(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025041293
(43)【公開日】2025-03-26
(54)【発明の名称】ギア構造
(51)【国際特許分類】
F16H 57/04 20100101AFI20250318BHJP
F16H 1/08 20060101ALI20250318BHJP
F16H 55/17 20060101ALI20250318BHJP
【FI】
F16H57/04 L
F16H1/08
F16H55/17 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023148486
(22)【出願日】2023-09-13
(71)【出願人】
【識別番号】000003997
【氏名又は名称】日産自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100102141
【弁理士】
【氏名又は名称】的場 基憲
(74)【代理人】
【識別番号】100137316
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 宏
(72)【発明者】
【氏名】劉 函林
(72)【発明者】
【氏名】熊谷 幸司
【テーマコード(参考)】
3J009
3J030
3J063
【Fターム(参考)】
3J009DA15
3J009EA12
3J009EB02
3J009FA07
3J030AC01
3J030BA05
3J030BB06
3J030BC02
3J063AA01
3J063AB02
3J063AC01
3J063BA01
3J063BA11
3J063CB01
3J063XD03
3J063XD46
3J063XD72
(57)【要約】
【課題】優れた生産効率で得ることができるギア構造を提供する。
【解決手段】ギア構造は、相互にかみ合う歯車同士のうちの少なくとも一方の歯車がその歯面に複数の溝を有していることを特徴とする。歯車が、はすば歯車である。複数の溝の長手方向が、はすば歯車のかみ合い進行線と直交している。少なくとも一方の歯車が、溝の長手方向の両端に壁を有している。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
相互にかみ合う歯車同士のうちの少なくとも一方の歯車が、その歯面に複数の溝を有していることを特徴とするギア構造。
【請求項2】
前記歯車が、はすば歯車であり、
前記複数の溝の長手方向が、前記はすば歯車のかみ合い進行線と直交している
ことを特徴とする請求項1に記載のギア構造。
【請求項3】
前記少なくとも一方の歯車が、前記溝の長手方向の両端に壁を有していることを特徴とする請求項2に記載のギア構造。
【請求項4】
前記少なくとも一方の歯車が、その歯面の歯たけ方向における中央から歯先までの歯先側領域に前記複数の溝を有していることを特徴とする請求項1~3のいずれか1つの項に記載のギア構造。
【請求項5】
前記少なくとも一方の歯車が、歯溝側に凸な歯面を有し、前記歯面の歯たけ方向における中央部に前記複数の溝を有しており、
歯幅方向に対して垂直な断面において前記歯面に対応する歯面線が、前記中央部に位置し大曲率半径を有する中央部線と、前記中央部の両端に接続し前記中央部線よりも曲率半径が小さい小曲率半径を有する端部線を有している
ことを特徴とする請求項1~3のいずれか1つの項に記載のギア構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ギア構造に係り、さらに詳細には、優れた生産効率で得ることができるギア構造に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、摩擦低減及び金属疲労寿命の向上を両立できる歯車が開示されている。この歯車は、歯面に相手歯車の歯面と接触する歯当たり領域を有し、歯当たり領域のうち、噛合い開始位置である歯車の歯元側の端部から歯先に向かう10%の領域はディンプルが形成されないディンプル非形成領域であり、残りの領域はディンプルが複数形成されたディンプル形成領域である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に開示されたような歯車の歯面における複数のディンプルをレーザ加工によって形成しようとすると、1回のレーザ照射で1つのディンプルを形成することとなり、ディンプル加工におけるサイクルタイムが歯車1歯当たり数時間となって優れた生産効率を実現できないという問題点があった。
【0005】
本発明は、このような従来技術の有する課題に鑑みてなされたものであって、優れた生産効率で得ることができるギア構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、前記目的を達成するため鋭意検討を重ねた結果、歯車の歯面に複数の溝を形成することにより、前記目的が達成できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0007】
すなわち、本発明のギア構造は、相互にかみ合う歯車同士のうちの少なくとも一方の歯車がその歯面に複数の溝を有していることを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、歯車の歯面に複数の溝を形成したため、優れた生産効率で得ることができるギア構造を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本発明のギア構造の第1実施形態を模式的に示す斜視図である。
【
図2】
図1に示したギア構造のII線で囲んだ要部を模式的に示す説明図である。
【
図3】第2実施形態のギア構造の要部を模式的に示す説明図である。
【
図4】第3実施形態のギア構造の要部を模式的に示す説明図である。
【
図5】第4実施形態のギア構造の要部を模式的に示す説明図である。
【
図6】第5実施形態のギア構造の要部を模式的に示す部分断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明のギア構造について図面を参照しながら詳細に説明する。なお、以下で引用する図面の寸法比率は、説明の都合上誇張されており、実際の比率とは異なる場合がある。
【0011】
(第1実施形態)
図1に示すように、本実施形態のギア構造10は、ギアボックス(図示せず)内に配置された複数の歯車、具体的には、第1歯車11と第2歯車12と第3歯車13と第4歯車14を備えている。なお、詳細に描くことは省略するが、第4歯車14は、
図1中において第2歯車12の裏側且つ同軸に配置されている。そして、第1歯車11と第2歯車12とが相互にかみ合っており、第3歯車13と第4歯車14とが相互にかみ合っている。このように、ギア構造10は、3軸2段の構造を有しており、例えば、自動車用駆動系に用いられる。また、図示例のこれらの歯車(11,12,13,14)は、はすば歯車であり、例えば、鉄などの金属材料で形成されている。さらに、これらの歯車は、ギアボックス内に保持された潤滑油によって潤滑されている(図示せず)。このような潤滑油としては、ギアボックスに用いることができる従来公知の潤滑油を用いることができる。
【0012】
図2に示すように、第2歯車12が、図示しない第1歯車とかみ合って潤滑油の油膜を介して接触するその歯面122aに複数の溝122bを有している。なお、複数の溝122bの図中矢印Zで示す長手方向は、第2歯車(はすば歯車)12のかみ合い進行線Aと平行である。また、溝122aの断面形状としては、U字形状、V字形状、矩形形状などを挙げることができる。溝122aの入口幅は、例えば、200nm~30μm程度であることが好ましい。なお、図中の矢印Yは歯たけ方向を示し、矢印Xは歯幅方向を示す。
【0013】
次に、本実施形態の利点について説明する。本実施形態によれば、第2歯車12の歯面122aに複数の溝122bを形成しているので、レーザ加工による溝加工におけるサイクルタイムが歯車1歯当たり数分間にすることができる。これにより、レーザー加工によるディンプル加工におけるサイクルタイムの1/10程度となり、優れた生産効率でギア構造を得ることができるという利点がある。
【0014】
また、本実施形態によれば、上述の複数の溝122bによって潤滑油を保持することにより、潤滑に必要な油膜を歯面に形成できる。これにより、ギア構造における摩擦損失や金属同士の接触が低減し、伝達効率や金属疲労寿命を向上させることができるという利点がある。
【0015】
また、
図3~
図6は、第2実施形態~第5実施形態のギア構造を説明する図である。以下の実施形態では、上述した第1実施形態と同じ構成部位に同一符号を付して詳細な発明を省略する。
【0016】
(第2実施形態)
図3は、第2実施形態のギア構造の
図1におけるII線で囲んだ部分と同位置の要部を模式的に示す説明図である。
図3に示すように、本実施形態のギア構造は、複数の溝122bの長手方向が第2歯車(はすば歯車)12の図中二点鎖線で示すかみ合い進行線Aと直交していること以外は、第1実施形態のギア構造10と同じ構造を有している。
【0017】
次に、本実施形態の利点について説明する。本実施形態によれば、複数の溝122bの長手方向と上述のかみ合い進行線Aとが直交するように、第2歯車12の歯面122aに複数の溝122bを形成しているので、第1実施形態よりも溝に沿って潤滑油が排出されにくく、潤滑油が圧縮され、動圧効果が大きくなる。これにより、第1実施形態に対して、摩擦係数を20%程度低減できるという利点がある。
【0018】
(第3実施形態)
図4は、第3実施形態のギア構造の
図1におけるII線で囲んだ部分と同位置の要部を模式的に示す説明図である。
図4に示すように、本実施形態のギア構造は、第2歯車12が溝122bの長手方向の両端に壁122Aを有していること以外は、第2実施形態のギア構造と同じ構造を有している。
【0019】
次に、本実施形態の利点について説明する。本実施形態によれば、溝122bの長手方向の両端に壁122Aが形成されるように、第2歯車12の歯面122aに複数の溝122bを形成しているので、第2実施形態よりも溝の長手方向における両端から潤滑油が排出されにくく、言い換えれば潤滑油のサイドリークが抑制ないし防止され、潤滑油がより圧縮され、動圧効果がより大きくなる。これにより、第2実施形態に対して、摩擦係数を16%程度低減できるという利点がある。
【0020】
(第4実施形態)
図5の上側図は、第4実施形態のギア構造における第1歯車と第2歯車とのかみ合い状態を模式的に示す説明図であり、
図5の中央図は、
図5の上側図における第1歯車の要部を模式的に示す説明図であり、
図5の下側図は、
図5の上側図における第2歯車の要部を模式的に示す説明図である。
【0021】
図5に示すように、本実施形態のギア構造は、第1歯車11及び第2歯車12の双方がその歯面(111a,122a)の歯たけ方向(図中矢印Yで示す方向)における中央から歯先までの歯先側領域(111c,122c)に複数の溝(111b,122b)を有していること以外は、第3実施形態のギア構造と同じ構造を有している。
【0022】
次に、本実施形態の利点について説明する。本実施形態によれば、歯車11,12の双方の歯面111a,122aの歯たけ方向(図中矢印Yで示す方向)における中央から歯先までの歯先側領域111c,122cに複数の溝111b,122bを形成しているので、レーザ加工においてレーザ照射光が隣接する歯によって遮られやすい歯元側に溝を形成する必要がない。これにより、第3実施形態の利点に加えて、加工性を向上させることができるという利点がある。
【0023】
(第5実施形態)
図6は、第5実施形態のギア構造の要部を歯幅方向に対して垂直に切った部分断面図である。
図6に示すように、本実施形態のギア構造は、次の構成(1)~構成(3)を有していること以外は、第3実施形態のギア構造と同じ構造を有している。
【0024】
構成(1):第2歯車12(歯122)が、歯溝12a側に凸な歯面122aを有している。
【0025】
構成(2):第2歯車12(歯122)が、歯面122aの歯たけ方向(図中矢印Yで示す方向)における中央部122Bに複数の溝122bを有している。
【0026】
構成(3):歯幅方向(
図6において紙面に直交する方向)に対して垂直な断面において、歯面122aに対応する歯面線122dが、中央部122Bに位置し大曲率半径を有する中央部線122eと、中央部線122eの両端に接続し中央部線よりも曲率半径が小さい小曲率半径を有する端部線122fを有している。
【0027】
次に、本実施形態の利点について説明する。本実施形態によれば、第2歯車12が上述の中央部線122eと端部線122fを有する歯面線122dに対応する凸な歯面122aの中央部122Bに複数の溝を形成しているので、接触荷重が大きくなる中央部122B以外に溝を形成する必要がない。これにより、第3実施形態よりも優れた生産効率でギア構造を得ることができるという利点がある。なお、このような歯面や溝は、例えば、レーザ加工におけるレーザ照射光の強度を調整することによって形成することができる。
【0028】
以上、本発明を若干の実施形態によって説明したが、本発明はこれらに限定されるものではなく、本発明の要旨の範囲内で種々の変形が可能である。
【0029】
本発明においては、優れた生産効率で得ることができるギア構造を提供すべく、歯車の歯面に複数の溝を形成したことを骨子とする。
【0030】
従って、上述の実施形態においては、歯車がはすば歯車である場合を例示して説明したが、本発明はこれに限定されない。本発明においては、例えば、歯車が平歯車であってもよく、他の形状の歯車であってもよい。
【0031】
また、上述の実施形態においては、ギア構造10が、3軸2段の構造を有し、例えば駆動モータの動力をドライブシャフトに伝達する減速機のような自動車用駆動系に用いられる場合を例示して説明したが、本発明はこれに限定されない。本発明においては、例えば、ギア構造10が、エンジン動力を発電モータへ伝達する増速機に用いられてもよい。また、これらが組み合わされてギアボックス内に配置されていてもよい。また、本発明においては、ギア構造が3軸2段の構造以外の構造を有していてもよい。
【0032】
さらに、上述の実施形態においては、説明の便宜上、第2歯車12の歯面(より具体的には歯122の歯面122a)に複数の溝122bを形成した場合や第1歯車11の歯面(より具体的には歯111の歯面111a)に複数の溝111bを形成した場合を例示して説明したが、本発明はこれらに限定されない。本発明においては、例えば、第3歯車13、第4歯車14のうちの少なくとも一方の歯車の歯面にのみ複数の溝を形成してもよく、第1歯車~第4歯車(11,12,13,14)の全ての歯車の歯面に複数の溝を形成してもよい。もちろん、第1歯車~第4歯車(11,12,13,14)から選択される少なくとも1つ歯車の全ての歯の歯面に複数の溝を形成することが好ましいこと、ギアボックス内の潤滑油の流れを考慮して、複数の溝を形成することが必要な位置にある歯車の全ての歯の歯面に複数の溝を形成することがより好ましいことは言うまでもない。
【0033】
さらに、上述の第4実施形態においては、第1歯車11及び第2歯車12の双方が、その歯面(111a,122a)の歯たけ方向における中央から歯先までの歯先側領域(111c,122c)に複数の溝(111b,122b)を有している場合を例示して説明したが、本発明はこれに限定されない。本発明においては、例えば、第1歯車~第4歯車(11,12,13,14)のうちのいずれか1つの歯車の歯面の歯たけ方向における中央から歯先までの歯先側領域に複数の溝を有していてもよい。
【0034】
さらに、上述の第5実施形態においては、第2歯車の歯面122aにおいて歯たけ方向の中央部122Bに複数の溝122bを有している場合を例示して説明したが、本発明はこれに限定されない。本発明においては、例えば、第2歯車の歯面122aにおいて歯幅方向の中央部に複数の溝122bを有するようにしてもよく、これらを組み合わせてもよい。
【符号の説明】
【0035】
10 ギア構造
11 第1歯車
11a 歯溝
111,112 歯
111A 壁
111a 歯面
111b 溝
111c 歯先側領域
12 第2歯車
12a 歯溝
121,122,123 歯
122A 壁
122B 中央部
122a 歯面
122b 溝
122c 歯先側領域
122d 歯面線
122e 中央部線
122f 端部線
13 第3歯車
14 第4歯車
A かみ合い進行線