同じ層内であれば同一である。
【0051】
従って、面発光レーザ10の第1の多層膜反射鏡13と第2の多層膜反射鏡29との間で形成される共振器OC内における等価的な屈折率(第1の多層膜反射鏡13と第2の多層膜反射鏡29との間の光学的距離であり、共振波長に対応する)は、p型半導体層21と絶縁層25との屈折率の差によって、上面形状が開口部25Hによって画定される円柱状の中央領域CAとその周りの筒状の周辺領域PAとで異なる。
【0052】
具体的には、第1の多層膜反射鏡13と第2の多層膜反射鏡29との間において、周辺領域PAの等価屈折率は中央領域の等価屈折率よりも低い、すなわち、中央領域CAにおける等価的な共振波長は、周辺領域PA等価的な共振波長よりも小さい。なお、上述のように、活性層19において光が放出されるのは、開口部25Hの直下の領域である。すなわち、活性層19において光が放出される発光領域は、活性層19のうち中央領域CAと重なる部分、言い換えれば上面視において絶縁層25の開口部25H内となる領域である。
【0053】
このように、面発光レーザ10においては、活性層19の発光領域を含む中央領域CAと、中央領域CAを囲繞しかつ中央領域CAよりも屈折率が低い周辺領域PAとが形成されている。これによって、中央領域CA内の定在波が周辺領域PAに発散(放射)することによる光損失が抑制される。すなわち、中央領域CAに多くの光が留まり、またその状態でレーザ光LBが外部に取り出される。従って、多くの光が共振器OCの発光中心軸AXの周辺の中央領域CAに集中し、高出力かつ高密度なレーザ光を生成及び出射することができる。
【0054】
上述のように、本実施例の面発光レーザ10では、半導体構造層15にp型半導体層21の上面から活性層19に至る溝15Gが形成されている。この溝15Gによって、活性層19において、活性層19の層内方向に生じた歪みが緩和され、活性層19における内部量子効率が改善し、発光効率を向上が実現可能となる。
[製造方法]
以下に、面発光レーザ10の製造方法の一例について説明する。まず、基板11として、c面n-GaN基板を用意し、当該基板上に、有機金属気相成長法(MOVPE)により、下地層としてn-GaN(層厚1μm)層を形成する。その後、当該下地層上にn-GaN/AlInNの層を42ペア成膜し、第1の多層膜反射鏡13を形成する。
【0055】
次に、第1の多層膜反射鏡13上に、Siドープn-GaN(層厚1580nm)を形成してn型半導体層17を形成し、その上に、GaInN(層厚4nm)及びGaN(層厚5nm)からなる層を4ペア積層することで、活性層19を形成する。
【0056】
次に、活性層19上に、MgドープAlGaNからなる電子障壁層を形成し(図示せず)、当該電子障壁層上にp-GaN層(層厚50nm)を成膜してp型半導体層21を形成する。
【0057】
次に、p型半導体層21、活性層19及びn型半導体層17の周囲の部分をエッチングして、当該周囲の部分においてn型半導体層17の上面17Sが露出するようなメサ形状を形成する。言い換えれば、この工程で、
図1のn型半導体層17、活性層19及びp型半導体層21からなる円柱上の部分を有する半導体構造層15が完成する。
【0058】
次に、p型半導体層21の上面から活性層19を貫通する溝15Gをエッチングで形成する。その後、半導体構造層15上に、SiO2を成膜して、その一部を除去して開口部25Hを形成することで絶縁層25を形成する。
【0059】
次に、絶縁層25上にITOを20nm成膜して透光電極層31を形成し、透光電極層31上及びn型半導体層17の上面17SにそれぞれAuを成膜してp電極27及びn電極23を形成する。
【0060】
次に、p電極27及び透光電極層31上にNb2O5を40nm、スペーサー層(図示せず)として成膜し、当該スペーサー層上に、1ペアがNb2O5/SiO2からなる層を10.5ペア成膜して、第2の多層膜反射鏡29を形成する。
【0061】
次に、基板11の裏面を研磨し、当該研磨面に、Nb2O5/SiO2からなるARコートを形成することで、面発光レーザ10が完成する。
以下、本発明の実施例2である面発光レーザ40について説明する。面発光レーザ40は、半導体構造層15の溝15Gが、上面視においては第2の多層膜反射鏡29の外側に形成されている点において、面発光レーザ10とは異なる。
p型半導体層21上に絶縁層25を介して形成されたp電極27の上面には、溝15Gの形状が引き継がれて形成された溝構造27Gが形成されている。すなわち、溝構造27Gは、溝15G上に溝15Gとほぼ同一の形で形成されている。