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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025041257
(43)【公開日】2025-03-26
(54)【発明の名称】膜付き基材及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C03C 17/245 20060101AFI20250318BHJP
   B32B 9/00 20060101ALI20250318BHJP
   B32B 17/06 20060101ALI20250318BHJP
【FI】
C03C17/245 Z
B32B9/00 A
B32B17/06
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023148445
(22)【出願日】2023-09-13
(71)【出願人】
【識別番号】000000044
【氏名又は名称】AGC株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002000
【氏名又は名称】弁理士法人栄光事務所
(72)【発明者】
【氏名】渡邊 浩司
(72)【発明者】
【氏名】米田 聖人
(72)【発明者】
【氏名】立川 卓
【テーマコード(参考)】
4F100
4G059
【Fターム(参考)】
4F100AA17B
4F100AA28B
4F100AA29B
4F100AG00A
4F100BA02
4F100EH66B
4F100GB07
4F100GB32
4F100JD06
4F100JD06B
4F100JN02
4G059AA01
4G059AC06
4G059AC07
4G059AC08
4G059EA02
4G059EB01
(57)【要約】
【課題】透過ムラを低減し、輝度やコントラストを均質化させた膜付き基材及びその製造方法を提供すること。
【解決手段】本発明は、主材と前記主材上に配置される膜とを備えた膜付き基材であって、主材がガラスであり、前記主材は相互に対向する第1の面及び第2の面を有し、前記主材の前記第1の面に前記膜が位置しており、前記膜は不純物元素をドープしたドープ型金属酸化物からなる可視光吸収層を含み、X線光電子分光法により前記可視光吸収層の膜厚方向の不純物濃度分布を測定した際に、不純物濃度が極大となるピークが2つ以上確認される、膜付き基材に関する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
主材と前記主材上に配置される膜とを備えた膜付き基材であって、
前記主材がガラスであり、前記主材は相互に対向する第1の面及び第2の面を有し、前記主材の前記第1の面に前記膜が位置しており、
前記膜は不純物元素をドープしたドープ型金属酸化物からなる可視光吸収層を含み、
X線光電子分光法により前記可視光吸収層の膜厚方向の不純物濃度分布を測定した際に、不純物濃度が極大となるピークが2つ以上確認される、膜付き基材。
【請求項2】
前記可視光吸収層はアンチモンドープ酸化スズ膜である、請求項1に記載の膜付き基材。
【請求項3】
前記膜付き基材のA光源透過率が30%未満である、請求項1又は2に記載の膜付き基材。
【請求項4】
主材上に膜を成膜することを含む膜付き基材の製造方法であって、
前記主材がガラスであり、前記膜の成膜において、可視光吸収層を前記ガラスの製造ライン上で熱CVD法により成膜することを含み、
2つ以上のコーターを使用して前記可視光吸収層を成膜する、
膜付き基材の製造方法。
【請求項5】
前記可視光吸収層は不純物元素をドープしたドープ型金属酸化物からなる、請求項4に記載の膜付き基材の製造方法。
【請求項6】
得られる膜付き基材のA光源透過率が30%未満である、請求項4又は5に記載の膜付き基材の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、膜付き基材及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
薄膜付きガラス基材や薄膜付きフィルム等の膜付き基材は、主材となるガラスやフィルムに機能性膜を積層することにより各種要求特性を満たす素材として種々の分野に汎用されている。
【0003】
例えば、車両や建築物に使用される窓ガラス等において、近年の省エネルギー意識の高まりから、断熱性や遮熱性が付与された低放射ガラス(Low-Eガラス)が用いられている。低放射ガラスは、ガラス基板上に金属酸化物等からなる機能層を1層あるいは複数層積層することにより構成され、機能層として、例えば、熱線反射層、熱線吸収層、可視光反射層、可視光吸収層、光学調整層等を備えている。
【0004】
車両や建築物の用途では、プライバシー保護のために膜付き基材が濃色である、すなわち可視光透過率が比較的低いことが求められる場合があり、このような場合には機能層として可視光吸収層を設けることが好適である。また、遮熱性と可視光吸収性をともに備える層として可視光吸収層を設けることもできる。
【0005】
上記機能層を成膜する方法の一つとして、CVD(化学気相成膜)法が知られている。例えば、特許文献1、2には、オンラインCVD法により徐冷炉内でガラスリボン上に積層膜を形成することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】国際公開第2013/008894号
【特許文献2】国際公開第2014/112482号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、機能層として可視光吸収層を含む膜付き基材をCVD法により製膜した場合、得られる膜付き基材を光に透かして透過光を見た際に縞状の透過率のムラ(以下、透過ムラともいう。)が生じてしまう場合があった。
【0008】
そこで、本発明は、透過ムラを低減し、輝度やコントラストを均質化させた膜付き基材及びその製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、鋭意検討の結果、CVD法による可視光吸収層の成膜の際に2つ以上のコーターを使用することで、上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。また、かかる方法で不純物元素をドープしたドープ型金属酸化物からなる可視光吸収層を成膜した膜付き基材において、X線光電子分光法により可視光吸収層の膜厚方向の不純物濃度分布を測定すると、不純物濃度が極大となるピークが2つ以上確認されることがわかった。
【0010】
すなわち、本発明は、以下の(1)~(6)に関する。
(1)主材と前記主材上に配置される膜とを備えた膜付き基材であって、前記主材がガラスであり、前記主材は相互に対向する第1の面及び第2の面を有し、前記主材の前記第1の面に前記膜が位置しており、前記膜は不純物元素をドープしたドープ型金属酸化物からなる可視光吸収層を含み、X線光電子分光法により前記可視光吸収層の膜厚方向の不純物濃度分布を測定した際に、不純物濃度が極大となるピークが2つ以上確認される、膜付き基材。
(2)前記可視光吸収層はアンチモンドープ酸化スズ膜である、前記(1)に記載の膜付き基材。
(3)前記膜付き基材のA光源透過率が30%未満である、前記(1)又は(2)に記載の膜付き基材。
(4)主材上に膜を成膜することを含む膜付き基材の製造方法であって、前記主材がガラスであり、前記膜の成膜において、可視光吸収層を前記ガラスの製造ライン上で熱CVD法により成膜することを含み、2つ以上のコーターを使用して前記可視光吸収層を成膜する、膜付き基材の製造方法。
(5)前記可視光吸収層は不純物元素をドープしたドープ型金属酸化物からなる、前記(4)に記載の膜付き基材の製造方法。
(6)得られる膜付き基材のA光源透過率が30%未満である、前記(4)又は(5)に記載の膜付き基材の製造方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明の膜付き基材は、透過ムラが低減され、視覚的にクリアで美観に優れる。よって、本発明の膜付き基材は、車両や建築物等のガラス部材等に好適に利用できる。
【0012】
本発明の膜付き基材の製造方法によれば、透過ムラが低減され、美観に優れる膜付き基材を製造できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1図1は、本発明の膜付き基材の一実施形態の構成を説明するための膜付き基材の断面図である。
図2図2は、可視光吸収層の膜厚方向の不純物濃度分布の例を示す図であり、(a)は例1で作製した膜付き基材の可視光吸収層の不純物濃度分布を示す図、(b)は例5で作製した膜付き基材の可視光吸収層の不純物濃度分布を示す図、(c)は例6で作製した膜付き基材の可視光吸収層の不純物濃度分布を示す図である。
図3図3は、本発明の膜付き基材の他の実施形態の構成を説明するための膜付き基材の断面図である。
図4図4は、本発明の膜付き基材の製造方法に用いられる製造装置の一例を模式的に示す図である。
図5図5は、コーターの構成例を模式的に示す図である。
図6図6は、コントラスト比を求めるためのサンプル撮影方法を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明を詳細に説明するが、本発明は以下の実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、任意に変形して実施できる。また、数値範囲を示す「~」とは、その前後に記載された数値を下限値及び上限値として含む意味で使用される。なお、図面に記載の実施形態は、本発明を明瞭に説明するために模式化されており、実際のサイズや縮尺を必ずしも正確に表したものではない。
【0015】
(膜付き基材)
本発明の実施形態に係る膜付き基材は、主材と前記主材上に配置される膜とを備えた膜付き基材であって、前記主材がガラスであり、前記主材は相互に対向する第1の面及び第2の面を有し、前記主材の前記第1の面に前記膜が位置しており、前記膜は不純物元素をドープしたドープ型金属酸化物からなる可視光吸収層を含み、X線光電子分光法により前記可視光吸収層の膜厚方向の不純物濃度分布を測定した際に、不純物濃度が極大となるピークが2つ以上確認される。
【0016】
本発明の実施形態に係る膜付き基材において、可視光吸収層が不純物元素をドープしたドープ型金属酸化物からなり、X線光電子分光法により可視光吸収層の膜厚方向の不純物濃度分布を測定した際に、不純物濃度が極大となるピークが2つ以上確認されることは、可視光吸収層がCVD法により2つ以上のコーターを使用して成膜されたことを意味する。これにより、本発明の実施形態に係る膜付き基材の透過ムラが抑制され、美観に優れる。
【0017】
図1に示した本発明の膜付き基材の一実施形態である膜付き基材10は、主材1と該主材1上に配置される膜2とを備えている。主材1は相互に対向する第1の面1a及び第2の面1bを有し、主材1の第1の面1aに膜2が設置されている。
本実施形態では、膜2は可視光吸収層3を含んで構成されている。膜2は1層からなるものであってもよいし、2層以上からなる積層膜であってもよい。また、膜2が2層以上の場合は、異なる組成の可視光吸収層3を複数層有していてもよいし、他の機能層を有してもよい。なお、本実施形態において、可視光吸収層は2つ以上のコーターを使用して成膜されたものであるが、「可視光吸収層が1層からなる」という場合、可視光吸収層が、2つ以上のコーターで実質的に同じ組成の層を連続的に積層して成膜して成膜された1つの層からなることを意味する。連続的に積層された層が「実質的に同じ組成の層」であるとは、意図的な組成の変更を行わずに同じ組成の層が積層されたことを意味する。すなわち、意図的な組成の変更を行っていないが、2つ以上のコーターで成膜したことに由来して不可避的にわずかに膜厚方向の組成の分布が変化するような場合は、「実質的に同じ組成の層」であると判断する。例えば、層を構成する金属酸化物種が同じであり、不純物濃度の差が5mol%以下であるような場合は「実質的に同じ組成の層」であると判断できる。
【0018】
(主材)
主材1は、膜付き基材10の骨格となり、自己支持性を有するものである。
本実施形態に係る膜付き基材の主材を構成する材料は、ガラスである。
【0019】
ガラスとしては、例えば、ソーダライムシリケートガラス、アルミノシリケートガラス、ボレートガラス、リチウムアルミノシリケートガラス、石英ガラス、ホウケイ酸ガラス、無アルカリガラス等が挙げられる。
【0020】
主材は、膜付き基材の使用用途や使用目的に応じて、透明、半透明、不透明のいずれも選択できる。また、主材は、無色であっても、着色がされていてもよい。特に、主材として無色透明なガラスを用いると、ガラス製造時に不純物を添加することが不要となり、生産性が向上する。なお、無色透明であるとは、具体的に、主材の可視光透過率(T、ISO 9050:2003により測定される可視光透過率)が85%以上であることをいう。
【0021】
無色透明の主材を用いる場合、主材の可視光透過率(T)は、85%以上であるのが好ましく、86%以上がより好ましく、87%以上がさらに好ましく、88%以上が特に好ましい。鮮明性の観点から透過率は高いほど好ましいので、上限は特に限定されない。
【0022】
主材の形状は特に限定されず、板状、フィルム状、シート状等が挙げられ、使用用途に応じて任意の形状が可能である。例えば、車両用部材、建築用部材に使用するためには板状であるのが好ましい。
【0023】
主材の厚みは膜付き基材の使用用途や使用目的に応じて適宜調整すればよい。
例えば、膜付き基材を車両用部材に使用する場合、主材の厚みは5mm以下であるのが好ましく、4.5mm以下がより好ましく、3.8mm以下がさらに好ましく、2.8mm以下が特に好ましく、また、1mm以上であるのが好ましく、1.3mm以上がより好ましく、1.6mm以上がさらに好ましい。すなわち、車両用部材用途では主材の厚みは1~5mmであるのが好ましい。
膜付き基材を建築用部材に使用する場合、主材の厚みは4~12mmであるのが好ましい。主材の厚みは、4.1mm以上であるのがより好ましく、5.1mm以上がさらに好ましく、また、10mm以下であるのがより好ましく、8mm以下がさらに好ましい。
【0024】
主材の大きさ(面積)は特に限定されず、膜付き基材の使用用途や使用目的に応じて適宜調整すればよい。
例えば、膜付き基材を車両に利用する場合、主材の主面の面積は0.5~5mであるのが好ましく、膜付き基材を建築物に利用する場合、主材の主面の面積は0.5~10mであるのが好ましい。
【0025】
(膜)
本発明の膜付き基材10は、主材1に積層される膜2が可視光吸収層3を含む。
【0026】
<可視光吸収層>
可視光吸収層3は、日射熱を反射して、膜付き基材に遮熱性を与える層であり、結晶性を有している。可視光吸収層3は、上記遮熱性を有するとともに、可視光吸収性を有する。
【0027】
CVD法により各種機能層を成膜した場合、成膜面上の位置による膜厚のムラが生じる場合があるが、可視光吸収性が大きい層であるほど、膜厚のムラに起因して透過ムラが大きくなりやすい。そのため、可視光吸収層を有する膜付き基材においては透過ムラが生じやすい。これに対し、本発明においては、可視光吸収層が2つ以上のコーターを使用して成膜されたものであることで透過ムラが抑制され、美観に優れることを見出したものである。
【0028】
可視光吸収層は、不純物元素をドープしたドープ型金属酸化物からなる。可視光吸収層をドープ型金属酸化物により形成することで、可視光吸収層に所望の機能を付与できる。
【0029】
金属酸化物としては、例えば、酸化スズ、酸化インジウム、酸化亜鉛、酸化チタン、酸化ニオブ、酸化タンタル等の金属酸化物が挙げられる。
ドープ型金属酸化物にドープさせる不純物元素としては、例えば、アンチモン、フッ素、スズ、カリウム、アルミニウム、タンタル、ニオブ、窒素、ホウ素、インジウム、炭素等が挙げられる。
【0030】
ドープ型金属酸化物からなる可視光吸収層において、ドープされる不純物元素の濃度はドープする不純物元素により適宜設定すればよいが、0.1~30mol%の範囲が好ましい。不純物元素の濃度が0.1mol%以上であると、膜付き基材の透過率を所定の値まで下げやすく、30mol%以下であると、ドープ前の結晶構造を維持できる。
【0031】
本発明では、可視光吸収層はアンチモンドープ酸化スズ(ATO、SnOにSbを添加した金属酸化物)からなる膜を備えるのが好ましい。アンチモンドープ酸化スズ膜は、基材の内部に伝わる熱の量を小さくして、膜付き基材に優れた遮熱性を与えられる。
【0032】
可視光吸収層に含まれるアンチモン濃度は10~30mol%であるのが好ましい。可視光吸収層中のアンチモン濃度が10mol%以上であると、遮熱性を発現でき、アンチモン濃度が30mol%以下であると、ドープ前の結晶構造を維持できる。可視光吸収層に含まれるアンチモン濃度は、12mol%以上であるのがより好ましく、14mol%以上がさらに好ましく、16mol%以上が特に好ましく、また、25mol%以下であるのがより好ましく、23mol%以下がさらに好ましく、20mol%以下が特に好ましい。
【0033】
本発明の実施形態に係る膜付き基材において、可視光吸収層が不純物元素を含有するドープ型金属酸化物からなる場合、X線光電子分光法により可視光吸収層の膜厚方向の不純物濃度分布を測定した際に、不純物濃度が極大となるピークが2つ以上確認される。これは、先述の通り、可視光吸収層がCVD法により2つ以上のコーターを使用して成膜されたことを意味する。
【0034】
なお、可視光吸収層の組成やドープされる不純物元素の濃度は、X線光電子分光法(XPS)や二次イオン質量分析法(SIMS)により同定できる。
例えば、アンチモンドープ酸化スズ膜におけるアンチモン(Sb)濃度は、X線光電子分光法(XPS)による深さ方向の分析を行い、SbとSnの強度比から調べられる。フッ素ドープ酸化スズ膜のフッ素(F)濃度は、二次イオン質量分析法(SIMS)による深さ方向の分析を行い、FとSnの強度比から調べられる。なお、SIMSによる場合は、濃度既知のフッ素添加錫SnOを測定し、F/Snの強度比から濃度に変換する係数を求める。可視光吸収層における不純物元素の濃度は、測定された層の深さ方向の濃度を平均化した値を使用する。
ここで、X線光電子分光法により可視光吸収層の膜厚方向の不純物濃度分布を測定した際の不純物濃度が極大となるピークとは、膜厚方向における不純物濃度分布を測定したときの山をいう。ただし、膜表面がピークになる山は含まない。
【0035】
図2に、X線光電子分光法による可視光吸収層の膜厚方向の不純物濃度分布の一例を示す。図2の(a)~(c)はCVD法により製膜された可視光吸収層(アンチモンドープ酸化スズ膜)の膜厚方向の不純物濃度分布を示す図である。図2の(a)における可視光吸収層は1つのコーターを使用して成膜されたものであり、図2の(b)及び(c)における可視光吸収層はそれぞれ、2つのコーターを使用して成膜されたものである。図2の(a)~(c)においては、図中に矢印で示すように、不純物濃度が極大となるピークが確認できる。1つのコーターを使用した図2の(a)ではピークが1つであり、2つのコーターを使用した図2の(b)及び(c)ではそれぞれピークが2つである。これらから、上記不純物濃度分布を測定した際に、不純物濃度が極大となるピークが2つ以上確認されれば、可視光吸収層がCVD法により2つ以上のコーターを使用して成膜されたと判断できることがわかる。
【0036】
本発明の膜付き基材は可視光吸収層がCVD法により2つ以上のコーターを使用して成膜されたものであることで、すなわち、上記不純物濃度分布において不純物濃度が極大となるピークが2つ以上確認されることで、透過ムラが抑制されている。その理由としては、比較的可視光透過率の低い層が2つ以上のコーターを使用して成膜されることで、膜厚ムラやそれによる透過ムラが生じたとしても、各コーターに由来して生じるムラのパターンが異なることによりムラが均質化され、結果的に得られる可視光吸収層の膜厚ムラが低減されるためと考えられる。
【0037】
可視光吸収層は、1層の膜からなるものであってもよいし、材料や金属含有量等が異なる2層以上の膜からなるものであってもよい。本発明の効果が得られる範囲において、1層の膜を2つ以上のコーターで成膜してもよいし、2層以上の膜を2つ以上のコーターで成膜してもよい。透過ムラをより好適に抑制する観点からは、1層の膜を2つ以上のコーターで成膜することが好ましい。例えば、可視光吸収層がアンチモンドープ酸化スズ膜である場合、アンチモンドープ酸化スズ膜が2つ以上のコーターで成膜されたものであることが好ましい。この場合、膜付き基材において、X線光電子分光法によりアンチモンドープ酸化スズ膜の膜厚方向の不純物濃度分布を測定した際に、不純物濃度が極大となるピークが2つ以上確認される。
【0038】
本発明において、可視光吸収層の厚みは100~900nmであるのが好ましい。可視光吸収層の厚みが100nm以上であると、膜付き基材に十分な遮熱性を与えることができ、また膜付き基材の透過率を所定の値に調整しやすい。また、可視光吸収層中で結晶粒をある程度の大きさで成長させられるので、可視光吸収層の上にさらに別の機能層を結晶成長により製膜する場合に、他の機能層における結晶粒径を成長させやすくなる。可視光吸収層の厚みが900nm以下であると、膜表面を平坦に保ちやすいので、膜厚偏差を小さくでき、透過ムラの発生をより抑制できる。
可視光吸収層の厚みは、120nm以上であるのがより好ましく、150nm以上がさらに好ましく、200nm以上が特に好ましく、600nm以下であるのがより好ましく、450nm以下がさらに好ましく、300nm以下が特に好ましい。
【0039】
なお、可視光吸収層の厚みは、膜付き基材の所望する透過率、ドープ型金属酸化物にドープされる不純物元素の種類や含有量に応じて調整すればよい。
【0040】
可視光吸収層の厚みは、X線光電子分光測定による深さ方向の分析等により測定できる。
なお、可視光吸収層は、金属酸化物の結晶粒により成膜されるので、主材側とは反対側の面に凹凸形状を有する。よって、可視光吸収層の「厚み」は場所によって異なるが、本発明においては測定領域における可視光吸収層の平均厚みを表すものとする。
【0041】
本発明の膜付き基材の膜は、可視光吸収層以外に他の機能層を備えていてもよい。他の機能層としては、例えば、図3に示すように、赤外線反射層5、光学調整層7等が挙げられる。
【0042】
<赤外線反射層>
赤外線反射層5は、赤外線を反射し、膜付き基材に断熱性を付与する層であり、結晶性を有している。膜付き基材20が赤外線反射層を備える場合は、主材1に近い側から可視光吸収層3と赤外線反射層5を備える。
【0043】
赤外線反射層を形成する材料としては、例えば、酸化スズ、酸化インジウム、酸化亜鉛、酸化チタン、酸化タンタル及び酸化ニオブからなる群から選択される少なくとも1つの金属酸化物に他の元素(不純物元素)をドープしたドープ型金属酸化物が挙げられる。
ドープさせる不純物元素としては、例えば、フッ素、アンチモン、スズ、カリウム、アルミニウム、タンタル、ニオブ、窒素、ホウ素、インジウム、炭素等が挙げられる。
【0044】
具体的なドープ型金属酸化物としては、例えば、フッ素ドープ酸化スズ(FTO、SnOにFを添加した金属酸化物)、アンチモンドープ酸化スズ(ATO、SnOにSbを添加した金属酸化物)、スズドープ酸化インジウム(ITO、InにSnを添加した金属酸化物)、ガリウムドープ酸化亜鉛(GZO、ZnOにGaを添加した金属酸化物)、アルミニウムドープ酸化亜鉛(AZO、ZnOにAlを添加した金属酸化物)、タンタルドープ酸化スズ(SnOにTaを添加した金属酸化物)、ニオブドープ酸化スズ(SnOにNbを添加した金属酸化物)、タンタルドープ酸化チタン(TiにTaを添加した金属酸化物)、ニオブドープ酸化チタン(TiにNbを添加した金属酸化物)、アルミニウムドープ酸化スズ(SnOにAlを添加した金属酸化物)、フッ素ドープ酸化チタン(TiにFを添加した金属酸化物)、窒素ドープ酸化チタン(TiにNを添加した金属酸化物)等が挙げられる。
【0045】
中でも、赤外線反射層は、酸化スズ、酸化インジウム及び酸化亜鉛からなる群から選択される少なくとも1つの金属酸化物に他の元素をドープしたドープ型金属酸化物からなる膜を備えるのが好ましく、他の元素は、フッ素、アンチモン、スズ、ガリウム及びアルミニウムからなる群から選択される少なくとも1つであるのが好ましい。
具体的に、赤外線反射層が、フッ素ドープ酸化スズ(FTO)、アンチモンドープ酸化スズ(ATO)、スズドープ酸化インジウム(ITO)、ガリウムドープ酸化亜鉛(GZO)及びアルミニウムドープ酸化亜鉛(AZO)からなる群から選択される少なくとも1つのドープ型金属酸化物の膜を備えるのがより好ましく、より高い断熱性を得るという観点から、フッ素ドープ酸化スズ(FTO)膜を備えるのがさらに好ましい。
【0046】
赤外線反射層は、1層の膜からなるものであってもよいし、材料や元素含有量等が異なる2層以上の膜からなるものであってもよい。
【0047】
赤外線反射層に含まれる不純物元素の含有量は、ドープする不純物元素により適宜設定すればよいが、濃度が0.01~20mol%であるのが好ましい。赤外線反射層に含まれる不純物元素の濃度が0.01mol%以上であると、断熱効果を発現できるとともに、膜付き基材の透過率を所定の値に調整しやすく、20mol%以下であると良好な結晶性を維持できる。
赤外線反射層に含まれる不純物元素の濃度は、0.01mol%以上であるのが好ましく、0.1mol%以上がより好ましく、0.5mol%以上がさらに好ましく、また10mol%以下であるのがより好ましく、8mol%以下がさらに好ましく、5mol%以下が特に好ましい。
なお、不純物元素の濃度は、赤外線反射層中に複数の不純物元素を含む場合は、その総量である。
【0048】
なお、赤外線反射層の組成や不純物元素の濃度は、上記したように、X線光電子分光法(XPS)や二次イオン質量分析法(SIMS)により同定できる。
【0049】
本発明において、赤外線反射層の厚みは、100~400nmであるのが好ましい。赤外線反射層の厚みが100nm以上であると、膜付き基材における断熱性能が向上し、また膜付き基材の透過率を所定の値に調整しやすい。赤外線反射層の厚みが400nm以下であると表面を平坦にできる。
赤外線反射層の厚みは、120nm以上であるのがより好ましく、130nm以上がさらに好ましく、150nm以上が特に好ましく、また、380nm以下であるのがより好ましく、350nm以下がさらに好ましい。
【0050】
赤外線反射層の厚みは、X線光電子分光測定による深さ方向分析等により測定できる。
赤外線反射層が異種材料の複層で構成される場合、赤外線反射層の「厚み」は、各層の厚みの合計で表される。
なお、赤外線反射層は、金属酸化物の結晶粒により成膜され、赤外線反射層が積層される可視光吸収層の表面は凹凸形状であるので、層の表面(すなわち、可視光吸収層側表面と該可視光吸収層とは反対側の表面)に凹凸形状を有する。よって、赤外線反射層の「厚み」は場所によって異なるが、本発明においては測定領域における赤外線反射層の平均厚みを表すものとする。
【0051】
膜付き基材が赤外線反射層を備える場合、可視光吸収層と赤外線反射層は同じ組成の膜を用いて形成してもよいが、その機能に応じて膜厚、濃度等を変化させることにより、必要な機能に応じた特性を持たせられる。
【0052】
なお、可視光吸収層と赤外線反射層は、同じ種類の金属酸化物を含んで形成されるのが好ましい。可視光吸収層に含まれる金属酸化物と赤外線反射層に含まれる金属酸化物が同じ種類であると、赤外線反射層を形成する際に結晶粒の成長が途切れることがなく、赤外線反射層における結晶粒を大きく成長させられる。例えば、可視光吸収層を構成する金属酸化物が酸化スズである場合、赤外線反射層はドープ型酸化スズ膜であるのが好ましい。具体的に、可視光吸収層がアンチモンドープ酸化スズ(ATO)膜からなり、赤外線反射層がフッ素ドープ酸化スズ(FTO)膜からなるのが好ましい。
【0053】
赤外線反射層がフッ素ドープ酸化スズ(FTO)を含む場合、赤外線反射層に含まれるフッ素濃度は、0.01mol%以上であるのが好ましく、0.05mol%以上がより好ましく、0.1mol%以上がさらに好ましい。また、不活性なフッ素の混入を抑え、フッ素散乱が小さくなるため移動度が高くできるという観点から、フッ素濃度は、10mol%以下であるのが好ましく、5mol%以下がより好ましく、3mol%以下がさらに好ましい。
【0054】
<光学調整層>
光学調整層7は、反射色、透過色を所定の色に調整する層である。図3に示したように、膜付き基材20が光学調整層7を備える場合、光学調整層7は、主材1と可視光吸収層3との間に配置されるのが好ましい。
【0055】
光学調整層を構成する材料としては、例えば、炭化酸化ケイ素(SiOC)、酸化ケイ素(SiO)、酸化チタン(TiO)、酸化スズ(SnO)、窒化酸化ケイ素(SiON)等が挙げられる。光学調整層は1層からなるものであってもよいし、2層以上の膜からなるものであってもよい。また、上記材料いずれか2つ以上の混合物であってもよい。
【0056】
具体的に、光学調整層としては、SiOC膜、主材側からSiOC膜及びSiO膜の順に積層されるSiOC/SiO積層膜、主材側からTiO膜及びSiO膜の順に積層されるTiO/SiO積層膜、主材側からSnO膜及びSiO膜の順に積層されるSnO/SiO積層膜等が挙げられる。
中でも、アルカリバリア性の観点から、光学調整層にはケイ素が含まれることが好ましく、SiOC膜、SiOC/SiO積層膜、TiO/SiO積層膜及びSnO/SiO積層膜からなる群から選択される少なくとも1つの膜を有するのがより好ましく、SiOC膜を備えているのがさらに好ましい。
【0057】
光学調整層全体に含まれるケイ素の量は、5~40mol%の範囲であるのが好ましく、10~33mol%がより好ましい。
【0058】
光学調整層の厚みは、10~100nmであるのが好ましい。光学調整層の厚みが10nm以上であると、主材表面を一様に被覆することができ、100nm以下であると、光学調整層内で新たな光干渉が発生するのを抑制し、光学調整層として所望の効果を発揮できる。
光学調整層の厚みは、20nm以上であるのがより好ましく、25nm以上がさらに好ましく、30nm以上が特に好ましく、また、100nm以下であるのが好ましく、90nm以下がより好ましく、80nm以下がさらに好ましく、70nm以下が特に好ましい。
【0059】
なお、光学調整層が異種材料の複層で構成される場合、光学調整層の「厚み」は、各層の厚みの合計で表される。
【0060】
<その他の層>
本発明の膜付き基材には、本発明の効果を損なわない範囲において、その他の層を備えていてもよい。
その他の層としては、オーバーコート層等が挙げられる。
【0061】
本発明の膜付き基材は、膜が可視光吸収層以外に他の機能層を有する場合は、膜の総厚みが、500~1600nmであるのが好ましい。膜の厚みが500nm以上であると、各層の機能が十分に発揮され、また透過率も調整しやすい。また膜の厚みが1600nm以下であると、膜付き基材の厚みが厚くなり過ぎることがない。
【0062】
(膜付き基材の物性)
本発明の膜付き基材は、基材表面(膜側の表面)の算術平均粗さRaが40nm以下であるのが好ましい。基材表面の算術平均粗さRaが40nm以下であると、本発明の効果が得られやすい。基材表面の算術平均粗さRaは、30nm以下がより好ましく、20nm以下がさらに好ましく、また、防眩性の観点から、1nm以上が好ましく、3nm以上がより好ましく、5nm以上がさらに好ましい。
【0063】
膜付き基材の表面の算術平均粗さRaは、例えば、原子間力顕微鏡(AFM)、共焦点光学系レーザ顕微鏡、接触型の表面粗さ計等を用いる公知の方法で測定できる。
【0064】
本発明の膜付き基材は、標準A光源に基づく可視光透過率(Tva、A光源透過率)が30%未満であるのが好ましい。A光源透過率(Tva)が30%未満であると、十分な熱線吸収性を担保できるとともに、膜付き基材が好適な可視光吸収性を有する。
A光源透過率(Tva)は、28%以下であるのがより好ましく、25%以下がさらに好ましく、20%以下が特に好ましい。また、自動車や建築物に使われたときに望ましい外観にできるという観点から、A光源透過率(Tva)は、1%以上であるのが好ましく、2%以上がより好ましく、4%以上がさらに好ましい。
【0065】
また、膜付き基材の日射透過率(T)は30%未満であるのが好ましい。日射透過率(T)が30%未満であると、十分な熱線吸収性を担保できるとともに、膜付き基材が好適な可視光吸収性を有する。
日射透過率(T)は、28%以下であるのがより好ましく、25%以下がさらに好ましく、20%以下が特に好ましい。また、自動車や建築物に使われたときに望ましい外観にできるという観点から、日射透過率(T)は、1%以上であるのが好ましく、2%以上がより好ましく、4%以上がさらに好ましい。
【0066】
A光源透過率(Tva)及び日射透過率(T)は、市販の分光光度計(例えば、PerkinElmer社製「Lambda 1050」等)を用いて測定できる。
【0067】
なお、A光源透過率及び日射透過率は、膜中の不純物濃度や膜を構成する各層の厚みを調整することで、所望の透過率となるよう調整できる。
【0068】
また、膜付き基材は、膜側の表面の放射率(E)が0.25未満であるのが好ましい。膜側表面の放射率(E)が0.25未満であると、優れた断熱性を得られる。
放射率(E)は、0.23以下であるのがより好ましく、0.20以下がさらに好ましい。また、放射率は低いほど断熱性に優れるため放射率の下限は特に限定されないが、0.01以上であるのが好ましく、0.02以上がより好ましく、0.04以上がさらに好ましい。
【0069】
放射率は、物体が熱放射で放出する光のエネルギー(放射輝度)を、同温の黒体が放出する光(黒体放射)のエネルギーを1としたときの比である。膜付き基材の放射率は、膜側表面を、JIS R3106(2019)に記載の方法で、市販の放射率計(例えば、Devices&Services社製「Emissometer model AE1」)を用いて測定できる。
【0070】
放射率は、赤外線反射層の膜厚、キャリア密度、移動度、シート抵抗等を調整することにより所望の値となるようにより調整できる。
【0071】
また、膜付き基材のシート抵抗の値は、30Ω/□(ohm/square)以下であるのが好ましい。放射率とシート抵抗は相関があり、シート抵抗が30Ω/□以下であると、電気が流れやすいため放射率が低くなり、よって優れた断熱性を得られる。
シート抵抗の値は、25Ω/□以下であるのがより好ましく、20Ω/□以下がさらに好ましい。また、シート抵抗の値が低いほど電気が流れやすくなり放射率が低くなるため、シート抵抗の値の下限は特に限定されないが、1Ω/□以上であるのが好ましく、2Ω/□以上がより好ましく、3Ω/□以上がさらに好ましい。
【0072】
シート抵抗の値は、ホール効果測定により測定できる。
【0073】
本発明の膜付き基材は、入射角10度でD65光源の光を入射したときのL表色系における反射色の色座標aが5~-20であるのが好ましく、bが10~-20であるのが好ましい。L表色系では、色彩と彩度をa及びbで表し、aが大きい(+a)と赤方向、aが小さい(-a)と緑方向、そして、bが大きい(+b)と黄方向、bが小さい(-b)と青方向を示す。
【0074】
値は、-15以上であるのがより好ましく、-12以上がさらに好ましく、また、2以下であるのがより好ましく、0以下がさらに好ましい。b値は、-15以上であるのがより好ましく、-10以上がさらに好ましく、また、5以下であるのがより好ましく、2以下がさらに好ましい。
【0075】
また、本発明の膜付き基材は、入射角10度でD65光源の光を入射したときのL表色系における反射色の色座標Lが42以下であるのが好ましい。Lは明度を表し、L値が42以下であると反射光の強度を抑え、望ましくない映り込みを抑えられる。L値は、40以下であるのがより好ましく、35以下がさらに好ましい。また、下限値は特にないが、一般的な赤外線反射層の反射率を考えると、L値は20以上であるのが好ましく25以上がさらに好ましく、30以上が特に好ましい。
【0076】
値、b値及びL値は、紫外可視分光高度計や色度計により測定でき、これらの計測器を用いて入射角10度でD65光源の光を照射したときの値を測定する。
【0077】
本発明において、a値、b値及びL値は、膜中の不純物濃度や膜を構成する各層の厚みを調整することで、所望の値となるよう調整できる。
【0078】
また、膜付き基材の膜の移動度は、20cm/Vs以上であるのが好ましい。移動度が高いほど優れた電気伝導性を持ち、結果的に断熱性が向上する。移動度が20cm/Vs以上であると、優れた断熱性が得られる。
膜の移動度は、25cm/Vs以上であるのがより好ましく、27cm/Vs以上がさらに好ましく、30cm/Vs以上が特に好ましく、35cm/Vs以上が最も好ましい。また、移動度は高ければ高いほどよいため上限は特に限定されないが、100cm/Vs以下であるのが好ましく、90cm/Vs以下がより好ましく、80cm/Vs以下がさらに好ましい。
【0079】
なお、膜付き基材の移動度は、ホール効果測定により測定できる。
【0080】
膜付き基材のキャリア密度は、1×1019/cm以上であるのが好ましい。キャリア密度とは、物質中の単位体積あたりの自由電子あるいは正孔の数のことをいう。膜付き基材のキャリア密度が1×1019/cm以上であると、優れた断熱性が得られる。
膜付き基材のキャリア密度は、2×1019/cm以上であるのがより好ましく、5×1019/cm以上がさらに好ましく、1×1020/cm以上が特に好ましい。また、キャリア密度は高ければ高いほどよいため上限は特に限定されないが、1×1022/cm以下であるのが好ましく、1×1021/cm以下がより好ましく、5×1020/cm以下がさらに好ましい。
【0081】
なお、膜付き基材のキャリア密度は、ホール効果測定により測定できる。
【0082】
また、膜付き基材は、ヘイズ(Haze)が10%以下であるの好ましい。ヘイズ(Haze)が10%以下であると、膜付き基材において白濁が視認されるのを抑制し、美観に優れた膜付き基材を得られる。
ヘイズ(Haze)は9%以下であるのがより好ましく、7%以下がさらに好ましく、5%以下が特に好ましい。また、ヘイズ(Haze)は小さいほど好ましいため、下限は特に限定されない。
【0083】
ヘイズ(Haze)は、市販の測定器(例えば、スガ試験機株式会社製ヘーズメーター「HZ-V3」等)を用いて測定できる。また、JIS K 7136:2000に記載の方法で測定できる。
【0084】
(膜付き基材の製造方法)
本発明の実施形態に係る膜付き基材の製造方法(以下、本製造方法ともいう。)について説明する。本製造方法は、主材上に膜を成膜することを含む。本製造方法において、前記主材はガラスであり、前記膜の成膜において、不純物元素をドープしたドープ型金属酸化物からなる可視光吸収層を前記ガラスの製造ライン上で熱CVD法により成膜することを含み、2つ以上のコーターを使用して前記可視光吸収層を成膜する。本明細書において、ガラスの製造ライン上で熱CVD法により膜を成膜する方法を、オンラインCVD法という場合がある。以下、本製造方法の一例について説明する。
【0085】
本発明の実施形態に係る膜付き基材の製造方法は、オンラインCVD法により可視光吸収層を成膜することを含み、可視光吸収層を成膜する際に2つ以上のコーターを使用する。これにより、得られる膜付き基材の透過ムラを抑制できる。その理由としては、比較的可視光透過率の低い層が2つ以上のコーターを使用して成膜されることで、膜厚ムラやそれによる透過ムラが生じたとしても、各コーターに由来して生じるムラのパターンが異なることによりムラが均質化され、結果的に得られる可視光吸収層の膜厚ムラが低減されるためと考えられる。
【0086】
ガラスの製造ライン上で熱CVD法により膜を成膜する場合、膜付き基材の主材はガラスである。ガラスの具体的な好ましい態様は上述した通りであり、例えばソーダライムシリケート系の高透過ガラスであってもよい。
【0087】
可視光吸収層を熱CVD法で成膜することで、SbがSnサイトを置換し、結晶構造の中に取り込まれた膜を得るのに好適な高温プロセスとなる。これにより、優れた熱線吸収性を有する膜を成膜できる。さらに、大気圧CVD法で形成できると、大掛かりな真空装置が不要となり、さらに生産性を高められる。そして、オンラインCVD法は、フロート法で製造されたガラス基板を再加熱して、成膜を実施するオフラインCVD法に比べて製造効率に優れるため好ましい。
【0088】
オンラインCVD法において、ガラスの製造ライン上で熱CVD法により膜を成膜する場合のガラスの製造ラインとは、例えば、フロート法によりガラスを製造する場合の製造ラインである。フロート法による場合のガラス製造装置は、例えば、ガラスの原料を溶解する溶解炉と、溶融ガラスを溶融金属上に浮かせてガラスリボンを成形するフロートバスと、前記ガラスリボンを徐冷する徐冷炉と、を備える。熱CVD法による成膜は、例えばフロートバスや徐冷炉において、ガラスリボンに対して行う。フロートバスでは溶融金属の酸化を抑制するために酸化物の成膜条件に制約がある場合があるため、特に酸化物を成膜する場合には徐冷炉において成膜を行うことが好ましい。
【0089】
図4は、本製造方法に用いるガラス製造装置の一例を模式的に示す図であり、ガラス製造装置のうちフロートバス52と徐冷炉54を部分的に示す図である。図4において、ガラスリボン70は、図中の矢印方向に向かって、すなわちフロートバス52側から徐冷炉54側に向かって搬送される。フロートバス52と徐冷炉54との境界領域には、フロートバスの放熱防止のためのシーリングゲート(Sealing Gate)(不図示)が設けられてもよい。徐冷炉54は、例えば、燃焼ガス又は電気ヒーターにより、その出力が制御された熱量を炉内の必要位置に供給して搬送ローラー55で搬送されるガラスリボンを常温に近い温度域までゆっくり冷却することで、ガラスリボンに内在する残留応力をなくし、ガラスリボンに反りや割れが発生するのを抑制する作用を有する。徐冷炉54内には、複数のコーター60(60a~60c)が設けられ、ガラスリボン上にCVD法により膜(積層膜)を形成する。なお、徐冷炉54に入る際のガラスリボンの温度は、ソーダライムシリケートガラスの場合610℃(Tg+50℃)前後であることが多い。
【0090】
図4においては3個のコーター60a~60cが示されており、搬送されるガラスリボン上に積層膜を形成する。各コーター間には、例えば電気ヒーター(不図示)が設けられていてもよい。なお、コーター60の数は、上記に限定されず、積層膜の層数と、可視光吸収層の成膜に用いるコーター数に応じて適宜調整できる。また、電気ヒーターも必要に応じて増減することができる。電気ヒーターにより、徐冷炉内の入口から出口までにガラスリボンの温度が低下しすぎることを防止する。一方でコーター間に設置されるヒーターは、コーター間のガラスリボンを加熱できるが、コーター下面のガラスリボンを加熱することはできない。このヒーターの設置によって、コーターの入口から出口までに冷却されるガラスリボンの温度変化への影響はない。
【0091】
図5は、ガラス製造装置におけるコーターの構成例を模式的に示す図である。コーター60は、ガラスリボン70を挟んで搬送ローラー55と反対側であるガラスリボン70の上方に配置される。各コーターは、ガラスリボンの搬送方向に対して直角方向に細長いスリット状の吹出口61が下面65の略中央部に設けられ、吹出口61の前後方向両側にそれぞれ吹出口61と平行に延びる排気口62が設けられる。
【0092】
吹出口61では、中央に位置する第1のオリフィス61aと、第1のオリフィス61aを挟んで前後方向に位置しそれぞれ第1のオリフィス61aに向かって原料ガス供給源から流路が傾斜するように構成された第2及び第3のオリフィス61b、61cが開口する。これらの吹出口61と排気口62の幅は、ガラスリボン70の幅以上に設定される。また、符号66a、66bは冷却ダクトであり、冷却ガスやオイル等の冷却媒体を循環させて、コーター60を最適な温度、例えば100~220℃(コーター下面で測定)に保つ。コーター60の下面は、原料ガスと接触する面であり、温度が高過ぎるとコーター60の下面に接触した原料ガスが熱で反応を起こし付着して不要な膜が成膜される。このために上限は250℃以下が好ましい。また、温度が低すぎるとガラスリボンとの熱交換量が多くなり、ガラスリボンの急激な温度低下を起こす。このために下限は100℃以上が望ましい。
【0093】
コーター60は、ガラスリボン70上に3mm~30mmの間隔を空けて上方に配置される。従って、コーター60の下面65が、徐冷炉54内に搬送されるガラスリボン70と3mm~30mmの隙間を介して対向配置されることとなる。隙間は小さいほど成膜時の膜厚、膜質、成膜速度に有利であるが、ガラスリボンの反りや振動で隙間が変動した場合には、膜厚、膜質への影響が大きくなる。また、隙間が大きい場合には、成膜時の原料の効率の低下が生じる。膜厚、膜質、成膜速度を考慮すると、隙間は好ましくは4~12mm、より好ましくは5~10mmである。
【0094】
例えば、第1のオリフィス61aからは酸化物膜を形成する化合物の主原料を含むガスを吹き出す。また、第2及び第3のオリフィス61b、61cからは酸化物膜を形成する際の反応ガス(酸素源になるガス)を吹き出す。このように、原料ガスを複数のオリフィスから供給し、被成膜対象である面の表面上で混合してもよいし、原料ガスを予め混合してから供給してもよい。また、排気口62は、CVD反応後の余分なガスを排気する。コーターの具体的な構成は上記に限定されず、本発明の効果が得られる範囲において適宜変更されてもよい。
【0095】
例えば、図4の装置構成で主材上に可視光吸収層としてアンチモンドープ酸化スズ膜を、赤外線反射層としてフッ素ドープ酸化スズ膜を成膜する場合、コーター60aでアンチモンドープ酸化スズ膜を成膜し、さらに、コーター60bでは、コーター60aで成膜したアンチモンドープ酸化スズ膜上にアンチモンドープ酸化スズ膜を成膜する。これにより、2つのコーターを用いて可視光吸収層(アンチモンドープ酸化スズ膜)を成膜する。そして、コーター60cにより、可視光吸収層上に赤外線反射層を成膜する。可視光吸収層の成膜には2つ以上のコーターを用いればよく、コーターの数は3つ以上であってもよい。ガラスリボンの熱状態(温度保持)の観点から、可視光吸収層の成膜に用いるコーターの数は例えば2~4が好ましい。
【0096】
コーターの種類としては、吹出口61から吹き出す気体の流れによって、乱流コーターと層流コーターに分類できる。本製造方法による成膜にはいずれのコーターも使用できる。また、可視光吸収層の成膜に用いる2つ以上のコーターとして、乱流コーターと層流コーターとを組み合わせてもよいし、乱流コーターか層流コーターのいずれか一方のみを複数組み合わせてもよい。
【0097】
可視光吸収層の好ましい膜厚は上述した通りであるが、例えば上述した2つのコーター60a、60bで可視光吸収層を成膜する場合、コーター60aで成膜された部分の膜厚と、コーター60bで成膜された部分の膜厚との比は、特に限定されない。例えば、1:5~5:1であってもよく、1:3~3:1であってもよく、1:2~2:1であってもよい。
【0098】
また、膜付き基板がさらに光学調整層を備える場合、コーター60aより手前にさらにコーター60dを追加して、光学調整層、可視光吸収層、赤外線反射層の順で成膜を行ってもよいし、各層が複数の層から構成される場合等はこれに応じてコーターの数や配置を適宜調整してもよい。
【0099】
次に、各層の成膜方法についてより具体的に説明する。
可視光吸収層は、上記したように、例えば、酸化スズ、酸化インジウム、酸化亜鉛、アンチモンドープ酸化スズ(ATO)、フッ素ドープ酸化スズ(FTO)、スズドープ酸化インジウム(ITO)、ガリウムドープ酸化亜鉛(GZO)、アルミニウムドープ酸化亜鉛(AZO)等、各種薄膜材料を用いて構成できる。
【0100】
例えば、赤外線反射層をフッ素ドープ酸化スズ(FTO)で構成し、可視光吸収層をアンチモンドープ酸化スズ(ATO)で構成し、各層を熱CVD法によって成膜する場合を説明する。
【0101】
可視光吸収層は、原料として、無機系または有機系のスズ化合物と、アンチモン化合物との混合物が使用される。原料ガス中のスズ化合物1molに対するアンチモン化合物の量は、0.06mol以上とすることが好ましい。これにより高濃度のATOが形成できる。
【0102】
スズ化合物としては、モノブチルティントリクロライド(CSnCl)および四塩化スズ(SnCl)などが挙げられる。スズ化合物としては、特に有機系のスズ化合物が好ましい。スズ化合物として無機系のスズ化合物を使用した場合、結晶粒の成長速度が速く、表面の凹凸が激しくなりやすい。
【0103】
アンチモン化合物としては、三塩化アンチモン(SbCl)および五塩化アンチモン(SbCl)などが挙げられる。アンチモン化合物としては、特に三塩化アンチモンが好ましい。例えば、三塩化アンチモンは、原料ガス中の水と激しく反応し、気相中で三酸化アンチモン(Sb)および五酸化アンチモン(Sb)の粒子クラスタを生成する。従って、それらの粒子クラスタを膜に含有させることにより、表面の凹凸の程度を制御できる。
【0104】
可視光吸収層の成膜において、原料ガスは、予め混合してから、搬送されてもよい。あるいは、原料ガスは、被成膜対象であるガラス基板の表面上で混合してもよい。原料物質が液体の場合は、バブリング法や気化装置などを用いて、原料物質を気化させてガス状としてもよい。
【0105】
原料ガス中のスズ化合物1molに対する水の量は、5~50molとすることが好ましい。
水の量が5mol未満であると、形成する膜の抵抗値が増大しやすく、結果としてアンチモンによる熱線吸収機能が低下しやすくなる。また、核生成の起点が少なくなり、結果として結晶粒が大きく成長しやすく、表面の凹凸が激しくなりやすい。さらに、成膜レートが低くなり、生産性が低下する恐れがある。また、三塩化アンチモンも加水分解により反応が進むことが知られており、水比が低すぎる場合は効率的にアンチモンを添加することができず、アンチモン濃度の高い可視光吸収層を得ることができない。原料ガス中のアンチモン化合物1molに対する水の量は、30mol以上とすることが好ましい。一方、水の量が50mol超であると、水の量の増加にともない、原料ガス容量が増大し、原料ガスの流速が高まることにより、着膜効率が低下するおそれがある。また、核生成の起点が多くなり、結果として結晶粒が小さく成長しやすく、表面がフラットになりやすい。
【0106】
原料ガスが酸素を含有する場合、原料ガス中のスズ化合物1molに対する酸素の量は、0mol超40mol以下とすることが好ましく、4~40molがより好ましい。酸素の量が少な過ぎると、生成する膜の抵抗値が増大する場合があるので、4mol以上であるのがより好ましい。一方、酸素の量が40mol超であると、原料ガス容量が増大し、原料ガスの流速が高まることにより着膜効率が低下するおそれがある。
【0107】
可視光吸収層を形成する際の主材(ガラス基板)の温度は、500~650℃であるのが好ましい。
ガラスの温度が500℃未満であると、可視光吸収層の形成速度が低下することがある。また、原料ガスの分解により生成した前駆体は、ガラスおよび可視光吸収層の表面で反応する速度よりも、ガラスおよび可視光吸収層の表面を拡散する速度の方が大きくなる。その結果、より多くの前駆体がガラスおよび可視光吸収層の表面の凹凸に流れ込み、表面がフラットになる傾向にある。一方、ガラスの温度が650℃超であると、ガラスの粘性が低い状態で成膜が実施されるため、ガラスが室温まで降温される過程で、反りが生じるおそれがある。また前記前駆体が、ガラスおよび可視光吸収層の表面を拡散する速度よりも、ガラスおよび可視光吸収層の表面で反応する速度の方が大きくなる。その結果、ガラスおよび可視光吸収層表面の凹凸に前駆体があまり流れ込まなくなり、表面の凹凸が大きくなる傾向にある。
【0108】
可視光吸収層の厚み及び不純物元素の含有量は、原料の種類、原料ガス濃度、可視光吸収層を形成させる層への原料ガスの吹き付け流速、処理温度、コーティングビーム構造由来の反応ガス滞留時間等により制御できる。
【0109】
本発明において、膜付き基材が赤外線反射層を備える場合は、可視光吸収層の上に、赤外線反射層を形成する。
【0110】
赤外線反射層は、上記したように、例えば、フッ素ドープ酸化スズ(FTO)、アンチモンドープ酸化スズ(ATO)、スズドープ酸化インジウム(ITO)、ガリウムドープ酸化亜鉛(GZO)、アルミニウムドープ酸化亜鉛(AZO)等、各種薄膜材料を用いて構成できる。
【0111】
赤外線反射層が、例えば、フッ素ドープ酸化スズ(FTO)またはアンチモンドープ酸化スズ(ATO)で構成される場合、赤外線反射層の表面の凹凸を大きくでき、色調を所定の範囲に調整しやすい。
【0112】
赤外線反射層が、例えば、アルミニウムドープ酸化亜鉛(AZO)またはガリウムドープ酸化亜鉛(GZO)で構成される場合、結晶配向が揃いやすく、表面がフラットになりやすい。
【0113】
また、スズドープ酸化インジウム(ITO)は、赤外線を反射する機能が強く、100nm前後の膜厚帯で使用されることが多い。従って、赤外線反射層がスズドープ酸化インジウム(ITO)で構成された場合は、反射色の色調を所定の範囲に調整することが難しくなることがあり、結晶粒の成長が不十分になり、表面がフラットになりやすい。
【0114】
例えば、赤外線反射層をフッ素ドープ酸化スズ層(FTO)で構成し、熱CVD法によって成膜する場合、原料として、無機系または有機系のスズ化合物と、フッ素化合物との混合物が使用される。
【0115】
スズ化合物としては、上記したように、モノブチルティントリクロライド(CSnCl)および四塩化スズ(SnCl)などが挙げられる。スズ化合物としては、特に有機系のスズ化合物が好ましい。スズ化合物として、無機系のスズ化合物を使用した場合、結晶粒の成長速度が速く、表面の凹凸が激しくなりやすい。
【0116】
フッ素化合物としては、フッ化水素およびトリフルオロ酢酸などが挙げられる。
【0117】
赤外線反射層の成膜において、原料ガスは、予め混合してから、搬送されてもよい。あるいは、原料ガスは、被成膜対象(具体的に、可視光吸収層)の表面上で混合してもよい。原料物質が液体の場合は、バブリング法や気化装置などを用いて、原料物質を気化させてガス状としてもよい。
【0118】
原料ガス中のスズ化合物1molに対する水の量は、5~50molとすることが好ましい。
水の量が5mol未満であると、形成する膜の抵抗値が増大しやすく、結果として赤外線反射機能が低下しやすくなる。また、核生成の起点が少なくなり、結果として結晶粒が大きく成長しやすく、表面の凹凸が激しくなりやすい。一方、水の量が50mol超であると、水の量の増加にともない、原料ガス容量が増大し、原料ガスの流速が高まることにより、着膜効率が低下するおそれがある。また、核生成の起点が多くなり、結果として結晶粒が小さく成長しやすく、表面がフラットになりやすい。
【0119】
原料ガスが酸素を含有する場合、原料ガス中のスズ化合物1molに対する酸素の量は、0mol超40mol以下とすることが好ましく、4~40molがより好ましい。酸素の量が4mol未満であると、生成する膜の抵抗値が増大する場合がある。一方、酸素の量が40mol超であると、原料ガス容量が増大し、原料ガスの流速が高まることにより着膜効率が低下するおそれがある。
【0120】
赤外線反射層の成膜において、原料ガス中のスズ化合物1molに対するフッ素化合物の量は、0.1~1.2molとすることが好ましい。フッ素化合物の量が0.1mol未満である場合や1.2mol超である場合、形成する膜の抵抗値が増大しやすくなる。
【0121】
赤外線反射層を形成する際の温度は、500~650℃であることが好ましい。
処理温度が500℃未満であると、赤外線反射層の形成速度が低下することがある。また、原料ガスの分解により生成した前駆体は、ガラスおよび赤外線反射層の表面で反応する速度よりも、ガラスおよび赤外線反射層の表面を拡散する速度の方が大きくなる。その結果、より多くの前駆体がガラスおよび赤外線反射層の表面の凹凸に流れ込み、表面がフラットになる傾向にある。一方、処理温度が650℃超であると、ガラスの粘性が低い状態で成膜が実施されるため、ガラスが室温まで降温される過程で、反りが生じるおそれがある。また前記前駆体が、ガラスおよび赤外線反射層の表面を拡散する速度よりも、ガラスおよび赤外線反射層の表面で反応する速度の方が大きくなる。その結果、ガラスおよび赤外線反射層表面の凹凸に前駆体があまり流れ込まなくなり、表面の凹凸が大きくなる傾向にある。
【0122】
赤外線反射層の厚み及び不純物元素の含有量は、原料の種類、原料ガス濃度、可視光吸収層を形成させる層への原料ガスの吹き付け流速、処理温度、コーティングビーム構造由来の反応ガス滞留時間等により制御できる。
【0123】
膜付き基材がさらに光学調整層を備える場合、光学調整層は、上記したように、例えば、SiOC、SiO、TiO、SnO等、各種薄膜材料を用いて構成できる。
また、光学調整層は、1層からなるものであってもよいし、2層以上を積層してもよい。
【0124】
例えば、光学調整層が炭化酸化ケイ素(SiOC)層を含む場合、光学調整層は、熱CVD法によって成膜されてもよい。この場合、原料としては、例えば、モノシラン(SiH)、エチレン及び二酸化炭素を含む混合ガスを用いることができる。このような炭素含有ガスを用いた場合、膜状のケイ素化合物とともに、粒子状のケイ素化合物が形成しやすくなり、ヘイズ率を高められる。
原料ガスは、予め混合してからガラス基板の第1の面上に搬送してもよい。あるいは、原料ガスは、ガラス基板の第1の面上で混合してもよい。
【0125】
また、例えば、光学調整層が酸化ケイ素(SiO)層を含む場合、原料としては、例えば、モノシラン(SiH)、テトラエトキシシラン、および酸素などの混合ガスを用いることができる。
【0126】
また、例えば、光学調整層が酸化チタン(TiO)層を含む場合、原料としては、例えば、オルトチタン酸テトライソプロピル(TTIP)、四塩化チタン等が挙げられる。中でも、オルトチタン酸テトライソプロピル(TTIP)がより好ましい。
【0127】
光学調整層を形成する際のガラス基板の温度は、500~900℃であることが好ましい。ガラス基板の温度が500℃未満あるいは900℃超であると、膜の形成速度が低下しやすくなる。
【0128】
例えば、光学調整層としてSiOからなる層(以下、SiO層ともいう)をCVD法で成膜する方法について説明する。
CVD法において、例えば温度500~800℃に加熱されたガラス基板と気体原料とを反応させ、前記ガラス基板上にSiO層を形成することが好ましい。
ガラス基板の温度は、CVD法の反応速度を向上させる観点から500℃以上が好ましく、600℃以上がより好ましく、700℃以上がさらに好ましい。また、ガラス基板の温度は、ガラス軟化の観点から800℃以下がより好ましく、760℃以下がさらに好ましい。
【0129】
気体原料はケイ素含有物質、酸化剤及び不飽和炭化水素を含むことが好ましい。
【0130】
ケイ素含有物質としては、モノシラン(SiH)、ジシラン(Si)、ジクロロシラン(SiHCl)、三酸化シラン(SiHCl)等のシラン類、テトラメチルシラン((CHSi)等のアルキル化シラン、四フッ化ケイ素(SiF)、四塩化ケイ素(SiCl)等が挙げられ、シラン類が好ましく、モノシランがより好ましい。
【0131】
酸化剤としては二酸化炭素(CO)、一酸化炭素(CO)、酸素(O)、水蒸気(HO)等の酸素元素を含む化合物が挙げられ、二酸化炭素が好ましい。
【0132】
不飽和炭化水素としてはエチレン系不飽和炭化水素(オレフィン)、アセチレン系不飽和炭化水素、芳香族化合物等が挙げられ、常温常圧で気体である化合物が好適である。
不飽和炭化水素としては、オレフィンが好ましく、炭素数2~4のオレフィンがより好ましく、エチレンがさらに好ましい。
【0133】
気体原料の混合比を調節することで、SiO層におけるSiOの組成を調節できる。
具体的には、ケイ素含有物質に対する酸化剤の体積比は、8.5以上が好ましく、12以上がより好ましく、20以上がさらに好ましい。また、ケイ素含有物質に対する酸化剤の体積比は、50以下が好ましい。
【0134】
ケイ素含有物質に対する不飽和炭化水素の体積比は、0.5以上が好ましく、1.0以上がより好ましい。また、ケイ素含有物質に対する不飽和炭化水素の体積比は、3.5以下が好ましく、2.7以下がより好ましい。
【0135】
SiOの組成は、上述の酸化剤と不飽和炭化水素とが相互に作用することで変化する。したがって、SiOの組成を好ましい範囲に調整するには、ケイ素含有物質に対する酸化剤の体積比及び不飽和炭化水素の体積比は、両方の組み合わせが重要であり、両方ともを上述の好ましい範囲とすることが好ましい。
【0136】
SiO層の厚さは、原料の種類、原料ガス濃度、ガラスリボン又はガラス基板への原料ガスの吹き付け流速、基板温度、コーティングビーム構造由来の反応ガス滞留時間等により制御できる。
【0137】
また、本発明においてオーバーコート層を設ける場合は、赤外線反射層の形成後に赤外線反射層の表面にオーバーコート層を配置する。
【0138】
オーバーコート層は、例えば、湿式法により形成される。
【0139】
この場合、まず、オーバーコート層用のコーティング溶液が調製される。
コーティング溶液は、金属酸化物の前駆体、有機溶媒、および水を含む。また、コーティング溶液には、粒子および/または固形物が添加されてもよい。粒子の組成は、金属酸化物の前駆体と同じであっても、異なっていてもよい。
【0140】
次に、コーティング溶液が膜付き基材の赤外線反射層の上に塗布される。
塗布の方法は、特に限られず、スピンコート法などの一般的な手段が使用されてもよい。
【0141】
次に、コーティング溶液が設置された膜付き基材が大気中で加熱処理される。
加熱処理の温度は、例えば、80~650℃の範囲である。また、加熱時間は、例えば、5分~360分の範囲である。
【0142】
加熱処理は、熱風循環炉またはIRヒーター炉等、一般的な装置を用いて実施されてもよい。またUV硬化処理、またはマイクロ波処理等により、コーティング溶液から、オーバーコート層が形成されてもよい。
【0143】
これにより、赤外線反射層の上に、オーバーコート層を形成できる。
【0144】
なお、上記加熱処理は、必ずしもこの段階で実施する必要はない。すなわち、別の段階で実施される加熱工程を利用して、コーティング溶液を加熱してもよい。
【0145】
このような工程により、透過ムラが抑制された、上述した本発明の実施形態に係る膜付き基材を製造できる。なお、本製造方法はオンラインCVD法によるものとして説明したが、オフライン法により、フロート法等で予め製造されたガラス基板やその他の主材を加熱して熱CVD法により成膜を実施する場合であっても、可視光吸収層を2つ以上のコーターを用いて成膜することにより、同様に透過ムラを抑制でき得る。
【0146】
本発明の膜付き基材の製造方法には、さらに、ガラス基板を風冷強化あるいは化学強化する工程(強化工程)が含まれてもよい。この強化工程は、例えば、ステップS1の前や、膜付き基材を製造した後等、いかなる順番で実施されてもよい。
強化工程を実施することにより、ガラス基板、さらには得られる膜付き基材の強度を高められる。
【0147】
また、ガラス基板に膜を配置した後などに、得られた膜付き基材に対して曲げ加工を実施してもよい。
【0148】
また、本発明の膜付き基材と中間膜と外側ガラス板とをこの順に貼り合せて合わせガラスを得ることもできる。
【0149】
この他にも各種変更が可能であることは、当業者には明らかである。
【0150】
本発明の膜付き基材は、例えば、車両の窓ガラス(フロントガラス、リアガラス、サイドガラス、ルーフガラス等)、建築物の窓ガラス等に使用できる。特に、本発明の膜付き基材を備えた合わせガラスは、パノラマルーフに適している。
【実施例0151】
以下、本発明を実施例により詳しく説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。なお、以下で作製した例について、例5、6は実施例であり、例1~4は比較例である。
【0152】
(各層の厚みの測定)
膜付き基材を厚み方向に切断し、断面を走査型電子顕微鏡(SEM、株式会社日立製作所製「SU 70」)により観察した。
可視光吸収層の界面がSEM観察により確認できる場合は、SEM画像から直接各層の膜厚を調べた。界面に凹凸を有する場合は、最も低い谷と最も高い山の各水平ラインの中間ラインを目安としながら各層の膜厚を導出した。観察倍率は、低すぎると膜厚計測の精度が不十分になってしまう一方、高すぎると局所的な凹凸を見てしまい、各層の膜厚を正しく導出出来ない恐れがある為、適した範囲が存在する。よって、観察条件の目安として、電子銃1.5kV、ワーキングディスタンス2.4mm、倍率5万倍を採用した。
可視光吸収層の界面がSEM観察により確認できない場合は、X線光電子分光法(XPS)による深さ方向の分析により調べた。深さ方向分析は、真空度10-6PaのXPSチャンバー内でArスパッタを用いて膜をエッチングしながらXPS測定を行った。X線の照射面積は100μmφ、X線の照射角度は45deg.に固定した。本例における光学調整層は、SiOC膜であるので、SnとSiのモル比が同じ値を示すクロスポイントを可視光吸収層と光学調整層の界面と据えた。各原子のモル比導出においては、ULVAC社製ソフトウェア PHI MULTIPACを用いて、X線ピーク強度から組成を計算した。XPS分析条件として、O1s、Si2p、Sn3d5、Sb3d3軌道の電子情報を参照したが、O1sはSb3d5のピーク出現位置と重なっている為、各原子のモル比の導出においては、原理に則りSb3d3ピーク強度の1.5倍をO1sのピーク強度より差し引くことで校正を行なった。
XPSは、ULVAC-PHI社製「PHI 5000 Versa Probe」を用いた。
【0153】
(アンチモン(Sb)濃度の測定)
アンチモン濃度は、X線光電子分光測定(XPS)による深さ方向の分析を行い、SbとSnの強度比から調べた。XPSは、ULVAC-PHI社製「PHI 5000 Versa Probe」を用いた。XPSの分析方法は、各層厚みを評価する際と同様である。図2の(a)は例1、(b)は例5、(c)は例6のXPS測定結果をそれぞれ示す図である。このような膜厚方向の不純物濃度分布より、各例について不純物濃度が極大となるピーク数を求めた結果、例1~4では1つ、例5、例6で2つのピークが確認された。
また、可視光吸収層におけるアンチモン濃度は、X線光電子分光測定(XPS)により測定した深さ方向の濃度を平均化した値を使用した。
【0154】
(透過率の測定)
PerkinElmer社製「Lambda 1050」を用いて測定した透過スペクトルから、膜付き基材の標準A光源に基づく可視光透過率(Tva、A光源透過率)を計算した。
はJIS R3106(2019)の定義に基づき計算した。Tvaは標準A光源の定義に基づき計算した。TはISO 9050:2003に基づき計算した。
【0155】
(コントラスト比)
コントラスト比は市販のカメラ及び画像解析ソフト(ImageJ)を使用して次の方法で求めた。
図6は、コントラスト比を求めるためのサンプル撮影方法を説明する図である。膜付き基材30、カメラ31、面光源(バックライト)32の具体的な位置関係は図6に示す通りとした。暗室にある、机33の上に、面光源32を、机33の面から24°傾けて設置した。面光源32は、面内の照度が6000~10000LUX(照度測定機:TASCOデジタル照度計ILLUMINATIONMETERTMS870)の面光源を用いた。面光源32の上に、膜付き基材30をその主材側の面が面光源32と接するように置き、さらに膜付き基材30が置かれず面光源32が露出している部分は黒布などで余分な光を覆った。膜付き基材30から600mm離れた場所からカメラ31で透過像を撮影した。
この際、後述の画像解析の精度を上げるために、撮影画像の解像度が0.2mm/ピクセル以下になるような適当なイメージセンサを有するカメラを用いた。また撮影時のシャッタースピードは1/10以上で、かつフリッカー現象が起きない最低のシャッタースピードに設定した。絞り値Fは1.4以下、ISO感度は100、手振れの影響を小さくするためカメラは三脚に固定し、遠隔シャッターを適用した。
このように取得した画像を画像解析することで平均輝度、コントラスト比を求めた。画像解析は以下のように実施した。
まず取得した撮影画像をグレースケール(8bit:256階調)に変換した。次に縦1.0mm±0.5mm、横150mm±50mmの解析対象領域(以下、ROI)を設定した。このROIにおける横は、上記透過ムラをできるだけ多く含むことができる方向であり、例えば縦スジの場合、スジに垂直な方向を横とした。このROIにおける輝度の平均を平均輝度とした。さらにROI横方向の輝度分布を算出し、バンドパスフィルターを適用することで得られる輝度分布の標準偏差σを算出した。ここでバンドパスフィルターは1.4mm~50.0mmの波長を残すように設定した。上記平均輝度と上記標準偏差から{(平均輝度+3σ)/(平均輝度-3σ)}-1を算出し、これをコントラスト比とした。
【0156】
(例1)
以下の方法により、膜付き基材を作製した。
フロートガラス製造装置の内部に各層を成膜するコーターを配置し、オンラインCVD法にて膜付き基材を作製した。ガラスリボン上に第1のコーターで光学調整層としてSiOC層を形成し、第2のコーターで可視光吸収層としてアンチモンドープ酸化スズ膜を形成して、主材上に光学調整層及び可視光吸収層がこの順に積層された膜付き基材を得た。なお、第2のコーターとしては乱流コーターを使用した。
なお、フロートガラス製造装置で製造されるガラスは、厚みが2.1mmの無色透明なガラス基板(ソーダライムシリケートガラス)とした。
【0157】
まず、ガラスリボンの温度が760℃となる最上流側に位置する第1のコーターから、気体原料としてモノシラン(SiH)0.364kg/時間、エチレン0.25kg/時間、COガス12.5kg/時間、窒素ガス1.0kg/時間を供給し、ガラスリボン上に膜厚が70nmのSiOC層を成膜した。
【0158】
次に、SiOC層の上に可視光吸収層を形成した。原料ガスとして、モノブチルティントリクロライド(CSnCl、MBTC)、三塩化アンチモン(SbCl)、水、空気、塩化水素を使用し、キャリアガスとして窒素を使用した。各ガスの供給モル比は、MBTC:SbCl:水:酸素:塩化水素:窒素=10:1:50:200:1:700とした。
これにより、例1の膜付き基材を得た。
【0159】
(例2~4)
例1と同様の方法により、表1に記載の層構成を有する膜付き基材を作製した。なお、アンチモン濃度は原料ガス組成を調整することにより調整した。
【0160】
(例5、6)
コーターの構成を以下のように変更し、2つのコーターで可視光吸収層を成膜した以外は例1と同様の方法により、表1に記載の層構成を有する膜付き基材を作製した。なお、例5では第2のコーターを乱流コーター、第3のコーターを層流コーターとした。例6では第2のコーターと第3のコーターをともに層流コーターとした。
第1のコーター:光学調整層(SiOC層)を形成
第2のコーター:可視光吸収層(アンチモンドープ酸化スズ膜)を形成
第3のコーター:可視光吸収層(アンチモンドープ酸化スズ膜)を形成
【0161】
各例の膜付き基材について、上記評価を行った結果を表1に示す。
【0162】
【表1】

【0163】
表1の結果から、2つ以上のコーターで可視光吸収層を成膜した例5、例6では、1つのコーターで可視光吸収層を成膜した例1~例4と比較して、膜付き基材のコントラスト比が抑制され、透過ムラが抑制されていることが確認された。
【符号の説明】
【0164】
1 主材
1a 第1の面
1b 第2の面
2 膜
3 可視光吸収層
5 赤外線反射層
7 光学調整層
10、20 膜付き基材
52 フロートバス
53 シーリングゲート
54 徐冷炉
55 搬送ローラー
56 電気ヒーター
60 コーター
70 ガラスリボン
図1
図2
図3
図4
図5
図6