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特開2025-41183繊維強化複合材の疲労強度の特定装置、及び、繊維強化複合材の疲労強度の特定方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025041183
(43)【公開日】2025-03-26
(54)【発明の名称】繊維強化複合材の疲労強度の特定装置、及び、繊維強化複合材の疲労強度の特定方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 3/34 20060101AFI20250318BHJP
【FI】
G01N3/34 A
G01N3/34 M
G01N3/34 N
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023148323
(22)【出願日】2023-09-13
(71)【出願人】
【識別番号】000003609
【氏名又は名称】株式会社豊田中央研究所
(71)【出願人】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001047
【氏名又は名称】弁理士法人セントクレスト国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】赤井 淳嗣
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 康元
(72)【発明者】
【氏名】濱田 幸宏
【テーマコード(参考)】
2G061
【Fターム(参考)】
2G061AA02
2G061AB06
2G061BA15
2G061CA10
2G061CA15
2G061EA01
2G061EA10
2G061EC02
(57)【要約】      (修正有)
【課題】繊維強化複合材の疲労強度を迅速かつ精度高く測定することを可能とする、繊維強化複合材の疲労強度の特定装置を提供すること。
【解決手段】負荷繰り返し数が所定の回数に達するごとに応力振幅が順次変化するように、測定対象物である繊維強化複合材に対して所定の周波数で繰り返し荷重を付与するための荷重付与手段11と;所定の期間ごとに前記測定対象物の温度変化を測定するための温度測定手段12と;前記測定対象物の温度変化のデータから前記測定対象物の熱弾性温度振幅と平均温度とを前記期間ごとに算出する第一の算出手段と;所定の方法で前記測定対象物の無次元化熱弾性温度振幅を前記期間ごとに算出する第二の算出手段と;前記期間ごとの前記無次元化熱弾性温度振幅を利用して所定の方法にて前記繊維強化複合材の疲労強度を特定する疲労強度特定手段と;を備える、繊維強化複合材の疲労強度の特定装置。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
負荷繰り返し数が所定の回数に達するごとに応力振幅が順次変化するように、測定対象物である繊維強化複合材に対して所定の周波数で繰り返し荷重を付与するための荷重付与手段と、
前記負荷繰り返し数が所定の回数に達するまでの前記応力振幅が同じ大きさとなっている期間ごとに前記測定対象物の温度変化を測定するための温度測定手段と、
前記測定対象物の温度変化のデータから、前記測定対象物の熱弾性温度振幅と、前記測定対象物の平均温度とを前記期間ごとに算出する第一の算出手段と、
前記期間ごとに前記熱弾性温度振幅を前記平均温度で無次元化して、前記測定対象物の無次元化熱弾性温度振幅を前記期間ごとに算出する第二の算出手段と、
前記期間ごとの前記無次元化熱弾性温度振幅と、前記期間ごとの前記応力振幅との関係の変化に基づいて、前記測定対象物である前記繊維強化複合材の疲労強度を特定する疲労強度特定手段と、
を備えることを特徴とする繊維強化複合材の疲労強度の特定装置。
【請求項2】
前記繊維強化複合材が繊維強化プラスチックであることを特徴とする請求項1に記載の繊維強化複合材の疲労強度特定装置。
【請求項3】
負荷繰り返し数が所定の回数に達するごとに応力振幅が順次変化するように、測定対象物である繊維強化複合材に対して所定の周波数で繰り返し荷重を付与する工程と、
前記負荷繰り返し数が所定の回数に達するまでの前記応力振幅が同じ大きさとなっている期間ごとに前記測定対象物の温度変化を測定する工程と、
前記測定対象物の温度変化のデータから、前記測定対象物の熱弾性温度振幅と、前記測定対象物の平均温度とを前記期間ごとに算出する工程と、
前記期間ごとに前記熱弾性温度振幅を前記平均温度で無次元化して、前記測定対象物の前記期間ごとの無次元化熱弾性温度振幅を算出する工程と、
前記期間ごとの前記無次元化熱弾性温度振幅と、前記期間ごとの前記応力振幅との関係の変化に基づいて、前記測定対象物である前記繊維強化複合材の疲労強度を特定する工程と、
を含むことを特徴とする繊維強化複合材の疲労強度の特定方法。
【請求項4】
前記繊維強化複合材が繊維強化プラスチックであることを特徴とする請求項3に記載の繊維強化複合材の疲労強度の特定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、繊維強化複合材の疲労強度の特定装置、並びに、繊維強化複合材の疲労強度の特定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、各種材料について、使用時の強度の信頼性の検討等のために、疲労強度を特定するための方法が種々研究されてきた。例えば、特開2021-131357号公報(特許文献1)には、複合材料からなる試料に、外的負荷を反復して加えながら行う疲労強度評価方法であって、前記外的負荷を加えることで前記試料に発生する温度振幅を、赤外線サーモグラフィ装置によって測定し、第一温度振幅分布を作成する工程(a)と;前記工程(a)の後、前記外的負荷を加えることで前記試料に発生する温度振幅を、前記赤外線サーモグラフィ装置によって測定し、第二温度振幅分布を作成する工程(b)と;前記第一温度振幅分布と前記第二温度振幅分布との差をとり、温度振幅変動分布を作成する工程(c)と;前記温度振幅変動分布から、損傷を判定するための損傷パラメータを算出して、前記試料の疲労強度を評価する工程(d);とを含む複合材料の疲労強度評価方法が開示されている。ただし、かかる特許文献1においては「本発明の疲労強度評価方法は、所定回数の外的負荷を加えた時点での損傷率から、当該複合材料に応じたワイブル分布から確率統計的に疲労強度を評価する。」と記載されている。
【0003】
また、特開2021-076402号公報(特許文献2)には、順次増加する引張と圧縮の繰り返し荷重を所定の周波数で測定対象物に加え、前記測定対象物に貼り付けた熱流センサで熱流束を測定し、前記熱流センサにより測定された熱流束を周波数解析して、前記所定の周波数の第2高調波の周波数成分から散逸エネルギーを計測し、前記散逸エネルギーの計測結果から前記測定対象物の疲労限度応力を特定する疲労限度応力特定方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2021-131357号公報
【特許文献2】特開2021-076402号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載の複合材料の疲労強度評価方法では、その記載からも明らかなように、一般に言われている「疲労強度」とは異なる特性を測定している。なお、材料の分野において一般に言われている「疲労強度」とは、部品の設計に反映される指標である疲労限度(その応力振幅未満では疲労破壊しない応力振幅である疲労限度)に相当するものであって(なお、アルミ合金や繊維強化複合材等のように明確な疲労限度が存在しないとされているような材料の分野においては、例えば、10回の負荷繰り返し数でも疲労破壊しない応力のことを10回疲労強度と呼んで、これを部品の設計に反映させる指標とする場合もある)、特許文献1に規定されているものとは異なる。このように、特許文献1に記載されている方法では、一般的な疲労限度に相当する「疲労強度」を求めることができない。
【0006】
以下、本明細書においては、繊維強化複合材の「疲労強度」という文言は、一般的な疲労限度(その応力振幅未満では疲労破壊しない応力振幅)に相当する文言であって、繊維強化複合材において疲労により不可逆変化が起こり始める応力振幅を意味するものとして統一して利用する。
【0007】
また、上記特許文献に記載されている方法以外の方法として、従来、一般に、金属材料などの疲労限度や疲労強度を求める際には、試験片が破断するまで応力振幅が一定となる繰り返し負荷を与え、破断するまでの繰り返し回数を求めるといった作業を行っていた。このような作業は、試験片が破断しなくなる応力振幅が得られるまで繰り返す必要(多数のデータを取る必要)があることから、通常は、多数(材料の種類によっては数十個)の試験片を利用して膨大な時間(場合によっては数か月)を費やす必要があった(例えば、「酒井達雄、菅田淳、“日本材料学会標準:JSMS-SD-6-04金属材料疲労信頼性評価標準[S-N曲線回帰法]改訂版の発行と解析例について”、材料、vol.54、2005年発行、P.37-P.43」等、参照)。そのため、前述のような従来の作業を行って疲労強度を測定する場合には、疲労強度を迅速に測定することができなかった。これに対して、特許文献2に記載されている測定方法においては、散逸エネルギーを計測して測定対象物の疲労限度応力を測定するため、試験片数が多いといった問題や、膨大な時間が必要であるといった問題は改良できる。しかしながら、特許文献2に記載されている測定方法は、散逸エネルギー利用する必要がある点で、繊維強化複合材の疲労強度の測定方法に応用することは困難な方法であった。
【0008】
本発明は、前記従来技術の有する課題に鑑みてなされたものであり、繊維強化複合材の疲労強度を迅速かつ精度高く測定することを可能とする、繊維強化複合材の疲労強度の特定装置及び繊維強化複合材の疲労強度の特定方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、前記目的を達成すべく鋭意研究を重ねた結果、負荷繰り返し数が所定の回数に達するごとに応力振幅が順次(段階的に)変化するように、測定対象物である繊維強化複合材に対して所定の周波数で繰り返し荷重を付与し、前記負荷繰り返し数が所定の回数に達するまでの前記応力振幅が同じ大きさとなっている期間ごとに前記測定対象物の温度変化を測定し、前記測定により得られた前記期間ごとの測定対象物の温度変化のデータから、前記測定対象物の熱弾性温度振幅と、前記測定対象物の平均温度とを前記期間ごとに算出し、その算出結果により前記期間ごとに求められる前記熱弾性温度振幅を前記平均温度で無次元化して、前記測定対象物の前記期間ごとの無次元化熱弾性温度振幅を算出し、このようにして求められた前記期間ごとの前記無次元化熱弾性温度振幅と、前記期間ごとの前記応力振幅との関係の変化に基づいて、前記測定対象物である前記繊維強化複合材の疲労強度を特定することで、繊維強化複合材の疲労強度(繊維強化複合材において疲労により不可逆変化が起こり始める応力振幅)を迅速かつ精度高く測定することが可能となることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
すなわち、本発明は以下の態様を提供する。
【0011】
[1]負荷繰り返し数が所定の回数に達するごとに応力振幅が順次変化するように、測定対象物である繊維強化複合材に対して所定の周波数で繰り返し荷重を付与するための荷重付与手段と、
前記負荷繰り返し数が所定の回数に達するまでの前記応力振幅が同じ大きさとなっている期間ごとに前記測定対象物の温度変化を測定するための温度測定手段と、
前記測定対象物の温度変化のデータから、前記測定対象物の熱弾性温度振幅と、前記測定対象物の平均温度とを前記期間ごとに算出する第一の算出手段と、
前記期間ごとに前記熱弾性温度振幅を前記平均温度で無次元化して、前記測定対象物の無次元化熱弾性温度振幅を前記期間ごとに算出する第二の算出手段と、
前記期間ごとの前記無次元化熱弾性温度振幅と、前記期間ごとの前記応力振幅との関係の変化に基づいて、前記測定対象物である前記繊維強化複合材の疲労強度を特定する疲労強度特定手段と、
を備える、繊維強化複合材の疲労強度の特定装置。
【0012】
[2]前記繊維強化複合材が繊維強化プラスチックである、[1]に記載の繊維強化複合材の疲労強度の特定装置。
【0013】
[3]負荷繰り返し数が所定の回数に達するごとに応力振幅が順次変化するように、測定対象物である繊維強化複合材に対して所定の周波数で繰り返し荷重を付与する工程と、
前記負荷繰り返し数が所定の回数に達するまでの前記応力振幅が同じ大きさとなっている期間ごとに前記測定対象物の温度変化を測定する工程と、
前記測定対象物の温度変化のデータから、前記測定対象物の熱弾性温度振幅と、前記測定対象物の平均温度とを前記期間ごとに算出する工程と、
前記期間ごとに前記熱弾性温度振幅を前記平均温度で無次元化して、前記測定対象物の前記期間ごとの無次元化熱弾性温度振幅を算出する工程と、
前記期間ごとの前記無次元化熱弾性温度振幅と、前記期間ごとの前記応力振幅との関係の変化に基づいて、前記測定対象物である前記繊維強化複合材の疲労強度を特定する工程と、
を含むことを特徴とする繊維強化複合材の疲労強度の特定方法。
【0014】
[4]前記繊維強化複合材が繊維強化プラスチックである、[3]に記載の繊維強化複合材の疲労強度の特定方法。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、繊維強化複合材の疲労強度を迅速かつ精度高く測定することを可能とする、繊維強化複合材の疲労強度の特定装置及び繊維強化複合材の疲労強度の特定方法を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本発明の疲労強度特定装置に利用することが可能な計測部の構成の好適な一例(一実施形態)を模式的に示す概略図である。
図2】測定対処物の温度と、負荷の繰り返し数との関係を模式的に示すグラフである。
図3】時系列の温度変動データ(図2に示すようなデータ)を周波数解析することで求められる、周波数と温度振幅との関係を模式的に示すグラフである。
図4】ステップ荷重疲労試験における負荷繰り返し数と応力振幅と温度測定の測定期間の関係を模式的に示すグラフである。
図5図4に示す温度測定の測定期間で測定された温度変化のデータから無次元化熱弾性温度振幅を求めた場合に関して、各測定時間における応力振幅と各測定時間における無次元化熱弾性温度振幅との関係の一形態を模式的に示すグラフである。
図6】疲労強度の特定を行う場合に採用することが可能な手順(疲労強度の特定処理)の好適な一実施形態を模式的に示すフローチャートである。
図7】ステップ荷重疲労試験での試験回数と、応力振幅の関係を模式的に示すグラフである。
図8図8(A)はステップ荷重疲労試験における各試験回の応力振幅と負荷繰り返し数と温度測定の測定期間との関係を模式的に示すグラフであり、かつ、図8(B)は図8(A)のステップ荷重疲労試験の各試験回(各測定回:各温度測定の測定期間)ごとに求められる無次元化熱弾性温度振幅と、ステップ荷重疲労試験の各試験回(各測定回)において採用されている応力振幅との関係を模式的に示すグラフである。
図9】ステップ荷重疲労試験の各試験回(測定回)ごとの無次元化熱弾性温度振幅と、各試験回ごとの応力振幅の関係を模式的に示すグラフに、低応力振幅側のグループと高応力側のグループとを分ける境界線の一例を記載したグラフである。
図10】ステップ荷重疲労試験の各試験回(測定回)ごとの無次元化熱弾性温度振幅と、各試験回ごとの応力振幅の関係を模式的に示すグラフに、低応力振幅側のグループと高応力側のグループとを分ける境界線の一例(図9で記載したものとは異なる位置の境界の例)を記載したグラフである。
図11】ステップ荷重疲労試験の各試験回(測定回)ごとの無次元化熱弾性温度振幅と、各試験回ごとの応力振幅の関係を模式的に示すグラフに、低応力振幅側のグループと高応力側のグループとを分ける境界線として採用し得るすべての境界線を記載したグラフである。
図12】ステップ荷重疲労試験の各試験回(測定回)ごとの無次元化熱弾性温度振幅と、各試験回ごとの応力振幅の関係を模式的に示すグラフにおいて、低応力振幅側のグループと高応力側のグループとを分ける境界線を基準として、各グループ内の無次元化熱弾性温度振幅の近似関数(一次関数)を模式的に示すグラフである。
図13図11に示す境界(境界線)の位置の応力振幅と、各境界ごとに求めた無次元化熱弾性温度振幅の実測値と近似値との残差の2乗の総和(残差二乗和)SSRとの関係を模式的に示すグラフである。
図14】実施例1~2で用いた測定対象物(CFRP)の試験片の表面を模式的に示す概略図である。
図15】実施例1~2で実施したステップ荷重疲労試験における各試験回の応力振幅と、各試験回の無次元化熱弾性温度振幅の関係を示すグラフである。
図16図15に示す結果に基いて求められる、各境界(変化点の候補)の位置の応力振幅と、無次元化熱弾性温度振幅の実測値と近似値との残差の2乗の総和(残差二乗和)SSRの数値との関係を示すグラフである。
図17】参考例1で求められた、応力振幅と破断までの繰り返し数の関係(S-N曲線)を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。なお、以下の説明及び図面中、同一又は相当する要素には同一の符号を付し、重複する説明は省略する。また、以下において、便宜上、前述の本発明の「繊維強化複合材の疲労強度の特定装置」を場合により単に「疲労強度特定装置」と称し、前述の本発明の「繊維強化複合材の疲労強度の特定方法」を場合により単に「疲労強度の特定方法」と称する。
【0018】
<疲労強度特定装置及び疲労強度の特定方法の好適な一実施形態について>
以下、図1を参照しながら本発明の繊維強化複合材の疲労強度の特定装置(疲労強度特定装置)の好適な一実施形態について説明するが、本発明の繊維強化複合材の疲労強度の特定装置は、以下に示す実施形態に限定されるものではない。また、本発明の繊維強化複合材の疲労強度の特定装置は、本発明の繊維強化複合材の疲労強度の特定方法を実施する際に好適に利用可能なものである。そのため、以下において、かかる装置を用いて疲労強度の特定を行う場合に好適に採用することが可能な方法を説明することにより、本発明の繊維強化複合材の疲労強度の特定方法の好適な一実施形態も併せて説明する。
【0019】
図1は、前記本発明の繊維強化複合材の疲労強度の特定装置に利用することが可能な計測部の構成の好適な一例(一実施形態)を模式的に示す概略図である。図1に示す計測部1は、繊維強化複合材である測定対象物の試験片10と、負荷繰り返し数が所定の回数に達するごとに応力振幅が順次変化(段階的に増加)するように制御しながら測定対象物の試験片10に対して繰り返し荷重を所定の周波数で付与するための荷重付与手段11と、前記負荷繰り返し数が所定の回数に達するまでの前記応力振幅が同じ大きさとなっている期間ごとに、測定対象物の試験片10の温度変化を測定するための温度測定手段12とを備えるものである。なお、図1において、上下の双方向を示す矢印は、荷重付与手段11により付与される繰り返し荷重Fを概念的に描いたものである。また、図1に示す計測部1においては、荷重付与手段11及び温度測定手段12はそれぞれ図示を省略した外部のコンピュータ(所望の演算を可能とするために必要な、CPU、ROM、RAM等の公知の周辺装置を適宜組み合わせたもの)に接続されており、その運転の制御等を行っている。
【0020】
このような計測部1において、荷重付与手段11は、接続した外部のコンピュータにより、負荷繰り返し数が所定の回数に達するごとに応力振幅が順次変化(段階的に増加)するように制御しながら、試験片10に繰り返し荷重を所定の周波数で付与することが可能なものとして構成させている。すなわち、外部のコンピュータによる運転の制御により、荷重付与手段11は、負荷繰り返し数が所定の回数に達するごとに応力振幅が順次変化(段階的に増加)するように、測定対象物の試験片10に繰り返し荷重を所定の周波数で付与可能なものとなっている。
【0021】
また、計測部1において、温度測定手段12は、接続した外部のコンピュータにより、前記負荷繰り返し数が所定の回数に達するまでの前記応力振幅が同じ大きさとなっている期間ごとに、温度変化の情報(データ)を測定するよう、温度測定手段12の運転を制御し、測定のタイミング等を適宜制御している。このように、外部のコンピュータによる運転の制御により、温度測定手段12は、前記負荷繰り返し数が所定の回数に達するまでの前記応力振幅が同じ大きさとなっている期間ごとに、測定対象物の試験片10の温度変化を測定することが可能なものとなっている。なお、温度測定手段12により前記期間ごとに測定する「前記測定対象物の温度変化」のデータとしては、各期間ごとに全時間に亘って(その期間の全体に亘って)、連続的に温度変化の測定を行って得られたデータを利用してもよいが、例えば、前記期間ごとに、少なくとも、その期間内の特定のタイミングにおいて特定の時間、測定対象物の温度変化の測定を行って、得られたデータ(前記特定の時間内の時系列の温度変化のデータ)を、その期間の測定対象物の温度変化を代表するデータとして利用することで、各期間ごとに温度変化のデータ(代表値)を入手し、これを前記期間ごとに測定した「前記測定対象物の温度変化」のデータとして利用してもよい。
【0022】
また、本実施形態の計測部1において、温度測定手段12に接続している、図示を省略した外部のコンピュータは、温度測定手段12により測定された温度変化の情報(温度情報に関する情報(データ))が入力された場合に、その温度変化のデータから、前記期間ごとに、前記測定対象物の熱弾性温度振幅と、前記測定対象物の平均温度とを算出(演算)することが可能となるように構成された第一の算出手段(コンピュータ内の演算部)と;第一の算出手段により算出された前記期間ごとの前記熱弾性温度振幅及び前記平均温度に基づいて、前記熱弾性温度振幅を前記平均温度で無次元化した前記測定対象物の無次元化熱弾性温度振幅を前記期間ごとに算出(演算)する第二の算出手段(コンピュータ内の演算部)と;第二の算出手段により算出された前記測定対象物の無次元化熱弾性温度振幅を利用して、前記期間ごとの前記測定対象物の無次元化熱弾性温度振幅と、前記応力振幅との関係の変化から、測定対象物の疲労強度を特定(演算)する疲労強度特定手段(コンピュータ内の演算部)と;を備える。
【0023】
なお、このような各種の演算に利用するコンピュータは、所望の演算を実行することを可能とするために、必要なCPU、ROM、RAM、各種演算に必要なプログラム(このようなプログラムは、例えば、前記ROMに記録させて利用してもよく、あるいは、別の記録媒体に記録させて利用してもよい)等の公知の周辺装置を適宜組み合わせた構成のものとすればよく、その具体的な構成は特に制限されない。例えば、上述のような演算を実行するためのCPU及びメモリ等からなるハードと、必要な演算を実行させるためにインストールされたコンピュータプログラム(ソフト)とを備えるものを利用してもよい。なお、このようなCPUとしては、例えば、中央処理装置、処理装置、演算装置、プロセッサ、マイクロプロセッサ、マイクロコンピュータ、DSP(Digital Signal Processor)等が挙げられる。
【0024】
測定対象物は繊維強化複合材であればよく、特に制限されるものではないが、繊維強化プラスチックであることが好ましい。このように、測定対象物の試験片10は、繊維強化プラスチックからなるものとすることが好ましい。また、繊維強化複合材に利用する繊維としては、炭素繊維、ガラス繊維、天然繊維、リサイクル繊維等が好適なものとして挙げられる。そのため、前記繊維強化複合材に好適に利用される前記繊維強化プラスチックとしても、炭素繊維強化プラスチック、ガラス繊維強化プラスチック、天然繊維強化プラスチック、リサイクル繊維強化プラスチック等を好適なものとして挙げることができる。また、このような繊維強化プラスチックの中でも、より精度の高い測定が可能となるといった観点からは、炭素繊維強化プラスチックがより好ましい。
【0025】
また、測定対象物の試験片10の形状等は特に制限されるものではなく、荷重付与手段11の種類等に応じて適宜設計できる。また、測定対象物の試験片10は、例えば、温度測定手段12に放射温度計を利用して繰り返し荷重の付与中の温度変化を測定する場合に、その測定対象物の試験片10が既知の放射率となるように、温度を測定する領域を含む表面上の領域に黒体塗料を塗布して利用してもよい。このように、温度測定手段12の種類が放射温度計である場合に、測定対象物の試験片(例えば、前記繊維強化プラスチック)の温度を測定する領域を含む表面上の領域に黒体塗料を塗布した場合には、より効率よく温度測定を行うことが可能となる。
【0026】
さらに、荷重付与手段11は、負荷繰り返し数が所定の回数に達するごとに応力振幅が順次変化するように、測定対象物の試験片10に対して繰り返し荷重を所定の周波数で付与することが可能なものであればよく、特に制限されず、公知の動的疲労試験機(例えば、油圧シリンダーを上下させて繰り返し荷重を負荷する油圧サーボ型疲労試験機等)を適宜利用することができる。なお、繰り返し荷重により発生する応力振幅を段階的に変化(増加)させるためには、負荷繰り返し数が所定の回数に達するごとに、付与する繰り返し荷重を段階的に変化(増加)させればよい。このように、荷重付与手段11を、負荷繰り返し数が所定の回数に達するごとに応力振幅が順次変化するように、測定対象物の試験片10に対して繰り返し荷重を所定の周波数で付与することが可能なものとするためには、負荷繰り返し数が所定の回数に達するごと(例えば1300回(1300サイクル)ごと等)に付与する繰り返し荷重を段階的に変化(増加)するように、荷重付与手段11の運転を制御する必要がある。このような観点から、荷重付与手段11を、前述のように外部のコンピュータ(図示省略)に接続し、そのコンピュータによって負荷繰り返し数が所定の回数に達するごとに応力振幅が順次変化するように運転の制御を行っている。なお、運転の制御の方法は、負荷繰り返し数が所定の回数に達するごとに付与する繰り返し荷重を段階的に変化(増加)させることが可能な方法であればよく、特に制限されるものではない。
【0027】
また、温度測定手段12は特に制限されず、前記負荷繰り返し数が所定の回数に達するまでの前記応力振幅が同じ大きさとなっている期間ごとに前記測定対象物の温度変化を測定することが可能なように構成されたものであればよく、前記測定対象物の温度変化(繰り返し荷重を所定の周波数で付与されている間の温度変化)を求めるために利用することが可能な公知の温度測定用の機器を適宜利用できる。このような温度測定手段12としては、非接触で温度を測定することが可能な装置(例えば、赤外線カメラ(赤外線サーモグラフィカメラ)、放射温度計等の非接触式温度センサ)を好適に利用でき、図1の実施形態では赤外線サーモグラフィカメラが利用されている。なお、温度測定手段12として赤外線サーモグラフィカメラを用いる場合、被写体の温度に応じて被写体から放出される赤外線量を検知して、単位面積毎(例えば、画素毎:ピクセル毎)に温度を計測することが可能となり、測定対象物の試験片10の表面上の任意の測定領域(測定領域は試験片のサイズ、荷重付与手段11の種類、カメラの特性等に応じて適宜設定すればよい)の各ピクセルごとの温度変化を測定することが可能となる。
【0028】
さらに、図1に示す実施形態のように、温度測定手段12として測定対象物の試験片10の温度を赤外線を利用して測定する機器(赤外線サーモグラフィカメラ)を採用する場合等には、赤外線の計測がより精度の高いものとなるように、計測部1を暗室内に配置して利用してもよい。なお、前記期間ごとに前記測定対象物の温度変化を測定するように温度測定手段12の運転を制御する方法は特に制限されず、前述のように、外部のコンピュータ(図示省略)に接続し、そのコンピュータによって、所定のタイミングで測定を行えるように、温度測定手段12の運転を制御する方法を採用してもよい。
【0029】
さらに、図1に示す形態の計測部1は前述のように外部のコンピュータに接続されており、その外部のコンピュータ内の各種演算部を利用して、そこに温度測定手段12で測定された前記期間ごとの測定対象物の試験片10の温度変化のデータを入力することで各種演算を行って、前記期間ごとに無次元化熱弾性温度振幅を求め、その無次元化熱弾性温度振幅と応力振幅との関係の変化に基いて疲労強度を特定する。ここで、それぞれがコンピュータ内の演算部となる第一~第二の算出手段及び疲労損傷度特定手段について説明するのに先立って、無次元化熱弾性温度振幅と応力振幅との関係の変化に基いて疲労強度を特定することが可能となる理由(原理)等について簡単に説明する。
【0030】
先ず、材料に負荷が作用したとき、材料は可逆的な温度変化を示す。このような温度変化が生じる現象は、熱弾性効果として一般に知られている。そして、材料に繰り返し負荷を付与すると、材料は熱弾性効果に起因する温度変動(熱弾性温度変動)を示し、その温度変動は繰り返し負荷と同じ周波数を持つこととなる。ここで、繊維強化複合材のように、繊維に平行な方向(L方向)と繊維に垂直な方向(T方向)で異方性を示す材料の場合、熱弾性温度変動の振幅ΔTは、下記式(1):
【0031】
【数1】
【0032】
(式(1)中、ΔTは熱弾性効果に起因する温度変動の振幅(絶対温度)を示し、ρは密度を示し、Cは測定対象物である繊維強化複合材の比熱を示し、Tは平均絶対温度を示し、Δσは繊維方向(L方向)に作用する応力振幅を示し、Δσは繊維直交方向(T方向)に作用する応力振幅を示し、αは繊維方向(L方向)の線膨張係数を示し、αは繊維直交方向(T方向)の線膨張係数を示す。)
を計算することにより求められることが知られている(例えば、G.Pitarresi, U.Galietti,“A quantitative analysis of the thermoelastic effect in CFRP composite materials”,Strain,Vol.46,2010年,P.446-P.459)。なお、本発明においては、熱弾性効果に起因する温度変動の振幅(熱弾性温度振幅ΔT)は絶対温度を基準として求めたものを利用する。
【0033】
ここで、負荷繰り返し数が所定の回数に達するごとに応力振幅が順次変化するように、繰り返し荷重の付与を所定の周波数で行う場合について、繰り返し荷重の負荷条件下での材料の温度変動を、前記負荷繰り返し数が所定の回数に達するまでの前記応力振幅が同じ大きさとなっている期間中の特定のタイミングにおいて、所定の時間(特定の測定時間:例えば、赤外線カメラで測定を行う場合には所定のフレーム数分の時間)測定して、温度変動データを取得した場合を考える。このように、応力振幅が同じ大きさとなるようにして繰り返し荷重を所定の周波数で付与している期間における熱弾性効果に起因する試験片(測定対象物)の温度変動を求めた場合、その温度変動は、繰り返し荷重の周波数と同じ周波数を持つことが分かる。この点、温度変動と周波数の関係を図2を参照しながら、より詳細に説明する。図2は、測定対象物の温度と、負荷の繰り返し数との関係を模式的に示すグラフの一例である。このようなグラフは、例えば、温度測定手段12としての赤外線カメラを用いた場合、繰り返し荷重の負荷周波数を所定の周波数(例えば10Hz)に設定し、温度測定手段12としての赤外線カメラのフレームレートを所定値(例えば211HZ)に設定し、測定時間を所定のフレーム数(例えば4009フレーム)分に設定して、測定対象物の試験片10の温度変化を測定することにより求めることができる(なお、赤外線カメラによる測定においては、試験片(測定対象物)10の表面に特定の測定領域を設定して、各フレームの画像ごとに、画像内の特定の測定領域の画素毎の温度から、フレーム間の温度変化を時系列に求めてもよい)。また、このような測定に際しては、フレーム数をフレームレートで割った値が測定時間となる(例えば、フレームレート:211HZ、フレーム数:4009フレームとすると、4009/211=19秒間が測定時間となる)。また、かかる測定時間に繰り返し荷重の周波数を乗じて求められる数が負荷の繰り返し数となる(例えば、19秒間の測定を行う場合であって、繰り返し荷重の負荷の周波数が10Hzの場合、1秒間に10回の繰り返し荷重が負荷されることから、19×10=190回(cycle)が温度変化を求める測定時間の負荷繰り返し数の総数となる)。ここにおいて、測定時間(測定期間)の全フレームのデータを、負荷の繰り返し数と対応させて時系列に並べると、応力振幅が同じ大きさとなっている期間中の特定のタイミングにおける所定時間の測定対象物の温度と、負荷の繰り返し数との関係のグラフとして、図2に示すようなグラフを求めることができる。なお、各フレームの温度の画像ごとに、特定の測定領域内の各ピクセルの温度を全て求めた後、全てのピクセルの温度の平均値を求めて、その平均値をそのフレームの測定時刻における測定対象物の温度として採用することが望ましい。そして、そのようなグラフにより、熱弾性効果に起因する温度変動が繰り返し荷重の周波数と同じ周波数を持つことが確認できる。
【0034】
ここで説明したように、熱弾性効果に起因する温度変動が繰り返し荷重の周波数と同じ周波数を持つことから、時系列の温度変動データ(図2に示すようなデータ)を周波数解析(例えばフーリエ変換)することで、周波数と温度振幅との関係を求めることができる。このような周波数と温度振幅との関係の一例を図3に示す。熱弾性効果に起因する温度変動は、基本的に繰り返し負荷と同じ周波数をもつため、その温度変動のデータ(時系列のデータ)を周波数解析して得られる図3に示すようなデータ(グラフ)から、繰り返し荷重の周波数(負荷周波数)と同じ周波数における温度振幅を求めることができ、その温度振幅を、測定対象物の熱弾性温度振幅ΔT(絶対温度:以下、便宜上、場合により「絶対温度」の表記は省略する)として求めることができる。また、時系列温度変動データから、各フレームの画像ごとに求められる測定対象物の温度(時系列の各画像ごとに求められる測定対象物の温度(絶対温度))の総和をフレーム数で割ることで、測定対象物の平均温度(平均表面温度)を求めることができる。このような平均温度(平均表面温度)を求めるための計算式は、下記式(2):
【0035】
【数2】
【0036】
(式(2)中、Tは測定対象物の平均温度(絶対温度)を示し、Nは温度変動を測定したフレーム数(全フレーム数)を示し、Tiは特定のフレームi(ここで、iは自然数であって、フレームの番号(数)を示し、1~Nの数値となる。)での温度(言い換えれば、iフレーム目の温度)を示す。)
となる。
【0037】
ここで、平均絶対温度Tを測定対象物の平均表面温度T(絶対温度)と置き換えて式を変形することで、熱弾性温度振幅を平均温度で無次元化した無次元化熱弾性温度振幅(ΔT/T)の値を求めるための下記式(3):
【0038】
【数3】
【0039】
(式(3)中のρ、C、α、α、Δσ、及び、Δσは式(1)中のそれらと同義であり、ΔTは測定対象物の熱弾性温度振幅(絶対温度)を示し、Tは測定対象物の平均温度(絶対温度)を示す。)
を求めることができる。
【0040】
そのため、負荷繰り返し数が規定の回数(所定の回数)に達するごとに、応力振幅を段階的に変化(増加)するように、繰り返し荷重の大きさを段階的に変化(増加)させる荷重疲労試験(以下、場合により、単に「ステップ荷重疲労試験」と称する)を行い、各応力振幅ごとに(負荷繰り返し数が規定の回数(所定の回数)に達するまでの応力振幅が同じ大きさとなっている期間ごとに:繰り返し荷重の付与開始から負荷繰り返し数が規定の回数(所定の回数)に達するまでの、ステップ荷重疲労試験の各回の試験回ごとに)、それぞれの測定のタイミングにおいて温度変動の測定を行い、その測定データを利用して、上述のような演算を行うことで、応力振幅が同じ大きさとなっている期間ごとに、負荷周波数と同じ周波数成分の温度振幅から熱弾性温度振幅ΔTを求め、かつ、時系列の温度変動の平均値から平均表面温度Tを求めることができる(図2及び図3参照)。
【0041】
そして、それらの値を利用して、負荷繰り返し数が規定の回数(所定の回数)に達するまでの応力振幅が同じ大きさとなっている期間ごとに、無次元化熱弾性温度振幅(ΔT/T)の値をそれぞれ求めることができる。なお、繊維強化プラスティック(FRP)のような繊維強化複合材について、疲労損傷が生じると、その疲労損傷に起因して、繊維と樹脂との間の荷重分担が変化することが知られている(例えば、D.Shiozawa et al.,“Fatigue damage evaluation of short carbon fiber reinforced plastics based on phase information of thermoelastic temperature change”,Sensors,Vol.17,2017年,P.2824(以下、場合により単に「参考文献1」と称する))。そのため、疲労損傷の進行に伴って、繊維強化プラスティック(FRP)のような繊維強化複合材においては、材料内での応力の状態が変化すると考えられる。そして、繊維強化プラスティック(FRP)のような繊維強化複合材において、繊維と樹脂との間の荷重分担が疲労損傷の進行にともなって変化すると、ステップ荷重疲労試験で求められる無次元化熱弾性温度振幅の挙動が変化するものと考えられる。
【0042】
このような観点から、前記繊維強化複合材(より好ましくは繊維強化プラスチック)に対して、図1に示すような装置を利用して荷重Fを負荷した場合、その材料(繊維強化複合材)中の繊維の状態の変化(それに基づく荷重分担の変化)は、材料の無次元化熱弾性温度振幅(熱弾性温度振幅ΔTを平均温度Tで無次元化したものである)の変化として現れることは明らかである。ここで、繰り返し荷重により発生する応力振幅が疲労強度未満の範囲で応力振幅を段階的に増加させる場合、その材料(繊維強化複合材)中の繊維と樹脂との間の荷重分担に変化がないため(例えば、繊維強化複合材が繊維強化プラスチックの場合には、繊維と樹脂間の剥離等の損傷は生じず、繊維と樹脂との間の荷重分担は変化しないことは明らかである)、段階的に変化させた応力振幅と、その応力振幅での無次元化熱弾性温度振幅との関係を求めると、これらの関係は線形に変化するものとなると考えられる。一方、繰り返し荷重を段階的に増加させた場合、無次元化熱弾性温度振幅の挙動は、ある応力振幅を境に変化する。これは、疲労強度の大きさを超えた応力振幅が生じると、その材料(繊維強化複合材)中の繊維の状態が剥離などにより不可逆的に変化し、繊維と樹脂との間の荷重分担が変化することに起因する。そのため、ステップ荷重疲労試験で得られた無次元化熱弾性温度振幅と応力振幅との関係から、その挙動の変化点となる位置での応力振幅の大きさを求めることで、その材料(繊維強化複合材)中の繊維の状態が剥離などにより不可逆的に変化する応力の大きさを求めることができるものと考えられる。
【0043】
このような観点から、本発明においては、無次元化熱弾性温度振幅の挙動の変化点(無次元化熱弾性温度振幅と応力振幅との関係が変化する点)における応力振幅の大きさから疲労強度を特定している。なお、このような無次元化熱弾性温度振幅の挙動の変化点における応力振幅を疲労強度とした場合、実際に、従来の複数の試験片を用いた疲労試験により特定できる疲労強度と、測定値がほぼ同等の値となるため、本発明によれば、疲労強度を高い精度で迅速に特定することができ、材料の信頼度の検討等に十分に貢献し得るものと本発明者らは考えている。このように、本発明者らは、応力振幅を段階的に変化させた場合に、無次元化熱弾性温度振幅と応力振幅との関係が変化する点に着目し、かかる変化点から疲労強度を特定することにより、精度高くかつ迅速に疲労強度を特定することが可能となることを見い出し、本発明を完成せしめている。
【0044】
ここで、このような疲労強度の特定方法について、図面を参照しながら、より具体的に説明する。なお、疲労強度の特定の際には、前述のように、負荷繰り返し数が所定の回数に達するごとに、応力振幅が段階的に増加するように繰り返し荷重の大きさを段階的に変化させながら、測定対象物に対して所定の周波数で繰り返し荷重を付与して疲労強度を求めるステップ荷重疲労試験を行う。このような試験においては、負荷繰り返し数が所定の回数に達するまでは応力振幅が同じ大きさとなるため、応力振幅が同じ大きさとなっている期間ごとに、それぞれ所定のタイミングに、温度変化の測定時間を設定して、各期間ごとに、前記測定対象物の温度変化のデータを測定する(各期間ごとに温度変化を測定する)。このような負荷繰り返し数と、応力振幅と、温度測定のタイミング(測定時間)の関係(グラフ)を模式的に図4に示す。先ず、負荷繰り返し数が所定の回数になるごとに応力振幅の大きさを段階的に増加させた場合、負荷繰り返し数及び応力振幅の関係のグラフを描くと、図4に示すような階段状のグラフとなることが分かる。そして、図4に示すような、各測定のタイミング(測定時間)ごとの温度変化のデータから、それぞれ無次元化熱弾性温度振幅を求めた場合、その測定時間における応力振幅と、無次元化熱弾性温度振幅との関係の一形態を模式的に示すと、例えば、図5に示すようなグラフのようになることを理解できる。なお、図5のグラフ中の直線は、図4に示す全測定点(7点)での測定のうち、最初の4回の測定点(測定時間)の無次元化熱弾性温度振幅と、その測定回に採用していた応力振幅との関係を示す「近似直線」であり、点線の曲線は無次元化熱弾性温度振幅と応力振幅との関係を示す全ての点のデータから求められる「近似曲線」である。ここで、前述の参考文献1を参照して、疲労強度以上の応力振幅で、繊維と樹脂との間の荷重分担が変化すると仮定し、その変化点の応力振幅を求める場合、疲労強度未満の応力振幅までは(変化点までは)、ステップ荷重疲労試験において、応力振幅の増加とともに、無次元化熱弾性温度振幅は線形に増加し(図5参照)、その後、疲労損傷に起因する繊維と樹脂との間の荷重分担に変化が生じる点(変化点)を境に、無次元化熱弾性温度振幅の増加挙動は変化するものと考えられる。そこで、本発明においては、無次元化熱弾性温度振幅の増加挙動(無次元化熱弾性温度振幅と応力振幅の関係)が変化する位置、すなわち、無次元化熱弾性温度振幅の増加挙動の変化点(場合により、「Knee point」と称する)を求めて、その変化点(Knee point)における応力振幅から「疲労強度」を特定する。
【0045】
このように、繊維強化複合材(より好ましくは繊維強化プラスチック)からなる測定対象物に対して、上述のような測定を行い、疲労強度以上の応力振幅で繊維と樹脂との間の荷重分担が変化すると仮定して、無次元化熱弾性温度振幅と応力振幅との関係の変化に基いて疲労強度を特定することで、疲労強度を簡便にかつより精度高く測定することが可能となる。また、無次元化熱弾性温度振幅の変化点における応力振幅を疲労強度として測定した場合、求められた疲労強度が、従来採用されていた複数の試験片を用いた疲労試験の方法により特定される疲労強度と大きさがほぼ同等の値となり、十分に精度の高い測定を行うことが可能である(なお、無次元化熱弾性温度振幅の増加挙動の変化点を求めるための方法の好適な一実施形態については後述する)。
【0046】
以上、無次元化熱弾性温度振幅と応力振幅との関係の変化に基いて疲労強度を特定することが可能となる理由(原理)等について簡単に説明したが、以下、そのような無次元化熱弾性温度振幅(ΔT/T)を求めるための演算を行う、測定部1に接続された外部のコンピュータ中の第一の算出手段及び第二の算出手段について説明する。
【0047】
このような外部のコンピュータ内の第一の算出手段及び第二の算出手段としては、測定部1で得られた温度変化に関するデータに基づいて、目的とする演算を行うことが可能となるように、例えば、第一の算出手段を、温度測定手段12により、前記負荷繰り返し数が所定の回数に達するまでの前記応力振幅が同じ大きさとなっている期間ごとに、所定の測定のタイミングで、所定の時間測定を行うことで求められた、繰り返し荷重の所定回数分の温度変化のデータが入力された場合に、その温度変化のデータを周波数解析して測定対象物の熱弾性温度振幅ΔTを算出(演算)するとともに、前記温度変化データに基づいて、前記式(2)を利用して前記測定対象物の平均温度Tを算出(演算)するように構成された演算部とし、かつ、第二の算出手段を、第一の演算部により算出された前記期間ごとの熱弾性温度振幅ΔTと前記期間ごとの平均温度Tとが入力された場合に、熱弾性温度振幅ΔTを平均温度Tで無次元化して前記測定対象物の無次元化熱弾性温度振幅(ΔT/T)を前記期間ごとに算出(演算)するように構成された演算部とすることを、それらの好適な実施形態として挙げることができる。このように構成された第一の算出手段及び第二の算出手段を利用した場合には、無次元化熱弾性温度振幅(ΔT/T)を効率よく算出することが可能である。なお、時系列の温度のデータ(温度変動のデータ)の周波数解析の方法は特に制限されるものではないが、例えば、フーリエ変換をその好適な方法として挙げることができる。
【0048】
また、疲労強度特定手段は、第一の算出手段及び第二の算出手段により求められた、前記期間ごとの無次元化熱弾性温度振幅(ΔT/T)を利用し、その無次元化熱弾性温度振幅(ΔT/T)を求めた期間の応力振幅と、無次元化熱弾性温度振幅(ΔT/T)との関係の変化に基いて、測定対象物の疲労強度を特定(演算)するように構成された演算部とすればよい。そのため、前述の外部のコンピュータが備える疲労強度特定手段は、第一及び第二の算出手段において算出(演算)した前記測定対象物の無次元化熱弾性温度振幅(ΔT/T)とその無次元化熱弾性温度振幅(ΔT/T)の測定時の応力振幅の大きさを入力して、無次元化熱弾性温度振幅(ΔT/T)と応力振幅の関係のグラフ(図5に示すようなグラフ)を求めて、そのグラフから無次元化熱弾性温度振幅(ΔT/T)の挙動の変化点を求めて、測定対象物の疲労損傷度を特定(演算)できるように構成(所望の演算処理が可能となるように構成)した演算部としてもよい。
【0049】
このように、本発明においては、第一の算出手段及び第二の算出手段により求められた、前記期間ごとの無次元化熱弾性温度振幅(ΔT/T)を利用して、疲労強度特定手段(前述のコンピュータ内の演算部)により、前記期間ごとの無次元化熱弾性温度振幅(ΔT/T)と、無次元化熱弾性温度振幅(ΔT/T)を求めた期間と対応する期間の応力振幅との関係の変化に基いて、無次元化熱弾性温度振幅(ΔT/T)の挙動の変化点を求めて、測定対象物の疲労強度を特定(演算)する。なお、無次元化熱弾性温度振幅(ΔT/T)の挙動の変化点を求めるための方法は特に制限されず、様々な方法を利用できる(なお、無次元化熱弾性温度振幅(ΔT/T)の挙動の変化点を求めるための方法の好適な一実施形態については後述する)。
【0050】
以上、図1を参照しながら、本発明の疲労強度特定装置の好適な実施形態について説明したが、以下、かかる実施形態の疲労強度特定装置(図1に示すような計測部を備える疲労強度特定装置)を用いて疲労強度の特定を行う場合に好適に採用することが可能な方法(疲労強度の特定を行う場合の手順の好適な一例)を説明することにより、本発明の疲労強度の特定方法の好適な一実施形態を併せて説明する。
【0051】
図6は、疲労強度の特定を行う場合に好適に採用することが可能な手順(疲労強度の特定処理)の一例を示すフローチャートである。なお、このような疲労強度の特定処理は、図6に示すフローチャートに沿って、試験回数が増加するごとに、応力振幅σが段階的に所定量(Δσ)増加するように、繰り返し荷重の大きさを段階的に増加させながら、試験片10に繰り返し荷重を付与する、ステップ荷重疲労試験(各試験回の繰り返し荷重を付与する試験では、繰り返し荷重を一定の大きさとして所定期間(負荷繰り返し数が規定の回数となるまでの期間)繰り返し荷重を付与する)を行い、各試験回(各期間)ごとに所定のタイミングで温度分布のデータを所定の時間、時系列で連続的に測定し、次いで、得られたデータを解析して、試験回(負荷繰り返し数Nが規定の回数となるまでの期間)ごとに、無次元化熱弾性温度振幅(ΔT/T)を求め、試験回ごとの無次元化熱弾性温度振幅(ΔT/T)と応力振幅との関係の変化から疲労強度の特定を行う処理である。
【0052】
なお、かかる処理においては、試験の回数(ここにいう試験の回数について、負荷繰り返し数Nが規定の回数となるまでの期間(同じ応力振幅で繰り返し荷重を付与している期間)に行われる繰り返し荷重の付与試験を1回の試験とみなす)が増加するごとに、応力振幅の大きさを増加させていくこととなるが、本実施形態においては、予め増加させて付与する最大の応力振幅の大きさを設定しておき、その設定した最大値の応力振幅での繰り返し荷重の付与が終了した段階で、段階的に応力振幅を増加させるステップ荷重疲労試験を終了するように、荷重付与手段11の運転の制御を行っている。このように、前記ステップ荷重疲労試験に際しては、試験片を構成する材料の種類等に応じて、繰り返し荷重試験を行う際の最初の応力振幅(初回の応力振幅の大きさ)、最大の応力振幅(試験回の最終回での応力振幅の大きさ)、各回ごとに増加させる応力振幅の量(応力振幅の増加量:Δσ)、および、各試験回ごとの負荷繰り返し数Nの規定回数(各回の繰り返し荷重試験の終了条件として規定回数)を予め設定して、各回の負荷繰り返し数が規定回数となる度に応力振幅を所定量(Δσ)ずつ増加するように、荷重付与手段11の運転を制御するとともに、設定した最大の応力振幅での繰り返し荷重の付与が終了した段階で運転を停止するよう、荷重付与手段11を制御する。
【0053】
また、このようなステップ荷重疲労試験に際しては、試験片の表面温度の測定を行うために、温度分布の測定を開始する負荷繰り返し数Nの規定回数(温度測定を開始する条件としての規定回数)、温度分布を測定する期間(測定時間)等を予め設定して、負荷繰り返し数Nが温度測定を開始するための設定回数(規定回数)に到達した後、所定の期間、試験片の表面温度を測定するように、温度測定手段12の運転を制御する。
【0054】
なお、このような荷重付与手段11や温度測定手段12の運転の制御、試験中の負荷繰り返し数Nのカウント等は、これらに接続した外部のコンピュータで行えばよい。ここで、参照のために、ステップ荷重疲労試験での試験回数と、応力振幅の関係を模式的に示すグラフを図7に示す(なお、実際の応力振幅の波形はより細かなものとなるが、図7においては、応力振幅と試験回数の対応関係を説明する上で、便宜上、実際の波形とは異なる波形を模式的に描いている。また、図7では、便宜上、初回(1回目)から3回目までの試験での応力振幅の波形を模式的に示している)。なお、図7中に示す測定期間は、設定した負荷繰り返し数に達した時点から開始される、温度変動データの測定の測定時間(所定の繰り返し回数分)を模式的に示すものである。
【0055】
疲労強度の特定処理に際しては、先ず、その事前準備として、図1に示す測定部1の測定対象物の試験片10が描かれている位置に試験片をセットする。その後、図6に示すフローで試験を行う場合、最初のステップS101において、その試験片に対して、所定の周波数(例えば10Hz)で所定の大きさの繰り返し荷重の付与を開始して試験回数が1回目となる繰り返し荷重試験を開始し、繰り返し荷重の付与開始時からの負荷繰り返し数Nのカウントを開始する。
【0056】
次いで、ステップS102に進み、ステップS102において、負荷繰り返し数Nが温度分布の測定を開始するための規定回数(例えば図7に示す例では1000回(1000サイクル))に到達した時点を始点として所定の測定時間(所定の繰り返し回数分:例えば、図2に示すように190回(190サイクル)分とすること等を例示でき、この場合、例えば、繰り返し回数を基準として1000回目から測定を開始して1190回目(1000サイクルから1190サイクルの区間)まで時系列の温度変化を測定することで、所定の時間測定を行ってもよい)、試験片の時系列の表面温度の変化(温度変動)のデータを測定する。このように、ステップS102では、負荷繰り返し数Nが規定の回数に到達した際に、所定の繰り返し回数分の試験片の時系列の表面温度の測定を行い、負荷繰り返し数と測定対象物の温度の関係(温度変動)のデータを求める(これにより、例えば、図2に示すようなグラフを求めることができる)。
【0057】
このように、図6に示すようなフローで測定を行う場合、温度測定を開始する負荷繰り返し数Nの規定回数(例えば1000回とする等)を予め設定して、ステップS101の繰り返し荷重の付与の開始から負荷繰り返し数Nをカウントして(この場合、例えば、1サイクルを1回としてカウントすればよい)、そのカウント数が前記温度分布の測定を開始するための規定回数に到達した際に、試験片10の表面温度の測定が開始されるように、図1に示す測定部1の運転を制御すればよい(なお、このような制御には外部のコンピュータを利用して、荷重付与手段11の運転状況の把握(負荷繰り返し数のカウント状況の把握等)や、負荷繰り返し数のカウント数に応じた温度測定手段12の運転状況の制御等を行えばよい)。このようにして、負荷繰り返し数のカウント数が温度測定を開始するための規定回数に到達した際に、試験片の表面温度の測定を開始する。このような表面温度の測定に際しては、例えば、測定開始の規定回数(例えば1000回目)から所定の繰り返し回数分(所定時間:赤外線カメラによる測定の場合、所定のフレーム数分としてもよい)の試験片の表面温度の測定を行うことで、試験片の時系列の表面温度の変化のデータを求めてもよい。
【0058】
なお、このような赤外線カメラによる試験片の測定の方法としては、例えば、温度測定手段12に赤外線カメラを利用する場合、フレームレートを予め所定値に設定し、測定開始から所定のフレーム数となるまでの期間の温度変動を測定するよう設定して、試験片の時系列の表面温度の変化を測定する方法を挙げることができる。ここで、例えば、赤外線カメラのフレームレートを211Hzとし、かつ、測定のフレーム数を4009フレームに設定した場合には、温度変動の測定時間は19秒(=4009/211)となる(この場合において、負荷の周波数が10Hzの場合には測定期間中の負荷繰り返し数は190サイクル分となる)。
【0059】
また、ここにおいて、各フレームの画像ごとの試験片の温度の特定方法としては、特に制限されるものではないが、例えば、試験片の特定の領域を測定領域として設定している場合(なお、後述の実施例においては、図14に示す形態の試験片を用いて、その表面上の長方形状の一部の領域A2を測定領域として設定している)、各フレームの画像ごとに、その所定の測定領域内の各ピクセルの温度をそれぞれ求めて、全ピクセルの温度の平均値を算出し、求められた全ピクセルの温度の平均値を、そのフレームの画像の試験片の温度とする方法を採用してもよい。そして、そのような各フレームの画像ごとの試験片の温度を、時系列に並べることで、負荷繰り返し数と、温度との関係(例えば、図2に示すような関係)を演算して求めることができる。なお、このような演算(解析)は、そのような演算が可能となるように設計された演算部を備える、外部のコンピュータ(測定部1に接続されたもの)を利用して適宜実行すればよい。
【0060】
そして、ステップS102における温度変動データの測定を行った後においては、ステップS103に進んで、負荷繰り返し数Nのカウント数が、その試験回での試験終了の規定回数(各回の繰り返し荷重試験の終了条件:例えば、図7に示す例では1300回(1300サイクル)を各回の試験回での試験終了の負荷繰り返し数Nの設定回数としている)に到達した時に、繰り返し荷重の付与を止め、その試験回での応力振幅が予め設定した規定値(最大の応力振幅の値)に到達したか否かを判定する。
【0061】
そして、ステップS103での判定の結果、その試験回での応力振幅が規定値に達していない場合(未達の場合)には、ステップS104に進み、応力振幅が前回の試験回よりも所定量(Δσ)増加するように、試験片に付与する繰り返し荷重の大きさを変えて、新たな試験回での繰り返し荷重試験を開始(繰り返し荷重の付与を開始)し、同時に、その試験回での負荷繰り返し数のカウントを新たに開始する(新たにカウントを開始するために、例えば、応力振幅を所定量増加させる段階で、負荷繰り返し数のカウント数をリセットして再度0から負荷繰り返し数をカウントしてもよい)。このようにステップS104で新たな試験回での試験を開始した後には、前述のステップS102に進んで、ステップS102の工程を実施した後、再度、ステップS103に進んで、S103での判定を行う。このように、ステップS104に進んだ後は、ステップS102、ステップS103に記載した工程を順次行う。そして、ステップS103において、その試験回での応力振幅が予め設定した規定値(最大の応力振幅の値)に到達したと判定されるまで、ステップS104、ステップS102及びステップS103を順次繰り返し実行する。なお、各試験回ごとに、繰り返し荷重の付与開始から負荷繰り返し数Nのカウント数が、その試験回の繰り返し荷重試験の終了条件となる規定回数に達するまでの間の応力振幅は一定の大きさとなるようにして試験を行う。
【0062】
この点について、図7を参照しながら更に説明する。図7には、試験回数が1~3回目となる繰り返し荷重試験のそれぞれの試験回の応力振幅のグラフ(3つの応力振幅のグラフ)を模式的に示している。図7に示すグラフが求められる試験としては、繰り返し荷重試験の終了条件となる負荷繰り返し数Nの規定回数を1300回(1サイクルを1回としてカウントする)に設定し、温度変動の測定を開始する規定回数を1000回に設定し、温度測定の測定時間を負荷繰り返し数190回分(1000回目~1190回目までの期間)に設定した場合の試験を想定している。図7に示す形態のステップ荷重疲労試験においては、負荷繰り返し数Nが規定回数の1300回に到達するごとに、繰り返し荷重の付与を止め、次の回の試験において応力振幅がΔσ(一定値)だけ増加するようにして、新たに繰り返し荷重の付与を開始している。なお、図7では3回分のデータのみを記載しているが、かかる試験は、前述のように増加させていく応力振幅が規定値となるまで繰り返す。このようにして、図7に模式的に示すグラフでは、各試験回ごとに、新たに繰り返し荷重の付与を開始し、負荷繰り返し数Nが温度測定を開始するための規定回数(1000回目)に到達するごとに、負荷繰り返し数190回分、試験片の温度変動のデータを測定している。このようにして試験を行うため、負荷繰り返し数Nがその試験回での試験終了の規定回数に達するまでの期間は(各試験回においては)、応力振幅が同じ大きさとなる。このように、段階的に応力振幅の大きさが増加するように試験を行うが、各試験回においては、繰り返し荷重の付与開始から負荷繰り返し数Nが試験終了条件となる規定回数に到達するまでの間は、応力振幅が同じ大きさとなるようにして繰り返し負荷の付与を行い、その間の規定のタイミングで所定期間、時系列の温度変動のデータを入手すればよい。
【0063】
このようにして、図6に示すフローにおいては、ステップS103において、応力振幅が規定値に到達したものと判定されるまで、ステップS104、ステップS102及びステップS103の各ステップを繰り返した後、ステップS103において、応力振幅が規定値に到達したものと判定された場合に、ステップS105に進む。
【0064】
かかるステップS105では、試験回(測定回数)x回目(xは自然数)の熱弾性温度振幅ΔTをΔTとし、試験回(測定回数)x回目の平均温度TをTとした場合に、上述のステップS102の測定で求められた、各試験回(測定回)xの時系列の温度変化のデータ(所定のフレーム数の全フレームの温度データ等)に基いて、第一の算出手段により、全試験回分、試験回(測定回)ごとに熱弾性温度振幅ΔTおよび平均温度Tをそれぞれ算出する(ここにおいて、xは1回目~終了回のうちのいずれかの測定回を示す数値(自然数)である)。すなわち、上述のステップS102の測定で求められた各試験回(測定回)の時系列の温度変化のデータを第一の算出手段に入力して、第一の算出手段により、各試験回(測定回)ごとに、熱弾性温度振幅ΔTを算出(演算)するとともに(図3参照)、前記式(2)を利用して平均温度Tは平均温度を求めた測定回の回数を示す数値である)を算出(演算)する。
【0065】
このようにして、ステップS105において、各試験回(測定回)ごとに、熱弾性温度振幅ΔT及び平均温度Tを求めた後、ステップS106に進む。そして、ステップS106においては、試験回(測定回)ごとの熱弾性温度振幅ΔTおよび平均温度Tの値に基いて、試験回(測定回)ごとの無次元化熱弾性温度振幅(ΔT/T)を算出(演算)する。このような無次元化熱弾性温度振幅(ΔT/T)は、第一の算出手段により算出された熱弾性温度振幅ΔTおよび平均温度Tの値を第二の算出手段に入力して、第二の算出手段により無次元化熱弾性温度振幅(ΔT/T)を計算することで求められる。
【0066】
このようにして、ステップS106を実行した後には、ステップS107に進み、疲労強度特定手段により、試験回(測定回)ごとの無次元化熱弾性温度振幅(ΔT/T)と、応力振幅(σ:試験回x回目の応力振幅の大きさをσと表記する)との関係のグラフを求め、その関係の変化に基いて、応力振幅に対する無次元化熱弾性温度振幅の増加挙動の変化点を求めることにより、疲労強度を特定する。
【0067】
ここで、無次元化熱弾性温度振幅(ΔT/T)と、応力振幅(σ:試験回x回目の応力振幅の大きさをσと表記する)との関係の変化に基いて、応力振幅に対する無次元化熱弾性温度振幅の増加挙動の変化点を求めるための方法としては、特に制限されず、例えば、A.Akai,Y.Sato et al.,“Rapid determination of fatigue limit using temperature second harmonic”,Experimental Mechanics,vol.63,2023年,P.349-P.362(以下、場合により単に「参考文献2」と称する)に記載されている方法を応用した方法としてもよい。このような応力振幅に対する無次元化熱弾性温度振幅の増加挙動の変化点を求めるための方法としては、中でも、後述の第一工程~第五工程を含む方法を好適な方法として挙げることができる。以下、無次元化熱弾性温度振幅の挙動(増加強度)の変化点を求めるための方法の好適な一実施形態(変化点の測定方法の一例)について説明する。
【0068】
〈無次元化熱弾性温度振幅の挙動(増加強度)の変化点を求めるための方法の好適な一実施形態(無次元化熱弾性温度振幅の増加挙動の変化点の測定の好適な方法)〉
無次元化熱弾性温度振幅の増加挙動の変化点の測定の好適な方法としては、下記の第一工程~第五工程を含む方法を挙げることができる。以下、図8~13を参照しながら、各工程を分けて説明する。
【0069】
〔第一工程〕
先ず、図6に示すようなフロー(手順)でステップ荷重疲労試験を実施して、ステップ荷重疲労試験の各試験回(測定回)xごとの無次元化熱弾性温度振幅(ΔT/T)と、各試験回ごとの応力振幅(σ)の関係のグラフを求める(第一工程)。このようなステップ荷重疲労試験における各試験回の応力振幅と負荷繰り返し数の関係を模式的に示すグラフを図8(A)に示し(図8(A)中、便宜上、温度測定の測定期間を丸い記号で概念的に示す)、第一工程で得られたステップ荷重疲労試験の各試験回(測定回)xごとの無次元化熱弾性温度振幅(ΔT/T)と、各試験回の応力振幅(σ)との関係を模式的に示すグラフを図8(B)に示す。なお、図8に示す例は、測定回が全部で7回となるようにステップ荷重疲労試験を行った場合の一例である。
【0070】
〔第二工程〕
次に、ステップ荷重疲労試験での無次元化熱弾性温度振幅(ΔT/T)と応力振幅(σ)の関係のグラフに対して、無次元化熱弾性温度振幅を低応力振幅側のグループと高応力振幅側のグループの2つに分割する境界(境界線)を、下記条件1~2:
[条件1]低応力振幅側のグループと高応力側のグループがそれぞれ少なくとも2点以上の無次元化熱弾性温度振幅を含むという条件;
[条件2]2つのグループの境界を、低応力振幅側のグループの無次元化熱弾性温度振幅のうちの最大の応力振幅と、高応力振幅グループの無次元化熱弾性温度振幅のうち最小の応力振幅の平均の応力振幅の位置とするという条件;
を満たすようにして求める(第二工程)。このような第二工程で求める境界(境界線)について、以下、図面を参照しながら説明する。
【0071】
図9及び図10はそれぞれ、第一工程で図8(B)に示すような、各試験回(測定回)xごとの無次元化熱弾性温度振幅(ΔT/T)と、各試験回xごとの応力振幅(σ)の関係のグラフを得た場合に、そのグラフに対して前記条件1及び2を満たすように、それぞれ境界線を描いた例である。ここで、先ず、これらの図面について説明する。図9は、低応力振幅側のグループは無次元化熱弾性温度振幅a及びbの2点からなるものとし、高応力振幅グループが無次元化熱弾性温度振幅c~gの5点からなるものとして、条件1を満たすものとしている。そして、図9に示す境界(境界線1)は、低応力振幅側のグループの無次元化熱弾性温度振幅のうちの最大の応力振幅(無次元化熱弾性温度振幅bの位置の応力振幅)と、高応力振幅グループの無次元化熱弾性温度振幅のうち最小の応力振幅(無次元化熱弾性温度振幅cの位置の応力振幅)の平均の応力振幅の位置としており、条件2を満たすものとしている。
【0072】
また、図10は、低応力振幅側のグループが無次元化熱弾性温度振幅a~cの3点からなり、高応力振幅グループが無次元化熱弾性温度振幅d~gの4点からなるものとして、条件1を満たすものとしている。そして、図10に示す境界(境界線2)は、低応力振幅側のグループの無次元化熱弾性温度振幅のうちの最大の応力振幅(無次元化熱弾性温度振幅cの位置の応力振幅)と、高応力振幅グループの無次元化熱弾性温度振幅のうち最小の応力振幅(無次元化熱弾性温度振幅dの位置の応力振幅)の平均の応力振幅の位置としており、条件2を満たすものとしている。
【0073】
このように、第二工程においては、前記条件1~2を満たすようにしてグループ分けすることで、無次元化熱弾性温度振幅を低応力振幅側のグループと高応力振幅側のグループとに分ける境界を求める。なお、第二工程においては、測定した全ての測定点(図8に示す実施形態では7個)に対して、設定し得る範囲で全ての境界を求める。そのため、境界を設けられるグループの組み合わせは、低応力振幅側のグループと高応力振幅側のグループがそれぞれ少なくとも2点以上の無次元化熱弾性温度振幅を含むという条件を満たすようにして境界を求める必要があることから、無次元化熱弾性温度振幅をn回分測定している場合(試験回数がn回である場合)には(n-3)通りとなり、境界の数は(n-3)個となる。この点、図8(B)に示すようなグラフが得られるような試験を行った場合には、ステップ荷重疲労試験で7回の測定を行っているため、境界(境界線)は、図11に示すように4個(4本)となる。第二工程においては、図11に示すように、測定した全ての測定点(図8に示す実施形態では7点の測定点)に対して設定し得る範囲の全ての境界を求める。なお、このような境界はいずれも、後述の第五工程で特定する変化点の候補として仮に設定するものである。
【0074】
〔第三工程〕
次いで、第二工程で求めた全ての境界(変化点の候補)を利用して、各境界ごとに、かかる境界で分けられた各グループ内の全ての無次元化熱弾性温度振幅を利用して、各グループごとに最小二乗法で近似関数を求める(第三工程)。なお、このようにして求める近似関数はいずれのも一次関数とする。ここで、第三工程について、図12を参照しながら説明する。図12は、図11に示すグラフの境界線2の位置を境界とした場合の無次元化熱弾性温度振幅の低応力振幅側のグループ及び高応力振幅側のグループについて、各グループごとに、それぞれそのグループ内の無次元化熱弾性温度振幅のデータから近似関数(一次関数)のグラフを求めた場合のグラフを模式的に示したものである。図12に模式的に示すグラフにおいて「近似線1」は低応力振幅側のグループの無次元化熱弾性温度振幅の近似関数であり、「近似線2」は高応力振幅側のグループの無次元化熱弾性温度振幅の近似関数である。このように、第三工程では、第二工程で求めた全ての境界(図11に示す形態では4つの境界)を利用して、各境界ごとに低応力振幅側及び高応力振幅側の無次元化熱弾性温度振幅の近似関数(一次関数)をそれぞれ求める。なお、低応力振幅側のグループまたは高応力振幅側のグループの無次元化熱弾性温度振幅が2点の場合には、その2点を結ぶ直線の式を近似直線(近似線)の式(近似関数)とみなす。このようにして、第三工程で近似関数(一次関数)を求めることから、第二工程において境界を求める際の条件の一つを、低応力振幅側のグループと高応力側のグループがそれぞれ少なくとも2点以上の無次元化熱弾性温度振幅を含むという条件としている。
【0075】
(第四工程)
次に、第四工程では、第三工程で求めた近似関数(一次関数)をそれぞれ利用して、各境界(例えば、図11に示す形態では4つの境界)ごとに、無次元化熱弾性温度振幅の実測値と近似値との残差の2乗の総和(残差二乗和)SSR(sum of squared residuals)をそれぞれ算出する(第四工程)。例えば、1~i番目までの試験回で測定された無次元化熱弾性温度振幅が低応力振幅側のグループに該当し、(i+1)~n番目までの試験回で測定された無次元化熱弾性温度振幅が高応力振幅側のグループに該当する場合(i及びnは自然数)、残差二乗和SSRは、下記式(4):
【0076】
【数4】
【0077】
[式中、jは無次元化熱弾性温度振幅を測定するステップ荷重疲労試験中に行う各繰り返し荷重試験の試験回xと同じ数値(応力振幅(σ)の小さい方から大きい方へ順に無次元化熱弾性温度振幅(ΔT/T)を並べた場合の順序を示す自然数に相当)を示し、
iは、SSRを求める境界で分けられた低応力振幅側のグループにおいて最大の無次元化熱弾性温度振幅を測定した回の試験回xの数値を示し(例えば、図10に示す境界(境界線2)でグループ分けをしている場合には、点cが低応力振幅側のグループの最大の無次元化熱弾性温度振幅となるが、その無次元化熱弾性温度振幅の測定値cが試験回数3回目の測定値であることから、図10に示すような境界線2を境界として計算する場合には、iは3となる)、
nは、無次元化熱弾性温度振幅を測定するステップ荷重疲労試験中に行う各繰り返し荷重試験の総試験回数を示し(例えば、図10に示すようなステップ荷重疲労試験では無次元化熱弾性温度振幅を測定した試験の回数の総数が7回であるため、nは7となる。)、
はj番目の試験回(x=j)で測定された無次元化熱弾性温度振幅を示し、
' は低応力振幅側のグループの無次元化熱弾性温度振幅の近似値であってj番目の試験回の無次元化熱弾性温度振幅の近似値(例えば、図12に示す例では低応力振幅側のグループの近似線1を利用して求められる近似値)を示し、
'' は、高応力振幅側のグループの無次元化熱弾性温度振幅の近似値であってj番目の試験回の無次元化熱弾性温度振幅の近似値(例えば、図12に示す例では低応力振幅側のグループの近似線2を利用して求められる近似値)を示す。]
を計算することにより求めることができる。この場合、i番目の応力振幅と、(i+1)番目の応力振幅の平均が、境界の位置の応力振幅となる。このようなSSRの値は、第二工程で求められた全ての境界ごとに(図11に示す例では境界線1~4の応力振幅の位置ごとに)、それぞれ求める。
【0078】
(第五工程)
次に、各境界の応力振幅と、各境界でのSSRの値との関係のグラフを求め、SSRが最小となる位置を変化点(Knee point)として、疲労強度(特定疲労限度)を特定する。この点、図13を参照しながら説明する。図13は、図11に示す境界の位置の応力振幅の大きさと、各境界ごとに求めたSSRとの関係をプロットすることにより求められたグラフである。ここで、SSRの値が上記式(4)により求められる値であることを考慮すると、SSRの値が最小となる位置は、低応力振幅側と高応力振幅側とにおいて、それぞれ最も適切な近似線(近似による誤差がより小さい近似線)が得られている境界であると判断できるため、その試験片の無次元化熱弾性温度振幅の増加挙動が変動を始める点として認識(特定)することができる。そのため、そのようなSSRの値が最小となる境界を求めることで、無次元化熱弾性温度振幅の増加挙動の変化点(Knee point)を求めることができ、その変化点(Knee point)における応力振幅の大きさを、疲労限界(疲労強度)として特定することができる。
【0079】
このように、図1に示す形態の計測部を用い、図6に示すようなフローで繊維強化複合材の疲労強度の特定を行うことで、疲労強度を迅速かつ精度高く測定することが可能となる。
【0080】
以上、図面を参照しながら、本発明の繊維強化複合材の疲労強度の特定装置及び繊維強化複合材の疲労強度の特定方法の好適な一実施形態について説明したが、本発明の疲労強度特定装置及び疲労強度の特定方法は、上記実施形態に限定されるものではない。
【0081】
例えば、図1に示す実施形態においては、温度測定手段12として赤外線カメラを利用しているが、温度測定手段12は赤外線カメラに制限されるものではなく、熱電対であってもよい。なお、温度測定手段12として熱電対を利用した場合にも、疲労損傷度を簡便に測定することが可能である。
【0082】
また、図6に示すフローでは、応力振幅の大きさが規定値となった時点でステップ荷重疲労試験を終了しているが、ステップ荷重疲労試験の終了条件はこれに制限されるものではなく、例えば、終了条件としての試験回の回数を予め設定して、試験回数のカウント数が規定数となった時点でステップ荷重疲労試験を終了させるようにしてステップ荷重疲労試験を実行してもよい。
【0083】
さらに、本発明において採用することが可能な無次元化熱弾性温度振幅の挙動(増加強度)の変化点を求めるための方法も上記実施形態(第一工程~第五工程を含む方法)に制限されず、例えば、ステップ荷重疲労試験で求められる応力振幅と無次元化熱弾性温度振幅の挙動(増加強度)との関係のグラフにおいて、最も低い応力振幅(試験回数1回目の応力振幅)の位置の無次元化熱弾性温度振幅と、その次の応力振幅(試験回数2回目の応力振幅)の位置の無次元化熱弾性温度振幅とを結ぶ直線を求め、その直線に対する各試験回(3回目以降の試験回)の無次元化熱弾性温度振幅のずれの大きさを求め、そのずれの大きさの変化に基いて変化点を評価する方法、等を採用してもよい。
【実施例0084】
以下、実施例及び比較例に基づいて本発明をより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0085】
(実施例1~2)
〈試験片の調製〉
炭素繊維強化プラスティック(CFRP)からなる厚み3mmのシート(板状体)から、図14に示すような帯板状の試験片を2つ作成した。すなわち、CFRPのシートを原料として、図14に示すような、長さ(L):200mm、幅(W):25mmの表面を有し、かつ、厚み3mmの帯板状の試験片10を2つ準備した。次に、各試験片の表面上の一部の領域A1(長さ(LA1):80mm、幅:25mmの領域)に黒体化塗料を塗布し、塗料の塗布領域A1を形成した。なお、領域A1の形成位置は、図14に示すように、試験片の長さ方向の両端からのそれぞれ距離(LB)が60mmとなるような位置とした。また、温度データの測定に際しては、図14に示す試験片10の領域A1内に破線で示した領域A2(長さ(LA2):70mm、幅(WA2):23mmの領域)を、温度を測定するための領域として採用した。
【0086】
なお、上記2つの試験片(便宜上、場合により、一つを「SP1」と称し、もう一つを「SP2」と称する)の調製に利用したシートを構成するCFRPを用いて、引張試験用の試料を4枚調製し、前記CFRPの極限引張強さを別途求めて、その平均値を前記CFRPの「引張強さ(UTS)」として採用した。以下、このようにして求められた極限引張強さの平均値を、便宜上、場合により、単に「引張強さ(UTS)」又は「UTS」と表記する。
【0087】
〈測定に用いた機器等について〉
計測には、図1に示す計測部1と同様の構成の装置(図1の装置を模した装置)を利用した。ここにおいて、荷重付与手段11として油圧サーボ型疲労試験機を利用し、温度測定手段12として赤外線サーモグラフィカメラを利用した。なお、測定部1は、図1に示すように、荷重付与手段11(油圧サーボ型疲労試験機)の前に赤外線カメラ12を設置し、赤外線カメラ12を用いて試験片10の表面温度の分布を測定可能なように構成させた装置である。なお、試験片10はいずれも、塗料の塗布領域A1以外の領域が油圧サーボ型疲労試験機の掴み具で固定されるようにして用いた。
【0088】
〈ステップ荷重疲労試験の実施〉
結果の再現性の確認のために、上記2つの試験片(SP1及びSP2)をそれぞれ用いて、試験片ごとに試験条件を表1に示すように変更してステップ荷重疲労試験をそれぞれ行った(以下、試験片SP1を用いて行ったステップ荷重疲労試験の例を「実施例1」と称し、試験片SP2を用いて行ったステップ荷重疲試験の例を「実施例2」と称する)。
【0089】
【表1】
【0090】
以下、各ステップ荷重疲労試験において具体的に採用した工程を説明する。先ず、各ステップ荷重疲労試験では、それぞれ、各試験片に対して、負荷繰り返し数が、表1に示す規定数(SP1:1300回(cycles)、SP2:3300回(cycles))に達するごとに、応力振幅が表1に示す割合(増加量:4%UTS)で段階的に増加するように制御しながら、周波数:10Hz(一定)、応力比:0.1の条件で繰り返し荷重を付与した。ここにおいて、負荷繰り返し数のカウント数が規定数に達するまでの期間は応力振幅が同じ大きさとなるようにして繰り返し荷重を付与し、初回の測定回(試験回)の応力振幅は、試験片を構成するCFRPの引張強さ(UTS)の4%の大きさ(4%UTS)となるようにした。また、各ステップ荷重疲労試験は、図6に示すフロー(手順)で行い、負荷繰り返し数のカウント数が規定数(SP1:1300回、SP2:3300回)に達するごとに、応力振幅を順次「4%UTS」づつ増加させて、応力振幅の値が「32%UTS(CFRPの引張強さ(UTS)の32%の大きさ)」になるまで試験を行った。このように、ステップ荷重疲労試験の終了の条件となる応力振幅の規定値として「32%UTS」を採用して、図6に示すフローを実施した。また、各ステップ荷重疲労試験においては、応力振幅が同じ大きさとなっている期間ごと(各試験回ごと)に、その試験回の試験開始からカウントを開始して負荷繰り返し数のカウント数が、温度測定を開始するための設定回数(SP1:1000回(cycles)、SP2:3000回(cycles))に達するごとに、負荷繰り返し数190回分(フレームレート:211HZ、フレーム数:4009フレーム、測定時間:19秒間)、赤外線サーモグラフィカメラにより試験片の表面温度分布画像の測定を行った。
【0091】
そして、各試験回ごとに、表面温度分布画像の測定期間(4009フレーム分:19秒間)に得られた、試験片の各フレームの表面温度分布画像に基いて、時系列の温度変動データを求めて、各試験回ごとに、以下のようにして、無次元化熱弾性温度振幅(ΔT/T)を算出した。すなわち、先ず、前記無次元化熱弾性温度振幅(ΔT/T)の算出のために、各フレームの表面温度分布画像ごとに、試験片の領域A2の部分の画素(ピクセル)ごとの温度を全て求めて、全画素(ピクセル)の温度の平均値を求め、得られた値を、そのフレームでの試験片の温度として採用した。そして、各フレームごとに、そのフレームでの試験片の温度を求めた後、そのデータを利用して、前記式(2)を計算することで、その試験片の平均温度(平均表面温度)Tを求めた(なお、かかる計算に利用する式(2)中のNは4009となる)。次いで、各試験片の温度のデータを離散フーリエ変換を採用して周波数解析して、周波数と温度振幅との関係(図3に模式的に示すような関係)を求め、繰り返し負荷の周波数(繰り返し荷重の周波数)と同じ周波数(10Hz)における温度振幅を、その試験片の熱弾性温度振幅ΔT(絶対温度)として求めた。このようにして、各試験回xごとに、熱弾性温度振幅ΔT(絶対温度)と、試験片の平均温度(平均表面温度)T(絶対温度)をそれぞれ求めて、各試験回xごとの無次元化熱弾性温度振幅(ΔT/T)をそれぞれ求めた。このような測定により求められた、各試験片の応力振幅と無次元化熱弾性温度振幅(ΔT/T)の関係を示すグラフを図15に示す。なお、図15において、応力振幅はUTSに対する割合(百分率)で、その大きさを示している。また、このような無次元化熱弾性温度振幅の算出方法を考慮すれば、図15は、試験片の領域A2(長さ(LA2):70mm、幅(WA2):23mmの領域)内の各画素の温度の平均値を利用して求められる無次元化熱弾性温度振幅を代表値として利用して、これをプロットしたグラフ(結果)であるとも言える。また、図15に示すグラフを利用して、上記において「無次元化熱弾性温度振幅の増加挙動の変化点の測定の好適な方法」として説明した「第一工程~第五工程を含む方法」を実施し、各境界(変化点の候補)の位置の応力振幅と、SSRの数値との関係を示すグラフを求めた。得られたグラフを図16に示す。
【0092】
このような測定の結果、図16に示す結果では、SSRが最小になる境界は、試験片SP1及びSP2の双方とも、UTSの22%の大きさ(22%UTS)の応力振幅の位置にあったことから、無次元化熱弾性温度振幅の増加挙動の変化点の測定の好適な方法として説明した「第一工程~第五工程を含む方法」に基いて疲労強度を特定する場合には、疲労強度は22%UTSであるものと特定できる(なお、前述の「第一工程~第五工程を含む方法」は、SSRの値が最小となる境界での応力振幅を疲労強度として特定する方法である)。
【0093】
(参考例1)
従来の方法と比較した場合の精度等を確認するため、前記試験片を形成した材料と同じ材料(CFRP)について、15点の試験片を準備して、負荷応力(応力振幅)と破断までの繰り返し数の関係(S-N曲線)を求めた。結果を図17に示す。ここで、従来の疲労強度の特定方法としては、「酒井達雄、菅田淳、“日本材料学会標準:JSMS-SD-6-04金属材料疲労信頼性評価標準[S-N曲線回帰法]改訂版の発行と解析例について”、材料、vol.54、2005年発行、P.37-P.43」に記載されている方法を参考にして、破断データのうちの最小の応力振幅と、前記破断データのうちの最小の応力振幅よりも低い応力振幅の未破断データのうちの最大の応力振幅との平均値を破断強度と定義して特定する方法を採用した。図17に示す結果では、破断データのうちの最小の応力振幅が24%UTSであり、24%UTSよりも低い応力振幅で未破断データ(繰り返し数が2.0E+6回を超えた時点で未破断だったもののデータ)のうちの最大の応力振幅が22%UTSであることが確認できるため、CFRPの疲労強度はUTSの23%の大きさ(23%UTS:図17において点線で示す)となることが分かった。このように、参考例1により、従来の方法で疲労強度を特定した場合には、疲労強度は23%UTSとなることが確認できた。
【0094】
[考察:実施例1~2と参考例1とで得られた結果の対比]
図15に示す結果から、実施例1~2においても、無次元化熱弾性温度振幅は、試験開始後から、応力振幅が、図17に示すS-N曲線に基いて特定された疲労強度(23%UTS)の近傍に至るまでは概ね線形に変化し、図17に示すS-N曲線に基いて特定された疲労強度(23%UTS)の近傍から、非線形に変化していることが分かる。また、前述の「第一工程~第五工程を含む方法」を採用して、全ての境界(変化点の候補)を設定して、各境界に対してSSRを算出し、各境界の応力振幅とSSRとの関係をプロットして求めたグラフ(図16)に基いて、前述のように、SSRが最小になる境界の応力振幅を疲労強度として特定すると、図16において、SSRが最小になる境界の応力振幅が、試験片SP1の場合及び試験片SP2の場合の双方の試験において、共に22%UTSであることが確認できることから、実施例1~2においては、それぞれ、試験片を構成するCFRPの疲労強度は22%UTSであると特定された。
【0095】
一方、参考例1に記載されているような従来の方法を採用してS-N曲線に基いて特定される疲労強度は23%UTSであることから、実施例1~2に記載の方法(本発明の疲労強度の特定方法に相当)で特定する疲労強度と、従来の方法を採用してS-N曲線に基いて特定される疲労強度との差は十分に小さく(実際の疲労強度の応力振幅の大きさの差で検討すると、従来法で特定された疲労強度の応力振幅の大きさよりも実施例1~2で特定された疲労強度の応力振幅の大きさは4%程度小さな値となる)、実施例1~2に記載された方法を採用した場合に、十分に高い精度で疲労強度を特定できることが明らかとなった。ここで、実施例1~2に記載の方法(本発明の疲労強度の特定方法に相当)においては、それぞれ試験片を1つ用いることで疲労強度を特定でき、その特定値が試験条件を変えても同じ値となっており再現性の高い結果が得られていることが明らかであること、実際の試験時間が1時間程度と十分に短い時間であったこと、等から、S-N曲線を利用する従来の方法と比較した場合に、少ない試験片で迅速に疲労強度を特定でき、その特定値も十分に信頼性の高いものとなることが分かった。
【0096】
なお、実施例1~2においては、応力振幅を4%UTSずつ段階的に増加させながら温度分布を測定して、境界(変化点の候補)の応力振幅と、SSRの関係を求めているが、例えば、応力振幅の増加量をより小さな値(例えば、2%UTS)として試験を行った場合には、より多くの境界(変化点の候補)を求めて疲労強度を特定することが可能となるため、更に精度の高い測定を行うことが可能になることは明らかである。なお、この場合においても、本発明では、試験片を複数個利用する必要がなく、1つの試験片で疲労強度を特定できることから、従来法と比較して十分に迅速な測定が可能であることは明らかである。
【産業上の利用可能性】
【0097】
以上説明したように、本発明によれば、繊維強化複合材の疲労強度を迅速かつ精度高く測定することを可能とする、繊維強化複合材の疲労強度の特定装置及び繊維強化複合材の疲労強度の特定方法を提供することが可能となる。したがって、本発明の繊維強化複合材の疲労強度の特定装置は、疲労強度が未知の繊維強化複合材の疲労強度を推定するための技術として有用である。
【符号の説明】
【0098】
1…測定部、10…試験片、11…荷重付与手段、12…温度測定手段。
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