(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025041307
(43)【公開日】2025-03-26
(54)【発明の名称】エンジン制御装置
(51)【国際特許分類】
F01M 1/16 20060101AFI20250318BHJP
F01M 7/00 20060101ALI20250318BHJP
F02D 19/02 20060101ALI20250318BHJP
【FI】
F01M1/16 G
F01M7/00 Z
F02D19/02 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023148507
(22)【出願日】2023-09-13
(71)【出願人】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】390008822
【氏名又は名称】アート金属工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】西野入 康作
【テーマコード(参考)】
3G092
3G313
【Fターム(参考)】
3G092AB09
3G092HA01
3G092HE03
3G092HE08
3G092HF21
3G313BB14
3G313BB33
3G313EA02
3G313EA03
(57)【要約】
【課題】エンジンオイルの白濁化を抑制する。
【解決手段】エンジンオイルを吐出するオイルポンプを有するエンジンにおいて、エンジンが低出力運転中であるか否かを判定する判定処理(S100)と、油温THOが閾値X未満の場合(S110:YES)には、油温THOが閾値X以上の場合よりもオイルポンプのオイル吐出量Vpを減少させる昇温処理(S120)と、を実施する。S120の昇温処理は、判定処理においてエンジンが低出力運転中であると判定されていること(S100:YES)を条件に実施される。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンオイルを吐出するオイルポンプを有するエンジンを制御する装置であって、
前記エンジンが低出力運転中であるか否かを判定する判定処理と、
前記エンジンオイルの温度が閾値未満の場合には、前記エンジンオイルの温度が前記閾値以上の場合よりも前記オイルポンプのオイル吐出量を減少させる昇温処理と、
を実施し、かつ前記判定処理において前記エンジンが低出力運転中であると判定されていることを条件に前記昇温処理を実施する
エンジン制御装置。
【請求項2】
前記判定処理は、エンジン回転速度が閾値以下であることを、前記エンジンが低出力運転中であるとの判定の条件とする請求項1に記載のエンジン制御装置。
【請求項3】
前記判定処理は、前記エンジンを搭載する車両の走行速度が閾値以下であることを、前記エンジンが低出力運転中であるとの判定の条件とする請求項1に記載のエンジン制御装置。
【請求項4】
前記判定処理は、エンジントルクが閾値以下であることを、前記エンジンが低出力運転中であるとの判定の条件とする請求項1に記載のエンジン制御装置。
【請求項5】
前記エンジンは、水素エンジンである請求項1に記載のエンジン制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エンジン制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
車載等のエンジンは、オイルパン内のエンジンオイルを摺動部に供給するオイルポンプを備えている。特許文献1には、エンジンオイルの温度(以下、油温と記載する)が所定温度未満のときに、オイル吐出量を増大するようにオイルポンプを制御するエンジン制御装置が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
低油温時には、燃焼により生じた凝縮水の混入によりエンジンオイルが白濁化することがある。そしてその結果、エンジンの潤滑性能が低下することがある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するエンジン制御装置は、エンジンオイルを吐出するオイルポンプを有するエンジンを制御する装置であって、前記エンジンが低出力運転中であるか否かを判定する判定処理と、前記エンジンオイルの温度が閾値未満の場合には、前記エンジンオイルの温度が前記閾値以上の場合よりも前記オイルポンプのオイル吐出量を減少させる昇温処理と、を実施し、かつ前記判定処理において前記エンジンが低出力運転中であると判定されていることを条件に前記昇温処理を実施するように構成されている。
【発明の効果】
【0006】
上記エンジン制御装置には、エンジンオイルの白濁化を抑制する効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】エンジン制御装置の一実施形態の構成を模式的に示す図である。
【
図2】上記エンジン制御装置が実行する処理のフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、エンジン制御装置の一実施形態を、
図1及び
図2を参照して詳細に説明する。
<エンジン制御装置の構成>
まず、
図1を参照して、本実施形態のエンジン制御装置の構成を説明する。本実施形態が適用されるエンジン10は、車載用の水素エンジンである。エンジン10は、電動式のオイルポンプ11を備えている。オイルポンプ11は、オイルパン12内のエンジンオイルを汲み出して、エンジン10の摺動部13に向けて吐出する。エンジンオイルは、摺動部13を通過後、オイルパン12に滴下する。
【0009】
エンジン10の制御装置である電子制御モジュール(以下、ECMと記載する)20は、処理回路21と記憶装置22とを備えている。記憶装置22には、エンジン10の制御に用いるプログラムやデータが記憶されている。処理回路21は、記憶装置22からプログラムを読み出して実行する。ECM20には、エンジン10や、同エンジン10が搭載された車両の各部に設置された各種のセンサの検出信号が入力されている。ECM20に検出信号を出力するセンサには、クランク角センサ23、エアフローメータ24、車速センサ25、及び油温センサ26が含まれる。クランク角センサ23は、エンジン10の出力軸であるクランク軸の回転角を検出する。エアフローメータ24は、エンジン10の吸入空気量GAを検出する。車速センサ25は、エンジン10を搭載する車両の走行速度(以下、車速Vと記載する)を検出する。油温センサ26は、オイルパン12内のエンジンオイルの温度(以下、油温THOと記載する)を検出する。
【0010】
<オイルポンプの制御>
次に、
図2を併せ参照して、エンジン制御の一環としてECM20が実行するオイルポンプ11の制御について説明する。
図2は、ECM20がオイルポンプ11のオイル吐出量Vpを設定するために実行する処理のフローチャートを示している。ECM20は、エンジン10の運転中、既定の制御周期毎に
図2の処理を繰り返し実行している。本処理においてECM20は、オイル吐出量Vpを決定する。オイル吐出量Vpは、オイルポンプ11が単位時間に吐出するエンジンオイルの量を表している。ECM20は、本処理で決定したオイル吐出量Vpに従ってオイルポンプ11の給電量を調整している。
【0011】
図2の処理において、ECM20は、条件(A)、(B)の論理積の真偽を判定している。条件(A)は、エンジン10が低出力運転中である旨の条件である(S100:YES)。ECM20は、例えば車速Vが閾値Vx以下の状態が、既定時間以上継続している場合に、エンジン10が低出力運転中であると判定している。条件(B)は、油温THOが既定の閾値X未満である旨の条件である(S110:YES)。エンジンオイル中の凝縮水は、油温THOが一定の温度を超えると、蒸発してエンジンオイルから脱離する。閾値Xには、エンジンオイル中の凝縮水が蒸発する油温THOの下限値が設定されている。以下の説明では、閾値Xの値として設定される温度を、凝縮水の蒸発温度と記載する。
【0012】
ECM20は、条件(A)、(B)の論理積が偽の場合(S100:NO、又はS110:NO)には、標準値Vregをオイル吐出量Vpの値として設定する(S130)。これに対して、ECM20は、条件(A)、(B)の論理積が真の場合(S100:YES、且つS110:YES)には、減量値Vlowをオイル吐出量Vpの値として設定する(S120)。減量値Vlowは、標準値Vregよりも少ない量に設定されている。具体的には、標準値Vregの値は、フリクション損失やオイルポンプ11の駆動負荷等の考慮した上で、エンジン10を効率良く動作させるために必要な量のエンジンオイルを摺動部13に供給可能なオイル吐出量Vpが値として設定されている。標準値Vregは、固定した値としてもよいし、エンジン10の運転条件に応じて可変設定される値としてもよい。減量値Vlowは、摺動部13の潤滑等に必要な量のエンジンオイルを供給可能な範囲内で、標準値Vregよりも少ない量となるように設定されている。
【0013】
<実施形態の作用及び効果>
本実施形態の作用及び効果について説明する。
オイルポンプ11は、オイルパン12内のエンジンオイルを汲み出して吐出する。オイルポンプ11が吐出したエンジンオイルは、エンジン10の各部を巡った後、オイルパン12に還流される。エンジンオイルの循環経路には、エンジン10の摺動部13が含まれており、エンジンオイルは摺動部13の潤滑に供される。
【0014】
エンジン10では、水素の燃焼により水分は生成される。エンジン10の冷間時には、そうした水分が凝縮してオイルパン12内のエンジンオイルに混入する。エンジンオイルは、凝縮水が混入した状態で撹拌されると、白濁化して潤滑能力が低下してしまう。こうしたエンジンオイルの白濁化は、油温THOが、閾値Xとして設定される凝縮水の蒸発温度未満の場合に発生する可能性がある。
【0015】
エンジンオイルは、エンジン10の内部を通過している間に、エンジン10から熱を受ける。そのため、エンジン10の発熱が十分に多い場合には、オイルパン12内では、凝縮水の蒸発温度未満であっても、エンジン10の内部の通過中にエンジンオイルの温度が蒸発温度以上に上昇する。したがって、エンジンオイルの白濁化は、上述の条件(A)、(B)の論理積が真となる場合、すなわちエンジン10が低出力運転中、かつ油温THOが閾値X未満の場合に生じ易くなる。
【0016】
ECM20は、
図2のS100において、エンジン10が低出力運転中であるか否かを判定する判定処理を実施している。また、ECM20は、
図2のS120において、油温THOが閾値X未満の場合(S110:YES)には、油温THOが閾値X以上の場合(S110:NO)よりもオイルポンプ11のオイル吐出量Vpを減少させる昇温処理を実施している。こうしたS120での昇温処理は、S100の判定処理においてエンジン10が低出力運転中であると判定されていることを条件に実施される。
【0017】
昇温処理によりオイル吐出量Vpが減少されると、エンジン10の内部でのエンジンオイルの滞留時間が長くなる。これにより、エンジン10の内部を巡る間に、エンジンオイルがエンジン10から受け取る熱量が多くなる。そのため、昇温処理を実施することで、エンジンオイルの昇温が促進される。その結果、エンジンオイルの温度が、凝縮水の蒸発温度以上に高まり易くなる。
【0018】
以上の本実施形態のエンジン制御装置によれば、以下の効果を奏することができる。
(1)ECM20は、エンジン10が低出力運転中であるか否かを判定する判定処理と、油温THOが閾値X未満の場合には油温THOが閾値X以上の場合よりもオイルポンプ11のオイル吐出量Vpを減少させる昇温処理と、を実施する。さらにECM20は、判定処理においてエンジン10が低出力運転中であると判定されていることを条件に昇温処理を実施している。昇温処理を実施すると、エンジンオイルの昇温が促進されるため、エンジンオイル中の凝縮水が蒸発し易くなる。したがって、本実施形態のエンジン制御装置には、エンジンオイルの白濁化を抑制する効果がある。
【0019】
(2)ECM20は、エンジン10を搭載する車両の走行速度である車速Vが閾値Vx以下の状態が既定時間以上継続していることをもって、エンジン10が低出力運転中であると判定している。すなわち、ECM20は、車速Vが閾値Vx以下であることを、判定処理でのエンジン10が低出力運転中であるとの判定の条件としている。車両の定常走行には、車速Vが高いほど、高いエンジン出力が必要となる。そのため、車速Vが閾値Vx以下であることを、エンジン10が低出力運転中であることの判定の条件として用いることができる。
【0020】
<他の実施形態>
本実施形態は、以下のように変更して実施することができる。本実施形態及び以下の変更例は、技術的に矛盾しない範囲で互いに組み合わせて実施することができる。
【0021】
・上記実施形態では、車速Vが閾値Vx以下の状態が既定時間以上継続している場合に、エンジン10が低出力運転中であると判定していた。車速Vが閾値Vx以下であることを判定の条件としつつ、これ以外の態様で判定処理を実施するようにしてもよい。例えば既定の期間における車速Vの平均値が閾値X以下である場合に、エンジン10が低出力運転中であると判定するようにしてもよい。
【0022】
・上記実施形態では、車速Vが閾値Vx以下であることを、判定処理でのエンジン10が低出力運転中であるとの判定の条件としていた。車速Vの代わりにエンジン回転速度NEやエンジントルクを用いても、同様の判定が可能である。すなわち、エンジン回転速度NEが閾値以下であること、或いはエンジントルクが閾値以下であることを、判定処理でのエンジン10が低出力運転中であるとの判定の条件としてもよい。なお、エンジン回転速度NEは、クランク角センサ23の検出結果から演算して求めることができる。また、エンジントルクは、エンジン回転速度NEと、エアフローメータ24による吸入空気量GAの検出結果と、に基づいて演算して求めることが可能である。
【0023】
・オイル吐出量の調整機能を有していれば、エンジン10の回転を受けて動作する機械式のポンプを、オイルポンプ11に採用してもよい。
・ガソリンエンジンやディーゼルエンジンのような水素エンジン以外のエンジンでも、燃焼により生成された水の混入によるエンジンオイルの白濁化は生じ得る。そのため、水素エンジン以外のエンジンにも上記実施形態のエンジン制御装置を適用してもよい。
【符号の説明】
【0024】
10 エンジン
11 オイルポンプ
12 オイルパン
13 摺動部
20 ECM
21 処理回路
22 記憶装置
23 クランク角センサ
24 エアフローメータ
25 車速センサ
26 油温センサ