(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025004130
(43)【公開日】2025-01-14
(54)【発明の名称】面発光レーザ素子及び面発光レーザ素子の製造方法
(51)【国際特許分類】
H01S 5/11 20210101AFI20250106BHJP
H01S 5/18 20210101ALI20250106BHJP
H01S 5/343 20060101ALI20250106BHJP
【FI】
H01S5/11
H01S5/18
H01S5/343 610
【審査請求】有
【請求項の数】20
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024174933
(22)【出願日】2024-10-04
(62)【分割の表示】P 2022508138の分割
【原出願日】2021-02-10
(31)【優先権主張番号】P 2020045573
(32)【優先日】2020-03-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】504132272
【氏名又は名称】国立大学法人京都大学
(71)【出願人】
【識別番号】000002303
【氏名又は名称】スタンレー電気株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100159628
【弁理士】
【氏名又は名称】吉田 雅比呂
(74)【代理人】
【識別番号】100147728
【弁理士】
【氏名又は名称】高野 信司
(72)【発明者】
【氏名】野田 進
(72)【発明者】
【氏名】井上 卓也
(72)【発明者】
【氏名】小泉 朋朗
(72)【発明者】
【氏名】江本 渓
(57)【要約】 (修正有)
【課題】多重格子フォトニック結晶層上に形成された活性層の平坦性及び結晶性が高く、かつ光取り出し効率が高く、低閾値電流密度及び高量子効率で発振動作することができるフォトニック結晶面発光レーザ及びその製造方法を提供する。
【解決手段】3族窒化物半導体のc面上に形成され、層に平行な面内において2次元的な周期性を有して配された空孔を有するフォトニック結晶層及び当該フォトニック結晶層上に形成されて上記空孔を閉塞する埋込層を有する第1のガイド層と、第1のガイド層上に形成された活性層と、活性層上に形成された第2のガイド層と、を有し、上記フォトニック結晶層に平行な面内における正方格子点の各々に、少なくとも主空孔及び主空孔よりもサイズの小なる副空孔を含む空孔セットが配置され、主空孔は長軸が<11-20>軸に平行な正六角柱形状、長六角柱形状又は長円柱形状を有している。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
3族窒化物半導体からなる面発光レーザ素子であって、
3族窒化物半導体のc面上に形成され、層に平行な面内において2次元的な周期性を有して配された空孔を有するフォトニック結晶層と、前記フォトニック結晶層上に形成されて前記空孔を閉塞する埋込層と、を有する第1のガイド層と、
前記第1のガイド層上に形成された活性層と、
前記活性層上に形成された第2のガイド層と、を有し、
前記フォトニック結晶層に平行な面内における正方格子点の各々に、少なくとも主空孔及び前記主空孔よりも空孔径及び深さの小なる副空孔を含む空孔セットが配置され、
前記主空孔は短軸が<11-20>軸に平行な長六角柱形状又は長円柱形状を有する、面発光レーザ素子。
【請求項2】
前記主空孔の長径/短径の比は、前記副空孔の長径/短径の比の2倍以上である請求項1に記載の面発光レーザ素子。
【請求項3】
前記フォトニック結晶層中の前記主空孔及び前記副空孔の空孔充填率をそれぞれFF1及びFF2としたとき、空孔充填率比RF=FF1/FF2は、1.7≦RF≦7.5を満たす請求項1又は2に記載の面発光レーザ素子。
【請求項4】
前記副空孔の<11-20>軸方向の空孔長さは、<11-20>軸と直交する方向における空孔長さよりも長い請求項1ないし3のいずれか一項に記載の面発光レーザ素子。
【請求項5】
前記空孔セットは、互いに直交し、<11-20>軸及び<1-100>軸に対して45°の角度を有するx方向及びy方向に配置され、
前記副空孔の前記主空孔に対する相対位置Δx及びΔyがΔx=Δyを満たし、かつ、当該正方格子の周期をPCとし、Δx=Δy=d×PCとしたとき、0.06≦d≦0.28又は0.40≦d≦0.47を満たす、請求項1ないし4のいずれか一項に記載の面発光レーザ素子。
【請求項6】
面発光レーザ素子の製造方法であって、
成長基板上にガイド層を形成する工程と、
前記ガイド層上に、正方格子点の各々に少なくとも主開口及び前記主開口よりもサイズの小なる副開口を含む開口セットを有するエッチングマスクを形成する工程と、
前記エッチングマスクを用いて、前記ガイド層をエッチングして主ホール及び副ホールを形成する工程と、
マストランスポートを含む結晶成長を行って、前記主ホール及び副ホールの開口部を塞ぐ埋込層を形成し、前記正方格子点の各々に主空孔及び前記主空孔よりも空孔径及び深さの小なる副空孔を含む空孔セットが配された多重格子フォトニック結晶層を形成する工程と、
前記多重格子フォトニック結晶層上に、活性層を含む半導体層を形成する工程と、を有し、
前記埋込層を構成する半導体は、前記マストランスポートの埋込による形状変化速度に結晶面による異方性を有し、
前記主ホールの前記エッチングは、前記形状変化速度が小さい方向を短軸方向とする、長六角柱形状又は長円柱形状にエッチングする、面発光レーザ素子の製造方法。
【請求項7】
面発光レーザ素子の製造方法であって、
成長基板上にガイド層を形成する工程と、
前記ガイド層上に、正方格子点の各々に少なくとも主開口及び前記主開口よりもサイズの小なる副開口を含む開口セットを有するエッチングマスクを形成する工程と、
前記エッチングマスクを用いて、前記ガイド層をエッチングして主ホール及び副ホールを形成する工程と、
マストランスポートを含む結晶成長を行って、前記主ホール及び副ホールの開口部を塞ぐ埋込層を形成し、前記正方格子点の各々に主空孔及び前記主空孔よりも空孔径及び深さの小なる副空孔を含む空孔セットが配された多重格子フォトニック結晶層を形成する工程と、
前記多重格子フォトニック結晶層上に、活性層を含む半導体層を形成する工程と、を有し、
前記主ホールから形成された前記主空孔の側面は{1-100}面を有する、面発光レーザ素子の製造方法。
【請求項8】
前記副空孔は、長軸が<11-20>軸に平行な正六角柱形状、長六角柱形状又は長円柱形状を有する、請求項6又は7に記載の面発光レーザ素子の製造方法。
【請求項9】
3族窒化物半導体からなる面発光レーザ素子であって、
3族窒化物半導体である基板のc面上に形成され、層に平行な面内において2次元的な周期性を有して空孔形成領域内に配された空孔を有するフォトニック結晶層と、前記フォトニック結晶層上に形成されて前記空孔を閉塞する埋込層と、を有する第1のガイド層と、
前記第1のガイド層上に形成された活性層と、
前記活性層上に形成された第2のガイド層と、を有し、
前記フォトニック結晶層に平行な面内における正方格子点の各々に、少なくとも主空孔及び前記主空孔よりも空孔径及び深さの小なる副空孔を含む空孔セットが配置され、
前記空孔形成領域は前記フォトニック結晶層の一部領域であり、
前記主空孔は長軸が<11-20>軸に平行な正六角柱形状、長六角柱形状又は長円柱形状を有する、面発光レーザ素子。
【請求項10】
前記基板の裏面に設けられ前記基板に電気的に接続された環状の第1の電極を有し、
前記空孔形成領域は、前記フォトニック結晶層に対して垂直方向から見たとき、前記第1の電極に内包される領域である、
請求項9に記載の面発光レーザ素子。
【請求項11】
前記空孔形成領域は矩形形状を有する請求項9又は10に記載の面発光レーザ素子。
【請求項12】
前記第2のガイド層上に設けられ、前記第2のガイド層に電気的に接続された第2の電極を有し、
前記第2の電極は、前記空孔形成領域に内包される領域に形成されている、
請求項9ないし11のいずれか一項に記載の面発光レーザ素子。
【請求項13】
前記第1のガイド層はn型半導体層を含み、前記第2のガイド層上に形成されたp型半導体層を含む請求項9ないし12のいずれか一項に記載の面発光レーザ素子。
【請求項14】
前記空孔セットは、前記主空孔、前記副空孔及び少なくとも1の空孔を含む請求項9ないし13のいずれか一項に記載の面発光レーザ素子。
【請求項15】
前記フォトニック結晶層はGaNからなり、前記埋込層は組成にIn(インジウム)を含む層を含む請求項9ないし14のいずれか一項に記載の面発光レーザ素子。
【請求項16】
前記副空孔は、長軸が<11-20>軸に平行な正六角柱形状、長六角柱形状又は長円柱形状を有する、請求項9ないし15のいずれか一項に記載の面発光レーザ素子。
【請求項17】
前記主空孔及び前記副空孔は、長軸が<11-20>軸に平行な正六角柱形状を有する、請求項9ないし16のいずれか一項に記載の面発光レーザ素子。
【請求項18】
前記空孔セットは、互いに直交し、<11-20>軸及び<1-100>軸に対して45°の角度を有するx方向及びy方向に配置され、
前記副空孔の前記主空孔に対する相対位置Δx及びΔyがΔx=Δyを満たし、かつ、前記正方格子点の周期をPCとし、Δx=Δy=d×PCとしたとき、0.06≦d≦0.28又は0.40≦d≦0.47を満たす、請求項9ないし17のいずれか一項に記載の面発光レーザ素子。
【請求項19】
前記主空孔及び前記副空孔は、側面がm面である六角柱形状を有する、請求項9ないし18のいずれか一項に記載の面発光レーザ素子。
【請求項20】
前記フォトニック結晶層中の前記主空孔及び前記副空孔の空孔充填率をそれぞれFF1及びFF2としたとき、空孔充填率比RF=FF1/FF2は、1.7≦RF≦7.5を満たす、請求項9ないし19のいずれか一項に記載の面発光レーザ素子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、面発光レーザ素子及びその製造方法、特にフォトニック結晶面発光レーザ素子及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、フォトニック結晶(PC:Photonic-Crystal)を用いた、フォトニック結晶面発光レーザ(Photonic-Crystal Surface-Emitting Laser)の開発が進められている。
【0003】
例えば、特許文献1には、板状の母材内に、該母材とは屈折率が異なる複数の領域から成り該領域のうち少なくとも2個の厚さが互いに異なる異屈折率領域集合体を多数、周期的に配置した2次元フォトニック結晶を有する2次元フォトニック結晶面発光レーザ光源が記載されている。かかる構成により、円柱状の異屈折率領域を周期的に配置した2次元フォトニック結晶よりも母材に平行な面内での対称性を低くし、干渉に起因した反対称モードの打ち消しによるレーザ光の取り出し効率の低下を抑えることができることが開示されている。
【0004】
このような空孔が結晶面内に多数、周期的に配置された2次元フォトニック結晶上に、当該フォトニック結晶を埋め込む埋込層を成長した場合、埋込層の表面が粗面になり、埋込層上に成長する活性層の品質が悪化するという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記したように、フォトニック結晶面発光レーザにおいて、2次元フォトニック結晶層を埋め込む埋込層の表面が荒れ、埋込層上に形成する活性層の品質が悪化するという問題があった。
【0007】
また、本願の発明者は、異なるサイズの空孔の組を周期的に配置した2次元フォトニック結晶を埋込層で埋め込んだ場合、単一サイズの空孔からなる2次元フォトニック結晶の場合よりも埋込層の表面が荒れるという知見を得た。
【0008】
特に、埋込層の形成工程において、マストランスポートによって空孔の形状が変化し、当該空孔の形状変化に起因して、隣接する空孔の形状変化が互いに干渉して埋込層表面に凹凸が発生するという知見を得た。
【0009】
本発明は上記した点に鑑みてなされたものであり、異なるサイズの複数の空孔を格子点に配置して構成され、当該複数の空孔の組が周期的に配置された2次元フォトニック結晶(以下、多重格子フォトニック結晶ともいう。)を有し、多重格子フォトニック結晶を埋め込む埋込層の表面の平坦性が大きく改善されたフォトニック結晶面発光レーザ及びその製造方法を提供することを目的としている。
【0010】
また、多重格子フォトニック結晶層上に形成された活性層の平坦性及び結晶性が高く、かつ光取り出し効率が高く、低閾値電流密度及び高量子効率で発振動作することができるフォトニック結晶面発光レーザ及びその製造方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の1実施態様による面発光レーザ素子は、3族窒化物半導体からなる面発光レーザ素子であって、
3族窒化物半導体のc面上に形成され、層に平行な面内において2次元的な周期性を有して配された空孔を有するフォトニック結晶層と、前記フォトニック結晶層上に形成されて前記空孔を閉塞する埋込層と、を有する第1のガイド層と、
前記第1のガイド層上に形成された活性層と、
前記活性層上に形成された第2のガイド層と、を有し、
前記フォトニック結晶層に平行な面内における正方格子点の各々に、少なくとも主空孔及び前記主空孔よりもサイズの小なる副空孔を含む空孔セットが配置され、
前記主空孔は長軸が<11-20>軸に平行な正六角柱形状、長六角柱形状又は長円柱形状を有している。
【0012】
本発明の他の実施態様による面発光レーザ素子の製造方法は、3族窒化物半導体のc面上にガイド層を形成する工程と、
前記ガイド層上に、正方格子点の各々に少なくとも主開口及び前記主開口よりもサイズの小なる副開口を含む開口セットを有するエッチングマスクを形成するステップと、
前記エッチングマスクを用いて、前記ガイド層をエッチングして主ホール及び副ホールを形成する工程と、
マストランスポートを含む結晶成長を行って、前記主ホール及び副ホールの開口部を塞ぐ埋込層を形成し、前記正方格子点の各々に主空孔及び前記主空孔よりもサイズの小なる副空孔を含む空孔セットが配された多重格子フォトニック結晶層を形成する工程と、
前記多重格子フォトニック結晶層上に、活性層を含む半導体層を形成する工程と、を有し、
前記主空孔は長軸が<11-20>軸に平行な正六角柱形状、長六角柱形状又は長円柱形状を有する、ことを特徴としている。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1A】フォトニック結晶レーザ(PCSEL)10の構造の一例を模式的に示す断面図である。
【
図1B】
図1Aのフォトニック結晶層14P及びフォトニック結晶層14P中に配列された空孔(air hole)対14Kを模式的に示す拡大断面図である。
【
図2A】フォトニック結晶レーザ10の上面を模式的に示す平面図である。
【
図2B】フォトニック結晶層14Pのn-ガイド層14に平行な面(
図1B、A-A断面)における断面を模式的に示す断面図である。
【
図2C】フォトニック結晶レーザ10の底面を模式的に示す平面図である。
【
図3】長円形状の主開口K1及び副開口K2からなる開口対を正方格子状に面内で2次元配列したレジストを模式的に示す上面図である。
【
図4】ホール14H1,14H2を形成したGaN表面のSEM像である。
【
図5】本実施例における主空孔14K1及び副空孔14K2の空孔形状を示すガイド層上面のSEM像である。
【
図6A】
図5の線A-Aにおける断面を示すSEM像である。
【
図6B】
図5の線B-Bにおける断面を示すSEM像である。
【
図7】比較例1における、GaN表面部に形成された円柱状のホールCHを示すSEM像である。
【
図8A】実施例1のPCSEL素子10と比較例1のPCSEL素子のI-L特性を示す図である。
【
図8B】実施例1のPCSEL素子10と比較例1のPCSEL素子の閾値電流付近における発光スペクトルを示す図である。
【
図9A】実施例1と同様に主ホール及び副ホールが形成された構造(構造A)の主ホール14H1及び副ホール14H2を示す上面SEM像である。
【
図9B】比較例2(構造B)の主ホールCH1及び副ホールCH2を示す上面SEM像である。
【
図10A】構造A(実施例2)の場合の、主空孔及び副空孔を埋め込み後の埋込層の表面モフォロジを示すAFM像である。
【
図10B】構造B(比較例2)の場合の、主空孔及び副空孔を埋め込み後の埋込層の表面モフォロジを示すAFM像である。
【
図11A】構造A(実施例2)の場合の、埋込層の形成過程において、ホールの形状変化を模式的に示す上面図である。
【
図11B】構造B(比較例2)の場合の、埋込層の形成過程において、ホールの形状変化を模式的に示す上面図である。
【
図12A】実施例1の構造において、主空孔14K1に対する副空孔14K2の相対位置Δx,Δy(Δx=Δy)を0.0PCから0.5PCまで変化させたときの垂直方向の共振器損失α
nを示すグラフである。
【
図12B】実施例1の構造において、主空孔14K1に対する副空孔14K2の相対位置Δx,Δy(Δx=Δy)を0.0PCから0.5PCまで変化させたときの水平方向の共振器損失α
pを示すグラフである。
【
図12C】全共振器損失(α
p+α
n)に対する垂直方向の共振器損失α
nの割合であるR
nを示すグラフである。
【
図13】正方格子フォトニック結晶のΓ点付近のフォトニックバンド構造を示す図である。
【
図14】実施例1において、Δx、Δyを変化させたときの結合波理論から求めた各モードの閾値利得(共振器損失)を示すグラフである。
【
図15】電流注入領域の屈折率、キャリア密度、光子密度を模式的に示す図である。
【
図16A】バンド端モードA及びBの場合の電流注入領域近傍におけるフォトニックバンド端の周波数を模式的に示す図である。
【
図16B】バンド端モードC及びDの場合の電流注入領域近傍におけるフォトニックバンド端の周波数を模式的に示す図である。
【
図17A】バンド端モードA及びBで発振動作させたときの、電流注入領域の屈折率、キャリア密度、光子密度を模式的に示す図である。フォトニックバンド効果を考慮した場合及び考慮しない場合をそれぞれ実線及び破線で示している。
【
図17B】バンド端モードC及びDで発振動作させたときの、電流注入領域の屈折率、キャリア密度、光子密度を模式的に示している。フォトニックバンド効果を考慮した場合及び考慮しない場合をそれぞれ実線及び破線で示している。
【
図18】ホール14H1,14H2を形成したGaN表面のSEM像である。
【
図19A】実施例3における主空孔14K1及び副空孔14K2の空孔形状を示すガイド層上面のSEM像である。
【
図20A】実施例3のPCSEL素子10と比較例1のPCSEL素子のI-L特性を示す図である。
【
図20B】実施例3のPCSEL素子10と比較例1のPCSEL素子の閾値電流付近における発光スペクトルを示す図である。
【
図21A】d(副空孔の主空孔に対する相対位置)に対する垂直方向の共振器損失α
nを示す図である。
【
図21B】相対位置dに対する水平方向の共振器損失α
pを示す図である。
【
図21C】相対位置dに対するR
nの依存性を示す図である。
【
図21D】実施例3において、Δx、Δy(相対位置d)を変化させたときの結合波理論から求めた各モードの閾値利得(共振器損失)を示すグラフである。
【
図22A】空孔充填率比FF1/FF2に対するR
nを示す図である。
【
図22B】空孔充填率比FF1/FF2に対する垂直及び水平方向の共振器損失の和(α
n+α
p)を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下においては、本発明の好適な実施形態について説明するが、これらを適宜改変し、組合せてもよい。また、以下の説明及び添付図面において、実質的に同一又は等価な部分には同一の参照符を付して説明する。
[フォトニック結晶面発光レーザの構造]
フォトニック結晶面発光レーザ(以下、PCSELとも称する。)は、発光素子を構成する半導体発光構造層(n-ガイド層、発光層、p-ガイド層)と平行方向に共振器層を有し、当該共振器層に直交する方向にコヒーレントな光を放射する素子である。
【0015】
一方、半導体発光構造層を挟む一対の共振器ミラー(ブラッグ反射鏡)を有する分布ブラッグ反射型(Distributed Bragg Reflector:DBR )レーザが知られているが、フォトニック結晶面発光レーザ(PCSEL)は、以下の点でDBRレーザとは異なっている。すなわち、フォトニック結晶面発光レーザ(PCSEL)では、フォトニック結晶層に平行な面内を伝搬する光波はフォトニック結晶の回折効果により回折され2次元的な共振モードを形成するとともに、当該平行面に垂直な方向にも回折される。すなわち、共振方向(PC層に平行な面内)に対して、光取り出し方向が垂直方向である。
【0016】
図1Aは、フォトニック結晶レーザ素子(PCSEL素子)10の構造(第1のPCSEL構造)の一例を模式的に示す断面図である。
図1Aに示すように、半導体構造層11が基板12上に形成されている。また、半導体構造層11は、六方晶系の窒化物半導体からなる。半導体構造層11は、例えば、GaN系半導体からなる。
【0017】
より詳細には、基板12上に半導体構造層11、すなわちn-クラッド層(第1導電型の第1のクラッド層)13、n-ガイド層(第1のガイド層)14、活性層15、p-ガイド層(第2のガイド層)16、電子障壁層(EBL:Electron Blocking Layer)17、p-クラッド層(第2導電型の第2のクラッド層)18、p-コンタクト層19がこの順で形成されている。なお、第1導電型がn型、第1導電型の反対導電型である第2導電型がp型の場合について説明するが、第1導電型及び第2導電型がそれぞれp型、n型であってもよい。
【0018】
n-ガイド層14は、下ガイド層14A、フォトニック結晶層(空孔層、またはPC層)14P及び埋込層14Bからなる。なお、埋込層14Bは、第1の埋込層14B1及び第2の埋込層14B2からなる。
【0019】
なお、本明細書において、「n-」、「p-」は「n側」、「p側」を意味するものであって、必ずしもn型、p型を有することを意味するものではない。例えば、n-ガイド層は活性層よりもn側に設けられたガイド層を意味し、アンドープ層(又はi層)であってもよい。
【0020】
また、n-クラッド層13は単一層ではなく複数の層から構成されていてもよく、その場合、全ての層がn層(nドープ層)である必要はなく、アンドープ層(i層)を含んでいてもよい。ガイド層16、p-クラッド層18についても同様である。
【0021】
また、上記においては、フォトニック結晶レーザ素子10の具体的で詳細な半導体層の構成について説明したが、素子構造の一例を示したに過ぎない。要は、フォトニック結晶層14Pを有する第1の半導体層(又はガイド層)、第2の半導体層(又はガイド層)、及びこれらの層に挟まれた活性層(発光層)を有し、活性層への電流注入によって発光するように構成されていればよい。
【0022】
例えば、フォトニック結晶レーザ素子は、上記した全ての半導体層を有する必要はない。あるいは、フォトニック結晶レーザ素子は、素子特性を向上するための種々の半導体層(例えば、正孔障壁層、光閉込め層、電流閉込め層、トンネル接合層など)を有していてもよい。
【0023】
また、基板12の裏面にはn電極(カソード)20Aが形成され、p-コンタクト層19上(上面)にはp電極(アノード)20Bが形成されている。半導体構造層11の側面及び基板12の上部の側面は、SiO2などの絶縁膜21で被覆されている。また、p電極20Bの上面の縁部を覆うように、p電極20Bの側面及びpコンタクト層19の表面には絶縁膜21が被覆されている。
【0024】
フォトニック結晶層(PC層)14Pから直接放出された光(直接放出光Ld)と、フォトニック結晶層14Pから放出されp電極20Bによって反射された光(反射放出光Lr)とが基板12の裏面の光放出領域20Lから外部に放出される。
【0025】
図1Bは、
図1Aのフォトニック結晶層14P及びフォトニック結晶層14P中に配列された空孔(air hole)対14Kを模式的に示す拡大断面図である。空孔対14K(主空孔14K1及び副空孔14K2)は、結晶成長面(半導体層成長面)、すなわちn-ガイド層14に平行な面(図中、A-A断面)において、例えば正方格子(square lattice)状に周期PCを有して、空孔対14Kがそれぞれ正方格子点位置に2次元配列されてn-ガイド層14内に埋め込まれて形成されている。
【0026】
図2Aは、フォトニック結晶レーザ(PCSEL)10の上面を模式的に示す平面図、
図2Bは、フォトニック結晶層(PC層)14Pのn-ガイド層14に平行な面(
図1B、A-A断面)における断面を模式的に示す断面図、
図2Cは、フォトニック結晶レーザ(PCSEL)10の底面を模式的に示す平面図である。
【0027】
図2Bに示すように、フォトニック結晶層14Pにおいて空孔(air hole)対14Kは、例えば矩形の空孔形成領域14R内に周期的に配列されて設けられている。
図2Cに示すように、n電極(カソード)20Aは、フォトニック結晶層14Pに対して垂直方向から見たときに空孔形成領域14Rに重ならないように空孔形成領域14Rの外側に環状の電極として設けられている。n電極20Aの内側の領域が光放出領域20Lである。また、n電極20Aに電気的に接続され、外部からの給電用のワイヤを接続するボンディングパッド20Cを備えている。
【実施例0028】
1.フォトニック結晶レーザ(PCSEL)10の作製工程
以下に、PCSEL素子10の作製工程について詳細に説明する。結晶成長方法としてMOVPE(Metalorganic Vapor Phase Epitaxy)法を用い、常圧(大気圧)成長により成長基板12上に半導体構造層11を成長した。なお、以下に説明する工程でSnはステップnを意味する。
【0029】
また、下記に示す層厚、キャリア濃度、3族(III族)及び5族(V族)原料等、温度等は、特に指定しない限り、例示に過ぎない。
[S1:基板準備工程]
主面が、Ga原子が最表面に配列した(0001)面である「+c」面のGaN単結晶を用意した。主面はジャストでも、例えば、m軸方向に1°程度までオフセットした基板でも良い。例えば、m軸方向に1°程度までオフセットした基板は、広範な成長条件下にて鏡面成長を得ることができる。
【0030】
主面と対向する光放出領域20Lが設けられた基板面(裏面)は、N原子が最表面に配列した(000-1)面である「-c」面である。-c面は酸化等に対して耐性があるので光取り出し面として適している。
【0031】
本実施例では、GaN基板12として、n型GaN単結晶を用いた。n型GaN基板12nは、電極とのコンタクト層の機能を有している。
[S2:n-クラッド層形成工程]
+c面GaN基板12上に、n-クラッド層13としてAl組成が4%のn型Al0.04Ga0.96N層を2μmの層厚で成長した。AlGaN層は1100℃に加熱されたGaN基板へ、3族原子の供給源としてトリメチルガリウム(TMG)及びトリメチルアルミニウム(TMA)を供給することにより成長した。
【0032】
キャリアのドーピングはシラン(SiH4)を上記原料と同時に供給することで行った(Siドープ)。このときの、室温でのキャリア濃度は凡そ4×1017cm-3であった。
[S3a:下ガイド層+空孔準備層の形成工程]
続いて、TMGを供給し、n-ガイド層14の準備層としてn型GaNを250nmの層厚で成長した。キャリアのドーピングは、AlGaN層と同様にシラン(SiH4)を同時に供給した。この時のキャリア濃度は凡そ4×1017cm-3であった。
【0033】
この成長層は、下ガイド層14A及びフォトニック結晶層14Pからなる層を形成するための準備層である。
【0034】
なお、以下においては、説明の簡便さ及び理解の容易さのため、このような成長層が形成された基板12(成長層付き基板)を、単に基板と称する場合がある。
[S3b:ホール及び空孔形成工程]
上記準備層を形成後、基板をMOVPE装置のチャンバより取り出し、成長層表面に微細なホールを形成した。より具体的には、基板洗浄により清浄表面を得た後、シリコン窒化膜(SixNy)をプラズマCVDを用いて成膜した。この上に電子線描画用レジストをスピンコートで塗布し、電子線(EB)描画装置に入れて2次元周期構造のパターニングを行った。
【0035】
図3に示すように、長円形状の主開口K1及び主開口K1よりも小なる副開口K2からなる開口対を周期PC=164nmで正方格子状にレジストの面内で2次元配列したパターニングを行った。なお、図面の明確さのため、開口部にハッチングを施して示している。
【0036】
より詳細には、主開口K1は、その重心CD1が互いに直交する2方向(x方向及びy方向)に周期PC=164nmで正方格子状に配列されている。副開口K2も同様に、その重心CD2がx方向及びy方向に周期PC=164nmで正方格子状に配列されている。
【0037】
主開口K1及び副開口K2の長軸は結晶方位の<11-20>方向に平行であり、主開口K1及び副開口K2の短軸は<1-100>方向に平行である。
【0038】
また、副開口K2の重心CD2は、主開口K1の重心CD1に対してΔx及びΔyだけ離間している。ここでは、Δx=Δyとした。すなわち、副開口K2の重心CD2は、主開口K1の重心CD1から<1-100>方向に離間している。具体的には、x方向の重心間距離Δx及びy方向の重心間距離Δyは65.6nm(=PC×0.4)であった。
【0039】
また、主開口K1は長径が125nm及び短径が50nm、短径に対する長径の比(長径/短径)=2.50で、副開口K2は長径が57.5nm及び短径が50nm、長径/短径=1.15であった。
【0040】
パターニングしたレジストを現像後、ICP-RIE(Inductive Coupled Plasma - Reactive Ion Etching)装置によってSixNy膜を選択的にドライエッチングした。これにより周期164nmで正方格子状に配列された主開口K1及び副開口K2がSixNy膜を貫通するように形成された。
【0041】
なお、周期(空孔間隔)PCは、発振波長(λ)を410nm、GaNの屈折率(n)を2.5とし、PC=λ/n=164nmとして算出した。
【0042】
続いて、レジストを除去し、パターニングしたSi
xN
y膜をハードマスクとしてGaN表面部に孔部(ホール)を形成した。ICP-RIE装置にて塩素系ガス及びアルゴンガスを用いてGaNを深さ方向にドライエッチングすることにより、GaN表面に垂直に掘られた長円柱状の空孔である孔部(ホール)14H1,14H2を形成した。なお、本工程において、当該エッチングによりGaN表面部に掘られた孔をフォトニック結晶層14Pにおける空孔(air hole)と区別するため、以下において、単にホールと称する。
[S3c:洗浄工程]
ホール14H1,14H2を形成した基板は、脱脂洗浄を行った後、バッファードフッ酸(HF)にてSi
xN
y膜を除去した。このときのGaN表面のSEM(Scanning Electron Microscope)像を
図4に示す。
【0043】
図4の表面SEM像に示すように、正方格子状に、すなわち正方格子点上に2次元的に、周期PCが164nmで配列された複数のホール対14H(主ホール14H1及び副ホール14H2)が形成された。ホール14H1,14H2は上面(GaN表面)で開口する略長円柱形状の孔部又は穴である。
【0044】
より詳細には、GaN表面における主ホール14H1の開口の長径LH1は124nm、短径WH1は50nm(RH1=長径/短径=2.49)であり、副ホール14H2の開口の長径LH2は57.1nm、短径WH1は50.0nm(RH2=長径/短径=1.14)であった。
【0045】
このとき主ホール14H1の重心CD1と副ホール14H2の重心CD2のx方向及びy方向の間隔はそれぞれ65.3nm(=0.4×PC)であった。主ホール14H1及び副ホール14H2の長軸は<11-20>軸(すなわち、a軸)に平行になるように配置された。
【0046】
なお、
図4に示すように、x方向及びy方向はそれぞれ、主ホール14H1の開口及び副ホール14H2の開口の長軸方向(<11-20>方向)及び短軸方向(<1-100>方向)に対して45°傾斜した方向である。本明細書では、x-y座標を空孔座標とも称する。
[S3d:埋込層形成工程]
この基板を、再度MOVPE装置のリアクタ内に導入し、アンモニア(NH
3)を供給して950℃(第1の埋込温度)まで昇温後、トリメチルガリウム(TMG)及びNH
3を供給して主ホール14H1の開口及び副ホール14H2を閉塞し、第1の埋込層14B1を形成した。
【0047】
まず、第1の温度領域(800℃以上1100℃以下)に達する過程(昇温過程)において、供給されているNH3雰囲気下で、成長基板表面のGa原子がマストランスポートを起こし、n-クラッド層に形成したホールの開口部を閉塞するように{1-101}面、{1-100}面で構成された庇部を形成する。
【0048】
次いで、第1の温度領域に達した後に供給されるTMGによって、前述の庇がホール中心方向に成長し、合体することで主ホール14H1及び副ホール14H2は閉塞され埋め込まれる。これにより第1の埋込層14B1が形成される。
【0049】
続いて、主ホール14H1及び副ホール14H2を閉塞した後、厚さが50nmの第2の埋込層14B2を成長した。第2の埋込層14B2の成長は、基板温度を820℃(第2の埋込温度)まで降温後、 3族原子の供給源としてトリエチルガリウム(TEG)及びトリメチルインジウム(TMI)を供給し、窒素源としてNH3を供給することで行った。なお、第2の埋込温度は、第1の埋込温度よりも低温であり、700℃以上900℃未満である。
【0050】
また、本実施例における第2の埋込層14B2のIn組成は2%(すなわち、Ga0.98In0.02N層)であった。第2の埋込層14B2は、光とフォトニック結晶層14Pとの結合効率(光フィールド)を調整するための光分布調整層として機能する。
【0051】
以上の埋込工程により、主空孔14K1及び副空孔14K2からなる空孔対14Kが正方格子点の各々に配置された二重格子構造のフォトニック結晶層14Pが形成された。
[S4:発光層形成工程]
続いて発光層である活性層15として、多重井戸(MQW)層を成長した。MQWのバリア層及び井戸層はそれぞれGaN及びInGaNであった。バリア層の成長は、基板を820℃まで降温後、3族原子の供給源としてトリエチルガリウム(TEG)を、窒素源としてNH3を供給して行った。また、井戸層の成長はバリア層と同じ温度にて、3族原子の供給源としてTEG及びトリメチルインジウム(TMI)を、窒素源としてNH3を供給して行った。本実施例における活性層からのPL(Photoluminescence)発光の中心波長は412nmであった。
[S5:p-ガイド層形成工程]
活性層の成長後、基板を1050℃に昇温し、p-ガイド層16としてGaNを120nmの層厚で成長した。p-ガイド層16はドーパントをドープせずに、TMG、NH3を供給して成長した。
[S6:電子障壁層形成工程]
p-ガイド層16の成長後、基板温度を1050℃で維持したまま、電子障壁層(EBL)17を成長した。EBL17の成長は、3族原子源としてTMG及びTMAを、窒素源としてNH3を供給して行った。またp-ドーパントとしてCp2Mgを供給した。以上により、Al組成が18%、層厚が15nmのEBL17を形成した。
[S7:p-クラッド層形成工程]
電子障壁層(EBL)17の成長後、基板温度を1050℃で維持したまま、p-クラッド層18を成長した。p-クラッド層18は、3族原子源としてTMG及びTMAを、窒素源としてNH3を供給して成長を行った。またp-ドーパントとしてCp2Mgを供給した。以上により、Al組成が6%、層厚が600nmのp-クラッド層18を形成した。なお、成長後のN2雰囲気中で850℃、10分間のアクチベーションをしたときの、p-クラッド層(p-AlGaN)18のキャリア濃度は2×1017cm-3であった。
[S8:p-コンタクト層形成工程]
p-クラッド層18を成長後、基板温度を1050℃で維持したままp-コンタクト層19を成長した。p-コンタクト層19の成長は、3族原子源としてTMGを、窒素源としてNH3を供給して行った。またドーパントとしてCp2Mgを供給した。
[S9:電極形成工程]
エピタキシャル成長層の形成が完了した成長層付き基板のp-コンタクト層19の面を支持基板に貼り付け、基板12を研磨装置で所定の厚さまで薄くする。
【0052】
その後、p-コンタクト層19側に素子分離溝以外が覆われたマスクを形成し、n-クラッド層13又は基板12が露出するまでエッチングした。その後、マスクを除去し、支持基板を取り外して素子分離溝を形成した。
[S10:電極形成工程]
(アノード電極形成)
エピタキシャル成長基板12の表面にp電極20Bとしてパラジウム(Pd)膜及び金(Au)膜を電子ビーム蒸着法によりこの順に成膜した。成膜した電極金属膜をフォトリソグラフィを用いて200×200μm
2にパターニングし、p電極20Bを形成した。
(カソード電極形成)
続いて、基板12の裏面にTi、Auを順に電子ビーム蒸着法により成膜してn電極20Aを形成した。
[S11:保護膜形成工程]
電極形成を終了した基板下面を支持基板に貼り付け、アノード電極を覆うマスクを形成する。その後、スパッタリングにて素子の上面と側面に保護膜であるSiO
2膜を形成した。
[S12:個片化工程]
最後に、基板分離溝の中央線に沿ってレーザースクライブして、個片化したPCSEL素子(以下、PCSEL素子又は単にPCSELと称する)10を得た。
2.主空孔及び副空孔
本実施例における埋め込まれた空孔の形状を確認するため、空孔層の空孔が露出するまで積層構造を表面から収束イオンビーム(FIB)により加工し、その後SEM観察を行った。このときの主空孔14K1及び主空孔14K1より小なるサイズの副空孔14K2の空孔形状を
図5の上面SEM像に示す。なお、副空孔14K2は、主空孔14K1よりも、少なくとも空孔径及び深さのいずれかが小さければよい。
【0053】
また、
図6Aは、
図5の線A-Aにおける断面を示すSEM像であり、
図6Bは、
図5の線B-Bにおける断面を示すSEM像である。
【0054】
図5に示すように、主空孔14K1の長径LK1は75.2nm、短径WK1は45nm、短径に対する長径の比(長径/短径)RK1=1.67)であり、副空孔14K2の長径LK2は45.8nm、短径WK2は39.2nm、短径に対する長径の比(長径/短径)RK2=1.17であった。
【0055】
図6A、
図6Bに示すように、主空孔14K1の深さDK1は102nm、副空孔14K2の深さDK2は78.5nmであった。
【0056】
このように、正方格子点の各々に主空孔14K1及び副空孔14K2からなる空孔対が周期PC=164nmで配されたフォトニック結晶層14Pが形成されていることが確認された。すなわち、主空孔14K1が周期PCで正方格子点に配され、副空孔14K2が同じ周期PCで正方格子点に配されている。そして、主空孔14K1の重心D1と副空孔14K2の重心D2との距離(重心間距離)がx方向にΔx及びy方向にΔy(一定)であるように空孔対が配されている。
【0057】
なお、本明細書において、主空孔及び副空孔の「重心間距離」は、主空孔の重心軸と副空孔の重心軸との間の距離をいい、副空孔が主空孔に対しx方向及びy方向に離間した距離で表記する。
【0058】
また、主空孔14K1及び副空孔14K2は、長軸が<11-20>軸に平行な長六角柱形状を有していた。なお、主空孔14K1及び副空孔14K2の底部(基板12側)には{1-102}ファセットが現れているが、当該底部以外の部分は長六角柱形状であった。
【0059】
具体的には、主空孔14K1の重心D1と副空孔14K2の重心D2との距離Δx及びΔyは、ともに65.4nm(Δx=Δy=0.4×PC)であり、埋め込み前から変化していなかった。また、主空孔14K1及び副空孔14K2の長軸は<11-20>軸(すなわち、a軸)に平行になるように配置されていた。
【0060】
なお、本明細書において、空孔(又はホール)の「長軸又は短軸」は、フォトニック結晶層に平行な面内における当該空孔断面(開口面)の長軸又は短軸をいう。
【0061】
また、フォトニック結晶層14Pの平面と直交した方向から見た空孔面積を空孔の周期PCの2乗で割った値の百分率を空孔充填率FF(フィリングファクタ)という。主空孔14K1及び副空孔14K2の空孔充填率FF1、FF2を算出したところ、FF1=10.5%、FF2=5.1%であった。
3.素子特性、評価
3.1 二重格子構造と単一格子構造
(1)比較例1
本実施形態によるPCSEL素子10との比較例1として、格子点に単一の空孔(単一格子フォトニック結晶)が形成されたPCSEL素子を製作した。上記した製造工程とは、S3b(空孔形成工程)のみ異なるので、この点について説明する。
【0062】
図7は、比較例1における、GaN表面部に形成された円柱状のホールCHを示すSEM像である。具体的には、直径80nmの真円状の開口を有し、x方向及びy方向に周期PC=164 nmで正方格子点にホールCHが配されている。
【0063】
より詳細には、空孔配列方向であるx軸が<1-100>軸(すなわち、m軸)、y軸が<11-20>軸(すなわち、a軸)に平行になるようにパターニングしたレジストを形成した。そして、ICP-RIE装置を用いたドライエッチングを行って、x方向及びy方向に正方格子状に配列された円柱状の空孔14Cを形成した。円柱状の空孔14Cの直径は79nmで、周期PC=164 nmであった。
(2)閾値利得(結合波理論)
実施例1及び比較例1の構造における基本モードの電界強度分布から、活性層の光閉じ込め係数(Γact)、Mgのドーピングされた層(pコンタクト層、pクラッド層、電子障壁層)の光閉じ込め係数(Γmg)を見積もった。また、二次元結合波理論を用いて、フォトニック結晶層14Pの面内方向の共振器損失(αp)、フォトニック結晶層14Pに垂直方向の共振器損失(αn)を見積もった。これらを表1に示す。
【0064】
実施例1及び比較例1ともにMgがドーピングされた層の吸収係数αmgは160cm-1と見積もられた。Γmgとαmgから、下記の(式1)を満たす各構造における吸収損失αiは表1に示す値となった。
【0065】
αi = Γmg × αmg (式1)
レーザの閾値利得Gthは(式2)より求められ、表1に示すように実施例1では1119cm-1、比較例1では724cm-1と見積もられた。
【0066】
Γact・Gth = αp+αn + αi (式2)
【0067】
【0068】
表1において、実施例1のα
nが比較例1のα
nよりも大きくなっている。これは二重格子構造により、格子点構造の回転対称性が崩れたことによる。比較例1においては、格子点構造が2回回転対称性を有するため、空孔層を伝搬する光のうち垂直方向に回折される光は消失性干渉により打ち消される。実施例1においては回転対称性が低くなったため、この消失性干渉が弱くなり、垂直方向に回折する光が多くなる。すなわちα
nが増大している。換言すれば、α
nの増大には格子点構造を1回回転対称性とすることが望ましく、主空孔14K1と副空孔14K2の空孔セットが360°回転で一致する形状または配置とすればよい。
(3)光出力特性、発光スペクトル
実施例1のPCSEL素子10と比較例1のPCSEL素子のI-L特性(電流-光出力特性)を
図8Aに、閾値電流付近における発光スペクトルを
図8Bに示す。なお、パルス幅100ns、パルス周期1kHzのパルス電流駆動により測定した。
【0069】
実施例1のPCSEL素子10は、閾値電流1.24A(閾値電流密度:3.9kA/cm2)で単峰性の強いレーザ発振を行った。一方、比較例1のPCSEL素子は閾値電流0.71A(閾値電流密度:2.2kA/cm2)で単峰性の強いレーザ発振を行った。実施例1が比較例1に比べ閾値電流が大きいのは、表1の閾値利得Gthが増大することによる。実施例1と比較例1において、閾値利得Gthの増大の割合と閾値電流の増大の割合とは同程度であり、閾値電流の増加は共振器損失と吸収損失の増大によるものであると考えられ、実施例1のように二重格子構造を導入した場合においても活性層の品質への影響はないと考えられる。
【0070】
一方、実施例1のPCSEL素子10のスロープ効率は0.23W/Aで、比較例1の0.10W/Aよりも大きく増大していることがわかる。これは、実施例1においては前述の通りαn(すなわち、垂直方向への光の漏れ=出力として寄与する光成分)が大きいので、出力として取り出せる光が大きいためである。すなわち、空孔層における格子点を二重格子構造とすることで、より小さい電流で大きな出力を得ることができる。
3.2 二重格子構造における主空孔及び副空孔の配置関係
すなわち、構造A(実施例2)と構造B(比較例2)は、ほぼ同一サイズ及び同一形状の主ホール及び副ホールを有するが、構造B(比較例2)のホールの長軸方向は、構造A(実施例2)のホールの長軸方向とは90°異なっている。
埋込層表面にこのような大きな凹凸が存在する埋込層上に活性層を成長すると、凹凸のある個所でInの組成不均一が発生し活性層品質が悪化する。このため、閾値電流が増大するため、フォトニック結晶層の空孔の長軸はa軸に平行であることが好ましい。
3族窒化物においてホールを埋め込む際には、マストランスポートが発生することでホール形状が熱的に安定な面で構成される形状へと変形し空孔が形成される。すなわち、+c面基板においては、空孔の側面は{1-100}面(すなわち、m面)へと形状変化する。すなわち、長円柱状の形状から側面がm面で構成される長六角柱状へと形状変化する。
すなわち、空孔層を形成する2次元フォトニック結晶が正方格子のx軸及びy軸から45°傾斜した軸に関して対称であることが好ましい。主空孔14K1及び副空孔14K2がx軸及びy軸から45°傾斜した軸に関して対称構造である場合には、主空孔14K1及び副空孔14K2間のx軸方向及びy軸方向の重心間距離ΔxとΔyは等しい(Δx=Δy)ことが好ましい。
フォトニックバンド効果を考慮すると、前述の通り、モードA及びBにおいては光子がより広い領域に分布することとなり、注入電流の増加に伴い光子密度は電流領域全体に渡って平坦化される。
これに対応して、キャリア密度及び屈折率も電流注入領域の全体に渡って均一化される。このため、モードA及びBで発振動作させた場合には、大電流を注入して高出力動作させた場合においても、電流増加に伴い光子密度分布が注入領域の全体に渡って平坦化されるため、出射されるビームは安定したビームパターンを有する。
フォトニックバンド効果を考慮すると、電流注入領域の中央部に光子が集中し局在化する。このため、キャリア密度及び屈折率も電流注入領域の中央部において局所的に大きく変化し、電流注入領域において不均一な分布を有するようになる。
このため、バンド端モードC及びDで発振動作させた場合には、大電流を注入して高出力動作させると、電流増加に伴い光子密度分布が局所化・集中化されるため、出射されるビームは不安定なビームパターンを有する。また、大電流を注入すると、キャリア密度及び屈折率の分布が大きな不均一性を有することになるため、発振動作も多モード化しやすくなり、安定な発振動作を得ることができない。
以上説明したとおり、高電流を注入したときに安定な発振を得るためには、モードA及びBで発振することが好ましく、副空孔14K2の主空孔14K1に対する相対位置d(=Δx/PC=Δy/PC)は、0.06PC~0.28PC(0.06≦d≦0.28)、または0.40PC~0.47PC(0.40≦d≦0.47)であることが好ましい。